JP4418586B2 - スパークプラグ及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は内燃機関用のスパークプラグとその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
内燃機関、例えば自動車用等のガソリンエンジンの点火に使用されるスパークプラグは、中心電極の外側に絶縁体が、さらにその外側に主体金具が設けられ、中心電極との間に火花放電ギャップを形成する接地電極がその主体金具に取り付けられた構造を有する。そして、主体金具の外周面に形成された取付ねじ部により、エンジンのシリンダヘッドに取り付けて使用される。
【0003】
スパークプラグの主体金具は一般に炭素鋼等の鉄系材料で構成され、その表面には防食のための亜鉛めっきが施されることが多い。亜鉛めっき層は鉄に対しては優れた防食効果を有するが、よく知られている通り、鉄上の亜鉛めっき層は犠牲腐食により消耗しやすく、また、生じた酸化亜鉛(いわゆる白錆)により白く変色して外観も損なわれ易い欠点がある。そこで多くのスパークプラグでは、亜鉛めっき層の表面をさらにクロメート層で覆い、めっき層の腐食を防止することが行われている。
【0004】
また、白錆を発生しやすい亜鉛めっき層に代えてニッケルめっき層を使用する提案も、例えば特公平4−65158号公報においてなされている。この場合、主体金具の取付ねじ部におけるプラグホールとの螺合摺動を確保するために、主体金具に施されるニッケルめっき厚を小さく抑えなければならないことから、ニッケルめっき層の上にさらに電解クロメート層を形成するようにしている。
【0005】
ところで、スパークプラグの主体金具に施されるクロメート層としては、従来、いわゆる黄色(あるいは有色)クロメート層が用いられてきた。この黄色クロメート層は、防食性能が良好であるため、例えば缶詰内面被覆等をはじめ、スパークプラグ以外の分野においても広く使用されてきたものである。しかしながら、クロム成分の一部が六価クロムの形で含有されていることが災いして、環境保護に対する関心が地球規模で高まりつつある近年では次第に敬遠されるようになってきている。例えばスパークプラグが多量に使用される自動車業界においては、廃棄スパークプラグによる環境への影響を考慮して、六価クロムを含有するクロメート層の使用は将来全廃しようとの検討も進められている。
【0006】
こうした流れを受けて、六価クロムを含有しないクロメート層、すなわちクロム成分の実質的に全てが三価クロムの形で含有されている層の開発は、比較的早くから進められてきた。その処理浴は概して六価クロム濃度が低く、中には六価クロムを全く含有しない浴も開発されていて、廃液処理の問題も軽減されている。しかしながら、三価クロム系のクロメート層は、黄色クロメート層に比べて防食性能が劣るという大きな欠点があり、スパークプラグの主体金具の被覆用としては、広く用いられるに至っていない。特に、取付ねじ部での螺合・摺動を確保するために下地のニッケルめっき層厚さが低く抑えられている場合は、耐食性の問題が特に生じやすく、電解めっき法において特にめっき層厚さが不足しやすい、ねじの谷底部等での発錆等が生じやすくなる。
【0007】
また、スパークプラグの主体金具は、絶縁体に対し、金具後端側の開口部を絶縁体側に加締めることにより固定されるが、この加締めに伴う変形時に、表面に形成したニッケルめっき層やクロメート層に割れや剥がれが生ずると、加締め部における主体金具の耐食性を十分に確保できなくなる惧れがある。
【0008】
本発明の課題は、主体金具表面を覆うクロメート層として六価クロム含有量が少ないものを使用しつつ、加締め部及び取付ねじ部の双方における防食性能を十分に確保することができるスパークプラグと、その製造方法とを提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段及び作用・効果】
上記の課題を解決するために、本発明のスパークプラグは、
筒状の絶縁体と、
その絶縁体が軸線方向において内側に挿通される筒状に形成されるとともに、その外周面には軸線方向における第一端側に内燃機関への取付ねじ部が形成される一方、第二端側の開口部に、絶縁体側の加締め受部に向けて曲げ加締めすることにより加締め部が形成された鋼鉄製の主体金具とを有し、
該主体金具は、鋼鉄製の下地本体部を有するとともに、該下地本体部の加締め部外面と取付ねじ部とを含む外周面が、加締め部外面における厚さが5〜15μmとなるように形成された電解ニッケルめっき層と、その電解ニッケルめっき層上に接して形成されるとともに、含有されるクロム成分の95質量%以上が三価クロムであって、膜厚が0.05〜0.5μmである電解クロメート層とからなる複合層によって被覆されてなり、
かつ、硬さ測定用圧子の先端が電解クロメート層を貫通して電解ニッケルめっき層側に食い込むように、荷重50mNにて測定した複合層のビッカース硬さが170〜650であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明のスパークプラグの製造方法は、筒状の絶縁体と、その絶縁体が軸線方向において内側に挿通される筒状に形成されるとともに、その外周面には軸線方向における第一端側に内燃機関への取付ねじ部が形成される一方、第二端側の開口部に、絶縁体側の加締め受部に向けて曲げ加締めすることにより加締め部が形成された鋼鉄製の主体金具とをを有するスパークプラグの製造方法であって、
取付ねじ部と第二端側の加締め予定部とを含む、加締め前の主体金具の外周面全面に、加締め予定部における厚さが5〜15μmとなり、かつ、荷重50mNにて測定したビッカース硬さが150〜630である電解ニッケルめっき層を形成するニッケルめっき工程と、
