本発明者らは、充放電の繰り返しによってリチウム二次電池用電極(以下、単に「電極」という)に極板変形が生じる要因を検討したところ、以下のような知見を得た。
特許文献4や特許文献5に提案された電極の形成方法では、集電体として粗面化銅箔が用いられている。粗面化銅箔の表面には不規則な凹凸が形成されており、このような表面に活物質を蒸着することにより(斜め蒸着)活物質体が形成される。このとき、活物質体の幅や活物質体の間隔は、集電体表面の凹凸に依存して不均一となる場合がある。その結果、活物質体間に十分な空隙を確保することが難しく、活物質体の間隔が部分的に極めて狭くなる可能性がある。
従って、従来の電極では、放電状態や充電初期状態で活物質体同士が接触していなくても、充電末期状態では、膨張した活物質体同士が接触するおそれがある。活物質体同士が接触すると、集電体に作用する応力が急激に増加するため、極板変形が引き起こされやすくなる。
活物質体同士の接触は、活物質体の幅が膨張によって増加する量に対して、それらの活物質体間の空隙の幅が小さいときに生じる。よって、活物質体がリチウムを吸蔵して膨張すると、リチウムを吸蔵する前に活物質体間の空隙の幅が最も小さかった部分から活物質体同士が接触する。そのため、活物質体同士の接触を抑制しようとすると、集電体表面に平行な平面上において、何れの方向においても、活物質体間の空隙の幅を十分に確保することが必要である。
このような知見に基づいて、本発明者がさらに検討を重ねたところ、集電体表面に規則的に凸部を配列し、この凸部上に活物質を選択的に成長させると、凸部の配置や形状によって活物質体間の空隙の幅を制御することが可能になり、集電体表面全体に亘って空隙の幅を十分に確保できることを見出した。
一方、電極の変形を抑制するためには集電体の引っ張り強度を確保する必要がある。本発明者は、活物質層の厚さおよび空隙の割合によって、集電体に要求される引っ張り強度が異なることを見出した。そこで、活物質層の空隙の割合を制御するとともに、その空隙の割合に応じて、集電体の引っ張り強度を制御することによって、電極の変形をより効果的に抑制できるという知見を得、本発明に想到した。
本発明は、表面に規則的に配列された凸部を有する集電体を用いたリチウム二次電池用電極において、集電体と平行な平面上において、任意の方向における活物質層に占める空隙の割合が5%以上であり、かつ、活物質体の高さ1μmあたりの集電体の引っ張り強度が0.3N/mm以上1N/mm以下であることを特徴としている。このような構成により、充電初期状態のみでなく充電末期状態であっても活物質体同士の接触を抑制でき、活物質体の接触に起因する電極の変形を大幅に低減できる。
(第1実施形態)
以下、図面を参照しながら、本発明によるリチウム二次電池用電極の第1実施形態を説明する。本実施形態の電極は、リチウム二次電池の負極および正極の何れにも適用できるが、好ましくはリチウム二次電池用の負極として用いられる。
まず、図1(a)および図1(b)を参照する。図1(a)は、本実施形態の電極の模式的な断面図であり、図1(b)は、リチウムを吸蔵していない状態の活物質層の上面図である。なお、図1(a)は、図1(b)に示す活物質層のI−I’線に沿った断面を表わしている。
電極100は、表面に複数の凸部12を有する集電体11と、集電体11の表面に形成された活物質層15とを備える。複数の凸部12は、集電体11の表面に互いに間隔を空けて規則的に配列されている。「規則的に配列されている」とは、隣接する凸部12の間隔が所定の距離以上になるように調整されていればよく、上記の特許文献4や特許文献5に記載されているような粗化処理によって形成された表面凹凸を含まない概念である。なお、複数の凸部12は、等間隔に配置されていなくてもよい。また、これらの凸部12は略同一の形状を有していなくてもよく、凸部12の幅や高さが互いに異なっていてもよい。典型的には、図1(b)に示すように、凸部12は格子状(千鳥格子状を含む)に配列されている。
活物質層15は、複数の凸部12の上にそれぞれ形成された活物質体14を有している。隣接する活物質体14の間には空隙16が形成されている。ここで、「活物質体14」は、各凸部12の上に支持された活物質から構成された柱状体を指す。また、「空隙16」は、リチウムを吸蔵していない状態の活物質体14の間に形成された空隙を指し、活物質体14の内部に含まれる空隙(例えば活物質体14の割れなど)は含まない。なお、図示する例では、各凸部12上に1つの活物質体14が支持されているが、2以上の活物質体14が支持されていてもよい。
活物質体14の成長方向Sは、集電体11の法線方向Dに対して傾斜している。法線方向Dに対して傾斜した成長方向Sを有する活物質体14は、例えば、酸素ガスが導入されたチャンバー内で、集電体11の表面に、集電体11の法線方向Dに対して傾斜した方向からケイ素を入射することによって形成できる(斜め蒸着)。なお、集電体11の法線方向Dは、集電体11の表面における凹凸を平均化して得られる仮想的な平面に対して垂直な方向をいうものとする。
図示する例では、各活物質体14は集電体11の表面に積み重ねられた複数の層を有し、複数の層のそれぞれの成長方向Sは、集電体の法線方向Dに対して交互に反対方向に傾斜している。このような活物質体14は、例えば蒸着方向を変化させて複数段階の蒸着を行うことによって形成できる。活物質層14を構成する層の数は、蒸着段数によって決まる。
図示する例では、各活物質体14は集電体11の表面に対して略直立した柱状であるが、成長方向Sに対応したジグザグ形状を有する場合もある。また、活物質体14は、一方向のみに傾斜した成長方向Sを有していてもよい。ただし、活物質体14が上述したような複数の層から形成されていると、活物質体14のリチウムイオン吸蔵時の体積膨張によって集電体11にかかる応力をより効果的に緩和できるので有利である。
本実施形態における複数の活物質体14は、図1(b)に示すように、上述した複数の凸部12の配置に対応して規則的に配置されている。複数の活物質体14は互いに接触せず、それらの間には空隙16が存在している。また、集電体11の表面に平行な平面図において、任意の方向(例えば方向18、19、20、21)における活物質層15に占める空隙16の割合(以下、単に「線空隙率」ともいう)は何れも5%以上である。本実施形態では、活物質層15の線空隙率は、集電体11の表面に形成された凸部12の配置やサイズ、活物質体14の蒸着条件などを適宜選択することによって制御され得る。これらの具体的な範囲については後述する。
