JP4393693B2 - ディーゼルエンジン油組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、長寿命なディーゼルエンジン油組成物に関し、さらに詳しくは、多量の油中スーツ存在下においても優れた摩耗防止性能を発揮し、長期間の使用においても優れた酸化安定性と清浄性を有するディーゼルエンジン油組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、ディーゼルエンジンは高出力化や省燃費化に加えて、一段と厳しくなるディーゼル排気ガス規制に対応するため燃焼性の改善や排気ガス還流装置(EGR)の導入が進んでいる。この様なディーゼルエンジンの改良に対応すべく、ディーゼルエンジン油に対しても高性能化が求められている。また、環境保護の観点からディーゼルエンジン油の更油期間延長による廃油量の低減が強く望まれている。ディーゼルエンジンに装着されるEGRは油中スーツを増加させることが知られている。同様に更油期間の延長も、結果的に油中スーツ量を増加させることになる。近年の高級ディーゼルエンジン油は多量な無灰型分散剤を添加し、油中スーツを微細粒子状態で分散させている。しかし、油中スーツはエンジン各部位の摩耗を促進させる傾向があるため、長期にわたって十分な耐摩耗性を維持することは難しく、更油期間の延長を図るには解決すべき課題である。同時に、更油期間の延長には優れた酸化安定性と清浄性も兼ね備える必要がある。
【0003】
従来、ディーゼルエンジン油の耐摩耗性向上には、特定のカルシウムサリシレートとプライマリー型ジチオリン酸亜鉛、およびモリブテンジアルキルジチオホスフェートの組み合わせ(特開平7−207290号公報)、特定の塩基価をもつサリシレートならびに、特定の塩基価をもつサリシレートおよび/または特定のスルホネートによる組み合わせ(特開平11−80771号公報)、親油基部分のアルキルベンゼンが特定構成の合成系スルホネートと特定のアルケニルこはく酸イミドの硼素化合物誘導体、炭素数3〜6のアルキル基を持つジアルキルジチオリン酸亜鉛、および有機モリブテン化合物の組み合わせ(特開2000−119680号公報)、硫化オキシモリブテンジチオカルバメートとジアルキルジチオリン酸亜鉛の組み合わせ(特開2000−186293号公報)などが考案されている。また、酸化安定性の向上には、特定のサリシレートと特定のフェネートによる組み合わせ(特開平11−29784号公報)、特定のスルホネート、特定のサリシレート、無灰型分散剤、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、フェノール系酸化防止剤の組み合わせ(特開2000−192069号公報)などが考案されている。しかしながら、更油期間の延長に必要不可欠である多量の油中スーツ存在下における十分な摩耗防止性能と、優れた酸化安定性および清浄性を同時に兼ね備えたディーゼルエンジン油には至っていない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記従来技術の状況に鑑み、多量の油中スーツ存在下においても優れた摩耗防止性能を発揮し、長期間の使用においても優れた酸化安定性と清浄性を有するディーゼルエンジン油組成物を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、鉱油系潤滑油もしくは合成系潤滑油あるいは両者の混合物の基油に、有機モリブデン化合物、特定のジアルキルジチオリン酸亜鉛、特定の天然系アルカリ土類金属スルホネート、および特定のアルカリ土類金属サリシレートを特定量配合することにより、多量の油中スーツ存在下においても優れた摩耗防止性能と優れた酸化安定性および清浄性を兼ね備え、更油期間を著しく延長できるディーゼルエンジン油組成物が得られることを見出し、この知見に基づき本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、鉱油系潤滑油もしくは合成系潤滑油あるいは両者の混合物の基油に、(A)モリブデンジチオカーバメートをMo量にして100〜480重量ppm、(B)炭素数3のセカンダリータイプのアルキル基を分子中に少なくとも1つ有し、残りのアルキル基は炭素数4〜12のプライマリータイプであるジアルキルジチオリン酸亜鉛をZn量にして500〜2000重量ppm、(C)金属型清浄剤として、親油基部分が天然原料からなる塩基価20〜350mgKOH/gのアルカリ土類金属スルホネートをアルカリ土類金属量で0.03〜2重量%、および(D)金属型清浄剤として、塩基価20〜200mgKOH/gのアルカリ土類金属サリシレートをアルカリ土類金属量で0.03〜2重量%含有することを特徴とするディーゼルエンジン油組成物を提供するものである。