JP4352128B2 - アクチュエータ素子 - Google Patents

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本発明は、電気化学アクチュエータ素子に関する。ここで、電気化学アクチュエータ素子とは、電気化学反応や電気二重層の充放電などの電気化学プロセスを駆動力とするアクチュエータ素子である。
医療機器や産業用、およびパーソナルロボット、マイクロマシンなどの分野において小型かつ軽量で柔軟性に富むアクチュエータの必要性が高まっている。
このようにアクチュエータを小型化すると、慣性力よりも摩擦や粘性力が支配的になるため、モーターやエンジンのような慣性力を利用してエネルギーを運動にかえる機構は、小型アクチュエータの動力として用いることは困難であった。このため、小型アクチュエータの作動原理としては、静電引力型、圧電型、超音波式、形状記憶合金式、高分子伸縮式が提案されている。
しかしながら、これらの小型アクチュエータには、それぞれ作動環境に制限があったり、応答性が不十分であったり、構造が複雑であったり、また柔軟性が欠如しているなどの問題点があり、そのため用途も制約されている。
これらの問題点を克服し、また、小型アクチュエータの用途をより広範なものに拡張させるため、低電圧で駆動し、応答性が速く、柔軟性に富み、小型化および軽量化が容易で、しかも小電力で作動する高分子アクチュエータの開発が行われてきた。これらの中には、ポリピロール、ポリアニリン等の電子導電性ポリマーの電解質中におけるレドックス伸縮を利用したもの(電子導電性高分子アクチュエータ)、また、イオン交換膜と接合電極とからなり、イオン交換膜の含水状態において、イオン交換膜に電位差をかけてイオン交換膜に湾曲、変形を生じさせることにより、アクチュエータとして機能させることのできるもの(イオン導電性高分子アクチュエータ、特許文献1参照)の大きく分けると2種のものが知られている。
これらのなかで、電子導電性高分子アクチュエータは、低電圧駆動で、伸縮率が大きく、発生圧力も大きいなどの利点があるが、応答速度が遅く、最も性能の良いポリピロールの製造法が電解重合のみであること、また、応答がレドックス反応に基づいたイオンのドーピング、脱ドーピングによることから、原理として繰り返し耐久性に問題のあることが指摘されてきた。
一方、従来の電子導電性高分子アクチュエータ、あるいはイオン導電性高分子アクチュエータは、いずれも、その動作のために電解質が必要なことから、主に電解質水溶液中で使用されてきた。イオン導電性高分子アクチュエータは、イオン交換樹脂が水で膨潤した状態でないと十分なイオン伝導性を示さないため、基本的には水中で使用する。空中でこのアクチュエータを使用するためには、水の蒸発を防ぐ必要がある。そのため、樹脂コーティングの方法が報告されているが、この方法では、完全にコーティングするのが困難なこと、また、電極反応によるわずかな気体発生によってもコーティングが破れること、さらに、コーティング自身が変形応答の抵抗となることから、実用化されていない。また、水の代わりに、プロピレンカーボネートなどの高沸点有機溶媒なども使用されているが、これについても同様の問題があり、しかも、水ほどイオン導電性が大きくなく、応答性が劣る点でも問題がある。
かくして、従来型のアクチュエータは、主に電解質溶液中という限られた環境でのみ駆動するため、用途が極めて限られていた。従って、空中で駆動するアクチュエータ素子の開発は、小型アクチュエータの幅広い用途への実用化のために不可欠である。
アクチュエータの空中作動への適用の目的で、イオン交換樹脂の両側に電子導電性高分子を貼付けた例、あるいはプロピレンカーボネートなどの高沸点有機溶媒を含んだゲル膜に導電性高分子を貼付け、両側の電極の伸縮を利用してアクチュエータの素子として利用した例がある。これらの例も、イオン導電性高分子アクチュエータの場合と同様、溶媒の乾燥の問題、イオン導電性の低さの問題があり、本質的な解決となっていない。
特開平4−275078号公報
本発明の課題は、空気中で安定に作動し、低電圧で駆動でき、応答性が速く、且つ繰り返し耐久性の良いアクチュエータ素子を提供することにある。
