本発明の磁気抵抗効果素子は、非磁性体層と、前記非磁性体層を挟む2つの磁性体層とを有している。そして、前記2つの磁性体層の磁化方向の相対角度変化によって磁気抵抗変化を得ることができる。前記2つの磁性体層の少なくとも何れか一方は、フェリ磁性体層を含んでいる。さらには、温度変化に伴って、前記フェリ磁性体層の保磁力が変化するものである。そして、前記磁気抵抗効果素子の一部が加熱されることによって、前記フェリ磁性体層の加熱領域と非加熱領域との間に保磁力差が生じるものである。
本発明によれば、フェリ磁性体層の温度変化によってMR比が変化する磁気抵抗効果素子が得られる。すなわち、フェリ磁性体層の一部を加熱または冷却することによって、素子サイズよりも小さなサイズの局所的な外部磁界変化を検出することが可能となる。また、加熱または非加熱領域の何れかの保磁力が、他方の保磁力よりも小さくなり、加熱または非加熱領域のうち、保磁力の小さな領域においてのみ、外部磁界に反応してフェリ磁性体層が磁化反転するため、加熱または非加熱領域のうち、保磁力の小さな領域においてのみ局所的な外部磁界変化を磁気抵抗効果に変換して検出できる。
なお、本発明の磁気抵抗効果素子は、さらに、前記加熱領域と前記非加熱領域との間に、フェリ磁性体層の層形成面に対する磁化角度の差が生じるものであってもよい。
ここで、本発明の磁気抵抗効果素子に用いられるフェリ磁性体層の磁化量の温度変化と保磁力の温度変化との関係について例(希土類金属と遷移金属とを含むフェリ磁性体層)を用いて説明する。図1は、希土類金属と遷移金属とを含むフェリ磁性体層における磁化量及び保磁力の温度変化との関係と、これらに対応するフェリ磁性体層の磁化方向(フェリ磁性体層の層形成面に対する磁化角度)とを示す図である。図1中の補償温度Tcompとは、保磁力が無限大になる個所の温度のことをいい、希土類金属と遷移金属との組成比によってその値を調整することが可能である。また、トータル磁化量MTOTは、希土類金属副格子の磁化量MREと遷移金属副格子の磁化量MTMとの差の絶対値である。
フェリ磁性体層の温度変化に伴う磁化量変化原理を、重希土類金属と3d遷移金属との合金(希土類遷移金属合金)を例に取って示せば以下の通りである。重希土類金属と3d遷移金属との合金は、互いの磁化が反平行に揃ったフェリ磁性を示すアモルファス金属体であり、重希土類金属副格子の磁化と3d遷移金属副格子の磁化との差がトータル磁化として現れることが知られている。このような希土類遷移金属合金は、温度上昇に伴いキュリー温度に向かって希土類金属副格子と遷移金属副格子とが異なった磁化の減少傾向を示すため、温度によってトータル磁化量(自発磁化量)が変化する。具体的には、希土類金属副格子の磁化量と遷移金属副格子の磁化量が同じとなる温度(補償温度Tcomp)以下の温度では希土類金属副格子の磁化量(MRE)が遷移金属副格子の磁化量(MTM)を上回り、トータルの磁化量(MTOTAL)は、MTOTAL=MRE−MTMで表すことができる。一方、補償温度(Tcomp)以上の温度では遷移金属副格子の磁化量(MTM)が希土類金属副格子の磁化量(MRE)を上回り、トータルの磁化量(MTOTAL)は、MTOTAL=MTM−MREで表される。また、補償温度Tcomp近傍では、トータル磁化量(自発磁化量)が0となるために、外部磁界を感知しなくなり、このため、保磁力Hcが大きくなって、理論上無限大に増加することが知られている。また、上記補償温度Tcomp近傍では、膜面に対して垂直な方向の磁気異方性エネルギーが反磁界エネルギーよりも大きくなるため、磁化の方向が膜面から傾き(膜面から立ち上がり)、補償温度Tcompでは垂直磁化を示すことが知られている。
本発明の磁気抵抗効果素子は、図1に示した3つのCase1〜3をすべて含んでいる。そして、その実効的温度変化の範囲には制限がほとんどない。なぜなら、Case1において磁気抵抗効果素子の温度を温度範囲TX1から室温範囲Trに変化させたり、温度範囲TX1から温度範囲TX2に変化させたりした場合、Case2において磁気抵抗効果素子の温度を温度範囲TX1から室温範囲Trに変化させたり、温度範囲TX1から温度範囲TX2に変化させたりした場合、Case3において磁気抵抗効果素子の温度を温度範囲TX2から室温範囲Trに変化させたり、温度範囲TX2から温度範囲TX1に変化させたりした場合などのいずれにおいても、フェリ磁性体層の保磁力が変化するからである。
なお、本発明の磁気抵抗効果素子は、温度変化に伴ってフェリ磁性体層の保磁力が変化する限りは、温度変化してもフェリ磁性体層の磁化方向が常に面内方向にあるものであってもよい。
本発明の磁気抵抗効果素子は、図1に示した3つのCase1〜3をすべて含んでいる。しかしながら、その実効的温度変化の範囲は、フェリ磁性体層の磁化角度が面内方向にないB−B’の領域内の温度と、フェリ磁性体層の磁化角度が面内方向にあるそれ以外の温度(A−B又はB’−A’)とに跨るようなものに制限される。例えば、Case1において磁気抵抗効果素子の温度を温度範囲TX1又は室温範囲Trから温度範囲TX2に変化させた場合、Case2において磁気抵抗効果素子の温度を温度範囲TX1から室温範囲Trに変化させたり、室温範囲Trから温度範囲TX2に変化させたりした場合、Case3において磁気抵抗効果素子の温度を温度範囲TX1から室温範囲Tr又は温度範囲TX2に変化させた場合などである。
本発明による磁気抵抗効果素子は、ある温度T1よりも高い温度T2において、前記温度T1における磁気抵抗効果比よりも大きな磁気抵抗効果比が得られるものであってもよいし、室温よりも高い温度において、室温における磁気抵抗効果比よりも大きな磁気抵抗効果比が得られるものであってもよい。なお、本明細書において室温とは、25℃近傍の温度である。
これによれば、加熱領域においてのみ保磁力が小さくなり、当該領域においてのみ外部磁界に反応してフェリ磁性体層が磁化反転するため、局所的な外部磁界変化を磁気抵抗効果に変換して検出できる。加えて、加熱領域を検出領域とするため、例えば光ビームを加熱源として用いる場合、光ビームスポット径を小さくすることによって、検出分解能を高めることが可能である。
これによれば、非加熱領域に比べ、加熱領域においてフェリ磁性体層の層形成面に対する磁化角度が小さくなり、当該領域においてのみ外部磁界に反応してフェリ磁性体層が磁化反転するため、局所的な外部磁界変化を磁気抵抗効果に変換して検出できる。加えて、加熱領域を検出領域とするため、例えば光ビームを加熱源として用いる場合、光ビームスポットを小さくすることによって、検出分解能を高めることが可能である。
本発明の磁気抵抗効果素子においては、前記2つの磁性体層が、磁化固定層と、前記磁化固定層の磁化方向が変化するときの磁界よりも小さな磁界で磁化方向が変化する磁化自由層とであってよい。そして、前記磁化自由層が前記フェリ磁性体層を含んでいてよい。
これによれば、フェリ磁性体層を加熱または冷却することで、外部磁界に対する感度が高い磁化自由層の保磁力を変化させることができる。従って、磁気抵抗効果素子の一部を加熱または冷却することによってフェリ磁性体層を加熱または冷却することで、磁気抵抗効果素子のサイズよりも小さなサイズの局所的な外部磁界変化を検出できるとともに、外部磁界に対する検出分解能を高めることが可能である。
本発明の磁気抵抗効果素子においては、前記フェリ磁性体層が、Tb,Gd,Dy,Hoから選択される少なくとも1種の重希土類金属元素と、Fe,Co,Niから選択される少なくとも1種の3d遷移金属元素とを含んでいることが好ましい。これによれば、温度によってMR比が変化する磁気抵抗効果素子を容易に実現できるとともに、温度変化に対して大きな保磁力変化、引いては、温度変化に対して大きなMR比の変化が得られる。
本発明の磁気抵抗効果素子においては、前記フェリ磁性体層が、重希土類金属元素と、3d遷移金属元素とを含んでいて、前記重希土類金属元素がGdであり、前記3d遷移金属元素がCo、又は、Fe及びCoであることが好ましい。これによれば、温度変化によって保磁力が小さくなった際の保磁力絶対値を小さくでき、磁気抵抗効果素子の外部磁界感度を高めることが可能である。
本発明の磁気抵抗効果素子においては、前記3d遷移金属元素が、FeとCoとを含んでいて、FeとCoの組成比が同等、又は、Feに対するCoの組成比が大きいことが好ましい。これによれば、温度変化に対してさらに急峻なMR比の変化を有する磁気抵抗効果素子が得られる。したがって、高い空間分解能を持った磁気抵抗効果素子を実現できる。
ここで、図2を参照しながら、複数の遷移金属を含む材料中の金属の組成比によって保磁力特性曲線が変化する様子を説明する。ここでは、FeとCoとを含む材料を例に挙げて説明する。図2は、複数の遷移金属を含む材料中の金属組成比によって保磁力特性曲線が変化する様子を示す図である。
本発明の磁気抵抗効果素子に係る保磁力特性曲線は、複数の遷移金属を含む材料中のFeがリッチな状態のときは、図2中のグラフ中の点線で表されるような保磁力曲線を描く。これに対して、複数の遷移金属を含む材料中のCoがリッチな状態のときは、Feがリッチな状態のときよりも、補償温度Tcomp付近での傾きが急峻な曲線を描く。したがって、図2中の下部に示したように、Coがリッチな状態のときはFeがリッチな状態のときに比べ、磁化が立ち上がる(磁化方向が面内方向から垂直方向に変化する)温度幅(図2のグラフ中の磁化が立ち上がる境界幅)が狭くなる。言い換えれば、Coがリッチな状態のときは、Feがリッチな状態のときよりも、補償温度Tcomp近傍における磁化方向の変化が急峻になる。
本発明の磁気抵抗効果素子においては、前記フェリ磁性体層と前記非磁性体層との間に、前記フェリ磁性体層形成面と実質的に平行な磁化方向を持つ面内磁化層が形成されていることが好ましい。
これによれば、磁気抵抗効果素子のMR比を高めることができる。また、非磁性体層に酸化物または窒化物を用いた場合にフェリ磁性体層が酸化または窒化して特性劣化してしまうことを防ぐことができる上、フェリ磁性体層における外部磁界の検出感度を高めることもできる。
本発明の磁気抵抗効果素子においては、前記フェリ磁性体層に接して、又は、磁気的に結合して、前記フェリ磁性体層よりも透磁率の高い面内磁化層が形成されていることが好ましい。これによれば、フェリ磁性体層における外部磁界に対する感度をさらに高めることができる。
本発明の磁気センサーは、上述したいずれかの磁気抵抗効果素子と、前記磁気抵抗効果素子に電流を印加するための電極とを備えたものである。これによれば、磁気抵抗効果素子を昇温してフェリ磁性体を昇温させた際にその昇温部においてのみ大きな信号強度が得られる再生用磁気センサーを実現でき、磁気抵抗効果素子のサイズよりも小さな磁気情報の読み出しが可能となる。
本発明の再生ヘッドは、上述したいずれかの磁気抵抗効果素子と、前記磁気抵抗効果素子に電流を印加するための電極とを備えた磁気センサーと、前記磁気センサーを加熱するための加熱手段とを備え、前記加熱手段が前記フェリ磁性体層を昇温させるものである。なお、本発明の磁気情報再生装置は、この再生ヘッドを備えたものである。これらによれば、上述の効果を有する磁気抵抗効果素子を用いた再生ヘッドや磁気情報再生装置を提供できる。
なお、本発明の複合ヘッドは、直上の段落で説明した再生ヘッドと、磁気記録媒体に磁界を印加して磁気情報を記録するための記録ヘッドとを有している。これによれば、上述の効果を有する磁気抵抗効果素子を用いた磁気記録再生ヘッドを提供できる。
なお、本発明の複合ヘッドは、直上の段落で説明した再生ヘッドと、磁気記録媒体に磁界を印加して磁気情報を記録するための記録ヘッドとを有し、前記記録ヘッドが近接場光を用いたものである。また、この複合ヘッドは、前記光源が、前記近接場光の光源としても用いられることが好ましい。これによれば、記録時に磁気記録媒体を加熱する光(熱)アシスト記録に好適な磁気記録再生ヘッドを提供できる。
本発明の磁気情報再生装置は、上述した再生ヘッドと、磁気記録媒体とを備え、前記加熱手段が前記フェリ磁性体層を昇温させるものである。これによれば、磁気記録情報を磁気抵抗効果素子の素子幅よりも小さな分解能で読み出すことが可能な磁気記録再生装置を提供できる。
本発明の磁気情報再生装置は、前記磁気記録媒体の表面に対し、前記磁気抵抗効果素子の積層方向に垂直な面が傾いている。これによれば、加熱手段として光ビームを用いる際に、光ビームの光路を磁気抵抗効果素子が妨げることがなく、効率的に磁気抵抗効果素子の一部を加熱できる。
