JP4436961B2 - 蛋白質加水分解物の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、着色、好ましくない風味等及びその原因物質が除去された蛋白質加水分解物の製造方法に関する。
詳しくは、本発明は、蛋白質原料を蛋白質分解酵素で分解し、酵素を加熱失活し、濾過処理し、65乃至90℃で加温処理し、のち活性炭処理及び限外濾過処理を行うことを特徴とする蛋白質加水分解物の製造方法に関する。
本明細書において百分率は、特に断りのない限り重量による表示である。
【0002】
【従来の技術】
従来、蛋白質加水分解物の脱色、脱臭等のために、食品工業、化学工業において広く脱色、脱臭等の処理に用いられている活性炭[柳井 弘著、「活性炭読本」、第162頁、第166頁、日刊工業新聞社、昭和51年4月20日]等の吸着剤を利用した処理が一般的に行われていた(以下、従来技術1と記載する。)。
【0003】
また、蛋白質原料を蛋白質分解酵素で分解し、酵素を加熱失活し、限外濾過処理することを特徴とする風味良好な乳清蛋白加水分解物の製造法(特許第2959747号公報。以下、従来技術2と記載する。)が知られている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
前記従来の技術に開示されているとおり、着色、好ましくない風味等が除去された蛋白質加水分解物の製造のために、活性炭処理又は限外濾過処理をそれぞれ単独で行うことが知られていた。
【0005】
しかしながら、前記従来技術の製造方法で得られる蛋白質加水分解物は、未だに、着色、好ましくない風味等及びその原因物質の除去が不十分であって、後記する試験例からも明らかなとおり、加熱による着色及び好ましくない風味の発生があるという問題点があった。
【0006】
本発明者らは、前記従来技術に鑑みて、加熱による着色及び好ましくない風味の発生が抑制された蛋白質加水分解物の製造方法を提供することを目的として、後記する試験例に一部記載するとおり、種々の工程の組み合わせ、着色、好ましくない風味等及びその原因物質の除去条件について試験した。
【0007】
その結果、本発明者らは、活性炭処理及び限外濾過処理と、その他の加温処理等を組み合わせた、蛋白質原料を蛋白質分解酵素で分解し、酵素を加熱失活し、濾過処理し、65乃至90℃で加温処理し、のち活性炭処理及び限外濾過処理を行うことを特徴とする蛋白質加水分解物の製造方法が、前記の問題点を解決し、着色、好ましくない風味等及びその原因物質である色素、多糖類、酵素等の高分子物質が除去され、加熱による着色及び好ましくない風味の発生が抑制された蛋白質加水分解物の製造方法を提供できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明の目的は、着色、好ましくない風味等及びその原因物質が除去され、加熱による着色及び好ましくない風味の発生を抑制された蛋白質加水分解物が得られる新規な蛋白質加水分解物の製造方法を提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決する本発明は、蛋白質原料であるカゼイン又は乳清蛋白質を蛋白質分解酵素で分解し、酵素を加熱失活し、濾過処理し、65乃至90℃で加温処理し、のち活性炭処理及び、分画分子量2000乃至6000の限外濾過膜を使用し、透過画分を回収することにより限外濾過処理を行うことを特徴とする蛋白質加水分解物の製造方法であり、活性炭処理の後に限外濾過処理を行うこと(以下、態様1と記載する。)、活性炭処理を薬品賦活した活性炭を使用し、非吸着画分を回収することにより行うこと(以下、態様2と記載する。)を望ましい態様としてもいる。
【0010】
【発明の実施の形態】
次に、本発明について具体的に説明する。
本発明の方法に使用される蛋白質原料は、獣乳、卵、魚肉、畜肉等に由来する動物性蛋白質、大豆、小麦等に由来する植物性蛋白質、カビ、酵母、細菌等に由来する微生物蛋白質、又はこれらの任意の混合物であり、特に限定されるものではない。また、これらの蛋白質を、限外濾過、イオン交換樹脂等の処理により濃縮した蛋白質濃宿物も使用できる。更に、前記蛋白質を予め軽度に加水分解した分解物であって、比較的大きな分子量を有する蛋白質加水分解物を出発原料とすることもできる。
