JP4182627B2 - 光機能性有機けい素化合物の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は光機能性有機けい素化合物の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、生産性、材料設計の容易さ、安全性などの点から、有機光導電性材料を用いた電子写真感光体、有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)、有機メモリー素子、有機波長変換素子などの有機電子デバイスが注目されており、種々の改良を重ねながら実用化が進められている。
【0003】
これらの有機電子デバイスに使用される光機能性有機材料には、有機電子デバイスの安定化、長寿命化の観点から様々な特性が要求される。たとえば、有機エレクトロルミネッセンス素子に使用される材料の場合は、発生するジュール熱により膜のモルホルジー変化を引き起こさないことが必要であり、また、電子写真感光体に使用される材料の場合は、オゾンやNOxなどに対する化学的な安定性に加えて、熱や機械力などの物理的なストレスに対する安定性をも有していることが必要である。
【0004】
そこで、このような特性を有する光機能性有機材料を得るための検討がなされている。例えば、電子写真感光体に使用される光機能性有機材料の機械的な強度を改善する方法として、"Proceedings of IS&T's Eleventh International Congress on Advances in Non-Impact Printing Technologies, p.57〜59"(1995)、特許第2575536号公報、特開平9−190004号公報などには、ゾル−ゲル法を用いてシロキサン結合により3次元に強固なネットワークを形成させる、いわゆる有機−無機ハイブリッド化の技術が開示されている。また、通常、有機材料と無機材料は本質的に性質が大きく異なるため、相溶性が悪く、単に混合しただけでは均一な硬化膜を形成しにくいが、これを解決する手段として、電荷輸送材料に加水分解性基を有するけい素を直接導入した有機けい素変成正孔輸送性化合物を用い、無機材料と有機材料を直接強固に化学結合させることで均一に相溶させる方法が特開平9−190004号公報などに開示されている。また、有機エレクトロルミネッセンス素子の分野においても、同様の有機―無機ハイブリッド膜を用いた技術がAdv. Mater., 1999, 107(11)、Adv. Mater., 1999, 730(11)などに記載されている。さらに、光応答性材料に加水分解可能な基を有するけい素を直接導入し、これを無機ガラス中に分散させる方法は、電子写真感光体のみならず、ガラスの着色、ポリマーレンズや塗装の表面保護、FRPやカーボン繊維強化樹脂のためのファイバーとポリマーの接着層、非線形光学材料、フォトクロミック材料、フォトケミカルホールバーニング材料などにおいても検討されており、今後の展開が期待されている。
【0005】
このように様々な用途に使用される光機能性有機けい素化合物の製造方法として、特開平11−236391号公報には、非プロトン性有機溶剤中でのエステル化反応またはヒドロシリル化反応によって光機能性化合物とけい素化合物とを反応させる技術が開示されている。しかしながら、このような方法を用いた場合には、合成工程や精製工程において光機能性有機けい素化合物が有する加水分解性基の加水分解などにより副生成物が生じやすく、光機能性を十分に発揮するための高い純度と、工業レベルでの生産を可能とするための高い収率と、をもって、且つ安価に製造するための方法としては未だ十分なものではなかった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記従来技術の関する課題に鑑みてなされたものであり、電子写真感光体や有機エレクトロルミネッセンス素子などの材料として有用な光機能性有機けい素化合物を、十分に高い純度と十分に高い収率とをもって且つ安価に製造する方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、光機能性化合物とけい素化合物との反応により光機能性有機けい素化合物を製造する方法において、反応系中に存在する極微量の水によって、原料化合物(けい素化合物)や生成物(光機能性有機けい素化合物)の加水分解あるいはオリゴマー化などの副反応が促進され、その結果、目的化合物の純度や収率が低下することを見出した。