JP4447106B2 - 防汚性に優れた成形品及びその製造方法 - Google Patents

防汚性に優れた成形品及びその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、防汚性に優れた成形品及びその製造方法に関するもので、より詳細には親水撥油性に優れたフッ素化合物を効率よく利用して、持続性及び耐久性に優れた防汚処理膜を形成した成形品及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
フルオロアルキル基を有する化合物で処理された固体表面は、表面エネルギーが低くなり、撥水性・撥油性・耐候性を示し、このフッ素化合物は、プラスチック・木材・繊維等の表面を改質する材料として用いられている(特開平5−117546号公報等)。
【0003】
しかしながら、撥水・撥油性であるために表面が一旦汚染されると汚れが落ちないという欠点をもっている。
更には、表面エネルギーが低いためにコーティングする基材との密着性が悪く、焼付け等の高温下での処理が必要であるために、樹脂や木材等の耐熱性が低い材料を基材として用いることは非常に困難であり、密着性についても未だ十分とはいえず、使用が限定されていた。
【0004】
これらを解決するために、親水・撥油性のあるフッ素系化合物の合成が開発されている(「表面」Vol 33 No.4(1995))。
【0005】
本出願人の出願にかかる特開平10−245419号公報には、フルオロアルキル基と官能基とを有するフッ素系化合物(A)を、フッ素系化合物が溶解可能である光重合性モノマー(B)に均一に溶解させた後、その他の光重合性モノマー(C)及び光重合性プレポリマー(D)から選ばれた少なくとも1種を混合して得られるフッ素系光硬化性樹脂組成物を基材表面に塗布し、光或いは放射線照射により硬化させることを特徴とする表面改質方法が記載されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記先行技術は、フッ素処理の一般的手段である高温下での焼き付けと異なる手段、即ち光或いは放射線照射で塗膜の硬化が行われるため、処理対象となる基材に耐熱性での制約を受けないという利点があるが、未だ次の問題点を有している。
即ち、親水撥油性を有するフッ素化合物が塗膜層中に混入されているため、分子構造内の親水基と撥油基とのフリップフロップ(flip−flop)機構による効果の発現が機能しづらくなり、本来の親水撥油性が十分に得られないという問題がある。
また、層構成上、表面に存在するフッ素化合物のみが親水撥油性に寄与するので、塗膜中に埋没したフッ素化合物は効果上無意味なものとなり、フッ素化合物の添加量に対応した機能を得ることが困難である。
【0007】
本発明は、上記従来技術の問題点を解消することを目的とするものであり、親水撥油性に優れたフッ素化合物を効率よく利用して、持続性及び耐久性に優れた防汚処理膜を形成した成形品及びその製造方法を提供するものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、成形品基材表面に施された光硬化性プライマーの層と、前記光硬化性プライマーの層の上に施された親水撥油性を有するフッ素化合物の層とから成り、フッ素化合物の層及び/または光硬化性プライマーの層には、フッ素化合物の親水基に対して反応性を有する基と光硬化性プライマーに対して反応性を有する基との両方を含む架橋剤が配合されており、光硬化性プライマーの層が硬化され且つフッ素化合物の層と光硬化性プライマーの層とがフッ素化合物の親水撥油性が損なわれない範囲で前記架橋剤との反応により結合されている防汚性に優れた成形品であって、前記フッ素化合物が、フルオロアルキル基及び/又はオキサフルオロアルキル基と、カルボキシル基からなる親水基とを有し、前記光硬化性プライマーと前記架橋剤とが、下記何れかの組み合わせからなることを特徴とする前記成型品が提供される。
a)光硬化性プライマーが、光重合性プレポリマーと光重合性モノマーとを含む組成物
であり、架橋剤が、エポキシ基含有エチレン性不飽和化合物、アミノ基含有エチレン
性不飽和化合物、または環状エーテル含有エチレン性不飽和化合物の何れかの不飽和
化合物である組み合わせ
b)光硬化性プライマーが、光重合性プレポリマーと光重合性モノマーとシランカップ
リング剤とを含む組成物であり、架橋剤が、エポキシ系シランカップリング剤または
アミン系シランカップリング剤である組み合わせ
上記本発明の防汚性成型品においては、
1.光硬化性プライマーの層が5乃至300μm、特に10乃至100μmの厚みを有すること、
2.フッ素化合物の層が単分子膜乃至それに近い薄膜の形で設けられていること
3.フッ素化合物が末端にフルオロアルキル基またはオキサフルオロアルキル基を有し且つ分子鎖中にカルボキシル基からなる親水基含有単量体の重合単位を含有するフッ素化合物であること、
が好ましい。
本発明によればまた、成形品基材表面に光硬化性プライマーの層を形成し、次いで前記光硬化性プライマーの層の上に親水撥油性を有するフッ素化合物の層を形成し、ここで前記フッ素化合物の層及び/または光硬化性プライマーの層には、フッ素化合物の親水基に対して反応性を有する基と光硬化性プライマーに対して反応性を有する基との両方を含む架橋剤を、フッ素化合物の親水撥油性が損なわれない範囲の量で予め含有させ、最後に成形品表面の層に活性エネルギーを照射することにより、前記架橋剤との反応により前記フッ素化合物の層と硬化した光硬化性プライマーの層が結合されている防汚性に優れた成形品の製造方法であって、前記フッ素化合物が、フルオロアルキル基及び/又はオキサフルオロアルキル基と、カルボキシル基からなる親水基とを有し、前記光硬化性プライマーと前記架橋剤とが、下記何れかの組み合わせからなることを特徴とする前記成型品の製造方法が提供される。
a)光硬化性プライマーが、光重合性プレポリマーと光重合性モノマーとを含む組成物
であり、架橋剤が、エポキシ基含有エチレン性不飽和化合物、アミノ基含有エチレン
性不飽和化合物、または環状エーテル含有エチレン性不飽和化合物の何れかの不飽和
化合物である組み合わせ
b)光硬化性プライマーが、光重合性プレポリマーと光重合性モノマーとシランカップ
リング剤とを含む組成物であり、架橋剤が、エポキシ系シランカップリング剤または
アミン系シランカップリング剤である組み合わせ
【0009】
【発明の実施の形態】
[作用]
本発明の成形体においても、光硬化性プライマーと親水撥油性を有するフッ素化合物とを、成形品表面の防汚処理に用いるが、これらを別個の層、即ち、成形品表面の光硬化性プライマーの層と、光硬化性プライマーの層の上の親水撥油性を有するフッ素化合物の層との2層構成に設けたことが第1の特徴である。
先ず、親水撥油性を有するフッ素化合物はその塗布が面倒なものであるが、本発明では、成形品基材表面に予め光硬化性プライマーの層を設けたことにより、このフッ素化合物の塗布が容易に行われるという利点がある。
