JP4947678B2 - 酸化チタン薄膜の製造方法および有機−無機複合傾斜材料の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、酸化チタン薄膜の製造方法および有機−無機複合傾斜材料の製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、ゾル−ゲル法による酸化チタン薄膜の製造方法において、チタンアルコキシドの加水分解−縮合反応により得られたゾルを安定化させ、成膜性などを向上させると共に、緻密な酸化チタン薄膜を形成させる方法、および上記ゾルを用い、実質上表面が緻密な酸化チタン薄膜からなり、かつチタン成分の含有率が材料の表面から厚み方向に連続的に変化する成分傾斜構造を有する有機−無機複合傾斜材料を製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、金属酸化物薄膜は、多くの分野において様々な用途に用いられている。
この金属酸化物薄膜を基板上へ形成させる方法としては、従来、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの物理的気相蒸着法(PVD法)や、各種の化学的気相蒸着法(CVD法)などが主流であった。しかしながら、これらの方法においては、真空設備などの大型設備が必要であり、生産性に劣る上、耐熱性に乏しい有機基板などに対しては適用しにくいなどの欠点がある。したがって、近年、ゾル−ゲル法による金属酸化物薄膜の形成が行われるようになってきた。このゾル−ゲル法は、溶液法であって、大気中で金属酸化物薄膜を形成することができ、また大面積の基板や複雑な形状の基板にも適用し得る上、室温付近での化学プロセスであるため、組成の制御が容易であり、かつ耐熱性に乏しい基板にも適用できるなどの特徴を有している。
【0003】
ところで、酸化チタン薄膜をゾル−ゲル法で形成させる場合、通常原料としてチタンアルコキシドが用いられる。しかしながら、一般に、チタンアルコキシド、特にアルコキシル基の炭素数が4以下であるものは、水に不安定であって、加水分解−縮合反応により得られたゾルにおいては、数時間でゲル化(固化)または粒子化することもあり、薄膜の前駆体として使用しにくい。
【0004】
特開平8−131950号公報においては、エタノール溶媒を用いてチタンテトライソプロポキシドの加水分解−縮合反応を行っているが、通常のアルコール系溶媒中(メタノール、エタノールなど)ではその反応が非常に速く進行するため、溶媒中の微量の水の作用で粒子化やゲル化が進行しやすい。これを解決するために、アルコキシル基の一部をアセチルアセトンなどでキレート化する方法が行われているが、この場合、逆にアルコキシドを安定化しすぎるために、成膜した後も膜中に有機物が残存し、その除去に紫外線などを照射するといった方法がとられており、したがって非常に手間がかかり、装置的にも大掛かりになるのを免れないなどの問題が生じる。また、アルコキシアルコール類やグリコールエーテル類などの溶媒とのエステル交換によるものが提案されている(特開平6−145601号公報、特開平8−40965号公報)。しかしながら、この場合、加熱還流などの操作を行っており、手間がかかる上、加水分解用の水の添加を行わず、そのまま成膜に使用しているため、金属アルコキシドモノマーを成膜していることになり、成膜性が悪く、かつ成膜後のアルコキシル基の脱離に伴う体積収縮が大きく、クラックなどが生じる原因となりやすい。
【0005】
また、ゾル−ゲル法により形成された金属酸化物薄膜においては、薄膜形成直後は、通常加水分解および縮合反応が十分に進行していないため、これを緻密化させるために加熱処理が施される。しかしながら、この加熱処理を例えば300℃以上で行うと、残留有機物が燃焼し、高度に緻密化されるが、基材が耐熱性に乏しいプラスチックの場合には、実質的に不可能である。一方、残留有機物の燃焼温度以下の低温加熱処理では、緻密化に長時間を要する。
【0006】
そこで、低温かつ短時間で緻密化を達成させるために、例えば(1)オートクレーブ中にて高圧下で水蒸気処理する方法(特開平10−87304号公報)、(2)エキシマランプなどを用いて高エネルギーの紫外線を照射する方法(特開2000−282244号公報)などが提案されている。しかしながら、前記(1)の水蒸気処理方法は、オンラインでの処理を考えた場合、装置が大掛かりになる上、高温高圧下での処理を必要とするため危険を伴い、簡便な方法とはいえない。一方、前記(2)の紫外線照射方法においては、高エネルギー照射を伴うため、基材の材質によっては、基材を劣化させるおそれがある。また、前記(1)および(2)の方法は、いずれも結晶性金属酸化物に適用した場合、結晶化を促進するため、塗膜が脆くなるのを免れないという問題があった。
【0007】
他方、本発明者らは、先に、新規な機能性材料として種々の用途、例えば塗膜や、有機材料と無機または金属材料との接着剤、有機基材と光触媒塗膜との間に設けられ、有機基材の劣化を防止する中間膜や、有機基材と無機系または金属系材料層との密着性を向上させる中間膜などの用途に有用な、厚み方向に組成が連続的に変化する有機−無機複合傾斜材料を見出した(特願平11−264592号)。
【0008】
この有機−無機複合傾斜材料は、有機高分子化合物と金属系化合物との化学結合物を含有する有機−無機複合材料であって、材料表面は実質上金属系化合物薄膜からなり、かつ該金属系化合物の含有率が材料の厚み方向に連続的に変化する成分傾斜構造を有し、上記の各種用途に有用な新規な材料である。