そして、かかる知見に基づいてさらに検討を重ねた結果、上記の反応において、反応系中の水の濃度を反応終了時に0〜0.3重量%となるように制御することによって上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の光機能性有機けい素化合物の製造方法は、下記一般式(1)で表される光機能性化合物と下記一般式(2)で表されるけい素化合物とから下記一般式(3)で表される光機能性有機けい素化合物と水又はハロゲン化水素の少なくとも一方とを生成する反応において、反応系中の水の濃度が反応終了時に0.3重量%以下となるように反応を行うことを特徴とするものである。
【0009】
W−[(D’)a−X]b (1)
Y−D”−SiQ c (2)
W−[D−SiQ c ]b (3)
(式中、Wは光機能性を有する有機基を表し、D、D’およびD”はそれぞれ同一でも異なっていてもよく、2価の官能基を表し、XおよびYはそれぞれ互いに反応し得る反応性基を表し、Qは加水分解性基を表し、aは0または1を表し、bは1または2を表し、cは3を表す。)
本発明によれば、光機能性化合物とけい素化合物との反応において、反応系中の水の濃度を反応終了時に0.3重量%以下となるように制御することによって、原料化合物(けい素化合物)や目的生成物(光機能性有機けい素化合物)の加水分解あるいはオリゴマー化などの副反応が十分に抑制されるので、十分に高い純度と十分に高い収率とをもって且つ安価に光機能性有機けい素化合物を製造することができる。
【0010】
ここで、光機能性とは、光エネルギーの吸収により光異性化、フォトクロミズム、光イオン化、発光、非線形光学効果、光電気化学効果といった物理変化あるいは物理化学変化を示す性質をいい、上記式(1)および(3)中、Wで表される光機能性有機基とは上記の光機能性を有する有機基をいう。
【0011】
また、上記式(1)および(2)中、XおよびYで表される反応性基とは、互いに反応してエーテル結合、エステル結合などを形成し得る官能基をいう。
【0012】
さらに、上記式(2)および(3)中、Qで表される加水分解性基とは、光機能性有機けい素化合物(3)を用いて硬化膜を形成させる際に加水分解によりSi−O−Si結合を形成し得る官能基をいう。
【0013】
さらにまた、本発明にかかる反応系中の水の濃度とは、生成物としての光機能性有機けい素化合物(3)および水と、未反応の原料化合物としての光機能性化合物(1)およびけい素化合物(2)と、必要に応じて使用される溶剤および塩基と、を含む反応混合物全量基準での水の濃度[重量%]をいう。
【0014】
本発明の光機能性有機けい素化合物の製造方法においては、水と共沸し得る少なくとも1種の溶剤を用いて、反応系中の水を前記溶剤と共沸させることにより除去し、反応系中の水の濃度が反応終了時に0.3重量%以下となるように反応を行うことが好ましい。
【0015】
また、本発明の光機能性有機けい素化合物の製造方法においては、前記一般式(1)中のXで表される反応性基と前記一般式(2)中のYで表される反応性基との間に反応により形成される結合がエーテル結合またはエステル結合であることが好ましい。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0017】
本発明の光機能性有機けい素化合物の製造方法は、下記一般式(1)で表される光機能性化合物と下記一般式(2)で表されるけい素化合物とから下記一般式(3)で表される光機能性有機けい素化合物と水又はハロゲン化水素の少なくとも一方とを生成させる反応において、反応系中の水の濃度が反応終了時に0.3重量%以下、好ましくは0.2重量%以下となるように反応を行うものである。反応系中の水の濃度が反応終了時に0.3重量%を超えると、合成工程におけるけい素化合物(2)または光機能性化合物(3)の加水分解性基Qにおいて加水分解、オリゴマー化などの副反応が起こりやすくなり、その結果、得られる光機能性有機けい素化合物の収率や純度が低下してしまう。
【0018】
W−[(D’)a−X]b (1)
Y−D”−SiQ c (2)
W−[D−SiQ c ]b (3)
(式中、Wは光機能性を有する有機基を表し、D、D’およびD”はそれぞれ同一でも異なっていてもよく、2価の官能基を表し、XおよびYはそれぞれ互いに反応し得る反応性基を表し、Qは加水分解性基を表し、aは0または1を表し、bは1または2を表し、cは3を表す。)
