JP2004128026A - 磁気抵抗効果素子、磁気ヘッド、磁気記録装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】磁気抵抗効果素子において、外部磁界を検知する磁性層(自由磁性層)の磁区生成により生ずるバルクハウゼンノイズを抑制するための磁区制御層が必要であった。
【解決手段】軟磁性層11の非磁性層12とは反対側(11a)の磁化は磁化固着層10により固着され、軟磁性層11の非磁性層12側(11b)の磁化は電流を膜面に印加することで、非磁性層12を介した磁化固定層13とのスピン偏極電流により可逆的な磁化回転が可能となり、磁化固定層13の磁化と軟磁性層11の非磁性層12側(11a)の磁化が略垂直となり、磁区制御層を必要としなくても信号磁界に対する磁気抵抗の線形応答性に優れた磁気抵抗効果素子を提供することが可能となる。
【選択図】 図1
【解決手段】軟磁性層11の非磁性層12とは反対側(11a)の磁化は磁化固着層10により固着され、軟磁性層11の非磁性層12側(11b)の磁化は電流を膜面に印加することで、非磁性層12を介した磁化固定層13とのスピン偏極電流により可逆的な磁化回転が可能となり、磁化固定層13の磁化と軟磁性層11の非磁性層12側(11a)の磁化が略垂直となり、磁区制御層を必要としなくても信号磁界に対する磁気抵抗の線形応答性に優れた磁気抵抗効果素子を提供することが可能となる。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高密度磁気記録再生ヘッド(磁気ディスク、光磁気ディスク、磁気テープ等)に用いられる磁気抵抗効果素子、磁気ヘッドおよび磁気記録装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
インターネットの普及により急速な情報化革新の進展と、高度通信網が発展するにしたがい、大量の情報が高速に扱う必要性が高まってきている。中でもハードディスク装置(HDD)は大量の情報を格納し、しかも高速転送が可能な外部記録装置である。HDDの大容量化は巨大磁気抵抗効果(Giant Magnet Resistive effect : GMR効果)を利用した再生ヘッド性能の向上をはじめとする技術革新によりその記録密度は年率60%〜100%で伸びている。また、現在は携帯電話やノートパソコンといったモバイル通信機器が日常生活に不可欠のものとなり、モバイル機器を通じて文字情報や動画情報等の様々な情報のやりとりがなされている。このモバイル機器に於いても、大量の情報を瞬時に格納し転送するため、高記録密度磁気記録装置がますます必要となっている。記録密度の向上には、再生ヘッドの再生出力の向上が必達であり、近年ではGMR膜を用いることで記録密度の向上が成されている。
【0003】
GMRは[磁性層/非磁性層/磁性層]といった多層膜において非磁性層を介して隣り合う磁性層の磁化方向が平行、反平行の場合に電気伝導度が電子スピンに依存した散乱により異なるために起こる現象である。磁化が平行の場合は磁気散乱確率が小さいので抵抗値が小さく、反平行の場合は磁気散乱確率が高いので抵抗値は大きくなる(例えば非特許文献1参照。)。また、このGMRを微小磁界で動作するデバイスとして利用するには、スピンバルブと呼ばれる磁気抵抗効果素子(MR素子)が提案された(例えば、非特許文献2参照。)。スピンバルブとは非磁性層を介して2つの強磁性層が積層されており、一方の磁性層(固定磁性層)の磁化方向をFe−Mn、Ir−Mn、Pt−Mn等の反強磁性層により交換バイアス磁界で磁化方向を固定し、もう一方の磁性層(自由磁性層)の磁化方向を外部磁界に対して自由に動かすことにより、固定磁性層と自由磁性層の磁化方向の相対角度を外部磁界に対して変化させて電気抵抗の変化を生じさせるものである。上述のGMR膜を実際の磁気ヘッドとして用いるためには、外部からの信号磁界を検知する自由磁性層に対して、センス電流に対して平行にバイアス磁界を印加する必要がある。このバイアス磁界は自由磁性層の磁区生成に起因するバルクハウゼンノイズを抑制する効果がある(例えば特許文献1参照)。図12には信号磁界方向からみた従来の再生磁気ヘッド部80の断面図を示す。固定磁性層96/非磁性層97/自由磁性層98を含むMR素子部81は下部シールドギャップ部86と上部シールドギャップ部83の間に配置されており、さらに外側には検知すべき信号磁界のMR素子部81への進入を防ぐための下部シールド87と上部シールド82とが配置されている。バイアス磁界を印加するためにMR素子部81の自由磁性層98の両端部には磁区制御層85が配置されており、自由磁性層98の磁化は平行にバイアスされている。MR素子部81の両側には電極部84が配置されてMR素子部81の出力を読み出す。この2つの電極部84の幅がトラック幅88を規定する。磁区制御層85には通常、高保磁力材料であるCoPtやCoCrPt等が用いられる。また、GMR膜の自由磁性層と固定磁性層の磁化方向を直交化させる手法により外部磁界に対する抵抗変化の線形応答性を得ているものもある(例えば、特許文献2参照。)。
【0004】
高記録密度を実現するためには、記録媒体が小さくなることに対応して再生ヘッド部のトラック幅88(素子幅)やMR高さ(素子高さ:図12においてMR素子部81の紙面垂直方向)の低下と磁気抵抗変化率の更なる向上が要求される。トラック密度の向上により、電極間距離(トラック幅)が小さくなるため出力の低下が問題となる。
【0005】
そこで、GMR膜よりも大きな磁気抵抗変化率(以下MR比とよぶ)の得られる、非磁性層にAl2O3などの絶縁体を用いたトンネル磁気抵抗(TMR:tunnel magnetoresistance)効果素子が次世代の磁気ヘッド材料として注目されている。TMR素子は絶縁層を介して電子がトンネルするときのトンネル確率が2つの磁性層の磁化方向に依存して異なることから生ずる現象であり、磁化が平行の場合はトンネル抵抗が小さく、反平行の場合はトンネル抵抗が大きい。
【0006】
現在の磁気ヘッドに用いられるGMR膜は、電流が膜面内に流れるCIP−GMR(Current In Plane − GMR)と呼ばれる、電極層を膜面内に配置した構成となっている。伝導電子は片方の磁性層から、非磁性層を通じて、他方の磁性層へ効率よく伝導することで大きなMR比を得ることが可能であるが、CIP−GMRの場合は、磁気抵抗に関与しない層への電流損が大きいため小さなMR比しか得られない。大きなMR比を得るために、電流を膜面に垂直方向に流すように電極を配置したCPP−GMR(Current Perpendicular to Plane − GMR)が提案されている。しかしながら、GMR膜は数nm〜数十nmといった非常に膜厚の薄い金属多層膜であることから、膜面垂直方向の抵抗値が非常に小さいため、大きなMR比を得ることは可能であっても抵抗変化量は非常に小さく実用的ではなかった。近年、微細加工技術の発展により素子サイズがサブμm以下の非常に小さな素子を作製することで素子断面積が微小なCPP−GMRを得て、抵抗の大きな素子を作製することが可能となり、磁気抵抗変化量を増大できる。しかも、高密度化によりトラック幅およびMR高さの低下、即ち、素子サイズの微細化とも対応可能となることからTMR膜と同様にCPP−GMRも次世代の磁気ヘッド材料への期待が高まりつつある。
【0007】
上述のように従来のCIP−GMR素子では高密度化に対応した出力を得ることが困難なことから、大きなMR比を得ることができるCPP−GMR素子およびTMR素子への磁気ヘッドへの実用化検討が行われている。CPP−GMR素子やTMR素子は膜面に対して電流を垂直に流すために、素子の膜の上下に電極層を配置し、上下の電極層の短絡を防ぐことと、素子を構成する固定磁性層と自由磁性層とは電気的な短絡を生じさせないために、素子の周囲を絶縁層で覆わなければならない。図13にMR素子の膜面に垂直に電流を流すために上下に電極を配置した素子構成を示す。上部電極部92と下部電極部95との間にMR素子部91が配置されており、層間絶縁層部93によりMR素子部91の周囲を絶縁し、上部電極部92と下部電極部95との短絡を防いでいる。MR素子部91のCPP−GMR素子やTMR素子の自由磁性層の磁区生成を抑制するために磁区制御層部94を必要とし、磁区制御層部94は素子の周囲を囲っている層間絶縁層部93を介して配置しなければならない。図13では層間絶縁層部93の一部を介して磁区制御層部94が配置された模式図を示している(例えば、特許文献3参照)。
【0008】
【特許文献1】
米国特許第5018037号公報
【特許文献2】
米国特許第5159513号公報
【特許文献3】
米国特許第5729410号公報
【非特許文献1】
Physical Review Letters Vol.61 (1998) p2472−2475.
【非特許文献2】
Physical Review B Vol.43 (1991) p1297−1300.
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、図13に示すように層間絶縁層部94を介するために磁区制御層部94による自由磁性層へのバイアス印加効果は、弱くなってしまうという問題が生じる。しかも図13のように磁区制御層部94を層間絶縁層部93の中に埋め込んだ構造とするためには複雑なプロセスを経なければならず、特に、MR素子部のサイズはサブμm以下と非常に微細であるため、作成上大きな困難を伴うことから歩留まりが悪くなる問題が生ずる。十分なバイアス磁界を印加するために図14のように自由磁性層98もしくはその一部のみに磁区制御層部94を接触させた構造が提案されている。しかしながら図14のような構造を形成するためには数多くのプロセス行程を必要とし、製造が困難であるばかりではなく、信号磁界の検知部である自由磁性層98への磁気抵抗に寄与しない不均質な電流分布が生じるために出力の低下が問題となる。
【0010】
CPP−GMR素子では、素子抵抗が小さいので電流量を多くして出力電圧を大きくすることが可能である。しかしながら、素子サイズが0.1〜0.01μm2以下の微細な形状となると、スピン偏極電流による自由磁性層の磁化反転が問題となる。これは、2つの磁性層1と磁性層2が非磁性層を介して積層した多層膜において、例えば磁性層1は磁性層2よりも磁化回転しにくいとした場合、磁性層1から非磁性層を通じて磁性層2へ伝導電子が流れるようにすると、磁性層1でスピン偏極した伝導電子が、非磁性層を介して磁性層2へ流れる。スピン偏極した伝導電子は磁気モーメントを持っているため、磁性層2の磁化に対してトルクを生じさせて、磁性層1と磁性層2の磁化が平行となる。一方、逆向きに電子を流すようにすると、磁性層2から磁性層1へスピン偏極した伝導電子が流れ込むが、磁性層1の磁化とは反対向きのスピンをもつ電子は非磁性層と磁性層1との界面で反射されて、磁性層2へ戻って磁性層2に対してトルクを与えるために、磁性層1と磁性層2は反対向きの磁化配列となる。このようなスピン反転現象は素子に用いられる磁性体の材料にもよるが、素子に流れる電流密度が106〜107A/cm2以上になると顕著になり、サブμm以下の微細な素子において大きな問題となる。なぜなら、CPP−GMR素子やTMR素子を磁気ヘッドに用いる場合、再生出力の線形性を得るためには自由磁性層と固定磁性層の磁化方向は互いに直交している必要があるが、垂直電流型MR素子(CPP−GMR素子、TMR素子)のサイズがサブμm以下の微細な素子となると上述のような自由磁性層の磁化方向に対して、固定磁性層と平行もしくは反平行に向くようなトルクが生じるために互いの磁化を直交化させることが困難となる問題がある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明にかかる磁気抵抗効果素子は外部磁界に対して容易に磁化回転する軟磁性層と、非磁性層と、外部磁界に対して自由磁性層より磁化回転が困難な磁化固定層とが順に積層し、軟磁性層と磁化固定層の磁化の相対角度が異なることで磁気抵抗が生じる磁気抵抗効果素子であって、さらに膜面に対して概略垂直に電流を印加するための電極部を有し、前記軟磁性層の前記非磁性層の界面とは反対側に磁化固着層が設けられ、電流を印加することにより非磁性層に隣接する軟磁性層の磁化は可逆的に磁化回転し、さらに前記磁化固定層の磁化が概略直交することにより上記目的が達成される。