このような複合傾斜材料においても、その表面の金属系化合物薄膜は、できるだけ緻密なものが好ましい。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような事情のもとで、ゾル−ゲル法による酸化チタン薄膜の製造方法において、チタンアルコキシドの加水分解−縮合反応により得られたゾルを安定化させ、成膜性などを向上させると共に、緻密な酸化チタン薄膜を形成させる方法、および実質上表面が緻密な酸化チタン薄膜からなり、かつチタン成分の含有率が材料の表面から厚み方向に連続的に変化する成分傾斜構造を有する有機−無機複合傾斜材料の製造方法を提供することを目的とするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、アルコキシル基の炭素数が1〜4のチタンテトラアルコキシドを、特定のアルコール類と水を所定量用いて加水分解−縮合させることにより、安定性の良好なチタニアゾルが得られ、このゾルを用いて基材上に成膜し、特定の条件で加湿処理、次いで加熱処理することにより、緻密な酸化チタン薄膜が得られることを見出した。
【0011】
また、分子中に加水分解により酸化チタンと結合し得る金属含有基を有する有機高分子化合物と、前記チタニアゾルとを含む塗工液を用い、有機基材上に成膜し、前記と同様に加湿処理、次いで加熱処理することにより、所望の有機−無機複合傾斜材料が得られることを見出した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0012】
すなわち、本発明は、
(1)アルコキシル基の炭素数が1〜4のチタンテトラアルコキシドを、該チタンテトラアルコキシドに対し、4〜20倍モルの炭素数3以上のエーテル系酸素を有するアルコール類と0.5以上4倍モル未満の水を用い、酸性触媒の存在下で加水分解−縮合させて、光散乱強度が8000〜300000cpsの範囲にあるチタニアゾル溶液を調製したのち、基材上に成膜し、次いでこの膜を温度40〜100℃、絶対湿度0.02kg/kgD.A.以上および相対湿度80%RH以下の条件で加湿処理し、さらに温度40〜200℃、絶対湿度0.02kg/kgD.A.未満の条件で加熱処理することを特徴とする酸化チタン薄膜の製造方法、
【0013】
(2)基材としてのポリエチレンテレフタレートフィルム上に設けられた酸化チタン薄膜の屈折率が1.8〜2.0である上記(1)項に記載の方法、
(3)酸化チタン薄膜と有機高分子化合物とが化学的に結合した複合体を含み、かつチタン成分の含有率が材料の表面から厚み方向に連続的に変化する成分傾斜構造を有する有機−無機複合傾斜材料の製造方法において、
(A)分子中に加水分解により酸化チタンと結合し得る金属含有基を有する有機高分子化合物としての、一般式(I)
(式中、R 1 は水素原子またはメチル基、Aはアルキレン基、R 2 はアルコキシル基であり、各R 2 はたがいに同一であってもよいし、異なっていてもよく、M 1 はケイ素原子、kはケイ素原子M 1 の価数4である。)
で示されるエチレン性不飽和単量体と、一般式(II−a)
(式中、R 3 は水素原子またはメチル基、R 4 は炭化水素基を示す。)
で示されるエチレン性不飽和単量体との共重合体と、
(B)上記(1)項と同様にして得られたチタニアゾルとを含む塗工液を調製したのち、有機基材上に成膜し、次いでこの膜を温度40〜100℃、絶対湿度0.02kg/kgD.A.以上および相対湿度80%RH以下の条件で加湿処理し、さらに温度40〜200℃、絶対湿度0.02kg/kgD.A.未満の条件で加熱処理することを特徴とする有機−無機複合傾斜材料の製造方法、
【0014】
(4)有機−無機複合傾斜材料が、有機基材上に形成された膜状物からなり、かつ該膜状物の有機基材に当接している面が有機高分子化合物成分であって、もう一方の開放系面が酸化チタン成分である上記(3)項に記載の方法、および
(5)有機−無機複合傾斜材料が、有機基材と光触媒活性材料層との間に介在させる中間膜として用いられる上記(3)または(4)項に記載の方法、を提供するものである。
【0015】
【発明の実施の形態】
まず、本発明の酸化チタン薄膜の製造方法について説明する。
本発明の酸化チタン薄膜の製造方法においては、原料として、アルコキシル基の炭素数が1〜4のチタンテトラアルコキシドが用いられる。このチタンテトラアルコキシドにおいては、4つのアルコキシル基は、たがいに同一でも異なっていてもよいが、入手の容易さなどの点から、同一のものが好ましく用いられる。該チタンテトラアルコキシドの例としては、チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトラ−n−プロポキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラ−n−ブトキシド、チタンテトライソブトキシド、チタンテトラ−sec−ブトキシドおよびチタンテトラ−tert−ブトキシドが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
本発明の方法においては、まず、前記チタンテトラアルコキシドを加水分解−縮合させて、チタニアゾル溶液を調製する。このチタンテトラアルコキシドの加水分解−縮合反応は、炭素数3以上のエーテル系酸素を有するアルコール類を溶媒として用い、酸性触媒の存在下でチタンテトラアルコキシドに水を作用させることにより行われる。
【0017】
