JP2006312146A - 液体吐出ヘッドおよび液体吐出方法 - Google Patents

液体吐出ヘッドおよび液体吐出方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 本発明は、微小な液滴を高速で吐出することが可能な液体吐出ヘッドおよび液体吐出方法を提供する。
【解決手段】 本発明の吐出ヘッドは、液体が充填される圧力室12と、圧力室12に接続され液体が吐出されるノズル11と、圧力室12を変形させて圧力室12の容積を変化させるための変形手段(圧力発生器14)とを含む。ノズル11の内径が10μm以下である。また、このヘッドは、ノズル11の内壁の少なくとも一部の表面状態を、液体の接触角が90°未満である状態と、液体の接触角が90°以上である状態との間で可逆的に変化させるための表面状態制御手段(撥水膜23、第1および第2の電極膜23および24、電圧印加装置25)を含む。
【選択図】 図2

Description

本発明は、微小な液体を高速で吐出するためのヘッド、および微小な液体を高速で吐出する方法に関する。
近年、インクジェットプリンタ技術を利用して、有機トランジスタ、金属配線、DNAチップ、マイクロレンズ等のデバイスを製造するための技術開発が各方面で行われている(特許文献1〜3)。
これらのデバイスの最小パターンサイズは数μm〜数十μmなので、吐出する液滴の直径も数μm〜数十μmにする必要がある。しかし、現在、一般の印刷に用いるインクジェットプリンタでは、直径が数十μm以下の微小な液滴を吐出することができない。そこで、上記デバイスを作製するためには、直径が数十μm以下の微小な液滴を吐出できる液体吐出ヘッドを開発する必要がある。原理的には、ノズルの内径を小さくすれば吐出する液滴径も小さくできる。微小液滴を吐出するために必要な条件と従来技術について以下に説明する。
ノズル内壁が親水性である場合の液体の表面形状を図17(a)に示し、ノズル内壁が撥水性である場合の液体の表面形状を図17(b)に示す。ノズル内壁が親水性である場合、ノズル内における液体201の表面は凹形状であり、液体201には、ノズル先端に移動しようとする力が働く。一方、ノズル内壁が撥水性である場合、ノズル内における液体201の表面は凸形状であり、液体201には、圧力室側に移動しようとする力が働く。ノズルの内壁が撥水性である場合、ノズルが細いほどノズル内には液体が侵入しにくくなる。
ノズル内壁が親水性である場合、ノズル先端部では、液体の表面が凹形状になっている。この状態から、液体の表面が凸形状になる圧力よりも高い圧力を液体に加え、その後圧力を初期の状態に戻すと、ノズルから液滴が吐出される。
ノズルの半径をrとすると、液滴を吐出するのに必要な圧力は、通常1/rに比例する。そのため、微小な液滴を吐出するためには高い圧力が必要となる。たとえば、半径1μmの水滴を吐出するためには、3×105Pa(約3atm)の圧力が必要となる。
特許文献4には、微小ノズルから微小液滴を吐出するための液体吐出装置が開示されている。この装置では、先端直径が0.01〜25μmの超微細ノズルから、静電吸引方式で微小液滴が吐出される。特許文献4には、エレクトロウェッティング現象を用いてノズル内壁の濡れ性を変化させ、ノズル先端部へ液体を供給する方法が開示されている。
特許文献5には、先端の内部に撥水性膜が存在し、後端部に親水性膜が存在するノズルが開示されている。この先端部の撥水性膜の表面張力を、エレクトロウェッティング現象を利用して局所的に変化させることによって、必要な微小液滴だけがインクから分断されてノズル先端に移動する。特許文献5の吐出装置は、静電吸引方式のものであり、分断された微小液滴がノズル内を移動する。
図18を参照しながら、エレクトロウェッッティング現象について説明する。金属電極202上には、絶縁膜203および撥水膜204が順に形成されている。撥水膜204上に配置され、電極205が接続された液滴206を考える。液滴206aは、金属電極202と電極205との間に電圧が印加されていない状態の液滴を示し、その接触角はθ(0)である。そして、液滴206bは、金属電極202と電極205との間にDC電圧を印加した状態(この例では、電極1に正電圧を加えている)の液滴を示し、その接触角はθ(V)である。印加電圧Vと接触角θ(V)との間には、以下の式(1)の関係が成り立つ。なお、Cは、絶縁膜203と撥水膜204との間の総容量である。
cosθ(V)=cosθ(0)−C2×V2/2・・・(1)
電圧を印加すると、液体と撥水膜との界面に電荷が発生し、これによって界面張力が低下する。その結果、接触角θ(V)はθ(0)よりも小さくなる。すなわち、電圧印加によって撥水膜に対する液体の濡れ性が向上する。このように、電圧印加によって基板に対する液体の濡れ性が変化する現象をエレクトロウェッティング現象という。
特開平11−274671号公報 特許第3036436号公報 特表2003−518332号公報 特開2004−165587号公報 特開2004−216899号公報
微小液滴を吐出することによって所定のパターンを形成するためには、微小な液滴を吐出することに加え、吐出周波数(単位時間当たりに吐出される液滴の数)を高めることも重要であり、10kHz以上、たとえば100kHz以上や1MHz以上の吐出周波数を実現することが求められている。
しかし、従来の吐出ヘッドで、高い吐出周波数を実現することは困難であった。たとえば、静電吸引方式では、吐出周波数fの上限は以下の式(2)によって規定される(特許文献4の[0014]段落)。
f≦σ/εε0・・・(2)
ここで、σは液体の導電率であり、ε0は真空の誘電率であり、εは液体の比誘電率である。通常の溶液では、σが10-6S/mで、εが10程度であるため、吐出周波数fの上限は1万程度となる。したがって、静電吸引方式では、10kHz以上の周波数で液体を吐出することは困難であった。
また、特許文献5の方法において、ノズル先端への液体の移動は、液体とノズル内壁との間の界面張力の変化による液体の変形によって生じる。すなわち、界面張力の変化に伴い、液体に働いていた力の釣り合いが崩れて液体の変形が起こる。液体の変形は、力が平衡状態に達した時点で停止する。液体が変形して平衡状態に近づくと、変形させるための力は0に近づく。このため、液体の変形速度は液体の形が平衡状態に近づくと小さくなるので高速応答には限界があり、10kHz以上の周波数で液滴を吐出することは困難である。
ノズル径が数十μm以上で、液体の吐出周波数が数十kHz以下である通常の印刷用インクジェット装置では、ノズル内および圧力室中の液体の流れは定常流として計算できる。しかし、ノズル径がこれよりも小さくなり、吐出周波数が高くなると、非定常的な流体の流れを考える必要がある。
微小ノズルから液体を高速で吐出する場合のノズル内における液体の流れを、図19に模式的に示す。図19に示すように、ノズル内の液体は速度分布を有する。圧力室208とノズル209との連結部において、流体速度Vの液体がノズルに入る。連結部から距離xだけ離れた場所における速度ベクトルは、分布210に示されるように、ノズル209の内壁からノズル209の中心部に向かって増大する。液体の速度は壁面で0であり、壁面から離れるに従ってVに近づく。速度がVより小さい領域の厚さをδとすると、以下の式(3)の関係が成り立つ。
δ≒4×(νx/V)1/2・・・(3)
ただし、νは液体の動粘度である。
また、半径rのノズルから半径rの液滴をfヘルツで吐出する場合、ノズル内での液体の速度Vは、以下の式(4)で求められる。
V=4rf/3・・・(4)
なお、ノズル先端部に存在する液体を静電気力によってノズル外部に引っ張り出す静電吸引方式でも、式(3)が成り立つ。ただし、この場合のVは、ノズル出口での流速を示す。
式(3)および(4)を用いて、半径が1μmで長さが10μmのノズルを用いて有機溶剤の液滴を1MHzの周波数で吐出する場合について計算する。式(4)に、r=10-6、f=106を代入すると、Vは約1(m/s)となる。有機溶剤の動粘度は一般に5×10-72/s程度である。ノズル先端でのδは、式(4)に、V=1、ν=5×10-7、x=10-5を代入し、約9μmになる。
