JP4372962B2 - 有機−無機複合積層構造体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、有機−無機複合積層構造体に関する。さらに詳しくは、本発明は、有機基材と無機系材料層とが、膜厚の薄い接合膜を介して密着性よく積層された構造を有し、かつ該有機基材と無機系材料層の熱膨張率の差が大きくとも、熱負荷による該無機系材料層の割れや剥がれなどが発生しにくい有機−無機複合積層構造体に関するものである
【0002】
【従来の技術】
従来、有機基材上に、金属系化合物や金属、合金などの無機系材料、例えば光触媒活性材料、導電性材料、ハードコート材料、反射防止材料、光記録材料、赤外線吸収材料、ガスバリアー材料などからなる層を設け、機能性材料を作製することが広く行われている。
【0003】
有機基材上に、このような無機系材料層を設ける場合、一般に、有機基材と無機系材料層との密着性を良好なものとするために、有機基材および無機系材料の両方に対して密着性がよい接合剤からなる層が、中間層として設けられる。そして、該有機基材と無機系材料層の線膨張係数が大きく異なる場合には、熱負荷による無機系材料層の割れや剥がれなどを防止するために、中間的な線膨張係数を有する接合剤からなる層を、数μm程度の厚みで設けるのが一般的である。
【0004】
上記接合剤としては、例えば有機高分子材料、有機高分子化合物と無機酸化物の微粉体との混合材料、有機−無機ハイブリッド材料などが用いられる。このような接合剤からなる層の厚みは、コスト面から考えると薄い方がよいが、あまり薄すぎると有機基材と無機系材料層の熱膨張率の差を緩和する効果が十分に発揮されないので、1μm以上の膜厚にせざるを得ないのが実状である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような事情のもとで、有機基材と無機系材料層とが、膜厚の薄い接合膜を介して密着性よく積層された構造を有し、かつ該有機基材と無機系材料層の熱膨張率の差が大きくとも、熱負荷による該無機系材料層の割れや剥がれなどが発生しにくい有機−無機複合積層構造体を提供することを目的とするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、先に、新規な機能性材料として種々の用途、例えば塗膜や、有機材料と無機または金属材料との接着剤、有機基材と光触媒塗膜との間に設けられ、有機基材の劣化を防止する中間膜や、有機基材と無機系または金属系材料層との密着性を向上させる中間膜などの用途に有用な、厚さ方向に組成が連続的に変化する有機−無機複合傾斜材料を見出した(特願平11−264592号)。
この有機−無機複合傾斜材料は、有機高分子化合物と金属系化合物との化学結合物を含有する有機−無機複合材料であって、該金属系化合物の含有率が材料の厚み方向に連続的に変化する成分傾斜構造を有するものである。
【0007】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、接合膜として、上記の有機−無機複合傾斜材料を用いることにより、有機基材の線膨張係数が、無機系材料層の線膨張係数の2倍以上であっても、厚み100nm以下の該接合膜を介在させることによって、熱負荷による無機系材料層の割れや剥がれなどを十分に抑制することができ、その目的を達成しうることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、有機基材上に接合膜を介して無機系材料層が積層され、かつ上記有機基材の線膨張係数が該無機系材料層の線膨張係数の2倍以上である有機−無機複合積層構造体であって、上記接合膜が、厚み100nm以下であり、かつ有機高分子化合物と金属酸化物系化合物とが化学的に結合した複合体を含み、有機基材に当接している面が実質上有機高分子化合物成分であると共に、無機系材料層に当接している面が実質上金属系化合物成分であって、膜中の金属系化合物の含有率が、膜表面から深さ方向に連続的に変化する成分傾斜構造を有する有機−無機ハイブリッド膜からなり、
上記有機高分子化合物が、一般式(II)
【化3】