図示する例では、方向18に沿って複数の活物質体14が配列ピッチL1で配列されており、この方向18に沿って活物質体14同士が最も接近している。すなわち、方向18は、最も接近した2つの活物質体14の距離(最近接距離)L2を規定している。「最近接距離」とは、各活物質体14がリチウムイオンを吸蔵していないときの、集電体11の表面に平行な平面上における隣接する活物質体14間の距離、すなわち隣接する活物質体14間の空隙の幅のうち最小値を指すものとする。このような場合、方向18における線空隙率は(L2/L1)×100(%)で表わされる。
本実施形態では、上述した方向18における線空隙率が、任意の方向における線空隙率の最小値(以下、「最小線空隙率」という)となる。最小線空隙率は5%以上であれば極板変形を抑制する効果が得られる。より好ましくは8%以上であり、これにより、活物質体14同士の接触をより確実に抑制できる。一方、充電容量を確保する観点から、最小線空隙率は30%以下であることが好ましい。より好ましくは、任意の方向における線空隙率の平均値が20%以下である。これにより、高い充電容量をより確実に実現できる。
なお、本明細書において、「線空隙率」および「最小線空隙率」は、電極100を作製した後、リチウムを吸蔵させる前の活物質層15の線空隙率および最小線空隙率の平均値を指す。最小線空隙率が8%の電極の場合、充放電を行った後の最小線空隙率は8%よりも小さくなり、例えば6%となる。従って、リチウムを吸蔵させる前の活物質層15の最小線空隙率が8%以上であれば、初回充放電を行った後の最小線空隙率は6%以上となり、その結果、充放電の繰り返しによる電極の変形を抑制できる。なお、初回の充放電を行った際に活物質体14同士が接触して活物質体14が圧縮され、充放電後の最小線空隙率が充放電前よりも大きくなる場合もある。本明細書では、初回の充放電を行った後の最小線空隙率を「充放電後の最小線空隙率」と称して、リチウムを吸蔵させる前の活物質層15の最小線空隙率と区別する。
リチウムを吸蔵させる前または充放電後の線空隙率や最小線空隙率は、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて活物質層15の上面を観察することによって求められる。
本実施形態の電極100では、集電体11と平行な平面上において、任意の方向における活物質層15の線空隙率が5%以上となるように、隣接する活物質体14の間隔(最近接距離)が制御されている。従って、充電状態、特に充電末期状態において、各活物質体14が膨張して隣接する活物質体14に接触することによって、集電体11にかかる応力を大幅に低減できる。その結果、充放電サイクル特性に優れたリチウム二次電池を提供することができる。
本実施形態における集電体11の引っ張り強度TSAは6N/mm以上であることが好ましい。これにより、集電体11は、活物質体14の膨張収縮に対して十分な耐性を有することができるので、極板の変形をより効果的に抑制できる。引っ張り強度TSAはより好ましくは8N/mm以上、さらに好ましくは10N/mm以上である。引っ張り強度は、下記式に示すように、集電体の断面積あたりの破断強度および集電体の厚さによって決まる。
引っ張り強度TSA(N/mm)=集電体の断面積あたりの破断強度(N/mm2)×集電体の厚さ(mm)
上記式における「集電体の厚さ」は、本実施形態では、集電体11のうち表面に凸部12が形成されていない部分の厚さを指す。例えば、金属箔の表面にメッキ法などで凸部12を形成する場合には、金属箔の厚さが上記式でいう「集電体の厚さ」となる。以下、凸部12を含む集電体11全体の厚さと区別するため、「集電体のベース厚さ」と称する。
また、上記式における「集電体の断面積あたりの破断強度」は、集電体11に使用する金属箔の材質などによって決まり、例えば圧延銅箔では約400N/mm2、電解銅箔では約300N/mm2程度となる。圧延銅合金箔または電解銅合金箔などの銅合金を含む金属箔では、銅箔よりも集電体の断面積あたりの破断強度を大きくできる(例えば460N/mm2以上)。従って、銅合金箔を用いて集電体11を作製すると、集電体11の厚さを抑えつつ、必要な引っ張り強度を確保できるので有利である。
本実施形態では、活物質層15の厚さ1μmあたりの集電体11の引っ張り強度TSBを0.3N/mm以上1N/mm以下に設定する。引っ張り強度TSB以下の式で与えられる。
引っ張り強度TSB(N/mm)=引っ張り強度TSA(N/mm)/活物質層の厚さt(μm)
なお、上記式における「活物質層の厚さt」は、図1に示すように、集電体11の法線方向Dに沿った、凸部12の上面から活物質体14の上面までの厚さtを指す。また、集電体の両面にそれぞれ活物質層が形成される場合には、上記式における「活物質層の厚さt」は、両面に形成された活物質層の平均の厚さtAVEとなる。よって、両面に形成された活物質層の厚さをそれぞれtA、tBとすると、引っ張り強度TSBは、活物質層の平均厚さtAVE(tAVE=(tA+tB)/2)を用いて、TSB=TSA/tAVEで表わされる。さらに、上記式における活物質層の厚さtは、活物質層を形成した後、リチウムを吸蔵する前の厚さとする。活物質層にリチウムを予め吸蔵させたり、充放電を行ったりすると、活物質層を構成する活物質体同士が接触して活物質層が厚くなったり、あるいは、集電体が伸びる結果、活物質層が薄くなったりする可能性があるからである。
活物質層15の厚さ1μmあたりの集電体11の引っ張り強度TSBが0.3N/mm以上であれば、線空隙率が5%以上の活物質層15の膨張・収縮による極板の変形を抑えることができ、その結果、極板の変形に起因する充放電特性の低下を抑制できる。一方、活物質層15の厚さ1μmあたりの集電体11の引っ張り強度TSBが1N/mmより大きくなると、高エネルギー密度な電池が得られない。引っ張り強度TSBを大きくするためには、活物質層15の厚さtを小さくするか、あるいは、集電体11を厚くして引っ張り強度TSAを大きくすればよいが、活物質層15の厚さtが小さくなりすぎたり、集電体11のベース厚さが大きくなりすぎると、電池の単位体積あたりに取り出すことのできる電気容量が小さくなり、電池のエネルギー密度を十分に確保できなくなるからである。より好ましくは、活物質層15の厚さ1μmあたりの集電体11の引っ張り強度TSBが0.6N/mm以上である。これにより、極板の変形をより確実に抑制できる。このように、電気容量の指標となる活物質層15の厚さtと極板強度(集電体11の引っ張り強度TSA)との関係を最適化することにより、十分な極板強度を確保しつつ、電池のエネルギー密度を向上することが可能になる。特に、放電深度の大きい充放電によっても極板の変形を効果的に抑制できるので有利である。また、活物質層15の材料として、高容量の活物質、例えばSi元素を含む材料(Si系材料)やSn元素を含む材料(Sn系材料)を用いると、引っ張り強度TSBを上記範囲に制御することによる上記効果がより顕著になるので特に有利である。