この結果から以下のことが分かる。1MHzの液滴吐出にはノズル内の流速は1m/sである必要がある。しかし、ノズル入り口の流速を1m/sにしてもノズル内で1m/sの流速を実現できない。このように、微小な径のノズルを用いて高速吐出をしようとした場合、必要とされる流速でノズル内を液体が流れることができず、高速吐出ができなくなってしまう。原理的には、ノズル内で必要とされる流速よりも大きな流速をノズル入り口で発生させればよいが、そのためには、大きな圧力を発生させる必要がある。
このような状況を考慮し、本発明は、微小な液滴を高速で吐出することが可能な液体吐出ヘッドを提供することを目的の1つとする。また、本発明は、微小な液滴を高速で吐出することが可能な液体吐出方法を提供することを目的の1つとする。
上記目的を達成するために検討した結果、本発明者は、高速で液体を吐出できる液体吐出ヘッドと、液滴の吐出方法とを見出した。本発明の液体吐出ヘッドおよび液体吐出方法は、以下の通りである。
本発明の液体吐出ヘッドは、液体が充填される圧力室と、前記圧力室に接続され前記液体が吐出されるノズルと、前記圧力室を変形させて前記圧力室の容積を変化させるための変形手段とを含む吐出ヘッドであって、前記ノズルの内径が10μm以下であり、前記ノズルの内壁の少なくとも一部の表面状態を、前記液体の接触角が90°未満である状態と、前記液体の接触角が90°以上である状態との間で可逆的に変化させるための表面状態制御手段とを含む。なお、この明細書において、「接触角」とは、注射器を用いて体積30μL程度の液滴を測定対象物質の表面に静かに置き、約1秒後に測定したときの静的接触角を意味する。
また、本発明の液体吐出方法は、液体が充填される圧力室と、前記圧力室に接続され前記液体が吐出されるノズルと、前記圧力室を変形させて前記圧力室の容積を変化させるための変形手段とを含む吐出ヘッドを用いて液体を吐出するための方法であって、前記ノズルの内壁の少なくとも一部の表面に対する前記液体の接触角を90°未満とした状態で前記液体を前記ノズルに充填し、前記表面に対する前記液体の接触角を90°以上とした状態で前記圧力室の容積を変化させることによって前記ノズルから前記液体を吐出する。
本発明の液体吐出ヘッドおよび液体吐出方法は、微小な液滴を高い吐出周波数で吐出することが可能である。そのため、本発明によれば、液滴を用いて微細な描画を行うことが可能である。たとえば、有機トランジスタ、金属配線、DNAチップ、マイクロレンズ等のデバイスや、有機ELディスプレイ等のディスプレイの画素やその駆動素子および配線を、高精度で短時間に形成できる。
以下に、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の説明では具体例を挙げて本発明を説明する場合があるが、本発明は以下の具体例に限定されない。また、図面を用いた説明では、同様の部分に同一の符号を付して重複する説明を省略する場合がある。
<液体吐出ヘッド>
本発明の液体吐出ヘッドは、液体が充填される圧力室と、圧力室に接続され液体(液滴)が吐出されるノズルと、圧力室を変形させて圧力室の容積を変化させるための変形手段とを含む。ノズルの内径は、10μm以下である。このヘッドは、ノズルの内壁の少なくとも一部の表面状態を、液体の接触角(静的接触角)が90°未満である状態と、液体の接触角(静的接触角)が90°以上である状態との間で可逆的に変化させるための表面状態制御手段とを含む。
表面状態制御手段は、ノズルの内壁の少なくとも一部の表面状態を、液体の接触角が80°以下である状態と、103°以上である状態との間で可逆的に変化させることが好ましい。この構成によれば、液体の高速吐出と、ノズルへの液体の導入とがさらに容易になる。
以下では、液体の接触角(静的接触角)が90°以上である状態の表面を撥水性の表面といい、液体の接触角(静的接触角)が90°未満である状態の表面を親水性の表面という場合がある。撥水性の表面は、通常、その表面エネルギーが0.04N/m以下である。親水性の表面は、通常、その表面エネルギーが0.04N/mより大きい。
ノズルとは、液体が流れることができる貫通孔が形成された構造体を意味する。圧力室からノズルに液体が導入され、それが液滴となってノズルから吐出される。液滴の吐出方向に垂直な面で切ったノズルの断面形状は、真円、楕円、多角形(たとえば四角形)など、様々な形であってもよい。また、ノズルの形は対称形でなくてもよい。ノズルの内径とは、液滴の吐出方向に垂直な面で切ったノズルの断面に内接する円の直径をいう。内接する円が多数存在する場合は、その中で最も大きい円の直径をいう。ノズルの内径は、一定であってもよいし、一定でなくてもよい。通常、ノズルの内径は、一定であるか、または先端に近くなるほど小さくなる。
ノズルの内径は10μm以下である。ノズルの内径は通常0.5μm以上であり、たとえば1μm〜5μmの範囲である。
ノズルの内壁の面積のうち、表面状態が変化する領域の割合は、通常、50%以上であり、好ましくは80%以上(たとえば100%)である。この割合が高いほどノズル内に液体を充填することが容易になる。
本発明の液体吐出ヘッドから吐出される液体に特に限定はなく、たとえば、水溶液、有機溶剤の溶液、水と有機溶剤の溶液の混合液、これらの溶液に有機半導体、導電性高分子、金属コロイド等が溶解または分散したものであってもよい。
ノズルの内壁の最表面には、表面状態制御手段によって表面状態が変化させられる膜が配置される。たとえば、通常の状態で液体の接触角が90°以上であり、表面状態制御手段によって液体の接触角が90°未満となるような撥水膜が配置される。また、通常の状態で液体の接触角が90°未満であり、表面状態制御手段(この場合はたとえばペルチェ素子)によって液体の接触角が90°以上となるような親水性膜が配置されてもよい。このような親水性膜としては、たとえば、ナイロンなどのアミド樹脂やポリビニルアルコールなどが挙げられる。
本発明の吐出ヘッドでは、圧力室の内壁に対する液体の接触角が90°未満(好ましくは80°以下)であってもよい。圧力室の内壁を親水性とすることによって、圧力室内に液体を導入しやすくなる。圧力室の容積に特に限定はなく、たとえば、1pL〜1μL程度とすればよい。
本発明の吐出ヘッドでは、液体の吐出方向(通常、ノズルの中心軸の方向と同じ)に垂直な方向における圧力室の内部サイズが20μm以上であることが好ましい。ここで、圧力室の内部サイズとは、液滴の吐出方向に垂直な方向における圧力室の断面に内接する円の直径を意味する。圧力室の内部サイズを20μm以上とすることによって、圧力室の中心を流れる液体が、圧力室の内壁から影響を受けることを抑制できる。特に、圧力室の内壁のうちノズルの中心軸に平行な内壁と、ノズルの中心軸との距離が10μm以上であることが好ましい。
本発明の吐出ヘッドでは、ノズルの内壁の中心線平均粗さが0.3μm以下であってもよい。なお、中心線平均粗さは、通常の表面荒さ計で測定することができる。ノズル内を移動する液体とノズル内壁との間の摩擦抵抗は、ノズル内壁の表面張力と表面粗さとによって決まる。ノズルの内径が10μm以下でノズル内壁の凹凸が大きいと、壁面で渦流が発生して摩擦抵抗が増大するので、液体を高速で吐出することが困難となる。本発明のヘッドでは、ノズル内壁(撥水膜の表面)の中心線平均粗さ(表面粗さ)を0.3μm以下とすることによって、より高速な液滴の吐出が可能になる。
本発明の吐出ヘッドでは、表面状態制御手段が、エレクトロウェッティング現象を用いて、ノズル内壁の表面状態を変化させてもよい。この場合の吐出ヘッドの一例では、ノズルは、貫通孔が形成されたノズル本体と、その貫通孔の壁面上にノズル本体側から順に積層された第1の電極膜および撥水膜とを含み、圧力室の内壁には第2の電極膜が形成されており、表面状態制御手段は、第1の電極膜と第2の電極膜とに電圧を印加する電圧印加手段を含む。ノズル内に存在する液体と圧力室内に存在する液体とは一体であるため、第1の電極膜と第2の電極膜との間に電圧を印加することによって、撥水膜を親水性とすることができる。
