JP4370687B2 - 自動車用窓ガラス - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車用窓ガラスに関し、特に、撥水性、水滴除去性および水滴移動性に優れるため、水滴の付着が少なく、水滴が付着してもその水滴の除去が容易な自動車用窓ガラスに関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車用窓ガラスは、その表面に水滴、汚れ等の視界を妨げるものが付着しないことが望まれる。例えば、自動車用窓ガラスの表面に、雨滴、埃、汚れ等が付着したり、大気中の湿度、温度の影響で水分が凝縮すると、透明性、透視性が悪化し、自動車の走行運転に支障をきたす。
【0003】
そのため、自動車用窓ガラスの表面に付着した水滴は、ワイパーにより除去する、または手で拭き取る等の物理的手段で除去されている。しかし、水滴を物理的手段で除去する場合、窓ガラスの表面に微細な傷を付けることがある。また、水滴等に伴う異物粒子によって傷が一層著しくなることもある。さらに、ガラス表面の水滴中にガラス成分が溶出し、表面が浸食される、いわゆる焼けを生じることはよく知られている。この焼けを除去するために強く摩擦すると微細な凹凸を生じ易い。焼けが激しく生じたガラスや表面に微細な凹凸を生じたガラスは、本来の機能が低下し、その表面で光の散乱が生じる。
【0004】
このような自動車用窓ガラスにおいて、表面に水滴が付着しにくい性質(撥水性)、水滴が付着しても表面が傾いている場合には、その表面から転落してその除去が容易な性質(水滴除去性)、さらに、その水滴を迅速に表面から移動させる性質(水滴移動性)を付与することが強く求められている。以前から、ガラスに水滴除去性を付与するために、ガラス基材表面を直接処理するための表面処理剤が提案されている。例えば、シリコーン系ワックスやオルガノポリシロキサンからなるシリコーン油、界面活性剤等がある。
【0005】
また、特開昭58−147484号公報、特開昭60−221470号公報、特開平4−96935号公報等には、パーフルオロアルキル基を含有するポリシロキサンまたはポリシラザンが撥水性に優れた表面処理剤であることが記載されている。
【0006】
しかし、これらの表面処理剤で処理した表面は、耐磨耗性、耐候性等に劣るため、雨滴、雪、霧、結露等の水分が付着する、または塵埃、砂、塩分、油分等が付着する、さらには日光に曝されるなど、長期間種々の環境に曝される自動車用窓ガラスには適していない問題や水滴除去性が不充分である問題があった。
【0007】
特開平10−194784号公報には、耐磨耗性、耐候性等の向上を目的として、ガラス板表面に、酸素原子の一部が水酸基で置換された酸化ケイ素からなる下地膜が形成され、該下地膜表面にフルオロアルキル基を有する有機ケイ素化合物からなる被膜が形成された撥水性ガラスが提案されている。しかし、この撥水性ガラスは、実際には、耐磨耗性は優れるものの耐候性に劣り、水滴転落性も充分でなかった。
【0008】
特開平7−252472号公報には、パーフルオロアルキル基含有有機ケイ素化合物と、加水分解性基含有メチルポリシロキサンとの共加水分解物を含有する撥水処理剤が記載される。これは、撥水性に優れるパーフルオロアルキル基含有有機ケイ素化合物と、水滴転落性に優れる加水分解性基含有メチルポリシロキサンとを、水および親水性溶媒中で共加水分解した成分を含み、撥水性と水滴転落性を両立させると記載されている。
【0009】
しかし、前記撥水処理剤を基材に塗布した結果、該処理剤が完全に乾燥する間に、表面エネルギーの低いパーフルオロアルキル基含有有機ケイ素化合物が、表面エネルギーの高い加水分解性基含有メチルポリシロキサンより外側に移動し、後者に由来する所望の水滴転落性は得られなかった。さらに、従来提案されている表面処理剤は、処理剤自身の基材への付着性が低いため、水滴除去性を長期に持続できなかった。
【0010】
また、特開平10−45431号公報には、親水性を呈する光触媒性酸化物粒子と、撥水性を呈するフッ素樹脂の双方が外気と接するガラス表面に微視的に分散された構造を有する乗物用窓ガラスが記載される。