また、光硬化性プライマーの層の上に上記フッ素化合物の層を設けるので、その塗布量も必要最低限の量、つまり単分子膜乃至それに近い膜厚に制御でき、経済的であるという利点が得られる。
【0010】
本発明の成形品は上記の2層構造を有するが、光硬化性プライマーの層が硬化され且つフッ素化合物の層と光硬化性プライマーの層とが化学的に結合されていることが第2の特徴である。勿論、これら両層間の化学結合は、フッ素化合物の親水撥油性を実質的に損なうものであってはならない。
このように、本発明の成形品では、親水撥油性を有するフッ素化合物が光硬化性プライマーに化学的に結合し、しかも光硬化性プライマーも硬化されているため、前記フッ素化合物は、洗浄や摩擦などの外的要因によって離脱することなく、成形品表面に確実に固定され、持続性及び耐久性のある防汚機能が発現される。
【0011】
本発明では、更に上記の特徴が組み合わされることにより、親水撥油性を有するフッ素化合物が表面に優先的に存在し、しかもその状態で固定されているため、フッ素化合物の分子構造中に含まれる親水基と撥油基とのフリップフロップ(flip−flop)機構が円滑に機能し、防汚機能の発現性を高めるという効果がある。
尚、親水基と撥油基とのフリップフロップ機構とは、油汚れに対してはフッ素化合物の撥油基が選択的に作用し、水分に対しては親水基が選択的に作用して、機能が切り替えにより行われることを意味する。尚、上記機構は、親水基に吸着されている水分による汚れ防止作用を疎外するものではない。
【0012】
本発明の防汚性成形品では、前記フッ素化合物の層と光硬化性プライマーの層とが、フッ素化合物の層及び/または光硬化性プライマーの層に含有された、フッ素化合物の親水基に対して反応性を有する官能基と、光硬化性プライマーに対して反応性を有する基との両方を含む架橋剤との反応により結合されていることが好ましい。
上記架橋剤をフッ素化合物の層及び/または光硬化性プライマーの層に含有させることにより、架橋剤の官能基とフッ素化合物の親水基との間で化学的結合を生じると共に、架橋剤と光硬化性プライマーとの間でも重合硬化などの反応が進行し、防汚処理表面層の固定が確実且つ容易に行われる。
【0013】
本発明における耐久性の防汚付与機構を具体的に説明すると次の通りとなる。
先ず、本発明に用いるフッ素化合物は、下記式(1)
【化1】
Figure 0004447106
式中、Rは撥油性に寄与するフルオロアルキル基またはオキサフルオロアルキル基であり、
は親水性に寄与する親水基である、
で表されるとおり、分子鎖の両末端に撥油基を有し、分子鎖中に親水基Rを有しており、これら両官能基のフリップフロップ(flip−flop)機構により親水撥油性が達成される。
【0014】
本発明では、フッ素化合物中に存在する多数の親水基Rの一部を利用し、これを架橋剤と反応させることにより、フッ素化合物の親水撥油性を損なうことなく、成形品基材への固定を行うものである。架橋剤は、既に指摘したとおり、フッ素化合物と光硬化性プライマーとの両方に対して反応性を有するものであり、具体的には架橋剤の官能基の一方がフッ素化合物の親水基との化学的結合、及び官能基の他方が光硬化性プライマーとの化学的結合に寄与し、両者を一体に固定化させるものである。
【0015】
より具体的な例として、親水基Rがカルボキシル基(−COOH)であり、架橋剤がグリシジルメタクリレートである場合を例にとって説明すると、フッ素化合物と架橋剤との反応が、下記式(2)
【化2】
Figure 0004447106
のとおり進行する。
この場合、架橋剤をあまりにも多い量で使用すると、上記式(2)の反応が必要以上に進行し、フッ素化合物の親水基の残存量が少なくなり、フッ素化合物による親水性機能が損なわれるので注意を必要とする。
【0016】
一方、前記式(2)で生成するフッ素化合物と架橋剤との反応生成物と、光硬化性プライマーとの反応は、下記式(3)
【化3】
Figure 0004447106
のとおり進行する。即ち、フッ素化合物と架橋剤との反応生成物は、重合性のメタクリレート基を有するので、光硬化性プライマー中のエチレン系不飽和基と反応して、重合硬化を生じるのである。
【0017】
本発明による防汚性成形品の製造工程を説明するための図1において、即ち準備工程▲1▼において、防汚処理すべき成形品基材1を準備する。次いで、光硬化性樹脂組成物塗布工程▲2▼において、光硬化性樹脂組成物2を調製し、これを基材1に塗布して、光硬化性樹脂組成物層20を形成させる。次いで、フッ素化合物塗布工程▲3▼において、親水撥油性を有するフッ素化合物の溶液3を調製し、光硬化性樹脂組成物層20の上に塗布し、フッ素化合物溶液層30を形成させる。更に、乾燥工程▲4▼において、フッ素化合物溶液層30を乾燥して、フッ素化合物の単分子膜乃至それに近い薄膜31を形成させる。
塗布工程▲3▼及び▲4▼においては、光重合性基とフッ素化合物の親水基に対して反応性を有する官能基とを含む単量体乃至プレポリマー(図示せず)を、光硬化性樹脂組成物20及び/またはフッ素化合物溶液30中に予め含有させておく。
最後に、硬化工程▲5▼において、活性エネルギーを照射して、光硬化性樹脂組成物層20を硬化膜21に硬化させると共に、フッ素化合物膜31を硬化膜に化学結合させる。
【0018】
本発明の製造方法によれば、成形品基材の表面に光硬化性樹脂組成物の層を形成させ、その上にフッ素化合物の溶液を塗布し、乾燥することにより、親水撥油性を有するフッ素化合物を単分子膜或いはそれに近い薄膜として、効率的に配列乃至配置させることができる。
また、光硬化性樹脂組成物及び/またはフッ素化合物に、フッ素化合物の親水基に対して反応性を有する官能基とプライマーに対して反応性を有する基との両方を含む架橋剤を予め含有させておくことにより、下地層となる光硬化性樹脂組成物の光硬化と下地層へのフッ素化合物層の固定とを同時に行うことができる。かくして、本発明によれば、持続性と耐久性とを有する防汚被膜を、任意の成形品基材、特に耐熱性に乏しい基材表面に、優れた作業性と生産性とをもって容易に形成できると共に、フッ素化合物による防汚機能を少ない使用量で有効に発現させることができる。
【0019】
[成形品基材]
本発明のフッ素系光硬化性樹脂組成物による表面改質が適用できる基材としては、種々のプラスチック、木材、繊維、金属等があるが、中でも、これまで使用が限定されてきた耐熱温度が比較的低いプラスチック、木材、繊維への応用が有効である。
【0020】
[光硬化性プライマー]
光硬化性プライマーとしては、それ自体公知の任意の光硬化性樹脂組成物、例えば光ラジカル重合性のものや、光カチオン重合性のものが使用される。
I.光ラジカル重合性プライマー:
この光ラジカル重合性プライマーは、塗装作業性と光硬化性との兼ね合いから、光重合性プレポリマーと光重合性モノマーとを含む組成物であることが好ましい。また、この光硬化性プライマーは、光重合開始剤や、その他の公知の各種添加剤を含有することができる。
