JP3967298B2 - 静電吸引型流体吐出方法およびその装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、インク等の流体を帯電させ、その流体をノズルから基板などの対象物上に吐出する静電吸引型流体吐出方法およびその装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、インク等の流体を対象物(記録媒体)上に吐出する流体ジェット方式にはインクジェットプリンタとして実用化されているピエゾやサーマルなどの方式があるが、その他の方式として、吐出する流体を導電性流体とし、導電性流体に電界を印加してノズルから吐出させる静電吸引方式がある。
【0003】
このような静電吸引方式の流体吐出装置(以下、静電吸引型流体吐出装置と称する)としては、例えば特許文献1および特許文献2において開示がある。
【0004】
また、特許文献4には、ノズルをスリットとして、ノズルより突出した針電極を設け微粒子を含むインクを吐出するインクジェット装置が開示されている。例えば特許文献3には、ノズルより内部に電圧印加用の電極を設けたインクジェット装置が開示されている。
【0005】
ここで、従来の静電吸引型流体吐出装置における流体吐出モデルを説明する。
【0006】
静電吸引型流体吐出装置とりわけオンデマンド型の静電吸引型流体吐出装置の設計要因としては、インク液体の導電性(例えば比抵抗106〜1011Ωcm)、表面張力(例えば0.020〜0.040N/m)、粘度(例えば0.011〜0.015Pa・s)、印加電圧(電場)がある。そして、印加電圧としては、ノズルに印加する電圧、およびノズルと対向電極間との距離が特に重要とされていた。
【0007】
静電吸引型流体吐出装置においては、電気流体的な不安定性を利用しており、図14にこの様子を示す。一様電界の中に導電性流体を静置すると、導電性流体の表面に作用する静電力が表面を不安定にし、曳き糸の成長を促す(静電曳き糸現象)。この時の電場は、ノズル100と、ノズル100とhだけ距離を隔てて対向する対向電極101との間に電圧Vを印加したときに発生する電場E0とする。この時の成長波長λcは物理的に導くことが可能であり(例えば、非特許文献1)、次式で表される。なお、101aはノズル孔である。
【0008】
【数1】
ここで、γ:表面張力(N/m)、ε0:真空の誘電率(F/m)、E0:電界の強さ(V/m)である。ノズル径d(m)が、λcよりも小さい場合、成長は起こらない。すなわち、
【0009】
【数2】
が、吐出のための条件となっていた。
【0010】
ここで、E0は平行平板を仮定した場合の電界強度(V/m)で、ノズル−対向電極間距離をh(m)、ノズルに印加する電圧をV0として、
【0011】
【数3】
したがって、
【0012】
【数4】
となる。
【0013】
【特許文献1】
特公昭36−13768号公報(公告日昭和36年8月18日)
【0014】
【特許文献2】
特開2001−88306号公報(公開日平成13年4月3日)
【0015】
【特許文献3】
特開平8−238774号公報(公開日平成8年9月17日)
【0016】
【特許文献4】
特開2000−127410号公報(公開日平成12年5月9日)
【0017】
【非特許文献1】
画像電子情報学会,第17巻,第4号,1988年,p.185-193
【0018】
【発明が解決しようとする課題】
流体吐出装置では、一般的により微細なドット形成やライン形成を可能とするために、インクを吐出するノズルの径を小さくしたいといった要望がある。
【0019】
しかしながら、現在実用化されているピエゾ方式やサーマル方式などの流体吐出装置では、ノズル径を小さくして、例えば1plを下回るような微小量の流体の吐出は困難である。これは、流体を吐出するノズルが微細になるほど吐出に必要な圧力が大きくなるためである。
【0020】
また、上述のような流体吐出装置では、液滴の微細化と高精度化は相反する課題であり、両方を同時に実現するのは困難であった。これは以下の理由による。
【0021】
ノズルから吐出された液滴に付与される運動エネルギーは、液滴半径の3乗に比例する。このため、ノズルを微細化した場合に吐出される微細液滴は、吐出時の空気抵抗に耐えるほどの十分な運動エネルギーを確保できず、空気滞留などによる撹乱を受け、正確な着弾を期待できない。さらに、液滴が微細になるほど、表面張力の効果が増すため、液滴の蒸気圧が高くなり蒸発量が激しくなる.このため、微細液滴は飛翔中に著しい質量の消失を招き、着弾時に液滴の形態を保つことすら難しいという問題があった。
【0022】
またさらに、上述した従来の静電吸引型流体吐出装置における流体吐出モデルに基づくと、上記(2)式より、ノズル径の減少は吐出に必要な電界強度の増加を要請することとなる。そして、電界強度は、上記(3)式に示すように、ノズルに印加する電圧(駆動電圧)V0とノズル−対向電極間距離hとによって決まるため、ノズル径の減少は駆動電圧の上昇を招来する。
【0023】
ここで、従来の静電吸引型流体吐出装置における駆動電圧は、1000V以上と非常に高いため、各ノズル間でのリークや干渉化を考慮すると小型化および高密度化は難しく、ノズル径をさらに小さくすると上記問題がより大きなものとなる。また、1000Vを越えるような高電圧のパワー半導体は一般的に高価で周波数応答性も低い。
【0024】
尚、上記特許文献1で開示されているノズル径は0.127mmであり、特許文献2で開示されているノズル径の範囲は50〜2000μm、より好ましくは100〜1000μmといった範囲であった。
【0025】
ノズル径に関して、従来の静電吸引型流体吐出における典型的な動作条件を当てはめて計算してみると、表面張力0.020N/m、電界強度107V/mとして、上記(1)式に代入して計算すると、成長波長λcは約140μmとなる。すなわち、限界ノズル径として70μmという値が得られる。すなわち、上記条件下では107V/mの強電界を用いてもノズル径が直径70μm程度以下の場合は背圧を印加して強制的にメニスカス形成させるなどの処置をとらない限り、インクの成長は起こらず、静電吸引型流体吐出は成立しないと考えられていた。すなわち、微細ノズルと駆動電圧の低電圧化は両立しない課題と考えられていた。
【0026】