(式中、R 2 は水素またはメチル基、Aはアルキレン基、R 1 は加水分解性基または非加水分解性基であるが、その中の少なくとも1つは加水分解により、金属酸化物化合物と化学結合しうる加水分解性基であることが必要であり、また、R 1 が複数の場合には、各R 1 はたがいに同一であってもよいし、異なっていてもよく、M 1 はケイ素原子、nはケイ素原子の価数4である)
で表される(メタ)アクリル酸エステルと一般式(III―a)
【化4】
(式中、R 3 は水素原子またはメチル基、R 4 は炭化水素基である)
で表されるエチレン性不飽和単量体とを共重合させて得られたものであり、
上記金属酸化物系化合物が、一般式(V)
M 2 R 7 m ・・・(V)
(式中、R 7 は加水分解性基または非加水分解性基であるが、少なくとも2つは加水分解性基であり、かつ少なくとも1つは、加水分解により、有機高分子系化合物と化学結合しうる加水分解性基であって、複数のR 7 はたがいに同一であってもよいし、異なっていてもよく、M 2 はケイ素原子、mはケイ素原子の価数4である)
で表される金属化合物の加水分解により得られたものであることを特徴とする有機−無機複合積層構造体を提供するものである。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明の有機−無機複合積層構造体(以下、単に「本発明の積層構造体」と称すことがある。)は、有機基材上に接合膜を介して無機系材料層が積層されてなるものである。
【0010】
上記有機基材としては特に制限はなく、例えばポリメチルメタクリレートなどのアクリル樹脂、ポリスチレンやABS樹脂などのスチレン系樹脂、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂、6−ナイロンや6,6−ナイロンなどのポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリイミド系樹脂、セルロースアセテートなどのセルロース系樹脂などからなる基材を挙げることができる。
【0011】
これらの基材は、その上に設けられる接合膜との密着性をさらに向上させるために、所望により、酸化法や凹凸化法などにより表面処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理などが挙げられ、また、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法などが挙げられる。これらの表面処理法は基材の種類に応じて適宜選ばれる。
なお、本発明における有機基材は、有機系材料以外の材料、例えば金属系材料、ガラスやセラミックス系材料、その他各種無機系または金属系材料からなる基材の表面に、有機系塗膜を有するものも包含する。
【0012】
本発明の積層構造体において、上記有機基材上に設けられる接合膜は、厚み100nm以下であり、かつ有機基材に当接している面が実質上有機高分子化合物成分であると共に、無機系材料層に当接している面が実質上金属系化合物成分である有機−無機ハイブリッド膜からなるものである。
【0013】
本発明においては、この接合膜の厚みは100nm以下で十分であり、有機基材の線膨張係数が無機系材料層のそれの2倍以上であっても、熱膨張率の差を緩和する効果が十分に発揮され、熱負荷による無機系材料層の割れや剥がれなどが抑制される。しかし、この接合膜があまり薄すぎると該効果が十分に発揮されないおそれがあるので、この接合膜の好ましい厚みは20〜100nmの範囲であり、特に30〜100nmの範囲が好適である。
【0014】
本発明の積層構造体においては、上記接合膜として、有機高分子化合物と金属酸化物系化合物とが化学的に結合した複合体を含み、膜中の金属系化合物の含有率が、膜表面から深さ方向に連続的に変化する成分傾斜構造を有する有機−無機ハイブリッド膜からなるものを用いることができる。
【0015】
このような有機−無機ハイブリッド膜は、例えば以下に示す方法により、効率よく形成することができる。
まず、(A)分子中に加水分解により金属酸化物と結合しうる金属含有基(以下、加水分解性金属含有基と称すことがある。)を有する有機高分子化合物と、(B)加水分解により金属酸化物系化合物を形成しうる金属化合物(以下、加水分解性金属化合物と称すことがある。)との混合物を加水分解処理せずに、または加水分解処理して塗工液を調製する。
