従来から、インク等の流体を対象物(記録媒体)上に吐出する流体ジェット方式として、インクジェットプリンタとして既に実用化されているピエゾやサーマルなどの方式が用いられている。また、その他の流体ジェット方式として、吐出する流体に電界を印加してノズルのノズル孔(インク吐出孔・吐出孔)から吐出させる静電吸引方式も用いられている。
このような静電吸引方式の流体吐出装置(以下、静電吸引型流体吐出装置と称する)としては、例えば、溶液が供給される超微細径のノズルの先端に近接して基板を配設するとともに、上記ノズル内の溶液に任意波形電圧を印加することにより上記基板表面に超微細径の流体液滴を吐出する静電吸引型流体吐出装置が広く用いられている(例えば、特許文献1参照)。以下に、図10を用いて、上記静電吸引型流体吐出装置の流体吐出モデルについて説明する。
上記静電吸引型流体吐出装置では、図10に示すように、ノズル先端部102のノズル孔の直径がd(m)(以下の説明においては、特に断らない限りノズルの内径を指す)であるノズル101に導電性流体が注入されている。図10の構成において、ノズル先端部102の基板105(例えば、無限平板導体)からの高さがh(m)になるように、ノズル101を基板105に対して垂直に位置させたと仮定する。このとき、ノズル先端部102に誘起される電荷Qは、ノズル先端部102において導電性流体によって形成される半球部103に集中すると仮定することができる。この場合、電荷Qは、以下の式で近似的に表される。
ここで、Qはノズル先端部102に誘起される電荷(C)、ε0は真空の誘電率(F/m)、dはノズルの直径(m)、V0:ノズルに印加する総電圧(V)である。また、αはノズルの形状などに依存する比例定数であり、1〜1.5程度の値を取るが、特にd<<hである場合、αは、ほぼ1となる。
また、基板105として導電基板を用いた場合、ノズルと対向する基板105内の対称位置に、上記電荷Qと反対の極性を持つ鏡像電荷Q’が誘導される。一方、基板105が絶縁体である場合は、誘電率によって定まる対称位置に、電荷Qと逆極性の映像電荷Q’が誘導される。
ノズル先端部102における集中電界強度Elocは、半球部103の曲率半径をRと仮定すると、以下の式で表される。
ここで、kはノズル形状などに依存する比例定数であって、1.5〜8.5程度の値をとるが、多くの場合5程度である。また、ここでは、流体吐出モデルを簡略化して説明するために、R=d/2と仮定する。これは、ノズル先端部102において、表面張力によって導電性流体がノズル径dと同じ曲率半径を持つ半球形状に盛り上がっている状態に相当する。
次いで、ノズル先端部102の導電性流体に働く圧力のバランスを考える。まず、静電的な圧力Peは、ノズル先端部の液面積、すなわちノズル孔の開口面積をSとすると、以下の式で表される。
(1)〜(3)式より、圧力Peは、α=1として、以下の式で表される。
一方、ノズル先端部102における導電性流体の表面張力による圧力をPsとすると、圧力Psは、以下の式で表される。
ここで、γは表面張力である。静電的な力によって、導電性流体の吐出が起こる条件は、静電的な力が表面張力を上回ることなので、静電的な圧力Peと表面張力による圧力Psとの関係は、以下の式で表される。
図11に、直径dのノズルを与えた時の、表面張力による圧力Psと静電的な圧力Peとの関係が示されている。上記圧力Psは、流体が水(γ=72mN/m)である場合の表面張力による圧力として算出している。ノズルに印加する電圧を700Vとした場合、ノズルの直径dが25μmよりも小さい場合に、静電的な圧力Peが表面張力による圧力Psを上回ることが示唆される。このことより、V0とdとの関係を求めると、以下の式で表される。
なお、上記(7)式から、インクを吐出し得る最低電圧を求めることができる。
また、その時の吐出圧力をΔPとすると、ΔPは、以下の式で表される。
したがって、(4)、(5)および(8)式から、ΔPは、以下の式で表される。
図12に、直径dのノズルに対し、局所的な電界強度によって吐出条件を満たす場合の吐出圧力ΔPとノズルの直径dとの関係を示す。図12に示すように、局所的な電界強度によって吐出条件を満たす場合(V0=700V,γ=72mN/mと仮定した場合)のノズル径の上限は、25μmである。
次いで、図13に、上記静電吸引型流体吐出装置の縦断面図を示す。ノズル201は、先端に超微細径のノズル孔(吐出孔)が形成された超微細径のノズルである。超微細量の流体吐出を実現するためには、低コンダクタンスの流路をノズル201近傍に設けるか、またはノズル201自身を低コンダクタンスのものにする必要がある。このためには、ノズル201が、ガラス製キャピラリーであることが好ましいが、導電性物質に絶縁材でコーティングしたものでもよい。
ノズル孔の直径(以下、ノズル直径)の下限値は、製作上の都合から0.0lμmであることが好ましい。また、図11に示すように、静電的な圧力Peが表面張力による圧力Psを上回る時のノズルの直径の上限が25μmであること、および、図12に示すように、局所的な電界強度によって吐出条件を満たす場合のノズル直径の上限が25μmであることから、ノズルの直径の上限は25μmであることが好ましく、15μmであることがより好ましい。特に、局所的な電界集中効果をより効果的に利用するには、ノズル直径は、0.01〜8μmであることが望ましい。
