JP4706097B2 - 表面処理層を有する基材とその製造方法 - Google Patents

表面処理層を有する基材とその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、水滴の付着が少なく、また、付着した水滴の除去が容易な表面処理層を有する基材とその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
表面処理層を有する各種基材は、多くの分野で使用されているが、その表面で水のもたらす悪影響が問題となっている。
例えば、電車、自動車、船舶、航空機等の輸送機器における、1)外板、窓ガラス、鏡、表示機器表面材等の外層部材、2)計器盤表面材等の内層部材、3)その他の物品の表面は常に清浄であることが好ましい。輸送機器物品の表面に、雨滴、ほこり、汚れ等が付着したり、大気中の湿度、温度の影響で水分が凝縮したりすると、輸送機器用物品等が有する本来の機能が低下する場合がある。
特に、輸送機器用物品が透明性、透視性を要求される物品(例えば、窓ガラス、鏡)である場合には、雨滴、ほこり、汚れ等の付着や水分の凝縮により、透明性、透視性が低下し、それにより本来の目的が損なわれかねない。例えば、自動車のフロントガラスは、雨滴等の付着等により透明性、透視性が減少する。
【0003】
水滴を物理的に除去する手段(例えば、拭き取り、ワイパーによる除去)は、ときとして物品の表面に微細な傷を付けることがある。また、水滴等に伴われる異物粒子によってかかる傷を一層著しいものにすることもある。さらに、ガラス表面に水分が付着した場合には水分中にガラス成分が溶出し、表面が浸食されていく、いわゆる焼けを生じることはよく知られている。この焼けを除去するために強く摩擦すると微細な凸凹を生じ易い。焼けが激しく生じたガラスや表面に微細な凸凹を生じたガラスからなる透視部は、本来の機能が低下し、その表面で光の散乱が生じる。
【0004】
その他にも、水分は輸送機器物品等の表面や内部に有害な影響を与えて、損傷、汚染、着色、腐食等を促進させ、また、輸送機器用物品等の電気特性、機械的特性、光学的特性等の変化を誘発することもある。また、それらの外観が損なわれる場合もあり、人の目に直接触れる表面であったり、人が直接接する表面であると、不快感を与える。
この種の水がもたらす悪影響は輸送機器用物品に限らず、建築・建装用物品、電気・電子機器用物品等の各種分野で用いられる物品基材で問題となっている現象である。
【0005】
このような現状において、基材表面に水滴が付着しにくく、または、付着した水滴の除去が容易な性質(以下、単に「水滴除去性」という。)を付与することは強く求められているところであり、以前から、表面に水滴除去性を付与するために、物品表面に直接処理して用いる表面処理剤が提案されている。例えば、シリコーン系ワックス、オルガノポリシロキサンからなるシリコーン油、界面活性剤等がある。
【0006】
特開昭58−147484号公報、特開昭60−221470号公報、特開平4−96935号公報等には、パーフルオロアルキル基を含有する、ポリシロキサンまたはポリシラザンが撥水性に優れることが記載されている。
しかし、これらは耐摩耗性、耐候性等に劣るため、屋外等で長期的に使用することができなかった。また、自動車用フロントガラス、建築物用窓ガラス等には、撥水性のみならず水滴が転がり落ちる性質(水滴転落性)も要求されるが、これらは水滴転落性が十分であるとはいえなかった。
【0007】
また、特開平10−194784号公報には、耐摩耗性、耐候性等の向上を目的とし、ガラス板と、酸素原子の一部が水酸基で置換された酸化ケイ素からなる下地膜と、フルオロアルキル基を含む有機ケイ素化合物からなる撥水性ガラスが提案されている。
しかし、前記撥水性ガラスは、実際には、耐摩耗性は優れるものの耐候性に劣るものであった。また、水滴転落性も十分でなかった。
【0008】
また、特開平7−252472号公報には、パーフルオロアルキル基含有有機ケイ素化合物と、加水分解性基含有メチルポリシロキサンとの共加水分解物を含有する撥水処理剤が記載されている。これは、撥水性に優れるパーフルオロアルキル基含有有機ケイ素化合物と、水滴転落性に優れる加水分解性基含有メチルポリシロキサンとを、水および親水性溶媒中で共加水分解することにより、撥水性と水滴転落性の両方に優れたものとすることを目的としたものである。
しかし、前記撥水処理剤は、基材に塗布すると、完全に乾燥するまでに、表面エネルギーの低いパーフルオロアルキル基含有有機ケイ素化合物が、表面エネルギーの高い水分解性基含有メチルポリシロキサンより外側に移動し、後者に由来する所望の水滴転落性が得られるものではなかった。
【0009】
さらに、従来提案されていた表面処理剤は、塗布に伴う前処理を必要とするものが多く、かつ塗布時に塗布ムラが発生しやすいという問題があった。また、処理剤自身の基材への付着性が低いことにより、水滴除去性の長期持続性が得られないものが多く、用途が限定されていた。
【0010】
また、今後新たに製作される各種基材はもとより、既に使用されている各種基材に対しても対策を講じることができる手法が望まれている。この場合には、各種基材に表面処理剤を常温で直接塗布するだけで水滴除去性を付与することができる必要がある。例えば、既に使用されている自動車用フロントガラスに水滴転落性付与のための処理を行うことを考えた場合に、経済的にみて各自動車のフロントガラスを入れ替えるわけにもいかず、また、塗布後その部分を焼成することも現実には不可能である。この観点からも従来提案されていた表面処理剤を用いる手法では対応が困難であるというのが現実である。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記の如き問題点に鑑みなされたものである。すなわち、本発明者は従来の提案が有していた欠点を解消しうる処理剤の研究、検討の過程において、多種類の基材に応用が可能であり、優れた水滴除去性(水滴転落性および撥水性)を長期的に発現する表面処理手段を見出し、その処理は容易に行うことができ、かつ、処理した各種基材は水滴除去性を有する基材として、特に、輸送機器用の基材として極めて好適であることを確認し、本発明を完成するに至った。
本発明は、水滴除去性を有し、耐摩耗性、耐候性、耐煮沸性および耐薬品性に優れるためその性質が半永久的に持続する基材の提供を目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明は、少なくとも2層の表面処理層を有する基材であって、
表面処理層の最外層である第1層が、水に対する転落角値が30度以下である表面を形成する反応性シラン化合物(I)、を含有する組成物で被覆して得られる層であり、
第1層の内側(基材側)に接する第2層が、水に対する接触角値が100度以上である表面を形成する含フッ素反応性シラン化合物(II)、を含有する組成物(II)で被覆して得られる層であることを特徴とする表面処理層を有する基材を提供する。
【0013】
フッ素含有率(%)=[化合物中のF原子数×Fの原子量]/[化合物の分子量]×100として、前記化合物(I)および化合物(II)は、[化合物(I)のフッ素含有率]/[化合物(II)のフッ素含有率]<1.0の関係を満たすのが好ましく、[化合物(I)のフッ素含有率]/[化合物(II)のフッ素含有率]<1.0の関係を満たすのがより好ましい。
【0014】
前記化合物(I)および化合物(II)は、[化合物(I)の分子量/化合物(II)の分子量]>1.0の関係を満たすのが好ましく、[化合物(I)の分子量/化合物(II)の分子量]>1.0の関係を満たすのがより好ましい。
【0015】
前記化合物(I)が下記式(IA)で表される化合物であるのが好ましい。
【0016】
【化5】
Figure 0004706097
【0017】
(式中、R1 、R3 およびR4 はそれぞれ下記式(1)で表される基であり、R1 、k個のR3 およびR4 は同一であっても異なっていてもよい。R2 は炭素数2〜16の1価の有機基を表し、m´個のR2 は同一であっても異なっていてもよい。Rfは炭素数3〜16の1価の含フッ素有機基を表し、m個のRfは同一であっても異なっていてもよい。n、m´およびkはそれぞれ0〜100の整数、mは1〜100の整数を表し、n+m+m´+kは2〜101の整数である。
【0018】
【化6】
Figure 0004706097
【0019】