以上のように、従来の流体吐出装置では、ノズルの微細化と高精度化は相反する課題であり、両方を同時に実現することは困難であった。また、特に静電吸引型流体吐出装置では、ノズルの微細化と駆動電圧の低電圧化とは両立しない課題と考えられていた。
【0027】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、その目的は、ノズルの微細化と微小流体の吐出及び着弾位置の高精度化、さらに、駆動電圧の低電圧化をすべて実現した静電吸引型流体吐出装置を提供することにある。
【0028】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するために、本発明の静電吸引型流体吐出装置は、ノズルと吐出先部材との間に駆動電圧印加手段から駆動電圧を印加して、ノズル内に供給された流体に電荷を供給し、この流体をノズル孔から前記吐出先部材に吐出させる静電吸引型流体吐出装置において、前記ノズルの孔径はφ1μm〜φ5μmであり、前記駆動電圧印加手段は、前記流体の電気抵抗をR、ノズル先端部の前記流体と前記吐出先部材との間の静電容量をCとしたときに、130V<V0〔1−exp(−t/RC)〕を満たす電圧V0および印加時間tの条件にて前記駆動電圧を出力することを特徴としている。
【0029】
また、本発明の静電吸引型流体吐出方法は、ノズルと吐出先部材との間に駆動電圧を印加して、ノズル内に供給された流体に電荷を供給し、この流体をノズル孔から前記吐出先部材に吐出させる静電吸引型流体吐出方法において、前記ノズルの孔径はφ1μm〜φ5μmであり、前記流体の電気抵抗をR、ノズル先端部の前記流体と前記吐出先部材との間の静電容量をCとしたときに、130V<V0〔1−exp(−t/RC)〕を満たす電圧V0および印加時間tの条件にて前記駆動電圧を出力することを特徴としている。
【0030】
従来、静電吸引型流体吐出装置において、ノズル孔径の縮小は吐出に必要な電界強度の増加を招来するため、ノズル孔径の微細化と駆動電圧の低電圧化は両立し得ないと考えられていた。これに対し、本願発明では、ノズル孔径をφ0.01μm〜φ25μmの微細径とした場合に局所電界が発生し、吐出における駆動電圧の低下が可能になるという新たな知見に基づき、ノズル孔径を上記範囲内とすることにより、ノズル孔径の微細化と駆動電圧の低電圧化の両立を実現している。
【0031】
また、本願発明の構成では、ノズルの孔径をさらにφ1μm〜φ5μmの範囲に限定しているので、ノズル孔径の微細化による駆動電圧の低電圧化をさらに確実なものとしている。
【0032】
また、130V<V0〔1−exp(−t/RC)〕を満たす電圧V0および印加時間tの条件にてノズルの駆動電圧を出力しているので、ノズル先端のメニスカス表面電位を確実に吐出可能電位以上に設定することができ、微細ドット形成における信頼性を向上することができる。
【0033】
本発明の静電吸引型流体吐出装置は、ノズルと吐出先部材との間に駆動電圧印加手段から駆動電圧を印加して、ノズル内に供給された流体に電荷を供給し、この流体をノズル孔から前記吐出先部材に吐出させる静電吸引型流体吐出装置において、前記ノズルの孔径はφ1μm〜φ5μmであり、前記駆動電圧印加手段は、前記流体の電気抵抗をR、ノズル先端部の前記流体と前記吐出先部材との間の静電容量をCとしたときに、130V<V0〔1−exp(−t/RC)〕<250Vを満たす電圧V0および印加時間tの条件にて前記駆動電圧を出力することを特徴としている。
【0034】
上記の構成によれば、前記静電吸引型流体吐出装置と同様、ノズル孔径の微細化と駆動電圧の低電圧化の両立を実現することができ、また、ノズル孔径をさらにφ1μm〜φ5μmの範囲に限定しているので、ノズル孔径の微細化による駆動電圧の低電圧化をさらに確実なものとすることができる。
【0035】
また、130V<V0〔1−exp(−t/RC)〕<250Vを満たす電圧V0および印加時間tの条件にてノズルの駆動電圧を出力しているので、ノズル先端のメニスカス表面電位を確実に吐出可能電位以上に設定することができ、微細ドット形成における信頼性を向上することができるとともに、駆動電圧を低くかつ狭い範囲に設定することができる。
【0036】
本発明の静電吸引型流体吐出装置は、ノズルと吐出先部材との間に駆動電圧印加手段から駆動電圧を印加して、ノズル内に供給された流体に電荷を供給し、この流体をノズル孔から前記吐出先部材に吐出させる静電吸引型流体吐出装置において、前記ノズルの孔径はφ1μm〜φ5μmであり、前記駆動電圧印加手段は、前記流体の電気抵抗をR、ノズル先端部の前記流体と前記吐出先部材との間の静電容量をCとしたときに、130V<V0〔1−exp(−t/RC)〕<250V、かつV0<250Vを満たす電圧V0および印加時間tの条件にて前記駆動電圧を出力することを特徴としている。
【0037】
上記の構成によれば、前記静電吸引型流体吐出装置と同様、ノズル孔径の微細化と駆動電圧の低電圧化の両立を実現することができ、また、ノズル孔径をさらにφ1μm〜φ5μmの範囲に限定しているので、ノズル孔径の微細化による駆動電圧の低電圧化をさらに確実なものとすることができる。
【0038】
また、130V<V0〔1−exp(−t/RC)〕<250Vを満たす電圧V0および印加時間tの条件にてノズルの駆動電圧を出力しているので、ノズル先端のメニスカス表面電位を確実に吐出可能電位以上に設定することができ、微細ドット形成における信頼性を向上することができるとともに、駆動電圧を低くかつ狭い範囲に設定することができる。
【0039】
さらに、電圧V0<250Vとしているので、ノズル先端部に形成されるメニスカス表面電位の変化量を低く抑えることができる。これにより、ノズル−吐出先部材間距離の変動等によるメニスカス表面電位のばらつきを抑制することができ、吐出先部材上に微細パターンを形成する場合の微細液体の安定した吐出が可能となる。
【0040】
本発明の静電吸引型流体吐出装置は、ノズルと吐出先部材との間に駆動電圧印加手段から駆動電圧を印加して、ノズル内に供給された流体に電荷を供給し、この流体をノズル孔から前記吐出先部材に吐出させる静電吸引型流体吐出装置において、前記ノズル先端部と前記吐出先部材との間の距離をXとし、前記ノズルの孔径をφ1μm〜φ5μmとし、ノズルの孔径がこの範囲である場合の、ノズルから前記流体の吐出が開始される吐出開始電圧の最大値をVH、最小値をVLとした場合に、
