JPWO2011027872A1 - 無機構造物及びその製造方法、並びに無機薄膜の製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
たとえば自動車フロントガラスでは、撥水性ポリマーを塗布したり焼き付けたりすること(撥水性コーティング)で、雨天時に付着する雨滴を容易に滑落させることで視界を確保することが行われている(例えば、特開平6−340451号公報参照)。
また、食品や化学品製造ラインでの様々な工程で、液体の付着防止を目的としてフッ素系の撥水性コーティングなどが利用されている。さらに家庭用品でもフライパンなどでは、食品の付着防止の目的でフッ素コーティングが施されている(例えば、特開2008−212523号公報参照)。
たとえば自動車フロントガラスの視認性低下を防ぐために用いられているのは、フッ素系またはシリコン系の有機化合物による有機化合物系の撥水性コーティングである。これらの有機化合物系の撥水性コーティングでは、ガラス表面に比較すれば機械的耐久性に劣るため、その寿命は数カ月から長くても数年と限られている。このため、いずれはディーラーなどでの追加のコーティング処理が必要になる、といった問題がある。このような問題は液体の付着防止などの用途すべてに見られることであり、根本的な改善が望まれていた。
しかし、撥水性は、水との界面に比べてより熱力学的に安定な表面を形成することによって向上することから、無機物(金属やその酸化物等、以下同じ)に比べて有機化合物のほうが有利であるのは明らかであり、無機物は従来用いられてはこなかった。
以下のその考え方を述べる。
固体の濡れ性を、界面の表面張力の釣り合いで表すYoungの式を下記式(1)に示す。
この式(1)に従う限り、γSVが大きいとθは必然的に小さくなる。
従ってγSVが大きな材料、例えば無機酸化物は撥水用途には適さない。
しかし、実際の用途に必要な撥水性は、必ずしも熱力学的に撥水性である必要はない。
即ち、水滴などが除去され易ければよい場合も多く、この場合必要なのは接触角で代表される静的な撥水性ではなく、動的な撥水性(滑水性)である。この動的撥水性に関しては、基礎的な理論が必ずしも確立していないが、極めて微細な表面の不均一性がその性状に影響することが知られている。
更に、本発明者等は、わずかな角度で水滴が転落する滑水性表面を有する無機固体(ガラス物品や金属物品)を作製することができた。
今回開発された技術は、今後、超耐久性の撥水コーティング技術として様々な用途に利用されることが期待できる。
即ち、水滴除去性(滑水性)に優れた表面を有し、更に耐久性にも優れた無機構造物及び該無機構造物を製造し得る無機構造物の製造方法を提供することが求められている。
また、水滴除去性(滑水性)に優れた表面を有し、更に耐久性にも優れた無機薄膜を製造し得る無機薄膜の製造方法を提供することが求められている。
本発明者らは、有機系の撥水材料(FAS;1H,1H,2H,2H-perfluorodecyltrimethoxysおよびODS;octadecyltrimethoxysilane)について、様々作製条件を変えたものの接触角と転落角を検討した。
その結果、接触角で表される静的撥水性と、転落角で表される動的撥水性と、の間には、明確な相関関係が見出されないことを発見した(N.Yoshida et.al、Journal of the American Chemical Society 128(3), 743-747(2006))。
更に、転落角が20°〜30°のものであっても、接触角が70°近辺のものがあるなど、静的撥水性が必ずしも高くなくても動的撥水性に優れるものがあることも分かった。
動的撥水性を示す式としては、Furmidgeの式(2)が知られている。
ここで、前進接触角θaと後退接触角θrの差(cosθr−cosθa)は、接触角ヒステリシスと称されるが、この式(2)で明らかなように、水滴の転落性はこの接触角ヒステリシスによって決まってくる。
つまり動的撥水性を向上させるためには接触角ヒステリシスを小さくすることが必要である。
しかし、このような動的撥水性の原因となるヒステリシスがなぜ生じるかについて明らかになっているわけではない。少なくとも前進接触角をより小さく、後退接触角をより大きくする必要があることは間違いないが、これらは独立して制御できるものではない。親水性が極めて高ければ前進接触角は小さくなるが、後退面で水滴が表面から剥離することは難しくなるので滑水性は望めない。滑水性を向上させるためには、まずは丸みを帯びた水滴が形成される必要があり、そのためには、接触角がある程度は高い値である必要がある。そのため、まず接触角θを大きくする手段を提供する方策を考える必要がある。
様々な無機酸化物や金属表面の平均表面粗さと接触角を測定して、その関係を評価すると、表面粗さの影響は顕著で、Wenzel式の示す方向の変化が確認できる。
しかしその効果は、表面粗さの変化する領域全般に渡って一様ではなく、特にナノメートル領域における表面粗さの影響が顕著に大きい。具体的には、図5及び図6に示すように、ナノメートル領域において表面粗さが小さくなると、表面粗さ(Ra)2nmを境に接触角が急激に大きくなる。Wenzel効果はもともと凹凸の増加を接触面積の増加と考えてYoungの式の補正を行ったものであり、熱力学的な均一性が期待できるマイクロメートル領域における効果を想定したものである。Wenzel効果では、分子間相互作用が問題になるナノメートル領域での効果が予測されているとは思われない。
実際、既往の研究でWenzel効果として測定されてきた無機物の表面粗さの領域は、マイクロメートル領域に限られ、ナノメートル領域を含む広範な表面粗さの範囲で接触角への影響を評価したものは見当たらない。
そのため、このナノメートル領域での接触角の変化が、所謂Wenzel効果と同じものなのかどうかについてはさらなる検証を有するが、事実としてこのような大きな効果が得られることが明らかである。このことを利用して無機物の接触角を増大させることができる。
ヒステリシスの起源として、Israelachviliは、1)表面粗さつまり構造的な不均一性、2)化学的不均一性、などを指摘している(J. N. Israelachvili 著、近藤保/大島広行 訳、“分子間力と表面力”第2版、朝倉書店(1996))。これらは前進接触角θaを小さくして、後退接触角θrを大きくする因子であると考えられる。
本発明者は、有機系撥水表面について、ナノメートルスケールで平滑にすることで接触角と動的撥水性との相関関係が明確に現れるようになることを見出している(N.Yoshida et.al、Journal of the American Chemical Society 128(3), 743-747(2006))。
有機系撥水表面では、Wenzel式のθは90°を超えているので、表面粗さを小さくすると接触角はむしろ小さくなる方向である。それでも動的撥水性が向上する理由としては、表面粗さを小さくすることで、ヒステリシスcosθr−cosθaが小さくなっているからであると考えられる。無機酸化物でも同様の効果は期待できる。
水滴の転落性の悪い表面では、このような水滴の後退が妨げられるポイント(抵抗点)が数多く観察される。
水滴後退面を細かく観察すると、このような抵抗点によって、θrが小さくなっていることが推察できる。この抵抗点の原因は、微小な表面の突起や陥没、化学的な異物の存在、さらには物理的性質の変化などであると考えられる。前進面の観察は難しいが、同じような無数の抵抗点が水滴の前進を妨げる状況は同様であろう。このような原因を極力除去し、表面の物理的、化学的性質を均一化する複合的な手段を講じることで、ヒステリシスcosθr−cosθaを小さくすることができる。逆にこのような転落性の優れた表面というものは、表面の物理的・化学的性質が著しく均一で、抵抗点の数が一定以上に少ない状態であると考えられる。
このような表面を得るための具体的方法として、本明細書で開示する適切な条件による水蒸気処理が有効であることは後述する。
動的撥水性と静的撥水性を2つの軸にした4象限をつくると、(1)超親水性の状態、つまり接触角が小さく基板を傾けても水滴は付着して動かない状態、(2)超撥水の状態、つまり水滴は簡単に転落していく状態、(3)フッ素系撥水コーティングなどでみられる「接触角が高いのに転落しない」状態、そして、(4)接触角はそれほど高くないが水滴の転落角は低く動的撥水性を示す状態が存在すると思慮される。
前記無機構造物素材を水蒸気処理することにより、前記無機構造物素材の表面の水滴転落角を低下させる水蒸気処理工程と、
を有する無機構造物の製造方法。
<2> 前記水蒸気処理は、前記無機構造物素材を、温度30℃以上100℃以下、かつ、絶対湿度15g/m3以上の水蒸気雰囲気に曝すことにより行う<1>に記載の無機構造物の製造方法。
<3> 前記水蒸気処理は、温度(℃)と相対湿度(%)との積が2000℃・%以上10000℃・%以下の水蒸気雰囲気に曝すことにより行う<1>又は<2>に記載の無機構造物の製造方法。
<4> 前記水蒸気処理工程の前に、前記無機構造物素材に対し、該無機構造物素材の表面の有機物を除去する前処理を施す前処理工程を有する<1>〜<3>のいずれか1項に記載の無機構造物の製造方法。
<5> 前記前処理は、100℃以上の熱処理、超音波洗浄処理、及び紫外線照射処理の少なくとも1種である<4>に記載の無機構造物の製造方法。
<6> 前記水蒸気処理工程の後に、前記無機構造物素材に対し、後処理として、前記水蒸気の温度以上300℃以下の熱処理を施す後処理工程を有する<1>〜<5>のいずれか1項に記載の無機構造物の製造方法。
<7> 前記無機構造物素材が、金属、合金、無機酸化物、及びガラスから選択される少なくとも1種を含む<1>〜<6>のいずれか1項に記載の無機構造物の製造方法。
<8> 前記無機構造物素材が、ステンレス、ソーダライムガラス、及び石英ガラスから選択される少なくとも1種を含む無機固体、又は、アルミナ、セリア、チタニア、ハフニア、及びシリカからなる群から選択される少なくとも1種を含む無機薄膜である<1>〜<7>のいずれか1項に記載の無機構造物の製造方法。
形成された塗布膜を300℃以上の温度で熱処理する熱処理工程と、
熱処理された塗布膜を水蒸気処理することにより、前記熱処理された塗布膜の表面の水滴転落角を低下させる水蒸気処理工程と、
を有する無機薄膜の製造方法。
<11> 厚み方向のバネ定数が0.05N/mであるSi3N4製のカンチレバーを用い、押付圧14nNの条件で、摩擦力顕微鏡により測定された摩擦力が10nN以下である領域、及び、厚み方向のバネ定数が0.05N/mであるSi3N4製のカンチレバーを用い、押付圧14nNの条件で、摩擦力顕微鏡により測定された動摩擦係数が1.0以下である領域の少なくとも一方を表面に含む無機構造物。
<12> 水蒸気雰囲気で処理されて得られた<10>又は<11>に記載の無機構造物。
<13> 金属、合金、無機酸化物、及びガラスから選択される少なくとも1種を含む<10>〜<12>のいずれか1項に記載の無機構造物。
<14> ステンレス、ソーダライムガラス、及び石英ガラスから選択される少なくとも1種を含む無機固体、又は、ジルコニア、アルミナ、セリア、チタニア、ハフニア、及びシリカからなる群から選択される少なくとも1種を含む無機薄膜である<10>〜<13>のいずれか1項に記載の無機構造物。
<15> 水に対する接触角が30°以上であり、水滴転落角が40°以下である<10>〜<14>のいずれか1項に記載の無機構造物。
<16> 表面における前記摩擦力の平均値が、前記水蒸気処理の前よりも低下している<11>〜<15>のいずれか1項に記載の無機構造物。
<17> 表面における前記摩擦力の平均値が、前記水蒸気処理の前よりも半分以下に低下している<11>〜<15>のいずれか1項に記載の無機構造物。
<19> 無機酸化物の前駆体を含む塗布液を塗布して成膜された後、300℃以上の温度で熱処理され、更に、温度30℃以上100℃以下、かつ、絶対湿度15g/m3以上の水蒸気雰囲気で水蒸気処理されて得られた無機薄膜である<10>〜<18>のいずれか1項に記載の無機構造物。
<20> 真空成膜法により成膜された後、300℃以上の温度で熱処理され、更に、温度30℃以上100℃以下、かつ、絶対湿度15g/m3以上の水蒸気雰囲気で処理されて得られたハフニア膜である<10>〜<18>のいずれか1項に記載の無機構造物。
<21> ガラス物品である<10>〜<18>のいずれか1項に記載の無機構造物。
<22> 金属物品である<10>〜<18>のいずれか1項に記載の無機構造物。
<23> 前記ガラス物品が、100℃以上500℃以下の温度で熱処理された後、更に、温度30℃以上100℃以下、かつ、絶対湿度15g/m3以上の水蒸気雰囲気で処理されて得られたガラス物品である<21>に記載の無機構造物。
<26> 前記水蒸気処理は、前記熱処理された塗布膜を、温度(℃)と相対湿度(%)との積が2000℃・%以上10000℃・%以下の水蒸気雰囲気に曝すことにより行う<9>又は<25>に記載の無機構造物の製造方法。
<28> 前記水蒸気処理は、前記熱処理されたハフニア膜を、温度30℃以上100℃以下、かつ、絶対湿度15g/m3以上の水蒸気雰囲気に曝すことにより行う<27>に記載の無機薄膜の製造方法。
<29> 前記水蒸気処理は、前記熱処理されたハフニア膜を、温度(℃)と相対湿度(%)との積が2000℃・%以上10000℃・%以下の水蒸気雰囲気に曝すことにより行う<27>又は<28>に記載の無機構造物の製造方法。
を有するガラス物品の製造方法。
また、本発明によれば、水滴除去性(滑水性)に優れた表面を有し、更に耐久性にも優れた無機薄膜を製造し得る無機薄膜の製造方法を提供することができる。
本発明の無機構造物は、表面における水滴の滑落を阻害する抵抗点の密度が、10個/30mm2以下である。
従来、酸化物を中心とする無機物質は本質的に表面エネルギーが有機物よりも高く、親水性を呈することが多いため、撥水性を要求される用途(水を嫌う用途)への適用は困難であると考えられてきた。
一方、有機物としてフッ素化合物等の撥水性コーティング材料が知られていたが、該撥水性コーティング材料は、水をはじいても水滴が転落しづらく、水滴を除去しづらい問題があった。このように、水接触角が高いからといって必ずしも水滴転落角が低いとは限らない。また、撥水性コーティング材料は有機物であるため耐久性が低いという問題があった。
本発明は、無機構造物表面の抵抗点の密度を前記の範囲とすること(即ち、無機構造物表面における特異点の数を少なくし、該表面の均一性を向上させること)により、表面における水滴除去性(滑水性)を向上できる、との新規な知見に基づき完成されたものである。
ここで、水滴除去性(滑水性)は、後述する水滴転落角の大小により判断される性質である。水滴転落角が小さい程、水滴除去性(滑水性)に優れている。
また、本発明の無機構造物は、有機膜等の有機構造物に比べ、耐久性、耐摩耗性、安全性に優れる。また、本発明の無機構造物は、高抵抗の無機構造物とすることもでき、この場合には帯電性にも優れる。
ここで、無機薄膜の形態とは、支持体(有機物であっても無機物であってもよい)上に形成された無機薄膜の形態を指す。この場合、無機薄膜表面が滑水性を有する。
以下、無機薄膜の形態である本発明の無機構造物を、「本発明の無機薄膜」や「無機薄膜」ということがある。本発明の無機薄膜の具体例については後述する。
以下、薄膜状以外の形態である本発明の無機構造物を、「本発明の無機固体」や「無機固体」ということがある。本発明の無機固体として、具体的には、上記形状のガラス物品や金属物品が挙げられる。
本発明では、無機構造物表面における水滴の滑落を阻害する抵抗点の密度が10個/30mm2以下であることが必要である。即ち、面積30mm2当りの前記抵抗点の個数が、10個以下であることが必要である。
抵抗点の密度が10個/30mm2を超えると水滴転落角が大きくなり、水滴除去性が悪化する。
まず、ゴニオメーターを用い、水平面に対して60度の角度で傾けた透明ガラスステージを準備した。
この透明ガラスステージ上に無機薄膜付きガラス基板(サンプル)を、無機薄膜が形成されていない側の面と、該透明ガラスステージ表面と、が接する向きで固定した。
次に、無機薄膜上に質量50mgの水滴を付着させ、該水滴が無機薄膜表面を滑落する様子を観察した。観察は、キーエンス社製デジタルマイクロスコープVHX−1000を用い、無機薄膜表面に対して垂直な方向から拡大倍率50倍(視野範囲5mm×6mm)にて行った。この際、ガラスステージの下には鏡を設置してデジタルスコープの照明が反射して水滴の形状を際立たせるように工夫した。
観察結果はシャッタースピード15fpsで動画として記録した。この記録した動画を詳細に観察することにより、抵抗点の密度を測定した。
無機薄膜以外の無機構造物(無機固体)表面における抵抗点の密度も、水平面に対して60度に傾斜した表面を滑落する質量50mgの水滴を、上記方法に準じて観察することにより測定できる。
図1中の横軸は、抵抗点の密度(個/30mm2)、即ち、面積30mm2当りの抵抗点の個数を対数軸で表したものである。
図1中の縦軸は、水滴転落角(°)を、線形軸で表したものである。
図1に示すように、膜の種類によらず、10個/30mm2を超えると水滴転落角が急激に上昇し、10個/30mm2以下であると水滴転落角が低下することが確認された。
図2は、無機薄膜としてアルミナ膜(接触角41°、水滴は転落せずに濡れ広がる)を用いたときの写真である。
図2に示すように、この膜の表面を水滴が転落する際には、水滴の後端線には抵抗点が観察された(図2中矢印)。また、後端線は滑らかではなく、凹凸が確認できる。なお、水接触角が小さいため、水滴中には干渉縞が確認できる。