(式中、Aは炭素数2〜6の2価の炭化水素基または酸素原子、R5 は炭素数1〜10の1価の炭化水素基を表し、X1 はイソシアネート基、塩素原子、炭素数1〜4のアルコキシ基または炭素数1〜4のアシルオキシ基を表す。p個のR5 は同一であっても異なっていてもよく、(3−p)個のX1 は同一であっても異なっていてもよい。pは0〜2の整数を表す。))
【0020】
前記含フッ素反応性シラン化合物(II)が、下記式(IIA)および/または(IIB)で表されるのが好ましい。
【0021】
【化7】
Figure 0004706097
【0022】
(式中、Z1 およびZ2 は、それぞれイソシアネート基または加水分解性基を表し、(3−a)個のZ1 および(3−b)個のZ2 は同一であっても異なっていてもよい。R6 およびR7 は、それぞれ水素または炭素数1〜21の有機基を表し、a個のR6 およびb個のR7 は同一であっても異なっていてもよい。Yは、2価の有機基を表す。a個のR6 、b個のR7 およびYのうち少なくとも一つは、含フッ素有機基である。aおよびbは、それぞれ0〜2の整数を表す。)
【0023】
【化8】
Figure 0004706097
【0024】
(式中、R8 は、水素または炭素数1〜21の有機基を表し、c個のR8 は同一であっても異なっていてもよい。c個のR8 のうち少なくとも一つは、含フッ素有機基である。Z3 は、イソシアネート基または加水分解性基を表す。cは、1〜3の整数を表す。)
【0025】
また、本発明は、さらに、第2層の内側(基材側)に接する第3層を有し、該第3層がフッ素不含の反応性シラン化合物(III)を含有する組成物(III)で被覆して得られる層である前記表面処理層を有する基材を提供する。
【0026】
さらに、本発明は、基材の表面を前記組成物(II)で被覆して第2層を形成する工程、および第2層表面を前記組成物(I)で被覆して第1層を形成する工程を有する前記表面処理層を有する基材の製造方法を提供する。
【0027】
さらに、本発明は、基材の表面を前記組成物(III)で被覆して第3層を形成する工程、第3層表面を前記組成物(II)で被覆して第2層を形成する工程、および第2層表面を前記組成物(I)で被覆して第1層を形成する工程を有する前記表面処理層を有する基材の製造方法を提供する。
【0028】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明の基材は、少なくとも2層の表面処理層を有する基材である。
表面処理層の最外層である第1層は、反応性シラン化合物(I)を含有する組成物(I)で被覆して得られる層である。
【0029】
反応性シラン化合物(I)は、水に対する転落角値が30度以下である表面を形成する化合物であれば、特に限定されない。ここで、「水に対する転落角値が30度以下である表面を形成する化合物」とは、洗浄されたソーダライムガラス基板の表面をある化合物で処理することにより該基板の表面が露出しないようにその化合物で完全に被覆された場合に、その被覆後の表面の水に対する転落角値が30度以下となるような化合物をいう。「転落角値」とは、水平に保持した化合物層の表面に50μlの水滴を滴下し、基板の一辺を持ち上げて徐々に傾けていき、水滴が落下し始めたときの基板表面と水平面との角度をいい、この角度が小さい基板ほど表面の水滴除去性が優れることを意味する。
また、化合物(I)は、水滴除去性の観点から、水に対する接触角値が90度以上である表面を形成する化合物であることが好ましい。「水に対する接触角値が90度以上である表面を形成する化合物」とは、洗浄されたソーダライムガラス基板の表面をある化合物で処理することにより該基板の表面が露出しないようにその化合物で完全に被覆された場合に、その被覆後の表面の水に対する接触角値が90度以上となるような化合物をいう。
【0030】
化合物(I)においては、反応性基がケイ素原子に直接結合している。反応性基は、例えば、イソシアネート基、ハロゲン原子(Fを除く)、アルコキシ基、アシルオキシ基、アルコキシ置換アルコキシ基、アミノキシ基、アミド基、酸アミド基、ケトキシメート基が挙げられる。中でも、炭素数1〜4のアルコキシ基、アシルオキシ基、イソシアネート基、塩素原子が好ましい。第2層に対する結合性の点を考慮すると、1つのケイ素原子に結合した反応性基は2つ以上であるのが望ましい。
化合物(I)は、この反応性基の反応性により、優れた水滴除去性、耐摩耗性、耐薬品性、耐候性等の性能を発現するものと考えられる。また、後述するように、有機基を選択することによりこれらの性能をさらに向上させることが可能である。
【0031】
また、化合物(I)はそのまま用いてもよいし、加水分解物として使用してもよい。化合物(I)の加水分解物とは、水中または酸性もしくはアルカリ性の水溶液中で、化合物(I)の有する反応性基の全部または一部を加水分解して生成するシラノール基等を有する化合物、あるいはそのシラノール基の反応により2以上に分子が縮合した化合物をいう。酸性の水溶液は、例えば、塩酸、酢酸、硫酸、リン酸、スルホン酸、メタンスルホン酸等の水溶液を使用することができる。アルカリ性の水溶液は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等の水溶液を使用することができる。
【0032】
上述したように、化合物(I)は、水に対する転落角値が30度以下である表面を形成する化合物であればよく、構造的には特に限定されないが、化合物(II)よりもフッ素含有率が小さく、また、化合物(II)よりも分子量が大きい反応性シラン化合物であること(すなわち、[化合物(I)のフッ素含有率]/[化合物(II)のフッ素含有率]<1.0の関係を満たし、また、[化合物(I)の分子量/化合物(II)の分子量]>1.0の関係を満たす反応性シラン化合物であること)が好ましい。ここで、フッ素含有率は、
フッ素含有率(%)=[化合物中のF原子数×Fの原子量]/[化合物の分子量]×100
で求められる。化合物(I)は、フッ素不含の反応性シラン化合物および含フッ素反応性シラン化合物のいずれであってもよく、化合物(I)がフッ素不含の反応性シラン化合物である場合には、そのフッ素含有率は0%となる。
なお、組成物(I)が2種以上の化合物(I)を含有する場合には、上述したフッ素含有率および分子量はモル分率を加味して平均して考えればよい。組成物(II)が2種以上の化合物(II)を含有する場合も同様である。
【0033】
本発明の基材において、化合物(I)が、化合物(II)よりもフッ素含有率が小さく、化合物(II)よりも分子量が大きい反応性シラン化合物であることが好ましい理由を以下に説明する。
一般的に含フッ素系の撥水性材料は、フッ素含有率が高くなると、表面の撥水性および耐久性は高まるが、必ずしも表面の水滴転落性は向上しない。これはフッ素原子の電子密度が大きいため、水滴と表面との間の相互作用が強くなるためと考えられる。また、水滴転落性が良好な撥水性材料としては、例えば、ジメチルポリシロキサン系化合物があるが、化学的耐久性に劣るという欠点を有する。
撥水性、耐久性および水滴転落性のいずれにも優れる表面を有する基板を得る観点から、基材表面付近において内側から外表面側に向かいフッ素原子が段階的にまたは連続的に少なくなる傾斜層を実現することが好ましく、化合物(I)が、化合物(II)よりもフッ素含有率が小さくなるような構成とすることが好ましい。なお、そのような表面の傾斜層を実現するために、フッ素系撥水材料とジメチルポリシロキサン系撥水材料を混合し処理することが考えられるが、この場合、表面エネルギーが小さいフッ素系撥水材料が、より外表面側に高密度に存在することとなり、目的の傾斜層は得られない。
【0034】
一方、化合物(I)のフッ素含有率が小さくなると、フッ素含有率の高い第2層表面より表面エネルギーが大きくなり、濡れにくくなるため、化合物(I)を含有する組成物(I)を第2層表面に被覆することが困難となる。
本発明においては、化合物(I)の分子量を化合物(II)よりも大きくすることが好ましい。これにより、第1層の表面処理時に発生する第2層表面と化合物(I)との間のvan der waals力が大きくなり、組成物(I)による被覆が容易となる。
【0035】
本発明においては、前記化合物(I)および化合物(II)が、[化合物(I)のフッ素含有率]/[化合物(II)のフッ素含有率]≦0.8の関係を満たすのが好ましい。この関係を満たすと、水滴転落性が極めて優れたものとなる。また、前記化合物(I)および化合物(II)が、[化合物(I)の分子量/化合物(II)の分子量]≧1.5の関係を満たすのが好ましい。この関係を満たすと、組成物(I)による表面処理が非常に容易となる。
