JP4061132B2 - フッ素含有ポリシラン化合物 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、フッ素含有ポリシラン化合物に関する。さらに詳しくは、LSI、薄膜トランジスタ、光電変換装置、感光体、光学材料、接着剤、樹脂封止剤、有機EL用バンク材等の製造に使用される、高い機能性を有するフッ素含有ポリシラン化合物、その製造方法、並びに該ポリシラン化合物を含む各種材料に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来からポリシラン材料は、その特異的な化学的、光学的性質が注目されており、耐熱材料、絶縁材料、撥水性材料、光学デバイス材料などとして期待されている。しかし、同族の炭素系ポリマーと比較すると、その調製方法あるいは化学修飾の方法が限られているため、ポリシランの種類および応用範囲が限られている。
【0003】
例えば、特開平8−227157号公報には、側鎖にフッ素を含有しない炭化水素基を持つジクロロシランモノマーと側鎖にフッ素を含有する炭化水素基を持つジクロロシランモノマーとを共重合させて、感光性ポリシランを調製する方法が開示されている。しかし、この共重合により、Si−Si結合以外にシロキサン結合(Si−O−Si)を含む主鎖が形成される。そのため、ポリシランの特性の一つである、Si−Si結合に由来する高屈折率が得られないという問題がある。
【0004】
このように、耐熱性、透明性などのポリシランが持つ高い基本物性を有し、かつ絶縁性、屈折率、撥水性などの諸特性が自由に調整可能なポリシラン化合物は、得られていないのが、実情である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記従来の課題を解決することにあり、その目的とするところは、耐熱性、透明性などのポリシランが持つ高い基本物性を有し、かつ絶縁性、屈折率、撥水性などの諸特性を自由に調整することが可能なポリシラン化合物を提供することにある。本発明の他の目的は、絶縁性、屈折率、撥水性などの諸特性に寄与するフッ素含有基を有し、上記優れた特性を有する、フッ素含有ポリシラン化合物を提供することにある。本発明のさらに他の目的は、上記優れた特性を有し、かつ有機溶媒に可溶であり、有機溶媒溶液として基体に塗布することができ、上記所望の特性を与える薄膜を形成することができるフッ素含有ポリシラン化合物を提供することにある。本発明の他の目的は、上記フッ素含有ポリシラン化合物を簡便に製造する方法を提供することにある。本発明のさらに他の目的は、該フッ素含有ポリシラン化合物を含む光学デバイス材料、絶縁材料、有機エレクトロルミネッセンス(EL)材料などの各種材料を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明のフッ素含有ポリシラン化合物は、分子内にフッ素含有基を有し、該フッ素含有基の少なくとも1個が、酸素原子を介して主鎖のケイ素原子に結合している。
【0007】
好適な実施態様においては、上記フッ素含有ポリシラン化合物は、下記一般式(1)および(2)の少なくとも一方を繰り返し単位として有するポリマーまたはオリゴマーである:
【0008】
【化3】
Figure 0004061132
【0009】
ここで、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子またはフッ素含有基であり、Rは、アルキル基またはアリール基である。
【0010】
好適な実施態様においては、上記フッ素含有基は、炭素数1〜24のフッ素含有アルキル基である。
【0011】
好適な実施態様においては、上記Rは、メチル基またはフェニル基である。
【0012】
本発明のフッ素含有ポリシラン化合物の製造方法は、以下の工程を包含する:次式で示される繰り返し単位(3)を有するアリール置換ポリシラン化合物を脱アリールハロゲン化する工程:
【0013】
【化4】
Figure 0004061132
【0014】
(ここで、Rは各々独立してアルキル基またはアリール基であり、該アリール置換ポリシラン化合物中、少なくとも1個はアリール基である);および得られたハロゲン基含有ポリシラン化合物に、ヒドロキシル基とフッ素含有基とを有する化合物を反応させる工程。
【0015】
好適な実施態様においては、上記フッ素含有基は、炭素数1〜24のフッ素含有アルキル基である。
【0016】
好適な実施態様においては、上記Rは、メチル基またはフェニル基である。
【0017】
本発明の光学デバイス材料は、上記いずれかのポリシラン化合物を含む。
