〔前提技術〕
先ず、本発明の前提技術について、図面を参照して以下に説明する。
本発明の前提技術における静電吸引型流体吐出装置は、そのノズル径をφ0.01μm〜25μmとしており、かつ、1000V以下の駆動電圧にて吐出流体の吐出制御を可能としている。
ここで、従来のインク吐出モデルにおいては、ノズル径の減少は駆動電圧の上昇に繋がるため、50μm〜70μm以下のノズル径では、吐出インクに背圧を与える等の他の工夫を行わない限り、1000V以下の駆動電圧でのインク吐出は不可能と考えられていた。しかしながら、本願発明者らは、あるノズル径以下では、従来のインク吐出モデルとは異なる吐出モデルでの吐出現象が起こることを突き止めた。本前提技術は、このインク吐出モデルにおける新たな知見に基づいている。
先ずは、本願の前提技術において究明されたインク吐出モデルについて説明する。
図16に示すように、直径d(以下の説明においては、特に断らない限りノズル孔の内径を示す。)のノズルに導電性インクを注入し、そのノズルを無限平板導体からノズル先端までがhの高さになるように垂直に位置させたと仮定する。このとき、ノズル先端(ノズル孔:流体吐出孔)に誘起される電荷Qは、ノズル先端の吐出流体によって形成される半球部に集中すると仮定し、以下の式で近似的に表される。
ここで、Q:ノズル先端に誘起される電荷(C)、ε0:真空の誘電率(F/m)、d:ノズル径(直径)(m)、V0:ノズルに印加する総電圧である。また、αは、ノズル形状等に依存する比例定数であり、1〜1.5程度の値を取るが、特にd<<h(h:ノズル(ノズル孔)−基板間距離(m))の時は略1となる。
また、吐出先基板として導電基板を用いた場合、ノズルと対向して吐出先基板内の対称位置に、上記電荷Qとは反対の極性を持つ鏡像電荷Q’が誘導されると考えられる。これを鏡像力とする。吐出先基板が絶縁体の場合は、誘電率によって定まる対称位置に、同様に、電荷Qとは逆極性の映像電荷Q’が誘導される。
ノズル先端部における集中電界強度Elocは、先端部の曲率半径をRと仮定すると、
で与えられる。ここで、kは、ノズル形状等に依存する比例定数であり、1.5〜8.5程度の値を取るが、多くの場合、5程度と考えられる(P.J. Birdseye and D.A. Smith, Surface Science, 23(1970), p.198-210)。また、ここでは、インク吐出モデルを簡単にするため、R=d/2と仮定する。これは、ノズル先端部において表面張力によって導電性インクがノズル径dと同じ曲率径を持つ半球形状に盛り上がっている状態に相当する。
次に、ノズル先端の吐出流体に働く圧力のバランスを考える。まず、静電的な圧力Peは、ノズル先端部の液面積、すなわちノズル先端孔の開口面積をSとすると、
となる。(5)〜(7)式より、圧力Peは、α=1とおいて、
と表される。
一方、ノズル先端部における吐出流体の表面張力による圧力Psとすると、
となる。ここで、γ:表面張力である。静電的な力により吐出が起こる条件は、静電的な力が表面張力を上回ることなので、静電的な圧力Peと表面張力による圧力Psとの関係は、
となる。
図17に、或る直径dのノズルを与えた時の、表面張力による圧力Psと静電的な圧力Peとの関係を示す。吐出流体の表面張力としては、吐出流体が水(γ=72mN/m)の場合を仮定している。ノズルに印加する電圧を700Vとした場合、ノズル直径dが25μmにおいて静電的な圧力Peが表面張力による圧力Psを上回ることが示唆される。このことより、電圧V0とノズル直径dとの関係を求めると、
が吐出の最低電圧を与える。
また、その時の吐出圧力ΔPは、
より、
となる。
あるノズル直径dのノズルに対し、局所的な電界強度によって吐出条件を満たす場合の吐出圧力ΔPの依存性を図18に示すと共に、吐出臨界電圧(すなわち吐出の生じる最低電圧)VCの依存性を図19に示す。
図19から、局所的な電界強度によって吐出条件を満たす場合(V0=700V,γ=72mN/mと仮定した場合)のノズル径の上限が25μmであることが分かる。
図20の計算では、吐出流体として水(γ=72mN/m)及び有機溶剤(γ=20mN/m)を想定し、k=5の条件を仮定した。この図より、微細ノズルによる電界の集中効果を考慮すると、吐出臨界電圧VCはノズル径の減少に伴い低下することが明らかであり、吐出流体が水の場合においてノズル径が25μmの場合、吐出臨界電圧Vcは700V程度であることが分かる。
従来の吐出モデルにおける電界の考え方、すなわちノズルに印加する電圧V0とノズル−対向電極間距離hとによって定義される電界のみを考慮した場合では、ノズル径が微小になるに従い、吐出に必要な駆動電圧は増加する。
これに対し、本前提技術において提案する新たな吐出モデルのように、局所電界強度に注目すれば、微細ノズル化により吐出における駆動電圧の低下が可能となる。このような駆動電圧の低下は、装置の小型化及びノズルの高密度化において極めて有利となる。もちろん、駆動電圧を低下させることで、コストメリットの高い低電圧駆動ドライバの使用をも可能にする。
さらに、上記吐出モデルでは、吐出に必要な電界強度は、局所的な集中電界強度に依存することになるため、対向電極の存在が必須とならない。すなわち、従来の吐出モデルでは、ノズル−吐出先基板間に電界を印加するため、絶縁体の吐出先基板に対してはノズルと反対側に対向電極を配置するか、又は吐出先基板を導電性とする必要があった。そして、対向電極を配置する場合、すなわち吐出先基板が絶縁体の場合では、使用できる基板の厚さに限界があった。
これに対し、本前提技術の吐出モデルでは、対向電極を要さずに絶縁性の吐出先基板等に対しても印字を行うことが可能となり、装置構成の自由度が増す。また、厚い絶縁体に対しても印字を行うことが可能となる。なお、ノズルから吐出される液体は帯電しているので、この液体と吐出先基板との間には鏡像力が働く。この鏡像力の大きさと吐出先基板からのノズルの距離hとの相関を図20に示す。
次に、上記吐出流量の精密制御について考えて見る。円筒状の流路における流量Qは、粘性流の場合、以下のハーゲン・ポアズイユの式によって表される。いま、円筒形のノズルを仮定し、このノズルを流れる流体の流量Qは、次式で表される。
ここで、η:流体の粘性係数(Pa・s)、L:流路すなわちノズルの長さ(m)、d:流路すなわちノズルの径(m)、△P:圧力差(Pa)である。
上式より、流量Qは、流路の半径の4乗に比例するため、流量を制限するためには、微細なノズルの採用が効果的である。この(14)式に、(13)式で求めた吐出圧力△Pを代入し、次式を得る。
