JP4397643B2 - 静電吸引型流体吐出装置および静電吸引型流体吐出方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、インク等の導電性流体を帯電させて静電吸引することで、対象物上に流体を吐出する静電吸引型流体吐出装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、インク等の流体を対象物(記録媒体)上に吐出する流体ジェット方式にはインクジェットプリンタとして実用化されているピエゾやサーマルなどの方式があるが、その他の方式として、吐出する流体を導電性流体とし、導電性流体に電界を印加してノズルから吐出させる静電吸引方式がある。
【0003】
このような静電吸引方式の流体吐出装置(以下、静電吸引型流体吐出装置と称する)としては、例えば特許文献1および特許文献2において開示がある。
【0004】
また、特許文献4には、ノズルをスリットとして、ノズルより突出した針電極を設け微粒子を含むインクを吐出するインクジェット装置が開示されている。例えば特許文献3には、ノズルより内部に電圧印加用の電極を設けたインクジェット装置が開示されている。
【0005】
ここで、従来の静電吸引型流体吐出装置における流体吐出モデルを説明する。
【0006】
静電吸引型流体吐出装置とりわけオンデマンド型の静電吸引型流体吐出装置の設計要因としては、インク液体の導電性(例えば比抵抗106〜1011Ωcm)、表面張力(例えば0.020〜0.040N/m)、粘度(例えば0.011〜0.015Pa・s)、印加電圧(電場)がある。そして、印加電圧としては、ノズルに印加する電圧、およびノズルと対向電極間との距離が特に重要とされていた。
【0007】
静電吸引型流体吐出装置においては、電気流体的な不安定性を利用しており、図9にこの様子を示す。一様電界の中に導電性流体を静置すると、導電性流体の表面に作用する静電力が表面を不安定にし、曳き糸の成長を促す(静電曳き糸現象)。この時の電場は、ノズルと、ノズルとhだけ距離を隔てて対向する対向電極との間に電圧Vを印加したときに発生する電場E0とする。この時の成長波長λcは物理的に導くことが可能であり(例えば、非特許文献1)、次式で表される。
【0008】
【数1】
【0009】
ここで、γ:表面張力(N/m)、ε0:真空の誘電率(F/m)、E0:電界の強さ(V/m)である。ノズル径d(m)が、λcよりも小さい場合、成長は起こらない。すなわち、
【0010】
【数2】
【0011】
が、吐出のための条件となっていた。
【0012】
ここで、E0は平行平板を仮定した場合の電界強度(V/m)で、ノズル−対向電極間距離をh(m)、ノズルに印加する電圧をV0として、
【0013】
【数3】
【0014】
したがって、
【0015】
【数4】
【0016】
となる。
【0017】
【特許文献1】
特公昭36−13768号公報(公告日昭和36年8月18日)
【0018】
【特許文献2】
特開2001−88306号公報(公開日平成13年4月3日)
【0019】
【特許文献3】
特開平8−238774号公報(公開日平成8年9月17日)
【0020】
【特許文献4】
特開2000−127410号公報(公開日平成12年5月9日)
【0021】
【非特許文献1】
画像電子情報学会,第17巻,第4号,1988年,p.185-193
【0022】
【発明が解決しようとする課題】
流体吐出装置では、一般的により微細なドット形成やライン形成を可能とするために、インクを吐出するノズルの径を小さくしたいといった要望がある。
【0023】
しかしながら、現在実用化されているピエゾ方式やサーマル方式などの流体吐出装置では、ノズル径を小さくして、例えば1plを下回るような微小量の流体の吐出は困難である。これは、流体を吐出するノズルが微細になるほど吐出に必要な圧力が大きくなるためである。
【0024】
また、上述のような流体吐出装置では、液滴の微細化と高精度化は相反する課題であり、両方を同時に実現するのは困難であった。これは以下の理由による。
【0025】
ノズルから吐出された液滴に付与される運動エネルギーは、液滴半径の3乗に比例する。このため、ノズルを微細化した場合に吐出される微細液滴は、吐出時の空気抵抗に耐えるほどの十分な運動エネルギーを確保できず、空気滞留などによる撹乱を受け、正確な着弾を期待できない。さらに、液滴が微細になるほど、表面張力の効果が増すため、液滴の蒸気圧が高くなり蒸発量が激しくなる.このため、微細液滴は飛翔中に著しい質量の消失を招き、着弾時に液滴の形態を保つことすら難しいという問題があった。
