以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
(実施形態1)
実施形態1では、本発明のコンデンサの一例を説明する。実施形態1のコンデンサ10の断面図を、図1(a)に示す。なお、本発明のコンデンサは、図1(b)に示すコンデンサ10aのような形状でもよい。
図1(a)を参照して、コンデンサ10は、支持体11と、支持体11上に形成された下部電極膜12と、主に下部電極膜12上に配置された誘電体膜13と、主に誘電体膜13上に配置された上部電極膜14とを備える。ここで、誘電体膜13は、樹脂膜(なお、樹脂膜中にさらに添加剤などを含んでもよい)である。すなわち、コンデンサ10は、誘電体膜13と、誘電体膜13を挟んで対向して配置された1対の電極(下部電極膜12および上部電極膜14)とを備える。
支持体11には、さまざまなものを用いることができる。具体的には、例えば、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETという場合がある)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアミド(PA)、またはポリイミド(PI)などの高分子フィルムを用いることができる。支持体11の厚さに限定はないが、一般的には、1μm〜75μm程度の場合が多い。なお、下部電極膜12が支持体を兼ねる場合には、支持体11は不要である。また、下部電極膜12、誘電体膜13および上部電極膜14を形成したのち、支持体11を除去してもよい。すなわち、本発明のコンデンサは、支持体がないものであってもよい。
下部電極膜12および上部電極膜14には、導電性を有する膜を用いることができ、例えば金属膜を用いることができる。具体的には、アルミ、亜鉛、銅などを主成分とする金属膜を用いることができる。電極膜の膜厚については特に限定はないが、例えば、膜厚が10nm〜150nmの膜を用いることができ、好ましくは膜厚が20nm〜50nmの膜を用いることができる。コンデンサ10の下部電極膜12と上部電極膜14とは、それぞれ電気回路に接続される。電気回路に接続する方法としては、例えば、はんだ付け、金属溶射、クランプなどの方法を用いることができる。
誘電体膜13は、以下の一般式(1)、(2)および(3)のいずれかの式で示される有機化合物を樹脂モノマーとして含む薄膜を形成したのち、上記薄膜中の樹脂モノマーを重合反応させることによって形成された膜である。
式(1)中、2つのベンゼン環が置換されている位置はそれぞれ独立に、メタ位またはパラ位である。
式(2)中、2つのベンゼン環が置換されている位置は、一方がメタ位、他方がメタ位またはパラ位である。
式(3)中、2つのベンゼン環が置換されている位置は、一方がメタ位、他方がメタ位またはパラ位である。
上記式(1)〜(3)で示される有機化合物を含む樹脂モノマーは、室温(例えば、約15℃〜30℃程度)で液体であることが好ましい。樹脂モノマーが液体である場合、スパッタリング法に比べて高い成膜速度が実現可能な蒸着法によって上記モノマーを含む薄膜を成膜することが可能であり、また、上記薄膜における重合反応をより促進させることができる。
式(1)で示される有機化合物は、ベンゼン環の置換位置が共にメタ位である場合(3,3’−ビス(ビニルフェニル)メタン)、ベンゼン環がメタ位およびパラ位で置換されている場合(3,4’−ビス(ビニルフェニル)メタン)、ベンゼン環が共にパラ位で置換されている場合(4,4’−ビス(ビニルフェニル)メタン)の順に融点が高くなる。例えば、3,3’−ビス(ビニルフェニル)メタンおよび3,4’−ビス(ビニルフェニル)メタンが室温で液体であるのに対し、4,4’−ビス(ビニルフェニル)メタンは室温で固体である。しかし、4,4’−ビス(ビニルフェニル)メタンの融点は室温に近く(約40℃)、4,4’−ビス(ビニルフェニル)メタンを含む樹脂モノマーであっても、例えば、加熱、溶解した後に蒸着装置に供給することによって、3,3’−ビス(ビニルフェニル)メタンや3,4’−ビス(ビニルフェニル)メタンを含む樹脂モノマーと同様の取り扱いがほぼ可能である。
上述した観点から、式(1)で示される有機化合物のうち、2つのベンゼン環の一方がメタ位、他方がメタ位またはパラ位で置換されている3,3’−ビス(ビニルフェニル)メタン、あるいは、3,4’−ビス(ビニルフェニル)メタンを樹脂モノマーが含むことが好ましい。また、ベンゼン環が共にパラ位で置換されている4,4’−ビス(ビニルフェニル)メタンを樹脂モノマーの主成分とする場合においても、例えば、上述した加熱・溶解によって液体として取り扱うことが可能となる。さらに、3,3’−ビス(ビニルフェニル)メタンおよび3,4’−ビス(ビニルフェニル)メタンのいずれか、あるいはこれらの混合物を、例えば、5重量%程度以上混合することによっても、液体として取り扱うことが可能である。よって、ベンゼン環が共にパラ位で置換されている4,4’−ビス(ビニルフェニル)メタンが樹脂モノマーに含まれていてもよい。
上記式(2)で示される有機化合物は、ベンゼン環の置換位置が共にメタ位である場合(3,3’−ビス(ビニルフェニル)スルフィド)、ベンゼン環がメタ位およびパラ位で置換されている場合(3,4’−ビス(ビニルフェニル)スルフィド)の順に融点が高くなる。例えば、3,3’−ビス(ビニルフェニル)スルフィドが室温で液体であるのに対し、3,4’−ビス(ビニルフェニル)スルフィドは室温で固体である。このため、上述した観点から、式(2)で示される有機化合物のうち、2つのベンゼン環の双方がメタ位で置換されている3,3’−ビス(ビニルフェニル)スルフィドを樹脂モノマーが含むことが好ましい。3,4’−ビス(ビニルフェニル)スルフィドを樹脂モノマーの主成分とする場合においても、3,3’−ビス(ビニルフェニル)スルフィドを、例えば、5重量%程度以上混合させることによって樹脂モノマーを液体として取り扱うことができる。また、樹脂モノマーが、3,3’−ビス(ビニルフェニル)スルフィドおよび3,4’−ビス(ビニルフェニル)スルフィドの異性体であり、2つのベンゼン環が共にパラ位で置換されている4,4’−ビス(ビニルフェニル)スルフィドを含んでいてもよい。4,4’−ビス(ビニルフェニル)スルフィドは3,4’−ビス(ビニルフェニル)スルフィドよりもさらに融点が高いが、4,4’−ビス(ビニルフェニル)スルフィドを主成分とする場合においても、例えば、3,3’−ビス(ビニルフェニル)スルフィドを5〜20重量%程度、3,4’−ビス(ビニルフェニル)スルフィドを0〜10重量%程度の割合で混合することによって、樹脂モノマーを液体として取り扱うことができる。