この式は、直径d、長さLのノズルに電圧Vを引加した際に、ノズルから流出する流体の流出量を表している。この様子を、図21に示す。計算にはL=10mm、η=1(mPa・s)、γ=72(mN/m)の値を用いた。いま、ノズル径dを先行技術の最小値50μmと仮定する。電圧Vを徐々に印加していくと、電圧V=1000Vで吐出が開始する。この電圧は、図19でも述べた吐出開始電圧に相当する。そのときのノズルからの流量がY軸に示されている。吐出開始電圧Vc直上で流量は急速に立ち上がっている。このモデル計算上では、電圧をVcよりも少し上で精密に制御することによって微小流量が得られそうに思えるが、片対数で示される図からも予想されるように、実際上それは不可能であり、特に10-10m3/sec以下、微小量の実現は困難である。また、ある径のノズルを採用した場合には、(11)式で与えられたように、最小駆動電圧が決まってしまう。このため、先行技術のように、直径50μm以上のノズルを用いる限り、10-10m3/sec以下の微小吐出量や、1000V以下の駆動電圧にすることは困難である。
図から分かるように、直径25μmのノズルの場合、700V以下の駆動電圧で充分であり、直径10μmのノズルの場合、500V以下でも制御可能である。また、直径1μmのノズルの場合300V以下でも良いことが分かる。
以上の考察は、連続流を考えた場合であるが、ドットを形成するためには、スイッチングの必要性がある。次にそれに関して述べる。
静電吸引による吐出は、ノズル端部における流体の帯電が基本である。帯電の速度は誘電緩和によって決まる時定数程度と考えられる。
ここで、ε:流体の比誘電率、σ:流体の導電率(S/m)である。流体の比誘電率を10、導電率を10-6S/mを仮定すると、τ=1.854×10-5secとなる。或いは、臨界周波数をfCとすると、
となる。この臨界周波数fCよりも早い周波数の電界の変化に対しては、応答できず吐出は不可能になると考えられる。上記の例について計算すると、周波数としては10kHz程度となる。
次に、ノズル内における表面張力の低下について考える。電極の上に絶縁体を配置し、その上に滴下した液体と電極との間に電圧を印加すると、液体と絶縁体との接触面積が増す、すなわちぬれ性がよくなることが見出される。この現象は、エレクトロウェッティング(Electro‐wetting)現象と呼ばれている。この効果は、円筒形のキャピラリー形状においても成り立ち、エレクトロキャピラリー(Electro‐capillary)と呼ばれることもある。エレクトロウェッティング効果による圧力と、印加電圧、キャピラリーの形状、溶液の物性値との間に以下の関係がある。
ここで、ε0:真空の誘電率、εr:絶縁体の誘電率、t:絶縁体の厚さ、d:キャピラリーの内径である。流体として、水を考えてこの値を計算してみると、上述の特許文献1の実施例の場合を計算してみると、高々30000Pa(0.3気圧)にすぎないが、本前提技術の場合、ノズルの外側に電極を設けることにより30気圧相当の効果が得られることがわかった。これにより、微細ノズルを用いた場合でもノズル先端部への流体の供給は、この効果により速やかに行われる。この効果は、絶縁体の誘電率が高いほど、またその厚さが薄いほど顕著になる。エレクトロキャピラリー効果を得るためには、厳密には絶縁体を介して電極を設置する必要があるが、十分な絶縁体に十分な電場がかかる場合、同様の効果が得られる。
以上の議論において、注意すべき点は、これらの近似理論は従来のように電界強度として、ノズルに印加する電圧V0と、ノズルと対向電極との間の距離hとで決まる電界ではなく、ノズル先端における局所的な集中電界強度に基づいている。また、本前提技術において重要なのは、局所的な強電界、及び流体を供給する流路が非常に小さなコンダクタンスを持つことである。そして、流体自身が微小面積において十分に帯電することである。帯電した微小流体は、基板等の誘電体又は導体を近づけると、鏡像力が働き吐出先基板に対し直角に飛翔する。このために、後述する実施の形態では、ノズルは作成の容易さからガラスキャピラリーを使っているが、これに限定されるものではない。
〔実施の形態1〕
以下の実施の形態においては、超微細ノズルから静電力によって超微細液体を吐出させる場合におけるノズルの駆動条件について究明した結果について説明する。
静電吸引型流体吐出装置においては、前述の前提技術にて説明したように、ノズル孔の直径(ノズル径)をφ0.01μm〜25μmの範囲とすることにより、ノズル孔径の微細化と駆動電圧の低電圧化との両立が可能である。
また、ノズルからの吐出流体となる液体の吐出量は、ノズルと吐出先基板との間の電位差やノズルと吐出先基板との間の距離、すなわちギャップによって制御することができる。基本的には、電位差が大きいほど、またギャップが小さいほど、ノズル先端の電界強度を大きくすることができるため、その吐出量を制御することが容易となる。
しかしながら、上記のような静電吸引型流体吐出方法には、次のような問題点がある。
すなわち、絶縁性の吐出先基板に対して液体の吐出を行った場合、DCバイアスや片側極性のパルス電圧等、+又は−の片側極性のバイアスを駆動電圧としてノズルに印加した場合、吐出流体体中の電荷や、駆動電極から発生した電荷の気中放電によって吐出先基板が帯電し、その表面電位が上昇する。そして、この表面電位上昇の影響により、吐出駆動力となるノズル(ノズル内部の駆動電極)と吐出先基板との間の電位差が不安定となり吐出不良が発生する。
この結果、片側極性のバイアスを使用して安定吐出を行うためには、上記電位差を確保するために、ノズルの駆動電極にさらに高いバイアスを与える必要があり、ノズルの低電圧駆動が困難となる。実際に、DCバイアスによる吐出最低電圧は、図12に示すように、吐出先基板として表面抵抗値が1015Ω/sqのポリイミドを使用した場合の方が、吐出先基板として表面抵抗値が1010Ω/sqのガラス基板又は導電体のSUS基板を使用した場合よりも高くなり、前者の方が吐出特性において劣っている。
そこで、このような吐出最低電圧の上昇を抑制するために、ノズルの駆動電圧として両極性電圧を使用するのが好ましい。図13のように両極性電圧を用いた場合、DCバイアスを使用する場合と比較して、吐出最低電圧が低下することがわかる。これは、吐出先基板への着弾液滴の帯電電荷が正負交互となり、吐出先基板上へは順次逆極性の電荷が滴下されるため、吐出先基板での帯電を抑制しながら吐出が行われることによる。このように、ノズルの駆動電圧として両極性電圧を使用することは、ノズルからの吐出安定性を高める上で有効である。なお、ここでは両極性電圧として両極性パルス電圧を使用しているが、これに限るものではなく、例えば正弦波電圧でも同様の効果を得られる。
ところが、ノズルの駆動電圧として両極性電圧を使用した場合であっても、図14に示すように、吐出先基板への描画パターン形成時に、描画パターンの周辺に微小な液滴の飛散が発生し、描画パターンが乱れる事態を招来する。
これについて、以下に説明する。図8(a)には電荷蓄積量測定装置の概略構成図を、 図9、図10には各種絶縁性基板の表面電位の減衰挙動を示している。図10は図9のガラス基板の単位時間当たりの表面電位減衰量を1/200にしたものである。