本発明の磁気情報の再生方法は、非磁性体層と、前記非磁性体層を挟む2つの磁性体層とを有し、前記2つの磁性体層の磁化方向の相対角度変化によって磁気抵抗変化を得る磁気抵抗効果素子、及び、前記磁気抵抗効果素子に電流を印加するための電極が形成された再生ヘッドを用いて、磁気記録媒体に記録された磁気情報を再生するための再生方法であって、前記2つの磁性体層の少なくとも何れか一方が、フェリ磁性体層を含んでおり、かつ、温度変化に伴って前記フェリ磁性体層の保磁力が変化するものであり、前記フェリ磁性体層が加熱によって昇温した状態において磁気情報を再生するものである。
本発明の磁気抵抗効果素子について、その一実施の形態を以下に開示する。図3は、本発明の磁気抵抗効果素子の膜構成を示す断面図である。本実施の形態による磁気抵抗効果素子10は、基板1上に下部電極層2、磁化固定層3、非磁性体層4、面内磁化層7、フェリ磁性体層5、上部電極層6が順に形成される。本実施の形態による磁気抵抗効果素子10は、層形成面と垂直な方向に電流が流れる、いわゆるCPP(Current Perpendicular to Plane)型の素子である。
基板1には、表面粗度の小さな基板を用いることが望ましい。具体的には、表面を熱酸化処理したSi基板やサファイア基板、MgO基板、GaN基板などを用いることができる。
下部電極層2は、素子の外部から電圧を印加して、伝導電子を素子内に流すための電極層であって、電気抵抗の低い材料、例えば、Cu,Ag,Auやこれらの元素を含む金属材料が適している。下部電極層2の形成に当たっては、基板1と下部電極層2の密着性を高める目的、又は、下部電極層2の結晶粒径や結晶構造、表面粗度を制御する目的で、下部電極層2を形成するのに先立ってシード層(図示しない)を形成しても構わない。このシード層は、例えば、Ta,Ti,Ru,Cr,Ni,Feや、これらの元素を含む金属材料を単層で、又は積層して用いることができる。
磁化固定層3は、反強磁性層3aと強磁性層3bとからなり、層形成面内に磁化方向を持った面内磁化層である。
反強磁性層3aは、この反強磁性層3aに続いて形成される、強磁性層3bと交換結合して、強磁性層3bを固定(一方向異方性を付与)する目的で作製されるものであって、例えばMnを用いた反強磁性を示す合金、具体的にはMnと、Pt,Ir,Fe,Ru,Cr,Pd,Niから選ばれる少なくとも一つの元素とを合わせて用いることができる。
強磁性層3bは、反強磁性層3aと交換結合することで一方向異方性を付与され、第1の強磁性層3bを単層で作製した場合よりも見かけ上高い保磁力を一方向に有する層であり、例えば、CoFe,CoFeNi,NiFe,CoFeB,CoPt,CoFePt等の強磁性体金属を用いて形成できる。
磁化固定層3の形成に当たっては、下部電極層2と磁化固定層3との間の密着性を高める目的、又は、磁化固定層3および磁化固定層3以降に形成される種々の層の結晶粒径や結晶構造、表面粗度を制御する目的で、磁化固定層3を形成するのに先立ってシード層(図示しない)を形成しても構わない。このシード層には、Ta,Ti,Ru,Cr,Ni,Fe,Cuや、これらの元素を含む金属材料を単層で、又は積層して用いることができる。
非磁性体層4は例えばAl,Cu,Au,Ag,Mg等の電気的に導電性の高い金属材料、又はこれらの合金、又は、これらの酸化物又は窒化物からなり、磁化固定層3とフェリ磁性体層5との間の磁気的な交換結合力を遮断するとともに、層形成面に対して垂直方向に流れる伝導電子を通過させる役割を果たす。ここで、非磁性体層4を、電気抵抗の低い材料、すなわち導電性金属材料を用いて形成すれば磁気抵抗効果素子はGMR素子となり、電気抵抗の高い材料、すなわち上記導電性金属元素の酸化物や窒化物を用いればTMR素子となる。また、非磁性体層4は、酸化物や窒化物中に導電性金属材料のクラスターが存在するといったように、酸化物や窒化物、導電性金属材料とを複合した層であっても構わない。
フェリ磁性体層5は外部磁界を受けて磁化方向が変化する磁性層であり、かつ、温度によって保磁力が変化する磁性層である。また、フェリ磁性体層5は、自発磁化が0となり保磁力が原理上無限大となる補償温度(Tcomp)を持つフェリ磁性体で形成される。具体的には例えば、Gd,Tb,Ho,Dyから選ばれる少なくとも一つの重希土類金属と、Fe,Co,Niから選ばれる少なくとも一つの3d遷移金属とを含んで成り、層形成面方向の保磁力が、室温下と室温より高い温度下で変化するように組成が調整されている。これによって、例えば室温近傍に補償温度(Tcomp)を設定すれば、室温では保磁力が大きく、室温より高い温度下では保磁力が小さくなるようにできる。また、フェリ磁性体層5は、フェライトやガーネット型酸化物、希土類鉄ガーネットのような酸化物フェリ磁性体のうち補償温度を持つものから形成されるものであってもよい。具体的には、LiFeCrO(Li−Crフェライト)や、NiFeAlO(Ni−Alフェライト)、YGaFeO(Ga置換YIG)、GdFeO(Gd−Feガーネット)を用いることができる。また、フェリ磁性体層5には、主にスピン分極率を高める目的で、B,Pt,Ru,Ta,Ti,Crから選ばれる元素が添加されていても構わない。
磁気抵抗効果素子10においては、補償温度Tcompが室温となるようにフェリ磁性体層5が組成調整されている。これによれば、室温からの温度上昇又は温度低下に伴って、遷移金属副格子の磁化量(MTM)と希土類金属副格子の磁化量(MRE)との差が大きくなる(温度上昇に伴ってMTOTAL=MTM−MREが大きくなり、温度低下に伴ってMTOTAL=MRE−MTMが大きくなる)、フェリ磁性体層5が得られる。すなわち、室温において保磁力Hcが非常に大きく、温度上昇や温度低下に伴って保磁力Hcが小さくなるフェリ磁性体層5を実現できる。言い換えると、フェリ磁性体層5の磁化角度が、室温においてはフェリ磁性体層5の層形成面に対して傾いているが、温度上昇や温度低下に伴って室温から離れた温度範囲においてはフェリ磁性体層5の層形成面の面内方向を向いたフェリ磁性体層5を実現できる。
一変形例として、補償温度Tcompが室温よりも100℃から150℃程度高い温度となるようにフェリ磁性体層5が組成調整されていてもよい。これによれば、室温からの温度上昇に伴って保磁力が大きくなり、室温からの温度低下に伴って保磁力が小さくなるフェリ磁性体層5が得られる。言い換えると、フェリ磁性体層5の磁化角度が、室温においてはフェリ磁性体層5の層形成面の面内方向を向いているが、室温よりも高い補償温度Tcomp付近においてはフェリ磁性体層5の層形成面に対して傾いたフェリ磁性体層5を実現できる。
別の一変形例として、補償温度Tcompが室温よりも数10℃程度低い温度となるようにフェリ磁性体層5が組成調整されていてもよい。これによれば、室温からの温度上昇に伴って保磁力が小さくなり、室温からの温度低下に伴って保磁力が大きくなるフェリ磁性体層5が得られる。言い換えると、フェリ磁性体層5の磁化角度が、室温においてはフェリ磁性体層5の層形成面の面内方向を向いているが、室温よりも低い補償温度Tcomp付近においてはフェリ磁性体層5の層形成面に対して傾いたフェリ磁性体層5を実現できる。
フェライトやガーネット型酸化物、希土類鉄ガーネットのような酸化物フェリ磁性体をフェリ磁性体層5に用いる場合も上記希土類遷移金属を用いる場合と同様であり、保磁力が理論上無限大となる補償温度Tcomp近傍と、それよりも保磁力が小さい高温側や低温側を利用する。これらの材料においても補償温度Tcompは組成比を変更することで調整できる。
フェリ磁性体層5は外部磁界を検出する層であり、検出感度を高めるために、磁界を検出する温度(保磁力が相対的に小さくなる温度)において保磁力絶対値が小さく、透磁率が大きな特性を示す材料を用いることが特に望ましい。
面内磁化層7は、素子のMR比を高める目的と、非磁性体層4に酸化物又は窒化物を用いた場合にフェリ磁性体層5が酸化又は窒化して特性劣化してしまうことを防ぐ目的、および/又は、フェリ磁性体層5の検出感度を高める目的で、非磁性体層4とフェリ磁性体層5との間に、形成されている。面内磁化層7には、フェリ磁性体層よりも高いスピン分極率を有している材料や、フェリ磁性体層よりも酸化又は窒化されにくい材料を用いることが望ましく、例えば、CoFe,CoFeNi,NiFe,NiFeTa,NiFeNb,CoFeB,CoPt,CoFePt等から選択した材料を用いて形成することができる。なお、この面内磁化層7は形成されていなくともよい。
また、外部磁界に対する感度を高める目的で、フェリ磁性体層と面内磁化層との間にさらに高透磁率層18が形成されている磁気抵抗効果素子20としてもよい(図4参照:高透磁率層18以外は、図3と符号の1の位が同じものは同構成である)。この高透磁率層28には、NiFeやこれにTa,Nb等の添加物が添加された軟磁性材料を用いることができる。
上部電極層6は、下部電極層2と同様に、素子の外部から電圧を印加して、伝導電子を素子内に流すための電極層であって、電気抵抗の低い材料、例えば、Cu,Ag,Auやこれらの元素を含む金属材料が適している。
上部電極層6の形成に当たっては、フェリ磁性体層5と上部電極層6の密着性を高める目的、又は、上部電極層6の結晶粒径や結晶構造、表面粗度を制御する目的で、上部電極層6を形成するのに先立ってシード層(図示しない)を形成しても構わない。このシード層は、例えば、Ta,Ti,Ru,Cr,Ni,Feや、これらの元素を含む金属材料を単層で、又は積層して用いることができる。
本実施の形態による磁気抵抗効果素子10は、下部電極層2と上部電極層6との間に電圧を印加することで電位差を生じさせ、層形成面に対して垂直方向に電流を流すことで動作するものである。上記電圧印加によって生じる伝導電子は、スピン角運動の向きの異なる2種の電子、すなわち、アップスピン電子とダウンスピン電子とからなり、同数のアップスピン電子とダウンスピン電子とを持つ。伝導電子が、磁化方向が一方向に固定された磁化固定層3を通過すると、磁化固定層3の磁化方向に応じてスピンの向きによって通過する量が異なるスピン依存散乱を生じ、アップスピン電子数とダウンスピン電子数に差が生じる。続いて、非磁性体層4及び面内磁化層7を通過した伝導電子は、フェリ磁性体層5を通過する際に、再度スピン依存散乱を生じるが、磁化固定層3の磁化方向とフェリ磁性体層5の磁化方向とが略平行の場合には、略反平行の場合に比べて、フェリ磁性体層5における散乱量が小さくなる。このため、フェリ磁性体層5を通過する伝導電子の数は、フェリ磁性体層5の磁化方向によって異なり、上部電極層6に到達する伝導電子の総数が変化するため、素子抵抗の変化を生じる。これらの磁気抵抗効果現象は、従来のGMR素子やTMR素子と同じ原理によるものである。
ここで、本実施の形態による磁気抵抗効果素子では、素子の温度によってフェリ磁性体層5の保磁力が変化するので、フェリ磁性体層5を磁化反転させるために必要な外部磁界の大きさが温度によって異なる。すなわち、例えばフェリ磁性体層5の保磁力が室温で大きく、高温で小さくなるようにフェリ磁性体層5の組成比を設定した場合、室温においてはフェリ磁性体層5の保磁力が大きいため、外部磁界(磁気記録媒体からの漏洩磁界)に対する感度が低下し、フェリ磁性体層5の磁化反転が起こりにくくなる。一方、室温よりも高い温度では、フェリ磁性体層5の保磁力は室温における保磁力よりも小さくなり、外部磁界に対する感度が向上するため、室温よりも小さな外部磁界で磁化反転を起こすことができる。
このように、本実施の形態による磁気抵抗効果素子は、フェリ磁性体層5の保磁力が大きい場合には、外部磁界に対する感度が低く、フェリ磁性体層5の保磁力が小さい場合には、外部磁界に対する感度が高くなる特徴を有しており、上記保磁力が大きい状態と保磁力が小さい状態とを温度変化によって可逆的に切り替えることができる特徴を有している。従って、本実施の形態による磁気抵抗効果素子に対して、局所加熱手段、例えば、レーザー光源からのレーザー光や微小なヒータによって局所的に素子温度を高めれば、温度分布によって素子サイズよりも小さな磁気記録情報が読み出せる磁気抵抗センサーを実現できる。
局所加熱手段にレーザー光源を用いる場合、照射するレーザー光のスポット径をレンズ集光によって小さくするか、微小開口や微小突起に光を照射することで発生する微小な近接場光を用いることで、ごく微小な部分のみで高い磁気抵抗変化を得られ、高分解能の磁気抵抗センサーを実現できる。
このような磁気抵抗効果素子を磁気記録媒体からの情報を再生する再生用磁気センサーに用いれば、磁気抵抗効果素子自体の幅を情報トラックの幅以下に狭くする必要が無いので、素子幅よりも狭いトラック幅に記録された磁気記録情報を読み出せる再生用磁気センサーを提供できることに加え、閉磁路が生じ易く永久磁石に磁化を固着されやすい磁化自由層のエッジ部分を、センシングに用いないので、微小磁区の読み出しに際しても高い再生信号特性を維持できる。