上記式(3)で示される有機化合物は、ベンゼン環の置換位置が共にメタ位である場合(3,3’−ビス(ビニルフェニルチオ)メタン)、ベンゼン環がメタ位およびパラ位で置換されている場合(3,4’−ビス(ビニルフェニルチオ)メタン)の順に融点が高くなる。例えば、3,3’−ビス(ビニルフェニルチオ)メタンが室温で液体であるのに対し、3,4’−ビス(ビニルフェニルチオ)メタンは、室温で固体である。このため、上述した観点から、式(3)で示される有機化合物のうち、2つのベンゼン環の双方がメタ位で置換されている3,3’−ビス(ビニルフェニルチオ)メタンを樹脂モノマーが含むことが好ましい。3,4’−ビス(ビニルフェニルチオ)メタンを樹脂モノマーの主成分とする場合においても、3,3’−ビス(ビニルフェニルチオ)メタンを、例えば、5重量%程度以上混合させることによって樹脂モノマーを液体として取り扱うことができる。また、樹脂モノマーが、3,3’−ビス(ビニルフェニルチオ)メタンおよび3,4’−ビス(ビニルフェニルチオ)メタンの異性体であり、2つのベンゼン環が共にパラ位で置換されている4,4’−ビス(ビニルフェニルチオ)メタンを含んでいてもよい。4,4’−ビス(ビニルフェニルチオ)メタンは、3,4’−ビス(ビニルフェニルチオ)メタンよりもさらに融点が高いが、4,4’−ビス(ビニルフェニルチオ)メタンを主成分とする場合においても、例えば、3,3’−ビス(ビニルフェニルチオ)メタンを5〜20重量%程度、3,4’−ビス(ビニルフェニルチオ)メタンを0〜10重量%程度の割合で混合することによって、樹脂モノマーを液体として取り扱うことができる。
誘電体膜13の形成に用いられる樹脂モノマーは、上記式(1)〜(3)で示される有機化合物のいずれか1つのみを含んでいてもよい。また、本発明の効果が得られる限り、上記式(1)〜(3)で示される有機化合物の複数を含んでもよい。また、式(1)〜(3)で示される有機化合物のいずれか1つを主成分とする限り、樹脂モノマーが他の有機化合物を含んでいてもよい。なお、他の有機化合物を含む場合、主成分となる有機化合物の含有量は発明の効果が得られる範囲内である限り特に限定されず、例えば、50重量%以上、75重量%以上、90重量%以上といった範囲に設定すればよい。
誘電体膜13の厚さは、例えば、0.05μm〜10μmの範囲、0.07μm〜1μmの範囲、0.1μm〜0.5μmの範囲などで自由に設定できる。
重合反応によって誘電体膜13となる薄膜(図2(b)の薄膜13a)は、上記樹脂モノマーに加えて、さらに添加剤を含んでもよい。このような添加剤としては、例えば、重合開始剤、酸化防止剤、可塑剤、界面活性剤、密着性向上剤などが挙げられる。重合開始剤としては、例えば、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフェリノフェニル)−ブタノン−1、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン(以上それぞれ、イルガキュア369、819および907、チバスペシャルティケミカルズ製)を用いることができる。また、酸化防止剤としては、例えば、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ベンゼンプロパン酸,3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシ,C7−C9側鎖アルキルエステル、4,6ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール(以上それぞれ、IRGANOX−1076、1135および1520L、チバスペシャルティケミカルズ製)を用いることができる。
薄膜13aが重合開始剤を含む場合には、重合開始剤の含有量は、0.5重量%〜10重量%であることが好ましく、1重量%〜3重量%であることが特に好ましい。重合開始剤の含有量を0.5重量%以上とすることによって、薄膜13aの硬化速度を速めることができる。また、重合開始剤の含有量を10重量%以下とすることによって、樹脂モノマー31(図3参照)のポットライフが短くなりすぎるのを防止できる。また、重合開始剤の含有量を1重量%〜3重量%とすることによって、硬化速度を速めるとともに、樹脂モノマー31のポットライフが短くなることを防止し、コンデンサ10の製造を容易にできる。
薄膜13aが酸化防止剤を含む場合には、酸化防止剤の含有量は、0.1重量%〜10重量%であることが好ましく、0.5重量%〜5重量%であることが特に好ましい。酸化防止剤の含有量を0.1重量%以上とすることによって、誘電体膜13の酸化を防止できる。また、酸化防止剤の含有量を10重量%以下とすることによって、薄膜13aの硬化速度を実用的な値にすることができる。また、酸化防止剤の含有量を0.5重量%以上とすることによって、誘電体膜13の酸化を顕著に防止できる。また、酸化防止剤の含有量を5重量%以下とすることによって、薄膜13aの硬化速度を好ましい値にすることができる。
以下に、上記式(1)〜(3)で示される有機化合物を含む樹脂モノマーの製造方法の一例について説明する。
