JP4424756B2 - 組織特異的プロモーターを用いたトランスジェニック植物およびその作出方法 - Google Patents

組織特異的プロモーターを用いたトランスジェニック植物およびその作出方法 Download PDF

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Description

技術分野
本発明は、組織特異的なプロモーターを用いたトランスジェニック大麦植物およびその作出方法に関するもので、詳しくは植物種子中で特異的に発現する遺伝子のプロモーターを用いたトランスジェニック大麦植物およびその作出方法に関する。
背景技術
植物、例えば大麦は、飼料用および食品(ビール、ウイスキー等)製造用の主要農産物であり世界中で生産、消費されている。そして、大麦の多々ある使用目的に応じて、これまで様々な品種改良がなされてきた。従来の品種改良は、人工あるいは自然の変異の中から有効なものを選び出し、それらを交配などによって組み合わせ、その多数の後代の中から希望する表現形質を現すものを見つけ出すというものである。しかし、このような育種法は交配を利用しているため、導入する遺伝形質が近縁のものに限られ、また目的の品種を得るまでに長期間を要するというのが現状である。
一方、今日では、遺伝子工学、細胞工学といったバイオテクノロジーの技術によって、付与したい形質の遺伝子を植物へ直接導入する方法が大麦においても確立されつつあり、従来の育種法における問題点の解決策として期待されている(例えば醸造用大麦についてはBIO/TECHNOLOGY 13, 248(1995)参照)。ここで必要とされるのが組織特異的なプロモーターである。すなわち、外来遺伝子を植物に導入する際に、その遺伝子が目的の組織で適当な時期に十分量発現することが求められる。そのためには、組織特異的なプロモーターに外来遺伝子をつなぎ、このプロモーターの支配下で外来遺伝子を発現させる必要がある。
本発明は、特に植物種子中で特異的に発現するプロモーターを提供するものであり、その1例として大麦β−アミラーゼ遺伝子の転写を調節するプロモーター領域の単離および塩基配列の解明を達成することに成功した。
すなわち、大麦β−アミラーゼは、大麦種子から得られるβ−アミラーゼ(1,4−α−D−グルカンマルトヒドロラーゼ〔EC 3.2.1.2〕)であり、大豆β−アミラーゼとともに輸液用マルトースや食品用マルトースを工業的に生産するのに有用な酵素として知られている。また、大麦は発芽させて麦芽とした後、ビール製造や蒸留酒の原料として使われることでも知られており、麦芽に存在するβ−アミラーゼは、仕込段階での澱粉の糖化に最も重要な酵素の一つである。
大麦β−アミラーゼの遺伝子としては、品種Hiprolyの1754塩基からなるcDNAの全塩基配列が報告されており、同時に535残基からなるそのアミノ酸配列も明らかにされている(Eur.J.Biochem.169, 517(1987))。
また、品種はるな二条の1775塩基からなるcDNAの全塩基配列も報告されており、同時に535残基からなるそのアミノ酸配列も明らかにされている(J.Biochem. 115, 47(1994)、特開平6−303983号公報)。さらに、品種はるな二条の3825塩基からなる染色体DNAの構造遺伝子領域の全塩基配列も報告されている(特願平7−92004号明細書)。
しかしながら、β−アミラーゼ遺伝子の転写を調節するプロモーター領域に関しては、遺伝子の単離、ましてやその塩基配列の解明に関しては、今まで全く報告がない。
本発明者らは、登熟中の大麦種子において強力に発現する大麦β−アミラーゼ遺伝子のプロモーター領域を単離し、大麦の種子の改良あるいは種子での物質生産に利用できるようにしようと考え、鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