前記炭素数3以上のエーテル系酸素を有するアルコール類としては、チタンテトラアルコキシドに対して相互作用を有する溶剤、例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルなどのセロソルブ系溶剤、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテルなどを挙げることができる。これらの中で、特にチタンテトラアルコキシドに対する相互作用が強いセロソルブ系溶剤が好ましい。これらの溶剤は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
このようなチタンテトラアルコキシドに対して相互作用を有する溶剤を溶媒として用いることにより、チタンテトラアルコキシドの加水分解−縮合反応により得られたチタニアゾル溶液を安定化させることができ、縮合反応を進行させてもゲル化や粒子化が生じにくく、安定な成膜が可能となる。
【0019】
チタンテトラアルコキシドの加水分解−縮合反応は、チタンテトラアルコキシドに対し、4〜20倍モル、好ましくは5〜12倍モルの前記アルコール類と、0.5以上4倍モル未満、好ましくは1〜3.0倍モルの水を用い、塩酸、硫酸、硝酸などの酸性触媒の存在下、通常0〜70℃、好ましくは20〜50℃の範囲の温度において行われる。酸性触媒は、チタンテトラアルコキシドに対し、通常0.1〜1.0倍モル、好ましくは0.2〜0.7倍モルの範囲で用いられる。
【0020】
本発明においては、前記チタンテトラアルコキシドの加水分解−縮合反応は、炭素数3以上のエーテル系酸素を有するアルコール類を所定量溶媒として使用することで、アルコキシル基のエステル交換が起こり比較的安定で経時変化の少ないチタニアゾル溶液が得られる。これを前記の様な条件で反応を行うことにより加水分解-縮合反応が進行し、8000〜300000cpsの範囲のチタニアゾル溶液が得られる。光散乱強度が上記範囲にあれば、成膜性が非常に良好で、成膜後の有機物の脱離が後の加湿工程で制御し易く、成膜時のクラック発生が抑制され緻密な酸化チタン薄膜の形成が容易となる。好ましい光散乱強度は9000〜200000cpsの範囲である。ここで、光散乱強度Isは(式1)で著され、(Is=散乱光強度、Io=入射光強度、n=溶媒の屈折率、Mw=溶質の重量平均分子量、c=溶質の濃度、(dn/dc)=溶質の濃度増あたりの屈折率増分、λo=入射光波長、r=試料から検出器までの距離、NA=アボガドロ数)Mwに相当する分子サイズつまり、縮合度に比例した値が観測される。
【0021】
【数1】
【0022】
この光散乱強度(縮合度)は、水や触媒の使用量、溶媒の種類、加水分解温度や時間などによって調節することができる。
【0023】
本発明においては、このようにして得られたチタニアゾル液に、所望により、前記のエーテル系酸素を有するアルコール類やその他適当な溶剤を加え、塗布するのに適した粘度を有する塗工液を調製したのち、適当な基材上に乾燥後の厚みが0.02〜0.7μmの範囲になるように、デップコート法、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法などの公知の手段により塗布し、溶媒を揮散させてチタニア膜を形成させる。基材としては特に限定はないが、該膜が均一に塗布できるものであるものが好ましく、例えば、金属系材料、ガラスやセラミックス系材料、その他各種無機系または金属系材料からなる基材、及び、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル樹脂、ポリスチレンやABS樹脂などのスチレン系樹脂、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂、6−ナイロンや6,6−ナイロンなどのポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリイミド系樹脂、セルロースアセテートなどのセルロース系樹脂などからなる有機基材が挙げられる。
【0024】
本発明の方法においては、このようにして形成されたチタニア膜を、まず、温度40〜100℃、絶対湿度0.02kg/kgD.A.以上および相対湿度80%RH以下の条件で加湿処理し、次いで温度40〜200℃、絶対湿度0.02kg/kgD.A.未満の条件で加熱処理する(「D.A.」は乾燥空気を意味する。以下同様)。この処理により、屈折率の高い緻密な酸化チタン薄膜が得られる。例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に、屈折率(測定方法は後述)1.8〜2.0の酸化チタン薄膜を形成することができる。測定手法により屈折率の絶対値が異なる場合があるが、この時概ね処理前の金属酸化物薄膜の屈折率に対して、1.04〜1.20倍の屈折率をもつ金属酸化物系薄膜を得ることが可能である。
【0025】
前記加湿処理は、加水分解反応を進め、その後の縮合反応性を高め、迅速に緻密化を達成させるために行われる。これは、ゾル−ゲル反応における縮合反応が、加水分解により生成した水酸基の、他方のチタン原子への求核反応により行われるため、該チタン原子に結合している官能基としては、アルコキシル基などよりも水酸基である方が、チタン原子がよりプラスの電荷を帯びる理由により、反応性が高くなるためである。この加湿処理において、温度が40℃未満では加水分解反応終了までに長時間を要する。また、100℃を超えると高圧下での処理が必要で装置が大がかりとなり、オンラインでの処理が困難である。一方、絶対湿度が0.02kg/kgD.A.未満では加水分解反応が進行しにくいし、相対湿度が80%RHを超えると飽和点に近くなるため塗膜表面で水の結露を引き起こしやすく、成膜性が損なわれる場合がある。好ましい加湿処理条件は、温度40〜80℃、絶対湿度0.035kg/kgD.A.以上および相対湿度80%RH以下である。