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明のディーゼルエンジン油組成物における必須成分の一つである(A)有機モリブデン化合物の配合量は、Mo量で100〜700重量ppm、好ましくは200〜600重量ppm、さらに好ましくは300〜500重量ppmである。配合量が少ないと優れた耐摩耗性効果が得られない。多すぎると配合量に見合った耐摩耗性効果が得られないばかりか、エンジン内部においてスラッジの生成や、酸化安定性の低下、および清浄性を損なう恐れがある。
【0008】
上記有機モリブデン化合物の具体例としては、モリブデンジチオカーバメート、モリブデン酸アミン塩、モリブデンジチオフォスフェートが挙げられる。モリブデンジチオカーバメートは下記一般式(1)で表される。
【0009】
【化1】
【0010】
(式中、R1〜R4は炭素数6〜18の炭化水素基であり、飽和炭化水素でも不飽和炭化水素でもよい。具体例としては、ヘキシル基、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、ヘキサデシル基、ノニル基、2−エチルヘキシル基、イソトリデシル基、ラウリル基等のアルキル基、アルキルアリール基、アリールアルキル基が挙げられ、上記4つのRは各々同一でも異なっていてもよい。X1、X2、Y1、およびY2は、酸素原子またはイオウ原子であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。)
【0011】
また、モリブデンジチオフォスフェートは、下記一般式(2)で表される。
【0012】
【化2】
【0013】
(式中、R5〜R8は炭素数6〜18の炭化水素基であり、4個のRは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。 X1、X2、Y1およびY2は、上記したとおりである。)
【0014】
また、モリブデン酸アミン塩は、下記一般式(3)で表される。
【0015】
【化3】
【0016】
(式中、R9〜R10は炭素数6〜18の炭化水素基であり、2個のRは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。)
【0017】
これらの有機モリブデン化合物はそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0018】
本発明のディーゼルエンジン油組成物における必須成分の他の一つである(B)セカンダリータイプの炭素数が3個のアルキル基を分子中に少なくとも1つ有するジアルキルジチオリン酸亜鉛は、下記一般式(4)で表される。
【0019】
【化4】
【0020】
(式中、Rはセカンダリータイプの炭素数3のアルキル基を示す。Rは同一でも異なってもよい。異なる場合の残りのアルキル基は炭素数4〜12のプライマリータイプであり、好ましくはプライマリータイプの炭素数4〜8のアルキル基、さらに好ましくはプライマリータイプの炭素数4〜5のアルキル基が良い。)
【0021】
上記ジアルキルジチオリン酸亜鉛の配合量は、Zn量で500〜2000重量ppm、好ましくは800〜1700重量ppm、さらに好ましくは1000〜1500重量ppmである。添加量が少ないと優れた耐摩耗性効果が得られない。多すぎると添加量に見合った耐摩耗性効果が得られないばかりか、酸化安定性の低下を招く恐れがある。
【0022】