【0026】
またさらに、上述した従来の静電吸引型流体吐出装置における流体吐出モデルに基づくと、上記(2)式より、ノズル径の減少は吐出に必要な電界強度の増加を要請することとなる。そして、電界強度は、上記(3)式に示すように、ノズルに印加する電圧(駆動電圧)V0とノズル−対向電極間距離hとによって決まるため、ノズル径の減少は駆動電圧の上昇を招来する。
【0027】
ここで、従来の静電吸引型流体吐出装置における駆動電圧は、1000V以上と非常に高いため、各ノズル間でのリークや干渉化を考慮すると小型化および高密度化は難しく、ノズル径をさらに小さくすると上記問題がより大きなものとなる。また、1000Vを越えるような高電圧のパワー半導体は一般的に高価で周波数応答性も低い。
【0028】
尚、上記特許文献1で開示されているノズル径は0.127mmであり、特許文献2で開示されているノズル径の範囲は50〜2000μm、より好ましくは100〜1000μmといった範囲であった。
【0029】
ノズル径に関して、従来の静電吸引型流体吐出における典型的な動作条件を当てはめて計算してみると、表面張力0.020N/m、電界強度107V/mとして、上記(1)式に代入して計算すると、成長波長λcは約140μmとなる。すなわち、限界ノズル径として70μmという値が得られる。すなわち、上記条件下では107V/mの強電界を用いてもノズル径が直径70μm程度以下の場合は背圧を印加して強制的にメニスカス形成させるなどの処置をとらない限り、インクの成長は起こらず、静電吸引型流体吐出は成立しないと考えられていた。すなわち、微細ノズルと駆動電圧の低電圧化は両立しない課題と考えられていた。
【0030】
以上のように、従来の流体吐出装置では、ノズルの微細化と高精度化は相反する課題であり、両方を同時に実現することは困難であった。また、特に静電吸引型流体吐出装置では、ノズルの微細化と駆動電圧の低電圧化とは両立しない課題と考えられていた。
【0031】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、その目的は、ノズルの微細化と微小流体の吐出及び着弾位置の高精度化、さらに、駆動電圧の低電圧化をすべて実現した静電吸引型流体吐出装置を提供することにある。
【0032】
【課題を解決するための手段】
本発明の静電吸引型流体吐出装置は、上記の課題を解決するために、電圧印加により帯電された吐出流体を、流体吐出ヘッドのノズルの流体噴出孔から静電吸引によって吐出させ基板に着弾させることによって、該基板表面に吐出流体による描画パターンを形成する静電吸引型流体吐出装置において、上記ノズルの流体噴出孔は、そのノズル径が0.01〜25μmであると共に、上記基板が絶縁性基板であり、該絶縁性基板への流体吐出前に、該絶縁性基板表面の電荷を除電する除電手段と、除電された絶縁性基板に対して、正負両極性のパルス電圧にて流体吐出を行う流体吐出手段とを備えていることを特徴としている。
【0033】
上記の構成によれば、ノズルの流体噴出孔径(ノズル径)を0.01〜25μmの微細径とすることで、本願発明者らが提案する新たな吐出モデルにしたがって、局所電界が発生し、微細ノズル化により吐出における駆動電圧の低下が可能となる。このような駆動電圧の低下は、装置の小型化およびノズルの高密度化において極めて有利となる。もちろん、駆動電圧を低下させることで、コストメリットの高い低電圧駆動ドライバの使用をも可能にする。
【0034】
さらに、上記吐出モデルでは、吐出に必要な電界強度は、局所的な集中電界強度に依存することになるため、対向電極の存在が必須とならない。すなわち、対向電極を要さずに絶縁性基板などに対しても印字を行うことが可能となり、装置構成の自由度が増す。また、厚い絶縁体に対しても印字を行うことが可能となる。
【0035】
また、上述のような微細ノズル化は、絶縁基板上に付着した電荷が存在する場合、その電荷の電界反発力を受けて、吐出形成した微細パターンに乱れが生じたり、逆に吐出不良が発生したりと安定した微細パターンを形成するのが困難となるといった問題がある。
【0036】
これに対し、上記静電吸引型流体吐出装置では、絶縁性基板への流体吐出前に、除電手段によって絶縁性基板表面の電荷が除電され、さらに、除電された後の絶縁性基板に対しては、流体吐出手段が正負両極性のパルス電圧にて流体吐出を行う。このため、絶縁性基板のチャージアップを抑制しながら安定した吐出を行うことができる。
【0037】