VH=−0.001X2+0.44X+125
VL=−0.0013X2+0.69X+160
であることを特徴としている。
【0041】
上記の構成によれば、前記静電吸引型流体吐出装置と同様、ノズル孔径の微細化と駆動電圧の低電圧化の両立を実現することができ、また、ノズル孔径をさらにφ1μm〜φ5μmの範囲に限定しているので、ノズル孔径の微細化による駆動電圧の低電圧化をさらに確実なものとすることができる。
【0042】
さらに、ノズルからの流体の吐出開始電圧が、VH=−0.001X2+0.44X+125、VL=−0.0013X2+0.69X+160で与えられる最大値(VH)と最小値(VL)との間に設定されるので、微細パターン形成の際のノズルからの流体の吐出において、安定かつ信頼性の高い動作が可能となる。
【0043】
【発明の実施の形態】
〔前提技術〕
先ず、本発明の前提技術について、図面を参照して以下に説明する。
本発明の前提技術に係る静電吸引型流体吐出装置は、そのノズル径を0.01μm〜25μmとしており、かつ、1000V以下の駆動電圧にて吐出流体の吐出制御を可能としている。
【0044】
ここで、従来のインク吐出モデルにおいては、ノズル径の減少は駆動電圧の上昇に繋がるため、50〜70μm以下のノズル径では、吐出インクに背圧を与えるなどの他の工夫を行わない限り、1000V以下の駆動電圧でのインク吐出は不可能と考えられていた。しかしながら、本願発明者らは鋭意検討の結果、あるノズル径以下では、従来のインク吐出モデルとは異なる吐出モデルでの吐出現象が起こることを突き止めた。本前提技術は、このインク吐出モデルにおける新たな知見に基づいている。
【0045】
先ずは、本願の前提技術において究明されたインク吐出モデルについて説明する。
【0046】
直径d(以下の説明においては、特に断らない限りノズル孔の内径を指す)のノズルに導電性インクを注入し、無限平板導体からhの高さに垂直に位置させたと仮定する。この様子を図8に示す。このとき、ノズル先端(ノズル孔:流体吐出孔)に誘起される電荷Qは、ノズル先端の吐出流体によって形成される半球部に集中すると仮定し、以下の式で近似的に表される。
【0047】
【数5】
ここで、Q:ノズル先端に誘起される電荷(C)、ε0:真空の誘電率(F/m)、d:ノズル径(直径)(m)、V0:ノズルに印加する総電圧である。また、αは、ノズル形状などに依存する比例定数であり、1〜1.5程度の値を取るが、特にd<<h(h:ノズル(ノズル孔)−基板間距離(m))の時はほぼ1となる。
【0048】
また、基板として導電基板を用いた場合、ノズルと対向して基板内の対称位置に、上記電荷Qと反対の極性を持つ鏡像電荷Q’が誘導されると考えられる。基板が絶縁体の場合は、誘電率によって定まる対称位置に同様に電荷Qと逆極性の映像電荷Q’が誘導される。
【0049】
ノズル先端部における集中電界強度Elocは、先端部の曲率半径をRと仮定すると、
【0050】
【数6】
で与えられる。ここで、kは、ノズル形状などに依存する比例定数であり、1.5〜8.5程度の値を取るが、多くの場合5程度と考えられる(P.J. Birdseye and D.A. Smith, Surface Science, 23(1970), p.198-210)。また、ここでは、インク吐出モデルを簡単にするため、R=d/2と仮定する。これは、ノズル先端部において表面張力によって導電性インクがノズル径dと同じ曲率径を持つ半球形状に盛り上がっている状態に相当する。
【0051】
次に、ノズル先端の吐出流体に働く圧力のバランスを考える。まず、静電的な圧力Peは、ノズル先端部の液面積をSとすると、
【0052】
【数7】
となる。(5)〜(7)式より、圧力Peは、α=1とおいて、
【0053】
【数8】
と表される。
【0054】
一方、ノズル先端部における吐出流体の表面張力による圧力Psとすると、
【0055】
【数9】
となる。ここで、γ:表面張力である。静電的な力により吐出が起こる条件は、静電的な力が表面張力を上回ることなので、静電的な圧力Peと表面張力による圧力Psとの関係は、
【0056】
【数10】
となる。
【0057】
図9に、ある直径dのノズルを与えた時の、表面張力による圧力Psと静電的な圧力Peとの関係を示す。吐出流体の表面張力としては、吐出流体が水(γ=72mN/m)の場合を仮定している。ノズルに印加する電圧を700Vとした場合、ノズル直径dが25μmにおいて静電的な圧力Peが表面張力による圧力Psを上回ることが示唆される。このことより、V0とdとの関係を求めると、
【0058】
【数11】
が吐出の最低電圧を与える。
【0059】
また、その時の吐出圧力ΔPは、
【0060】
【数12】
より、
【0061】
【数13】
となる。
【0062】
ある直径dのノズルに対し、局所的な電界強度によって吐出条件を満たす場合の吐出圧力ΔPの依存性を図10に、吐出臨界電圧(すなわち吐出の生じる最低電圧)Vcの依存性を図11に示す。
【0063】
図10から、局所的な電界強度によって吐出条件を満たす場合(V0=700V,γ=72mN/mと仮定した場合)のノズル径の上限が25μmであることが分かる。
【0064】
図11の計算では、吐出流体として水(γ=72mN/m)および有機溶剤(γ=20mN/m)を想定し、k=5の条件を仮定した。この図より、微細ノズルによる電界の集中効果を考慮すると、吐出臨界電圧Vcはノズル径の減少に伴い低下することが明らかであり、吐出流体が水の場合においてノズル径が25μmの場合、吐出臨界電圧Vcは700V程度であることが分かる。
【0065】
従来の吐出モデルにおける電界の考え方、すなわちノズルに印加する電圧V0とノズル−対向電極間距離hとによって定義される電界のみを考慮した場合では、ノズル径が微小になるに従い、吐出に必要な駆動電圧は増加する。
【0066】
これに対し、本前提技術において提案する新たな吐出モデルのように、局所電界強度に注目すれば、微細ノズル化により吐出における駆動電圧の低下が可能となる。このような駆動電圧の低下は、装置の小型化およびノズルの高密度化において極めて有利となる。もちろん、駆動電圧を低下させることで、コストメリットの高い低電圧駆動ドライバの使用をも可能にする。
【0067】