図8(a)に示す電荷蓄積量測定装置では、ノズル11とステージ12とが対向配置されている。すなわち、ノズル11は先端部が下方を向くように配置され、ノズル11の下方にステージ12が水平に設けられている。ステージ12は図示しない駆動装置に駆動されて任意の方向へ移動可能となっている。
ノズル11内には駆動電極13が設けられ、この駆動電極13には電源(駆動電圧印加手段)14が接続されている。また、ノズル11内には液体からなる吐出流体15の乾燥・固化物が充填されており、ノズルが放電破損しない範囲での電圧印加状態では吐出流体15がノズル11から吐出されない状態となっている。
ステージ12上には吐出流体15の吐出先である吐出先基板としての絶縁性基板16が固定される。ステージ12は接地されており、したがって、絶縁性基板16はステージ12を通じて接地される。さらには、ステージ12の上方に基板の表面電位測定装置17のプローブ18が配置されている。
本比較例においては、ノズル11としてガラスキャピラリー(先端径2μm)を、吐出流体15として銀ペーストを、絶縁性基板16としてガラス(52mm×52mm,厚さ7mm)上にポリイミドを塗布・焼成したもの(ポリイミドコート基板)を、表面電位測定装置17として表面電位計(商品名:MODEL344,TREK社製)を使用した。
次に、電荷蓄積量の測定方法について説明する。表面電位計と基板とのギャップを測定し、表面電位計の測定領域を算出する。上記のギャップ測定手段としては、レーザを利用した変位計或いはレーザを利用したギャップ測長計が利用される。表面電位計、及びノズルは図示しない保持部材により、その相対距離が変動しないように固定される。
次に、図8(b)に示すように、ステージを図示しない移動手段により動作させ、絶縁体基板上で表面電位が0Vとなる位置を探し、表面電位測定領域19を決定する。その後、図8(c)に示すように、ノズルに電圧を印加し、表面電位測定領域19全域がノズル11先端直下を通過するようにステージ12を移動させる。その後、図8(d)に示すように、表面電位測定領域19が電圧印加前の位置に戻るようにステージ12を移動させ、表面電位を測定する。
なお、本比較例にて説明した電荷蓄積量の測定方法については、電圧印加から表面電位測定までに時間がかかるため、測定までの時間における表面電位の減衰が危惧されるが、図9に示すように、本比較例で使用したポリイミドコート基板においては約1時間以上表面電位の減衰がほとんどないことから、本比較例の測定方法は効果的である。
一方、ガラス基板のように、電荷付与後数分以内に表面電位が0Vになる基板も存在する。これは表面抵抗値の差に起因する。本実施例の条件では、ガラス基板の表面抵抗値に比べポリイミドコート基板との表面抵抗値が約200倍高く、そのために表面電位の減衰が遅い。これは、図10に示すように、ガラス基板の単位時間当たりの表面電位減衰量を1/200にすると減衰挙動がポリイミドコート基板と非常によくあっていることからもわかる。このことから、他の絶縁性基板を用いた場合においても、表面抵抗値を測定し、補正を行うことにより、表面電位減衰前の初期付与電位を見積もることができる。
図11は駆動電極に印加する印加電圧と電荷蓄積量(表面電位)の関係を示している。
本比較例では、印加電圧はDCのバイアス電圧を用いている。図11から、正電圧印加時における電荷蓄積量と負電圧印加時における電荷蓄積量が異なることがわかる。このことから、例えば駆動電極に正負同振幅の両極性パルスをDuty比50で印加し、本比較例で使用した絶縁性基板に吐出流体を吐出させた場合、絶縁性基板表面が負に帯電、表面電位が上昇し、結果としてDCバイアスを印加した場合と同様に、吐出駆動力となるノズル(ノズル内部の駆動電極)と吐出先基板との間の電位差が不安定となり吐出不良が発生する。
さらには、図15(a)に示すように、ノズルの駆動電圧として周波数の低いパルス電圧を使用し、このパルス電圧の正極性パルスにてノズルからの吐出が行われる構成の場合、吐出先基板である絶縁性基板16上には正電荷を有する液体が連続的に吐出される。このとき、図15(b)に示すように、先に滴下されている液体上に後から液体が滴下されると、両液体は同極性に帯電しているために絶縁性基板16上において反発し合い、例えば後から滴下された液体がさらに微細な液滴となって絶縁性基板16上に飛び散ることになる。
上記のような微細液滴の飛散は、例えば、吐出流体を導電性材料として絶縁性基板16上に配線パターンを描画した場合に、基板の電気特性に悪影響を及ぼすことになる。
そこで、本実施の形態の静電吸引型流体吐出装置では、さらに、ノズルの駆動電圧として両極性パルス電圧を使用する構成において、吐出先基板上における吐出流体の飛散を抑制して、描画像の乱れの少ない鮮明な微細パターンを形成できるようにする。
以下、本実施の形態の静電吸引型流体吐出装置について詳細に説明する。
本実施の形態における静電吸引型流体吐出装置では、図2に示すように、液滴吐出ヘッドとなるノズル11とステージ12とが対向配置されている。すなわち、ノズル11は先端部が下方を向くように配置され、ノズル11の下方にステージ12が水平に設けられている。ノズル11は、図示しない駆動装置に駆動されて任意の方向へ移動可能となっている。例えば、ノズル11は、このノズル11を独立して移動させるための3次元ロボットに備え付けられている。なお、ノズル11とステージ12とは相対移動すればよく、したがって、ステージ12が駆動装置に駆動されて移動するものであってもよい。
上記ノズル11内には駆動電極13が設けられ、この駆動電極13には駆動電圧印加手段としての電源14が接続されている。また、ノズル11内には液体からなる流体としての吐出流体15が充填され、ステージ12上には吐出流体15の吐出先である絶縁性基板16が固定されている。上記ステージ12は接地されている。この結果、絶縁性基板16はステージ12を通じて接地されている。絶縁性基板16にはノズル11から吐出された吐出流体15により、例えば微細な配線パターンが形成される。
ノズル11は、超微細液体を吐出可能とするために、低コンダクタンスの流路がノズル11の近傍に設けられているか、又はノズル11自身が低コンダクタンスのものとなっている。このために、ノズル11は、ガラス製キャピラリーが好適であるが、導電性物質で作製したキャピラリーの表面を絶縁材でコーティングしたものでも可能である。ノズル11をガラス製とする理由は、容易に数μm程度のノズル孔を形成できること、ノズル孔の閉塞時にはノズル端を破砕することにより新しいノズル端を再生できること、ガラスノズルの場合、テーパー角がついているために、不要な溶液が表面張力によって上方へと移動し、ノズル端に滞留せず、ノズル詰まりの原因にならないこと、及びノズル11が適度な柔軟性を持つため、可動ノズルの形成が容易であること等による。