本発明において原料化合物として使用される光機能性化合物は、前述の通り上記一般式(1)で表されるものであり、好ましくはWで表される光機能性有機基が芳香環を含む構造を有するものであり、より好ましくはWがトリアリールアミン構造を有するものである。光キャリア輸送特性を有するものとして、トリアリールアミン系化合物が特に好適に使用される。このような光機能性化合物を用いると、得られる光機能性有機けい素化合物の電荷輸送能が高く、また、光エネルギー吸収性および光安定性が向上する傾向にある。
【0019】
他方、本発明において原料化合物として使用されるけい素化合物は、前述の通り上記式(2)で表されるものであり、その使用量は光機能性化合物(1)に対して通常0.5〜5当量であり、好ましくは0.7〜3当量である。ここで、上記式(2)中、Qで表される加水分解性基の好ましい例としては、アルコキシ基が挙げられるが、これらの中でも、−OR’(R’は炭素数3のアルキル基)で表される基がより好ましい。このような加水分解性基を有するけい素化合物を用いると、合成工程における原料化合物(けい素化合物)や目的生成物(光機能性有機けい素化合物)の加水分解性基における加水分解が抑制され、目的化合物の純度および収率がより向上する傾向にある。特に、R’が炭素数3の分岐鎖状アルキル基である−OR’基は、より安価に製造することができる点で特に好ましい。
【0020】
また、上記式(1)中のD’および上記式(2)中のD”で表される2価の基は、好ましくは、−CnH2n −(nは2又は3である)の2価の基である。D’およびD”が上記の好ましい2価の基であると、得られる光機能性有機けい素化合物を材料に用いて成膜を行う際に、3次元的な無機ガラス質ネットワークに適度な可とう性が付与されて膜の強度が向上する傾向にある。
【0021】
上記式(1)中のXおよび上記式(2)中のYで表される反応性基は、互いに反応して上記式(3)で表される光機能性有機けい素化合物を形成し得るものである限り特に制限はないが、その好適な組み合わせとしては、カルボキシル基(−COOH)とハロゲン基が挙げられる。XおよびYが上記の好適な組み合わせであると、光機能性有機けい素化合物の製造がより容易となることに加えて、得られる化合物の湿度などの環境変化に対する安定性が向上する傾向にある。なお、上記の好適な組み合わせにおいて、それぞれの反応性基はXまたはYのいずれであってもよい。
【0022】
本発明の製造方法により得られる光機能性有機けい素化合物(3)の好適な例としては、下記式(4)
【化1】
(式中、Ar1、Ar2、Ar3およびAr4はそれぞれ同一でも異なっていてもよく、置換または無置換のアリール基を表し、Ar5は置換または無置換の2価の芳香族炭化水素基を表し、kは0または1を表し、Ar1、Ar2、Ar3、Ar4、Ar5のうちの1又は2個は上記一般式(3)中の−D−SiQ c で表される基と結合する結合手を有する)で表される構造を有するものが挙げられる。ここで、上記式(4)中のk、Ar1〜Ar5および−D−SiQ cで表される基(表中のXで表される基)の好適な組み合わせを表1〜32の化合物番号4,6,8,9,15,18,19,21,22,24〜27,30〜33,36,37,48,67,73,74,76,77,79,81,83〜86,88〜90,92,94,95,112,117,118,121〜125,127,128,130,132,133,161,162,165〜168,171〜174,177,178に、それぞれ示す。
【0023】
【表1】
【0024】
【表2】
【0025】
【表3】
【0026】
【表4】
【0027】
【表5】
【0028】
【表6】
【0029】
【表7】
【0030】
【表8】
【0031】
【表9】
【0032】
【表10】
【0033】
【表11】
【0034】
【表12】
【0035】
【表13】
【0036】
【表14】
【0037】
【表15】
【0038】
【表16】
【0039】
【表17】
【0040】
【表18】
【0041】
【表19】
【0042】
【表20】
【0043】
【表21】
【0044】
【表22】
【0045】
【表23】
【0046】
【表24】
【0047】
【表25】
【0048】
【表26】
【0049】
【表27】
【0050】
【表28】
【0051】
【表29】
【0052】
【表30】
【0053】
【表31】
【0054】
【表32】
【0059】
