JP4419332B2 - ペロブスカイト型酸化物膜の基板表面構造とその基板およびペロブスカイト型酸化物膜 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ペロブスカイト型酸化物膜を設ける基板の表面構造とこの表面構造を有する基板、およびこの基板上に形成されたペロブスカイト型酸化物膜に関する。具体的には、基板表面の剥離やボイドおよび表面の凹凸を実質的に生じることがなく、基板に対する密着性と電気的特性に優れた基板表面構造と、その基板およびこの基板表面に形成されたペロブスカイト型酸化物膜に関する。
【0002】
【従来の技術】
金属酸化物薄膜、とくにチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)や、これにランタンをドープしたチタン酸ジルコン酸鉛ランタン(PLZT)などのペロブスカイト型金属酸化物は、高い誘電率と優れた強誘電特性を有することから誘電体デバイス材料などに利用されている。これら金属酸化物薄膜の成形方法としては、スパッタリング法や有機金属分解を利用したMOCVD法などの気相法、あるいは金属酸化物薄膜の原料となる有機金属溶液を基板に塗布し、加熱して金属酸化物膜を形成し、これを結晶化温度以上に焼成して目的の金属酸化物薄膜を形成するゾルゲル法、ゾルゲル法に類似した有機金属分解を利用したMOD法などが従来知られている。このうちMOD法を含めたゾルゲル法は比較的容易に薄膜を形成できる利点を有しており、塗膜の膜厚や膜組織に関して種々の改良方法が提案されている。
【0003】
通常、これらの金属酸化物薄膜は電極を成膜した基板上に形成され、基板としてシリコンウエハが用いられることが多い。これはシリコンウエハが加工しやすいこと、従来からペロブスカイト型酸化物メモリー用途として用いられており、成膜に関する知見が豊富なことなどによる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
PZTやPLZT等の金属酸化物薄膜をゾルゲル法やMOD法によってシリコン等の基板上に成膜する場合、原料溶液を基板表面に塗布した後に、通常は500℃以下に加熱して溶媒を除去し、あるいは有機金属化合物を熱分解させて金属酸化物薄膜を形成するが、この状態では大部分が非晶質であり、強誘電体として機能させるには形成した金属酸化物薄膜をその結晶化温度以上に熱処理し、膜全体を結晶化させる必要があり、また結晶化後に焼結させることがある。この熱処理温度は金属酸化物の組成によるが、概ね700〜900℃程度である。ところが、従来の基板表面の構造ではこの結晶化や焼結などの熱処理の際に、基板表面での剥離やボイド、凹凸などが発生して基板との密着性が損なわれ、また電気的特性にも影響を生じる場合がある。
【0005】
具体的には、例えば、強誘電体メモリー、あるいはデカップリングコンデンサー、焦電センサー、マイクロアクチュエータ等としてシリコン基板表面との間に白金電極層を介在してPZTやPLZTなどを成膜する際に、シリコン基板表面のシリカ層と白金電極層との間に、チタン層あるいは酸化チタン層を介在させた表面構造(Pt/Ti/SiO2/Si構造、Pt/TiOx/SiO2/Si構造)を有するシリコン基板が一般に良く用いられている。ところが、この表面構造を有する基板は結晶化などの熱処理の際に、SiO2界面近傍にボイドや凹凸、異相が発生する場合がある。最近の報告ではアニール温度(650℃)でも同様の傾向があることが指摘されている〔Mat. Res. Soc. Symp. Proc. Vol.596(2000) 265〕。また、一方、中間のチタンや酸化チタンに代えて、ジルコニア、マグネシア、アルミナ等を介在させた表面構造を有するシリコン基板は、SiO2界面で剥離を生じやすく、基板との密着性が低い問題がある。
