JP4427281B2 - フッ素化ビスフタロニトリル化合物およびその製造方法 - Google Patents

フッ素化ビスフタロニトリル化合物およびその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、光学材料,配線基板材料,感光材料や液晶材料等の中間原料として有用なフッ素化ビスフタロニトリル化合物およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
高度にフッ素置換されたビスフタロニトリル化合物は、更にフタル酸無水物誘導体へ官能基変換され、ポリアミドやポリイミドの構成要素となる。斯かるポリアミドおよびポリイミドは芳香族環を有すると共に高度にフッ素置換されていることから、剛直性や耐熱性に優れ、特に光ファイバーなどの光学材料として有用である。
【0003】
特許文献1と2には、この様なビスフタロニトリル化合物の製造方法が開示されており、例えば、実施例にて以下の化合物が合成されている。
【0004】
【化4】
【0005】
しかし、光ファイバー材料としてポリアミドやポリイミドが用いられる場合には様々な屈折率のものが要求されるため、その中間原料であるフッ素化ビスフタロニトリル化合物でも、多様な化合物群が求められている。
【0006】
また、上記特許文献1と2に開示されている製造方法では、副反応を抑制するために、原料化合物(1)を大過剰(化合物(2)に対して8〜50モル部)使用する必要がある。従って当該製造方法は、原料化合物(1)は反応後に回収できるものの、ビスフタロニトリル化合物の製造方法としては比較的コストが高い。
【0007】
【特許文献1】
特開平6−16615号公報(特許請求の範囲,実施例)
【特許文献2】
特開平8−333322号公報(特許請求の範囲,段落[0026],実施例)
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
上述した様に、これまでにも様々なビスフタロニトリル化合物とその製造方法が知られているが、最終的に高分子材料とするに当たって様々な屈折率を有するものが必要とされるため、更なる化合物のバリエーションが要求されている。
【0009】
また、プラントレベルで大量合成するためには、より安価で製造できる化合物や製造方法が求められていた。
【0010】
そこで、本発明が解決すべき課題は、ポリアミドやポリイミドの原料となるビスフタロニトリル化合物であって、最終的に高分子とされた場合に独自の屈折率を示すことができ、且つ安価に製造できるものを提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、種々のビス含フッ素ビスフタロニトリル化合物を合成し探索を重ねたところ、本発明に係る化合物が上記課題を解決できるものであって、高分子材料の製造原料として適していることを見出して本発明を完成した。
【0012】
更に、本発明化合物は、従来のビス含フッ素ビスフタロニトリル化合物に比べてリジッドな構造を有するため、最終的に得られる高分子材料のガラス転移温度(Tg)は高くなり、剛直で耐熱性や耐食性に優れるものとなるため、例えば配線基板材料として有用である。従って、本発明化合物は、光学材料のみでなく基板材料の製造原料としても優れている。
【0013】
本発明に係るフッ素化ビスフタロニトリル化合物は、下記式(I)で表されるものである。
【0014】
【化5】
【0015】
[上記式中、XおよびYは互いに独立して酸素原子または硫黄原子を示し、mは1または2を示す。また、1つのベンゼン環上に置換している2つのシアノ基は、互いに隣接する。]。
【0016】
本発明化合物は新規なものであり、高分子材料の製造原料としてバリエーションの幅を広げるものであって、しかも安価に製造することができる。その上、リジッドな構造を有することから、最終的に得られる高分子材料に耐熱性や耐食性などの更なる特性を付与できる。
【0017】
上記フッ素化ビスフタロニトリル化合物としては、下記式(Ia)で表されるものが好適である。
【0018】
【化6】
【0019】
[上記式中、X,Yおよびmは、上記と同義を示す。]。
【0020】
当該化合物は特にリジッドな構造を有するため、最終的な高分子材料のガラス転移温度を更に上げることによって、耐熱性や耐食性を向上することができるものである。
【0021】
本発明に係る製造方法は、上記フッ素化ビスフタロニトリル化合物を製造する方法であって、下記式(II)で表されるフッ素化フタロニトリルに、