なお、第1の電極膜および/または撥水膜に隣接する位置、たとえば両者の間に、他の膜が積層されていてもよい。たとえば、第1の電極膜と液体とが電気的に接続されないようにするため、必要に応じて、第1の電極膜を覆うように絶縁膜が配置されてもよい。この場合、撥水膜は絶縁膜上に積層される。電極膜、撥水膜および絶縁膜の例については、以下の実施形態で説明する。
本発明の吐出ヘッドでは、ノズルは、貫通孔が形成されたノズル本体と、その貫通孔の壁面上にノズル本体側から順に積層されたペルチェ素子および撥水膜とを含んでもよく、表面状態制御手段は、ペルチェ素子を制御するための制御手段を含んでもよい。ペルチェ素子で撥水膜の温度を下げることによって、撥水膜の表面を親水性にすることができる。なお、ペルチェ素子および/または撥水膜に隣接する位置に他の膜が積層されていてもよい。
本発明の吐出ヘッドでは、変形手段が圧電体を含んでもよい。たとえば、圧力室の1つの壁に圧電素子を配置し、その圧電素子を変形させることによって、圧力室の容積を変化させることができる。
本発明の吐出ヘッドでは、液体がノズル内で分断されなくてもよい。ノズル内で液体を分断する従来の吐出ヘッドとは異なり、本発明の吐出ヘッドでは、通常、ノズル内で液体は分断されず、ノズルの先端部分で液体が分断されて液滴が生成される。
なお、本発明の液体吐出ヘッドは、複数個を並べて用いてもよい。複数の液体吐出ヘッドを並べることによって、大面積の描画を高速に行うことが可能となる。
(実施形態1)
図1に、本発明の吐出ヘッドの一例の構成を模式的に示す。図1の吐出ヘッド10は、ノズル11と、ノズル11に連結された圧力室12と、圧力室12に液体を供給する液体供給孔13と、圧力室の圧力を変える圧力発生器14と、圧力発生器14の制御装置15とを含む。圧力発生器14および制御装置15は、圧力室を変形させて圧力室の容積を変化させる手段として機能する。なお、吐出ヘッド10の表面状態制御手段の詳細については、図2の断面図に示す。以下の図面では、ハッチングを省略する場合がある。
ノズル11は、先が細くなった円筒状であり、吐出口11hから液体が吐出される。吐出口11hは、圧力室12側の内径D1の方が、先端側の内径D2よりも大きい。この内径D1が10μm以下である。圧力室12の内部サイズは、20μm以上である。ノズル11の内壁は撥水性であり、圧力室12の内壁は親水性である。
圧力発生器14には、たとえば圧電素子を用いることができる。圧電素子の変形によって圧力室の容積を変化させ、それによって、圧力を発生させることができる。圧電素子は電圧を加えることで高速に応答するので、液体の高速吐出や液滴の大きさの制御などを容易に行うことができる。圧電素子に用いる圧電体材料には色々な種類があり、その中でも、鉛を含む圧電体は圧電定数が高いため工業的に有用である。鉛を含む圧電体としては、たとえば、鉛チタン酸化物(PT)、鉛チタンジルコニウム酸化物(PZT)や、PZTにマグネシウム、マンガン、コバルト、鉄、ニッケル、ニオブ、スカンジウム、タンタル、ビスマス、ランタンなどを添加した化合物が挙げられる。
図2に示すように、ノズル11は、ノズル本体11aと、その上に順に積層された、第1の電極膜21、絶縁膜22および撥水膜23とを含む。また、圧力室12の内壁には、第2の電極膜24が形成されている。第1の電極膜21と第2の電極膜24は、それらの間に電圧を印加するための電圧印加装置25に接続されている。第1の電極膜21および撥水膜23は、ノズルの内壁の一部を構成する。また、第1の電極膜21および撥水膜23は、第2の電極膜24および電圧印加装置25とともに表面状態制御手段として機能する。
第1および第2の電極膜21および24は、導電性の材料で形成され、たとえば、金属電極で形成される。絶縁膜22は、絶縁性の材料で形成され、たとえば酸化シリコンで形成される。
なお、撥水膜23が絶縁膜として機能する場合には、絶縁膜22を省略することも可能である。フッ素系ポリマー膜、ゾル−ゲル法で作製した有機・無機複合膜、および単分子膜といった撥水膜は、絶縁膜の機能を備える場合がある。
撥水膜23は、通常の状態において、吐出する液体の接触角が90°以上である撥水性の膜である。通常、撥水膜23の表面エネルギーは、0.04N/m以下であり、好ましくは、0.02N/m以下である。撥水膜23としては、たとえば、フッ素系ポリマー膜、ゾル−ゲル法で作製した有機・無機複合膜、および単分子膜を用いることができる。フッ素系ポリマーとしては、高分子の主鎖または側鎖に―CF2―またはCF3の分子構造を有するものが好ましく、たとえば、ポリテトラフルオロエチレンやその誘導体を用いることができる。これらの膜は、溶液を用いた塗布法や真空蒸着法によってノズル内壁に形成できる。
有機・無機複合体膜は、たとえば、シリコン、チタン、またはジルコニウムなどの元素のアルコキシドと、フルオロアルキル鎖を有するアルコキシド化合物との混合物の加水分解物の溶液を、ノズル内壁に塗布した後、焼成することによって形成できる。単分子膜は、たとえば、フルオロアルキル鎖を有するクロロシランをノズル内壁と反応させて化学結合させることによって形成できる。また、単分子膜は、フルオロアルキル鎖を有するアルコキシシランをノズル内壁と反応させて化学結合されることによっても形成できる。ノズル内壁の表面が貴金属からなる場合、単分子膜は、フルオロアルキル鎖を有する、チオール、ジチオールまたはスルフィドを、ノズル内壁に結合させることによっても形成できる。
圧力室12の内壁を親水性にするには、圧力室12の内壁に親水性の薄膜を形成するか、親水性の材料で圧力室を形成すればよい。圧力室12の内壁が2つ以上の部材から構成されている場合は、親水性でない部材の表面のみに親水性の薄膜を形成してもよい。
親水性の薄膜材料としては、酸素を含有する化合物が好ましく、たとえば、酸化珪素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウムなどが挙げられる。これらは、たとえば、真空蒸着法、めっき法、ゾル−ゲル法によって形成できる。また、白金、金、チタン、銅、酸化スズ、酸化インジウム、これらの合金などの材料も、その最表面に酸化膜が形成されるので、これらの材料からなる膜を圧力室の内壁に形成してもよい。
また、圧力室12の内壁に、表面が親水性である単分子膜を形成してもよい。たとえば、分子末端に、水酸基、アミノ基、カルボキシル基を有するシランカップリング剤を用いて単分子膜を形成してもよい。単分子膜は膜厚が1〜3nm程度なので、単分子膜を用いることによって式(1)の容量Cを大きくでき、低電圧でエレクトロウェッティング現象を起こすことが可能となる。
また、親水性の材料(たとえばガラス)を加工して圧力室12を形成してもよい。これによって、圧力室12の内壁を親水性にできる。
実施形態1の吐出ヘッド10では、エレクトロウェッティング現象を用いて、ノズル11の内壁の表面状態を変化させる。ノズル11から液滴を吐出する場合には、第1の電極膜21と第2の電極膜24との間に電圧を印加せず、ノズル11の内壁の表面を撥水性にする。これによって、ノズル11から微小な液滴を高い吐出周波数で吐出することが可能となる。一方、吐出を停止し、圧力室12内の圧力を外部の圧力と同じにして一定時間放置しておくと、ノズル近傍にあった液体はノズル連結部に後退する。液体がノズル連結部まで後退すると、再びノズル内に液体を充填するには大きな圧力が必要になる。そのため、圧力室12内の液体を移動させてノズル11内に充填する場合には、第1の電極膜21の電位を第2の電極膜24よりも高くするか低くするかし、撥水膜23の表面を親水性とする。これによって、毛管現象によりノズル11内に液体を充填することが容易になる。
