JP4402878B2 - 新規モノアセチルキトオリゴ糖及びその製造方法、並びにキチンオリゴ糖及びキトサンオリゴ糖の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規モノアセチルキトオリゴ糖及びその製造方法、並びにキチンオリゴ糖及びキトサンオリゴ糖の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、キチンやキトサンを分解することにより得られるオリゴ糖の各種生理活性効果が報告されており、健康食品素材として利用されつつある。
【0003】
例えば、特開平8−165243号公報には、硫酸化キチンオリゴ糖及び/又はその塩を有効成分として含有することを特徴とする抗炎症剤が開示されている。
【0004】
また、特開平10−287572号公報には、キチンオリゴ糖、キトサンオリゴ糖及びその塩から選ばれた少なくとも1種を有効成分として含有することを特徴とする肝機能障害予防改善剤が開示されている。
【0005】
更に、特開平11−29484号公報には、キトサンオリゴ糖及びそれらの塩から選ばれた少なくとも1種を有効成分として含有することを特徴とする抗糖尿病剤が開示されている。
【0006】
ところで、キチンオリゴ糖、キトサンオリゴ糖は、キチンやキトサンを塩酸等で酸分解するか、あるいはキチナーゼ、キトサナーゼ等で酵素分解することによって製造されている。
【0007】
酸分解方法として、例えば特公平5−86399号公報には、キチンを酸により部分加水分解し、アルカリにより中和してN−アセチルキトオリゴ糖を生成せしめ、該中和溶液からイオン交換膜電気透析法によって副生塩を分離除去するN−アセチルキトオリゴ糖の製造方法が開示されている。
【0008】
また、特開平5−7496号公報には、均一に部分脱アセチル化されたキチンをキチナーゼにより加水分解して高重合度のグルコサミン及びN−アセチルグルコサミンからなるヘテロオリゴ糖、及びグルコサミンのホモオリゴ糖を得るオリゴ糖類の製造方法が開示されている。
【0009】
【特許文献1】
特開平8−165243号公報
【特許文献2】
特開平10−287572号公報
【特許文献3】
特開平11−29484号公報
【特許文献4】
特公平5−86399号公報
【特許文献5】
特開平5−7496号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特公平5−86399号公報に記載されたような酸分解によるキチンオリゴ糖の製造方法では、酸分解しすぎると収量は増大するが、重合度の比較的低いオリゴ糖になってしまい、重合度の高いオリゴ糖を得るために酸分解を抑制すると、収量が低減してしまうという問題があった。
【0011】
また、特開平5−7496号公報に記載された酵素分解によるオリゴ糖の製造方法では、グルコサミン及びN−アセチルグルコサミンからなるヘテロオリゴ糖、及びグルコサミンのホモオリゴ糖を得ることができるが、特定構造のオリゴ糖を高純度で生産性よく得ることが困難であった。
【0012】
したがって、本発明の目的は、N−アセチルグルコサミン及び/又はグルコサミンを構成糖とする比較的重合度の高いオリゴ糖類、及びそれらの効率的な製造方法を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記問題を解決するために鋭意研究した結果、部分脱アセチル化キチン又は部分N−アセチル化キトサンに、特定のキチナーゼを作用させ、更にN−アセチルヘキソサミニダーゼを作用させることにより、これまでに知られていなかった構造のキトオリゴ糖が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明の1つは、下記一般式(1)で示される、還元末端糖のみがN−アセチル化された三糖以上の新規モノアセチルキトオリゴ糖を提供するものである。
【0015】
【化3】
【0016】
上記新規モノアセチルキトオリゴ糖は、還元末端がアセチル化されていることにより、カラムクロマトグラフィーにおけるオリゴ糖のテーリングが抑えられ、オリゴ糖の分離及び回収効率が向上するため、高純度のオリゴ糖を製造することが可能となる。
【0017】
本発明の新規モノアセチルキトオリゴ糖においては、前記一般式(1)におけるnが5〜10であることが好ましい。このような重合度のオリゴ糖は、後述する本発明の製造方法によって特に効率よく製造でき、高い生理活性効果が期待できる。