図3は、無機薄膜としてスパッタチタニア膜(接触角56°、水滴は転落せずに濡れ広がる)を用いたときの写真である。
図3に示すように、この膜の表面を水滴が転落する際にも、水滴の後端線には抵抗点が観察された(図3中矢印)。また、後端線は滑らかではなく、凹凸が確認できる。
図4は、無機薄膜として、塗布による成膜、焼成、及び水蒸気処理後のアルミナ膜(接触角95°、水滴転落角26°)を用いたときの写真である。
図4に示すように、この膜の表面を水滴が転落する際には、水滴の後端線は滑らかであり、抵抗点が観察されなかった。
以上、図1〜図4を用いて説明した現象は、表面状態に関する現象であるため、無機薄膜表面に限らず、無機固体表面においても同様に観察できる現象と推測される。
抵抗点の密度が10個/30mm2以下である本発明の無機構造物を、前記抵抗点の密度とは別の観点からみると、厚み方向のバネ定数が0.05N/mであるSi3N4製のカンチレバーを用い、押付圧14nNの条件で、摩擦力顕微鏡により測定された摩擦力が10nN以下である領域、及び、厚み方向のバネ定数が0.05N/mであるSi3N4製のカンチレバーを用い、押付圧14nNの条件で、摩擦力顕微鏡により測定された動摩擦係数が1.0以下である領域の少なくとも一方を表面に含んでいる。
無機構造物が、前記摩擦力が10nN以下である領域、及び、前記動摩擦係数が1.0以下である領域の少なくとも一方を表面に含むことにより、無機構造物表面における水滴除去性(滑水性)が向上する。
ここで、前記摩擦力の平均値は、例えば、256点×256点の測定点における摩擦力の最頻値(ピーク値)として求めることができる。
本発明の無機構造物は、表面における水接触角が30°以上であることが好ましい。
水接触角が30°以上であると、無機構造物の表面エネルギーをより低くすることができ、無機構造物への汚損物質の付着をより抑制できる。また、水接触角が30°以上であると、無機構造物を、ガラス、レンズ、鏡等の被覆の用途に用いた場合に、水が付着したときの視認性がより良好となる。
本発明において、水に対する接触角(水接触角)は、接触角測定装置(Drop Master500,協和界面化学株式会社)を用い、3mgの水滴(蒸留水)を無機構造物表面に滴下し、滴下後1秒〜10秒の間に測定された値を指す。
前記水接触角は、表面エネルギーの観点や視認性の観点より、好ましくは40°以上であり、より好ましくは50°以上であり、特に好ましくは60°以上である。
本発明において「光照射によっても水接触角の低下が実質的に認められない」とは、光照射されても無機構造物の水接触角が実質的に低下しない(但し、10°程度の低下は許容される)ことを意味する。
また、本発明の無機構造物は、光照射前及び光照射後のいずれにおいても、水接触角が30°以上であることが好ましく、40°以上がより好ましく、50°以上が更に好ましく、60°以上が特に好ましい。
本発明において、「光照射」とは、ブラックライト(FL10BL−B,National)を用いて波長400nm以下の紫外光(UV光)を、1μW/cm2〜5mW/cm2の強さで照射することを指す。
本発明の無機構造物は、水滴転落角が40°以下であることが好ましい。
水滴転落角が40°以下であれば、傾斜により水滴を除去することがより容易である。
ここで、水滴転落角は、接触角測定装置(Drop Master500,協和界面化学株式会社)および転落角測定装置(SA−11,協和界面化学株式会社)を用いて測定された値を指す。具体的には、無機構造物表面に30mgの水滴を滴下した後、前記転落角測定装置を用いて前記無機構造物表面を水平面に対して傾けながら、前記接触角測定装置に付属しているカメラから水滴を観察する。水滴が転落する瞬間の、無機構造物表面と水平面との角度を測定し、この角度を水滴転落角とする。なお、転落する瞬間とは、水滴の前端点および後端点の両方が移動し始める瞬間である。
本明細書中では、水滴転落角は0°以上90°以下の値とする。無機構造物表面を水平面に対し90°に傾けても水滴が転落しない場合を転落角90°とする。
前記水滴転落角は、水滴除去性の観点より、好ましくは35°以下である。
なお、前述の通り、一般的には水接触角が高いからといって必ずしも水滴転落角が低いとはかぎらないが、本発明の無機構造物に関しては、接触角が著しく低く、液滴が形成されないで水膜になってしまうと水滴の転落は期待できない場合がある。そのため、水滴が形成される程度までには水接触角を大きくすること(例えば、水接触角を30°以上とすること)が好ましい。
本発明の無機構造物は、表面粗さ(Ra)が2nm以下であることが好ましい。
ここで、表面粗さ(Ra)は、JIS B0601(1994)に規定されている算術平均粗さを指す。
本発明における表面粗さ(Ra)は、AFM(原子間力顕微鏡;VN−8000、株式会社キーエンス製)を用い、測定範囲50μm四方について測定された値を指す。
表面粗さ(Ra)が2nm以下であれば、水接触角をより大きくすることができ、水滴転落角をより小さくすることができる。
水接触角を大きくし水滴転落角を小さくする観点より、前記表面粗さ(Ra)は1.6nm以下であることが好ましく、1.2nm以下であることがより好ましい。
本発明における表面粗さ(Rz)は、AFM(原子間力顕微鏡;VN−8000、株式会社キーエンス製)を用い、測定範囲50μm四方について測定された値を指す。
図6は、図5において、表面粗さ(Ra)が4nm以下の範囲を拡大して表したグラフである。
図5及び図6に示すように、水接触角は、表面粗さ(Ra)2nmから350nmまでの領域では変化が小さいが、2nm以下の領域で急激に上昇する。
本発明の無機構造物としては特に限定は無いが、本発明の効果をより効果的に奏する観点より、金属を含む無機構造物であることが好ましい。
また、本発明の無機構造物としては、本発明の効果をより効果的に奏する観点より、金属、合金、無機酸化物、及びガラスから選択される少なくとも1種を含む無機構造物であることも好ましい。
また、本発明の無機構造物としては、金属薄膜、無機酸化物薄膜、金属固体、又は無機酸化物固体であることがより好ましく、無機酸化物薄膜又は無機酸化物固体であることが更に好ましく、金属酸化物薄膜又は金属酸化物固体であることが特に好ましい。
前記合金としては、ステンレス(例えば、JIS G4303-1998、JIS G4304-1999、又はJIS G4305-1999に規定されているステンレス)が好適である。
前記ステンレスとして、より具体的には、SUS201、SUS202、SUS301、SUS302、SUS303、SUS304、SUS305、SUS316、SUS317、SUS329J1、SUS403、SUS405、SUS420、SUS430、SUS430LX、SUS630等を挙げることができる。
ここで、前記無機酸化物薄膜又は前記無機酸化物固体は、前述の無機酸化物が単一成分として含まれる膜(単味の膜)又は固体(単味の固体)であっても、2種以上含まれる膜(単味の膜)又は固体(単味の固体)であってもよい。
前記複合酸化物の例として、Ca10(PO4)6(OH)2の組成を有するアパタイトのCaイオンの一部をTiで置換したTiHAP(チタンドープアパタイト)が挙げられる。
本発明の無機薄膜は、接触角をより大きくし、転落角をより小さくする観点からは、ジルコニア、アルミナ、セリア、ハフニア、及びシリカからなる群から少なくとも1種を含む膜であることが好ましく、ジルコニア、アルミナ、及びシリカからなる群から少なくとも1種を含む膜であることがより好ましい。
また、耐久性の観点からは、ハフニア及びアルミナの少なくとも一方を含む膜であることが好ましい。
本発明者らはこのような優れた滑水性表面にセルフクリーニング性を付与する目的で、光触媒と組み合わせする方法を開発した。
光触媒によるセルフクリーニング技術は、従来は建築外壁を中心に広く用いられてきた。その原理としては、光照射により親水性を呈する(以下、「超親水化」ともいう)半導体光触媒の性質を利用して、付着した油性の汚損成分を降雨や水洗等によって容易に除去できるようにするものである。また、このセルフクリーニング技術は、光照射により有機物を分解する半導体光触媒の性質(有機物分解性)を利用して、付着した油性の汚損成分を分解し除去できるようにする技術である。
しかしながら、上記従来のセルフクリーニング技術では表面が親水性であるため、汚損成分の除去に水が不可欠である問題や、本質的に表面エネルギーが高く汚損物質が付着しやすい問題がある。また、表面が親水性であるため、水滴が転落しづらい(即ち、滑水性に劣る)ため、水滴除去性に劣る問題がある。
本発明の無機薄膜に光触媒活性を持たせた形態は、このような理想的な表面を有するものである。
即ち、本発明の無機薄膜に光触媒活性を持たせる場合には、チタニア単味膜であるか、又は、チタニアと、ジルコニア、アルミナ、セリア、ハフニア、及びシリカからなる群から少なくとも1種と、を含む複合膜であることが好ましい。
前記複合膜としては、チタニア−ハフニアの複合膜、チタニア−ジルコニアの複合膜、チタニア−アルミナの複合膜が好適である。
また、前記チタニアは、有機物分解性の観点からは、結晶化されていることが好ましい。本発明にいう「結晶化」とは、X線構造解析で結晶性を有すると判断される程度に結晶性を有する部分が存在している状態(即ち、部分的であれば非晶質部分が含まれていてもよい)を指す。また、チタニアが結晶化したか否かは、有機物分解性の有無によっても確認できる。
特に、本発明の無機薄膜が結晶化されたチタニアを含む場合には、撥水性、滑水性、耐久性に加え、光触媒活性(特に、有機物分解性)をも備えることができる。このため、自動車のフロントガラス等の用途により好適となる。
結晶化されたチタニアとしては、アナターゼ型、ルチル型が挙げられるが、中でも、有機物分解性の観点からは、アナターゼ型であることが好ましい。
前記成膜は、例えば、無機酸化物の前駆体を含む塗布液を塗布することにより得られた塗布膜を300℃以上の温度で熱処理することにより行われるか(以下、この方法を「ゾルゲル法」ともいう)、またはスパッタや蒸着等の真空成膜後、必要に応じ300℃以上の温度で熱処理することにより行われる。
前記水蒸気雰囲気は、温度30℃以上100℃以下であることが好ましい。
また、前記水蒸気雰囲気は、絶対湿度15g/m3以上の雰囲気であることが好ましい。
より好ましくは、前記水蒸気雰囲気が、温度30℃以上100℃以下、かつ、絶対湿度15g/m3以上の雰囲気である。
また、前記水蒸気雰囲気は、温度(℃)と相対湿度(%)との積が、2000℃・%以上10000℃・%以下であることが好ましく、2500℃・%以上8000℃・%以下であることがより好ましく、3000℃・%以上5000℃・%以下であることが特に好ましい。
このようなハフニア膜の製造方法の詳細については後述する。
本発明の無機固体としては、ガラス物品や金属物品が挙げられる。
ガラス物品としては、ガラス素材(例えば、ソーダライムガラス、パイレックス(登録商標)ガラス、石英ガラス、白板ガラス、青板ガラス、無アルカリガラス、サファイアガラス、等)を用いたあらゆる形状のガラス物品であって、水滴除去性が求められるガラス物品が挙げられる。
このようなガラス物品の具体例としては、車両(自動車等)や住宅の窓ガラス、ガラス容器、太陽電池用の白板ガラス、各種表示装置(液晶表示装置や有機EL表示装置等)用の部材として用いられる無アルカリガラス基板、化学強化ガラス、パイレックス(登録商標)ガラスなどの耐熱ガラス、等が挙げられる。
ガラス物品としては、表面の平坦性が高い(例えば、表面粗さRaが2nm以下)ことが好ましく、このためには、表面が鏡面状に研磨されたガラス素材を用いたり、フロート法により作製されたガラス素材を用いることが好適である。
このような金属物品の具体例としては、各種配管、金属容器、キッチンや浴室用のステンレス鋼板、住宅用のアルミ外壁材、車両用などのアルミ板材、等が挙げられる。
金属物品としては、表面の平坦性が高い(例えば、表面粗さRaが2nm以下)ことが好ましく、このためには、表面が鏡面状に研磨された金属素材を用いることが好適である。
前記水蒸気雰囲気は、温度30℃以上100℃以下の雰囲気であることが好ましい。
また、前記水蒸気雰囲気は、絶対湿度15g/m3以上の雰囲気であることが好ましい。
より好ましくは、前記水蒸気雰囲気が、温度30℃以上100℃以下、かつ、絶対湿度15g/m3以上の雰囲気である。
また、前記水蒸気雰囲気は、温度(℃)と相対湿度(%)との積が、2000℃・%以上10000℃・%以下であることが好ましく、2500℃・%以上8000℃・%以下であることがより好ましく、3000℃・%以上5000℃・%以下であることが特に好ましい。
(条件1)温度30℃以上120℃以下、かつ、絶対湿度15g/m3以上。
(条件2)温度(℃)と相対湿度(%)との積が2000℃・%以上12000℃・%以下。
本発明の無機構造物(無機薄膜及び無機固体)は、前述のとおり、表面の物理的・化学的性質が著しく均一で、抵抗点の数が一定以上に少ない。具体的には、表面における水滴の滑落を阻害する抵抗点の密度が、10個/30mm2以下である。
また、本発明の無機構造物を別の観点からみると、前記摩擦力が10nN以下である領域及び前記動摩擦係数が1.0以下である領域の少なくとも一方を表面に含んでいる。
前記水蒸気処理は、例えば、該水蒸気処理前の無機構造物(以下、「無機構造物素材」ともいう)を水蒸気雰囲気中に曝すことにより行うことができる。
ここで、水蒸気を吹きつける方法としては、ノズルなどから50℃から100℃程度の水蒸気を吹き付ける方法が挙げられる。
この際の吹き付け時間は、水蒸気処理の対象となる無機構造物素材の状態や、該無機構造物素材が置かれた環境によって異なるが、例えば、数分以上10時間以下とすることができる。
前記ノズルの構造は、できるだけ大面積を一度に水蒸気暴露できる構造が望ましく、例えば、無機構造物素材の被処理面に対向させる多孔体フィルター等を有し、該多孔体フィルター等に対し、前記無機構造物素材が存在する側の反対側から、水蒸気を送気できる構造が望ましい。
従来より、水蒸気処理は、酸化物表面の水酸基の量を増すことで、表面と水との親和性を高める(即ち、接触角を小さくし、転落角を大きくする)と思われてきた。
しかし、実際に検討した結果、寧ろ、水蒸気処理により接触角が大きくなり、転落角が小さくなり、ひいては水滴除去性が向上することが明らかとなった。この知見は従来全く知られていない発見であり、無機構造物に高度な滑水性を付与するためには、極めて重要な知見である。
このことの詳細なメカニズムは今後の研究の課題であるが、冒頭に述べた水滴の後退接触角に影響すると思われる物理的・化学的均一性が、水蒸気処理によって向上するためと考えられる。このメカニズムの詳細を調べるために、シリカ超微粒子に滑水性が発現する条件での水蒸気処理を行って、FT−IR測定およびTG/DTA測定を行った。
下記のシリカ超微粒子を用いた滑水処理試料(粉体)を作製し、この滑水処理試料(粉体)についてFT−TR測定及びDTA/TG測定を行った。
なお、本実験例(滑水処理試料(粉体)についてのFT−TR測定及びDTA/TG測定)中に記載の無い条件は、後述の実験例1における条件と同様である。
シリカ超微粒子(日本エアロジル社製 AEROSIL 200)10gを、温度90℃相対湿度50%の水蒸気雰囲気で4日間(96時間)処理(滑水処理)することにより、滑水処理試料を得た。
上記で得られた滑水処理試料について、下記測定条件でFT−IR測定を行った。
また、比較対照として、上記滑水処理前のシリカ超微粒子についても同様にしてFT−IR測定を行った。
・装置: FTIR-8600PC((株)島津製作所製)
・測定法: 透過法(KBrペレット)
・希釈率: 1質量%
・測定波数範囲: 400cm−1〜4000cm−1
・分解能: 4cm−1
・積算回数: 40回
・アポタイズ関数: Happ-Genzel関数
図73は、シリカ超微粒子を用いた滑水処理試料及び滑水処理前のシリカ超微粒子のFT−IR測定結果(波数範囲1500cm−1〜1850cm−1)である。詳しくは、図73は、図72のFT−IR測定結果のうち、波数範囲1500cm−1〜1850cm−1を拡大して表した図である。
図72及び図73において、「Tre.」の波形は滑水処理試料のFT−IR測定結果であり、「Pre.」の波形は滑水処理前のシリカ超微粒子のFT−IR測定結果である。
滑水処理試料(Tre.)と滑水処理前のシリカ超微粒子(Pre.)とで、他に目立った差は見られなかった。両者に共通する1630cm−1のピークは、液体の水分子の変角振動である。また、両者に共通する3400cm−1付近のピークは、液体の水分子のOH伸縮振動である。
一方、滑水処理試料(Tre.)に見られた1700cm−1のピークは、液体の水では存在せず、氷のクラスターに存在することが確認されている(The Journal of Physical Chemistry, March 1993, Vol97, Issue 11, pp.2485-2487)。
以上の結果は、滑水処理により、シリカ表面の水の状態が大きく変化して、特殊な構造有する水のクラスターが形成されていることを示唆している。
上記で得られた滑水処理試料について、下記測定条件でDTA/TG測定(示差熱−熱重量同時測定)を行った。
また、比較対照として、上記滑水処理前のシリカ超微粒子についても同様にしてDTA/TG測定を行った。
・装置: TG-8120((株)リガク製)
・測定範囲: 室温〜1000℃
・雰囲気: Air(50mL/min.)