なお、温度変化に伴って保磁力変化する磁化層は、磁化自由層(フェリ磁性体層の他に、形成されている場合には面内磁化層や高透磁率層を含む層)と同時に、磁化固定層に用いられていても構わない。
また、本実施形態の磁気抵抗効果素子では、磁化自由層よりも磁化固定層を先に(基板1側に)形成する、いわゆるボトム型の磁気抵抗効果素子について示したが、磁化自由層が先に(基板1側に)形成され、磁化固定層が非磁性体層の後で形成される、いわゆるトップ型の磁気抵抗効果素子であっても構わない。
さらには、磁化自由層を2つの非磁性体層で挟み、この2つの非磁性体層をさらに2つの磁化固定層で挟む構成の、いわゆるダブルスピンバルブ型の磁気抵抗効果素子に用いても構わない。
なお、本実施の形態による磁気抵抗効果素子の応用範囲は磁気記録媒体からの読み出しを行うための再生用磁気センサーに限るものではなく、他の磁気センサー、MRAM(Magnetic Random Access Memory)に代表される磁気メモリに用いても構わない。
また、本文中では室温に比べて高温でフェリ磁性体層5の保磁力が小さくなり、外部磁界感度が高くなる場合について示したが、逆に、高温に比べて室温でフェリ磁性体層5の保磁力が小さくなり、外部磁界感度が高くなる磁気抵抗効果素子であっても構わない。
このような、室温で保磁力が小さく、室温よりも高い高温で保磁力が大きくなる磁気抵抗効果素子は、フェリ磁性体層5の組成比を調整し、室温よりも高い高温近傍にトータル磁化(MTOTAL)が小さくなり、保磁力Hcが大きくなる補償温度(Tcomp)を設定することによって実現できる。このように組成調整したフェリ磁性体層5を用いることで、高温部に対して低温部の磁気抵抗効果が大きくなる磁気抵抗効果素子を実現でき、例えば局所加熱源であるレーザー光源からレーザー光を照射して局所的に素子温度を高めれば、高温部では信号を検出せずに、低温部のみが高い感度を有する磁気抵抗センサーを実現できる。
また、本発明の磁気抵抗効果素子は、層形成面に対して垂直な方向に電流を流すCPP(Current Perpendicular to Plane)型の磁気抵抗効果素子以外にも、層形成面と平行に電流を流して磁気抵抗効果を得るCIP(Current in Plane)型の磁気抵抗効果素子にも適用可能である。この場合にも、磁化自由層又は、磁化自由層と磁化固定層とに温度変化に伴って保磁力が変化するフェリ磁性体層を用いることで、温度分布によって素子サイズよりも小さな磁気記録情報が読み出せる磁気抵抗センサーを実現できる。
(実施例1)
次に、本発明に係る磁気抵抗効果素子の実施例を以下に示す。実施例1では、上述の図3に示した磁気抵抗効果素子10の特性を評価すべく、この磁気抵抗効果素子10と同構成の試料を作製した。基板1として表面を熱酸化処理したSi基板を、下部電極層2および上部電極層6としてCuを、磁化固定層3のうち反強磁性層3aとしてMnIrを、強磁性層3bとしてCoFeを、非磁性体層4としてAlを酸化させた酸化Alを、面内磁化層51としてCoFeを、フェリ磁性体層5としてGdFeCoを、それぞれ形成した。
下部電極層2の形成に当たっては、基板1と下部電極層2の密着性を高め、下部電極層2の表面粗度を制御する目的で、下部電極層2を形成するのに先立ってTaから成るシード層(図示しない)を形成した。
磁化固定層3の形成に当たっては、下部電極層2と磁化固定層3との間の密着性を高め、磁化固定層3および磁化固定層3以降に形成される種々の層の結晶粒径や結晶構造、表面粗度を制御する目的で、磁化固定層3を形成するのに先立ってTaとNiFeおよびCuを積層したシード層(図示しない)を形成した。
上部電極層6の形成に当たっては、フェリ磁性体層5と上部電極層6の密着性を高め、上部電極層6の表面粗度を制御する目的で、上部電極層6を形成するのに先立ってTaから成るシード層(図示しない)を形成した。
本実施例に示す磁気抵抗効果素子の作製方法は以下の通りである。なお、以下の文中に示す膜厚とは、基板上に各材料の単層膜を100nm程度の膜厚で形成し、触針式段差計を用いてその膜厚を測定、測定された膜厚と成膜時間から算出した成膜レートを基に記述している。また、本実施例に示す磁気抵抗効果素子の成膜には、Ta,Cu,MnIr,CoFe,NiFe,GdFeCo,Alのターゲットを有する成膜チャンバーを備えたマグネトロンスパッタリング装置を用いた。なお、成膜はいずれもArガス雰囲気中でDCスパッタリングによって行った。
まず、基板1として表面を熱酸化処理したSi基板を用い、スパッタリング装置内で1×10-6Paまで真空引きした後、Arガスを導入し、1×10-1PaのAr雰囲気中でTaターゲットに給電し、下部電極層2の形成に先立つシード層(図示せず)としてTaを5nmの膜厚で成膜した。
続いて、Cuターゲットに給電し、下部電極層2としてCuを50nmの膜厚で成膜した。
そして、磁化固定層3の形成に先立つシード層(図示せず)として、TaとNiFeおよびCuをそれぞれ5nm、2nm、5nmの膜厚で積層して形成した。続いて、MnIrターゲットに給電し、反強磁性層3aとしてMnIrを膜厚15nmで形成した後、強磁性層3bとしてCoFeを5nmの膜厚で形成し、これらを磁化固定層3とした。
次に、非磁性体層4としてAlを1.0nmの膜厚で形成した後、チャンバー内にO2ガスを導入し、O2雰囲気中でAlを酸素暴露して酸化し、酸化Al膜とした。
そして、非磁性体層4上に、面内磁化層7としてCoFeを2nmの膜厚で形成し、続いて、フェリ磁性体層5としてGdFeCoを10nmの膜厚で形成した。フェリ磁性体層5は、室温において保磁力が大きな補償温度Tcompとなり、温度上昇又は温度低下に伴って保磁力が小さくなるように組成調整された層である。具体的には、Gdを23at%、Feを23at%、Coを54at%の比率とした。上記組成のフェリ磁性体層5は、温度上昇に伴って単調かつ急峻に保磁力が減少し、100℃を超える温度において、100Oe(約8kA/m)以下の保磁力となる磁性層であった。
続いて、上部電極層6の形成に先立つシード層(図示せず)としてTaを5nmの膜厚で成膜した後、Cuターゲットに給電して、上部電極層6としてCuを50nmの膜厚で成膜した。
以上の手順で作製した素子について、上部電極層6の上に保護膜(図示せず)としてSiO2を100nmの膜厚で形成した後、500Oe(約40kA/m)の磁場中で250℃1時間の磁場中アニールを行って磁化固定層3の固定を行った。このように作製された磁気抵抗効果素子を実施例1の試料とした。
(比較例1)
実施例1の磁気抵抗効果素子と比較のため、比較例1として従来の磁気抵抗効果素子についても作製した。具体的には、実施例1におけるフェリ磁性体層5に代わって、NiFeから成る磁化自由層を膜厚10nmで形成した以外は、実施例1の磁気抵抗効果素子と同じ構成、製法を用いる磁気抵抗効果素子を作製した。なお、比較例1において自由層に用いたNiFeは、室温から250℃までの温度範囲で、常に保磁力が10Oe(約800A/m)以下と小さな値を示すものであった。
(実施例1及び比較例1の磁気抵抗効果素子の特性評価)
上記の方法で作製した実施例1の磁気抵抗効果素子と、フェリ磁性体層5に代わってNiFeから成る磁化自由層を形成した比較例1の磁気抵抗効果素子について、それぞれの素子のMR比を25℃と150℃の温度下で測定した結果を図5(比較例1の磁気抵抗効果素子について測定した結果)、図6(実施例1の磁気抵抗効果素子について測定した結果)に示す。なお、測定に際しては、リソグラフィを用いて積層成膜した素子の加工および電極取り出しを行った後、上下電極間に5mV一定の電圧を印加しておき、磁気抵抗効果素子をヒータで加熱昇温した状態で、電磁石を用いて磁気抵抗効果素子の層形成面と平行方向に±1kOe(約80kA/m)の範囲で外部磁界を印加してMR比を測定した。測定に使用した素子のジャンクションサイズは20μmとした。また、上記外部磁界の印加方向は磁場中アニールを行った際に印加した磁場の方向と平行となるようにした。
図5に示すように、比較例1の磁気抵抗効果素子では、25℃(図5(a))において32%のMR比が、150℃(図5の(b))においては26%のMR比が、それぞれ得られた。温度が上がることで若干のMR比の低下が見られたが、その変化は小さなものであった。加えて、比較例の磁気抵抗効果素子では、零磁界近傍で見られる、磁化自由層の磁化反転に起因したMR比の変化について、25℃、150℃の何れの温度においても10Oe(約800A/m)以下の外部磁界でこれを生じた。これは、磁化自由層に用いたNiFeが、温度に依存しない低い保磁力を有することを反映したものである。なお、図5中の+500Oe(約40kA/m)近傍に見られるMR比の変化は、磁化固定層3の磁化反転のよるものである。
一方、図6に示すように実施例1の磁気抵抗効果素子では、25℃(図6の(a))におけるフェリ磁性体層5の保磁力が、外部磁界の印加範囲である1kOe(約80kA/m)よりも大きいために、この範囲ではフェリ磁性体層5の磁化反転に伴うMR比の変化は確認できなかった。従って、零磁界近傍の低磁界におけるMR比は、正方向に外部磁界を掃引した場合と、負方向に外部磁界を掃引した場合とで、差が見られなかった。なお、ここにおいても、+500Oe(約40kA/m)近傍に見られるMR比の変化は磁化固定層3の磁化反転によるものである。これに対し、本実施例の磁気抵抗効果素子における150℃(図6の(b))の測定では、フェリ磁性体層5の保磁力が温度上昇に伴って小さくなったことで、零磁界近傍でフェリ磁性体層5の磁化反転が見られ、低磁界領域において高いMR比(33%)が確認できた。
このように、本実施例の磁気抵抗効果素子は、室温と高温とでフェリ磁性体層5の保磁力が変化することに起因して、低磁界領域で得られるMR比が大きく変化する特徴を有している。
続いて図7には、実施例1の磁気抵抗効果素子をヒータで加熱して昇温し、上記と同じ方法(外部磁界±1kOe(約80kA/m))で測定した際のMR比を温度に対して示す。なお、図7において示すMR比とは、磁界が0Oe(0A/m)の状態における、正方向に外部磁界を掃引した場合と、負方向に外部磁界を掃引した場合とのMR比の差である。また、図7には比較例1の磁気抵抗効果素子について測定したMR比の結果も合わせて示した。
図7に示したように、実施例1の磁気抵抗効果素子は、25℃では0%であったMR比が温度上昇に伴って大きくなり、100℃において最もMR比が大きな36%を示し、200℃まで30%を超える高いMR比を維持した。これは、25℃において大きな保磁力を有するフェリ磁性体層5が、温度上昇に伴って保磁力を小さくし、高温域では外部磁界に従って磁化反転したことによるものである。これによって、高温域において、25℃におけるMR比よりも高いMR比を得ることができた。これに対し、比較例1の磁気抵抗効果素子では、図7に示すようにMR比が温度に対して単調減少し、実施例1で確認されたような温度変化に伴ってMR比が大きく変化する様子は見られなかった。
図8には、実施例1の磁気抵抗効果素子において、外部磁界を掃引する範囲を±1kOe(約80kA/m)とした場合と、±100Oe(約8kA/m)とした場合のMR比(0Oe(0A/m)における、正方向掃引と負方向掃引の差)について示す。
外部磁界の掃引範囲を±100Oe(約8kA/m)と小さくした場合にも、実施例1の磁気抵抗効果素子は温度変化に対してMR比の大きな変化を示し、さらに、掃引範囲を±1kOe(約80kA/m)とした場合に比べて、温度に対するMR比の変化が急峻になった。このように実施例1の磁気抵抗効果素子は、再生用磁気センサーに用いる際に求められる微小磁界においても、温度に対して変化量が大きく、かつ急峻なMR比の変化を得ることが出来る磁気抵抗効果素子である。
さらに、図9には、実施例1の磁気抵抗効果素子に用いたフェリ磁性体層5の磁気特性(M−Hループ)を、振動試料型磁力計(VSM)を用いて測定した結果を示す。図9(a)はフェリ磁性体層5の補償温度よりも若干高い35℃下におけるM−Hループ、図9(b)は150℃下におけるM−Hループを示している。図9中の点線は、層形成面に対して平行に磁界を印加して測定したM−Hループを示し、実線は層形成面に対して垂直に磁界を印加して測定したM−Hループを示している。