まず、以下の式(4)で示される有機化合物と塩化アセチルとを反応させ、これによって以下の式(5)で示される中間生成物を製造する。
式(4)中、Rは、CH2、S、SCH2Sのうちいずれか1つを表す。
式(5)中、Rは、CH2、S、SCH2Sのうちいずれか1つを表す。また、2つのベンゼン環が置換されている位置はそれぞれ独立に、メタ位またはパラ位である。
式(4)に示す有機化合物は公知であり、RがSまたはSCH2Sで示される有機化合物は、例えば東京化成工業株式会社から販売されている。また、RがCH2で示される有機化合物については、例えば和光純薬工業株式会社から販売されている。
次に、式(5)の中間生成物と金属水素化物(例えば、LiAlH4やNaBH4)とを反応させることによって式(6)で示される中間生成物を製造する。
式(6)中、Rは、CH2、S、SCH2Sのうちいずれか1つを表す。また、2つのベンゼン環が置換されている位置はそれぞれ独立に、メタ位またはパラ位である。
次に、式(6)で示される中間生成物を臭素化剤(例えば、三臭化りんや臭化チオニル)と反応させ、これによって以下の式(7)で示される中間生成物を製造する。
式(7)中、Rは、CH2、S、SCH2Sのうちいずれか1つを表す。また、2つのベンゼン環が置換されている位置はそれぞれ独立に、メタ位またはパラ位である。
次に、式(7)で示される中間生成物に対し、強塩基による脱臭化水素反応を行い、上記式(1)〜(3)のいずれかで示される有機化合物が得られる。強塩基としては、エーテル系溶媒(例えばテトラヒドロフラン)に溶解させたアルコキシド(例えばカリウムt−ブトキシド)を用いることができる。この方法では、2つのベンゼン環の置換位置が、パラ位およびパラ位のもの、パラ位およびメタ位のもの、メタ位およびメタ位のものという3種類の有機化合物の混合物が得られる。上記混合物の中からある特定の異性体を得るためには、混合物を精製する一般的な方法を用いればよく、例えば、異性体間の沸点の差を利用した乾溜などを行えばよい。
次に、コンデンサ10の製造方法について説明する。図2に、製造工程の一例を示す。
図2(a)を参照して、まず、支持体11上に、下部電極膜12を形成する。下部電極膜12は、電子ビーム蒸着、抵抗加熱蒸着、誘導加熱蒸着などの真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法またはメッキ法などで形成できる。なお、下部電極膜12を所定の形状に形成するには、メタルマスクを用いたり、フォトリソグラフィーやエッチングなどの技術を用いることができる。
次に、図2(b)に示すように、式(1)〜(3)のいずれかで示される樹脂モノマーを含む薄膜13aを形成する(第1の工程)。薄膜13aは、下部電極膜12上に形成される。薄膜13aは、重合反応によって誘電体膜13となる膜であり、上述した式(1)〜(3)のいずれかで示される有機化合物を含む樹脂モノマーや上述した添加剤を含む。薄膜13aは、例えば蒸着法によって形成できる。具体的には、図3に示すように、真空下で、式(1)〜(3)のいずれかで示される有機化合物を含む樹脂モノマー31を入れた容器32を下部電極膜12に向けて配置し、容器32を加熱して樹脂モノマーを蒸発させることによって形成できる。薄膜13aを所定の形状に形成するには、メタルマスク(図示せず)を用いればよい。
次に、薄膜13a中の樹脂モノマーを重合反応させることによって、図2(c)に示すように、誘電体膜13を形成する(第2の工程)。重合反応(硬化)は、例えば、薄膜13aに紫外線や電子線を照射することによって起こさせることができる。
式(1)〜(3)で示される有機化合物において、2つのベンゼン環が共にメタ位で置換されている場合、2つのベンゼン環の一方がメタ位、他方がパラ位で置換されている場合や2つのベンゼン環が共にパラ位で置換されている場合に比べて、分子内における官能基としてのビニル基間距離が短くなり、重合反応がより進みやすくなる傾向にある。このため、有機化合物における2つのベンゼン環が共にメタ位で置換されている場合、コンデンサとしての誘電正接をより小さくすることができる。また、式(1)で示される有機化合物においては、同様の理由から、有機化合物における2つのベンゼン環が共にパラ位で置換されている場合よりも、2つのベンゼン環の一方がメタ位、他方がパラ位で置換されている場合の方が、コンデンサとしての誘電正接をより小さくすることができる。同様に、式(1)〜(3)で示される有機化合物を含む樹脂モノマーにおいて、分子内における官能基としてのビニル間距離が短い異性体を混合することによって、硬化速度をより向上させることができ、コンデンサとしての誘電正接をより改善することができる。
なお、第1の工程と第2の工程とを複数回繰り返すことによって誘電体膜を形成してもよい。このような方法は、樹脂モノマーが室温で液体である場合や、厚い誘電体膜を形成する場合に特に有効である。この場合、1対の電極に挟まれる誘電体膜は、複数の誘電体膜の積層体によって構成される。また、誘電体膜の一部の上に一対の電極の一部となる金属膜を形成する第3の工程をさらに含み、第1〜第3の工程を繰り返すことによって、複数の金属膜が平行に埋め込まれた誘電体膜を形成してもよい。この方法によれば、実施形態2で説明するコンデンサを製造できる。また、この場合、第2の工程の後であって第3の工程の前に、第2の工程で形成された誘電体膜の表面を酸素プラズマで処理する工程を含んでもよい。
次に、図2(d)に示すように、下部電極膜12と同様の方法によって、上部電極膜14を形成する。このようにして、コンデンサ10を製造できる。なお、コンデンサ10aについても同様の方法で製造できる。