本実施形態では、集電体11の表面に規則的に凸部12が配列されており、凸部12の配置(間隔、配列ピッチ)やサイズ(幅、高さなど)を適宜選択することによって、活物質体14の間の空隙16の幅を制御することが可能である。従って、集電体11の表面に平行な平面上の何れの方向においても十分な線空隙率を実現できる。
以下、図面を参照しながら、本実施形態における凸部12の好ましい配置やサイズを説明する。
図2(a)および図2(b)は、それぞれ、本実施形態における集電体11の凸部12を例示する模式的な平面図およびII−II’断面図である。
図示する例では、凸部12は菱形の上面を有する柱状体であるが、凸部12の形状はこれに限定されない。集電体11の法線方向Dから見た凸部12の正投影像は、正方形、長方形、台形、菱形、平行四辺形、五角形およびホームプレート型などの多角形、円形、楕円形などであってもよい。集電体11の法線方向Dに平行な断面の形状は正方形、長方形、多角形、半円形、およびこれらを組み合わせた形状であってもよい。また、集電体11の表面に対して垂直な断面における凸部12の形状は、例えば多角形、半円形、弓形などであってもよい。なお、集電体11に形成された凹凸パターンの断面が曲線で構成された形状を有する場合など、凸部12と凸部以外の部分(「溝」、「凹部」などともいう)との境界が明確でないときには、凹凸パターンを有する表面全体の平均高さ以上の部分を「凸部12」とし、平均高さ未満の部分を「溝」または「凹部」とする。「凹部」は、図示する例のように連続した単一の領域であってもよいし、凸部12によって互いに分離された複数の領域であってもよい。さらに、本明細書における「隣接する凸部12の間隔」とは、集電体11に平行な平面上において、隣接する凸部12の間の距離であり、「溝の幅」または「凹部の幅」を指すものとする。
また、集電体11の平面図(図2(a))において、複数の凸部12の合計面積A1の、複数の凸部12の合計面積A1および凹部の合計面積A2との和に占める割合が10%以上30%以下であることが好ましい(0.1≦{A1/(A1+A2)}≦0.3)。言い換えると、集電体11の表面の法線方向から見て、集電体11の表面の面積に対する複数の凸部12の合計面積A1の割合が10%以上30%以下であることが好ましい。ここでいう「集電体11の表面の面積」は、集電体11の表面の法線方向から見て、集電体11の表面のうち活物質層15が形成される領域の面積を意味し、活物質層15が形成されずに端子として用いる領域などは含まない。
上記割合が10%未満であれば、活物質体14が凸部12以外の領域にも形成される可能性が高くなり、隣接する活物質体14の間に十分な空間を確保できなくなる場合がある。その結果、充電時の活物質体14の膨張を十分に緩和できず、極板の変形を引き起こすおそれがある。一方、上記割合が30%を超えると、隣接する活物質体14の間の空間が不足し、活物質体14の膨張を緩和するための十分な空間を確保できなくなるおそれがある。これに対し、上述したように、上記割合を10%以上30%以下に制御することにより、シャドウイング効果を利用して隣接する活物質体14の間に活物質体14の膨張のための空間をより確実に確保できる。
凸部12の高さHは3μm以上であることが好ましく、より好ましくは4μm以上、さらに好ましくは5μm以上である。高さHが3μm以上であれば、活物質体12を斜め蒸着で形成する際に、シャドウイング効果を利用して、凸部12の上のみに活物質体14を配置できるので、活物質体14の間に空隙16を確保できる。一方、凸部12の高さHは15μm以下であることが好ましく、より好ましくは12μm以下である。凸部12が15μm以下であれば、電極に占める集電体11の体積割合を小さく抑えることができるので、高いエネルギー密度を得ることが可能になる。
凸部12は、所定の配列ピッチで規則的に配列されていることが好ましく、例えば千鳥格子状、碁盤目状などのパターンで配列されていてもよい。凸部12の配列ピッチ(隣接する凸部12の中心間の距離)は例えば10μm以上100μm以下である。ここで、「凸部12の中心」とは、凸部12の上面における最大幅の中心点を指す。配列ピッチが10μm以上であれば、隣接する活物質体14の間に、活物質体14が膨張するための空間をより確実に確保できる。好ましくは20μm以上、より好ましくは30μm以上である。一方、配列ピッチPが100μm以下であれば、活物質体14の高さを増大させることなく、高い容量を確保できる。好ましくは80μm以下、より好ましくは60μm以下、さらに好ましくは50μm以下である。図示する例では、凸部12は、3つの方向に沿って配列されており、それぞれの方向における配列ピッチPa、Pb、Pcは何れも上記範囲内であることが好ましい。
また、凸部12の配列ピッチPaに対する凸部12の間隔dの割合は1/3以上2/3以下であることが好ましい。同様に、凸部12の配列ピッチPb、Pcに対する凸部12の間隔e、fの割合も1/3以上2/3以下であることが好ましい。これらの間隔d、e、fの割合が1/3以上であれば、各凸部12の上にそれぞれ活物質体14を形成したときに、凸部12の各配列方向における活物質体14の空隙の幅をより確実に確保できるので、十分な線空隙率が得られる。一方、間隔d、e、fの割合が2/3よりも大きくなると、凸部12の間の溝にも活物質が蒸着されてしまい、集電体11にかかる膨張応力が増大するおそれがある。
凸部12の上面における幅は200μm以下であることが好ましく、より好ましくは50μm以下、さらに好ましくは20μm以下である。これにより、シャドウイング効果を利用して活物質体14の間に十分な空隙を確保することが可能になるので、活物質の膨張応力による電極100の変形をより効果的に抑制できる。一方、凸部12の上面の幅が小さすぎると、活物質体14と集電体11との接触面積を十分に確保できない可能性があるので、凸部12の上面の幅は1μm以上であることが好ましい。特に凸部12が柱状の場合、その上面の幅が小さいと(例えば2μm未満)、凸部12が細くなり、充放電による応力に起因して凸部12が変形しやすくなる。従って、凸部12の上面の幅は、より好ましくは2μm以上、さらに好ましくは10μm以上であり、これにより、充放電による凸部12の変形をより確実に抑制できる。図示する例では、各配列方向に沿った凸部12の上面の幅a、b、cが、何れも上記範囲内であることが好ましい。