【0036】
化合物(I)は、上記式(IA)で表される含フッ素化合物であるのが好ましい。式(IA)中、R1 、R3 およびR4 はそれぞれ上記式(1)で表される基であり(式(1)中、Aは炭素数2〜6の2価の炭化水素基または酸素原子を表し、R5 は炭素数1〜10の1価の炭化水素基、好ましくはメチル基を表し、X1 はイソシアネート基、塩素原子、炭素数1〜4のアルコキシ基または炭素数1〜4のアシルオキシ基を表す。p個のR5 は同一であっても異なっていてもよく、(3−p)個のX1 は同一であっても異なっていてもよい。pは0〜2の整数を表す。))、R1 、k個のR3 およびR4 は同一であっても異なっていてもよい。R2 は炭素数2〜16の1価の有機基を表し、m´個のR2 は同一であっても異なっていてもよい。Rfは炭素数3〜16の1価の含フッ素有機基を表し、m個のRfは同一であっても異なっていてもよい。n、m´およびkはそれぞれ0〜100の整数、mは1〜100の整数を表し、n+m+m´+kは2〜101の整数である。
【0037】
pは、0〜2の整数を表すが、第2層への密着性の観点から、1以下であるのが好ましく、0であるのがより好ましい。R1 、R3 およびR4 の中のX1 が多いほど、第2層に強固に結合するためである。
【0038】
2 は、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基等の炭化水素基;クロロアルキル基、フルオロアルキル基等のハロゲン化炭化水素基;水酸基、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基、カルボキシ基、その他の官能基を有する(ハロゲン化)炭化水素基;および炭素鎖中にエステル結合、エーテル結合、チオエーテル結合、イミノ結合、アミド結合、ウレタン結合、その他の連結結合を有する(ハロゲン化)炭化水素基であるのが好ましい。中でも、炭素数2〜16のアルキル基が好ましい。
【0039】
Rfは、フッ素原子を有しない炭素原子(例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基の炭素原子)でケイ素原子と結合していることが好ましい。
Rfは、ポリフルオロ有機基であるのが好ましい。中でも、ポリフルオロアルキル基、ポリフルオロオキサアルキル基、ポリフルオロチオキサアルキル基;これらのいずれかの基とアルキレン基等の炭化水素基とがエステル結合、エーテル結合、チオエーテル結合、イミノ結合、アミド結合、ウレタン結合、その他の連結結合で結合した有機基(炭化水素基の他端でケイ素原子と結合する)であるのが好ましい。ポリフルオロアルキル基およびポリフルオロオキサアルキル基は、パーフルオロ部分を有し、かつケイ素原子とはアルキレン基(特に、ジメチレン基)で結合することが好ましい。パーフルオロ部分は炭素数3以上の、パーフルオロアルキル基、パーフルオロオキサアルキル基、パーフルオロチオキサアルキル基が好ましく、特に、炭素数3〜16のパーフルオロアルキル基が好ましい。
【0040】
以下に化合物(IA)の具体例を示す。なお、下記式中、記号は上述と同様の意義で用いる。
【0041】
【化9】
Figure 0004706097
【0042】
【化10】
Figure 0004706097
【0043】
組成物(I)は、1種の化合物(I)を含有していてもよく、2種以上の化合物(I)を含有していてもよい。
組成物(I)は、上記成分の他、目的に応じて他の化合物や添加剤を含有することができる。添加剤等は、各成分との反応性、相溶性を考慮して選択すればよい。例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア等の各種金属酸化物の超微粒子;各種樹脂が挙げられる。また、着色が必要であれば、染料、顔料等を含有することもできる。添加剤等の添加量は化合物(I)100重量部に対して0.01〜20重量部程度でよく、過剰な添加は本発明の基材の水滴除去性、耐摩耗性等を低下させるので望ましくない。
【0044】
組成物(I)はそのまま用いてもよいが、作業性、第1層の目的の膜厚等を考慮し、必要に応じて有機溶剤で希釈して使用することができる。
有機溶剤は、他の必須成分を溶解するものであれば、特に限定されない。例えば、酢酸エステル類、芳香族炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類、ケトン類、エーテル類、アルコール類が挙げられる。ただし、化合物(I)がイソシアネート基、塩素原子等の非常に反応性の高い基を有している場合は、活性プロトン(水酸基等の水素原子)を有する溶剤は望ましくない。有機溶剤は1種に限定されることなく、極性、蒸発速度等の異なる2種以上の混合溶剤を使用することも可能である。
組成物(I)における有機溶剤の含有量は、被膜の成形性(作業性)、安定性、被膜厚さ、経済性等を考慮して決定されるが、化合物(I)100重量部に対して、100〜10000重量部であるのが好ましい。
【0045】
組成物(I)で被覆することにより、第2層の表面に、組成物(I)に含まれる化合物(I)が化学的および/または物理的に結合する。化合物(I)は、反応性基を分子中に少なくとも1つ有する化合物であり、主として化学的反応により第2層の表面に結合するものと考えられる。すなわち、該反応性基と第2層表面に残存している反応性基、例えば、シラノール基との結合形成により第2層の表面に結合するものと考えられる。
同時に、化合物(I)は、第2層表面にやはり残存する未反応(未結合)分子とのミキシング(相互拡散)により、第2層表面に強固に結び付けられるものと推定される。組成物(I)を第2層表面を有しない基板に直接処理した場合に比べ、 本発明のように第2層表面に被覆する方が高い接触角が得られる事実により、ミキシング(相互拡散)が生じていることが裏付けられていると考えられる。
【0046】
組成物(I)の第2層表面への被覆にあたっては、特別な前処理を必要としない。好ましくは、後述するように第2層を形成させた後、直ちに第1層を形成させる。組成物(I)で被覆することによる第1層の形成は、はけ塗り、流し塗り、回転塗布、浸漬塗布、スキージ塗布、スプレー塗布、手塗り等の各種の公知の方法で、組成物(I)を表面に塗布し、大気中、窒素気流中等で乾燥させればよい。処理方法によっては、余剰成分が発生し外観品質を損なう場合があるが、この場合には、溶剤拭きあるいは空拭き等で余剰成分を除去し外観調節すればよい。この表面処理によって生成する第1層の厚さは特に限定されるものではないが、経済性の観点から、100nm以下(特に50nm以下)の膜厚であることが望ましい。また、その下限は単分子層厚である。
【0047】
第1層の内側に接する第2層は、水に対する接触角値が100度以上である表面を形成する含フッ素反応性シラン化合物(II)を含有する組成物(II)で被覆して得られる層である。
組成物(II)の必須成分である含フッ素反応性シラン化合物(II)は、含フッ素有機基を有する反応性シラン化合物であって、水に対する接触角値が100度以上である表面を形成する化合物である。ここで、「水に対する接触角値が100度以上である表面を形成する化合物」とは、洗浄されたソーダライムガラス基板の表面をある化合物で被覆することにより該基板の表面が露出しないようにその化合物で完全に被覆された場合に、その処理後の表面の水に対する接触角値が100度以上となるような化合物をいう。
化合物(II)においては、反応性基がケイ素原子に直接結合している。反応性基は、例えば、イソシアネート基、ハロゲン原子(Fは除く)、アルコキシ基、アシルオキシ基、アルコキシ置換アルコキシ基、アミノキシ基、アミド基、酸アミド基、ケトキシメート基が挙げられる。中でも、炭素数1〜4のアルコキシ基、アシルオキシ基、イソシアネート基、塩素原子が好ましい。第2層の内側の表面処理層または基材に対する結合性の点を考慮すると、1つのケイ素原子に結合した反応性基は2つ以上であるのが望ましい。
化合物(II)は、この反応性基の反応性により、優れた水滴除去性、耐摩耗性、耐薬品性、耐候性等の性能を発現するものと考えられる。また、後述するように、有機基を選択することによりこれらの性能をさらに向上させることが可能である。
【0048】
また、化合物(II)はそのまま用いてもよいし、加水分解物として使用してもよい。化合物(II)の加水分解物とは、水中または酸性もしくはアルカリ性の水溶液中で、化合物(II)の有する反応性基の全部または一部を加水分解して生成するシラノール基等を有する化合物、あるいはそのシラノール基の反応により2以上に分子が縮合した化合物をいう。酸性の水溶液は、例えば、塩酸、酢酸、硫酸、リン酸、スルホン酸、メタンスルホン酸等の水溶液を使用することができる。