更に、フッ素化合物の親水基に対して反応性を有する官能基と光硬化性プライマーに対して反応性を有する基の両方を含む架橋剤も、この光硬化性プライマー中に含有させることができる。
以下、これらの成分について説明する。
【0021】
(光重合性プレポリマー)
光重合性プレポリマーとしては、分子内に複数のエチレン系不飽和基を有するプレポリマー或いはそれらの混合物が使用される。その適当な例はエポキシアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ポリエステルアクリレート樹脂、熱硬化型ポリエステル樹脂等である。
【0022】
エポキシアクリレート樹脂としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂とエチレン系不飽和カルボン酸、例えばアクリル酸、メタアクリル酸との付加物、或いはこの付加物とエチレン系不飽和多価カルボン酸無水物、例えば無水マレイン酸、無水イタコン酸等との反応物等が使用される。
【0023】
ウレタンアクリレート樹脂としては、イソシアネート末端ポリエステル或いはイソシアネート末端ポリオールと官能基含有アクリル単量体、例えばアクリル酸、メタクリル酸、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等とを反応させて得られたウレタンアクリレート樹脂が使用される。
【0024】
熱硬化型ポリエステル樹脂としては、分子中にエチレン系不飽和結合を含むポリエステル、例えば、エチレン系不飽和多価カルボン酸、例えばマレイン酸、フマール酸、イタコン酸、テトラヒドロフタール酸等と、イソフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、アジピン酸、セバチン酸、重合脂肪酸等の他の酸成分との組み合わせと、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ビスフエノール類等の多価アルコールとを縮合させて得られるポリエステル樹脂が使用される。
【0025】
(光重合性モノマー)
光重合性モノマーとしては、多官能性乃至単官能性単量体、即ち1分子中に1個以上のエチレン系不飽和基を有する単量体、特に多官能性アクリル系単量体が単独或いは2種以上の組合せ、或いは単官能性単量体との組合せで好適に使用される。
【0026】
このような多官能性アクリル単量体としては、1,6 −ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)、1,6 −ヘキサンジオールジメタクリレート(HDDMA) 、ネオペンチルグリコールジアクリレート (NPGDA)、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート(EGDA)、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA) 、ポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGMA−4)、ポリエチレングリコールジアクリレート(PEGDA) 、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ブチレングリコールジアクリレート、ブチレングリコールジメタクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレート、1,4 −ブタンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA) 、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、N,N, N′,N′−テトラキス(β−ヒドロキシエチル)エチレンジアミンのアクリル酸エステル、2,2−ビス[4−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパン等が使用される。
【0027】
更に多官能性単量体の他の例としては、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート(DAP)、ジアリルイソフタレート、ジアリルアジペート、ジアリルグリコレート、ジアリルマレエート、ジアリルセバケート、トリアリルフオスフエート、トリアリルアコニテート、トリメリット酸アリルエステル、ピロメリット酸アリルエステル等の他の多官能性モノマーも使用しうる。
【0028】
光ラジカル開始剤としては、ベンゾイルギ酸メチル、ベンゾイルグリオキシル酸エチルなどのベンゾイルギ酸エステル類;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾイン及びそのアルキルエーテル類;アセトフェノン、2,2-ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−プロパン−1−オン等のアセトフェノン類;2−メチルアントラキノン、2−アミルアントラキノン等のアントラキノン類;2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン等のチオキサントン類;アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタール等のケタール類;ベンゾフェノン等のベンゾフェノン類またはキサントン類、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリ−メチルペンチルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド類等がある。
かかる光重合開始剤は、安息香酸系又は第三級アミン系など公知慣用の光重合促進剤の1種あるいは2種以上と組み合わせて用いることが出来る。
【0029】
(架橋剤)
本発明において、フッ素化合物の層及び/または光硬化性プライマーの層に含有させる架橋剤は、フッ素化合物の親水基に対して反応性を有する基と光硬化性プライマーに対して反応性を有する基との両方を含むものである。
光硬化性プライマーがラジカル重合性の樹脂組成物から成る場合、光硬化性プライマーに対して反応性の基は、一般にエチレン系の不飽和基であることが好ましく、一方フッ素化合物の親水基に対して反応性を有する基は、これに限定されないが、エポキシ基、アミノ基、環状エーテル基、水酸基などであることができる。
用いる架橋剤は、光硬化性プライマーの種類やフッ素化合物の種類に応じて、最適のものが選択使用される。
【0030】
エポキシ基含有エチレン性不飽和化合物としては、1分子中に重合可能な不飽和結合およびエポキシ基を少なくとも1個以上有するモノマーが用いられる。