具体的には、芯入りガラス管(例えば、商品名:株式会社ナリシゲ製GD−1)を用い、キャピラリープラーにより作成することができる。芯入りガラス管を用いた場合には次のような利点がある。
(1)芯側ガラスがインクに対し濡れやすいために、インクの充填が容易になる。
(2)芯側ガラスが親水性で、外側ガラスが疎水的であるためにノズル端部において、インクの存在領域が芯側のガラスの内径程度に限られ、電界の集中効果がより顕著となる。(3)微細ノズル化が可能となる。
(4)十分な機械的強度が得られる。
ノズル径の下限値は、制作上の都合から0.01μmが好ましく、また、ノズル径の上限値は、図18に示すように、局所的な電界強度によって吐出条件を満たす場合のノズル径の上限が25μmであることから、25μmが好ましく、15μmがより好ましい。特に、局所的な電界集中効果をより効果的に利用するには、ノズル径は0.01μm〜8μmの範囲が望ましい。本実施の形態において、ノズル径はφ0.1μm〜φ20μmの範囲に設定している。
また、ノズル11は、キャピラリーチューブに限らず、微細加工により形成される2次元パターンノズルでもかまわない。ノズル11を成形性の良いガラスとした場合、ノズル11を電極として利用することはできないから、ノズル11内には、例えばタングステン線等の金属線を駆動電極13として挿入する。なお、ノズル11内にメッキにて駆動電極13を形成しても良い。また、ノズル11自体を導電性物質で形成した場合には、その表面に絶縁材をコーティングする。
また、駆動電極13は、ノズル11内に充填された液体である吐出流体15に浸されるように配置する。吐出流体15は、図示しない供給源から供給される。
電源14の動作は、例えばコンピュータからなる駆動電圧変調手段としての制御装置20により制御される。すなわち、制御装置20からの吐出信号が電源14に供給され、この吐出信号に応じて電源14から電圧が駆動電極13に印加される。ノズル11内の吐出流体15はこの電圧により帯電し、ノズル11から吐出される。
絶縁性基板16としては、表面抵抗値が1010Ω/sq以上のものであれば良く、ポリイミドやアクリル、ポリカーボネード等の高分子材料以外に、低湿度環境下のガラス等からなるものも上記範囲内に当てはまる。本実施例では、絶縁性基板16としてガラス(52mm×52mm、厚さ7mm)上にポリイミドを塗布・焼成したもの(ポリイミドコート基板)を使用した。
上記の構成において、まず、ノズル11からの微細液体の吐出原理について説明する。
この吐出原理は次のように考えられている。
静電吸引型流体吐出装置では、電源14から駆動電極13に駆動電圧が印加されることにより、駆動電極13から吐出流体15に電荷が供給される。この電荷は、ノズル11内部の吐出流体15を通じて、ノズル11の先端部に形成された、静電容量を有するメニスカス40に移動する。そして、静電吸引型流体吐出装置40の電荷量が所定量に達すると、ノズル11から絶縁性基板16への液体の吐出が行われる。
次に、静電吸引型流体吐出装置におけるノズル11から吐出流体15を吐出して絶縁性基板16に所望のパターンを形成する場合の動作について説明する。
ノズル11は、3次元ロボット等の駆動装置により、所望のパターニングデータに応じてX軸方向及びY軸方向に2次元駆動される。この際、ノズル11は、さらにノズル11の先端と絶縁性基板16との距離(ギャップ)が常に30〜200μmの範囲内となるように、Z軸方向の位置が制御される。上記のギャップ測定手段としては、レーザを利用した変位計又はレーザを利用したギャップ測長計が利用される。
ノズル11の上記移動に伴い、ノズル11の駆動電極13に対して電源14から駆動電圧としての両極性電圧が印加される。これにより、ノズル11内の吐出流体15においてノズル11の先端方向に向けて電荷の移動が始まる。そして、ノズル11の先端部において吐出流体15により形成されるメニスカス40に電荷が蓄積されてその周辺部の電界強度が上昇する。その後、電界強度がノズル11から吐出流体15を吐出させるための臨界点を超えると、ノズル11から吐出流体15が吐出され、絶縁性基板16上に着弾する。
この場合、ノズル11の駆動電圧として両極性電圧が駆動電極13に印加されているので、絶縁性基板16上に着弾する液体の極性は順次正負に反転する。吐出時間は両極性電圧の周波数に応じて変化し、この吐出時間、吐出電圧値に応じて、単位時間当たりに絶縁性基板16上に着弾する吐出流体15が持つ電荷量、及びノズルから放電される電荷量が変化する。
また、本実施の形態において、移動装置はステージ12を移動させるものとしているが、必ずしもこれに限らず、絶縁性基板16に描画するためにはステージ12(絶縁性基板16)とノズル11とが相対移動すればよく、したがって、移動装置はノズル11とステージ12との少なくとも一方を移動させるものであればよい。
次に、上記駆動電圧の印加方法について説明する。
静電吸引型流体吐出装置において、ノズル11から液体を吐出した場合、着弾した液体のもつ電荷の影響、電圧印加時にノズルから放電される電荷の影響で、絶縁性基板16上に駆動電圧印加時に駆動電極13から吐出流体15に供給された電荷と同極性の電荷が着弾部近傍に蓄積される。したがって、吐出前に比べ、絶縁性基板16とノズル11との間の電位差が低下し、ノズル−絶縁性基板間の電界強度が低下する。そのため、吐出前と同極性の電圧を印加し続けた場合、吐出に必要な電荷が蓄積されるまでの時間が長くなるばかりでなく、吐出された際に絶縁性基板16上に蓄積された電荷による反発電界の影響をうけ、吐出された液体が分裂し、飛散する。
したがって、絶縁性基板16上における液滴の飛散領域幅を最小限に抑制する上での理想的な状態は、図1に示すように、両極性電圧の正電圧と負電圧とで交互に吐出流体15を吐出することである。なお、両極性電圧の印加電圧値は、電荷蓄積量測定装置により測定した表面電位値を基に、各極性の印加電圧時間と印加バイアス電圧値との積を調整することにより、表面電位が略0Vに除電することができる。
本実施の形態においては、ノズル11としてガラスキャピラリー(先端径2μm)を、吐出流体15として銀ペーストを、絶縁性基板16としてガラス(52mm×52mm、厚さ7mm)上にポリイミドを塗布・焼成したもの(ポリイミドコート基板)を使用する。
これらを使用した際の電荷蓄積量は、図11に示した結果と同じである。このことから、本実施の形態の条件では、絶縁性基板16は負極性側に帯電し易いことがわかる。よって、印加時間と印加電圧値との積が正極性印加時の値が負極性印加時の値以上となるように両極性電圧を印加することにより、表面電位が略0Vに除電されることがわかる。
本実施の形態においては、図1に示すように、上記駆動電圧として振幅400V、+と−との電圧印加時間比を3:2のパルス電圧を用いることにより、絶縁性基板16の表面電位が略0Vに除電しながら所望のパターンを形成している。このように、絶縁性基板16の表面電位を除電しながら所望のパターンを形成することによって、絶縁性基板16上での液滴の飛散領域幅を抑制することができ、良好な描画像を安定して形成することができる。