【0026】
この加湿処理に次いで行われる加熱処理は、加熱環境を低湿とすることで、縮合反応により副生した水あるいはアルコールなどが容易に系外へ放出されるため、単に加熱のみを行った場合よりも、効率よく、かつ迅速に緻密化が達成される。湿度が絶対湿度で0.02kg/kgD.A.以上では副生した水やアルコールなどを揮散させる効果が小さくなる。一方、温度が40℃未満では縮合反応を迅速に進行させにくいし、また200℃を超えると、基材としてPETフィルム等の有機基材を使用する場合に熱分解を起こしやすくなる。好ましい加熱処理条件は、絶対湿度0.01kgD.A.以下および温度50〜150℃である。
【0027】
なお、長時間の加湿処理は緻密化達成の手段となりにくい。これは、多量の水の存在は縮合反応の逆反応(解重合)の要因となるためである。また、処理時間は、加湿処理および加熱処理の合計で、1.5時間以内が好ましい。
【0028】
次に、本発明の有機−無機複合傾斜材料の製造方法について説明する。
この製造方法において得られる有機−無機複合傾斜材料は、酸化チタン薄膜と有機高分子化合物とが化学的に結合した複合体を含み、かつチタン成分の含有率が材料の表面から厚み方向に連続的に変化する成分傾斜構造を有するものである。このような複合傾斜材料は、本発明においては、(A)分子中に加水分解により酸化チタンと結合し得る金属含有基(加水分解性金属含有基と称すことがある。)を有する有機高分子化合物と、(B)アルコキシル基の炭素数が1〜4のチタンテトラアルコキシドを、前述の酸化チタン薄膜の製造方法の場合と同様に加水分解−縮合させて得られた光散乱強度が8000〜300000cpsの範囲にあるチタニアゾルとを含む塗工液を用いて、形成させる。
【0029】
前記(A)成分の加水分解性金属含有基を有する有機高分子化合物は、例えば(a)加水分解性金属含有基を有するエチレン性不飽和単量体と、(b)金属を含まないエチレン性不飽和単量体を共重合させることにより、得ることができる。
【0030】
上記(A)(a)成分である加水分解性金属含有基を有するエチレン性不飽和単量体としては、一般式(I)
【0031】
【化1】
【0032】
(式中、R1は水素原子またはメチル基、Aはアルキレン基、好ましくは炭素数1〜4のアルキレン基、R2は加水分解性基または非加水分解性基であるが、その中の少なくとも1つは加水分解により、(B)成分と化学結合しうる加水分解性基であることが必要であり、また、R2が複数の場合には、各R2はたがいに同一であってもよいし、異なっていてもよく、M1はケイ素、チタン、ジルコニウム、インジウム、スズ、アルミニウムなどの金属原子、kは金属原子M1の価数である。)
で表される基を挙げることができる。
【0033】
上記一般式(I)において、R2のうちの加水分解により(B)成分と化学結合しうる加水分解性基としては、例えばアルコキシル基、イソシアネート基、塩素原子などのハロゲン原子、オキシハロゲン基、アセチルアセトネート基、水酸基などが挙げられ、一方、(B)成分と化学結合しない非加水分解性基としては、例えば低級アルキル基などが好ましく挙げられる。
【0034】
一般式(I)における−M1R2 k-1で表される金属含有基としては、例えば、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリ−n−プロポキシシリル基、トリイソプロポキシシリル基、トリ−n−ブトキシシリル基、トリイソブトキシシリル基、トリ−sec−ブトキシシリル基、トリ−tert−ブトキシシリル基、トリクロロシリル基、ジメチルメトキシシリル基、メチルジメトキシシリル基、ジメチルクロロシリル基、メチルジクロロシリル基、トリイソシアナトシリル基、メチルジイソシアナトシリル基など、トリメトキシチタニウム基、トリエトキシチタニウム基、トリ−n−プロポキシチタニウム基、トリイソプロポキシチタニウム基、トリ−n−ブトキシチタニウム基、トリイソブトキシチタニウム基、トリ−sec−ブトキシチタニウム基、トリ−tert−ブトキシチタニウム基、トリクロロチタニウム基、さらには、トリメトキシジルコニウム基、トリエトキシジルコニウム基、トリ−n−プロポキシジルコニウム基、トリイソプロポキシジルコニウム基、トリ−n−ブトキシジルコニウム基、トリイソブトキシジルコニウム基、トリ−sec−ブトキシジルコニウム基、トリ−tert−ブトキシジルコニウム基、トリクロロジルコニウム基、またさらには、ジメトキシアルミニウム基、ジエトキシアルミニウム基、ジ−n−プロポキシアルミニウム基、ジイソプロポキシアルミニウム基、ジ−n−ブトキシアルミニウム基、ジイソブトキシアルミニウム基、ジ−sec−ブトキシアルミニウム基、ジ−tert−ブトキシアルミニウム基、トリクロロアルミニウム基などが挙げられる。
この(a)成分のエチレン性不飽和単量体は1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
一方、上記(b)成分である金属を含まないエチレン性不飽和単量体としては、例えば一般式(II)
【0036】
【化2】
【0037】
(式中、R3は水素原子またはメチル基、Xは一価の有機基である。)
で表されるエチレン性不飽和単量体、好ましくは一般式(II−a)
【0038】
【化3】
【0039】
(式中、R3は前記と同じであり、R4は炭化水素基を示す。)