【0006】
このような、シリコン基板のSiO2界面での剥離やボイド、凹凸はPZTやPLZTに含まれている鉛が基板に拡散してチタンやシリカ等と反応して生じる異相の生成に伴う変形や、チタンの酸化に伴う変形によるものと考えられているが、これらはペロブスカイト型酸化物メモリーとしての電気的特性を劣化させる原因となり、また、PZT等をアクチュエータ等として用いる場合には局所的な応力集中を招き、電極とSiO2膜を剥離させる原因となる可能性もある。
【0007】
本発明は、PZTやPLZTなどのペロブスカイト型酸化物膜を設ける基板について、従来の上記問題点を解決した基板の表面構造を提供するものであり、更にこの表面構造を有する基板、およびこの基板上に形成されたペロブスカイト型酸化物膜に関する。具体的には本発明は、基板表面の剥離やボイドおよび表面の凹凸を実質的に生じない、基板に対する密着性と電気的特性に優れた基板表面構造とこの表面構造を有する基板および、この基板表面に形成されたペロブスカイト型酸化物膜を提供するものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、以下の構成からなる基板表面構造とその基板および基板上のペロブスカイト型酸化物膜が提供される。
〔1〕ペロブスカイト型酸化物が成膜される基板において、ペロブスカイト型酸化物膜に接する電極層、基板の表面酸化層に接する密着層、この密着層と電極層との間に介在するアルミナ層を有し、密着層がタンタルまたは窒化タンタルであることを特徴とする基板の表面構造。
〔2〕シリコン基板表面のシリカ層の表面にタンタルまたは窒化タンタルからなる密着層、アルミナ層および電極層が順に積層されている上記[1]に記載する基板表面構造。
〔3〕アルミナ層の層厚が5〜1000nm以下、および密着層の層厚が1〜1000nm以下である上記[1]または上記[2]に記載する基板表面構造。
〔4〕上記[1]〜上記[3]の何れかに記載する表面構造を有するペロブスカイト型酸化物膜用基板。
〔5〕上記[1]〜上記[3]の何れかに記載する表面構造を有する基板の表面に設けられたペロブスカイト型酸化物膜。
【0009】
このように、本発明の基板表面構造はペロブスカイト型金属酸化物膜に接する電極層の下側(便宜上、金属酸化物膜と基板の間において基板側を下側と云う)にアルミナ層を設けているので、金属酸化物に含まれる鉛がアルミナ層により阻止されて基板側への拡散が抑制され、鉛との反応による異相や基板表面付近のボイド、および凹凸が実質的に発生しない。一方、基板表面の酸化層に接して密着層を設けているので基板表面の剥離を実質的に生じない。また、電極層は金属酸化物膜に接して設けられているので金属酸化物膜の電気的特性も損なわれない。従って、基板との接着性および電気的特性に優れたペロブスカイト型酸化物膜を得ることができる。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。本発明に係る基板の表面構造は、ペロブスカイト型酸化物が成膜される基板において、ペロブスカイト型酸化物膜に接する電極層、基板の表面酸化層に接する密着層、この密着層と電極層との間に介在するアルミナ層を有し、密着層がタンタルまたは窒化タンタルであることを特徴とする基板の表面構造である。具体的な例としては、シリコン基板表面のシリカ層の表面に密着層、アルミナ層および電極層が順に積層されている基板表面構造が挙げられる。このように本発明の基板表面構造は、金属酸化物膜に接する電極層の下側にアルミナ層を設けることによって金属酸化物に含まれる鉛の基板側への拡散を阻止し、基板表面の酸化層に接して密着層を設けることによって基板に対する接合強度を高めたものである。
【0011】
