以下本発明を具体的に説明する。
本発明の層状珪酸塩とは、例えば[(Si2O5)2-]n構造を有する珪酸塩であって、一般に粘土鉱物と呼ばれている白雲母、黒雲母などの雲母類、スメクタイト、カオリナイト、モンモリロナイトを主成分とするベントナイトなどの粘土類、タルク、緑泥石などを具体例として挙げることができる。前記層状珪酸塩の中でも単葉状態となりやすいベントナイトが好ましく、最も好ましくはベントナイトを精製したモンモリロナイトである。
上記のような層状珪酸塩は、一次粒子の厚さが10nm以下のナノサイズの微粒子であり、その長さと幅はそれぞれ、1μm以下の平板な形状を有する。このような非常に微粒子の層状珪酸塩を樹脂中に良好に分散をさせると、補強材としての効果を十分発現できるとともに、少量の使用量で良いという利点も有する。従って、微粒子の層状珪酸塩をポリウレタンなどの樹脂中に均一に分散させることができれば、その樹脂の性質を損なうこともない。層状珪酸塩の大きさは1μm以下であれば特に限定されないが、好ましくは700nm以下、より好ましくは、500nm以下であり、10nm以上が好ましく、50nm以上がより好ましい。また、層状珪酸塩の単葉状態での厚みとしては、10nm以下であれば、十分その効果を発現できるが、単葉化するためには、0.1nm以上とすることが好ましく、より好ましくは0.5nm以上、5.0nm以下である。
一般に、上記のような層状珪酸塩は各粒子が静電的な力とファンデルワールス力によって凝集した二次粒子の状態として存在する。未処理の層状珪酸塩は粒子単独で高い親水性を有しているため、水に対する分散性は非常に優れ、水溶液中で直ちに膨潤する性質を有するものである。しかしながら、ゴルフボールの外層部用の樹脂組成物とする場合には、例えばアイオノマー樹脂やポリウレタンなどと配合する必要があるため、十分な分散を得ることができないという問題がある。
このため、本発明では、層状珪酸塩の粒子が樹脂中に単葉状態で分散した状態とするために、カチオン処理された層状珪酸塩を用いることを特徴とするものである。
層状珪酸塩をカチオン処理することにより樹脂への親和性が改善される理由は明らかではないが、おそらく、本来高い親水性の層状珪酸塩が表面のカチオンにより親油性に変化し、このカチオン処理によって樹脂との親和性が向上したものと考えられる。特に、本発明のカチオン処理した層状珪酸塩は、高い疎水性の樹脂とともに用いた場合でも、層状珪酸塩を良好に分散することができ、それによって層状珪酸塩が均一に樹脂中に分散された樹脂組成物とすることができる。
そして、前記樹脂組成物を用いて、例えば、中間層を形成することにより、圧縮方向と引張方向の弾性率のバランスを変え、異方性の高い中間層が得られる。すなわち、中間層における圧縮方向での弾性率が、樹脂単独の場合のそれと比べて高くなり、反発力を改善できる。また、引張方向の弾性率の増加量が圧縮方向のそれに比べて大きくなる。このため、本発明の中間層の引張方向と圧縮方向の弾性率のバランスは樹脂単独の場合のそれと比べて高い異方性を示すようになる。この結果、打撃時の変形に対する回復の速い中間層とすることができ、スピン量を抑えて、飛距離の増大を図ることができる。
また、本発明では打球感の良さを求めて、低硬度の中間層が形成されるが、その中間層に層状珪酸塩を含有してもその粒子形状により硬度の増加が抑えられるため、飛距離の改善と打球感の両立を図ることができる。
圧縮方向と引張方向の弾性率のバランスが変化する理由は明らかではないが、本発明では分散された層状珪酸塩は単葉状態の平板形状のため成形時における樹脂の流動方向に従って、ボールの円周方向に沿って並列しやすくなっていると考えられ、このため厚み方向では圧縮方向の弾性率を樹脂単独のそれよりも高くするが、その圧縮方向の弾性率の増加量は引張方向の弾性率の増加量に比べては低めに抑えられる。それによって引張方向では層状珪酸塩の硬い性質と、圧縮方向では軟らかい樹脂の性質の両者を発現できるためではないかと考えられる。
特に、打球感を軟らかくするため、ポリウレタンなどの高い極性の樹脂を用いる場合、未処理の層状珪酸塩では親水性ゆえに分散が不十分となりやすいが、本発明によればこのような高い極性の樹脂でも良好な分散が可能であるという点で有利である。
本発明の層状珪酸塩のカチオン処理に用いるカチオンとしては、樹脂に対して親和性を付与するものを挙げることができる。例えばナトリウムイオン、カリウムイオンなどのアルカリ金属、あるいはカルシウムイオン、バリウムイオンなどのアルカリ土類金属の金属カチオンも用いることができるが、特に4級アンモニウム塩が好ましい。
上記4級アンモニウム塩としては、その少なくとも1つの置換基が芳香族炭化水素基及びカルボキシル基から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、より好ましくは両置換基を有する4級アンモニウム塩である。上記置換基を有する4級アンモニウム塩を用いることにより、層状珪酸塩に極性を付与し、極性の樹脂への分散が容易となる。
前記の芳香族炭化水素基としては、ベンゼン及びベンゼンの誘導体である、ベンジル基、フェネチル基、トリル基、キシリル基、ジフェニルメチル基、トリチル基などを挙げることができ、これらの中でもベンジル基が好ましい。
また、上記のカルボキシル基としては、芳香族、脂肪族いずれであってもよいが、好ましいカルボキシル基としては、例えばステアリン酸基、ミリスチン酸基、パルミチン酸基、オレイン酸基、ラウリン酸基などのカルボン酸基を挙げることができる。便宜に市場で入手しうる適当なカルボキシル基には、例えば油脂類として牛脂脂肪酸基がある。
そして、4級アンモニウム塩の他の置換基の好適な例としては、炭素数1〜4の直鎖あるいは分岐の飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基であり、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基などのアルキル基を挙げることができる。不飽和脂肪族炭化水素基のように、二重結合を有していても差し支えない。なお、2以上の置換基が環形成した複素環構造であってもよい。