本発明によれば、得られたプロモーター領域の下流に適当な外来遺伝子および転写終結因子を連結し、大麦などの植物種子に導入することにより、外来遺伝子の登熟植物種子中での発現が可能となり、大麦やその他の植物の種子の改良あるいは種子での物質生産に利用できる。
発明の開示
本発明は第1に、植物種子中で導入遺伝子を発現可能なプロモーターを含むベクターによって形質転換すること、該プロモーターが配列表の配列番号1に示す塩基配列を有するものであること、及び、該導入遺伝子が耐熱性β−アミラーゼ遺伝子であることを特徴とするトランスジェニック大麦植物の作出方法である。
本発明は第2に、植物種子中で導入遺伝子を発現可能なプロモーターを含むベクターによって形質転換されたこと、該プロモーターが配列表の配列番号1に示す塩基配列を有するものであること、及び、該導入遺伝子が耐熱性β−アミラーゼ遺伝子であることを特徴とするトランスジェニック大麦植物である。
【図面の簡単な説明】
図1は、β−アミラーゼ遺伝子のプロモーター領域を含むクローンのフィジカルマップを示す図である。
図2は、β−アミラーゼ遺伝子の構造遺伝子の5’末端領域とβ−アミラーゼ遺伝子のプロモーター領域を含む2.4kb Sal I−Sal I断片のフィジカルマップを示す図である。
図3は、各細胞系のGUS活性を示した図である。
図4は、レポータープラスミドの構築過程を示した図である。
図5は、耐熱性β−アミラーゼの発現ベクターpSBG503を示した図である。
図6は、本発明により耐熱性β−アミラーゼ遺伝子を導入したプロトプラスト由来の植物個体の種子から抽出したβ−アミラーゼの耐熱性を比較した図である。
発明を実施するための最良の形態
前述したように、大麦β−アミラーゼは、大麦種子から得られるβ−アミラーゼ(1,4−α−D−グルカンマルトヒドロラーゼ〔EC 3.2.1.2〕)である。
この酵素の遺伝子として、上記の如く、特定品種についてcDNAの全塩基配列が報告されているが、β−アミラーゼ遺伝子の転写を調節するプロモーター領域に関しては、遺伝子を単離したり、その塩基配列を解明したという報告は未だ全くなされていない。
ところで、大麦植物体内においては、大麦β−アミラーゼは登熟中の種子において特異的に合成され、種子胚乳可溶性タンパク質の1〜2%を占める主要なタンパク質であることが知られている(Hereditas, 93, 311(1980))。
これらのことから、植物種子中での物質生産を目指す上で、外来遺伝子を植物体内に導入する際に、その転写調節因子として植物種子中で特異的に発現するプロモーター領域を利用できると考えた。また、特に大麦β−アミラーゼ遺伝子のプロモーター領域を単離、特定し、これを利用して外来遺伝子を植物種子中に導入することに着目した。
本発明を具体的に説明するため、大麦β−アミラーゼ遺伝子のプロモーター領域を単離、解析し、これを用いて発現ベクターを作製し、これを植物種子中に導入して外来遺伝子を発現させるプロセスについて詳述する。
なお、本発明において「実質的に配列表の配列番号1に示す塩基配列の遺伝子」とは、この遺伝子が植物種子中で有意のプロモーター活性を有する限り塩基のいくつかについて欠失、置換、付加等があってもよいことを示すものである。
(1)大麦染色体DNAの調製
大麦染色体DNAは、どの組織の細胞にも同じものが存在する。ここでは大麦種子を、バーミキュライト中で20℃、暗所で7日間発芽させた第一葉から該染色体DNAを調製することができる。このDNAの調製は公知の方法で行うことができ、例えば「クローニングとシーケンス−植物バイオテクノロジー実験マニュアル」、農村文化社、252頁(1989)等に記載の方法で行うことができる。
(2)大麦染色体ライブラリーの作製
大麦染色体ライブラリーは、大麦染色体DNAを用いて作製することができる。作製は公知の方法で行うことができ、例えば「クローニングとシーケンス−植物バイオテクノロジー実験マニュアル」、農村文化社、272頁(1989)等に記載の方法で行うことができる。