【0012】
前記軟磁性層と磁化固定層の磁化容易軸方向は同方向であるとよい。
【0013】
前記磁化固着層は高保磁力層、もしくは反強磁性層、もしくは非磁性層側から順に第1磁性層、反強磁性層が積層した多層膜、もしくは軟磁性層側から順に第1磁性層、反強磁性交換結合用非磁性層、第2磁性層が積層した多層膜、もしくは軟磁性層側から順に第1磁性層、反強磁性交換結合用非磁性層、第2磁性層、反強磁性層が積層した多層膜でであることで前記目的は達成される。
【0014】
上記磁化固着層と軟磁性層との間に膜厚が0.2nmから2nmの非磁性中間層が挿入されていてもよい。
【0015】
前記磁化固定層は、非磁性層から順に強磁性層、反強磁性層が積層した多層膜であってもよい。さらに前記磁化固定層は、非磁性層から順に第1固定磁性層、第1非磁性層、第2固定磁性層、反強磁性層が積層した多層膜であってもよい。
【0016】
上記本発明にかかる磁気抵抗効果素子に対して、印加する外部磁界(信号磁界)は、磁化固定層の磁化容易軸方向と概略平行であることが望ましい。
【0017】
本発明にかかる上記磁気抵抗効果素子の素子サイズ面積が0.1μm2以下であることにより上記目的が達成される。
【0018】
本発明にかかる磁気抵抗効果型ヘッドは、磁気記録媒体からの信号磁界を検知する磁気抵抗効果型ヘッドであって、磁性体を含む2つのシールド部と、前記2つのシールド部の間のギャップ内に設けられる上記本発明の磁気抵抗効果素子とを備え、そのことにより上記目的が達成される。
【0019】
本発明にかかる他の磁気抵抗効果型ヘッドは、磁気記録媒体からの信号磁界を検知する磁気抵抗効果型ヘッドであって、磁性体を含む磁束ガイド部と、前記磁束ガイド部により導かれた信号磁界を検知する上記本発明の磁気抵抗効果素子とを備え、そのことにより上記目的が達成される。
【0020】
本発明にかかる磁気記録装置は、記録媒体に記録された信号を読みとる本発明の磁気ヘッドと、磁気記録媒体と、前記磁気ヘッドを搭載したアームと、前記アームを駆動する駆動部と、前記信号を処理して磁気ヘッドに供給する信号処理部とを備え、そのことにより上記目的が達成される。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下本発明の磁気抵抗効果素子、磁気抵抗効果型ヘッドについて図面に基づいて説明する。
【0022】
図1は本発明の磁気抵抗効果素子の構成を示す断面図の一例である。図1に示した磁気抵抗効果素子部1(以下MR素子とよぶ)は、外部磁界を検知するための軟磁性層11と、非磁性層12と、外部磁界に対して磁化回転することが困難な磁化固定層13とが順に積層した多層膜からなり、軟磁性層11は非磁性層12とは反対側の界面に軟磁性層の磁化と交換結合が生じている磁化固着層10がさらに積層されている。このMR素子1の上下には膜面に対して略垂直に電流を流すための上部電極部4と下部電極部2が配置されている。MR素子部1は上部電極部4および下部電極部2との電気的な短絡を防ぐために層間絶縁層部3で周囲を覆われている。電流を印加しない状態では磁化固定層13と軟磁性層11の磁化容易軸は略平行になっている。図2に図1で示した磁気抵抗効果素子部1の拡大図を示す。ここで図2に示すように軟磁性層11の非磁性層12側の領域部を軟磁性層11a、磁化固着層10側の領域部を軟磁性層11bとする。磁化固定層13と軟磁性層11との磁化方向が平行(反平行)である場合、電流を磁化固定層13側(軟磁性層11側)から電流を印加することで軟磁性層11aの磁化に反平行(平行)向きのトルクかかり、磁化回転が生ずる。軟磁性層11aはスピン偏極電流によるトルクにより磁化回転するが、軟磁性層11bの磁化は交換結合により固定されているため、非磁性層12側の軟磁性層11aの磁化が回転する。従って軟磁性層11aの磁化は磁化固定層13の磁化と直交化させることが可能となる。図2にスピン偏極電流による軟磁性層11の磁化方向と磁化固定層13の磁化方向の模式図を示す。図2では電流を印加しない状態では磁化固定層13と軟磁性層11(軟磁性層11aおよび軟磁性層11bを含む)の磁化方向は略平行の状態である。図2は図1に示した磁化固定層13、非磁性層12、軟磁性層11(軟磁性層11aおよび軟磁性層11bを含む)、磁化固着層10が積層した多層膜を示しており、この多層膜に電流を磁化固定層13側から流した時の磁化状態を示している。スピン偏極電流により生じたトルクにより非磁性層12側の軟磁性層11aの磁化は固定磁性層13の磁化とは反対方向に回転する。しかしながら、磁化固着層10側の軟磁性層11bの磁化は交換結合により固定され、図2では左方向を向いており、軟磁性層11中の隣接する原子層間では各原子層間の交換エネルギーや磁気異方性エネルギーにより層間では角度を持ちうるために、図2に示すように、軟磁性層11において、軟磁性層11a(非磁性層12側)と軟磁性層11b(磁化固着層13側)とで磁化方向は略垂直に磁化が向く状態が実現する。この状態で外部磁界H(ここでいう外部磁界とは検知すべき磁界のことを示す。)を印加すると、軟磁性層11aの磁化がさらに回転することで磁化固定層13との相対磁化が変化するので磁気抵抗が生ずる。さらに軟磁性層11aの磁化は、スピン偏極電流によるいわゆるバイアス磁界が印加された状態であるため、磁化回転は可逆となり、磁区生成により生ずるバルクハウゼンノイズからの出力ノイズを抑制することが可能となる。本発明のMR素子は外部磁界に対して線形に応答する。従って、本発明のMR素子は電流を印加した状態で磁化固定層13と外部磁界Hを検知する層である軟磁性層11(特に軟磁性層11a)の磁化方向を直交化することが可能となり、従来のように図13および図14に示した自由磁性層98の磁区を制御するための磁区制御層部94を必要せず、構造およびプロセスを簡略化することが可能となる。外部磁界の検知は磁化検知層中の軟磁性層の磁化方向が変化することで固定磁性層との相対角度が変化することで磁気抵抗を生じ、外部磁界に対する信号出力はバルクハウゼンノイズのない線形性を得ることが可能となる。なお、図2では電流を印加しない状態で磁化固定層13と軟磁性層11の磁化方向がお互いに平行の場合での説明であり、磁化方向が反平行を向いた状態である場合には電流は軟磁性層11側から流れるようにすればよい。なお、磁化固定層13と軟磁性層11の磁化方向とは、特に非磁性層12に隣接する層について述べているものであり、後述するように磁化固定層13が複数の磁性層で構成される場合は、磁化固定層13の磁化方向は非磁性層12に隣接する層の磁化方向を示し、軟磁性層11の磁化方向も同様に非磁性層12隣接する層の磁化方向を示している。
【0023】
上述のスピン偏極電流による軟磁性層11へのバイアス印加効果は、素子サイズ面積が0.1μm2以下であると効果的にスピン偏極電流によるトルクが生ずる。
【0024】
軟磁性層11は例えばパーマロイやセンダストといった結晶磁気異方性の小さい磁気的にソフトな磁性材料を用いる。軟磁気特性に優れ磁歪が小さい材料としてNixCoyFez(0.6≦x≦0.9、0≦y≦0.4、0≦z≦0.3)もしくはNix’Coy’Fez’(0≦x’≦0.4、0.2≦y’≦0.95、0≦z’≦0.5)を用いることが望ましい。軟磁性層は単一組成の材料を用いる場合や、異なる磁性材料からなる積層膜であってももちろんよい。
【0025】
磁化固着層10には、図3に示すように軟磁性層11よりも保磁力が大きく一軸異方性の大きな高保磁力層14を用いるとよい。高保磁力層14との強磁性的交換結合により非磁性層と反対側の界面の軟磁性層の磁化を固定することが可能となる。高保磁力材料として、例えば、Co、Co−Fe合金やCo−Pt合金、Fe−Pt合金、Co−Cr−Pt合金、Co−Ta−Pt合金等や、Co−Sm、Fe−Tb等の遷移金属−希土類合金等が望ましい。この高保磁力層の一軸磁気異方性を付与するために、下地層にCr、Ru、Ni−Fe、Ni−Fe−Cr層を付与して結晶磁気異方性を制御したり、磁界中で膜を形成、または、膜形成後に磁界中熱処理を実施することによっても一軸磁気異方性を付与することができる。
【0026】
磁化固着層10として他に図4に示すように反強磁性層15を用いてもよい。反強磁性層15との界面により生ずる交換バイアス磁界により軟磁性層11の磁化は固定される。反強磁性材料としては、Pt−Mn、Ir−Mn、Pd−Pt−Mn、Fe−Mn等のA−Mn系金属反強磁性体(AはPt、Ru、Pd、Fe、Cr、Ir、Niから選ばれた少なくとも一種)を用いるとよい。
【0027】
また、図5に示すように磁化固着層10として、軟磁性層11側から順に第1磁性層16、反強磁性交換結合用非磁性層17、第2磁性層18が積層した多層膜を用いてもよい。第1磁性層16と第2磁性層18は反強磁性的交換結合用非磁性層17を介した反強磁性交換結合によりお互いの磁化が反平行を向く状態が安定である。この反強磁性的交換結合用非磁性層17にはCu、Ru、Cr、Ir、Rhから選ばれた少なくとも一種の材料を用いると適当な膜厚(0.5nm〜3nm)で第1磁性層16と第2磁性層18との間に反強磁性的交換結合を生じさせることが可能となる。第1磁性層16および第2磁性層18には種々の磁性材料を用いることができる。軟磁性層11の磁化を固着するためには、第2磁性層18には一軸磁気異方性の大きな磁性材料を用いることが望ましく、例えばFeもしくはCoもしくはCo−Fe合金もしくは、Fe−PtやCo−Pt等のM−T合金(MはFe、Co、Niから選ばれた少なくとも一種、TはPt、Pd、Ru、Ir、Rhから選ばれた少なくとも一種)、もしくはCo−Ta−Pt合金やCo−Cr−Pt合金等のM−T−T’合金(MはFe、Co、Niから選ばれた少なくとも一種、TはPt、Pd、Ru、Ir、Rhから選ばれた少なくとも一種、T’はCr、Ta、Nb、V、Mn、Wから選ばれる少なくとも一種)、もしくはFe−TbやCo−Sm等の遷移磁性金属―希土類合金等を用いるとよい。また第1磁性層16は軟磁性層11と同種の磁性材料を用いてもよい。さらに、図5の第2磁性層18側に反強磁性層19を付与した図6に示す構成としてもよい。この反強磁性層19により第2磁性層18には一方向異方性が付与されて、さらに反強磁性的交換結合用非磁性層17を介した反強磁性的な交換結合により第1磁性層16との磁化は反平行状態が安定となり、第1磁性層16と磁気的な交換結合を生ずる軟磁性層11の磁化を固着することが可能となる。
【0028】
以上図3から図6に示した本発明のMR素子において、軟磁性層11と磁化固着層10との間の界面に生ずる交換結合力を制御するために、軟磁性層11と磁化固着層10との界面に非磁性中間層20を挿入してもよい。図7に図4で示した反強磁性層15と軟磁性層11との界面に非磁性中間層20を挿入した場合を、図8に図6で示した第1磁性層16と軟磁性層11との間に非磁性中間層20を挿入した場合を示す。非磁性中間層20を挿入することにより軟磁性層との交換結合の大きさを制御することが可能となる。非磁性中間層にはCu、Ag、Au、Pt、Pd、Cr、Ru等を用いるとよく、軟磁性層11の非磁性層12と反対側の界面の磁化を固着するのに十分な交換結合を得るためには0.2nm以上2nm以下がよい。
【0029】
軟磁性層11と磁化固着層10における外部磁界に対するそれぞれの磁化過程について、軟磁性層11と磁化固着層13の積層膜について図11(a)を用いて説明する。軟磁性層11と磁化固着層10との界面は交換結合により磁化固着層10側の軟磁性層11(図11(a)では軟磁性層11b)の磁化は固定されているが、磁化固着層10との界面から遠い軟磁性層11(図11(a)では軟磁性層11a)の磁化ほど外部磁界に対して容易に磁化回転する働きがある。つまり軟磁性層11において、交換結合により磁化方向が磁化固着層13により固定されている軟磁性層11bの磁化方向とは逆向きに外部磁界を印加すると、磁化固着層10との界面から遠い軟磁性層11aの磁化から徐々に磁化回転をする現象であり、この軟磁性層11の磁気特性は可逆的な磁化回転過程を示す。