さらに、凸部12が、集電体11の表面に垂直な側面を有する柱状体である場合には、隣接する凸部12の間隔d、e、fは、それぞれ、凸部12の幅a、b、cの30%以上であることが好ましく、より好ましくは50%以上である。これにより、活物質体14の間に十分な空隙を確保して膨張応力を大幅に緩和できる。一方、隣接する凸部12の間の距離が大きすぎると、容量を確保するために活物質層14の厚さが増大してしまうため、間隔d、e、fは、それぞれ凸部12の幅a、b、cの250%以下であることが好ましく、より好ましくは200%以下である。
凸部12の上面は平坦であってもよいが、凹凸を有することが好ましく、その表面粗さRaは0.1μm以上であることが好ましい。ここでいう「表面粗さRa」とは、日本工業規格(JISB 0601―1994)に定められた「算術平均粗さRa」を指し、例えば表面粗さ計などを用いて測定できる。凸部12の上面の表面粗さRaが0.1μm未満であれば、例えば1つの凸部12の上面に複数の活物質体14が形成された場合に、各活物質体14の幅(柱径)が小さくなり、充放電時に破壊されやすくなる。より好ましくは0.3μm以上であり、これにより、凸部12の上に活物質体14が成長しやすく、その結果、活物質体14の間に十分な空隙を確実に形成できる。一方、表面粗さRaが大きすぎると(例えば100μm超)、集電体11が厚くなり、高いエネルギー密度が得られなくなるので、表面粗さRaは例えば30μm以下であることが好ましい。より好ましくは10μm以下、さらに好ましくは5.0μm以下である。特に、集電体11の表面粗さRaが0.3μm以上5.0μm以下の範囲内であれば、集電体11と活物質体14との付着力を十分に確保できるので、活物質体14の剥離を防止できる。
集電体11の材料は、例えば圧延法、電解法などで作製された銅または銅合金であることが好ましく、より好ましくは、比較的強度の大きい銅合金である。本実施形態における集電体11は、特に限定しないが、例えば銅、銅合金、チタン、ニッケル、ステンレスなどの金属箔の表面に、複数の凸部12を含む規則的な凹凸パターンを形成することによって得られる。金属箔としては、例えば圧延銅箔、圧延銅合金箔、電解銅箔、電解銅合金箔などの金属箔が好適に用いられる。
凹凸パターンが形成される前の金属箔の厚さは、特に限定されないが、例えば1μm以上50μm以下であることが好ましい。50μm以下であれば、体積効率を確保でき、また、1μm以上であれば、集電体11の取り扱いが容易となるからである。金属箔の厚さは、より好ましくは6μm以上40μm以下、さらに好ましくは8μm以上33μm以下である。
凸部12の形成方法としては、特に限定しないが、例えば金属箔に対してレジスト樹脂等を利用したエッチングを行い、金属箔に所定のパターンの溝を形成し、溝が形成されていない部分を凸部12としてもよい。また、金属箔上にレジストパターンを形成し、電着、メッキ法によって、レジストパターンの溝部に凸部12を形成することもできる。あるいは、パターン彫刻により溝が形成された圧延ローラーを用いて、圧延ローラーの溝を金属箔の表面に機械的に転写する方法を用いてもよい。
本実施形態における活物質体14は、前述したように、集電体11の法線方向Dに対して傾斜した方向Sに沿って成長している。活物質体14の成長方向Sと法線方向Dとのなす角度(傾斜角度)αは5°以上であることが好ましく、より好ましくは10°以上である。良好な密着性を得るためには、活物質体14と集電体11との接触面積が大きい方がよく、すなわち、傾斜角度が0°であればよいが、その場合には、シャドウイング効果が生じないので、隣接する活物質体14の間に隙間を形成することができない。しかしながら、上記角度が5°以上であれば、活物質体14の間に隙間を形成しつつ十分な接触面積を得ることができる。また、集電体11の法線方向Dに対して一方向に傾斜した活物質体14を形成するときには、上記角度が10°以上であれば、正極活物質層に対向する集電体11の露出部(集電体11の表面のうち活物質体14が形成されていない部分)の面積を抑えることができるので、集電体11の露出部にリチウムが析出することを防止できる場合がある。一方、上記傾斜角度αは90°未満であればよいが、90°に近づくほど活物質体14を形成することが困難となる。また、集電体11の表面のうち活物質体14や凸部12によって影となって活物質が堆積しない部分の面積が増加し、電池のハイレート特性を低下させる場合があるため、80°以下であることが好ましく、より好ましくは70°未満である。斜め蒸着によって活物質体14を形成する場合には、活物質体14の傾斜角度αは、活物質体14を形成する際の蒸着角度によって決まる。なお、傾斜角度αは、例えば任意の2〜10個の活物質体14の傾斜角度を測定し、それらの値の平均値を算出することによって求めることができる。
活物質体14の傾斜角度αは、活物質体14の高さとともに変化してもよい。本実施形態のように、活物質体14が成長方向Sの異なる複数の部分を有している場合には、活物質体14における全ての成長方向Sが法線方向Dに対して傾斜しており、その傾斜角度αが何れも10°以上90°未満であることが好ましい。
本実施形態では、活物質層15に占める空隙16の体積の割合(以下、「体積空隙率」という)は10%以上70%以下であることが好ましい。体積空隙率が10%以上であれば、活物質体14の膨張収縮を空隙16によって効果的に吸収できるので、電極100の変形を低減できる。一方、高容量を確保する観点から、体積空隙率は70%以下であることが好ましい。
活物質層15の厚さtは、活物質体14の高さと等しく、集電体11の凸部12の上面から活物質体14の頂部までの、集電体11の法線方向に沿った距離tを指し、例えば0.01μm以上、好ましくは0.1μm以上である。これにより、十分なエネルギー密度を確保できるので、ケイ素を含む活物質の高容量特性を活かすことができる。また、厚さtが例えば3μm以上であれば、電極全体に占める活物質の体積割合がより大きくなり、さらに高いエネルギー密度が得られる。より好ましくは5μm以上、さらに好ましくは8μm以上である。一方、活物質層15の厚さtは例えば100μm以下、好ましくは50μm以下、より好ましくは40μm以下である。これにより、活物質層15による膨張応力を抑えることができ、また、集電抵抗を低くできるのでハイレートの充放電に有利である。また、厚さtが例えば30μm以下、さらに好ましくは25μm以下であれば、膨張応力による集電体11の変形をより効果的に抑制できる。