【0049】
化合物(II)は、上記式(IIA)および/または(IIB)で表される化合物であるのが好ましい。式(IIA)中、Z1 およびZ2 は、それぞれイソシアネート基または加水分解性基を表し、(3−a)個のZ1 および(3−b)個のZ2 は同一であっても異なっていてもよい。式(IIB)中、Z3 は、イソシアネート基または加水分解性基を表す。
aおよびbは、それぞれ0〜2の整数を表すが、第1層および、後述する第3層または基材への密着性の観点から、それぞれ、1以下であるのが好ましく、0であるのがより好ましい。同様に、cは、1〜3の整数を表すが、1であるのが好ましい。
【0050】
6 およびR7 は、それぞれ水素または炭素数1〜21の有機基を表し、a個のR6 およびb個のR7 は同一であっても異なっていてもよい。Yは、2価の有機基を表す。a個のR6 、b個のR7 およびYのうち少なくとも一つは、含フッ素有機基である。R8 は、水素または炭素数1〜21の有機基を表し、c個のR8 は同一であっても異なっていてもよい。c個のR8 のうち少なくとも一つは、含フッ素有機基である。
【0051】
含フッ素有機基は、フッ素原子を有しない炭素原子(例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基)でケイ素原子と結合していることが好ましい。
Yが2価の含フッ素有機基である場合、ポリフルオロアルキレン基、ポリフルオロオキサアルキレン基(アルキレン基の炭素鎖の中間に少なくとも1つのエーテル結合が存在するもの)、ポリフルオロチオキサアルキレン基(アルキレン基の炭素鎖の中間に少なくとも1つのチオエーテル結合が存在するもの)であるのが好ましい。特に、Yの部分のうち、両末端のケイ素原子に結合する部分がポリメチレン基(特に、ジメチレン基)であり、それらの中間部分がパーフルオロアルキレン基、パーフルオロキサアルキレン基である2価の有機基であるが好ましい。この場合、Yの炭素数は、2〜30であるのが好ましく、4〜16であるのがより好ましい。
Yが2価の含フッ素有機基でない場合、アルキレン基、オキサアルキレン基、チオキサアルキレン基であるのが好ましい。この場合、Yの炭素数は、2〜30であるのが好ましく、2〜12であるのがより好ましい。
【0052】
a個のR6 およびb個のR7 のうち、いずれかが1価の含フッ素有機基である場合、および、c個のR8 のうち、いずれかが1価の含フッ素有機基である場合、ポリフルオロアルキル基、ポリフルオロオキサアルキル基、ポリフルオロチオキサアルキル基;またはこれらのいずれかの基とアルキレン基等の炭化水素基とがエステル結合、エーテル結合、チオエーテル結合、イミノ結合、アミド結合、ウレタン結合、その他の連結結合で結合した有機基(炭化水素基の他端でケイ素原子と結合する)であるが好ましい。ポリフルオロアルキル基およびポリフルオロオキサアルキル基は、パーフルオロ部分を有し、かつケイ素原子とはアルキレン基(特に、ジメチレン基)で結合することが好ましい。1価の有機基のパーフルオロ部分は炭素数3以上の、パーフルオロアルキル基、パーフルオロオキサアルキル基、パーフルオロチオキサアルキル基が好ましく、特に、炭素数3〜16のパーフルオロアルキル基が好ましい。
【0053】
化合物(IIA)および(IIB)において、フッ素原子を有しない有機基が存在する場合、その有機基は、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基等の炭化水素基;クロロアルキル基等のハロゲン化炭化水素基;水酸基、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基、カルボキシ基、その他の官能基を有する(ハロゲン化)炭化水素基;および炭素鎖中にエステル結合、エーテル結合、チオエーテル結合、イミノ結合、アミド結合、ウレタン結合、その他の連結結合を有する(ハロゲン化)炭化水素基であるのが好ましい。中でも、メチル基および長鎖炭化水素基が好ましい。長鎖の炭化水素基としては、炭素数4〜20のアルキル基が好ましい。
【0054】
以下に化合物(IIA)および(IIB)の具体例を示す。なお、下記式中、記号は上述と同様の意義で用いる。また、Rfは1価の含フッ素有機基、nは2〜16の整数、mは1〜20の整数である。
【0055】
【化11】
Figure 0004706097
【0056】
【化12】
Figure 0004706097
【0057】
【化13】
Figure 0004706097
【0058】
【化14】
Figure 0004706097
【0059】
【化15】
Figure 0004706097
【0060】
【化16】
Figure 0004706097
【0061】
【化17】
Figure 0004706097
【0062】
【化18】
Figure 0004706097
【0063】
【化19】
Figure 0004706097
【0064】
【化20】
Figure 0004706097
【0065】
【化21】
Figure 0004706097
【0066】
組成物(II)は、1種の化合物(II)を含有していてもよく、2種以上の化合物(II)を含有していてもよい。
【0067】
組成物(II)は、上記成分の他、目的に応じて他の化合物や添加剤を含有することができる。添加剤等は、各成分との反応性、相溶性を考慮して選択すればよい。例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア等の各種金属酸化物の超微粒子;各種樹脂が挙げられる。また、化合物(II)以外の撥水性材料、例えば、テトラアルコキシシラン等の4官能成分、両末端が水酸基置換されたポリジメチルシロキサン化合物等を耐久性向上等の目的に応じて含有することもできる。また、着色が必要であれば、染料、顔料等を含有することもできる。添加剤等の添加量は化合物(II)100重量部に対して0.01〜20重量部程度でよく、過剰な添加は本発明の水滴除去性、耐摩耗性等を低下させるので望ましくない。
【0068】
組成物(II)はそのまま用いてもよいが、作業性、第2層の目的の膜厚等を考慮し、必要に応じて有機溶剤で希釈して使用することができる。
組成物(II)に用いられる有機溶剤は、例えば、酢酸エステル類、芳香族炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類、ケトン類、エーテル類、アルコール類が挙げられる。ただし、化合物(II)がイソシアネート基、塩素原子等の非常に反応性の高い基を有している場合は、活性プロトン(水酸基等の水素原子)を有する溶剤は望ましくない。有機溶剤は1種に限定されることなく、極性、蒸発速度等の異なる2種以上の混合溶剤を使用することも可能である。
組成物(II)における有機溶剤の含有量は、化合物(II)100重量部に対して100000重量部以下であるのが好ましい。100000重量部以下であると、均一の被膜を形成しやすい。特に、化合物(II)100重量部に対して1000〜10000重量部であるのが好ましい。有機溶剤の含有量は、被膜の成形性(作業性)、安定性、被膜厚さ、経済性等を考慮して適宜決定すればよい。
【0069】
組成物(II)で被覆することにより、第3層の表面または基材の表面に、組成物(II)に含まれる化合物(II)が化学的および/または物理的に結合する。化合物(II)は、反応性基である、イソシアネート基または加水分解性基を分子中に少なくとも1つ有する化合物であり、化合物(II)は主として化学的反応により第3層の表面または基材の表面に結合するものと考えられる。
組成物(II)の第3層の表面または基材の表面への被覆にあたっては、特別な前処理を必要としない。組成物(II)で被覆することによる第2層の形成は、はけ塗り、流し塗り、回転塗布、浸漬塗布、スキージ塗布、スプレー塗布、手塗り等の各種の公知の方法で、組成物(II)を表面に塗布し、大気中、窒素気流中等で乾燥させればよい。この表面処理によって生成する第2層の厚さは特に限定されるものではないが、経済性の観点から、50nm以下の膜厚であることが望ましい。また、その下限は単分子層厚である。
【0070】