また、上記静電吸引型流体吐出装置では、上記除電手段は、所定のパターンにて絶縁性基板の除電を行う構成とすることができる。
【0038】
上記の構成によれば、上記除電手段は、所望のパターニングデータに対応して絶縁性基板の必要な箇所のみを除電することができる。このため、上記除電手段は絶縁性基板全体を除電する必要がなく、例えば針状の除電ヘッドのような高電圧を必要としない除電手段を使用できるため、該除電手段に対しコストメリットの高い低電圧ドライバによる制御を行うことができる。また、絶縁性基板上の必要部分だけに除電が施されるため、除電に費やす時間が短くてすむ。
【0039】
また、上記静電吸引型流体吐出装置では、上記流体吐出手段は、流体吐出時におけるメニスカス部への電荷集中によって生じる電界強度が、Paschen Curveの算出式によって求められる放電開始電界強度よりも小さくなるような印加電圧にて流体吐出を行う構成とすることが好ましい。
【0040】
上記の構成によれば、上記流体吐出手段における流体吐出時に、気中放電が生じることを抑制でき、放電による周辺部への流体微細液滴の飛散が無い、鮮明な微細パターン像を形成することが可能となる。
【0041】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の一形態について図1ないし図8に基づいて説明すれば、以下の通りである。
【0042】
本実施の形態に係る静電吸引型流体吐出装置は、そのノズル径を0.01μm〜25μmとしており、なおかつ、1000V以下の駆動電圧にて吐出流体の吐出制御を可能としている。
【0043】
ここで、従来の流体吐出モデルにおいては、ノズル径の減少は駆動電圧の上昇に繋がるため、50〜70μm以下のノズル径では、吐出流体に背圧を与えるなどの他の工夫を行わない限り、1000V以下の駆動電圧での流体吐出は不可能と考えられていた。しかしながら、本願発明者らは鋭意検討の結果、あるノズル径以下では、従来の流体吐出モデルとは異なる吐出モデルでの吐出現象が起こることを突き止めた。本発明は、この流体吐出モデルにおける新たな知見に基づいてなされたものである。
【0044】
先ずは、本願発明者らによって発見された流体吐出モデルについて説明する。
【0045】
直径d(以下の説明においては、特に断らない限りノズルの内径を指す)のノズルに導電性流体を注入し、無限平板導体からhの高さに垂直に位置させたと仮定する。この様子を図2に示す。このとき、ノズル先端に誘起される電荷Qは、ノズル先端の吐出流体によって形成される半球部に集中すると仮定し、以下の式で近似的に表される。
【0046】
【数5】
【0047】
ここで、Q:ノズルの先端部に誘起される電荷(C)、ε0:真空の誘電率(F/m)、d:ノズルの直径(m)、V0:ノズルに印加する総電圧である。また、αは、ノズル形状などに依存する比例定数であり、1〜1.5程度の値を取るが、特にD<<h(h:ノズル−基板間距離(m))の時はほぼ1となる。
【0048】
また、基板として導電基板を用いた場合、ノズルと対向して基板内の対称位置に、上記電荷Qと反対の極性を持つ鏡像電荷Q’が誘導されると考えられる。基板が絶縁体の場合は、誘電率によって定まる対称位置に同様に電荷Qと逆極性の映像電荷Q’が誘導される。
【0049】
ノズル先端部における集中電界強度Elocは、先端部の曲率半径をRと仮定すると、
【0050】
【数6】
【0051】
で与えられる。ここで、kは、ノズル形状などに依存する比例定数であり、1.5〜8.5程度の値を取るが、多くの場合5程度と考えられる(P.J. Birdseye and D.A. Smith, Surface Science, 23(1970), p.198-210)。また、ここでは、流体吐出モデルを簡単にするため、R=d/2と仮定する。これは、ノズル先端部において表面張力によって導電性流体がノズル径dと同じ曲率径を持つ半球形状に盛り上がっている状態に相当する。
【0052】
ノズル先端の吐出流体に働く圧力のバランスを考える。まず、静電的な圧力Peは、ノズル先端部の液面積をSとすると、
【0053】
【数7】
【0054】
となる。(5)〜(7)式より、α=1とおいて、
【0055】
【数8】
【0056】
と表される。
【0057】
一方、ノズル先端部における吐出流体の表面張力をPsとすると、
【0058】
【数9】
【0059】
となる。ここで、γ:表面張力である。静電的な力により吐出が起こる条件は、静電的な力が表面張力を上回ることなので、
【0060】
【数10】
【0061】
となる。
【0062】