(3)プローブの作製
大麦染色体ライブラリーのスクリーニングに使用するプローブは適当なDNA断片、すなわちスクリーニングすべき遺伝子と塩基配列的に相補性をもつDNA断片をDIG-High Prime(ベーリンガーマンハイム社製)で標識処理することにより作製することができる。
(4)大麦β−アミラーゼ遺伝子のプロモーター領域のクローン化
大麦β−アミラーゼのプロモーター領域のクローン化は、上記の(3)で作製したプローブを用いて大麦染色体ライブラリーをスクリーニングすることにより行うことができる。このスクリーニングは公知の方法で行うことができ、例えば「クローニングとシーケンス−植物バイオテクノロジー実験マニュアル」農村文化社、134頁(1989)等に記載の方法で行うことができる。また、目的クローンの検出はDIG Luminescent Detection Kit(ベーリンガーマンハイム社製)を用いて行うことができる。
(5)塩基配列の決定
塩基配列の決定は、マキサム−ギルバートの化学修飾法(Methods in Enzymology, 65, 499(1980))やジデオキシヌクレオチド鎖終結法(Gene, 19, 269(1982))などにより決定することができる。
(6)レポータープラスミドの作製
得られたプロモーター領域のプロモーター活性は、プロモーター領域の下流にβ−グルクロニダーゼ遺伝子(GUS)などのレポーター遺伝子とノパリン合成酵素遺伝子(NOS)ターミネーターなどの転写終結因子を連結してレポータープラスミドを作製し、レポーター遺伝子の翻訳産物の活性を測定することで確認することができる。レポーター遺伝子および転写終結因子は、例えばプラスミドpBI 101(CLONTECH社製)など市販のものを用いることができる。
(7)登熟種子胚乳細胞でのプロモーター活性の検出
作製されたレポータープラスミドを用いて登熟種子胚乳細胞におけるプロモーター活性を測定するには、公知の方法を用いることができる(Plant Cell Reports, 10, 595(1992))。すなわち、登熟種子胚乳細胞よりプロトプラストを調製し、ポリエチレングリコール法(例えばTheor. Appl. Genet., 91, 707(1995)、特開平7−184492号公報参照)などの公知の方法によってレポータープラスミドを導入し、得られた細胞系のGUS活性を測定すればよい。
(8)形質転換植物の作出
本発明の大麦β−アミラーゼ遺伝子のプロモーターを用いて発現ベクターを作製し、該ベクターで形質転換植物体を育成する。
発現ベクターとして本発明で用いるプラスミドとしては、1例として発現させる遺伝子を耐熱性β−アミラーゼ、転写調節因子として本発明のプロモーター、転写終結因子としてカリフラワーモザイクウイルスの35Sターミネーターを用いることにより、植物種子中に耐熱性β−アミラーゼを生産させる。
プロモーターへ連結する耐熱性β−アミラーゼ遺伝子は、生物由来あるいはその遺伝子を改変することにより得られる耐熱性β−アミラーゼ遺伝子を用いることが可能であるが、本発明者らは大麦のβ−アミラーゼ遺伝子の部位特異的変異によって得られた耐熱性β−アミラーゼ遺伝子(特開平7−327681号公報参照)を用いた。
この組み換えプラスミドを植物細胞に直接導入するには、エレクトロポレーション法(例えばNature, 319, 791(1986)参照)、ポリエチレングリコール法、パーティクルガン法(例えばNature, 327, 70(1987)参照)、レーザー穿孔法(例えばBarley Genetics VI, 231(1991)参照),アグロバクテリウム法(例えばPlant J.,6, 271(1994)参照)などを用いることが可能であるが、本発明者らは、実験材料として大麦を、また遺伝子導入法としてはプロトプラストへのポリエチレングリコール法を用いた。