また、本発明の基材は、上述したように、少なくとも最外層である第1層およびその内側に接する層である第2層を有するが、さらに、第2層の内側に接する第3層を有し、該第3層がフッ素不含の反応性シラン化合物(III)を含有する組成物(III)で被覆して得られる層であるのが好ましい一態様である。
組成物(III)の必須成分であるフッ素不含の反応性シラン化合物(III)は、フッ素原子を有しない反応性シラン化合物である。
化合物(III)においては、反応性基がケイ素原子に直接結合している。ケイ素原子に直接結合する反応性基のケイ素原子あたりの数は、多いほどよい。化合物(III)としては、SiX4 (式中、Xは、イソシアネート基または加水分解性基を表す。4個のXは、同一であっても異なっていてもよい。)で表される化合物であるのが好ましく、具体的には、テトラクロロシラン、テトライソシアネートシラン、テトラアルコキシシランが挙げられる。
【0071】
化合物(III)は、この反応性基の反応性により、主に第2層および基材に強固に結合し、耐久性の向上に寄与する。
【0072】
また、化合物(III)はそのまま用いてもよいし、加水分解物として使用してもよい。化合物(III)の加水分解物とは、水中または酸性もしくはアルカリ性の水溶液中で、化合物(III)の有する反応性基の全部または一部を加水分解して生成するシラノール基等を有する化合物、あるいはそのシラノール基の反応により2以上に分子が縮合した化合物をいう。酸性の水溶液は、例えば、塩酸、酢酸、硫酸、リン酸、スルホン酸、メタンスルホン酸等の水溶液を使用することができる。また、化合物(III)にシリカ以外の金属酸化物またはその前駆体化合物を添加し、第3層として、混合酸化物層または複合酸化物層を得ることも可能である。
【0073】
組成物(III)は、1種の化合物(III)を含有していてもよく、2種以上の化合物(III)を含有していてもよい。
【0074】
組成物(III)は、上記成分の他、目的に応じて他の化合物や添加剤を含有することができる。添加剤等は、各成分との反応性、相溶性を考慮して選択すればよい。添加剤等は、組成物(II)に用いられるものと同様のものを同様の使用量で用いることができる。
【0075】
組成物(III)はそのまま用いてもよいが、有機溶剤で希釈して使用することが好ましい。有機溶剤は、組成物(II)に用いられるものと同様のものを用いることができる。
【0076】
組成物(III)で被覆することにより、基材の表面に、組成物(III)に含まれる化合物(III)が化学的および/または物理的に結合する。化合物(III)は、第1層および第2層の耐久性を飛躍的に向上させると同時に、基材との密着性を高める働きをする。
組成物(III)の基材の表面への被覆にあたっては、特別な前処理を必要としない。しかし、目的に応じて行うことは別段問題なく、例えば、1)フッ酸、硫酸、塩酸等による酸処理、2)水酸化ナトリウム水溶液等によるアルカリ処理あるいは3)プラズマ照射、コロナ照射、電子線照射等による放電処理を行うことができる。組成物(III)で被覆することによる第3層の形成は、はけ塗り、流し塗り、回転塗布、浸漬塗布、スキージ塗布、スプレー塗布、手塗り等の各種の公知の方法で、組成物(III)を表面に塗布し、大気中、窒素気流中等で乾燥させればよい。乾燥は室温で充分であるが、加熱乾燥する場合には、基材の耐熱性を加味して温度、時間を設定すればよい。この表面処理によって生成する第3層の厚さは特に限定されるものではなく、基板がソーダライムガラス等の場合、Naイオンの溶出を防止する目的で100nm以上の膜厚とすることもできる。500nm以下とすると、傷が付いたときでも損傷が目立ちにくくなるので好ましい。特に100nm以下であることが好ましい。また、極めて薄いものであってもよく、その下限は単分子層厚である。
【0077】
形成される各層の厚さは組成物濃度、塗布条件、加熱条件等によって適宜制御することができる。各層の膜厚は、それぞれ上述した通りであるが、表面処理層全体の膜厚は、経済的効果も加味して1000nm以下(特に100nm以下)であるのが好ましい。
【0078】
本発明において、表面処理層が設けられる基材は、特に限定されない。例えば、金属、ガラス、セラミックその他の無機質材料やプラスチック等の有機質材料、あるいはその組み合わせ(複合材料、積層材料等)が挙げられる。また、基材は、金属等の表面に蒸着膜、スパッタ膜、湿式法等で得られた各種膜等の層が形成されていてもよい。例えば、塗装金属板等のように塗装表面を有するものや、表面処理ガラス等のように表面処理層を有するものが挙げられる。中でも、ガラス、プラスチック等の透明な材料からなる基材は、本発明の効果が特に顕著である。
表面処理層を設けられる基材の形状は、平板に限らず、全面または一部に曲率を有するものなど、目的に応じた任意の形状とすることができる。
【0079】
次に、本発明の表面処理層を有する基材の製造方法について説明する。
本発明の表面処理層を有する基材の製造方法は、特に限定されないが、好ましい製造方法として、基材の表面を前記組成物(II)で被覆して第2層を形成する工程、および第2層表面を前記組成物(I)で被覆して第1層を形成する工程を有する製造方法がある。
前記組成物(II)で被覆して第2層を形成する工程および第2層表面を前記組成物(I)で被覆して第1層を形成する工程は、組成物(I)および(II)についての説明において述べたように行う。
【0080】
上記製造方法においては、第1層を形成した後に乾燥工程を有するのが好ましい。乾燥工程は、室温で行ってもよいし、例えば、80〜300℃で1〜60分間加熱してもよい。室温乾燥か加熱乾燥かは目的等に応じて選ばれる。室温乾燥は特別な設備導入の必要がなく経済的に有利である。特に、処理対象が別の物品に組み込まれているような場合(例えば、自動車に組み込まれたガラス基板等)には、事実上加熱乾燥することは困難であり、室温乾燥が選ばれる。一方、加熱乾燥は、乾燥速度が速く、また、耐久性が優れたものになるという利点を有する。
【0081】
また、本発明の基材が、第2層の内側に第3層を有する場合には、基材の表面を前記組成物(III)で被覆して第3層を形成する工程、第3層表面を前記組成物(II)で被覆して第2層を形成する工程、および第2層表面を前記組成物(I)で被覆して第1層を形成する工程を有する製造方法が好ましい。
前記組成物(III)で被覆して第3層を形成する工程は、組成物(III)についての説明において上述したように行う。前記組成物(II)で被覆して第2層を形成する工程および第2層表面を前記組成物(I)で被覆して第1層を形成する工程は、第3層がない場合と同様である。
上記製造方法においては、第1層を形成した後に加熱工程を有するのが好ましい。加熱工程は、例えば、大気中、80〜250℃で、5〜60分間加熱する。
また、第3層を形成した後第2層を形成する前に、加熱工程を設けることもできる。この場合、例えば、400℃以上、好ましくは500〜700℃で、1〜60分間加熱する。加熱により、第3層と基材との密着性および第3層の緻密性が向上し、耐久性が向上するという利点がある。
【0082】
本発明の基材は、少なくとも2層の表面処理層を有する基材であり、基本的には、前記組成物(I)で被覆して得られる第1層は優れた水滴転落性の発現に寄与し、前記組成物(II)で被覆して得られる第2層は優れた撥水耐久性の発現に寄与し、必要に応じて前記組成物(III)で被覆して得られる第3層は、基材等と主に第2層を強固に結びつける働きをする。
【0083】
本発明は、ただ単に異なる機能を有する材料を積層した場合に期待される効果を超える効果を発現する。上述したように、組成物(I)で被覆して得られる第1層はシリコーン系被膜であり、組成物(II)で被覆して得られる第2層は含フッ素シリコーン被膜である。従来の知見では、表面エネルギーの低い含フッ素シリコーン被膜の上に表面エネルギーの高いシリコーン被膜を塗布することは、非常に困難なことである。
しかし、材料構成を上述したような本発明のようにすると、その塗布が可能となる。この機構の詳細は不明であるが、本発明の選ばれた組成物材料の組み合わせにおいては、第1層構成材料と第2層構成材料との間で、従来予想できなかった強い分子間相互作用が働くためと思われる。その相互作用の一部は、第1層構成材料と第2層構成材料との間のミキシング(相互拡散)と推定される。本発明のように組成物(I)を第2層表面に被覆した場合の第1層表面の水との接触角は、例えば、組成物(I)をガラス表面に直接被覆した場合に比べ大きい。これは接触角が大きい第2層構成材料の含フッ素反応性シラン化合物(II)が第1層の形成過程で第1層中に拡散し、その一部が第1層表面に露出しているためと考えられる。