ノズル201内部には、溶液源(図示せず)から供給路208を介して吐出すべき溶液203が供給されて充填されると共に、配線202がこの溶液203に浸されるように配置されている。ノズル201は、シールドゴム204およびノズルクランプ205によりホルダー206に取り付けられている。
なお、上記構成によれば、ノズル先端部における電界の集中効果と、基板213に誘起される鏡像力の作用とがあるため、基板213を導電性にしたり、基板213の背面側に対向電極を設けたりする必要はない。したがって、基板として絶縁性のガラス基板、ポリイミドなどのプラスチック基板、セラミックス基板、半導体基板などを用いることができる。
しかし、特許文献1に記載の構成では、ノズル201のノズル孔の対向面側であって、所定の距離離れた位置に、ノズル201のノズル孔から吐出した溶液を基板213の表面に、より安定して着弾させるために対向電極214が設けられ、この対向電極214とノズル201との間に基板213が配置されるようになっている。
上記配線202と対向電極214とは、電圧印加部209に接続されている。この電圧印加部209は、配線202に印加する電圧と対向電極214に印加される電圧との少なくとも一方を制御して、ノズル201の先端部と基板213との間に、単発流吐出であればパルス電圧を印加し、連続流吐出であれば直流電圧を印加するようになっている。ノズル201の先端部と基板213との間に印加する電圧の極性はプラスでもマイナスでも良い。
以上のような構成にて流体を吐出させると、ピエゾやサーマルなどの方式の流体吐出装置では吐出困難とされてきた1plを下回るような微小量の流体の吐出を、静電的な吐出力によって行うことができる。さらに吐出開始時の電界と基板到達時の鏡像力とを含めた静電力により、流体は空気抵抗に耐えうるだけの十分な運動エネルギーを得ることができるため、基板への流体着弾時の精度についても高いレベルを確保することができる。
特開2004−165587号公報(平成16年6月10日公開)
しかしながら、上記従来の静電吸引型流体吐出装置では、ノズル孔径が25μm以下にまで小さくなると、以下のような問題点を有している。
まず、ノズル孔径が小さくなると、ノズル先端部から突出するように形成された半球形状をした流体であるメニスカスの乾燥速度が大きくなるという問題点を有している。すなわち、液体の蒸発は、その液体の大きさが小さくなるに従い比表面積が大きくなるため蒸発速度が大きくなる。特に、微粒子を含有するペーストが吐出材料(流体)である場合、溶媒の蒸発によって溶質である微粒子だけが残留し、ノズル先端部で微粒子同士の凝集および析出がはじまる。微粒子の析出が進行するとノズル孔を塞いでしまい、その結果、流体の吐出状況が悪化する。吐出状況が悪化したノズルを再吐出させるためには、さらに大きな電圧を与える必要がある。しかし、過剰な電圧を印加すると、ノズル近傍で空気の絶縁破壊が発生し、放電によってノズルが破損する可能性が高くなる。
また、上記従来の静電吸引型流体吐出装置では、ノズル孔径が小さくなると吐出応答性が悪くなるという問題点を有している。図14には、図13に示した構成にて、流体中の微粒子の平均粒子径が5nmの銀ペーストを吐出した際のノズル孔径と吐出応答性(吐出時定数)の関係が示されている。このように、ノズル孔径が小さくなるにつれて吐出時定数も長くなり、吐出応答性が急激に悪くなる。その結果、高速吐出によって所望の描画パターンを形成することができなくなる。例えば、吐出液滴数によって濃度諧調を表現する場合、多くの吐出回数を必要とする高濃度諧調の表現には、長時間を要することになる。したがって、上記従来の静電吸引型流体吐出は、高速描画に関して不向きである。
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、ノズル先端部の詰りを防止するとともに、ノズルから吐出される流体の材料に制約されずに流体の高速吐出を実現し得る静電吸引型流体吐出装置を提供することにある。
本発明の静電吸引型流体吐出装置は、上記の課題を解決するために、電圧印加によって帯電された流体を、ノズルの吐出孔から静電吸引によって吐出させる静電吸引型流体吐出装置において、前記吐出孔の直径が0.01〜25μmであり、前記ノズル内には2つ以上の流体供給路が設けられ、1つの前記吐出孔に前記の各流体供給路が連結されていることを特徴としている。
上記構成によれば、任意の混合溶液によって微小ドットを形成することが可能となる。また、流体供給路内にて流体を別々に収容し、当該流体を吐出する直前に混合してから吐出することができる。例えば、2液混合型の接着剤等の塗布の場合、主剤と副剤とを別々の流体供給路に収容することで、混合と吐出とを同時に行うことができる。その結果、混合することによって硬化時間が短くなるような材料でも、ノズル内部で硬化させることなく混合溶液を長時間吐出し続けることができる。また、流体供給路内に流体が別々に収容されているので、吐出させる流体を選択することができる。例えば、1つの流体のみを吐出させることもできるし、複数の流体の中からいくつかの流体を選択して、それらのみを混合して吐出することもできる。
本発明の静電吸引型流体吐出装置では、前記流体供給路のうちの少なくとも2つの流体供給路には互いに異なる種類の流体が供給され、これら複数種類の流体が前記吐出孔に供給されていることが好ましい。
上記構成によれば、複数の流体供給路を用いて、複数種類の流体を供給することができる。