図9(a)に示すように、35℃下で測定したM−Hループでは、層形成面に平行な方向のM−Hループ(点線)と層形成面に垂直な方向のM−Hループ(実線)の両方において、ヒステリシスを持つループが得られた。このことは、本実施例の磁気抵抗効果素子に用いたフェリ磁性体層5の磁化角度が、補償温度(Tcomp)(=25℃)近傍の温度において、フェリ磁性体層5の層形成面に対して傾いている(立ち上がっている)ことを示している。
これに対し、図9(b)に示すように、補償温度(Tcomp)から離れた150℃下でのM−Hループでは、層形成面に平行な方向のM−Hループ(点線)において、高い角型比が得られるとともに、ヒステリシスを持つM−Hループが得られた一方で、層形成面に垂直な方向のM−Hループ(実線)においては、角型比が小さく、かつ、ヒステリシスが見られなかった。このことは、本実施例の磁気抵抗効果素子に用いたフェリ磁性体層5の磁化方向が、補償温度(Tcomp)から離れた150℃の温度下において、層形成面に対して平行であることを示している。
このように、本実施例の磁気抵抗効果素子は、保磁力の変化とともに、フェリ磁性体層5の磁化が、層形成面に対して傾く方向に角度変化する素子であっても構わない。図9に示したような、層形成面に対して傾く方向の磁化角度変化を示すフェリ磁性体層5を用いれば、磁化方向が層形成面に対して平行となる温度下では、磁化固定層と磁化自由層の平行・反平行状態を実現できるので、高いMR比が得られ、磁化方向が層形成面に対して垂直に傾いた温度下では、磁化固定層と磁化自由層の平行・反平行状態を実現できなくなるために、MR比が小さくなる磁気抵抗効果素子を実現可能である。
さらに、このような磁気抵抗効果素子では、フェリ磁性体層5の補償温度(Tcomp)近傍で、図6を用いて説明したように、フェリ磁性体層5の保磁力が非常に大きくなっており、フェリ磁性体層5の磁化反転が起こりにくい状態が実現されている。このとき、仮に、フェリ磁性体層5が大きな外部磁界によって磁化反転したとしても、上記のように、磁化方向が層形成面に対して垂直に傾いていれば、磁化固定層と磁化自由層の平行・反平行状態を実現できないために、当該温度下でのMR比を小さくできる。すなわち、保磁力が温度変化する特性と合わせて、層形成面に対して磁化方向が傾く特性を用いることによって、保磁力のみが温度変化する場合よりも大きなMR比の温度変化が得られる磁気抵抗効果素子が実現可能である。
なお、本実施例の磁気抵抗効果素子に含まれるフェリ磁性体層5は、必ずしも層形成面に対して磁化角度が変化するフェリ磁性体層5である必要は無く、磁化方向が温度に寄らず常に層形成面に平行であって、保磁力のみが温度変化するフェリ磁性体層5であっても構わない。このためには、例えば、本実施例において希土類金属であるGdに対して、3d遷移金属元素であるFe・Coの比率を高めれば、補償温度(Tcomp)を室温以下にすることができ、上記の保磁力のみが温度変化するフェリ磁性体層5を実現可能である。このようなフェリ磁性体としては、例えば後述する実施例3におけるサンプル3−1が相当する。
また、実施例1では、MR比を測定する際の磁界の印加範囲を±1kOeとした結果について示したが、フェリ磁性体層5の温度変化に伴う保磁力変化量は必ずしも1kOeを超えるものである必要は無い。例えば、磁気記録情報を再生するための再生用磁気ヘッドに上記磁気抵抗効果素子を用いようとする場合には、磁気記録媒体からの漏洩磁界は大きくとも数10Oe程度であることから、フェリ磁性体層5の保磁力が、温度変化によって、数10Oeを超える領域と、これを下回る領域との間で変化すれば十分である。
また、実施例1の磁気抵抗効果素子では、フェリ磁性体層5の組成比を調整することによって、MR比が最も大きくなる温度を調整することが可能である。具体的には、3d遷移金属に対する希土類金属の割合を本実施例よりも高めればMR比が最も大きくなる温度を高くすることができ、逆に遷移金属に対する希土類金属の割合を低くすればMR比が最も大きくなる温度を低くすることができる。
MR比が小さくなる温度についても同様であり、3d遷移金属に対する希土類金属の割合を本実施例よりも高めれば、MR比が小さくなる温度を高くすることができ、逆に3d遷移金属に対する希土類金属の割合を低くすればMR比が小さくなる温度を低くすることができる。
さらに、MR比が小さくなる温度と、MR比が大きくなる温度との差を調整するためには、3d遷移金属内の組成比を変えれば良い。具体的には、キュリー温度の高いCoの比率を、キュリー温度の低いFeに対して高めることで、MR比が小さくなる温度と、MR比が大きくなる温度との差が小さくなり、温度に対してより急峻な変化を得られる。逆にキュリー温度の高いFeの比率を、キュリー温度の低いCoに対して高めれば、MR比が小さくなる温度と、MR比が大きくなる温度との温度差が大きくなり、温度に対してより緩やかな変化を得ることができる。なお、これらの組成調整の実施例については後述する実施例2および実施例3で説明する。
ここで、実施例1のフェリ磁性体層の膜厚は、2nm以上20nm以下であることが望ましい。フェリ磁性体層の膜厚が2nm未満の場合、フェリ磁性体層の磁化量が小さくなるために、外部磁界に反応しなくなり磁界感度を悪くするおそれがあるからである。また、フェリ磁性体層の膜厚が20nmを超えると、これと同程度のサイズの局所的な外部磁界変化を検出しにくくなり、例えば、再生用磁気センサーに用いる場合に空間分解能が悪化するおそれもあるからである。
また、実施例1ではフェリ磁性体層としてGdFeCoを用いた例について示したが、温度変化に伴って保磁力が変化する材料であればよく、これに限るものではない。特にGd,Tb,Dy,Hoから選ばれる重希土類合金と、Fe,Co,Niから選ばれる3d遷移金属とを用いれば、温度に対して大きな保磁力変化を示すフェリ磁性体層を形成することができる。さらにこのうち、重希土類金属として、Gd、又は、Ho、又は、これらの両方を選択すれば、温度変化によって保磁力が小さくなった際の保磁力絶対値を特に小さくすることができ、外部磁界を検出する検出素子として用いる際に好適な磁気抵抗効果素子を実現できる。なお、実施例1におけるフェリ磁性体層として、フェライトやガーネット型酸化物、希土類鉄ガーネットから成る酸化物フェリ磁性体を用いても良い。
また、実施例1では、非磁性体層として絶縁体を用いたトンネル磁気抵抗効果素子について示したが、非磁性体層として導電体を用いるGMR素子や、絶縁体と導電体とを組み合わせて用いる電流狭窄型のGMR素子であっても同様の効果が得られる。従って、本発明はトンネル磁気抵抗効果素子に限定するものではない。
また、磁化固定層について、反強磁性層を用いて強磁性層を交換結合力でもって固定するスピンバルブ型の磁気抵抗効果素子について示したが、磁化固定層は必ずしも交換結合した反強磁性層と強磁性層とによって形成される必要はなく、保磁力の大きな強磁性膜を単層で用いてもよく、保磁力の大きな強磁性膜と保磁力の小さな強磁性膜とを交換結合させたものを固定層として用いてもよく、複数の強磁性材料で非磁性材料を挟み、上記複数の強磁性材料を静磁気的に結合させることによって見かけ上保磁力を高めた固定層(いわゆるシンセティック構造)を用いても良い。上記シンセティック構造の固定層を具体的に示せば、例えば、非磁性体層に近い側から、CoFe又はCoFeB、Ru、CoFe又はCoFeB、MnIr又はMnPtを順に形成することでこれを実現できる。
また、面内磁化層は、フェリ磁性体層のスピン分極率が高く、MR比が十分に得られる場合や、フェリ磁性体層の酸化のおそれが無い場合、形成されなくても構わない。
(実施例2)
次に、本発明に係る実施例2を以下に示す。本実施例は、実施例1に示した磁気抵抗効果素子において、フェリ磁性体層5に用いたGdFeCoの希土類金属(Gd)と3d遷移金属(Fe,Co)との組成比を一定とし、FeとCoの組成比を変化させたものである(組成比は下記表1参照)。また、表1に示したサンプル2−1からサンプル2−6までのサンプルは、何れも、図9(a)および(b)に示したように、補償温度(Tcomp)近傍の温度においてフェリ磁性体層5の磁化方向が層形成面に対して垂直な方向に傾いた(立ち上がった)磁化方向を示し、補償温度(Tcomp)から離れるに従って層形成面の面内方向に磁化方向が遷移するサンプルであった。なお、本実施例の磁気抵抗効果素子は、フェリ磁性体層15におけるFeとCoの組成比を変化させた以外は、実施例1の磁気抵抗効果素子と同じ構成、同じ製法で作製したものである。従って、実施例1で既に説明した内容についてはその説明を省略する。
(実施例2における磁気抵抗効果素子の特性評価)
上記表1に示した組成比を有するフェリ磁性体層をそれぞれ備えた磁気抵抗効果素子について、MR比が最大となる温度、および、当該温度におけるMR比の値を測定した。この結果も合わせて表1に示した。なお、MR比の測定は実施例1と同じ方法を用い、外部磁界の印加範囲は±100Oe(約8kA/m)とした。また、MR比の値は実施例1と同様に、磁界が0Oe(0A/m)の状態における、正方向に外部磁界を掃引した場合と、負方向に外部磁界を掃引した場合とのMR比の差とした。また、本実施例におけるCoとFeの組成比を変化させた例では、何れのサンプルにおいても、保磁力が理論上無限大となる補償温度(Tcomp)は室温(25℃)近傍にあった。従って、何れの素子においても25℃におけるMR比(磁界が0Oe(0A/m)の状態における、正方向に外部磁界を掃引した場合と、負方向に外部磁界を掃引した場合とのMR比の差)は0%であった。
表1に示すように、MR比が最も大きくなる温度は、Feに対するCoの比率の増加に伴って低くなっており、このことから、Co比率の高い素子ほど温度変化に対してMR比の急峻な変化が得られる素子であることが明らかとなった。この原因は、Feに比べてキュリー温度(Tc)の高いCoの比率が増すことで、フェリ磁性体層5のキュリー温度が高くなり、これに伴って、補償温度(Tcomp)からキュリー温度(Tc)に向かう間の自発磁化量(MTotal=MTM−MRE)が大きくなることに起因している。すなわち、自発磁化量と保磁力とは反比例の関係にあるため、補償温度(Tcomp)の近傍の温度まで相対的に大きな自発磁化量を示すCo比率の高い組成では、補償温度(Tcomp)の近傍の温度まで低い保磁力が維持され、補償温度近傍においてのみ保磁力が急激に増大するためであると考えられる。
また、Co比率の増加によって、保磁力が温度に対して急峻な変化を示す現象と同時に、フェリ磁性体層5の磁化方向が層形成面に対して垂直な方向に立ち上がる温度範囲も変化し、Co比率を高めることで補償温度(Tcomp)の極近傍でのみ、磁化の層形成面に垂直な方向への立ち上がりが起こるようになった。具体的には、Co比率の高いサンプル2−5およびサンプル2−6では、補償温度(Tcomp)を挟む10℃以下のごく限られた温度範囲でしか磁化が垂直方向に立ち上がる様子を観察できなかった。
一方、表1に示すサンプル2−1およびサンプル2−2のように、Coに比べてFeの比率が高い素子では、サンプル2−3以下の素子(CoとFeが同程度か、Feに比べてCoの比率が高い素子)に比べて、MR比の最大値が小さくなった。これは、Coに比べてFeの比率が高い素子では、キュリー温度が比較的高いCoよりもキュリー温度が比較的低いFeの成分が多いため、フェリ磁性体層5のキュリー温度が低く、MR比が最も大きくなる温度が上記キュリー温度に近づくために、当該温度におけるフェリ磁性体層5の磁化が不安定であり、サンプル2−3以下の素子に比べてMR比が小さくなったものと考えられる。なお、サンプル2−1のフェリ磁性体層5のキュリー温度を測定したところ250℃であった。以上のようにフェリ磁性体層5は、3d遷移金属成分に含まれるCoとFeの比率が同程度か、もしくはFeに対するCoの比率が高いように設定することで、温度に対してMR比の急峻な変化が得られるとともに、より高いMR比を得ることができることがわかった。
(実施例3)
次に、本発明に係る実施例3を以下に示す。本実施例は、実施例1に示した磁気抵抗効果素子において、フェリ磁性体層5に用いたGdFeCoのFeとCoの組成比は一定とし、希土類金属(Gd)と3d遷移金属(Fe,Co)との組成比を変化させたものである(組成比は下記表2参照)。なお、本実施例の磁気抵抗効果素子は、フェリ磁性体層5における希土類金属と3d遷移金属の組成比を変化させた以外は、実施例1の磁気抵抗効果素子と同じ構成、同じ製法で作製したものである。従って、実施例1で既に説明した内容についてはその説明を省略する。
(実施例3における各磁気抵抗効果素子の測定結果の比較)
