JP4352620B2 - ノルボルネン系開環重合体水素化物の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、結晶性を有するノルボルネン系開環重合体又は該開環重合体水素化物の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
周期表第4〜9族の遷移金属化合物を用いるノルボルネン系単量体の開環メタセシス重合は、従来からよく知られており、周期表第6族のWやMoの他、Nb、Ta、Re、Zr、Ti、Ru、Os、Irなどの遷移金属化合物が開環重合触媒として用いられている。
フェノキシ基を配位子として持つWのハロゲン化物又はオキシハロゲン化物と水素化トリオルガノスズ並びにハロゲン化ホウ素からなる重合触媒を用いて、ジシクロペンタジエンを開環重合する方法(U.S.PAT.NO.5218065)や周期表第5〜8族のイミド遷移金属化合物とビフェノール類との反応生成物と助触媒を用いて、ジシクロペンタジエンなどの環状オレフィンをメタセシス重合する方法(U.S.PAT.NO.5405924)が報告されている。これらは、開環重合したことのみを開示している。
WやMoのハロゲン化物やオキシハロゲン化物と有機金属還元剤を用いたチーグラー型重合触媒は、広く知られている。例えば、WCl6やMoCl5などのハロゲン化物とテトラフェニルスズやテトラ(n−ブチル)スズなどの有機スズからなる重合触媒、WOCl4やMoOCl4などのオキシハロゲン化物とトリエチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロリド、エチルアルミニウムジクロリドなどの有機アルミニウムからなる重合触媒などが良く知られている(‘Olefin Metathesis and Metathesis Polymerization’K.J.Ivan,J.C.Mol編、1997、ACADEMIC PRESS、TOKYOなど)。しかしながら、これらのチーグラー型重合触媒で重合したノルボルネン系単量体の開環重合体又はその水素化物は、非晶質で融点を有しない。この重合体を種々の用途に使用する場合、機械強度、耐熱性、耐溶剤性等が不十分なときがあった。
そのため、これらの問題点を解決するために融点を有する、すなわち結晶性を有するノルボルネン系開環重合体又はその水素化物を製造する方法及びそれに用いる重合触媒の開発が望まれていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、結晶性ノルボルネン系開環重合体及びその水素化物の製造方法及びそれに用いる触媒とその製造方法を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、
特定の遷移金属のハロゲン化物、オキシハロゲン化物又はジオキシハロゲン化物と芳香族モノオール又は芳香族モノオキシドとの反応物と、有機金属還元剤とからなる重合触媒を用いて、ノルボルネン系単量体を開環メタセシス重合し、続いて水素化すると結晶性を有する重合体水素化物が得られること、
特定の遷移金属のハロゲン化物、オキシハロゲン化物又はジオキシハロゲン化物と芳香族ジオール類又は芳香族ジオキシド類との反応物と、有機金属還元剤とからなる重合触媒を用いて、ノルボルネン系単量体を開環メタセシス重合し、必要に応じて水素化すると結晶性を有する重合体および/又は水素化物が得られることを見出し、かかる知見に基づき本発明を完成するに至った。
かくして、本発明によれば、
【0005】
(1)周期表第4〜6族遷移金属のハロゲン化物、オキシハロゲン化物又はジオキシハロゲン化物(a)と置換基を有する芳香族モノオール類又は置換基を有する芳香族モノオキシド類(b)との反応物(I)と、有機金属還元剤(II)とからなる重合触媒の存在下でノルボルネン系単量体を開環メタセシス重合した後、得られた該重合体の主鎖中に存在する炭素−炭素二重結合の50%以上を水素化触媒存在下で水素化する結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物の製造方法、(2)周期表第4〜6族遷移金属のハロゲン化物、オキシハロゲン化物又はジオキシハロゲン化物(a)と芳香族ジオール類又は芳香族ジオキシド類(c)との反応物(III)と、有機金属還元剤(II)とからなる重合触媒の存在下にノルボルネン系単量体を開環メタセシス重合した後、得られた該重合体の主鎖中に存在する炭素−炭素二重結合の50%以上を水素化触媒存在下で水素化する結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物の製造方法、(3)芳香族ジオキシ基を配位子として有する周期表第4〜6族遷移金属オキシ化物又はハロゲン化物(IV)と有機金属還元剤(II)とからなる重合触媒の存在下にノルボルネン系単量体を開環メタセシス重合した後、得られた該重合体の主鎖中に存在する炭素−炭素二重結合の50%以上を水素化触媒存在下で水素化する結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物の製造方法が提供される。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明の製造方法では、反応物(I)、(III)又は化合物(IV)と有機金属還元剤(II)とからなる重合触媒を用いて、ノルボルネン系単量体を開環メタセシス重合し、必要に応じてさらに水素化反応させる。
本発明の反応物(I)は、周期表第4〜6族遷移金属のハロゲン化物、オキシハロゲン化物又はジオキシハロゲン化物(a)と置換基を有する芳香族モノオール類又は芳香族モノオキシド類(b)との反応物、反応物(III)は、周期表第4〜6族遷移金属のハロゲン化物、オキシハロゲン化物又はジオキシハロゲン化物(a)と芳香族ジオール類又は芳香族ジオキシド類(c)との反応物、化合物(IV)は、芳香族ジオキシ基を配位子として有する周期表第4族〜第6族遷移金属オキシ化合物又はハロゲン化物である。
【0007】
周期表第4〜6族遷移金属のハロゲン化物、オキシハロゲン化物又はジオキシハロゲン化物(a)(以下、「化合物(a)」という。)を構成する周期表第4族〜第6族遷移金属としては、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Mo、Wなどを挙げることができる。そのなかでもMo、Wは、重合活性が高く好ましい。該遷移金属のハロゲン化物として、TiCl4、ZrCl4、VCl5、NbCl5、TaCl5、MoCl5、WCl6、TiBr4、ZrBr4、VBr5、NbBr5、TaBr5、MoBr5、WBr6、TiF4、ZrF4、VF5、NbF5、TaF5、MoF5、WF6、TiI4、ZrI4、VI5、NbI5、TaI5、MoI5、WI6などを挙げることができる。