本発明の製造方法は、前述の通り、光機能性化合物(1)とけい素化合物(2)とを、反応終了時の反応系中の水の濃度が0.3重量%以下となるように反応させるものであるが、上記の反応は有機溶剤中で行うことが好ましい。ここで、本発明において使用される有機溶剤としては、具体的には、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミドなどの非プロトン性極性溶剤;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶剤;ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶剤、などが挙げられる。これらの有機溶剤の使用量は、通常、上記式(1)で表される光機能性化合物1重量部に対して1〜50重量部、好ましくは1.5〜30重量部である。
【0060】
また、本発明において、塩基の存在下で上記の反応を行うことは、反応が促進されて製造効率が向上するという点で好ましい。本発明において使用される塩基としては、具体的には、ピリジン、ピペリジン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルアミノピリジン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン(DBU)、水素化ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムなどが挙げられる。これらの塩基の使用量は、通常、上記式(1)で表される光機能性化合物に対して1〜3当量、好ましくは1〜2当量である。
【0061】
さらに、本発明においては、反応系中の水の濃度を制御する方法は、下記(a)〜(c):
(a)水と共沸し得る少なくとも1種の溶剤を用いて、反応系中の水を前記溶剤と共沸させることにより除去する方法、
(b)乾燥剤を通して加熱還流することにより反応系中の水を除去する方法、または、
(c)上記一般式(1)で表される化合物と上記一般式(2)で表される化合物との仕込量から予め得られる水の理論生成量に基づいて、反応系中の水の濃度が反応終了時に0.3重量%以下となる量の有機溶剤を使用する方法、
のうちのいずれかの方法であることが好ましく、下記(a)の方法であることが特に好ましい。このような方法を用いると、確実且つ簡便に反応系中の水の濃度を制御することができる傾向にある。
【0062】
上記(a)の方法において使用される水と共沸し得る溶剤としては、具体的には、ヘキサン、デカンなどの脂肪族炭化水素系溶剤;ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素系溶剤;クロロホルム、トリクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素系溶剤、などが挙げられ、これらの溶剤は使用する原料化合物や目的化合物の種類によって適宜選択される。なお、上記(a)の方法により反応系中の水の濃度を制御する場合、水と共沸し得る溶剤とN,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、スルホラン、ヘキサメチルホスホリックトリアミドなどの非プロトン性極性溶剤とを併用して好適に反応を行うことができるが、水と共沸し得る溶剤の使用量は非プロトン性極性溶剤に対して体積比で0.01〜5であることが好ましく、0.1〜3であることが好ましい。水と共沸し得る溶剤の使用量が前記下限値未満であると反応系からの水の除去が不十分となる傾向にあり、他方、前記上限値を超えると反応により生じる塩の溶剤への溶解度が低下する傾向にある。また、上記(a)の方法においては、上記一般式(1)で表される光機能性化合物と、水と共沸し得る溶剤と、非プロトン性極性溶剤と、塩基と、を混合し、予め加熱共沸によって水を除去した後、上記式(2)で表されるけい素化合物を加えて反応を行うことがさらに好ましい。
【0063】
上記(b)の方法において使用される乾燥剤としては、反応系中の水を十分に除去し得るものであれば特に制限はなく、シリカゲル、合成ゼオライト(モレキュラーシーブなど)、硫酸ナトリウムなどの従来より公知の乾燥剤を使用することが可能である。これらの乾燥剤の使用量は、生成する水の理論量1重量部に対して好ましくは0.5〜10重量部であり、より好ましくは1〜7重量部である。乾燥剤の使用量が前記下限値未満であると反応系からの水の除去が不十分となり、他方、前記上限値を超えると反応中の攪拌や後処理が困難となる傾向にある。