【0030】
軟磁性層11にNiFe(パーマロイ)と、磁化固着層10にパーマロイよりも高い保磁力を示すCoPtとを積層した場合を例に軟磁性層11と磁化固着層10の磁化過程について図11(b)を用いて説明する。図11(b)には軟磁性層11と磁化固着層10の磁化方向を模式図で示す。(I)と(III)の状態では両層の磁化は飽和しており磁化は揃っている。この状態で逆向きの磁界を印加するとある磁界(図中でHa、−Ha)において軟磁性層11の磁化が回転し始めることに対応して磁化が減少する。さらに磁界を大きくすると、磁化固着層10との界面から遠い軟磁性層11aの磁化が回転し、最後には磁化固着層10の磁化が反転して(図中でHb、−Hb)、急激な磁化の減少を示す。この例では、磁化固着層10の磁化回転は非可逆であるのに対し、軟磁性層11の磁化回転は可逆的であり図中で|Ha|<H<|Hb|の磁界範囲に相当する。このようにNiFeとCo−Ptの積層体において、CoPtとは反対側の界面のNiFeの磁化を回転させるには外部磁界により制御することができるが、本発明の磁気抵抗効果素子では非磁性層12を介して磁化固定層13と軟磁性層11とがスピン偏極電流により生ずるトルクにより非磁性層12側の軟磁性層11(軟磁性層11a)の磁化を制御することが可能となる。
【0031】
磁化固定層13には一軸磁気異方性が大きく高保磁力材料であるFeもしくはCoもしくはCo−Fe合金もしくは、Fe−PtやCo−Pt等のM−T合金(MはFe、Co、Niから選ばれた少なくとも一種、TはPt、Pd、Ru、Ir、Rhから選ばれた少なくとも一種)、もしくはCo−Ta−Pt合金やCo−Cr−Pt合金等のM−T−T’合金(MはFe、Co、Niから選ばれた少なくとも一種、TはPt、Pd、Ru、Ir、Rhから選ばれた少なくとも一種、T’はCr、Ta、Nb、V、Mn、Wから選ばれる少なくとも一種)、もしくはFe−TbやCo−Sm等の遷移磁性金属―希土類合金等を用いるとよい。また、図9に示すように磁化固定層13を非磁性層12側から順に固定磁性層30、反強磁性層31が積層し、反強磁性層31からの交換バイアス磁界により固定磁性層30の磁化を固定するようにしてもよい。この場合、固定磁性層30には種々の磁性材料を用いることができる。反強磁性層31には種々の反強磁性材料を用いることが可能であるが、特にA−Mn系金属反強磁性体(AはPt、Ru、Pd、Fe、Cr、Ir、Niから選ばれた少なくとも一種)を用いると大きな交換バイアスを得ることができ、磁化固定層13としての機能を果たす役割がある。さらに図10に示すように図9に示した固定磁性層30が、非磁性層12側から順に第1固定磁性層35、固定非磁性層36、第2固定磁性層37が積層した多層構造をしてもよい。この第1および第2固定磁性層35および37は固定非磁性層36を介して反強磁性的交換結合によりお互いの磁化が反平行に向くことが安定な磁化配列をする。第1固定磁性層35および第2固定磁性層37には種々の磁性材料を用いることが可能であり、固定非磁性層36にはRu、Cu、Cr、Ir等から選ばれる少なくとも一種の非磁性金属層を用い、膜厚は0.6〜3nmの範囲であればよい。
【0032】
非磁性層12には磁化固定層13と軟磁性層11との間に磁気抵抗が生ずる非磁性体であれば何でもよく、中でもCu、Ag、Au、Ru、Cr等は大きな磁気抵抗変化率を得るには有利な非磁性体である。膜厚は、2nm以上100nm以下であればよい。さらに、非磁性層12と軟磁性層11との界面に磁気抵抗が大きくなる磁性材料、即ちスピン分極率の大きな磁性材料を用いてもよく、例えば、Fe、Co、Fe−Co合金、M−T合金(MはFe、Co、Niから選ばれた少なくとも一種、TはPt、Pd、Ru、Ir、Rhから選ばれた少なくとも一種)、Fe3O4、CrO2等が上げられる。しかしながらこれらスピン分極率の大きな磁性材料は一般に軟磁性層11に用いる磁性材料よりも磁気的にハードであるため、膜厚として2nm以下、より望ましくは1nm以下とすることで軟磁性層11の軟磁気特性の劣化は生じない。
【0033】
なお、図3〜9に示した膜構成は積層順に限定されるものではなく、逆からの積層順であってももちろんよい。
【0034】
本発明のMR素子の膜形成には、パルスレ−ザデポジション(PLD)、イオンビ−ムデポジション(IBD)、クラスタ−イオンビ−ムまたはRF、DC、ECR、ヘリコン、ICPまたは対向タ−ゲットなどのスパッタリング法、MBE法等で作成することが可能である。
【0035】
本発明のMR素子を図1に示すように、膜面に対して概略垂直方向に電流を流す構造とするには、半導体プロセスや、GMRヘッド作製プロセス等で用いられるイオンミリング、FIB(フォーカスイオンビーム)、RIE(リアクティブイオンエッチング)等の物理的あるいは化学的エッチング法や、微細パタ−ン形成のためにステッパ−、電子ビーム(EB)を用いた露光法等を用いたフォトリソグラフィ−技術を組み合わせて微細加工することで図1のような素子を作成することが可能である。電極材料として、Pt、Au、Cu、Ru、Al、TiNを初め、抵抗率が100μΩcm以下の低抵抗材料を用いればよい。層間絶縁層には、Al2O3、SiO2、SiN、AlN等の絶縁特性に優れた材料を用いればよい。
【0036】
本発明のMR素子を用いて図15および図16に示すような高出力磁気ヘッドが可能となる。図15の磁気ヘッドはいわゆるシールド型磁気ヘッドの一例を示す。図15では磁性体からなる2つのシールド(上部シールド203と下部シールド202)を有し、この2つのシールド部の再生ギャップ204内にMR素子部201を設けるように構成されている。記録は巻線部205に電流を流して記録用磁極206と上部シールド203の間の記録ギャップ207からの漏洩磁界により信号を記録媒体(図示せず)に書き込み再生は記録媒体(図示せず)からの信号磁界Hを再生ギャップ204(シールドギャップ)間に設けられた本発明のMR素子部201により読みとることにより行われる。MR素子部201には電極部205、206が膜の上下に接続され、上下の電極部と上下のシールドとは絶縁層により電気的に絶縁してもよいし、上下の電極部を上下シールドと接続して、上下のシールドも電極部をかねる構造としてもよい。上部および下部のシールド203、202にはNi−Fe、Fe−Al−Si、Co−Nb−Zr合金などの軟磁性膜が使われる。絶縁部208としては、Al2O3、AlN、SiN、SiO2等の絶縁膜が使われる。
【0037】
また図16に示すように磁性体よりなる磁束ガイド(ヨーク)部302が上下シールド303,304で形成された再生ギャップ間305に設けられ、検知すべき記録媒体(図示せず)からの信号磁界Hはこのヨーク部302により本発明のMR素子部301に導入されることで、MR素子部301で信号磁界の読みとりを行う。図16のようなヨーク部302を用いることで再生ギャップ長を短くすることが可能となるため短波長化に対応した再生ヘッドを提供することができる。図16に示した本発明のヨーク型ヘッドはヨ−クを用いるため感度では図15のシールド型ヘッドより劣るが、図15のようにシ−ルドギャップ中にMR素子を置く必要がないため超狭ギャップ化では有利である。さらにMR素子部301が記録媒体(図示せず)には露出した構造ではないため、不意に再生ヘッドが記録媒体と接触するような場合や、例えば記録媒体として磁気テープを用い、テープと再生ヘッドを接触させて情報読み出しを行うような場合ではシールド型ヘッドと比較してヘッドの破損や摩耗による特性劣化といった信頼性という面で優れている。ヨーク部302に用いる磁性材料としては透磁率の高い磁性材料を用いることが望ましく、例えば、Ni−Fe、Fe−Al−Si、Co−Nb−Ta、Co−Zr−Ta等がよい。ヨーク部302と上下シールド303、304との間には非磁性の絶縁材料で絶縁する必要がある。図16のヨーク型磁気ヘッドは読みとり専用の再生ヘッドなので、通常書き込み用の誘導型磁気ヘッドと組み合わせて用いられる。以上図15、図16に示した本発明の磁気抵抗効果型ヘッドを用いることにより磁区制御層が無くても再生波形の優れ、高出力の磁気ヘッドを提供することが可能となる。
【0038】
これら本発明の再生ヘッドを有する磁気ヘッドを用いてHDD等の磁気記録装置を構成することが可能である。図17に示すように、本発明の磁気ヘッド401、その駆動部402、情報を記録する磁気記録媒体403、及び信号処理部404を用いて高記録密度に対応した磁気記録装置400を構成することが可能となる。
(実施例1)
本発明の実施の一形態として、図1および図3、図9に示したMR素子について説明する。到達真空度が1×10−8Torr以下の成膜チャンバー中において500nmの熱酸化膜付きSi基板上にDCおよびRFマグネトロンスパッタ法によりMR膜を作製した。まず基板上に下部電極部2としてTa(3nm)/Pt(100nm)/Ta(3nm)/Cr(3nm)を積層した。その上に磁化固着層10としてCo0.5−Pt0.5(10nm)を、軟磁性層11としてNi−Fe(20nm)を、非磁性層12としてCu(20nm)、磁化固定層13としてCo(3nm)/Ir−Mn(8nm)を積層して図3、図9に示す膜構成のMR素子を形成した。ここで磁化固定層13を構成するCo層およびIr−Mn層は図9においてそれぞれ固定磁性層30および反強磁性層31に対応する。これらの試料膜上に保護層兼上部電極部の一部としてTa(3nm)/Pt(10nm)を形成した後に、フォトリソグラフィーとイオンミリングを用いて図1に示すようなMR素子とした。なお本実施例では磁化固着層10のCo−Ptの一軸磁気異方性を付与するために下地層にCr層を下部電極の一部として設けている。層間絶縁層部3にはAl2O3をスパッタすることで形成し、上部電極部4にはTa(3nm)/Cu(500nm)/Pt(10nm)を用いた。MR素子部1のセル形状は0.1μm×0.2μmである。図1に示すMR素子を作製した後、250℃で5kOeの磁界をセルの長手方向に印加して3時間磁界中熱処理を実施して、軟磁性層11および磁化固定層13の磁化容易軸を同方向とした。作製したMR素子を実施例1とする。実施例1に熱処理時に印加した磁界と同方向に5kOeの磁界を印加して軟磁性層11と磁化固定層13の磁化方向を平行とした。その後に、電流を磁化固定層から軟磁性層へ電流を流して、外部磁界を最大100Oe印加して磁気抵抗を測定した。電流量が0.1mAと10mAの場合の磁気抵抗曲線を図18(a)および(b)にそれぞれ示す。電流量が0.1mAの場合では図18(a)から若干のヒステリシスと動作点中心が零磁界よりずれが生じていることが分かる。これは電流量が少ないために、スピン偏極電流により生ずる軟磁性層へのトルクが小さく軟磁性層の磁化はスピン偏極電流によるバイアス効果はほとんど生じていないことに起因すると考えられる。これは図18(a)の零磁界での抵抗値がほとんど最小値を示していることからも分かる。一方、さらに電流量を増加した図18(b)の場合では、磁気抵抗曲線にヒステリシスは生じていない。しかも、零磁界での抵抗値は磁界を正および負に印加した場合の抵抗値と比較してほぼ中間の値を示していることから非磁性層12側の軟磁性層11(軟磁性層11a)の磁化と磁化固定層13の磁化は零磁界において略垂直であると考えられる。このように電流量を増加することで、スピン偏極電流により生ずるトルクが大きくなり、軟磁性層11(軟磁性層11a)の磁化が磁化固定層13に対してほぼ垂直となり、バイアス磁界をスピン偏極電流で印加した効果が生じていると考えられる。
(実施例2)
