JP4029162B2 - 圧電素子の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、圧電素子の製造方法に関するもので、特に、シリコン基板上で構成された多層構造を有する圧電素子の製造方法に関するものである。
【0002】
この発明によって製造される圧電素子は、たとえば、圧電アクチュエータ、圧電振動子、圧電センサなどに適用される。
【0003】
【従来の技術】
多層構造を有する膜型の圧電素子の基板としては、酸化ジルコニウム基板または酸化アルミニウム基板が用いられるのが一般的である。他方、近年、低コストであって、加工性および汎用性に優れている点で、圧電素子の基板として、シリコン基板を用いることが有望視されている。
【0004】
シリコン基板は、大気中に放置すると、その表面が容易に酸化され、シリコン酸化物層が形成される。このシリコン酸化物層は、エッチング等の処理により取り除くことも可能であるが、シリコン基板が、その表面にシリコン酸化物層を有しない場合には、圧電素子の製造過程において実施される加熱時において、シリコンが、これに接触している物質側へ容易に拡散し、圧電素子の特性の劣化、たとえば強誘電特性や圧電特性の劣化を招く原因となる。そのため、圧電素子を構成するにあたっては、シリコン基板は、その表面にシリコン酸化物層が存在する状態で用いられることが一般的である。
【0005】
しかしながら、シリコン酸化物層が表面に存在しているシリコン基板上に、一般的な電極材料である白金からなる電極層を形成することは、シリコン基板と白金電極層との間の接合強度が非常に低いために困難である。
【0006】
そこで、シリコン基板と白金電極層との間に、これら相互の接合強度を高めるために、たとえばチタンまたは酸化イリジウムもしくは酸化ジルコニウムを主成分とする酸化物からなる接合層を形成することが行なわれている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
圧電素子を構成するため、上述した白金電極層上には、鉛元素を含有する圧電性複合酸化物層が加熱工程を経て形成される。
【0008】
しかしながら、上述した接合層において、チタンまたは酸化ジルコニウムを主成分とする酸化物を用いた場合、鉛元素含有圧電性複合酸化物層の形成のための加熱(焼成)を行なうと、圧電性複合酸化物層中の鉛元素が基板側へ拡散することを防止することができない。その結果、複合酸化物中に鉛欠損部分を生じさせるのみならず、鉛またはその複合物とチタンまたは酸化ジルコニウムとの反応物が生成することにより、白金−チタン間または白金−酸化ジルコニウム間の接合強度を劣化させてしまう。他方、接合層において酸化イリジウムを用いることは、この酸化イリジウムが大変高価であるため、あまり実用的ではない。
【0009】
そこで、この発明の目的は、上述のような問題を解決し得る、すなわち、表面にシリコン酸化物層が存在しているシリコン基板の上に鉛元素含有圧電性複合酸化物層を形成する際、シリコン基板と電極層との間で優れた接合強度が得られ、さらに、熱処理時における複合酸化物層中の鉛元素の基板側への拡散を防止することができ、それによって、優れた強誘電特性および圧電特性を有する、膜型の圧電素子を安価に製造できる方法を提供しようとすることである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
この発明に係る圧電素子の製造方法は、上述した技術的課題を解決するため、その少なくとも一方主面に沿ってシリコン酸化物層が存在しているシリコン基板を用意する、第1の工程と、シリコン基板の一方主面上に酸化アルミニウム層を形成する、第2の工程と、酸化アルミニウム層上に下部電極層を形成する、第3の工程と、次いで、下部電極層の形成時に付与される温度より高い温度で下部電極層を熱処理し、それによって、下部電極層の、酸化アルミニウム層に対する接合強度を向上させる、第4の工程と、次いで、下部電極層上に、鉛元素を含有する圧電性複合酸化物層を加熱工程を経て形成する、第5の工程と、圧電性複合酸化物層上に上部電極層を形成する、第6の工程とを備えることを特徴としている。
【0011】
上述した第4の工程において、熱処理温度は600℃以上かつ1000℃以下であることが好ましい。
【0012】
第2の工程は、酸化アルミニウムの前駆体となる原料をシリコン基板の一方主面上にコートする工程と、コートされた原料を熱処理することによって酸化アルミニウムとする工程とを含むことが好ましい。この場合、酸化アルミニウムの前駆体となる原料をコートする工程と、コートされた原料を熱処理する工程とが複数回繰り返されることがより好ましい。