さらに、上記吐出モデルでは、吐出に必要な電界強度は、局所的な集中電界強度に依存することになるため、対向電極の存在が必須とならない。すなわち、従来の吐出モデルでは、ノズル−基板間に電界を印加するため、絶縁体の基板に対してはノズルと反対側に対向電極を配置するか、あるいは基板を導電性とする必要があった。そして、対向電極を配置する場合、すなわち基板が絶縁体の場合では、使用できる基板の厚さに限界があった。
【0068】
これに対し、本前提技術の吐出モデルでは、対向電極を要さずに絶縁性基板などに対しても印字を行うことが可能となり、装置構成の自由度が増す。また、厚い絶縁体に対しても印字を行うことが可能となる。なお、ノズルから吐出される液体は帯電しているので、この液体と基板との間には鏡像力が働く。この鏡像力の大きさと基板からのノズルの距離hとの相関を図12に示す。
【0069】
次に、上記吐出流量の精密制御について考えて見る。円筒状の流路における流量Qは、粘性流の場合、以下のハーゲン・ポアズイユの式によって表される。いま、円筒形のノズルを仮定し、このノズルを流れる流体の流量Qは、次式で表される。
【0070】
【数14】
ここで、η:流体の粘性係数(Pa・s)、L:流路すなわちノズルの長さ(m)、d:流路すなわちノズルの径(m)、△P:圧力差(Pa)である。上式より、流量Qは、流路の半径の4乗に比例するため、流量を制限するためには、微細なノズルの採用が効果的である。この(14)式に、(13)式で求めた吐出圧力△Pを代入し、次式を得る。
【0071】
【数15】
この式は、直径d、長さLのノズルに電圧Vを引加した際に、ノズルから流出する流体の流出量を表している。この様子を、図13に示す。計算にはL=10mm、η=1(mPa・s)、γ=72(mN/m)の値を用いた。いま、ノズル径を先行技術の最小値50μmと仮定する。電圧Vを徐々に印加していくと、電圧V=1000Vで吐出が開始する。この電圧は、図11でも述べた吐出開始電圧に相当する。そのときのノズルからの流量がY軸に示されている。吐出開始電圧Vc直上で流量は急速に立ち上がっている。このモデル計算上では、電圧をVcより少し上で精密に制御することで微小流量が得られそうに思えるが、片対数で示される図からも予想されるように実際上それは不可能で、特に10-10m3/s以下、微小量の実現は困難である。また、ある径のノズルを採用した場合には、(11)式で与えられたように、最小駆動電圧が決まってしまう。このため、先行技術のように、直径50μm以上のノズルを用いる限り、10-10m3/s以下の微小吐出量や、1000V以下の駆動電圧にすることは困難である。
【0072】
図から分かるように、直径25μmのノズルの場合700V以下の駆動電圧で充分であり、直径10μmのノズルの場合500V以下でも制御可能である。また、直径1μmのノズルの場合300V以下でも良いことが分かる。
【0073】
以上の考察は、連続流を考えた場合であるが、ドットを形成するためには、スイッチングの必要性がある。次にそれに関して述べる。
【0074】
静電吸引による吐出は、ノズル端部における流体の帯電が基本である。帯電の速度は誘電緩和によって決まる時定数程度と考えられる。
【0075】
【数16】
ここで、ε:流体の比誘電率、σ:流体の導電率(S・m-1)である。流体の比誘電率を10、導電率を10-6S/mを仮定すると、τ=1.854×10-5secとなる。あるいは、臨界周波数をfcとすると、
【0076】
【数17】
となる。このfcよりも早い周波数の電界の変化に対しては、応答できず吐出は不可能になると考えられる。上記の例について見積もると、周波数としては10kHz程度となる。
【0077】
次に、ノズル内における表面張力の低下について考える。電極の上に絶縁体を配置し、その上に滴下した液体と電極の間に電圧を印加すると液体と絶縁体の接触面積が増す、すなわちぬれ性がよくなることが見いだされ、エレクトロウェッティング(Electrowetting)現象と呼ばれている。この効果は、円筒形のキャピラリー形状においても成り立ち、エレクトロキャピラリー(Electrocpapillary)と呼ばれることもある。エレクトロウェッティング効果による圧力と、印加電圧、キャピラリーの形状、溶液の物性値との間に以下の関係がある。
【0078】
【数18】
ここで、ε0:真空の誘電率、εr:絶縁体の誘電率、t:絶縁体の厚さ、d:キャピラリーの内径である。流体として、水を考えてこの値を計算してみると、上述の特許文献1の実施例の場合を計算してみると、高々30000Pa(0.3気圧)にすぎないが、本前提技術の場合、ノズルの外側に電極を設けることにより30気圧相当の効果が得られることがわかった。これにより、微細ノズルを用いた場合でもノズル先端部への流体の供給は、この効果により速やかに行われる。この効果は、絶縁体の誘電率が高いほど、またその厚さが薄いほど顕著になる。エレクトロキャピラリー効果を得るためには、厳密には絶縁体を介して電極を設置する必要があるが、十分な絶縁体に十分な電場がかかる場合、同様の効果が得られる。
【0079】
以上の議論において、注意すべき点は、これらの近似理論は従来のように電界強度として、ノズルに印加する電圧V0と、ノズルと対向電極間の距離hとで決まる電界ではなく、ノズル先端における局所的な集中電界強度に基づいている。また、本前提技術において重要なのは、局所的な強電界と、流体を供給する流路が非常に小さなコンダクタンスを持つことである。そして、流体自身が微小面積において十分に帯電することである。帯電した微小流体は、基板などの誘電体、または導体を近づけると、鏡像力が働き基板に対し直角に飛翔する。このために、実施例ではノズルは作成の容易さからガラスキャピラリーを使っているが、これに限定されるものではない。
【0080】
〔実施の形態1〕
以下に本発明の実施の形態について説明する。以下の実施の形態においては、超微細ノズルから静電力によって超微細液体を吐出させる場合における駆動電圧条件について究明した結果について説明する。また、以下の実施の形態では、吐出対象物に対して液体(流体)の安定な吐出を行うため、ノズルに対して対向電極を対置し、ノズルと対向電極(すなわち対向電極を介して接地される吐出先部材)との間に電界を発生させる構成としている。
【0081】