本発明の実施の一形態として、実施例1と同様な手法で図1に示すようなMR素子を作製した。図1のMR素子の膜構成は図4に示した構成とした。以下に膜構成を示す。下部電極2上に磁化固定層13としてPt−Mn(15nm)/Co(3nm)/Ru(0.8nm)/Co(3nm)を形成した。この磁化固定層13は図10で示した膜構成であり、Pt−Mn(15nm)は図10において反強磁性層31に対応し、Co(3nm)/Ru(0.8nm)/Co(3nm)は固定磁性層30に対応する。さらにこの固定磁性層30を構成するの2つのCo層は第1固定磁性層35および第2固定磁性層37に、Ru層は固定非磁性層36に対応する。また、第1固定磁性層35および第2固定磁性層37の2つのCo層は固定非磁性層36を介して反強磁性的な交換結合によりお互いの磁化が反平行に向いている。さらにこの膜上に非磁性層12としてCu(10nm)、軟磁性層11としてCo90Fe10(8nm)を形成し、磁化固着層10として反強磁性体であるIr−Mn(3nm)を積層して図4もしくは図10に示す膜構成のMR素子を実施例1と同様にしてフォトリソグラフィーおよいびイオンミリング法等の微細加工技術を用いて図1に示すようなMR素子を形成した。なお層間絶縁層3にはSiNをArと窒素の混合雰囲気中でスパッタすることで形成し、下部電極2にはTa(3nm)/Pt(100nm)/Ta(3nm)、上部電極4にはTa(3nm)/Cu(500nm)/Pt(10nm)を用いた。この試料を実施例2−1とする。同様にして図8に示す膜構成の別のMR素子も作製した。MR素子部の膜構成は、下地電極2上に磁化固着層10として反強磁性層19のPt−Mn(10nm)、第2磁性層18のCo−Fe(4nm)、反強磁性交換結合用非磁性層17のRu(0.9nm)、第1磁性層16のCo−Fe(4nm)、非磁性中間層20としてCu(0.5nm) を順に積層し、軟磁性層11としてNi81Fe19(5nm)、非磁性層12としてCu(15nm)、磁化固定層13としてCo−Fe(3nm)/Ru(0.8nm)/Co−Fe(2nm)/Pt−Mn(15nm)を順次積層した。ここで磁化固着層10の第1磁性層16と第2磁性層18の2つのCo−Fe層と磁化固定層13の2つのCo−FeはRuを介して反強磁性的な交換結合のためにお互いの磁化が反平行となっている。また磁化固定層13の積層体は図10に示すように、固定磁性層30と反強磁性層31とからなり、さらに固定磁性層30は第1固定磁性層35、固定非磁性層36、第2固定磁性層37からなる膜構成となっている。以上の膜構成のMR素子を実施例2−2とする。実施例2−1および実施例2−2のセル形状は0.06μm×0.15μmとした。図1に示すMR素子を作製した後、280℃で10kOeの磁界をセルの長手方向に印加して5時間磁界中熱処理を実施して、軟磁性層11および磁化固定層13の磁化容易軸を同方向とした。この磁界中熱処理により実施例2−1の2つの反強磁性層(Pt−Mn(15nm)およびIr−Mn(3nm))に隣接する磁性層(磁化固定層13中のPt−Mn(15nm)に隣接するCo(3nm)、磁化固着層10であるIr−Mn(3nm)に隣接するCo90Fe10(8nm))の磁化は反強磁性層からの交換バイアス磁界のために同方向である。同じく、実施例2−2の2つの反強磁性層(Pt−Mn(10nm)およびPt−Mn(15nm))に隣接する層(磁化固定層13中のPt−Mn(15nm)(反強磁性層31)に隣接するCo−Fe(2nm)(第2固定磁性層37)、および、磁化固着層10であるPt−Mn(10nm)(反強磁性層15)に隣接するCo−Fe(4nm)(第2磁性層18))の磁化は反強磁性層からの交換バイアス磁界により同方向を向いている。従って、実施例2−1では非磁性層12であるCu(10nm)にそれぞれ隣接するCo90Fe10(8nm)(軟磁性層11)とCo(3nm)(磁化固定層13を構成する第1固定磁性層35)の磁化は反平行であり、実施例2−2では非磁性層12であるCu(15nm)にそれぞれ隣接するNi81Fe19(5nm)(軟磁性層11)とCo−Fe(3nm)(磁化固定層13を構成する第1固定磁性層35)の磁化は平行である。つまりスピン偏極電流により軟磁性層11の磁化を回転させるためには実施例2−1では軟磁性層11から磁化固定層13へ、実施例2−2では磁化固定層13から軟磁性層11へ電流を流す。実施例2−1および実施例2−2に電流を印加した状態で最大100Oeの外部磁界を磁化固定層13の容易軸方向に印加して磁気抵抗を測定した。電流量を0.01mAから20mAまで変化させて、各電流量に対する磁気抵抗を測定したところ、実施例2−1では1mA〜10mAの電流量の範囲で、実施例2−2では3mA〜15mAの電流量の範囲でヒステリスのない線形応答性に優れた磁気抵抗曲線が得られ、スピン偏極電流による軟磁性層へのバイアス磁界効果が寄与しているものと考えられる。
【0039】
また、従来例として図13に示すような磁気抵抗効果素子を作製した。この試料を従来例2−1とする。作成方法は実施例2−1と同様の手法で実施した。熱酸化膜基板上に形成されたTa(3nm)/Pt(100nm)/Ta(3nm)下部電極部95上に磁気抵抗効果素子部91を以下の膜構成で形成した。自由磁性層98にNi81−Fe19(3nm)、非磁性層97にAl2O3(1nm)、固定磁性層96にCo75−Fe25(3nm)/Pt−Mn(20nm)を用いた。非磁性層97はAl層を0.4nm形成した後に、200Torrの純酸素雰囲気中で3分間自然酸化してAl2O3(0.4nm)形成した。ここでAl2O3(0.4nm)の括弧内の膜厚は酸化前のAl層の膜厚を示す。同様にして、Al2O3(0.3nm)を2回形成してAl2O3(1nm)の非磁性層97を作製した。磁気抵抗効果素子部91の膜を形成した後に、一旦磁界中熱処理を実施して固定磁性層96および自由磁性層98の磁化容易軸を直交化させるために、磁界中熱処理を以下のように実施した。まず280℃の温度で5kOeの磁界を膜面内で図13の紙面に対して垂直方向に印加して固定磁性層96に磁気異方性を付与した後、200℃の温度で100Oeの磁界を膜面内で先ほどの5kOeの磁界方向とは90°回転した方向(つまり図13の紙面に平行)に印加して自由磁性層98の磁化容易軸を付与した。このようにして自由磁性層98と固定磁性層96の磁化容易軸を直交化させた。その後、実施例1と同様にしてフォトリソグラフィーとイオンミリング等の微細加工技術により図13のような磁気抵抗効果素子を形成した。上部電極部92にはTa(15nm)/Pt(10nm)/Cu(500nm)/Ta(3nm)/Pt(3nm)を用いた。自由磁性層98の磁区生成によるヒステリシスを抑制するためにCo−Ptからなる磁区制御層部94を用いてバイアス磁界を印加するようにした。従来例2−1は非磁性層97がAl2O3絶縁層からなり、所謂トンネル磁気抵抗効果素子である。なお、従来例2−1で磁区制御層部94がない従来例2−2の磁気抵抗効果素子も同時に作製した。従来例2―1と従来例2−2の素子サイズは0.5μm×1μmとした。また従来例2−1において磁区制御層部94と自由磁性層98との間の距離は約100nmであった。従来例2−1、2−2の固定磁性層96の磁化容易軸方向(即ち磁界中熱処理を行った際、5kOeの磁界を印加した方向)に最大200Oeの磁界を印加して磁気抵抗を測定した。図19に従来例2−1の試料の外部磁界に対する抵抗の関係を示す。従来例2−1ではヒステリシスのある磁気抵抗曲線が得られ、磁区生成による抵抗の飛び(増減)も観測された。この原因は磁区制御層部94と自由磁性層98とが層間絶縁層部94を介して距離が離れているためにバイアス磁界効果が弱いためであると考えられる。従って、磁区制御層部94のない従来例2−2の磁気抵抗曲線からは、従来例2−1よりもヒステリシスが大きいことに加えて、磁区生成による抵抗の増減が大きい結果が得られた。そこで従来例2−1において磁区制御層部94と自由磁性層98との層間距離を短くして自由磁性層の磁区生成を抑制することを実施したところ、確かに層間距離を短くすることで磁区生成により生ずるバルクハウゼンノイズを低減することが可能であったが、非磁性層97と磁区制御層部94との間で電気的な短絡が生じ、層間距離が短くなるにつれて歩留まりが悪くなる傾向にあり、素子形成プロセスが非常に困難であることが分かった。
【0040】
以上より、本発明の磁気抵抗効果素子は外部磁界に対して従来の磁気抵抗効果素子よりもヒステリシスのない線形応答性に優れていることと、素子形成プロセスの簡略化が容易であり、歩留まりもよいことが分かった。
【0041】
【発明の効果】
自由磁性層/非磁性層/固定磁性層からなる従来の磁気抵抗効果素子において、自由磁性層の磁区生成により発生するバルクハウゼンノイズを抑制するために従来では磁区制御層を必要としていたが、本発明の磁気抵抗効果素子を用いることで、この磁区制御層を必要とせず、磁気抵抗の線形応答性に優れ、高出力の磁気抵抗効果素子、これを用いた磁気ヘッド、および磁気記録装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の磁気抵抗効果素子の一例を示す図
【図2】本発明の磁気抵抗効果素子の垂直方向に電流を印加した場合の、磁化固定層と軟磁性層の磁化方向を説明する図
【図3】本発明の磁気抵抗効果素子の断面の模式図
【図4】本発明の磁気抵抗効果素子の断面の模式図
【図5】本発明の磁気抵抗効果素子の断面の模式図
【図6】本発明の磁気抵抗効果素子の断面の模式図
【図7】本発明の磁気抵抗効果素子の断面の模式図
【図8】本発明の磁気抵抗効果素子の断面の模式図
【図9】本発明の磁気抵抗効果素子の断面の模式図
【図10】本発明の磁気抵抗効果素子の断面の模式図
【図11】本発明の磁化固着層にCoPtを、軟磁性層にNiFeを用いた積層膜の磁化曲線および磁化構造を説明する図
【図12】従来の磁気抵抗効果型ヘッドの断面の模式図
【図13】従来の磁気抵抗効果型素子の断面の模式図
【図14】従来の磁気抵抗効果型ヘッドの断面の模式図
【図15】本発明のシールドを有する磁気ヘッドの一例を示す図
【図16】本発明のヨークを有する磁気ヘッドの一例を示す図
【図17】本発明の磁気記録装置の一例を示す図
【図18】本発明の磁気抵抗効果素子の電流量が異なる場合の外部磁界に対する抵抗変化の関係を示す図
【図19】従来の磁気抵抗効果素子の外部磁界に対する抵抗変化を示す図
【符号の説明】
1:磁気抵抗効果素子部
10:磁化固着層
11:軟磁性層
12:非磁性層
13:磁化固定層
14:高保磁力層
15:反強磁性層
16:第1磁性層
17:反強磁性交換結合用非磁性層
18:第2磁性層
19:反強磁性層
20:非磁性中間層
30:固定磁性層
31:反強磁性層
35:第1固定磁性層
36:固定非磁性層
37:第2固定磁性層
2:下部電極部
3:層間絶縁層部
4:上部電極部
80:再生磁気ヘッド部
81:MR素子部
82:上部シールド
83:上部シールドギャップ部83
84:電極部
85:磁区制御層
86:下部シールドギャップ部
87:下部シールド
88:トラック幅
91:MR素子部
92:上部電極部
93:層間絶縁層部
94:磁区制御層部
95:下部電極部
96:固定磁性層
97:非磁性層
98:自由磁性層
201:磁気抵抗効果素子部
202:下部シールド
203:上部シールド
204:再生ギャップ
205:電極部
206:電極部
207:巻線部
208:記録用磁極
209:記録ギャップ
210:絶縁部
301:磁気抵抗効果素子部
302:ヨーク部
303:上部シールド
304:下部シールド
305:再生ギャップ
306:電極部
307:電極部
400:磁気記録装置
401:磁気抵抗効果型ヘッド
402:駆動部
403:磁気記録媒体
404:信号処理部
【発明の属する技術分野】
本発明は、高密度磁気記録再生ヘッド(磁気ディスク、光磁気ディスク、磁気テープ等)に用いられる磁気抵抗効果素子、磁気ヘッドおよび磁気記録装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
インターネットの普及により急速な情報化革新の進展と、高度通信網が発展するにしたがい、大量の情報が高速に扱う必要性が高まってきている。中でもハードディスク装置(HDD)は大量の情報を格納し、しかも高速転送が可能な外部記録装置である。HDDの大容量化は巨大磁気抵抗効果(Giant Magnet Resistive effect : GMR効果)を利用した再生ヘッド性能の向上をはじめとする技術革新によりその記録密度は年率60%〜100%で伸びている。また、現在は携帯電話やノートパソコンといったモバイル通信機器が日常生活に不可欠のものとなり、モバイル機器を通じて文字情報や動画情報等の様々な情報のやりとりがなされている。このモバイル機器に於いても、大量の情報を瞬時に格納し転送するため、高記録密度磁気記録装置がますます必要となっている。記録密度の向上には、再生ヘッドの再生出力の向上が必達であり、近年ではGMR膜を用いることで記録密度の向上が成されている。