本発明のディーゼルエンジン油組成物における必須成分のさらに他の一つである(C)親油基部分が天然原料からなる塩基価20〜350mgKOH/gのアルカリ土類金属スルホネートとしては、一般にアルキルベンゼン類を発煙濃硫酸またSO3ガスによりスルホン化したのち、金属塩に変換して製造されたものが用いられる。原料となるアルキルベンゼン類は鉱油の潤滑油留分から得られるアルキルベンゼンを使用することが肝要である。合成アルキルベンゼン、およびジノニルナフタレンを原料とした場合の合成系アルカリ土類金属スルホネートは清浄性が劣るため好ましくない。このアルカリ土類金属スルホネートのアルカリ土類金属としては、カルシウム、マグネシウムおよびバリウムが好適に用いられる。塩基価は、過塩素酸法による全塩基価が20〜350mgKOH/g、好ましくは150〜350mgKOH/g、さらに好ましくは250〜350mgKOH/gである。塩基価が20mgKOH/g未満の場合は所要添加量が多くなり、酸化安定性および耐摩耗性が低下するため好ましくなく、また塩基価が350mgKOH/gを超える場合は他の添加剤との相互作用により沈殿を生成する恐れがあるため好ましくない。これらのアルカリ土類金属スルホネートは、1種類単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
上記アルカリ土類金属スルホネートの配合量は、アルカリ土類金属量で0.03〜2重量%、好ましくは0.06〜1重量%、さらに好ましくは、0.1〜0.5重量%である。アルカリ土類金属スルホネートの配合量が少な過ぎると清浄性が悪くなり、逆に多過ぎても酸化安定性の低下を招く恐れがある。
【0024】
本発明のディーゼルエンジン油組成物における必須成分のなおさらに他の一つである(D)塩基価20〜200mgKOH/gのアルカリ土類金属サリシレートは、炭素数10〜18のαーオレフィンでフェノールをアルキル化し、次いでコルベ−シュミット反応でカルボキシル基を導入した後、複分解などによりアルカリ土類金属塩としたものが使用される(イギリス特許第734,598号明細書、イギリス特許第734,622号明細書など参照)。アルカリ土類金属サリシレートは、ディーゼルエンジン油組成物に用いるためには過塩基性のものが好ましく、塩基価は過塩素酸法による全塩基価が100mgKOH/g以上が好ましく、特に150〜200mgKOH/gが好ましい。このアルカリ土類金属サリシレートのアルカリ土類金属としては、カルシウム、マグネシウムおよびバリウムが好適に用いられる。これらのアルカリ土類金属サリシレートは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
上記アルカリ土類金属サリシレートの配合量は、アルカリ土類金属量で0.03〜2重量%、好ましくは0.06〜1重量%、さらに好ましくは、0.1〜0.5重量%である。アルカリ土類金属サリシレートの配合量が少な過ぎると酸化安定性が悪くなり、逆に多過ぎても清浄性が低下する恐れがあるので好ましくない。
【0026】
本発明においては、上記必須成分を鉱油系潤滑油もしくは合成系潤滑油あるいは両者の混合物からなる基油に配合する。これらの基油の粘度は、40℃における動粘度として、通常0.1〜250mm2/sであればよく、好ましくは10〜150mm2/sであり、特に好ましくは20〜120mm2/sである。また、粘度指数は、50〜200であればよく、好ましくは80〜160である。鉱油系潤滑油としては、例えば鉱油系潤滑油留分を溶剤精製、水素化精製など適宜組み合わせて精製したものを用いればよい。また、合成系潤滑油としては、例えば炭素数3〜12のα−オレフィンの重合体であるα−オレフィンオリゴマー、ジオクチルセバケートを始めとするセバケート、アゼレート、アジペートなどの炭素数4〜12のジアルキルジエステル類、1−トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールと炭素数3〜12の一塩基酸から得られるエステルを始めとするポリオールエステル類、炭素数9〜40のアルキル基を有するアルキルベンゼン類などが挙げられる。上記鉱油系潤滑油および合成系潤滑油はそれぞれ1種単独であるいは2種以上を混合して使用することができる。
【0027】