【0018】
本発明のもう1つは、部分脱アセチル化キチン又は部分N−アセチル化キトサンに、アエロモナス sp.No.10S−24(FERM P−19173)由来のキチナーゼを作用させ、更にN−アセチルヘキソサミニダーゼを作用させて、下記一般式(2)で示される、還元末端糖のみがN−アセチル化された二糖以上のモノアセチルキトオリゴ糖を生成することを特徴とするモノアセチルキトオリゴ糖の製造方法を提供するものである。
【化4】
【0019】
上記製造方法によれば、部分脱アセチル化キチン又は部分N−アセチル化キトサンに、キチナーゼを作用させることによって、N−アセチルグルコサミンとグルコサミンとが重合した各種のオリゴ糖が生成される。生成したオリゴ糖は、その多くが非還元末端側にグルコサミンを有するオリゴ糖であるが、1分子のN−アセチルグルコサミンが非還元末端側に結合するオリゴ糖も僅かに混在する。これに対して、N−アセチルヘキソサミニダーゼを作用させることにより、N−アセチルグルコサミンを離脱させることができる。その結果、非還元末端側は必ずグルコサミン残基で、かつ、還元末端糖のみがN−アセチル化された、上記一般式(2)で示されるモノアセチルキトオリゴ糖を生成することができる。
【0020】
上記製造方法においては、前記キチナーゼとして、アエロモナス sp.No.10S−24(Aeromonas sp.No.10S-24、FERM P−19173)由来のキチナーゼを使用する。上記酵素を用いることにより、還元末端糖のみがN−アセチル化された比較的高重合度のモノアセチルキトオリゴ糖を効率よく製造することができる。
【0021】
また、前記方法によって得られたモノアセチルキトオリゴ糖の混合液から、クロマトグラフィー分画によって、各種重合度のモノアセチルキトオリゴ糖を分離することが好ましい。前述したように、モノアセチルキトオリゴ糖は、還元末端がアセチル化されていることにより、カラムクロマトグラフィーにおけるオリゴ糖のテーリングが抑えられるため、特定重合度のモノアセチルキトオリゴ糖を高純度で効率よく製造することができる。
【0022】
本発明の更にもう1つは、上記一般式(1)で示されるモノアセチルキトオリゴ糖をN−アセチル化することを特徴とするキチンオリゴ糖の製造方法を提供するものである。
【0023】
上記製造方法によれば、モノアセチルキトオリゴ糖は、前述したような製造方法によって、比較的重合度の高いものを高純度で効率よく製造できるため、これをN−アセチル化することにより、比較的重合度の高いキチンオリゴ糖を高純度で効率よく製造することが可能となる。
【0024】
本発明の更にもう1つは、上記一般式(1)で示されるモノアセチルキトオリゴ糖を脱アセチル化することを特徴とするキトサンオリゴ糖の製造方法を提供するものである。
【0025】
上記製造方法によれば、モノアセチルキトオリゴ糖は、前述したような製造方法によって、比較的重合度の高いものを高純度で効率よく製造できるため、これを脱アセチル化することにより、比較的重合度の高いキトサンオリゴ糖を高純度で効率よく製造することが可能となる。
【0026】
【発明の実施の形態】
本発明において、原料とする部分脱アセチル化キチン又は部分N−アセチル化キトサンは、キチンを部分的に脱アセチル化するか、あるいはキトサンを部分的にN−アセチル化することによって得ることができる。
【0027】
キチンを部分的に脱アセチル化する方法としては、例えば、キチンをアルカリ水溶液に分散させて処理する方法が挙げられる。このとき、アルカリ水溶液の温度が高く、かつ、処理時間が長いほどアセチル化度が高くなる。アルカリ剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム等を用いることができ、アルカリ剤の濃度は5〜50重量%が好ましい。また、アルカリ水溶液の温度は、25〜50℃程度が好ましい。
【0028】
また、キトサンを部分的にN−アセチル化する方法としては、例えば酢酸水溶液あるいは酢酸水溶液−メタノール混液にキトサンを溶解し、それに無水酢酸を添加して室温で反応させる方法等を採用することができる。
【0029】
本発明において使用する部分脱アセチル化キチン又は部分N−アセチル化キトサンは、脱アセチル化度が30〜99%であることが好ましく、45〜95%であることがより好ましく、65〜85%であることが最も好ましい。
【0030】