周期表第4〜6族遷移金属のオキシハロゲン化物として、VOCl3、MoOCl4、WOCl4、VOBr3、MoOBr4、WOBr4、VOF3、MoOF4、WOF4、VOI3、MoOI4、WOI4などを挙げることができる。
周期表第4〜6族遷移金属のジオキシハロゲン化物として、MoO2Cl2、WO2Cl2、MoO2Br2、WO2Br2、MoO2F2、WO2F2、MoO2I2、WO2I2などを挙げることができる。
【0008】
本発明に用いられる置換基を有する芳香族モノオール類又は芳香族モノオキシド類(b)(以下、「化合物(b)」という。)は、水酸基を1個有し、且つさらに(水酸基以外の)置換基を有する芳香族化合物又はその金属塩である。置換基は特に限定されないが、嵩高い置換基が好ましい。具体的には、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ハロアルキル基、ハロアリール基、又はシアノ基などが挙げられる。中でもオキシド基が結合している炭素の隣の炭素に置換基を有していることが好ましい。
そして、この置換基は、嵩高いほど好ましく、例えば、iso−プロピル基などの2級アルキル基、t−ブチル基などの3級アルキル基、フェニル基あるいは置換フェニル基、トリフルオロメチル基などのハロアルキル基が好ましい。化合物(b)の構造例として一般式[1]
【0009】
一般式[1]:
【化1】
(式中、R1とR5は、それぞれ独立にハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ハロアルキル基、ハロアリール基、又はシアノ基を示す。R2〜R4はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ハロアルキル基、ハロアリール基、又はシアノ基を示し、互いに結合して環構造を形成しても良い。M1は水素原子又はアルカリ金属(Li、Na、Kなど)、アルカリ土類金属(Mg、Baなど)及びアルミニウムから選ばれる金属原子。mは0〜2の整数でM1の元素の価数によって決まる。X1はハロゲン原子。)
で表されるものが挙げられる。
【0010】
これらの具体例を挙げると、2,6−ジメチルフェノール、2,6−ジエチルフェノール、2,6−ジ(iso−プロピル)フェノール、2,6−ジ(t−ブチル)フェノール、2,6−ジ(t−ブチル)−4−メチルフェノール、2,6−ジフェニルフェノール、2,6−ジ(トリフルオロメチル)フェノールなどのフェノール類;2,6−ジ(iso−プロピル)フェノキシナトリウム、2,6−ジ(t−ブチル)フェノキシリチウム、2,6−ジ(t−ブチル)−4−メチルフェノキシカリウム、2,6−ジフェニルフェノキシリチウム、2,6−ジ(トリフルオロメチル)フェノキシリチウムなどのフェノキシド類;2,6−ジ(iso−プロピル)フェノキシマグネシウムブロミド、2,6−ジ(t−ブチル)フェノキシマグネシウムクロリド、2,6−ジ(t−ブチル)−4−メチルフェノキシアルミニウムジクロリド、2,6−ジフェニルフェノキシマグネシウムブロミド、2,6−ジ(トリフルオロメチル)フェノキシマグネシウムブロミドなどのフェノキシド類を挙げることができる。
【0011】
また、フェノール類又はフェノキシド類にさらに芳香環が結合したナフトール類又はナフトキシド類やアントラセノール類又はアントラセノキシド類なども挙げることもできる。
これらの具体例を挙げると、1,3−ジ(iso−プロピル)−2−ナフトール、1,3−ジ(t−ブチル)−2−ナフトキシリチウム、2−(iso−プロピル)−1−ナフトール、2−フェニル−1−ナフトール、2−フェニル−1−ナフトキシリチウム、1,3−ジ(t−ブチル)−2−ナフトキシアルミニウムジクロリド、2−フェニル−1−ナフトキシマグネシウムブロミドなどのナフトール類又はナフトキシド類;9−アントラセノール、2−メチル−1−アントラセノールなどのアントラセノール類又はアントラセノキシド類を挙げることができる。
【0012】
本発明に用いられる芳香族ジオール類又は芳香族ジオキシド類(c)(以下、「化合物(c)」という。)は、2個以上の水酸基を有する芳香族化合物又はその金属塩である。化合物(c)は、置換基をさらに有するものが好ましい。置換基は、オキシ基に結合している炭素のとなりの炭素に結合しているものが好ましい。嵩高い置換基を有しているものが特に好ましく、嵩高い置換基としては、化合物(b)で示したものと同様のものが挙げられる。化合物(c)の構造例として、一般式[2]、[3]で表されるものが好ましい。
【0013】
一般式[2]:
【化2】
【0014】
一般式[3]:
【化3】
【0015】
一般式[4]:
【化4】
【0016】
一般式[5]:
【化5】
【0017】
一般式[6]
【化6】
(式中、R6〜R13はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ハロアルキル基もしくはハロアリール基、又はシアノ基であり、互いに結合して環構造を形成しても良い。Zは、一般式[3]、一般式[4]、一般式[5]、一般式[6]、酸素原子、硫黄原子から選ばれる。ここで、R14およびR15は水素原子又は炭素数1〜6の炭化水素を表す。qは0又は1である。M1、M2はそれぞれ独立に水素原子又はアルカリ金属(Li、Na、Kなど)、アルカリ土類金属(Mg、Ca、Baなど)及びアルミニウムから選ばれる金属原子。Xはハロゲン原子、m及びnは0〜2の整数でM1、M2の元素の価数によって決まる。)
【0018】
一般式[7]:
【化7】
(式中、R16〜R21はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ハロアルキル基、ハロアリール基又はシアノ基であり、互いに結合して環構造を形成しても良い。M1、M2はそれぞれ独立に水素原子又はアルカリ金属(Li、Na、Kなど)、アルカリ土類金属(Mg、Ca、Baなど)及びアルミニウムから選ばれる金属原子。Xはハロゲン原子、m及びnは0〜2の整数でM1、M2の元素の価数によって決まる。)
さらに、一般式[2]中のqが0、すなわちビフェノール又はビフェノキシが最も好ましい。
【0019】