【0016】
上記(A)成分である有機高分子化合物中の加水分解により金属酸化物と結合しうる金属含有基及び(B)成分である加水分解により金属酸化物系化合物を形成しうる金属化合物における金属としては、例えばケイ素、チタン、ジルコニウム及びアルミニウムの中から選ばれる少なくとも1種を好ましく挙げることができる。
【0017】
上記(A)成分である分子中に加水分解により金属酸化物と結合しうる金属含有基を有する有機高分子化合物は、例えば該金属含有基を有する単量体と金属を含まない単量体とを共重合又は縮重合させることにより、得ることができる。
【0018】
ここで加水分解により金属酸化物と結合しうる金属含有基としては、例えば一般式(I)
−M1R1 n-1 …(I)
(式中、R1は加水分解性基または非加水分解性基であるが、その中の少なくとも1つは加水分解により、(B)成分と化学結合しうる加水分解性基であることが必要であり、また、R1が複数の場合には、各R1はたがいに同一であってもよいし、異なっていてもよく、M1はケイ素、チタン、ジルコニウム、アルミニウムなどの金属原子、nは金属原子M1の価数である。)
で表される基を挙げることができる。
【0019】
上記一般式(I)において、R1のうちの加水分解により(B)成分と化学結合しうる加水分解性基としては、例えばアルコキシル基、イソシアネート基、塩素原子などのハロゲン原子、オキシハロゲン基、アセチルアセトネート基などが挙げられ、一方、(B)成分と化学結合しない非加水分解性基としては、例えば低級アルキル基、アリール基などが好ましく挙げられる。
【0020】
上記一般式(I)で表される金属含有基としては、例えば、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリ−n−プロポキシシリル基、トリイソプロポキシシリル基、トリ−n−ブトキシシリル基、トリイソブトキシシリル基、トリ−sec−ブトキシシリル基、トリ−tert−ブトキシシリル基、トリクロロシリル基、ジメチルメトキシシリル基、メチルジメトキシシリル基、ジメチルクロロシリル基、メチルジクロロシリル基、トリイソシアナトシリル基、メチルジイソシアナトシリル基など、トリメトキシチタニウム基、トリエトキシチタニウム基、トリ−n−プロポキシチタニウム基、トリイソプロポキシチタニウム基、トリ−n−ブトキシチタニウム基、トリイソブトキシチタニウム基、トリ−sec−ブトキシチタニウム基、トリ−tert−ブトキシチタニウム基、トリクロロチタニウム基、さらには、トリメトキシジルコニウム基、トリエトキシジルコニウム基、トリ−n−プロポキシジルコニウム基、トリイソプロポキシジルコニウム基、トリ−n−ブトキシジルコニウム基、トリイソブトキシジルコニウム基、トリ−sec−ブトキシジルコニウム基、トリ−tert−ブトキシジルコニウム基、トリクロロジルコニウム基、またさらには、ジメトキシアルミニウム基、ジエトキシアルミニウム基、ジ−n−プロポキシアルミニウム基、ジイソプロポキシアルミニウム基、ジ−n−ブトキシアルミニウム基、ジイソブトキシアルミニウム基、ジ−sec−ブトキシアルミニウム基、ジ−tert−ブトキシアルミニウム基、トリクロロアルミニウム基などが挙げられる。
【0021】
この(A)成分の加水分解性金属含有基を有する有機高分子化合物としては、特に(A−1)分子中に加水分解により金属酸化物と結合しうる金属含有基を有するエチレン性不飽和単量体と、(A−2)金属を含まないエチレン性不飽和単量体とを共重合させて得られたものが好適である。
上記(A−1)成分である加水分解性金属含有基を有するエチレン性不飽和単量体としては、一般式(II)
【0022】
【化1】
【0023】
(式中、R2は水素原子またはメチル基、Aはアルキレン基、好ましくは炭素数1〜4のアルキレン基、R1、M1およびnは前記と同じである。)
で表される金属含有基を含むアルキル基をエステル成分とする(メタ)アクリル酸エステルを挙げることができる。この(A−1)成分のエチレン性不飽和単量体は1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
一方、上記(A−2)成分である金属を含まないエチレン性不飽和単量体としては、例えば一般式(III)