本発明の静電吸引型流体吐出装置では、前記流体供給路のうちの少なくとも1つの流体供給路にはインクが供給されていることが好ましい。
上記構成によれば、インクを吐出させて微小ドットを形成することにより、所望のパターンを形成することができる。
また、本発明の静電吸引型流体吐出装置では、前記流体供給路のうちの少なくとも2つの流体供給路には互いに濃度の異なるインクが供給されていることが好ましい。
上記構成によれば、吐出させるインクの濃度を選択することができる。例えば、濃度階調性が必要となるパターニング(例えば、染料インクや顔料インクによる印刷など)の際に、低濃度ドットによるパターニング時は低濃度インクを吐出し、高濃度ドットによるパターニング時は高濃度インクを吐出するように、インク供給路を使い分けることができる。その結果、高濃度ドット時の吐出回数を低減して、高速パターニング形成を行うことができる。また、吐出回数を低減することで、インク着弾後の濡れ広がりを抑制することもできる。
本発明の静電吸引型流体吐出装置では、前記インクは、平均粒子径が1〜200nmである微粒子を含むことが好ましい。
上記構成によれば、静電吸引によって流体を吐出して、微粒子を含むパターンを形成することができる。例えば、上記微粒子として金属微粒子を用いた場合、金属微粒子を含む流体を基板上にパターニングすることによって各種配線を形成することができる。
本発明の静電吸引型流体吐出装置では、前記流体供給路のうちの少なくとも1つの流体供給路にはインクが供給され、他の少なくとも1つの流体供給路には前記インクの溶媒が供給されていることが好ましい。
上記構成によれば、インクのみ、溶媒のみ、またはインクと溶媒との混合溶液を吐出することができる。その結果、ノズル先端部で溶液の乾燥が進行して微粒子が析出し、その結果、目詰りが発生しやすい状況になっても、逐次溶媒のみをノズル先端部に供給することでノズル先端部の乾燥を防止することができる。また、インクと溶媒との吐出直前の供給比率を制御することで、所望の濃度階調にてパターンを形成することができる。
前記流体供給路のうちの少なくとも1つの流体供給路にはインクが供給され、他の少なくとも1つの流体供給路には前記インクの溶媒よりも導電率の大きい流体が供給されていることが好ましい。
上記構成によれば、例えば、微粒子を含むインクの溶媒が非極性である溶液であり、その導電率が低い場合でも、吐出直前に導電率の大きい流体を混合することができる。その結果、吐出される流体の導電率が大きくなり、吐出応答性の良い高速吐出ができる。このように、インクの物性に制約されずに、常に高速吐出が実現できる。また、導電率が大きい流体との混合をノズル先端部にて行うことで、混合させたことによる微粒子同士の凝集等の影響を極力小さくすることができる。
本発明の静電吸引型流体吐出装置では、前記流体供給路のうちの少なくとも1つの流体供給路にはインクが供給され、他の少なくとも1つの流体供給路には前記インクの溶媒と蒸発速度が異なる流体が供給されていることが好ましい。
上記構成によれば、蒸発速度が異なる流体を混合させることによって、吐出される流体の蒸発速度を調節することができる。例えば、微粒子を含むインクの蒸発が極端に速く、微小ノズルを使用すると乾燥による目詰りが急速に発生するような場合でも、吐出直前に蒸発速度の遅い液体材料を混合して吐出させることができる。その結果、ノズル先端部のメニスカスの乾燥を抑制することができ、乾燥による目詰りを発生させることなく安定した吐出を行うことができる。また、微粒子を含むインクにさらに蒸発速度の大きい液体を混合して吐出させることができる。その結果、液滴飛翔中に乾燥を促進させることができ、基板に着弾した後のドットの濡れ広がりを抑制し、さらには高アスペクト比パターンを形成しやすくなる。
前記ノズルの外壁部の少なくとも先端部における外面には、ノズルから前記流体を吐出させるための電圧が印加される吐出電極が設けられていることが好ましい。
上記の構成によれば、吐出電極の位置が吐出が行われるメニスカスに近い位置に設置されているため吐出応答性が高くなる。その結果、全ての混合溶液に対して高速吐出を行うことができる。また、複数の流体供給路の中で、特定の流体供給路の外壁部の外面のみを導電性材料によってコートすることにより、高速供給する材料を選択することができる。
本発明の静電吸引型流体吐出装置では、前記吐出電極は、前記流体供給路毎に独立して設けられていることが好ましい。
上記構成によれば、各インクに印加する電圧の大きさおよび印加時間を調節することができる。その結果、各流体供給路によって供給されるインクの吐出量を制御することができ、混合比、濃度比を自由に制御することができる。
本発明の静電吸引型流体吐出装置では、前記流体供給路の合流部を囲むノズルの外壁部の内面には、ノズルの外壁部の内面よりも高い撥水性を有する撥水層が設けられていることが好ましい。
上記構成によれば、流体供給路の合流部の壁面の撥水性を高めることで、合流部付近のインク濡れ性を悪くすることができる。その結果、インク同士の混ざりを抑制することができ、各インク材料の供給のスイッチング性能を向上させることができる。さらに、上記合流部がノズル先端部近傍である場合は、液体の乾燥によるノズルの目詰りを抑制することができる。
本発明の静電吸引型流体吐出装置では、前記流体供給路のうちの少なくとも1つの流体供給路内を加圧または減圧する圧力付与手段を備えていることが好ましい。