【0018】
本発明の絶縁材料は、上記いずれかのポリシラン化合物を含む。
【0019】
本発明の有機EL用バンク材は、上記いずれかのポリシラン化合物を含む。
【0020】
【発明の実施の形態】
A.フッ素含有ポリシラン化合物
本発明のフッ素含有ポリシラン化合物は、分子内にフッ素含有基を有するポリシラン化合物であって、該フッ素含有基の少なくとも1個が、酸素原子を介して主鎖のケイ素原子に結合している。
【0021】
このフッ素含有ポリシラン化合物としては、例えば、下記一般式(1)および(2)の少なくとも一方を繰り返し単位として有するポリマーまたはオリゴマーが挙げられる:
【0022】
【化5】
Figure 0004061132
【0023】
ここで、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子またはフッ素含有基であり、Rは、アルキル基またはアリール基である。
【0024】
すなわち、本発明のフッ素含有ポリシラン化合物は、フッ素含有基を側鎖に有するポリシランあるいはオリゴシランである。このポリシラン化合物は、ホモポリマーであってもコポリマーであってもよく、さらには一般式(1)または(2)で表される繰り返し単位以外の繰り返し単位を有するコポリマーであってもよい。
【0025】
上記RおよびRのフッ素含有基としては、フッ素を含有する炭素数1〜24のアルキル基またはアリール基が好ましく、これらの基は、カルボキシル基、アクリロイル基などを含有していてもよい。好ましい基は、後述のヒドロキシル基とフッ素とを有する化合物に由来する基である。
【0026】
のアルキル基としては、メチル基、エチル基、ブチル基などの低級アルキル基が挙げられる。好ましいアルキル基はメチル基である。Rのアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、トルイル基、メトキシフェニル基などが挙げられる。好ましいアリール基は、フェニル基である。
【0027】
本明細書で「ポリシラン化合物」とは、主鎖がSi−Si結合の連続でなり、実質的に主鎖にシロキサン結合を含有しないケイ素含有オリゴマーまたはポリマーをいう。「機能性」とは、屈折率、絶縁性、撥水性などの特定の性質を指し、例えば「機能性ポリシラン」とは、ポリシランが本来有する性質に加え、上記所望の性質を有するポリシランをいう。
【0028】
本発明のフッ素含有ポリシラン化合物の分子量は特に限定されないが、通常、200〜100,000である。
【0029】
B.フッ素含有ポリシラン化合物の合成
本発明のフッ素含有ポリシラン化合物は、例えば、アリール置換ポリシラン化合物を出発物質として用いる、次のスキームで示される方法により合成される。
【0030】
【化6】
Figure 0004061132
【0031】
この方法においては、上記式(3)の単位を有するアリール置換ポリシラン化合物を出発物質とする。このポリシラン化合物は、アリール基を有するポリシラン化合物あるいはアリール基を有するオリゴシラン化合物である。この化合物のRは上記式(2)の化合物のRと同じアリール基あるいはアルキル基であるが、少なくとも1個のRは、アリール基である。このアリール置換ポリシラン化合物を(i)脱アリールし、ハロゲン化(脱アリールハロゲン化)すること(工程(a))により、ポリシリルハライドあるいはオリゴシリルハライド(以下、ハロゲン基含有ポリシラン化合物と総称する;上記スキームにおいて(4)または(5)の一般式の単位を有するポリシラン)とする。次いで、(ii)得られたハロゲン基含有ポリシラン化合物に、ヒドロキシル基とフッ素含有基とを有する化合物を反応させること(工程(b))により、フッ素含有ポリシラン化合物(上記スキームにおいて(1)および(2)のうちの少なくとも一方の単位を有するポリシラン)が得られる。なお、上記スキームにおいて、Xはハロゲンを示す。
【0032】
以下、このスキームに従って、フッ素含有ポリシラン化合物の合成について、詳細に説明する。
【0033】
B-1 アリール置換ポリシラン化合物の合成(出発物質の調製)