【0025】
【化2】
【0026】
(式中、R3は水素原子またはメチル基、Xは一価の有機基である。)
で表されるエチレン性不飽和単量体、好ましくは一般式(III−a)
【0027】
【化3】
【0028】
(式中、R3は前記と同じであり、R4は炭化水素基を示す。)
で表されるエチレン性不飽和単量体、あるいは上記一般式(III)で表されるエチレン性不飽和単量体と、必要に応じて添加される密着性向上剤としての一般式(IV)
【0029】
【化4】
【0030】
(式中、R5は水素原子またはメチル基、R6はエポキシ基、水酸基、メルカプト基、アミノ基、ハロゲン原子若しくはエーテル結合を有する炭化水素基を示す。)
で表されるエチレン性不飽和単量体との混合物を挙げることができる。
【0031】
上記一般式(III−a)で表されるエチレン性不飽和単量体において、R4で示される炭化水素基としては、炭素数1〜10の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜10のアラルキル基を好ましく挙げることができる。炭素数1〜10のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、および各種のブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基などが挙げられる。炭素数3〜10のシクロアルキル基の例としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、シクロオクチル基などが、炭素数6〜10のアリール基の例としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、メチルナフチル基などが、炭素数7〜10のアラルキル基の例としては、ベンジル基、メチルベンジル基、フェネチチル基、ナフチルメチル基などが挙げられる。
【0032】
前記一般式(III)で表されるエチレン性不飽和単量体の例としては、一般式(III−a)で表される単量体、具体的にはメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートなどを好ましく挙げることができるが、これら以外にもスチレン、α−メチルスチレン、α−アセトキシスチレン、m−、o−またはp−ブロモスチレン、m−、o−またはp−クロロスチレン、m−、o−またはp−ビニルフェノール、1−または2−ビニルナフタレンなども用いることができる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
前記一般式(IV)で表されるエチレン性不飽和単量体において、R6で示されるエポキシ基、水酸基、メルカプト基、アミノ基、ハロゲン原子若しくはエーテル結合を有する炭化水素基としては、炭素数1〜10の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜10のアラルキル基を好ましく挙げることができる。上記置換基のハロゲン原子としては、塩素原子および臭素原子が好ましく、またアミノ基は遊離のアミノ基、モノアルキル置換アミノ基、ジアルキル置換アミノ基のいずれであってもよい。上記炭化水素基の具体例としては、前述の一般式(III−a)におけるR4の説明において例示した基と同じものを挙げることができる。
【0034】
この一般式(IV)で表されるエチレン性不飽和単量体の例としては、グリシジル(メタ)アクリレート、3−グリシドキシプロピル(メタ)アクリレート、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−メルカプトエチル(メタ)アクリレート、3−メルカプトプロピル(メタ)アクリレート、2−メルカプトプロピル(メタ)アクリレート、2−アミノエチル(メタ)アクリレート、3−アミノプロピル(メタ)アクリレート、2−アミノプロピル(メタ)アクリレート、2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、4−ジメチルアミノベンジル(メタ)アクリレート、2−クロロエチル(メタ)アクリレート、2−ブロモエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