本発明の基板構造では金属酸化物膜に接するように電極層が設けられている。金属酸化物膜に接するとは金属酸化物膜に直接に接触する以外に、例えば、金属酸化物膜であるPZT膜に白金電極を成膜する場合などにおいて、PZT膜と白金膜との間にPT膜(チタン酸鉛)などを介在させる場合を含む。また、PZT膜等を複数積層する場合を含む。この電極層は導電性の金属ないし酸化物などによって形成される。具体的にはPt、Au,Ag,Pd、Ir、Ru、Rhなどの金属単体、これら金属の固溶体ないし酸化物〔IrO2、RuO2、(La、Sr)CoO3、SrRuO3〕、あるいはこれら金属と酸化物の積層体等が挙げられる。ただし、これらの材料に限定されない。ペロブスカイト型酸化物である金属酸化物膜に必要な電圧を印加できる材料であれば良い。この金属酸化物膜の表面には上部電極層が積層され、下側の電極層と上部電極層を通じて金属酸化物膜に電圧が印加される。
【0012】
電極層の下側であって密着層の上側(電極層と密着層の間)にはアルミナ層が介在されている。このアルミナ層は鉛の拡散を阻止する役割を果たし、金属酸化物膜に含まれる鉛が基板側に拡散するのを防止する。アルミナ層の膜厚は1000mm程度以下でよく、特に5〜500nmが好ましい。この膜厚が5nm未満では鉛の拡散防止効果が十分ではなく、また500nmより厚くても効果はあまり変わらない。なお、このアルミナ層はドーパントを含有させることによってその効果を高めることが期待できる。このドーパントとしては、例えば、Mg、Ga、In、Pb、Zr、Ti、Ca、Ba、Sr、Hf、Sn、Th、Y、Sm、Dy,Ce,Bi,Sb,Nb,Ta,W,Mo,Cr,Co,Ni,Fe,Cu,Si,Ge,U,Sc,V,Pr,Nd,Eu,Gd,Tb,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Laなどが挙げられる。ドープ量は金属酸化物中の金属原子の原子分率で0.1以下が好ましい。因みにマグネシア、ジルコニア、チタニアは鉛の拡散を抑制する効果が低いので、アルミナを用いるのが好ましい。
【0013】
密着層は基板表面の酸化物層(シリコン基板では基板表面のSiO2層)に接して設けられており、強誘電体の金属酸化物膜と基板との接合強度を高める。本発明に係る基板表面構造の密着層はタンタルまたは窒化タンタル(TaN)によって形成されている。密着層の膜厚は1000nm程度以下で良く、1〜500nmが好ましい。1nm未満では密着層を設けた効果が十分ではなく、500nmより厚くても効果はあまり変わらない。密着層は基板との接合性を高めるために基板表面の酸化物層に接して設けられており、密着層と基板表面酸化物層との間にアルミナ層等が介在するのは好ましくない。
【0014】
このように、基板表面には下側から順に、表面酸化層(シリコン基板ではSiO2層)、密着層、アルミナ層、電極層が形成されており、この電極層に接してペロブスカイト型酸化物の金属酸化物膜が設けられるが、上記基板表面の積層構造の成膜方法は限定されない。成膜工程の一例として、シリコン基板(シリコンウエハ)を熱酸化して表面にシリカ層を形成し、この表面にチタンアルコキシドを溶解したゾルゲル液をスピンコートして乾燥し、これを仮焼し、アニールした後に、さらにアルミニウムアルコキシドを溶解したゾルゲル液をスピンコートして重ね、乾燥後、仮焼し、アニールすることによって密着層と鉛の拡散を防止するアルミナ層を形成し、この表面に電極層として白金をスパッタリングにより成膜する。なお、密着層としてタンタル、窒化タンタルを成膜する場合にはスパッタリング法を利用すればよい。
【0015】
なお、上記以外の成膜法の例としては、基板表面のSiO2層をゾルゲル法やスパッタリング法によって形成しても良い。また、アルミナ層をスパッタリング法で形成しても良い。電極層は金属単体または金属固溶体を用いる場合にはスパッタリング法、金属酸化物を用いる場合にはゾルゲル法やスパッタリング法によって形成することができる。