出発物質であるアリール置換ポリシラン化合物(3)は、該ポリシラン化合物(3)の構成単位を有するモノマーを原料として、例えば、以下の(I)から(V)の方法のうちのいずれかにより製造することができる:(I)アリール基を有するハロシラン類を、ハロゲン原子に対して当量のアルカリ金属の存在下で、脱ハロゲン縮重合させる方法(いわゆる「キッピング法」、J. Am. Chem. Soc.,第110巻, 124頁(1988年)、Macromolecules, 23巻, 3423頁(1990年));(II)電極還元によりアリール基を有するハロシラン類を脱ハロゲン縮重合させる方法(J. Chem. Soc., Chem. Commun., 1161頁(1990年)、J. Chem. Soc., Chem. Commun., 897頁(1992年));(III)金属触媒の存在下にアリール基を有するヒドロシラン類を脱水素縮重合させる方法(特開平4-334551号公報);(IV)ビフェニルなどで架橋されたジシレンのアニオン重合による方法(Macromolecules, 23巻, 4494頁(1990年));および、(V)フェニル基あるいはアルキル基を有する環状ケイ素化合物を上記の方法で合成した後、公知の方法(例えば、Z. Anorg. Allg. Chem., 459巻, 123-130頁(1979年)など)によりヒドロ置換体やハロゲン置換体などに誘導する。これらのハロゲン化環状ケイ素化合物(シクロシラン化合物)は公知の方法(例えば、Mh. Chem. 第106巻, 503頁(1975年)、Z. Anorg. Allg. Chem., 第621巻, 1517頁(1995年)、J. Chem. Soc., Chem. Commun., 777頁(1984年))で合成することができる。
【0034】
B-2 アリール置換ポリシラン化合物の脱アリールハロゲン化(工程a)
アリール置換ポリシラン化合物(3)の脱アリールハロゲン化は、該アリール置換ポリシラン化合物とハライドとを反応させることによって行われる。好ましいハライドとしては、塩化水素、臭化水素、および塩化アセチルが挙げられる。中でも塩化水素が好ましく用いられる。
【0035】
これらのハライドは、アリール置換ポリシラン化合物のアリール基1モルに対して、1〜10モルの割合で添加される。添加量は、導入したいフッ素含有基の量を考慮して、決定すればよい。
【0036】
脱アリールハロゲン化に使用する溶媒としては、脱アリールハロゲン化を阻害しないならば、特に限定されない。炭化水素系溶媒あるいはハロゲン化炭化水素系溶媒が好ましく用いられる。
【0037】
炭化水素系溶媒としては、例えばn−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、デカン、ジシクロペンタジエン、ベンゼン、トルエン、キシレン、デュレン、インデン、テトラヒドロナフタレン、デカヒドロナフタレン、スクワランなどを挙げることができる。ハロゲン化炭化水素系溶媒としては、例えば、クロロホルム、ジククロメタン、クロロトルエンなどを挙げることができる。これらのうち、化合物の溶解性の点から、トルエン、キシレン、クロロホルム、ジクロロメタンなどが好ましい。
【0038】
用いる炭化水素系溶媒あるいはハロゲン化炭化水素溶媒は、水分を予め除去しておくことが望ましい。これらの溶媒の使用量は特に限定されないが、アリール置換ポリシラン化合物1重量部に対して、好ましくは1〜20重量部であり、より好ましくは2〜10重量部である。
【0039】
脱アリールハロゲン化反応の温度は、−78℃〜+100℃であることが好ましく、0〜50℃であることがさらに好ましい。反応温度が−78℃を下回ると反応速度が遅く生産性が上がらず、また、反応温度が+100℃を越える場合には、反応が複雑になり、得られる高反応性ポリシラン化合物の溶解性が低下する傾向にある。このようにして、ハロゲン基含有ポリシラン化合物(上記スキームにおいて(4)または(5)の一般式の単位を有するポリシラン)が形成される。反応液から生成したハロゲン基含有ポリシラン化合物を単離し、または必要に応じて溶剤置換などを行い、あるいは反応液をそのままそのまま次工程に用いてもよい。
【0040】
B-3 フッ素含有基の導入(工程b)
上述のハロゲン基含有ポリシラン化合物に、ヒドロキシル基とフッ素含有基とを有する化合物を反応させることによりフッ素含有基が導入され、フッ素含有ポリシラン化合物((1)および(2)のうちの少なくとも一方の単位を有するポリシラン)が得られる。
【0041】
上記ハロゲン基含有ポリシラン化合物は、ケイ素原子上に加水分解性ハロゲン原子(X)を有している。この加水分解性ハロゲン原子は、上記ヒドロキシル基とフッ素とを有する化合物を反応させることにより、該化合物に由来する基と置換し、安定なエーテル結合が形成される。
【0042】