しかし、この窓ガラスは、光触媒性酸化物粒子が表面粗さを大きくするため、水滴移動時の摩擦力が大きくなり、結果として水滴の除去性および移動性が低下する問題があった。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、撥水性、水滴転落性および水滴移動性に優れ、水滴の付着が少なく、水滴が付着してもその水滴の除去が容易であり、しかもその特性が長期持続性を有する自動車用窓ガラスの提供を目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明は、ガラス基材の少なくとも1面に形成された下記式(a−1)で表される構造単位を有する化合物A−1と、下記式(b−1)で表される構造単位を有する化合物B−1とを含む組成物、または該化合物A−1と該化合物B−1との部分加水分解物を含む組成物、から形成された撥水被膜層を有し、該撥水被膜層の表面エネルギーの極性項が、0.3〜1.0mJ/m2 の範囲にある自動車用窓ガラスを提供する。
【化1】
(ただし、nは10〜100の整数、A1 は炭素数1〜6の2価有機基、X1 は加水分解性基、pは1〜3の整数、R1は炭素数1〜6の1価炭化水素基であり、X1 およびR1 がそれぞれ2個以上存在する場合には、それらは同一であっても異なっていてもよい。)
【化2】
(ただし、Rは水酸基または炭素数1〜6の1価有機基、mは1〜30の整数、aは1〜4の整数、kは10〜100の整数、A2 は炭素数1〜6の2価有機基、X2 は加水分解性基、qは1〜3の整数、R2は炭素数1〜6の1価炭化水素基であり、X2 およびR2 がそれぞれ2個以上存在する場合には、それらは同一であっても異なっていてもよい。)
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明において、撥水被膜層の表面エネルギーの極性項は0.3〜1.0mJ/m2 の範囲にある。この範囲を外れると、水滴転落性、水滴移動性が不充分になる。表面エネルギーの極性項の測定方法は後記の実施例中に記載する方法による。撥水被膜層は、化合物Aと化合物Bを含む組成物、または該化合物Aと該化合物Bとの部分加水分解物を含む組成物から形成されるのが好ましい。
さらに化合物Aとしては、下記式(a−1)で表される化合物A−1が好ましく、化合物Bとしては、下記式(b−1)で表される化合物B−1が好ましい。
【0016】
【化5】
【0017】
(ただし、nは10〜100の整数、A1 は炭素数1〜6の2価有機基、X1 は加水分解性基、pは1〜3の整数、R1 は炭素数1〜6の1価炭化水素基であり、X1 およびR1 がそれぞれ2個以上存在する場合には、それらは同一であっても異なっていてもよい。)
【0018】
【化6】
【0019】
(ただし、Rは水酸基または炭素数1〜6の1価有機基、mは1〜30の整数、aは1〜4の整数、kは10〜100の整数、A2 は炭素数1〜6の2価有機基、X2 は加水分解性基、qは1〜3の整数、R2 は炭素数1〜6の1価炭化水素基であり、X2 およびR2 がそれぞれ2個以上存在する場合には、それらは同一であっても異なっていてもよい。)
【0020】
本発明の自動車用窓ガラスは、ガラス基材と、該ガラス基材の少なくとも1面に形成された撥水被膜層とを有する。撥水被膜層は、ガラス基材の両面に形成されていてもよいし、片面のみに形成されていてもよい。撥水被膜層は、ガラス基材の表面に直接形成されていてもよいし、ガラス基材の表面に形成された中間被膜の上に撥水被膜層を形成した構造でもよい。さらに、撥水被膜層は、自動車用窓ガラスとして自動車に装着されたときに、車体外側となる面に形成されているのが好ましい。
また、本発明の自動車用窓ガラスは、自動車のフロント窓ガラス、リヤ窓ガラス、サイド窓ガラスのいずれに用いられてもよい。特に、自動車のフロント窓ガラスに用いた場合には、水滴の付着による透明性、透視性の低下を防止できる。
【0021】
ガラス基材としては、特に制限されず、自動車用窓ガラスに用いられるガラス基材であれば特に限定されない。例えば、合せガラス、強化ガラス等である。また、これらのガラス基材は、表面に蒸着法、スパッタリング法、湿式法等の方法で得られた膜等が形成されていてもよい。
【0022】
撥水被膜は、前記式(a)で表される構造単位を有する化合物Aと前記式(b)で表される構造単位を有する化合物Bとを含む組成物からなるのが好ましい。式(a)における、nは10〜100(好ましくは10〜50)の整数である。式(b)において、mは1〜30(好ましくは1〜20)の整数である。
【0023】
式(a)の好ましい態様である式(a−1)において、A1 は直鎖構造または分岐構造であるのが好ましく、A1 は−(CH2 )p −(pは1〜12の整数、特に2〜4の整数)であるのが特に好ましい。