すなわち、図11から表面電位が略0Vに除電できる印加電圧値を判断できる。この図11に関する実験について、以下に詳述する。
実験の目的は、電極に印加する印加電圧値に対し、基板表面がどの程度帯電するのかを測定することにより、絶縁性基板16の表面電位を略0Vに除電できる電圧印加条件を抽出することにある。絶縁性基板16の基板表面の帯電状況は表面電位を測定することにより評価する。
まず、ガラスから作製したノズル(先端径1μm)内に、吐出流体として銀ナノペーストを充填し、電極を挿入後、これを300℃で焼成し、実験用ノズルとする。このノズルを用いた場合、電圧を印加しても流体の吐出は行われない。このノズルに電圧を印加し、絶縁性基板16の一定エリアを一定時間で操作した後、そのエリアの表面電位を測定することによって、電圧印加により、ノズルから放電され、基板表面に蓄積される電荷量を測定することができる。なお、絶縁性基板16としてはポリイミドを用いている。図9からもわかるように、ポリイミドは非常に表面電位の減衰が小さい材料であるため、電荷の拡散の影響が殆どなく、絶縁性基板16に蓄積された電荷量を正確に測定できる。
図11はその測定結果であるが、このように、同振幅の電圧を印加しても、極性により帯電状況が異なることがわかる。具体的には、本実験条件(ノズル材:ガラス、先端径:φ1μm、吐出流体:銀ナノペースト、基板材:ポリイミド)では、+400V印加した際の表面電位値が+30Vであったのに対し、−400Vでは表面電位値は−45Vであった。印加電圧値が一定の場合、単位時間当たりの電荷蓄積量は一定と考えられるので、印加電圧の振幅値400Vにおける各極性の単位時間当たりの電荷蓄積量を比較すると、正極性電圧印加時に比べ、負極性電圧印加時は1.5倍になると考えられる。表面電位を略0Vに除電するには、正極性電圧の印加時間を負極性に比べ1.5倍にする必要がある。
以上のことから、駆動電圧として振幅400V、+と−の電圧印加時間比を3:2のパルス電圧を用いることにより、吐出先部材の表面電位が略0Vに除電しながら所望のパターンを形成できると考えられる。したがって、図11から印加電圧値に対する表面電位値を読み取り、正負の電荷が打ち消しあうような電圧印加時間を決定することができる。
なお、印加電圧の振幅値が同じであるにもかかわらず、負極性電圧を印加した場合の方が基板の表面電位の上昇値が大きいのは、以下のことが考えられる。
(1)正電圧印加時と負電圧印加時では、放電の種類が異なる。つまり、正電圧印加時はα放電(印加電圧値に比例)が、負電圧印加時はα放電+γ放電(印加電圧値の二乗に比例)が起こると考えられる。(この立場に立てば、材料を問わず常に吐出先基板は負極性側に帯電すると考えられる。)
(2)ノズル、吐出物、吐出先基板等の使用材料の物性により帯電しやすい極性が異なる。(本実験条件においては、負極性のほうが帯電し易い。)
しかしながら、いずれの場合においても、帯電状態が使用材料の物性(例えば吐出先部材の表面抵抗)により異なるため、その都度、図11に関する実験を行い、その結果から印加電圧値を決定することが好ましい。
以上のように、本実施の形態の静電吸引型流体吐出装置では、ノズル11の駆動電極13に印加する駆動電圧として両極性電圧を使用しているので、絶縁性基板16のチャージアップによる絶縁性基板16での液滴の飛散領域の拡大と駆動電圧の上昇とを抑制することができる。この結果、絶縁性基板16に対する微細パターンの形成を、ノズル11の低電圧駆動により、かつ鮮明に行うことができる。
なお、本実施の形態では、駆動電圧としての両極性電圧をノズル11の駆動電極13に印加するものとして説明したが、ノズル11からの吐出に必要な駆動電圧は駆動電極13に印加される電圧と対向電極として機能するステージ12との間の電位差である。したがって、駆動電圧は、ステージ12にのみ印加される電圧である構成、又はステージ12に印加される電圧と駆動電極13に印加される電圧との合成電圧(電位差)である構成であってもよい。
また、吐出方式においては、ノズルに印加する駆動電圧を一定として、ノズル先端のメニスカス隆起量を別のアクチュエーター(圧電素子による体積変化、サーマルの膜沸騰による体積変化等)により制御して吐出タイミングを制御するメニスカス制御法がある。前期メニスカス制御法は、メニスカス隆起量が小さいときは、液滴が、吐出されず、メニスカス隆起量が大きいときに電界がより集中し、液滴が吐出される原理となっている。
本実施の形態では、上記制御方法においても有効性で、メニスカス隆起タイミングと、本件記載の駆動電圧と同期を図ることで同様の効果を確認している。
また、駆動電圧である両極性電圧としては、正弦波等のようなスルーレートの低い波形であっても利用可能である。
〔実施の形態2〕
本発明の他の実施の形態について図3に基づいて説明すれば、以下の通りである。なお、本実施の形態において説明すること以外の構成は、前記実施の形態1と同じである。また、説明の便宜上、前記の実施の形態1の図面に示した部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
本実施の形態の静電吸引型流体吐出装置においても、図2に示した構成を有する。また、本実施の形態では、図3(a)(b)(c)に示す駆動方法を行う。
本実施の形態における条件で、本実施例の静電吸引型流体吐出装置を使用した際、ノズル11の駆動電極13に片極性のバイアス電圧を印加した場合の吐出先基板に蓄積される電荷(表面電位)との関係は、図11のようになる。
すなわち、片側極性のバイアス電圧を印加し続けると、吐出先基板の表面電位が上昇し、吐出前に比べ絶縁性基板16とノズル11との間の電位差が低下し、ノズル−絶縁性基板間の電界強度が低下する。そのため、吐出に必要な電荷が蓄積されるまでの時間が長くなるばかりでなく、吐出された際に絶縁性基板16上に蓄積された電荷による反発電界の影響を受け、吐出された液体が分裂し、飛散する。
したがって、絶縁性基板16上における液滴の飛散領域幅を抑制するには、両極性電圧の正電圧と負電圧とで交互に吐出流体15を吐出することが有効である。しかし、一方ででは、両極性電圧を同振幅で同時間印加しても、図11からわかるように、正電圧印加時と負電圧印加時とによって絶縁性基板16の電荷蓄積量が異なるため、絶縁性基板16は負極性側に帯電する。
そのため、本実施の形態では、図3(a)に示すように、駆動電圧として振幅375V、Duty比50の両極性パルス電圧に、図3(b)(c)に示すように、25Vのバイアス電圧を印加したものを使用している。これにより、絶縁性基板16が負極性側に帯電するのを防ぎ、絶縁性基板16の表面電位を略0Vに除電する。
また、振幅375V、Duty比50の両極性パルス電圧に25Vのバイアス電圧を印加することにより、負極性側の駆動電圧を低電圧化することができ、安全性も向上する。