・サンプル量: 7mg〜8mg
・参照試料: α−Al2O3
・サンプルパン: Pt
図74において、「Tre.」の波形は滑水処理試料のDTA/TG測定結果であり、「Pre.」の波形は滑水処理前のシリカ超微粒子のDTA/TG測定結果である。
一方、滑水処理試料(Tre.)では、100℃程度以下の範囲では質量の減少量は少なく、200℃以上の範囲でもじわじわと試料の減少が続いていた。
しかしながら、滑水処理前のシリカ超微粒子(Pre.)と滑水処理試料(Tre.)とでは、1000℃まで上昇させたときの質量減少量には大きな違いは見られなかった。
また、滑水処理試料(Tre.)では、有機物の燃焼によるものと思われる質量減少や発熱ピークは見られなかった。
以上の結果は、滑水処理により、シリカ表面の水の状態が大きく変化していることを示唆している。
この際、図54Bに示すように、活性化エネルギーEAの障壁を越える必要がある。点Aが化学的・物理的に不均一な点である場合、活性化エネルギーEAが上昇する。
図55に示すように、通常の大気環境条件では、無機構造物表面に−OH基が存在し、その上に水分子(H2O)が吸着し、更にその上に有機物Rが吸着している。無機構造物表面は、有機物Rの存在により、やや疎水的になっている。ここで、吸着状態に不均一性があり、抵抗点が存在すると、前述の活性化エネルギーが上昇し、動的撥水性が低下する原因となると考えられる。
このような表面に対し、水蒸気処理を施すと、図56に示すように、表面の有機物が一旦除去され、一様に均一なOH基が生成され、その上に特殊な構造を有するH2Oのクラスターが形成される。この際、表面の有機物除去性をより向上させるためには、水蒸気処理の前に熱処理(例えば100℃以上の熱処理)を施すことがより好ましい。
次に、特殊な構造を有するH2Oのクラスターの上に均一性よく有機物Rが吸着し、有機物Rが均一性よく付着した表面が構成されることにより(図56)、動的撥水性が高く、かつ接触角も比較的高い表面が構成される。
水蒸気処理後に形成される水のクラスターは熱的に比較的安定であることからも、強固に結合しているため、その上に吸着した有機物Rとともに、無機構造物に対して比較的強固に結合していることが推定できる。このようにして生成した表面は、摩擦などの機械的耐久試験を行っても動的撥水性の劣化は生じない。また、表面の有機物Rのはく離など軽微な劣化では、すぐに有機物Rの再吸着が生じ、動的撥水性が回復する。
従って、有機物の量と動的撥水性(水滴転落角)との間には必ずしも相関は見られず、表面における有機物が多いからといって必ずしも動的撥水性が高いとは限らない。
以下、上記内容に関して本発明者等が行った、有機物の量(炭素量)、水接触角、及び水滴転落角の相関に関する実験について説明する。
下記表1は、有機物の量(炭素量)、接触角、及び水滴転落角の相関を調査した結果である。
試料Aは、上記で得られたアルミナ膜を、温度40℃、相対湿度95%の水蒸気雰囲気に3120時間(130日間)放置(即ち、水蒸気処理を施した)して得られた試料である。
試料B−1は、上記で得られたアルミナ膜を、密閉されたケース内で1440時間(60日間)放置して得られた試料である。
試料B−2は、上記で得られたアルミナ膜を、大気環境(温度25℃、相対湿度55%)下で、2880時間(120日間)放置して得られた試料である。
以上の試料はいずれも、XRD測定の結果、非晶質(アモルファス)であることを確認している。また、以上の試料はいずれも、表面粗さが数nm以下に制御されていることを確認している。
しかしながら、単に大気環境下に放置した試料B−2では水滴が転落しなかったのに対し、水蒸気処理を施した試料Aでは水滴転落角が非常に低かった。
以上のように、有機物の量と動的撥水性(水滴転落角)との間には必ずしも相関は見られない。
従って、動的撥水性発現(水滴転落角低下)のためには、水蒸気処理等により、表面の抵抗点の密度を一定以下とすることが重要であることが確認された。
次に、動的撥水性発現(水滴転落角低下)の効果をより効果的に得るための水蒸気処理の好ましい条件について説明する。
前記水蒸気処理における水蒸気雰囲気は、滑水性付与(水滴転落角の低下)の効果をより効果的に得る観点より、温度30℃以上100℃以下であることが好ましい。
更には、温度40℃以上100℃以下であることがより好ましく、温度50℃以上100℃以下であることが更に好ましく、温度80℃以上100℃以下であることが特に好ましい。
また、前記水蒸気雰囲気は、滑水性付与の観点より、絶対湿度15g/m3以上の雰囲気であることが好ましい。更には、絶対湿度15g/m3以上300g/m3以下の雰囲気が好ましく、絶対湿度15g/m3以上200g/m3以下の雰囲気がより好ましく、絶対湿度15g/m3以上130g/m3以下の雰囲気が更に好ましく、絶対湿度50g/m3以上130g/m3以下の雰囲気であることが特に好ましい。
特に好ましい水蒸気雰囲気は、前記温度範囲と前記絶対湿度の範囲との双方を満たす雰囲気(例えば、温度30℃以上100℃以下、かつ、絶対湿度15g/m3以上の雰囲気)である。
前記水蒸気雰囲気における温度(℃)と相対湿度(%)との積が2500℃・%以上8000℃・%以下であると、滑水性向上の効果がより効果的に得られることに加え、滑水性の長期安定性も向上する。
(条件1)温度30℃以上120℃以下、かつ、絶対湿度15g/m3以上。
(条件2)温度(℃)と相対湿度(%)との積が2000℃・%以上12000℃・%以下。
このような恒温恒湿槽としては、例えば、HUMIDIC CHAMBER IG420、HUMIDIC CHAMBER IW222、HUMIDIC CHAMBER IH400(以上、ヤマト科学株式会社製)等が挙げられる。
本発明の無機構造物(無機薄膜及び無機固体)を得るための具体的方法としては、無機構造物素材(水蒸気処理が施される前の無機構造物)の表面に付着した有機物をより効率的に除去する観点から、前記水蒸気処理の前に、該無機構造物素材に対し、該無機構造物素材の表面の有機物を除去する前処理を施すことも有効である。
前記前処理としては、該無機構造物素材の表面に存在する有機物の少なくとも一部を除去する処理であれば特に限定はないが、例えば、熱処理、洗浄処理(超音波洗浄処理、純水洗浄処理、洗浄液を用いた洗浄処理、等)、及び紫外線照射処理の少なくとも1種が挙げられる。
中でも、前記前処理としては、熱処理、超音波洗浄処理、及び紫外線照射処理の少なくとも1種が好ましい。
前記熱処理の温度としては、有機物除去性の観点からは、100℃以上であることが好ましく、110℃以上であることがより好ましい。
更に、前記熱処理の温度は、本発明の無機構造物がゾルゲル法による無機薄膜の形態である場合には、塗布膜の焼成の観点から、300℃以上であることがより好ましい。
また、前記熱処理の温度は、本発明の無機構造物が真空成膜法による無機薄膜の形態である場合には、結晶化の観点から、300℃以上であることがより好ましい。
熱処理温度の上限としては、熱処理の対象物によって異なるが、例えば1200℃が挙げられる。
前記熱処理は、マッフル炉等の公知の炉において行うことができる。
熱処理後の無機構造物は、必要に応じ、例えば、30℃以上100℃以下まで冷却した後、前述の水蒸気処理を施す。該冷却は、例えば、熱処理に用いた炉内で3〜6時間冷却(炉冷)することにより行うことができる。
前記超音波洗浄処理の方法としては公知の方法を用いることができる。
前記超音波洗浄処理は、例えば、公知の超音波洗浄装置を用いて行うことができる。
前記超音波洗浄処理の条件は、該無機構造物素材の表面に存在する有機物の少なくとも一部を除去できる条件であれば特に限定はないが、好ましい条件として、例えば、純水中で10分以上超音波洗浄処理する条件を挙げることができる。
前記紫外線照射処理としては公知の方法を用いることができる。
前記紫外線照射処理において、照射する紫外線としては、該無機構造物素材の表面に存在する有機物の少なくとも一部を除去できる紫外線であれば特に限定はない。例えば、エキシマー光(例えば、ArF、XrF、XrCl、XeCl、Ar2、Xr2、等から生じるエキシマー光)等を用いることができる。
照射する紫外線の強度としては、10mW/cm2〜40mW/cm2が好ましい。
照射時間としては、300秒〜720秒が好ましく、600秒〜720秒がより好ましい。
前記紫外線照射処理の方法としては、エキシマーランプ等の紫外線ランプを直接照射することにより行う方法や、公知の紫外線照射処理装置(UV処理装置、UV表面改質装置、UV洗浄装置、等)を用いて行う方法が挙げられる。
本発明の無機構造物(無機薄膜及び無機固体)を得るための具体的方法としては、前記水蒸気処理により得られた滑水性表面の性状を安定化させる観点等から、前記水蒸気処理工程の後に、前記無機構造物素材に対し、後処理として熱処理を施すことが好ましい。
熱処理の温度としては、水蒸気処理の温度(水蒸気雰囲気の温度)以上300℃以下が好ましく、100℃以上300℃以下がより好ましい。
後処理としての熱処理における好ましい条件や好ましい方法については、前記前処理としての熱処理における好ましい条件や方法と同様である。
本発明の構造体は、本発明の無機薄膜により全部又は一部を被覆されて構成される。
本発明の構造体において、無機薄膜によって被覆される支持体としては特に限定はなく、有機物であっても無機物であってもよい。
前記支持体として、具体的には、ガラス(例えば、ソーダライムガラス、パイレックス(登録商標)ガラス、石英ガラス、白板ガラス、青板ガラス、無アルカリガラス、サファイアガラス、等)、金属、プラスチック、樹脂、セラミックス、半導体、結晶、紙、木材等、種々の材料を特に制限なく用いることができるが、本発明の効果をより効果的に得る観点からは、ガラス、セラミックスが好ましく、ガラスが特に好ましい。支持体は、そのまま用いてもよいし、表面にシリカ(SiO2)膜等が形成されたものを用いてもよい。
また、無機薄膜は、安全性、帯電性、耐久性、耐摩耗性の諸性能に優れるため、フッ素系の有機撥水材料の代替材料としても好適である。
このような用途の具体例としては、自動車のフロントウインドウ、結露防止機能を有する住宅ガラス、キッチンや浴室などの水回り部材や建材、化学溶液や食品溶液などの製造プロセスに用いられるタンクやリアクター、配管内面、攪拌タンクや攪拌機、耐久性に優れたフライパンなどの調理器具、計量器内面、塗布ロール、等が挙げられる。
特に、無機薄膜がチタニアを含む膜である場合には、水滴除去性に優れ、かつ、残存する汚染物が光触媒作用で酸化分解されるセルフクリーニング部材として用いることができる。
本発明の無機構造物の製造方法は、無機構造物素材を準備する工程(以下、「無機構造物素材準備工程」)と、前記無機構造物素材を水蒸気処理する水蒸気処理工程と、を有する。
本発明の無機構造物の製造方法によれば、水滴除去性に優れた表面を有し、更に耐久性にも優れた無機構造物を製造することができる。
また、本発明の無機構造物の製造方法によれば、製造される無機構造物表面における前記抵抗点の密度を、10個/30mm2以下に調整し易い。
また、本発明の無機構造物の製造方法によれば、前記摩擦力が10nN以下である領域、及び、前記動摩擦係数が1.0以下である領域の少なくとも一方を表面に含む無機構造物を製造し易い。
本発明の無機構造物の製造方法は、必要に応じ、その他の工程を有していてもよい。
無機構造物素材準備工程は、水蒸気処理の対象となる無機構造物素材を準備する工程である。
ここで「無機構造物素材」とは、前記水蒸気処理工程における水蒸気処理が施される前の無機構造物を指す。従って、「無機構造物素材」は、外見上は製造される無機構造物(前記水蒸気処理工程の処理が施された後の無機構造物)と同様のものであってもよい。
準備する無機構造物素材には特に限定はないが、水蒸気処理による滑水性向上の効果をより効果的に得る観点からは、表面における有機物の付着量が少ない無機構造物素材が好ましい。
表面における有機物の付着量が少ない無機構造物素材としては、例えば、製造からあまり時間が経過していない無機構造物素材(ガラス素材、金属素材等)、製造からの大気中における保管時間が短い無機構造物素材(ガラス素材、金属素材等)、等が挙げられる。
また、準備する無機構造物素材としては、予め、表面における有機物を除去する前処理を施しておいた無機構造物素材を準備することも好ましい。
また、準備する無機構造物素材としては、予め、表面を平滑に(例えば、表面粗さ(Ra)が2nm以下に)研磨する研磨処理を施しておいた無機構造物素材も好ましい。
前記水蒸気処理工程は、前記無機構造物素材を水蒸気処理することにより、前記無機構造物素材の表面の水滴転落角を低下させる工程である。
前記水蒸気処理工程は、前記無機構造物素材の表面の水滴転落角を、10°以上低下させることが好ましく、20℃以上低下させることがより好ましく、30°以上低下させることが特に好ましい。
前記水蒸気処理工程における水蒸気処理の好ましい範囲については、前記≪無機構造物≫中、<水蒸気処理>の項および<水蒸気処理の好ましい条件>の項で説明したとおりである。
また、本発明の無機構造物の製造方法は、前記水蒸気処理工程の前に、前記無機構造物素材に対し、該無機構造物素材の表面の有機物を除去する前処理を施す前処理工程を有することが好ましい。
該前処理工程を有することにより、水蒸気処理による滑水化の効果がより効果的に得られる。
該前処理工程における前処理の好ましい範囲については、前記≪無機構造物≫中の<前処理>の項で説明したとおりである。
また、本発明の無機構造物の製造方法は、前記水蒸気処理工程の後に、前記無機構造物素材に対し、後処理として、前記水蒸気の温度以上300℃以下の熱処理を施す後処理工程を有することが好ましい。
該後処理工程を有することにより、水蒸気処理により得られた滑水性表面の性状をより安定化させることができる。
該後処理工程における後処理の好ましい範囲については、前記≪無機構造物≫中の<後処理>の項で説明したとおりである。
本発明の無機薄膜の製造方法は、無機酸化物の前駆体を含む塗布液を支持体上に塗布して平滑な(例えば、表面粗さ(Ra)が2nm以下の)塗布膜を形成する塗布膜形成工程と、形成された塗布膜を300℃以上の温度で熱処理する熱処理工程と、熱処理された塗布膜を水蒸気処理する水蒸気処理工程と、を有する。
上記本発明の無機薄膜の製造方法によれば、水滴除去性に優れた表面を有し、更に耐久性にも優れた無機薄膜を製造することができる。
また、上記本発明の無機薄膜の製造方法によれば、製造される無機構造物表面における前記抵抗点の密度を、10個/30mm2以下に調整し易い。
また、上記本発明の無機薄膜の製造方法によれば、前記摩擦力が10nN以下である領域、及び、前記動摩擦係数が1.0以下である領域の少なくとも一方を表面に含む無機薄膜を製造し易い。
上記本発明の無機薄膜の製造方法は、ゾルゲル法を用いた無機薄膜の製造方法の形態である。
上記本発明の無機薄膜の製造方法は、更に、必要に応じ、その他の工程を有していてもよい。
前記塗布膜形成工程は、無機酸化物の前駆体を含む塗布液を支持体上に塗布して(更に、必要に応じ乾燥させて)塗布膜を形成する工程である。
前記支持体としては特に限定はなく、例えば、前記≪構造体≫の項で説明した支持体と同様のものを用いることができる。
無機酸化物の前駆体を含む塗布液(以下、「コート液」ともいう)は、調製されたものであっても、市販品など予め準備されたものであってもよい。
ここで、無機酸化物の前駆体とは、加熱により無機酸化物となる物質を指し、例えば、金属塩または金属アルコキシドが挙げられる。
また、前記無機酸化物としては、金属酸化物(ジルコニア、アルミナ、セリア、チタニア、ハフニア、シリカ、等)が挙げられる。
前記塗布液は、更に、必要に応じ、キレート剤を含んでもよい。
前記金属塩としては、例えば、硝酸塩、酢酸塩、塩酸塩、硫酸塩、等が好適である。
中でも、ジルコニウムアルコキシドが好ましく、ジルコニウムテトライソプロポキシドなどがより好ましい。
ジルコニアの前駆体の市販品としては、例えば、Zr−05−P((株)高純度化学研究所)が挙げられる。
中でも、チタンアルコキシドが好ましく、チタンテトライソプロポキシドなどがより好ましい。
チタニアの前駆体の市販品としては、例えば、NDH−510C(日本曹達(株)製)が挙げられる。
中でも、ハフニウムアルコキシドが好ましく、ハフニウムテトライソプロポキシドなどがより好ましい。
ハフニアの前駆体の市販品としては、例えば、Hf−05((株)高純度化学研究所)が挙げられる。
キレート剤としては、モノエタノールアミン(MEA)、ジエタノールアミン(DEA)、トリエタノールアミン(TEA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、クエン酸、等が挙げられる。