また、一般式(III)で表されるエチレン性不飽和単量体と一般式(IV)で表されるエチレン性不飽和単量体とを併用する場合は、前者のエチレン性不飽和単量体に対し、後者のエチレン性不飽和単量体を1〜100モル%の割合で用いるのが好ましい。
前記(A−1)成分の加水分解性金属含有基を有するエチレン性不飽和単量体と(A−2)成分の金属を含まないエチレン性不飽和単量体とを、ラジカル重合開始剤の存在下、ラジカル共重合させることにより、所望の共重合体が得られる。
【0036】
一方、縮重合の例としては、上記エチレン性不飽和基の代わりに、縮合により高分子量化可能な基、例えば縮合によりアミド結合、エステル結合あるいはウレタン結合などを生成する2つ以上の官能基と前記一般式(I)で表される金属含有基とを有する単量体と、縮合により高分子量化可能な基、例えば縮合によりアミド結合、エステル結合あるいはウレタン結合などを生成する2つ以上の官能基を有し、かつ金属含有基を含まない単量体とを縮重合させる方法などにより、所望の高分子化合物が得られる。
【0037】
具体的には、いずれか一方の成分が前記一般式(I)で表される金属含有基を有するアミン成分と酸成分とを縮重合させ、ポリアミドを形成させる方法、あるいはいずれか一方の成分が前記一般式(I)で表される金属含有基を有するアルコール成分と酸成分とを縮重合させ、ポリエステルを形成させる方法などが挙げられる。
【0038】
一方、上記(B)成分である加水分解により金属酸化物系化合物を形成しうる金属化合物(加水分解性金属化合物)としては、例えば一般式(V)
M2R7 m …(V)
(式中、R7は加水分解性基または非加水分解性基であるが、少なくとも2つは加水分解性基であり、かつ少なくとも1つは、加水分解により(A)成分と化学結合しうる加水分解性基であって、複数のR7はたがいに同一であってもよいし、異なっていてもよく、M2はケイ素、チタン、ジルコニウム、アルミニウムなどの金属原子、mは金属原子M2の価数である。)
で表される金属化合物を挙げることができる。
【0039】
上記一般式(V)におけるR7のうちの加水分解性基としては、例えばアルコキシル基、イソシアネート基、塩素原子などのハロゲン原子、オキシハロゲン基、アセチルアセトネート基などが挙げられ、一方非加水分解性基としては、例えば低級アルキル基、アリール基、アルケニル基などが好ましく挙げられる。
この加水分解性金属化合物としては、上記一般式(V)で表される金属化合物から誘導されるオリゴマーや、一般式(V)で表される金属化合物を複数種混合したものも用いることができる。
【0040】
上記一般式(V)で表される金属化合物の例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトライソブトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、テトラ−tert−ブトキシシランなど、並びにこれらに対応するテトラアルコキシチタンおよびテトラアルコキシジルコニウム、さらにはトリメトキシアルミニウム、トリエトキシアルミニウム、トリ−n−プロポキシアルミニウム、トリイソプロポキシアルミニウム、トリ−n−ブトキシアルミニウム、トリイソブトキシアルミニウム、トリ−sec−ブトキシアルミニウム、トリ−tert−ブトキシアルミニウムなどの金属アルコキシド、あるいは金属アルコキシドオリゴマー、例えば市販品のアルコキシシランオリゴマーである「メチルシリケート51」、「エチルシリケート40」(いずれもコルコート社製商品名)など、さらにはテトライソシアナトシラン、メチルトリイソシアナトシラン、テトラクロロシラン、メチルトリクロロシランなどの金属イソシアネートや金属ハロゲン化物などが挙げられる。これらは単独で用いもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