上記実施形態1のコンデンサでは、誘電体膜13が、高湿度下や高温度下でも変質しにくいため、環境による変化、劣化などが少ない、優れた特性を有するコンデンサが得られる。また、コンデンサの製造にあたって蒸着法を用いることができるため、誘電体膜の成膜速度を向上させることができ、生産性に優れるコンデンサが得られる。
(実施形態2)
実施形態2では、本発明を積層型のコンデンサに適用した一例を説明する。実施形態2のコンデンサ40の断面図を図4に示す。なお、実施形態1で説明した部分と同様の部分については重複する説明を省略する。
図4を参照して、コンデンサ40は、誘電体膜41(ハッチングは省略する)と、誘電体膜41を挟んで対向して配置された電極42および43とを備える。電極42は、誘電体膜41の表面に形成された第1の外部電極42bと、誘電体膜41の内部に配置され且つ第1の外部電極42bに接続された複数の第1の電極膜42aとを備える。また、電極43は、誘電体膜41の表面に形成された第2の外部電極43bと、誘電体膜41の内部に配置され且つ第2の外部電極43bに接続された複数の第2の電極膜42aとを備える。そして、第1の電極膜42aと第2の電極膜43aとは、互いに接触しないように、誘電体膜41中で平行且つ交互に配置されている。図4に示すように、コンデンサ40は、誘電体層と電極膜とからなるユニットが積層された構造を有する。
さらにコンデンサ40は、誘電体膜41中であって、電極膜42aおよび43aの外側に配置された金属薄膜44を備える。コンデンサ40のうち、電極膜42aおよび電極膜43aが存在する部分が素子層40aとなる。また、コンデンサ40のうち、金属薄膜44が形成されている部分が補強層40bとなる。また、コンデンサ40のうち、誘電体膜41のみの部分が保護層40cとなる。補強層40bおよび保護層40cは、素子層40aが熱負荷や外力によって損傷を受けるのを防止する層である。なお、本発明のコンデンサでは、補強層40bや保護層40cがなくてもよい。
誘電体膜41は、実施形態1で説明した誘電体膜13と同様のものであり、同様の製造方法によって製造できる。以下、実施形態2のコンデンサ40の製造方法の一例について具体的に説明する。
コンデンサ40を製造するための製造装置の一例を図5に模式的に示す。図5の製造装置50は、真空容器51と、真空容器51内に配置されたキャンローラ52と、キャンローラ52の周辺に配置された樹脂蒸発源53、樹脂硬化装置54、表面処理装置55、パターニング材料付与装置56、金属蒸着源57およびパターニング材料除去装置58とを備える。真空容器51は、真空ポンプ59によって減圧される。
キャンローラ52は、図中の矢印の方向に回転する。回転速度は自由に設定でき、例えば15〜70rpm程度としてもよい。キャンローラ52の外周面は、平滑(好ましくは鏡面状)に仕上げられており、その温度は−20℃〜40℃(例えば−10℃〜10℃)に制御されている。
樹脂蒸発源53は、キャンローラ52の表面に向けて樹脂モノマーを蒸発気化させる。キャンローラ52の表面に蒸着された樹脂モノマーは薄膜を形成する。樹脂モノマー以外の添加剤も、必要に応じて、樹脂蒸発源53から蒸着できる。
形成された薄膜は、その中に含まれる樹脂モノマーが樹脂硬化装置54によって重合(および/または架橋)され、誘電体膜となる。樹脂硬化装置54としては、例えば、電子線照射装置または紫外線照射装置を用いることができる。重合の度合いは、照射する電子線や紫外線の量などによって制御できる。
キャンローラ52上に形成された誘電体膜は、必要に応じて、表面処理装置55によって表面処理がなされる。具体的には、酸素プラズマ処理などの処理を行う。酸素プラズマ処理を行うことによって、誘電体膜の表面に酸素を結合させ、その上に形成される金属膜と誘電体膜との結合力を高めることができる。
次に、誘電体膜上に、パターニング材料付与装置56によってパターニング材料を所定の形状に堆積させる。パターニング材料が堆積した箇所には、以下の工程で金属薄膜は形成されず、この部分が電気絶縁帯となる。パターニング材料としては、例えばオイルを使用できる。パターニング材料の付与は、蒸発気化させたパターニング材料をノズルから噴射して誘電体膜表面で液化させる方法や、液状のパターニング材料を噴射する方法といった非接触の方法のほか、リーバースコートやダイコートといった塗布による方法によって行うことができる。これらの中でも、蒸発させたパターニング材料を誘電体膜表面で液化させる方法が、誘電体膜を変形させず且つ容易であるので好ましい。
パターニング材料付与装置56の一例の概略斜視図を図6に示す。図6の装置は、蒸発させたオイルを噴射することによって、樹脂膜表面に帯状のオイル膜を形成する。パターニング材料付与装置56の面61は、キャンローラ52の外周面の法線に垂直となるように配される。面61には、気化したオイルが噴出されるノズル62が所定の間隔で、所定の数だけ配されている。ノズル62の形状および配置は図6のものに限定されない。例えば、ノズル62は、図6のような円形のほか、楕円状や角型状であってもよい。
図5の装置を用いて積層体を形成する場合、積層数が多くなるにつれて積層体が厚くなる。このため、積層体の表面とパターニング材料付与装置56のノズル部分との距離Dn(図5参照)が一定になるように、パターニング材料付与装置56の位置を制御することが好ましい。パターニング材料付与装置56の位置は、距離Dnを測定する装置とパターニング材料付与装置56を移動させる装置とによって制御できる。距離Dnを測定する装置としては、例えば、レーザを用いた距離測定装置を適用できる。パターニング材料付与装置56を移動させる装置としては、例えばアクチュエータを用いることができる。
補強層と素子層との切り替え、および素子層における電極膜の電気絶縁体位置の切り替えは、例えば、パターニング材料の付着位置をキャンローラ52の外周面の法線方向に変化させることによって行えばよい。