【0024】
X1 は加水分解性基であり、R1 は直鎖構造または分岐構造であるのが好ましい。加水分解性基(X1 )の具体例としては、アルコキシ基、塩素原子、イソシアネート基等が挙げられる。アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基等が挙げられる。R1 としては、炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基等が挙げられる。X1 およびR1 がそれぞれ2個以上存在する場合には、それらは同一であっても異なっていてもよい。nは10〜100(好ましくは10〜50)の整数である。pは1〜3の整数であり、特に、基材への密着性の点から、3であるのが好ましい。
【0025】
式(b)の好ましい態様である式(b−1)において、Rは水酸基が好ましい。Rが炭素数1〜6の1価有機基である場合には、直鎖構造もしくは分岐構造であるのが好ましい。Rが炭素数1〜6の1価有機基である場合には、炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基等が挙げられる。
mは1〜30(好ましくは1〜20)の整数、aは1〜4(好ましくは2〜3)の整数、kは10〜100(好ましくは10〜50)の整数である。
【0026】
A2 は直鎖構造または分岐構造であるのが好ましく、−(CH2 )p −(pは1〜6の整数、特に2〜4の整数)であるのが特に好ましい。
X2 は加水分解性基であり、X1 と同様のものが例示される。
【0027】
qは1〜3の整数であり、基材の密着性の点から、3であるのが好ましい。
R2 は直鎖構造または分岐構造であるのが好ましく、炭素数1〜6のアルキル基が特に好ましく、例えば、メチル基、エチル基等が挙げられる。X2 およびR2 がそれぞれ2個以上存在する場合には、それらは同一であっても異なっていてもよい。
【0028】
前記化合物A−1および化合物B−1においては、pとqとが3であるものを併用すると、基材への密着性の点から好ましい。
【0029】
また、化合物A−1と化合物B−1とを、(化合物A−1における式(a)で表される構造単位の繰り返し数n)/(化合物B−1における式(b)で表される構造単位の繰り返し数m+メチレン基の繰り返し数a+ジメチルシロキサン単位の繰り返し数kの和)の比:n/(m+a+k)(以下、「分子長さ比」という)が3>分子長さ比>0.5となる組み合わせで用いると、水滴除去性、水滴移動性の観点から好ましい。分子の長さの目安であるこの値が、この範囲であれば表面で撥水基と親水基が好適な分布状態をとると考えられ、この値が3を超えると化合物Aの分子鎖長が化合物Bのそれに比べて長くなりすぎるため、表面での撥水基密度が高くなりすぎ、0.5より小さいと逆に表面での親水基密度が高くなりすぎ、望ましい「撥水基と親水基の分布状態」が得られにくくなるおそれがある。
【0030】
組成物中の化合物Aおよび化合物Bは、それぞれ1種のみを用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
また、本発明においては、化合物Aに対する化合物Bの割合を1〜30質量%とするのが好ましく、さらに該割合を5〜20質量%とするのが好ましい。
【0031】
本発明においては、化合物Aと化合物Bを含む組成物、または、化合物Aと化合物Bの部分加水分解生成物を含む組成物を用いて撥水被膜層を形成させる。部分加水分解生成物を用いる場合においても、化合物Aや化合物Bの好ましい態様は、前記と同じである。
部分加水分解生成物は、化合物Aおよび化合物Bを、酸の存在下で反応させることにより調製するのが好ましい。部分加水分解生成物中には、化合物Aと化合物Bとの部分加水分解物、化合物Aの部分加水分解物、および化合物Bの部分加水分解物から選ばれる部分加水分解物が1種以上含まれる。また、部分加水分解生成物中には、未反応の化合物Aや未反応の化合物Bが含まれていてもよい。
【0032】
部分加水分解反応に用いられる酸は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸等の無機酸;酢酸、ギ酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等の有機酸が挙げられる。酸はそのまま添加してもよいし、反応促進等の目的で必要に応じて水溶液に調製してから添加してもよい。酸の使用量は、化合物Aおよび化合物Bの合計質量に対して0.01〜5質量%であることが好ましい。