【0016】
以上のようにして表面構造を形成した基板表面にペロブスカイト型酸化物となる金属酸化物膜を成膜する。本発明の基板構造は鉛を含有するペロブスカイト型金属酸化物に対して特に有効である。具体的には、PT(チタン酸鉛)、PZ(ジルコン酸鉛)、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)、PMN(マグネシウム酸ニオプ酸鉛)、PNN(ニッケル酸ニオプ酸鉛)等が挙げられる。ただし、これらの金属酸化物に限定されない。また、この金属酸化物膜は微量のドープ元素を含むものでも良い。このドープ元素の例としては、Ca,Ba,Sr,Hf,Sn,Th,Y,Sm,Dy,Ce,Bi,Sb,Nb,Ta,W,Mo,Cr,Co,Ni,Fe,Cu,Si,Ge,U,Sc,V,Pr,Nd,Eu,Gd,Tb,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Laなどが挙げられる。ドープ元素の含有量は金属酸化物中の金属原子の原子分率で0.1以下が好ましい。
【0017】
この金属酸化物の成膜方法も限定されない。ゾルゲル法による成膜方法の一例としては、上記表面構造を有する基板表面にPT(チタン酸鉛)液をスピンコートし、450℃程度で5分間加熱して仮焼し、さらに結晶化温度で熱処理して薄いPT膜を形成する。次に、この表面にPZT液をスピンコートし、200℃以下に乾燥して溶媒を揮発させた後、450℃程度で5分間加熱して仮焼し、さらに700℃で1分間加熱して結晶化しPZT膜を形成する。なお、PT膜は無くてもよいが、PZT膜の下側にPT膜を設けることによって基板表面の白金電極層とPZT膜との密着性を高めることができる。PT膜は0.1μm以上/層の比較的厚い膜が良いが、先に述べたように必ずしも必要ではない。以上の成膜工程は必要に応じて数回繰り返してもよい。これを850℃程度で10分間焼結してPZT膜成形体を得る。なお、この成膜工程、加熱温度および時間は溶液組成や加熱条件などに応じて適宜変更されうる。
【0018】
PZT膜の上記以外の成膜法としては、例えば、スパッタリング法によって300℃以下の温度で非晶質のPZTを成膜し、これを700℃以上に熱処理して結晶化させる。なお、例えば1層当たり0.1μm以下のように比較的薄いPZT膜を成膜する場合にはPZT膜下側のPT膜は無くても良い。PZT膜が薄いときにはPZTと白金との界面に与えるストレスが小さく、PT膜が無くてもこの界面での剥離は殆ど生じない。PT膜を設けない場合には、PZT液を塗布した後に200℃以下で乾燥し、400℃程度で仮焼した後に700℃以上で熱処理して結晶化させる。なお、PZT膜が薄い場合には膜が比較的緻密であるので850℃程度での焼結工程は省略しても良い。
【0019】
PMN膜、PNN膜、PZ膜についてもPZT膜と同様に成膜できる。また、その下側にPT膜を介在することによって白金電極層との密着性を高めることができる。なお、これらの膜が例えば1層当たり0.1μm以下のように比較的薄い場合には下側のPT膜は無くても良い。また、これらの膜はスパッタリング法によって300℃以下の温度で非晶質の膜を形成し、これを700℃以上に熱処理して結晶化させても良い。PZT膜等の下側に設けるPT膜はTiOx膜でも良い。これらPT膜およびTiOx膜は熱処理時に拡散してPZT等と一体化するのでPZT膜等の電気的特性には殆ど影響がない。
【0020】
【実施例】
本発明を実施例および比較例によって具体的に示す。なお、以下の例は例示であり、本発明の適用範囲を限定するものではない。また、PZT液、PT液の調製、基板構造の成膜および金属酸化物膜の成膜は以下のようにして行った。
【0021】
〔PZT液、PT液の調製工程〕