本発明において使用するキチナーゼとしては、脱アセチル化度が比較的高いキチンを分解できるものが好ましい。このようなキチナーゼとしては、例えばアエロモナス属(Aeromonas)由来のものが挙げられ、特にはアエロモナス sp.No.10S−24(FERM P−19173)が産生するキチナーゼを使用する。
【0031】
上記アエロモナス sp.No.10S−24は、本発明者らによって分離、同定された微生物であり、独立行政法人産業技術総合研究所の特許生物寄託センターに、寄託番号FERM P−19173として寄託されている。
【0032】
次に、本発明で用いるN−アセチルヘキソサミニダーゼとしては、例えば、ピクノポラス属(Pycnoporus)、クロストリジウム属(Clostridium)属由来のものが好ましく、特にはピクノポラス・シナバリヌス IFO 6139(Pycnoporus cinnabarinus IFO 6139)由来のものが好ましく用いられる。なお、N−アセチルヘキソサミニダーゼは、市販されており、例えばアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)由来のβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼ(SIGMA社製)等を用いることもできる。
【0033】
なお、上記アエロモナス sp.No.10S−24は、キチナーゼのみでなく、N−アセチルヘキソサミニダーゼも生産するので、その培養液をそのまま反応に用いることもできる。
【0034】
キチナーゼによる反応と、N−アセチルヘキソサミニダーゼによる反応は、前者による反応を先に行った後、後者による反応を行うことが好ましいが、両者を同時に添加して反応させることもできる。反応条件は、使用する酵素に応じた最適な条件を設定すればよく、特に限定されないが、通常はpH3.5〜7.0、30〜50℃で、1〜48時間反応させることが好ましい。
【0035】
こうして両酵素による反応終了後、熱処理して酵素を失活させ、遠心分離して未分解物を除去する。得られたオリゴ糖混合溶液を、公知の各種の手段によって分離、精製することにより、前記一般式(1)又は(2)で示されるモノアセチルキトオリゴ糖を得ることができる。分離、精製手段としては、例えば陽イオン交換クロマトグラフィーや、ゲル濾過などが好ましく採用される。
【0036】
なお、前記一般式(1)又は(2)で示されるモノアセチルキトオリゴ糖は、末端にN−アセチルオリゴ糖がつくため、クロマトグラフィーによる分離時のテーリングを防ぐことができ、一回のクロマトグラフィー操作で高重合度のオリゴ糖であっても高純度に単離することができる。
【0037】
こうして得られた前記一般式(1)又は(2)で示されるモノアセチルキトオリゴ糖は、その還元末端糖以外の部分もN−アセチル化することによって、キチンオリゴ糖に変換することができる。このN−アセチル化は、例えば、無水酢酸やハロゲン化酢酸などのN−アセチル化試薬を用いて行うことができる。例えば、モノアセチルキトオリゴ糖を、水、メタノール、ピリジン、もしくは非溶媒系にて溶解又は分散させ、上記N−アセチル化試薬を加えることでN−アセチル化を行う。中和脱塩後、凍結乾燥、又は遠心分離などの操作により、簡単にキチンオリゴ糖を得ることができる。
【0038】
また、前記一般式(1)又は(2)で示されるモノアセチルキトオリゴ糖は、その還元末端糖から脱アセチル化することにより、キトサンオリゴ糖に変換することができる。この脱アセチル化は、化学的方法又は酵素法で行うことができる。化学的方法としては、ナトリウムメトキシドやアンモニアなどの塩基が用いられる。例えば、モノアセチルキトオリゴ糖をメタノールなどの溶媒に溶解又は分散させ、ナトリウムメトキシドなどの塩基を加えることで脱アセチル化を行う。そして、中和脱塩後、凍結乾燥、又は遠心分離などの操作により簡単にキトサンオリゴ糖を得ることができる。また、酵素法としては、デアセチラーゼを用いて脱アセチル化する方法が採用できる。デアセチラーゼとしては、例えば、コレトトリクム・リンデムチアヌム(Colletotrichum lindemuthianum)や、リゾプス・ジャポニクス(Rhizopus japonicus)由来のものを使用することができる。
【0039】
こうして得られたキチンオリゴ糖及びキトサンオリゴ糖は、前記方法で得られたモノアセチルキトオリゴ糖から作られるので、6糖以上のオリゴ糖を高純度で調製することが可能であり、従来では単離が難しく、研究されていない高重合度キチンオリゴ糖及びキトサンオリゴ糖の純品を得ることができる。