図3に、ある直径dのノズルを与えた時の、表面張力による圧力と静電的な圧力との関係を示す。吐出流体の表面張力としては、吐出流体が水(γ=72mN/m)の場合を仮定している。ノズルに印加する電圧を700Vとした場合、ノズル直径dが25μmにおいて静電的な圧力が表面張力を上回ることが示唆される。このことより、V0とdとの関係を求めると、
【0063】
【数11】
【0064】
が吐出の最低電圧を与える。
【0065】
また、その時の吐出圧力ΔPは、
【0066】
【数12】
【0067】
より、
【0068】
【数13】
【0069】
となる。
【0070】
ある直径dのノズルに対し、局所的な電界強度によって吐出条件を満たす場合の吐出圧力ΔPの依存性を図4に、また、吐出臨界電圧(すなわち吐出の生じる最低電圧)Vcの依存性を図5に示す。
【0071】
図4から、局所的な電界強度によって吐出条件を満たす場合(V0=700V,γ=72mN/mと仮定した場合)のノズル直径の上限が25μmであることが分かる。
【0072】
図5の計算では、吐出流体として水(γ=72mN/m)及び有機溶剤(γ=20mN/m)を想定し、k=5の条件を仮定した。この図より、微細ノズルによる電界の集中効果を考慮すると、吐出臨界電圧Vcはノズル径の減少に伴い低下することが明らかであり、吐出流体が水の場合においてノズル直径が25μmの場合、吐出臨界電圧Vcは700V程度であることが分かる。
【0073】
従来の吐出モデルにおける電界の考え方、すなわちノズルに印加する電圧V0とノズル−対向電極間距離hとによって定義される電界のみを考慮した場合では、ノズル径が微小になるに従い、吐出に必要な駆動電圧は増加する。
【0074】
これに対し、本願発明者らが提案する新たな吐出モデルのように、局所電界強度に注目すれば、微細ノズル化により吐出における駆動電圧の低下が可能となる。このような駆動電圧の低下は、装置の小型化およびノズルの高密度化において極めて有利となる。もちろん、駆動電圧を低下させることで、コストメリットの高い低電圧駆動ドライバの使用をも可能にする。
【0075】
さらに、上記吐出モデルでは、吐出に必要な電界強度は、局所的な集中電界強度に依存することになるため、対向電極の存在が必須とならない。すなわち、従来の吐出モデルでは、ノズル−基板間に電界を印加するため、絶縁体の基板に対してはノズルと反対側に対向電極を配置するか、あるいは基板を導電性とする必要があった。そして、対向電極を配置する場合、すなわち基板が絶縁体の場合では、使用できる基板の厚さに限界があった。
【0076】
これに対し、本発明の吐出モデルでは、対向電極を要さずに絶縁性基板などに対しても印字を行うことが可能となり、装置構成の自由度が増す。また、厚い絶縁体に対しても印字を行うことが可能となる。
【0077】
以上のように、本実施の形態に係る静電吸引型流体吐出装置では、局所電界強度に着目して新たに提案された吐出モデルに基づいているため、ノズル径0.01μm〜25μmの微細ノズルとすることが可能であり、かつ、1000V以下の駆動電圧にて吐出流体の吐出制御を行うことができる。尚、上記モデルに基づいて考察を行った結果、直径25μm以下のノズルの場合は700V以下の駆動電圧で、直径10μm以下のノズルの場合は500V以下の駆動電圧で、直径1μm以下のノズルの場合は300V以下の駆動電圧で吐出制御が可能である。
【0078】
図6に、吐出臨界電圧Vcのノズル径依存性を実験的に求めた結果を示す。ここでは、吐出流体として、ハリマ化成(株)製の銀ナノペーストを用い、ノズル−基板間距離100μmの条件で測定を行った。図6より、微細ノズルになるにしたがって、吐出臨界電圧Vcが低下し、従来より低電圧で吐出が可能となっていることが分かる。
【0079】
本実施の形態に係る静電吸引型流体吐出装置では、上述したように、ノズル径および駆動電圧を共に小さくすることが可能であるが、この場合、従来の静電吸引型流体吐出装置に比べ、以下のような問題が顕著に発生する。
【0080】
絶縁性基板上で静電吸引型流体吐出装置による流体吐出を行った場合、流体吐出の前工程で絶縁性基板上に付着した電荷が存在すると、その電荷の電界反発力を受けて、吐出形成した微細パターンに乱れが生じたり、逆に吐出不良が発生したりと安定した微細パターンを形成するのが困難となる。例えば、表面抵抗が1015Ω/sq程度のポリイミド、アクリル等の高分子材料上では、静電気は接触による摩擦等により簡単に発生するが、乾燥した環境下であると、表面抵抗が1010Ω/sq程度のガラス基板上でも容易に発生する。
【0081】