Pb(O-Ac)2・3H2Oをピロピレングリコールに溶解して減圧脱水し、これにZr(O-n-Bu)4、Ti(O-i-Pr)4、およびアセチルアセトン(上記Ti,Zrのアルコキシドの合計の2倍のモル数)を加えて還流した後に減圧蒸留して副生成物を除去し、これをプロピレングリコールで酸化物換算濃度が30wt%になるまで希釈した後に還流し、さらにエタノールで酸化物換算濃度が25wt%になるまで希釈してPZT溶液(Pb:125、Zr:52、Ti:48)を調製した。同様にして2wt%のPT溶液(Pb:125、Ti:100)を調製した。これらはPZT粉等を分散させていないゾルゲル液であるが、この他に、平均粒径0.2μmのPZT微粒子粉をゾルゲル液に混合して超音波による振動を与えて均質な分散液を調製した。
【0022】
〔基板表面の成膜工程〕
シリコンウエハを基板として用い、これを熱処理して表面にSiO2膜(膜厚5000Å)を形成し、この上に中間層のタンタル、チタン、窒化タンタル、窒化チタンをスパッタリング法によって成膜し、あるいは金属アルコキシドのゾルゲル液をスピンコートして乾燥後に仮焼し、アニールすることによってアルミナ、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化ジルコンを成膜し、さらにその表面に白金層(膜厚2000Å)をスパッタリングによって形成した。
【0023】
〔金属酸化物の成膜工程〕
以上の表面構造を有する基板表面にPT液をスピンコートし、450℃で5分間加熱して仮焼し、さらに700℃で1分間、酸素雰囲気下で加熱処理して結晶化し、約6nm厚のPT膜を形成した。次に、この表面にPZT液をスピンコートし、200℃以下に乾燥して溶媒を揮発させた後、450℃で5分間加熱して仮焼し、さらに700℃で1分間、酸素雰囲気下で加熱して結晶化し、PZT膜を形成した。このPZT液のスピンコート、乾燥、仮焼、結晶化工程を再度繰り返した。これを酸素雰囲気下、850℃で10分間焼結して金属酸化物膜素子を製作した。
【0024】
〔実施例1〕
シリコン基板表面のSiO2膜(膜厚5000Å)の上に密着層としてTi、TiOX、TiN、Ta、TaNをおのおの成膜し、さらにこの上にAl2O3を形成し、Al2O3の表面にPt(膜厚2000Å)を成膜した。この基板構造の表面にPT膜を介在してPZT膜を形成した。また、TiOXとAl2O3の順序を入れ替えたものを比較試料(No.4)として製作した。この金属酸化物膜について、基板と金属酸化物の断面および界面の状態をSEMによって調べた。この結果を表1に示した(表1のNo.1およびNo.3は参考例、No.2は本発明の実施例)。
【0025】
表1に示すように、本発明の基板構造を有する実施例(試料No.2)は基板表面での剥離が観察されず優れた密着性を有することが確認された。またPZT断面および基板中にボイドが実質的に存在せず、基板のSiO2界面にも凹凸が見られず平滑である。これはPZT微粒子を分散させないゾルゲル液を用いた場合とPZT微粒子を分散したゾルゲル液を用いた場合の何れも同様であった。一方、Al2O3とTiOXの順序を入れ替えた比較試料No.4ではAl2O3とSiO2界面との間に剥離が認められた。この結果から、PZT膜やPT膜からの鉛の拡散がアルミナ層によって抑制され、また基板表面のSiO2に接する密着層によって基板表面との密着性が向上し、これらの相乗的な効果によって良好な金属酸化物膜が得られたものと考えられる。
【0026】
【表1】
【0027】
〔比較例1〕