上記表2に示した組成比を有するフェリ磁性体層をそれぞれ備えた磁気抵抗効果素子について、補償温度(Tcomp)、MR比が最大となる温度、および、当該温度におけるMR比の値を測定した。この結果も合わせて表2に示した。なお、MR比の測定は実施例1および2と同じ方法を用い、外部磁界の印加範囲は±100Oe(約8kA/m)とした。また、MR比の値についても実施例1および2と同様に、磁界が0Oe(0kA/m)の状態における、正方向に外部磁界を掃引した場合と、負方向に外部磁界を掃引した場合とのMR比の差とした。温度変化の範囲は25℃から200℃までの間とした。また、本実施例では、サンプル3−2から3−5について、補償温度(Tcomp)でフェリ磁性体層5の保磁力が外部磁界(100Oe(約8kA/m))よりも大きく、磁化反転が生じなかったため、補償温度(Tcomp)におけるMR比(磁界が0Oe(0kA/m)の状態における、正方向に外部磁界を掃引した場合と、負方向に外部磁界を掃引した場合とのMR比の差)はすべて0%であった。また、サンプル3−1は補償温度(Tcomp)が25℃以下であったが、25℃下では外部磁界印加範囲よりもフェリ磁性体層5の保磁力が大きかったために、MR比が0%となった。
表2に示すように、補償温度(Tcomp)は、3d遷移金属(Fe,Co)に対する希土類金属(Gd)の比率の増加に伴って高くなった。これは重希土類金属副格子と3d遷移金属副格子が反平行に結合してフェリ磁性体を形成することに起因しており、重希土類金属副格子の成分を増やすことによって、重希土類金属副格子の磁化量と3d遷移金属副格子の磁化量とが相殺する補償温度(Tcomp)が高温側へシフトしたことによるものである。このように重希土類金属と3d遷移金属とからなる希土類遷移金属を用いてフェリ磁性体層5を形成すれば、重希土類金属と3d遷移金属の比率を変えることで補償温度(Tcomp)を任意に設定することができる。
また、表2より、MR比が最大となる温度は、サンプル3−1から3−4では、補償温度よりも高い温度となっており、これらのサンプルは、補償温度よりも高い温度に加熱することで大きなMR比が得られるサンプルとなっている。一方、サンプル3−5は、補償温度が100℃以上と比較的高いため、補償温度よりも低い25℃において最大のMR比が得られた。すなわち、サンプル3−5は、室温近傍の低い温度で大きなMR比が得られ、補償温度近傍に加熱するとMR比が極めて小さくなるサンプルとなっている。このように、本実施例の磁気抵抗効果素子は、重希土類金属と3d遷移金属の組成比を調整することで、MR比が大きくなる温度とMR比が極めて小さくなる温度の何れが、高温側/低温側に来るかを任意に設定できる磁気抵抗効果素子である。
なお、表2に示したサンプルのうちサンプル3−2からサンプル3−5に示したサンプルでは、フェリ磁性体層5の補償温度(Tcomp)が測定温度範囲内(25℃から200℃の間)にあるため、上記補償温度(Tcomp)近傍では、図9に示したように、フェリ磁性体層5の磁化方向が、層形成面に対して垂直な方向に立ち上がる特性を示し、上記補償温度(Tcomp)から離れるに従って磁化方向が面内へと遷移する特性を示した。すなわち、これらのサンプル(サンプル3−2からサンプル3−5)は、補償温度(Tcomp)近傍の温度下では、磁化が層形成面に対して垂直な方向に立ち上がった状態となっており、保磁力が増加する特性と合わせて、MR比を特に低く抑えることができる一方、補償温度(Tcomp)から離れた温度下では、磁化が層形成面に対して平行に成ると共に、保磁力が小さくなり、小さな外部磁化を検出できるとともに高いMR比が得られるサンプルであった。
なお、サンプル3−1は、補償温度(Tcomp)が室温よりも低い温度にあり、室温以上の温度ではフェリ磁性体層5の磁化方向が常に面内であった。すなわち、層形成面に対して垂直な方向に立ち上がる特性は見られなかった。しかしながら、サンプル3−1においても、温度変化に伴ってMR比が大きく変化する様子が見られ、層形成面に対して垂直な方向に立ち上がる特性は、MR比の温度変化に必須ではなく、面内磁化膜をフェリ磁性体層5に用いても保磁力が変化することでMR比の温度変化が得られることが確認できた。
なお、本実施例では測定温度範囲を25℃から200℃としたために、サンプル3−1から3−4は高温側で、サンプル3−5は低温側で、それぞれMR比が大きくなったが、フェリ磁性体層5に用いたフェリ磁性を持つ希土類遷移金属の保磁力Hcは補償温度(Tcomp)の高温側でも低温側でも温度変化に対して急激に低下するので、何れのサンプルについても温度範囲を広げれば補償温度の高温側であっても低温側であっても高いMR比を得ることができる。
(実施例4)
次に、本発明に係る実施例4を以下に示す。実施例4では、上述の図4に示した磁気抵抗効果素子20の特性を評価すべく、磁気抵抗効果素子20と同構成の試料を作製した。本実施例は、高透磁率層18以外、実施例1と符号の1の位が同じ層及びシード層(図示せず)は同様の構成及び製造方法であるので、同様部分の説明については省略する。
なお、高透磁率層18は、膜厚3nmのNiFe膜とした。本実施例の磁気抵抗効果素子についても、実施例1と同様に上部電極層16の上に保護膜(図示せず)としてSiO2を100nmの膜厚で形成した後、500Oe(約40kA/m)の磁場中で250℃1時間の磁場中アニールを行って磁化固定層23の固定を行った。このような磁気抵抗効果素子を実施例4の試料とする。
(実施例1と実施例4との測定結果の対比)
上記の方法で作製した実施例1及び5の磁気抵抗効果素子のMR比を、磁気抵抗効果素子をヒータで150℃に加熱した状態で、外部磁界に対して測定した結果を図10に示す。また、高透磁率層が形成されていない実施例1の磁気抵抗効果素子20の特性についても合わせて示した。MR比の測定方法は実施例1と同じ方法を用い、外部磁界の印加範囲は±1kOe(約80kA/m)とした。図10にはそのうち±100Oe(約8kA/m)の磁界範囲について示した。
図10に示したように、本実施例の磁気抵抗効果素子は、実施例1の磁気抵抗効果素子よりも面内磁化層17、高透磁率層18、フェリ磁性体層15からなる磁化自由層の保磁力が小さくなり、より磁界感度の高い素子であった。具体的には実施例1の磁化自由層(面内磁化層17とフェリ磁性体層15からなる)の保磁力が30Oe(約2400A/m)程度であったのに対し、本実施例の磁気抵抗効果素子では10Oe(約800A/m)未満となった。これは、高透磁率層18に用いたNiFeが磁化自由層25に用いたGdFeCoよりも透磁率が高く、低保磁力であるため、外部磁界の変化に対してより敏感に反応し、高透磁率層18と接するフェリ磁性体層15が、高透磁率層18との間の交換結合力によってより低磁界で磁化反転したことによるものと考えられる。このように、本実施例の磁気抵抗効果素子は、磁界に対する感度が高く、再生用磁気センサーとして良好な特性を提供できる。
なお、フェリ磁性体層15と面内磁化層17、および高透磁率層18とを合わせた膜厚は20nm以下であることが望ましい。フェリ磁性体層15と面内磁化層17、および高透磁率層18とを合わせた膜厚が20nmを超えると、これと同程度のサイズの局所的な外部磁界変化を検出しにくくなり、例えば、再生用磁気センサーに用いる場合に空間分解能が悪化するおそれがあるからである。
また、高透磁率層18の単層での膜厚は2nm以上15nm以下であることが好ましい。高透磁率層18の膜厚が2nmよりも薄いと、外部磁界に対する感度が不十分で、磁化自由層の保磁力を小さくする効果が得られなくなるおそれがある。また、高透磁率層18の膜厚が15nmよりも厚いと、フェリ磁性体層15の保磁力の温度変化を、高透磁率層18が打ち消してしまい、温度変化に伴うMR比の変化が小さくなってしまうおそれがあるからである。
なお、本実施例では、面内磁化層17とフェリ磁性体層15との間に高透磁率層18を形成した例について示したが、高透磁率層18は、フェリ磁性体層15と交換結合力又は静磁気的な結合力で磁気的に結合したものであればよく、例えば、面内磁化層17とフェリ磁性体層15とが形成された後、高透磁率層18が形成されていても良い。又は、フェリ磁性体層15と高透磁率層18との間に2nm以下程度の非磁性体薄膜が形成されて静磁気的な結合をしていても構わない。さらには、磁化自由層を先に形成し、磁化固定層を後から形成するいわゆるトップ型の磁気抵抗効果素子では、本実施例とは逆の順で、すなわち、フェリ磁性体層15、高透磁率層18、面内磁化層17の順(図示せず)や、高透磁率層18、フェリ磁性体層15、面内磁化層17の順(図示せず)に形成されていても構わない。
(実施例5)
次に、本発明に係る実施例5を以下に示す。実施例1から4においては、フェリ磁性体層としてGdFeCo又はGdCoを用いた例について示したが、本実施例では、他の希土類遷移金属から成るフェリ磁性体層について示す(希土類遷移金属の種類及び組成比は下記表3参照)。なお、磁気抵抗効果素子に含まれるフェリ磁性体層以外の層については実施例1に示した構成、製法と同じ構成、および製法を用いた。
上記表3に示した希土類遷移金属の種類及び組成比を有するフェリ磁性体層をそれぞれ備えた磁気抵抗効果素子の、150℃におけるMR比、および、150℃におけるフェリ磁性体層についての保磁力Hcを測定した。その結果は表3に合わせて示した。なお、MR比の測定は実施例1の方法と同じ測定方法とし、外部磁界を±1kOe(約80kA/m)の範囲で印加してMR比を測定し、磁界が0Oe(0A/m)の状態における正方向に外部磁界を掃引した場合と、負方向に外部磁界を掃引した場合とのMR比の差を示した。なお、表3に示した何れの材料を用いた場合も、25℃におけるフェリ磁性体層の保磁力は1kOe(約80kA/m)以上であり、このため25℃におけるMR比(磁界が0Oe(0A/m)の状態における正方向に外部磁界を掃引した場合と、負方向に外部磁界を掃引した場合とのMR比の差)は全てのサンプルで0%となった。
表3に示すように、Gd以外にも、Tb,Dy,Hoから選ばれる何れの重希土類金属を用いた場合において(サンプル6−1から6−3)、150℃において20%を超えるMR比が得られており、フェリ磁性体層として好適であることが明らかとなった。また、GdFeCoNi(サンプル6−4)についても同様に、150℃で32%のMR比が得られ、3d遷移金属元素としてFe,Co以外に、Niを用いても良いことが明らかとなった。一方、これらのサンプルの180℃における保磁力Hcに着目すると、Gd、Hoを用いた場合に100Oe(約8kA/m)を切る保磁力が実現できており、重希土類金属としてGd又はHo又は、GdとHoの両方を選択することが特に望ましい。
さらに、表3に示した重希土類金属元素と3d遷移金属元素とからなるフェリ磁性体層に対して、B,Pt,Ru,Ta,Ti,Crから選ばれる元素を添加した場合についてもMR比の温度変化を測定したところ、実施例1や本実施例と同様に、25℃で全く現れなかったMR比が温度変化に伴って現れる現象が見られ、これらの元素を添加しても良いことが分かった。
以上のように、本発明の磁気抵抗効果素子に用いるフェリ磁性体層の材料は、互いに反平行な方向を向く2種類の磁性金属元素を組み合わせたフェリ磁性体であって、温度に対してそれぞれの副格子の磁化量が異なる減少傾向を示すことで、温度によって保磁力が大きく変化する材料であれば適用可能である。このためには、特に、重希土類金属元素と3d遷移金属元素とを組み合わせて用いることが好適である。さらには、上記のフェリ磁性体に加えてB,Pt,Ru,Ta,Ti,Crから選ばれる材料を添加しても同様の効果を得ることができる。
なお、本実施例のフェリ磁性体層の材料は上記の希土類遷移金属に限るものではなく、フェリ磁性体のうち、フェライトやガーネット型酸化物、希土類鉄ガーネットのような、補償温度を持つ酸化物フェリ磁性体であっても構わない。具体的には、LiFeCrO(Li−Crフェライト)や、NiFeAlO(Ni−Alフェライト)、YGaFeO(Ga置換YIG)、GdFeO(Gd−Feガーネット)を用いることができる。これらの材料の補償温度(Tcomp)近傍と、その高温側もしくは低温側を用いることで、実施例1から5に示した各磁気抵抗効果素子のフェリ磁性体層として適用できる。
(実施例6)
次に、本発明に係る実施例6を以下に示す。実施例1から実施例5では、温度によって層形成面に対する磁化の角度が変化するフェリ磁性体層をフェリ磁性体層に用いた例を示したが、本実施例ではフェリ磁性体層を磁化固定層に用いた例を示す。