【0022】
【化7】
【0023】
[上記式中、nは3または4を示す。]
有機溶媒中、チオ酸およびその塩並びに硫黄含有無機塩からなる群より選択される少なくとも1種を作用させることを特徴とする。
【0024】
当該製造方法は、化合物(II)の他に使用する主要な原料がチオ酸およびその塩並びに硫黄含有無機塩からなる群より選択される少なくとも1種のみであるため、極めて安価に実施することができる。
【0025】
【発明の実施の形態】
本発明に係るフッ素化ビスフタロニトリル化合物が享有する最大の特徴は、高分子材料の製造原料としてその屈折率のバリエーションを増やすことができるものである上に、安価に製造できる点にある。
【0026】
即ち、従来でも高分子材料の中間原料となるフッ素化ビスフタロニトリル化合物は知られていたが、更なる化合物群が求められており、また、製造原価が比較的高いものであった。
【0027】
そこで本発明者らは、より安価で製造できる新規なフッ素化ビスフタロニトリル化合物を見出して、本発明を完成した。更に、当該化合物はリジッドな構造を有するため、最終的な高分子に好ましい特性を付与できることも見出している。
【0028】
以下に、斯かる特徴を発揮する本発明の実施形態、及びその効果について説明する。
【0029】
本発明に係るフッ素化ビスフタロニトリル化合物は、以下に示すスキームにより容易に合成することができる。
【0030】
【化8】
【0031】
[上記式中、X,Y,mおよびnは前述したものと同義を示す。また、化合物(I)中において1つのベンゼン環上に置換している2つのシアノ基は、互いに隣接するものとする。更に、mとnは、n−m=2の関係にある。]。
【0032】
上記スキームは、有機溶媒中、フッ素化フタロニトリル化合物(II)2分子から、チオ酸およびその塩並びに硫黄含有無機塩からなる群より選択される少なくとも1種によって、フッ素化ビスフタロニトリル化合物(I)を合成するものである。当該反応においてチオ酸,その塩または硫黄含有無機塩の溶解性が悪い場合には、相間移動触媒を適量添加してもよい。
【0033】
原料化合物であるフッ素化フタロニトリル化合物(II)は、比較的単純な構造を有するため、市販のものを用いるか、或いは当業者公知の方法によって市販の化合物から合成することができる。
【0034】
「チオ酸」は、フッ素置換されたベンゼン化合物からチアントレン等を合成できるものであれば特に制限なく使用でき、例えば、チオ酢酸,チオ安息香酸,ジチオ酢酸やキサントゲン酸を例示することができる。また、チオ酸は塩として使用することも可能であるが、その塩としてはリチウム塩,ナトリウム塩,カリウム塩,アンモニウム塩を挙げることができる。
【0035】
「硫黄含有無機塩」とは、硫黄を含有する無機アニオンとリチウムイオン,ナトリウムイオン,カリウムイオン,アンモニウムイオン等との塩をいい、例えば硫化塩,ピロ硫酸塩,硫化水素塩,チオ硫酸塩,二亜硫酸塩,亜硫酸水素塩,亜硫酸塩を挙げることができる。
【0036】
「チオ酸およびその塩並びに硫黄含有無機塩からなる群より選択される少なくとも1種」とは、上記チオ酸,その塩,または硫黄含有無機塩から1種を選択して使用してもよいし、これらから選択した2種以上を混合して使用してもよい意である。
【0037】
本発明で使用される「相間移動触媒」は、溶解性の悪い原料化合物を使用溶媒に溶解し易くするものであれば特にその種類は制限されないが、例えば第四級アンモニウム塩,第四級ホスホニウム塩,クラウンエーテル類を挙げることができる。
【0038】
「第四級アンモニウム塩」は、第四級アンモニウムイオンと陰イオンとの塩をいい、「第四級アンモニウムイオン」としてはテトラメチルアンモニウムイオン,テトラエチルアンモニウムイオン,テトラブチルアンモニウムイオン,トリラウリルメチルアンモニウムイオン,ベンジルトリメチルアンモニウムイオン,ベンジルトリメチルアンモニウムイオン,ベンジルトリブチルアンモニウムイオン,フェニルトリメチルアンモニウムイオン等を挙げることができ、「陰イオン」としては塩素イオン,フッ素イオン,臭素イオン,ヨウ素イオン等のハロゲン陰イオン;硫酸イオン,硝酸イオン,リン酸イオン,過塩素酸イオン,硫酸水素イオン等の無機酸イオン;水酸イオン;酢酸イオン,安息香酸イオン,ベンゼンスルホン酸イオン,p-トルエンスルホン酸イオン等の有機酸イオンなどを挙げることができる。
【0039】