パターニング材料が塗布された誘電体膜には、金属蒸着源57によって金属膜が形成される。金属膜は、パターニング材料が存在しない部分に形成される。ここで形成される金属膜が、素子層の電極膜および補強層の金属薄膜となる。蒸着金属としては、例えば、Al、Cu、Zn、Sn、Au、AgおよびPtからなる群から選ばれる少なくとも1つを使用できる。なお、蒸着に代えて、スパッタリングやイオンプレーティングといった一般的な手段によって金属膜を形成してもよい。
次に、パターニング材料除去装置58によって、パターニング材料が除去される。なお、パターニング材料の大部分は金属膜を形成する際に蒸発して消失するが、パターニング材料除去装置58によって残存するパターニング材料を確実に除去することが好ましい。パターニング材料の除去手段は特に制限はないが、例えばパターニング材料がオイルの場合は、ヒーターによる加熱蒸発、またはプラズマ照射による分解除去、あるいはこれらの組み合わせにより行うことができる。このとき、照射するプラズマには、酸素プラズマ、アルゴンプラズマ、窒素プラズマといったプラズマを使用できるが、この中でも酸素プラズマが特に好ましい。
以上の工程を必要な回数だけ繰り返すことによって、キャンローラ52の外周面に、誘電体膜と金属膜とが順次積層された積層体が形成される。次に、円筒状の積層体を半径方向に分割(例えば、45°ごとに8分割)して、キャンローラ52から取り外し、それぞれ加熱・加圧プレスをすることにより平板状の母素子を得る。
このようにして得られる平板状の母素子の一部斜視図を図7に示す。図中、矢印71は、キャンローラ52上での移動方向(円周方向)を示している。図7に示すように、母素子70は、積層された誘電体膜72および金属膜73を含む。母素子70を切断面74aで切断し、切断面74a面に外部電極を形成したのち、切断面74bでさらに切断することによって、図4に示すコンデンサが得られる。
外部電極は、例えば黄銅等の金属を溶射することによって形成することができる。この際、溶射する金属を変更して複数の金属層からなる外部電極を形成してもよい。例えば、積層体との付着強度が良好な金属層を形成したのち、その上に、他の金属層を形成してもよい。最表面の金属層は、その上に接触させる各種金属または樹脂との接着性が良好な金属で形成できる。
また、実装時の半田付け性を向上させるために、外部電極の上に、溶融半田めっき、溶解すずめっき、無電解半田めっき等を施してもよい。その場合には、溶射された金属層の表面に、めっきの下地層を形成してもよい。下地層としては、熱硬化性フェノール樹脂中に銅粉等を分散した導電性ペーストを塗布して加熱硬化させた層、あるいは銅/リン/銀からなる合金の金属溶射層などを適用できる。
また、外部電極にバンプ電極を設けてもよい。これにより、回路基板への実装がより容易になる。バンプ電極としては、周知の材料、形状のものから適宜選択して設けることができる。
さらに、用途に応じて必要な外装を行ってもよい。例えば、積層体の耐湿性の向上や、露出した金属膜の保護を目的として、素子の表面に保護層を形成してもよい。保護層は、例えば、シランカップリング剤等の表面処理剤を厚さ数nm程度にコーティングしたり、あるいは、金属膜が露出している面に、光硬化性樹脂または熱硬化性樹脂を厚さ数百μm程度に塗布し、硬化させることによって形成できる。
なお、図5の装置では、円筒状のキャンローラ52上に積層体を形成したが、積層体を形成する支持体はこれに限られず、真空装置内で周回するものであれば構わない。例えば、複数本のロールの間を周回するベルト状の支持体上に積層体を形成してもよい。ベルト状の支持体としては、金属、樹脂、布帛、あるいはこれらの複合体などからなるものを使用できる。また、回転する円盤も使用できる。
上記実施形態2のコンデンサ40では、誘電体膜41が、高湿度下や高温度下でも変質しにくいため、環境による変化、劣化などが少ない、優れた特性を有するコンデンサが得られる。また、コンデンサの製造にあたって蒸着法を用いることができるため、誘電体膜の成膜速度を向上させることができ、生産性に優れるコンデンサが得られる。
なお、実施の形態1同様に、誘電体膜41の形成に用いる樹脂モノマーは、式(1)〜(3)のいずれかに示す有機化合物以外にも、他の有機化合物を含んでもよい。また、添加剤を含んでもよい。添加剤により、例えば、硬化速度を調整したり、誘電体膜41の酸化を抑制したりできる。
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。
(実施例1)
実施例1では、図1(a)に示したコンデンサを作製した一例について、図2を参照しながら説明する。
最初に、式(1)〜(3)で示される有機化合物を含む樹脂モノマーのサンプルを7種類(サンプル1〜7)準備した。サンプル1は式(1)で示される有機化合物からなり(具体的な異性体の組成比については後述する。サンプル2、3においても同様である)、サンプル2は式(2)で示される有機化合物からなり、サンプル3は式(3)で示される有機化合物からなる。サンプル4は、式(1)で示される有機化合物のうち、2つのベンゼン環が共にメタ位で置換されている化合物である3、3’−ビス(ビニルフェニル)メタンからなる。サンプル5は、式(2)で示される有機化合物のうち、2つのベンゼン環が共にメタ位で置換されている化合物である3、3’−ビス(ビニルフェニル)スルフィドからなる。サンプル6は、式(3)で示される有機化合物のうち、2つのベンゼン環が共にメタ位で置換されている化合物である3、3’−ビス(ビニルフェニルチオ)メタンからなる。また、サンプル3に酸化防止剤としてIRGANOX520Lを添加(3重量%)した樹脂モノマーをサンプル7とした。各々のサンプルの具体的な作製方法は、後述する。
次に、準備した樹脂モノマー(サンプル1〜7)を用いてコンデンサ(同様にサンプル1〜7とし、樹脂モノマーのサンプル1を用いたコンデンサをサンプル1とする。以下同様にコンデンサのサンプル2〜7とする)を作製した。コンデンサの作製方法を以下に示す。