実施形態1の吐出ヘッド10における液体の状態を図3に示す。図3(a)は、ノズルから液滴を吐出している状態であり、ノズル11の内壁が撥水性で、ノズル11内に液体30が充填されている。液滴の吐出を休止し、圧力室12内の圧力を外気圧と同じにして一定の時間が経過すると、図3(b)に示すように、表面張力の効果によってノズル11内の液体30はノズル11の連結部まで後退する。液体30をノズル11内に再び充填するためには、第1の電極膜21と第2の電極膜24との間に電圧を印加し、エレクトロウェッティング現象によってノズル11の内壁を親水性にすればよい。図3(C)は、エレクトロウェッティング現象によってノズル11内に液体30が充填された状態を示す。
式(3)で示したように、内壁から厚さδの範囲において液体の流速がノズル入り口の流速Vよりも小さくなる。これは、液体とノズル内壁との間の摩擦力が原因であると考えられている。この摩擦の大きさを支配する要因は多数あるため、これを正確に解析することは困難である。しかし、本発明者は、様々な実験を行った結果、直径10μm以下の微小ノズルから10kHz以上の高速で液体を吐出する場合、ノズル内壁を撥水性にすることで摩擦力が低下し、δが式(3)で示された値よりも大幅に小さくなることを発見した。ノズル内壁が撥水性の場合のδの値は、液体の種類や撥水膜の表面張力、ノズル内壁の粗さ、ノズルの形状によって様々に変わり、正確に計算することは困難である。けれども、発明者の様々な実験から、表面エネルギーが0.07N/mのノズル内壁の場合に比べると、表面エネルギーが0.04N/mのノズル内壁の場合には、δが2分の1以下になることが判明した。
また、実施形態1の吐出ヘッド10では、圧力室12の内壁が親水性なので、毛細管現象によって圧力室12内に液体を供給することが比較的容易である。
さらに、実施形態1の吐出ヘッド10では、圧力室12の内部サイズが20μm以上なので、その壁面が親水性であっても、壁面から9μm以上離れて壁面の摩擦抵抗を受けない部分が存在する。その部分に存在する液体は高速で移動できるため、ノズル内に液体を高速に供給できる。ところで、内径が一定でない管中を液体が流れる場合、各地点における流体の速度は、物質保存の法則により、そこでの管の断面積に反比例する。このため、断面積の大きい場所の流体の速度は、小さい場所よりも小さくなる。実施形態1のヘッドでは、ノズルの内径よりも圧力室12の内部サイズが大きいため、圧力室内の液体の流速が小さくても、ノズル内の流速を大きくすることが可能である。
上述した特許文献4および5に記載された静電吸引方式のヘッドでは、吐出周波数の上限は、吐出する液体の物性に大きく左右される。これに対し、実施形態1の吐出ヘッドの吐出周波数の上限もある程度は液体の物性に左右されるが、主にヘッドの設計事項、たとえば、圧力室12、圧力発生器14、および、ノズル11の大きさや形状、といった事項によって大きく規定される。従って、静電吸引方式によって吐出できない液体であっても、実施形態1のヘッドでは、その構造を最適化することによって10kHz以上の吐出周波数で吐出することが可能となる。
ところで、液体が撥水性のノズルに充填されている場合と、充填されていない場合の、ノズルおよび圧力室を含めた系全体ギッブスの自由エネルギーを比較すると、ノズル内に液体が充填されていない場合の方が自由エネルギーが小さい。従って、いったん、ノズル内の液体が無くなった状態になると、再びここに液体を充填するためには圧力室に大きな圧力を加える必要がある。しかし、何らかの方法でノズルに液体が充填されれば、その後、一定の周波数で液体をノズルから吐出し続ける限り、ノズル内には圧力室から液体が絶えず供給され続け、ノズル内の液体が空にならないことを本発明者は見出した。この理由はまだ明らかではないが、液体を吐出している最中にノズル内の液体を空にするためには連続した液体をノズルと圧力室との境界で切断する必要があり、それに必要なエネルギーが前述した系全体のギッブスの自由エネルギーの差よりも大きいためだと推測される。
(実施形態2)
実施形態2では、ペルチェ素子を用いた液体吐出ヘッドの一例について説明する。実施形態2の液体吐出ヘッドを図4に示す。
図4の吐出ヘッド40は、ノズル41と、ノズル41に連結された圧力室12と、圧力室12に液体を供給する液体供給孔13と、圧力室の圧力を変える圧力発生器14と、圧力発生器の制御装置15とを含む。ノズル41は、ノズル本体41aと、ノズル本体41a側から順に積層された、ペルチェ素子42と撥水膜23とを備える。ペルチェ素子42には、それを制御するための制御装置43が接続されている。撥水膜23には、実施形態1で説明した撥水膜を適用できる。
ペルチェ素子42および撥水膜23は、ノズルの内壁の一部を構成する。また、ペルチェ素子42および撥水膜23は、制御装置43とともに表面状態制御手段として機能する。
吐出ヘッド40では、温度を下げることによって固体の表面エネルギーが大きくなることを利用して、撥水膜23の撥水性を変化させる。液体を吐出する場合には、撥水膜23の温度(ノズル内壁の温度)を室温近傍に保ち、撥水膜23の表面を撥水性とする。一方、ノズル41内の液体が無くなり、新たにここに液体を充填する場合には、ペルチェ素子によって撥水膜23の温度を下げ、撥水膜23の表面を親水性とする。その結果、毛管現象によってノズル41内に液体を充填することが容易となる。
ペルチェ素子を用いた吐出ヘッドのノズル部分の構造の一例を、図5に模式的に示す。図5のノズル51において、ペルチェ素子は、n型半導体53とp型半導体54とが複数の電極55で接続された構造を有する。ノズル51の内面には、撥水膜56が形成されている。電圧印加装置57によってn型半導体53とp型半導体54との間にDC電圧が印加される。半導体に加えるDC電圧の大きさと極性を制御することによって、撥水膜56の温度を変えることができる。
ペルチェ素子に用いる半導体としては、たとえば、Sb2Te3、Bi2Te3、Sb2Se3が挙げられる。これらに不純物をドーピングすることによってn型やp型の半導体を形成できる。電極に用いる金属に特に限定はなく、白金、金、銅、ニッケル、酸化インジウム、酸化スズ、酸化インジウムスズなどを用いることができる。
エレクトロウェッティング現象を用いる吐出ヘッドでは、液体の導電性が低い場合には、第1の電極膜と第2の電極膜との間に印加する電圧を大きくする必要がある。しかし、ペルチェ素子を用いる吐出ヘッドでは、印加する電圧が液体の導電性に左右されないという利点がある。
<液体吐出方法>
本発明の液体吐出方法は、液体が充填される圧力室と、圧力室に接続され液体が吐出されるノズルと、圧力室を変形させて圧力室の容積を変化させるための変形手段とを含む吐出ヘッドを用いて液体を吐出するための方法である。この方法では、ノズルの内壁の少なくとも一部の表面に対する液体の接触角を90°未満とした状態で液体をノズルに充填する。次に、上記表面に対する液体の接触角を90°以上とした状態で圧力室の容積を変化させることによってノズルから液体を吐出する。この方法は、本発明の液体吐出ヘッドを用いて実施できる。この方法では、ノズルへの液体の充填が容易であり、また、微小な液滴を高い吐出周波数で吐出することが可能である。
本発明の液体吐出方法では、エレクトロウェッティング現象を用いて、上記少なくとも一部の表面に対する液体の接触角を変化させてもよい。この方法は、実施形態1で説明した液体吐出ヘッドを用いて実施できる。
また、本発明の液体吐出方法では、ノズルの内壁に撥水膜が形成されていてもよく、ノズルの内壁の温度を変化させることによって、上記少なくとも一部の表面に対する液体の接触角を変化させてもよい。この方法は、ペルチェ素子を備える本発明の液体吐出ヘッドを用いて実施できる。
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。
(実施例1)
実施例1の液体吐出ヘッドの分解斜視図を図6(a)に示し、液体吐出ヘッドの所定の部分のサイズを図6(b)に示す。
図6の吐出ヘッド60は、下部基体61と、下部基体61上に形成された、第1の電極膜62、絶縁膜63および撥水膜64とを備える。また、吐出ヘッド60は、上部基体71と、上部基体71上に形成された、第1の電極膜72、第2の電極膜73、絶縁膜74、撥水膜75および圧電素子76とを備える。