「第四級ホスホニウム塩」は、第四級ホスホニウムイオンと陰イオンとの塩をいい、「第四級ホスホニウムイオン」としてはエチルトリフェニルホスホニウムイオン,エチルトリフェニルホスホニウムイオン,エチルトリフェニルホスホニウムイオン,メチルトリフェニルホスホニウムイオン,ブチルトリフェニルホスホニウムイオン,ブチルトリフェニルホスホニウムイオン,メトキシメチルトリフェニルホスホニウムイオン,テトラフェニルホスホニウムイオン,トリフェニルベンジルホスホニウムイオン等を挙げることができ、「陰イオン」は、上記と同様のものを挙げることができる。
【0040】
「クラウンエーテル」とはエチレンオキシ基単位が連なっている環状の化合物をいい、本発明では、原料化合物の溶解性を向上させるものを用いる。その様なクラウンエーテルとしては、例えば12-クラウン-4-エーテル,15-クラウン-5-エーテル,18-クラウン-6-エーテルを挙げることができ、トラップすべきイオンに応じてこれら等から選択すればよい。
【0041】
当該反応で使用される「有機溶媒」は、フッ素化フタロニトリル化合物(II)を適度に溶解できるものであり、且つ反応を阻害しないものであれば特に制限なく使用できる。この様な「有機溶媒」としては、例えばアセトン,メチルエチルケトン,メチルイソブチルケトン等のケトン類;ジエチエルエーテル,テトラヒドロフラン等のエーテル類;ジメチルホルムアミド,ジメチルアセトアミド等のアミド類;ベンゼン,トルエン等の芳香族炭化水素類;アセトニトリル,ベンゾニトリル等のニトリル類;酢酸ブチル,酢酸エチル,酢酸プロピル等のエステル類;およびこれら2種以上の混合溶媒などを挙げることができる。
【0042】
当該反応における「チオ酸およびその塩並びに硫黄含有無機塩からなる群より選択される少なくとも1種」の添加量は、目的化合物に応じて調節すればよいが、原料化合物(II)に対して1.1〜3モル部加えることが好ましい。また、「クラウンエーテル」を添加する場合には、原料化合物(II)に対して0.05〜0.2モル部加えれば十分である。
【0043】
当該反応は、上記有機溶媒へ上記試薬を加え、加熱下に行なうことが好ましい。当該温度は50℃〜溶媒の還流温度が好ましい。反応の終了は薄層クロマトグラフィー等でチェックすればよいが、標準的な反応時間は12〜100時間である。
【0044】
反応終了後は、過剰のチオ酸等を除去するために、水を加えた上で酢酸エチルやクロロホルム等の水と混合しない溶媒で抽出する。更に抽出溶媒を水等で洗浄した後に濃縮し、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーや再結晶法など一般的な方法で精製する。
【0045】
上記製造方法によれば、主生成物としてチアントレン誘導体が得られるが、硫黄原子の1つが酸素原子に置き換わったフェノキサチイン誘導体や、硫黄原子が2つとも酸素原子に置き換えられたジベンゾジオキシン誘導体も得られる場合もある。これらは何れも高分子材料の中間原料として有用なものであるため、それぞれ単離して使用する。
【0046】
以下に、実施例を示すことにより本発明を更に詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0047】
【実施例】
(製造例1)
【0048】
【化9】
【0049】
テトラフルオロフタロニトリル2g(10mmol)を窒素置換した反応容器に入れ、更に18Crown-6-ether0.26g(1mmol)のメチルイソブチルケトン溶液を加え、均一溶液とした。溶液を80℃まで加熱した後、チオ酢酸ナトリウム1.96g(20mmol)を加え、68時間反応させた。
【0050】
反応終了後、水でクエンチし、酢酸エチルで抽出した。この酢酸エチル層を水で洗浄した後、減圧濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、1,4,6,9-テトラフルオロチアントレン-2,3,7,8-テトラカルボニトリル(I1)0.61g(収率31%),1,4,6,9-テトラフルオロフェノキサチイン-2,3,7,8-テトラカルボニトリル(I2)0.04g,1,4,6,9-テトラフルオロジベンゾジオキシン-2,3,7,8-テトラカルボニトリル(I3)の粗生成物0.02g得た。それぞれの物性データを以下に示す。
(I1)1,4,6,9-テトラフルオロチアントレン-2,3,7,8-テトラカルボニトリル
MSスペクトル(EI+):m/z 388
19F-NMRスペクトル(acetone-d6,ppm):103.7(s, 4F)
13C-NMRスペクトル(acetone-d6,ppm):518.9(d), 155.1(d), 110.2(s)