【0011】
この蛋白質原料を水又は温湯に分散し、溶解する。該溶解液の濃度は格別の制限はないが、通常、5〜15%程度の蛋白質濃度とすることが効率性及び操作性の点から望ましい。
次いで、前記蛋白質溶液を65乃至90℃で10秒乃至30分間程度加熱殺菌することが、雑菌の汚染による腐敗防止の点から望ましい。
【0012】
本発明の蛋白質原料の蛋白質分解酵素による分解処理は、所望の蛋白質分解率に調製できる酵素の種類、量、温度、pH、加水分解時間等の蛋白質分解酵素法による加水分解条件を予備実験で設定し、のち蛋白質加水分解物を調製することにより行うことができる。
【0013】
本発明の方法に使用される蛋白質分解酵素は、動物由来(例えば、パンクレアチン、トリプシン、キモトリプシン、ペプシン等)、植物由来(例えば、パパイン、ブロメライン等)、微生物由来(例えば、乳酸菌、酵母、カビ、枯草菌、放線菌等)のエンドプロテアーゼ及びエキソプロテアーゼ(ペプチダーゼ)、これらの粗精製物、菌体破砕物等を例示することができる。
【0014】
前記原料に対する蛋白質分解酵素の使用量は、基質濃度、酵素力価、反応温度及び反応時間により異なるが、一般的には、原料に含有されている蛋白質1g当り50〜10000活性単位の割合で酵素を単独、又は複数組み合わせて添加することにより加水分解が行われる。尚、酵素の添加は、一括、又は少量若しくは種類毎に分割し、逐次添加することもできる。
【0015】
また、蛋白質加水分解反応のpHは、使用酵素の至適pHに対応して、pH2〜10の範囲内で酸又はアルカリ剤の添加により所望のpHに調整することにより実施される。この場合、酸としては塩酸、クエン酸、リン酸等を、また、アルカリ剤としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、リン酸カリウム等をそれぞれ例示することができる。
【0016】
蛋白質加水分解反応の温度は、格別の制限はなく、酵素作用の発現する最適温度範囲を含む実用に供せられ得る範囲、即ち、通常30〜70℃の範囲から選択される。温度を酵素の至適温度より低温又は高温、例えば50〜60℃の範囲に維持することにより蛋白質加水分解中の腐敗を防止することもできる。
【0017】
蛋白質加水分解反応の時間は、使用酵素の種類及び組合せ、反応温度、初発pH等の反応条件によって進行状態が異なることから、前記のとおり、予備実験で設定された所望の蛋白質分解率となる範囲で、反応継続時間を決定する必要がある。
【0018】
本発明の酵素の加熱失活は、予備実験で設定された加水分解条件に基づいて加水分解の程度が、所望の蛋白質分解率となった時点で、酵素を失活し、酵素反応を停止するために行う。失活操作は加熱処理(例えば、85℃で10分間等)により行うことができる。
【0019】
本発明の濾過処理は、分解液中の酵素の失活後、ケイソウ土(例えば、セライト等)、精密濾過(マイクロフィルトレーション)、限外濾過等の操作により行うことができ、この処理により分解液から沈殿を除去する。
【0020】
本発明の加温処理は、加温温度を、後記する試験例からも明らかなとおり、65乃至90℃の範囲内で行うことが、最終生産物である蛋白質加水分解物から、着色、好ましくない風味等及びその原因物質を除去し、加熱による着色及び好ましくない風味の発生を抑制するために必要である。加温時間は、通常5分間乃至1時間の範囲で行う。また加温処理の後、液量の低減すること、又は着色、好ましくない風味及びその原因物質を濃縮し、吸着処理を効率化することを目的として、加温処理液を蒸発、逆浸透、ナノフィルトレーション等の処理により濃縮することもできる。
【0021】