このようなエポキシ基含有エチレン性不飽和化合物としては、たとえば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートなど、マレイン酸のモノおよびジグリシジルエステル、フマル酸のモノおよびジグリシジルエステル、クロトン酸のモノおよびジグリシジルエステル、テトラヒドロフタル酸のモノおよびジグリシジルエステル、イタコン酸のモノおよびジグリシジルエステル、ブテントリカルボン酸のモノおよびジグリシジルエステル、シトラコン酸のモノおよびジグリシジルエステル、エンド−シス−ビシクロ[2,2,1]ヘプト5−エン−2,3−ジカルボン酸(ナジック酸TM)のモノおよびジグリシジルエステル、エンド−シス−ビシクロ[2,2,1]ヘプト−5−エン−2−メチル−2,3−ジカルボン酸(メチルナジック酸TM)のモノおよびジグリシジルエステル、アリルコハク酸のモノおよびジグリシジルエステルなどのジカルボン酸モノおよびアルキルグリシジルエステル(モノグリシジルエステルの場合のアルキル基の炭素数1〜12)、p−スチレンカルボン酸のアルキルグリシジルエステル、アリルグリシジルエーテル、2−メチルアリルグリシジルエーテル、スチレン−p−グリシジルエーテル、3,4−エポキシ−1−ブテン、3,4−エポキシ−3−メチル−1−ブテン、3,4−エポキシ−1−ペンテン、3,4−エポキシ−3−メチル−1−ペンテン、5,6−エポキシ−1−ヘキセン、ビニルシクロヘキセンモノオキシドなどが挙げられる。
【0031】
アミノ基乃至アミド基含有エチレン性不飽和化合物としては、たとえば(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸プロピルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸アミノプロピル、メタクリル酸フェニルアミノエチル、メタクリル酸シクロヘキシルアミノエチルなどのアクリル酸またはメタクリル酸のアルキルエステル系誘導体類、N−ビニルジエチルアミン、N−アセチルビニルアミンなどのビニルアミン系誘導体類、アリルアミンなどのアリルアミン系誘導体、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、モルフォリンアクリレートなどのアクリルアミド系誘導体、p−アミノスチレンなどのアミノスチレン類、6−アミノヘキシルマレイン酸イミド、2−アミノエチルマレイン酸イミドなどのマレイミド類が挙げられる。
【0032】
環状エーテル基含有エチレン性不飽和化合物としては、テトラヒドロフリル(メタ)アクリレートなどがある。
【0033】
水酸基含有エチレン性不飽和化合物としては、たとえばヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシ−プロピル(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールモノ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンモノ(メタ)アクリレート、テトラメチロールエタンモノ(メタ)アクリレート、ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2−(6−ヒドロキシヘキサノイルオキシ)エチルアクリレートなどの(メタ)アクリル酸エステル、10−ウンデセン−1−オール、1−オクテン−3−オール、2−メタノールノルボルネン、ヒドロキシスチレン、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、α−メチロールアクリルアミド、2−(メタ)アクロイルオキシエチルアシッドフォスフェート、グリセリンモノアリルエーテル、アリルアルコール、アリロキシエタノール、2−ブテン−1,4−ジオール、グリセリンモノアリルアルコールなとが挙げられる。
【0034】
更に、架橋剤としては、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシランのようなエポキシ系シランカップリング剤、γ−アミノプロピルトリエトキシシランのようなアミン系シランカップリング剤、ビニルトリエトキシシランのようなビニル系シランカップリング剤を用いることも可能である。
【0035】
(光ラジカル重合性プライマー組成)
本発明に用いる光ラジカル重合性プライマーでは、光ラジカル重合性プレポリマーが5乃至95重量%、特に20乃至80重量%、光ラジカル重合性モノマーが5乃至95重量%、特に20乃至80重量%存在するのが望ましい。また、光重合開始剤は紫外線硬化性樹脂100 重量部に対して0.05〜10重量部、好ましくは1〜8重量部となる割合で用いるのが好ましい。
【0036】
II.光カチオン重合性プライマー組成物
本発明では、プライマーとして光カチオン重合性組成物を用いることもできる。光カチオン重合性樹脂組成物としては、光カチオン重合性モノマー、特に光硬化型エポキシ樹脂、光カチオン重合触媒、或いは更にプレポリマーを含有する樹脂組成物が使用される。
【0037】
(光硬化型エポキシ樹脂)
光硬化型エポキシ樹脂としては、分子内に脂環族基を有し且つ脂環基の隣接炭素原子がオキシラン環を形成しているエポキシ樹脂成分を含有するものであり、例えば分子内に少なくとも1個のエポキシシクロアルカン基、例えばエポキシシクロヘキサン環、エポキシシクロペンタン環等を有するエポキシ化合物等が単独或いは組み合わせで使用される。
【0038】
その適当な例は、これに限定されないが、ビニルシクロヘキセンジエポキシド、ビニルシクロヘキセンモノエポキシド、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサン・カーボキシレート、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル−5,5−スピロ−3,4−エポキシ)シクロヘキサン−m−ジオキサン、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)アジペート等である。
【0039】
(光カチオン重合触媒)
上記エポキシ樹脂と組み合わせで用いるカチオン性重合開始剤とは、紫外線によって分解し、ルイス酸を放出し、このルイス酸がエポキシ基を重合する作用を有するものであり、その例として、芳香族ヨードニウム塩、芳香族スルフォニウム塩、芳香族セレニウム塩、芳香族ジアゾニウム塩等が挙げられる。
【0040】
ジアリルヨードニウム塩としては、例えば、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、4−クロルフェニルヨードニウムテトラフルオロボレート、ジ(4−メトキシフェニル)ヨードニウムクロライド、(4−メトキシフェニル)フェニルヨードニウム等が挙げられる。
【0041】