静電吸引型流体吐出装置においては、前述の前提技術にて説明したように、ノズル孔の直径(ノズル径)を0.01〜25μmの範囲とすることにより、ノズル孔径の微細化と駆動電圧の低電圧化との両立が可能である。
【0082】
しかしながら、静電吸引型流体吐出装置により特に微小ドットや微細ラインを形成する場合、ノズル内部の駆動電極と基板(対向電極の前に設けられた対象物)との間の電位差が重要な要素となる。すなわち、この電位差が大き過ぎると液体の吐出量が多くなり微細パターンを形成することが困難である一方、上記電位差が小さ過ぎると吐出不良が発生する。
【0083】
さらに、各電圧値に対する印加時間も重要な要素である。すなわち、ある電圧値に対して印加時間が長過ぎると吐出量過多となり微細パターンの形成が困難となる一方、印加時間が短過ぎると吐出不良が発生する。
【0084】
そこで、以下の実施の形態においては、ノズルと対向電極との間の印加電圧(駆動電圧)および印加時間を適切に設定することにより、安定した微細ドットパターンの形成が可能となるようにしている。
【0085】
図1〜図3は本発明の実施の一形態の静電吸引型流体吐出装置による液体吐出方法を説明するものである。図1(a)は静電吸引型流体吐出装置における概略構成図であり、図1(b)はその等価回路である。図2は、ノズル11と対向電極12(すなわち基板16)との間に印加する駆動電圧の印加時間と吐出開始電圧(吐出最低電圧)との関係を示すグラフである。図3(a)〜図3(c)は、ノズル先端のメニスカスの表面電位上昇と吐出開始条件との関係を示すグラフである。
【0086】
図1(a)に示すように、静電吸引型流体吐出装置では、ノズル11と対向電極12とが対向配置されている。対向電極12は接地されている。ノズル11内には駆動電極13が設けられ、この駆動電極13には電源(駆動電圧印加手段)14が接続されている。また、ノズル11内には液体からなる吐出材料(流体)15が充填され、対向電極12におけるノズル11との対向面には吐出材料15の吐出先である基板(吐出先部材)16が配置されている。この基板16は対向電極12を通じて接地される。基板16にはノズル11から吐出された吐出材料15により、例えば微細な配線パターンが形成される。
【0087】
ノズル11は、超微細液体を吐出可能とするために、低コンダクタンスの流路がノズル11の近傍に設けられているか、もしくはノズル11自身が低コンダクタンスのものとなっている。このために、ノズル11は、ガラス製キャピラリーが好適であるが、導電性物質に絶縁材でコーティングしたものでも可能である。
【0088】
ノズル11をガラス製とする理由は、容易に数μm程度のノズル孔を形成できること、ノズル孔の閉塞時にはノズル端を破砕することにより新しいノズル端を再生できること、ガラスノズルの場合、テーパー角がついているために、不要な溶液が表面張力によって上方(ノズル孔が下端に位置するようにノズル11を配置した場合におけるノズル孔側とは反対側)へと移動し、ノズル端に滞留せず、ノズル詰まりの原因にならないこと、およびノズル11が適度な柔軟性を持つため、可動ノズルの形成が容易であること等による。
【0089】
具体的には、芯入りガラス管(商品名:株式会社ナリシゲ製GD−1)を用い、キャピラリープラーにより作成することができる。芯入りガラス管を用いた場合には次のような利点がある。
【0090】
(1)芯側ガラスがインクに対し濡れやすいために、インクの充填が容易になる。(2)芯側ガラスが親水性で、外側ガラスが疎水的であるためにノズル端部において、インクの存在領域が芯側のガラスの内径程度に限られ、電界の集中効果がより顕著となる。(3)微細ノズル化が可能となる。(4)十分な機械的強度が得られる。
【0091】
ノズル径の下限値は、制作上の都合から0.01μmが好ましく、また、ノズル径の上限値は、図9に示した静電的な力が表面張力を上回る時のノズル径の上限が25μmであること、および図10に示した局所的な電界強度によって吐出条件を満たす場合のノズル径の上限が25μmであることから25μmが好ましく、15μmがより好ましい。特に、局所的な電界集中効果をより効果的に利用するには、ノズル径は0.01〜8μmの範囲が望ましい。
【0092】
また、ノズル11は、キャピラリーチューブに限らず、微細加工により形成される2次元パターンノズルでもかまわない。ノズル11を成形性の良いガラスとした場合、ノズル11を電極として利用することはできないから、ノズル11内には、金属線(例えばタングステン線)を駆動電極13として挿入する。なお、ノズル11内にメッキにて駆動電極13を形成しても良い。また、ノズル11自体を導電性物質で形成した場合には、その上に絶縁材をコーティングする。
【0093】
また、駆動電極13は、ノズル11内に充填された液体である吐出材料15に浸されるように配置する。吐出材料15は図示しない供給源から供給される。
【0094】
電源(駆動電圧印加手段)14の動作は、例えばコンピュータからなる制御装置(駆動電圧印加手段)17により制御される。すなわち、制御装置17からの吐出信号が電源14に供給され、この吐出信号に応じて電源14から例えばパルス波形の電圧が駆動電極13に印加される。ノズル11内の吐出材料15はこの電圧により帯電する。上記駆動電圧の一例は例えば図4に示すとおりである。
【0095】
基板16としては、絶縁性のガラス基板、ポリイミドなどのプラスチック基板、セラミックス基板、あるいは半導体基板などを用いることが可能である。
【0096】
上記の構成において、静電吸引型流体吐出装置での微細液体吐出における基本特性、特にノズル11先端のメニスカス40に蓄積された電荷による表面電位について説明する。
【0097】
図1(a)に示した静電吸引型流体吐出装置において、電源14から駆動電極13に駆動電圧が印加されることにより、駆動電極13から吐出材料15に電荷が供給される。この電荷は、ノズル11内部の吐出材料15を通じて、ノズル11の先端部に形成された、静電容量を有するメニスカス40に移動し、基板16と対向すると考えられる。したがって、図1(a)の構成は、図1(b)に示すように、電源14から駆動電極13に印加される駆動電圧V0、ノズル11内部の吐出材料15の電気抵抗R、メニスカス40と基板16との間の静電容量Cを用いて、直列回路として表すことができる。
【0098】
上記のV0、R、Cの直列回路では、これらV0、R、Cの関係をメニスカス40上での蓄積電荷Q(t)を用いて次のように表すことができる。