図11に示したように、本実施例の磁気抵抗効果素子30は基板21上に下部電極層22、磁化固定層23、非磁性体層24、磁化自由層25、上部電極層26が順に形成されたものである。本実施例では、基板21として、表面を熱酸化処理したSi基板を、下部電極層22および上部電極層26としてCuを、磁化固定層23のうち反強磁性層23aとしてMnIrを、フェリ磁性体層23bとしてTbFeCoを、非磁性体層24としてAlを酸化させた酸化Alを、磁化自由層25としてCoFeとNiFeとを積層して、それぞれ用いた。
なお、下部電極層22の形成に当たっては、基板21と下部電極層22の密着性を高め、下部電極層22の表面粗度を制御する目的で、下部電極層22を形成するのに先立ってTaから成るシード層(図示しない)を形成した。
また、磁化固定層23の形成に当たっては、下部電極層22と磁化固定層23との間の密着性を高め、磁化固定層23および磁化固定層23以降に形成される種々の層の結晶粒径や結晶構造、表面粗度を制御する目的で、磁化固定層23を形成するのに先立ってTaとNiFeおよびCuを積層したシード層(図示しない)を形成した。
また、上部電極層26の形成に当たっては、磁化自由層25と上部電極層26の密着性を高め、上部電極層26の表面粗度を制御する目的で、上部電極層26を形成するのに先立ってTaから成るシード層(図示しない)を形成した。
さらにフェリ磁性体層23bに用いる希土類金属(本実施例ではTb)が非磁性体層24の酸化Alに含まれる酸素によって酸化されることを防ぐ目的で、磁化固定層23と非磁性体層24との間に面内磁化層27としてCoFeを形成した。
ここで、本実施例に示す磁気抵抗効果素子30の作製方法について詳細に説明する。なお、以下の文中に示す膜厚とは、基板上に各材料の単層膜を100nm程度の膜厚で形成し、触針式段差計を用いてその膜厚を測定、測定された膜厚と成膜時間から算出した成膜レートを基に記述している。また、本実施例に示す磁気抵抗効果素子の成膜には、Ta,Cu,MnIr,CoFe,NiFe,TbFeCo,Alのターゲットを有する成膜チャンバーを備えたマグネトロンスパッタリング装置を用いた。なお、成膜はいずれもArガス雰囲気中でDCスパッタリングによって行った。以下、本実施例の磁気抵抗効果素子30の作製工程を順に示していく。
まず、基板21として表面を熱酸化処理したSi基板を用い、スパッタリング装置内で1×10-6Paまで真空引きした後、Arガスを導入し、1×10-1PaのAr雰囲気中でTaターゲットに給電し、下部電極層32の形成に先立つシード層(図示せず)としてTaを5nmの膜厚で成膜した。
続いて、Cuターゲットに給電し、下部電極層22としてCuを50nmの膜厚で成膜した。そして、磁化固定層23の形成に先立つシード層(図示せず)として、TaとNiFeおよびCuをそれぞれ5nm、2nm、5nmの膜厚で積層して形成した。
続いて、MnIrターゲットに給電し、反強磁性層23aとしてMnIrを膜厚15nmで形成した後、フェリ磁性体層23bとしてTbFeCoを5nmの膜厚で形成し、これらを磁化固定層23とした。ここでフェリ磁性体層23bは、室温において層形成面方向から傾いた磁化方向を有し、150℃において磁化が層形成面方向と平行(面内磁化層)となるように組成調整した層である。具体的には、Tbを6at%、Feを19at%、Coを75at%の比率とした。
そして、面内磁化層27としてCoFeを2nmの膜厚で形成した。さらに続いて、非磁性体層24としてAlを1.0nmの膜厚で形成した後、チャンバー内にO2ガスを導入し、O2雰囲気中でAlを酸素暴露して酸化し、酸化Al膜とした。
続いて、非磁性体層24上に、磁化自由層25としてCoFeとNiFeをそれぞれ2nmと15nmの膜厚で形成した。そして、上部電極層26の形成に先立つシード層(図示せず)としてTaを5nmの膜厚で成膜し、Cuターゲットに給電して、上部電極層26としてCuを50nmの膜厚で成膜した。
以上の手順で作製した素子の上部電極層26上に、保護膜としてSiO2を100nmの膜厚で形成した後、500Oe(約40kA/m)の磁場中で250℃1時間の磁場中アニールを行って磁化固定層23の固定を行った。
上記の方法で作製した本実施例の磁気抵抗効果素子30のMR比について、温度に対して測定した結果を図12に示す。なお、測定に際しては、5mV一定の電圧を素子に印加しておき、電磁石を用いて磁気抵抗効果素子の層形成面と平行方向に±4kOe(約320kA/m)の範囲で外部磁界を印加して、磁気抵抗効果素子40をヒータで加熱しながら、MR比を測定した。外部磁界の印加方向は磁場中アニールを行った際に印加した磁場の方向と平行となるようにした。
図12に示したように、本実施例の磁気抵抗効果素子は、室温からの温度上昇に伴ってMR比が大きくなり、150℃において最もMR比が大きくなり、21%のMR比が得られた。これは、室温で面内方向から傾いた方向の磁化を有する磁化固定層23、より具体的にはフェリ磁性体層23bの磁化が、温度上昇に伴って磁化方向を層形成面と平行な方向に変化させたことによるものである。これによって、室温よりも高い温度において、室温よりも高いMR比を得ることができた。
なお、フェリ磁性体層23bの組成比を調整することによって、MR比が最も大きくなる温度を調整することが可能である。具体的には、遷移金属に対する希土類金属の割合を高めればMR比が最も大きくなる温度は高くなり、逆に遷移金属に対する希土類金属の割合を低くすればMR比が最も大きくなる温度を低くすることができる。
また、本実施例ではフェリ磁性体層23bとしてTbFeCoを用いた例について示したが、室温で磁化が室温と高温とで層形成面に対する磁化方向が変化する材料であればよく、これに限るものではない。特に、希土類遷移金属合金を用いれば、この特性を示すフェリ磁性体層23bを形成することができる。
また、本実施例では、反強磁性層23aを用いてフェリ磁性体層23bを交換結合力でもって固定するスピンバルブ型の磁気抵抗効果素子について示したが、磁化固定層23は必ずしも交換結合した反強磁性層23aとフェリ磁性体層23bとによって形成される必要はなく、保磁力の大きなフェリ磁性体からなる単層としてもよい。また、保磁力の大きな強磁性膜と保磁力の小さな強磁性膜とを交換結合させ、その何れか少なくとも一方にフェリ磁性体を含むものを磁化固定層としてもよく、さらには、複数の強磁性材料で非磁性材料を挟み、上記複数の強磁性材料を静磁気的に結合させることによって見かけ上保磁力を高めた固定層(いわゆるシンセティック構造)を用い、上記複数の強磁性材料の一部にフェリ磁性体を用いたものであっても良い。
本実施例のように固定層に感熱磁性層を用いる場合、室温下では感熱磁性層の磁化方向が面内から傾いた方向となっているため、磁場中アニールによって固定された磁化方向が層形成面から立ち上がることで反転してしまう可能性がある。このため、固定層に感熱磁性層を用いたデバイスを作製する場合には、固定層と静磁的又は交換結合した永久磁石を隣接して、又は非磁性体を介して形成することが望ましい。これによって、層形成面から傾くことで不安定となる固定層の磁化方向を再度固定することが可能となる。
(実施例7)
次に、本発明に係る実施例7を以下に示す。本実施例では、実施例4で示した磁気抵抗効果素子20(図4参照)を加工して再生用磁気センサーを作製し再生特性を調べた例を示す。
図13には、本実施例で作製した再生用磁気センサーに用いる磁気抵抗効果素子40の膜構成概略図を示す。磁気抵抗効果素子40は、実施例4で示した磁気抵抗効果素子20にリソグラフィによるパターニングを施し、下部電極層32上の磁気抵抗効果素子を削り出した後、磁気抵抗効果素子の両側に絶縁体39と磁気特性を安定化させるための永久磁石41を形成し、上部電極層36上に残った絶縁体39と永久磁石41とを研磨処理によって削り取ったものである。上記パターニングに際しては、素子幅WE(=フェリ磁性体層35の幅)が0.4μmとなるように素子を加工した。なお、永久磁石41は、図13に示すように永久磁石41と、フェリ磁性体層35、高透磁率層38及び面内磁化層37との間に絶縁体39が形成されていてもよいし、フェリ磁性体層35、高透磁率層38及び面内磁化層37と直接接していても構わない。図14には、この磁気抵抗効果素子40とほぼ同構成の磁気抵抗効果素子を用いた再生用磁気センサー50、加熱手段49によって加熱された加熱昇温領域43、磁気記録媒体44の位置関係を示す概略図を示した。
本実施例で用いた再生用磁気センサー50は、図13に示した磁気抵抗効果素子40とほぼ同構成の磁気抵抗効果素子を、アルチック(Al2O3・TiC)からなる架台46上に形成したものであって、磁気抵抗効果素子42の上下には隣接ビットからの漏れ磁束の影響を抑制するための下部磁気シールド47および上部磁気シールド48を形成している。
再生用磁気センサー50の具体的な作製方法は以下の通りである。まず、架台46上にメッキ法を用いてNiFeからなる下部磁気シールド47を膜厚1μmで形成した。続いて下部磁気シールド47と磁気抵抗効果素子40とが導通することを防ぐためにAl2O3からなる絶縁層(図示しない)を、スパッタ法を用いて膜厚100nmで形成した。続いて、この絶縁層を図13における磁気抵抗効果素子40の基板32として見立てて、磁気抵抗効果素子40と同構成の磁気抵抗効果素子42を形成した後、この磁気抵抗効果素子42と上部磁気シールド48とが導通することを防ぐためにAl2O3からなる絶縁層(図示しない)を、スパッタ法を用いて膜厚100nmで形成した。さらに続いて、メッキ法を用いてNiFeからなる上部磁気シールド48を膜厚1μmで形成した。このようにして配置形成された磁気抵抗効果素子42に対し、上下電極にセンス電流を供給するための電極45を取り出して、再生用磁気センサー50とした。なお、図14において、磁気抵抗効果素子42は、図13における紙面が磁気記録媒体44の表面と対向するように配置されている。
加熱昇温領域43を形成する加熱手段49として、本実施例では、波長405nmのGaN系半導体レーザー光源49aを用い、NA(開口数)が0.65のレンズ49bを用いてレーザー光を集光した。これを再生用磁気センサー50の端部近傍に対して照射することによって、加熱昇温領域43を形成した。本実施例では、集光したレーザー光を再生用磁気センサー50端部に照射して、再生用磁気センサー50(より具体的には磁気抵抗効果素子42)のトラック幅方向の中心近傍領域を加熱した。
図15は、本実施例の磁気抵抗効果素子42(サンプル1)と、フェリ磁性体層を有しない従来の磁気抵抗効果素子(比較サンプル1)とをそれぞれ図14で説明した再生用磁気センサーに加工して用いた際の出力電圧をトラック幅に対して示したものである。ここで、比較サンプル1に用いた磁気抵抗効果素子は、サンプル1の本実施例の磁気抵抗効果素子42の作製法において、面内磁化層としてCoFeを2nmの膜厚で形成した後、フェリ磁性体層を形成せずに、高透磁率層(図示せず)としてNiFeを13nmの膜厚で形成したものである。
測定に用いた磁気記録媒体44は、従来のハードディスク用記録媒体として用いられる、NiP/Al基板上に作製したCoCrPtBグラニュラー型垂直磁気記録媒体とした。上記垂直磁気媒体には、予め記録用磁気ヘッド(図示しない)を用いて外部磁界を掛け、トラック幅WTを変化させて記録マークを形成しておいた。垂直磁気記録媒体に記録されたトラック幅WTは、磁気力顕微鏡(MFM:Magnetic Force Microscope)を用いて観察して同定した。また、本実施例では、再生用磁気センサー50に0.5mAのセンス電流を加えて測定した。光ビームの照射に際しては、再生信号出力電圧が最も大きくなるように光ビームの照射パワーを調整した。また、比較サンプル1については、サンプル1に対して照射した照射パワーと同じ照射パワーで光ビームを照射しながら出力電圧を測定した。
図15に示すように、比較サンプル1では、0.5μm以上のトラック幅では、出力電圧が得られるが、素子幅WE(=0.4μm)以下のトラック幅では、出力電圧が低下し、トラック幅が0.2μmでは出力電圧は得られなかった。これは、比較サンプル1では、素子幅WEを下回るトラック幅WTを再生する場合、隣接するトラックからの漏れ込み磁界をも同時に検出してしまうために出力電圧が低下したものである。