本発明の方法に使用される活性炭は、食品衛生法上に規定され、該当の着色、好ましくない風味等及びその原因物質を吸着、除去できるものであれば、粉末炭、破砕炭、粒状炭、セルロース繊維等に活性炭が結合された複合品等、如何なるものであってもよく、例えば市販の製品として、白鷺M、白鷺P、カルボラフィン、強力白鷺、粒状白鷺KL、及び粒状白鷺LH(いずれも武田薬品工業社製)、SD、BA、ZN、CL―K、CL―H、及びGSーA (いずれも味の素ファインテクノ社製)、ダイアホープS80B(三菱化学社製)、GLC(クラレ社製)、エコソーブS―405、S−407、S−410、及びS―415(いずれも米国グレイバーケミカル社製)等を例示することができる。
【0022】
活性炭処理は、使用する活性炭の種類に応じて、粉末炭を使用する場合にはバッチ処理、破砕炭や粒状炭を使用する場合にはカラム通液処理、セルロース繊維等に活性炭が結合された複合品を使用する場合にはフィルタープレス等の濾過機を使用した吸着濾過処理が、それぞれ通常採用される。
【0023】
粉末炭を使用する場合には、溶液中の固形分量に対して1乃至5%の活性炭を添加し、1乃至24時間の吸着処理を行なった後、濾過処理により添加した活性炭を除去し、非吸着画分を回収する。処理温度と処理時間は適宜設定できるが、5時間以上の吸着処理を行なう場合には細菌増殖を防止するため、10℃以下の温度とすることが望ましい。また、活性炭の添加量が1%未満の場合には着色、好ましくない風味等及びその原因物質の低減が十分ではなく、5%超過の場合には、コストが上昇するとともに残渣の増加により濾過処理が非効率的になるため、それぞれ望ましくない。
【0024】
破砕炭や粒状炭を使用する場合には、粉末炭と同様のバッチ処理、あるいは活性炭をカラムに一定量充填し、このカラムに一定量の溶液を通液し、非吸着画分を回収するカラム通液処理を行なう。カラム通液処理の場合、溶液と活性炭とが接触する時間は空間速度(Space Volume、以下SVと記載する。吸着剤一体積に対して同体積の溶液が1時間で通過する速度がSV=1(/h)である)としてSV=0.5〜10/hの範囲、望ましくは1〜5/hの範囲が望ましい。SVが0.5未満では着色、好ましくない風味及びその原因物質の低減は十分ではあるが生産効率が悪く、SVが10を超過と着色、好ましくない風味等及びその原因物質の低減が不十分となるため、それぞれ望ましくない。処理温度や処理液量は着色、好ましくない風味及びその原因物質の低減が十分となる範囲で適宜設定できるが、通液に5時間以上を要する場合には、細菌増殖を防止するため、10℃以下の温度とすることが望ましい。
【0025】
セルロース繊維等に活性炭が結合された複合品を使用する場合には、液量に対して1〜5%の複合品をバッチ式で添加し、次いでフィルタープレス等の濾過機器で濾過処理を行なって残渣と吸着画分を除去して非吸着画分を回収するか、あるいはフィルタープレス等の濾過機器のリーフ面積1m2当たり1〜10kgの複合品をプレコートし、次いでこのプレコート層に溶液を透過させて濾過処理を行ない、着色、好ましくない風味及びその原因物質が低減された非吸着画分を回収する。この方法を採用する場合、濾過に時間を要さないので、処理温度は着色、好ましくない風味及びその原因物質の低減が十分となる範囲で適宜設定することができる。
【0026】
また、態様2において記載されているとおり、活性炭処理を薬品賦活した活性炭を使用し、非吸着画分を回収することにより行うことが、後記する試験例からも明らかなとおり、加熱による着色及び好ましくない風味の発生を抑制された蛋白質加水分解物が得られることから望ましい。
【0027】
活性炭の薬品賦活は、賦活薬品として、塩化亜鉛、リン酸、リン酸ナトリウム、塩化カルシウム、硫化カリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、チオシアン酸カリウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、炭酸カルシウム、硫酸、ホウ酸、硝酸、塩酸等を使用して常法[真田 雄三他編、「新版 活性炭―基礎と応用―」、第51乃至53頁、株式会社講談社サイエンティフィク、1998年8月10日]により賦活し、微細な多孔質の吸着炭を得ることにより行われる。簡便には、市販の薬品賦活した活性炭であるカルボラフィン(武田薬品工業社製。塩化亜鉛賦活)、ZN(味の素ファインテクノ社製。塩化亜鉛賦活)等を使用することができる。