【0003】
GMRは[磁性層/非磁性層/磁性層]といった多層膜において非磁性層を介して隣り合う磁性層の磁化方向が平行、反平行の場合に電気伝導度が電子スピンに依存した散乱により異なるために起こる現象である。磁化が平行の場合は磁気散乱確率が小さいので抵抗値が小さく、反平行の場合は磁気散乱確率が高いので抵抗値は大きくなる(例えば非特許文献1参照。)。また、このGMRを微小磁界で動作するデバイスとして利用するには、スピンバルブと呼ばれる磁気抵抗効果素子(MR素子)が提案された(例えば、非特許文献2参照。)。スピンバルブとは非磁性層を介して2つの強磁性層が積層されており、一方の磁性層(固定磁性層)の磁化方向をFe−Mn、Ir−Mn、Pt−Mn等の反強磁性層により交換バイアス磁界で磁化方向を固定し、もう一方の磁性層(自由磁性層)の磁化方向を外部磁界に対して自由に動かすことにより、固定磁性層と自由磁性層の磁化方向の相対角度を外部磁界に対して変化させて電気抵抗の変化を生じさせるものである。上述のGMR膜を実際の磁気ヘッドとして用いるためには、外部からの信号磁界を検知する自由磁性層に対して、センス電流に対して平行にバイアス磁界を印加する必要がある。このバイアス磁界は自由磁性層の磁区生成に起因するバルクハウゼンノイズを抑制する効果がある(例えば特許文献1参照)。図12には信号磁界方向からみた従来の再生磁気ヘッド部80の断面図を示す。固定磁性層96/非磁性層97/自由磁性層98を含むMR素子部81は下部シールドギャップ部86と上部シールドギャップ部83の間に配置されており、さらに外側には検知すべき信号磁界のMR素子部81への進入を防ぐための下部シールド87と上部シールド82とが配置されている。バイアス磁界を印加するためにMR素子部81の自由磁性層98の両端部には磁区制御層85が配置されており、自由磁性層98の磁化は平行にバイアスされている。MR素子部81の両側には電極部84が配置されてMR素子部81の出力を読み出す。この2つの電極部84の幅がトラック幅88を規定する。磁区制御層85には通常、高保磁力材料であるCoPtやCoCrPt等が用いられる。また、GMR膜の自由磁性層と固定磁性層の磁化方向を直交化させる手法により外部磁界に対する抵抗変化の線形応答性を得ているものもある(例えば、特許文献2参照。)。
【0004】
高記録密度を実現するためには、記録媒体が小さくなることに対応して再生ヘッド部のトラック幅88(素子幅)やMR高さ(素子高さ:図12においてMR素子部81の紙面垂直方向)の低下と磁気抵抗変化率の更なる向上が要求される。トラック密度の向上により、電極間距離(トラック幅)が小さくなるため出力の低下が問題となる。
【0005】
そこで、GMR膜よりも大きな磁気抵抗変化率(以下MR比とよぶ)の得られる、非磁性層にAl2O3などの絶縁体を用いたトンネル磁気抵抗(TMR:tunnel magnetoresistance)効果素子が次世代の磁気ヘッド材料として注目されている。TMR素子は絶縁層を介して電子がトンネルするときのトンネル確率が2つの磁性層の磁化方向に依存して異なることから生ずる現象であり、磁化が平行の場合はトンネル抵抗が小さく、反平行の場合はトンネル抵抗が大きい。
【0006】
現在の磁気ヘッドに用いられるGMR膜は、電流が膜面内に流れるCIP−GMR(Current In Plane − GMR)と呼ばれる、電極層を膜面内に配置した構成となっている。伝導電子は片方の磁性層から、非磁性層を通じて、他方の磁性層へ効率よく伝導することで大きなMR比を得ることが可能であるが、CIP−GMRの場合は、磁気抵抗に関与しない層への電流損が大きいため小さなMR比しか得られない。大きなMR比を得るために、電流を膜面に垂直方向に流すように電極を配置したCPP−GMR(Current Perpendicular to Plane − GMR)が提案されている。しかしながら、GMR膜は数nm〜数十nmといった非常に膜厚の薄い金属多層膜であることから、膜面垂直方向の抵抗値が非常に小さいため、大きなMR比を得ることは可能であっても抵抗変化量は非常に小さく実用的ではなかった。近年、微細加工技術の発展により素子サイズがサブμm以下の非常に小さな素子を作製することで素子断面積が微小なCPP−GMRを得て、抵抗の大きな素子を作製することが可能となり、磁気抵抗変化量を増大できる。しかも、高密度化によりトラック幅およびMR高さの低下、即ち、素子サイズの微細化とも対応可能となることからTMR膜と同様にCPP−GMRも次世代の磁気ヘッド材料への期待が高まりつつある。
【0007】
上述のように従来のCIP−GMR素子では高密度化に対応した出力を得ることが困難なことから、大きなMR比を得ることができるCPP−GMR素子およびTMR素子への磁気ヘッドへの実用化検討が行われている。CPP−GMR素子やTMR素子は膜面に対して電流を垂直に流すために、素子の膜の上下に電極層を配置し、上下の電極層の短絡を防ぐことと、素子を構成する固定磁性層と自由磁性層とは電気的な短絡を生じさせないために、素子の周囲を絶縁層で覆わなければならない。図13にMR素子の膜面に垂直に電流を流すために上下に電極を配置した素子構成を示す。上部電極部92と下部電極部95との間にMR素子部91が配置されており、層間絶縁層部93によりMR素子部91の周囲を絶縁し、上部電極部92と下部電極部95との短絡を防いでいる。MR素子部91のCPP−GMR素子やTMR素子の自由磁性層の磁区生成を抑制するために磁区制御層部94を必要とし、磁区制御層部94は素子の周囲を囲っている層間絶縁層部93を介して配置しなければならない。図13では層間絶縁層部93の一部を介して磁区制御層部94が配置された模式図を示している(例えば、特許文献3参照)。
【0008】
【特許文献1】
米国特許第5018037号公報
【特許文献2】
米国特許第5159513号公報
【特許文献3】
米国特許第5729410号公報
【非特許文献1】
Physical Review Letters Vol.61 (1998) p2472−2475.
【非特許文献2】
Physical Review B Vol.43 (1991) p1297−1300.
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、図13に示すように層間絶縁層部94を介するために磁区制御層部94による自由磁性層へのバイアス印加効果は、弱くなってしまうという問題が生じる。しかも図13のように磁区制御層部94を層間絶縁層部93の中に埋め込んだ構造とするためには複雑なプロセスを経なければならず、特に、MR素子部のサイズはサブμm以下と非常に微細であるため、作成上大きな困難を伴うことから歩留まりが悪くなる問題が生ずる。十分なバイアス磁界を印加するために図14のように自由磁性層98もしくはその一部のみに磁区制御層部94を接触させた構造が提案されている。しかしながら図14のような構造を形成するためには数多くのプロセス行程を必要とし、製造が困難であるばかりではなく、信号磁界の検知部である自由磁性層98への磁気抵抗に寄与しない不均質な電流分布が生じるために出力の低下が問題となる。
【0010】
CPP−GMR素子では、素子抵抗が小さいので電流量を多くして出力電圧を大きくすることが可能である。しかしながら、素子サイズが0.1〜0.01μm2以下の微細な形状となると、スピン偏極電流による自由磁性層の磁化反転が問題となる。これは、2つの磁性層1と磁性層2が非磁性層を介して積層した多層膜において、例えば磁性層1は磁性層2よりも磁化回転しにくいとした場合、磁性層1から非磁性層を通じて磁性層2へ伝導電子が流れるようにすると、磁性層1でスピン偏極した伝導電子が、非磁性層を介して磁性層2へ流れる。スピン偏極した伝導電子は磁気モーメントを持っているため、磁性層2の磁化に対してトルクを生じさせて、磁性層1と磁性層2の磁化が平行となる。一方、逆向きに電子を流すようにすると、磁性層2から磁性層1へスピン偏極した伝導電子が流れ込むが、磁性層1の磁化とは反対向きのスピンをもつ電子は非磁性層と磁性層1との界面で反射されて、磁性層2へ戻って磁性層2に対してトルクを与えるために、磁性層1と磁性層2は反対向きの磁化配列となる。このようなスピン反転現象は素子に用いられる磁性体の材料にもよるが、素子に流れる電流密度が106〜107A/cm2以上になると顕著になり、サブμm以下の微細な素子において大きな問題となる。なぜなら、CPP−GMR素子やTMR素子を磁気ヘッドに用いる場合、再生出力の線形性を得るためには自由磁性層と固定磁性層の磁化方向は互いに直交している必要があるが、垂直電流型MR素子(CPP−GMR素子、TMR素子)のサイズがサブμm以下の微細な素子となると上述のような自由磁性層の磁化方向に対して、固定磁性層と平行もしくは反平行に向くようなトルクが生じるために互いの磁化を直交化させることが困難となる問題がある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明にかかる磁気抵抗効果素子は外部磁界に対して容易に磁化回転する軟磁性層と、非磁性層と、外部磁界に対して自由磁性層より磁化回転が困難な磁化固定層とが順に積層し、軟磁性層と磁化固定層の磁化の相対角度が異なることで磁気抵抗が生じる磁気抵抗効果素子であって、さらに膜面に対して概略垂直に電流を印加するための電極部を有し、前記軟磁性層の前記非磁性層の界面とは反対側に磁化固着層が設けられ、電流を印加することにより非磁性層に隣接する軟磁性層の磁化は可逆的に磁化回転し、さらに前記磁化固定層の磁化が概略直交することにより上記目的が達成される。
【0012】
前記軟磁性層と磁化固定層の磁化容易軸方向は同方向であるとよい。
【0013】
前記磁化固着層は高保磁力層、もしくは反強磁性層、もしくは非磁性層側から順に第1磁性層、反強磁性層が積層した多層膜、もしくは軟磁性層側から順に第1磁性層、反強磁性交換結合用非磁性層、第2磁性層が積層した多層膜、もしくは軟磁性層側から順に第1磁性層、反強磁性交換結合用非磁性層、第2磁性層、反強磁性層が積層した多層膜でであることで前記目的は達成される。
【0014】
上記磁化固着層と軟磁性層との間に膜厚が0.2nmから2nmの非磁性中間層が挿入されていてもよい。
【0015】
前記磁化固定層は、非磁性層から順に強磁性層、反強磁性層が積層した多層膜であってもよい。さらに前記磁化固定層は、非磁性層から順に第1固定磁性層、第1非磁性層、第2固定磁性層、反強磁性層が積層した多層膜であってもよい。
【0016】
上記本発明にかかる磁気抵抗効果素子に対して、印加する外部磁界(信号磁界)は、磁化固定層の磁化容易軸方向と概略平行であることが望ましい。
【0017】
本発明にかかる上記磁気抵抗効果素子の素子サイズ面積が0.1μm2以下であることにより上記目的が達成される。
【0018】
本発明にかかる磁気抵抗効果型ヘッドは、磁気記録媒体からの信号磁界を検知する磁気抵抗効果型ヘッドであって、磁性体を含む2つのシールド部と、前記2つのシールド部の間のギャップ内に設けられる上記本発明の磁気抵抗効果素子とを備え、そのことにより上記目的が達成される。
【0019】
本発明にかかる他の磁気抵抗効果型ヘッドは、磁気記録媒体からの信号磁界を検知する磁気抵抗効果型ヘッドであって、磁性体を含む磁束ガイド部と、前記磁束ガイド部により導かれた信号磁界を検知する上記本発明の磁気抵抗効果素子とを備え、そのことにより上記目的が達成される。
【0020】
本発明にかかる磁気記録装置は、記録媒体に記録された信号を読みとる本発明の磁気ヘッドと、磁気記録媒体と、前記磁気ヘッドを搭載したアームと、前記アームを駆動する駆動部と、前記信号を処理して磁気ヘッドに供給する信号処理部とを備え、そのことにより上記目的が達成される。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下本発明の磁気抵抗効果素子、磁気抵抗効果型ヘッドについて図面に基づいて説明する。
【0022】