下部基体61には、圧力室となる凹部61aと、圧力室に液体を導入するための溝61bと、ノズルとなる溝61cとが形成されている。ノズル(溝61c)の断面は、一辺の長さが2μmの正方形であり、ノズルの長さは10μmとした。また、圧力室内部(凹部61a)の幅は50μmで、長さは200μmで、深さは50μmとした。圧力室の内壁を親水性にするために、内壁の表面には、厚さ50nmの酸化シリコン膜を形成した。この膜の表面エネルギーはおよそ0.05N/mである。
第1の電極膜62には、厚さ100nmの白金薄膜を用いた。絶縁膜63には、厚さ10nmの酸化シリコン膜を用いた。上部基体71(振動板)には、厚さ3μmの銅板を用いた。圧電素子76には、チタン電極(厚さ10nm)が形成された鉛チタンジルコニウム酸化物(厚さ3μm)を用いた。この圧電体は、主面に垂直な方向にc軸配向していた。この圧電体は、上部基体71とチタン電極とに電圧を印加することによって、圧力室側に凸となるように歪む。その結果、圧力室内の容積が小さくなって圧力が上昇する。
上部基体71の一主面の全体には、厚さ100nmの酸化シリコン膜(図示せず)を形成し、その上に第1の電極膜72などを形成した。酸化シリコン膜の表面エネルギーはおよそ0.05N/mである。また、第1および第2の電極膜72および73には、厚さ100nmの白金薄膜を用いた。白金薄膜の表面エネルギーはおよそ0.06N/mである。絶縁膜74には、厚さ50nmの酸化シリコンを用いた。
絶縁膜63および74上であって、ノズルの内壁となる部分には、撥水膜64および75を形成した。これらの撥水膜は、(2−パーフルオロオクチル)エチルトリクロロシラン(CF3(CF2724SiCl3)が絶縁膜に結合することによって形成された単分子膜である。この単分子膜の表面エネルギーは0.017N/mである。絶縁膜63上に形成されたこの単分子膜(撥水膜64)の模式図を図7に示す。この単分子膜の膜厚は、1nm程度である。ノズルの内壁の中心線平均粗さは、0.08μm程度であった。撥水膜は、再現性よく液滴を吐出するという点でも効果がある。
(吐出ヘッドの製造方法)
以下、吐出ヘッド60の製造方法について、図8および図9を参照しながら説明する。
(1)下部基体側部分の作製
実施例1では、大きさが10cm×10cmで厚さが100μmのシリコン基板の一部を加工して下部基体を作製した。このとき、下部基体のノズル先端部がシリコン基板の端面となるようにした。
図8(A)〜(L)に、下部基体側部分の作製工程の上面図を模式的に示す。まず、下部基体61上に厚さ100nmの白金薄膜をスパッタリング法で形成したのち、フォトリソグラフィー法によって加工し、(A)に示すように、下部基体61上に第1の電極膜62の一部を形成した。
次に、厚さ10nmの酸化シリコン膜をスパッタリング法で形成した後、フォトリソグラフィー法によって加工して、(B)に示すように絶縁膜63の一部を形成した。次に、(C)に示すように、所定のパターンのネガレジスト膜81を形成した後、ドライエッチングによってレジストの無い領域を深さ2μmまでエッチングし、溝61cを含む凹部を形成した。
次に、ネガレジスト膜81に加えてノズルの部分にもレジスト膜81aを形成したのち、シリコン基板をエッチングすることによって、(D)に示すように、深さ50μmの凹部61aおよび溝61bを形成した。
次に、レジストを剥離せずに、(E)に示すように、厚さ50nmの酸化シリコン膜82をスパッタリング法で形成した。次に、(F)に示すように、凹部61aおよび溝61bの部分を除いてレジストを剥離した。これによって、凹部61aの内壁と溝61bの内壁とに酸化シリコン膜82を形成した。
次に、(G)に示すように、ノズル部分を除いて下部基体全体を覆うポジ型レジストパターン83を形成した。その後、(H)および(I)に示すように、厚さ100nmの白金薄膜84と、続いて、厚さ10nmの酸化シリコン膜85とをスパッタリング法で形成した。
このようにして得られた基体を、n−ヘキサデカンとクロロホルムとの混合溶液(体積比で4:1)に(2−パーフルオロオクチル)エチルトリクロロシランを1体積%溶解させた溶液に浸漬した。浸漬後、基体をn−ヘキサデカンとクロロホルムの混合溶液(体積比で4:1)で洗浄した。これらの操作は乾燥窒素雰囲気中で行った。このようにして、(J)に示すように撥水膜64を形成した。
その後、基体をアセトン中で超音波洗浄することによってレジスト膜を剥離し、(K)に示す構造の基体を形成した。最後に、凸版印刷法で、アクリル系接着剤87を厚さ200nmとなるように塗布した。図8(L)が、作製した下部基体の最終的な形である。
(2)上部基体側部分および吐出ヘッドの作製
図9に上部基体側部分および吐出ヘッドの製造工程を示す。大きさが10cm×10cmで、厚さが100μmのシリコン基板の一部を加工して上部基体を作製した。このとき、上部基体のノズル先端部がシリコン基板の端面となるようにした。
まず、シリコン基板91上に、白金薄膜92(厚さ200nm)と、PZT薄膜93(厚さ3μm)とを、スパッタリング法で形成した。
次に、電子線蒸着法によって厚さ3μmの銅薄膜(上部基体71)を形成し、スパッタリング法によって厚さ100nmの酸化シリコン膜94を形成した。次に、スパッタリング法によって厚さ100nmの白金薄膜を形成したのち、フォトリソグラフィー法によってパターニングし、第1の電極膜72と第2の電極膜とを形成した。
次に、スパッタリング法によって厚さ10nmの酸化シリコン膜を形成した後、フォトリソグラフィー法でパターニングすることによって絶縁膜74を形成した。最後に、下部基体の場合と同様の方法で、ノズル部分に撥水膜75を形成した。このようにして、図9(A)に示す構造体を形成した。
次に、図9(B)および(C)に示すように、形成した上部基体と下部基体部との位置を合わせ、両基体を一定の力で密着させながら200℃で1時間加熱した。その後、約20分かけてゆっくり室温に戻した。このようにして、両基体を接着した。次に、図9(D)に示すように、シリコン基板91を除去したのち、白金薄膜92とPZT薄膜93とをドライエッチング法でパターニングすることによって、圧電素子76を形成した。
(特性の評価)
以下に、ヘッドの特性の評価方法と評価結果とを示す。
(1)吐出する液体
吐出用の液体には、純水60wt%、ジエチレングリコールモノブチルエーテル30wt%、グリセリン10wt%の混合溶液を用いた。この混合溶液の粘度は3mPa・s、表面張力は0.35N/mであった。
ノズルからの液体の吐出の様子は、液滴の吐出方向と垂直な方向から液滴の吐出周波数でストロボ光を当て、飛翔している液滴を通過したストロボ光をCCDカメラで撮影することによって評価した。ストロボ光の周波数と液滴の吐出周波数とが同じなので、安定に吐出している液滴は静止したように観測される。この観測から、液滴の大きさを算出した。
(2)ヘッドへの液体の注入方法
圧力室およびノズルには、図10の吸引治具100を用いて液体を導入した。具体的には、液体供給孔13を液体に浸漬し、ノズル11がある面に、吸引治具100を接触させて吸引する。
吸引治具100は、シリコーン材料からなる吸引チューブ101を介してチューブポンプ(図示せず)に接続されている。チューブポンプによって吸引を行うことによって、液体供給孔13から、圧力室12の内部へ液体が導入される。
第1の電極膜と第2の電極膜との間に電圧を印加しない状態では、圧力室には液体が導入されるが、ノズル内には液体は導入されなかった。これは、ノズル内が撥水性であり、表面張力の作用でノズル内には液体が入りにくいためである。次に、第1の電極膜と第2の電極膜との間に40Vの電圧を印加した状態で吸引治具を用いて液体の導入を試みたところ、ノズル内に液体が導入された。次に、吸引治具をノズルのある面から取り外したのち、電圧を切断した直後に圧電素子に所定の波形の電圧を印加してノズルから液滴を吐出した。なお、液体供給孔13は常に液体に浸漬させておいた。
(3)液滴の吐出方法