本発明者らは、鋭意検討した結果、金属イオンドーピングされたカーボンナノチューブと固体高分子電解質との複合体を、導電性と伸縮性のある活性層として用いることにより、空気中で作動可能な新規なアクチュエータ素子が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、下記に示す通りの空中アクチュエータ素子用導電体および空中アクチュエータ素子を提供するものである。
項1. 金属イオンドーピングされたカーボンナノチューブと固体高分子電解質との複合体からなる空中アクチュエータ素子用導電体。
項2. 項1に記載の導電体の表面に、相互に絶縁状態で電極が少なくとも2個形成され、該電極間に電位差を与えることにより湾曲および変形を生じさせ得る空中アクチュエータ素子。
本発明における「空中アクチュエータ素子」とは、空気中で作動可能なアクチュエータ素子を意味する。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に用いられるカーボンナノチューブは、グラフェンシートが筒形に巻いた形状からなる炭素系材料であり、その周壁の構成数から単層ナノチューブ(SWNT)と多層ナノチューブ(MWNT)とに大別され、また、グラフェンシートの構造の違いからカイラル(らせん)型、ジグザグ型、およびアームチェア型に分けられるなど、各種のものが知られている。本発明には、このうち、単層ナノチューブを用いるのが好ましい。実用に供されるカーボンナノチューブの好適な例として、一酸化炭素を原料として比較的量産が可能なHiPco(カーボン・ナノテクノロジー・インコーポレーテッド社製)が挙げられるが、勿論、これに限定されるものではない。
本発明に用いられるカーボンナノチューブは、金属イオンでドーピングされている。この金属イオンとしては、カーボンナノチューブの製造過程で含まれる鉄イオンなどの他に、電気化学プロセスや真空プロセスによりドーピングすることのできるリチウムイオン、セシウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオンなどが挙げられる。これらの手法によって異なる種類のイオンをドーピングすることにより、アクチュエータ素子の応答性を変化させることができると考えられる。金属イオンのドーピング量は、5〜25重量%で
あるのが好ましい。
本発明に用いられる固体高分子電解質としては、フッ素系イオン交換樹脂(例えば、ナフィオンなどのパーフルオロスルホン酸系樹脂)、あるいはポリアクリル酸等の高分子電解質ゲルが挙げられる。カーボンナノチューブとの複合体を形成するためには、カーボンナノチューブとの分散液を調製する必要がある。分散液を調製するのに用いる溶媒としては、メタノールなどの低分子量直鎖アルコール、あるいはTritonX−100などの活性剤水溶液が挙げられる。従って、これらの溶媒に溶解する固体高分子電解質ポリマー、あるいはその前駆体を用いることができる。
複合体(導電体)の形成は、例えば、固体高分子電解質の溶液にカーボンナノチューブを、超音波を用いて分散させ、得られた分散液(キャスト液)を展延(キャスト)することにより行う。キャスト液における固体高分子電解質の濃度は、0.5〜5重量%であるのが好ましく、1〜3重量%であるのがより好ましい。キャスト液におけるカーボンナノチューブの量は、0.2〜1mg/mlであるのが好ましく、0.4〜0.6mg/mlであるのがより好ましい。キャストした後に溶媒を乾燥し、次いで、必要に応じて熱処理(アニール)を行ってもよい。熱処理は、固体高分子の結晶化を促進し、弾性を大きくするのに効果がある。熱処理温度は、100〜160℃が好ましく、150℃程度がより好ましい。このようにして得られたフィルム状の複合体(導電体)の厚さは、10〜300μmであるのが好ましく、20〜200μmであるのがより好ましい。また、複合体(導電体)におけるカーボンナノチューブと固体高分子電解質との割合(重量比)は、カーボンナノチューブ:固体高分子電解質=1:0.03〜0.07であるのが好ましく、カーボンナノチューブ:固体高分子電解質=1:0.04〜0.06であるのがより好ましい。
以上のようにして得られたカーボンナノチューブと固体高分子電解質とからなる複合体(導電体)に、電極を接合することによりアクチュエータ素子を得る。電極の接合には、金属、カーボン等の蒸着法、スパッタ法、無電解メッキ法、塗布法、プレス法、印刷法等の方法を用いることが可能である。これらのうち、最も簡便で有効なのは、スパッタ法による貴金属の接合である。電極の厚さは、10〜50nmであるのが好ましい。