そのニッケルめっき層上に、含有されるクロム成分の95質量%以上が三価クロムである電解クロメート層を形成する電解クロメート処理工程と、
それら電解ニッケルめっき層と電解クロメート層とからなる被覆層にて外面が覆われた主体金具の内側に絶縁体を挿入し、第二端側の加締め予定部を該絶縁体の加締め受部に向けて加締める加締め工程と、
を含むことを特徴とする。
【0011】
なお、本明細書においては、ビッカース硬さHvの試験方法については、JIS:Z2244に規定された方法を用いるものとする。また、ビッカース硬さ試験に用いる試験機は、JIS:B7725に適合するものを使用する。また、本明細書においてニッケルめっき層とは最も含有率の高い金属成分がニッケルであるめっき層をいい、ニッケル合金めっき層を概念として含む。
【0012】
上記本発明においては、鋼鉄製の主体金具表面に形成する被覆層が、電解ニッケルめっき層と電解クロメート層とからなる複合層を含む。そして、六価クロム低減のため、含有されるクロム成分の95質量%以上が三価クロムである電解クロメート層を採用する。すなわち、通常の黄色クロメート層では、クロム成分の25〜35質量%程度が六価クロムであるのに対し、本発明の層では、クロム成分に対する六価クロムの含有率が5質量%以下と少ないので、六価クロムを削減しようとする環境対策上の効果を高めることができる。電解クロメート層は、六価クロム成分を、不可避不純物レベルのものを除いて実質的に含有しないものであることがより望ましい。
【0013】
他方、このような電解クロメート層(以下、三価クロム系電解クロメート層という)は、黄色クロメート層と比較した場合に耐食性が若干劣る。そこで、本発明では、後述する加締め工程での不具合発生防止も考慮しつつ、電解ニッケルめっき層及び電解クロメート層の加締め部での厚さ及び硬さを特有の範囲にて調整した。
【0014】
具体的には、本発明においては、複合層を構成する三価クロム系電解クロメート層が、加締め部での厚さが0.5μm以下と、後述する電解ニッケルめっき層よりも十分小さな値に設定されることにより、防食性能を確保しつつも加締め部を形成する際の電解ニッケルめっき層に対する追従変形性が向上し、ひいては加締め部において三価クロム系電解クロメート層に割れや剥離等の不具合が生じ難くなる。他方、電解ニッケルめっき層は、加締め部での厚さが2μm以上に設定されることにより、取付ねじ部のねじ谷部におけるめっき層厚さが、上記三価クロム系電解クロメート層との組合せにおいて、発錆防止等を図る上で必要十分な値に確保される。
【0015】
他方、三価クロム系電解クロメート層をある程度薄くしたとしても、下地の電解ニッケルめっき層の加工性(あるいは延性)が不足していれば、加締め時において、電解ニッケルめっき層に割れ等が生じやすくなり、その影響は当然、これを覆う電解クロメート層にも波及する。そこで、本発明においては、硬さ測定用圧子の先端が電解クロメート層を貫通して電解ニッケルめっき層側に食い込むように、荷重50mNにて測定した複合層のビッカース硬さ(以下、これを「加締め部複合層硬さ」という)が650以下となるように調整する。これにより、複合層全体の加工性ひいては加締めに伴う追従変形性が向上し、電解ニッケルめっき層及び電解クロメート層のいずれにおいても、加締め部に割れや剥離などの不具合が生じ難くなる。かくして、加締め部及び取付ねじ部の双方における防食性能が十分に確保されたスパークプラグが実現する。
【0016】
三価クロム系電解クロメート層の加締め部における膜厚が0.05μm未満になると、複合層の耐食性が不足することにつながる。特に、電解クロメート層の着きまわりがそれほどよくない取付ねじ部の谷部等において耐食性が不足し、発錆等の不具合を生じやすくなる。他方、該膜厚が0.5μmを超えると、電解クロメート層の可撓性あるいは追従変形性が不足し、加締め時において割れや剥がれ等の不具合が生じることにつながる。該膜厚は、より望ましくは0.1〜0.3μmであるのがよい。
【0017】
また、電解ニッケルめっき層の加締め部における膜厚が5μm未満になると、複合層の耐食性が同様に不足することにつながる。また、該膜厚が15μmを超えると、めっき層の内部応力が増大し、加締め部における割れや剥がれ等の問題が生じやすくなる。また、取付ねじ部の寸法精度が確保できなくなり、プラグホールに螺合させる際の摺動性が損なわれることにつながる。該膜厚は、より望ましくは7〜13μmであるのがよい。
【0018】
前記の加締め部複合層硬さは、下地をなすのが電解ニッケルめっき層であることから、最低でも170程度には大きくなる。当該硬さは、スパークプラグに適用するに際して特に支障を生ずるようなものではない。他方、上記の硬さが650を超えて大きくなると、複合層の変形能が不足し、加締め部における割れや剥がれ等の問題が生じやすくなる。
【0019】
なお、上記のようにして測定した加締め部複合層硬さは、電解ニッケルめっき層の硬さと電解クロメート層との硬さとの兼ね合いにより定まるパラメータであるが、本発明においては、電解ニッケルめっき層のほうが電解クロメート層よりもはるかに膜厚が大きいため、上記複合層の硬さは主に電解ニッケルめっき層の硬さに支配される形となる。従って、本発明では、電解ニッケルめっき層を、硬さが過度に大きくならず、ある程度延性に富んだ性状のものとなるように形成することが重要である。例えば、電解ニッケルめっき層単独にて荷重50mNにて測定したビッカース硬さ(本明細書においては、主体金具の軸線を含む断面にて主体金具を切断したときに、電解ニッケルめっき層の加締め部を覆う部分の断面にて測定した硬さとして定義する:以下、これを「加締め部ニッケルめっき層硬さ」という)は、150〜630となっているのがよい。この加締め部ニッケルめっき硬さは、電解クロメート層の厚さが0.3μm以下になると、前述の加締め部複合層硬さと略同じ値となる。