活物質層15の厚さtは、例えば次のような方法で測定できる。まず、活物質層15を形成した後の電極100全体の厚さを測定する。凸部12および活物質層15が集電体11の一方の表面にのみ形成されている場合には、電極100全体の厚さから、凸部12を含む集電体11の厚さ(金属箔の厚さと凸部12の高さとの和)を差し引くことによって、活物質層15の厚さtが得られる。凸部12および活物質層15が集電体11の両面に形成されている場合には、電極100全体の厚さから、凸部12を含む集電体11の厚さ(金属箔の厚さと、その両面に形成された凸部12の合計高さとの和)を差し引くことによって、集電体11の両面に形成された活物質層15の合計厚さが得られる。
活物質体14の太さ(幅)は、特に限定されないが、充電時の膨張によって活物質体14に割れが生じることを防止するためには、100μm以下であることが好ましく、より好ましくは5μm以下である。また、活物質体14が集電体11から剥離することを防止するためには、活物質体14の幅は1μm以上であることが好ましい。活物質体14の太さは、例えば任意の2〜10個の活物質体14における、集電体11の表面に平行で、かつ、活物質体14の高さtの1/2となる面に沿った断面の幅の平均値で求められる。上記断面が略円形であれば、直径の平均値となる。
本実施形態では、活物質層15の単位面積あたりの容量は2mAh/cm2以上であることが好ましく、これにより高い電池エネルギーを得ることができる。一方、5%以上の線空隙率を確保しつつ単位面積あたりの容量を高くすると、活物質層15の厚さ(活物質体14の高さ)tが増大して充電時の膨張量が増えるので、膨張応力による集電体12の変形を十分に抑制できないおそれがある。従って、単位面積あたりの容量は8mAh/cm2以下であることが好ましく、より好ましくは10mAh/cm2以下である。
本実施形態における活物質層15は、ケイ素元素あるいはスズ元素を含むことが好ましく、これにより、高い容量を確保できる。より好ましくはケイ素元素を含む活物質を含む。活物質層15は、例えばケイ素単体、ケイ素合金、ケイ素と酸素とを含む化合物、および、ケイ素と窒素とを含む化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。活物質層15は、上記の物質のうち1種類のみを含んでいてもよいし、2種類以上の物質を含んでいてもよい。
ケイ素と窒素とを含む化合物は、さらに酸素を含んでいてもよい。例えば、活物質層15は、ケイ素と酸素と窒素とを含み、これらの元素のモル比が異なる複数の化合物から形成されていてもよいし、ケイ素の酸素とのモル比が異なる複数のケイ素酸化物の複合物から形成されていてもよい。
より好ましくは、活物質層15はケイ素酸化物(SiOx、ただし0<x<2)を含む。一般に、ケイ素酸化物を含む活物質では、ケイ素量に対する酸素量のモル比(以下、単に「酸素比率」ともいう)xが低いほど、高い充放電容量が得られるが、充電による体積膨脹率が大きくなる。一方、酸素比率xが高くなるほど、体積膨脹率は抑えられるが、充放電容量が低下する。本実施形態における活物質層15の酸素比率xの平均値は例えば0.01以上1以下、より好ましくは0.1より大きく1.0未満である。酸素比率xの平均値が0.1より大きいと、充放電に伴う膨張および収縮が抑えられているので、集電体11にかかる膨張応力を抑制できる。また、酸素比率xの平均値が1.0未満であれば、十分な充放電容量を確保でき、高率充放電特性を維持できる。なお、酸素比率xの平均値が0.2より大きく0.9以下であれば、適度な充放電サイクル特性と高率充放電特性とをバランス良く得ることができるので有利である。
また、成長方向の異なる各部分での酸素比率は0<x<2であればよく、各部分での酸素比率は異なっていてもよい。このような場合においては、酸素比率xの平均値は活物質層15全体の値を指す。
なお、本明細書では、活物質層15における「ケイ素量に対する酸素量のモル比xの平均値」は、活物質層15に補填または吸蔵されたリチウムを除いた組成である。また、活物質層15は、上記の酸素比率を有するケイ素酸化物を含んでいればよく、Fe、Al、Ca、Mn、Tiなどの不純物を含んでいてもよい。
活物質層15の形成には、真空蒸着法、スパッタ法、CVD法などの真空プロセスやめっき法などが用いられ得るが、集電体11の法線方向Dから傾斜した方向から蒸着を行う斜め蒸着を用いることが好ましい。例えば、酸素ガスが導入されたチャンバー内で、集電体11の表面に、集電体11の法線方向Dに対して傾斜した方向からケイ素を入射することによって活物質体14を形成できる。
活物質体14は、単結晶からなる粒子でもよく、複数の結晶子(結晶粒:crystallite)を含む多結晶粒子であってもよい。または、結晶子サイズが100nm以下の微結晶からなる粒子でもよく、アモルファスでもよい。活物質体14がアモルファスであること、あるいは、微結晶からなる粒子であることは、X線回折(XRD)、透過型電子顕微鏡(TEM)などを用いて確認できる。結晶子の粒径は、XRD測定で得られる回折パターンにおいて、2θ=15〜40°の範囲で最も強度の大きなピークの半価幅からScherrerの式に基づいて算出される。回折パターンにおいて、2θ=15〜40°の範囲でシャープなピークが見られず、ブロードなハローパターンだけが観測される場合、活物質体14は実質的にアモルファスであると判断できる。
図1に示す電極100は、例えば以下のような方法で製造することができる。
まず、表面に複数の凸部12を有する集電体11を作製する。集電体11は、例えば、表面に凹凸が形成された圧延ローラーを用いて、銅箔に凹凸形状を転写することによって得られる。
続いて、斜め蒸着により、集電体11の表面に複数の活物質体14を形成し、活物質層15を得る。各活物質体14は、対応する凸部12の上に配置される。