層状珪酸塩のカチオン処理の方法は特に限定されないが、好適な例としては、樹脂との混合前に予めカチオン処理する方法が挙げられる。樹脂組成物の調整時にカチオン処理してもよいが、樹脂との混合前に予めカチオン処理されることが好ましい。予めカチオン処理された層状珪酸塩は、粒子全体が均一にカチオン処理され、樹脂中に投入された際に分散時間の短縮化も図ることができる。従って、カチオン処理は層状珪酸塩の表面全てになされていることが好ましい形態であるが、使用する樹脂への分散性も考慮し、適宜変更することも可能である。
上記のような層状珪酸塩としては、例えばLaviosa Chimica Mineraria S.p.A.社製のDellite(商標)43B(精製モンモリロナイト、粒子径500nm、厚み1nm、4級アンモニウム塩処理:ベンジル基、牛脂脂肪酸基及び2個のメチル基を有する4級アンモニウム塩)、Dellite(商標)67G(精製モンモリロナイト、粒子径500nm、厚み1nm、4級アンモニウム塩処理:2個の牛脂脂肪酸基及び2個のメチル基を有する4級アンモニウム塩)、Dellite(商標)HPS(精製モンモリロナイト、粒子径500nm、厚み1nm、Naカチオン処理)を挙げることができる。このような層状珪酸塩は樹脂中への分散前は凝集により数ミクロン程度の二次粒子であるが、樹脂との親和性により、樹脂中では単葉状態の一次粒子まで分散することができる。従って、本発明の層状珪酸塩は樹脂組成物の調整時におけるハンドリングの点でも優れている。
次に、本発明の樹脂組成物を外層部である中間層に用いたゴルフボールを作成する方法について説明する。
本発明のゴルフボールの中間層は、基材となる樹脂成分とカチオン処理された層状珪酸塩とを含有する中間層用樹脂組成物を作製することにより得られる。カチオン処理された層状珪酸塩の中間層用樹脂組成物中の配合量は、特に限定されないが、樹脂成分100質量部に対して、1質量部以上、より好ましくは2質量部以上、さらに好ましくは3質量部以上であって、30質量部以下、より好ましくは20質量部以下、さらに好ましくは10質量部以下であることが望ましい。本発明の層状珪酸塩は、分散後は樹脂中で単葉状態の微粒子として存在する。従って、上記のように樹脂成分に対して少ない量でも中間層の改善を図ることができる。
前記中間層用樹脂組成物の樹脂成分は、特に限定されず、例えば、ポリウレタン、アイオノマー樹脂、ポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリスチレン系エラストマー或いは、これらの混合物を挙げることができる。前記樹脂成分の主成分を、ポリウレタン又はアイオノマー樹脂とすることが好ましい。樹脂成分中のポリウレタン又はアイオノマー樹脂の含有量は50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。さらに、前記樹脂成分が、実質上、ポリウレタンまたはアイオノマー樹脂のみからなることも好ましい。
また、上記中間層の樹脂組成物の硬度としては、ソフトな打球感を得るために、ショアD硬度で55未満とすることが好ましく、48以下がより好ましく、45以下がさらに好ましい。一方、反発性を高めるために20以上とすることが好ましく、30以上がより好ましく、40以上がさらに好ましい。55以上であると、カバー層の硬度と近づき、打球感が硬いものとなる。
前記低硬度の樹脂組成物は、樹脂成分と、その使用量及び層状珪酸塩の添加量を上記の範囲で適宜変更することにより作製可能である。特にポリウレタンを基材樹脂として用いると、樹脂成分自体の硬度を低くすることが容易であるため、好適に用いることができる。
上記のような低硬度の中間層を形成することにより、カバー層に比べて軟らかい層を内部に設けることができるため、打球感の改善を図ることができる。同時に、層状珪酸塩の作用により、圧縮方向においては硬度の増加が抑えられ、円周方向において硬度が高められるため、従来の補強剤と比べ飛距離の向上も図ることができる。
本発明の中間層の厚みとしては、0.5mm以上、2.5mm以下とすることが好ましく、0.8mm以上、2.0mm以下とすることがより好ましい。
また、本発明の層状珪酸塩を含有する樹脂組成物で作製された中間層は、硬度が低いだけでなく、打撃時の圧縮方向(ボールの直径方向)と引張方向(ボールの円周方向)の弾性率のバランスに高い異方性を与えることが好ましい。前記異方性を高くすることにより、ボールのスピン量が抑えられ、打ち出し角を高くし、飛距離の増大を図ることができる。すなわち、樹脂成分のみからなる中間層では、圧縮方向と引張方向の弾性率の比の高いものが得られにくい。これは球あるいは立方体などの等方的な形状の補強材を添加した樹脂組成物であっても同様であり、このような補強材の添加により各弾性率自体を高くすることはできるが、各方向に対する弾性率の寄与はほぼ同じとなる。このため、圧縮方向と引張方向の弾性率のバランスの変化は小さい。
一方、本発明は単葉状態で樹脂中に分散する層状珪酸塩を用いているため、ボールの圧縮方向では、その粒子形状から樹脂単独の場合の弾性率と比べ、顕著な弾性率の増加とならないが、引張方向では、圧縮方向に比べて弾性率の増加量が大きくなる。従って、異方性の高い弾性率のバランスを有する中間層とすることができる。そして、それによって、打撃によってボールに加えられた変形が速やかに回復し、スピン量の低減を図ることができ、さらに飛距離を向上することが可能となる。
本発明では、上記観点から、前記中間層の両弾性率のバランスとしては、中間層を形成する樹脂組成物の樹脂部分の引張方向の弾性率と圧縮方向の弾性率をそれぞれαA及びβAとし、中間層を形成する樹脂組成物の層状珪酸塩を含有する部分の引張方向の弾性率と圧縮方向の弾性率をそれぞれαB及びβBとした時に、αB/βBがαA/βAに対して1.1以上、より好ましくは1.2以上、最も好ましくは1.3以上とすることにより飛距離の増大を図ることができることも見出した。
なお、前記両弾性率のバランスは引張方向の弾性率が高いほど異方性の傾向が大きくなるため好ましいが、反発と打球感の両立の点から、2.0以下が好ましく、より好ましくは1.8以下であり、最も好ましくは1.6以下である。
上記各弾性率は中間層に使用する樹脂成分の種類、層状珪酸塩の配合量に応じて適宜変更可能である。樹脂成分としてポリウレタンを用いた場合、樹脂部分の圧縮方向の弾性率が、20MPa以上,500MPa以下が好ましく、30MPa以上,400MPa以下がより好ましく、50MPa以上,350MPa以下が最も好ましい。