【0028】
本発明の方法に使用される限外濾過膜は食品製造上問題が無く、着色、好ましくない風味及びその原因物質を分離、分画できるものであれば、有機膜、無機膜、複合膜等、如何なる材質のものであってもよく、また、形状も中空糸型、管状型、平膜型、スパイラル型等のいずれでも良い。例えば市販の製品として、マイクローザ(旭化成工業社製)、モルセップ(ダイセンメンブレンシステムズ社製)、NTUシリーズ(日東電工社製)、ロミコン(米国ロミコン社製)、AMT―UF(米国AMT社製)、DDSS(デンマークDOW DANMARK A/S社製)等を例示することができる。
【0029】
限外濾過処理は、処理する溶液の物性や使用する限外濾過膜の形状等に応じて、ファウリングに伴う透過流束の低下や細菌増殖により汚染が起こりにくい操作圧力、循環流量、温度等を適正設定し、透過液画分を回収することにより行われる。
【0030】
また、限外濾過処理を分画分子量2000乃至6000の限外濾過膜を使用し、透過画分を回収することにより行うことが、後記する試験例からも明らかなとおり、回収率よく、加熱による着色及び好ましくない風味の発生が抑制された蛋白質加水分解物が得られることから望ましい。
【0031】
活性炭処理及び限外濾過処理の順序は特に制限されず、適宜実施することができるが、限外濾過処理の後に活性炭処理を行なうと、バッチ処理で活性炭を使用した場合には活性炭の分離操作が必要となり、更に粉末炭を使用した場合には微細な活性炭粒子の漏洩を防止するために精密な濾過操作が必要となる。また、バッチ処理、カラム処理、吸着濾過処理に限らず、限外濾過処理の後に活性炭処理を行なうと、細菌等の汚染に対して細心の留意を払う必要がある。これに対して、活性炭処理の後に限外濾過処理を行なうと、多少の微細な活性炭粒子の漏洩があっても限外濾過膜で分離が可能であり、また、基本的に限外濾過後の液は無菌であるため、濾過後の液の細菌数を非常に低減することができる。従って態様1に記載されるとおり、活性炭処理の後に限外濾過処理を行なうことが望ましい。
【0032】
以上のとおり、本発明の製造方法により、加熱による着色及び好ましくない風味の発生が抑制された蛋白質加水分解物が得られ、また、消化吸収性が良好で、抗原性も低減された蛋白加水分解物が得られることから、得られた蛋白質加水分解物は、溶液状あるいは常法により殺菌、濃縮、乾燥して、一般食品の他、病態栄養食品や乳幼児用栄養食品等に、蛋白質源として、あるいは風味改良剤や調味剤として配合、添加することができる。
【0033】
次に試験例を示して本発明を詳細に説明する。
試験例1
この試験は、従来技術と比較して本発明の蛋白質加水分解物の製造方法が優れていることを示すために行った。
(1)試料の調製
次に示す4種類の試料を調製した。
試料1:本発明の実施例1と同一の方法により製造した蛋白質加水分解物
試料2:従来技術1に示されるとおり、加温処理及び限外濾過処理を行わないことを除き、実施例1と同一の方法により製造した蛋白質加水分解物
試料3:従来技術2に示されるとおり、加温処理及び活性炭処理を行わないことを除き、実施例1と同一の方法により製造した蛋白質加水分解物
試料4:対照試料として、加温処理、活性炭処理、及び限外濾過処理を行わないことを除き、実施例1と同一の方法により製造した蛋白質加水分解物
【0034】
(2)試験方法
各試料の着色、好ましくない風味、及びその原因物質を、次の試験方法により各試料毎に5回測定し、それらの平均値を算出して評価した。
【0035】
(a)着色の判定方法
各試料を精製水に10%濃度で溶解し、90℃で30分間加熱処理し、10℃に冷却し、分光光度計(日立製作所社製。U―3210)を使用して、波長400nm、1cmガラスセルにおける試料の透過率(T%)を測定した。着色すると透過率が低下することから、透過率の値が高ければ着色が弱く、透過率の値が低ければ着色が強いと判定できる。
【0036】
(b)好ましくない風味の試験方法
好ましくない風味として臭気を指標として次のとおり試験した。