キレート剤の含有量は、塗布液中に含まれる金属元素のモル数に対し、0.5〜5当量が好ましく、1〜2当量がより好ましい。
添加剤の含有量(合計)は、塗布液の全量に対し、0.001〜20質量%が好ましく、0.01〜10質量%がより好ましい。
乾燥の温度は、50〜200℃が好ましく、100〜140℃がより好ましい。
乾燥の時間としては温度によっても異なるが、1分間〜60分間が好ましく、1分間〜20分間がより好ましい。
上記乾燥は、公知のホットプレートや乾燥機等において行うことができる。
前記熱処理工程は塗布工程で形成された塗布膜を300℃以上の温度で熱処理する工程である。
熱処理温度の上限には特に限定はなく、支持体の軟化点及びハフニア膜の軟化点のうち低い方の温度よりも更に低い温度であればよい。
熱処理の温度は、前駆体の焼成の観点より、300℃以上1200℃以下が好ましく、300℃以上900℃以下が好ましく、400℃以上600℃以下がより好ましい。
熱処理の時間としては温度によっても異なるが、0.5〜3時間が好ましく、0.5〜1時間がより好ましい。
その他、熱処理の好ましい条件は、前記≪無機構造物≫中の<前処理>の項で説明した条件と同様である。
水蒸気処理工程は、熱処理された塗布膜を水蒸気処理することにより、前記熱処理された塗布膜の表面の水滴転落角を低下させる工程である。
前記水蒸気処理工程は、前記無機構造物素材の表面の水滴転落角を、10°以上低下させることが好ましく、20℃以上低下させることがより好ましく、30°以上低下させることが特に好ましい。
水蒸気処理の好ましい条件は、前記≪無機構造物≫中、<水蒸気処理>の項および<水蒸気処理の好ましい条件>の項で説明した条件と同様である。
本発明の無機薄膜の製造方法は、必要に応じ、その他の工程を有していてもよい。
その他の工程としては、前述の前処理工程や前述の後処理工程等が挙げられる。
本発明の無機薄膜の製造方法の別の形態として、真空成膜法により支持体上に無機薄膜を成膜する成膜工程と、成膜された無機薄膜を300℃以上の温度で熱処理する熱処理工程と、熱処理された無機薄膜を水蒸気雰囲気で水蒸気処理する水蒸気処理工程と、を有する製造方法(以下、「真空成膜法を用いた無機薄膜の製造方法」ともいう)も好適である。
前記「真空成膜法を用いた無機薄膜の製造方法」によれば、水滴除去性に優れた表面を有し、更に耐久性にも優れた無機薄膜を製造することができる。
また、前記「真空成膜法を用いた無機薄膜の製造方法」によれば、製造される無機構造物表面における前記抵抗点の密度を、10個/30mm2以下に調整し易い。
また、前記「真空成膜法を用いた無機薄膜の製造方法」によれば、前記摩擦力が10nN以下である領域、及び、前記動摩擦係数が1.0以下である領域の少なくとも一方を表面に含む無機薄膜を製造し易い。
前記「真空成膜法を用いた無機薄膜の製造方法」は、必要に応じ、その他の工程を有していてもよい。
前記「真空成膜法を用いた無機薄膜の製造方法」は、具体的には、ハフニア膜の製造方法として好適である。
なお、スパッタ電力については、所望の表面粗さ(Ra)と適切な成膜速度が達成できれば特に限定は無い。
また、支持体としては後処理としての熱処理温度に耐えうる材料であれば特に限定はなく、例えば、前記≪構造体≫の項で説明した支持体と同様のものを用いることができる。また、支持体は、そのまま用いてもよいし、表面にシリカ(SiO2)膜等が形成されたものを用いてもよい。
成膜温度の上限には特に限定はなく、支持体の軟化点及び成膜される無機薄膜(例えばハフニア膜)の軟化点のうち低い方の温度よりも更に低い温度であればよい。
熱処理の温度は、結晶化の観点より、300℃以上1200℃以下が好ましい。
前記水蒸気処理工程は、前記無機構造物素材の表面の水滴転落角を、10°以上低下させることが好ましく、20℃以上低下させることがより好ましく、30°以上低下させることが特に好ましい。
水蒸気処理の好ましい条件は、前記≪無機構造物≫中、<水蒸気処理>の項および<水蒸気処理の好ましい条件>の項で説明した条件と同様である。
その他の工程としては、前述の前処理工程や前述の後処理工程等が挙げられる。
本発明のガラス物品の製造方法は、ガラス素材を100℃以上500℃以下の温度で熱処理する熱処理工程と、熱処理されたガラス素材を、温度30℃以上100℃以下、かつ、絶対湿度15g/m3以上の水蒸気雰囲気で水蒸気処理する水蒸気処理工程と、を有する。
ここでのガラス素材とは、熱処理及び水蒸気処理(即ち、滑水化処理)が施される前のガラス物品を指し、外見上は製造されるガラス物品(熱処理及び水蒸気処理が施されたガラス物品)と同様のものである。ガラス素材としては、表面の平坦性が高い(例えば、表面粗さRaが2nm以下)ことが好ましく、このためには、表面が鏡面状に研磨されたガラス素材を用いたり、フロート法により作製されたガラス素材を用いることが好適である。
ガラス物品の具体例については前記≪無機構造物≫中の<無機固体>の項で説明したとおりである。
また、前記本発明のガラス物品の製造方法によれば、製造されるガラス物品表面における前記抵抗点の密度を、10個/30mm2以下に調整し易い。
また、前記本発明のガラス物品の製造方法によれば、前記摩擦力が10nN以下である領域、及び、前記動摩擦係数が1.0以下である領域の少なくとも一方を表面に含むガラス物品を製造し易い。
また、前記水蒸気処理工程は、熱処理されたガラス素材を水蒸気処理することにより、前記熱処理されたガラス素材の表面の水滴転落角を低下させる工程である。
前記水蒸気処理工程は、前記無機構造物素材の表面の水滴転落角を、10°以上低下させることが好ましく、20℃以上低下させることがより好ましく、30°以上低下させることが特に好ましい。
水蒸気処理の好ましい条件は、前記≪無機構造物≫中、<水蒸気処理>の項および<水蒸気処理の好ましい条件>の項で説明した条件と同様である。
本発明の無機構造物の滑水性回復方法は、滑水性が低下した(例えば、転落角が50°を超えた)無機構造物表面を、温度30℃以上100℃以下、かつ、絶対湿度15g/m3以上の水蒸気雰囲気で水蒸気処理することにより、前記無機構造物の滑水性を回復させる(例えば、転落角を40°以下とする)方法である。
この方法によれば、激しい摩耗などでいったん滑水性を失った無機構造物表面の滑水性を、回復させることができる。
上記無機構造物の滑水性回復方法における水蒸気処理の好ましい条件は、前記≪無機構造物≫中、<水蒸気処理>の項および<水蒸気処理の好ましい条件>の項で説明した条件と同様である。
また、上記方法における水蒸気処理の条件は、ノズルなどから50℃から100℃程度の水蒸気を吹き付ける条件であってもよい。
水蒸気を吹き付ける条件の好ましい条件についても、前記≪無機構造物≫中、<水蒸気処理>の項で説明した条件と同様である。
また、「室温」は25℃を表す。
また、以下において、「接触角」及び「転落角」は、特に断りの無い限り、それぞれ、水接触角及び水滴転落角を指す。
以下のようにして、塗布液として各種コート液(「前駆体溶液」ともいう)を調製した。
<アルミナコート液>
アルミナコート液(0.1M)は、ポリビニルアルコール(PVA、重合度500)を水に溶解させて0.1質量%とした溶液に、硝酸アルミニウム9水和物を溶解させて、0.1mol/Lの硝酸アルミニウム9水和物溶液として調製した。
また、アルミナコート液(0.5M)は、モノエタノールアミンをメタノールに溶解させて0.5mol/Lとした溶液に、硝酸アルミニウム9水和物を加え、超音波洗浄器(ブランソニック2510J−DTH Yamato)を用いて1時間撹拌し、0.5mol/Lの硝酸アルミニウム9水和物溶液として調製した。
ハフニアコート液(0.5M)は、エタノールと硝酸(60質量%)と水とを、体積比9:1:0.2(=エタノール:硝酸(60質量%):水)で混合した溶液に、塩化ハフニウムを溶解させたのち、それを40℃3時間加温して、0.5mol/Lの塩化ハフニウム溶液として調製した。
また、ハフニアコート液(0.1M)は、メタノールと、硝酸(60質量%)と、0.1質量%のポリビニルアルコール(PVA、重合度500)水溶液と、を体積比9:1:0.2(=メタノール:硝酸(60質量%):PVA0.1質量%水溶液)で混合した溶液に、塩化ハフニウムを溶解させたのち、それを40℃3時間加温して、0.1mol/Lの塩化ハフニウム溶液として調製した。
また、ハフニアコート液(0.01M)は、塩化ハフニウムの含有量を変更した以外はハフニアコート液(0.1M)の調製と同様にして、0.01mol/Lの塩化ハフニウム溶液として調製した。
ジルコニアコート液は、ジエタノールアミンをメタノールに溶解させて0.5mol/Lとした溶液に、オキシ塩化ジルコニウム8水和物を加え、超音波洗浄器を用いて1時間撹拌し、0.5mol/Lのオキシ塩化ジルコニウム8水和物溶液として調製した。
セリアコート液(0.1M)は、ポリビニルアルコール(PVA、重合度500)を水に溶解させて0.05質量%とした溶液に、硝酸セリウム6水和物を溶解させて、0.1mol/Lの硝酸セリウム6水和物溶液として調製した。
また、セリアコート液(0.01M)は、ポリビニルアルコール(PVA、重合度500)を水に溶解させて0.1質量%とした溶液に、硝酸セリウム6水和物を溶解させて、0.01mol/Lの硝酸セリウム6水和物溶液として調製した。
チタニアコート液は、日本曹達社製の光触媒チタニアコート液NDH−510Cを用いた。
チタンアパタイト(TiHAP)コート液は、以下の手順で調製した。
エタノール(50mL)と2−エトキシエタノール(50mL)の混合溶液に、硝酸カルシウム4水和物(4.246g、0.018mol)を加えて攪拌溶解させたのち、5酸化2リン(0.905g、0.006mol)を加えて2時間攪拌した。得られた溶液に、チタンテトライソプロポキシド(0.568g、0.002mol)を加えて半日攪拌したのち、これをろ過し、得られたろ液をチタンアパタイト(TiHAP)コート液とした。
≪単味の金属酸化物膜の形成及び評価≫
<ジルコニア(ZrO2)膜の評価>
パイレックス(登録商標)ガラス基板を、洗剤を使用して超音波洗浄(60℃、10分間)した。次に、前記ガラス基板をすすいで乾燥した後、300℃で30分間加熱処理し、再び室温に冷却した。
次に、室温に冷却されたガラス基板上に、上記で得られたジルコニアコート液を1mL塗布し、回転数1500rpmで10秒間スピンコートして塗布膜を形成した。
塗布膜が形成されたガラス基板を、雰囲気温度120℃に調製した乾燥機中で10分間放置し、更に、マッフル炉(KDF−P90G、株式会社デンケン)を用い、大気雰囲気下、雰囲気温度500℃で0.5時間加熱して、更に、前記マッフル炉中で5時間冷却し、ガラス基板上にジルコニア膜を形成した。5時間冷却後のジルコニア膜の膜面温度は室温であった。
水蒸気処理の装置としては、恒温恒湿器(HUMIDIC CHAMBER IG420、ヤマト科学株式会社)を用いた。
また、以上で作製されたジルコニア膜の表面粗さ(Ra)は9.8nmであった。
なお、本実験例において、表面粗さ(Ra)の測定は、AFM(原子間力顕微鏡;VN−8000、株式会社キーエンス製)を用い、測定範囲50μm四方の条件で、JIS B0601(1994)に準拠して行った。以下の実験例における表面粗さ(Ra)の測定方法も、特に断りがある場合を除き、本実験例における測定方法と同様である。
水蒸気処理前のジルコニア膜を室内環境(温度25℃、相対湿度60%(絶対湿度14g/m3))で31日間保管し、水接触角(以下、単に「接触角」ともいう)及び水滴転落角(以下、単に「転落角」ともいう)の経時変化を測定した。得られた測定値の系列を、以下、「水蒸気処理無し(の場合)」とする。
なお、水接触角及び水滴転落角の測定方法は前述のとおりである。
転落角については、水平面に対し膜面を90°まで傾けても水滴が転落しない場合、便宜上、「転落角90°」と表記した。
次に、水蒸気処理の時間を31日間までの間で種々変化させ、各処理時間ごとの接触角及び転落角を測定した。得られた測定値の系列を、以下、「水蒸気処理有り(の場合)」とする。
得られた結果を図7A及び図7Bに示す。
横軸の「経過日数」は、水蒸気処理無しの場合については前記室内環境における保管時間(単位:日)であり、水蒸気処理有りの場合については水蒸気処理時間(単位:日)である(以降のグラフについても同様である)。
図7A中、白抜きの矢印についての上流側(矢先側に対し反対側)が水蒸気処理無しのプロット群であり、白抜きの矢印についての下流側(矢先側)が水蒸気処理有りのプロット群である(以降のグラフについても同様である)。
図7Aに示すように、水蒸気処理無しの場合、接触角は不安定であった。具体的には、経過時間1日以内では20°未満であり、その後緩やかに上昇し、経過時間31日で70°程度に達する傾向であった。
これに対し、水蒸気処理有りの場合、接触角が大幅に上昇すること、特に、3日以上の処理により接触角が90°以上にまで上昇することが確認された。
図7Bに示すように、水蒸気処理無しの場合、転落角は不安定であった。具体的には、70°〜90°の付近を推移していた。
これに対し、水蒸気処理有りの場合により転落角が低下することが確認された。特に、水蒸気処理を7日以上行うことにより、転落角が40°以下になることがわかった。
水蒸気処理後のジルコニア膜について、X線回折装置(RINT2100、株式会社リガク製)を用い、XRD測定(X線回折測定)を行った。
詳細には、平行ビーム法で管電圧40kV、管電流30mA、スキャンステップ0.02°、スキャンスピード2°/min、の条件で対陰極として銅、フィルターとしてニッケルを使用してXRD測定を行った。
図8は、水蒸気処理後のジルコニア膜のXRD測定結果である。
図8に示すように、上記ジルコニア膜では明確な回折点が確認され、結晶構造を示す秩序が確認された。
上記ジルコニア膜の評価において、ジルコニアコート液をアルミナコート液(0.5M)に変えたこと以外は上記ジルコニア膜の評価と同様にして、アルミナ膜の作製及び評価を行った。
作製されたアルミナ膜は、干渉色が見られず無色透明であったことから、均質かつ膜厚が数十〜数百nmであると思われる。
また、以上で作製されたアルミナ膜の表面粗さ(Ra)は1.4nmであった。
図9Aに示すように、水蒸気処理無しの場合、接触角は不安定であった。具体的には、経過時間1日以内では40°未満であり、経過時間3日以降50°から80°程度に向けて緩やかに上昇する傾向であった。
これに対し、水蒸気処理有りとすることで、接触角が大幅に上昇すること、特に、1日以上の処理により接触角が80°以上にまで上昇することが確認された。
図9Bに示すように、水蒸気処理無しの場合、転落角は不安定であった。具体的には、40°〜90°の範囲を推移していた。
これに対し、水蒸気処理有りとすることで、転落角が低下することが確認された。特に、水蒸気処理を7日以上行うことにより、転落角が45°以下になることがわかった。
図10に示すように、上記アルミナ膜では明確な回折点が確認されず、上記アルミナ膜は非晶質であることが確認された。
上記ジルコニア膜の評価において、ジルコニアコート液を、セリアコート液(0.1M)又は(0.01M)に変えたこと以外は上記ジルコニア膜の評価と同様にして、セリア膜(0.1M)及びセリア膜(0.01M)それぞれの作製及び評価を行った。
作製されたセリア膜(0.1M)及びセリア膜(0.01M)は、いずれも干渉色が見られず無色透明であったことから、均質かつ膜厚が数十〜数百nmであると思われる。
また、作製されたセリア膜(0.1M)の表面粗さRaは、2.0nmであった。
図11Aに示すように、水蒸気処理無しの場合、接触角は不安定であった。具体的には、セリア膜(0.1M)では、18°未満であった接触角が15日間の保管で50°程度に上昇していた。また、セリア膜(0.01M)では、16°程度であった接触角が15日間の保管で30°程度に上昇していた。
これに対し、図11Bに示すように、水蒸気処理有りとすることで、接触角が大幅に上昇することが確認された。具体的には、3日以上の処理により接触角が、セリア膜(0.1M)で80°以上に、セリア膜(0.01M)で70°以上にまで上昇することが確認された。
図12Aに示すように、セリア膜(0.1M)及びセリア膜(0.01M)では、成膜当初から30日経過時まで、転落角は常に90°以上であり、水滴除去性が極めて悪かった。
これに対し、図12Bに示すように、水蒸気処理有りとすることで転落角が低下することが確認された。具体的には、7日以上の処理により転落角が、セリア膜(0.1M)で50°以下に、セリア膜(0.01M)で40°以下にまで低下することがわかった。