本発明においては、(B)成分として金属アルコキシドを用いる場合にはアルコール、ケトン、エーテルなどの適当な極性溶剤中において、前記(A)成分の高分子化合物および(B)成分の金属アルコキシドの混合物を、塩酸、硫酸、硝酸などの酸、あるいは固体酸としてのカチオン交換樹脂を用い、通常0〜60℃、好ましくは20〜40℃の温度にて加水分解処理し、固体酸を用いた場合には、それを除去したのち、さらに、所望により溶剤を留去または添加し、塗布するのに適した粘度に調節して塗工液を調製する。温度が低すぎる場合は加水分解が進まず、高すぎる場合は逆に加水分解が進みすぎ、その結果得られる傾斜塗膜の傾斜性が低下するおそれがある。なお、(B)成分の金属アルコキシドを含む極性溶剤溶液を予め調製し、これに酸を加えて加水分解反応を進めておき、このものと(A)成分を混合し、さらに加水分解処理してもよい。
【0042】
また、(B)成分として、イソシアネート系金属化合物やハロゲン系金属化合物を用いる場合には、通常成膜前には加水分解処理は行わず、成膜時またはそれ以降において、空気中の水分により加水分解させる方法が用いられる。
【0043】
無機成分は、その種類によっては塗工液調製後も、加水分解、重縮合が徐々に進行して塗布条件が変動する場合があるので、塗工液に不溶の固体の脱水剤、例えば無水硫酸マグネシウムなどを添加することにより、ポットライフの低下を防止することができる。この場合、塗工液は、該脱水剤を除去してから、塗布に用いる。
【0044】
次に、このようにして得られた塗工液を用い、有機基材に、乾燥塗膜の厚さ、100nm以下、好ましくは20〜100nm、より好ましくは30〜100nmの範囲になるように、ディップコート法、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法などの公知の手段により塗膜を形成し、公知の乾燥処理、例えば40〜150℃程度の温度で加熱乾燥処理することにより、所望の傾斜構造を有する有機−無機ハイブリッド膜からなる接合膜が得られる。
【0045】
この有機−無機ハイブリッド膜は、表面層は実質上金属系化合物成分からなり、かつ該金属系化合物の含有率が深さ方向に連続的に減少していき、有機基材と当接している面は、実質上金属系化合物成分からなる成分傾斜構造を有している。
【0046】
このような成分傾斜構造の確認は、例えば、有機基材上に設けた有機−無機ハイブリッド膜表面に、スパッタリングを施して膜を削っていき、経時的に膜表面の炭素原子と金属原子の含有率を、X線光電子分光法などにより測定することによって、行うことができる。
【0047】
本発明の積層構造体は、このようにして有機基材上に設けられた有機−無機ハイブリッド膜からなる接合膜の表面に無機系材料層が積層された構造を有するものであって、該無機系材料層としては、特に制限はなく、積層構造体の用途に応じて適宜選択することができる。
【0048】
この無機系材料としては、例えば二酸化チタン、チタン酸バリウム(BaTi4O9)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、チタン酸ナトリウム(Na2Ti6O13)、二酸化ジルコニウム、硫化カドミウム、α−Fe2O3などの光触媒活性材料;酸化インジウム、酸化錫、酸化亜鉛、酸化カドミウム、ITO(インジウムチンオキシド)などの金属酸化物や、金、白金、銀、ニッケル、アルミニウム、銅などの金属からなる導電性材料;アルキルトリヒドロキシシランおよびその部分縮合物とコロイダルシリカとシリコン変性アクリル樹脂とからなる混合物、オルガノトリアルコキシシラン加水分解縮合物、アルコキシシラン加水分解縮合物とコロイダルシリカとの混合物、ジルコニウム、アルミニウムおよびチタニウムの中から選ばれる金属とキレート化合物とシリコン変性アクリル樹脂とからなる混合物などの無機系ハードコート材料;二酸化ケイ素などの反射防止材料;Tb−Fe、Tb−Fe−Co、Dy−Fe−Co、Tb−Dy−Fe−Coなどの光磁気型や、TeOx、Te−Ge、Sn−Te−Ge、Bi−Te−Ge、Sb−Te−Ge、Pb−Sn−Te、Tl−In−Seなどの相変化型の光記録材料;SiN、SiO、SiO2、Ta2O5などの誘電体材料;酸化チタン、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫、硫化亜鉛、アンチモンドープ酸化錫(ATO)、ITOなどの赤外線吸収材料、SiO2、SiOxなどのガスバリアー材料などが挙げられる。
【0049】