上記ヒドロキシル基とフッ素とを有する化合物としては、フッ素置換脂肪族アルコール、フッ素置換芳香族アルコール化合物等が挙げられる。このような化合物としては、例えば、次の化合物がある:1H,1H−トリフルオロエタノール、1H,1H−ペンタフルオロプロパノール、6−(パーフルオロエチル)ヘキサノール、1H,1H−ヘプタフルオロブタノール、2−(パーフルオロブチル)エタノール、3−(パーフルオロブチル)プロパノール、6−(パーフルオロブチル)ヘキサノール、2−パーフルオロプロポキシ−2,3,3,3−テトラフルオロプロパノール、2−(パーフルオロヘキシル)エタノール、3−(パーフルオロヘキシル)プロパノール、6−(パーフルオロヘキシル)ヘキサノール、2−(パーフルオロオクチル)エタノール、3−(パーフルオロオクチル)プロパノール、6−(パーフルオロオクチル)ヘキサノール、2−(パーフルオロデシル)エタノール、1H,1H−2,5−ジ(トリフルオロメチリル)−3,6−ジオキサウンデカフルオロノナノール、6−(パーフルオロ−1−メチルエチル)ヘキサノール、2−(パーフルオロ−3−メチルブチル)エタノール、2−(パーフルオロ−5−メチルヘキシル)エタノール、2−(パーフルオロ−7−メチルオクチル)エタノール、1H,1H,3H−テトラフルオロプロパノール、1H,1H,5H−オクタフルオロペンタノール、1H,1H,7H−ドデカフルオロヘプタノール、1H,1H,9H−ヘキサデカフルオロノナノール、2H−ヘキサフルオロ−2−プロパノ−ル、1H,1H,3H−ヘキサフルオロブタノール、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロへキサン−1,6−ジオール、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7−ドデカフルオロ−1,8−オクタンジオール、2,2−ビス(トリフルオロメチル)プロパノール、3−パーフルオロヘキシル−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−パーフルオロオクチル−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−(パーフルオロ−3−メチルブチル)−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−(パーフルオロ−5−メチルヘキシル)−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−(パーフルオロ−7−メチルオクチル)−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−パーフルオロブチル−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、3−パーフルオロヘキシル−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、3−パーフルオロオクチル−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、3−(パーフルオロ−3−メチルブチル)−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、3−(パーフルオロ−5−メチルヘキシル)−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、3−(パーフルオロ−7−メチルオクチル)−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、ペンタフルオロベンジルアルコール、および4−トリフルオロメチルベンジルアルコール。これらの化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて使用することもできる。
【0043】
これらのヒドロキシル基とフッ素含有基とを有する化合物の使用量は、ハロゲン基含有ポリシラン化合物((4)または(5)の一般式の単位を有するポリシラン)のハロゲン原子1モルに対して0.1〜4モル当量であり、好ましくは0.2〜1.0モル当量である。すなわち、ハロゲン原子は、全てフッ素含有基含有化合物で置換されてもよいし、溶解性やその他の特性を考慮して、一部のみが置換されるように処理されてもよい。
【0044】
ハロゲン基含有ポリシラン化合物((4)または(5)の一般式の単位を有するポリシラン)に、ヒドロキシル基とフッ素含有基とを有する化合物を反応させる際に用いる溶媒は、ハロゲン基含有ポリシラン化合物と反応しない溶媒であれば特に限定されない。通常、炭化水素系溶媒あるいはハロゲン化炭化水素系溶媒が好ましい。上記脱アリールハロゲン化反応に用いられる、上記例示した溶媒のいずれもを使用することが可能であり、例えば、工程aで使用したのと同じ溶媒を使用することができる。これらの溶媒は、単独であるいは2種以上を混合して使用することができる。反応は、−78〜+100℃で行われる。0〜40℃がさらに好ましい。