圧電素子に印加する電圧の波形の一例を図11に示す。時間T0〜T5の波形が液滴を1個吐出するための波形である。T5〜T7の時間は、次の液滴の吐出が開始されるまでの間隔に該当する。
印加される電圧がプラスの場合、圧電素子は、圧力室側が凸形状となるように歪み、圧力室内の圧力が高まる。T0〜T3の駆動波形で液滴を吐出させ、T3〜T5の駆動波形で振動板の余振動を停止する。T0〜T6の波形が1秒間にf個入っている場合、吐出周波数はf(Hz)である。吐出周波数に応じて、T0〜T6の最適な値を決める必要があるが、実施例1では、T1〜T5の間に以下の関係が成り立つとき、安定な液滴の吐出を行うことができた。
(T2−T1):(T3−T2):(T4−T3):(T5−T4)=5:2:1:6
(4)吐出周波数と液滴の吐出状態との関係の評価
吐出周波数を変えた場合の、液滴の吐出状態と吐出された液滴の大きさとを調べた。液滴の吐出は、上記(2)および(3)で説明した方法で行った。
液滴が安定に吐出されている場合、CCDカメラでは液滴は停止しているように観察される。一方、液滴が不安定に吐出されている場合、液滴は時々刻々と動いて見えるか、全く吐出されない状態が観察される。飛翔している液滴の大きさは、その直径で評価した。また、比較例として、ノズル内壁に撥水膜が形成されておらず、ノズル内壁が親水性であるヘッドを用いて液体の吐出状態を観察した。
(5)ノズルへの液体の導入のされやすさの評価
上述した方法でノズル先端に液体を導入し、1000kHzの周波数で液滴を300秒間吐出した後、所定の時間吐出を休止した。その後、再び圧電素子に電圧を印加した場合の液滴の吐出状態を調べた。また、休止後に圧電素子に電圧を印加しても液滴が吐出されない場合、第1の電極膜と第2の電極膜との間に電圧を印加し、その直後に再び圧電素子に電圧を印加して液滴の吐出状態を調べた。
(6)結果
表1に、吐出周波数と、液滴の吐出状態の観察結果とを示す。また、表2に、吐出休止後の吐出状態の観察結果を示す。
Figure 2006312146
Figure 2006312146
表1に示すように、本実施例のヘッドを用いることによって、直径1.5μmの液滴を2000kHzで吐出できた。これに対し、ノズル内壁が親水性である従来のヘッドでは、6kHz以上の周波数では液滴を吐出できなかった。
また、表2に示すように、電極間に電圧を印加しない場合、吐出休止時間が5秒以内であると、再び圧電素子に電圧を印加すれば液体は吐出されたが、休止時間が10秒以上であると液体は吐出されなかった。これは、休止時間が5秒以内の場合はノズル先端まで満たされていた液体が圧力室まで後退することはないが、10秒以上ではノズル先端まで満たされていた液体が圧力室まで後退し、ノズル先端に液体が無い状態になったためである。この後退は、ノズル内壁が撥水性であることによって液体の表面(露出部)が凸形状になり、ノズル内に存在する液体に圧力室向きに力が加わるためである。
一方、10秒以上休止後、第1の電極膜と第2の電極膜との間に電圧を印加した直後に圧電素子に電圧を印加すると、液体は再び安定に吐出した。これは、電圧印加によってエレクトロウェッティング現象が起こってノズル内壁が親水性になり、その結果、圧力室内の液体が毛管現象によりノズル内に侵入したためである。
以上のように、本実施例のヘッドを用いることによって、直径1.5μmの微小液滴を10kHz以上の高周波数で吐出できた。本実施例のヘッドでは、エレクトロウェッティング現象を用いることによって、圧力室内の液体を効率よくノズル先端部まで満たすことができた。
また、本実施例のヘッドでは、ノズル内壁と化学結合するクロロシラン化合物を用いて撥水膜が形成されているため、長時間吐出を行っても撥水膜がはがれることがなく、信頼性の高い液体吐出ヘッドが得られる。また、本実施例の撥水膜は、図7に示したように、基板に対してほぼ垂直方向に配向しているので、撥水膜の表面には表面エネルギーの低いCF3基が存在し、撥水性が高い。そのため、液体とノズル内壁との間の摩擦力が低く、液体を高速で吐出することが可能である。
(実施例2)
撥水膜を除き、実施例1と同様の液体吐出ヘッドを作製し評価した。実施例2では、(2−パーフルオロオクチル)エチルトリメトキシシラン(CF3(CF2724Si(OCH33)を絶縁膜に化学結合させることによって撥水膜を形成した。
この撥水膜は、基本的には実施例1で用いた(2−パーフルオロオクチル)エチルトリクロロシランによって形成した撥水膜と同じ構造である。ただし、この撥水膜の表面エネルギーはおよそ0.018N/mで、(2−パーフルオロオクチル)エチルトリクロロシランの場合よりも大きい。この差は、メトキシシランはクロロシランよりも反応性が低いため、膜中の一部のSiに未反応のメトキシシリル基(SiOCH3)やシラノール基(SiOH)が残存していることに起因すると考えられる。ノズル内壁の中心線平均粗さは、0.08μm程度であった。
実施例2のヘッドの液体の吐出特性とノズル内への液体の入りやすさは、実施例1のヘッドと同等であった。実施例2の撥水膜の原料である(2−パーフルオロオクチル)エチルトリメトキシシランは、実施例1の撥水膜の原料の(2−パーフルオロオクチル)エチルトリクロロシランに比べて反応性が低く、空気中の水分などで失活することがないので、取り扱いやすく、簡単な設備でヘッドを作製することが可能となる。
(実施例3)
撥水膜を除き、実施例1と同様の液体吐出ヘッドを作製し評価した。実施例3では、ゾル−ゲル法で撥水膜を作製した。この撥水膜は、テトラエトキシシラン、(2−パーフルオロオクチル)エチルトリメトキシシラン、水、酸触媒が溶解したエタノール溶液を、ノズル内壁に塗布し、その後200℃以上の温度で焼成することによって形成した。この撥水膜は、テトラエトキシシラン(Si(OC254)と(2−パーフルオロオクチル)エチルトリメトキシシラン(CF3(CF2724Si(OCH33)とが加水分解・重合して形成されたものである。この撥水膜は、酸化シリコン薄膜に(2−パーフルオロオクチル)エチルトリメトキシシランが結合した構造を有する。この撥水膜の表面エネルギーは0.02N/mで、膜厚は0.2μmであった。
また、この撥水膜で覆われたノズル内壁の中心線平均粗さは0.002〜0.05μmであった。本実施例のノズル内壁の中心線平均粗さが実施例1および2のそれに比べて小さくなったのは、本実施例の撥水膜の膜厚は実施例1および2の撥水膜の膜厚に比べて大きいため、膜下の絶縁膜の凹凸を覆って低減する効果が大きいためであると考えられる。
実施例3のヘッドの液体の吐出特性とノズル内への液体の入りやすさは、実施例1のヘッドと同等であった。実施例3のノズル内壁の凹凸は、実施例1および2のそれに比べて小さいので、内壁の凹凸による液体への抵抗力が低減され、高い吐出周波数を実現できる。
(実施例4)
実施例4では、第1の電極膜の材料を変えたこと、および絶縁膜63および74を形成しなかったことを除き、実施例1と同様に液体吐出ヘッドを作製し評価した。実施例4では、金属電極上に撥水膜を直接形成した。また、第1の電極膜には、厚さ200nmの酸化インジウム膜を用いた。ノズル内壁の中心線平均粗さは0.08μm程度であった。
ヘッドの液体の吐出特性とノズル内への液体の入りやすさは実施例1と同等であった。ただし、第1の電極膜と第2の電極膜との間に印加する電圧が1Vでも、圧力室内の液体はノズル内に充填された。実施例1に比べて低い電圧で液体が充填できたのは、本実施例の撥水膜は絶縁膜の役割を担い、その厚みは1nm程度であるので、式(1)において容量Cが大きくなり、小さな電圧で所望のエレクトロウェッティング現象が生じるためである。
(実施例5)
実施例5では、第1の電極膜の材料を変えたこと、および絶縁膜63および74を形成しなかったことを除き、実施例2と同様に液体吐出ヘッドを作製し評価した。実施例5では、金属電極上に撥水膜を直接形成した。また、第1の電極膜には、厚さ200nmの酸化インジウム膜を用いた。ノズル内壁の中心線平均粗さは0.08μm程度であった。