これらの無機系材料からなる層を、前記接合膜上に設ける方法としては特に制限はなく、該無機系材料の種類やその用途に応じて、従来公知の方法の中から、適宜選択して用いることができる。例えば真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの物理的気相蒸着法(PVD法)、あるいはゾル−ゲル法により調製された塗工液をバーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法、スプレーコート法などにより塗布する方法などによって、無機系材料層を設けることができる。
この無機系材料層の厚さは、積層構造体の用途にもよるが、通常0.01〜20μm程度である。
【0050】
本発明の積層構造体においては、本発明の効果、すなわち、有機基材と無機系材料層の熱膨張率の差を緩和する効果が、特に有効に発揮されるために、有機基材及び無機系材料層として、前者の線膨張係数が後者の線膨張係数の2倍以上となるように、前述の有機材料及び無機系材料の中から、それぞれ適宜選択して用いる。
【0051】
このように、有機基材の線膨張係数が、無機系材料層の線膨張係数の2倍以上と、両者の熱膨張率差が大きい場合、従来の接合膜では、この熱膨張率差を緩和するために、通常1μm以上の厚さを必要とするが、本発明における接合膜では100nm以下の厚さでも、該熱膨張率差を十分に緩和することができ、熱負荷による無機系材料層の割れや剥がれなどを抑制することができる。
【0052】
有機基材と無機系材料層との熱膨張率があまりに大きすぎると、本発明の効果が十分に発揮されないおそれがあるので、有機基材の線膨張係数は、無機系材料の線膨張係数の2〜50倍の範囲が好ましい。
【0053】
【実施例】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0054】
実施例1
(1)有機高分子化合物の製造
メタクリル酸メチル20.0g(0.2モル)とγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン2.48g(0.01モル)との混合溶液に、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル0.3g(0.0018モル)を添加、撹拌して均一溶液とした。この溶液を撹拌しながら75℃で3時間反応させることにより、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC:溶離液:DMF)法によるポリスチレン換算の数平均分子量が11万の共重合体を得た。
【0055】
(2)無機成分の調製
テトラエトキシシラン120g(0.58モル)をエタノール100gに溶解した溶液に、1モル/リットル濃度の硝酸水溶液10g、水73gおよびエタノール50gの混合液を撹拌しながら、ゆっくり滴下した。この溶液を室温で5時間撹拌し、無機成分溶液を得た。
【0056】
(3)塗工液の調製および接合膜の形成
上記(1)で得た共重合体0.1gをメチルイソブチルケトン50ミリリットルに溶解し、この溶液に上記(2)で得た無機成分溶液10ミリリットルをエチルセロソルブ40ミリリットルで希釈した溶液をゆっくり撹拌しながら加え、塗工液を調製した。
この塗工液を、厚み2mmのアクリル板「アクリライト」[三菱レーヨン(株)製、線膨張係数:7.0×10-5cm/cm・℃]上にバーコーター(線径0.125mm)にて塗工し、80℃のオーブン中で24時間乾燥を行った。形成された接合膜の厚みは90nmであった。
【0057】
この膜にXPS装置「PHI−5600」[アルバック・ファイ(株)製]を用い、アルゴン・スパッタリング(4kV)を施して膜を削り、膜表面の炭素原子とケイ素原子の含有率を、X線光電子分光法により測定し、傾斜性を調べた。
図1に、スパッタリング時間(膜の深さと関係する)と炭素原子およびケイ素原子の含有率との関係をグラフで示す。この図から、傾斜性を有する膜であることが分かった。
【0058】
(4)シリカ蒸着膜の形成および評価
上記(3)で得られた表面に接合膜を有するアクリル板を0.005モル/リットル濃度のアンモニア水に10分間浸漬したのち、室温で2時間乾燥を行い、無機成分の縮合を進行させ、緻密化を行った。