また同様に樹脂部分の引張方向の弾性率は、100MPa以上,2500MPa以下が好ましく、150MPa以上,2000MPa以下がより好ましく、180MPa以上,1800MPa以下が最も好ましい。
なお、中間層の各弾性率の直接の測定が困難な場合は、中間層に使用されている樹脂組成物と同一組成の樹脂成形体を作製することにより求めることができる。
また、上記ポリウレタンを樹脂成分とし、カチオン処理された層状珪酸塩を含有する樹脂組成物からなる中間層の弾性率としては、圧縮方向で30MPa以上,600MPa以下が好ましく、40MPa以上,500MPa以下がより好ましく、55MPa以上,400MPa以下が最も好ましい。同様に引張方向の弾性率としては、150MPa以上,3000MPa以下が好ましく、200MPa以上,2500MPa以下がより好ましく、250MPa以上,2300MPa以下が最も好ましい。
なお、上記中間層は1層以上であってもよく、2層以上の中間層であれば、少なくとも1層の中間層が上記の層状珪酸塩を含有する樹脂組成物であればよい。
また、前記中間層用樹脂組成物の樹脂成分として使用できるポリウレタンとしては、ウレタン結合を分子内に複数有するものであれば、特に限定されず、例えば、ポリイソシアネートとポリオールとを反応させることによって、ウレタン結合が分子内に形成された生成物を挙げることができる。また必要に応じて、さらにポリアミンなどを反応させることにより得られるものでもよい。前記ポリウレタンとしては、例えば、熱可塑性ポリウレタン、熱硬化性(二液硬化型)ポリウレタンを挙げることができる。
前記ポリウレタンは、一般に、ポリイソシアネート成分、ポリオール成分を含有し、さらに必要に応じて、ポリアミン成分を含有する。前記ポリイソシアネート成分としては、イソシアネート基を2以上有するものであれば特に限定されず、例えば、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、2,4−トルエンジイソシアネートと2,6−トルエンジイソシアネートの混合物(TDI)、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5−ナフチレンジイソシアネート(NDI)、3,3'−ビトリレン−4,4'−ジイソシアネート(TODI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、パラフェニレンジイソシアネート(PPDI)等の芳香族ポリイソシアネート;4,4'−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、水素添加キシリレンジイソシアネート(H6XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)等の脂環式ポリイソシアネート又は脂肪族ポリイソシアネート等のうちの1種、または、2種以上の混合物などである。
ポリウレタンのポリイソシアネート成分として、芳香族ポリイソシアネートを使用することが好ましい。芳香族ポリイソシアネートを使用することにより、得られるポリウレタンの機械的特性が向上した中間層が得られる。また、耐候性を向上するという観点からは、ポリウレタンのポリイソシアネート成分として、非黄変性のポリイソシアネート(TMXDI、XDI、HDI、H6XDI、IPDI、H12MDIなど)を使用することが好ましく、さらに好ましくは4,4'−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)を使用する。4,4'−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)は剛直な構造を有しており、得られるポリウレタンの機械的特性に優れる中間層が得られるからである。
前記ポリウレタンを構成するポリオール成分としては、ヒドロキシル基を複数有するものであれば特に限定されず、例えば、低分子量のポリオールや高分子量のポリオールなどを挙げることができる。低分子量のポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール等のジオール;グリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどのトリオールが挙げられる。高分子量のポリオールとしては、例えば、ポリオキシエチレングリコール(PEG)、ポリオキシプロピレングリコール(PPG)、ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)等のポリエーテルポリオール;ポリエチレンアジぺート(PEA)、ポリブチレンアジペート(PBA)、ポリヘキサメチレンアジペート(PHMA)などの縮合系ポリエステルポリオール;ポリ−ε−カプロラクトン(PCL)のようなラクトン系ポリエステルポリオール;ポリヘキサメチレンカーボネートなどのポリカーボネートポリオール;及びアクリルポリオールなどが挙げられ、上述したポリオールの少なくとも2種以上の混合物であってもよい。
高分子量のポリオールの平均分子量は、特に限定されるものではないが、例えば、400以上であることが好ましく、より好ましくは1000以上である。高分子量ポリオールの平均分子量が小さくなりすぎると、得られるポリウレタンが硬くなり、ゴルフボールの打球感が低下するからである。高分子量ポリオールの平均分子量の上限は、特に限定されるものではないが、10000以下、より好ましくは8000以下である。
また、必要に応じて前記ポリウレタンを構成するポリアミンは、少なくとも2以上のアミノ基を有するものであれば特に限定されない。前記ポリアミンとしては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどの脂肪族系ポリアミン、イソホロンジアミン、ピペラジンなどの脂環式系ポリアミン、及び、芳香族ポリアミンなどが挙げられる。
前記芳香族ポリアミンは、少なくとも2以上のアミノ基が芳香環に直接又は間接的に結合しているものであれば、特に限定されない。ここで、間接的に結合しているとは、アミノ基が、例えば低級アルキレン基を介して芳香環に結合していることをいう。前記芳香族ポリアミンとしては、例えば、1つの芳香環に2以上のアミノ基が結合している単環式芳香族ポリアミンでもよいし、少なくとも1つのアミノ基が1つの芳香環に結合しているアミノフェニル基を2個以上含む多環式芳香族ポリアミンでもよい。