図13に示すように、上記セリア膜では明確な回折点が確認され、結晶構造を示す秩序が確認された。
上記ジルコニア膜の評価において、ジルコニアコート液をチタニアコート液に変えたこと以外は上記ジルコニア膜の評価と同様にして、チタニア膜の作製及び評価を行った。
作製されたチタニア膜の膜厚を、分光エリプソメトリーないし走査型電子顕微鏡(SEM)等を用いて測定したところ、およそ100nmであった。
図14Aに示すように、水蒸気処理無しの場合、接触角は不安定であった。具体的には、接触角は、経過時間1日以内では10°程度であり、その後緩やかに上昇し経過時間31日で25°程度に達する傾向であった。
これに対し、水蒸気処理有りとすることで、接触角が大幅に上昇すること、特に、7日以上の処理により接触角が60°程度以上にまで上昇することが確認された。
図14Bに示すように、成膜当初から30日経過時まで、転落角は常に90°以上であり、水滴除去性が極めて悪かった。
これに対し、水蒸気処理有りとすることで、転落角が低下することが確認された。特に、水蒸気処理を7日以上行うことにより、転落角が60°以下になることが確認された。
上記ジルコニア膜の評価において、ジルコニアコート液を、ハフニアコート液(0.5M)、(0.1M)、又は(0.01M)に変えたこと以外は上記ジルコニア膜の評価と同様にして、ハフニア膜(0.5M)、ハフニア膜(0.1M)、及びハフニア膜(0.01M)それぞれの作製及び評価を行った。
作製されたハフニア膜(0.5M)、ハフニア膜(0.1M)、及びハフニア膜(0.01M)は、干渉色が見られず無色透明であったことから、均質かつ膜厚が数十〜数百nmであると思われる。
また、作製されたハフニア膜(0.1M)の表面粗さ(Ra)は、6.9nmであった。
図15Aに示すように、水蒸気処理無しの場合、接触角は不安定であった。例えば、ハフニア膜(0.1M)では、10°未満であった接触角が15日間の保管で60°程度に上昇していた。
これに対し、図15Bに示すように、水蒸気処理有りとすることで、接触角が大幅に上昇することが確認された。具体的には、1日以上の処理により接触角が80°以上にまで上昇することが確認された。
図16Aに示すように、ハフニア膜(0.1M)及びハフニア膜(0.01M)では、成膜当初から7日経過時まで、転落角は常に90°以上であり、水滴除去性が極めて悪かった。15日経過以降は、転落角は50〜70°に低下していた。
これに対し、図16Bに示すように、水蒸気処理有りとすることで転落角が低下することが確認された。具体的には、1日以上の処理により転落角が、ハフニア膜(0.1M)で50°以下に、ハフニア膜(0.01M)で45°以下にまで低下することがわかった。
図17Bは、ハフニア膜(0.01M)のXRD測定結果である。
図17Aに示すように、ハフニア膜(0.5M)では明確な回折点が確認され、結晶構造を示す秩序が確認された。
図17Bに示すように、ハフニア膜(0.01M)では明確な回折点が確認されず、上記ハフニア膜(0.01M)は非晶質であることが確認された。
シリカ(SiO2)膜に対する水蒸気処理の効果の確認を目的として、ブランク(ガラス基板)に対する水蒸気処理の効果を確認した。
水蒸気処理は、「温度40℃、相対湿度90%(絶対湿度46g/m3)」及び「温度40℃、相対湿度20%(絶対湿度10g/m3)」の各条件にて行った(水蒸気処理のその他の条件はジルコニア膜の場合と同様である)。
図18Aは、水蒸気処理有りの場合のブランクにおける水接触角の変化を示すグラフであり、図18Bは、水蒸気処理有りの場合のブランクにおける水滴転落角の変化を示すグラフである。
図18Aに示すように、処理時間が長くなるにつれ、接触角が上昇した。
特に、「温度40℃、相対湿度90%(絶対湿度46g/m3)」では、3日間の処理で接触が55°を超えた。絶対湿度46g/m3の条件は、絶対湿度10g/m3の条件に比べ、接触角を上昇させる効果が大きかった。
図18Bに示すように、「温度40℃、相対湿度90%」では、転落角が30°以下を維持した。絶対湿度46g/m3の条件は、絶対湿度10g/m3の条件に比べ、転落角を低下させる効果が大きかった。
≪複合金属酸化物膜の形成及び評価≫
<アルミナ−チタニア膜の評価>
(接触角及び転落角の評価)
実験例1のジルコニア膜の評価において、ジルコニアコート液を、アルミナコート液(0.5M)とチタニアコート液との混合溶液(アルミナコート液の体積:チタニアコート液の体積=100:1)に変えた以外は既述のジルコニア膜と同様にして、アルミナとチタニアとを含む膜(アルミナ−チタニア膜(100:1))を作製し、接触角及び転落角の測定を行った。
更に、アルミナコート液(0.5M)とチタニアコート液との体積比を変えて(アルミナコート液の体積:チタニアコート液の体積=10:1又は1:1)、アルミナ−チタニア膜(100:1)、アルミナ−チタニア膜(10:1)をそれぞれ作製し、水蒸気処理時間に対する接触角及び転落角の変化をそれぞれ測定した。
なお、アルミナ−チタニア膜(100:1)の表面粗さRaは、1.4nmであった。
また、アルミナ−チタニア膜(10:1)の表面粗さRaは、1.5nmであった。
また、アルミナ−チタニア膜(1:1)の表面粗さRaは、1.6nmであった。
更に、対照用としてアルミナ膜の単味膜を実験例1と同様の方法により作製し、水蒸気処理時間に対する接触角及び転落角の変化を測定した。
図19A及び図19B中、例えば、「Al−Ti 100:1 40℃ 90%」等の表記は、アルミナコート液(0.5M)の体積:チタニアコート液の体積=100:1の混合溶液を用いて得られたアルミナ−チタニア膜を、温度40℃、相対湿度90%(絶対湿度46g/m3)の条件で水蒸気処理して得られた試料であることを示している。
また、「Al−MEA」は、アルミナの単味膜を示す。
図19Aに示すように、各条件において高い接触角を示したが、特に、相対湿度90%(絶対湿度46g/m3)の条件の場合には、3日以上の処理で80°を超えることが確認された。
また、図19Bに示すように、アルミナコート液(0.5M)の割合が高い場合であって相対湿度90%(絶対湿度46g/m3)の条件の場合に、転落角の低下が確認された。
次に、アルミナ−チタニア膜「Al−Ti 100:1 40℃ 90%」について、光照射によるイソプロピルアルコール(IPA)ガスの気相分解に関する実験を行い、光触媒活性を評価した。
まず、合成空気で置換した密閉容器内に上記で得られたアルミナ−チタニア膜を静置し、IPAガス(イソプロピルアルコールガス)を濃度2000ppmとなるように注入し、暗所で23時間保存した。その後、アルミナ−チタニア膜に紫外線(UV)を照射した。
ここで、紫外線としては、ブラックライト(FL10BL−B、National社製)を用いた。また、アルミナ−チタニア膜に照射する紫外線の強さは、ライトと基板との距離を調節して1mW/cm2となるように設定した。
UV照射時間毎に密閉容器内の気体を採取し、ガスクロマトグラフィーにより、残存するIPAガス(原料)の濃度、及び、アセトン(生成物)の濃度を測定した。
図20、図21、及び図22において、横軸(BL照射時間/h)はブラックライトの照射時間(単位:時間)を表し、左側の縦軸(IPA/ppm)は、残存するIPAガスの濃度(単位:ppm)を表す軸であり、右側の縦軸(Acetone/ppm)は、生成物であるアセトンの濃度(単位:ppm)を表す軸である。
図20、図21、及び図22に示すように、「Al−Ti 100:1 40℃ 90%」、「Al−Ti 10:1 40℃ 90%」、及び「Al−Ti 1:1 40℃ 90%」のいずれにおいても、光触媒活性が確認された。
(接触角及び転落角の評価)
実験例1のジルコニア膜の評価において、ジルコニアコート液を、ジルコニアコート液とチタニアコート液との混合溶液(ジルコニアコート液の体積:チタニアコート液の体積=100:1)に変えた以外は実験例1のジルコニア膜と同様にして、ジルコニアとチタニアとを含む膜(ジルコニア−チタニア膜)を作製し、接触角及び転落角の測定を行った。
更に、ジルコニアコート液とチタニアコート液との体積比を種々変化させ(ジルコニアコート液の体積:チタニアコート液の体積=10:1又は1:1)、水蒸気処理時間に対する接触角及び転落角の変化を測定した。
なお、ジルコニア−チタニア膜(100:1)の表面粗さRaは、1.5nmであった。
また、ジルコニア−チタニア膜(10:1)の表面粗さRaは、1.1nmであった。
また、ジルコニア−チタニア膜(1:1)の表面粗さRaは、1.5nmであった。
また、対照用としてジルコニアの単味膜を作製し、水蒸気処理時間に対する接触角及び転落角の変化を測定した。
図23A及び図23B中、例えば、「Zr−Ti 100:1 40℃ 90%」等の表記は、ジルコニアコート液の体積:チタニアコート液の体積=100:1の混合溶液を用いて得られたジルコニア−チタニア膜を、温度40℃、相対湿度90%(絶対湿度46g/m3)の条件で水蒸気処理して得られた試料であることを示している。
また、「Zr−DEA」は、ジルコニアの単味膜を示す。
図23Aに示すように、各条件において高い接触角を示し、特に、8日以上の処理で80°を超えることが確認された。
また、図23Bに示すように、特に、相対湿度90%(絶対湿度46g/m3)の条件の場合に、転落角の低下が確認された。
(接触角及び転落角の評価)
実験例1のジルコニア膜の評価において、ジルコニアコート液を、ハフニアコート液とチタニアコート液との混合溶液(ハフニアコート液の体積:チタニアコート液の体積=100:1)に変えた以外は実験例1のジルコニア膜と同様にして、ハフニアとチタニアとを含む膜(ハフニア−チタニア膜)を作製し、接触角及び転落角の測定を行った。
更に、ハフニアコート液とチタニアコート液との体積比を種々変化させ(ハフニアコート液の体積:チタニアコート液の体積=10:1又は1:1)、水蒸気処理時間に対する接触角及び転落角の変化を測定した。
また、対照用としてハフニアの単味膜を実験例1と同様の方法により作製し、水蒸気処理時間に対する接触角及び転落角の変化を測定した。
図24A及び図24B中、例えば、「Hf−Ti 100:1 40℃ 90%」等の表記は、ハフニアコート液の体積:チタニアコート液の体積=100:1の混合溶液を用いて得られたハフニア−チタニア膜を、温度40℃、相対湿度90%(絶対湿度46g/m3)の条件で水蒸気処理して得られた試料であることを示している。
また、「Hf 40℃ 90%」は、ハフニアの単味膜を、温度40℃、相対湿度90%(絶対湿度46g/m3)の条件で水蒸気処理して得られた試料であることを示している。
図24Aに示すように、各条件において高い接触角を示したが、特に、ハフニアの比率が高い場合に高い接触角を示した。
また、図24Bに示すように、特に、相対湿度90%(絶対湿度46g/m3)の条件の場合に、転落角の低下が確認された。
(接触角及び転落角の評価)
実験例1のジルコニア膜の評価において、ジルコニアコート液をチタンアパタイト(TiHAP)コート液に変えた以外は実験例1のジルコニア膜と同様にして、チタンアパタイト膜(TiHAP)を作製し、接触角及び転落角の測定を行った。
図25A及び図25B中、「TiHAP_1」のプロットは室温環境で保管した場合、「40℃95%」等のプロットは表記の温度及び相対湿度で水蒸気処理した場合のプロットである。
図25Aに示すように、「90℃25%」及び「90℃50%」の各処理により、接触角が顕著に上昇した。
また、図25Bに示すように、「90℃50%」の処理により、転落角が顕著に低下した。
≪抵抗点の密度及び撥水性の評価≫
上記で作製した単味の金属酸化物膜、及び、複合金属酸化物膜を含め、種々の無機薄膜(試料1〜試料27)について、抵抗点の密度と撥水性(接触角及び転落角)との相関を評価した。
抵抗点の密度、接触角、及び転落角の測定方法は前述の通りである。
評価結果を表2に示す。
また、各試料の作製条件は以下のとおりである。
実験例1で作製したアルミナ膜(前記マッフル炉中で5時間冷却した後のアルミナ膜)を、温度40℃、相対湿度95%(絶対湿度48g/m3)の雰囲気で、2ヶ月間保管した(即ち、水蒸気処理を施した)。
(試料2)
実験例1で作製したアルミナ膜(前記マッフル炉中で5時間冷却した後のアルミナ膜)を、70℃の純水に1時間浸漬させ熱水処理を行った。
熱水処理後のアルミナ膜を温度40℃、相対湿度95%(絶対湿度48g/m3)の雰囲気で、2ヶ月間保管した(即ち、水蒸気処理を施した)。
(試料3)
実験例1で作製したアルミナ膜(前記マッフル炉中で5時間冷却した後のアルミナ膜)である(保管無しで抵抗点の密度及び撥水性の評価を行った)。
(試料4)
実験例1で作製したアルミナ膜(前記マッフル炉中で5時間冷却した後のアルミナ膜)を、70℃の純水に1時間浸漬させ熱水処理を行った。
熱水処理後のアルミナ膜を、実験例1と同様の室内環境で1日間保管した。
(試料5)
実験例1で作製したアルミナ膜(前記マッフル炉中で5時間冷却した後のアルミナ膜)を実験例1と同様の室内環境で4日間保管した。
下記条件により成膜したAl膜、Au膜、Cr膜、Si膜、及びTi膜のそれぞれを、温度40℃、相対湿度95%(絶対湿度48g/m3)の雰囲気で、2ヶ月間保管した(即ち、水蒸気処理を施した)。
各膜を形成する基板としては、実験例1と同様のガラス基板を用いた。
洗浄したガラス基板を抵抗加熱型真空蒸着装置(EBH−6)にセットした。Wポートにアルミニウムワイヤー(直径1mm、99.999%、Sigma−Aldrich社製)をセットし(蒸着ポートと基板の距離は15cm)、ロータリポンプと拡散ポンプで2×10−6Torrまで真空排気した後、徐々に加熱電流を上げて予熱・除気し、その後、2nm/secの製膜速度で3分間蒸着を行った(膜厚371nm)。蒸着では基板加熱を行っていない。蒸着後、自然冷却させた後、取り出した。
洗浄したガラス基板を抵抗加熱型真空蒸着装置(EBH−6)にセットした。まず下地膜としてCrを後述の方法で約5nm蒸着した。そののちWポートに金ワイヤー(直径0.5mm、99.99%、Sigma−Aldrich社製)をセットし(蒸着ポートと基板の距離は15cm)、ロータリポンプと拡散ポンプで2×10−6Torrまで真空排気した後、徐々に加熱電流を上げて予熱・除気し、その後、0.5nm/secの製膜速度で200秒間蒸着を行った(膜厚約100nm)。蒸着では基板加熱を行っていない。蒸着後、自然冷却させた後、取り出した。
洗浄したガラス基板を抵抗加熱型真空蒸着装置(EBH−6)にセットした。Taポートにクロミウムチップ(99.995%、Sigma−Aldrich社製)をセットし、その蒸着ポートと基板の距離は15cmとした。ロータリポンプと拡散ポンプで2×10−6Torrまで真空排気した後、徐々に加熱電流を上げて予熱・除気し、その後、0.6nm/secの製膜速度で170秒間蒸着を行った(膜厚約100nm)。蒸着では基板加熱を行っていない。蒸着後、自然冷却させた後、取り出した。
洗浄したソーダライムガラス基板(基板サイズ50mm×50mm×2mmt)上に、下記条件のスパッタリングによりSi薄膜、Ti薄膜を成膜した。
・装置:パーソナルコーター(日真精機株式会社製の仕様変更機)
・電源:REACTIVE PLASMA GENERATOR(ENI Technology,Inc.製PRG−50)、投入電力:250W(パルス)
・ターゲット:Si(4N,40mm×200mm×5mmt,0,01Ω・cm以下。三井金属製)
・基板加熱:なし
・バックプレッシャー:2.0×10−4Pa
・スパッタリング時の全圧:Ar(100%)をガス流量30sccmで導入し、メインバルブを調整して全圧0.3Paとした。
以上のスパッタリング条件で、プリスパッタ10分の後、基板の搬送速度は8.3cm/minで2往復ターゲット下を通過させ、膜厚は114nm、Ra=0.4nm(25μm2)であった。
・装置:パーソナルコーター(日真精機株式会社製の仕様変更機)
・電源:DC電源、投入電力:1.2KW
・ターゲット:Ti(4N,40mm×200mm×5mmt,住友金属製)
・基板加熱:なし
・バックプレッシャー:2.0×10−4Pa
・スパッタリング時の全圧:Ar(100%)をガス流量30sccmで導入し、メインバルブを調整して全圧0.3Paとした。
以上のスパッタリング条件で、プリスパッタ10分の後、基板の搬送速度は10.0cm/minで2往復ターゲット下を通過させ、膜厚は100nm、Ra=8.3nm(25μm2)であった。
石英ガラス及びシリコンウェハのそれぞれを、温度40℃、相対湿度95%(絶対湿度48g/m3)の雰囲気で、2ヶ月間保管した(即ち、水蒸気処理を施した)。