で表されるエチレン性不飽和単量体、あるいは上記一般式(II−a)で表されるエチレン性不飽和単量体と、必要に応じて添加される密着性向上剤としての一般式(II−b)
【0040】
【化4】
【0041】
(式中、R5は水素原子またはメチル基、R6はエポキシ基、ハロゲン原子若しくはエーテル結合を有する炭化水素基を示す。)
で表されるエチレン性不飽和単量体との混合物を挙げることができる。
【0042】
上記一般式(II−a)で表されるエチレン性不飽和単量体において、R4で示される炭化水素基としては、炭素数1〜10の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜10のアラルキル基を好ましく挙げることができる。炭素数1〜10のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、および各種のブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基などが挙げられる。炭素数3〜10のシクロアルキル基の例としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、シクロオクチル基などが、炭素数6〜10のアリール基の例としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、メチルナフチル基などが、炭素数7〜10のアラルキル基の例としては、ベンジル基、メチルベンジル基、フェネチチル基、ナフチルメチル基などが挙げられる。
【0043】
この一般式(II−a)で表されるエチレン性不飽和単量体の例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
前記一般式(II−b)で表されるエチレン性不飽和単量体において、R6で示されるエポキシ基、ハロゲン原子若しくはエーテル結合を有する炭化水素基としては、炭素数1〜10の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜10のアラルキル基を好ましく挙げることができる。上記置換基のハロゲン原子としては、塩素原子および臭素原子がよい。上記炭化水素基の具体例としては、前述の一般式(II−a)におけるR4の説明において例示した基と同じものを挙げることができる。
【0045】
前記一般式(II−b)で表されるエチレン性不飽和単量体の例としては、グリシジル(メタ)アクリレート、3−グリシドキシプロピル(メタ)アクリレート、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル(メタ)アクリレート、2−クロロエチル(メタ)アクリレート、2−ブロモエチル(メタ)アクリレートなどを好ましく挙げることができる。
【0046】
また、前記一般式(II)で表されるエチレン性不飽和単量体としては、これら以外にもスチレン、α−メチルスチレン、α−アセトキシスチレン、m−、o−またはp−ブロモスチレン、m−、o−またはp−クロロスチレン、m−、o−またはp−ビニルフェノール、1−または2−ビニルナフタレンなど、さらにはエチレン性不飽和基を有する重合性高分子用安定剤、例えばエチレン性不飽和基を有する、酸化防止剤、紫外線吸収剤および光安定剤なども用いることができる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
また、一般式(II−a)で表されるエチレン性不飽和単量体と一般式(II−b)で表されるエチレン性不飽和単量体とを併用する場合は、前者のエチレン性不飽和単量体に対し、後者のエチレン性不飽和単量体を1〜100モル%の割合で用いるのが好ましい。
【0048】
前記(a)成分の加水分解性金属含有基を有するエチレン性不飽和単量体と(b)成分の金属を含まないエチレン性不飽和単量体とを、ラジカル重合開始剤の存在下、ラジカル共重合させることにより、(A)成分である加水分解性金属含有基を有する有機高分子化合物が得られる。
【0049】
本発明においては、このようにして得られた(A)成分である加水分解性金属含有基を有する有機高分子化合物をアルコール、ケトン、エーテルなどの適当な極性溶剤中に溶解させた溶液と、(B)成分であるチタニアゾルの溶液とを混合し、塗布するのに適した粘度を有する塗工液を調製する。この際、必要ならば、該塗工液に水および/または酸性触媒を添加することができる。
【0050】
次に、有機基材上に、このようにして得られた塗工液を乾燥塗膜の厚さが、通常5μm以下、好ましくは0.01〜1.0μm、より好ましくは0.02〜0.7μmの範囲になるように、ディップコート法、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法などの公知の手段により塗布し、溶媒を揮散させて塗膜を形成させる。
【0051】
上記有機基材としては、例えばポリメチルメタクリレートなどのアクリル樹脂、ポリスチレンやABS樹脂などのスチレン系樹脂、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂、6−ナイロンや6,6−ナイロンなどのポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリイミド系樹脂、セルロースアセテートなどのセルロース系樹脂などからなる基材を挙げることができる。
【0052】