一般式[2]中のqが0であるものの具体例を挙げると、2,2’−ビフェノール、3,3’−ジメチル−2,2’−ビフェノール、3,3’−ジエチル−2,2’−ビフェノール、3,3’−ジ(iso−プロピル)−2,2’−ビフェノール、3,3’−ジ(t−ブチル)−2,2’−ビフェノール、3,3’−ジ(t−ブチル)−5,5’,6,6’−テトラメチル−2,2’−ビフェノール、3,3’−ジアダマンチル−5,5’,6,6’−テトラメチル−2,2’−ビフェノールなどのビフェノール類;2,2’−ビフェノキシリチウム、3,3’−ジメチル−2,2’−ビフェノキシナトリウム、3,3’−ジエチル−2,2’−ビフェノキシカリウム、3,3’−ジ(iso−プロピル)−2,2’−ビフェノキシリチウム、3,3’,5,5’−テトラ(t−ブチル)−2,2’−ビフェノキシナトリウム、3,3’−ジ(t−ブチル)−5,5’,6,6’−テトラメチル−2,2’−ビフェノキシリチウム、3,3’−ジアダマンチル−5,5’,6,6’−テトラメチル−2,2’−ビフェノキシカリウム、2,2’−ビフェノキシマグネシウムブロミド、3,3’−ジエチル−2,2’−ビフェノキシマグネシウムクロリド、3,3’−ジ(iso−プロピル)−2,2’−ビフェノキシアルミニウムジクロリド、3,3’−ジ(t−ブチル)−2,2’−ビフェノキシマグネシウムクロリド、3,3’−ジ(t−ブチル)−5,5’,6,6’−テトラメチル−2,2’−ビフェノキシアルミニウムジブロミド、3,3’−ジアダマンチル−5,5’,6,6’−テトラメチル−2,2’−ビフェノキシマグネシウムブロミドなどのビフェノキシド類を挙げることができる。
【0020】
また、ビフェノール類又はビフェノキシド類にさらに芳香環が結合したビナフトール類又はビナフトキシド類なども挙げることもできる。
これらの具体例としては、1,1’−ビナフチル−2,2’−ジオール、3,3’−ジメチル−1,1’−ビナフチル−2,2’−ジオキシリチウム、3,3’−ジエチル−1,1’−ビナフチル−2,2’−ジオキシカリウム、3,3’−ジ(iso−プロピル)−1,1’−ビナフチル−2,2’−ジオキシマグネシウムブロミド、3,3’−ジ(t−ブチル)−1,1’−ビナフチル−2,2’−ジオール、3,3’−ジフェニル−1,1’−ビナフチル−2,2’−ジオキシリチウム、3,3’−ジアダマンチル−1,1’−ビナフチル−2,2’−ジオキシアルミニウムジクロリドなどを挙げることができる。
【0021】
一般式[2]中のqが1であるものの具体例を挙げると、2,2’−メチレンビス(4−クロロフェノール)、2,2’−メチレンビス(6−t−ブチル−4−メチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(6−t−ブチル−4−エチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(3,4,6−トリクロロフェノール)、3,3’−ジ(t−ブチル)−2,2’−ジヒドロキシ−1、1’−ジフェニルエーテル、3,3’−ジ(t−ブチル)−2,2’−ジヒドロキシ−1、1’−ジフェニルチオエーテル、1,8−ジヒドロキシアントラキノン、又はこれらの金属塩などを挙げることができる。
【0022】
一般式[7]で示されるナフトジオール類の具体例を挙げると、1,8−ナフトジオール、2,7−ジフェニル−1,8−ナフトジオール、2,7−ジメチル−1,8−ナフトジオール、2,7−ジ(t−ブチル)−1,8−ナフトジオール挙げることができる。
【0023】
本発明に使用される反応物(I)は、化合物(a)と、化合物(b)とを混合することにより得られる。
反応物(III)は、化合物(a)と化合物(c)を混合することにより得られる。
化合物(a)、化合物(b)又は化合物(c)は通常、有機溶媒に溶解又は分散した後に混合する。用いる有機溶媒は、化合物(a)、化合物(b)又は化合物(c)を溶解もしくは分散して、反応に影響しないものであれば、特に限定されない。
【0024】
このような有機溶媒として、具体的に、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒; ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン系脂肪族炭化水素系溶媒; クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン系芳香族炭化水素系溶媒; ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリルなどの含窒素炭化水素系溶媒; ジエチルエ−テル、テトラヒドロフランなどのエ−テル系溶媒; アニソール、フェネトールなどの芳香族エーテル系溶媒; ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素系溶媒;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ビシクロヘプタン、トリシクロデカン、シクロオクタンなどの脂環族炭化水素系溶媒などを使用することができる。これらの溶媒の中でも、芳香族炭化水素系溶媒、ハロゲン系芳香族炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒又は芳香族エーテル系溶媒が、化合物(a)、化合物(b)又は化合物(c)の溶解性に優れ、その後の重合反応や水素化反応への影響が少ないので好ましい。化合物(a)、化合物(b)又は化合物(c)を含む溶液中の化合物(a)、化合物(b)又は化合物(c)の濃度は任意に選択できる。
【0025】
混合は、アルゴンなどの希ガス又は窒素ガス雰囲気下で行い、化合物(a)を含む溶液に化合物(b)又は化合物(c)を含む溶液を加えても良いし、その反対でもよく、また、両者を同時に別の容器に加えて混合してもよい。
化合物(b)又は化合物(c)の化合物(a)に対する割合は、モル比で1〜10倍が好ましく、1〜8倍がより好ましく、1〜5倍が特に好ましい。化合物(b)又は化合物(c)の化合物(a)に対する割合が少なすぎる場合は、未反応の化合物(a)が残り、重合を阻害することがある。多すぎる場合は、未反応の化合物(b)又は化合物(c)が重合に影響し、副反応を起こすことがある。
反応温度は特に限定されないが、一般的には、−100℃〜100℃の間で行う。温度が低すぎると反応の進行が遅すぎ、高すぎると副反応が起こったり、生成物が分解したりすることがある。反応温度の好ましい範囲は−80℃〜80℃で、さらに好ましい範囲は−70℃〜70℃である。混合を0℃以下の低温で行い、次いで、徐々に温度を室温付近まで上げながら、反応をさせるのが好ましい。反応時間は、1分間〜1週間の間であれば、特に限定されない。
【0026】
反応生成物(I)又は(III)は、反応液そのままを、又は(I)又は(III)が不溶な有機溶媒(例えば、ペンタンなどの飽和炭化水素系溶媒)に反応液を加えて(I)又は(III)を析出させたり、もしくは反応に用いた溶媒を留去して回収したりしたものを、重合触媒として用いることができる。
【0027】
反応物(I)の主成分は、置換基を有する芳香族モノオキシ基を配位子として有する周期表第4〜6族遷移金属化合物である。特に、オキシ基が結合している炭素のとなりの炭素に嵩高い置換基、例えば、iso−プロピル基などの2級アルキル基、t−ブチル基などの3級アルキル基、フェニル基あるいは置換フェニル基、トリフルオロメチル基などのハロアルキル基などを有するものが、立体規則性の高い重合反応を行うことができ、結晶性のノルボルネン系開環重合体水素化物を得ることができるので好ましい。