【0099】
R dQ(t)/dt + Q(t)/C =V0 …………(19)
上記(19)式の微分方程式を解くと、メニスカス表面の蓄積電荷Q(t)およびメニスカス表面電位V(t)は以下のように表すことができる。
【0100】
Q(t) =C V0〔1−exp(−t/RC)〕 …………(20)
V(t) = V0〔1−exp(−t/RC)〕 …………(21)
次に、図2に示す実験結果について説明する。これは、実際に吐出材料15として銀ナノペーストを用いて行った実験結果であり、吐出開始電圧と印加時間との関係を示している。なお、吐出開始電圧(吐出最低電圧)とはノズル11から吐出材料15の吐出が行われる場合の駆動電極13への最低の印加電圧である。
【0101】
図2からは、印加時間が短くなるに連れて吐出に必要な電圧値が大きくなり、吐出開始条件として、印加電圧(駆動電圧)および印加時間の両者と吐出開始に必要なパラメータが関係することが確認できる。
【0102】
図3(a)〜図3(c)には、電源14から駆動電極13への印加電圧が互いに異なる3値の場合について、吐出開始電位に到達するまでのメニスカス40の表面電位の変化を示している。なお、図3(a)〜図3(c)は図2に示す結果を(21)式に代入して得た結果である。図3(a)〜図3(c)における印加電圧と印加時間との各々の値は、図2のグラフ上の3点であり、それぞれ図3(a)が440Vかつ2400μsec、図3(b)が680Vかつ1200μsec、図3(c)が1600Vかつ400μsecである。
【0103】
図3(a)〜図3(c)の各場合において、電源14から駆動電極13に電圧を印加すると、駆動電極13から吐出材料15へ電荷が流れ出し、メニスカス40の表面に蓄積し始める。その際、メニスカス表面電位は、図3(a)〜図3(c)に示すように、飽和曲線を描きながら上昇し、その上昇速度は(21)式中の電圧V0および時定数RCに依存する。
【0104】
各印加電圧値に従って上昇したメニスカス表面電位は、吐出最低条件の場合、設定された印加時間に達した時点で吐出開始電圧に到達しているのが確認できる。すなわち、メニスカス表面電位が吐出開始電圧に到達するのに必要な時間以上の印加時間を与えれば、吐出材料15の吐出が可能となるわけであり、具体的には(21)式におけるメニスカス表面電位V(t)が吐出開始電圧VDCよりも大きい状態となるような駆動電圧V0および印加時間tを設定すれば吐出が可能となる。すなわち、
VDC ≦ V0〔1−exp(−t/RC)〕 …………(22)
とすればよい。
【0105】
なお、ここで言う吐出開始電圧VDCとは、印加時間を十分に与えた時の最低印加電圧値であり、ここではDCバイアスでの最低電圧条件としている。
【0106】
上記のように、本実施の形態の静電吸引型流体吐出装置では、ノズル11先端に生じるメニスカス表面電位を確実に吐出材料15の吐出開始電位以上に設定することができ、安定した微細ドット形成を行うことができる。
【0107】
また、図5は本実施の形態の静電吸引型流体吐出装置におけるノズル径(ノズル11の孔径(直径))とノズル11からの吐出材料15の吐出開始電圧との関係を示すグラフである。図5は、吐出材料15を銀ナノペーストとして、DCバイアスを印加した場合の吐出開始電圧とノズル径との関係を調べた結果である。
【0108】
図5の結果では、ノズル径が小さくなるにつれて、吐出開始電圧が低下し、ノズル径が1μmの場合に吐出開始電圧は約140Vとなる。すなわち、ノズル径がφ1μm以上のノズル11を使用する場合には、DCバイアスを最低でも130V以上印加することにより確実に安定した吐出が行われることになる。
【0109】
すなわち、φ1μm〜φ5μmのノズル径において、前記(22)式の、VDC≦ V0〔1−exp(−t/ RC)〕にて表される吐出開始電圧VDCが130Vであるということから、すべての電圧波形に対して、
130V< V0〔1−exp(−t/ RC)〕 …………(23)
を満たす駆動電圧V0および印加時間tを設定することにより、安定した微細液体の吐出が可能となる。
【0110】
このように、本実施の形態の静電吸引型流体吐出装置では、ノズル径がφ1μm〜φ5μmのノズル11に関して、上記(23)式を満たす駆動電圧V0およびその印加時間tを設定することにより、安定した微細液体の吐出が可能である。
【0111】
なお、上記のように、ノズル径の範囲をφ1μm〜φ5μmとしているのは、ノズル径のφ1μmが形成可能なノズル径の技術的下限値であることによる。また、ノズル径のφ5μmは、静電吸引型流体吐出装置によって基板16上にラインを描画する場合、このノズル径により、微細なラインとして要望されている10μmのラインを描くことが可能であることによる。
【0112】
また、ノズル11の駆動に必要な電圧はノズル11内部の駆動電極13に印加された信号と対向電極12に印加された信号との電位差であるので、各電極に印加される信号の形態は任意である。また、駆動電圧の符号は、正負どちらでも構わない。
【0113】
〔実施の形態2〕
本発明の実施の他の形態を図面に基づいて以下に説明する。
図6は本実施の形態の静電吸引型流体吐出装置における吐出開始電圧(吐出最低電圧)とノズル−基板間距離(ノズル11の先端部と基板16との距離)との関係を示すグラフである。本実施の形態の静電吸引型流体吐出装置は図1の構成を有する。また、ノズル径をφ1μm〜φ5μmとしている。なお、本実施の形態では、前記の実施の形態と同じ部分の説明は省略し、異なる部分のみを説明する。
【0114】
図6は、吐出材料15を銀ナノペーストとして、各ノズル径(φ1.2μm、φ1.8μm、φ2.4μm、φ4.2μm)において、駆動電極13にDCバイアスを印加した場合の吐出開始電圧とノズル−基板間距離との関係を調べた結果である。
【0115】
図6の結果では、吐出開始電圧は、ノズル−基板間距離に依存し、この距離が大きくなるにつれて上昇する。しかしながら、ノズル径をφ1μm〜φ5μmに限定した場合、200μm以下のノズル−基板間距離にて描画を行えば、駆動電極13への印加電圧は130V以上250V以下の低くかつ狭い範囲とすることができる。
【0116】
すなわち、φ1μm〜φ5μmのノズル径において、前記(22)によりVDC≦ V0〔1−exp(−t/ RC)〕で表される吐出開始電圧VDCの範囲は、130V以上250V以下である。このことから、すべての電圧波形に対して、