まず、厚さ25μmのPET基板(支持体11)を用意し、このPET基板上に、アルミニウムからなる下部電極膜12(厚さ30nm)を、100nm/秒の堆積速度で蒸着した(図2(a)参照)。
その後、下部電極膜12上に、樹脂モノマーのサンプル1〜7を各々蒸着し、樹脂モノマーからなる薄膜13a(厚さ200nm)を形成した(図2(b)参照)。具体的には、樹脂モノマーを収容した容器を、蒸着速度が500nm/秒となるように加熱し、下部電極膜12の一部が露出する位置に薄膜13aを形成した。
その後、15kVの電圧で加速した電子を50μA/cm2の密度で2秒間、薄膜13aに照射することによって、薄膜13a中の樹脂モノマーを重合させ、誘電体膜13を形成した(図2(c)参照)。その後、誘電体膜13の上方であって下部電極膜12と接触しない位置に、アルミニウムからなる上部電極膜14を、100nm/秒の堆積速度で蒸着した(図2(d)参照)。
このようにして、7種類のコンデンサ(サンプル1〜7)を作製した。
また、比較例として、上述した式(A)および式(B)で示される有機化合物を樹脂モノマーとして用い、各々サンプル1〜7と同様にしてコンデンサ(サンプルAおよびB)を作製した。
このように準備した9種類のコンデンサ(実施例7種類、比較例2種類)について、吸湿容量変化率、高温負荷容量変化率、および、誘電正接(tanδ)を評価した。測定方法の詳細については後述する。評価結果を表1に示す。
表1に示すように、サンプル1〜7のコンデンサは、上記いずれの評価においても、比較例であるサンプルAおよびBのコンデンサよりも優れた特性を示した。すなわち、式(1)〜(3)で示される有機化合物を含む樹脂モノマーを用いて誘電体膜を形成することによって、高湿度下および高温度下においても優れた特性を示すコンデンサが得られた。さらに、誘電正接(tanδ)についても、サンプル1〜7のコンデンサは比較例であるサンプルAおよびBのコンデンサよりも値が小さくなり、損失が低減されたコンデンサが得られた。
また、2つのベンゼン環の置換位置が共にメタ位である有機化合物と、一方がメタ位かつ他方がパラ位である有機化合物と、共にパラ位である有機化合物との混合物からなる樹脂モノマーを用いたサンプル1〜3に比べて、2つのベンゼン環の置換位置が共にメタ位である樹脂モノマーを用いたサンプル4〜6の誘電正接(tanδ)の値がいずれの場合も小さくなり、より特性に優れるコンデンサが得られる結果となった。これは、上述したように、2つのベンゼン環のメタ位−メタ位にビニル基が配置されると、そうでない場合に比べて官能基間の距離が短くなり、樹脂モノマーの硬化がより進みやすいからであると推定される。
さらに、酸化防止剤を添加したサンプル7では、未添加のサンプル3に比べて高温負荷容量変化率がより小さくなった。このことから、酸化防止剤を添加することによって、高温時に酸化しにくい(すなわち、劣化しにくい)コンデンサが得られることがわかった。
このように、式(1)〜(3)で示される有機化合物を含む樹脂モノマーを用いて形成した誘電体膜は高湿度下や高温度下においても変質しにくいため、環境による変化、劣化などが少ない、優れた特性を有するコンデンサが得られる。また、製造時に蒸着法を用いることができるため誘電体膜の成膜速度を向上させることができ、生産性に優れるコンデンサが得られる。
次に、表1に示した各特性の評価方法について詳述する。
吸湿容量変化率については、以下の様に評価した。まず、コンデンサを105℃の環境下で10時間乾燥させ、初期容量C11を測定した。容量は、周波数1kHz、電圧1Vrmsの正弦波をコンデンサに加えて測定した。その後、温度60℃、湿度95%Rhの環境下でコンデンサを100時間放置し、放置後の容量(吸湿時の容量)C12を、初期容量と同様の条件で測定した。吸湿容量変化率は、(C12−C11)×100/C11(%)で示される値である。吸湿容量変化率が小さいほど、湿度環境下における容量安定性が高く、製品として好ましい。したがって、この吸湿容量変化率ができるだけ小さいことが特に重要である。
高温負荷容量変化率については、以下のように評価した。まず、コンデンサを105℃の環境下で10時間乾燥させ、初期容量C21を測定した。容量は、周波数1kHz、電圧1Vrmsの正弦波をコンデンサに加えて測定した。その後、温度105℃の環境下でコンデンサに16Vの直流電圧を印加した状態で50000時間放置し、放置後の容量C22を、初期容量と同様の条件で測定した。高温負荷容量変化率は、(C22−C21)×100/C21(%)で示される値である。高温負荷容量変化率の絶対値が小さいほど、高温時に酸化しにくいことを示しており、製品として好ましい。特に、近年はCPUの高速化などに伴う電子部品の耐高温性が重要になってきており、高温負荷容量変化率の絶対値が小さいことが、コンデンサの評価の重要な指標となる。
誘電正接(tanδ)については、周波数1kHz、電圧1Vrmsの正弦波をコンデンサに加えて測定した。誘電正接が小さいほど、コンデンサ自体で消費する電力がより小さく、製品として好ましい。
次に、樹脂モノマーのサンプル1〜7の作製方法について説明する。
サンプル3の作製方法について説明する。
最初に、塩化アセチル80.9g(1.03mol)と、塩化アルミニウム137.3g(1.03mol)と、無水ジクロロメタン420mlとを2リットルのフラスコに採取した。次に、この液体に、無水ジクロロメタン100mlに溶解させた以下の式(8)で示されるビス(フェニルチオ)メタン100.0g(0.43mol)を滴下し、その後、還流下で1時間攪拌を続けることによって反応を完結させた。
反応終了後、上記フラスコを氷冷した。次に、反応後の溶液に氷水500mlを加えて洗浄した後、水層を除去した。次に、得られた溶液を5%炭酸水素ナトリウム水溶液300mlで洗浄した後、溶液を、pHが7になるまで蒸留水を用いて繰り返し洗浄した。次に、洗浄後の溶液を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を留去して以下の式(9)で示されるビス(アセチルフェニルチオ)メタン134.7gを得た。