トリアリールスルホニウム塩としては、例えば、トリフェニルスルホニウムテトラフルオロボレート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、p−(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−クロルフェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート等が挙げられる。
【0042】
トリアリールセレニウム塩としては、例えば、トリフェニルセレニウムヘキサフルオロホスフェート、トリフェニルセレニウムヘキサフルオロアンチモネート等が挙げられる。
【0043】
その他のカチオン重合開始剤として、(2,4−シクロペンタジェン−1−イル)[(1−メトキシチエチル)−ベンゼン]−アイロン−ヘキサフルオロホスフェート、ジフェニルスルホニウムヘキサフルロアンチモネート、ジアルキルフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジアルキルフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、4,4’−ビス[ジ(βヒドロキシエトキシ)フェニルスルフォニオ]フェニルスルフィド−ビス−ヘキサフルオロアンチモーネート、4,4-ビス[ジ(βヒドロキシエトキシ)フェニルスルフォニオ]フェニルスルフィド−ビス−ヘキサフルオロホスフェート等が挙げられる。
【0044】
(プレポリマー)
光硬化性エポキシ樹脂と組み合わせで使用されるプレポリマーとしては、通常のビスフェノール型エポキシ樹脂を挙げることができる。
ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、ビスフェノール類とエピクロールヒドリンとから誘導されたエポキシ樹脂が使用され、ここでビスフェノール類としては、
2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノ−ルA)、
2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン(ビスフェノールB)、
1,1’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、
ビス(4−,3−または2−ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノールF)、
4−ヒドロキシフェニルエーテル、
p−(4−ヒドロキシ)フェノール、
などが挙げられる。
他に、光ラジカル重合性樹脂組成物の項で述べたエポキシアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ポリエステルアクリレート樹脂、熱硬化型ポリエステル樹脂等もプレポリマーとして使用できる。
【0045】
(光カチオン重合性プライマー組成)
本発明に用いる光カチオン重合性プライマーでは、光重合性エポキシ樹脂が5乃至95重量%、特に20乃至80重量%、プレポリマーが5乃至95重量%、特に20乃至80重量%存在するのが望ましい。また、光カチオン重合開始剤は樹脂100 重量部に対して0.05〜10重量部、好ましくは1〜8重量部となる割合で用いるのが好ましい。
【0046】
(他の配合剤)
本発明の光硬化性プライマーに架橋剤を配合する場合には、架橋の対象となるフッ素化合物の親水撥油性が損なわれない範囲の量で配合する必要があり、この量はフッ素化合物の組成によって決定される。
【0047】
本発明の光重合性組成物において、その他の添加剤として、レベリング剤、消泡剤、着色剤、増粘剤等のそれ自体公知のものが使用できる。
【0048】
レベリング剤としては、各種シリコン類、特にポリアルキレンオキシ基を有するオルガノポリシロキサンが使用される。このものは、樹脂組成物100重量部当たり0〜5重量部、特に0.05〜2重量部の量で用いるのがよい。
【0049】
消泡剤としては、上記オルガノポリシロキサンの他に、各種界面活性剤が使用される。このものは、樹脂組成物100重量部当たり0〜5重量部、特に0.05〜2重量部の量で用いるのがよい。
【0050】
上記着色剤としては、次のものを単独或いは組み合わせで使用できる。
黒色顔料
カーボンブラック、アセチレンブラック、ランブラック、アニリンブラック。
黄色顔料
黄鉛、亜鉛黄、カドミウムイエロー、黄色酸化鉄、ミネラルファストイエロー、ニッケルチタンイエロー、ネーブルスイエロー、ナフトールイエローS、ハンザイエローG、ハンザイエロー10G、ベンジジンイエローG、ベンジジンイエローGR、キノリンイエローレーキ、パーマンネントイエローNCG、タートラジンレーキ。
橙色顔料
赤口黄鉛、モリブテンオレンジ、パーマネントオレンジGTR、ピラゾロンオレンジ、バルカンオレンジ、インダスレンブリリアントオレンジRK、ベンジジンオレンジG、インダスレンブリリアントオレンジGK。
赤色顔料
ベンガラ、カドミウムレッド、鉛丹、硫化水銀カドミウム、パーマネントレッド4R、リソールレッド、ピラゾロンレッド、ウオッチングレッドカルシウム塩、レーキレッドD、ブリリアントカーミン6B、エオシンレーキ、ローダミンレーキB、アリザリンレーキ、ブリリアントカーミン3B。
紫色顔料
マンガン紫、ファストバイオレットB、メチルバイオレットレーキ。
青色顔料
紺青、コバルトブルー、アルカリブルーレーキ、ビクトリアブルーレーキ、フタロシアニンブルー、無金属フタロシアニンブルー、フタロシアニンブルー部分塩素化物、ファーストスカイブルー、インダスレンブルーBC。
緑色顔料
クロムグリーン、酸化クロム、ピグメントグリーンB、マラカイトグリーンレーキ、ファナルイエローグリーンG。
白色顔料
亜鉛華、酸化チタン、アンチモン白、硫化亜鉛。
体質顔料
バライト粉、炭酸バリウム、クレー、シリカ、ホワイトカーボン、タルク、アルミナホワイト。
これらの顔料は、樹脂組成物100重量部当たり0〜10重量部、特に0〜5重量部の量で用いるのがよい。
【0051】
増粘剤としては、それ自体公知の無機或いは有機の増粘剤がそれ自体公知の処方で使用される。
【0052】
[フッ素化合物]
本発明で用いるフッ素系化合物は、親水撥油性を有するものであり、フルオロ炭化水素基、一般にフルオロアルキル基及び/またはオキサフルオロアルキル基と、親水基とを有するものである。
【0053】
フルオロ炭化水素基としては、炭素数1乃至18のフルオロアルキル基やオキサフルオロアルキル基が挙げられる。オキサフルオロアルキル基とは、フルオロアルキル基の中間にある炭素原子の一部が酸素原子に置き換わった基として定義される。このオキサフルオロアルキル基において、介在酸素原子は1個でも或いは2個以上でもよく、酸素原子の両側には2個以上の炭素原子が存在するのがよい。フルオロアルキル基中に、フッ素原子と水素原子とが共存することは勿論差し支えないが、一般には水素原子の全てがフッ素原子で置換されていること、即ち、ペルフルオロアルキル基或いはペルフルオロオキサアルキル基であることが好ましい。
【0054】