図1は本発明の磁気抵抗効果素子の構成を示す断面図の一例である。図1に示した磁気抵抗効果素子部1(以下MR素子とよぶ)は、外部磁界を検知するための軟磁性層11と、非磁性層12と、外部磁界に対して磁化回転することが困難な磁化固定層13とが順に積層した多層膜からなり、軟磁性層11は非磁性層12とは反対側の界面に軟磁性層の磁化と交換結合が生じている磁化固着層10がさらに積層されている。このMR素子1の上下には膜面に対して略垂直に電流を流すための上部電極部4と下部電極部2が配置されている。MR素子部1は上部電極部4および下部電極部2との電気的な短絡を防ぐために層間絶縁層部3で周囲を覆われている。電流を印加しない状態では磁化固定層13と軟磁性層11の磁化容易軸は略平行になっている。図2に図1で示した磁気抵抗効果素子部1の拡大図を示す。ここで図2に示すように軟磁性層11の非磁性層12側の領域部を軟磁性層11a、磁化固着層10側の領域部を軟磁性層11bとする。磁化固定層13と軟磁性層11との磁化方向が平行(反平行)である場合、電流を磁化固定層13側(軟磁性層11側)から電流を印加することで軟磁性層11aの磁化に反平行(平行)向きのトルクかかり、磁化回転が生ずる。軟磁性層11aはスピン偏極電流によるトルクにより磁化回転するが、軟磁性層11bの磁化は交換結合により固定されているため、非磁性層12側の軟磁性層11aの磁化が回転する。従って軟磁性層11aの磁化は磁化固定層13の磁化と直交化させることが可能となる。図2にスピン偏極電流による軟磁性層11の磁化方向と磁化固定層13の磁化方向の模式図を示す。図2では電流を印加しない状態では磁化固定層13と軟磁性層11(軟磁性層11aおよび軟磁性層11bを含む)の磁化方向は略平行の状態である。図2は図1に示した磁化固定層13、非磁性層12、軟磁性層11(軟磁性層11aおよび軟磁性層11bを含む)、磁化固着層10が積層した多層膜を示しており、この多層膜に電流を磁化固定層13側から流した時の磁化状態を示している。スピン偏極電流により生じたトルクにより非磁性層12側の軟磁性層11aの磁化は固定磁性層13の磁化とは反対方向に回転する。しかしながら、磁化固着層10側の軟磁性層11bの磁化は交換結合により固定され、図2では左方向を向いており、軟磁性層11中の隣接する原子層間では各原子層間の交換エネルギーや磁気異方性エネルギーにより層間では角度を持ちうるために、図2に示すように、軟磁性層11において、軟磁性層11a(非磁性層12側)と軟磁性層11b(磁化固着層13側)とで磁化方向は略垂直に磁化が向く状態が実現する。この状態で外部磁界H(ここでいう外部磁界とは検知すべき磁界のことを示す。)を印加すると、軟磁性層11aの磁化がさらに回転することで磁化固定層13との相対磁化が変化するので磁気抵抗が生ずる。さらに軟磁性層11aの磁化は、スピン偏極電流によるいわゆるバイアス磁界が印加された状態であるため、磁化回転は可逆となり、磁区生成により生ずるバルクハウゼンノイズからの出力ノイズを抑制することが可能となる。本発明のMR素子は外部磁界に対して線形に応答する。従って、本発明のMR素子は電流を印加した状態で磁化固定層13と外部磁界Hを検知する層である軟磁性層11(特に軟磁性層11a)の磁化方向を直交化することが可能となり、従来のように図13および図14に示した自由磁性層98の磁区を制御するための磁区制御層部94を必要せず、構造およびプロセスを簡略化することが可能となる。外部磁界の検知は磁化検知層中の軟磁性層の磁化方向が変化することで固定磁性層との相対角度が変化することで磁気抵抗を生じ、外部磁界に対する信号出力はバルクハウゼンノイズのない線形性を得ることが可能となる。なお、図2では電流を印加しない状態で磁化固定層13と軟磁性層11の磁化方向がお互いに平行の場合での説明であり、磁化方向が反平行を向いた状態である場合には電流は軟磁性層11側から流れるようにすればよい。なお、磁化固定層13と軟磁性層11の磁化方向とは、特に非磁性層12に隣接する層について述べているものであり、後述するように磁化固定層13が複数の磁性層で構成される場合は、磁化固定層13の磁化方向は非磁性層12に隣接する層の磁化方向を示し、軟磁性層11の磁化方向も同様に非磁性層12隣接する層の磁化方向を示している。
【0023】
上述のスピン偏極電流による軟磁性層11へのバイアス印加効果は、素子サイズ面積が0.1μm2以下であると効果的にスピン偏極電流によるトルクが生ずる。
【0024】
軟磁性層11は例えばパーマロイやセンダストといった結晶磁気異方性の小さい磁気的にソフトな磁性材料を用いる。軟磁気特性に優れ磁歪が小さい材料としてNixCoyFez(0.6≦x≦0.9、0≦y≦0.4、0≦z≦0.3)もしくはNix’Coy’Fez’(0≦x’≦0.4、0.2≦y’≦0.95、0≦z’≦0.5)を用いることが望ましい。軟磁性層は単一組成の材料を用いる場合や、異なる磁性材料からなる積層膜であってももちろんよい。
【0025】
磁化固着層10には、図3に示すように軟磁性層11よりも保磁力が大きく一軸異方性の大きな高保磁力層14を用いるとよい。高保磁力層14との強磁性的交換結合により非磁性層と反対側の界面の軟磁性層の磁化を固定することが可能となる。高保磁力材料として、例えば、Co、Co−Fe合金やCo−Pt合金、Fe−Pt合金、Co−Cr−Pt合金、Co−Ta−Pt合金等や、Co−Sm、Fe−Tb等の遷移金属−希土類合金等が望ましい。この高保磁力層の一軸磁気異方性を付与するために、下地層にCr、Ru、Ni−Fe、Ni−Fe−Cr層を付与して結晶磁気異方性を制御したり、磁界中で膜を形成、または、膜形成後に磁界中熱処理を実施することによっても一軸磁気異方性を付与することができる。
【0026】
磁化固着層10として他に図4に示すように反強磁性層15を用いてもよい。反強磁性層15との界面により生ずる交換バイアス磁界により軟磁性層11の磁化は固定される。反強磁性材料としては、Pt−Mn、Ir−Mn、Pd−Pt−Mn、Fe−Mn等のA−Mn系金属反強磁性体(AはPt、Ru、Pd、Fe、Cr、Ir、Niから選ばれた少なくとも一種)を用いるとよい。
【0027】
また、図5に示すように磁化固着層10として、軟磁性層11側から順に第1磁性層16、反強磁性交換結合用非磁性層17、第2磁性層18が積層した多層膜を用いてもよい。第1磁性層16と第2磁性層18は反強磁性的交換結合用非磁性層17を介した反強磁性交換結合によりお互いの磁化が反平行を向く状態が安定である。この反強磁性的交換結合用非磁性層17にはCu、Ru、Cr、Ir、Rhから選ばれた少なくとも一種の材料を用いると適当な膜厚(0.5nm〜3nm)で第1磁性層16と第2磁性層18との間に反強磁性的交換結合を生じさせることが可能となる。第1磁性層16および第2磁性層18には種々の磁性材料を用いることができる。軟磁性層11の磁化を固着するためには、第2磁性層18には一軸磁気異方性の大きな磁性材料を用いることが望ましく、例えばFeもしくはCoもしくはCo−Fe合金もしくは、Fe−PtやCo−Pt等のM−T合金(MはFe、Co、Niから選ばれた少なくとも一種、TはPt、Pd、Ru、Ir、Rhから選ばれた少なくとも一種)、もしくはCo−Ta−Pt合金やCo−Cr−Pt合金等のM−T−T’合金(MはFe、Co、Niから選ばれた少なくとも一種、TはPt、Pd、Ru、Ir、Rhから選ばれた少なくとも一種、T’はCr、Ta、Nb、V、Mn、Wから選ばれる少なくとも一種)、もしくはFe−TbやCo−Sm等の遷移磁性金属―希土類合金等を用いるとよい。また第1磁性層16は軟磁性層11と同種の磁性材料を用いてもよい。さらに、図5の第2磁性層18側に反強磁性層19を付与した図6に示す構成としてもよい。この反強磁性層19により第2磁性層18には一方向異方性が付与されて、さらに反強磁性的交換結合用非磁性層17を介した反強磁性的な交換結合により第1磁性層16との磁化は反平行状態が安定となり、第1磁性層16と磁気的な交換結合を生ずる軟磁性層11の磁化を固着することが可能となる。
【0028】
以上図3から図6に示した本発明のMR素子において、軟磁性層11と磁化固着層10との間の界面に生ずる交換結合力を制御するために、軟磁性層11と磁化固着層10との界面に非磁性中間層20を挿入してもよい。図7に図4で示した反強磁性層15と軟磁性層11との界面に非磁性中間層20を挿入した場合を、図8に図6で示した第1磁性層16と軟磁性層11との間に非磁性中間層20を挿入した場合を示す。非磁性中間層20を挿入することにより軟磁性層との交換結合の大きさを制御することが可能となる。非磁性中間層にはCu、Ag、Au、Pt、Pd、Cr、Ru等を用いるとよく、軟磁性層11の非磁性層12と反対側の界面の磁化を固着するのに十分な交換結合を得るためには0.2nm以上2nm以下がよい。
【0029】
軟磁性層11と磁化固着層10における外部磁界に対するそれぞれの磁化過程について、軟磁性層11と磁化固着層13の積層膜について図11(a)を用いて説明する。軟磁性層11と磁化固着層10との界面は交換結合により磁化固着層10側の軟磁性層11(図11(a)では軟磁性層11b)の磁化は固定されているが、磁化固着層10との界面から遠い軟磁性層11(図11(a)では軟磁性層11a)の磁化ほど外部磁界に対して容易に磁化回転する働きがある。つまり軟磁性層11において、交換結合により磁化方向が磁化固着層13により固定されている軟磁性層11bの磁化方向とは逆向きに外部磁界を印加すると、磁化固着層10との界面から遠い軟磁性層11aの磁化から徐々に磁化回転をする現象であり、この軟磁性層11の磁気特性は可逆的な磁化回転過程を示す。
【0030】
軟磁性層11にNiFe(パーマロイ)と、磁化固着層10にパーマロイよりも高い保磁力を示すCoPtとを積層した場合を例に軟磁性層11と磁化固着層10の磁化過程について図11(b)を用いて説明する。図11(b)には軟磁性層11と磁化固着層10の磁化方向を模式図で示す。(I)と(III)の状態では両層の磁化は飽和しており磁化は揃っている。この状態で逆向きの磁界を印加するとある磁界(図中でHa、−Ha)において軟磁性層11の磁化が回転し始めることに対応して磁化が減少する。さらに磁界を大きくすると、磁化固着層10との界面から遠い軟磁性層11aの磁化が回転し、最後には磁化固着層10の磁化が反転して(図中でHb、−Hb)、急激な磁化の減少を示す。この例では、磁化固着層10の磁化回転は非可逆であるのに対し、軟磁性層11の磁化回転は可逆的であり図中で|Ha|<H<|Hb|の磁界範囲に相当する。このようにNiFeとCo−Ptの積層体において、CoPtとは反対側の界面のNiFeの磁化を回転させるには外部磁界により制御することができるが、本発明の磁気抵抗効果素子では非磁性層12を介して磁化固定層13と軟磁性層11とがスピン偏極電流により生ずるトルクにより非磁性層12側の軟磁性層11(軟磁性層11a)の磁化を制御することが可能となる。
【0031】
磁化固定層13には一軸磁気異方性が大きく高保磁力材料であるFeもしくはCoもしくはCo−Fe合金もしくは、Fe−PtやCo−Pt等のM−T合金(MはFe、Co、Niから選ばれた少なくとも一種、TはPt、Pd、Ru、Ir、Rhから選ばれた少なくとも一種)、もしくはCo−Ta−Pt合金やCo−Cr−Pt合金等のM−T−T’合金(MはFe、Co、Niから選ばれた少なくとも一種、TはPt、Pd、Ru、Ir、Rhから選ばれた少なくとも一種、T’はCr、Ta、Nb、V、Mn、Wから選ばれる少なくとも一種)、もしくはFe−TbやCo−Sm等の遷移磁性金属―希土類合金等を用いるとよい。また、図9に示すように磁化固定層13を非磁性層12側から順に固定磁性層30、反強磁性層31が積層し、反強磁性層31からの交換バイアス磁界により固定磁性層30の磁化を固定するようにしてもよい。この場合、固定磁性層30には種々の磁性材料を用いることができる。反強磁性層31には種々の反強磁性材料を用いることが可能であるが、特にA−Mn系金属反強磁性体(AはPt、Ru、Pd、Fe、Cr、Ir、Niから選ばれた少なくとも一種)を用いると大きな交換バイアスを得ることができ、磁化固定層13としての機能を果たす役割がある。さらに図10に示すように図9に示した固定磁性層30が、非磁性層12側から順に第1固定磁性層35、固定非磁性層36、第2固定磁性層37が積層した多層構造をしてもよい。この第1および第2固定磁性層35および37は固定非磁性層36を介して反強磁性的交換結合によりお互いの磁化が反平行に向くことが安定な磁化配列をする。第1固定磁性層35および第2固定磁性層37には種々の磁性材料を用いることが可能であり、固定非磁性層36にはRu、Cu、Cr、Ir等から選ばれる少なくとも一種の非磁性金属層を用い、膜厚は0.6〜3nmの範囲であればよい。