【0020】
次に、複合層により覆われた加締め部表面の粗さ(以下、「加締め部表面粗さ」という)は、算術平均粗さRaにて0.05〜0.9μmとなっていることが望ましい。このように加締め部表面粗さを調整することにより、加締め部を形成する際の加締め金型との摺動性が向上するので、不均一変形等による複合層の割れや剥離等が生じ難くなり、耐食性を一層向上させることができる。また、最大高さRyは0.2〜18μm(いずれもJIS:B0607による)となっていることが望ましい。なお、電解ニッケルめっき層は光沢ニッケルめっき層とすることができる。なお、粗さ数値範囲の下限値は製造コストを考慮して定めたものであるが、安価に平滑な面が得られるのであれば粗さ(Ra及び/又はRy)をさらに小さな値に設定することも可能である。
【0021】
なお、加締め部において複合層の割れや剥離等が生じ難くするためには、電解ニッケルめっき層の延性(すなわち加締め時の追従変形性)の向上と、複合層により覆われた加締め部表面粗さを小さくすることの両方が重要である。ここで、加締め部表面粗さは、電解クロメート層の形成厚さが本発明では比較的小さいことから、電解ニッケルめっき層の表面粗さの影響を大きく受ける。具体的には、加締め部表面の粗さを小さくするには、電解ニッケルめっき層の表面を平滑に仕上げる必要がある。そして、電解ニッケルめっき層の表面を平滑にするには、めっき浴中に添加する光沢剤の量を増やさなければならないが、光沢剤の量が増すと形成される電解ニッケルめっき層が硬くなり、電解ニッケルめっき層の延性確保の観点においては不利に作用する。従って、加締め部表面粗さが小さくなれば、加締め部複合層硬さがある程度大きくとも、複合層の割れや剥離等の少ない健全な加締め部を形成することが可能である。例えば、電解ニッケルめっき層の光沢を増すことで、加締め部表面粗さが算術平均粗さRaにて0.8μm以下、最大高さRyにて12μm以下とした場合、加締め部ニッケルめっき層硬さは330〜630程度、加締め部複合層硬さは350〜650程度と、やや大きな値となる場合がある。しかしながら、加締め部表面粗さが小さいことから、健全な加締め部を問題なく形成することができる。
【0022】
他方、従来のスパークプラグでは、光沢の大きい亜鉛めっき層上にクロメート層を形成した主体金具(以下、亜鉛クロメート処理品という)が使用されていたが、亜鉛めっき層を、より耐食性の良好なニッケルめっき層に置き換える際に、光沢の小さいニッケルめっき層を使用したのでは、亜鉛クロメート処理品に慣れ親しんでいたユーザーにとって外観上の違和感が甚だしく、その抵抗感から必ずしもスムーズに製品が受け入れられない、といった不具合も生じうる。この場合、平滑な電解ニッケルめっき層を形成することで主体金具の外観が向上し、上記のような違和感を生じ難くすることができる。そして、このように平滑な電解ニッケルめっき層を採用する場合においても、加締め部ニッケルめっき硬さを650程度まで、加締め部複合層硬さを630程度までに留めることで、加締め部表面粗さが小さくなることとも相俟って、健全な加締め部を問題なく形成することができる。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を、図面を用いて説明する。
図1に示す本発明の一例たる抵抗体入りスパークプラグ100は、筒状の主体金具1、先端部が突出するようにその主体金具1内に嵌め込まれた筒状の絶縁体2、先端部を突出させた状態で絶縁体2の内側に設けられた中心電極3、及び主体金具1に一端が結合され、他端側が中心電極3の先端と対向するように配置された接地電極4等を備えている。接地電極4と中心電極3の間には火花放電ギャップgが形成されている。
【0024】
絶縁体2は、例えばアルミナあるいは窒化アルミニウム等のセラミック焼結体により構成され、その内部には自身の軸方向に沿って中心電極3を嵌め込むための貫通孔6を有している。貫通孔6の一方の端部側に端子金具13が挿入・固定され、同じく他方の端部側に中心電極3が挿入・固定されている。また、該貫通孔6内において端子金具13と中心電極3との間に抵抗体15が配置されている。この抵抗体15の両端部は、導電性ガラスシール層16,17を介して中心電極3と端子金具13とにそれぞれ電気的に接続されている。
【0025】
主体金具1は、炭素鋼等の金属により円筒状に形成されており、スパークプラグ100のハウジングを構成するとともに、その外周面には、スパークプラグ100を図示しないエンジンブロックに取り付けるためのねじ部7が形成されている。なお、1eは、主体金具1を取り付ける際に、スパナやレンチ等の工具を係合させる工具係合部であり、六角状の軸断面形状を有している。他方、主体金具1の後方側開口部内面と、絶縁体2の外面との間には、加締め受部をなすフランジ状の突出部2eの後方側周縁と係合するリング状の線パッキン62が配置され、そのさらに後方側にはタルク等の充填層61を介してリング状のパッキン60が配置されている。そして、絶縁体2を主体金具1に向けて前方側に押し込み、その状態で主体金具1の開口縁をパッキン60(ひいては加締め受部たる突出部2e)に向けて内側に加締めることにより加締め部1dが形成され、主体金具1が絶縁体2に対して固定されている。
【0026】
また、主体金具1のねじ部7の基端部には、ガスケット30がはめ込まれている。このガスケット30は、炭素鋼等の金属板素材を曲げ加工したリング状の部品であり、ねじ部7をシリンダヘッド側のねじ孔にねじ込むことにより、主体金具1側のフランジ状のガスシール部1fとねじ孔の開口周縁部との間で、軸線方向に圧縮されてつぶれるように変形し、ねじ孔とねじ部7との間の隙間をシールする役割を果たす。