一方、サンプル1では、素子幅WEを下回るトラック幅でも高い出力電圧を維持しており、0.2μmのトラック幅においても出力電圧を得ることができた。これは、サンプル1では、レーザー光照射によって加熱された素子中心部付近のみで大きな磁気抵抗効果が生じるため、素子幅WEよりも狭いトラック幅であっても隣接するトラックからの漏れ込み磁界が検出されないためである。すなわち、サンプル1の磁気抵抗効果素子の中心部付近では、レーザー光照射によって温度上昇したフェリ磁性体層の保磁力が磁気記録媒体44からの漏洩磁界よりも小さくなり、磁気記録媒体44からの漏洩磁界を検出して磁化反転するが、素子エッジ部(図13における磁化自由層(フェリ磁性体層35、高透磁率層38及び面内磁化層37)と絶縁体39との接触部分の近傍領域の磁化自由層側部分)では、素子中心部よりも温度が低いために、フェリ磁性体層35の保磁力が磁気記録媒体44からの漏洩磁界よりも大きく、漏洩磁界による磁化反転を起こさない。すなわち、素子エッジ部において隣接トラックの信号を読み出すことが無い。このようにして、素子幅WEよりも小さなトラック幅に対する信号検出が可能な素子となっている。
以上のように、本実施例の磁気抵抗効果素子を用いれば、素子幅によらず、加熱手段によってフェリ磁性体層35の保磁力が磁気記録媒体44からの漏洩磁界よりも小さくなる温度以上に加熱された領域の幅で分解能が決定される。従って、素子幅、すなわち磁化自由層の幅よりも狭いトラック幅に対する信号検出が可能であり、また、媒体の高密度化に伴ってトラック幅が狭くなっても、微細加工のみによって素子幅をトラック幅以下に抑える必要がなく、素子の加工が容易になる。さらに、磁気抵抗効果素子42の中心部のみで磁化情報を検出することから、素子エッジ部で発生する閉磁路や永久磁石41に固着されて反転しにくくなった磁化が再生特性に与える影響を抑制できる。
なお、本実施例では、0.4μmの素子幅で磁気抵抗効果素子の特性を比較した結果を示したが、より狭いトラック幅においても、原理的に本実施例の磁気抵抗効果素子の方が素子幅WEよりも狭いトラック幅に記録された磁気記録情報を再生できることは明らかである。
また、本実施例で用いた波長405nmの光ビームを用い、開口数NAが0.65の光学系で集光照射した場合、スポット径(1/e2:eは自然対数の底))は0.5μm程度であり、本実施例で用いた素子幅WEよりも大きい。しかしながら、本発明の磁気抵抗効果素子は、光ビームが当たった領域のうち、中心付近の温度上昇した部分、すなわち、本実施例においては、150℃近傍以上に昇温された部分のみで記録媒体からの漏洩磁界を検出することができる。このように、光ビームのスポット径は必ずしも素子幅WEよりも小さい必要はなく、スポット径以下の分解能で記録情報の再生が行えるとともに、レーザー光の照射強度を変化させることによって、再生分解能を制御できる。
また、本実施例では、素子加熱手段として再生用磁気センサーと別個に配置された光ビームを加熱手段の一例として示したが、素子加熱手段はこれに限るものではなく、例えば、磁気抵抗効果素子と一体に形成された半導体レーザー光源を用いてもよく、近接場光を発生する微小開口や微小突起形状を有する開口を再生用磁気センサーに一体形成しておき、半導体レーザー光源から発せられた光を、微小開口や微小突起形状を有する開口に照射することで生じる近接場光でもって磁気抵抗効果素子を加熱しても構わない。後述する実施例8においても同様である。
近接場光を発生するのに利用される微小開口や微小突起形状を有する開口は、光源波長よりも小さいサイズで形成され、光源波長よりもさらに小さな光スポット径を実現できる。これによって極めて高い分解能でもって媒体の記録情報を再生できる。具体的には、例えばFIB(Focused Ion Beam)を用いたエッチングによって金属板に形成された100nm以下の微小開口(図16(a)、(b)参照:)又は微小突起形状を有する開口(図16(c)、(d)参照)を再生用磁気センサー50上に形成できる。ここに紙面奥行き方向に平行レーザー光を照射すれば100nm以下のスポット径が実現でき、同等サイズ又はそれ以下の加熱昇温領域43が形成可能であるため、本発明の磁気抵抗効果素子および再生用磁気センサーに好適な加熱手段となる。さらには、素子局所加熱源として、ヒータに代表されるような、光以外の加熱源を用いても構わない。後述する実施例8においても同様である。なお、図16(a)〜(d)においては、各図の斜線部分が金属マスクを表しており、斜線のない部分は何もないか、透過性の基体(例えば石英やガラス)である。
また、磁気抵抗効果素子42の加熱方法は、本実施例のように加熱手段が磁気記録媒体44を加熱した輻射熱によって二次的に磁気抵抗効果素子42の中心部が加熱されるものであってもよく、又は、加熱手段が磁気抵抗効果素子42を直接加熱する方法であってもよく、さらにはその両方を用いるものであっても構わない。後述する実施例8においても同様である。
本実施例に示した再生用磁気センサー50は、これと一体化して記録用磁気ヘッドを形成しても構わない。後述する実施例8においても同様である。
また、本実施例では、集光したレーザー光を再生用磁気センサー50端部に照射し、磁気抵抗効果素子42の中心近傍(トラック幅方向の中心近傍)の領域を加熱したが、このほかにも、集光したレーザー光を再生用磁気センサー50端部近傍の磁気記録媒体44に照射し、磁気記録媒体44を加熱して、その輻射熱で磁気抵抗効果素子42の中心近傍の領域を加熱しても構わない。このとき、磁気記録媒体44は、図14に示す媒体移動方向に移動しており、加熱昇温領域43は加熱手段によって加熱された直後に、再生用磁気センサー50の下を通過する。これによって効率的に輻射熱が再生用磁気センサー50(より具体的には磁気抵抗効果素子42)の中心部を局所加熱することができる。後述する実施例8においても同様である。
また、本実施例で示した再生用磁気センサー50の磁気記録媒体44と対向する対向面には、磁気記録媒体44との擦れによる摩耗を防ぐ目的や、磁気抵抗効果素子42の特性が酸化によって劣化することを防ぐ目的で、保護膜が形成されても良い。後述する実施例8においても同様である。
(実施例8)
次に、本発明に係る実施例8を以下に示す。本実施例では、実施例7において磁気記録媒体54に用いたCoCrPtBグラニュラー媒体に代わり、1.2mm厚のガラス基板上に、Alを5nm、TbFeCoを50nm、AlNを2nm、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)を2nmの膜厚でそれぞれ形成した希土類遷移金属垂直磁気記録媒体を用い、トラック幅WTに対する信号出力を調べた。なお、磁気記録媒体44以外については実施例7と同一の部材および測定方法を用いた。
本実施例で用いた磁気記録媒体はTbFeCoの組成が室温で補償温度(Tcomp)近傍となるように設定されており、室温下ではほとんど漏洩磁界が出ないが、室温よりも高くキュリー温度以下の温度では漏洩磁界を生じる磁気記録媒体である。上記磁気記録媒体は、室温での保磁力が大きく記録用磁気ヘッドのみでは記録できないため、予めレーザー光を照射して媒体をキュリー温度以上に昇温しておき、記録用磁気ヘッド(図示しない)を用いて外部磁界を掛け、トラック幅WTを変化させて記録マークを形成しておいた。垂直磁気記録媒体に記録されたトラック幅WTは、磁気力顕微鏡(MFM:Magnetic Force Microscope)を用いて観察して同定した。実施例7と同様の方法で測定した、磁気記録媒体に記録された磁気記録情報のトラック幅に対する出力電圧の結果を実施例7の出力電圧の結果とともに図17に示す。
図17に示すように、本実施例では、実施例7に比べてさらに狭いトラック幅まで信号出力が得られ、トラック幅方向の再生分解能がさらに高まっていることがわかる。これは、実施例7と同様に、本発明の磁気抵抗効果素子42の中心部近傍が加熱され、再生用磁気センサー50のトラック幅方向の分解能が高まったことに加えて、本実施例では、磁気記録媒体が室温ではほとんど漏洩磁界を出さず、高温下でのみ漏洩磁界を生じる媒体であるために、加熱手段によって加熱昇温領域43が形成されたトラック中心近傍の磁化のみが漏洩磁界を発したことによって、隣接するトラックからの漏れ込み磁界がより一層検出されにくくなったことによるものである。このように、磁気抵抗効果素子42および再生用磁気センサー50は、磁気記録媒体として、温度によって漏洩磁界の大きさが変化する磁気記録媒体、具体的には例えば、希土類遷移金属合金を用いた磁気記録媒体と共に用いることがより望ましい。上記温度によって漏洩磁界の大きさが変化する磁気記録媒体と共に用いることで、より高い分解能で磁気記録情報を再生することが可能となる。
なお、実施例7および8で用いた再生用磁気センサー50とほぼ同構成の再生用磁気センサーについて、加熱源にレーザー光源を用いる場合にさらに好適な配置を以下に開示する。実施例7および実施例8では、図14に示すように磁気記録媒体54の対向面に対して磁気抵抗効果素子42の積層方向を垂直に配置する例を示したが、本実施例では、図18に示すように、磁気記録媒体54の対向面に対して磁気抵抗効果素子52を斜めに配置した再生用磁気センサー60の例を示す。
図14に示すように、磁気記録媒体54の対向面に対して磁気抵抗効果素子52の層形成面を垂直に配置する方式では再生用磁気センサー60のごく近傍にレーザー光源から発せられた光ビームを照射し、加熱昇温領域53を形成しようとすると、再生用磁気センサー60が光ビーム経路の一部に干渉しやすくなり、加熱昇温領域53における光量を減少させずに照射することが難しい。このような光ビーム経路への再生用磁気センサー60の干渉は、特に光ビームをレンズで集光する系において起こり易く、さらに高い開口数(NA)の光学系を用いて集光するほど(光ビームを小さく絞り込むほど)顕著となる。
そこで、図18のように磁気抵抗効果素子52の積層方向に垂直な面を磁気記録媒体54表面に対して傾けて配置すれば光ビームの径路を再生用磁気センサー60が干渉せず、磁気記録媒体54の真上から光ビームを照射しても加熱昇温領域53における光量の減少を防ぐことができる。
さらには、図14のように磁気抵抗効果素子42の層形成面を磁気記録媒体44の対向面に対して垂直に配置する場合に比べて、加熱昇温領域53近傍における再生用磁気センサー60の厚みを薄くできる。すなわち、光ビームを照射した際の再生用磁気センサー60の加熱効率を高めることができる。
なお、本発明の磁気抵抗効果素子の分解能は、素子幅によらず、加熱手段によって一定温度以上に加熱された領域の大きさで決まるため、磁気抵抗効果素子を図14、図18のように、磁気記録媒体の対向面に対して垂直および斜めに配置した状態で、磁気記録媒体のトラック長さ方向に磁気抵抗効果素子の素子幅方向を、トラック幅方向に磁気抵抗効果素子の膜厚方向を対応させて(媒体対向面で90度回転させた方向に)再生用磁気センサー50、60を配置して用いることも可能である。
(実施例9)
次に、本発明に係る実施例9を以下に示す。図19に本実施例の磁気記録再生ヘッドを示す。図19に示した磁気記録再生ヘッド71は、磁気記録媒体が回転移動した際に発生する空気流によって磁気記録再生ヘッド71を浮上させるためのエアベアリング面72が加工されたアルチック(Al2O3・TiC)等からなるヘッド基体73上に、下部磁気シールド74、光導波路75、磁気抵抗効果素子70、絶縁層76、上部磁気シールド77が順に形成され、さらに、磁気記録媒体に情報を記録するための薄膜コイル78と磁極79が形成されたものである。また、磁気記録再生ヘッド71上部には、光導波路75と接して、透明誘電体膜80と面発光レーザー光源81が形成されている。なお、磁気抵抗効果素子70は、上述の実施形態及び実施例に示した磁気抵抗効果素子のいずれか一つである。
本実施例の磁気記録再生ヘッドでは、磁気記録媒体に垂直磁気記録を行うために、上部磁気シールド77は磁極79から発せられた磁界が磁気記録媒体から戻る戻り磁極の役割も兼ねる。また、面発光レーザー光源81には例えば波長が405nm近傍のレーザー光を発するGaN系の面発光レーザー光源を用いる。
なお、本実施例の磁気記録再生ヘッド71は以下の手順で形成される。まず、アルチック(Al2O3・TiC)からなるヘッド基体73上に、スパッタ法又はメッキ法によって、NiFeからなる下部磁気シールド74を膜厚1μmから3μmで形成する。
続いて、光導波路75として透明高屈折率材料を、スパッタ法を用いて膜厚100nmから400nm程度で形成する。上記透明高屈折材料としては、例えばZnO,ZnS,TiO2,PbTiO2,Pb3O4,PbCrO4,Cr2O3,ZrOから選ばれる材料を選択することができる。上記光導波路75の膜厚dは光源として使用する面発光レーザー光源81の波長λと光導波路75に用いる材料の屈折率nから算出し、d≧λ/nとすることが望ましい。これによって、光導波路75中での光の減衰を抑制することができる。例えば屈折率nが2.37のZnSを用い、光源波長λを405nmとする場合には、光導波路75の膜厚dは170nm以上とすることが望ましい。