各試料を精製水に10%濃度で溶解し、90℃で30分間加熱処理し、10℃に冷却し、20歳から40歳までの男女各20人のパネルにより官能的に風味を試験し、臭気なし(0点)、臭気ややあり(1点)、臭気あり(2点)、臭気強くあり(3点)の4段階に評価し、評価点の平均値から、0.5点未満をなし、0.5点以上1.5点未満をややあり、1.5点以上2.5点未満をあり、及び2.5点以上3.0点未満を強くありと判定した。
【0037】
(c)原因物質の測定方法
各試料の着色及び好ましくない風味の原因物質は、アセトニトリル及び精製水を溶出液として、逆相系カラム(東ソー社製。Octadecyl-4PWカラム)を装着したHPLC(島津製作所社製)を使用して、グラジェント溶出(流速1ml/分、50分間でアセトニトリル濃度を9%から54%とする溶出条件)による高速液体クロマトグラフィーを行い、UV検出器(波長215nm)により、溶出時間35分付近のピークとして検出する。
【0038】
尚、原因物質の量は、対照試料である試料4のピーク面積を100%として、試料4のピーク面積(A)に対する各試料に含有される原因物質(B)のピーク面積に基づいて、次式に示す相対的な百分率で表わす。
原因物質の相対量(%)=B/A×100
【0039】
(3)試験結果
この試験の結果を表1に示す。表1から明らかなとおり、本発明の製造方法(試料1)は、従来技術の方法(試料2及び試料3)に比較して、透過率の値が高く、臭気がなく、及びその原因物質の量が少ないことから優れていた。即ち、本発明の製造方法は、従来技術の方法に比較して、着色、風味、及びその原因物質の量のいずれにおいても優れていることが判明した。
【0040】
尚、本発明の製造方法において、活性炭処理工程と限外濾過処理工程の順序を入れ替えて試料を調製した場合においても、従来技術の方法に比較して、着色、風味、及びその原因物質の量のいずれにおいても優れているというほぼ同様の結果が得られた。
【0041】
また、前記各試料の製造方法において、蛋白質原料の種類、蛋白質分解酵素の種類、加温処理温度、限外濾過膜の種類、又は活性炭の種類を適宜変更して試験したが、ほぼ同様の結果が得られた。
【0042】
【表1】
【0043】
試験例2
この試験は、適切な加温処理の温度範囲を調べるために行った。
(1)試料の調製
次に示す4種類の試料を調製した。
試料5:加温処理の温度を60℃としたことを除き、実施例1と同一の方法により製造した蛋白質加水分解物
試料6:加温処理の温度を65℃としたことを除き、実施例1と同一の方法により製造した蛋白質加水分解物
試料7:加温処理の温度を90℃としたことを除き、実施例1と同一の方法により製造した蛋白質加水分解物
試料8:加温処理の温度を100℃としたことを除き、実施例1と同一の方法により製造した蛋白質加水分解物
【0044】
(2)試験方法
各試料の原因物質の量を、前記試験例1に記載の試験方法により各試料毎に5回測定し、それらの平均値を算出して評価した。
【0045】
(3)試験結果
この試験の結果を表2に示す。表2から明らかなとおり、原因物質の量を低減するためには、少なくとも65℃の温度で加温処理することが必要であることが判明した。尚、100℃以上の温度で数分間以上の保持を行なうためにはレトルト装置等の耐圧、耐熱装置が必要であるという問題点がある。従って、製造効率を考慮すると、加温処理の温度範囲は65乃至90℃の範囲が適切である。
【0046】
また、前記各試料の製造方法において、蛋白質原料の種類、蛋白質分解酵素の種類、限外濾過膜の種類、又は活性炭の種類を適宜変更して試験したが、ほぼ同様の結果が得られた。
【0047】
【表2】
【0048】
試験例3
この試験は、活性炭処理工程と限外濾過処理工程の望ましい順序を調べるために行った。
(1)試料の調製
次に示す2種類の試料を調製した。
試料9:本発明の実施例1と同一の方法により製造した蛋白質加水分解物
試料10:活性炭処理工程と限外濾過処理工程の順序を入れ替えたことを除き、実施例1と同一の方法により製造した蛋白質加水分解物
【0049】
(2)試験方法