【0027】
次に、主体金具1の下地層(例えば炭素鋼)40の外面全体には、防食のための電解ニッケルめっき層41が形成され、そのさらに外側が三価クロム系電解クロメート層(以下、単に「電解クロメート層」という)42で覆われている。これら電解ニッケルめっき層41と電解クロメート層とが複合層を形成する。また、ガスケット30の外面にも、同様に電解ニッケルめっき層45と三価クロム系電解クロメート層46とが形成される。
【0028】
上記のようにして複合層が形成された金具組立体Wすなわち主体金具1は、図1に示すように、絶縁体2に加締め固定される。図7は主体金具1を絶縁体2に加締め固定する工程の一例を示すものである(接地電極4は省略して描いている)。まず図7(a)に示すような、主体金具1に対し、図7(b)のように貫通孔6に中心電極3及び導電性ガラスシール層16,17、抵抗体15及び端子金具13を予め組みつけた絶縁体2を挿入開口部1p(加締め部1dとなるべき加締め予定部200が形成されている)から挿入し、絶縁体2の係合部2hと主体金具1の係合部1cとを、板パッキン63を介して係合させた状態とする。
【0029】
そして、図7(c)に示すように、主体金具1の挿入開口部1p側から内側に線パッキン62を配置し、タルク等の充填層61を形成してさらに線パッキン60を配置する。そして、加締め金型111により、加締め予定部200を線パッキン62、充填層61及び線パッキン60を介して、加締め受部としての突出部2eの端面2nに加締めることにより、図7(d)に示すように加締め部1dが形成され、主体金具1が絶縁体2に加締め固定される。その後、接地電極4を中心電極3側に曲げ加工して火花放電ギャップgを形成することにより、図1のスパークプラグ100が完成する。
【0030】
上記主体金具1及びガスケット30において、複合層をなす電解ニッケルめっき層及び電解クロメート層は、いずれも同一の方法によって形成されるものであり、以下、主体金具1側で代表させて説明を行なう。本発明においては、加締め部1dにおける電解ニッケルめっき層41の追従変形性を高めるために、層の硬さを低下させて延性に富むものとすることが望ましい。具体的には、電解ニッケルめっき層41は、主体金具1の軸線Oを含む断面にて主体金具を切断したときに、電解ニッケルめっき層の加締め部1dを覆う部分の断面にて荷重50mNにて測定したビッカース硬さが130〜630の、光沢ニッケルめっき層として形成されるものである。図3(a)に示す、加締め部1dの外面における電解ニッケルめっき層41の厚さt1は5〜15μm(望ましくは7〜13μm)である。他方、図3(b)に示す、取付ねじ部7のねじ谷部における電解ニッケルめっき層41の厚さt2は0.2〜2μmである。また、工具係合部1eにおける電解ニッケルめっき層41の厚さは3〜9μmである。
【0031】
上記のような複合層を主体金具1の表面に形成することにより、JIS H8502に規定されためっきの耐食性試験方法における「5.中性塩水噴霧試験方法」を行ったときに、鋼鉄製の下地層40の腐食に由来する赤錆が加締め部の全表面のおよそ20%以上現われるまでの耐久時間を、24時間以上とすることができる。また、電解ニッケルめっき層の膜厚が不足しがちな取付ねじ部においても、JISH8502に規定されためっきの耐食性試験方法における「5.中性塩水噴霧試験方法」を行ったときに、下地層40の腐食に由来する赤錆が取付ねじ部の全表面のおよそ20%以上現われるまでの耐久時間を、24時間以上確保することができる。これらはいずれも、スパークプラグ100の主体金具1が備えているべき耐食性のレベルとしては十分なものである。
【0032】
上記のような電解ニッケルめっき層41は、例えば公知のバレルめっき法により形成することができる。この場合、主体金具1には、その取付ねじ部7側の開口部に接地電極4の基端側を溶接により取り付け、金具組立体Wとしておく。この段階で接地電極4は曲げ加工前であり、主体金具1の軸線方向に直線的に延びた状態となっている。図2に、バレルめっきに使用する装置の一例を模式的に示している。バレルめっき装置199においては、壁面が網や穴開き板等により液通に構成された保持容器202内に、複数の金具組立体Wがバラ積み状態で挿入され、めっき槽200内のニッケルめっき浴L1内に浸漬される。また、めっき浴L1中には対向電極203が配置される。モータ201により保持容器202を水平な回転軸線周りに回転駆動しながら、保持容器202内の通電電極205を介して、金具組立体Wと対向電極203との間で直流電源204により通電すれば、金具組立体Wは接地電極4を含むその外面全面に電解ニッケルめっきが施されることとなる。バレルめっきは、上記のような回転バレルめっきの他、揺動バレルめっきを採用することも可能である。
【0033】
ニッケルめっき浴は、光沢ニッケルめっきに適していて、しかも内部応力の小さい比較的軟質のニッケルめっき層が得られるものを使用することが望ましい。このようなニッケルめっき浴としては、例えば、硫酸ニッケル(6水和物)を200〜380g/リットル(望ましくは220〜290g/リットル)、塩化ニッケル(6水和物)を20〜60g/リットル(望ましくは40〜50g/リットル)、及びほう酸を20〜60g/リットル(望ましくは40〜50g/リットル)の割合にて含有するめっき浴(いわゆるワット浴)を、本発明に好ましく用いることができる。
【0034】