【0045】
上記反応により、(1)および(2)の少なくとも一方を繰り返し単位として有する本発明のフッ素含有ポリシラン化合物が得られる。残留した加水分解性ハロゲン原子は、ヒドロキシル基を有しフッ素を含有しない化合物で処理することにより、該化合物に由来する基と置換し、安定なエーテル結合が形成される。(1)および(2)式において、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子またはフッ素含有基であり、該フッ素含有基は、上述のヒドロキシル基とフッ素とを有する化合物に由来する。
【0046】
このようにして得られる本発明のフッ素含有ポリシラン化合物は、耐熱性、透明性などのポリシランが持つ高い基本物性を有し、かつ絶縁性、屈折率、撥水性などの諸特性に優れる。従って、該ポリシラン化合物中のフッ素含有量を調節することにより、所望の特性を有するポリシラン化合物を得ることができる。従って、このフッ素含有ポリシラン化合物は、以下に述べるように各種の材料として利用することが可能である。
【0047】
C.フッ素含有ポリシラン化合物を含有する各種材料
本発明のフッ素含有ポリシラン化合物は、上述のように、各種の材料として利用することが可能である。例えば、光学デバイス材料、絶縁材料、有機EL用バンク材などとして利用される。このフッ素含有ポリシラン化合物は、構造内にSi−Si結合とフッ素含有基とを有しているので、非常に優れた耐熱性および高い透明性を有するのみならず、該フッ素含有ポリシラン化合物の種類およびフッ素含有量を選択することにより、所望のレベルの絶縁性、撥水性、屈折率などを得ることが可能である。例えば、所望の屈折率を有するように調製して、レンズ、LEDのガラス部分の封止材料などとして、使用することができる。さらに、本発明のフッ素含有ポリシラン化合物は有機溶媒に可溶であり、有機溶媒溶液の塗工性が良好であるため、塗工により、薄膜を形成することが容易であり、薄膜として利用する用途に特に有用である。例えば、数μmの厚みの薄膜として、光回路、光導波路、マイクロレンズなどとして利用することができる。所望の特性を有するように、さらに特定の官能基を有する他のポリマー(例えば、感光性あるいは熱硬化性樹脂)と混合して用いることも可能である。
【0048】
上記薄膜や成形体を調製する際に使用され得る溶媒としては、例えば、炭化水素系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒が挙げられる。フッ素含有ポリシラン化合物の濃度は、特に制限はないが、好ましくはフッ素含有ポリシラン化合物を含む全固形分100重量部に対して、0.05〜50重量部である。
【0049】
炭化水素系溶媒としては、例えば、n−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、デカン、ジシクロペンタジエン、ベンゼン、トルエン、キシレン、デュレン、インデン、テトラヒドロナフタレン、デカヒドロナフタレン、スクワランなどを挙げることができる。
【0050】
ケトン系溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、ジブチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノンなどを挙げることができる。
【0051】
エーテル系溶媒溶媒としては、例えば、次の化合物を挙げることができる:ジエチルエーテル、ジn−プロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、エチルプロピルエーテル、アニソール、フェネトール、ジフェニルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールメチルエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなど。
【0052】
エステル系溶媒としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソアミル、酢酸メチルセロソルブ、酢酸エチルセロソルブ、酢酸ブチルセロソルブ、乳酸エチル、乳酸プロピル、乳酸ブチル、乳酸イソアミル、酢酸プロピレングリコールメチルエーテルアセテートなどを例示することができる。
【0053】