元素分析:
【0051】
【表1】
【0052】
(I2)1,4,6,9-テトラフルオロフェノキサチイン-2,3,7,8-テトラカルボニトリル
MSスペクトル(EI+):m/z 372
19F-NMRスペクトル(acetone-d6,ppm):127.1(d, 2F), 107.2(d, 2F)
(I3)1,4,6,9-テトラフルオロジベンゾジオキシン-2,3,7,8-テトラカルボニトリル
MSスペクトル(EI+):m/z 356。
【0053】
(製造例2) 1,4,6,9-テトラフルオロチアントレン-2,3,7,8-テトラカルボニトリル
【0054】
【化10】
【0055】
テトラフルオロフタロニトリル2g(10mmol)を窒素置換した反応溶液に入れ、更に塩化ベンジルトリメチルアンモニウム0.18g(1mmol)のメチルイソブチルケトン溶液を加え、均一溶液とした。溶液を80℃まで加熱した後、硫化水素ナトリウム・2水和物1.84g(20mmol)を加え、48時間反応させた。
【0056】
反応終了後、水でクエンチし、酢酸エチルで抽出した。この酢酸エチル層を水で洗浄した後、減圧濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、標記化合物0.26g(収率13%)を得た。
【0057】
(製造例3) 1,4,6,9-テトラフルオロチアントレン-2,3,7,8-テトラカルボニトリル
【0058】
【化11】
【0059】
テトラフルオロフタロニトリル2g(10mmol)を窒素置換した反応溶液に入れ、更に塩化ベンジルトリメチルアンモニウム0.18g(1mmol)のメチルイソブチルケトン溶液を加え、均一溶液とした。溶液を80℃まで加熱した後、チオ硫酸ナトリウム・2水和物3.71g(20mmol)を加え、48時間反応させた。
【0060】
反応終了後、水でクエンチし、酢酸エチルで抽出した。この酢酸エチル層を水で洗浄した後、減圧濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、標記化合物0.64g(収率32%)を得た。
【0061】
(試験例1) 屈折率の計算
上記製造例1〜3で得られた各ニトリル化合物から誘導されるフタル酸無水物と、2,3,5,6-テトラフルオロ-1,4-フェニレンジアミンとから得られるポリイミドの屈折率を、計算ソフトとしてCerius2 ver4.7(Accelrys Inc社)のSynthiaモジュールを使用して推算した。
【0062】
また比較例として、公知化合物である1,4-ビス(3,4-ジシアノ-2,5,6-トリフルオロフェノキシ)テトラフルオロベンゼンから得られるポリイミドの屈折率も、同様に計算した。結果を表2に示す。
【0063】
【表2】
【0064】
上記結果で明らかな様に、本発明化合物は、公知のフッ素化ビスフタロニトリル化合物から誘導されたポリイミドやポリアミドでは得られなかった新たな屈折率を示し得るポリイミド等を与えることが実証された。
【0065】
【発明の効果】
本発明のフッ素化ビスフタロニトリル化合物は、ポリアミドやポリイミドなど高分子材料の中間原料として新規なものであるので、これまでにない屈折率を示す高分子材料を与え得るものとして有用である。
【0066】
また、本発明化合物は明らかにリジッドな構造を有するので、ガラス転移温度の高い高分子材料が得られることから、耐熱性等が要求される材料の中間原料としても有用である。
【0067】
更に、本発明化合物は非常に安価で製造することができるため、産業上極めて有用である。

Claims (3)

  1. 下記式で表されるフッ素化ビスフタロニトリル化合物。
    [上記式中、XおよびYは互いに独立して酸素原子または硫黄原子を示す。]。
  2. 請求項1に記載のフッ素化ビスフタロニトリル化合物を製造する方法であって、下記式で表されるフッ素化フタロニトリルに、
    機溶媒中、チオ酸およびその塩並びに硫黄含有無機塩からなる群より選択される少なくとも1種を作用させることを特徴とする製造方法。
  3. 有機溶媒として、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、またはこれら2種以上の混合溶媒を用い、反応温度を50℃〜溶媒の還流温度とする請求項2に記載のフッ素化ビスフタロニトリル化合物の製造方法。
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