各試料の透明度を、次の試験方法により各試料毎に5回測定し、それらの平均値を算出して評価した。
各試料を精製水に10%濃度で溶解し、分光光度計(日立製作所社製。U―3210)を使用して、波長800nm、1cmガラスセルにおける試料の透過率(T%)を測定した。透過率の値が高ければ透明度が高いと判定できる。
【0050】
(3)試験結果
この試験の結果を表3に示す。表3から明らかなとおり、活性炭処理の後に限外濾過処理を行う方法(試料9)は、限外濾過処理の後に活性炭処理を行なう方法(試料10)に比較して、微細な活性炭の漏洩に基づく透過率の低下がないことから優れていた。即ち、活性炭粒子の漏洩を防止して高い透明度の蛋白質加水分解物を製造するためには、活性炭処理の後に限外濾過処理を行う方法が望ましいことが判明した。
【0051】
また、前記各試料の製造方法において、蛋白質原料の種類、蛋白質分解酵素の種類、加温処理温度、限外濾過膜の種類、又は活性炭の種類を適宜変更して試験したが、ほぼ同様の結果が得られた。
【0052】
【表3】
【0053】
試験例4
この試験は、適切な限外濾過膜の分画分子量範囲を調べるために行った。
(1)試料の調製
次に示す4種類の試料を調製した。
試料11:限外濾過処理工程において分画分子量1000の限外濾過膜を使用したことを除き、実施例1と同一の方法により製造した蛋白質加水分解物
試料12:限外濾過処理工程において分画分子量2000の限外濾過膜を使用したことを除き、実施例1と同一の方法により製造した蛋白質加水分解物
試料13:限外濾過処理工程において分画分子量6000の限外濾過膜を使用した本発明の実施例1と同一の方法により製造した蛋白質加水分解物
試料14:限外濾過処理工程において分画分子量10000の限外濾過膜を使用したことを除き、実施例1と同一の方法により製造した蛋白質加水分解物
【0054】
(2)試験方法
各試料の原因物質の量を、前記試験例1に記載の試験方法により各試料毎に5回測定し、それらの平均値を算出して評価した。
また、各試料の回収率を、次の試験方法により各試料毎に5回測定し、それらの平均値を算出して評価した。
【0055】
蛋白質原料の乾燥重量(C)に対する前記原料から製造された蛋白質加水分解物の乾燥重量(D)に基づいて回収率を次式により算出した。
回収率(%)=D/C×100
【0056】
(3)試験結果
この試験の結果を表4に示す。表4から明らかなとおり、分画分子量が10000の限外濾過膜では原因物質の低減が十分ではなく、分画分子量が1000の限外濾過膜では回収率が劣ることが明らかとなった。即ち、原因物質の低減が十分であり、且つ回収率に優れる限外濾過膜の分画分子量範囲は、2000乃至6000が望ましいことが判明した。
【0057】
また、前記各試料の製造方法において、蛋白質原料の種類、蛋白質分解酵素の種類、加温処理温度、限外濾過膜の種類、又は活性炭の種類を適宜変更して試験したが、ほぼ同様の結果が得られた。
【0058】
【表4】
【0059】
試験例5
この試験は、適切な活性炭の種類を調べるために行った。
(1)試料の調製
次に示す4種類の試料を調製した。
試料15:活性炭処理に薬品賦活した活性炭(武田薬品工業社製。カルボラフィン。塩化亜鉛賦活)を使用した本発明の実施例1と同一の方法により製造した蛋白質加水分解物
試料16:活性炭処理に薬品賦活した活性炭(味の素ファインテクノ社製。ZN。塩化亜鉛賦活)を使用したことを除き、実施例1と同一の方法により製造した蛋白質加水分解物
試料17:活性炭処理に薬品賦活していない活性炭(武田薬品工業社製。白鷺M)を使用したことを除き、実施例1と同一の方法により製造した蛋白質加水分解物
試料18:活性炭処理に薬品賦活していない活性炭(味の素ファインテクノ社製。SD)を使用したことを除き、実施例1と同一の方法により製造した蛋白質加水分解物
【0060】
(2)試験方法
各試料の着色及び原因物質の量を、前記試験例1に記載の試験方法により各試料毎に5回測定し、それらの平均値を算出して評価した。
【0061】
(3)試験結果