一方、親水基としては、ノニオン性、アニオン性、或いはカチオン性の親水基基が挙げられ、ノニオン性の基としては、水酸基(OH)、エーテル基(−O−)、カルボニル基(=CO)、カルボニルオキシ基(−COO−)、アミド基、シリル基、オルガノシロキサン単位等が挙げられ、また、アニオン性の基としては、カルボキシル基(−COOH)、スルホン酸基(−SOH)、ホスホン酸基(−POH)等が挙げられる。更に、カチオン性基としては、1級、2級或いは3級のアミノ基、或いは4級アンモニウム基等が挙げられる。これらの官能基は、フッ素系化合物の主鎖中に存在しても或いは側鎖中に存在してもよい。
これらの親水基の内でもカルボキシル基、水酸基が好ましいものである。
【0055】
フッ素系化合物の適当な例として、下記一般式(4)で示されるように、両末端にフルオロアルキル基及び/またはオキサフルオロアルキル基をもち、分子中に親水性官能基を側鎖に有しているものが挙げられる。
Figure 0004447106
式中、Rは、フルオロアルキル基及び/またはオキサフルオロアルキル基であり、
は親水性基であり、
は水素原子またはアルキル基であり、
は水素原子またはアルキル基であり、
は水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、アルコキシカルボニル基または基Rであり、
x及びyはx/y=0/100〜100/0となる数である。
基RとRとは互いに同一であっても、異なっていてもよい。
【0056】
上記式(4)の化合物についてより詳細に説明すると、基R は、ペルフルオロアルキル基、ペルフルオロオキサアルキル基等の撥油性をもたせた主鎖であって、具体的には
−(CF)n CF(n=0〜11)
−[OCFCF(CF)]m OC(m=0〜5)
等が挙げられる。
【0057】
は、親水基でありしかも架橋剤に対して反応性をもたせた官能基である。より具体的に説明すると、例えば COOH、OH、SOH、COCHSO H、CO(CHSOHなどである。
これらの基の内では、COOHが特に好ましい。
【0058】
基Rは水素原子またはアルキル基、特に炭素数4以下のアルキル基、最も好適には水素原子である。
基Rは水素原子またはアルキル基、特に炭素数4以下のアルキル基、最も好適にはメチル基である。
【0059】
基Rは、親水性官能基R、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、アルコキシアルキル基等である。より具体的には
例えば COOH,OH,COCH ,COOCH
H,CH,CH (CH)i CH i=0〜5
等である。
【0060】
上記のフッ素化合物、即ちオリゴマーは、式(5)
Figure 0004447106
で表される含フッ素過酸化物の存在下、式(6)
Figure 0004447106
で表される単量体と、式(7)
Figure 0004447106
で表される単量体を重合させることにより得られる。
【0061】
フッ素化合物中に架橋剤を含有させる場合には、その量は、フッ素化合物の組成によって決定する。
フッ素化合物との架橋は、この化合物中に多数存在する親水基R を利用するため、架橋剤を含有させる量の範囲は、「親水基R 1個と架橋する量」乃至「親水基R の(最大個数−1)個と架橋する量」となり、具体的な数量はモル計算により算出することが可能である。
ここで、架橋点が少ないと親水性の発現には優れるが、固定化の度合いが低くなり、一方、架橋点が多いと固定化の度合いは高いが、親水性の発現が劣ることから、両者の兼ね合いから適切な量を見出すことができる。
フッ素化合物中に含有させる架橋剤としては、既にプライマーの項で説明した架橋剤から適当なものを選択して、使用される。
【0062】
[防汚処理]
本発明による防汚処理は、既に説明した操作により行われる。
即ち、成形品基材の処理すべき表面に光硬化性プライマーを塗布する。この塗布には、公知の塗装方法、例えば、スプレー塗り、ロールコート、フローコート、バーコート、ディップコート等を用いることができる。
光硬化性プライマーの塗布厚みは、一般に5乃至500μm、特に10乃至300μmの範囲にあることが、防汚処理層の耐久性や経済性の点で好ましい。
【0063】
ついで、形成された光硬化性プライマー層上にフッ素化合物を薄膜に施す。
フッ素化合物の薄膜の形成には、フッ素化合物或いは更に架橋剤を含有する希釈溶液を用いる。
フッ素系化合物の溶剤としては、通常使用されている溶剤を用いることができ、例えば、水、各種アルコール、ケトン、エーテル、アミド、芳香族ハイドロカーボン等が使用できる。これらのうちでも、下地となるプライマー層への影響が少ないように、溶解力の小さい溶媒、例えばイソプロパノールのようなアルコール系溶媒の使用が望ましい。
一般に、溶液中のフッ素化合物などの濃度、即ち固形分濃度は0.01乃至10重量%、特に0.05乃至8重量%程度であることが望ましい。
【0064】
このフッ素化合物の溶液には、フッ素化合物と架橋剤との反応を促進させるための触媒量の酸触媒や、例えば尿素のような塩基性窒素化合物を添加することができる。例えば、フッ素化合物の溶液に尿素を添加することにより、架橋剤とフッ素化合物との反応による親水性低下をかなり抑制できることがわかった。
これは、添加された尿素類が、架橋剤とフッ素化合物との結合部位がフッ素化合物の親水基との間に水素結合を生成するのを抑制していると考えられる。
この塩基性窒素化合物の量は、架橋剤の添加量に相応させて添加するのが好ましく、具体的には架橋剤とフッ素化合物の反応によって生じた結合部位に作用するための量をモル計算によって算出する。
【0065】
本発明において、フッ素化合物とその溶液に添加された架橋剤との間にあらかじめ反応を行わせておくこともできるし、またこの反応は溶液中の溶媒の乾燥の際行わせることもできる。
反応条件は特に制限されないが、一般に20乃至100℃の温度で0乃至5分間程度反応を行わせることが好ましい。
【0066】
本発明の防汚性成形品では、形成されるフッ素化合物の層が単分子層のようなきわめて薄い層であっても、耐久性のある防汚効果を発現させることができる。フッ素化合物の塗工量は、組成により異なるため一概にいえないが、面積基準の重量で、一般に0.5乃至300mg/dmの範囲にあることが好ましい。フッ素樹脂層の形成は、溶液を滴下することによる塗布手段や、前述したコーティング手段により行うことができる。
【0067】
フッ素化合物の溶液を施した後、有機溶媒を乾燥除去する。乾燥は、熱風吹き付け下に常圧下に行うこともできるし、また減圧乾燥により行うこともできる。
【0068】
塗装後の成形品の処理層を活性エネルギーを照射して硬化させる。活性光線としては、紫外線、特に波長200乃至450nmの光線が使用される。光源としては、低圧・中圧または高圧水銀灯、紫外線蛍光灯、キセノンランプ、メタルハライドランプ等を用いることができる。あるいは、電子線を照射することによって塗膜を硬化させ、改質層を得ることもできる。