本発明のディーゼルエンジン油組成物においては、上記した必須成分の他に、必要に応じて各種公知の添加剤、例えば、アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ土類金属フェネート、アルカリ土類金属サリシレート、アルカリ土類金属ホスホネートなどの金属系清浄剤;アルケニルこはく酸イミド、アルケニルこはく酸イミド硼素化変性物、ベンジルアミン、アルキルポリアミンなど他の無灰型分散剤;リン系、硫黄系、アミン系、エステル系などの各種摩耗防止剤;ポリメタクリレート系、エチレンプロピレン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体の水素化物あるいはポリイソブチレン等の各種粘度指数向上剤;2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾールなどのアルキルフェノール類、4,4’−メチレンビス−(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)などのビスフェノール類、n−オクタデシル−3−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェノール)プロピオネートなどのフェノール系化合物、ナフチルアミン類やジアルキルジフェニルアミン類などの芳香族アミン化合物などの各種酸化防止剤;硫化オレフィン、硫化油脂、メチルトリクロロステアレート、塩素化ナフタレン、ヨウ素化ベンジル、フルオロアルキルポリシロキサン、ナフテン酸鉛などの極圧剤;ステアリン酸を始めとするカルボン酸、ジカルボン酸、金属石鹸、カルボン酸アミン塩、重質スルホン酸の金属塩、多価アルコールのカルボン酸部分エステル、リン酸エステルなどの各種錆止め剤;ベンゾトリアゾール、ベンゾイミダゾールなどの各種腐食防止剤;シリコーン油などの各種消泡剤などを1種単独または2種以上組み合わせて適宜配合することができる。
【0028】
本発明のディーゼルエンジン油組成物の調製方法は、基油、上記必須成分および必要に応じて各種添加剤を適宜混合すればよく、その混合順序は特に限定されるものではなく任意である。例えば、基油に必須成分を順次混合してもよく、必須成分を予め混合した後基油に混合してもよい。さらに、各種添加剤についても、予め基油に添加してもよく、必須成分に添加してもよい。
【0029】
【実施例】
次に、本発明を実施例および比較例によりさらに詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例によっては何等限定されるものではない。
【0030】
実施例1〜5、比較例1〜8
下記の基油、必須成分およびその他の添加剤を表1(実施例)または表2(比較例)に示す割合で配合してディーゼルエンジン油組成物を調製した。なお、表1および表2中の基油の割合「バランス」とは、当該組成物に配合されている全成分の合計量が100重量%になるように基油の量を設定した意味である。
【0031】
基油、必須成分およびその他の添加剤
1.基油
40℃の動粘度が34.0mm2/s、100℃の動粘度が6.16mm2/s、粘度指数125の鉱油系潤滑油基油を使用した。
2.有機モリブデン化合物
炭素数8と13のアルキル基を持ち、上記一般式(1)におけるXが酸素原子、Yがイオウ原子であるモリブデンジチオカーバメートを使用した。
3.ジアルキルジチオリン酸亜鉛1
分子中に炭素数が3のセカンダリータイプのアルキル基と炭素数4、5のプライマリータイプのアルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛を使用した。
4.ジアルキルジチオリン酸亜鉛2
比較するために、分子中に炭素数が3と6のセカンダリータイプのアルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛を使用した。
5.ジアルキルジチオリン酸亜鉛3
比較するために、分子中に炭素数が8のプライマリータイプのアルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛を使用した。
6.アルカリ土類金属スルホネート1
親油基部分が天然原料からなる塩基価300mgKOH/gのカルシウムスルホネートを使用した。塩基価は、JIS−K−2501−7により測定した値である。カルシウム量は12.0重量%である。
7.アルカリ土類金属スルホネート2
比較するために、親油基部分が合成アルキルベンゼンからなる塩基価300mgKOH/gのカルシウムスルホネートを使用した。塩基価は、JIS−K−2501−7により測定した値である。カルシウム含有量は12.0重量%である。
8.アルカリ土類金属サリシレート1