オオムギプロトプラストは、好ましくは未熟胚由来カルス(Kihara and Funatsuki, 1995, Plant Sci., 106:115-120、特開平7−213183号公報参照)あるいは未熟胚由来カルスから確立した再分化能を有する懸濁培養細胞(Kihara and Funatsuki, 1994, Breeding Sci., 44:157-160, Funatsuki and Kihara, 1994, Plant Cell Rep.,13:551-555、特開平4−360633号公報参照)より、セルロース分解酵素およびペクチン分解酵素を用いる一般的なプロトプラスト調製法によって調製することができる。
プロトプラストよりコロニーが形成された時点で、液体培地および懸濁培養細胞を除去し、例えばジェネティシン(G418)、ハイグロマイシン、ビアラフォスなどの選択試薬を含む液体培地中でさらに培養を行うと、抵抗性コロニーの発達が見られる。
これらの発達したコロニーを、例えばジェネティシン(G418)、ハイグロマイシン、ビアラフォスなどの選択試薬を含む固体培地上に移植する。エンブリオジェニックなカルスあるいは胚様体の形成が観察されるので、これらを選択試薬を含まない固体培地に移植すると、植物体の再分化が見られる。
こうして得られた植物体は鉢上げを行い、通常の栽培条件、例えば16時間日長、10000ルクス、18℃の環境で栽培すると、稔性のある形質転換植物体を得ることができる。
得られた種子よりβ−アミラーゼを抽出し、熱処理を行った後、アミラーゼの活性を調べ、耐熱性の調査を行う。なお、アミラーゼの活性は、澱粉の糖化反応を利用することにより測定できるが、本発明者らは、少量のサンプルで容易に活性を測定でき、かつ大麦β−アミラーゼの活性のみを測定できるアミラーゼ測定試薬(商品名:ダイヤカラーAMY、小野薬品工業(株)製)を用いた。
実施例
次に、本発明を実施例により詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1
大麦染色体DNAの調製
大麦種子(はるな二条)約1000粒を、バーミキュライト中で20℃、暗所で7日間発芽させた。得られた第一葉(約65g)を切り取り、約1cmに細片化した後、染色体DNAを調製した。その結果、10g分の第一葉から約1mgのDNAが抽出できた。
実施例2
大麦染色体ライブラリーの作製
実施例1で調製した染色体DNA150μgを1UのSau3AIを用いて、37℃で1時間、部分分解を行いショ糖密度勾配遠心法を用いて断片の分画を行った。18kb程度の断片を含む画分を精製後、λファージベクター EMBL3(ストラタジーン社製)に組み込んだ。Gigapack II Gold(ストラタジーン社製)を用いてラムダファージ粒子中にパッケージングし、大腸菌XL1-Blue MRA(P2)(ストラタジーン社製)を形質転換して得た。
実施例3
プローブの作製
プローブは、特願平7−92004号明細書記載の大麦β−アミラーゼ構造遺伝子由来のEcoRV-Hind III断片、すなわち配列表の配列番号2に記載した塩基配列を有するDNA断片を、DIG-High Prime(ベーリンガーマンハイム社製)を用いてジゴキシゲニン標識することにより作製した。
実施例4
大麦β−アミラーゼ遺伝子のプロモーター領域のクローン化
実施例2で作製した大麦染色体ライブラリーのプラークをナイロンメンブレン「Hybond N」(アマシャム社製)に写し取り、実施例3で作製したプローブを用いて常法に従ってプラークハイブリダイゼーションによるスクリーニングを行った。目的クローンの検出にはDIG Luminescent Detection Kit(ベーリンガーマンハイム社製)を用いた。この結果、1つの陽性クローンを得た。このクローンにはβ−アミラーゼ構造遺伝子の5’末端領域とプロモーター領域を含む上流域が含まれていた。