下記条件で調製したジルコニアコート液を用い、実験例1と同様の方法により作製したジルコニア膜(前記マッフル炉中で5時間冷却した後のジルコニア膜)を、実験例1と同様の室内環境で5ヶ月間保管した。
ジルコニアコート液(2質量%)は、ポリビニルアルコール(PVA、重合度500)を水に溶解させて0.1質量%とした溶液に、オキシ酢酸ジルコニウムを溶解させて、2質量%のオキシ酢酸ジルコニウム溶液として調製した。
ジルコニアコート液(2質量%)は、1−プロパノール(1−PrOH)と水を、体積比28:7(=1−プロパノール:水)で混合した溶液に、オキシ酢酸ジルコニウムを溶解させて、2質量%のオキシ酢酸ジルコニウム溶液として調製した。
実験例2で作製したジルコニア−チタニア膜(前記マッフル炉中で5時間冷却した後のジルコニア−チタニア膜)を、実験例1と同様の室内環境で5ヶ月間保管した。
実験例1で作製したチタニア膜(前記マッフル炉中で5時間冷却した後のチタニア膜)に対し、表2に示す処理を表2に示す期間行った。
実験例1で用いたガラス基板上に、下記条件のスパッタによりチタニア膜を形成した。 作製されたチタニア膜付き基板に対し、マッフル炉(KDF−P90G,株式会社デンケン製)を用い、雰囲気温度500℃の熱処理(焼成)を表2の「処理」欄に示す時間施した。
焼成後のチタニア膜付き基板を、実験例1と同様の室内環境で表2に示す期間保管した。
・装置:パーソナルコーター(日真精機株式会社製の仕様変更機)
・電源:MAGNETRON DRIVE(Advanced Energy製)、投入電力:DC1200W
・ターゲット:Ti
・基板加熱:なし
・バックプレッシャー:2.0×10−4Pa、
・スパッタリング時の全圧:酸素をガス流量6sccmで、Arをガス流量24sccmで、それぞれ導入し、メインバルブを調整して全圧0.3Paとした。このとき、酸素分圧は20%である。
以上のスパッタリング条件で、プリスパッタの後、TiO2薄膜を100nm成膜した。
試料22〜試料24の作製において、ガラス基板上にシリカ膜(下地膜)を形成し、形成されたシリカ膜上にチタニア膜を形成したこと以外は試料22〜試料24の作製と同様にして試料25〜試料27を作製した。
ここで、シリカ膜(下地膜)は下記条件のスパッタにより形成した。
・装置:パーソナルコーター(日真精機株式会社製の仕様変更機)
・電源:REACTIVE PLASMA GENERATOR(ENI Technology,Inc.製PRG−50)、投入電力:250W(パルス)
・ターゲット:Si
・基板加熱:なし
・バックプレッシャー:2.0×10−4Pa
・スパッタリング時の全圧:酸素(100%)をガス流量30sccmで導入し、メインバルブを調整して全圧0.5Paとした。
以上のスパッタリング条件で、プリスパッタの後、SiO2薄膜を20nm成膜した。
・備考欄中「水滴伸び垂れ残る」とは、水滴が垂れる際、垂れる方向に伸びてしまい、該水滴の一部が薄膜上に残り続ける状態を示す。
・抵抗点の密度の平均値「999」は、抵抗点が非常に多く、本条件の測定限界である999点/30mm2以上であることを示す。
また、抵抗点の密度を10個/30mm2以下とするために、水蒸気処理を行うことが効果的であることが確認された。
≪水蒸気処理条件の検討≫
<アルミナ膜の評価>
実験例1のアルミナ膜の評価において、水蒸気処理の条件及び処理時間を種々変化させ、水接触角の変化を測定した。
測定結果を図26に示す。
図26中における各水蒸気処理条件の詳細は以下のとおりである。
「温度40℃、相対湿度95%」
… 温度40℃、相対湿度95%(絶対湿度48g/m3)の雰囲気における処理を示す。
「温度60℃、相対湿度38%」
… 温度60℃、相対湿度38%(絶対湿度49g/m3)の雰囲気における処理を示す。
「温度80℃、相対湿度17%」
… 温度80℃、相対湿度17%(絶対湿度50g/m3)の雰囲気における処理を示す。
「温度20℃、相対湿度95%」
… 温度20℃、相対湿度95%(絶対湿度16g/m3)の雰囲気における処理を示す。
「温度80℃、相対湿度95%」
… 温度80℃、相対湿度95%(絶対湿度277g/m3)の雰囲気における処理を示す。
「温度80℃、dry」
… 温度80℃、乾燥機(ANS−111S、自然対流式恒温器、いすゞ製作所)内の乾燥雰囲気における処理を示す。
「室内環境」
… 温度25℃、相対湿度60%(絶対湿度14g/m3)の雰囲気で保管したときの結果である。この条件において、処理日数は保管時間を表わす。
「温度80℃、相対湿度50%」
… 温度80℃、相対湿度50%(絶対湿度146g/m3)の雰囲気における処理を示す。
「温度80℃、相対湿度30%」
… 温度80℃、相対湿度30%(絶対湿度88g/m3)の雰囲気における処理を示す。
「温度80℃(オートクレーブ)」
… 常温常圧にて内容積300ccの容器に純水5ccと共に封入密閉した後の、温度80℃の雰囲気における処理を示す。
なお、本明細書中において、「オートクレーブ」と表記してある処理は、いずれも飽和水蒸気による処理、即ち相対湿度100%の水蒸気雰囲気による処理であることを意味している。
「温度100℃(オートクレーブ)」
… 常温常圧にて内容積300ccの容器に純水5ccと共に封入密閉した後の、温度100℃の雰囲気における処理を示す。
「温度120℃(オートクレーブ)」
… 常温常圧にて内容積300ccの容器に純水5ccと共に封入密閉した後の、温度120℃の雰囲気における処理を示す。
「温度150℃(オートクレーブ)」
… 常温常圧にて内容積300ccの容器に純水5ccと共に封入密閉した後の、温度150℃の雰囲気における処理を示す。
「温度180℃(オートクレーブ)」
… 常温常圧にて内容積300ccの容器に純水5ccと共に封入密閉した後の、温度180℃の雰囲気における処理を示す。
「温度90℃、相対湿度30%」
… 温度90℃、相対湿度30%(絶対湿度126g/m3)の雰囲気における処理を示す。
「温度90℃、相対湿度50%」
… 温度90℃、相対湿度50%(絶対湿度211g/m3)の雰囲気における処理を示す。
「温度95℃、相対湿度25%」
… 温度95℃、相対湿度25%(絶対湿度126g/m3)の雰囲気における処理を示す。
実験例1のハフニア膜の評価において、水蒸気処理の条件及び処理時間を種々変化させ、水接触角の変化を測定した。
測定結果を図27に示す。
図27中における各水蒸気処理条件の詳細は以下のとおりである。
「温度40℃、相対湿度95%」
… 温度40℃、相対湿度95%(絶対湿度48g/m3)の雰囲気における処理を示す。
「温度90℃、相対湿度50%」
… 温度90℃、相対湿度50%(絶対湿度211g/m3)の雰囲気における処理を示す。
「温度150℃(オートクレーブ)」
… 常温常圧にて内容積300ccの容器に純水5ccと共に封入密閉した後の、温度150℃の雰囲気における処理を示す。
「温度120℃(オートクレーブ)」
… 常温常圧にて内容積300ccの容器に純水5ccと共に封入密閉した後の、温度120℃の雰囲気における処理を示す。
「温度95℃、相対湿度25%」
… 温度95℃、相対湿度25%(絶対湿度126g/m3)の雰囲気における処理を示す。
≪耐久性(耐摩擦性)の評価≫
実験例1で作製されたハフニア膜(0.1M、水蒸気処理条件40℃、46g/m3、処理時間15日)について、下記条件のトラバース試験を行い、膜の耐久性(耐摩擦性)を評価した。
加重:0.1kg/cm2(JIS L 3102−1978綿帆布1206)
速度:30往復/分
ハフニア膜については、試験前と500往復の試験後とにおいて、接触角及び転落角に大きな変化は見られず、滑水性が維持されていた。
≪無機薄膜と有機薄膜との対比実験≫
<水滴の内部流動の観察>
実験例1で作製されたアルミナ膜(0.1M、水蒸気処理条件40℃、46g/m3、処理日数30日)を用い、転落する水滴の内部流動の観察を行った。
具体的には、接触角測定装置(Drop Master500,協和界面化学株式会社)および転落角測定装置(SA−11,協和界面化学株式会社)を用い、薄膜表面に30mgの水滴を滴下した後、前記転落角測定装置を用いて前記薄膜表面を水平面に対して傾けながら、前記接触角測定装置に付属しているカメラから水滴を観察した。
−有機薄膜の形成条件−
1H,1H,2H,2H-heptadecafluorodecyltrimethoxysilane (FAS-17, CF3(CF2)7(CH2)2Si(OCH3)3, TSL8233、GE東芝シリコーン)を1,3-bis(trifluoromethyl)benzene (C6H4(CF3)2)に溶解させ、130μMの溶液とした。洗浄したシリコンウェハをこの溶液に1日浸漬させたのち、アセトン、塩化メチレン、アセトン、水で順に流し洗いし、80℃の乾燥機内で乾燥させた。
具体的には、有機薄膜表面を転落する水滴の内部流動は、液滴全体がキャタピラ状に回転する回転モードで滑落していくのに対し、アルミナ膜表面を転落する水滴の内部流動は、液滴の前方部分はキャタピラ状の回転モードとなりながらも、後方部分では単純な回転モードとは異なる複雑な内部流動となっていた。
≪シリコンに対する水蒸気処理実験≫
シリコンウェハの鏡面状に研磨された面に対して、水蒸気処理(処理条件40℃、46g/m3)を行い、処理時間を変化させ水接触角変化を測定した結果、水接触角は28°(初期値)から94°(112日後)に上昇した。つまり、シリコンに対しても水蒸気処理による接触角の上昇が確認された。
≪室内環境保管後の水蒸気処理の効果≫
実験例1で得られたアルミナ、チタニア、ハフニアに対して、薄膜作製後(前記マッフル炉中で5時間冷却した後)、アルミナについては28日間、チタニアについては145日間、ハフニアについては19日間、それぞれ室内環境(温度25℃、絶対湿度14g/m3(相対湿度61%))にて保管した。
その後、水蒸気処理条件40℃、46g/m3にて、処理時間を変化させ、水接触角変化を測定した。測定結果を図28A及び図28Bに示す。
図28Aは、水蒸気処理時間に対する水接触角の変化を示すグラフであり、図28Bは、水蒸気処理時間に対する水滴転落角の変化を示すグラフである。
図28A及び図28Bに示すように、薄膜作製後に室内環境にて一定期間保管をしていても、水蒸気処理によって、実験例1と同水準への水接触角上昇及び実験例1と同水準への水滴転落角の低下が確認された。
≪水蒸気処理で滑水化しない素材≫
有機膜に対して、水蒸気処理(処理条件40℃、46g/m3)を行い、処理時間を変化させ、水接触角変化を測定した。
実験に使用した有機膜は、ポリプロピレンとポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリオキシメチレン、ポリカーボネート、ABS、ナイロン、ポリエチレン、ポリスチレン、アクリル樹脂である。その内、ポリ塩化ビニルとナイロン、アクリル樹脂については、水蒸気処理によって、水接触角が10°以上上昇した。その他の有機膜については、水接触角が低下、または上昇した場合でも10°未満におさまった。処理時間と水接触角変化の様子を表3に示す。
「PP」 … 有機膜、ポリプロピレンを示す。
「PET」 … 有機膜、ポリエチレンテレフタレートを示す。
「PVC」 … 有機膜、ポリ塩化ビニルを示す。
「POM」 … 有機膜、ポリオキシメチレンを示す。
「PC」 … 有機膜、ポリカーボネートを示す。
「ABS」 … 有機膜、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)を示す。
「PA」 … 有機膜、ナイロンを示す。
「PE」 … 有機膜、ポリエチレンを示す。
「PS」 … 有機膜、ポリスチレンを示す。
「MA」 … 有機膜、アクリル樹脂を示す。
≪水蒸気処理で滑水化しない条件≫
実験例1のアルミナ膜を作製直後(前記マッフル炉中で5時間冷却した直後)、70℃の純水に1時間浸漬させ熱水処理を行った。
熱水処理直後の水接触角は46°であった。その後、水蒸気処理(処理条件40℃、46g/m3)を3日間行ったが、水接触角は実験例1の水準(90°程度)までは上昇せず、到達した接触角は74°にとどまった。
以上のように、水蒸気処理の前にアルミナ膜に対して熱水処理を行うと、水蒸気処理による滑水化効果が弱められる。
また同様に、成膜後長期間一般の空気中に保管された薄膜では、表面に有機物の汚染が生じ、吸着分子が覆うことで、その後の水蒸気処理による滑水化の効果を減少させる。
従って、作製後、出来るだけ早く水蒸気処理することが望ましい。
≪液滴組成への依存性≫
アルミナ膜(0.1M、水蒸気処理条件40℃、46g/m3、処理日数30日)と有機薄膜(FAS−17及びODS)とを用い、水滴の組成を種々変化させ、液滴組成への依存性を調べた。測定方法は、水滴を純水から各種の溶液に変更した以外は前述の転落角の測定方法と同様である。
アルミナ膜表面の場合、5質量%ショ糖水溶液の転落角は46°、ジエチレングリコールメチルエーテル25質量%水溶液の転落角は8°、イソプロピルアルコール25質量%水溶液の転落角は10°、NaCl溶液(10質量%水溶液)の転落角は30°であった。
即ち、アルミナ膜の場合、上記のいずれの組成においても良好な滑水性を示したが、液滴組成により転落角の値が異なるという液滴組成依存性が確認された。
一方、有機薄膜の場合、転落角の液滴組成依存性は確認されなかった。
以上のように、無機薄膜と有機薄膜とでは、転落性の挙動に種々の相違があることが確認された。
≪滑水性の回復≫
滑水化処理(処理条件40℃、46g/m3、140日間)したアルミナ薄膜(0.1M)表面に、加重:0.1kg/cm2(JIS L 3102−1978綿帆布1206)速度:30往復/分の条件でトラバース試験20往復を行って摩耗させた際に、接触角が93°から80°へ劣化し、転落角が21°から67°へ劣化したが、再度水蒸気処理(処理条件40℃、46g/m3、3日間)を行うことで滑水性が回復し、接触角93°、転落角33°に復活した。
≪ガラス基板に対する水蒸気処理実験≫
まず、ソーダライムガラス(SLG)基板に、150℃、300℃、400℃、500℃、600℃、及び700℃のいずれか1つの温度の熱処理を1時間施し、引き続き水蒸気処理(温度90℃、相対湿度50%(絶対湿度211g/m2))を行い、水蒸気処理時間に対する水接触角及び水滴転落角の変化を測定した。
なお、本実験例13において、ソーダライムガラス(SLG)基板としては、旭硝子 フロートガラス(JIS R3202)の大気開放側の面を用いた。
また、熱処理はマッフル炉(KDF−P90G,株式会社デンケン製)を用い、大気雰囲気下で行った。
また、本実験例中に記載の無い条件は、実験例1における条件と同様である。
図29に示すように、熱処理の温度が150℃、300℃、400℃、及び500℃のときには、水蒸気処理による水接触角向上の効果が顕著に得られた。
図30に示すように、熱処理の温度が150℃、300℃、400℃、及び500℃のときには、水蒸気処理による水滴転落角低下の効果が顕著に得られた。
上記水蒸気処理を、乾燥雰囲気(温度25℃、相対湿度2%(絶対湿度0.5g/m2)に調整したTOYO Living社製Superdrybox)中で保管することに変更した以外は上記ガラス基板の水蒸気処理実験と同様にして、保管時間に対する水接触角及び水滴転落角の変化を測定した。
図31は、保管時間(乾燥雰囲気における経過時間(日))に対する水接触角(°)の変化を示すグラフである。
図31に示すように、いずれの温度の熱処理を施した場合においても、水接触角は50°程度又はそれ以下であった。
図32は、保管時間(乾燥雰囲気における経過時間(日))に対する水滴転落角(°)の変化を示すグラフである。
図32に示すように、水滴転落角は低下しないか、または不安定であった。
28℃におけるガラスの表面粗さRa(nm)、及び、各温度による熱処理後のガラスの表面粗さRa(nm)を下記表4に示す。
表面粗さRa(nm)の測定は、測定範囲を0.5μm四方としたこと以外は実験例1と同様の方法により行った。
熱処理温度が600℃及び700℃の場合に接触角向上及び転落角低下の効果が弱かった理由は明らかではないが、ソーダライムガラスの軟化点(730℃)に近いことが関係しているものと推測される。
上記において、300℃の熱処理を施し、かつ、水蒸気処理(90℃、50%)を行ったサンプルについて、実験例5と同様の条件のトラバース試験を行った。
図33は、摺動回数と接触角及び転落角との関係を示すグラフである。