以上のように、本実施の形態の静電吸引型流体吐出装置では、駆動電圧として両極性パルス電圧にバイアス電圧を印加したものを使用してノズル11を駆動することにより、駆動電圧を低電圧化し、さらには吐出最低電圧の上昇を抑制し、かつ絶縁性基板16上における液滴の飛散領域を狭くし、絶縁性基板16上において鮮明な微細パターンを形成することができる。
なお、本実施の形態では、駆動電圧としての両極性パルス電圧をノズル11の駆動電極13に印加するものとして説明したが、ノズル11からの吐出に必要な駆動電圧は駆動電極13に印加される電圧と対向電極として機能するステージ12との間の電位差である。
したがって、駆動電圧は、ステージ12にのみ印加される電圧である構成、或いはステージ12に印加される電圧と駆動電極13に印加される電圧との合成電圧(電位差)である構成であってもよい。
また、吐出方式においては、ノズルに印加する駆動電圧を一定として、ノズル先端のメニスカス隆起量を別のアクチュエーター(圧電素子による体積変化、サーマルの膜沸騰による体積変化等)により制御して吐出タイミングを制御するメニスカス制御法がある。前期メニスカス制御法は、メニスカス隆起量が小さいときは、液滴が、吐出されず、メニスカス隆起量が大きいときに電界がより集中し、液滴が吐出される原理となっている。
本実施の形態では、上記制御方法においても有効性で、メニスカス隆起タイミングと、本件記載の駆動電圧と同期を図ることによって、同様の効果を確認している。
また、駆動電圧である両極性電圧としては、正弦波等のようなスルーレートの低い波形であっても利用可能である。
〔実施の形態3〕
本発明のさらに他の実施の形態について図4に基づいて説明すれば、以下の通りである。なお、本実施の形態において説明すること以外の構成は、前記実施の形態1及び実施の形態2と同じである。また、説明の便宜上、前記の実施の形態1及び実施の形態2の図面に示した部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
本実施の形態の静電吸引型流体吐出装置は、図2に示した構成を有する。
本実施の形態では、図4に示すように、駆動電圧としてDuty比の異なる両極性電圧にバイアス電圧を印加したものを使用している。これにより、正電圧印加時と負電圧印加時に発生する電荷供給量の差に依存した絶縁性基板16の帯電の原因となる、駆動電圧の電圧印加条件をより詳細に設定することができ、絶縁性基板16のチャージアップをより効率良く防ぎ、絶縁性基板16の表面電位を略0Vに除電することができる。
また、負極性側の駆動電圧を低電圧化することができ、安全性も向上する。
以上のように、本実施の形態の静電吸引型流体吐出装置では、Duty比の異なる両極性電圧にバイアス電圧を印加したものを駆動電圧として使用することにより、絶縁性基板16上における液滴の飛散を抑制して、鮮明な微細パターンを形成することが可能となる。
なお、本実施の形態では、駆動電圧としての両極性パルス電圧をノズル11の駆動電極13に印加するものとして説明したが、ノズル11からの吐出に必要な駆動電圧は駆動電極13に印加される電圧と対向電極として機能するステージ12との間の電位差である。したがって、駆動電圧は、ステージ12にのみ印加される電圧である構成、或いはステージ12に印加される電圧と駆動電極13に印加される電圧との合成電圧(電位差)である構成であってもよい。
また、吐出方式においては、ノズルに印加する駆動電圧を一定として、ノズル先端のメニスカス隆起量を別のアクチュエーター(圧電素子による体積変化、サーマルの膜沸騰による体積変化等)により制御して吐出タイミングを制御するメニスカス制御法がある。前期メニスカス制御法は、メニスカス隆起量が小さいときは、液滴が、吐出されず、メニスカス隆起量が大きいときに電界がより集中し、液滴が吐出される原理となっている。
本発明は、上記制御方法においても有効性で、メニスカス隆起タイミングと、本件記載の駆動電圧と同期を図ることで同様の効果を確認している。
また、駆動電圧である両極性パルス電圧としては、正弦波等のように比較的スルーレートの低い波形であっても利用可能である。
〔実施の形態4〕
本発明のさらに他の実施の形態について図5及び図6に基づいて説明すれば、以下の通りである。なお、本実施の形態において説明すること以外の構成は、前記実施の形態1〜実施の形態3と同じである。また、説明の便宜上、前記の実施の形態1〜実施の形態3の図面に示した部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
本実施の形態の静電吸引型流体吐出装置は、図2に示した構成を有する。
本実施の形態の静電吸引型流体吐出装置を用いて、絶縁性基板16上へ吐出材を吐出する際、駆動電圧としてDuty比の異なる両極性電圧にバイアス電圧を印加したものを使用しても、液滴の飛散が生じることがある。これは、絶縁性基板16表面の初期帯電の影響により、通常略0Vに除電される電圧印加状態であっても除電されずに電荷が絶縁性基板表面に蓄積されるため、ノズル−吐出先基板間の電位差を不安定にし、吐出量変動や吐出不良、吐出流体滴の飛散を発生させる。
そのため、本実施の形態では上記問題を解消した流体吐出方法を使用している。以下に、本実施の形態の静電吸引型流体吐出装置を用いた流体吐出方法について詳細に説明する。
まず、図5に示す初期帯電量測定装置により、吐出先基板の吐出箇所における帯電量を測定する。上記の初期帯電量測定装置では、表面電位測定装置17のプローブ18とステージ12とが対向配置されている。すなわち、プローブ18の測定部が下方を向くように配置され、プローブ18の下方にステージ12が水平に設けられている。ステージ12は図示しない駆動装置に駆動されて任意の方向へ移動可能となっている。
ステージ12上には吐出流体15の吐出先である吐出先基板としての絶縁性基板16が固定される。ステージ12は接地されている。したがって、絶縁性基板16はステージ12を通じて接地される。
本実施の形態においては、絶縁性基板16としてガラス(52mm×52mm、厚さ7mm)上にポリイミドを塗布・焼成したもの(ポリイミドコート基板)を、表面電位測定手段17として高精度表面電位計(例えば、商品名:MODEL323,TREK社製)を使用した。
次に、初期帯電量の測定方法について説明する。
表面電位測定装置17におけるプローブ18と絶縁性基板16とのギャップを測定し、表面電位測定装置17の測定領域を算出する。上記のギャップ測定手段としては、レーザを利用した変位計又はレーザを利用したギャップ測長計が利用される。表面電位測定装置17及びノズルは図示しない保持部材によりその相対距離が変動しないように固定される。このとき、表面電位測定装置17と絶縁性基板16とのギャップをできるだけ小さくすることにより、より微小領域の表面電位測定を可能とし、測定精度が向上する。