【0040】
【実施例】
実施例1
(1)実験材料
キチナーゼとしては、アエロモナス sp.No.10S−24(Aeromonas sp.No.10S-24、FERM P−19173)由来のキチナーゼを用いた。
【0041】
N−アセチルヘキソサミニダーゼとしては、ピクノポラス・シナバリヌス IFO 6139(Pycnoporus cinnabarinus IFO 6139)由来のエキソ-β-N-アセチルヘキソサミニダーゼ(以下「β-GlcNAcase」とする)を用いた。
【0042】
分離したキトオリゴ糖の糖配列決定には、ペニシリウム SP.AF9−P−128(Penicillium sp. AF9-P-128、佐賀大学農学部 応用生物科学科 生物資源利用化学講座 生物資源化学研究室保存菌株)由来の エキソ-β-グルコサミニダ−ゼ(以下「β-GlcNase」とする)を用いた。なお、β-GlcNaseは、当業者が容易に入手できる公知の微生物、例えばアミコラトプシス・オリエンテイルIFO 12806(Amycolatopsis orientalis IFO 12806)や、アスペルギルス・オリゼイ IAM2660(Aspergillus oryzae IAM2660)などによって製造することもできる。
【0043】
基質には、キトサンを無水酢酸でN-アセチル化して調製した25% N-アセチル化キトサンを用いた。陽イオン交換カラムクロマトグラフィーには、Pharmacia製のCM-Sephadex C-25を使用し、ゲル濾過にはBio-Rad製のBio-Gel P-6を使用した。その他の試薬は、市販特級を使用した。
【0044】
(2)酵素活性測定法
▲1▼キチナーゼ活性測定法
0.5% コロイダルキチン0.5mlにMcIlvaine緩衝液(pH4.0)1.0mlを混合し、37℃で5分間プレインキュベートした後、酵素溶液0.5ml を加えて37℃で10分間振盪反応を行った。5分間の煮沸により反応を停止し、ろ過を行い、得られたろ液中の生成還元糖量を、Schales変法を用いて求めた。標準物質としてGlcNAcを用い、1分間に1μmolのGlcNAcに相当する還元糖量を遊離する酵素量を1unitとした。
【0045】
▲2▼β−GlcNAcase活性測定法
β-GlcNAcase活性測定にはp-ニトロフェニル-β-D-N-アセチルグルコサミニドを基質として用いた。4mM 基質 0.2ml に0.1M クエン酸ナトリウム-塩酸緩衝液(pH2.2)0.2mlを加えて37℃で5分間プレインキュベートした後、酵素を0.1ml添加し10分間反応を行った。その後、0.2M炭酸ナトリウム溶液を2.0ml加えて反応を停止し、420nmにおける吸光度を測定することにより遊離したp-ニトロフェノール量を定量した。標準物質としてp-ニトロフェノールを用い、1分間に1μmolのp-ニトロフェノールを生成する酵素量を1unitとした。
【0046】
▲3▼β−GlcNase活性測定法
β-GlcNase活性測定は、0.1M 酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.7)に溶解した脱アセチル化度96%キトサンを基質として用いた。0.55% 基質1.4mlを37℃で5分間インキュベートした後、酵素を0.1ml添加し、37℃で10分間反応した。その後、 Schales試薬を2ml加え反応を停止し、蒸留水を0.5ml加え、15分間煮沸した。冷却後、ろ過し、420nmにおける吸光度を測定した。標準物質として塩酸-D-グルコサミンを用い、1分間に1μmolのグルコサミンを生成する酵素量を1unitとした。
【0047】
(3)実験工程
実験工程の概要を図1に示す。以下、各工程について詳細に説明する。
▲1▼キチナーゼ及びβ-GlcNAcaseによる酵素分解
まず、25% N-アセチル化キトサン2gに0.1M酢酸溶液200mlを加えて一晩撹拌した後、同じく0.1M酢酸溶液でpH4.0に調整した。これに0.1M酢酸緩衝液(pH4.0)を加え400mlに調整した。
【0048】
この0.5% N-アセチル化キトサン溶液400mlに2%アジ化ナトリウム4mlを加えた後、キチナーゼ(2.0 units/ml)を1mlずつ2回にわけて添加し、それぞれ37℃で48時間ずつ反応を行った。更にβ-GlcNAcase(6.2 units/ml)を0.8 ml添加し、24時間反応を行った。5分間の煮沸により反応を停止させた後、遠心分離(13,000rpm×15分)により得た上清を電気透析により脱塩した。