【0033】
さらに、部分加水分解生成物の調製は、有機溶剤の存在下に行なうのが好ましい。
有機溶媒は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択される。例えば、酢酸エステル類、芳香族炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類、ケトン類、エーテル類、アルコール類が挙げられる。これらの中でも、経済性、ぬれ性(作業性)の点で、アルコール類、特に低級アルコールが好ましい。また、有機溶媒は、1種単独でも、2種以上の溶媒からなる混合溶媒を使用することもできる。
有機溶媒の使用量は、(化合物Aと化合物B)/(化合物Aと化合物Bと有機溶媒との総質量)×100(%)で表したときに0.1〜10%が好ましい。該使用量は、目的とする膜厚および塗布方法等を考慮して適宜決定される。
【0034】
本発明における組成物は、必須成分である化合物Aおよび化合物B、または化合物Aと化合物Bとの部分加水分解生成物、とともに有機溶剤を含むのが好ましい。該有機溶剤としては、部分加水分解生成物の調製に用いうる有機溶剤と同様のものが挙げられ、好ましい態様も同様である。
【0035】
さらに本発明における組成物中には、前記以外の成分(以下「他の成分」という)を含んでいてもよい。他の成分としては、部分加水分解生成物の調製に用いた酸、添加剤等が挙げられる。
添加剤としては、例えば、金属酸化物、樹脂、染料、顔料、紫外線吸収剤、酸化防止剤等が挙げられる。添加剤量は、化合物Aおよび化合物Bの合計質量に対して0.1〜30質量%程度であるのが、水滴除去性および水滴移動性等の性能を低下させないことから好ましい。
【0036】
本発明における組成物は、ガラス基材表面に処理し、該基材表面に撥水被膜層を形成させる。
ガラス基材の表面は、ガラス基材そのもの、または、本発明の組成物以外から形成された被膜(以下、「中間被膜層」という)が形成された面であるのが好ましい。
【0037】
このとき、撥水被膜層または中間被膜層の形成に先立って、ガラス基材の表面を前処理して、基材表面を改質してもよい。例えば、撥水被膜層または中間被膜層とガラス基材の表面の密着性の改善を目的として、希釈したフッ酸、硫酸、塩酸等による酸処理、水酸化ナトリウム水溶液等によるアルカリ処理、あるいはプラズマ照射、コロナ照射、電子線照射等による放電処理を行なうことができる。
【0038】
本発明の自動車用窓ガラスにおいて、ガラス基材の表面に中間被膜層を形成し、その中間被膜層の上に撥水被膜層を形成したものは、撥水性、水滴除去性、水滴移動性および実用耐久性の点で、好ましい。この中間被膜層が、式:Si(X3 )4 で表されるシラン化合物またはその部分加水分解生成物を必須成分とする組成物から形成された被膜からなる場合、中間被膜層が基材と化合物Aまたは化合物Bと強固に化学結合するので、特に好ましい。
【0039】
シラン化合物を示す式中、X3 は、それぞれアルコキシ基、イソシアネート基または塩素原子であり、4つのX3 は同一であっても異なっていてもよい。このシラン化合物として、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトライソシアネートシラン、テトラクロロシラン等が挙げられる。
シラン化合物の部分加水分解生成物の調製は、化合物Aと化合物Bとの部分加水物の調製と同様の方法で実施できる。
【0040】
本発明の自動車用窓ガラスは、1)ガラス基材の表面に撥水被膜層を形成する方法、あるいは2)ガラス基材の表面に中間被膜層を形成した後、その中間被膜層の上に撥水被膜層を形成する方法によって製造できる。
【0041】
撥水被膜層は、はけ塗り、流し塗り、回転塗布、浸漬塗布、スキージ塗布、スプレー塗布、手塗り等の各種の塗布方法で、前記組成物を、ガラス基材の表面または中間被膜の表面に塗布し、乾燥させる処理方法で形成させうる。
また、中間被膜は、同様の塗布方法で前記シラン化合物をガラス基材の表面に塗布し、乾燥させる処理方法で形成させうる。
乾燥は、大気中または窒素気流中等で行なえばよい。乾燥温度は、通常、20〜300℃の範囲である。また、中間被膜の塗布後、あらかじめ加熱することは問題なく、この場合の加熱温度は100〜700℃が好ましい。
【0042】