硫酸ニッケルはめっき浴の主成分をなすものであり、塩化ニッケルは、ニッケル陽極の溶解性を高めて浴伝導度を高めることにより、電解ニッケルめっき層41の主体金具1への着きまわり(特に、取付ねじ部7への着きまわり)を良好なものとし、また、その平滑性を高める働きをなす。ただし、塩化ニッケルの過剰の添加は、得られる電解ニッケルめっき層41の硬さを上記範囲の上限を超えて増加させることにつながり、該電解ニッケルめっき層41の延性が低下して加締め部1dにおいて割れや剥離等の不具合を生ずることにつながる。
【0035】
また、電解ニッケルめっき層41の硬さを上記範囲のものとするためには、めっき浴のpHを2.0〜4.8の範囲に調整することが望ましい。pHが4.8を超えると、電解ニッケルめっき層41の内部応力及び硬さの過度の上昇を招く。他方、pHが2.0未満では、ニッケル陽極の溶解性が低下し、電解ニッケルめっき層41の主体金具1への着きまわり不良を招く場合がある。上記めっき浴のpHは、より望ましくは3.8〜4.8の範囲にて調整するのがよい。なお、めっき浴中のほう酸は、pHを該範囲に維持するための緩衝剤として機能する。また、めっき層の平滑性を高める作用も有する。ほう酸の添加量が不足すると、pHの上昇を生じやすくなり、電解ニッケルめっき層41の内部応力及び硬さの過度の増大につながる場合がある。他方、ほう酸の添加量が過剰になると、めっき浴温度が低下したときにほう酸の析出を生じやすくなる。
【0036】
さらに、電解ニッケルめっき層41の硬さに影響を与える他の因子としては、陰極電流密度及びめっき浴温度などがある。めっき層の硬さはめっき速度が速いほうが小さくなりやすく、柔軟なめっき層が得やすくなるが、このためには陰極電流密度を上昇させること、例えば8〜10A/dm2程度に調整するのがよい。また、陰極電流密度を高めるためにはめっき浴温度をある程度上昇させることが有利であり、例えば浴温度を45〜65℃、望ましくは50〜58℃に調整するのがよい。
【0037】
なお、めっき浴としては、上記説明したもののほか、めっき浴主成分として硫酸ニッケルに代え、スルファミン酸ニッケルを300〜500g/リットル、ほう酸を30〜50g/リットル含有するめっき浴(いわゆるスルファミン酸ニッケル浴;得られるめっき層の硬さが前述の範囲内となる条件にて、必要に応じて塩化ニッケルを30g/リットル程度までの範囲に添加できる)、あるいは、硼弗化ニッケルを300〜450g/リットル、ほう酸を20〜40g/リットルの割合にて含有した硼弗化ニッケル浴などを、本発明に好適に使用することができる。
【0038】
次に、使用するめっき浴には、得られる電解ニッケルめっき層の平滑性を高めるために、適量の光沢剤を添加することが望ましい。光沢剤は、通常、1次光沢剤と2次光沢剤とを併用する。1次光沢剤は、後述する2次光沢剤の濃度範囲を広くするととともに応力を減少させる働きをなし、2次光沢剤による光沢付与効果を確実に引き出すためのいわば光沢助剤として作用する。一方、2次光沢剤は光沢作用の主を担うものであり、適量の1次光沢剤を添加することを前提に、少量の添加でも、得られるめっき層を顕著に平滑化する働きを有する。
【0039】
1次光沢剤としては、具体的には、=C−SO2−の構造を分子中に含む有機化合物、例えば各種のスルホン酸塩(例えば1,3,6ナフタレントリスルホン酸ナトリウム、1,5ナフタリンジスルホン酸ナトリウム)、スルホンイミド(例えばサッカリン)、スルホンアミド(例えばパラトルエンスルホンアミド)あるいはスルフィン酸を用いることができる。めっき浴中への配合量は、例えば1〜5g/リットル程度が適当である。1次光沢剤の配合量が1g/リットル未満になると、必要十分な光沢を得ようとした場合に二次光沢剤の配合量を増やさざるを得なくなり、めっき層が脆く高硬度のものとなりやすくなる。他方、1次光沢剤の配合量が5g/リットルを超えると、めっき層の過剰な高硬度化あるいは脆化を招かない程度に光沢剤の量を抑えようとした場合は、付与される光沢が不足することにつながり、後述する加締め工程の実施時に加締め金型との滑り性が低下して、加締め部1dが正常に形成できなくなる場合がある。他方、光沢を十分に付与しようとすれば、2次光沢剤と合わせた合計添加量が過剰となり、めっき層の過剰な高硬度化あるいは脆化を生じて、加締め加工時にめっき層への割れや剥離が生じやすくなる。なお、1次光沢剤の配合量は、望ましくは2〜4g/リットルとするのがよい。
【0040】
また、2次光沢剤としては、C=O、C=C、C≡C、C=N、C≡N、N−C−S、N=Nあるいは−CH2−CH−O−の少なくともいずれかの構造を分子中に含む有機化合物がある。代表的なものとしては、クマリン、2ブチン−1・4ジオール、エチレンシアンヒドリン、プロパギルアルコール、ホルムアルデヒド、チオ尿素、キノリン、ピリジンなどを好ましく使用することができる。めっき浴中への配合量は、例えば0.1〜0.3g/リットル程度が適当である。1次光沢剤の配合量が0.1g/リットル未満になると、付与される光沢が不足することにつながり、後述する加締め工程の実施時に加締め金型との滑り性が低下して、加締め部1dが正常に形成できなくなる場合がある。他方、添加量が0.3g/リットルを超えると、めっき層の過剰な高硬度化あるいは脆化を生じて、加締め加工時にめっき層への割れや剥離が生じやすくなる。
【0041】
なお、電解ニッケルめっき層41を主体金具1の表面に形成するに先立って、主体金具1の表面にはストライクめっき処理を行なうことが、電解ニッケルめっき層41と主体金具1の下地層40との密着性、特に、取付ねじ部7における電解ニッケルめっき層41の密着性を向上させる上で望ましい。このストライクめっき処理は、めっき層の密着性改善効果が必要十分なレベルにて得られる範囲にて、なるべく短時間にて行なうのがよい。ストライクめっき処理は、例えばニッケルストライクめっき処理とすることができ、そのめっき浴としては、例えば塩化ニッケルを150〜250g/リットル(望ましくは180〜220g/リットル)及び塩酸を120〜180g(望ましくは135〜165g/リットル)を含有するものを使用することができる。