【0049】
(4)CM-Sephadex C-25による陽イオン交換クロマトグラフィー
キチナーゼ及びβ-GlcNAcaseによる分解生成物を分離するために、脱塩後の酵素反応液を0.1N酢酸ナトリウム溶液でpH5.0に調整し、CM-Sephadex C-25カラムに供した。まず、0.02M 酢酸緩衝液(pH5.0)で未吸着画分を溶出後、0〜2.0M 塩化ナトリウム直線濃度勾配(酢酸緩衝液1.2リットル+2.0M NaCl 1.2リットル)により吸着画分を溶出させた。
【0050】
この結果を図2に示す。図2に示されるように、未吸着画分F-1と、0〜2M NaCl直線濃度勾配により溶出された吸着画分F-2〜F-13に分離できた。また、後述する質量分析結果から、F-8〜F-11の画分は2種類のオリゴ糖を含むことがわかった。
【0051】
(5)Bio-Gel P-6によるゲルろ過
CM-Sephadex C-25による分離後、ジアセチルキトオリゴ糖を含む画分であるF-8〜F-11をBio-Gel P-6によるゲルろ過に供した。
【0052】
すなわち、CM-Sephadex C-25による分離後、濃縮、電気透析、凍結乾燥した上記各画分を0.15M 酢酸アンモニウム緩衝液(pH5.0) 5mlに溶解し、DISMIC-25csフィルターを通した後、Bio-Gel P-6カラムに供し、0.15M酢酸アンモニウム緩衝液(pH5.0)で溶出させた。
【0053】
結果を図3及び図4に示す。CM-Sephadex C-25だけでは分離できなかったものが、Bio-Gel P-6と組み合わせると良好に分離できていることがわかる。それぞれ小さいピークが不純物、大きいピークが目的のモノアセチルキトオリゴ糖であることが後述する質量分析の結果から確認された。
【0054】
(6)質量分析
CM-Sephadex C-25及びBio-Gel P-6による分離後、各画分を濃縮、電気透析、凍結乾燥し、質量分析を行った。すなわち、各画分の凍結乾燥品0.5 mg を蒸留水50μlに溶解したものを試料液とした。試料液1μlをサンプルプレート上で、2,5-ジヒドロキシ安息香酸1μlと混合し、乾燥後、MOLDI-TOF MSにより分子量の測定を行った。分析にはVoyagerTM Elite(PerSeptive Biosystems)を用いた。
【0055】
この結果を表1に示す。F-2〜F-7, F-12及び F-13はCM-Sephadex C-25だけで単一に分離できた。F-8〜F-11はCM-Sephadex C-25だけでは不純物を含み、Bio-Gel P-6によってオリゴ糖を単一に分離できた。最終的に得られた各画分のオリゴ糖は、F-2, F-4がGlcNAcを2残基含むヘテロキトオリゴ糖、F-3,F-5〜F-9がGlcNAcを1残基含むヘテロキトオリゴ糖だとわかる。
【0056】
【表1】
【0057】
(7)β-GlcNaseによる酵素分解
各画分のキトオリゴ糖の糖配列を決定するために、2〜11糖のモノアセチルキトオリゴ糖にβ-GlcNaseを作用させた。オリゴ糖溶液(2mg/ml)50μlに0.04M リン酸緩衝液(pH5.5)を25μl加え、β-GlcNase(0.5units/ml)25μlを添加し、37℃で20時間反応を行った。その後3分間の煮沸で反応を停止した。
【0058】
(8)薄層クロマトグラフィー(TLC)による糖配列の決定
β-GlcNaseによる分解後、その分解生成物を薄層クロマトグラフィーにより分析し、糖配列の決定を行った。TLCプレートはMERCK製 TLC aluminium sheets silica gel 60を用いた。0.05M NaH2PO4を噴霧して105℃1時間加熱したのち、n-プロパノ-ル、水、30%アンモニア水を70:15:15の割合で混合した溶媒で、上昇法により3回展開した。各スポットはジフェニルアミン-アニリン試薬を噴霧し105℃、15分加熱し発色させた。標準物質にはGlcN1〜6糖、GlcNAc1〜6糖を使用した。
【0059】
この結果から、すべての画分で分解生成物はGlcN 1残基及びGlcNAc 1残基の発色のみが見られることから、還元末端にGlcNAc1残基を持ち非還元末端側にGlcNの連続した糖配列を持つモノアセチルキトオリゴ糖であることがわかった。
【0060】