ここで図20は図19の磁気記録再生ヘッドのA−A矢視断面図である。図20に示すように、光導波路75は膜形成後に、下部が細くなるように加工を施す。具体的には、光導波路75上にレジストパターンを形成し、光導波路75を残す領域以外の領域をエッチング処理やミリング処理を施すことで除去する。
図20に示す光導波路75の幅は、光導波路75の上部では面発光レーザー光源81からの光が効率良く伝播するように1μmから2μm程度と広く、下部では光の絞込みを行うとともに後に形成される磁気抵抗効果素子70を加熱する熱を発生するようにλ/n以下に細く形成されている。
光導波路75下部は、その幅が、磁気抵抗効果素子70が読み出そうとする記録ビットの幅以下のサイズとなるように加工される。磁気抵抗効果素子70は、磁気抵抗効果素子70が加熱されて保磁力が小さくなった領域の幅で、トラック幅方向の再生分解能が決まるため、光導波路75下部の幅が、磁気記録再生ヘッド71のトラック幅方向の再生分解能を決定する。
なお、光導波路75に導入された光は、光の絞込みを行った領域で全てが熱に変換されて磁気抵抗効果素子70を加熱してもよく、一部が下端から磁気記録媒体に照射され、磁気記録媒体を加熱するとともに、その輻射熱で磁気抵抗効果素子70を加熱しても構わない。
続いて、エッチング工程で光導波路75が除去された領域の下部磁気シールド74上に、光導波路75の材料よりも屈折率の低い絶縁体82(図20参照)を光導波路75と同じ高さまでスパッタ法で形成してレジストを除去し、表面を平らにする。ここで、絶縁体82を光導波路75の材料よりも屈折率の低い材料で形成することによって、光導波路75を伝播する光が絶縁体82との界面で全反射し、絶縁体82に光が漏れ出すことを防ぐことができる。絶縁体82にはAl2O3やSiO2を用いることができる。
続いて、磁気抵抗効果素子70を形成し、Al2O3やSiO2からなる絶縁層76とNiFeからなる上部磁気シールド77とを順に形成する。絶縁層76はスパッタ法を用いて20nmから100nm程度の膜厚で形成する。上部磁気シールド77はスパッタ法又はメッキ法を用いて1μmから3μmの膜厚で形成する。
続いて、Al2O3やSiO2からなる絶縁体83を形成した後、磁気抵抗効果素子70の露出側から、レジストパターンとメッキ法を用いてCuやAuからなる薄膜コイル78を膜厚1μmから3μmで形成する。薄膜コイル78上に、さらに絶縁体83を形成した後、エッチングによって薄膜コイル78中心部に上部磁気シールド77に達するコンタクトホールを形成し、NiFeからなる磁極79をスパッタ法で形成する。
続いてエッチングによって磁極79の幅を記録しようとするトラック幅に加工した後、絶縁体83をさらに形成して磁極79の側面を覆う。このようにして再生部と記録部が形成されたヘッド基体73上部に、光導波路75と接するように透明誘電体膜80を形成する。透明誘電体膜80には、光導波路75と同一の材料を、ヘッド基体73上部の一部分又は全面に膜厚100nmから400nm程度で形成する。
続いて透明誘電体膜80上に面発光レーザー光源81を取り付けて、磁気記録再生ヘッド71が完成する。
なお、本実施形態では、面発光レーザー光源81を用いたが、端面発光レーザー光源を用いても構わない。また、本実施の形態では、面発光レーザー光源81を磁気記録再生ヘッド71と一体形成する例を示したが、図24に示す、サスペンションアーム133上に面発光レーザー光源81または端面発光レーザー光源を形成し、導波路を用いて磁気記録再生ヘッド71に光を引き込む形態であっても構わない。
(実施例10)
次に、本発明に係る実施例10を以下に示す。図21は、実施例10に係る光(熱)アシスト磁気記録に好適な磁気記録再生ヘッドを開示する。本実施例の磁気記録再生ヘッド91は、実施例9に示した磁気記録再生ヘッド71の構成に加え、記録を行うための磁極99と絶縁体102との間に光導波路103が形成された構成となっている。その他実施例9における符号82〜93の部位と実施例10における符号102〜113の部位とはそれぞれ順に同構成の部位であるので、その説明を省略することがある。
光導波路103は面発光レーザー光源101からの光を磁極99の近傍から磁気記録媒体に向かって照射するためのものであって、磁気記録媒体を加熱昇温し、磁気記録媒体の保磁力を低下させることで低磁界記録を可能にする、いわゆる光(熱)アシスト記録を行うためのものである。光導波路103に用いる材料および形成方法は実施例9に示した光導波路85と同一のものである。
本実施例の磁気記録再生ヘッド111の製造工程は、磁極99を形成するところまで実施例9に示した磁気記録再生ヘッド71の製造工程と同一であるが、磁極99を形成した後、光導波路103をスパッタ法によって形成し、光導波路95と同様に下部が細く(実施例9の図20の光導波路75と同様の形状)なるように加工する。このとき、光導波路103下端の幅を光源である面発光レーザー光源101の波長より小さく(望ましくは100nm以下に)しておけば、光導波路103下端から磁気記録媒体に向かって近接場光(エバネッセント光)を照射することができ、光源波長よりも小さな領域を加熱できるので、高い分解能で磁気情報の記録を行うことができる。
光導波路103を加工形成した後、絶縁体102をさらに形成して光導波路103の側面を覆う。このようにして再生部と記録部が形成されたヘッド基体93上部に、光導波路95と光導波路103とがともに接するように透明誘電体膜100を形成する。透明誘電体膜100には、光導波路95および光導波路103と同一の材料を、ヘッド基体93上部の一部分又は全面に膜厚100nmから400nm程度で形成する。
続いて透明誘電体膜100上に面発光レーザー光源101を取り付けて、磁気記録再生ヘッド91が完成する。面発光レーザー光源101には、実施例9の面発光レーザー光源81と同様に、例えば光源波長が405nm近傍のGaN系面発光レーザー光源を用いる。
このようにして形成した磁気記録再生ヘッド91は、単一の光源を用いて、記録素子(磁極99)と再生素子(上述した実施形態及び実施例の磁気抵抗効果素子のいずれか1つである磁気抵抗効果素子90)との両方にごく近傍から光を供給することができる。すなわち、上述の実施形態及び実施例の磁気抵抗効果素子のいずれか1つを用いた光(熱)アシスト記録に好適な磁気記録再生ヘッドを提供できる。
なお、本実施形態では、面発光レーザー光源101を用いたが、端面発光レーザー光源を用いても構わない。また、本実施の形態では、面発光レーザー光源を磁気記録再生ヘッド91と一体形成する例を示したが、図24に示す、サスペンションアーム133上に面発光レーザー光源101または端面発光レーザー光源を形成し、導波路を用いて磁気記録再生ヘッド91に光を引き込む形態であっても構わない。
(実施例11)
次に、本発明に係る実施例11を以下に示す。図22は、実施例11に係る光(熱)アシスト磁気記録に実施例10より好適な磁気記録再生ヘッドを開示する。本実施例の磁気記録再生ヘッド111は、実施例10に示した磁気記録再生ヘッド91と同様に、上述した実施形態及び実施例の磁気抵抗効果素子のいずれか1つである磁気抵抗効果素子126に隣接して光導波路115、及び、記録を行うための磁極119に隣接して光導波路123が、それぞれ形成された構成となっている。ただし、本実施例では、光導波路115と光導波路123とに光を供給する面発光レーザー光源がそれぞれ個別の面発光レーザー光源121および125となっている点が実施例9と主に異なる。なお、実施例10における符号92〜103の部位と実施例10における符号112〜123の部位とはそれぞれ順に同構成の部位であるので、その説明を省略することがある。
図23は、図22の磁気抵抗効果素子のB−B矢視断面図である。上記のように、光導波路115と光導波路123とに光を供給する光源を別個にするためには、図23に示すように光導波路115と光導波路123とをずらして形成すれば良い。これに伴って、磁気抵抗効果素子126および磁極119、薄膜コイル118も中心からずれた位置に配置し、上部に形成される透明誘電体膜120および124も中心からずらし、互いに接しないように形成する。このように中心からずらして形成した透明誘電体膜120および124上に面発光レーザー光源121および125を形成すれば、個別の光源から光導波路115と光導波路123とに独立して光を供給する構成を実現できる。
このように、記録素子(磁極119)と再生素子(磁気抵抗効果素子126)とに別個の光源から光を供給する構成にすれば、記録素子に最適な光量と、再生素子に最適な光量とを個別に制御でき、より分解能の高い記録再生が行える磁気記録再生ヘッドを提供できる。
ここで面発光レーザー光源121および125には、実施例9の面発光レーザー光源81および実施例10の面発光レーザー光源101と同様に、例えば光源波長が405nm近傍のGaN系面発光レーザー光源を用いる。また、透明誘電体膜120および124には、実施例9の透明誘電体膜80や実施例10の透明誘電体膜100と同様の材料を同様の膜厚で用いることが出来る。
なお、本実施の形態では、面発光レーザー光源121,125を用いたが、端面発光レーザー光源を用いても構わない。また、本実施の形態では、面発光レーザー光源121,125を磁気記録再生ヘッド111と一体形成する例を示したが、図24に示す、サスペンションアーム133上に面発光レーザー光源121,125または端面発光レーザー光源を形成し、導波路を用いて磁気記録再生ヘッド111に光を引き込む形態であっても構わない。
(実施例12)
次に、本発明に係る実施例12を以下に示す。図24は実施例9から実施例11に示した磁気記録再生ヘッドを用いた実施例12に係る磁気情報記録再生装置の構成図を示す。
磁気情報記録再生装置130は、ボイスコイルモータ131を用いた駆動部132に取り付けられたサスペンションアーム133とサスペンションアーム先端に取り付けられた磁気記録再生ヘッド134、磁気記録媒体137、磁気記録媒体137を回転させるスピンドル135、制御回路136から成る。磁気記録再生ヘッド134には実施例9から実施例11に示した磁気記録再生ヘッド71、91および111を適用可能である。
また、制御回路136には、磁気記録再生ヘッド134と信号をやり取りする信号処理装置、磁気記録再生ヘッド134に形成された光源(実施例9〜12で示した面発光レーザー光源81,101,121,125)の出力を制御する出力制御装置、および、読み出した情報を蓄積するためのメモリ装置が含まれる。
次に、図24に示す磁気情報記録再生装置を用いた磁気情報再生方法の作動工程手順を図25に示す。電源が投入されると、まずスピンドル135が回転し磁気記録媒体137を回転させる(ステップS1)。続いて、磁気記録再生ヘッド134に形成された光源(面発光レーザー光源)によって磁気記録再生ヘッド134に形成された磁気抵抗効果素子の一部を直接又は、磁気記録媒体137を加熱した輻射熱で加熱する(ステップS2)。このとき制御回路136に含まれる出力制御手段は良好な再生信号品質が得られるように光源の出力を調整する。続いて、駆動部132が磁気記録再生ヘッド134を磁気記録媒体137に予め記録されているアドレス情報記録領域上に移動し、アドレス情報記録領域からの漏洩磁界を磁気記録再生ヘッド134中の磁気抵抗効果素子が検出することで、アドレス情報を読み出す(ステップS4)。さらに続いて、読み出したアドレス情報を基に、読み出そうとする磁気記録情報が記録された情報記録領域上に磁気記録再生ヘッド134を移動し(ステップS5)、情報記録領域からの漏洩磁界を磁気記録再生ヘッド134中の磁気抵抗効果素子が検出することで、磁気記録情報を読み出す(ステップS6)。そして、磁気情報の再生は終了する。
なお、上記アドレス情報および磁気記録情報の再生時には、磁気記録再生ヘッド134中の磁気抵抗効果素子の一部は常に光源によって一定温度以上に加熱された状態にある。すなわち、アドレス情報および磁気記録情報の再生(すなわち、磁気記録媒体137からの漏洩磁界検出)に先立って光源(面発光レーザー光源)が磁気抵抗効果素子の一部を加熱することが重要である。
なお、本発明は、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で設計変更できるものであり、上記実施形態や実施例に限定されるものではない。例えば、本発明に係る再生用磁気センサーは、磁気記録媒体からの漏洩磁界を検出するための磁気センサーであってもよく、電子コンパスに用いるための地磁気を検出するための磁気センサーであってもよい。さらには、ロータリーエンコーダやリニアエンコーダ、位置検出センサーに用いるための磁気センサーであってもかまわない。