また、予め絶縁性基板上に付着電荷がない場合でも、絶縁性基板上に吐出し着弾した流体中には電荷が存在するため、DCバイアスや片側極性のパルス電圧のように駆動電圧として片側極性のバイアスを用いると、吐出した流体中の電荷によって絶縁性基板がチャージアップし、絶縁性基板上で表面電位が上昇する。すなわち、絶縁性基板上に吐出流体によるパターンを形成することで基板上に電荷の存在が生じ、この電荷の反発電界力を受けて吐出特性が低下する。
【0082】
本実施の形態に係る静電吸引型流体吐出装置は、絶縁性基板上での電荷付着による表面電位上昇を抑制することにより、微小流体吐出を常に安定して行うことを可能にし、より鮮明な微細パターンの形成を可能とする。このような静電吸引型流体吐出装置について、以下の実施の形態1〜3に説明する。
【0083】
〔実施の形態1〕
実施の形態1に係る静電吸引型流体吐出装置の構成を図1に示す。上記静電吸引型流体吐出装置では、接地されたステージ10上に絶縁性基板20を固定している。絶縁性基板20の種類としては、表面抵抗値が1010Ω/sq以上であれば良く、ポリイミドやアクリル、ポリカーボネード等の高分子材料以外に、低湿度環境下のガラス等も当てはまる。そして、絶縁性基板20に先端が対向するように、コロナチャージャ100と流体吐出ヘッド200とが設置されている。
【0084】
コロナチャージャ100では、電極ワイヤ110と、電極ワイヤ110に対して絶縁性基板20側に水平に設けられたスリット電極120とが配置され、さらに、電極ワイヤ110を囲む形でケース電極130が設置されている。ワイヤ電極110の材料としては、線径が約10〜70μmのニッケル、或いはタングステンが使用される。また、各電極には独立して電圧が印加できるように電源が繋がっている。スリット電極120と絶縁性基板20との間の距離は常に一定に保たれており、そのギャップは100μm〜2mm程度である。
【0085】
流体吐出ヘッド200は、先端孔径がφ0.1〜20μm程度で形成されており、内部に駆動電極210を有している。またその駆動電極210には、独立に両極性パルス電圧で且つその周波数を1Hz以上に制御をするための電源220が繋がっている。また、流体吐出ヘッド200の内部全体は所望の吐出材料、すなわち吐出流体で充填されている。流体吐出ヘッド200は、これを独立して駆動するための3次元ロボットに備え付けられている。
【0086】
次に、本実施の形態1に係る静電吸引型流体吐出装置の動作について説明する。先ず、ステージ10をコロナチャージャ100に対して走査させる、あるいはステージ10に対してコロナチャージャ100を走査させることにより、ステージ10とコロナチャージャ100とを相対移動させ、この相対移動の間にコロナチャージャ100によって絶縁性基板20の基板表面を除電する。
【0087】
絶縁性基板20の除電の際、電極ワイヤ110に約数kVのAC電圧を印加することにより、電極ワイヤ110周囲にコロナ放電を発生させる。そして、この時、スリット電極120の電位を約ゼロVに設定することにより、絶縁性基板20上でチャージアップしている電荷30(ここでは負電荷)とは逆の電荷を絶縁性基板20上に供給することができ、これによって絶縁性基板20の除電を行う。
【0088】
そして、除電が行われた絶縁性基板20に向け、所望のパターニングデータに対応して流体吐出ヘッド200による流体吐出が行われる。その際、流体吐出ヘッド200とステージ10との相対速度にて流体吐出ヘッド200の走査速度を決定している。また、流体吐出ヘッド200の先端は、絶縁性基板20との間で常に30〜200μmの一定ギャップを得るようにZ軸制御される。ギャップ制御手段としては、レーザを利用した変位計及びギャップ測長計が利用される。
【0089】
流体吐出ヘッド200において流体吐出を行うために、電源220から両極性パルス電圧が駆動電極210に印加され、これによって吐出流体内部ではノズル先端方向に向けて電荷の移動が始まる。そして、ノズル先端部の流体界面であるメニスカス上に電荷が蓄積されながらその周辺部の電界強度が向上し、その電界力が必要最小限の吐出力を超えた時点で流体の吐出が開始され絶縁性基板20上に着弾される。
【0090】
流体吐出ヘッド200では、駆動電極210を両極性パルス電圧で駆動しているため、該流体吐出ヘッド200から吐出される流体は正負交互に帯電する。このため、絶縁性基板20上には常に着弾ドットのチャージアップを抑制する極性の電荷を持った流体が着弾され、絶縁性基板20上でのチャージアップを抑制しながら安定した吐出を行うことができる。