最終的な各画分の収量と、ヘテロキトオリゴ糖の重合度を図5に示す。この結果から、得られたオリゴ糖はGlcNAc1残基を含むモノアセチルキトオリゴ糖が大部分で、F-1〜F-13のトータルな収量は1348mgだった。
【0061】
実施例2
実施例1により得られた様々な長さのモノアセチルキトオリゴ糖を0.04M炭酸ナトリウム溶液に糖濃度0.5%となるように溶解し、メタノール及び無水酢酸をそれぞれ45%および1.1%となるように加えた。この溶液を25℃で24時間放置した後、ロータリーエバポレーターで濃縮乾固した。乾固物に糖濃度0.5%となるように0.1N水酸化ナトリウムを加え、30分間室温で放置した。0.1N塩酸を用いてpH6.0に調整後、電気透析で脱塩、凍結乾燥によりN-アセチル化されたキチンオリゴ糖を得た。
【0062】
実施例3
実施例1により得られた様々な長さのモノアセチルキトオリゴ糖を、0.5%の濃度となるように、20mM 四ホウ酸ナトリウム−塩酸緩衝液(pH8.5)に溶解した。次いで、コレトトリクム・リンデムチアヌム ATCC12611(Colletotrichum lindemuthianum ATCC 12611)から、文献(Tokuyasu. K, et al.: Biosci. Biotech. Biochem., 60, 1598-1603, 1996)に記載の方法で精製したキチンデアセチラーゼを、0.74 units/mlとなるように添加し、40℃で24時間インキュベートした。反応液1mlに対して、33%(v/v)酢酸を0.5ml加えて、3分間煮沸して反応を停止した。この反応液から電気透析により脱塩し、凍結乾燥して脱アセチル化されたキトサンオリゴ糖を得た。
【0063】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、還元末端糖のみがN−アセチル化された二糖以上のモノアセチルキトオリゴ糖を提供することができ、このオリゴ糖は、還元末端の糖のみがNアセチル化されていて水溶性を示し、これまでに調製困難であった比較的高重合度のオリゴ糖でも高純度で単離することが可能となる。また、このオリゴ糖をN−アセチル化又は脱アセチル化することにより、比較的高重合度のキチンオリゴ糖又はキトサンオリゴ糖を高純度で製造することが可能となる。このような高重合度のモノアセチルキトオリゴ糖、キチンオリゴ糖、キトサンオリゴ糖についての知見はまだ少ないが、これまでの報告から各種の生理活性が期待できるものと推測される。また、酵素の反応基質として用いることで、反応機構の解析や阻害などへの知見を得ることができ、タンパク工学的な観点、強力な阻害剤構築という点からも、非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例における実験工程を示す説明図である。
【図2】 CM-Sephadex C-25による陽イオン交換クロマトグラフィーの結果を示す図表である。
【図3】 実施例で得られたフラクションF8、F9のBio-Gel P-6によるゲルろ過の結果を示す図表である。
【図4】 実施例で得られたフラクションF10、F11のBio-Gel P-6によるゲルろ過の結果を示す図表である。
【図5】 オリゴ糖の収量を各フラクション毎に示す図表である。
Claims (6)
- 下記一般式(1)で示される、還元末端糖のみがN−アセチル化された三糖以上の新規モノアセチルキトオリゴ糖。
- 前記一般式(1)におけるnが5〜10である請求項1記載の新規モノアセチルキトオリゴ糖。
- 部分脱アセチル化キチン又は部分N−アセチル化キトサンに、アエロモナス sp.No.10S−24(FERM P−19173)由来のキチナーゼを作用させ、更にN−アセチルヘキソサミニダーゼを作用させて、下記一般式(2)で示される、還元末端糖のみがN−アセチル化された二糖以上のモノアセチルキトオリゴ糖を生成することを特徴とするモノアセチルキトオリゴ糖の製造方法。
- 前記方法によって得られたモノアセチルキトオリゴ糖の混合液から、クロマトグラフィー分画によって、各種重合度のモノアセチルキトオリゴ糖を分離する請求項3記載の新規モノアセチルキトオリゴ糖の製造方法。
- 請求項1又は2記載のモノアセチルキトオリゴ糖をN−アセチル化することを特徴とするキチンオリゴ糖の製造方法。
- 請求項1又は2記載のモノアセチルキトオリゴ糖を脱アセチル化することを特徴とするキトサンオリゴ糖の製造方法。
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