得られたクローンのフィジカルマップを図1に示す。図中の略号は、制限酵素の切断認識部位で、細線はベクター部分、黒塗り部分はβ−アミラーゼ構造遺伝子の5’末端領域、白抜き部分はプロモーター領域を含む上流域を表している。また、矢印はβ−アミラーゼ遺伝子の向きを表している。
実施例5
β−アミラーゼ遺伝子のプロモーター領域の塩基配列の決定
実施例4で得られた陽性クローンからβ−アミラーゼ構造遺伝子の5’末端領域とプロモーター領域を含む2.4kbのSal I-Sal I断片をプラスミドpUC119に組み込み、Kilo-Sequence用Deletion Kit(宝酒造(株)製)を用いてデレーションクローンを作製した後、ジデオキシヌクレオチド鎖終結法により塩基配列を決定した。
2.4kb Sal I-Sal I断片のフィジカルマップを図2に示す。図中の略号は、制限酵素の切断認識部位で、黒塗り部分はβ−アミラーゼ構造遺伝子の5’末端領域、白抜き部分はプロモーター領域を含む上流域を表している。
配列表の配列番号1に、決定されたβ−アミラーゼ遺伝子のプロモーター領域の塩基配列を示す。また、配列表の配列番号3に、2.4kb Sal I-Sal I断片の決定された部分塩基配列を示す。β−アミラーゼ構造遺伝子の5’末端領域の塩基配列を、すでに得られている大麦β−アミラーゼの構造遺伝子(特願平7−92004号明細書)と比較することにより、得られたDNA断片がβ−アミラーゼ遺伝子であることが確認された。また、プロモーター領域には、真核生物のプロモーター領域において広く存在するTATAボックスが存在した。
実施例6
レポータープラスミドの作製
レポータープラスミドは図4に示される方法によって作製した。すなわち、プラスミドpBI 101(CLONTECH社製)のGUS遺伝子とNOSターミネーターを含むHind III-EcoRI断片をプラスミドpUC118のHind III, EcoRI部位に組み込み、プラスミドpBI 11とした。
一方で、実施例5において作製したデレーションクローンのうち配列表の配列番号3に示される塩基配列の1から1672の位置の断片、すなわち配列表の配列番号1に示されるプロモーター領域とβ−アミラーゼ構造遺伝子の5’末端領域341bpを含むプラスミドから、この領域を含むPst I-EcoRI断片を切り出し、ブランティングキット(宝酒造株式会社製)を用いて末端を平滑化し、プラスミドpBI 11のSma I部位へ挿入して、レポータープラスミドpSBG 530とした。
さらに、pSBG 530のβ−アミラーゼプロモーター領域の5’末端側をコードするHind III-Hind III断片を除去し、レポータープラスミドpSBG 530dHとした。
実施例7
登熟種子胚乳細胞でのプロモーター活性の検出
単離されたβ−アミラーゼ遺伝子のプロモーター領域の登熟種子胚乳細胞における活性は、実施例6において示されたレポータープラスミドを用いたトランジェントアッセイ系で確認した。
まず、開花後14日程度の大麦品種Bomiの登熟種子の殻皮を剥ぎ、70%エタノールで1回、5倍希釈した次亜塩素酸で1回殺菌し、水で3回洗浄した。胚乳を押し出し、0.4%セルラーゼ,11% マンニトールを含むCPW溶液(0.2mM KH2PO4,10mM CaCl2,1mM MgSO4,1mM KNO3)で25℃にて1晩処理した。
得られたプロトプラストを11% マンニトールを含むCPW溶液で洗った後、1形質転換系あたり106プロトプラストになるように分注し、DNA 30μg,C100S溶液(7%ソルビトール,100mM CaCl2,4.7mM MES(pH5.7))200μlを加えて懸濁し、40%ポリエチレングリコール1540を含むC100S溶液(pH7.0)0.5mlを加えて10分間処理した。