【0013】
第3の工程において、下部電極層は、白金、パラジウムまたはこれらの酸化物を導電材料として含むように形成されることが好ましい。この場合、下部電極層は、溶液原料を塗布し、熱処理することによって、酸化パラジウム膜を予め形成する工程と、酸化パラジウム膜上に白金膜を成膜する工程とを経て形成されることがより好ましい。
【0014】
【発明の実施の形態】
図1は、この発明の一実施形態による製造方法によって製造された圧電素子1を図解的に示す断面図である。
【0015】
圧電素子1は、シリコン基板2を備えている。シリコン基板2の表面には、図示しないが、シリコン酸化物層が存在している。シリコン基板2の一方主面上には、酸化アルミニウム層3が形成され、その上には、下部電極層4が形成されている。下部電極層4上には、鉛元素を含有する圧電性複合酸化物層5が形成され、圧電性複合酸化物層5上には、上部電極層6が形成されている。
【0016】
この発明の一実施形態による製造方法に従って、圧電素子1は次のように製造される。
【0017】
まず、その少なくとも一方主面に沿ってシリコン酸化物層が存在しているシリコン基板2が用意される。
【0018】
次に、シリコン基板2の一方主面上に、蒸着法、スパッタリング法または有機金属溶液塗布法(MOD法)などによって、酸化アルミニウム層3が形成される。
【0019】
上述の酸化アルミニウムは、チタンまたは酸化ジルコニウムに比べて、鉛元素の拡散防止効果に優れているが、酸化アルミニウム層3の緻密性や結晶性が良好でないと、鉛元素の拡散を完全に遮断できるわけではない。また、緻密性および結晶性に優れた酸化アルミニウム層3を低温で形成することは容易ではない。
【0020】
したがって、酸化アルミニウム層3を形成するにあたっては、酸化アルミニウムの前駆体となる原料をシリコン基板2の一方主面上にコートし、次いで、このコートされた原料を熱処理することによって酸化アルミニウムとすることが好ましい。
【0021】
なお、上述の熱処理の際、酸化アルミニウム層3中にクラックが発生してしまうことがある。このクラックは、酸化アルミニウム層3が気相法によって形成されたものであるとき、特に生じやすい。したがって、これを防止するためには、酸化アルミニウム層3を形成するため、酸化アルミニウムの前駆体となる原料を比較的薄くコートする工程と、このコートされた原料を熱処理する工程とが複数回繰り返されることがより好ましい。
【0022】
次に、酸化アルミニウム層3上に、蒸着法、スパッタリング法またはMOD法などにより、下部電極層4が形成される。下部電極層4は、白金またはパラジウムを導電体とするように形成されることが好ましい。このような白金等の導電体を用いることにより、後に実施する熱処理工程において、下部電極層4が与える導電率が劣化しないようにすることができる。なお、上記下部電極層4中には、不可避的に白金またはパラジウムの酸化物が含まれていても、電極としての機能を妨げない限り、問題はない。
【0023】
次いで、下部電極層4は、その形成時に付与された温度より高い温度で熱処理される。この熱処理は、下部電極層4の、酸化アルミニウム層3に対する接合強度を向上させるためのものである。このときの熱処理温度は、十分な接合強度を得るためには、600℃以上であることが好ましい。しかし、1000℃より高い温度で熱処理することは、シリコン基板2の変質を引き起こすため、望ましくない。
【0024】
なお、接合強度のさらなる向上のためには、前述した下部電極層4の形成において、酸化アルミニウム層3上に、溶液原料を塗布し、熱処理することによって、酸化パラジウム膜を予め形成した後、この酸化パラジウム膜上に白金膜を成膜し、その上で、前述したような熱処理工程を実施することが好ましい。
【0025】
次いで、下部電極層4上に、スクリーン印刷法、MOD法、スパッタリング法または化学気相成長法(CVD法)などにより、鉛元素を含有する圧電性複合酸化物層5が形成される。この圧電性複合酸化物層5を形成する過程において、圧電性複合酸化物の結晶化を促進する目的、および下部電極層4と圧電性複合酸化物層5との接合強度を向上させる目的のため、加熱工程が実施される。
【0026】
次に、圧電性複合酸化物層5上に、蒸着法、スパッタリング法またはMOD法などにより、上部電極層6が形成される。この上部電極層6も、たとえば、白金またはパラジウムを導電体とするように形成されることが好ましい。
【0027】