また、反応物(III)の主成分は、芳香族ジオキシ基を配位子として有する周期表第4〜6族遷移金属化合物である。立体拘束性の高い2座配位子である芳香族ジオキシ基を配位子とすることにより、より立体規則性が高められるため、高い結晶性のノルボルネン系開環重合体およびその水素化物を得ることができる。
【0028】
反応生成物(I)又は(III)は上記の分離方法により単離することができる。単離した場合には、1H−NMRスペクトルや元素分析により、得られた化合物の構造を同定することができる。
【0029】
本発明に用いられる芳香族ジオキシ基を配位子として有する周期表第4族〜6族遷移金属オキシ化合物又はハロゲン化物(IV)は、反応物(III)の主成分である。例えば、一般式[8]又は[9]
【0030】
一般式[8]:
【化8】
(式中、Mは周期表第4〜6族遷移金属原子、Xはハロゲン原子、R22〜R29はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ハロアルキル基もしくはハロアリール基、又はシアノ基であり、互いに結合して環構造を形成しても良い。Zは、一般式[3]、一般式[4]、一般式[5]、一般式[6]、酸素原子、硫黄原子から選ばれる。ここで、R30およびR31はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜6の炭化水素を表す。mは0又は1、nは0〜4、pは1又は2、qは0〜2であり、n+p+qは、M元素の価数によって決まる。)
【0031】
一般式[9]:
【化9】
(式中、Mは周期表第4〜6族遷移金属原子、Xはハロゲン原子、R32〜R37はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ハロアルキル基もしくはハロアリール基、又はシアノ基であり、互いに結合して環構造を形成しても良い。nは0〜4、pは1又は2、qは0〜2であり、n+p+qは、M元素の価数によって決まる。)
で表される。
【0032】
なかでも、中心金属がMo又はWである金属オキシ化合物又はハロゲン化物が、重合活性の点で最も好ましい。
該金属錯体の具体例としては、ビス{3,3’−ジ(t−ブチル)−5,5’,6,6’−テトラメチル−2,2’−ビフェノキシ}オキシモリブデン(VI)、{3,3’−ジ(t−ブチル)−5,5’,6,6’−テトラメチル−2,2’−ビフェノキシ}オキシモリブデン(VI)ジクロリド、ビス{3,3’−ジフェニル−1,1’−ビナフチル−2,2’−ジオキシ}オキシモリブデン(VI)、{3,3’−ジフェニル−1,1’−ビナフチル−2,2’−ジオキシ}オキシモリブデン(VI)ジクロリド、ビス{3,3’−ジ(t−ブチル)−5,5’,6,6’−テトラメチル−2,2’−ビフェノキシ}オキシタングステン(VI)、{3,3’−ジ(t−ブチル)−5,5’,6,6’−テトラメチル−2,2’−ビフェノキシ}オキシタングステン(VI)ジクロリド、ビス{3,3’−ジフェニル−1,1’−ビナフチル−2,2’−ジオキシ}オキシタングステン(VI)、{3,3’−ジフェニル−1,1’−ビナフチル−2,2’−ジオキシ}オキシタングステン(VI)ジクロリド、ビス{3,3’−ジ(t−ブチル)−5,5’,6,6’−テトラメチル−2,2’−ビフェノキシ}タングステン(VI)ジクロリド、{3,3’−ジ(t−ブチル)−5,5’,6,6’−テトラメチル−2,2’−ビフェノキシ}タングステン(VI)テトラクロリド、ビス{3,3’−ジフェニル−1,1’−ビナフチル−2,2’−ジオキシ}タングステン(VI)ジクロリド、{3,3’−ジフェニル−1,1’−ビナフチル−2,2’−ジオキシ}タングステン(VI)テトラクロリドなどを挙げることができる。
【0033】
なお、これらの化合物は、周期表第4〜6族遷移金属のハロゲン化物、オキシハロゲン化物又はジオキシハロゲン化物(a)と芳香族ジオール類又は芳香族ジオキシド類(c)とを反応させ分離することにより得られる。反応条件などは、反応物(III)を生成する場合と同様の方法を用いることができる。
【0034】
本発明において、上記の反応生成物(I)もしくは(III)、又は芳香族ジオキシ基を配位子として有する周期表第4族〜6族遷移金属オキシ化合物もしくはハロゲン化物(IV)は、有機金属還元剤(II)と組み合わせることにより、高活性な重合触媒となる。
【0035】
有機金属還元剤は、炭素数1〜20の炭化水素基を有する周期表第1、2、12、13、14族の有機金属化合物を挙げることができる。なかでも、有機リチウム、有機マグネシウム、有機亜鉛、有機アルミニウム又は有機スズが好ましく、有機リチウム、有機アルミニウム又は有機スズが特に好ましい。有機リチウムとしては、n−ブチルリチウム、メチルリチウム、フェニルリチウム、ネオペンチルリチウム、ネオフィルリチウムなどを挙げることができる。有機マグネシウムとしては、ブチルエチルマグネシウム、ブチルオクチルマグネシウム、ジヘキシルマグネシウム、エチルマグネシウムクロリド、n−ブチルマグネシウムクロリド、アリルマグネシウムブロミド、ネオペンチルマグネシウムクロリド、ネオフィルマグネシウムクロリドなどを挙げることができる。有機亜鉛としては、ジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛、ジフェニル亜鉛などを挙げることができる。有機アルミニウムとしては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロリド、エチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムジクロリドなどを挙げることができる。有機スズとしては、テトラメチルスズ、テトラ(n−ブチル)スズ、テトラフェニルスズなどを挙げることができる。
【0036】
有機金属還元剤の量は、反応物(I)もしくは(III)又は芳香族ジオキシ基を配位子として有する周期表第4〜6族遷移金属オキシ化合物もしくはハロゲン化物(IV)の中心金属に対して、モル比で0.1〜100倍が好ましく、0.2〜50倍がより好ましく、0.5〜20倍が特に好ましい。添加量が0.1倍以下では重合活性が向上せず、100倍以上であると、副反応が起こりやすくなる。
【0037】
本発明の製造方法において用いられる単量体は、ノルボルネン系単量体であり、具体的には、一般式[10]
【0038】
一般式[10]:
【化10】
(式中、R38〜R41は水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基又はハロゲン原子、ケイ素原子、酸素原子もしくは窒素原子を含む置換基を示し、R38とR41が結合して環を形成してもよい。rは0〜2の整数である。)