図33に示すように、摺動回数500回まで接触角は70°程度以上を維持しており、摺動回数500回まで転落角は40°以下を維持していた。このように、熱処理及び水蒸気処理によって得られた静的撥水性及び動的撥水性に優れた表面は、耐久性(耐摩擦性)にも優れていた。
≪金属基板に対する水蒸気処理実験≫
<Ag研磨板に対する水蒸気処理実験>
まず、Ag研磨板に、500℃の熱処理を1時間施し、引き続き水蒸気処理(温度40℃、相対湿度95%(絶対湿度48g/m2))を行い、水蒸気処理時間に対する水接触角及び水滴転落角の変化を測定した。
なお、Ag研磨板としては、(株)ニラコ製Ag(品番AG-403322、サイズ0.1mm×100mm×100mm、純度99.98%)を用いた。
また、熱処理はマッフル炉(KDF−P90G,株式会社デンケン製)を用い、大気雰囲気下で行った。
また、本実験例中に記載の無い条件は、実験例1における条件と同様である。
図34に示すように、熱処理を行った場合(「熱処理あり」)には、熱処理後、一時的に水接触角が低下したが(経過時間0日の時点参照)、水蒸気処理を行うことにより水接触角が80°以上に回復した。
図35に示すように、熱処理を行った場合(「熱処理あり」)には、熱処理後、一時的に水滴転落角が高くなったが(経過時間0日の時点参照)、水蒸気処理を行うことにより水滴接触角が50°程度に低下した。
Ag研磨板をCu研磨板に変えたこと以外は<Ag研磨板に対する水蒸気処理実験>と同様にして水蒸気処理時間に対する水接触角及び水滴転落角の変化を測定した。
なお、Cu研磨板としては、(株)ニラコ製Cu(品番CU-113321、サイズ0.1mm×100mm×100mm、純度99.96%)を用いた。
図36に示すように、熱処理を行った場合(「熱処理あり」)には、熱処理後、一時的に水接触角が低下したが(経過時間0日の時点参照)、水蒸気処理を行うことにより水接触角が80°以上に回復した。
図37に示すように、熱処理を行った場合(「熱処理あり」)には水滴は転落しなかった。
Ag研磨板をAl研磨板に変えたこと以外は<Ag研磨板に対する水蒸気処理実験>と同様にして水蒸気処理時間に対する水接触角及び水滴転落角の変化を測定した。
なお、Al研磨板としては、(株)ニラコ製Al(品番AL-013321、サイズ0.1mm×100mm×100mm、純度99.999%)を用いた。
図38に示すように、熱処理を行った場合(「熱処理あり」)には、熱処理後、一時的に水接触角が低下したが(経過時間0日の時点参照)、水蒸気処理を行うことにより水接触角が80°以上に回復した。
図39に示すように、熱処理を行った場合(「熱処理あり」)には、熱処理後、一時的に水滴転落角が高くなったが(経過時間0日の時点参照)、水蒸気処理を行うことにより水滴接触角が40°程度又はそれ以下に低下した。
Ag研磨板をNi研磨板に変えたこと以外は<Ag研磨板に対する水蒸気処理実験>と同様にして水蒸気処理時間に対する水接触角及び水滴転落角の変化を測定した。
なお、Ni研磨板としては、(株)ニラコ製Ni(品番NI-313324、サイズ0.1mm×100mm×500mm、純度99+%)を用いた。
図40に示すように、熱処理を行った場合(「熱処理あり」)には、熱処理後、一時的に水接触角が低下したが(経過時間0日の時点参照)、水蒸気処理を行うことにより水接触角が80°以上に回復した。
図41に示すように、熱処理を行わなかった場合(「熱処理なし」)において、水蒸気処理により水滴転落角を50°以下に低下させることができたが、熱処理を行った場合(「熱処理あり」)には水滴は転落しなかった。
Ag研磨板をFe研磨板に変えたこと以外は<Ag研磨板に対する水蒸気処理実験>と同様にして水蒸気処理時間に対する水接触角及び水滴転落角の変化を測定した。
なお、Fe研磨板としては、(株)ニラコ製Fe(品番FE-223329、サイズ0.1mm×150mm×150mm、純度99.50%)を用いた。
図42に示すように、熱処理を行った場合(「熱処理あり」)には、水蒸気処理を行っても水接触角が上昇しなかった。
図43に示すように、熱処理を行わなかった場合(「熱処理なし」)において、水蒸気処理により水滴転落角を50°以下に低下させることができたが、熱処理を行った場合(「熱処理あり」)には水滴は転落しなかった。
Ag研磨板をTi研磨板に変えたこと以外は<Ag研磨板に対する水蒸気処理実験>と同様にして水蒸気処理時間に対する水接触角及び水滴転落角の変化を測定した。
なお、Ti研磨板としては、(株)ニラコ製Ti(品番TI-453321、サイズ0.1mm×100mm×100mm、純度99.50%)を用いた。
図44に示すように、熱処理を行った場合(「熱処理あり」)には、熱処理後、一時的に水接触角が低下したが(経過時間0日の時点参照)、水蒸気処理を行うことにより水接触角が70°以上に回復した。
図45に示すように、熱処理を行った場合(「熱処理あり」)、熱処理を行わなかった場合(「熱処理なし」)のいずれの場合においても、水蒸気処理により水滴転落角を50°以下に低下させることができた。
Ag研磨板をSiウェハに変えたこと以外は<Ag研磨板に対する水蒸気処理実験>と同様にして水蒸気処理時間に対する水接触角及び水滴転落角の変化を測定した。
なお、Siウェハとしては、(株)アキコーポレーション製Siウェハ(直径100mm±0.5mm、N型、面方位(100)、厚さ 525±25μm、抵抗1〜10Ω・cm、オリフラ 32.5±2.5mm、片面ミラー研磨)を用いた。
図46に示すように、熱処理を行った場合(「熱処理あり」)、熱処理を行わなかった場合(「熱処理なし」)のいずれの場合においても、水蒸気処理により水接触角を80°以上に向上させることができた。
図47に示すように、熱処理を行った場合(「熱処理あり」)には、熱処理後、一時的に水滴転落角が高くなったが(経過時間0日の時点参照)、水蒸気処理を行うことにより水滴接触角が20°以下に低下した。
本実験例14における、金属基板に対する水蒸気処理実験の結果をまとめると下記表5のようになる。
表5に示すように、熱処理を行わなかった場合、いずれの金属基板においても表面粗さRaが小さく、水蒸気処理後に水滴転落性が確認された。
熱処理を行った場合、Ag研磨板、Al研磨板、Ti研磨板、Siウェハについては、熱処理を行った場合においても表面粗さRaが小さく、ガラス基板の場合(実験例13)と同様に、水蒸気処理後に水滴の転落が確認された。
また、これらの金属基板では、熱処理を行った場合(「熱処理あり」)、熱処理後に一時的に水滴転落角が高くなり(経過時間0日の時点参照)、水蒸気処理を行うことにより水滴接触角が低下する、という共通の傾向が見られた(図35、図39、図45、図47)。
これらの金属基板における水接触角及び水滴転落角の挙動は、熱処理により一旦表面の有機物が除去されて親水性の状態となり、その後水蒸気処理により、表面に水酸基、特殊な構造を有するH2Oのクラスター、及び有機物が、抵抗点が少ない状態で均一性よく積み重ねられ(例えば、図56参照)、その結果、水滴接触角が低下したことを示すものと推測される。
≪ハフニア膜の形成及び評価≫
<ハフニア膜(1000℃)試料の作製>
マグネトロンスパッタ装置を用い、スパッタターゲットをHfとして、充分な到達真空度まで真空引きした後、酸素分圧100%、全圧0.3Pa、スパッタリングDC電力300Wで、サファイアガラス基板(支持体)上に約100nmのハフニア膜(asdepo)を成膜した。
また、熱処理はマッフル炉(KDF−P90G,株式会社デンケン製)を用い、大気雰囲気下で行った。
以上により、ハフニア膜(1000℃)試料を作製した。
サファイアガラス基板を、表面にシリカ膜が成膜されたソーダライムガラス基板に変更し、シリカ膜(下地膜)上に上記と同様の条件で約100nmのハフニア膜(asdepo)を成膜した。ここで、シリカ膜の形成条件は、実験例3の試料25〜27におけるSiO2膜の形成条件と同様である。
成膜後のハフニア膜(asdepo)に対し、500℃で30分間の熱処理(アニール)を行った。
また、熱処理はマッフル炉(KDF−P90G,株式会社デンケン製)を用い、大気雰囲気下で行った。
以上により、ハフニア膜(500℃)試料を作製した。
以下、本実験例中に記載の無い条件は、実験例1における条件と同様である。
図48は、ハフニア膜(500℃)及び成膜後であって熱処理前のハフニア膜(asdepo)のXRD測定結果であり、図49は、ハフニア膜(1000℃)及び成膜後であって熱処理前のハフニア膜(asdepo)のXRD測定結果である。
図48及び図49に示すように、ハフニア膜(500℃)及びハフニア膜(1000℃)のいずれにおいても、熱処理後は、asdepoと比較して、結晶構造を示す回折線が増大しており、結晶化が進んでいることが確認された。
特に、ハフニア膜(1000℃)では、ハフニア膜(500℃)と比較して、より結晶化が進んでいることが確認された。
次に、ハフニア膜(500℃)及びハフニア膜(1000℃)のそれぞれについて水蒸気雰囲気下に放置し(即ち、水蒸気処理を施し)、放置時間(処理時間)に対する水接触角及び水滴転落角の変化を測定した。更に、対比として、ハフニア膜(500℃)及びハフニア膜(1000℃)のそれぞれについて、乾燥雰囲気下に放置したとき(Dry)の、放置時間に対する水接触角及び水滴転落角の変化を測定した。
水蒸気処理条件及び乾燥雰囲気の条件の詳細は以下のとおりである。
「40℃、95%」
… 温度40℃、相対湿度95%(絶対湿度48g/m3)の雰囲気中に放置した。
「90℃、50%」
… 温度90℃、相対湿度50%(絶対湿度211g/m3)の雰囲気中に放置した。
「Dry」
… 乾燥雰囲気(温度25℃、相対湿度2%(絶対湿度0.5g/m2)に調整したTOYO LIVING社製Superdrybox)中に放置した。
図50に示すように、水蒸気処理を行った場合(「40℃、95%」、「90℃、50%」)には、乾燥雰囲気中に放置した場合(Dry)に比べて、より短い時間で接触角を上昇させることができた。接触角上昇の効果は、「90℃、50%」の条件で特に顕著であった。
図51に示すように、乾燥雰囲気中に放置した場合(Dry)には、水滴は転落しなかった。
これに対し水蒸気処理(「40℃、95%」、「90℃、50%」)を行うことにより、水滴転落角を低下させることができた。水滴転落角を低下させる効果は、「90℃、50%」で顕著であり、この条件では24時間の処理により水滴転落角を低下させることができた。
図52に示すように、接触角上昇の効果は、「90℃、50%」の条件で特に顕著であった。
図53に示すように、乾燥雰囲気中に放置した場合(Dry)には、水滴転落角は不安定な挙動を示した。
これに対し水蒸気処理(「40℃、95%」、「90℃、50%」)を行った場合には、水滴転落角を低下させることができ、しかも放置時間24時間以降は水滴転落角は安定していた。
水滴転落角と表面粗さとの相関を調べるために、ハフニア膜(1000℃)を「Dry」条件で340時間放置した試料(水滴転落角が高い試料)と、ハフニア膜(1000℃)を「90℃、50%」条件で340時間放置した試料(水滴転落角が低い試料)と、について、表面粗さRaを測定した。
表面粗さRaの測定は、各試料中の3箇所(測定点1〜3)のそれぞれについて、測定範囲25μm角と測定範囲0.5μm角との2条件で行った。
「90℃、50%」の試料について水滴転落角が低下した理由は、表面粗さRaが小さいことに加え、水蒸気処理により表面の抵抗点を減少させることができたため、と推測される。
≪水蒸気処理前後の摩擦力及び動摩擦係数の測定≫
以下の各測定試料の表面について、摩擦力及び動摩擦係数の測定を行った。
摩擦力及び動摩擦係数の測定は、各測定試料について、水蒸気処理を施す前と水蒸気処理を施した後とにそれぞれ行った。
ここで、水蒸気処理の条件は、温度90℃相対湿度50%の水蒸気雰囲気中に、測定試料を4日間(96時間)保管する条件とした。
また、本実験例中に記載の無い条件は、実験例1における条件と同様である。
・アルミナ膜(Al2O3) … 実験例1で作製したアルミナ膜(ゾルゲル法)と同様のアルミナ膜を用いた。
・ハフニア膜(HfO2) … 実験例1で作製したハフニア膜(0.1M)(ゾルゲル法)と同様のハフニア膜を用いた。
・石英ガラス基板(Quartz Glass;Q.G.) … 両面の表面粗さRaが0.3nm±0.1nm(25μm角内)である石英ガラス基板を用いた。
・ステンレス基板(Stainless steel(SUS)) … SUS304基板(株式会社ニラコ製品、型番753323)を片面鏡面研磨して作製された、片面(水蒸気処理が施される面)の表面粗さRaが1.6nm±0.1nm(25μm角内)であるSUS304基板(以下、「SUS304鏡面研磨板」ともいう)を用いた。
摩擦力顕微鏡(日本電子(株)製、製品名JSPM−5200)に下記カンチレバーを取り付け、該カンチレバーの探針によって測定試料表面を走査することにより、摩擦力及び動摩擦係数を測定した。
・製品名: オリンパス(株)製OMCL−RC800PSA−1
・垂直方向(厚み方向)のバネ定数: 0.05[N/m]
・材質: 窒化シリコン(Si3N4)
・レバー幅w: w=20[μm]
・レバー厚さt: t=0.8[μm]
・レバー長さl: l=200[μm]
・探針長さh: h=2.9[μm]
・せん断弾性係数G: G=7.35×1010[N/m2]
・ねじれバネ定数k: k=0.000375[N/rad]
※ ここで、ねじれバネ定数kは、下記式(A)により求められる値である。
k=(wt3G)/(3l(h+t/2)) … 式(A)
[式(A)において、w、t、G、l、及びhは、それぞれ、レバー幅、レバー厚さ、せん断弾性係数、レバー長さ、及び探針長さを表す。]
・測定モード: コンタクトモード
・押付圧N: N=14[nF]
・クロック(1点を測定するのに要する時間): 333.33μsec
・測定点の数: 各試料につき256点×256点
・測定範囲(走査領域): 2μm×2μm(アルミナ膜)、又は、0.5μm×0.5μm(ハフニア膜、Q.G.、SUS)
・走査速度: 5.9[μm/sec](アルミナ膜)、又は、1.5[μm/sec](ハフニア膜、Q.G.、SUS)
※ここで、走査速度は、走査距離(2μm又は1.5μm)を、測定箇所一行(256点)を走査するために必要な時間(クロック333.33μsec×256点)で割ることにより算出した。
上記測定条件により測定された測定電圧Vを用い、下記式(B)に従って、摩擦力Fを求めた。
F=(ka(V−V0)/2d)×109[nN] … 式(B)
上記式(B)において、k、a、V、V0、及びdは、それぞれ以下の値を示す。
・ねじれバネ定数k: k=0.000375[N/rad]
・力感度a(装置依存の値): a=0.015[mm/V]
・測定電圧V: 上記測定条件により測定された電圧
・基準電圧V0: V0=0[V]
・光ディテクタとカンチレバーとの距離d(装置依存の値): d=40[mm]
下記式(C)に従って、動摩擦係数μを求めた。
μ=FM/N … 式(C)
上記式(C)において、FM及びNは、それぞれ、以下の値を表す。
・摩擦力FM: 1回の測定(256点×256点)における摩擦力Fの最頻値FM
・押付圧N: N=14[nF]
〜摩擦力F〜
図57は、アルミナ膜(Al2O3)の摩擦力の測定結果を示すグラフである。
図58は、ハフニア膜(HfO2)の摩擦力の測定結果を示すグラフである。
図59は、石英ガラス基板(Q.G.)の摩擦力の測定結果を示すグラフである。
図60は、ステンレス基板(SUS)の摩擦力の測定結果を示すグラフである。
図57〜図60において、「pre.」は水蒸気処理前の摩擦力を表し、「tre.」は水蒸気処理後の摩擦力を表す。
また、図57〜図60において、1つの波形は、1回(256点×256点)の測定の結果を示している。例えば、図57は、アルミナ膜について、水蒸気処理前の摩擦力測定を2回行い、水蒸気処理後の摩擦力測定を3回行った結果を示している。このため、図57には、「pre.」の波形が2つ、「tre.」の波形が3つ表されている。
また、水蒸気処理後のアルミナ膜表面は、摩擦力が10nN以下である領域を含んでいた。
また、このアルミナ膜について、水蒸気処理前の接触角、水蒸気処理後の接触角、水蒸気処理前の水滴転落角、及び水蒸気処理後の水滴転落角を測定したところ、それぞれ、8.4°±0.8°、83.0°±2.1°、90°、及び、14±1°であった。
また、水蒸気処理後のハフニア膜表面は、摩擦力が10nN以下である領域を含んでいた。
また、このハフニア膜について、水蒸気処理前の接触角、水蒸気処理後の接触角、水蒸気処理前の水滴転落角、及び水蒸気処理後の水滴転落角を測定したところ、それぞれ、7.3°±0.5°、86.7°±0.3°、90°、及び、16.7°±1.2°であった。