130V< V0〔1−exp(−t/ RC)〕<250V ………(24)
を満たす電圧V0および印加時間tを設定することにより、安定した微細液体の吐出が可能となる。
【0117】
このように、本実施の形態の静電吸引型流体吐出装置では、ノズル径がφ1μm〜φ5μmのノズル11に関して、上記(24)式を満たす駆動電圧V0およびその印加時間tを設定することにより、過剰吐出および吐出不良のない安定した微細液体の吐出が可能である。
【0118】
なお、ノズル11の駆動に必要な電圧はノズル11内部の駆動電極13に印加された信号と対向電極12に印加された信号との電位差であるので、各電極に印加される信号の形態は任意である。また、駆動電圧の符号は、正負どちらでも構わない。
【0119】
ここで、図6の結果に基づき、ノズル径がφ1μm〜φ5μmの範囲のノズル11を使用し、ノズル−基板間距離を変数Xとして変化させた場合の吐出開始電圧(吐出最低電圧)の最大値(VH)と最小値(VL)とのそれぞれの推移を一般式で示すと、
VH=−0.001X2+0.44X+125 …………(25)
VL=−0.0013X2+0.69X+160 …………(26)
となる。
【0120】
また、上記VHおよびVLを用いて、上記の(24)式は、
VL≦V0〔1−exp(−t/ RC)〕≦VH …………(27)
と表すことができる。
【0121】
〔実施の形態3〕
本発明の実施のさらに他の形態を図面に基づいて以下に説明する。
図7は本実施の形態の静電吸引型流体吐出装置におけるメニスカス表面電位ばらつきと駆動電極13への印加電圧(駆動電圧)との関係を示すグラフである。本実施の形態の静電吸引型流体吐出装置は図1の構成を有する。また、ノズル径をφ1μm〜φ5μmとしている。なお、本実施の形態では、前記の実施の形態と同じ部分の説明は省略し、異なる部分のみを説明する。
【0122】
静電吸引型流体吐出装置にて基板16上に微細パターンを形成する際に、吐出材料15の水平方向の位置を高精度に設定すること、およびノズル−基板間距離(ノズル先端と基板との間のギャップ)を高精度に調整することは共に重要である。これらの点は、予め凹凸パターンを有する基板16に対して微細パターンを形成する場合に特に重要である。
【0123】
そこで、本実施の形態では、ノズル11の駆動電極13に駆動電圧としてパルス電圧を印加した場合の、ノズル−基板間距離の変動によるメニスカス表面電位のばらつきを調べ、その結果を図7に示した。この場合、吐出材料15としては銀ナノペーストを使用し、ノズル径はφ1μm〜φ5μmの範囲である。図7では、具体的には、ノズル−基板間距離を30μmに設定し、その1割にあたる1.5μmのばらつきが発生した場合のメニスカス表面電位の変化量を示した。
【0124】
図7の結果から、メニスカス表面電位のばらつきは、駆動電極13への印加電圧の値により大きく変化し、印加電圧が大きいほど急激に変化量が大きくなることがわかる。すなわち、例えば、メニスカス表面電位の変化量が増加側にシフトとすると、ノズル11から吐出材料15が突然大量に吐出され、逆に減少側にシフトすると、ノズル11からの吐出材料15の吐出が突然停止されるといった事態が生じる。
【0125】
具体的には、駆動電極13に高電圧を印加した場合には、吐出材料15の突然の大量吐出や吐出停止の可能性が高くなる。すなわち、図7の結果から、安定した吐出を行うためには、メニスカス表面電位の変化量を1V以下に抑制することが好ましく、これは、図7から駆動電極13への印加電圧を250V以下に設定することで可能となる。
【0126】
以上のように、本静電吸引型流体吐出装置では、ノズル径がφ1μm〜φ5μmのノズル11を使用する構成において、130V< V0〔1−exp(−t/ RC)〕<250Vを満たす電圧V0および印加時間tを設定し、さらに、印加電圧V0を250V以下に設定することで、ノズル−基板間距離の変動等によるメニスカス表面電位のばらつきを抑制することができ、基板16上に微細パターンを形成する場合の微細液体の安定した吐出が可能となる。
【0127】
なお、ノズル11の駆動に必要な電圧はノズル11内部の駆動電極13に印加された信号と対向電極12に印加された信号との電位差であるので、各電極に印加される信号の形態は任意である。また、駆動電圧の符号は、正負どちらでも構わない。
【0128】
以上のように、本発明の静電吸引型流体吐出装置は、ノズルに駆動電圧印加手段から駆動電圧を印加して、ノズル内に供給された流体に電荷を供給し、この流体をノズル孔から吐出先部材に吐出させる静電吸引型流体吐出装置において、前記ノズルの孔径がφ0.01μm〜φ25μmであり、前記駆動電圧印加手段が、ノズル内部の液体材料の電気抵抗をR、ノズル先端部の液体と吐出先部材との間の静電容量をC、前記駆動電圧印加により流体を吐出可能な最低電圧条件をVDCと定義したときに、VDC≦V0〔1−exp(−t/RC)〕を満たす駆動電圧V0かつ印加時間tのパルス電圧を前記駆動電圧として出力する構成である。
【0129】
【発明の効果】
以上のように、本発明の静電吸引型流体吐出装置は、ノズルと吐出先部材との間に駆動電圧印加手段から駆動電圧を印加して、ノズル内に供給された流体に電荷を供給し、この流体をノズル孔から前記吐出先部材に吐出させる静電吸引型流体吐出装置において、前記ノズルの孔径はφ1μm〜φ5μmであり、前記駆動電圧印加手段は、前記流体の電気抵抗をR、ノズル先端部の前記流体と前記吐出先部材との間の静電容量をCとしたときに、130V<V0〔1−exp(−t/RC)〕を満たす電圧V0および印加時間tの条件にて前記駆動電圧を出力する構成である。
【0130】
また、本発明の静電吸引型流体吐出方法は、ノズルと吐出先部材との間に駆動電圧を印加して、ノズル内に供給された流体に電荷を供給し、この流体をノズル孔から前記吐出先部材に吐出させる静電吸引型流体吐出方法において、前記ノズルの孔径はφ1μm〜φ5μmであり、前記流体の電気抵抗をR、ノズル先端部の前記流体と前記吐出先部材との間の静電容量をCとしたときに、130V<V0〔1−exp(−t/RC)〕を満たす電圧V0および印加時間tの条件にて前記駆動電圧を出力する構成である。
【0131】