【0032】
非磁性層12には磁化固定層13と軟磁性層11との間に磁気抵抗が生ずる非磁性体であれば何でもよく、中でもCu、Ag、Au、Ru、Cr等は大きな磁気抵抗変化率を得るには有利な非磁性体である。膜厚は、2nm以上100nm以下であればよい。さらに、非磁性層12と軟磁性層11との界面に磁気抵抗が大きくなる磁性材料、即ちスピン分極率の大きな磁性材料を用いてもよく、例えば、Fe、Co、Fe−Co合金、M−T合金(MはFe、Co、Niから選ばれた少なくとも一種、TはPt、Pd、Ru、Ir、Rhから選ばれた少なくとも一種)、Fe3O4、CrO2等が上げられる。しかしながらこれらスピン分極率の大きな磁性材料は一般に軟磁性層11に用いる磁性材料よりも磁気的にハードであるため、膜厚として2nm以下、より望ましくは1nm以下とすることで軟磁性層11の軟磁気特性の劣化は生じない。
【0033】
なお、図3〜9に示した膜構成は積層順に限定されるものではなく、逆からの積層順であってももちろんよい。
【0034】
本発明のMR素子の膜形成には、パルスレ−ザデポジション(PLD)、イオンビ−ムデポジション(IBD)、クラスタ−イオンビ−ムまたはRF、DC、ECR、ヘリコン、ICPまたは対向タ−ゲットなどのスパッタリング法、MBE法等で作成することが可能である。
【0035】
本発明のMR素子を図1に示すように、膜面に対して概略垂直方向に電流を流す構造とするには、半導体プロセスや、GMRヘッド作製プロセス等で用いられるイオンミリング、FIB(フォーカスイオンビーム)、RIE(リアクティブイオンエッチング)等の物理的あるいは化学的エッチング法や、微細パタ−ン形成のためにステッパ−、電子ビーム(EB)を用いた露光法等を用いたフォトリソグラフィ−技術を組み合わせて微細加工することで図1のような素子を作成することが可能である。電極材料として、Pt、Au、Cu、Ru、Al、TiNを初め、抵抗率が100μΩcm以下の低抵抗材料を用いればよい。層間絶縁層には、Al2O3、SiO2、SiN、AlN等の絶縁特性に優れた材料を用いればよい。
【0036】
本発明のMR素子を用いて図15および図16に示すような高出力磁気ヘッドが可能となる。図15の磁気ヘッドはいわゆるシールド型磁気ヘッドの一例を示す。図15では磁性体からなる2つのシールド(上部シールド203と下部シールド202)を有し、この2つのシールド部の再生ギャップ204内にMR素子部201を設けるように構成されている。記録は巻線部205に電流を流して記録用磁極206と上部シールド203の間の記録ギャップ207からの漏洩磁界により信号を記録媒体(図示せず)に書き込み再生は記録媒体(図示せず)からの信号磁界Hを再生ギャップ204(シールドギャップ)間に設けられた本発明のMR素子部201により読みとることにより行われる。MR素子部201には電極部205、206が膜の上下に接続され、上下の電極部と上下のシールドとは絶縁層により電気的に絶縁してもよいし、上下の電極部を上下シールドと接続して、上下のシールドも電極部をかねる構造としてもよい。上部および下部のシールド203、202にはNi−Fe、Fe−Al−Si、Co−Nb−Zr合金などの軟磁性膜が使われる。絶縁部208としては、Al2O3、AlN、SiN、SiO2等の絶縁膜が使われる。
【0037】
また図16に示すように磁性体よりなる磁束ガイド(ヨーク)部302が上下シールド303,304で形成された再生ギャップ間305に設けられ、検知すべき記録媒体(図示せず)からの信号磁界Hはこのヨーク部302により本発明のMR素子部301に導入されることで、MR素子部301で信号磁界の読みとりを行う。図16のようなヨーク部302を用いることで再生ギャップ長を短くすることが可能となるため短波長化に対応した再生ヘッドを提供することができる。図16に示した本発明のヨーク型ヘッドはヨ−クを用いるため感度では図15のシールド型ヘッドより劣るが、図15のようにシ−ルドギャップ中にMR素子を置く必要がないため超狭ギャップ化では有利である。さらにMR素子部301が記録媒体(図示せず)には露出した構造ではないため、不意に再生ヘッドが記録媒体と接触するような場合や、例えば記録媒体として磁気テープを用い、テープと再生ヘッドを接触させて情報読み出しを行うような場合ではシールド型ヘッドと比較してヘッドの破損や摩耗による特性劣化といった信頼性という面で優れている。ヨーク部302に用いる磁性材料としては透磁率の高い磁性材料を用いることが望ましく、例えば、Ni−Fe、Fe−Al−Si、Co−Nb−Ta、Co−Zr−Ta等がよい。ヨーク部302と上下シールド303、304との間には非磁性の絶縁材料で絶縁する必要がある。図16のヨーク型磁気ヘッドは読みとり専用の再生ヘッドなので、通常書き込み用の誘導型磁気ヘッドと組み合わせて用いられる。以上図15、図16に示した本発明の磁気抵抗効果型ヘッドを用いることにより磁区制御層が無くても再生波形の優れ、高出力の磁気ヘッドを提供することが可能となる。
【0038】
これら本発明の再生ヘッドを有する磁気ヘッドを用いてHDD等の磁気記録装置を構成することが可能である。図17に示すように、本発明の磁気ヘッド401、その駆動部402、情報を記録する磁気記録媒体403、及び信号処理部404を用いて高記録密度に対応した磁気記録装置400を構成することが可能となる。
(実施例1)
本発明の実施の一形態として、図1および図3、図9に示したMR素子について説明する。到達真空度が1×10−8Torr以下の成膜チャンバー中において500nmの熱酸化膜付きSi基板上にDCおよびRFマグネトロンスパッタ法によりMR膜を作製した。まず基板上に下部電極部2としてTa(3nm)/Pt(100nm)/Ta(3nm)/Cr(3nm)を積層した。その上に磁化固着層10としてCo0.5−Pt0.5(10nm)を、軟磁性層11としてNi−Fe(20nm)を、非磁性層12としてCu(20nm)、磁化固定層13としてCo(3nm)/Ir−Mn(8nm)を積層して図3、図9に示す膜構成のMR素子を形成した。ここで磁化固定層13を構成するCo層およびIr−Mn層は図9においてそれぞれ固定磁性層30および反強磁性層31に対応する。これらの試料膜上に保護層兼上部電極部の一部としてTa(3nm)/Pt(10nm)を形成した後に、フォトリソグラフィーとイオンミリングを用いて図1に示すようなMR素子とした。なお本実施例では磁化固着層10のCo−Ptの一軸磁気異方性を付与するために下地層にCr層を下部電極の一部として設けている。層間絶縁層部3にはAl2O3をスパッタすることで形成し、上部電極部4にはTa(3nm)/Cu(500nm)/Pt(10nm)を用いた。MR素子部1のセル形状は0.1μm×0.2μmである。図1に示すMR素子を作製した後、250℃で5kOeの磁界をセルの長手方向に印加して3時間磁界中熱処理を実施して、軟磁性層11および磁化固定層13の磁化容易軸を同方向とした。作製したMR素子を実施例1とする。実施例1に熱処理時に印加した磁界と同方向に5kOeの磁界を印加して軟磁性層11と磁化固定層13の磁化方向を平行とした。その後に、電流を磁化固定層から軟磁性層へ電流を流して、外部磁界を最大100Oe印加して磁気抵抗を測定した。電流量が0.1mAと10mAの場合の磁気抵抗曲線を図18(a)および(b)にそれぞれ示す。電流量が0.1mAの場合では図18(a)から若干のヒステリシスと動作点中心が零磁界よりずれが生じていることが分かる。これは電流量が少ないために、スピン偏極電流により生ずる軟磁性層へのトルクが小さく軟磁性層の磁化はスピン偏極電流によるバイアス効果はほとんど生じていないことに起因すると考えられる。これは図18(a)の零磁界での抵抗値がほとんど最小値を示していることからも分かる。一方、さらに電流量を増加した図18(b)の場合では、磁気抵抗曲線にヒステリシスは生じていない。しかも、零磁界での抵抗値は磁界を正および負に印加した場合の抵抗値と比較してほぼ中間の値を示していることから非磁性層12側の軟磁性層11(軟磁性層11a)の磁化と磁化固定層13の磁化は零磁界において略垂直であると考えられる。このように電流量を増加することで、スピン偏極電流により生ずるトルクが大きくなり、軟磁性層11(軟磁性層11a)の磁化が磁化固定層13に対してほぼ垂直となり、バイアス磁界をスピン偏極電流で印加した効果が生じていると考えられる。
(実施例2)
本発明の実施の一形態として、実施例1と同様な手法で図1に示すようなMR素子を作製した。図1のMR素子の膜構成は図4に示した構成とした。以下に膜構成を示す。下部電極2上に磁化固定層13としてPt−Mn(15nm)/Co(3nm)/Ru(0.8nm)/Co(3nm)を形成した。この磁化固定層13は図10で示した膜構成であり、Pt−Mn(15nm)は図10において反強磁性層31に対応し、Co(3nm)/Ru(0.8nm)/Co(3nm)は固定磁性層30に対応する。さらにこの固定磁性層30を構成するの2つのCo層は第1固定磁性層35および第2固定磁性層37に、Ru層は固定非磁性層36に対応する。また、第1固定磁性層35および第2固定磁性層37の2つのCo層は固定非磁性層36を介して反強磁性的な交換結合によりお互いの磁化が反平行に向いている。さらにこの膜上に非磁性層12としてCu(10nm)、軟磁性層11としてCo90Fe10(8nm)を形成し、磁化固着層10として反強磁性体であるIr−Mn(3nm)を積層して図4もしくは図10に示す膜構成のMR素子を実施例1と同様にしてフォトリソグラフィーおよいびイオンミリング法等の微細加工技術を用いて図1に示すようなMR素子を形成した。なお層間絶縁層3にはSiNをArと窒素の混合雰囲気中でスパッタすることで形成し、下部電極2にはTa(3nm)/Pt(100nm)/Ta(3nm)、上部電極4にはTa(3nm)/Cu(500nm)/Pt(10nm)を用いた。この試料を実施例2−1とする。同様にして図8に示す膜構成の別のMR素子も作製した。MR素子部の膜構成は、下地電極2上に磁化固着層10として反強磁性層19のPt−Mn(10nm)、第2磁性層18のCo−Fe(4nm)、反強磁性交換結合用非磁性層17のRu(0.9nm)、第1磁性層16のCo−Fe(4nm)、非磁性中間層20としてCu(0.5nm) を順に積層し、軟磁性層11としてNi81Fe19(5nm)、非磁性層12としてCu(15nm)、磁化固定層13としてCo−Fe(3nm)/Ru(0.8nm)/Co−Fe(2nm)/Pt−Mn(15nm)を順次積層した。ここで磁化固着層10の第1磁性層16と第2磁性層18の2つのCo−Fe層と磁化固定層13の2つのCo−FeはRuを介して反強磁性的な交換結合のためにお互いの磁化が反平行となっている。また磁化固定層13の積層体は図10に示すように、固定磁性層30と反強磁性層31とからなり、さらに固定磁性層30は第1固定磁性層35、固定非磁性層36、第2固定磁性層37からなる膜構成となっている。以上の膜構成のMR素子を実施例2−2とする。実施例2−1および実施例2−2のセル形状は0.06μm×0.15μmとした。図1に示すMR素子を作製した後、280℃で10kOeの磁界をセルの長手方向に印加して5時間磁界中熱処理を実施して、軟磁性層11および磁化固定層13の磁化容易軸を同方向とした。この磁界中熱処理により実施例2−1の2つの反強磁性層(Pt−Mn(15nm)およびIr−Mn(3nm))に隣接する磁性層(磁化固定層13中のPt−Mn(15nm)に隣接するCo(3nm)、磁化固着層10であるIr−Mn(3nm)に隣接するCo90Fe10(8nm))の磁化は反強磁性層からの交換バイアス磁界のために同方向である。同じく、実施例2−2の2つの反強磁性層(Pt−Mn(10nm)およびPt−Mn(15nm))に隣接する層(磁化固定層13中のPt−Mn(15nm)(反強磁性層31)に隣接するCo−Fe(2nm)(第2固定磁性層37)、および、磁化固着層10であるPt−Mn(10nm)(反強磁性層15)に隣接するCo−Fe(4nm)(第2磁性層18))の磁化は反強磁性層からの交換バイアス磁界により同方向を向いている。従って、実施例2−1では非磁性層12であるCu(10nm)にそれぞれ隣接するCo90Fe10(8nm)(軟磁性層11)とCo(3nm)(磁化固定層13を構成する第1固定磁性層35)の磁化は反平行であり、実施例2−2では非磁性層12であるCu(15nm)にそれぞれ隣接するNi81Fe19(5nm)(軟磁性層11)とCo−Fe(3nm)(磁化固定層13を構成する第1固定磁性層35)の磁化は平行である。つまりスピン偏極電流により軟磁性層11の磁化を回転させるためには実施例2−1では軟磁性層11から磁化固定層13へ、実施例2−2では磁化固定層13から軟磁性層11へ電流を流す。実施例2−1および実施例2−2に電流を印加した状態で最大100Oeの外部磁界を磁化固定層13の容易軸方向に印加して磁気抵抗を測定した。電流量を0.01mAから20mAまで変化させて、各電流量に対する磁気抵抗を測定したところ、実施例2−1では1mA〜10mAの電流量の範囲で、実施例2−2では3mA〜15mAの電流量の範囲でヒステリスのない線形応答性に優れた磁気抵抗曲線が得られ、スピン偏極電流による軟磁性層へのバイアス磁界効果が寄与しているものと考えられる。