ヘッドの液体の吐出特性とノズル内への液体の入りやすさは実施例1と同等であった。ただし、第1の電極膜と第2の電極膜との間に印加する電圧が1Vでも、圧力室内の液体はノズル内に充填された。実施例2に比べて低い電圧で液体が充填できたのは、本実施例の撥水膜は絶縁膜の役割を担い、その厚みは1nm程度であるので、式(1)において容量Cが大きくなり、小さな電圧で所望のエレクトロウェッティング現象が生じるためである。
(実施例6)
実施例6では、第1の電極膜の材料を変えたこと、および絶縁膜63および74を形成しなかったことを除き、実施例3と同様に液体吐出ヘッドを作製し評価した。実施例6では、金属電極上に撥水膜を直接形成した。また、第1の電極膜には、厚さ200nmの酸化インジウム膜を用いた。ノズル内壁の中心線平均粗さは0.002〜0.05μm程度であった。
ヘッドの液体の吐出特性とノズル内への液体の入りやすさは実施例1と同等であった。ただし、第1の電極膜と第2の電極膜との間に印加する電圧が5Vでも、圧力室内の液体はノズル内に充填された。実施例3に比べて低い電圧で液体が充填できたのは、本実施例の撥水膜は絶縁膜の役割を担い、その厚さは0.2μm程度であるので、式(1)において容量Cが大きくなり、小さな電圧で所望のエレクトロウェッティング現象が生じるためである。
(実施例7)
実施例7では、撥水膜および第1の電極膜の材料を変えたこと、ならびに絶縁膜63および74を形成しなかったことを除き、実施例1と同様に液体吐出ヘッドを作製し評価した。実施例7では、金属電極上に撥水膜を直接形成した。また、第1の電極膜には、厚さ200nmの銅薄膜を用いた。撥水膜には、(2−パーフルオロオクチル)エチルメルカプタン(CF3(CF2724SH)の単分子膜を用いた。図12に、銅薄膜121に吸着した、実施例7の単分子膜122(撥水膜)を模式的に示す。この膜の表面エネルギーは0.017N/mで、厚さは1nm程度である。ノズル内壁の中心線平均粗さは0.08μm程度であった。
ヘッドの液体の吐出特性とノズル内への液体の入りやすさは実施例1と同等であった。ただし、第1の電極膜と第2の電極膜との間に印加する電圧が1Vでも、圧力室内の液体はノズル内に充填された。実施例3に比べて低い電圧で液体が充填できたのは、本実施例の撥水膜は絶縁膜の役割を担い、その厚さは1nm程度であるので、式(1)において容量Cが大きくなり、小さな電圧で所望のエレクトロウェッティング現象が生じるためである。
(2−パーフルオロオクチル)エチルメルカプタンが1体積%程度の濃度で溶解されたエタノール溶液に銅膜をさらすと、即座に銅膜上に単分子膜が形成される。従って、ヘッドを長い間使用しているうちに何らかの原因で撥水膜がはがれた場合、図10で示したように、吸引治具を用いて、液体供給孔13から(2−パーフルオロオクチル)エチルメルカプタンが溶解したエタノール溶液を導入してノズル内に充填することによって、ノズル内壁に簡単に撥水膜を形成できる。このため、このヘッドでは、撥水膜の修復が容易である。
(実施例8)
実施例8では、ペルチェ素子を用いる液体吐出ヘッドを作製して評価した。実施例8で作製した吐出ヘッド130の分解斜視図を図13に模式的に示す。ヘッドの基本構造、およびノズルや圧力室の大きさは実施例1のヘッドと同じである。実施例1のヘッドと異なる点は、第1および第2の電極膜および絶縁膜が無く、その代わりに、ペルチェ素子131および132が加わっている点である。ペルチェ素子131および132上には、それぞれ、撥水膜133および134が配置されている。ペルチェ素子131および132の構成を図14に模式的に示す。
ペルチェ素子131は、n型半導体141とp型半導体142と電極143、144および145とによって構成した。ペルチェ素子132は、n型半導体146およびp型半導体147と、電極148、149および150とによって構成した。電極には白金薄膜を用いた。n型半導体およびp型半導体は、それぞれ、Sb2Te3に所定の不純物をドーピングすることによって形成した。すべての部材の膜厚は、500nmとした。
n型半導体からp型半導体の方向(電極143および148から電極145および150の方向)に向かって電流が流れるときには、電極144および149が冷却され、逆方向に流れるときは暖められる。電極144および149は、共にノズルの内壁を形成しているので、流す電流の大きさと方向によってノズル内壁の温度(撥水膜の温度)を調整できる。
吐出ヘッド130の撥水膜133および144には、実施例3で説明したゾル−ゲル法で作製した撥水膜を用いている。ノズル内壁の中心線平均粗さは、0.002〜0.05μm程度であった。
(吐出ヘッドの製造方法)
以下に、本実施例の吐出ヘッドの作製方法について説明する。
(1)下部基体側部分の作製
実施例8では、大きさが10cm×10cmで、厚さが100μmのシリコン基板の一部を加工して下部基体を作製した。このとき、下部基体のノズル先端部がシリコン基板の端面となるようにした。
図15(A)〜(K)に、下部基体側部分の製造工程の上面図を模式的に示す。まず、(A)に示すように、スパッタリング法によってn型Sb2Te3薄膜とp型Sb2Te3薄膜を形成した後、フォトリソグラフィー法によってパターニングした。これによって、下部基体61上に、n型半導体141とp型半導体142とを形成した。
次に、(B)に示すように、厚さ100nmの白金薄膜を真空スパッタリング法で形成した後、フォトリソグラフィー法によってパターンニングして、電極143および145と、電極144の一部とを形成した。その後、(C)に示すように、ネガレジストのパターン151を形成した後、ドライエッチングによってレジストの無い領域を2μmだけエッチングし、溝部61cを含む凹部を形成した。その後、(D)に示すように、さらにノズル部分にもレジスト膜152を形成し、圧力室および液体供給孔の部分をさらにエッチングしてその深さを50μmにし、凹部61aおよび溝部61bを形成した。
次に、(E)に示すように、レジストを剥離せずに、その上に厚さ50nmの酸化シリコン薄膜153を真空スパッタリング法で形成した。その後、レジストを剥離し、凹部61aおよび溝部61bの上に酸化シリコン膜153を形成した。その結果、(F)に示す構造体を形成できた。次に、(G)に示すように、ノズル部分を除いて下部基体全体を覆うポジ型レジストパターン154を形成した。その後、(H)に示すように、厚さ100nmの白金薄膜155を真空蒸スパッタリング法で形成した。
次に、(I)で示すように、実施例3で示した方法で撥水膜156を形成した。ただし、焼成温度は150℃とした。その後、基体をアセトン中で超音波洗浄することによってレジストを剥離し、(J)に示すように撥水膜133を形成した。最後に、凸版印刷法で、アクリル系接着剤157(厚さ200nm)を形成した。このようにして、図15(K)に示される下部基体側の構造体を形成した。
(2)上部基体側部分および吐出ヘッドの作製
大きさが10cm×10cmで厚さが100μmのシリコン基板の一部を加工して上部基体を作製した。このとき、上部基体のノズル先端部がシリコン基板の端面となるようにした。
図16(A)〜(D)に、上部基体側部分の製造方法および吐出ヘッドの製造方法の工程断面図を模式的に示す。
シリコン基板161上に、白金薄膜162(厚さ200nm)、PZT薄膜163(厚さ3μm)とを真空スパッタリング法によって順に形成した。さらに、電子線蒸着法によって、上部基体71(振動板)となる厚さ3μmの銅薄膜を形成し、その上に、酸化シリコン膜164(厚さ100nm)を真空スパッタリング法によって形成した。
次に、下部基体側部分の製造時と同様の方法によって、n型半導体151およびp型半導体152と、電極153、154および155とを形成した。最後に、下部基体側部分の製造時と同様の方法で、ノズル部分に撥水膜134を形成した。図16(A)に、上記方法によって形成した基体の断面模式図を示す。