【0069】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。尚、例中の各成分の数値は重量部を示す。
【0070】
以下の例で用いた材料を次の略字(アルファベット)で示す。
・基材
・プライマー
光重合性プレポリマー(A)
光重合性モノマー(B)
架橋剤(C)
重合開始剤(D)
その他添加剤等(E)
・フッ素化合物液
フルオロアルキル基と親水性官能基を有するフッ素化合物(F)
同フッ素化合物を溶解可能な溶媒 (G)
架橋剤 (C)
触媒 (H)
その他添加剤等 (I)
【0071】
[実施例1]
(1)基材の選定……硬質塩化ビニル板「塩ビ板」とする。
(2)プライマーの調製
Figure 0004447106
上記組成比の混合撹拌により得られたプライマーを「P1」とする。
【0072】
(3)フッ素化合物液の調製
Figure 0004447106
上記組成比で60℃×1minの加熱撹拌工程を経て、(F)と(C)の一体化反応が完了して得られたフッ素液を「F1」とする。
*1 CFOCFCF-(CH-CHCOOH)73-(CH-C(CH)COOCH)27-CFCFOCF
Mn=1830,Mw=2240
【0073】
(4)塗布工程
・「塩ビ板」上に「P1」をバーコートし、約10μmの未硬化塗膜を形成する。
・その上へ「F1」を薄膜状になるよう滴下塗布する。
・温風100℃×3minにて(G)イソプロピルアルコールを蒸発させ、(F)と(C)の一体化合物を「P1」上に析出させる。
・最後に、照射距離120mm,高圧水銀灯80Wの条件下、2秒間の照射にて目的の防汚性処理成形品「実施例 No.1」を得る。
【0074】
[実施例2]
(1)基材の選定………実施例1と同様「塩ビ板」とする。
(2)プライマーの調製……実施例1と同様「P1」とする。
【0075】
(3)フッ素化合物液の調製
Figure 0004447106
上記組成比で60℃×1minの加熱撹拌工程を経て、(F)と(C)の一体化反応が完了して得られたフッ素液を「F2」とする。
*2 CFOCFCF-(CH-CHCOOH)100-CFCFOCF
Mn=5000,
ここで(I)尿素の添加は、(F)と(C)の一体化反応による結合部分と残留親水性基との間に生じる水素結合を防止し、親水機能の発現性低下を防ぐことを目的とする。
【0076】
(4)塗布工程
フッ素液に「F2」を使用する以外は実施例1と同様とし、目的の防汚性処理成形品「実施例 No.2」を得る。
【0077】
[実施例3]
(1)基材の選定……透明アクリル板「アクリル板」とする。
(2)プライマーの調製
実施例1において、重合開始剤(D)メチルベンゾイルホルメート5重量部を添加しない以外は同様とし、プライマー「P2」とする。
【0078】
(3)フッ素化合物液の調製
Figure 0004447106
上記組成比で60℃×3minの加熱撹拌工程を経て、(F)と(C)の一体化反応が完了して得られたフッ素液を「F3」とする。
【0079】
(4)塗布工程
・「アクリル板」上に「P2」をバーコートし、約10μmの未硬化塗膜を形成する。
・その上へ「F3」を薄膜状に滴下塗布する。
・温風100℃×3minにて(G)イソプロピルアルコールを蒸発させ、(F)と(C)の一体化合物を「P2」上に析出させる。
・最後に、電子線エネルギー100keVの条件下、0.2秒間の照射にて目的の防汚性処理成形品「実施例 No3」を得る。
【0080】
[実施例4]
(l)基材の選定……実施例1と同様「塩ビ板」とする。
(2)プライマーの調製
Figure 0004447106
上記組成比の混合撹拌により得られたプライマーを「P3」とする。
【0081】
(3)フッ素化合物液の調製
Figure 0004447106
上記組成比の混合撹拌により得られたフッ素液を「F4」とする。
【0082】
(4)塗布工程
プライマーに「P3」、フッ素液に「F4」を使用する以外は実施例1と同様とし目的の防汚性処理成形品「実施例 No.4」を得る。
ここで架橋剤(C)としての「N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド」に代表されるアミノ系化合物は、(F)フッ素化合物との反応性に非常に富むため、プライマーへの添加のほうが好ましく、反応が穏やかに進行する。
【0083】
[実施例5]
(1)基材の選定……実施例1と同様「塩ビ板」とする。
(2)プライマーの調製
Figure 0004447106
上記組成比の混合撹拌により得られたプライマーを「P4」とする。
【0084】
(3)フッ素化合物液の調製
Figure 0004447106
上記組成比で60℃×1minの加熱撹拌工程を経て、(F)と(C)の一体化反応が完了して得られたフッ素液を「F5」とする。
【0085】
(4)塗布工程
プライマーに「P4」、フッ素液に「F5」を使用する以外は実施例1と同様とし、目的の防汚性処理成形品「実施例 No.5」を得る。
ここで架橋剤(C)と(C)’との間で、シランカップリング剤特有のシロキサン結合が生じて、(F)フッ素化合物の固定化が成される。
【0086】
[比較例1(特開平10−245419号公報の方法による)]
(1)基材の選定……実施例1と同様「塩ビ板」とする。
(2)フッ素化合物含有光硬化性樹脂組成物の調製
Figure 0004447106
上記組成比の混合撹拌により得られた組成物を「F6」とする。
【0087】
(3)塗布工程
・「塩ビ板」上に「F6」を約20μmの膜厚でバーコートする。
・照射距離 120mm、高圧水銀灯80wの条件下、2秒間の照射にて目的の試料「比較例 No.1」を得る。
【0088】
[比較例2(架橋剤(C)が無添加の場合)]
(1)基材の選定………実施例1と同様「塩ビ板」とする。
(2)プライマーの調製 ……実施例1と同様 「P1」とする。
(3)フッ素化合物液の調製
実施例1において、架橋剤(C)グリシジルメタクリレート2.5重量部を添加しない以外は同様とし、得られたフッ素液を「F7」とする。
(4)塗布工程
フッ素液に「F7」を使用する以外は実施例1と同様とし、目的の試料「比較例 No.2」を得る。
【0089】
[比較例3(架橋剤(C)を過剰添加の場合)]
(1)基材の選定……実施例1と同様「塩ビ板」とする。
(2)プライマーの調製……実施例1と同様 「P1」とする。
(3)フッ素化合物液の調製
実施例1において、反応対象物(C)グリシジルメタクリレート2.5重量部を10.0重量部に変更する以外は同様とし、得られたフッ素液を「F8」とする。
(4)塗布工程
フッ素液に「F8」を使用する以外は実施例1と同様とし、目的の試料「比較例 No.3」を得る。
【0090】
[比較例4(架橋剤(C)としてアミノ系化合物をフッ素液に添加した場合)]
(1)基材の選定………実施例1と同様「塩ビ板」とする。
(2)プライマーの調製……実施例1と同様「P1」とする。