【0064】
上記(c)の方法における水の理論生成量は、例えば以下のようにして算出される。すなわち、一般式(1)および(2)における反応性基X、Yがカルボキシル基とハロゲン基(−Cl、−Br、−Iなど)との組み合わせである場合などには、結合の形成に伴い生成するハロゲン化水素(HCl、HBr、HIなど)と、反応系の塩基と、から生成する水の量が理論生成量となる。このようにして得られた水の理論生成量に基づいて、反応終了時の水の濃度が0.3重量%以下となるために必要な量の有機溶剤(非プロトン性極性溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤など)が使用される。
【0065】
本発明において、光機能性化合物(1)とけい素化合物(2)とを反応させる際の反応温度に特に制限はなく、例えば有機溶剤中での反応を行う場合には反応温度を0℃から溶剤の沸点の間で任意に設定することができるが、好ましくは0〜150℃で行うことが好ましい。反応温度が0℃未満であると反応の効率が低下する傾向にあり、他方、反応温度が150℃を超えるとけい素化合物の加水分解やオリゴマー化などの副反応が起こりやすくなる傾向にある。また、本発明における反応時間は反応温度などの他の反応条件によって異なるが、通常0.5〜10時間であり、好ましくは0.7〜5時間である。
【0066】
上記の製造方法により得られる光機能性有機けい素化合物は、前述の通り、上記式(3)で表されるものである。上記式(3)中、Wで表される光機能性有機基は光機能性化合物(1)から、−SiQ c で表される置換けい素基はけい素化合物(2)から、それぞれ導入されるものであり、W、Q、cはそれぞれ光機能性化合物(1)またはけい素化合物(2)の説明におけるW、Q、cと同一の定義内容を表す。また、上記式(3)中、Dで表される2価の基は反応性基XとYとの反応によって形成されるものであり、2価の基D中には反応性基XとYとの反応により形成される基、および2価の基(D’)a、D”が含まれる。ここで、反応性基XとYとから形成される結合としては、エーテル基(−O−)エステル基(−COO−)などが挙げられるが、エーテル基およびエステル基は、目的化合物の熱、湿度などの環境変化に対する安定性、および合成の容易性の点で好ましい。
【0067】
本発明の製造方法により得られる光機能性有機けい素化合物(3)は、必要に応じて、以下の手順で単離、精製することができる。すなわち、上記の反応終了後、反応液に水を加え、トルエン、ヘキサン、酢酸エチルなどの溶剤で抽出し、得られた有機層を水洗、乾燥を行い、さらに溶剤を留去することによって光機能性有機けい素化合物(3)が得られる。さらに必要に応じて、得られた光機能性有機けい素化合物(3)をシリカゲル、活性アルミナ、活性白土などの吸着剤を用いて精製を行うことが可能である。
【0068】
このように、本発明によれば、熱や機械的外力などの物理的なストレスに対して十分に安定な有機電子デバイスの材料として有用な光機能性有機けい素化合物(3)を、十分に高い純度と十分に高い収率とをもって安価に製造することができる。そして、本発明の製造方法によって得られた光機能性有機けい素化合物は、硬度、耐環境性などに優れ且つ表面エネルギーの低いポリシロキサン有機光導電性樹脂の材料として有用であり、コピー、レーザビームプリンタなどの電子写真画像形成装置に使用される電子写真感光体、あるいは有機エレクトロルミネッセンス素子などにおいて必要とされる電荷輸送層の材料といった用途のみならず、有機メモリー素子、有機波長変換素子などのその他の光機能性有機デバイスなどの幅広い分野において好適に使用される。
【0069】
【実施例】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0070】
実施例1
200mlの二口フラスコに、下記式(1−a):
【化6】
で表されるカルボン酸10.1g、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン4.6g、ジメチルホルムアミド50mlおよびトルエン30mlを加え、窒素雰囲気下ディーンスタークトラップを用いて水分を除去しながら3時間反応させた。この混合物を100℃に加熱しながら[(クロロメチル)フェネチル]トリメトキシシラン(m,p−置換体の混合物)7.6gを加え、100℃で4時間撹拌した。反応終了時の反応系(反応液)中の水の濃度を水分測定装置(CA−07:三菱化学製)を用いて測定したところ、0.05重量%であった。