また、第1層は単独ではそれほど高い撥水耐久性を示さないが、第2層表面に塗布した場合、非常に優れた耐久性を発現し、第1層と第2層との間に従来の知見では予想できない相乗効果が発現するものと考えられる。
【0084】
すなわち、本発明における層の概念は、マクロ的には各層を区別することができるが、ミクロ的には境界線が厳密に引ける状態ではなく、各層間で界面の一部または全部が相互に入り交じっているものである。本発明は、そのような層構造を有することにより、第1層表面を構成する材料に依存する水滴転落性および撥水耐久性について、第1層構成材料の組成物(I)に由来する水滴転落性だけでなく、第2層構成材料の含フッ素反応性シラン化合物(II)に由来する撥水耐久性までもが、優れたものとなっているのである。
上述したように、従来、含フッ素シリコーン材料とシリコーン系材料との混合により、両者の表面特性を発揮させることを目的とした撥水処理剤が提案されていたが、表面エネルギーの低い含フッ素シリコーン材料が、表面エネルギーの高いシリコーン系材料より外側に移動し、後者に由来する所望の水滴転落性が得られるものではなかった。
本発明は、第1層および第2層の構成材料として、上記の組成物(I)および(II)を用い、好ましくは所定の製造方法で製造することにより、水滴転落性および撥水耐久性の両者に優れ、水滴除去性に優れる基材を実現したのである。
【0085】
本発明の基材の用途は、特に限定されないが、輸送機器用物品および建築・建装用物品において特に有用である。
輸送機器用物品とは、電車、バス、トラック、自動車、船舶、航空機等の輸送機器における、窓ガラス(例えば、フロントガラス、サイドガラス、リアガラス)、鏡、表示機器表面材、計器盤表面材、その他構成部材(例えば、ボディー、バンパー)をいう。
輸送機器用物品は本発明の基材のみからなっていてもよく、本発明の基材が組み込まれたものであってもよい。例えば、前者として自動車用の窓ガラスがあり、後者としてガラス鏡が組み込まれた自動車用バックミラー部材がある。
【0086】
かかる基材、物品においては本発明の水滴除去性により表面に付着する水滴がはじかれ、特に、輸送機器が運行している場合には風圧によって表面上を急速に移動し、水滴として溜ることなく、水分が誘発する種々の悪影響を排除することが可能となる。
特に、窓ガラス等の透視野部での用途では水滴の飛散により視野確保が非常に容易となる。すなわち、本発明の基材は水滴転落性だけでなく撥水性にも優れ、雨等が表面に付着した場合に水滴となって流れ落ちるため、水滴転落性を有するが撥水性に劣る表面のように水が膜状となって流れ落ちることはない。従って、視野確保が容易となるという利点がある。
【0087】
建築・建装用物品とは、建築物に取り付けられる物品、すでに建築物に取り付けられた物品、建築物に取り付けられていなくてもそれとともに使用される建築用物品、家具、什器などの建装用物品、およびそれらの物品の構成要素である基材をいう。
建築・建装用物品の具体例としては、窓ガラス板(窓ガラス);屋根用ガラス板やガラス屋根をはじめとする各種屋根;ドア用ガラス板やそれがはめ込まれたドア;間仕切り用ガラス板;温室用ガラス板や温室;ガラスの代わりに使用される透明プラスチック板やそれを有する上記のような建築用物品(窓材、屋根材など);セラミック、セメント、金属その他の材料からなる壁材;鏡やそれを有する家具;陳列棚やショーケース用のガラスが挙げられる。
建築・建装用物品は本発明の基材のみからなっていてもよく、本発明の基材が組み込まれたものであってもよい。例えば、前者として窓ガラス板があり、後者としてガラス鏡が組み込まれた家具がある。
かかる基材においては、水滴除去性により表面に接触した水滴がはじかれて付着し難く、たとえ付着したとしてもその量は少なく、また、付着した水滴の除去は容易である。
【0088】
また、本発明の基材は、上記第1層と第2層との組み合わせにより、初期の水滴転落性および撥水性のみならず、耐摩耗性、耐候性、耐煮沸性にも優れる。また、耐薬品性にも優れるので、海岸線沿い、あるいは海水が直接触れる地域での応用も可能である。
【0089】
本発明の基材が、第3層を有する場合には、耐久性が優れたものとなる。例えば、自動車用フロントガラスに用いる場合、3〜5年間は、第1層および第2層がはく離したり欠落したりせずにその性能を維持できる。
本発明の基材が、第3層を有しない場合には、修繕の際に第1層および第2層をはく離させて新たな第1層および第2層を形成することが容易にできるという利点がある。
【0090】
また、撥水性に優れるため、氷点下等の環境下においても水滴が表面に氷結することなく、わずかに氷結したとしても解凍は著しく速い。さらには、水滴の付着がほとんどないため定期的な清浄作業回数を低減でき、しかも、清浄は極めて容易で、美観保護の点からも非常に有利である。
【0091】
【実施例】
以下に、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限られるものではない。
1.表面処理層を有する基材の調製
(実施例1)
撹拌機および温度計がセットされたガラス容器に、Si(NCO)4 3.0gおよび酢酸n−ブチル97.0gを加え、25℃で10分間撹拌し、処理剤1−3を得た。
また、別の撹拌機および温度計がセットされたガラス容器に、C8 172 4 SiCl3 (分子量581.5、フッ素含有率(F含有率)56%、水に対する接触角値が113゜の表面を形成する化合物)3.0gおよび酢酸エチル97.0gを加え、25℃で10分間攪拌し、処理剤1−2を得た。
さらに、別の撹拌機および温度計がセットされたガラス容器に、下記式(2)で表される化合物1(分子量922、F含有率35%、水に対する転落角値が7゜、水に対する接触角値が103°、の表面を形成する化合物)10.0gおよび酢酸エチル90.0gを加え、25℃で10分間攪拌し、処理剤1−1を得た。
【0092】
【化22】
Figure 0004706097
【0093】
次に、予め洗浄された大きさ10cm×10cm(厚さ3mm)のガラス製の基板に処理剤1−3を0.5ml滴下し、布で塗り広げた。室温で1分間放置した後、処理剤1−3を処理して得られた層の上に処理剤1−2を0.5ml滴下し、布で塗り広げた。室温で1分間放置した後、処理剤1−2を処理して得られた層の上に処理剤1−1を0.5ml滴下し、布で塗り広げた。この基板を室温で1昼夜放置し、基板1を得た。
なお、基板1においては、[化合物(I)の分子量/化合物(II)の分子量]=1.59、[化合物(I)のフッ素含有率]/[化合物(II)のフッ素含有率]=0.63である。また、処理剤1−3を塗布し乾燥して得られた層は触針式膜厚測定をした結果16nmであった。処理剤1−2、処理剤1−1を塗布し乾燥して得られた層はESCA測定の結果よりそれぞれ6nmおよび8nmと見積もられた。したがって、全体の膜厚は30nmであった。
【0094】
(実施例2)
室温で1昼夜放置する代わりに200℃で30分間加熱した以外は、実施例1と同様の方法により、基板2を得た。
【0095】
(実施例3)
処理剤1−3による処理と処理剤1−2による処理との間に、室温で1分間放置する代わりに、650℃で7分間加熱し室温まで冷却した以外は、実施例1と同様の方法により、基板3を得た。
【0096】
(実施例4)
撹拌機および温度計がセットされたガラス容器に、C8 172 4 Si(OCH3)3 (分子量568、F含有率57%、水に対する接触角値が110゜の表面を形成する化合物)3.0gおよびイソプロピルアルコール97.0gを加え、25℃で10分間攪拌した後、0.1mol/L硝酸水溶液2.6gを滴下し、25℃で3昼夜攪拌し、処理剤4−2を得た。処理剤1−2の代わりに、処理剤4−2を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、基板4を得た。
なお、基板4においては、[化合物(I)の分子量/化合物(II)の分子量]=1.62、[化合物(I)のフッ素含有率]/[化合物(II)のフッ素含有率]=0.61である。
【0097】
(実施例5)
撹拌機および温度計がセットされたガラス容器に、C8 172 4 Si(NCO)3(分子量601、F含有率54%、水に対する接触角値が111゜の表面を形成する化合物)3.0gおよび酢酸エチル97.0gを加え、25℃で10分間攪拌し、処理剤5−2を得た。処理剤1−2の代わりに、処理剤5−2を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、基板5を得た。