式(9)中、2つのベンゼン環が置換されている位置はそれぞれ独立に、メタ位またはパラ位である。
次に、水素化リチウムアルミニウム24.7g(0.65mol)と、無水ジクロロメタン500mlと、無水ジエチルエーテル500mlとを2リットルのフラスコに採取して氷冷した。この溶液に、無水ジクロロメタン200mlに溶解させた上記式(9)で示されるビス(アセチルフェニルチオ)メタン134.7g(0.43mol)を滴下し、その後、還流下で1時間攪拌を続けることによって反応を完結させた。反応終了後、得られた溶液を再び氷冷し、この溶液を攪拌しながら20%塩酸水600mlを徐々に加えて洗浄した後、水層を除去した。
次に、得られた溶液を、5%炭酸水素ナトリウム水溶液300mlで洗浄した後、溶液を、pHが7になるまで蒸留水で洗浄した。次に、洗浄後の溶液を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を留去して以下の式(10)で示されるビス(1−ヒドロキシエチルフェニルチオ)メタン136.4gを得た。
式(10)中、2つのベンゼン環が置換されている位置はそれぞれ独立に、メタ位またはパラ位である。
次に、上記式(10)で示されるビス(1−ヒドロキシエチルフェニルチオ)メタン136.4g(0.43mol)を無水ジクロロメタン550mlに溶解させた。得られた溶液に、250mlの無水ジクロロメタンに溶解させた三臭化りん140.8g(0.52mol)を加え、還流下で30分間攪拌することによって反応させた。反応終了後、得られた溶液を蒸留水500mlで洗浄し、その後、水層を除去した。
次に、得られた溶液を5%炭酸水素ナトリウム水溶液300mlで洗浄した後、溶液を、pHが7になるまで蒸留水を用いて洗浄した。次に、洗浄後の溶液を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を留去して以下の式(11)で示されるビス(1−ブロモエチルフェニルチオ)メタン188.0gを得た。
式(11)中、2つのベンゼン環が置換されている位置はそれぞれ独立に、メタ位またはパラ位である。
次に、上記式(11)で示されるビス(1−ブロモエチルフェニルチオ)メタン188.0g(0.42mol)にt−ブトキシカリウム94.3g(0.84mol)とテトラヒドロフラン1000mlを加え、還流下で12時間攪拌することによって反応させた。反応終了後、テトラヒドロフランを留去した。次に、ジクロロメタン1000mlを加え、水槽が無色透明になるまで5%塩酸水で洗浄し、水層を除去した。次に、得られた溶液を5%炭酸水素ナトリウム水溶液300mlで洗浄した後、溶液を、pHが7になるまで蒸留水を用いて繰り返し洗浄した。次に、洗浄後の溶液を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を留去することにより淡黄色透明の液体83.6gを得た。
この液体について、ガスクロマトグラフィー・質量分析(GC−MS)を行った結果、ビス(ビニルフェニルチオ)メタンに対応する質量数M/e=284を示す3種類の生成物が検出された。3種類の生成物の含有率は、それぞれ90%、7%、3%であった。また、原料、中間生成物および1%以上の副生成物は検出されなかった。
次に、この液体をカラムクロマト法によって3種類の生成物ごとに分離し、それぞれについてプロトン核磁気共鳴法(1HNMR)による分析を行った。その結果、ビニル基に基づく5.1〜5.2ppm辺りの2本の吸収ピーク、5.6〜5.7ppm辺りの2本の吸収ピーク、6.6〜6.7ppm辺りの4本の吸収ピークが、いずれから生成物からも検出された。また、これらの生成物は、含有率90%のものが4,4’−ビス(ビニルフェニルチオ)メタンであり、含有率7%のものが3,3’−ビス(ビニルフェニルチオ)メタンであり、含有率3%のものが3,4’−ビス(ビニルフェニルチオ)メタンであることが判明した。
以上のことから、最終的に得られた淡黄色透明の液体は、上記式(3)で示されるビス(ビニルフェニルチオ)メタンを含んでおり、得られた液体の7%がメタ,メタジビニル体であり、3%がメタ,パラジビニル体であることが判明した(残り90%は、パラ、パラジビニル体である)。
このようにして作製した有機化合物を、樹脂モノマーサンプル3とした。
サンプル1および2についてもサンプル3と同様に作製した。ただし、上記式(8)で示される出発原料の代わりに、以下の式(12)で示される出発原料(サンプル1)、あるいは、以下の式(13)で示される出発原料(サンプル2)を用いた。
また、サンプル3と同様に、サンプル1および2についても、得られた有機化合物の組成を評価したところ、サンプル1では、85%がパラ,パラジビニル体であり、7%がメタ,パラジビニル体であり、8%がメタ,メタジビニル体であることが判明した。サンプル2では、87%がパラ,パラジビニル体であり、10%がメタ,パラジビニル体であり、3%がメタ,メタジビニル体であることが判明した。
サンプル4〜6は、上述のように作製したサンプル1〜3の各々をカラム精製し、2つのベンゼン環が共にメタ位で置換されている有機化合物を取り出すことによって作製した。
サンプル7は、サンプル3に酸化防止剤としてIRGANOX1520Lを3重量%添加することによって作製した。
(実施例2)
本実施例では、図4に示したコンデンサを製造した一例について、図5を参照しながら説明する。