【0091】
以上のように本実施の形態1に係る静電吸引型流体吐出装置の構成では、絶縁性基板20に対して、予めコロナチャージャ100により除電を行い、その後から両極性パルス電圧駆動で流体吐出を行うことにより、絶縁性基板20上でのチャージアップによる吐出不安定性を発生させることがない。このため、吐出時の飛散を抑制しながら安定した微細流体吐出を行うことができ、鮮明な微細パターニング形成を行うことができる。
【0092】
〔実施の形態2〕
実施の形態2に係る静電吸引型流体吐出装置の構成を図7に示す。本実施の形態2については、上記実施の形態1と同じ部分の説明は省略し、異なる部分のみを説明する。実施の形態1では、除電方法としてコロナチャージャを使用したが、本実施の形態2では針状電極を使用している。
【0093】
図7における静電吸引型流体吐出装置の構成を以下に説明する。上記静電吸引型流体吐出装置では、絶縁性基板20に先端が対向するような形で除電ヘッド150と流体吐出ヘッド200とが設置されている。除電ヘッド150は先端径がφ0.1〜20μm程度に形成された金属製または金属コートされた絶縁性の針状構造であり、絶縁性基板20に対して針先端とのギャップが50μm以下に設定されている。また、除電ヘッド150の先端は絶縁性基板20上に接していても構わない。そして除電ヘッド150には、独立に電圧制御するための電源160が繋がっている。また除電ヘッド150は、独立して駆動するための3次元ロボットに備え付けられている。
【0094】
次に除電動作について説明する。先ず、除電ヘッド150が、所望のパターニングデータに対応してXY2次元の駆動をされ、その際ヘッド先端と基板との間の距離を常に5μm以下に保持しながらヘッド先端にAC電圧を与えることで、コロナ放電を発生させる。除電ヘッド150先端への印加電圧は、先端径により異なるが基本的に先端径がφ5μm以下であれば振幅が400V以上で除電が可能である。そして、コロナ放電により発生する除電電荷は、除電ヘッド150先端と絶縁性基板20との間の電界力により、絶縁性基板20上で除電ヘッド150の真下に付着する。このような除電作用を、除電ヘッド150をXY走査させながら行うことで、絶縁性基板20上に所望のパターニングデータに応じた除電部分が形成される。
【0095】
そして除電された部分の上に流体吐出ヘッド200によって流体が吐出され微細パターンが形成される。このように、予め除電ヘッド150をパターニングデータに対応して走査させることにより、パターニング領域における流体吐出ヘッド200からの安定した流体吐出を行うことができる。また、除電ヘッド150は実施の形態1におけるコロナチャージャのように、高電圧を必要としないため、コストメリットの高い低電圧ドライバによる制御を行うことができる。また、絶縁性基板20上の必要部分だけに除電が施されるため、除電に費やす時間が短くてすむ。
【0096】
以上のように本実施の形態2に係る静電吸引型流体吐出装置の構成では、絶縁性基板20上の所望のパターニング領域に対して、予め針状の除電ヘッド150により除電を行い、その後から両極性パルス電圧駆動で流体吐出を行うことにより、絶縁性基板20上でのチャージアップによる吐出不安定性を発生させることがない。このため、吐出時の飛散を抑制しながら安定した微細流体吐出を行うことができ、鮮明な微細パターニング形成を行うことができる。
【0097】
尚、上記説明では、除電ヘッド150と流体吐出ヘッド200とはそれぞれ独立に駆動されるものであったが、これらは一体的に駆動されるものであっても良い。
【0098】
〔実施の形態3〕
流体吐出ヘッド200では、電圧印加された駆動電極210から供給される電荷が吐出流体中をノズル先端に向けて移動し始め、ノズル先端部に蓄積されながらメニスカスが形成される。また、そのメニスカス径は、基本的にノズルの孔径とほぼ同等の大きさで形成される。
【0099】
そして、メニスカスに蓄積された電荷で形成される電界力が、吐出に必要な駆動力を超えた瞬間に流体吐出ヘッド200における流体吐出が開始される。つまり、各ノズル径を有した流体吐出ヘッド200の駆動電極210に対して、吐出開始電圧以上の電圧を与えれば流体吐出が行われる。具体的には、ノズル径がφ1〜10μmの場合、吐出開始電圧は約140Vである。そして、印加電圧を大きくするにつれて吐出量を増加させることができ、高速走査に対応した多量吐出や大きな径のドット形成に対して有効である。
【0100】