【0071】
さらに、上記の反応液にトルエン500mlを加え、蒸留水で十分に洗浄した後、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下溶媒を除去した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶剤 : トルエン/塩化メチレン)により精製し、下記式(3−a):
【化7】
で表される化合物10.1gを得た(収率:64%、純度:98%、高速クロマトグラフィにて測定)。
【0072】
比較例1
200mlの二口フラスコに、上記式(1−a)で表されるカルボン酸10.1g、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン4.6gおよびジメチルホルムアミド50mlを加え、窒素雰囲気下100℃に加熱しながら[(クロロメチル)フェネチル]トリメトキシシラン(m,p−置換体の混合物)7.6gを加え、100℃で4時間撹拌した。反応終了時の反応系(反応液)中の水の濃度を水分測定装置(CA-07:三菱化学製)を用いて測定したところ0.56重量%であった。
【0073】
さらに、上記の反応液にトルエン500mlを加え、蒸留水で十分に洗浄した後、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下溶媒を除去した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶剤 : トルエン/塩化メチレン)により精製し、上記式(3−a)で表される化合物7.1gを得た(収率:45%、純度:96%)。
【0074】
実施例2
2000mlのナス型フラスコに、下記式(1−b):
【化8】
で表されるカルボン酸48.5g、炭酸カリウム32gおよびジメチルホルムアミド1500mlを加え、窒素雰囲気下100℃に加熱しながらヨードプロピルトリイソプロポキシシラン82.0gを加え、100℃で6時間撹拌した(水の理論生成量:3.75g、反応終了時の水の理論濃度:約0.23重量%)。反応終了時における反応系(反応液)中の水の濃度を水分測定装置(CA−07:三菱化学製)を用いて測定したところ0.25重量%であった。
【0075】
その後、上記の反応液にトルエン500ml及び蒸留水3000mlを加え、有機層を蒸留水で十分に洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、さらに減圧下溶媒を除去した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶剤:トルエン/塩化メチレン)により精製し、下記式(3−b):
【化9】
で表される化合物90.2gを得た (収率:90%、純度:98%)。
【0076】
比較例2
ジメチルホルムアミドの量を300mlとしたこと以外は実施例2と同様にして反応を行った(水の理論生成量:3.75g、反応終了時の水の理論濃度:0.81重量%)。反応終了時の反応系(反応液)中の水の濃度を水分測定装置(CA−07:三菱化学製)を用いて測定したところ0.82重量%であった。
【0077】
その後、上記の反応液にトルエン500ml及び蒸留水300mlを加え、有機層を蒸留水で十分に洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、さらに減圧下溶媒を除去した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶剤:トルエン/塩化メチレン)により精製し、上記式(3−b)で表される化合物75.9gを得た(収率:76%、純度:98%)。
【0078】
実施例3
200mlのナス型フラスコに、下記式(1−c):
【化10】
で表されるフェノール誘導体10.0g、炭酸カリウム8.3gおよびメチルエチルケトン100mlを加え、モレキュラーシーブ4Aを用いて乾燥させながら24時間加熱還流した。次に、この混合物にヨードプロピルトリイソプロポキシシラン22.0gを加え、窒素雰囲気下で72時間還流した。反応終了時の反応系(反応液)中の水分濃度を水分測定装置(CA−07:三菱化学製)を用いて測定したところ0.14重量%であった。
【0079】