この試験の結果を表5に示す。表5から明らかなとおり、薬品賦活していない活性炭を使用した場合に比較して、薬品賦活した活性炭を使用した場合には着色及び原因物質の低減に優れていることが明らかとなった。即ち、着色及び原因物質の低減に優れる活性炭は薬品賦活した活性炭であることが望ましいことが判明した。
【0062】
また、前記各試料の製造方法において、蛋白質原料の種類、蛋白質分解酵素の種類、加温処理温度、又は限外濾過膜の種類を適宜変更して試験したが、ほぼ同様の結果が得られた。
【0063】
【表5】
【0064】
次に実施例を記載して本発明を更に詳述するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。
【0065】
【実施例】
実施例1
市販の乳酸カゼイン(ニュージーランドデイリーボード製。蛋白質含量85%)130gを870gの精製水に分散し、水酸化ナトリウムを添加して溶液のpHを7.0に調整し、85℃で10分間加熱してカゼインを完全に溶解した。のち溶液の温度を50℃に冷却し、滅菌パンクレアチン(天野製薬社製。112000活性単位/g)を1.3g、及びプロテアーゼAアマノ(天野製薬社製。10000活性単位/g)を2.6g添加して、50℃で18時間保持し、酵素の失活と溶液の殺菌を兼ねて90℃で10分間加熱し、10℃に冷却し、珪藻土シリカ#600H(中央シリカ社製)を使用して濾過して透過画分を回収し、80℃で10分間の加温処理を行い、10℃に冷却し、固形分当り3%の活性炭(武田薬品工業社製。カルボラフィン。塩化亜鉛賦活)を添加して5時間保持した後、珪藻土シリカ#600Hを使用して濾過して透過画分を回収し、該透過画分を限外濾過膜SIP−1013(旭化成工業社製。分画分子量6000)により限外濾過処理して透過画分を回収し、次いでロータリーエバポレーターを使用して濃度15%に濃縮し、常法により凍結乾燥して粉末状の蛋白質加水分解物約117gを得た。
【0066】
実施例2
市販の乳酸カゼイン(ニュージーランドデイリーボード製。蛋白質含量85%)200gを1400gの精製水に分散し、水酸化ナトリウムを添加して溶液のpHを7.0に調整し、85℃で10分間加熱してカゼインを完全に溶解した。のち溶液の温度を55℃に冷却し、PTN6.0S(ノボノルディスク社製。1250活性単位/mg)を1g、プロテアーゼNアマノ(天野製薬社製。150000活性単位/g)を2g、及びプロテアーゼAアマノ(天野製薬社製。10000活性単位/g)を4g添加して、55℃で10時間保持し、酵素の失活と溶液の殺菌を兼ねて90℃で15分間加熱し、10℃に冷却し、珪藻土セライトハイフロースーパーセル(米国マンビル社製。以下、HSCと略記する。)を使用して濾過して透過画分を回収し、70℃で30分間の加温処理を行い、10℃に冷却し、固形分当り3%の活性炭(武田薬品工業社製。カルボラフィン。塩化亜鉛賦活)を添加して5時間保持した後、珪藻土HSCを使用して濾過して透過画分を回収し、該透過画分を限外濾過膜SIP−1013(旭化成工業社製。分画分子量6000)により限外濾過処理して透過画分を回収し、次いでロータリーエバポレーターを使用して濃度15%に濃縮し、常法により凍結乾燥して粉末状の蛋白質加水分解物約180gを得た。
【0067】
実施例3
市販の乳酸カゼイン(ニュージーランドデイリーボード製。蛋白質含量85%)200gを1800gの精製水に分散し、リン酸三カリウムを添加して溶液のpHを6.5に調整し、80℃で10分間加熱してカゼインを完全に溶解した。のち溶液の温度を50℃に冷却し、滅菌パンクレアチン(天野製薬社製。112000活性単位/g)を2g、プロテアーゼAアマノ(天野製薬社製。10000活性単位/g)を4g、及びFC−H(森永乳業社製。ラクトバシラス・ヘルベチカスの菌体破砕物の濃縮凍結液)を2g添加して、50℃で18時間保持し、酵素の失活と溶液の殺菌を兼ねて90℃で10分間加熱し、10℃に冷却し、珪藻土シリカ#600S(中央シリカ社製)を使用して濾過して透過画分を回収し、75℃で10分間の加温処理を行い、ロータリーエバポレーターを使用して濃度15%に濃縮し、10℃に冷却し、固形分当り2%の活性炭(味の素ファインテクノ社製。ZN。塩化亜鉛賦活)を添加して8時間保持し、珪藻土シリカ#600Sを使用して濾過して透過画分を回収し、該透過画分を限外濾過膜SEP−1013(旭化成工業社製。分画分子量3000)により限外濾過処理して透過画分を回収し、次いで常法により凍結乾燥して粉末状の蛋白質加水分解物約165gを得た。