しかしながら、印加電圧が所定の値を超えると気中放電開始電界を超えてしまう虞がある。具体的には、メニスカス部での電荷集中によって生じる電界の強度が、下記式(Paschen Curveの算出式)によって求められる放電開始電界強度を越えてしまうと、ノズル先端部周辺の高電界部分で空気の絶縁破壊による放電が発生する可能性が高くなる。実際に、流体吐出時に放電が起きると吐出流体の飛散りが発生し、所望の微細パターン周辺にサテライト状の微小液滴が着弾し、画像ノイズとなる。
【0101】
【数14】
【0102】
ここで、印加電圧を200V,340V,400V,500Vとした場合のそれぞれについて、ノズル先端部のノズル径とメニスカス部での電荷集中によって生じる電界強度との関係を図8のグラフに示す。また、図8のグラフでは、上述のPaschen Curveの算出式によって求められるノズル径と放電開始電界強度との関係を共に示している。
【0103】
上記図8において、各印加電圧におけるノズル径−電界強度線図が、Paschen Curveの算出式によって求められるノズル径−放電開始電界強度線図を上回る条件において、流体吐出時における気中放電が発生すると考えられる。
【0104】
そして、上記図8より、本発明の静電吸引型流体吐出装置にて対象とされるノズル径0.01〜25μmの条件では、印加電圧340V以下とすることで、放電が確実に起きない条件下での流体吐出が可能であることが分かる。これにより、飛散現象の無い安定した流体吐出が可能となり、より鮮明な微小パターンの形成が可能となる。また、同様に上記図8より、ノズル径が16μm以上または0.25μm以下の場合は500V以下の印加電圧にて放電を伴わない流体吐出が可能であり、ノズル径が7.4μm以上または0.65μm以下の場合は400V以下の印加電圧にて放電を伴わない流体吐出が可能であることが分かる。
【0105】
以上、本実施の形態3に係る構成では、絶縁性基板20の基板に対し予め除電を行い、さらに流体吐出時における電界強度がPaschen Curveの算出式によって求められる放電開始電界強度よりも小さくなるような印加電圧にて流体吐出を行うことで、放電による周辺部への飛散を抑制することができ、より鮮明な微細パターン像を形成することが可能となる。
【0106】
尚、上記実施の形態1〜3では、流体吐出ヘッド200内部の駆動電極210に印加される両極性パルス電圧を駆動電圧として説明したが、実際、駆動力として必要な電圧はヘッド内部の電極210に印加された信号電圧とステージ10側に印加された電圧の電位差であるため、ステージ側のみへの両極性パルス電圧の印加、もしくは、ヘッド側、ステージ側の両方の信号の合成でも構わない。また、両極性パルス電圧は、AC等のようなスルーレートの低い波形においても当てはまる。
【0107】
【発明の効果】
本発明の静電吸引型流体吐出装置は、以上のように、上記ノズルの流体噴出孔は、そのノズル径が0.01〜25μmであると共に、上記基板が絶縁性基板であり、該絶縁性基板への流体吐出前に、該絶縁性基板表面の電荷を除電する除電手段と、除電された絶縁性基板に対して、正負両極性のパルス電圧にて流体吐出を行う流体吐出手段とを備えていることを特徴としている。
【0108】
それゆえ、ノズルの流体噴出孔径(ノズル径)を0.01〜25μmの微細径とする場合、微細ノズル化により吐出における駆動電圧の低下が可能となる。このような駆動電圧の低下は、装置の小型化およびノズルの高密度化において極めて有利となるといった効果を奏する。
【0109】
さらに、吐出に必要な電界強度は、局所的な集中電界強度に依存することになるため、対向電極を要さずに絶縁性基板などに対しても印字を行うことが可能となり、装置構成の自由度が増すといった効果を奏する。
【0110】
さらに、絶縁性基板への流体吐出前に、除電手段によって絶縁性基板表面の電荷が除電され、さらに、除電された後の絶縁性基板に対しては、流体吐出手段が正負両極性のパルス電圧にて流体吐出を行うため、絶縁性基板のチャージアップを抑制しながら安定した吐出を行うことができるといった効果を奏する。
【0111】
また、上記静電吸引型流体吐出装置では、上記除電手段は、所定のパターンにて絶縁性基板の除電を行う構成とすることができる。
【0112】
それゆえ、上記除電手段は、所望のパターニングデータに対応して絶縁性基板の必要な箇所のみを除電することができるため、上記除電手段として例えば針状の除電ヘッドのような高電圧を必要としない除電手段を使用でき、該除電手段に対しコストメリットの高い低電圧ドライバによる制御を行うことができるといった効果を奏する。また、絶縁性基板上の必要部分だけに除電が施されるため、除電に費やす時間が短くてすむといった効果を奏する。