上記構成によれば、流体供給路内を加圧または減圧することができるので、上記流体供給路によって供給されるインクの吐出量を制御することができ、混合比、濃度比を自由に制御することができる。各インクの導電率が高く、電気的に複数の吐出電極を設置するとショートする場合に非常に有効である。
また、上記構成によれば、例えば、インクの非供給時には外部より負圧を与えて、メニスカスを内部にシフトさせることができる。その結果、インクの乾燥を防止することができる。また、インク供給時には、外部からの正圧と電圧とによってインクの供給量を制御することで、供給時のスイッチング性能を向上させることができる。
本発明の静電吸引型流体吐出装置は、以上のように、吐出孔の直径が0.01〜25μmであり、ノズル内には2つ以上の流体供給路が設けられ、1つの上記吐出孔に上記の各流体供給路が連結されているという構成である。
それゆえ、ノズル先端部の詰りを防止するとともに、ノズルから吐出される流体の材料に制約されずに流体の高速吐出を実現し得るという効果を奏する。
本発明の一実施形態について図1ないし図9に基づいて説明すれば、以下の通りである。なお、本発明の静電吸引型流体吐出装置は、ノズル先端部の吐出孔1つあたり、少なくとも2つ以上のインク供給路(流体供給路)が連結されている。以下では、説明を簡略化させるために、吐出孔1つあたり、2つのインク供給路が連結されている構成を例にして説明することとする。
〔実施の形態1〕
図1は、本発明の実施の形態の静電吸引型流体吐出装置のノズルの縦断面図である。
図1に示すように、本実施の形態の静電吸引型流体吐出装置は、ノズルおよび吐出制御部10・11を備えている。さらに、上記ノズルは、ノズル先端部1、インク供給路2・3、吐出電極5・6、外壁部7および隔壁部8を備えている。
ノズル先端部1は、外壁部7の一部であって、ノズルの先端領域である。ノズル先端部1は、尖った形に形成され、吐出孔を有している。そして、上記吐出孔からは液滴が吐出され、当該液滴は基板15上に着弾して所望のパターンを形成する。また、インク供給路2・3は、隔壁部8によって仕切られている。その結果、インク供給路2・3には、それぞれ異なる種類の流体を収容することができる。上記異なる種類の流体は、ノズル先端部1にて混合され、その後、吐出孔から吐出される。
上記ノズル先端部1では、その吐出孔の直径が0.01〜25μmであることが好ましい。直径が上記範囲であることによって、微小液滴を吐出することができる。
上記ノズル先端部1、インク供給路2・3、外壁部7および隔壁部8は、絶縁材料にて形成されていればよく、その材質は特に限定されないが、成形性の高いガラスなどによって形成されていることが好ましい。また、上記ノズル先端部1、インク供給路2・3、外壁部7および隔壁8は、適宜公知の方法を用いて作製することができる。例えば、ガラス管を熱した後、引っ張ることによって作製することができる。具体的には、材質がホウケイ酸ガラスである場合、ThetaまたはPiggyback(フィジオテック社製)などの2本隣接したガラス管を材料として、プーラ PC−10(ナリシゲ科学社製)などのノズル作製装置を用いて作製することができる。
また、上記インク供給路に収容される流体は、特に限定されず、ノズル先端部1の吐出孔から吐出し得る流体であればよい。具体的には、インク、染料系および顔料系の発色インク、金、銀、銅等、金属微粒子含有のペースト、金属酸化物微粒子(例えば、シリカ、酸化チタンまたはアルミナなど)を含有したペースト、各種溶媒または各種接着材料などを用いることができる。なお、本明細書において、流体として「インク」と記載した場合は、色素を含む液体が意図される。当該液体に含まれる色素としては特に限定されず、また、当該溶液に含まれる溶媒としても特に限定されない。上記「インク」には、色素および溶媒以外に、適宜所望の成分が含まれ得る。例えば、当該成分としては、金属微粒子などの各種粒子を挙げることができるが、これに限定されない。
上記吐出電極5・6は、導電材料であればよく、その材質は特に限定されない。適宜、公知の材料を用いて吐出電極5・6を形成することができる。具体的には、タングステンまたはニッケルを用いて、吐出電極5・6を形成することが好ましい。また、上記吐出電極5・6の形状および大きさも特に限定されないが、ノズル先端部1の近傍まで挿入できる形状および大きさであることが好ましい。具体的には、ノズル先端部1の内径がμmオーダーである場合、吐出電極5・6は、直径が10〜50μmのワイヤ形状の電極であることが好ましい。
次いで、インクの吐出メカニズムについて説明する。ノズル先端部1の吐出孔からインクを吐出させる場合には、吐出制御部10・11によって、上記吐出電極5・6に電圧を印加する。本実施の形態では、吐出制御部10によって吐出電極5に電圧を印加し、吐出制御部11によって吐出電極6に電圧を印加する。各吐出制御部によって各吐出電極に印加される電圧は、同じ電圧であってもよいし、異なる電圧であってもよい。異なる電圧を加えることによって、各インク供給路によってノズル先端部1に向かって供給される流体の量を調節することができる。また、吐出制御部10・11によって印加される電圧の値は、特に限定されないが、100V〜500Vであることが好ましい。上記電圧であることによって、ノズル先端部1などにダメージを与えることなくインクを吐出することができる。