このようにして得られた圧電素子1は、その後、下部電極層4と上部電極層6との間に電界を印加することによって、圧電性複合酸化物層5の分極処理が施される。
【0028】
次に、この発明の効果を確認するため、この発明の範囲内にある実施例およびこの発明の範囲外にある比較例の各々に従って、圧電素子を製造した実験例について説明する。
【0029】
【実験例】
(実施例1)
表面にシリコン酸化物層を有するシリコン基板上に、スピンコートによって、酸化アルミニウムの前駆体となる硝酸アルミニウム水和物を成分とする溶液原料を塗布し、次いで900℃の温度で熱処理することを複数回繰り返し、膜厚が100nmの酸化アルミニウム層を形成した。
【0030】
次に、酸化アルミニウム層上に、室温において、スパッタリング法を用いて、下部電極層となる厚み250nmの白金膜を成膜し、次いで、この白金膜を600℃の温度で熱処理した。
【0031】
次に、白金膜上に、圧電体ペーストをスクリーン印刷により塗布した。この圧電体ペースト中に含まれる圧電体結晶粉末として、85モル%Pb(Zr,Ti)O3 −15モル%Pb(Zn1/3 Nb2/3 )O3 からなるものを用いた、また、圧電体ペースト中に含まれる焼結助剤として、0.625PbO−0.375GeO3 系結晶化ガラスを用いた。また、圧電体ペースト中に含まれる有機ビヒクルとして、エチルセルロース系のバインダと有機溶剤としてのジエチレングリコールモノブチルエーテルとを混合したものを用いた。なお、圧電体ペースト中に含まれる圧電体結晶粉末と焼結助剤と有機ビヒクルとの重量比率を、99:1:3とした。
【0032】
次に、上述のようにスクリーン印刷された圧電体ペーストを、150℃の温度で乾燥した後、800℃の温度で焼成することにより、厚み50μmの圧電性複合酸化物層を形成した。
【0033】
次に、圧電性複合酸化物層上に、白金からなる厚み200nmの上部電極層を、室温において、スパッタリング法を用いて形成した。
【0034】
このようにして得られた実施例1に係る圧電素子において、比誘電率が800、残留分極が16μC/cm2 、抗電界が16kV/cmというように、優れた強誘電特性を得ることができた。
【0035】
(実施例2)
下部電極層を形成した後の熱処理において、800℃の温度を適用したこと以外は、上記実施例1と同様の方法によって、圧電素子を作製した。
【0036】
(実施例3)
下部電極層を形成するため、白金からなる膜を成膜する前に、酸化アルミニウム層上に、スピンコートにより溶液原料を塗布し、850℃の温度で熱処理することによって、酸化パラジウム膜を予め形成したことを除いて、実施例1と同様の方法に従って、圧電素子を作製した。
【0037】
(比較例1)
下部電極層のための白金膜を成膜した後、熱処理を行なわなかったことを除いて、実施例1と同様の方法に従って、圧電素子を作製した。
【0038】
(比較例2)
下部電極層を形成するため、600℃の温度でスパッタリング法を実施して白金膜を形成し、その後、熱処理を行なわなかったことを除いて、実施例1と同様の方法に従って、圧電素子を作製した。
【0039】
(比較例3)
下部電極層を形成するため、600℃の温度でスパッタリング法を実施して白金膜を成膜し、次いで、200℃の温度で熱処理を行なったことを除いて、実施例1と同様の方法に従って、圧電素子を作製した。
【0040】
(比較例4)
酸化アルミニウム層の代わりに、スパッタリング法を用いて、チタン層を形成したことを除いて、実施例1と同様の方法に従って、圧電素子を作製した。
【0041】
(比較例5)
酸化アルミニウム層の代わりに、MOD法を用いて酸化ジルコニウム層を形成したことを除いて、実施例1と同様の方法に従って、圧電素子を作製した。
【0042】
(剥離発生率の評価)
上記実施例1〜3および比較例1〜3の各々に係る圧電素子における酸化アルミニウム層と下部電極層との間の接合強度を評価するため、各試料に対して、5mm、3mmおよび1mmの各カット幅で短冊状にダイシングカットを実施し、酸化アルミニウム層と下部電極層との間の剥離が生じている試料数を計数し、全試料数に対する剥離が生じている試料数の比率を剥離発生率として求めた。その結果が表1に示されている。
【0043】
【表1】
【0044】
表1からわかるように、実施例1〜3によれば、酸化アルミニウム層と下部電極層との間で良好な接合強度が得られている。特に、実施例3は、実施例2より優れた接合強度を有し、また、実施例2は、実施例1に比べて優れた接合強度を有していることがわかる。
【0045】
これらに対して、比較例1〜3によれば、酸化アルミニウム層と下部電極層との間の接合強度が低いことがわかる。