前記単環式芳香族ポリアミンとしては、例えば、フェニレンジアミン、トルエンジアミン、ジエチルトルエンジアミン、ジメチルチオトルエンジアミンなどのアミノ基が芳香環に直接結合しているタイプ;キシリレンジアミンのようなアミノ基が低級アルキレン基を介して芳香環に結合しているタイプなどが挙げられる。また、前記多環式芳香族ポリアミンとしては、少なくとも2つのアミノフェニル基が直接結合しているポリ(アミノベンゼン)でもよいし、少なくとも2つのアミノフェニル基が低級アルキレン基やアルキレンオキシド基を介在して結合していてもよい。これらのうち、低級アルキレン基を介して2つのアミノフェニル基が結合しているジアミノジフェニルアルカンが好ましく、4,4'−ジアミノジフェニルメタン及びその誘導体が特に好ましい。
前記中間層用樹脂組成物の樹脂成分として使用できる熱可塑性ポリウレタン、及び、熱硬化性ポリウレタン(二液硬化型ポリウレタン)は、上記ポリイソシアネート、ポリオール、ポリアミンを適宜組み合わせることにより作製することができる。ポリウレタンの合成方法としては、ワンショット法、或いは、プレポリマー法を挙げることができる。ワンショト法とは、ポリイソシアネートとポリオール等とを一括に反応させる方法であり、プレポリマー法とは、多段階でポリイソシアネートとポリオール等とを反応させる方法であり、例えば、一旦低分子量のウレタンプレポリマーを合成した後、続けてさらに高分子量化する方法である。
熱可塑性ポリウレタンは、一般に、上記のような合成方法によって、ある程度高分子量化されたものであるが、低分子量のウレタンプレポリマーを一旦取り置き、中間層成形時に鎖長延長剤(或いは硬化剤)を配合して、高分子量化するようにすれば、熱硬化性ポリウレタン(二液硬化型ポリウレタン)が得られる。ポリウレタンの合成には、公知の触媒を使用することができる。前記触媒としては、例えば、トリエチルアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミンなどのモノアミン類;N,N,N',N'−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N',N'',N''−ペンタメチルジエチレントリアミン等のポリア
ミン類;1,8−ジアザビシクロ−[5,4,0]−7−ウンデセン(DBU)、トリエチレンジアミン等の環状ジアミン類;ジブチルチンジラウリレート、ジブチルチンジアセテートなどの錫系触媒などが挙げられる。
本発明では、中間層用樹脂組成物の樹脂成分として、熱可塑性ポリウレタンを使用することも好ましく、さらに熱可塑性ポリウレタンエラストマーがより好ましい。熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、いわゆるゴム弾性を示すポリウレタンであり、熱可塑性ポリウレタンエラストマーを採用することにより、反発性の高い中間層が得られる。前記熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、例えば、射出成形や圧縮成形などにより中間層を成形できるものであれば特に限定されず、BASFポリウレタンエラストマーズ(株)から市販されている「エラストランXNY90A」、「エラストランXNY97A」、「エラストランXNY585」などを使用できる。
前記熱可塑性ポリウレタンおよび熱可塑性ポリウレタンエラストマーとしては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリイソシアネート成分と高分子量ポリオール成分を構成成分とするもの;ポリイソシアネート成分と高分子量ポリオール成分と低分子量ポリオール成分を構成成分とするもの;ポリイソシアネート成分と高分子量ポリオール成分と低分子量ポリオール成分とポリアミン成分を構成成分とするもの;ポリイソシアネート成分と高分子量ポリオール成分とポリアミン成分を構成成分とするものなどを挙げることができる。
また本発明では、中間層用樹脂組成物の樹脂成分として、熱硬化性ポリウレタンを使用することも好ましい。熱硬化性ポリウレタンは、3次元架橋点を多く生成させることができるので、耐久性に優れた中間層が得られる。前記熱硬化性ポリウレタンとしては、例えば、イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーをポリアミン、ポリオール等の硬化剤で硬化させるタイプ、或いは、ヒドロキシル基またはアミノ基末端ウレタンプレポリマーをポリイソシアネートなどの硬化剤で硬化させるタイプを挙げることができる。硬化剤として使用するポリアミン、ポリオール、及び、ポリイソシアネートは、上述したものの中から適宜選択することができる。
これらの中でも、熱硬化性ポリウレタンとしては、イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーをポリアミンで硬化させて得られるものが好ましい。この場合、ウレタンプレポリマーのイソシアネート基に対する硬化剤のアミノ基のモル比率(NH2/NCO)は、0.70以上、より好ましくは0.80以上、さらに好ましくは0.85以上とし、1.20以下、より好ましくは1.05以下、更に好ましくは1.00以下とすることが望ましい。0.70未満ではポリアミンに対するイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーの量が過剰となり、アロファネート架橋やビュレット架橋の生成反応が起こりやすくなり、最終的に得られるポリウレタンの柔軟性が不足気味になるからである。一方、1.20超では、イソシアネート基が不足するため、アロファネートやビュレット架橋反応が起こりにくくなり、その結果、3次元架橋点が少なくなりすぎて、最終的に得られる熱硬化性ポリウレタンの強度が低下する傾向がある。