で示され、rが0であるノルボルネン類、rが0でR38とR41が結合してノルボルネン環以外に環構造を有するノルボルネン誘導体、rが1であるテトラシクロドデセン類、rが2であるヘキサシクロヘプタデセン類を挙げることができる。なかでも、ノルボルネン類、ノルボルネン環以外に環構造を有するノルボルネン誘導体又はテトラシクロドデセン類が、結晶性の重合体水素化物を得やすいので好ましく、ノルボルネン類又はノルボルネン環以外に環構造を有するノルボルネン誘導体が特に好ましい。
【0039】
一般式[10]のrが0であるノルボルネン類は、R38〜R41の置換基によって以下のように分類することができるが、いずれの単量体も使用することができる。
ノルボルネン類の具体例としては、ノルボルネン、5−メチルノルボルネン、5−エチルノルボルネン、5−ブチルノルボルネン、5−ヘキシルノルボルネン、5−デシルノルボルネン、5−シクロヘキシルノルボルネン、5−シクロペンチルノルボルネンなどの無置換又はアルキル基を有するノルボルネン類;
5−エチリデンノルボルネン、5−ビニルノルボルネン、5−プロペニルノルボルネン、5−シクロヘキセニルノルボルネン、5−シクロペンテニルノルボルネンなどのアルケニル基を有するノルボルネン類;
5−フェニルノルボルネンなどの芳香環を有するノルボルネン類;
【0040】
5−メトキシカルボニルノルボルネン、5−エトキシカルボニルノルボルネン、5−メチル−5−メトキシカルボニルノルボルネン、5−メチル−5−エトキシカルボニルノルボルネン、ノルボルネニル−2−メチルプロピオネイト、ノルボルネニル−2−メチルオクタネイト、ノルボルネン−5,6−ジカルボン酸無水物、5−ヒドロキシメチルノルボルネン、5,6−ジ(ヒドロキシメチル)ノルボルネン、5,5−ジ(ヒドロキシメチル)ノルボルネン、5−ヒドロキシ−i−プロピルノルボルネン、5,6−ジカルボキシノルボルネン、5−メトキシカルボニル−6−カルボキシノルボルネン、などの酸素原子を含む極性基を有するノルボルネン類;
5−シアノノルボルネン、ノルボルネン−5,6−ジカルボン酸イミドなどの窒素原子を含む極性基を有するノルボルネン類;などが挙げられる。
【0041】
なかでも、無置換又は比較的小さな置換基を有するノルボルネン類が高い結晶性を示すので好ましい。具体的には、ノルボルネン、5−メチルノルボルネン、5−エチルノルボルネン、5−エチリデンノルボルネン、5−ビニルノルボルネン、ノルボルネン−5,6−ジカルボン酸無水物、5−ヒドロキシメチルノルボルネン、5,6−ジ(ヒドロキシメチル)ノルボルネン、5,5−ジ(ヒドロキシメチル)ノルボルネン、5−シアノノルボルネン、ノルボルネン−5,6−ジカルボン酸イミドなどが挙げられる。
【0042】
一般式[10]のrが0で、R38とR41が結合してノルボルネン環以外に環構造を有するノルボルネン誘導体としては、環構造が5員環であるジシクロペンタジエン類、芳香環を有するノルボルネン誘導体などを挙げることができる。ジシクロペンタジエン類の具体例としては、ジシクロペンタジエン又はジシクロペンタジエンの5員環部分の二重結合を飽和させたトリシクロ[4.3.12,5.0]デカ−3−エン、トリシクロ[4.4.12,5.0]ウンダ−3−エンなどを挙げることができる。芳香環を有するノルボルネン誘導体としては、テトラシクロ[6.5.12,5.01,6.08,13]トリデカ−3,8,10,12−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレンともいう)、テトラシクロ[6.6.12,5.01,6.08,13]テトラデカ−3,8,10,12−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,5,10,10a−ヘキサヒドロアントラセンともいう)、などを挙げることができる。
上記の具体例で示したジシクロペンタジエン類、芳香環を有するノルボルネン誘導体は、環構造のみから構成されているため、結晶性開環重合体又はその水素化物を得るのに好ましい。
【0043】
一般式[10]のrが1であるテトラシクロドデセン類の具体例としては、テトラシクロドデセン、8−メチルテトラシクロドデセン、8−エチルテトラシクロドデセン、8−シクロヘキシルテトラシクロドデセン、8−シクロペンチルテトラシクロドデセンなどの無置換又はアルキル基を有するテトラシクロドデセン類;
8−メチリデンテトラシクロドデセン、8−エチリデンテトラシクロドデセン、8−ビニルテトラシクロドデセン、8−プロペニルテトラシクロドデセン、8−シクロヘキセニルテトラシクロドデセン、8−シクロペンテニルテトラシクロドデセンなどの環外に二重結合を有するテトラシクロドデセン類;
8−フェニルテトラシクロドデセンなどの芳香環を有するテトラシクロドデセン類;
8−メトキシカルボニルテトラシクロドデセン、8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロドデセン、8−ヒドロキシメチルテトラシクロドデセン、8−カルボキシテトラシクロドデセン、テトラシクロドデセン−8,9−ジカルボン酸、テトラシクロドデセン−8,9−ジカルボン酸無水物などの酸素原子を含む置換基を有するテトラシクロドデセン類;
【0044】
8−シアノテトラシクロドデセン、テトラシクロドデセン−8,9−ジカルボン酸イミドなどの窒素原子を含む置換基を有するテトラシクロドデセン類;
8−クロロテトラシクロドデセンなどのハロゲン原子を含む置換基を有するテトラシクロドデセン類;
8−トリメトキシシリルテトラシクロドデセンなどのケイ素原子を含む置換基を有するテトラシクロドデセン類;などが挙げられる。
なかでも、無置換又は比較的小さな置換基を有するテトラシクロドデセン類が高い結晶性を示すので好ましい。テトラシクロドデセン、8−メチルテトラシクロドデセン、8−エチルテトラシクロドデセン、8−メチリデンテトラシクロドデセン、8−エチリデンテトラシクロドデセン、8−ビニルテトラシクロドデセン、8−ヒドロキシメチルテトラシクロドデセン、テトラシクロドデセン−8,9−ジカルボン酸無水物、8−シアノテトラシクロドデセン、テトラシクロドデセン−8,9−ジカルボン酸イミド、8−クロロテトラシクロドデセンなどが挙げられる。
【0045】
一般式[10]のrが2であるヘキサシクロヘプタデセン類の具体例としては、ヘキサシクロヘプタデセン、12−メチルヘキサシクロヘプタデセン、12−エチルヘキサシクロヘプタデセン、12−シクロヘキシルヘキサシクロヘプタデセン、12−シクロペンチルヘキサシクロヘプタデセンなどの無置換又はアルキル基を有するヘキサシクロヘプタデセン類;
12−メチリデンヘキサシクロヘプタデセン、12−エチリデンヘキサシクロヘプタデセン、12−ビニルヘキサシクロヘプタデセン、12−プロペニルヘキサシクロヘプタデセン、12−シクロヘキセニルヘキサシクロヘプタデセン、12−シクロペンテニルヘキサシクロヘプタデセンなどの環外に二重結合を有するヘキサシクロヘプタデセン類;