【0046】
(鉛の拡散の評価)
上記実施例1〜3ならびに比較例4および5について、基板内の鉛量をエネルギー分散型X線マイクロアナライザ(EDX)で分析し、圧電性複合酸化物層中の鉛元素のシリコン基板側への拡散の有無を評価した。その結果が表2に示されている。
【0047】
【表2】
【0048】
表2からわかるように、実施例1〜3では、鉛の拡散が確認されなかったのに対し、比較例4および5では、鉛の拡散が確認された。
【0049】
【発明の効果】
以上のように、この発明によれば、シリコン基板を用い、シリコン基板の、シリコン酸化物層が存在している一方主面上に酸化アルミニウム層を形成し、この酸化アルミニウム層上に下部電極層を形成し、次いで、この下部電極層を熱処理するようにしているので、優れた強誘電特性および圧電特性を有し、かつ下部電極層の接合強度の高い、圧電素子を得ることができる。
【0050】
上述の下部電極層の熱処理において、600℃以上かつ1000℃以下の温度が適用されると、この発明による効果をより確実に得ることができる。
【0051】
また、酸化アルミニウム層を形成するため、酸化アルミニウムの前駆体となる原料をシリコン基板の一方主面上にコートし、このコートされた原料を熱処理することによって酸化アルミニウムとするようにすれば、緻密性および結晶性に優れた酸化アルミニウム層を形成することができ、したがって、圧電性複合酸化物層に含まれる鉛元素がシリコン基板へと拡散することをより確実に防止することができる。
【0052】
上述の場合、酸化アルミニウムの前駆体となる原料をコートする工程と、コートされた原料を熱処理する工程とを複数回繰り返して、酸化アルミニウム層を形成するようにすれば、熱処理において、酸化アルミニウム層中にクラックが発生してしまうことを有利に防止することができる。
【0053】
また、下部電極層が、白金、パラジウムまたはこれらの酸化物を導電成分として含むようにされると、その後の熱処理において、下部電極層の導電率が劣化しないようにすることができる。
【0054】
また、下部電極層を形成するため、溶液原料を塗布し、熱処理することによって、酸化パラジウム膜を予め形成し、次いで、酸化パラジウム膜上に白金膜を成膜するようにすれば、下部電極層の接合強度をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の一実施形態による製造方法によって製造された圧電素子1を図解的に示す断面図である。
【符号の説明】
1 圧電素子
2 シリコン基板
3 酸化アルミニウム層
4 下部電極層
5 圧電性複合酸化物層
6 上部電極層
Claims (6)
- その少なくとも一方主面に沿ってシリコン酸化物層が存在しているシリコン基板を用意する、第1の工程と、
前記シリコン基板の前記一方主面上に酸化アルミニウム層を形成する、第2の工程と、
前記酸化アルミニウム層上に下部電極層を形成する、第3の工程と、
次いで、前記下部電極層の形成時に付与される温度より高い温度で前記下部電極層を熱処理し、それによって、前記下部電極層の、前記酸化アルミニウム層に対する接合強度を向上させる、第4の工程と、
次いで、前記下部電極層上に、鉛元素を含有する圧電性複合酸化物層を加熱工程を経て形成する、第5の工程と、
前記圧電性複合酸化物層上に上部電極層を形成する、第6の工程と
を備える、圧電素子の製造方法。 - 前記第4の工程において、熱処理温度が600℃以上かつ1000℃以下である、請求項1に記載の圧電素子の製造方法。
- 前記第2の工程は、酸化アルミニウムの前駆体となる原料を前記シリコン基板の前記一方主面上にコートする工程と、前記コートされた原料を熱処理することによって酸化アルミニウムとする工程とを含む、請求項1または2に記載の圧電素子の製造方法。
- 前記第2の工程において、前記酸化アルミニウムの前駆体となる原料をコートする工程と、前記コートされた原料を熱処理する工程とが複数回繰り返される、請求項3に記載の圧電素子の製造方法。
- 前記第3の工程において、前記下部電極層は、白金またはパラジウムを導電体とするように形成される、請求項1ないし4のいずれかに記載の圧電素子の製造方法。
- 前記第3の工程において、前記下部電極層は、溶液原料を塗布し、熱処理することによって、酸化パラジウム膜を予め形成する工程と、前記酸化パラジウム膜上に白金膜を成膜する工程とを経て形成される、請求項5に記載の圧電素子の製造方法。
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