これらの有機基材は、本発明に係る傾斜材料との密着性をさらに向上させるために、所望により、酸化法や凹凸化法などにより表面処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理などが挙げられ、また、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法などが挙げられる。これらの表面処理法は基材の種類に応じて適宜選ばれる。
【0053】
なお、本発明における有機基材は、有機系材料以外の材料、例えば金属系材料、ガラスやセラミックス系材料、その他各種無機系または金属系材料からなる基材の表面に、有機系塗膜を有するものも包含する。
本発明の方法においては、このようにして有機基材上に形成された塗膜に、前述の酸化チタン薄膜の製造方法の場合と同様に、加湿処理を施したのち、加熱処理を施す。
【0054】
このようにして得られた有機−無機複合傾斜材料においては、表面層は、実質上緻密な酸化チタン薄膜からなり、かつ金属成分の含有率が基材方向に逐次減少していき、基材近傍ではほぼ0%になる。すなわち、該有機−無機複合傾斜材料は、一般に、基材上に形成された膜状物からなり、かつ実質上、該膜状物の基材に当接している面が有機高分子系化合物成分であって、もう一方の開放系面が酸化チタン成分である。
【0055】
このような傾斜構造の確認は、例えば傾斜膜表面にスパッタリングを施して膜を削っていき、経時的に膜表面の炭素原子とチタン原子の含有率を、X線光電子分光法などにより測定することによって、行うことができる。
【0056】
この複合傾斜膜における金属成分の含有量としては特に制限はないが、金属酸化物換算で、通常5〜98重量%、好ましくは20〜98重量%、特に好ましくは50〜90重量%の範囲である。有機高分子化合物の重合度や分子量としては、製膜化しうるものであればよく特に制限されず、高分子化合物の種類や所望の傾斜膜材料の物性などに応じて適宜選定すればよい。
【0057】
本発明の方法で形成された有機−無機複合傾斜材料は、機能性材料として様々な用途に用いることができるが、特に有機基材と光触媒活性材料層との間に介在させる中間膜として好適に用いられる。
【0058】
【実施例】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0059】
なお、各例における諸特性は、以下に示す方法により求めた。
(1)加水分解−縮合液の光散乱強度
チタンテトラアルコキシドの加水分解−縮合液をポリスチレンセルに入れて、大塚電子(株)製「ELS−8000」により光散乱強度の測定を行った。この時、ピンホールの大きさを試料側φ0.3、検出器側φ0.2とし、溶媒の屈折率としては水の屈折率を代入し計算を行った。なお、100回測定を行い、その平均値を求めた。
【0060】
(2)塗膜の屈折率
測定装置:島津(株)製、紫外可視分光光度計「UV−2100」
測定条件:入射角0°、反射角0°、測定範囲240〜800nm
屈折率計算:
屈折率=(Bn(1+(Rmax/100)1/2)/(1−(Rmax/100)1/2))1/2
(Bn:基板の屈折率(PET=1.66)、Rmax:膜の反射率の最大値)
【0061】
(3)光触媒耐久性
JIS K7350に準じたカーボンアーク式サンシャインウエザーメーター試験法[試験機:スガ試験機(株)製のサンシャインウエザーメーター「S300」]により、促進耐候試験(光源:225W/m2、サイクル:照射102分間、照射+降雨18分間の2時間1サイクル、ブラックパネル温度:63±3℃、相対湿度:55±5%)を行い、日本電色(株)製、ヘイズメーター「NDH2000」を用い、JIS K7361に準拠してヘイズ値を測定した。
【0062】
(4)成分傾斜膜の傾斜性
XPS装置「PHI−5600」[アルバックファイ(株)製]を用い、アルゴンスパッタリング(4kV)を3分間隔で施して膜を削り、膜表面の炭素原子と金属原子の含有率を、X線光電子分光法により測定し、傾斜性を調べた。
【0063】
実施例1
チタンテトライソプロポキシド12.5ml(0.042mol)をエチルセロソルブ16.8ml(0.174mol)に溶解した溶液に、濃硝酸1.63ml(0.021mol)、水0.82ml(0.046mol)とエチルセロソルブ16.8ml(0.174mol)の混合溶液を攪拌しながらゆっくり滴下し、その後30℃で4時間攪拌し、チタンテトライソプロポキシドに対して8.3倍モルのエチルセロソルブ、1.1倍モルの水からなる反応溶液(チタニアゾル)を得た。この反応溶液を大塚電子(株)製の光散乱測定装置「ELS−8000」を用いて光散乱強度測定を行ったところ、12000cpsであった。次にこの溶液8.3mlをメチルイソブチルケトン25mlとエチルセロソルブ16.7mlの混合溶媒に加え、塗工液を調製した。その後、この塗工液をワイヤー線径0.075mmのマイヤーバーにて50μm厚みのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム[東レ(株)製、「ルミラーT−60」]上にバーコートし、溶剤を揮発させてチタニア膜を形成させた。この塗膜の屈折率は1.75であった。
【0064】
これを、60℃80%RH下(絶対湿度0.116kg/kgD.A.)で15分間加湿処理した後、60℃5%RH下(絶対湿度0.0062kg/kgD.A.)で30分加熱処理した。この膜の屈折率は1.84であった。
【0065】
実施例2
実施例1において、チタニア塗膜の加湿処理条件を、60℃80%RH下(絶対湿度0.116kg/kgD.A.)、15分間を80℃34%RH下(絶対湿度0.118kg/kgD.A.)、15分間に変更した以外は、実施例1と同様な操作を行った。得られた膜の屈折率は1.84であった。