12−フェニルヘキサシクロヘプタデセンなどの芳香環を有するヘキサシクロヘプタデセン類;
【0046】
12−メトキシカルボニルヘキサシクロヘプタデセン、12−メチル−12−メトキシカルボニルヘキサシクロヘプタデセン、12−ヒドロキシメチルヘキサシクロヘプタデセン、12−カルボキシヘキサシクロヘプタデセン、ヘキサシクロヘプタデセン12,13−ジカルボン酸、ヘキサシクロヘプタデセン12,13−ジカルボン酸無水物などの酸素原子を含む置換基を有するヘキサシクロヘプタデセン類;
12−シアノヘキサシクロヘプタデセン、ヘキサシクロヘプタデセン12,13−ジカルボン酸イミドなどの窒素原子を含む置換基を有するヘキサシクロヘプタデセン類;
12−クロロヘキサシクロヘプタデセンなどのハロゲン原子を含む置換基を有するヘキサシクロヘプタデセン類;
12−トリメトキシシリルヘキサシクロヘプタデセンなどのケイ素原子を含む置換基を有するヘキサシクロヘプタデセン類などが挙げられる。
【0047】
上記の単量体には、エンド体とエキソ体の異性体が含まれる。本発明に使用する単量体は、これら異性体の混合物であっても構わないが、結晶性をより高めるためには、異性体混合物中において、いずれかの異性体成分の組成比が高いほうが好ましい。具体的には、いずれかの異性体が通常70%以上、特に80%以上あるものが好ましい。
【0048】
本発明においては、ノルボルネン系単量体以外の共重合可能なその他の単量体をノルボルネン系単量体と共重合しても構わない。共重合可能なその他の単量体としては、ノルボルネン系単量体以外の環状オレフィン類を挙げることができる。ノルボルネン系単量体以外の環状オレフィン類としては、C4〜C20の単環の環状オレフィン又はジオレフィンとこれらの置換体又は誘導体が挙げられる。
単環の環状オレフィン類又はジオレフィン類の具体例としては、シクロブテン、シクロペンテン、メチルシクロペンテン、シクロヘキセン、メチルシクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどの特開昭64−66216号公報などに記載されている単環の環状オレフィン系単量体;シクロヘキサジエン、メチルシクロヘキサジエン、シクロオクタジエン、メチルシクロオクタジエン、フェニルシクロオクタジエンなどの特開平7−258318号公報などに記載されている環状ジオレフィン系単量体を挙げることができる。
【0049】
本発明においては、重合反応を無溶媒で行うこともできるが、重合後、水素化反応を行う場合には、有機溶媒中で重合するのが好ましい。
本発明で用いる有機溶媒は、重合体及び重合体水素化物が所定の条件で溶解もしくは分散し、重合及び水素化に影響しないものであれば、特に限定されない。
【0050】
このような有機溶媒の具体例として、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素系溶媒; シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ビシクロヘプタン、トリシクロデカン、ヘキサヒドロインデンシクロヘキサン、シクロオクタンなどの脂環族炭化水素系溶媒; ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒; ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン系脂肪族炭化水素系溶媒; クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン系芳香族炭化水素系溶媒; ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリルなどの含窒素炭化水素系溶媒; ジエチルエ−テル、テトラヒドロフランなどのエ−テル系溶媒; アニソール、フェネトールなどの芳香族エーテル系溶媒などを使用することができる。これらの溶媒の中でも、芳香族炭化水素系溶媒や脂肪族炭化水素系溶媒、脂環族炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒又は芳香族エーテル系溶媒が好ましい。
【0051】
(重合方法)
本発明の方法における単量体に対する重合触媒の割合は、モル比で(重合触媒中の遷移金属:単量体)、1:100〜1:2,000,000、好ましくは1:200〜1,000,000、より好ましくは1:500〜1:500,000である。触媒量が多すぎると触媒除去が困難となり、少なすぎると十分な重合活性が得られないことがある。
重合を溶媒中で行う場合には、単量体の濃度は、1〜50重量%が好ましく、2〜45重量%がより好ましく、3〜40重量%が特に好ましい。単量体の濃度が1重量%以下の場合は生産性が悪く、50重量%以上の場合は重合後の溶液粘度が高すぎて、その後の水素化反応が困難となることがある。
【0052】
重合反応は、単量体と重合触媒を混合することにより開始される。重合温度は特に制限されない。一般には、−30℃〜200℃、好ましくは0℃〜180℃である。重合時間は、所望の分子量、重合転化率になるように適宜選択でき、通常1分間〜100時間である。
【0053】
さらに、得られる開環重合体の分子量を調整する方法としては、ビニル化合物又はジエン化合物を適当量添加することによって行うことができる。分子量調整に用いるビニル化合物は、ビニル基を有する有機化合物であれば特に限定されないが、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどのα−オレフィン類;スチレン、ビニルトルエンなどのスチレン類;エチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、アリルグリシジルエーテルなどのエーテル類;アリルクロライドなどのハロゲン含有ビニル化合物;酢酸アリル、アリルアルコール、グリシジルメタクリレートなど酸素含有ビニル化合物、アクリルアミドなどの窒素含有ビニル化合物などを挙げることができる。ジエン化合物は、1,4−ペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、2−メチル−1,4−ペンタジエン、2,5−ジメチル−1,5−ヘキサジエンなどの非共役ジエン、又は1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエンなどの共役ジエンを挙げることができる。添加するビニル化合物又はジエン化合物の量は求める分子量により、単量体に対して、0.1〜10モル%の間で任意に選択することができる。
【0054】
(水素化反応)
水素化反応は、水素化触媒の存在下で、反応系内に水素を供給して行う。水素化触媒としては、オレフィン化合物の水素化に際して一般に使用されているものであれば使用可能であり、特に制限されないが、例えば、次のようなものが挙げられる。
【0055】