これらの有機溶媒は、単独で、あるいは2種以上を混合して用いることもできる。
【0054】
上記フッ素含有ポリシラン化合物を塗布して、薄膜をその表面に形成するための基板は、特に限定されない。例えば、石英、ホウ珪酸ガラス、ソーダガラスなどのガラスでなるガラス基板;金、銀、銅、ニッケル、チタン、アルミニウム、タングステンなどの金属でなる金属基板;さらに、これらの金属でなる層を表面に有するガラス基板またはプラスチック基板のような複合基板が挙げられる。
【0055】
本発明のフッ素含有樹脂を含む塗工液を基板に塗布する方法としては、スピンコート法、ロールコート法、カーテンコート法、ディップコート法、スプレー法、インクジェット法等の方法が挙げられる。また、塗布する場合の雰囲気は特に限定されず、空気中で行うことができる。好ましくは、乾燥空気中で行われる。
【0056】
スピンコート法を用いる場合のスピナーの回転数は形成する薄膜の厚み、塗布溶液の組成などにより決まるが、100〜5000rpm、より好ましくは300〜3000rpmが採用される。塗布した後は、溶媒を除去するために加熱処理を行うことが好ましい。加熱する温度は、使用する溶媒の種類、沸点により異なるが、好ましくは、90〜200℃である。加熱は上記塗布工程と同じ乾燥空気雰囲気中で行なうことが好ましい。
【0057】
このようにして、フッ素含有ポリシラン化合物でなる薄膜が基板上に形成され、上述のような各種用途に用いられる。
【0058】
【実施例】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0059】
以下の実施例において得られたフッ素含有ポリシラン化合物の評価方法は次のとおりである。
【0060】
(評価方法)
各々の実施例で得られたフッ素含有ポリシラン化合物を100℃に加熱して溶融し、型に注入して、縦10cm、横10cmで厚みが1mmのシート状の試験片を得る。これとは別に、フッ素含有ポリシラン化合物を含む溶液を、スピンナーを用いてガラス基板上に塗布した後、90℃のホットプレート上で120秒間プリベークすることにより膜厚約2μmの薄膜を形成する。この成形体または薄膜を用いて下記の評価を行う。
【0061】
1.光線透過率および耐熱性
薄膜を有する基板を240℃で60分間加熱し、日立製分光光度計U−2000を用いて分光透過率を測定し、可視光領域における最低透過率を光透過率とする。光線透過率が95%以上である場合を耐熱性良好(○)、そして95%未満である場合を耐熱性不良(×)とする。
【0062】
2.屈折率
薄膜を有する基板を240℃で60分間加熱した後、光干渉式膜質測定機にて830nmにおける薄膜の屈折率を測定する。
【0063】
3.撥水性
薄膜を有する基板を240℃で60分間加熱した後、23℃にて、薄膜上に純水を1滴滴下し、その接触角を測定する。
【0064】
4.絶縁性
プレシジョンLCRメーターHP4284A(アジレントテクノロジー社製)を用い、室温にて周波数1MHzにおける試験片の誘電特性(比誘電率および誘電正接)を測定する。
【0065】
(実施例1)
(デカフェニルシクロペンタシランの脱フェニルハロゲン化(工程a))
【0066】
【化7】
Figure 0004061132
【0067】
温度計、冷却器、ガス吹込み管、および攪拌装置を備えた1Lのガラス製反応容器内を窒素ガスで置換した後、乾燥したトルエン500gとデカフェニルシクロペンタシラン250gを仕込み、攪拌し、懸濁させた。この懸濁液に塩化アルミニウムを10.0g加えた後、乾燥塩化水素ガスを導入した。NMRで反応を追跡し、フェニル基の約25%がクロル基に置換された時点で反応を終了した。アルミニウム化合物を濾過除去した後、乾燥窒素ガスを導入し、溶存塩化水素ガスを追い出した。得られた濾液を減圧濃縮し、トルエンをほぼ留去して、ポリクロロシランの黄色澄明溶液299.0gを得た。不揮発分は、71.0%、塩素含量は7.6%であった(収率95.6%)。デカフェニルシクロペンタシランを脱フェニルハロゲン化して得られたポリクロロシラン溶液は、そのまま次工程に用いた。
【0068】
(ポリクロロシランへのペンタフルオロプロピル基の導入(工程b))
【0069】
【化8】
Figure 0004061132
【0070】
ガラス製反応容器に、ペンタフルオロプロパノール8.2g、ジクロロメタン50g、およびトリエチルアミン4.5gを加え、水冷下で攪拌した。得られた溶液に、工程aで調製したポリクロロシラン溶液20.0gを徐々に滴下した。滴下終了後、室温で30分攪拌した。反応溶液は、淡黄色スラリーとなった。この反応液に、水30gを徐々に滴下した。有機層を分液後、水層をジクロロメタン30gで抽出した。有機層を合わせて水30gで2回洗浄し、乾燥剤(無水硫酸ナトリウム)で乾燥した。乾燥剤を濾過除去後、濾液を徐々に減圧し、ジクロロメタンを留去し、ペンタフルオロプロピル基を含有するポリクロロシラン10.7gを得た。