LW溶液(Lazzeri et al.,Theor. Appl. Genet., 81:437(1991))10mlを加えて遠心し、沈殿にL1培地(Theor. Appl. Genet. 81:437(1991))3mlを加えて、25℃で一晩培養した。培養液にLW溶液20mlを加えて遠心し、沈殿をGUS抽出溶液(0.05M NaPO4,0.01M EDTA,0.1% サルコシン,0.1% トリトンX−100,0.1% 2−メルカプトエタノール)200μlに懸濁して凍結融解を2回繰り返し、遠心上清をプロモーター活性測定のための粗酵素液として使用した。
すなわち、得られた粗酵素液を4−メチルウンベリフェリル−β−D−グルクロニドと反応させた後、0.2M 炭酸ナトリウム溶液で反応を止め、4−メチルウンベリフェリルの生成を測定し、プロモーター活性とした。また、タンパク質の定量は、バイオラッド社の“プロテインアッセイ”を用いて行った。
各細胞系のGUS活性を図3に示した。図3より、単離されたβ−アミラーゼプロモーター領域が大麦登熟種子胚乳細胞において活性を持っていることが確認された。また、pSBG 530dHを導入した細胞系では、pSBG 530を導入した細胞系よりGUS活性が3分の2程度に低下することから、プロモーター領域として配列表の配列番号1に示された領域が必要であることが確認された。
実施例8
形質転換植物の作出
Kihara and Funatsuki(1994, Breeding Sci., 44:157-160)あるいはFunatsuki and Kihara(1994, Plant Cell Rep.,13:551-555)の方法に従い、大麦(品種:Igri)の長さ約0.5〜1.0mmの未熟胚をL2培地に植え付けカルスを誘導した。1ヶ月後、形成したカルスをL1液体培地に移植し、弱光下(500ルクス)で2〜4ヶ月振とう培養を行い、直径約1〜3mmの細胞塊よりなる液体懸濁培養を作出した。
該細胞1gに対して約10mlの酵素液(セルラーゼオノズカ RS 1.0%、ペクトリアーゼ Y−23 0.1%、MES 5mMをLW液を加え、25℃で2〜3時間静置した。
こうして得られたプロトプラスト懸濁液を64μおよび26μメッシュで濾過したのち、遠心処理してプロトプラストを収集した。次いで、LW液を用い3度洗浄を行った。
次に、1〜3×106個のプロトプラストを、10μg/mlのプラスミドpSBG503(耐熱性β−アミラーゼの発現ベクター、図5参照)、100mMのCaCl2、0.6Mのソルビトール、0.1%のMESを含み、pHを5.7に調整した250μlの液体媒体(Ca−S)に懸濁した。プラスミドはカナマイシン耐性遺伝子と耐熱性β−アミラーゼ遺伝子を含むプラスミドであり、カナマイシン耐性遺伝子にはイネアクチンプロモーターとカリフラワーモザイクウイルス35Sターミネーター(35St)が、耐熱性β−アミラーゼ遺伝子には配列表の配列番号1に示される大麦β−アミラーゼのプロモーター領域とカリフラワーモザイクウイルス35Sターミネーターが、それぞれ転写調節因子および転写終結因子として連結されている。また、耐熱性β−アミラーゼ遺伝子には大麦β−アミラーゼ遺伝子の第1イントロンが含まれている。この懸濁液にポリエチレングリコールを40%含み、pHを7.0に調整した600μlのCa−Sを滴下した。5分ごとに振とうしながら10分間静置した。10mlのLW液を加えて希釈した後、遠心処理してプロトプラストを回収した。
回収したプロトプラストは、0.6Mのマルトース、2.0mg/Lの2,4−D、1.8%のアガロースを含む1mlのL1培地に懸濁し、速やかに6cmシャーレ上に広げた。このとき、直径約4.5cmの円盤状にした。固化した後、シャーレより剥離し、200mg/mlのオオムギ液体懸濁細胞を含む5mlの液体培地(プロトプラストを懸濁したものと同成分)中で振とう培養を行った。なお、振とう速度は50rpmにした。
プロトプラスト培養開始後15日目に液体培地および懸濁培養細胞を除去し、ジェネティシン(G418)20μg/mlを含む液体培地3mlを添加した。これをさらに14日間振とう培養行ったところ、アガロース中あるいはその表面または液体培地中に抵抗性コロニーの発達が見られた。