次に、この接合膜上に、酸化ケイ素ターゲットを用い、アルゴンと酸素との混合ガス(容積比:99:1)雰囲気下で、DCマグネトロンスパッタ装置(島津製作所社製「HS−720」)にて、厚み200nmのシリカ蒸着膜(線膨張係数:5.0×10-6cm/cm・℃)を形成した。
【0059】
日立製作所(株)製「環境試験装置EO−454MH」に、上記シリカ蒸着膜を有するアクリル板を入れ、70℃で2時間保持したのち、−30℃まで2時間で降温し、−30℃で2時間保持後、70℃まで2時間で昇温するサイクル操作を10回繰り返し、ヒートサイクル試験を行った。この試料の表面を、キーエンス(株)製の「表面形状測定顕微鏡「VF−7500」にて、割れや剥がれがないか観察したところ、割れおよび剥がれは観察されなかった。
【0060】
比較例1
東亜合成(株)製アクリルシリコーン樹脂溶液「GS−1020」を、トルエンとイソプロパノールとの容量比1:1の混合溶剤にて体積比で10倍に希釈したのち、実施例1で用いたものと同じアクリル板上に、バーコーターにて乾燥厚みが90nmになるように塗工したのち、70℃で12時間乾燥して、塗膜を形成させた。
以下、実施例1と同様にして、上記塗膜上に厚み200nmのシリカ蒸着膜を形成させたのち、ヒートサイクル試験を実施し、試料表面を割れや剥がれがないかを観察したところ、割れの発生が観察された。
【0061】
【発明の効果】
本発明の有機−無機複合積層構造体は、有機基材と無機系材料層とが、膜厚の薄い接合膜を介して密着性よく積層された構造を有し、かつ該有機基材と無機系材料層の熱膨張率差が大きくとも、熱負荷による該無機系材料層の割れや剥がれなどが発生しにくいという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1で得られた接合膜におけるスパッタリング時間と炭素原子およびケイ素原子の含有率との関係を示すグラフである。
Claims (5)
- 有機基材上に接合膜を介して無機系材料層が積層され、かつ上記有機基材の線膨張係数が該無機系材料層の線膨張係数の2倍以上である有機−無機複合積層構造体であって、上記接合膜が、厚み100nm以下であり、かつ有機高分子化合物と金属酸化物系化合物とが化学的に結合した複合体を含み、有機基材に当接している面が実質上有機高分子化合物成分であると共に、無機系材料層に当接している面が実質上金属系化合物成分であって、膜中の金属系化合物の含有率が、膜表面から深さ方向に連続的に変化する成分傾斜構造を有する有機−無機ハイブリッド膜からなり、
上記有機高分子化合物が、一般式(II)
で表される(メタ)アクリル酸エステルと一般式(III―a)
で表されるエチレン性不飽和単量体とを共重合させて得られたものであり、
上記金属酸化物系化合物が、一般式(V)
M 2 R 7 m ・・・(V)
(式中、R 7 は加水分解性基または非加水分解性基であるが、少なくとも2つは加水分解性基であり、かつ少なくとも1つは、加水分解により、有機高分子系化合物と化学結合しうる加水分解性基であって、複数のR 7 はたがいに同一であってもよいし、異なっていてもよく、M 2 はケイ素原子、mはケイ素原子の価数4である)
で表される金属化合物の加水分解により得られたものであることを特徴とする有機−無機複合積層構造体。 - 金属酸化物系化合物が、金属アルコキシドの加水分解縮重合により得られたものである請求項2に記載の有機−無機複合積層構造体。
- 接合膜が、(A)分子中に加水分解により金属酸化物と結合しうる金属含有基を有する有機高分子化合物と、(B)加水分解により金属酸化物系化合物を形成しうる金属化合物との混合物、またはその加水分解処理物からなる塗工液を有機基材に塗布し、加熱乾燥処理して形成されたものである請求項1または2に記載の有機−無機複合積層構造体。
- 接合膜が、厚み20〜100nmのものである請求項1ないし3のいずれか1項に記載の有機−無機複合積層構造体。
- 有機基材の線膨張係数が、無機系材料層の線膨張係数の2〜50倍である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の有機−無機複合積層構造体。
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