【0066】
実施例3
実施例1において、チタニア塗膜の加湿処理条件を、60℃80%RH下(絶対湿度0.116kg/kgD.A.)、15分間を40℃80%RH下(絶対湿度0.038kg/kgD.A.)、60分間に変更した以外は、実施例1と同様な操作を行った。得られた膜の屈折率は1.83であった。
【0067】
実施例4
添加する水の量を1.64ml(チタンテトライソプロポキシドの2.2倍モル)とした以外は実施例1と同様にチタンイソプロポキシドの加水分解−縮合反応を行った。この反応溶液を大塚電子(株)製の光散乱測定装置「ELS−8000」を用いて光散乱強度測定を行ったところ、250000cpsであった。次にこの溶液8.3mlをメチルイソブチルケトン25mlとエチルセロソルブ16.7mlの混合溶媒に加え、塗工液を調製した。その後、この塗工液をワイヤー線径0.075mmのマイヤーバーにて50μm厚みのPETフィルム[東レ(株)製、「ルミラーT−60」]上にバーコートし、溶剤を揮発させてチタニア膜を形成させた。この塗膜の屈折率は1.77であった。
【0068】
これを、60℃80%RH下(絶対湿度0.116kg/kgD.A.)で15分間加湿処理した後、60℃5%RH下(絶対湿度0.0062kg/kgD.A.)で30分加熱処理した。この膜の屈折率は1.86であった。
【0069】
実施例5
メチルメタクリレート10.9gおよびγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン1.36gの混合溶液に、2,2′ーアゾビスイソブチロニトリル0.1gを溶解させた後、攪拌しながら75℃で3時間反応させて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法によるポリスチレン換算の重量平均分子量が約7万の共重合体を得た。この共重合体1.0gをメチルイソブチルケトン100mlに溶解させ、10g/L濃度の有機成分溶液を得た。
【0070】
この有機成分溶液5mlをメチルイソブチルケトン20mlに加えた後、エチルセロソルブ16.7ml、次いで実施例1で得られたチタニアゾル8.3mlを加えて成分傾斜膜塗工液を作成した。この塗工液をワイヤー線径0.075mmマイヤーバーにて50ミクロン厚みのPETフィルム[帝人デュポンフィルム(株)製、「テトロンHB−3」]上にバーコートし、溶剤を揮発させて成分傾斜膜を形成させた。膜厚みはおおよそ70nm程度であった。この膜のXPS測定を行ったところ、傾斜性を有する膜であることが確認された。上記傾斜膜のXPS測定結果を図1に示す。
【0071】
これを60℃80%RH下(絶対湿度0.116kg/kgD.A.)で15分間加湿処理した後、60℃5%RH下(絶対湿度0.0062kg/kgD.A.)で30分加熱処理し、その後この膜上に石原産業(株)製、光触媒液「ST−K211」を厚み50nmで塗布した。
【0072】
この光触媒膜付フィルムについて、カーボンアーク式サンシャインウエザーメーターによる促進耐候試験を行った結果、900時間経過後のヘイズ値は3.78%で透明性を維持していた。
【0073】
比較例1
実施例1において、チタニア塗膜の加湿処理を行わず、かつ加熱処理の時間を30分間から60分間に変更した以外は、実施例1と同様な操作を行った。得られた膜の屈折率は1.78であった。
【0074】
比較例2
実施例1において、チタニア塗膜の加湿処理を行わず、かつ加熱処理の時間を30分間から20分間に変更した以外は、実施例1と同様な操作を行った。得られた膜の屈折率は1.78であった。
【0075】
比較例3
実施例1において、濃硝酸の添加量を0.8mlとし、かつ水の添加を無くした以外は、実施例1と同様にチタンテトライソプロポキシドの加水分解−縮合反応を行った。この反応溶液を大塚電子(株)製の光散乱測定装置「ELS−8000」を用いて光散乱強度測定を行ったところ、4000cpsであった。次にこの溶液8.3mlをメチルイソブチルケトン25mlとエチルセロソルブ16.7mlの混合溶媒に加え、塗工液を調製した。その後、この塗工液をワイヤー線径0.075mmのマイヤーバーにて50μm厚みのPETフィルム[東レ(株)製、「ルミラーT−60」]上にバーコートし、溶剤を揮発させてチタニア膜を形成させた。この塗膜の屈折率は1.75であった。これを、60℃80%RH下(絶対湿度0.116kg/kgD.A.)で15分間加湿処理した後、60℃5%RH下(絶対湿度0.0062kg/kgD.A.)で30分加熱処理した。この膜の屈折率は1.72であった。
【0076】
比較例4
実施例1において、添加する水の量を5.35ml(チタンテトライソプロポキシドの7.1倍モル)とした以外は実施例1と同様にチタンテトライソプロポキシドの加水分解−縮合反応を行った。この反応溶液を大塚電子(株)製の光散乱測定装置「ELS−8000」を用いて光散乱強度測定を行ったところ、500000cpsであり、溶液に粒子の析出が確認された。次にこの溶液8.3mlをメチルイソブチルケトン25mlとエチルセロソルブ16.7mlの混合溶媒に加え、塗工液を調製した。その後、この塗工液をワイヤー線径0.075mmのマイヤーバーにて50μm厚みのPETフィルム[東レ(株)製、「ルミラーT−60」]上にバーコートし、溶剤を揮発させてチタニア膜を形成させた。この塗膜の屈折率は1.77であった。これを、60℃80%RH下(絶対湿度0.116kg/kgD.A.)で15分間加湿処理した後、60℃5%RH下(絶対湿度0.0062kg/kgD.A.)で30分加熱処理した。この膜の屈折率は1.77であった。