これにより、本願発明では、ノズル孔径をφ0.01μm〜φ25μmの微細径とした場合に局所電界が発生し、吐出における駆動電圧の低下が可能になるという新たな知見に基づき、ノズル孔径を上記範囲内としているので、ノズル孔径の微細化と駆動電圧の低電圧化の両立を実現することができる。
【0132】
また、本願発明の構成では、ノズルの孔径をさらにφ1μm〜φ5μmの範囲に限定しているので、ノズル孔径の微細化による駆動電圧の低電圧化をさらに確実なものとしている。
【0133】
また、130V<V0〔1−exp(−t/RC)〕を満たす電圧V0および印加時間tの条件にてノズルの駆動電圧を出力しているので、ノズル先端のメニスカス表面電位を確実に吐出可能電位以上に設定することができ、微細ドット形成における信頼性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1(a)は、本発明の実施の一形態における静電吸引型流体吐出装置の概略構成図、図1(b)は同静電吸引型流体吐出装置の等価回路である。
【図2】図1に示した静電吸引型流体吐出装置における駆動電圧の印加時間と吐出開始電圧のとの関係を示すグラフである。
【図3】図3(a)は、図1(a)に示した静電吸引型流体吐出装置における、吐出開始電位に到達するまでのメニスカス表面電位の変化を示すものであって、印加電圧と印加時間が440Vと2400μsecの場合を示すグラフ、図3(b)は印加電圧と印加時間が680Vと1200μsecの場合を示すグラフ、図3(c)は印加電圧と印加時間が1600Vと400μsecの場合を示すグラフである。
【図4】図1に示した電源から出力される駆動電圧の一例を示す波形図である。
【図5】図1に示した静電吸引型流体吐出装置におけるノズル径とノズルからの吐出材料の吐出開始電圧との関係を示すグラフである。
【図6】図1に示した静電吸引型流体吐出装置における、ノズル径が異なる複数のノズルを使用した場合の吐出開始電圧とノズル−基板間距離との関係を示すグラフである。
【図7】図1に示した静電吸引型流体吐出装置における、メニスカス表面電位ばらつきと駆動電極への印加電圧(駆動電圧)との関係を示すグラフである。
【図8】本発明の前提技術におけるノズルの電界強度の説明図である。
【図9】本発明の前提技術における、表面張力圧力と静電的圧力のノズル径依存性のモデル計算結果を示したグラフである。
【図10】本発明の前提技術における、吐出圧力のノズル径依存性のモデル計算結果を示したグラフである。
【図11】本発明の前提技術における、吐出限界電圧のノズル径依存性のモデル計算結果を示したグラフである。
【図12】本発明の前提技術における、荷電液滴と基板との間に働く鏡像力とノズル−基板間距離との相関を示したグラフである。
【図13】本発明の前提技術における、ノズルから流出する流量と印加電圧との相関関係のモデル計算結果を示したグラフである。
【図14】従来の静電吸引型インクジェット方式の考え方である、電気流体力学的な不安定性による静電曳き糸現象による曳き糸成長の原理を示す説明図である。
【符号の説明】
11 ノズル
12 対向電極
13 駆動電極
14 電源(駆動電圧印加手段)
15 吐出材料(流体)
16 基板(吐出先部材)
17 制御装置(駆動電圧印加手段)
Claims (5)
- ノズルと吐出先部材との間に駆動電圧印加手段から駆動電圧を印加して、ノズル内に供給された流体に電荷を供給し、この流体をノズル孔から前記吐出先部材に吐出させる静電吸引型流体吐出装置において、
前記ノズルの孔径はφ1μm〜φ5μmであり、
前記駆動電圧印加手段は、前記流体の電気抵抗をR、ノズル先端部の前記流体と前記吐出先部材との間の静電容量をCとしたときに、
130V<V0〔1−exp(−t/RC)〕
を満たす電圧V0および印加時間tの条件にて前記駆動電圧を出力することを特徴とする静電吸引型流体吐出装置。 - ノズルと吐出先部材との間に駆動電圧印加手段から駆動電圧を印加して、ノズル内に供給された流体に電荷を供給し、この流体をノズル孔から前記吐出先部材に吐出させる静電吸引型流体吐出装置において、
前記ノズルの孔径はφ1μm〜φ5μmであり、
前記駆動電圧印加手段は、前記流体の電気抵抗をR、ノズル先端部の前記流体と前記吐出先部材との間の静電容量をCとしたときに、
130V<V0〔1−exp(−t/RC)〕<250V
を満たす電圧V0および印加時間tの条件にて前記駆動電圧を出力することを特徴とする静電吸引型流体吐出装置。 - ノズルと吐出先部材との間に駆動電圧印加手段から駆動電圧を印加して、ノズル内に供給された流体に電荷を供給し、この流体をノズル孔から前記吐出先部材に吐出させる静電吸引型流体吐出装置において、
前記ノズルの孔径はφ1μm〜φ5μmであり、
前記駆動電圧印加手段は、前記流体の電気抵抗をR、ノズル先端部の前記流体と前記吐出先部材との間の静電容量をCとしたときに、
130V<V0〔1−exp(−t/RC)〕<250V
かつV0<250V
を満たす電圧V0および印加時間tの条件にて前記駆動電圧を出力することを特徴とする静電吸引型流体吐出装置。 - ノズルと吐出先部材との間に駆動電圧印加手段から駆動電圧を印加して、ノズル内に供給された流体に電荷を供給し、この流体をノズル孔から前記吐出先部材に吐出させる静電吸引型流体吐出装置において、
前記ノズル先端部と前記吐出先部材との間の距離をXとし、前記ノズルの孔径をφ1μm〜φ5μmとし、ノズルの孔径がこの範囲である場合の、ノズルから前記流体の吐出が開始される吐出開始電圧の最大値をVH、最小値をVLとした場合に、
VH=−0.001X2+0.44X+125
VL=−0.0013X2+0.69X+160
であることを特徴とする静電吸引型流体吐出装置。 - ノズルと吐出先部材との間に駆動電圧を印加して、ノズル内に供給された流体に電荷を供給し、この流体をノズル孔から前記吐出先部材に吐出させる静電吸引型流体吐出方法において、
前記ノズルの孔径はφ1μm〜φ5μmであり、
前記流体の電気抵抗をR、ノズル先端部の前記流体と前記吐出先部材との間の静電容量をCとしたときに、
130V<V0〔1−exp(−t/RC)〕
を満たす電圧V0および印加時間tの条件にて前記駆動電圧を出力することを特徴とする静電吸引型流体吐出方法。
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