図3は、活物質層15の形成に用いられる蒸着装置の構成を例示する概略図である。蒸着装置40は、真空チャンバー41と、真空チャンバー41を排気するための排気ポンプ47とを備えている。真空チャンバー41の内部には、集電体11を固定するための固定台43と、チャンバー41に酸素ガスを導入するガス導入配管42と、集電体11の表面にケイ素を供給するための蒸発源が装填された坩堝46とが設置されている。蒸発源として、例えばケイ素を用いることができる。また、図示しないが、蒸発源の材料を蒸発させるための電子ビーム加熱手段を備えている。ガス導入配管42は、酸素ノズル45を備えており、酸素ノズル45から出射する酸素ガスが集電体11の表面近傍に供給されるように位置付けられている。固定台43と坩堝46とは、坩堝46からの蒸着粒子(ここではケイ素原子)49が、集電体11の法線方向Dに対して角度(蒸着角度)ωの方向から集電体11の表面に入射するように配置されている。この例では、固定台43は回転軸を有しており、この回転軸のまわりに固定台43を回転させることによって、水平面50に対する固定台43の法線の角度θが所定の蒸着角度ωに等しくなるように調整される。ここで、「水平面」とは、坩堝46に装填された蒸発源の材料が気化されて固定台43に向う方向に対して垂直な面をいう。
活物質層15の形成は、集電体11の表面近傍に酸素ノズル45から酸素ガスを吹き付けながら、坩堝46に装填したケイ素を電子(EB)銃(図示せず)で電子線を照射して溶解し、集電体11の上に入射させることによって行う(EB蒸着)。集電体11の表面では、ケイ素原子49と酸素ガスとが反応してケイ素酸化物が成長する。このとき、ケイ素原子49は、集電体11の法線方向Dに対して傾斜した方向から集電体11の表面に入射するために、集電体11の表面における凸部12の上に蒸着しやすく、凸部12の上でのみケイ素酸化物が柱状に成長する。一方、集電体11の表面のうち柱状に成長していくケイ素酸化物の影となる部分では、ケイ素原子が入射せず、ケイ素酸化物は蒸着しない(シャドウイング効果)。
このようにして、集電体11の各凸部12の上に複数の活物質体14が形成され、電極100が完成する。活物質体14における酸素比率xの平均値は、例えば真空チャンバー41に導入する酸素ガス量(すなわち雰囲気の酸素濃度)を調整することにより制御できる。
なお、上記方法において、蒸着角度ωを一定にして蒸着を行うと、一方向に沿って成長した活物質体14が得られる。また、EB蒸着を行っている間に、固定台43を回転軸に沿って回転させて集電体11の設置方向を変えることにより、蒸着角度ωを変化させてもよい。例えば、蒸着角度ωを変化させながら第1段目〜第n段目(n≧2)の蒸着工程を行い、活物質体14を形成すると、得られる活物質体14は、その成長方向によってn個の部分に分けられる。本明細書では、それらのn個の部分を、集電体11の表面側から第1部分、第2部分、・・・第n部分と呼ぶ。
以下、図面を参照しながら、蒸着角度ωを変化させながら複数段階の蒸着を行うことによって活物質層15を形成する方法を具体的に説明する。図4(a)〜(d)は、活物質層15の形成方法の一例を説明するための模式的な工程断面図である。これらの図は、集電体11の表面に垂直であり、かつ、活物質体14の成長方向を含む断面を示している。
まず、図4(a)に示すように、表面に複数の凸部12が配列された集電体11を形成する。図示する断面において、これらの凸部12の幅は例えば10μmであり、隣接する凸部12によって規定される溝(凹部)13の幅は例えば20μmである。
次いで、図3を参照しながら説明した蒸着装置40の固定台43に集電体11を設置する。固定台43は、水平面50に対する固定台43の法線の角度θが例えば55°になるように配置される。坩堝46には、蒸発源としてSi(スクラップシリコン:純度99.999%)を装填する。
この後、図4(b)に示すように、坩堝46のケイ素を電子ビームで加熱して蒸発させ、集電体11の凸部12の上にケイ素原子49を入射させる。ケイ素原子49を入射させる方向52は、集電体11の法線方向Dに対して角度ω(ここでは55°)傾斜している。また、ケイ素原子49を入射させると同時に、ガス導入配管42によって酸素(O2)ガスを真空チャンバー41に導入し、酸素ノズル45から集電体11に向けて酸素ガスを供給する。このとき、例えば真空チャンバー41の内部は、圧力が3.5×10-2Paの酸素雰囲気とする。これにより、Siと酸素とが反応して得られるケイ素酸化物(SiOx)が、集電体11の凸部12の上に選択的に成長し、活物質体の第1部分14aが形成される(第1段目の蒸着工程)。このとき、隣接する凸部12の間の溝13の上にはケイ素原子49は付着せず、ケイ素酸化物は成長しない。
第1部分14aの成長方向S1は集電体11の法線方向Dに対して角度α1だけ傾斜している。この傾斜角度α1は、蒸着角度(ケイ素の入射角度)ωによって決まる。具体的には、成長方向の傾斜角度α1とケイ素の蒸着角度ωとは2tanα1=tanωの関係を満たすことが経験的に知られている。また、酸素導入量を変えることで真空槽内の圧力を制御することにより、上記関係式から計算される傾斜角度から低くなることも知られている。このように、傾斜角度α1は蒸着角度および真空槽内圧を変えることによって制御され得る。
得られた第1部分14aは、SiOxの化学組成を有する。ケイ素量に対する酸素量のモル比xの平均値は0.1より大きく1.0より小さい。ただし、第1部分14aにおけるケイ素量に対する酸素量のモル比xは、第1部分14aにおける集電体11の表面に近い方の側面(下側の側面)57の近傍で小さく、第1部分14aにおける集電体11の表面に遠い方の側面(上側の側面)58に向かって大きくなる。なお、第1部分14aにおけるxの平均値や第1部分14aの厚さは、蒸着時の出力、時間、真空チャンバー41に導入する酸素ガス量(すなわち雰囲気の酸素濃度)などを調整することにより制御される。
続いて、固定台43を回転軸のまわりに時計回りに回転させて、水平面50に対して、上記第1段目の蒸着工程における固定台43の傾斜方向と反対の方向に傾斜させる(θ=−55°)。この後、第1段目の蒸着工程と同様に、坩堝46のケイ素を蒸発させて、集電体11の第1部分14aの上に入射させる。図示する断面において、ケイ素原子49を入射させる方向62は、集電体11の法線方向Dに対して、上記方向52と反対の方向に例えば55°(ω=−55°)傾斜している。また、第1段目の蒸着工程と同様に、ケイ素原子49を入射させると同時に、酸素ノズル45から集電体11に向けて酸素ガスを供給する。これにより、各第1部分14aの上にケイ素酸化物(SiOx)が成長し、活物質体の第2部分14bが形成される(第2段目の蒸着工程)。図示する断面において、第2部分14bの成長方向S2は、集電体11の法線方向Dに対して、第1部分14aの成長方向と反対の方向に角度α2(α2=−α1)だけ傾斜している。