本発明では、中間層用樹脂組成物の樹脂成分として、アイオノマー樹脂を使用することも好ましい。前記アイオノマー樹脂としては、例えば、エチレンとα,β−不飽和カルボン酸との共重合体中のカルボキシル基の少なくとも一部を金属イオンで中和したもの、またはエチレンとα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体中のカルボキシル基の少なくとも一部を金属イオンで中和したものを挙げることができる。上記のα,β−不飽和カルボン酸としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、クロトン酸等が挙げられ、特にアクリル酸又はメタクリル酸が好ましい。また、α,β−不飽和カルボン酸エステルとしては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸等のメチル、エチル、プロピル、n−ブチル、イソブチルエステル等が用いられ、特にアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルが好ましい。上記エチレンとα,β−不飽和カルボン酸との共重合体や、エチレンとα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体中のカルボキシル基の少なくとも一部を中和する金属イオンとしては、ナトリウム、カリウム、リチウムなどのアルカリ金属イオン;マグネシウム、カルシウム、亜鉛、バリウム、カドミウムなどの2価の金属イオン;アルミニウムなどの3価の金属イオン;錫、ジルコニウムなどのその他のイオンが挙げられるが、特にナトリウム、亜鉛、マグネシウムイオンが反発性、耐久性等から好ましく用いられる。
上記アイオノマー樹脂の具体例としては、ハイミラン1555、1557、1605、1652、1702、1705、1706、1707、1855、1856(三井デュポンポリケミカル社製)、サーリン8945、サーリン9945、サーリン6320(デュポン社製)、IOTEK 7010、8000(エクソン(Exxon)社製)等を例示することができる。これらのアイオノマー樹脂は、上記例示のものをそれぞれ単独または2種以上の混合物として用いてもよい。
本発明における中間層用樹脂組成物の樹脂成分として、上記熱可塑性ポリウレタンあるいは上記アイオノマー樹脂等の基材樹脂に加えて、さらに熱可塑性エラストマーやジエン系ブロック共重合体等を使用することも好ましい。前記熱可塑性エラストマーの具体例としては、東レ(株)から商品名「ペバックス」で市販されている(例えば、「ペバックス2533」)熱可塑性ポリアミドエラストマー、東レ・デュポン(株)から商品名「ハイトレル」で市販されている(例えば、「ハイトレル3548」、「ハイトレル4047」)熱可塑性ポリエステルエラストマー、BASFポリウレタンエラストマーズ社から商品名「エラストラン」で市販されている(例えば、「エラストランET880」)熱可塑性ポリウレタンエラストマー、三菱化学(株)から商品名「ラバロン」で市販されている(例えば「ラバロンSR04」、「ラバロンT3339C」)熱可塑性スチレン系エラストマー等が挙げられる。
前記ジエン系ブロック共重合体は、ブロック共重合体または部分水素添加ブロック共重合体の共役ジエン化合物に由来する二重結合を有するものである。その基体となるブロック共重合体とは、少なくとも1種のビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックAと少なくとも1種の共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBとから成るブロック共重合体である。また、部分水素添加ブロック共重合体とは、上記ブロック共重合体を水素添加して得られるものである。ブロック共重合体を構成するビニル芳香族化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−t−ブチルスチレン、1,1−ジフェニルスチレン等の中から1種または2種以上を選択することができ、スチレンが好ましい。また、共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン等の中から1種または2種以上を選択することができ、ブタジエン、イソプレンおよびこれらの組み合わせが好ましい。好ましいジエン系ブロック共重合体の例としては、エポキシ基を含有するポリブタジエンブロックを有するSBS(スチレン−ブタジエン−スチレン)構造のブロック共重合体、または、エポキシ基を有するSIS(スチレン−イソプレン−スチレン)構造のブロック共重合体などが挙げられる。
上記ジエン系ブロック共重合体の具体例としては、例えば、ダイセル化学工業(株)製の「エポフレンドA1010」、(株)クラレ製の「セプトンHG−252」などを挙げることができる。上記熱可塑性エラストマーやジエン系ブロック共重合体の配合量は、基材樹脂100質量部に対して、1〜60質量部であることが好ましく、より好ましくは1〜35質量部である。
本発明のゴルフボールの構造は、コアと該コアを被覆する中間層と、該中間層を被覆するカバー層とを有するものであれば特に限定されず、コアと該コアを被覆する少なくとも1層の中間層と該中間層を被覆するカバー層とを有するマルチピースゴルフボール、或いは、糸巻きコアと該糸巻きコアを被覆する中間層と、その中間層を被覆するカバー層とを有する糸巻きゴルフボールからなる多層構造のゴルフボールの態様を挙げることができる。なお、カバー層、中間層はいずれもコアを取り巻く外層部を構成する層であるため、本発明では便宜的にカバー層を1層とし、そのカバー層とコアとの間に位置する層を中間層という。
以下、前記中間層を有する多層構造のゴルフボールを製造する方法について説明するが、本発明は、かかる製造方法に限定されるものではない。本発明の多層構造のゴルフボールのコアとしては、従来から公知のコアを使用することができ、例えば、基材ゴム、共架橋剤、有機過酸化物、充填剤を含むコア用ゴム組成物を加熱プレスして成形したものであることが好ましい。
前記基材ゴムとしては、天然ゴムおよび/または合成ゴムを使用することができ、例えば、ポリブタジエンゴム、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、スチレンポリブタジエンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)などを使用できる。これらの中でも、特に、反発に有利なシス結合が40%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上のハイシスポリブタジエンを用いることが好ましい。