【0042】
次に、三価クロム系電解クロメート層42は、含有されるクロム成分の95質量%以上が三価クロムであり、かつその膜厚が0.05〜0.5μm、望ましくは0.1〜0.3μmである。なお、クロム成分は、なるべく多くの部分が三価クロム成分となっているのがよく、望ましくはクロム成分の実質的に全てが三価クロム成分となっているのがよい。
【0043】
三価クロム系電解クロメート層42は、下側の電解ニッケルめっき層41上に直接接して形成され、該電解ニッケルめっき層41とともに複合層を形成する。そして、図5に示すように、硬さ測定用圧子80の先端が電解クロメート層42を貫通して電解ニッケルめっき層41側に食い込むように、荷重50mNにて測定した該複合層のビッカース硬さ(加締め部複合層硬さ)は150〜650である。
【0044】
複合層により覆われた加締め部1dの表面の粗さ(加締め部表面粗さ)は、算術平均粗さRaにて0.05〜0.9μm、最大高さRyにて0.2〜18μmとされる。また、電解クロメート層42を形成後において、上記のような表面粗さレベルが確保できるよう、電解クロメート層42を形成する前の、電解ニッケルめっき層41の表面粗さは、算術平均粗さRaにて0.1〜5μm、最大高さRyにて0.4〜25μmとなっていることが望ましい。
【0045】
なお、複合層を形成した主体金具1の外観を向上させるために、加締め部表面粗さを算術平均粗さRaにて0.05〜0.8μm、最大高さRyにて0.2〜12μm程度にまで高めることができる。この場合、光沢剤の添加量を前記した望ましい数値範囲内にて増加させる必要がある。その結果、形成される電解ニッケルめっき層41の硬さも増加し、例えば加締め部複合層硬さが350以上、加締め部ニッケルめっき層硬さが330程度となる。この場合も、加締め部複合層硬さが650以下、加締め部ニッケルめっき層硬さが630以下となるように調整することで、加締め部1dの形成を問題なく行なうことができる。
【0046】
電解クロメート処理工程においては、重クロム酸ナトリウム及び重クロム酸カリウムの一方又は双方を含有する水溶液を電解クロメート処理浴として使用することができる。これらの水溶液は、クロムイオンが本質的に六価クロムを主体とする形で存在するものであるが、六価クロムを三価クロムに還元しながら陰極側の主体金具1(の電解ニッケルめっき層41)上に三価クロム系電解クロメート層42として電解析出させるものである。
【0047】
この場合、電解クロメート処理の条件は、六価クロムの還元反応を効率的に進行させ、ひいては得られる電解クロメート層42中のクロム成分の95質量%以上が三価クロムとなるように設定することが重要である。例えば、電解クロメート処理浴中において、重クロム酸ナトリウム及び重クロム酸カリウムの合計濃度は2〜5質量%であるのがよい。該合計濃度が2質量%未満では電解効率が低下し、所期の厚さの電解クロメート層42を得るのに時間がかかりすぎる問題を生ずる。他方、上記合計濃度が5質量%を超えると、電解クロメート層42の密着性低下につながる問題を生ずる。また、電解クロメート処理浴のpHは2〜5に調整するのがよい。pHが2未満では、電解クロメート層42中に取り込まれる六価クロム成分が増加しやすくなり、また、所期の厚さの電解クロメート層42を得るのに時間がかかりすぎる問題を生ずる。他方、pHが5を超えると密着性の良好な電解クロメート層42が得にくくなる。
【0048】
また、クロメート処理浴の温度は、例えば20〜40℃に調整するのがよい。温度が20℃未満では電解効率が低下し、所期の厚さの電解クロメート層42を得るのに時間がかかりすぎる問題を生ずる。また、40℃を超えると電解クロメート層42の密着性低下につながる場合がある。また、陰極電流密度は、15〜30A/dm2に調整するのがよい。陰極電流密度が15A/dm2未満では電解効率が低下し、所期の厚さの電解クロメート層42を得るのに時間がかかりすぎる問題を生ずるほか、電解クロメート層42中に取り込まれる六価クロム成分も増加しやすくなる。他方、陰極電流密度が30A/dm2を超えると密着性の良好な電解クロメート層42が得にくくなる。
【0049】
なお、電解クロメート処理工程は、電解ニッケルめっきと類似のバレル処理に行なってもよいが、形成される電解クロメート層42が電解ニッケルめっき層41と比較すると脆いこと、及び電解クロメート層42の形成厚さがかなり小さいことから、静止めっき法(いわゆる引っ掛けめっき法)を採用することが、欠陥のより少ない電解クロメート層42を得る上で有利である。図4はその一例を模式的に示すものであり、電解ニッケルめっき層41を形成した金具組立体Wの片側の開口に、直流電源の陰極側に接続された導体治具Jを弾性的に圧縮しながら差し込み、該導体治具Jの弾性復帰力により金具組立体Wを着脱可能かつ直流電源により通電可能に支持する。その状態でクロメート処理浴中にて陽極Aと対向させ、直流電源にて通電することにより、金具組立体Wの電解ニッケルめっき層41上に電解クロメート層42が形成される。
【0050】
なお、複合層を形成した主体金具1には、さらに防錆剤の塗布を行なうことも耐食性向上を図る上で有効である。防錆剤は市販品を使用することができ、例えば、P3A100(ヘンケルジャパン(株)製、成分:水酸化カリウム30質量%、ケイ酸塩50質量%、炭酸塩10質量%、重合リン酸塩5質量%、非イオン系界面活性剤5質量%、脱イオン水等にて適当な濃度に希釈して使用し、脱脂剤としての機能も兼ねる)を一例として挙げることができる。
【0051】
【実施例】
(実施例1)