塩基価170mgKOH/gのカルシウムサリシレートを使用した。塩基価は、JIS−K−2501−7により測定した値である。カルシウム含有量は5.8重量%である。
9.アルカリ土類金属サリシレート2
比較するために、塩基価270mgKOH/gのカルシウムサリシレートを使用した。塩基価は、JIS−K−2501−7により測定した値である。カルシウム含有量は10.4重量%である。
10.その他の添加剤
下記の添加剤を適宜配合したものを使用し、表1、2にはその合計配合量を示した。
(1)無灰型分散剤:アルケニルこはく酸イミドまたは/およびアルケニルこはく酸イミド硼素化変性物で、ともに、ビスタイプのポリアルケニルコハク酸イミドでブテニル基の分子量が約1000〜1500程度のもの。
(2)酸化防止剤:ヒンダードフェノール。
(3)粘度指数向上剤:ポリアルキルメタクリレート。
(4)腐食防止剤: チアジアゾールポリスルフィド。
【0032】
比較例9、10
2種類の市販ディーゼルエンジン油を試料として用いた。市販油1はAPI−CE級の油であり、市販油2はAPI−CF級の油である。
【0033】
実施例1〜5および比較例1〜8で調整したディーゼルエンジン油組成物、および比較例9〜10の市販のディーゼルエンジン油の性能を以下に示す性能試験によって評価した。その結果を表1(実施例)または表2(比較例)に示した。
【0034】
評価試験
(1)耐摩耗性の評価試験
シェル四球試験機にて動弁部品の耐摩耗性を評価した。試験条件は回転数1800rpm、試験時間1min、油温はなりゆきとした。荷重は50、56、63、71、80、89、100、112、126、142、160kgfに増加させて、摩耗痕径が0.6mmを超える時の荷重を測定した。この荷重が大きいほど耐摩耗性に優れることを示す。
(2)酸化安定性試験
試験はJIS K 2514−4に規定してある内燃機関用潤滑油酸化安定度(ISOT)に準拠して行い、試験温度165.5℃、試験時間96時間である。酸化安定性を塩基価保持率により評価した。塩基価保持率は、塩酸法による塩基価(JIS K 2501−6)を使用し、新油の塩基価に対する試験後油の塩基価の百分率で表した。塩基価保持率は大きいほど長寿命性を有している。
(3)高温清浄性試験
試験はJPI−5S−55−99に規定してあるホットチューブ試験方法に準拠して行い、試験温度は300℃、A法(0〜10点の評点法)で評価した。なお、無色透明(汚れなし:清浄性良好)を10点、黒色固化を0点としている。
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
【0037】
表1から明らかなように、実施例1〜5の本発明によるディーゼルエンジン油組成物は、いずれも耐摩耗性評価において試験荷重126kgf以上を示している。この126kgf以上の試験荷重は非常に過酷な試験条件であり、これまでの市販油では初期焼き付きが必ず発生している。本発明によるディーゼルエンジン油組成物では焼き付きは全く発生しておらず、従来にない非常に優れた耐摩耗性を示している。また、35%以上の塩基価保持率であり優れた酸化安定性を有している。更に高温清浄性評価においても8点以上の優れた清浄性を有している。本発明の優れた効果は、成分(A)の有機モリブテン化合物、成分(B)のジアルキルジチオリン酸亜鉛、成分(C)のアルカリ土類金属スルホネート、および成分(D)のアルカリ土類金属サリシレートを特定量併用することによって初めて実現できたものである。このことを以下に比較例1〜10を用いて説明する。
【0038】
比較例1:成分(A)を配合していないこと以外は、実施例1と同様な組成物である。酸化安定性と清浄性は実施例1と同程度の性能を示しているが、耐摩耗性は著しく低下している。
比較例2、3:成分(B)の代わりに、他のジアルキルジチオリン酸亜鉛化合物を配合したこと以外は、実施例1と同様な組成物である。比較例2は耐摩耗性、酸化安定性、および清浄性が著しく低下している。比較例3の酸化安定性と清浄性は実施例1と同程度の性能を示しているが、耐摩耗性は著しく低下している。
比較例4:成分(B)を本発明で規定した配合量以下に低減させた以外は、実施例1と同様な組成物である。酸化安定性と清浄性は実施例1よりやや低下した程度に留まっているが、耐摩耗性は著しく低下している。