【0077】
比較例5
実施例5において、成分傾斜膜の加湿処理を行わず、60℃5%RH下(絶対湿度0.0062kg/kgD.A.)で45分間加熱処理のみ行った以外は、実施例5と同様な操作を行った。この膜のXPS測定を行ったところ、傾斜性を有する膜であることが確認された。上記傾斜膜のXPS測定結果を図2に示す。
【0078】
この光触媒膜付フィルムをカーボンアーク式サンシャインウエザーメーターによる促進耐候試験を行った結果、900時間経過後のヘイズ値は5.89%で白化が見られた。
【0079】
比較例6
エチルセルソルブの代わりにイソプロピルアルコールを用いた以外は実施例1と同様にチタンテトライソプロポキシドの加水分解−縮合反応を行った。この反応溶液を大塚電子(株)製の光散乱測定装置「ELS−8000」を用いて光散乱強度測定を行ったところ、600000cpsであった。次にこの溶液8.3mlをメチルイソブチルケトン25mlとエチルセロソルブ16.7mlの混合溶媒に加え、塗工液を調製した。その後、この塗工液をワイヤー線径0.075mmのマイヤーバーにて50μm厚みのPETフィルム[東レ(株)製、「ルミラーT−60」]上にバーコートし、溶剤を揮発させてチタニア膜を形成させた。この塗膜の屈折率は1.75であった。これを、60℃80%RH下(絶対湿度0.116kg/kgD.A.)で15分間加湿処理した後、60℃5%RH下(絶対湿度0.0062kg/kgD.A.)で30分加熱処理した。この膜の屈折率は1.75であった。
【0080】
比較例7
エチルセルソルブの代わりにエタノールを用いた以外は実施例1と同様にチタンテトライソプロポキシドの加水分解−縮合反応を行った。この時、反応開始後まもなく、白色沈殿物が生じて成膜液として使用不可能であった。
【0081】
【発明の効果】
本発明によれば、ゾル−ゲル法による酸化チタン薄膜の製造方法において、チタンアルコキシドの加水分解−縮合反応により得られたゾルを安定化させ、成膜性などを向上させると共に、緻密な酸化チタン薄膜を形成させることができる。また、表面層が緻密な酸化チタン薄膜からなり、かつチタン成分の含有率が材料の表面から厚み方向に連続的に変化(減少)する成分傾斜構造を有する有機−無機複合傾斜材料を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例5で形成された有機−無機複合傾斜膜におけるスパッタリング時間と炭素原子およびチタン原子の含有率との関係を示すグラフである。
【図2】比較例5で形成された有機−無機複合傾斜膜におけるスパッタリング時間と炭素原子およびチタン原子の含有率との関係を示すグラフである。
Claims (5)
- アルコキシル基の炭素数が1〜4のチタンテトラアルコキシドを、該チタンテトラアルコキシドに対し、4〜20倍モルの炭素数3以上のエーテル系酸素を有するアルコール類と0.5〜4倍モルの水を用い、酸性触媒の存在下で加水分解−縮合させて、光散乱強度が8000〜300000cps(count per second)の範囲にあるチタニアゾル溶液を調製したのち、基材上に成膜し、次いでこの膜を常圧下、温度40〜100℃、絶対湿度0.02kg/kgD.A.以上および相対湿度80%RH以下の条件で加湿処理し、さらに温度40〜200℃、絶対湿度0.02kg/kgD.A.未満の条件で加熱処理することを特徴とする酸化チタン薄膜の製造方法。
- 基材としてのポリエチレンテレフタレートフィルム上に設けられた酸化チタン薄膜の屈折率が1.8〜2.0である請求項1に記載の方法。
- 酸化チタン薄膜と有機高分子化合物とが化学的に結合した複合体を含み、かつチタン成分の含有率が材料の表面から厚み方向に連続的に変化する成分傾斜構造を有する有機−無機複合傾斜材料の製造方法において、
(A)分子中に加水分解により酸化チタンと結合し得る金属含有基を有する有機高分子化合物としての、一般式(I)
(式中、R 1 は水素原子またはメチル基、Aはアルキレン基、R 2 はアルコキシル基であり、各R 2 はたがいに同一であってもよいし、異なっていてもよく、M 1 はケイ素原子、kはケイ素原子M 1 の価数4である。)
で示されるエチレン性不飽和単量体と、一般式(II−a)
(式中、R 3 は水素原子またはメチル基、R 4 は炭化水素基を示す。)
で示されるエチレン性不飽和単量体との共重合体と、
(B)アルコキシル基の炭素数が1〜4のチタンテトラアルコキシドを、該チタンテトラアルコキシドに対し、4〜20倍モルの炭素数3以上のエーテル系酸素を有するアルコール類と0.5以上4倍モル未満の水を用い、酸性触媒の存在下で加水分解−縮合させて得られた光散乱強度が8000〜300000cpsの範囲にあるチタニアゾルとを含む塗工液を調製したのち、有機基材上に成膜し、次いでこの膜を温度40〜100℃、絶対湿度0.02kg/kgD.A.以上および相対湿度80%RH以下の条件で加湿処理し、さらに温度40〜200℃、絶対湿度0.02kg/kgD.A.未満の条件で加熱処理することを特徴とする有機−無機複合傾斜材料の製造方法。 - 有機−無機複合傾斜材料が、有機基材上に形成された膜状物からなり、かつ該膜状物の有機基材に当接している面が有機高分子化合物成分であって、もう一方の開放系面が酸化チタン成分である請求項3に記載の方法。
- 有機−無機複合傾斜材料が、有機基材と光触媒活性材料層との間に介在させる中間膜として用いられる請求項3または4に記載の方法。
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