本発明の自動車用窓ガラスにおいて、撥水被膜の厚さは、外観品質、作業性、経済性、実用耐久性の点から、100nm以下であるのが好ましく、さらに50nm以下であるのが好ましい。その下限は単分子膜厚である。
また、中間被膜を積層する場合、その中間被膜の厚さは、外観品質、実用耐久性、作業性、経済性の点から、100nm以下であるのが好ましく、さらに50nm以下であるのが好ましい。その下限は単分子膜厚である。
【0043】
本発明の自動車用窓ガラスにおいて、中間被膜を設ける場合、中間被膜と撥水被膜の厚さの合計は、外観品質、実用耐久性、経済性、作業性の観点から、200nm以下であるのが好ましく、さらに、100nm以下であるのが好ましい。その下限は単分子膜厚である。
【0044】
【実施例】
以下に、本発明を実施例および比較例をあげて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。実施例および比較例において行なった各種評価は、下記の方法にしたがって行なった。
【0045】
1)接触角測定
水平に保持した試験片の撥水被膜の表面に水を滴下し、形成された直径1mmの大きさの水滴の接触角を接触角計(協和界面化学社製)を用いて測定した。表面上の異なる5ケ所にて測定を行いその平均値で示した。
【0046】
2)転落角測定
水平に保持した試験片の撥水被膜の表面に10μlの水滴を滴下し、試験片を徐々に傾けていき、水滴が落下しはじめた時の試験片と水平面との角度を読み取った。この角度が小さいほど水滴除去性が優れることを意味する。
【0047】
3)水滴移動速度の測定
試験片を、撥水被膜を上にして、水平面に対して30度の傾きになるよう保持した。処理面上の任意の1点に30μlの水滴を滴下し、水滴が5cm移動する際に要する時間を測定した。速度(mm/s)は、(移動距離50mm)/(所要時間(秒) で計算して求めた。
【0048】
4)表面エネルギーの極性項(γp )の測定
蒸留水、α−ブロモナフタレン、エチレングリコールを用いて、試験片の接触角を測定し、該接触角の値を拡張Fowkesの理論式にあてはめて表面エネルギー極性項(γp )を求めた。
【0049】
(実施例1)
アンダーコート剤の調製
撹拌子および温度計がセットされたガラス容器に、Si(NCO)4 を3.0g、酢酸(n−ブチル)を97.0g加え、25℃で10分間撹拌し、アンダーコート剤を得た。
【0050】
組成物の調製
撹拌機、温度計がセットされたガラス容器に、イソプロピルアルコール97.0gを入れ、 下記化合物(1A)2.7gおよび下記化合物(1B)0.3gを添加し25℃で30分撹拌した。撹拌後、1質量%の硝酸水溶液3.0gを徐々に滴下して加え、25℃で1昼夜撹拌を継続して組成物−1を得た。
化合物(1A)と化合物(1B)の分子長さ比は、30/(8+3+30)=0.73である。
【0051】
【化7】
【0052】
予め研磨洗浄された10cm×10cm(厚さ3mm)の自動車用ガラス基板にアンダーコート剤をスピンコート法にて塗布した。室温で1分間放置後、次に組成物−1をスピンコート法にて同様に塗布した。このガラス基板を1昼夜室温にて保管し試験片を得た。この試験片を評価した結果を表1に示す。
【0053】
(実施例2)
化合物(1A)を2.1g、化合物(1B)を0.9g用いること以外は、実施例1と同様にして、組成物−2を調製した。このとき、化合物(1A)と化合物(1B)の分子長さ比は、30/(8+3+30)=0.73である。
次に、実施例1と同様にして、自動車用ガラス基板にアンダーコート剤を塗布した後、組成物−2を塗布して試験片を作成して評価した。結果を表1に示す。
【0054】
(実施例3)
アンダーコート剤を塗布しない以外は、実施例1と同様にして、自動車用ガラス基板に実施例1で調製した組成物−1を塗布して試験片を作成して評価した。結果を表1に示す。
【0055】
(実施例4)
化合物(1B)の代わりに、下記の化合物(4B)を用いた以外は、実施例1と同様にして組成物−4を調製した。このとき、用いた化合物(1A)と化合物(4B)の分子長さ比は、30/8=3.75である。
次に、実施例1と同様にして、自動車用ガラス基板にアンダーコート剤を塗布した後、組成物−4を塗布して試験片を作成して評価した。結果を表1に示す。
【0056】
【化8】
【0057】
(実施例5)
化合物(1A)、下記式で表される化合物(5A)、化合物(1B)の代わりに前記の化合物(4B)を用いる以外は、実施例1と同様にして、組成物−5を調製した。このとき、用いた化合物5Aと化合物4Bの分子長さ比は、10/8=1.25である。