これらの発達したコロニーを、ジェネティシン(G418)20μg/mlを含み、植物ホルモンとして0.5mg/Lの2,4−Dおよび1.0mg/Lのベンジルアミノプリン(BAP)を含むL3培地上に移植した。いずれの培地においても移植後3〜15日目にエンブリオジェニックなカルスまたは胚様体の形成が観察された。
これらのカルスまたは胚様体を、選択試薬を含まず、0.5mg/Lの2,4−Dおよび1.0mg/LのBAPを含むL3培地上に移植した。この段階までは弱照明下(約500ルクス)、25℃で培養した。約3〜15日で植物体(地上部)の再分化が見られた。十分な発芽が認められた時点で、強照明下(約7000ルクス)に移動させた。
こうして得られた植物体は、さらに植物体ホルモンを含まないL3培地上に移植して発根を促した。約1ケ月後に鉢上げを行った。鉢上げ後は、16時間日長、10000ルクス、15℃の環境で栽培したところ、形質転換したオオムギ植物体が多数得られた。得られた植物体中に、耐熱性β−アミラーゼ遺伝子断片が存在しているか否かをポリメラーゼ連鎖反応法(PCR法)を用いて調査した結果、その存在が確認された。
この個体の登熟中種子より、10mMのDTTを含む50mM酢酸バッファーを用いてアミラーゼを抽出し、50〜75℃(2.5℃間隔)で30分の熱処理を行った後、ダイヤカラーAMYにてβ−アミラーゼ活性の測定を行い、耐熱性を調査した。結果を図6に示す。
図から明らかなように、対照の耐熱性β−アミラーゼ遺伝子が導入されていないプロトプラスト由来個体の種子サンプルpと比較して、耐熱性β−アミラーゼ遺伝子が導入されている種子サンプルa,bには、耐熱性β−アミラーゼが蓄積されていることが確認された。特に、種子サンプルaでは、耐熱性β−アミラーゼの蓄積が顕著であることがわかった。
産業上の利用可能性
本発明により、植物種子中に特異的に発現する遺伝子のプロモーターが提供され、特にβ−アミラーゼ遺伝子のプロモーター領域の塩基配列および登熟種子中での活性が明らかとなった。このプロモーターに適当な外来遺伝子および転写終結因子を連結して大麦、その他の植物に導入すれば、大麦、その他の植物の種子を意図的に改良したり、あるいは種子での物質生産が可能となり、植物育種の分野に貢献できる。
配列表
配列番号:1
配列の長さ:1276
配列の型:核酸
鎖の数:二本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:DNA
配列:
Figure 0004424756
配列番号:2
配列の長さ:1066
配列の型:核酸
鎖の数:二本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:DNA
配列:
Figure 0004424756
配列番号:3
配列の長さ:2142
配列の型:核酸
鎖の数:二本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:DNA
配列:
Figure 0004424756
Figure 0004424756

Claims (2)

  1. 植物種子中で導入遺伝子を発現可能なプロモーターを含むベクターによって形質転換すること、該プロモーターが配列表の配列番号1に示す塩基配列を有するものであること、及び、該導入遺伝子が耐熱性β−アミラーゼ遺伝子であることを特徴とするトランスジェニック大麦植物の作出方法。
  2. 植物種子中で導入遺伝子を発現可能なプロモーターを含むベクターによって形質転換されたこと、該プロモーターが配列表の配列番号1に示す塩基配列を有するものであること、及び、該導入遺伝子が耐熱性β−アミラーゼ遺伝子であることを特徴とするトランスジェニック大麦植物。
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