上述したように吐出制御部10・11から電圧を印加することによって、各インク供給路2・3に収容されたインクが帯電しながらノズル先端部1に向かって供給される。そして、ノズル先端部1で2種類の流体が混合され、その後、混合溶液としてノズル先端部1の吐出孔から基板15に向かって吐出される。その時の着弾ドット径は基板15に対する溶液の濡れ性に依存するが、一般的に、ノズル先端部1の孔径の0.8〜10倍程度である。
以上のように、ノズル先端部1の1つの吐出孔に通じるインク供給路を2つ設けることにより、2種類の流体を任意の混合比にて混合した混合溶液を作製し、吐出させることができる。
例えば、2液硬化型の接着剤の場合、主剤と硬化剤を各インク供給路に収容して吐出させることで、2液を混合した後に収容して吐出させた時と比べ、ノズルの使用可能時間を十分長くすることができる。
さらに、濃度階調性が要求されるパターニングについても本発明は有効である。現在、サーマル方式やピエゾ方式等のインクジェット装置によるパターニングのときに濃度階調性が要求される場合、低濃度インクを吐出させて高濃度ドットパターンを形成するためには、5発以上の液滴を同一箇所に吐出させる必要がある。さらに、従来のインクジェット装置は、ノズル径が約20μmである場合、吐出し得る最小液滴は約2plであるが、本実施の形態のノズルのように孔径が数μm以下になると、吐出し得る液滴サイズも数flと極端に小さくなる。そのため、高濃度のドットパターンを形成するためには相当な回数、液滴を吐出させる必要がある。
そこで例えば、濃度の異なる同色の染料インクを各インク供給路に収容し、高濃度側のドット形成は高濃度インクで行い、低濃度側のドット形成は低濃度インクで行うように、インク供給路を使い分けることにより、少ない回数の吐出によって容易に濃度階調性を得ることができる。また同一ノズルによる吐出であるため、着弾位置精度の低下を抑制することもできる。また、各濃度のインクの吐出回数の差が小さいと、着弾ドットの濡れ広がりのばらつきが小さくなり、より精度の高い微細パターン形成が可能である。
なお、本実施の形態では、インク供給路が2つの場合について述べたが、3つ以上の場合についても同様である。例えば、n個のインク供給路を有する静電吸引型流体吐出装置の場合、1つのノズル先端部に対してn個のインク供給路を連結する。さらに、本実施の形態は、単孔ノズルを有する静電吸引型流体吐出装置に関して説明しているが、単ノズルに限らず、マルチノズルを有する静電吸引型流体吐出装置に関しても本発明を適用することができる。つまり、マルチノズル中の各ノズルとして、本実施の形態にて説明したノズルの構成を用いることもできる。この点は他の実施の形態に示す静電吸引型流体吐出装置においても同様である。
〔実施の形態2〕
本発明の他の実施の形態について図2に基づいて説明すれば、以下の通りである。なお、本実施の形態において説明した構成以外の構成は、実施の形態1と同じである。また、説明の便宜上、実施の形態1の図面に示した部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
図2は、本発明の他の実施の形態の静電吸引型流体吐出装置のノズルの縦断面図である。本実施の形態の静電吸引型流体吐出装置は、インク供給路2・3のいずれか一方に微粒子20を含有する流体を収容し、さらに他方のインク供給路には、その溶媒のみを収容することが好ましい。
上記微粒子20の材料は、特に限定されないが、導電材料、電気絶縁材料または色材であることが好ましい。例えば、上記導電材料としては、金、銀、銅、錫、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウム、タングステン、ニッケル、タンタル、ビスマス、鉛、インジウム、亜鉛およびチタンからなる群より選ばれる少なくとも1つの導電材料であることが好ましい。また、上記電気絶縁材料としては、シリカおよびアルミナからなる群より選ばれる少なくとも1つの電気絶縁材料であることが好ましい。また、上記色材としては、各種顔料を用いることが好ましい。
上記微粒子20の平均粒子径としては、特に限定するものではないが、1〜200nmであることが好ましい。ノズルの吐出孔の直径が1μm以上である場合、微粒子を含有する流体を、目詰りを発生させることなく常に安定に吐出するためには、微粒子の直径をノズルの吐出孔の直径の1/5以下にすることが好ましい。したがって、微粒子20の平均粒子径を1〜200nmにすることによって、微粒子20を含む流体を安定に吐出することができる。
また、平均粒子径が1〜200nmである微粒子20は、適宜公知の方法によって作製することができる。例えば、機械的粉砕方法、メカノケミカル法、メカニカルアロイング法、液相法、ガス中蒸発法、ならびに超音波化学または超臨界流体を利用する方法によって製造することができる。また、上記微粒子20の平均粒子径は、公知の方法によって測定することができる。例えば、動的光散乱法、または走査型電子顕微鏡(SEM)像に基づいて測定することができる。
また、上記溶媒としては、微粒子20を分散して保持し得るものであればよく、特に限定されない。例えば、上記溶媒は、テトラデカン、AFソルベントまたは水であることが好ましい。
さらに、微粒子20を含有する流体中には、微粒子20の表面を被覆する分散剤、有機バインダー、および加熱することによって上記分散剤を微粒子表面から除去する作用を有する補足物質を含むことが好ましい。