(3)フッ素液の調製
Figure 0004447106
上記組成比で60℃×3minの加熱撹拌工程を経てたところ、(F)と(C)の過剰反応が生じ、それに伴い化合物が溶媒(G)より析出してしまい、以降の試料作製工程が実施できなくなった。
【0091】
[試験データ、比較データ]
〔方法〕
各試料に対し、
(1)初期状態(試料作製直後)
(2)湿度処埋後(40℃×95%RH下で3カ月間放置)
(3)水洗処埋後(流水下に6時間放置)
の条件に基づき、下記の試験方法により評価を行った。
▲1▼ 外観
目視によりクラック・硬化不良等の有無を確認
(評価基準 ○:異常なし、×:異常あり)
▲2▼ 密着性
JIS K5400(碁盤目剥離試験)
(評価基準 ○:剥離なし、×:剥離あり)
▲3▼ 親水撥油性
各試料の表面に試薬を滴下後、3分経過時の接触角(゜)を測定して評価
測定機器:協和界面科学(株)製CA−D
(評価基準 親水性:水→接触角(°)が低い程親水性あり)
( 撥油性:ドデカン→接触角(°)が高い程撥油性あり)
【0092】
〔結 果〕
得られた結果を下記表1に示す。
【表1】
Figure 0004447106
【0093】
【発明の効果】
本発明によれば、成形品基材表面に施された光硬化性プライマーの層と、前記光硬化性プライマーの層の上に施された親水撥油性を有するフッ素化合物の層とから構成し、光硬化性プライマーの層を硬化し且つフッ素化合物の層と光硬化性プライマーの層とをフッ素化合物の親水撥油性が損なわれない範囲で化学的に結合したことにより、親水撥油性に優れたフッ素化合物を効率よく利用して、持続性及び耐久性に優れた防汚処理膜を形成した成形品及びその製造方法を提供することができる。
先ず、親水撥油性を有するフッ素化合物はその塗布が面倒なものであるが、本発明では、成形品基材表面に予め光硬化性プライマーの層を設けたことにより、このフッ素化合物の塗布が容易に行われるという利点がある。
また、光硬化性プライマーの層の上に上記フッ素化合物の層を設けるので、その塗布量も必要最低限の量、つまり単分子膜乃至それに近い膜厚に制御でき、経済的であるという利点が得られる。
本発明の成形品では、親水撥油性を有するフッ素化合物が光硬化性プライマーに化学的に結合し、しかも光硬化性プライマーも硬化されているため、前記フッ素化合物は、洗浄や摩擦などの外的要因によって離脱することなく、成形品表面に確実に固定され、持続性及び耐久性のある防汚機能が発現される。
本発明では、更に上記の特徴が組み合わされることにより、親水撥油性を有するフッ素化合物が表面に優先的に存在し、しかもその状態で固定されているため、フッ素化合物の分子構造中に含まれる親水基と撥油基とのフリップフロップ(flip−flop)機構が円滑に機能し、防汚機能の発現性を高めるという効果がある。
本発明の防汚性成形品では、前記フッ素化合物の層と光硬化性プライマーの層とが、フッ素化合物の層及び/または光硬化性プライマーの層に含有された、フッ素化合物の親水基に対して反応性を有する官能基と、光硬化性プライマーに対して反応性を有する基との両方を含む架橋剤との反応により結合されていることが好ましい。
上記架橋剤をフッ素化合物の層及び/または光硬化性プライマーの層に含有させることにより、架橋剤の官能基とフッ素化合物の親水基との間で化学的結合を生じると共に、架橋剤と光硬化性プライマーとの間でも重合硬化などの反応が進行し、防汚処理表面層の固定が確実且つ容易に行われる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の防汚処理成形品の製造工程を説明するための説明図である。

Claims (3)

  1. 成形品基材表面に施された光硬化性プライマーの層と、前記光硬化性プライマーの層の上に施された親水撥油性を有するフッ素化合物の層とから成り、該フッ素化合物の層及び/または光硬化性プライマーの層には、フッ素化合物の親水基に対して反応性を有する基と光硬化性プライマーに対して反応性を有する基との両方を含む架橋剤が配合されており、光硬化性プライマーの層が硬化され且つフッ素化合物の層と光硬化性プライマーの層とがフッ素化合物の親水撥油性が損なわれない範囲で前記架橋剤との反応により結合されている防汚性に優れた成形品であって、前記フッ素化合物が、フルオロアルキル基及び/又はオキサフルオロアルキル基と、カルボキシル基からなる親水基とを有し、前記光硬化性プライマーと前記架橋剤とが、下記何れかの組み合わせからなることを特徴とする前記成型品。
    a)光硬化性プライマーが、光重合性プレポリマーと光重合性モノマーとを含む組成物
    であり、架橋剤が、エポキシ基含有エチレン性不飽和化合物、アミノ基含有エチレン
    性不飽和化合物、または環状エーテル含有エチレン性不飽和化合物の何れかの不飽和
    化合物である組み合わせ
    b)光硬化性プライマーが、光重合性プレポリマーと光重合性モノマーとシランカップ
    リング剤とを含む組成物であり、架橋剤が、エポキシ系シランカップリング剤または
    アミン系シランカップリング剤である組み合わせ
  2. フッ素化合物が末端にフルオロアルキル基またはオキサフルオロアルキル基を有し且つ分子鎖中にカルボキシル基からなる親水基含有単量体の重合単位を含有するフッ素化合物であることを特徴とする請求項1に記載の成形品。
  3. 成形品基材表面に光硬化性プライマーの層を形成し、次いで前記光硬化性プライマーの層の上に親水撥油性を有するフッ素化合物の層を形成し、ここで前記フッ素化合物の層及び/または光硬化性プライマーの層には、フッ素化合物の親水基に対して反応性を有する基と光硬化性プライマーに対して反応性を有する基との両方を含む架橋剤を、フッ素化合物の親水撥油性が損なわれない範囲の量で予め含有させ、最後に成形品表面の層に活性エネルギーを照射することにより、前記架橋剤との反応により前記フッ素化合物の層と硬化した光硬化性プライマーの層が結合されている防汚性に優れた成形品の製造方法であって、
    前記フッ素化合物が、フルオロアルキル基及び/又はオキサフルオロアルキル基と、カルボキシル基からなる親水基とを有し、前記光硬化性プライマーと前記架橋剤とが、下記何れかの組み合わせからなることを特徴とする前記成型品の製造方法。
    a)光硬化性プライマーが、光重合性プレポリマーと光重合性モノマーとを含む組成物
    であり、架橋剤が、エポキシ基含有エチレン性不飽和化合物、アミノ基含有エチレン
    性不飽和化合物、または環状エーテル含有エチレン性不飽和化合物の何れかの不飽和
    化合物である組み合わせ
    b)光硬化性プライマーが、光重合性プレポリマーと光重合性モノマーとシランカップ
    リング剤とを含む組成物であり、架橋剤が、エポキシ系シランカップリング剤または
    アミン系シランカップリング剤である組み合わせ
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