このようにして得られたアクチュエータ素子は、電極間に3〜10Vの直流電圧を加えると、数秒以内に素子長の0.2〜0.5倍程度の変位を得ることができる。また、このアクチュエータ素子は、完全な乾燥状態(空気中)でも、水中の膨潤状態でも、柔軟に作動することができる。
本発明のアクチュエータ素子の完全な乾燥状態(空気中)における作動原理は、図1に示すように、導電体1の表面に相互に絶縁状態で形成された電極2,2に電位差がかかると、カーボンナノチューブ中の層間に含まれていた金属イオン(例えば、Fe++)が、電極2上で酸化還元反応をすることにより、応力が発生するためであると考えられる。
本発明のアクチュエータ素子は、空気中で安定して作動し、低電圧で駆動可能である。また、製造が簡単で、小型化が容易であり、且つ応答が速く、柔軟に作動し、繰り返し耐久性も良い。
次に、実施例によって本発明をより詳細に説明する。
実施例1
単層カーボンナノチューブ(カーボン・ナノテクノロジー・インコーポレーテッド社製「HiPco」、含有Fe量14重量%)(以下、SWNTともいう)25mg、5重量%ナフィオン溶液(アルドリッチ社製、低分子量直鎖アルコールと水(10%)混合溶媒)25ml、および試薬特級メタノール25mlを、ビーカーに秤量して混合した後、超音波洗浄器中で、超音波照射を10時間以上行い、SWNTとナフィオンの混合分散液を調製した。この分散液をガラス製のシャーレにキャストし、ドラフト中で一昼夜以上放置して溶媒を除去した。溶媒を除去した後、150℃で4時間、熱処理を行った。形成されたSWNTとナフィオンの複合体フィルムをシャーレから剥がした後、3cm×2cmの大きさに切り取り、走査電子顕微鏡の試料作成用スパッタマシンを用いて、複合体フィルムの両面に金をスパッタして接合した。条件は、片面当たり10mAで30分とした。
以上のようにして作製した接合体フィルムを1mm×15mmの短冊状に切り取り、変形応答を評価した(実施例2〜6)。また、接合体フィルムを直径10mmの円盤状に切り取り、電圧−電流特性を評価した(実施例7)。
実施例2
図2は、変位測定装置の概略を示す図である。応答性の評価は、1mm×15mmの短冊状に切り取った接合体試料片の端3mmの部分を電極付きホルダーでつかんで、空気中で電圧を加え、レーザー変位計を用いて、固定端から10mmの位置の変位を測定して行った。
図3は、実施例1の方法で作製した厚さ35μmの接合体試料片を1時間真空乾燥した後、0.1Hz、7Vp.−p.の方形波電圧を加えて変位の応答を測定した図である。縦軸の「Displacement」は「変位」を意味し、横軸の「Time」は「時間」を意味し、「sec」は「秒」を意味する。完全に乾燥した状態でも、空気中で、大きく(変位量2mm以上)、速い(0.5秒以内)応答が観測された。
実施例3
実施例2と同様の接合体試料片に、1Hz、6Vp.−p.の方形波電圧を加えて変位の応答を測定した図が、図4である。実施例2と同様に、完全に乾燥した状態でも、空気中で、大きく(変位量2mm以上)、速い(0.5秒以内)応答が観測された。
実施例4
実施例1と同様の方法で作製した厚さ27μmの接合体試料片を1時間真空乾燥した後、実施例2と同様の方法で変位測定を行った。図5は、12Vp.−p.の方形波電圧を加え、周波数を変化させた時の変位の強度(ピーク・ツー・ピーク、peak to peak)をプロットした図である。横軸の「Frequency」は「周波数」を意味する。19Hzで共振のピークが観測された。応答は30Hzまで観測された。
実施例5
実施例1と同様の方法で作製した厚さ110μmの接合体試料片を1時間真空乾燥した後、実施例2と同様の方法で変位測定を行った。図6は、0.1Hzの方形波電圧を加え、加える電圧の強度を変えたときの、電圧値(ピーク・ツー・ピーク)に対する変位の強度(ピーク・ツー・ピーク)の依存性を示す図である。横軸の「Voltage」は「電圧」を意味する。応答は6Vp.−p.から安定に発生し始め、8Vp.−p.から10Vp.−p.までは応答が電圧に応じて大きくなったが、10V以上では飽和した。
実施例6
実施例1と同様の方法で作製した厚さ27μmの接合体試料片を1時間真空乾燥した後、実施例2と同様の方法で変位測定を行った(Nafion−SWNT)。図7は、0.