前記共架橋剤としては、炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸又はその金属塩を使用することができ、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、又は、これらの金属塩を挙げることができる。前記金属塩を構成する金属としては、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、ナトリウムを挙げることができ、反発性が高くなるということから、亜鉛を使用することが好ましい。共架橋剤の使用量は、基材ゴム100質量部に対して、10質量部以上、より好ましくは20質量部以上であって、50質量部以下、より好ましくは40質量部以下であることが望ましい。共架橋剤の使用量が10質量部未満では、適当な硬さとするために有機過酸化物の量を増加しなければならず、反発性が低下する傾向がある。一方、共架橋剤の使用量が50質量部を超えると、コアが硬くなりすぎて、打球感が低下する虞がある。
コア用ゴム組成物に含有される有機過酸化物としては、例えば、ジクミルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t―ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ−t−ブチルパーオキサイド等の有機過酸化物が挙げられ、これらのうちジクミルパーオキサイドが好ましく用いられる。有機過酸化物の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、0.2〜3質量部が好ましく、より好ましくは0.3〜2質量部である。0.2質量部未満では、コアが柔らかくなりすぎて、反発性が低下する傾向があり、3質量部を超えると、適切な硬さにするために、共架橋剤の使用量を増加する必要があり、反発性が不足気味になる。
コア用ゴム組成物に含有される充填剤としては、酸化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、タングステン粉末、モリブデン粉末などの無機充填剤を挙げることができる。前記充填剤の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、2質量部以上、より好ましくは3質量部以上であって、50質量部以下、より好ましくは35質量部以下であることが望ましい。充填剤の配合量が2質量部未満では、重量調整が難しくなり、50質量部を超えるとゴム成分の重量分率が小さくなり反発性が低下する傾向があるからである。
前記コア用ゴム組成物には、基材ゴム、共架橋剤、有機過酸化物、及び、充填剤に加えて、さらに、有機硫黄化合物、老化防止剤、又は、しゃく解剤等を適宜配合することができる。老化防止剤の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、0.1質量部以上、1質量部以下であることが好ましい。また、しゃく解剤は、基材ゴム100質量部に対して、0.1質量部以上、5質量部以下であることが好ましい。
前記コア用ゴム組成物の加熱プレス成形条件は、ゴム組成に応じて適宜設定すればよいが、通常、130〜200℃で10〜60分間加熱するか、あるいは130〜150℃で20〜40分間加熱した後、160〜180℃で5〜15分間と2段階加熱することが好ましい。
本発明の中間層を形成した多層構造のゴルフボールに使用するコアは、圧縮変形量が5.0mm以下の大きな変形量を有するコアを利用できる点でも好ましい。コアの変形量が大きい場合、低硬度の中間層との硬度差が大きくなり、コアと中間層との間で剥離が生じやすくなって耐久性が低下しやすいが、本発明の中間層を形成することにより、このような硬度差に基づく剥離も低減することができる。一方、打撃時の変形によるコントロール性を考慮すると、コアの変形量は1.8mm以上が好ましい。
本発明では、例えば上記の如く成形したコアに、上述した中間層を少なくとも1層被覆し、さらにその中間層をカバー層で被覆して、ゴルフボール本体を作製する。
中間層用樹脂組成物の樹脂成分としてポリウレタンを使用する場合には、例えば、得られたコアを半球状の金型に保持させた状態で、この金型内に中間層用樹脂組成物の各成分を注入し、次にこれを反転させる。そして中間層用樹脂組成物の各成分を注入した別の半球状の金型と合わせて硬化反応を行なって、中間層を成形すればよい。前記ポリウレタンを含有する場合の硬化反応は、30℃〜120℃、好ましくは50℃〜80℃で、2〜60分間、好ましくは5〜30分間行うことが望ましい。
また、中間層用樹脂組成物の樹脂成分として、アイオノマー樹脂、熱可塑性エラストマーなどを使用する場合には、例えば、まず中間層用樹脂組成物の各成分からなる半球殻状のハーフシェルを予め形成し、これを2枚用いてコアを包み、110〜170℃で1〜10分間加圧成形する方法;中間層用樹脂組成物をコアを被覆するように射出成形する方法などが適用される。
本発明のゴルフボールのカバー層は、低速スイングでも飛距離を向上するため、ショアD硬度が52以上の高硬度・高反発の樹脂組成物が用いられる。このようなカバー層を外層部の一部とすることにより、スピン量を抑え、初速が速く、打ち出し角の高いボールを得ることができる。カバー層のショアD硬度が52未満では、中間層に添加した層状珪酸塩の効果が追いつかず、打球感はソフトとなるが、飛距離は低下することとなる。一方、カバー層のショアD硬度が75を越えると、打撃による耐久性が低下する。好適なカバー層の硬度は、55以上、70以下であり、より好ましくは58以上、65以下であり、最も好ましくは59以上、62以下である。また、カバー層は中間層よりも、2以上高い硬度であることが好ましく、5以上あることがより好ましい。
本発明のカバー層の厚みは、特に限定されないが、中間層を0.5〜2.5mmとする場合には、0.5〜3.0mmとすることが好ましく、より好ましくは0.8〜2.5mm、さらに好ましくは1.0〜1.7mmとする。0.5mm以上とすることにより耐久性を更に高め、3.0mm以下とすることにより反発性を向上することができる。