JISG3539に規定された冷間圧造用炭素鋼線SWCH8Aを素材として用い、図7(a)に示す形状の主体金具1を冷間鍛造により製造した。なお、主体金具1のねじ部7の呼びは14mmであり、軸方向長さは約19mmとした。これに接地電極4を図2に示すように溶接接合し、脱脂・水洗を行なった後、下記の条件によりニッケルストライクめっき処理を、図2に示すバレルめっき処理により行なった。
(1)めっき浴組成(溶媒:脱イオン水)
塩化ニッケル:200g/リットル
塩酸:150g/リットル
溶媒:脱イオン水
(2)めっき条件
浴温:35℃
浴pH:0.5
陰極電流密度0.7A/dm2
めっき時間:4分
【0052】
ニッケルストライクめっき処理後の主体金具は水洗後、図2に示すバレルめっき処理により以下の条件にて電解ニッケルめっき処理を施すことにより電解ニッケルめっき層41を形成した。
(1)めっき浴組成
硫酸ニッケル:250g/リットル
塩化ニッケル:45g/リットル
溶媒:脱イオン水
1次光沢剤:アクナB−1(奥野製薬工業(株)製、成分:ナフタリンジスルホン酸塩5質量%、ベンゼンスルホン酸誘導体7質量%、イオン交換水88質量%)、添加量:X(g/リットル)
2次光沢剤:アクナB−2(奥野製薬工業(株)製、成分:2−ブチン−1,4−ジオール13質量%、アセチレン誘導体9質量%、イオン交換水78質量%)、添加量:Y(g/リットル)
光沢剤添加量条件:
・条件1(実施例):X/Y=35/1.5
(2)めっき条件
浴温:53℃
浴pH:4
陰極電流密度:0.8A/dm2
めっき時間:約6分(試験品1:比較例)、約30分(試験品2:実施例)、約60分(試験品3:比較例)
【0053】
電解ニッケルめっき処理の終了した主体金具1は、水洗後、図4に示す静止めっき処理により下記の条件にて電解クロメート処理した。
(1)めっき浴組成
重クロム酸ナトリウム:34g/リットル
溶媒:脱イオン水
(2)めっき条件
浴温:30℃
浴pH:3.5
陰極電流密度:0.5A/dm2
めっき時間:約1.5分
【0054】
上記各主体金具を、図7に示す方法により絶縁体2に加締め固定することにより、加締め予定部200を加締め部1dとなしてスパークプラグ試験品を組み立てた。加締め荷重は4〜5tとした。試験品は、後述する種々の破壊試験ないし分析に供するために、各条件とも複数個ずつ作製した。
【0055】
加締め後のスパークプラグは、加締め部1dにおいて前述の加締め部複合層硬さを測定した(荷重50mNによるビッカース硬さ)。いずれの試験品においても、硬さ測定用の圧子が電解ニッケルめっき層42にまで食い込んでいることがわかった。なお、硬さ値は、ばらつきの影響を軽減するために20点測定を行い、その最大と最小をカットした残りの測定値の平均にて求めるようにした。他方、絶縁体の軸線を含む断面にて試験品を切断し、その断面にて加締め部ニッケルめっき層硬さを測定した。使用した微小ビッカース硬さ計は(株)明石製作所製の微小硬度計(MVK−E)である。また、走査型電子顕微鏡(SEM)にて断面を観察することにより、加締め部1d及び取付ねじ部7のねじ谷部における電解ニッケルめっき層42の形成厚さと、加締め部1dにおける電解クロメート層41の厚さとを測定した。ねじ谷部の電解ニッケルめっき層42の形成厚さは、断面に現われる谷底位置から谷の深さ方向に測定した厚さである。他方、加締め部1dの表面をSEMにて観察することにより、複合層表面に割れや剥離等が発生していないかどうかを確認した。さらに、加締め部1dの表面における表面粗さプロファイルを、JIS:B0601に規定された方法に従い測定し、算術平均粗さRaと最大高さRyとを求めた。なお、使用した測定装置は三鷹光器(株)製の非接触三次元測定機(NH−3)である。
【0056】
また、形成された電解クロメート層中のクロムの存在状態を、X線光電子分光分析法(XPS)により調べたところ、クロム成分のほとんど全てが三価クロムになっていることが確認できた。
【0057】
そして、以上の試験品に対し、JIS H8502に規定されためっきの耐食性試験方法における「5.中性塩水噴霧試験方法」を行い、鋼鉄製の下地層の腐食に由来する赤錆が加締め部1dの全表面のおよそ20%以上現われるまでの耐久時間(耐久時間▲1▼と称する)と、同じく赤錆が取付ねじ部の全表面のおよそ20%以上現われるまでの耐久時間(耐久時間▲2▼と称する)を、それぞれ測定した。以上の結果を表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
本発明の範囲に属する試験品2については、加締め部1dにおける割れやクラックは観察されず、塩水噴霧試験における耐久性も良好である。他方、電解ニッケルめっき層の厚さが不足する試験品1については、塩水噴霧試験における耐久性が不十分である。他方、電解ニッケルめっき層の厚さが過剰な試験品5では、プラグホールへの取り付け時において、取付ねじ部7に作用する締め付けトルクが過剰に大きく、取り付け困難となった。また、加締め部1dにおいて複合層に若干の割れが見られた。
【0060】
(実施例2)
ニッケルストライクめっき処理までを実施例1と同様に行い、電解ニッケルめっき処理を以下の条件にて行なった。
(1)めっき浴組成
硫酸ニッケル:250g/リットル
塩化ニッケル:45g/リットル
溶媒:脱イオン水
1次光沢剤:アクナB−1、添加量:X(g/リットル)
2次光沢剤:アクナB−2、(添加量:Y(g/リットル))
光沢剤添加量条件:
条件2(実施例):X/Y=50/2(試験品4)
条件3(実施例):X/Y=55/2.5(試験品5)
条件4(比較例):X/Y=60/3(試験品6)
(2)めっき条件
浴温:53℃
浴pH:4
陰極電流密度:0.8A/dm2
めっき時間:約30分
【0061】