1Hz、12Vp.−p.の方形波電圧を1時間印加し続けて、変位量の時間変化をプロットした図である。図7には、比較のために、特開平11−235064号公報に記載の方法で作製した、ナフィオン117(パーフルオロスルホン酸系樹脂)膜に金(Au)を接合した接合体試料片(Nafion117/Au)を、空気中で同様に測定した変位量の時間変化も示す(4Vp.−p.および12Vp.−p.印加)。ナフィオン117/Au膜の場合は、測定開始後10分以内に急速に変位量が低下し、1時間後にはほとんど応答しなくなった。一方、本実施例の素子(Nafion−SWNT)は、わずかに応答が小さくなったが、1時間後でも初期変位の50%以上の応答を示した。このことより、本発明の素子が乾燥状態における空気中で安定した変形応答を示すことがわかる。
実施例7
実施例1と同様の方法で作製した厚さ110μmの接合体を1時間乾燥した後、直径10mmの円盤状に切り取り、同様の大きさの白金板を備えたホルダーで挟んでリード線をとり、電圧−電流特性(ボルタンメトリー)を測定した。電圧−電流特性は、周波数0.1Hzの三角波電圧を加えることにより測定した。図8の(A)は、−2.5Vから2.5Vまで電圧を変化させたときの電圧−電流特性(ボルタモグラム)を示し、図8の(B)は、−7Vから7Vまで変化させたときの電圧−電流特性(ボルタモグラム)を示す。縦軸の「Current」は「電流」を意味する。図8(A)からわかるように、0.6V付近に酸化還元のピーク電流が観測され、2Vから2.5Vにかけて電流が指数関数的に大きくなる。この電流が指数関数的に大きくなる様子は、図8(B)からもよくわかる。以上の結果から、この系においては、完全な乾燥状態で酸化還元過程の電流があり、それにより、2.5V付近から指数関数的に大きな電流が流れることがわかる。変形応答が生じ始めるのが2.5V付近からであり、安定に生じるのが3Vからであることを考慮すると、この酸化還元過程が原因となって乾燥状態の応答が生じていると考えられる。
本発明のアクチュエータ素子の作動原理を示す図である。 変位測定装置の概略を示す図である。 実施例2の接合体試料片の応答性を示す図である。 実施例2の接合体試料片の応答性を示す図である。 実施例4の接合体試料片の応答性を示す図である。 実施例5の接合体試料片の応答性を示す図である。 実施例6の接合体試料片における応答性の時間変化を示す図である。 図8(A)は、実施例7の接合体に加える電圧を−2.5Vから2.5Vまで変化させたときの電圧−電流特性を示す図であり、図8(B)は、実施例7の接合体に加える電圧を−7Vから7Vまで変化させたときの電圧−電流特性を示す図である。
符号の説明
1 導電体
2 電極

Claims (2)

  1. 金属イオンドーピングされたカーボンナノチューブと固体高分子電解質との複合体からなる空中アクチュエータ素子用導電体。
  2. 請求項1に記載の導電体の表面に、相互に絶縁状態で電極が少なくとも2個形成され、該電極間に電位差を与えることにより湾曲および変形を生じさせ得る空中アクチュエータ素子。
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