第2部分14bも、前述した第1部分14aと同様の酸素濃度分布を有している。すなわち、第2部分14bにおけるケイ素量に対する酸素量のモル比xは、第2部分14bの下側の側面63から上側の側面64に向かって大きくなる。よって、第1部分14aおよび第2部分14bでは、xの増加方向が異なる。
この後、図4(d)に示すように、固定台43の角度θを再び第1段目の蒸着工程と同じ角度(ここでは55°)に戻して、第1段目の蒸着工程と同様の条件でケイ素酸化物を成長させる(第3段目の蒸着工程)。これにより、第2部分14bの上に、さらに第3部分14cが形成される。第3部分14cの成長方向S3の傾斜角度α3は第1部分14aの傾斜角度α1と同じである。また、第3部分14cの酸素濃度分布(xの増加方向)も第1部分14aと同じである。このようにして、3つの部分14a〜14cを有する活物質体14から構成される活物質層15が得られる。
なお、上記方法では、第1〜第3段目までの蒸着工程を行うことによって活物質層15を形成しているが、蒸着角度ωを例えば55°と−55°との間で交互に切り替えて、例えば第n段目(n≧2)まで蒸着を行うと、n個の部分を有する活物質体14を形成することができる。なお、各蒸着工程における蒸着時間は、特に限定しないが、略等しくなるように設定されることが好ましい。従って、全蒸着時間の1/nに設定されることが好ましい。
上記方法のように、複数段の蒸着工程によって活物質体14を形成すると、得られた活物質体14は、少なくとも1つの屈曲部を有する。ここで、「屈曲部」とは、集電体11の法線方向Dに対する活物質体14の傾斜方向が反転する部分を指す。活物質体14が複数の屈曲部を有する場合、その活物質体14は、活物質体14の集電体11側の面から、集電体11から離れる方向に向かってジグザグ状に延びる。ここで「ジグザグ状に延びる」とは、活物質体14が、集電体11の表面から縦方向に、集電体11の表面の法線方向Dからの傾斜方向を反転させながら延びることをいう。このように、活物質体14が屈曲部を有していたり、ジグザグ状に延びていると、活物質体14の膨張によって生じる応力を屈曲部で緩和することができるので、活物質体14の剥離、割れおよび微粉化を抑制できる。
なお、活物質体14を形成する際に、例えば30段以上の多段階の蒸着工程を行う場合や(n≧30)、各蒸着工程によって形成される部分の厚さが特に小さい(例えば0.5μm以下)場合には、図1(a)に例示するように、活物質体14の断面形状は、成長方向Sに沿って傾斜したジグザグ形状にならずに、集電体11の法線方向Dに沿って直立した柱状になることもある。このような場合でも、活物質体14の断面観察により、活物質体14の成長方向Sが、底面から上面に向かってジグザグ状に延びていることを確認することができる。また、前述したように、活物質体14の各部分は幅方向に酸素分布を有しており、それぞれ上面側の側面で酸素濃度が高くなることから、活物質体14の酸素分布を測定することによって、成長方向Sや蒸着段数nなどを確認することもできる。
斜め蒸着を利用して活物質層15を形成する際には、蒸着条件によって、活物質層15の線空隙率を制御することが可能である。具体的には、一方向に傾斜した活物質体14を有する活物質層15を形成する場合には、蒸着方向や蒸着角度ω、蒸着時間などの条件を適宜選択することにより、活物質体14の形状やサイズ(幅、高さ)を調整できるので、活物質層15における線空隙率を制御できる。また、図4(a)〜(d)を参照しながら説明した方法のように、複数段の蒸着工程を行って活物質体14を形成する場合には、蒸着段数nや、各蒸着工程の蒸着方向、蒸着角度ω、蒸着速度や蒸着時間などの蒸着条件を選択することにより、活物質層15における線空隙率を制御できる。
本発明者らは、一例として、蒸着条件(蒸着角度ω)の異なる3つのサンプル電極No.1〜No.3を作製し、それぞれの活物質層の最小線空隙率を測定したので、その結果を説明する。
サンプル電極No.1〜No.3は、何れも、同様の方法で形成された集電体を用いて作製した。集電体の形成は、銅箔の表面に、上面が菱形(対角線:10μm×20μm)の四角柱状の凸部(高さ:6μm)を、上記菱形の長い方の対角線に沿って20μm、短い方の対角線に沿って18μmの間隔を空けて配置することによって行った。この集電体表面に、図3を参照しながら説明した蒸着装置40を用いて、ケイ素酸化物を含む活物質層を形成し、サンプル電極No.1〜No.3を得た。サンプル電極No.1の活物質層は、蒸着角度ωを55°と−55°との間で切り替えながら、35段(n=35)の蒸着を行うことにより形成した。同様に、サンプル電極No.2の活物質層は、蒸着角度ωを60°と−60°との間で切り替えながら、また、サンプル電極No.3の活物質層は、蒸着角度ωを68°と−68°との間で切り替えながら、それぞれ、35段(n=35)の蒸着を行うことにより形成した。これらのサンプル電極の活物質層の厚さtは、何れも14μmとした。
図5(a)〜(c)は、それぞれ、サンプル電極No.1〜No.3における活物質層の上面を示す電子顕微鏡写真である。図5(a)に示すように、サンプル電極No.1の活物質層の最小線空隙率は、活物質体14の最近接距離を規定する方向65に沿った線空隙率となる。同様に、サンプル電極No.2およびNo.3の活物質層の最小線空隙率は、それぞれ、方向66および方向67に沿った線空隙率となる。これらの方向に沿った線空隙率を測定したところ、サンプル電極No.1(蒸着角度ω=55°、−55°)では約10%、サンプル電極No.2(蒸着角度ω=60°、−60°)では約11%、サンプル電極No.3(蒸着角度ω=68°、−68°)では約15%であった。この結果から、活物質層を形成する際の蒸着角度ωを変えることによって、最小線空隙率を制御できることを確認できた。なお、上記のサンプル電極において、蒸着角度ωが大きいほど最小線空隙率が大きくなる理由は、蒸着角度ωが大きくなるとシャドウイング効果が大きくなり、活物質(ケイ素酸化物)が堆積しない領域が増えるからである。
本実施形態における蒸着角度ωの好適な範囲は、蒸着段数nなどの他の蒸着条件に応じて変わるが、例えば5°以上、より好ましくは10°以上である。これにより、十分な線空隙率を確保しやすくなる。また、蒸着角度ωは90°未満であればよいが、90°に近づくほど活物質体を形成することが困難となるため、80°未満であることが好ましい。