また、水蒸気処理後の石英ガラス基板表面は、摩擦力が10nN以下である領域を含んでいた。
また、この石英ガラス基板について、水蒸気処理前の接触角、水蒸気処理後の接触角、水蒸気処理前の水滴転落角、及び水蒸気処理後の水滴転落角を測定したところ、それぞれ、6.1°±1.1°、77.4°±1.1°、90°、及び、21°±1°であった。
また、このステンレス基板について、水蒸気処理前の接触角、水蒸気処理後の接触角、水蒸気処理前の水滴転落角、及び水蒸気処理後の水滴転落角を測定したところ、それぞれ、10.1°±1.7°、80.3°±0.9°、90°、及び、32°±1.4°であった。
各測定試料についての動摩擦係数μを下記表7に示す。
次に、比較例として、水蒸気処理を施していない下記の測定試料について、上記と同様に、摩擦力及び動摩擦係数の測定を行った。
・シリコンウェハ(Si(100)) … リンドープN型Si((株)アキコーポレーション)
・サファイアガラス(Sapphire(0001)) … Al2O3((株)アキコーポレーション)
図61に示すように、水蒸気処理が施されていないシリコンウェハ及びサファイアガラスは、いずれも摩擦力が高く、摩擦力が10nN以下である領域を含んでいなかった。
≪水蒸気処理条件の検討2≫
以下の各測定試料の表面について、前処理として、エキシマーランプ照射処理又は超音波洗浄処理を行い(前処理の条件を以下に示す)、次いで、種々の条件の水蒸気処理(水蒸気処理の条件を以下に示す)を4日間施し、該水蒸気処理後の接触角及び水滴転落角を測定した。
また、本実験例中に記載の無い条件は、実験例1における条件と同様である。
・ステンレス基板 … 実験例16で用いたSUS304鏡面研磨板と同じSUS304鏡面研磨板を用いた。
・ソーダライムガラス基板 … 実験例13で用いたソーダライムガラス基板と同じソーダライムガラス基板を用いた。
・石英ガラス基板 … 実験例16で用いた石英ガラス基板と同じ石英ガラス基板を用いた。
・アルミナ膜(Al2O3) … 実験例16で用いたアルミナ膜と同様のアルミナ膜を用いた。
・ハフニア膜(HfO2) … 実験例16で用いたハフニア膜と同様のハフニア膜を用いた。
・エキシマーランプ照射処理 … 各測定試料の水蒸気処理を施す側の表面に対し、前処理として、エキシマーランプ(ウシオ電機株式会社社製UEP20B、波長172nm)を、10mW/cm2の強度にて0.166時間照射した。
・超音波洗浄処理 … 各測定試料の水蒸気処理を施す側の表面に対し、前処理として、超音波洗浄装置(米BRANSON社製5510J−MT 42kHz)を用い、ピュアーソフト洗剤1:4純水溶液中、135Wの条件にて、0.33時間の超音波洗浄処理を行った。
・28℃2%RHdrybox … 実験例15に示した乾燥機中において、温度28℃、相対湿度2%の条件の水蒸気雰囲気中にて、測定試料を4日間保管した。
・40℃95%RH恒温槽 … 実験例4で説明した条件と同様の40℃95%の水蒸気雰囲気中にて、測定試料を4日間保管した。
・90℃50%RH恒温槽 … 実験例4で説明した条件と同様の90℃50%の水蒸気雰囲気中にて、測定試料を4日間保管した。
・120℃オートグレーブ … 実験例4で説明した条件と同様の120℃オートグレーブの水蒸気雰囲気中にて、測定試料を4日間保管した。
・180℃オートグレーブ … 実験例4で説明した条件と同様の180℃オートグレーブ条件の水蒸気雰囲気中にて、測定試料を4日間保管した。
〜ステンレス基板〜
表8に、ステンレス基板に関する、前処理条件、水蒸気処理条件、並びに水蒸気処理後の接触角及び水滴転落角を示す。
表8に示すように、温度×相対湿度が、3800(℃・%)、4500(℃・%)、又は12000(℃・%)の条件(特に、温度×相対湿度が、3800(℃・%)又は4500(℃・%)の条件)の水蒸気処理を施したステンレスは、優れた滑水性(低い転落角)を示した。
これらの条件のうち、表面酸化をより抑制する観点からみた特に好ましい条件は、温度×相対湿度が、3800(℃・%)又は4500(℃・%)の条件である。
表9に、ソーダライムガラス基板に関する、前処理条件、水蒸気処理条件、並びに水蒸気処理後の接触角及び水滴転落角を示す。
表9に示すように、温度×相対湿度が、3800(℃・%)又は4500(℃・%)の条件の水蒸気処理を施したソーダライムガラス基板は、優れた滑水性(低い転落角)を示した。
表10に、アルミナ膜(Al2O3)に関する、前処理条件、水蒸気処理条件、並びに水蒸気処理後の接触角及び水滴転落角を示す。
表10に示すように、温度×相対湿度が、3800(℃・%)又は4500(℃・%)の条件の水蒸気処理を施した石英ガラスは、優れた滑水性(低い転落角)を示した。
表11に、アルミナ膜に関する、前処理条件、水蒸気処理条件、並びに水蒸気処理後の接触角及び水滴転落角を示す。
表11に示すように、温度×相対湿度が、3800(℃・%)又は4500(℃・%)の条件の水蒸気処理を施したアルミナ膜は、優れた滑水性(低い転落角)を示した。
表12に、ハフニア膜に関する、前処理条件、水蒸気処理条件、並びに水蒸気処理後の接触角及び水滴転落角を示す。
表12に示すように、温度×相対湿度が、3800(℃・%)又は4500(℃・%)の条件の水蒸気処理を施したハフニア膜は、優れた滑水性(低い転落角)を示した。
≪水蒸気処理後の滑水性の長期安定性に関する評価≫
HfO2膜(実験例16で用いたハフニア膜と同様のハフニア膜)及びAl2O3膜(実験例16で用いたアルミナ膜と同様のアルミナ膜)の各測定試料について、下記表13及び表14に示す種々の条件の水蒸気処理を行い、水蒸気処理後直後(水蒸気処理後1時間以内)及び水蒸気処理から1年経過後において、水滴転落角及び水接触角をそれぞれ測定した。
なお、本実験例中に記載の無い条件は、実験例1における条件と同様である。
表14は、水蒸気処理後直後(水蒸気処理後1時間以内)及び水蒸気処理から1年経過後の、水接触角を示す。
このように、ある程度の熱負荷がかかっている試料は、滑水性の長期安定性にも優れている。
この結果から、水蒸気処理後に、後処理として熱処理(例えば水蒸気処理温度以上の温度の熱処理)を施すことで、滑水性の長期安定性をより向上できることが示唆された。
≪水蒸気処理後の滑水性の熱的安定性に関する評価≫
ソーダライムガラス基板(SLG)及びハフニア膜(HfO2)について、水蒸気処理後に、後処理として種々の条件の熱処理(以下、「後熱処理」ともいう)を施し、この後熱処理後の水接触角及び水滴転落角を測定した。
また、対比実験として、水蒸気処理後に、室温(25℃)において後熱処理と同じ時間保管したときの水接触角及び水滴転落角を測定した。
ここで、ソーダライムガラス基板及びハフニア膜としては、実験例17と同様のソーダライムガラス基板及びハフニア膜を用いた。
また、水蒸気処理条件は、温度90℃相対湿度50%の水蒸気雰囲気中に、測定試料を4日間(96時間)保管する条件とした。
また、この後熱処理は、実験例1と同様のマッフル炉を用いて行った。
後熱処理の温度は、200℃、300℃、400℃、及び500℃の各温度とし、いずれの温度についても、熱処理時間は1時間とした。
また、本実験例中に記載の無い条件は、実験例1における条件と同様である。
図63は、ハフニア膜(HfO2)における、後熱処理の温度と、水接触角(CA)及び水滴転落角(SA)と、の関係を示すグラフである。
この実験例19と前記実験例18との結果より、水蒸気処理後に後処理として、水蒸気処理温度以上300℃以下の熱処理を施すことで、滑水性の長期安定性をより向上させることができることが示唆された。
≪水中での凝着力に関する実験≫
下記測定試料について、水蒸気処理前後において、水中での凝着力に関する実験を行った。
ここで、水蒸気処理条件は、温度90℃相対湿度50%の水蒸気雰囲気中に、測定試料を4日間(96時間)保管する条件とした。
なお、本実験例中に記載の無い条件は、実験例1における条件と同様である。
・アルミナ膜(Al2O3) … 実験例16で用いたアルミナ薄膜と同様のアルミナ薄膜を用いた。
・ハフニア膜(HfO2) … 実験例16で用いたハフニア膜と同様のハフニア膜を用いた。
水中での凝着力の測定には、実験例16で用いた摩擦力顕微鏡及びカンチレバーを用いた。
まず、測定試料表面に対し、予め、エアーイオナイザ(WINSTAT BF−2Z;シシド静電気株式会社)を用いた除電処理を15秒間行い、除電処理後の測定試料を水中に沈めた。
次に、水中の測定試料の表面に対し、カンチレバーの探針を近づけていき、更に接触させて押し付ける操作(以下、「アプローチ(approach)操作」ともいう)を行い、このアプローチ操作の過程中における、探針と試料表面との間に働く力を測定した。
次に、上記アプローチ操作後、測定試料表面にカンチレバーの探針が押し付けられた状態から、カンチレバーの探針を測定試料表面から離す操作(以下、「リトラクション(retraction)操作」ともいう)を行い、このリトラクション操作の過程中における、探針と試料表面との間に働く力を測定した。
その他、水中での凝着力の測定方法の詳細は、Journal of Physical Chemistry, B, 105, 10579-10587 (2001)やJournal of Colloid and Interface Science, 307, 418-424 (2007)に記載されており、本実験例においてもこれらの文献に記載された方法と同様の方法により行った。
図64〜図71に、水中での凝着力の測定結果を示す。
図64〜図71において、横軸は、探針と試料表面との距離(Separation distance[nm])を示しており、縦軸は探針と試料表面との間に働く力(Force[nN])を示している。
図64〜図71において、縦軸に示される力(Force[nN])が正の値である状態は、探針と試料表面との間に、互いに押し付け合う力が働いている状態を表す。縦軸に示される力(Force[nN])が負の値である状態は、探針と試料表面との間に、互いに引っ張り合う力が生じている状態、即ち、探針と試料表面との間に凝着力が生じている状態(探針と試料表面とが互いにくっつき合っている状態)を表す。
図65は、水蒸気処理後のアルミナ膜表面について、アプローチ操作を行った過程中における、探針とアルミナ膜表面との間に働く力を示すグラフである(図65中では、「Al2O3、tre.、approach」と表記する)。
図66は、水蒸気処理前のアルミナ膜表面に対し、リトラクション操作を行った過程中における、探針とアルミナ膜表面との間に働く力を示すグラフである(図66中では、「Al2O3、pre.、retraction」と表記する)。
図67は、水蒸気処理後のアルミナ膜表面について、リトラクション操作を行った過程中における、探針とアルミナ膜表面との間に働く力を示すグラフである(図67中では、「Al2O3、tre.、retraction」と表記する)。
一方、図66及び図67に示すように、リトラクション操作中の力の挙動に関しては、水蒸気処理前のアルミナ膜と水蒸気処理後のアルミナ膜とで大きな差が見られた。
図67に示すように、水蒸気処理後のアルミナ膜では、水蒸気処理前のアルミナ膜(図66)と比較して、探針とアルミナ膜表面との間に大きな凝着力が生じていた。この理由は、アルミナ膜表面が水蒸気処理によって滑水化されたことにより、探針とアルミナ膜表面との間に水が存在しにくくなり、探針とアルミナ膜表面とが強くくっつき合う状態となったため、と推測される。
図69は、水蒸気処理後のハフニア膜表面について、アプローチ操作を行った過程中における、探針と試料表面との間に働く力を示すグラフである(図69中では、「HfO2、tre.、approach」と表記する)。
図70は、水蒸気処理前のハフニア膜表面について、リトラクション操作を行った過程中における、探針と試料表面との間に働く力の変化をグラフである(図70中では、「HfO2、pre.、retraction」と表記する)。
図71は、水蒸気処理後のハフニア膜表面について、リトラクション操作を行った過程中における、探針と試料表面との間に働く力の変化をグラフである(図71中では、「HfO2、tre.、retraction」と表記する)。
一方、図71に示すように、水蒸気処理後のハフニア膜では、水蒸気処理前のハフニア膜(図70)と比較して、探針とハフニア膜表面との間に大きな凝着力が生じていた。この理由は、ハフニア膜表面が水蒸気処理によって滑水化されたことにより、探針とハフニア膜表面との間に水が存在しにくくなり、探針とハフニア膜表面とが強くくっつき合う状態となったため、と推測される。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
Claims (20)
- 無機構造物素材を準備する工程と、
前記無機構造物素材を水蒸気処理することにより、前記無機構造物素材の表面の水滴転落角を低下させる水蒸気処理工程と、
を有する無機構造物の製造方法。 - 前記水蒸気処理は、前記無機構造物素材を、温度30℃以上100℃以下、かつ、絶対湿度15g/m3以上の水蒸気雰囲気に曝すことにより行う請求項1に記載の無機構造物の製造方法。
- 前記水蒸気処理は、温度(℃)と相対湿度(%)との積が2000℃・%以上10000℃・%以下の水蒸気雰囲気に曝すことにより行う請求項1に記載の無機構造物の製造方法。
- 前記水蒸気処理工程の前に、前記無機構造物素材に対し、該無機構造物素材の表面の有機物を除去する前処理を施す前処理工程を有する請求項1に記載の無機構造物の製造方法。
- 前記前処理は、100℃以上の熱処理、超音波洗浄処理、及び紫外線照射処理の少なくとも1種である請求項4に記載の無機構造物の製造方法。
- 前記水蒸気処理工程の後に、前記無機構造物素材に対し、後処理として、前記水蒸気の温度以上300℃以下の熱処理を施す後処理工程を有する請求項1に記載の無機構造物の製造方法。
- 前記無機構造物素材が、金属、合金、無機酸化物、及びガラスから選択される少なくとも1種を含む請求項1に記載の無機構造物の製造方法。
- 前記無機構造物素材が、ステンレス、ソーダライムガラス、及び石英ガラスから選択される少なくとも1種を含む無機固体、又は、アルミナ、セリア、チタニア、ハフニア、及びシリカからなる群から選択される少なくとも1種を含む無機薄膜である請求項1に記載の無機構造物の製造方法。
- 無機酸化物の前駆体を含む塗布液を支持体上に塗布して塗布膜を形成する塗布膜形成工程と、
形成された塗布膜を300℃以上の温度で熱処理する熱処理工程と、
熱処理された塗布膜を水蒸気処理することにより、前記熱処理された塗布膜の表面の水滴転落角を低下させる水蒸気処理工程と、
を有する無機薄膜の製造方法。 - 表面における水滴の滑落を阻害する抵抗点の密度が、10個/30mm2以下である無機構造物。
- 水蒸気処理されて得られた請求項10に記載の無機構造物。
- 金属、合金、無機酸化物、及びガラスから選択される少なくとも1種を含む請求項10に記載の無機構造物の製造方法。
- ステンレス、ソーダライムガラス、及び石英ガラスから選択される少なくとも1種を含む無機固体、又は、ジルコニア、アルミナ、セリア、チタニア、ハフニア、及びシリカからなる群から選択される少なくとも1種を含む無機薄膜である請求項10に記載の無機構造物。
- 水に対する接触角が30°以上であり、水滴転落角が40°以下である請求項10に記載の無機構造物。
- 厚み方向のバネ定数が0.05N/mであるSi3N4製のカンチレバーを用い、押付圧14nNの条件で、摩擦力顕微鏡により測定された摩擦力が10nN以下である領域、
及び、
厚み方向のバネ定数が0.05N/mであるSi3N4製のカンチレバーを用い、押付圧14nNの条件で、摩擦力顕微鏡により測定された動摩擦係数が1.0以下である領域
の少なくとも一方を表面に含む無機構造物。 - 水蒸気処理されて得られた請求項15に記載の無機構造物。
- 表面における前記摩擦力の平均値が、前記水蒸気処理の前よりも低下している請求項16に記載の無機構造物。
- 表面における前記摩擦力の平均値が、前記水蒸気処理の前よりも半分以下に低下している請求項16に記載の無機構造物。
- ステンレス、ソーダライムガラス、及び石英ガラスから選択される少なくとも1種を含む無機固体、又は、ジルコニア、アルミナ、セリア、チタニア、ハフニア、及びシリカからなる群から選択される少なくとも1種を含む無機薄膜である請求項15に記載の無機構造物。
- 水に対する接触角が30°以上であり、水滴転落角が40°以下である請求項15に記載の無機構造物。
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