シリコン基板のSiO2層の表面にTi、TiN、Ta、TaNをスパッタリングによっておのおの成膜し、さらにその表面にPtをスパッタリング法で成膜した基板と、シリコン基板のSiO2層の表面に金属アルコキシドをアルコールに溶解して調製したゾルゲル液を用いて、ZrOx、MgO、Al2O3をおのおの形成し、さらにその表面にPtをスパッタリング法で成膜した基板をおのおの製作した。これら表面が三層の基板表面に実施例と同様にしてPT膜およびPZT膜を形成した金属酸化物膜を製作した。この金属酸化物膜について、基板の断面および界面の状態をSEMによって調べた。この結果を表2に示した。
【0028】
表2に示すように、Ti、TiN、Ta、TaNを中間に有する基板構造(試料No.21,22)は何れも基板表面での剥離が認められず良好な密着性を有するが、基板表面のSiO2界面付近にボイドと凹凸が発生しており、PZT膜やPT膜からの鉛や酸素の拡散を十分に抑制できない。一方、ZrOx、MgO、Al2O3を中間に有する基板構造(試料No.23)は何れもSiO2界面で剥離が発生しており、基板との密着性が低い。
【0029】
【表2】
【0030】
〔比較例2〕
シリコン基板のSiO2層の表面にチタンアルコキシドをアルコールに溶解して調製したゾルゲル液を用いてTiOx膜を設け、さらにその表面にPtをスパッタリング法で成膜した後に、その表面に金属アルコキシドをアルコールに溶解して調製したゾルゲル液を用いて、TiOx、ZrOx、MgO、Al2O3をおのおの成膜し、表面が四層の基板を製作した。これらの基板表面に実施例と同様にしてPT膜およびPZT膜を形成した金属酸化物膜を製作した。この金属酸化物膜について、基板の断面および界面の状態をSEMによって調べた。この結果を表3に示した。
【0031】
これらの基板構造は何れも基板のSiO2層表面にTiOx層を設けているので基板表面での剥離が無く密着性はよいが、TiOx、ZrOx、MgOを用いた基板(No.31.32.33)はSiO2界面付近にボイドと凹凸が発生しており、PZT膜やPT膜からの鉛の拡散を十分に抑制できないことを示している。一方、Al2O3を用いた基板(No.34)は基板表面での剥離がなく、SiO2界面付近のボイドや凹凸の発生も見られないことから鉛の拡散を十分に抑制できることが判るが、Pt電極層とPZT膜との間に絶縁層となるAl2O3層が介在するので印加電圧がPZT膜に十分に加わらず、良好な電気的特性が得られない。
【0032】
【表3】
【0033】
【発明の効果】
本発明の基板構造は、ペロブスカイト型酸化物膜(金属酸化物膜)に接する電極層の下側にアルミナ層を設けているので金属酸化物に含まれる鉛がアルミナ層により阻止されて基板側への拡散が抑制され、鉛との反応による異相や基板表面付近のボイド、および凹凸が実質的に発生しない。さらに基板表面の酸化層に接して密着層を設けているので基板表面の剥離を実質的に生じない。また、電極層は金属酸化物膜に接して設けられているので金属酸化物膜の電気的特性も損なわれない。従って、基板との接着性および電気的特性に優れたペロブスカイト型酸化物膜を得ることができる。
Claims (5)
- ペロブスカイト型酸化物が成膜される基板において、ペロブスカイト型酸化物膜に接する電極層、基板の表面酸化層に接する密着層、この密着層と電極層との間に介在するアルミナ層を有し、密着層がタンタルまたは窒化タンタルであることを特徴とする基板の表面構造。
- シリコン基板表面のシリカ層の表面にタンタルまたは窒化タンタルからなる密着層、アルミナ層および電極層が順に積層されている請求項1に記載する基板表面構造。
- アルミナ層の層厚が5〜1000nm以下、および密着層の層厚が1〜1000nm以下である請求項1または請求項2に記載する基板表面構造。
- 請求項1〜請求項3の何れかに記載する表面構造を有するペロブスカイト型酸化物膜用基板。
- 請求項1〜請求項3の何れかに記載する表面構造を有する基板の表面に設けられたペロブスカイト型酸化物膜。
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