次に、実施例1と同様にして、自動車用ガラス基板にアンダーコート剤を塗布した後、組成物−5を塗布して試験片を作成して評価した。結果を表1に示す。
【0058】
【化9】
【0059】
(実施例6)
化合物(1A)の代わりに、前記の化合物(5A)を用いた以外は、実施例1と同様にして、組成物−6を調製した。このとき、用いた化合物(5A)と化合物(1B)の分子長さ比は、10/(8+3+30)=0.24である。
次に、実施例1と同様にして、ガラス基板にアンダーコート剤を塗布した後、組成物−6を塗布して試験片を作成して評価した。結果を表1に示す。
【0060】
(実施例7)
撹拌機、温度計がセットされたガラス容器に、イソプロピルアルコール97.0gを入れ、 前記の化合物(5A)3.0gのみを添加し25℃で30分撹拌した。撹拌後、1質量%の硝酸水溶液3.0gを徐々に滴下して加え、25℃で1昼夜撹拌を継続し処理剤(R1)を得た。
次に、実施例1と同様にして、自動車用ガラス基板にアンダーコート剤を塗布した後、処理剤(R1)を塗布して試験片を作成して評価した。結果を表1に示す。
【0061】
(実施例8)
撹拌機、温度計がセットされたガラス容器に、イソプロピルアルコール97.0gを入れ、 前記化合物(5A)2.7gと下記式で表される化合物(X)0.3gを添加し25℃で30分撹拌した。撹拌後、1質量%の硝酸水溶液3.0gを徐々に滴下し加え、25℃で1昼夜撹拌を継続し処理剤(R3)を得た。
次に、実施例1と同様にして、自動車用ガラス基板にアンダーコート剤を塗布した後、処理剤(R3)を塗布して試験片を作成して評価した。結果を表1に示す。
【0062】
【化10】
【0063】
(比較例1)
撹拌機、温度計がセットされたガラス容器に、イソプロピルアルコール97.0gを入れ、 前記の化合物(1B)3.0gのみを添加し25℃で30分撹拌した。撹拌後、1質量%の硝酸水溶液3.0gを徐々に滴下して加え、25℃で1昼夜撹拌を継続し処理剤(R2)を得た。
次に、実施例1と同様にして、自動車用ガラス基板にアンダーコート剤を塗布した後、処理剤(R2)を塗布して試験片を作成して評価した。結果を表1に示す。
【0064】
(比較例2)
化合物(1B)の代わりに下記式(6A)で表される化合物を用いた以外は、比較例1と同様にして処理剤(R4)を得た。比較例1と同様に処理剤(R4)を塗布して得られた試験片について評価した結果を表1に示す。
【0065】
【化11】
【0066】
【表1】
【0067】
本発明における組成物で処理されたガラス基材表面は、水滴移動速度の値が大きく水滴が移動し易いガラス表面になる。このガラス基材を自動車用窓ガラスに用いると、風圧との相互作用等で水滴を速やかに移動させうる。
【0068】
【発明の効果】
本発明の自動車用窓ガラスは、撥水性、水滴除去性および水滴移動性に優れるため、水滴の付着が少なく、水滴が付着してもその水滴の除去が容易である。そのため、本発明の自動車用窓ガラスは、自動車のフロント窓ガラス、リヤ窓ガラス、サイド窓ガラスに用いて、特に、フロントの窓ガラスとして用いて、雨天、霧、雪等の気象状況下での窓ガラスの水滴除去に有効である。
Claims (5)
- ガラス基材の少なくとも1面に形成された下記式(a−1)で表される構造単位を有する化合物A−1と、下記式(b−1)で表される構造単位を有する化合物B−1とを含む組成物、または該化合物A−1と該化合物B−1との部分加水分解物を含む組成物、から形成された撥水被膜層を有し、該撥水被膜層の表面エネルギーの極性項が、0.3〜1.0mJ/m2 の範囲にある自動車用窓ガラス:
- pおよびqが3である請求項1に記載の自動車用窓ガラス。
- 化合物A−1と化合物B−1とを、3>n/(m+a+k)>0.5となる組み合わせで用いる請求項1または2に記載の自動車用窓ガラス。
- 化合物A−1に対して化合物B−1を1〜30質量%用いる請求項1〜3のいずれかに記載の自動車用窓ガラス。
- 撥水被膜層を形成するガラス基材の少なくとも1面が、Si(X3 )4 (X3は、それぞれアルコキシ基、イソシアネート基、または塩素原子であり、4つのX3は同一であっても異なっていてもよい。)またはその加水分解生成物を必須成分とする組成物から形成された中間被膜が積層された面である請求項1〜4のいずれかに記載の自動車用窓ガラス。
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