次に、ステージ12を図示しない移動手段により動作させ、絶縁性基板16上の表面電位を測定し、吐出対象の絶縁性基板16の表面電位の二次元分布図を作成する。これをもとに、吐出箇所における駆動電圧をコンピュータ等の駆動電圧作製手段、駆動電圧印加手段により作製する。駆動電圧の作製方法として、Duty比の異なる両極性電圧にバイアス電圧を印加し、単位周期毎にDuty比、印加バイアス電圧値を調整する。具体的には、例えば表面電位が正極性側に帯電している場合、正極性のバイアス電圧を印加すると共に、負極性側の印加時間を長くする。このことにより、正極性印加時において十分な電位差を確保しつつ、負極性印加により十分に除電することができる。同様の理由から、表面電位が負極性側に帯電している場合、負極性のバイアス電圧を印加すると共に、正極性側の印加時間を長くすればよい。
図6(a)は本実施の形態の表面電位二次元分布図、図6(b)は図6(a)の直線lに沿って測定した際の表面電位変化、図6(c)は図6(b)ように帯電した基板上に吐出する際の駆動電圧の波形の一例である。
上記の吐出方法によれば、ノズル−吐出先基板間の電位差の変動をより小さくすることが可能となり、吐出量変動や吐出不良、吐出流体滴の飛散を抑制する。さらには、吐出前に絶縁性基板16の除電を行う除電用装置の必要がなくなり、装置構成に自由度が増す。
以上のように、本実施の形態の静電吸引型流体吐出装置では、駆動電圧としてDuty比の異なる両極性電圧にバイアス電圧を印加し、単位周期毎にDuty比、印加バイアス電圧値を調整したものを使用しているので、絶縁性基板16上において、着弾ドット(着弾液滴)周辺部への液滴の飛散を抑制し、鮮明な微細パターンを形成することができる。
なお、本実施の形態では、駆動電圧としての両極性パルス電圧をノズル11の駆動電極13に印加するものとして説明したが、ノズル11からの吐出に必要な駆動電圧は駆動電極13に印加される電圧と対向電極として機能するステージ12との間の電位差である。したがって、駆動電圧は、ステージ12にのみ印加される電圧である構成、或いはステージ12に印加される電圧と駆動電極13に印加される電圧との合成電圧(電位差)である構成であってもよい。
また、吐出方式においては、ノズルに印加する駆動電圧を一定として、ノズル先端のメニスカス隆起量を別のアクチュエーター(圧電素子による体積変化、サーマルの膜沸騰による体積変化等)により制御して吐出タイミングを制御するメニスカス制御法がある。前期メニスカス制御法は、メニスカス隆起量が小さいときは、液滴が、吐出されず、メニスカス隆起量が大きいときに電界がより集中し、液滴が吐出される原理となっている。
本発明は、上記制御方法においても有効性で、メニスカス隆起タイミングと、本件記載の駆動電圧と同期を図ることで同様の効果を確認している。
また、駆動電圧である両極性電圧としては、正弦波等のようなスルーレートの低い波形であっても利用可能である。
〔実施の形態5〕
本発明のさらに他の実施の形態について図7に基づいて説明すれば、以下の通りである。なお、本実施の形態において説明すること以外の構成は、前記実施の形態1〜実施の形態4と同じである。また、説明の便宜上、前記の実施の形態1〜実施の形態4の図面に示した部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
本実施の形態の静電吸引型流体吐出装置は、前記実施の形態1〜4で説明した静電吸引型流体吐出装置の構成に加え、図7に示すように、絶縁性基板16の電荷蓄積量を測定する表面電位測定装置17とそのプローブ18、及びその結果をフィードバックさせ、上記駆動電圧の極性毎の電圧印加時間、印加バイアス電圧値を変調させる駆動電圧変調手段としての制御装置20と、表面電位測定手段17と上記ノズルとの相対距離を保持する保持部材21と、上記ノズルを上記表面電位測定手段と共に移動させる図示しない移動手段と、上記表面電位測定手段と上記ノズルとの絶対位置が変動できる回転機構22とを備えている。
本実施の形態においては、表面電位測定装置17として高精度表面電位計を、駆動電圧変調手段20としてコンピュータを使用している。なお、駆動電圧はコンピュータから出力された電圧信号を図示しない増幅器により増幅したものを使用している。なお、駆動電圧変調手段から出力される出力電圧が条件に見合えば、増幅器等により出力信号を増幅させる必要はない。
また、上記回転機構22は、保持部材21に対し、垂直でかつプローブ18の測定面が基板と並行になるように固定されている。プローブ18にも実施の形態1で説明したような絶縁性基板16の段差を測定できるレーザー測長機を付随させる必要があるので、絶縁性基板16に対し垂直方向に変動できるよう、プローブ18を固定している保持部材21に垂直方向の移動機構を設け、レーザー測長機の信号を基に、その位置を変調する必要がある。
なお、同図に示す位置に回転機構22を設けた理由は、吐出開始時の描画方向を変更する際、プローブ18のみを回転させることによって、吐出方向の変更ができるからである。本実施の形態の内容を満たす回転機構22の設置場所は、ノズル11とプローブ18とを保持しているものであれば、どこに設置してもかまわないが、同図に示す以外の場所に設置する場合は、別途ヘッド全体を保持している部材に、描画方向を変更するための回転機構を設ける必要がある。
次に、本実施の形態の静電吸引型流体吐出装置における、ノズル11から吐出流体15を吐出して絶縁性基板16に所望のパターンを形成する場合の動作について説明する。
まず、絶縁体基板16上の吐出予定箇所の上方に、ノズル11との相対距離が保持部材21によって固定された表面電位測定装置17のプローブ18を配置する。この保持部材21は、自身の長さが調整可能となっている。すなわち、プローブ18が検知した表面電位値を基に印加電圧値を変更する(フィードバックする)ので、プローブ18は常にノズル前方に配置される必要がある。フィードバックにはある一定時間が必要であるが、その際、ヘッド部(ノズル、保持部材、プローブ等)の移動速度、或いは絶縁性基板16の送り速度により、ノズル−吐出先基板間の相対移動距離が異なる。このことにより、フィードバックされた情報を基に吐出する位置が、吐出目的位置とずれることが考えられる。これを微調整するために、保持部材21に長さ調整できる機構を設けるのが好ましい。なお、フィードバック情報の伝達速度を調整することでも可能であるが、長さ調整の方が、より簡易に調整できる。
一方、上記ノズル11はプローブ18の移動方向と反対側に配置される。ノズル11とプローブとの距離は、表面電位測定装置17の測定時間分解能、ノズル11とプローブ18の移動速度、表面電位測定装置17から制御装置20にフィードバックされ、吐出信号として出力されるまでの時間にから逆算することにより、プローブ18で測定した場所に対応した位置の上方にノズル11が配置されたときにノズル11から吐出流体15が吐出されるように調整する。