【0113】
また、上記静電吸引型流体吐出装置では、上記流体吐出手段は、流体吐出時におけるメニスカス部への電荷集中によって生じる電界強度が、Paschen Curveの算出式によって求められる放電開始電界強度よりも小さくなるような印加電圧にて流体吐出を行う構成とすることが好ましい。
【0114】
それゆえ、上記流体吐出手段における流体吐出時に、気中放電が生じることを抑制でき、放電による周辺部への流体微細液滴の飛散が無い、鮮明な微細パターン像を形成できるといった効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態を示すものであり、実施の形態1に係る静電吸引型流体吐出装置の概略構成を示す斜視図である。
【図2】本発明の基本となる吐出モデルにおいて、ノズルの電界強度の計算を説明するための図である。
【図3】表面張力圧力および静電的圧力のノズル径依存性のモデル計算結果を示すグラフである。
【図4】吐出圧力のノズル径依存性のモデル計算結果を示すグラフである。
【図5】吐出限界電圧のノズル径依存性のモデル計算結果を示すグラフである。
【図6】吐出開始電圧のノズル径依存性を実験的に求めた結果を示すグラフである。
【図7】本発明の他の実施形態を示すものであり、実施の形態2に係る静電吸引型流体吐出装置の概略構成を示す斜視図である。
【図8】静電吸引型流体吐出装置におけるノズル先端部のノズル径とメニスカス部での電荷集中によって生じる電界強度との関係を示すグラフである。
【図9】静電吸引型流体吐出装置における静電曳き糸現象による吐出流体の成長原理を示す図である。
【符号の説明】
10 ステージ
20 絶縁性基板
30 付着電荷
100 コロナチャージャ(除電手段)
150 除電ヘッド(除電手段)
200 流体吐出ヘッド(流体吐出手段)
210 駆動電極(流体吐出手段)
220 電源(流体吐出手段)
Claims (7)
- 電圧印加により帯電された吐出流体を、流体吐出ヘッドのノズルの流体噴出孔から静電吸引によって吐出させ基板に着弾させることによって、該基板表面に吐出流体による描画パターンを形成する静電吸引型流体吐出装置において、
上記ノズルの流体噴出孔は、そのノズル径が0.01〜25μmであると共に、
上記基板が絶縁性基板であり、該絶縁性基板への流体吐出前に、該絶縁性基板表面の電荷を除電する除電手段と、
除電された絶縁性基板に対して、正負両極性のパルス電圧にて流体吐出を行う流体吐出手段とを備えており、
上記流体吐出手段は、駆動電圧として印加される両極性パルス電圧の極性に応じて、正極性に帯電された流体と負極性に帯電された流体とを交互に吐出することを特徴とする静電吸引型流体吐出装置。 - 上記除電手段は、所定のパターンにて絶縁性基板の除電を行うことを特徴とする請求項1記載の静電吸引型流体吐出装置。
- 上記流体吐出手段は、流体吐出時におけるメニスカス部への電荷集中によって生じる電界強度が、Paschen Curveの算出式によって求められる放電開始電界強度よりも小さくなるような印加電圧にて流体吐出を行うことを特徴とする請求項1記載の静電吸引型流体吐出装置。
- 上記流体吐出手段は、340V以下の印加電圧にて流体吐出を行うことを特徴とする請求項3記載の静電吸引型流体吐出装置。
- 上記ノズルの流体噴出孔は、そのノズル径が16μm以上または0.25μm以下であり、
上記流体吐出手段は、500V以下の印加電圧にて流体吐出を行うことを特徴とする請求項3記載の静電吸引型流体吐出装置。 - 上記ノズルの流体噴出孔は、そのノズル径が7.4μm以上または0.65μm以下であり、
上記流体吐出手段は、400V以下の印加電圧にて流体吐出を行うことを特徴とする請求項3記載の静電吸引型流体吐出装置。 - 電圧印加により帯電された吐出流体を、流体吐出ヘッドのノズルの流体噴出孔から静電吸引によって吐出させ基板に着弾させることによって、該基板表面に吐出流体による描画パターンを形成する静電吸引型流体吐出方法において、
上記ノズルの流体噴出孔は、そのノズル径が0.01〜25μmであると共に、
上記基板が絶縁性基板であり、該絶縁性基板への流体吐出前に、該絶縁性基板表面の電荷を除電し、
除電された絶縁性基板に対して、正極性に帯電された流体と負極性に帯電された流体とが交互に吐出されるように、正負両極性のパルス電圧にて流体吐出を行うことを特徴とする静電吸引型流体吐出方法。
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