本発明のカバー層用樹脂組成物の樹脂成分は、特に限定されず、中間層に使用する樹脂と同種の樹脂を使用することができる。例えば、ポリウレタン、アイオノマー樹脂、ポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリスチレン系のエラストマー或いは、これらの混合物を挙げることができる。特に、前記樹脂成分の主成分を、ポリウレタン又はアイオノマー樹脂とすることが好ましく、上記の高硬度のカバー層とするため、基材樹脂としてアイオノマー樹脂を用いることも好ましい。
本発明のカバー層はカチオン処理された層状珪酸塩を含有する樹脂組成物を用いることも好ましい。すなわち、本発明においては、低硬度の中間層を形成することにより打球感は良くなるが、高硬度のカバー層としているため耐久性が低下しやすくなる。
このような軟らかい中間層と硬いカバー層を用いた場合の問題を解決するため、カバー層にも本発明のカチオン処理された層状珪酸塩を添加することが好ましい。このカバー層に含有させる層状珪酸塩も中間層のそれと同様に4級アンモニウム塩で処理するなどの特性を有する層状珪酸塩が好ましく用いられる。なお、カバー層に用いられる前記層状珪酸塩の配合量としては、中間層と同様の範囲で適宜選択することができる。
上記において層状珪酸塩を含有するカバー層としては、飛距離の向上のために中間層と同様に異方性を有するカバー層とすることが好ましい。
前記の層状珪酸塩を含有するカバー層の弾性率のバランスとしては、カバー層の樹脂組成物の樹脂部分の引張方向の弾性率と圧縮方向の弾性率をそれぞれα0及びβ0とし、カバー層の樹脂組成物の層状珪酸塩を含有する部分の引張方向の弾性率と圧縮方向の弾性率をそれぞれα1及びβ1とした時に、α1/β1がα0/β0に対して1.1以上、より好ましくは1.2以上、最も好ましくは1.3以上とすることにより、さらに飛距離の増大も図ることができるため好ましい。
前記弾性率のバランスは引張方向の弾性率が高いほど異方性の傾向が大きくなるため好ましいが、スピン量と耐擦過傷性の両立の点から、2.0以下が好ましく、より好ましくは1.8以下であり、最も好ましくは1.6以下である。
上記各弾性率はカバー層に使用する樹脂成分の種類、層状珪酸塩の配合量に応じて適宜変更可能である。樹脂成分としてアイオノマー樹脂を用いた場合、カバー層用樹脂組成物の樹脂部分の圧縮方向の弾性率は、20MPa以上、700MPa以下が好ましく、30MPa以上、600MPa以下がより好ましく、50MPa以上、500MPa以下が最も好ましい。
またカバー層用樹脂組成物の樹脂部分の引張方向の弾性率は、100MPa以上、3000MPa以下が好ましく、150MPa以上、2500MPa以下がより好ましく、180MPa以上、2000MPa以下が最も好ましい。なお、カバー層用樹脂組成物が層状珪酸塩を含有しない場合の各弾性率は上記の樹脂部分の各弾性率と同一である。
本発明において、カバー層の各弾性率の直接の測定が困難な場合は、カバー層に使用されている樹脂組成物と同一組成の樹脂成形体を作製することにより求めることができる。
また、上記アイオノマー樹脂を樹脂成分とし、カチオン処理された層状珪酸塩を含有する樹脂組成物からなるカバー層の弾性率としては、圧縮方向で30MPa以上、800MPa以下が好ましく、40MPa以上、700MPa以下がより好ましく、55MPa以上、600MPa以下が最も好ましい。同様に引張方向の弾性率としては、150MPa以上、3500MPa以下が好ましく、200MPa以上、3200MPa以下がより好ましく、250MPa以上、3000MPa以下が最も好ましい。
本発明のカバー層は、上記のようにして作製したコアを被覆する中間層上に形成され、多層構造のゴルフボールを得ることができる。このカバー層の作製方法も、中間層と同様の方法を利用することができる。
また、カバー層を被覆してゴルフボール本体を作製する際には、通常、表面にディンプルと呼ばれるくぼみが形成される。さらに、ゴルフボール本体表面は、サンドブラスト処理のような研磨処理がなされてもよい。本発明のゴルフボールは、美観および商品価値を高めるために、通常ペイント仕上げ、マーキングスタンプ等を施すことも好ましい。
上記製法では、例えば、糸巻きゴルフボールの場合には、糸巻きコアを使用すればよい。
前記糸巻きコアは、センターとそのセンターの周囲に糸ゴムを延伸状態で巻き付けることによって形成した糸ゴム層とから成り、従来より公知のものを使用することができる。センターとしては液系(リキッドセンター)またはゴム系(ソリッドセンター)のいずれを用いてもよい。また、上記センター上に巻き付ける糸ゴムは、糸巻きゴルフボールの糸巻き層に従来から使用されているものと同様のものを使用することができ、例えば、天然ゴムまたは天然ゴムと合成ポリイソプレンに硫黄、加硫助剤、加硫促進剤、老化防止剤等を配合したゴム組成物を加硫することによって得られたものを用いてもよい。糸ゴムはセンター上に約10倍に引き伸ばして巻きつけて糸巻きコアを作製する。
上記のようにして作製される本発明の多層構造のゴルフボールは、直径が40mm以上、45mm以下、好ましくは42mm以上、44mm以下である。米国ゴルフ協会(USGA)の規格が満たされる範囲で空気抵抗が低減されるという観点から、直径は42.67mm以上、42.80mm以下が特に好ましい。また、このゴルフボールの質量は、40g以上、50g以下が好ましく、44g以上、47g以下がより好ましい。USGA規格が満たされる範囲で慣性が高められるという観点から、質量は45.00g以上、45.93g以下が特に好ましい。
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の変更、実施の態様は、いずれも本発明の範囲内に含まれる。なお、実施例中の各組成の使用量は、質量部を意味する。
[硬度]
各樹脂組成物の組成を有する厚さ2mmの熱プレス成形シートを23℃で2週間保存後、スプリング方式硬度計ショアD型を用い、ASTM−D2240に準拠して高分子計器(株)製自動ゴム硬度計P1型にて、3枚以上重ねて測定した。
[弾性率]