次に、駆動電圧について説明する。表面電位測定装置17により測定された表面電位値が0Vの場合、図11に示す印加電圧と電荷蓄積量との関係を基に、一周期電圧を印加した際、絶縁性基板16の吐出箇所近傍の表面電位が略0Vになるように、両極性電圧のDuty比、印加バイアス電圧値のうち少なくともいずれか一つを調整し、駆動電圧として使用する。
表面電位値が0V以外の場合は、その表面電位値を考慮した上で、一周期電圧を印加した際、絶縁性基板16の吐出箇所近傍の表面電位が略0Vになるように、両極性電圧のDuty比、印加バイアス電圧値のうち少なくともいずれか一つを調整する。
絶縁性基板16に所望のパターンを形成する場合、駆動電圧を印加しながらノズル11、プローブ18を移動させる。このとき、絶縁性基板16において局所帯電が生じている箇所では、プローブ18により測定される表面電位値が変化する。この表面電位値の変化量を読み取り、駆動電圧発生手段であるコンピュータに信号として送る。コンピュータ内部では、送られてきた表面電位値の変化量と、予めコンピュータ内部に入力された印加電圧と電荷蓄積量の関係に関する情報を基に、両極性電圧のDuty比、印加バイアス電圧値のうち少なくともいずれか一つを調整し、一周期電圧を印加した際、吐出先基板の吐出箇所近傍の表面電位が略0Vになるような駆動電圧を変調し、出力する。上記記載の駆動電圧の変調は、あらかじめ作成したプログラムにより自動的に行う。
移動方向を変更する場合、保持部材21の伸縮、ノズルを軸とした表面電位計保持機構の回転のうち少なくとも一つの動作により、常にノズル11の移動予定位置のある一定距離先をプローブ18が移動する。
上記構成の静電吸引型流体吐出装置を使用し、上記の吐出方法によれば、絶縁性基板16の初期帯電の影響によるノズル−絶縁基板間の電位差の変動をより小さくすることが可能となり、吐出量変動や吐出不良、吐出流体滴の飛散を抑制する。さらには、吐出前に絶縁性基板16の除電を行う除電用装置の必要がなくなり、装置構成に自由度が増す。
以上のように、本実施の形態の静電吸引型流体吐出装置では、ノズル11の移動方向前方に、ノズル11との相対距離が変動しないように保持する保持部材21により保持された絶縁性基板16の電荷蓄積量を測定する表面電位測定装置17のプローブ18を備え、この表面電位測定装置17により絶縁性基板16の吐出箇所における局所帯電を測定し、その結果を駆動電圧変調手段としての制御装置20にフィードバックさせ、駆動電圧の電圧印加時間、印加電圧値を変調させることにより、絶縁性基板16の局所帯電による、ノズル−吐出先基板間の電位差不安定による吐出不良を解消するだけでなく、吐出流体滴の飛散を抑制し、鮮明な微細パターンを形成することができる。
また、前実施の形態で説明した、初期帯電量測定の必要がなくなり、より簡便な吐出方法を提供することができる。
また、表面電位の絶対量ではなく、移動による変位から駆動電圧を変調させるため、より精度のよい駆動電圧変調を行うことができる。すなわち、実施の形態4に示したように、吐出前に絶縁性基板16全体の表面電位を測定し、それを初期帯電分布のデータとしてコンピュータに取り込み、吐出電圧波形を作製する手法では、初期帯電分布データの習得、コンピュータへの取り込み、電圧波形作製とかなりの時間が必要となる。この時間内に、微量ではあるが、表面電位の減衰などが起こり絶縁性基板16の帯電分布が変わることが考えられる。このことにより、吐出の際、基板表面を除電しようと供給した電荷が余剰となり基板表面が帯電してしまうため、結果として吐出不良が発生する。
それに比べ、実施の形態5のように、吐出直前に吐出先の表面電位を測定しフィードバックさせる方法では、絶縁性基板16の表面電位の減衰等の帯電量変化による、印加電圧値の誤差を最小限にとどめることができる。また、常に絶対量を測定し、その値から波形を作製するのではなく、変化量のみを読み取ることによって、表面電位が変化した際にのみコンピュータに情報を送り、新たな波形を作製するため、フィードバックに要する時間が短縮され、分解能があがる。結果として、より精度のよい駆動電圧変調を行うことができる。
さらに、本実施の形態では保持部材21は、表面電位測定装置17と上記ノズル11との距離を保ってその絶対位置関係を変動する回転機構に取り付けられている。
すなわち、表面電位測定装置17のプローブ18は、常にノズル11の移動方向の前方に配置する必要がある。吐出を行いながら、移動方向を変更したいとき、ノズル11よりも先にプローブ18が移動方向を変更する必要がある。例えば、ノズル11は北方向へ移動しているが、次に西方向へ移動したいため(左に回転)、プローブ18だけ西方向へ移動させる。このような動作を行わせるためには、ノズル11とプローブ18とを保持する保持部材21に回転機構22が必要である。
また、回転機構は、少なくとも一つあれば足りるが、好ましくは二つ以上ある方が好ましい。これは、ノズル11とは逆方向にプローブ18を動かすことができるためである。勿論、ノズル11と保持部材21とが接触しないように、接触するような状態においては、プローブ18を別途回避させ、フィードバックを停止し、接触しない状態になった後にプローブ18のみの移動速度を上げ、情報を伝達する等の、回避方法が必要となる。また、プローブ18のみ移動速度を上げるのは、移動と同時に保持部材21を伸延させることで可能である。また、回転機構の回転方向については、絶縁性基板16に対し垂直方向を軸とした回転としている。したがって、ノズル−基板間距離、及びプローブ−基板間距離は回転により変動しない。
なお、本実施の形態では、駆動電圧としての両極性パルス電圧をノズル11の駆動電極13に印加するものとして説明したが、ノズル11からの吐出に必要な駆動電圧は駆動電極13に印加される電圧と対向電極として機能するステージ12との間の電位差である。したがって、駆動電圧は、ステージ12にのみ印加される電圧である構成、又はステージ12に印加される電圧と駆動電極13に印加される電圧との合成電圧(電位差)である構成であってもよい。
さらに、吐出方式においては、ノズルに印加する駆動電圧を一定として、ノズル先端のメニスカス隆起量を別のアクチュエーター(圧電素子による体積変化、サーマルの膜沸騰による体積変化等)により制御して吐出タイミングを制御するメニスカス制御法がある。前記メニスカス制御法は、メニスカス隆起量が小さいときは、液滴が、吐出されず、メニスカス隆起量が大きいときに電界がより集中し、液滴が吐出される原理となっている。
本実施の形態では、上記制御方法においても有効性で、メニスカス隆起タイミングと、本件記載の駆動電圧と同期を図ることで同様の効果を確認している。
また、駆動電圧である両極性電圧としては、正弦波等のようなスルーレートの低い波形であっても利用可能である。
なお、本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。