なお、基板5においては、[化合物(I)の分子量/化合物(II)の分子量]=1.53、[化合物(I)のフッ素含有率]/[化合物(II)のフッ素含有率]=0.65である。
【0098】
(実施例6)
撹拌機および温度計がセットされたガラス容器に、C8 172 4 SiCl3 3.0g、下記式(3)で表される化合物2(分子量2389、F含有率0%、水に対する接触角値が104゜の表面を形成する化合物)0.6gおよび酢酸エチル97.0gを加え、25℃で10分間攪拌し、処理剤6−2を得た。処理剤1−2の代わりに、処理剤6−2を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、基板6を得た。
なお、C8 172 4 SiCl3 3.0gと化合物2の0.6gの混合物は、水に対する接触角値が109゜の表面を形成するものである。
また、C8 172 4 SiCl3 3.0gと化合物2の0.6gとの混合物の数平均分子量は665、平均F含有率は46%である。よって、基板6においては、[化合物(I)の分子量/化合物(II)の分子量]=1.39、[化合物(I)のフッ素含有率]/[化合物(II)のフッ素含有率]=0.76である。
【0099】
【化23】
Figure 0004706097
【0100】
(実施例7)
撹拌機および温度計がセットされたガラス容器に、下記式(4)で表される化合物3(分子量6409、F含有率27%、水に対する転落角値が13゜、水に対する接触角値が102°、の表面を形成する化合物)10.0gおよび酢酸エチル90.0gを加え、25℃で10分間攪拌し、処理剤7−1を得た。処理剤1−1の代わりに、処理剤7−1を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、基板7を得た。
なお、基板7においては、[化合物(I)の分子量/化合物(II)の分子量]=11.0、[化合物(I)のフッ素含有率]/[化合物(II)のフッ素含有率]=0.48である。
【0101】
【化24】
Figure 0004706097
【0102】
(実施例8)
撹拌機および温度計がセットされたガラス容器に、Si(OC2 5)4 3.0gおよびイソプロピルアルコール97.0gを加え、25℃で10分間撹拌した後、0.1mol/L硝酸水溶液を3.0g滴下し、25℃で1昼夜攪拌し、処理剤8−3を得た。処理剤1−3の代わりに、処理剤8−3を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、基板8を得た。
【0103】
(実施例9)
処理剤1−3の代わりに、処理剤8−3を用いた以外は、実施例3と同様の方法により、基板9を得た。
【0104】
(実施例10)
撹拌機および温度計がセットされたガラス容器に、Si(OC2 5)4 3.0g、Sn(OC4 9)4 0.3gおよびイソプロピルアルコール97.0gを加え、25℃で10分間撹拌した後、0.1mol/L硝酸水溶液を3.0g滴下し、25℃で1昼夜攪拌し、処理剤10−3を得た。処理剤1−3の代わりに、処理剤10−3を用いた以外は、実施例3と同様の方法により、基板10を得た。
【0105】
(実施例11)
予め洗浄された大きさ10cm×10cm(厚さ3mm)のガラス製の基板に実施例1で得られた処理剤1−2を0.5ml滴下し、布で塗り広げた。室温で1分間放置した後、処理剤1−2を処理して得られた層の上に実施例1で得られた処理剤1−1を0.5ml滴下し、布で塗り広げた。この基板を室温で1昼夜放置し、基板11を得た。
【0106】
(比較例1)
撹拌機および温度計がセットされたガラス容器に、C8 172 4 SiCl3 (水に対する転落角値が22゜の表面を形成する化合物)1.5g、上記式(2)で表される化合物1(水に対する転落角値が7゜の表面を形成する化合物)の1.5gおよび酢酸エチル97.0gを加え、25℃で10分間攪拌し、処理剤R1を得た。
予め洗浄された大きさ10cm×10cm(厚さ3mm)のガラス製の基板に実施例1で得られた処理剤1−3(水に対する接触角値が8゜の表面を形成する化合物を含有する)を0.5ml滴下し、布で塗り広げた。室温で1分間放置した後、処理剤1−3を処理して得られた層の上に処理剤R1を0.5ml滴下し、布で塗り広げた。この基板を室温で1昼夜放置し、基板R1を得た。
【0107】
(比較例2)
予め洗浄された大きさ10cm×10cm(厚さ3mm)のガラス製の基板に実施例1で得られた処理剤1−3を0.5ml滴下し、布で塗り広げた。室温で1分間放置した後、処理剤1−3を処理して得られた層の上に実施例1で得られた処理剤1−1(水に対する転落角値が7゜の表面を形成する化合物を含有する)を0.5ml滴下し、布で塗り広げた。この基板を室温で1昼夜放置し、基板R2を得た。
【0108】
(比較例3)
予め洗浄された大きさ10cm×10cm(厚さ3mm)のガラス製の基板に実施例1で得られた処理剤1−3を0.5ml滴下し、布で塗り広げた。室温で1分間放置した後、処理剤1−3を処理して得られた層の上に実施例1で得られた処理剤1−2(水に対する転落角値が22゜の表面を形成する化合物を含有する)を0.5ml滴下し、布で塗り広げた。この基板を室温で1昼夜放置し、基板R3を得た。
【0109】
2.水滴除去性および撥水性の評価
上記で得られた各基板の表面の水滴除去性を転落角により、撥水性を接触角により評価した。測定法を以下に示す。
(a)転落角
水平に保持した基板表面に50μlの水滴を滴下し、基板の一辺を持ち上げて徐々に傾けていき、水滴が落下し始めたときの基板表面と水平面との角度を読み取った。従って、この角度が小さいサンプルほど水滴除去性が優れることを意味する。実用上は初期の転落角が20°以下、特に10°以下であることが好ましい。
(b)接触角
直径1mmの水滴を用いて、基板表面の接触角を測定した。基板表面上の異なる5ケ所で測定を行い、その平均値を算出した。実用上は初期の接触角が90°以上、特に100°以上であることが好ましい。
【0110】
基板の耐摩耗性、耐候性および耐煮沸性は、以下の各処理を行った後、上述した方法で転落角および接触角を測定することにより評価した。
(1)耐摩耗性
往復式トラバース試験機(ケイエヌテー社製)を用い、以下の試験条件で摩耗処理を行った。
試験条件:ネル布、荷重1kg、摩耗回数3000往復
(2)耐候性
70℃、8時間という条件で紫外線照射を行った後、50℃、4時間という条件で湿潤曝露を行うという工程を1サイクルとし、200サイクルの処理を行った。
(3)耐煮沸性
沸騰水中に3時間浸漬するという煮沸試験を行った。
【0111】
基板の初期性能ならびに耐摩耗性、耐候性および耐煮沸性の結果を第1表に示す。
【0112】
Figure 0004706097
【0113】
本発明の基板は、初期の水滴転落性および撥水性に優れ、また、耐摩耗性、耐候性および耐煮沸性のいずれにも優れる(実施例1〜11で得られた基板1〜11)。
これに対して、化合物(I)と化合物(II)とを単に混合したに過ぎない処理剤により処理して得られる基板は、初期の撥水性には優れるものの、水滴転落性に劣り、また、耐摩耗性、耐候性および耐煮沸性のいずれにも劣ることが分かる(比較例1で得られた基板R1)。
また、所定の含フッ素反応性シラン化合物(II)を含有する組成物(II)で被覆して得られる層である第2層を有しない場合には、初期の水滴転落性には優れるものの、撥水性にやや劣り、また、耐摩耗性、耐候性および耐煮沸性のいずれにも劣ることが分かる(比較例2で得られた基板R2)。上記組成物(I)で被覆して得られる層である第1層を有しない場合には、初期の撥水性には優れるが、初期の水滴転落性ならびに耐摩耗性、耐候性および耐煮沸性のいずれにも劣ることが分かる(比較例3で得られた基板R3)。
したがって、本発明の奏する上記効果は、最外層として前記第1層を有し、かつ、その内側に接する前記第2層を有するという構成を採ることにより、初めて実現されるものであるということが分かる。
【0114】
(4)耐薬品性
基板の耐薬品性は、実施例1および実施例6で得られた基板1および6を第2表に示す薬品に24時間浸漬した後取り出して直ちに洗浄した後、外観変化を観察し、また、転落角および接触角を測定することにより評価した。基板の耐薬品性の結果を第2表に示す。
【0115】
Figure 0004706097
【0116】
本発明の基板(実施例1および6)は、薬品浸漬処理により水滴転落性および撥水性のいずれにおいても、ほとんど劣化せず、耐薬品性に優れる。
【0117】