測定装置として、UBM社製の動的粘弾性スペクトロメータRheogel−E4000を使用し、各樹脂組成物の組成を有する幅4mm、長さ30mm、厚み0.5mmの試料片を用いた。測定は、変形部位の長さを20mmとし、初期荷重50g、振幅0.025%、周波数10Hzで、−100〜100℃までの温度分布測定(昇温速度2℃/min)を行い、−50℃における貯蔵弾性率(E’)を読み取り、引張弾性率とした。
また、上記測定装置を用い、上記とは別に幅4mm、長さ4mm、厚み0.5mmの試料片を作製し、厚み方向に初期荷重600g、振幅0.5%、周波数10Hzで、−100〜100℃までの温度分布測定(昇温速度2℃/min)を行い、−50℃における貯蔵弾性率(E’)を読み取り、圧縮弾性率とした。
なお、補強材の有無の違いによる圧縮方向の弾性率と引張方向の弾性率比((αB/βB)/(αA/βA))は、同一の樹脂組成のみからなる樹脂組成物との対比により求めた。
[飛行性能]
(1)打ち出し角度
ツルーテンパー社製のスイングロボットにメタルヘッド製のW#1ドライバーを取り付け、ヘッドスピード40m/secとして打撃し、打ち出し直後の打ち出し角度を測定した。測定は5回行って、平均を求めた。
(2)スピン量
ツルーテンパー社製のスイングロボットにメタルヘッド製のW#1ドライバーを取り付け、ヘッドスピード40m/secとして打撃し、打ち出し直後のバックスピン量を測定した。測定は5回行って、平均を求めた。
(3)飛距離
ツルーテンパー社製のスイングロボットにメタルヘッド製のW#1ドライバーを取り付け、ヘッドスピード40m/secとして打撃し、飛距離(m)を測定した。測定は5回行って、平均を求めた。
[打撃フィーリング]
ゴルファー10名により、メタルヘッド製のW#1ドライバーで実打撃を行なった時の各人の打撃時フィーリングを下記基準で評価し、10人の評価のうち、最も多い評価を、そのボールの打撃フィーリングとした。
○:衝撃が少なくて良い
△:普通
[ゴルフボールの作製]
(1)コアの作製
表1に示す配合のコア用ゴム組成物を混練し、半球状キャビティを有する上下金型内で170℃で15分間加熱プレスすることにより球状コアを得た。
ポリブタジエンゴム:JSR製のBR18(シス含量96%以上)
アクリル酸亜鉛:日本蒸留社製のZNDA−90S
酸化亜鉛:東邦亜鉛製の銀嶺R
硫酸バリウム:堺化学工業製の硫酸バリウムBMH
ジフェニルジスルフィド:住友精化製
ジクミルパーオキサイド:日本油脂製のパークミルD
(2)外層部用樹脂組成物の作製(ハーフシェルの作製)
表2に示した材料を、二軸混練型押出機を用いて混練し、中間層及びカバー層用の各樹脂組成物の組成を有するペレットを作製した。押出条件は、スクリュー径45mm、スクリュー回転数200rpm、スクリューL/D=35とし、配合物は、押出機のダイの位置で230℃にて加熱した。得られたペレットを用いて、所定厚みのハーフシェルを作製した。
(3)外層部の作製
得られた中間層用のハーフシェル2枚を貼りあわせて、前述のようにして得たコア上に130〜160℃で加熱加圧成形を行い、プレス成形を行って厚み1.2mmの中間層を形成した。
次に、この形成した中間層の上に、カバー層用のハーフシェルを用いて、140〜170℃で加熱加圧成形を行い、カバー層を形成した後、ペイントを施して、厚み1.4mmのカバー層を有するゴルフボールを作製した。
ハイミラン1605:三井・デュポンポリケミカル社製アイオノマー
ハイミラン1706:三井・デュポンポリケミカル社製アイオノマー
ハイミラン1555:三井・デュポンポリケミカル社製アイオノマー
ハイミラン1557:三井・デュポンポリケミカル社製アイオノマー
ラバロンT3339C:三菱化学社製熱可塑性スチレンエラストマー
Dellite67G:Laviosa社製ベントナイトクレー
Dellite43B:Laviosa社製ベントナイトクレー
DelliteHPS:Laviosa社製ベントナイトクレー
ホウ酸アルミニウムウィスカ:四国化成工業(株)製アルボレックスYS3A(アミノシラン表面処理タイプの繊維状補強材、繊維長さ:20μm、繊維径:1.0μm)
M1030D:ユニチカ社製ナノコンポジット(カチオン処理なし層状珪酸塩)
上記表2から明らかなように、本発明の樹脂組成物No.2〜4、8、10及び12は、いずれも硬度は樹脂単独の場合と同程度であり、層状珪酸塩を含有していても、硬度の増加が抑制されていることが分かる。また、圧縮方向と引張方向の弾性率のバランスを比較すると、樹脂単独のそれより引張方向での増加量が大きく、前記バランスの比が1.1を超え、異方性の高い中間層が得られることが分かる。特に、4級アンモニウム塩処理の層状珪酸塩を用いた、樹脂組成物No.2及び3では、前記比が1.3を超え、異方性の高い中間層が得られることが分かる。
これに対して、従来の補強材であるホウ酸アルミニウムウィスカを含有する樹脂組成物No.5は、圧縮方向、引張方向いずれも弾性率が高くなっているが、樹脂単独の場合と比べ、圧縮方向と引張方向の弾性率のバランスはそれほど変わらず、等方的に弾性率が増加するにすぎないことが分かる。
次に、上記の樹脂組成物を用いて作製したゴルフボールの評価を表3に示す。
表3に示すように、ゴルフボールNo.a〜eは、ゴルフボールの中間層にカチオン処理した層状珪酸塩を含有する樹脂組成物を用い、カバー層に高硬度の樹脂組成物を用いた例であり、中間層に同一の樹脂のみを用いたゴルフボールと比べ、打出角を高くでき、スピン量が低減され、飛距離が増大していることが分かる。また、その打球感も、高硬度・高剛性のカバー層を用いているが、樹脂単独の場合よりも改善されていることが分かる。従って、本発明により、飛距離と打球感の両者を同時に満足できるボールであることが分かる。
次に、ボールNo.dの中間層とカバー層の両方に層状珪酸塩を含有させたゴルフボールについて、その耐久性を評価した。耐久性は、市販のメタルヘッド製#1ドライバーをスイングロボットマシンに取付け、ヘッドスピード45m/秒に設定して各ボールを打撃し、ゴルフボールが壊れるまでの打撃回数を測定し、ボールNo.fを100として指数評価した。この結果、ボールNo.dの耐久性は、120であり、耐久性が良いという評価が得られた。
このボールNo.dは、カバー層にアイオノマーを用いるとともに、カバー層、中間層いずれにも層状珪酸塩を含有させているため、高硬度のカバー層を形成しても耐久性が改善できることが確認された。