その後、上記の反応液にトルエン500mlおよび蒸留水300mlを加え、有機層を蒸留水で十分に洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、さらに減圧下溶媒を除去した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶剤:トルエン/塩化メチレン)により精製し、下記式(3−c):
【化11】
で表される化合物18.1gを得た (収率:76%、純度:98%)。
【0080】
比較例3
200mlのナス型フラスコに、上記式(1−c)で表されるフェノール誘導体10.0g、炭酸カリウム8.3g、メチルエチルケトン100mlおよびヨードプロピルトリイソプロポキシシラン22.0gを加え、窒素雰囲気下で72時間還流した。反応終了時の反応系(反応液)中の水の濃度を水分測定装置(CA−07:三菱化学製)を用いて測定したところ0.70重量%であった。
【0081】
その後、上記の反応液にトルエン500mlおよび蒸留水300mlを加え、有機層を蒸留水で十分に洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、さらに減圧下溶媒を除去した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶剤:トルエン/塩化メチレン)により精製し、上記式(3−c)で表される化合物15.8gを得た (収率:66%、純度:96%)。
【0082】
このように、実施例1〜3においてはいずれも、十分に高い収率と十分に高い純度をもって目的の光機能性有機けい素化合物が得られた。これに対して、比較例1〜3の場合はいずれも粗生成物の段階で純度が低く、高純度の目的化合物を得るための精製処理を行うと収率が不十分であった。
【0083】
【発明の効果】
以上説明した通り、本発明によれば、電子写真感光体や有機エレクトロルミネッセンス素子などの材料として有用な光機能性有機けい素化合物を、十分に高い純度と十分に高い収率とをもって且つ安価に製造することが可能となる。
Claims (5)
- 塩基の存在下で、下記一般式(1)で表される光機能性化合物と下記一般式(2)で表されるけい素化合物とから下記一般式(3)で表される光機能性有機けい素化合物と水又はハロゲン化水素の少なくとも一方とを生成する反応において、反応系中の水の濃度が反応終了時に0.3重量%以下となるように反応を行うことを特徴とする光機能性有機けい素化合物の製造方法。
W−[(D’)a−X]b (1)
Y−D”−SiQ c (2)
W−[D−SiQ c]b (3)
[式中、Wは下記一般式(4)で表される光機能性有機基を表し、
D、D’およびD”はそれぞれ2価の官能基であって、D’は−C 2 H 4 −を表し、D”は−CH 2 −C 6 H 4 −C 2 H 4 −、または−C 3 H 6 −を表し、
XおよびYはそれぞれ互いに反応し得る反応性基であって、XとYとの組み合わせは、カルボキシル基とクロロ基との組み合わせ、カルボキシル基とヨード基との組み合わせ、または水酸基とヨード基との組み合わせを表し、
Qはメトキシ基、またはイソプロポキシ基を表し、
aは0または1を表し、bは1または2を表し、cは3を表す。
- トルエンを用いて、反応系中の水をトルエンと共沸させることにより除去し、反応系中の水の濃度が反応終了時に0〜0.3重量%となるように反応を行うことを特徴とする、請求項1に記載の光機能性有機けい素化合物の製造方法。
- 前記一般式(1)中のXで表される反応性基と前記一般式(2)中のYで表される反応性基との間に反応により形成される結合がエーテル結合またはエステル結合であることを特徴とする、請求項1または2に記載の光機能性有機けい素化合物の製造方法。
- 乾燥剤を通して加熱還流することにより前記反応系中の水を除去し、前記反応系中の水の濃度が反応終了時に0〜0.3重量%となるように反応を行うことを特徴とする、請求項1又は3に記載の光機能性有機けい素化合物の製造方法。
- 前記一般式(1)で表される化合物と前記一般式(2)で表される化合物との仕込み量から予め得られる水の理論生成量に基づいて、前記反応系中の水の濃度が反応終了時に0〜0.3重量%となるような量のジメチルホルムアミドを用いて反応を行うことを特徴とする、請求項1又は3に記載の光機能性有機けい素化合物の製造方法。
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