上記分散剤は、微粒子20の表面を覆うことによって当該微粒子20を溶液中に安定して分散させ得るものであればよく、特に限定されない。上記分散剤としては、適宜公知の分散剤を用いることができる。
次いで、図3を用いて、本実施の形態の静電吸引型流体吐出装置の利点について、吐出電圧特性の点から説明する。なお、上記吐出電圧特性とは、静電吸引型流体吐出装置を不吐出(待機)状態にした時間と、その後インクを再吐出する際に必要とする最小電圧との関係を意図する。比較するノズルは、図13にて示す構成の単ノズルを有する静電吸引型流体吐出装置であって、ノズル孔径が約1μmであり、インク供給路が一つのガラスキャピラリ中に、平均粒径が約5nmの銀粒子を含有するインクを収容したものである。
図3からも明らかなように、不吐出(待機)時間をゼロにして連続吐出させた場合は、上記いずれの構成であっても低電圧にて吐出することができる。一方、パルス電圧によって単発的に吐出させて不吐出時間を長くすると、従来の静電吸引型流体吐出装置では、再吐出に必要な電圧が大きくなる。これは、不吐出時にノズル先端部に付着したインクが乾燥し、溶質成分である微粒子だけが残留析出して、ノズル先端部を詰らすためであるということが確認されている。このように、従来の静電吸引型流体吐出装置では、ノズル先端部のインクの乾燥が進行すると常時安定した吐出を行うことができない。
一方、本実施の形態の静電吸引型流体吐出装置によって吐出させた時の吐出電圧特性は、不吐出時間が長くなっても再吐出に必要な電圧はほとんど大きくならない。これは、再吐出させた際、微粒子含有インク側のインク供給路が乾燥によって溶質が析出しはじめていても、溶媒側のインク供給路から溶媒をノズル先端部に供給することで、析出した溶質を再溶解させることができるためである。その結果、溶質析出による目詰りのない安定した吐出を実現することができる。
以上、図2では、2つのインク供給路の内、片側のインク供給路2に平均粒子径が1〜200nmの範囲内にある微粒子を含有したインクを収容し、もう片方には、その溶媒を収容する構成について述べたが、他にも様々な流体を収容することができる。以下に、インク供給路に収容する流体の例について説明する。
例えば、2つのインク供給路の内、片側のインク供給路に平均粒子径が1〜200nmの範囲内にある微粒子を含有したインクを収容し、他方のインク供給路にインクの溶媒よりも導電率の大きい流体を収容することが好ましい。上記導電率の大きい流体は、上記インクの溶媒よりも誘電率が大きい流体であればよく、特に限定されない。具体的には、上記流体として、ブチルカルビトールまたはブチルカルビトールアセテートなどを用いることが好ましい。これらの流体は、誘電率が比較的大きいので、本実施の形態に好適に用いることができる。例えば、銀粒子を含有するインクの場合、溶媒として非極性溶媒であるテトラデカンを用いる場合がある。テトラデカンは、絶縁性の液体であるため吐出応答速度を高くすることが困難である。しかし、ブチルカルビトールやブチルカルビトールアセテートのように比較的導電率の高い液体を片側のインク供給路を用いて供給することで、吐出応答速度を速くすることができる。なお、微粒子含有インクに関しては、場合によっては、流体の混合により微粒子の凝集が進行することが考えられる。しかしながら、この場合、ノズル先端部の孔径を小さくすることで凝集を抑制し、それによってインクを吐出することができる。
また、2つのインク供給路の内、片側のインク供給路に平均粒子径が1〜200nmの範囲内にある微粒子を含有したインクを収容し、他方のインク供給路に溶媒と蒸発速度が異なる流体を収容することが好ましい。この場合、上記他方のインク供給路には、溶媒よりも蒸発速度の遅い流体、または溶媒よりも蒸発速度の速い流体を収容することができる。
他方のインク供給路にインクの溶媒よりも蒸発速度の遅い流体を収容する場合、上記流体は、微粒子を含有したインクの溶媒よりも蒸発速度の遅い流体であればよく、特に限定されない。例えば、上記流体として、テトラデカン、シリコン系のオイルなどを用いることが好ましい。これらの流体は、比較的蒸発速度が遅いので、本実施の形態に好適に用いることができる。例えば、銀粒子を含有するインクの場合、溶媒としてエタノール等のように蒸発速度が非常に速い液体を用いる場合がある。この場合、ノズル先端部1の液体の乾燥による目詰りの進行速度は非常に速く、吐出不良が生じ易い。しかし、テトラデカンのような、非常に蒸発速度の遅い液体を片側のインク供給路3から供給することで、目詰まりの進行を抑制することができ、吐出不良のない安定した微小パターンの形成を実現することができる。
また逆に、他方のインク供給路にインクの溶媒よりも蒸発速度の速い流体を収容する場合、上記流体は、微粒子を含有したインクの溶媒よりも蒸発速度の速い流体であればよく、特に限定されない。例えば、上記流体として、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)またはアセトンなどを用いることが好ましい。これらの流体は、比較的蒸発速度が速いので、本実施の形態に好適に用いることができる。微粒子を含有するインクに蒸発速度の速い流体を加えて、混合溶液の乾燥速度を速めることにより、吐出液滴を飛翔中に乾燥させることができる。その結果、ある程度乾燥した液滴を基板上に着弾させるため、着弾ドットの濡れ広がりが小さい。つまり、吐出回数に依存したドット径のばらつきを抑制することができる。さらには、高アスペクト比の描画パターンを容易に形成することが可能となる。