【0039】
また、従来例として図13に示すような磁気抵抗効果素子を作製した。この試料を従来例2−1とする。作成方法は実施例2−1と同様の手法で実施した。熱酸化膜基板上に形成されたTa(3nm)/Pt(100nm)/Ta(3nm)下部電極部95上に磁気抵抗効果素子部91を以下の膜構成で形成した。自由磁性層98にNi81−Fe19(3nm)、非磁性層97にAl2O3(1nm)、固定磁性層96にCo75−Fe25(3nm)/Pt−Mn(20nm)を用いた。非磁性層97はAl層を0.4nm形成した後に、200Torrの純酸素雰囲気中で3分間自然酸化してAl2O3(0.4nm)形成した。ここでAl2O3(0.4nm)の括弧内の膜厚は酸化前のAl層の膜厚を示す。同様にして、Al2O3(0.3nm)を2回形成してAl2O3(1nm)の非磁性層97を作製した。磁気抵抗効果素子部91の膜を形成した後に、一旦磁界中熱処理を実施して固定磁性層96および自由磁性層98の磁化容易軸を直交化させるために、磁界中熱処理を以下のように実施した。まず280℃の温度で5kOeの磁界を膜面内で図13の紙面に対して垂直方向に印加して固定磁性層96に磁気異方性を付与した後、200℃の温度で100Oeの磁界を膜面内で先ほどの5kOeの磁界方向とは90°回転した方向(つまり図13の紙面に平行)に印加して自由磁性層98の磁化容易軸を付与した。このようにして自由磁性層98と固定磁性層96の磁化容易軸を直交化させた。その後、実施例1と同様にしてフォトリソグラフィーとイオンミリング等の微細加工技術により図13のような磁気抵抗効果素子を形成した。上部電極部92にはTa(15nm)/Pt(10nm)/Cu(500nm)/Ta(3nm)/Pt(3nm)を用いた。自由磁性層98の磁区生成によるヒステリシスを抑制するためにCo−Ptからなる磁区制御層部94を用いてバイアス磁界を印加するようにした。従来例2−1は非磁性層97がAl2O3絶縁層からなり、所謂トンネル磁気抵抗効果素子である。なお、従来例2−1で磁区制御層部94がない従来例2−2の磁気抵抗効果素子も同時に作製した。従来例2―1と従来例2−2の素子サイズは0.5μm×1μmとした。また従来例2−1において磁区制御層部94と自由磁性層98との間の距離は約100nmであった。従来例2−1、2−2の固定磁性層96の磁化容易軸方向(即ち磁界中熱処理を行った際、5kOeの磁界を印加した方向)に最大200Oeの磁界を印加して磁気抵抗を測定した。図19に従来例2−1の試料の外部磁界に対する抵抗の関係を示す。従来例2−1ではヒステリシスのある磁気抵抗曲線が得られ、磁区生成による抵抗の飛び(増減)も観測された。この原因は磁区制御層部94と自由磁性層98とが層間絶縁層部94を介して距離が離れているためにバイアス磁界効果が弱いためであると考えられる。従って、磁区制御層部94のない従来例2−2の磁気抵抗曲線からは、従来例2−1よりもヒステリシスが大きいことに加えて、磁区生成による抵抗の増減が大きい結果が得られた。そこで従来例2−1において磁区制御層部94と自由磁性層98との層間距離を短くして自由磁性層の磁区生成を抑制することを実施したところ、確かに層間距離を短くすることで磁区生成により生ずるバルクハウゼンノイズを低減することが可能であったが、非磁性層97と磁区制御層部94との間で電気的な短絡が生じ、層間距離が短くなるにつれて歩留まりが悪くなる傾向にあり、素子形成プロセスが非常に困難であることが分かった。
【0040】
以上より、本発明の磁気抵抗効果素子は外部磁界に対して従来の磁気抵抗効果素子よりもヒステリシスのない線形応答性に優れていることと、素子形成プロセスの簡略化が容易であり、歩留まりもよいことが分かった。
【0041】
【発明の効果】
自由磁性層/非磁性層/固定磁性層からなる従来の磁気抵抗効果素子において、自由磁性層の磁区生成により発生するバルクハウゼンノイズを抑制するために従来では磁区制御層を必要としていたが、本発明の磁気抵抗効果素子を用いることで、この磁区制御層を必要とせず、磁気抵抗の線形応答性に優れ、高出力の磁気抵抗効果素子、これを用いた磁気ヘッド、および磁気記録装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の磁気抵抗効果素子の一例を示す図
【図2】本発明の磁気抵抗効果素子の垂直方向に電流を印加した場合の、磁化固定層と軟磁性層の磁化方向を説明する図
【図3】本発明の磁気抵抗効果素子の断面の模式図
【図4】本発明の磁気抵抗効果素子の断面の模式図
【図5】本発明の磁気抵抗効果素子の断面の模式図
【図6】本発明の磁気抵抗効果素子の断面の模式図
【図7】本発明の磁気抵抗効果素子の断面の模式図
【図8】本発明の磁気抵抗効果素子の断面の模式図
【図9】本発明の磁気抵抗効果素子の断面の模式図
【図10】本発明の磁気抵抗効果素子の断面の模式図
【図11】本発明の磁化固着層にCoPtを、軟磁性層にNiFeを用いた積層膜の磁化曲線および磁化構造を説明する図
【図12】従来の磁気抵抗効果型ヘッドの断面の模式図
【図13】従来の磁気抵抗効果型素子の断面の模式図
【図14】従来の磁気抵抗効果型ヘッドの断面の模式図
【図15】本発明のシールドを有する磁気ヘッドの一例を示す図
【図16】本発明のヨークを有する磁気ヘッドの一例を示す図
【図17】本発明の磁気記録装置の一例を示す図
【図18】本発明の磁気抵抗効果素子の電流量が異なる場合の外部磁界に対する抵抗変化の関係を示す図
【図19】従来の磁気抵抗効果素子の外部磁界に対する抵抗変化を示す図
【符号の説明】
1:磁気抵抗効果素子部
10:磁化固着層
11:軟磁性層
12:非磁性層
13:磁化固定層
14:高保磁力層
15:反強磁性層
16:第1磁性層
17:反強磁性交換結合用非磁性層
18:第2磁性層
19:反強磁性層
20:非磁性中間層
30:固定磁性層
31:反強磁性層
35:第1固定磁性層
36:固定非磁性層
37:第2固定磁性層
2:下部電極部
3:層間絶縁層部
4:上部電極部
80:再生磁気ヘッド部
81:MR素子部
82:上部シールド
83:上部シールドギャップ部83
84:電極部
85:磁区制御層
86:下部シールドギャップ部
87:下部シールド
88:トラック幅
91:MR素子部
92:上部電極部
93:層間絶縁層部
94:磁区制御層部
95:下部電極部
96:固定磁性層
97:非磁性層
98:自由磁性層
201:磁気抵抗効果素子部
202:下部シールド
203:上部シールド
204:再生ギャップ
205:電極部
206:電極部
207:巻線部
208:記録用磁極
209:記録ギャップ
210:絶縁部
301:磁気抵抗効果素子部
302:ヨーク部
303:上部シールド
304:下部シールド
305:再生ギャップ
306:電極部
307:電極部
400:磁気記録装置
401:磁気抵抗効果型ヘッド
402:駆動部
403:磁気記録媒体
404:信号処理部
Claims (15)
- 外部磁界に対して容易に磁化回転する軟磁性層と、非磁性層と、外部磁界に対して自由磁性層より磁化回転が困難な磁化固定層とが順に積層し、軟磁性層と磁化固定層の磁化の相対角度が異なることで磁気抵抗が生じる磁気抵抗効果素子において、前記磁気抵抗効果素子は膜面に対して概略垂直に電流を印加するための電極部を有し、前記軟磁性層の前記非磁性層の界面とは反対側に磁化固着層が設けられ、電流を印加することにより非磁性層に隣接する軟磁性層の磁化は可逆的に磁化回転し、さらに前記磁化固定層との磁化が概略直交することを特徴とする磁気抵抗効果素子。
- 前記軟磁性層と磁化固定層の磁化容易軸方向は同方向であることを特徴とする請求項1記載の磁気抵抗効果素子。
- 磁化固着層は高保磁力層であることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気抵抗効果素子。
- 前記磁化固着層は反強磁性層であることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気抵抗効果素子。
- 前記磁化固着層は非磁性層側から順に第1磁性層、反強磁性層が積層した多層膜であることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気抵抗効果素子。
- 前記磁化固着層は軟磁性層側から順に第1磁性層、反強磁性交換結合用非磁性層、第2磁性層が積層した多層膜であることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気抵抗効果素子。
- 請求項6に記載の第2磁性層にさらに反強磁性層が積層していることを特徴とする請求項1または2または5に記載の磁気抵抗効果素子。
- 前記磁化固着層と軟磁性層との間に膜厚が0.2nmから2nmの非磁性中間層が挿入されていることを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載の磁気抵抗効果素子。
- 前記磁化固定層は、非磁性層から順に固定磁性層、反強磁性層が積層した多層膜であることを特徴とする請求項1から8の何れかに記載の磁気抵抗効果素子。
- 前記磁化固定層は、非磁性層から順に第1固定磁性層、第1非磁性層、第2固定磁性層、反強磁性層が積層した多層膜であることを特徴とする請求項1から8の何れかに記載の磁気抵抗効果素子。
- 請求項1から10の何れか記載の磁気抵抗効果素子に印加する外部磁界は、前記磁気抵抗効果素子を構成する磁化固定層の磁化容易軸方向と概略平行であることを特徴とする磁気抵抗効果素子。
- 請求項1から11の何れか記載の磁気抵抗効果素子の素子サイズ面積が0.1μm2以下であることを特徴とする磁気抵抗効果素子。
- 磁気記録媒体からの信号磁界を検知する磁気抵抗効果型ヘッドであって、磁性体を含む2つのシールド部と、前記2つのシールド部の間のギャップ内に設けられる請求項1〜12のいずれかに記載の磁気抵抗効果素子とを備えた磁気抵抗効果型ヘッド。
- 磁気記録媒体からの信号磁界を検知する磁気抵抗効果型ヘッドであって、磁性体を含む磁束ガイド部と、前記磁束ガイド部により導かれた信号磁界を検知する請求項1〜12のいずれかに記載の磁気抵抗効果素子とを備えた磁気抵抗効果型ヘッド。
- 磁気記録媒体と、前記磁気記録媒体に記録された信号を読み出す磁気ヘッドと、磁気ヘッドを搭載したアームと、前記アームを駆動する駆動部と、前記信号を処理して前記磁気ヘッドに供給する信号処理部とを備える磁気記録装置。
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