3.実地試験1
(試験例1)
実施例1の方法により自動車用フロント合わせガラスの表面を被覆し、得られたフロント合わせガラスを処理面を外側にして自動車のフロントに装着した。この自動車を用いて、日中4時間の走行テストを1ケ月間行い、日毎にフロント表面への汚れ、ほこりの付着状態、また、雨天時においては水滴の付着状態を肉眼で観察した。
その結果、汚れ、ほこりの付着、水滴の付着による水垢の発生は全く見られず、まれにそれらの発生が認められてもティッシュペーパーで軽く拭くことにより容易に除去された。また、雨天時には、表面の水滴がはじかれ走行による風圧との相互作用によってすみやかに移動し、ワイパーを使用することなく視野が確保された。
【0118】
(試験例2)
日中4時間の走行テストの代わりに、未処理のフロント合わせガラスに付着している水滴が氷結する、あるいは空気中の水分が凝縮してフロントガラスに氷結するような環境下(0〜−5℃)での走行テストを行った以外は、試験例1と同様の方法により、試験を行った。また、さらに厳しい低温環境下(−10〜−15℃)での走行テストによっても試験を行った。
0〜−5℃での走行テストでは、フロントガラスでの氷結は全くみられなかった。また、−10〜−15℃での走行テストでは、フロントガラスでの氷結も認められるが、室温に戻した場合の解凍速度は、未処理のフロントガラスに比べて著しく速かった。
【0119】
(試験例3)
試験例1および2において、フロント合わせガラスをサイドガラスまたはリアガラスに変更して試験を行った。その結果、サイドガラスおよびリアガラスのいずれの場合にも、試験例1および2と同様の効果が確認された。
【0120】
4.自動車のフロントに装着された自動車用フロント合わせガラスに対する処理による本発明の基板の作成
(試験例4)
常用して5年が経過した自動車のフロント合わせガラス全面の表面に、炭酸カルシウムを水に懸濁させた溶液を垂らし、スポンジを用いてワックスがけの要領で研磨した。研磨後、水を十分にかけ、水をはじいているところがないように研磨できたことを確認した後、1時間乾燥した。乾燥後、フロント合わせガラスに実施例1の方法で処理を行い、自動車のフロントに装着された態様の本発明の基板を作成した。この自動車を用いて試験例1および2と同様の走行試験を行った。その結果、試験例1および2と同様の効果が確認された。
また、上記例における実施例1の方法での処理を実施例11の方法に変更して行ったところ、より簡単に処理ができ、上記例と同様の効果が確認された。
【0121】
5.実地試験2
(試験例5)
実施例1の方法により建築用窓ガラスの表面を処理し、得られた窓ガラスを処理面を外側にして家に取り付けた。この窓ガラス表面への汚れ、ほこりの付着状態、また、雨天時においては水滴の付着状態を肉眼で観察した。
その結果、汚れ、ほこりの付着、水滴の付着による水垢の発生は全く見られず、まれにそれらの発生が認められてもティッシュペーパーで軽く拭くことにより容易に除去された。また、雨天時には、表面の水滴がはじかれ転落し、特に風の強い日には風圧との相互作用によってすみやかに移動し、視野が確保された。
【0122】
(試験例6)
通常の気象条件の代わりに、未処理の窓ガラスに付着している水滴が氷結し、あるいは空気中の水分が凝縮して窓ガラスに氷結するような環境下(0〜−5℃)でのテストを行った以外は、試験例5と同様の方法により、試験を行った。また、さらに厳しい低温環境下(−10〜−15℃)でのテストによっても試験を行った。
0〜−5℃でのテストでは、窓ガラスでの氷結は全くみられなかった。また、−10〜−15℃でのテストでは、窓ガラスでの氷結も認められるが、室温に戻した場合の解凍速度は、未処理の窓ガラスに比べて著しく速かった。
【0123】
【発明の効果】
本発明の基材は、その表面が、水滴転落性および撥水性(すなわち、水滴除去性)に優れ、耐摩耗性、耐候性および耐煮沸性にも優れるので、水滴除去性が長期的に持続する。耐薬品性にも優れるため、幅広い分野に適用可能である。
また、本発明の基材の製造には、処理前の基材に対する特別な前処理を必要とせず、経済的効果も高い。特に、常温処理でも水滴除去性の持続性が高い。
従って、本発明の基材は、用途を特に限定されず広い分野において用いられるが、中でも、輸送機器分野および建築・建装用分野に最適である。

Claims (8)

  1. 少なくとも2層の表面処理層を有する基材であって、
    表面処理層の最外層である第1層が、水に対する転落角値が30度以下である表面を形成する反応性シラン化合物(I)、を含有する組成物で被覆して得られる層であり、
    第1層の内側に接する第2層が、水に対する接触角値が100度以上である表面を形成する含フッ素反応性シラン化合物(II)、を含有する組成物(II)で被覆して得られる層であることを特徴とする表面処理層を有する基材。
  2. フッ素含有率(%)=[化合物中のF原子数×Fの原子量]/[化合物の分子量]×100として、前記化合物(I)および化合物(II)が、[化合物(I)のフッ素含有率]/[化合物(II)のフッ素含有率]<1.0の関係を満たす請求項1に記載の表面処理層を有する基材。
  3. 前記化合物(I)および化合物(II)が、[化合物(I)の分子量/化合物(II)の分子量]>1.0の関係を満たす請求項1または2に記載の表面処理層を有する基材。
  4. 前記化合物(I)が下記式(IA)で表される化合物である請求項1〜3のいずれかに記載の表面処理層を有する基材。
    Figure 0004706097
    (式中、R1 、R3 およびR4 はそれぞれ下記式(1)で表される基であり、R1 、k個のR3 およびR4 は同一であっても異なっていてもよい。R2 は炭素数2〜16の1価の有機基を表し、m´個のR2 は同一であっても異なっていてもよい。Rfは炭素数3〜16の1価の含フッ素有機基を表し、m個のRfは同一であっても異なっていてもよい。n、m´およびkはそれぞれ0〜100の整数、mは1〜100の整数を表し、n+m+m´+kは2〜101の整数である。
    Figure 0004706097
    (式中、Aは炭素数2〜6の2価の炭化水素基または酸素原子を表し、R5 は炭素数1〜10の1価の炭化水素基を表し、X1 はイソシアネート基、塩素原子、炭素数1〜4のアルコキシ基または炭素数1〜4のアシルオキシ基を表す。p個のR5 は同一であっても異なっていてもよく、(3−p)個のX1 は同一であっても異なっていてもよい。pは0〜2の整数を表す。))
  5. 前記含フッ素反応性シラン化合物(II)が、下記式(IIA)および/または(IIB)で表される請求項1〜4のいずれかに記載の表面処理層を有する基材。
    Figure 0004706097
    (式中、Z1 およびZ2 は、それぞれイソシアネート基または加水分解性基を表し、(3−a)個のZ1 および(3−b)個のZ2 は同一であっても異なっていてもよい。R6 およびR7 は、それぞれ水素または炭素数1〜21の有機基を表し、a個のR6 およびb個のR7 は同一であっても異なっていてもよい。Yは、2価の有機基を表す。a個のR6 、b個のR7 およびYのうち少なくとも一つは、含フッ素有機基である。aおよびbは、それぞれ0〜2の整数を表す。)
    Figure 0004706097
    (式中、R8 は、水素または炭素数1〜21の有機基を表し、c個のR8 は同一であっても異なっていてもよい。c個のR8 のうち少なくとも一つは、含フッ素有機基である。Z3 は、イソシアネート基または加水分解性基を表す。cは、1〜3の整数を表す。)
  6. さらに、第2層の内側に接する第3層を有し、該第3層がフッ素不含の反応性シラン化合物(III)を含有する組成物(III)で被覆して得られる層である請求項1〜5のいずれかに記載の表面処理層を有する基材。
  7. 基材の表面を請求項1に記載の組成物(II)で被覆して第2層を形成する工程、および第2層表面を請求項1に記載の組成物(I)で被覆して第1層を形成する工程を有する請求項1〜5のいずれかに記載の表面処理層を有する基材の製造方法。
  8. 基材の表面を請求項6に記載の組成物(III)で被覆して第3層を形成する工程、第3層表面を請求項1に記載の組成物(II)で被覆して第2層を形成する工程、および第2層表面を請求項1に記載の組成物(I)で被覆して第1層を形成する工程を有する請求項6に記載の表面処理層を有する基材の製造方法。
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