なお、本実施の形態では、インク供給路が2つの場合について述べたが、3つ以上の場合についても同様である。例えば、n個のインク供給路を有する静電吸引型流体吐出装置の場合、1つのノズル先端部に対してn個のインク供給路を連結する。そして、n個のインク供給路の少なくとも1つを用いて、溶媒、導電率の大きい液体、蒸発速度の遅い液体、または蒸発速度の速い液体を供給する構成であってもよい。
〔実施の形態3〕
本発明の他の実施の形態について図4(a)(b)に基づいて説明すれば、以下の通りである。なお、本実施の形態において説明した構成以外の構成は、実施の形態1と同じである。また、説明の便宜上、実施の形態1の図面に示した部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
図4(a)は、本実施の形態の静電吸引型流体吐出装置のノズルの縦断面図である。また、図4(b)は、本実施の形態の静電吸引型流体吐出装置のノズルを、液滴吐出方向からみた正面図である。上記実施の形態1では、液体を吐出するための電極としてインク供給路2・3内部に吐出電極を備えているが、本実施の形態の静電吸引型流体吐出装置では、ノズルの外壁部7の少なくともノズル先端部1における外面に、ノズルから流体を吐出させるための電圧が印加される吐出電極35・36が、それぞれ独立して備えられている。つまり、図4(b)に示すように、吐出電極35は、流体供給路2の外壁部7の外表面上に備えられ、吐出電極36は、流体供給路3の外壁部7の外表面上に備えられる。そして、上記吐出電極35・36は、互いに独立して(絶縁された状態にて)備えられている。
上記吐出電極35・36は、導電材料であればよく、その材質は特に限定されない。また、上記吐出電極35・36は、ノズル先端部1に対して密着性が高く、低抵抗材料であることが好ましい。
上記吐出電極35・36の作製方法は、特に限定されず、一般的な真空蒸着、スパッタ蒸着、めっき等で容易に作製することができる。また、電極形成時に吐出電極35・36がノズル先端部1の吐出孔を塞がないように、電極形成時のノズルの設置方向、および吐出電極35・36の膜厚等を適宜調節することが好ましい。具体的には、吐出電極35・36の膜厚はノズル先端部1の孔径の10分の1以下に設定することが好ましい。また、ノズル先端部1が必然的に塞がる条件下では、電極形成後にレーザ等による穴あけ加工を行うことが好ましい。上記穴あけ加工は、適宜、公知の方法を用いて行うことができる。
次に、図5に、本実施の形態の静電吸引型流体吐出装置のノズルにてインクを吐出させた時の吐出応答性を示す。なお、上記吐出応答性とは、インクを吐出するために必要な最低周波数を意図する。比較するノズルとしては、実施の形態1にて説明したインク供給路内に吐出電極(ワイヤ電極:吐出電極径は50μm)を有するノズルを用いた。なお、ノズル先端部1の孔径は、それぞれ1.2μmとした。図5に示すように、実施の形態1に記載の静電吸引型流体吐出装置に比べ、ノズル先端部の外壁部に電極を配置することで小さな周波数でもインクを吐出することができることが確認できる。これは、液滴の吐出応答性の決定因子が、吐出電極とノズル先端部との間の距離であることに起因する。つまり、吐出電極とノズル先端部との間の距離が最も短い本実施の形態の構成が、吐出電極からノズル先端部のメニスカスに電荷を迅速に供給するのに適している。
また、本実施の形態の静電吸引型流体吐出装置では、複数の流体を混合させながら微小パターンの形成を行うことができるだけでなく、その吐出材料の吐出応答性を材料物性に依存することなく高めることができ、高速吐出を行うことができる。
〔実施の形態4〕
本発明の他の実施の形態について図6に基づいて説明すれば、以下の通りである。なお、本実施の形態において説明した構成以外の構成は、実施の形態3と同じである。また、説明の便宜上、実施の形態3の図面に示した部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
図6は、本発明の他の実施の形態の静電吸引型流体吐出装置のノズルの縦断面図である。本実施の形態の静電吸引型流体吐出装置では、上記実施の形態3で説明した構成に加えて、流体供給路2・3の合流部を囲むノズルの外壁部7の内面および隔壁部8における前記合流部近傍の領域が、ノズル形成材料よりも高い撥水性を有する撥水性膜(撥水層)40によってコートされている。なお、流体供給路2・3の合流部を囲むノズルの外壁部7の内面が少なくともコートされていれば、所望の効果が得られる。また、上記撥水性膜40は、上記吐出電極35、36を覆うように備えられることが好ましい。
上記撥水性膜40の材質は、ノズル形成材料よりも高い撥水性を有するものであればよく、特に限定されない。上記撥水性膜40は、金属酸化物またはフッ素樹脂材料であることが好ましい。上記撥水性膜40を形成する方法は、特に限定されるものではなく、適宜公知の方法を用いることができる。例えば、撥水性膜40が酸化チタン等の金属酸化物である場合、CVD(chemical vapor deposition)等による蒸着によって形成することができる。また、撥水性膜40がフッ素樹脂材料である場合、ディッピング等によって形成することができる。