均一系触媒としては、遷移金属化合物とアルカリ金属化合物の組み合わせからなる触媒系、例えば、酢酸コバルト/トリエチルアルミニウム、ニッケルアセチルアセトナート/トリイソブチルアルミニウム、チタノセンジクロリド/n−ブチルリチウム、ジルコノセンジクロリド/sec−ブチルリチウム、テトラブトキシチタネート/ジメチルマグネシウムなどの組み合わせが挙げられる。さらに、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、クロロヒドリドカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウムなどの貴金属錯体触媒を挙げることができる。
【0056】
不均一触媒としては、ニッケル、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウムなどの金属、又はこれらの金属をカーボン、シリカ、ケイソウ土、アルミナ、酸化チタンなどの担体に担持させた固体触媒、例えば、ニッケル/シリカ、ニッケル/ケイソウ土、ニッケル/アルミナ、パラジウム/カーボン、パラジウム/シリカ、パラジウム/ケイソウ土、パラジウム/アルミナなどの触媒系が挙げられる。
【0057】
水素化反応は、通常、不活性有機溶媒中で行う。このような不活性有機溶媒としては、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素系溶媒;n−ペンタン、n−ヘキサンなどの脂肪族炭化水素系溶媒;シクロヘキサン、デカリンなどの脂環族炭化水素系溶媒;テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル系溶媒;が挙げられる。
不活性有機溶媒は、重合反応溶媒と同じであっても良い。その場合には、重合反応液にそのまま水素化触媒を添加して反応させる。
【0058】
水素化反応は、使用する水素化触媒系によっても適する条件範囲が異なるが、水素化温度は通常−20〜250℃、好ましくは−10〜220℃、より好ましくは0〜200℃であり、水素圧力は、通常0.1〜50kgf/cm2、好ましくは0.5〜40kgf/cm2、より好ましくは1.0〜30kgf/cm2である。水素化温度が低すぎると反応速度が遅く、高すぎると副反応が起こる。また、水素圧力が低すぎると水素化速度が遅くなり、高すぎると高耐圧反応装置が必要となる。
【0059】
水素化率は、通常50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上であり、水素化反応時間が0.1〜10時間で上記水素化率が達成できる。
【0060】
(結晶性ノルボルネン系開環重合体及び結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物)
本発明の製法によって結晶性ノルボルネン系開環重合体及び該開環重合体水素化物が得られる。この結晶性ノルボルネン系開環重合体及び該開環重合体水素化物は、融点を有している。融点は、通常100〜400℃の範囲にある。
【0061】
【実施例】
以下に、実施例、及び比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。
(1)開環(共)重合体の分子量は、クロロホルムを溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算値として測定した。
(2)水素化率は、赤外線吸収スペクトルにより測定した。
(3)融点(Tm)及びガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量計にて、10℃/分で昇温して測定した。
【0062】
(実施例1)
攪拌機付きガラス反応器に、オキシ四塩化モリブデン(MoOCl4)1.5部とジエチルエーテル30部を添加し、これを−78℃に冷却した。さらに3,3’−ジ(t−ブチル)−5,5’,6,6’−テトラメチル−2,2’−ビフェノキシリチウム4.19部をジエチルエーテル30部に溶解させた溶液を添加した。この混合物を徐々に室温に戻し、18時間反応を行った。反応後、沈殿物をセライトにより濾別し、溶液部分を減圧乾燥■した。これを−30℃に冷却し静置することにより固形物Aを得た。得られた固形物の収量は2.56部であった。
この固形物Aの1H-NMRスペクトルは以下のようであった。
1H-NMR(benzene−d6)d 7.24(s,1,Haryl),7.19(s,1,Haryl),2.13(s,3,CH3),2.03(s,3,CH3),1.68(s,3,CH3),1.67(s,3,CH3),1.52(s,9,t−Bu),1.45(s,9,t−Bu)。
この固形物Aの元素分析の結果は、以下のようであった。
モリブデン 10.9(wt%)、炭素 70.6(wt%)、水素 8.6(wt%)、塩素 <0.1(wt%)、その他 9.9(wt%)。なお、その他9.9(wt%)については、測定の不可能であった酸素の寄与と考えられる。これらの元素組成は、ビス{3,3’−ジ(t−ブチル)−5,5’,6,6’−テトラメチル−2,2’−ビフェノキシ}オキシモリブデン(VI)の元素組成(モリブデン 11.7(wt%)、炭素 70.6(wt%)、水素 7.9(wt%)、酸素 9.8(wt%))とよく一致した。なお、理論値と測定値のずれの理由は、残存しているジエチルエーテルの寄与と考えられる。
以上の結果より、固形物Aの構造は、ビス{3,3’−ジ(t−ブチル)−5,5’,6,6’−テトラメチル−2,2’−ビフェノキシ}オキシモリブデン(VI)であると推定される(一般式[11])。
【0063】
一般式[11]:
【化11】
【0064】
(実施例2)
攪拌機付きガラス反応器に、実施例1で合成した固形物A0.092部とトルエン4部を添加した後、これを−78℃に冷却した。さらにn−ブチルリチウム0.0145部をヘキサン1部に溶解したものを添加して、これを室温まで戻し、1時間反応を行った。
得られた混合物に、ジシクロペンタジエン(DCPD)7.5部、トルエン27部、及び1−ヘキセン0.1部を添加し、80℃において重合反応を行った。重合反応開始後、速やかに白色の沈殿物が析出した。2時間反応後、重合反応液に多量のメタノールを注いで沈殿物を凝集させ、濾別洗浄後、40℃で24時間減圧乾燥した。
得られた開環重合体の収量は7.4部であり、分子量(ポリスチレン換算)は、数平均分子量(Mn)が8,000、重量平均分子量(Mw)が15,000であった。なお、融点(Tm)は245℃であった。
【0065】
(実施例3)
攪拌機付きオートクレーブに、実施例2で得られた開環重合体3.0部とシクロヘキサン47部を加えた。次いで、シクロヘキサン10部にビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリジンルテニウム(IV)ジクロリド0.0187部及びエチルビニルエーテル0.45部を溶解させたものを上記オートクレーブに添加し、水素圧8kgf/cm2、175℃で8時間水素化反応を行った。水素化反応後、この反応液を多量のイソプロパノールに注いで生成したものを完全に析出させ、濾別洗浄後、40℃で24時間減圧乾燥した。