【0071】
得られたペンタフルオロプロピル基を含有するポリクロロシランを用いて、上述の光線透過率、耐熱性、屈折率、撥水性、および絶縁性について試験を行った。その結果を表1および2に示す。後述の実施例2〜4の結果についても併せて表1および2に示す。
【0072】
(実施例2)
(ポリクロロシランへのペンタフルオロプロピル基およびカルボキシル基の導入(工程(b)))
ガラス製反応容器に、ペンタフルオロプロパノール3.7g、ジメチロールブタン酸3.0g、ジクロロメタン50g、およびトリエチルアミン4.5gを入れ、水冷下で攪拌した。得られた溶液に、実施例1で調製したポリクロロシラン溶液20.0gを徐々に滴下した。滴下終了後、室温で30分攪拌した。反応溶液は、淡黄色スラリーとなった。この反応溶液に、水30gを徐々に滴下した。有機層を分液後、水層をジクロロメタン30gで抽出した。有機層を合わせて水30gで2回洗浄し、乾燥剤(無水硫酸ナトリウム)で乾燥した。乾燥剤を濾過除去後、徐々に減圧し、ジクロロメタンをほぼ留去し、ペンタフルオロプロピル基およびカルボキシル基を有するポリシラン化合物15.0gを得た。
【0073】
このポリシラン化合物を用いて、実施例1と同様に光線透過率、耐熱性、屈折率、撥水性、および絶縁性について試験を行った。
【0074】
(実施例3)
ペンタフルオロプロパノールの量を5.9g、そして、ジメチロールブタン酸の量を1.2gとしたこと以外は、実施例2と同様に行った。
【0075】
(実施例4)
(ポリクロロシランへのフッ素含有アクリレート誘導体およびカルボキシル基の導入)
ガラス製反応容器に、3−パーフルオロブチル−2−ヒドロキシプロピルアクリレート24.2g、ジメチロールブタン酸1.1g、ジクロロメタン50g、およびトリエチルアミン4.5gを入れ、水冷下で攪拌した。得られた溶液に、実施例1で調製したポリクロロシラン溶液20.0gを徐々に滴下した。滴下終了後、室温で30分攪拌した。反応溶液は、淡黄色スラリーとなった。この反応液に、水30gを徐々に滴下した。有機層を分液後、水層をジクロロメタン30gで抽出した。有機層を合わせて水30gで2回で洗浄し、乾燥剤(無水硫酸ナトリウム)で乾燥した。乾燥剤を濾過除去後、徐々に減圧し、ジクロロメタンをほぼ留去し、フッ素含有アクリレート誘導体およびカルボキシル基を有するポリシラン化合物を27.5gを得た。このポリシラン化合物を用いて、実施例1と同様に光線透過率、耐熱性、屈折率、撥水性、および絶縁性について試験を行った。
【0076】
【表1】
Figure 0004061132
【0077】
【表2】
Figure 0004061132
【0078】
表1および2の結果から、実施例1〜4で得られたフッ素含有ポリシラン化合物は、耐熱性、透明性など、ポリシランが本来有する性質を有し、かつ屈折率、撥水性、絶縁性などの諸物性を目的に応じて自由に調整することが可能であることがわかる。
【0079】
【発明の効果】
本発明によれば、このように、耐熱性、透明性などのポリシランが持つ高い基本物性を有し、かつ絶縁性、屈折率、撥水性などの諸特性が自由に調整可能なフッ素含有ポリシラン化合物が得られる。このフッ素含有ポリシラン化合物は所望の形状の成形体、あるいは基板上の薄膜とすることが容易であり、上記所望の特性を有する成形体、あるいは薄膜が得られる。このフッ素含有ポリシラン化合物は、光学デバイス材料、絶縁材料、有機エレクトロルミネッセンス(EL)材料などとして利用される。

Claims (5)

  1. 分子内にフッ素含有基を有するフッ素含有ポリシラン化合物であって、下記一般式(1)を繰り返し単位として有するポリマーまたはオリゴマーである、フッ素含有ポリシラン化合物:
    Figure 0004061132
    ここで、R は、フッ素含有基であり、、水素原子またはフッ素含有基である
  2. 前記フッ素含有基が、炭素数1〜24のフッ素含有アルキル基である、請求項1に記載のポリシラン化合物。
  3. 請求項1または2のポリシラン化合物を含む光学デバイス材料。
  4. 請求項1または2のポリシラン化合物を含む絶縁材料。
  5. 請求項1または2のポリシラン化合物を含む有機EL用バンク材。
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