蒸着によって撥水性膜40を形成する場合、蒸着時のノズルの設置方向、および撥水性膜40の膜厚等を適宜調節することが好ましい。具体的には、撥水性膜40の膜厚はノズル先端部1の孔径の10分の1以下に設定することが好ましい。また、ノズル先端部1の吐出孔が撥水性膜40によって必然的に塞がれる条件下では、膜形成後にレーザ等による穴あけ加工を行うことが好ましい。上記穴あけ加工は、適宜、公知の方法を用いて行うことができる。また、蒸着によって撥水性膜40を形成する場合、蒸着処理を行うことができるノズル内部の深さに限界があるため、流体供給路の合流部をできる限りノズル先端部1の吐出孔に近づけることが望ましい。一方、ディッピングによって撥水性膜40を形成する場合、まず、ノズル先端部1を撥水性材料を含有する溶液内に入れる。これによって、ノズル内部の毛細管現象により、ノズル内に溶液が進入する。そして、その後外部圧力を付与して、ノズル先端部1から、ノズルに進入した溶液を放出しながら上記合流部へのコートを行うことができる。
以上のように上記合流部を撥水性材料にてコートすることによって、流体に対しての濡れ性が悪くなる。つまり、ノズル内部に流体が収容されている時、その広がりを抑制することができる。本実施の形態の静電吸引型流体吐出装置のノズルの場合、複数のインクをノズル内に収容するため、インクの広がりによる混合は、正確且つ安定な吐出を行う上で大きな悪影響を及ぼす。そこで、本実施の形態に示すように合流部に撥水材料をコートすることで、不吐出時のインクの混合を抑制することができ、より正確且つ安定な吐出を行うことが可能となる。
さらに、図6に示すように、本実施の形態の静電吸引型流体吐出装置のノズルは、ノズル先端部1の外壁部に設けられた吐出電極上に絶縁性の撥水材料をコートすることにより放電抑制効果を得ることができる。その結果、高電圧印加時に電界集中による空気の絶縁破壊を抑制し、ノズルが破損することを防ぐことができる。
〔実施の形態5〕
本発明の他の実施の形態について図7に基づいて説明すれば、以下の通りである。なお、本実施の形態において説明すること以外の構成は、実施の形態4と同じである。また、説明の便宜上、実施の形態4の図面に示した部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
図7は、本発明の他の実施の形態の静電吸引型流体吐出装置のノズルの縦断面図である。本実施の形態の静電吸引型流体吐出装置では、上記実施の形態4で説明した構成に加えて、さらに流体供給路2・3内を加圧または減圧するために圧力制御装置50・51(外部圧力付与手段)が備え付けられている。圧力制御装置50・51は、流体供給路2・3内を加圧または減圧しえるものであればよく、適宜、公知の構成を用いることができる。
図7に示すように、圧力制御装置50・51は、ノズルの吐出上流方向に連結部55・56を介してインク供給路2・3に連結されている。圧力制御装置50・51は、正圧、負圧の両方を与えることができる。例えばノズルの孔径が約1μmである場合、−100kPa〜+100kPaの圧力範囲で制御できることが好ましい。
次に、圧力制御装置50・51によって圧力制御した際の利点について説明する。図8に、圧力制御装置によって流体供給路内を加圧または減圧した場合の最低吐出電圧の変化を示す。図8に示すように、吐出時の圧力を正圧にすることで、吐出電圧を低下させることができる。また逆に、吐出圧力を負圧にすることで、吐出電圧を上昇させることが可能である。これは、逆に電圧を一定にして吐出圧力を変化させた場合、圧力によって吐出量を変化させることができることを意味している。このように、電圧変化させなくても、吐出量、つまりインク供給量を制御することができる。
さらに、図9に圧力制御した場合の別の吐出電圧特性を示す。上記吐出電圧特性は、任意の不吐出時間が経過した後に流体を再吐出させたとき、再吐出のために必要な追加電圧を再吐出電圧として示したグラフである。このように、吐出させない不吐出時に負圧を与えておくことで、追加電圧分である再吐出電圧を低下させることができる。これは、負圧を与えるとメニスカスがノズル内部に移動するためであり、メニスカスが乾燥して微粒子が凝集、析出して目詰まりが発生することを抑制するためである。また、メニスカスをノズル内部に移動させることによって、別のインク供給路に収容されたインクとの間で混ざり合いが進行するのを抑制する効果もある。以上のように、待機時に負圧を与えることにより、ノズルの目つまりを抑制したり、他のインクとの混ざり合いを抑制したりすることができる。
また、外部圧力の使用については、図7に示す吐出制御部10・11の設置面積が確保できない場合に特に有効である。この場合、吐出制御部10・11が無くても外部より正圧を与えることによりインクの供給ができる。また、隣接する吐出制御部10・11間の距離が小さいと隣接する吐出制御部10・11が互いに影響しあって誤動作する可能性がある。しかし、吐出制御部10・11を設けずに圧力のみで吐出させるインク供給路を設けて、隣接する吐出制御部10・11間の距離を大きくすることで、影響を低減することができる。
以上本構成では、圧力制御機構を各インク供給路に対して独立に設けることで、吐出量の制御、ノズル孔の目づまりの抑制、他のインクとの混ざり合い抑制、さらに隣接する吐出制御部間での影響低減を実現することができる。
なお、本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。