得られた開環重合体水素化物の水素化率は、赤外線吸収スペクトルの結果より99%以上であった。なお、Tmは275℃であった。
【0066】
(実施例4)
攪拌機付きガラス反応器に、3,3’−ジ(t−ブチル)−5,5’,6,6’−テトラメチル−2,2’−ビフェノール(BMBP)0.425部、トルエン5部及びテトラヒドロフラン(THF)5部を添加し、これを−78℃に冷却した。さらに、n−ブチルリチウム0.231部をn−ヘキサン1.5部に溶解したものを添加し、徐々に室温に戻し反応溶液Aを得た。
上記とは別の攪拌機付きガラス反応器に、オキシ四塩化モリブデン(MoOCl4)を0.152部、トルエン10部及びテトラヒドロフラン10部を添加し、これを−78℃に冷却した。この溶液に上記反応溶液A全量を添加し、この混合物を徐々に室温に戻した。室温に戻した後、さらに50℃で30分間攪拌した。この溶液を−78℃に冷却し、この溶液にn−ブチルリチウム0.151部をn−ヘキサン0.75部に溶解したものを添加し、徐々に室温に戻し触媒溶液Bを得た。
ジシクロペンタジエン24部、トルエン96部、1−ヘキセン0.3部を添加した攪拌機付きガラス反応器に触媒溶液Bを添加し、80℃において2時間重合反応を行った。重合反応開始後、速やかに白色の沈殿物が析出した。得られた重合反応液に多量のメタノールを注いで沈殿物を凝集させた。この沈殿物を含む反応液を濾別洗浄後、40℃で24時間減圧乾燥した。得られた開環重合体の収量は23.5部であり、Tmは245℃であった。
【0067】
(実施例5)
オキシ四塩化モリブデンに代えて六塩化タングステンを用いた以外は実施例4と同様に触媒調製及び重合反応を行った。得られた開環重合体の収量は23.5部であり、Tmは245℃であった。
【0068】
(実施例6)
オキシ四塩化モリブデンに代えてジオキシジクロロモリブデンを用いた以外は実施例4と同様に触媒調製及び重合反応を行った。得られた開環重合体の収量は15.6部であり、Tmは245℃であった。
【0069】
(実施例7)
ジシクロペンタジエンに代えてノルボルネン(NBE)を用いた以外は実施例7と同様に触媒調製及び重合反応を行った。得られた開環重合体の収量は23.5部であり、Tmは105℃であった。
【0070】
(実施例8)
攪拌機付きオートクレーブに、実施例4で得られた開環重合体3部とシクロヘキサン47部を加えた。次いで酢酸ニッケル0.04部及びトリイソブチルアルミニウム0.18部をシクロヘキサン10部に溶解した水素化触媒溶液を添加し、水素圧10kgf/cm2、160℃で8時間水素化反応を行った。この水素化反応液を多量のイソプロパノールに注いでポリマ−を完全に析出させ、濾別洗浄後、40℃で24時間減圧乾燥した。
得られた開環重合体水素化物の水素化率は、赤外線吸収スペクトルの結果より、99%以上であった。また、Tmは275℃であった。
【0071】
(実施例9〜11)
実施例5〜8で得られた重合体を用いて、実施例8と同様に水素化反応を行った。結果を表1に示す。
【0072】
(実施例12)
3’−ジ(t−ブチル)−5,5’,6,6’−テトラメチル−2
2’−ビフェノールに代えて2,6−ジ(t−ブチル)−4−メチルフェノール(BHT)を用いた以外は実施例4と同様に触媒調製及び重合反応を行い、そして実施例8と同様に水素化反応を行った。結果を表1に示す。
【0073】
(比較例1)
3,3’−ジ(t−ブチル)−5,5’,6,6’−テトラメチル−2,2’−ビフェノールに代えてフェノールを用いた以外は、実施例1と同様に触媒調製及び重合反応を行った。重合反応終了後、反応溶液は均一のままであった。また、125℃付近にガラス転移温度(Tg)が観測されたが、Tmは観測されなかった。
【0074】
(比較例2)
比較例1で得られた重合体を用いて実施例8同様に水素化反応を行った。水素化反応終了後、反応溶液は均一のままであった。また、95℃付近にTgが観測されたが、Tmは観測されなかった。
【0075】
【表1】
【0076】
以上、実施例、比較例によれば、反応物(III)又は化合物(IV)と有機金属還元剤(II)からなる重合触媒を使用してノルボルネン系単量体を開環重合し、必要に応じて水素化することによって、融点を有する即ち結晶性を有する重合体又は水素化物が高収率で得られる、反応物(I)と有機金属還元剤(II)からなる重合触媒を使用してノルボルネン系単量体を開環重合し、水素化することによって、融点を有する即ち結晶性を有する重合体又は水素化物が高収率で得られることがわかる。
【0077】
【発明の効果】
本発明によれば、結晶性ノルボルネン系開環重合体及び結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物を与える重合触媒、該重合触媒を使用した結晶性ノルボルネン系開環重合体及び該開環重合体水素化物の製造方法が提供される。
Claims (3)
- 周期表第4〜6族遷移金属のハロゲン化物、オキシハロゲン化物又はジオキシハロゲン化物(a)と置換基を有する芳香族モノオール類又は置換基を有する芳香族モノオキシド類(b)との反応物(I)と、有機金属還元剤(II)とからなる重合触媒の存在下でノルボルネン系単量体を開環メタセシス重合した後、得られた該重合体の主鎖中に存在する炭素−炭素二重結合の50%以上を水素化触媒存在下で水素化する結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物の製造方法。
- 周期表第4〜6族遷移金属のハロゲン化物、オキシハロゲン化物又はジオキシハロゲン化物(a)と芳香族ジオール類又は芳香族ジオキシド類(c)との反応物(III)と、有機金属還元剤(II)とからなる重合触媒の存在下にノルボルネン系単量体を開環メタセシス重合した後、得られた該重合体の主鎖中に存在する炭素−炭素二重結合の50%以上を水素化触媒存在下で水素化する結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物の製造方法。
- 芳香族ジオキシ基を配位子として有する周期表第4〜6族遷移金属オキシ化物又はハロゲン化物(IV)と有機金属還元剤(II)とからなる重合触媒の存在下にノルボルネン系単量体を開環メタセシス重合した後、得られた該重合体の主鎖中に存在する炭素−炭素二重結合の50%以上を水素化触媒存在下で水素化する結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物の製造方法。
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