最初に、コンデンサの保護層となる部分をキャンローラ52の外周面に積層させた。保護層の材料には実施例1で作製した樹脂モノマーのサンプル1を用い、これを樹脂蒸発源53において気化させ、キャンローラ52の外周面に堆積し、薄膜とした。このとき、真空容器51の内部を2×10-4Torrの圧力下とし、キャンローラ52の外周面を5℃に維持した。以降の工程においても同様である。次に、樹脂硬化装置54として紫外線硬化装置を用い、キャンローラ52の外周面に堆積させた薄膜を重合、硬化させ、誘電体膜を形成した。上述の堆積−重合の操作を、キャンローラ52を回転させることにより繰返し、キャンローラ52外周面に厚さ15μmの保護層を形成した。
次に、コンデンサの補強層となる部分を保護層上に積層させた。補強層の材料には、上述の保護層に用いた材料と同じ材料を用い、これを樹脂蒸発源53において気化させ、保護層上に堆積し、薄膜とした。続いて、紫外線硬化装置を用い、保護層上に堆積させた薄膜を重合、硬化させ、誘電体膜を形成した。このとき形成した誘電体膜の厚さは0.4μmとした。次に、表面処理装置55により、形成した誘電体膜の表面を酸素プラズマ処理した。続いて、パターニング材料付与装置56により、誘電体膜上の電気絶縁帯を形成する部分にパターニング材料を付着させた。パターニング材料にはフッ素系オイルを使用し、これを気化させて直径50μmのノズルより噴出させることによって、幅150μmの帯状に付着させた。次に、金属蒸発源57により誘電体膜上にアルミニウムを金属蒸着させ、金属薄膜を形成した。金属薄膜の蒸着厚さは30nmとし、その膜抵抗は3Ω/□であった。次に、パターニング材料除去装置58を用い、遠赤外線ヒーターによる加熱およびプラズマ放電処理によって、残存したパターニング材料を誘電体膜上から除去した。以上の操作を、キャンローラ52を回転させることにより500回繰り返し、総厚さ215μmの補強層を形成した。なお、パターニング材料付与装置56のノズルと被付着表面との距離Dnは、常に250〜300μmの範囲が維持できるように制御した。
次に、誘電体膜と電極膜とからなる素子層を積層した。誘電体膜の材料には、上述の保護層および補強層の材料と同一の材料を用い、これを樹脂蒸発源53において気化させ、補強層上に堆積し、薄膜とした。続いて、紫外線硬化装置を用い、補強層上に堆積させた薄膜を重合、硬化させ、誘電体膜を形成した。このとき形成した誘電体膜の厚さは0.4μmとした。次に、表面処理装置55により、形成した誘電体膜の表面を酸素プラズマ処理した。続いて、パターニング材料付与装置56により、誘電体膜上の電気的絶縁部に相当する部分にパターニング材料を付着させた。パターニング材料にはフッ素系オイルを使用し、これを気化させて直径50μmのノズルより噴出させることによって幅0.15mmの帯状に付着させた。次に、金属蒸発源57により誘電体膜上にアルミニウムを金属蒸着させた。アルミニウムの蒸着厚さは25nmとし、その膜抵抗は6Ω/□であった。その後、パターニング材料除去装置58を用い、赤外線ヒーターによる加熱およびプラズマ放電処理によって、残存したパターニング材料を除去した。以上の操作を、キャンローラ52を回転させることにより2000回繰り返し、総厚さ850μmの素子層を形成した。なお、パターニング材料付与装置56のノズルと被付着表面との距離Dnは、常に250〜300μmの範囲が維持できるように制御した。
次に、素子層の表面に、上述した方法を用いて厚さ215μmの補強層を形成し、形成した補強層の表面に、上述した方法を用いて厚さ15μmの保護層を形成することによって、円筒状の積層体を得た。
次に、得られた積層体を半径方向に8分割(45°ごとに切断)して取り外し、加熱下でプレスすることによって、図7に示すような平板状の積層体母素子を得た。これを、図7に示す切断面74aで切断し、切断面に黄銅を金属溶射して外部電極を形成した。さらに、金属溶射表面に熱硬化性フェノール樹脂中に銅粉を分散させた導電性ペーストを塗布した後に加熱硬化させ、さらに、硬化させた樹脂の表面に溶融ハンダメッキを施した。その後、図7に示す切断面74bに相当する箇所で切断し、図4に示すようなチップコンデンサを得た。得られたチップコンデンサは、積層方向の厚さ1.3mm、奥行1.6mm、幅(両外部電極間方向)3.2mmであり、小型ながら容量は0.47μFであった。また、絶縁抵抗は7.5×1010Ω、耐電圧は48Vであった。容量、絶縁抵抗、耐電圧の測定には、一般的な測定手法を用いた。
このようにして作製したチップコンデンサに対して、実施例1と同様の測定を行った結果、吸湿容量変化率が0%〜+1%の範囲、高温負荷容量変化率が−1%〜0%の範囲、誘電正接(tanδ)0.1%と、実施例1におけるコンデンサのサンプル1と同様な特性が得られた。
以上、本発明の実施の形態について例を挙げて説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されず本発明の技術的思想に基づき他の実施形態に適用することができる。例えば、本発明のコンデンサは、図1や図4に示すようなコンデンサに限らず、様々な形態のコンデンサに応用することができる。具体的な例としては、例えば、フィルムコンデンサに使用されるポリエチレンテレフタレートフィルムやポリエチレンナフタレートフィルムのように可撓性を有し、誘電正接が大きい誘電体の表面に、上述した樹脂モノマーを直接コーティング、重合させて誘電体膜を形成したコンデンサであってもよい。あるいは、例えば、上記フィルムの両面に、アルミニウムからなるストライプ状の電極を予め形成しておき、上記電極の対抗面よりやや広く、上述した樹脂モノマーをストライプ状にコーティング、重合させて誘電体膜を形成したコンデンサであってもよい。これらの形態のコンデンサとした場合でも、誘電正接が低減されたコンデンサを得ることができる。また、ストリップ線路をコンデンサとして使用する場合、同様に形成した誘電体膜を基板やオーバーコート層に用いることにより、例えば、少なくとも周波数が100Hzから4GHzまでの範囲において、0.1%から0.3%と非常に低い誘電正接が実現できる。