次に、(B)および(C)に示すように、形成した上部基体側部分と下部基体側部分の位置を合わせ、両基体を一定の力で密着させながら200℃で1時間加熱した。その後、約20分かけてゆっくり室温に戻すことで、両基体を接着した。次に、(D)に示すように、シリコン基板161を除去したのち、白金薄膜162とPZT薄膜163とをドライエッチング法でパターニングすることによって、圧電素子76を形成した。
(特性の評価)
上記方法で得られた吐出ヘッドの特性の評価を行った。ヘッドへの液体の導入法は実施例1と基本的には同じである。ただし、吸引治具による圧力室への液体導入後、ノズル内への液体導入は、ペルチェ素子によってノズル内壁の温度を−5℃に下げた状態で行った。ノズル壁面の温度が低下するとその表面エネルギーが上昇する(壁面が親水性になる)ので、毛管現象によって液体がノズル内に侵入する。その後、吸引治具をノズル孔のある面からはずし、ペルチェ素子に流す電流を止め、その直後に圧電素子に所定の周波数の電圧を印加して液滴の吐出状態を調べた。
また、上記の方法でノズル先端に液体を充填し、1000kHzの周波数で液滴を300秒間吐出した後、吐出を所定の時間休止し、再び圧電素子に印加して液体が吐出されるかどうかを調べた。休止後に吐出されない場合、ペルチェ素子に電流を流してノズル内壁を−5℃にした後、ペルチェ素子の電流を止めて再び圧電素子に電圧を印加し、液体の吐出状態を観測した。
表3に吐出周波数と液滴の吐出状態との関係を示す。表4に、吐出休止後に再度圧電素子に電圧を印加した場合の液滴の吐出状態を示す。
Figure 2006312146
Figure 2006312146
表3に示されるように、本実施例のヘッドを用いることによって、直径1.5μmの微小液滴を10kHz以上の高周波数でも吐出できた。
また、表4に示されるように、ノズル内壁の温度を下げない場合、吐出休止時間が1秒以内では再び圧電素子に電圧を印加すれば液体は吐出されるが、吐出休止時間が10秒以上であると液体が吐出されなかった。これは、休止時間が1秒以内の場合はノズル先端まで満たされていた液体が圧力室まで後退することはないが、10秒以上ではノズル先端まで満たされていた液体が圧力室まで後退し、ノズル先端に液体が無い状態になったためである。一方、10秒以上休止後であっても、ペルチェ素子に電流を流したのち、圧電素子に電圧を印加すると、再び安定に吐出した。これは、ペルチェ素子によってノズル内壁の温度が低下してその表面の表面エネルギーが増大し、毛管現象によってノズル内に液体が充填されたためである。
以上のように、本実施例のヘッドを用いることで、直径1.5μmの微小液滴を10kHz以上の高周波数で吐出できた。本発明の吐出ヘッドでは、ペルチェ素子を利用することによって、圧力室内の液体を効率よくノズル先端部に充填することが可能であった。
本発明の液体吐出ヘッドおよび液体吐出方法は、液体を所定の位置に配置する装置に適用できる。たとえば、有機半導体素子、実装回路基板、大型ディスプレイ用画素、DNAチップなどを、製造するための装置に適用することが可能である。
本発明の液体吐出ヘッドの一例を示す模式図。 図1に示した液体吐出ヘッドの断面を示す模式図。 図1に示した液体吐出ヘッドの動作を示す模式図。 本発明の液体吐出ヘッドの他の一例の断面を示す模式図。 本発明の液体吐出ヘッドの一例の構成を示す模式図。 本発明の液体吐出ヘッドのその他の一例を模式的に示す分解図。 本発明の液体吐出ヘッドで用いられる撥水膜の一例を示す模式図。 図6に示した液体吐出ヘッドの下部基体側部分の製造工程を模式的に示す上面図。 図6に示した液体吐出ヘッドの上部基体側部分および液体吐出ヘッドの製造工程を模式的に示す断面図。 本発明の液体吐出ヘッドに液体を充填する方法を示す模式図。 液体を吐出するために圧電素子に加える電圧のパターンの一例を示す図。 本発明の液体吐出ヘッドで用いられる撥水膜の他の一例を示す模式図。 本発明の液体吐出ヘッドのその他の一例を模式的に示す分解図。 図13に示した液体吐出ヘッドのペルチェ素子の構造を示す模式図。 図13に示した液体吐出ヘッドの下部基体側部分の製造工程を模式的に示す上面図。 図13に示した液体吐出ヘッドの上部基体側部分および液体吐出ヘッドの製造工程を模式的に示す断面図。 ノズル内の液体の状態を示した断面模式図 エレクトロウェッティング現象を説明する模式図。 ノズル内の液体の流れを示す模式図。
符号の説明
10、40 吐出ヘッド
11、41 ノズル
11a、41a ノズル本体
11h 吐出口
12 圧力室
13 液体供給孔
14 圧力発生器(変形手段)
15 制御装置(変形手段)
21、62、72 第1の電極膜
22 絶縁膜
23、64、75、133、134 撥水膜
24、73 第2の電極膜
25 電圧印加装置(表面状態制御手段)
30 液体
42、131、132 ペルチェ素子

Claims (12)

  1. 液体が充填される圧力室と、前記圧力室に接続され前記液体が吐出されるノズルと、前記圧力室を変形させて前記圧力室の容積を変化させるための変形手段とを含む吐出ヘッドであって、
    前記ノズルの内径が10μm以下であり、
    前記ノズルの内壁の少なくとも一部の表面状態を、前記液体の接触角が90°未満である状態と、前記液体の接触角が90°以上である状態との間で可逆的に変化させるための表面状態制御手段とを含む液体吐出ヘッド。
  2. 前記圧力室の内壁に対する前記液体の接触角が90°未満である請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
  3. 前記液体の吐出方向に垂直な方向における前記圧力室の内部サイズが20μm以上である請求項1または2に記載の液体吐出ヘッド。
  4. 前記ノズルの内壁の中心線平均粗さが0.3μm以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
  5. 前記表面状態制御手段は、エレクトロウェッティング現象を用いて前記表面状態を変化させる請求項1〜4のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
  6. 前記ノズルは、貫通孔が形成されたノズル本体と、前記貫通孔の壁面上に前記ノズル本体側から順に積層された第1の電極膜および撥水膜とを含み、
    前記圧力室の内壁には第2の電極膜が形成されており、
    前記表面状態制御手段は、前記第1の電極膜と前記第2の電極膜とに電圧を印加する電圧印加手段を含む請求項5に記載の液体吐出ヘッド。
  7. 前記ノズルは、貫通孔が形成されたノズル本体と、前記貫通孔の壁面上に前記ノズル本体側から順に積層されたペルチェ素子および撥水膜とを含み、
    前記表面状態制御手段は、前記ペルチェ素子を制御するための制御手段を含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
  8. 前記変形手段が圧電体を含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
  9. 前記液体が前記ノズル内で分断されない請求項1〜8のいずれか1項に記載の吐出ヘッド。
  10. 液体が充填される圧力室と、前記圧力室に接続され前記液体が吐出されるノズルと、前記圧力室を変形させて前記圧力室の容積を変化させるための変形手段とを含む吐出ヘッドを用いて液体を吐出するための方法であって、
    前記ノズルの内壁の少なくとも一部の表面に対する前記液体の接触角を90°未満とした状態で前記液体を前記ノズルに充填し、
    前記表面に対する前記液体の接触角を90°以上とした状態で前記圧力室の容積を変化させることによって前記ノズルから前記液体を吐出する液体吐出方法。
  11. エレクトロウェッティング現象を用いて前記液体の接触角を変化させる請求項10に記載の液体吐出方法。
  12. 前記ノズルの内壁には撥水膜が形成されており、
    前記ノズルの内壁の温度を変化させることによって前記液体の接触角を変化させる請求項10に記載の液体吐出方法。
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