【0068】
実施例4
市販の乳酸カゼイン(ニュージーランドデイリーボード製。蛋白質含量85%)200gを1300gの精製水に分散し、炭酸マグネシウムを添加して溶液のpHを7.5に調整し、90℃で10分間加熱してカゼインを完全に溶解した。のち溶液の温度を50℃に冷却し、パパインW―40(天野製薬社製。400活性単位/mg)を2g、ウマミザイム(天野製薬社製。20000活性単位/g)を2g、及びスミチームLP(新日本化学工業社製。50000活性単位/g)を2g添加して、50℃で8時間保持し、酵素の失活と溶液の殺菌を兼ねて85℃で6分間、130℃で2秒間加熱し、10℃に冷却し、精密濾過膜(米国グレイバー社製。商標名「セプター」)により濾過して透過画分を回収し、85℃で10分間の加温処理を行い、ロータリーエバポレーターを用いて濃度15%に濃縮した後、10℃に冷却し、固形分当り5%の活性炭/セルロース繊維複合体(米国グレイバー社製。エコソーブ)を添加して、常法によりブフナー漏斗を使用して濾過して透過画分を回収し、該透過画分を限外濾過膜AIP−1013(旭化成工業社製。分画分子量6000)により限外濾過処理して透過画分を回収し、次いで常法により凍結乾燥して粉末状の蛋白質加水分解物約170gを得た。
【0069】
実施例5
市販の乳清蛋白質単離物(ミライ社製。蛋白質含量90%)200gを1800gの精製水に分散し、水酸化カリウムを添加して溶液のpHを8.0に調整し、75℃で15秒間加熱したのち、溶液の温度を50℃に冷却し、滅菌パンクレアチン(天野製薬社製。112000活性単位/g)を2g、プロテアーゼAアマノ(天野製薬社製。10000活性単位/g)を4g、スミチームFP(新日本化学工業社製。50000活性単位/g)を2g、及びFC−H(森永乳業社製。ラクトバシラス・ヘルベチカスの菌体破砕物の濃縮凍結液)を1g添加して、50℃で8時間保持し、酵素の失活と溶液の殺菌を兼ねて90℃で10分間加熱し、10℃に冷却し、珪藻土HSCを使用して濾過して透過画分を回収し、80℃で30分間の加温処理を行い、10℃に冷却し、固形分当り3%の活性炭(武田薬品工業社製。強力白鷺)を添加して5時間保持した後、珪藻土HSCを使用して濾過して透過画分を回収し、該透過画分を限外濾過膜SEP−1013(旭化成工業社製。分画分子量3000)により限外濾過処理して透過画分を回収し、次いでロータリーエバポレーターを使用して濃度15%に濃縮し、常法により凍結乾燥して粉末状の蛋白質加水分解物約170gを得た。
【0070】
【発明の効果】
以上詳記したとおり、着色、好ましくない風味等及びその原因物質が除去された蛋白質加水分解物の製造方法に関するものであり、本発明により奏せられる効果は次のとおりである。
1)本発明の蛋白質加水分解物の製造方法は、着色、好ましくない風味等及びその原因物質を除去することができる。
2)本発明の蛋白質加水分解物の製造方法によれば、加熱による着色及び好ましくない風味の発生を抑制された蛋白質加水分解物を製造できる。
Claims (3)
- 蛋白質原料であるカゼイン又は乳清蛋白質を蛋白質分解酵素で分解し、酵素を加熱失活し、濾過処理し、65乃至90℃で加温処理し、のち活性炭処理及び、分画分子量2000乃至6000の限外濾過膜を使用し、透過画分を回収することにより限外濾過処理を行うことを特徴とする蛋白質加水分解物の製造方法。
- 活性炭処理の後に限外濾過処理を行う請求項1に記載の蛋白質加水分解物の製造方法。
- 活性炭処理を薬品賦活した活性炭を使用し、非吸着画分を回収することにより行う請求項1または請求項2に記載の蛋白質加水分解物の製造方法。
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