比較例5:成分(A)を本発明で規定した配合量以上に増加させた以外は、実施例1と同様な組成物である。耐摩耗性は実施例1よりやや低下した程度に留まっているが、酸化安定性と清浄性は著しく低下している。
比較例6:成分(C)と成分(D)の代わりに、他のアルカリ土類金属スルホネートを配合した以外は、実施例1と同様な組成物である。耐摩耗性は実施例1よりやや低下した程度に留まっているが、酸化安定性と清浄性は著しく低下している。
比較例7:成分(C)と成分(D)の代わりに、他のアルカリ土類金属サリシレートを配合した以外は、実施例1と同様な組成物である。酸化安定性は良好であるが、耐摩耗性と清浄性は著しく低下している。
比較例8:成分(C)の代わりに、成分(D)とは別のアルカリ土類金属サリシレートを配合した以外は、実施例1と同様な組成物である。酸化安定性は良好であるが、耐摩耗性と清浄性は著しく低下している。
比較例9:耐摩耗性、酸化安定性および清浄性は、実施例1〜5と比較して劣っていることがわかる。
比較例10:酸化安定性と清浄性は実施例1と同程度の性能を示しているが、耐摩耗性は著しく低下している。
【0039】
上記各比較例から分かるように、本発明の所期の目的を達成するためには、本発明に規定する特定の成分(A)の有機モリブテン化合物、成分(B)のジアルキルジチオリン酸亜鉛、成分(C)のアルカリ土類金属スルホネートおよび成分(D)のアルカリ土類金属サリシレートを特定量併用することが重要であり、本発明が目的とする優れた性能のディーゼルエンジン油組成物は、本発明によって初めて実現できたものである。
【0040】
さらに本発明の効果を図1によって説明する。図1は実施例1と比較例9のディーゼルエンジン油組成物を、複数の実車両で使用した場合の油中スーツ増加量と油中鉄分の量の関係を示したものである。なお、油中スーツ増加量とは、スーツ量と相関がある残留炭素分の新油時からの増加量である。残留炭素分は、JIS K2270に規定されるコンラドソン法による測定値である。油中鉄分量は、JPI−5S−44−95に規定されるICP発光分析法による測定値である。実施例1と比較例9に用いた車両は同一エンジン形式であり、国産製の排気量13000ccクラスのものである。通常、車両の走行距離が増すと油中スーツ量は増える傾向にある。また、油中鉄分もエンジン内部の摩耗により増加する傾向にある。この時、油中スーツは摩耗を促進させる傾向があるため、ディーゼルエンジン油の油中スーツ存在下における耐摩耗性能の差によって、油中鉄量の増加傾向に違いが現れる。すなち、多量の油中スーツの存在下においても、優れた耐摩耗性を有するディーゼルエンジン油の場合、エンジン内部の摩耗を低減でき油中鉄分量の増加は小さいものとなる。図1に示した結果から、実施例1は比較例9と比べて油中鉄分の増加傾向は1/2以下になっており、多量の油中スーツの存在下においても優れた耐摩耗性を有し、更油期間の延長が可能なことが分かる。
【0041】
【発明の効果】
本発明によれば、多量の油中スーツ存在下においても優れた摩耗防止性能を発揮し、長期間の使用においても優れた酸化安定性と清浄性を有するディーゼルエンジン油組成物が提供される。本発明のディーゼルエンジン油組成物は、更油期間の延長に関して、実用上極めて有効である。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1および比較例9の各ディーゼルエンジン油組成物を複数の実車両で使用した場合の油中スーツ増加量と油中鉄分の量の関係を示した図である。
Claims (1)
- 鉱油系潤滑油もしくは合成系潤滑油あるいは両者の混合物の基油に、(A)モリブデンジチオカーバメートをMo量にして100〜480重量ppm、(B)炭素数3のセカンダリータイプのアルキル基を分子中に少なくとも1つ有し、残りのアルキル基は炭素数4〜12のプライマリータイプであるジアルキルジチオリン酸亜鉛をZn量にして500〜2000重量ppm、(C)金属型清浄剤として、親油基部分が天然原料からなる塩基価20〜350mgKOH/gのアルカリ土類金属スルホネートをアルカリ土類金属量で0.03〜2重量%、および(D)金属型清浄剤として、塩基価20〜200mgKOH/gのアルカリ土類金属サリシレートをアルカリ土類金属量で0.03〜2重量%含有することを特徴とするディーゼルエンジン油組成物。
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