電解ニッケルめっき処理の終了した主体金具1は、実施例1と同様に電解クロメート層42を形成した。そしてこれらを、図7に示す方法により絶縁体2に加締め固定することにより、加締め予定部200を加締め部1dとなしてスパークプラグ試験品を組み立て、実施例1と同様の評価を行なった。以上の結果を表2に示す。
【0062】
【表2】
【0063】
本発明の範囲に属する試験品6及び7については、加締め部1dにおける割れやクラックは観察されず、塩水噴霧試験における耐久性も良好である。他方、加締め部複合層硬さが過剰な試験品6については、加締め部1dにおいて複合層に割れが見られ、塩水噴霧試験における耐久性に問題があることがわかる。
【0064】
(実施例3)
電解ニッケルめっき処理までを実施例1と同様に行い、その後、図4に示す静止めっき処理により下記の条件にて電解クロメート処理した。
(1)めっき浴組成
重クロム酸ナトリウム:34g/リットル
溶媒:脱イオン水
(2)めっき条件
浴温:30℃
浴pH:3.5
陰極電流密度:0.5A/dm2
めっき時間:約10秒(比較例)、約1分(実施例)、約10分(比較例)
【0065】
そして、主体金具の上記各試験品を、図7に示す方法により絶縁体2に加締め固定することにより、加締め予定部200を加締め部1dとなしてスパークプラグ試験品を組み立て、実施例1と同様の評価を行なった。以上の結果を表3に示す。
【0066】
【表3】
【0067】
本発明の範囲に属する試験品10については、加締め部1dにおける割れやクラックは観察されず、塩水噴霧試験における耐久性も良好である。他方、電解クロメート層が不足する試験品7については、取付ねじ部において塩水噴霧試験の耐久性に問題があることがわかる。また、電解クロメート層が過剰な試験品9については、加締め部において電解クロメート層に割れが見られ、塩水噴霧試験の耐久性が若干不足していることがわかる。
【0068】
なお、図6(a)は実施例1の番号2の試験品について測定した、(b)は同じく実施例2の番号7の試験品について測定した、加締め部の各表面粗さプロファイルである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例たるスパークプラグを示す縦半断面図。
【図2】電解ニッケルめっき処理の一例を示す工程説明図。
【図3】加締め部及び取付ねじ部に形成されたニッケルめっき層の断面模式図。
【図4】電解クロメート処理の一例を示す工程説明図。
【図5】加締め部複合層硬さの測定方法を概念的に示す説明図。
【図6】加締め部における複合層の表面粗さプロファイルのいくつかの測定例を示す図。
【図7】加締め工程の一例を示す工程説明図。
【符号の説明】
1 主体金具
1d 加締め部
2 絶縁体
2e 突出部(加締め受部)
3 中心電極
4 接地電極
30 ガスケット
41,45 電解ニッケルめっき層
42,46 電解クロメート層
100 スパークプラグ
Claims (5)
- 筒状の絶縁体と、
その絶縁体が軸線方向において内側に挿通される筒状に形成されるとともに、その外周面には軸線方向における第一端側に内燃機関への取付ねじ部が形成される一方、第二端側の開口部に、前記絶縁体側の加締め受部に向けて曲げ加締めすることにより加締め部が形成された主体金具とを有し、
該主体金具は、鋼鉄製の下地本体部を有するとともに、該下地本体部の前記加締め部外面と前記取付ねじ部とを含む外周面が、前記加締め部外面における厚さが5〜15μmとなるように形成された電解ニッケルめっき層と、その電解ニッケルめっき層上に接して形成されるとともに、含有されるクロム成分の95質量%以上が三価クロムであって、膜厚が0.05〜0.5μmである電解クロメート層とからなる複合層によって被覆されてなり、
かつ、硬さ測定用圧子の先端が前記電解クロメート層を貫通して前記電解ニッケルめっき層側に食い込むように、荷重50mNにて測定した前記複合層のビッカース硬さが170〜650であることを特徴とするスパークプラグ。 - 前記主体金具の軸線を含む断面にて前記主体金具を切断したときに、前記電解ニッケルめっき層の前記加締め部を覆う部分の断面にて、荷重50mNにて測定した当該電解ニッケルめっき層のビッカース硬さが150〜630である請求項1記載のスパークプラグ。
- 前記電解ニッケルめっき層は光沢ニッケルめっき層である請求項1又は2に記載のスパークプラグ。
- 前記クロメート層は、六価クロム成分を実質的に含有しない請求項1ないし3のいずれかに記載のスパークプラグ。
- 筒状の絶縁体と、その絶縁体が軸線方向において内側に挿通される筒状に形成されるとともに、その外周面には軸線方向における第一端側に内燃機関への取付ねじ部が形成される一方、第二端側の開口部に、前記絶縁体側の加締め受部に向けて曲げ加締めすることにより加締め部が形成された鋼鉄製の主体金具とをを有するスパークプラグの製造方法であって、
前記取付ねじ部と前記第二端側の加締め予定部とを含む、加締め前の主体金具の外周面全面に、前記加締め予定部における厚さが5〜15μmとなり、かつ、荷重50mNにて測定したビッカース硬さが150〜630である電解ニッケルめっき層を形成するニッケルめっき工程と、
そのニッケルめっき層上に、含有されるクロム成分の95質量%以上が三価クロムである電解クロメート層を形成する電解クロメート処理工程と、
それら電解ニッケルめっき層と電解クロメート層とからなる被覆層にて外面が覆われた主体金具の内側に前記絶縁体を挿入し、前記第二端側の加締め予定部を該絶縁体の前記加締め受部に向けて加締める加締め工程と、
を含むことを特徴とするスパークプラグの製造方法。
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