一方、蒸着角度ωが等しいときには、蒸着段数nが多いほど線空隙率が大きくなる。この理由を以下に説明する。n段目の部分を(n−1)段目と異なる方向から成長させることにより、(n−1)段目に成長させた部分(活物質柱)が影となり、結果としてシャドウイング効果が効果的に発揮される。従って、蒸着段数nを増やすことにより活物質柱によるシャドウイング効果を向上させることができるので、蒸着段数nが大きいほど線空隙率が大きくなる。
本実施形態における蒸着段数nの好適な範囲は、蒸着角度ωなどの他の蒸着条件に応じて変わるが、例えば2以上である。これにより、十分な線空隙率を確保しやすくなる。また、蒸着段数nが多すぎると、蒸着プロセスに要する時間が長くなり、量産性が低下するため、100以下であることが好ましい。
本実施形態における電極の構成は図1に示す構成に限定されない。図1に示す例では、各活物質体14は集電体11の表面に対して略直立した柱状であるが、活物質体を形成するための蒸着段数が小さい(例えば20段以下)場合などには、上述したように、各活物質体は、成長方向Sに対応したジグザグ形状を有することもある。以下、図面を参照して、このような構成の一例を説明する。
図12は、各活物質体がジグザグ形状を有する場合の本実施形態の電極の構成を例示する模式的な断面図である。簡単のため、図1と同様の構成要素には同じ参照符号を付し、説明を省略する。
図12に示す電極300は,集電体11の凸部12上にそれぞれ形成された複数の活物質体240を有している。各活物質体240は、集電体11の法線方向Dに対して傾斜した成長方向Sを有する複数の活物質部分、ここでは第1部分240a〜第7部分240gが積層された構造を有している。各活物質部分(例えば第2部分240b)の成長方向Sと、その下に位置する活物質部分(例えば第1部分240a)の成長方向Sとは、法線方向Dに対して互いに反対側に傾斜している。これらの活物質体240は活物質層を構成しており、その活物質層の線空隙率は5%以上である。
電極300における活物質層は、図3に示す蒸着装置40を用い、図4を参照しながら前述した方法と同様の方法で、第1段目の蒸着工程から第7段目の蒸着工程までの7段の蒸着工程を行うことによって形成できる。
本実施形態で使用する蒸着装置の構成は、図3に示す構成に限定されない。図3に示す蒸着装置40は、簡単のため、所定のサイズに切り取った集電体を固定し、その片面のみに活物質を蒸着させる構成を有しているが、典型的には、集電体の両面に活物質を蒸着できるような構成を有している。生産性を高めるために、シート状の集電体を送出しロールと巻取りロールとの間で走行させながら、走行している集電体表面に活物質層を形成してもよい。さらに、送出しロールと巻取りロールとの間に複数個の成膜ロールをシリーズに配置し、集電体を一方向に移動させながらn段階の蒸着を行うこともできる。また、集電体の片面に活物質層を形成した後、集電体を反転させて集電体の他方の面にも活物質層を形成してもよい。必要に応じて、真空チャンバー内に複数の蒸発源や酸素ノズルを設けてもよい。
次に、図面を参照しながら、本実施形態の電極100を負極とするリチウムイオン二次電池の構成の一例を説明する。
図6は、本実施形態の負極を用いたコイン型のリチウムイオン二次電池を例示する模式的な断面図である。リチウムイオン二次電池70は、正極72と、負極73と、負極73および正極72の間に設けられたセパレータ74とを有する極板群と、極板群を収容する外装ケース75とを備えている。正極72は、正極集電体72aと、正極集電体72aに形成された正極活物質層72bとを有している。負極73は、負極集電体73aと、負極集電体73aに形成された負極活物質層73bとを有している。負極73の構成は、例えば図1(a)および(b)を参照しながら前述したような構成と同様である。負極73および正極72は、セパレータ74を介して、負極活物質層73bと正極活物質層72bとが対向するように配置されている。正極集電体72aおよび負極集電体73aは、それぞれ正極リード76および負極リード77の一端と接続されており、正極リード76および負極リード77の他端は外装ケース75の外部に導出されている。セパレータ74には、リチウムイオン伝導性を有する電解質が含浸されている。負極73、正極72およびセパレータ74は、リチウムイオン伝導性を有する電解質とともに、外装ケース75の内部に収納され、樹脂材料78によって封止されている。
リチウムイオン二次電池70では、正極活物質層72bは、充電時にリチウムイオンを放出し、放電時には、負極活物質層73bが放出したリチウムイオンを吸蔵する。負極活物質層73bは、充電時に、正極活物質が放出したリチウムイオンを吸蔵し、放電時には、リチウムイオンを放出する。
本実施形態では、リチウムイオン二次電池70における負極72以外の構成要素は特に限定されない。例えば、正極活物質層73bには、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)などのリチウム含有遷移金属酸化物を用いることができるが、これに限定されない。また、正極活物質層73bは、正極活物質のみで構成してもよいし、正極活物質と結着剤と導電剤とを含む合剤で構成してもよい。また、正極活物質層73bは、負極活物質層72bのように、複数の活物質体から構成されていてもよい。なお、正極集電体73aには、Al、Al合金、Tiなどの金属を用いることが好ましい。
リチウムイオン伝導性の電解質には、様々なリチウムイオン伝導性の固体電解質や非水電解液が用いられる。非水電解液には、非水溶媒にリチウム塩を溶解したものが好ましく用いられる。非水電解液の組成は特に限定されない。セパレータや外装ケースも特に限定されず、様々な形態のリチウム二次電池に用いられている材料を、特に限定なく用いることができる。なお、セパレータの代わりに、リチウムイオン伝導性を有する固体電解質を用いてもよいし、そのような固体電解質を含むゲル電解質を用いてもよい。
本発明の積層型電池は、正極と負極とが3層以上に積層された構造を有していてもよい。ただし、全ての正極活物質層が負極活物質層と対向し、かつ、全ての負極活物質層が正極活物質層と対向するように、両面もしくは片面に正極活物質層を有する正極と、両面もしくは片面に負極活物質層を有する負極とを用いることが好ましい。複数の負極活物質層を有する場合には、活物質体の傾斜状態(成長方向、蒸着段数n、各蒸着工程によって得られた部分の成長方向など)は、全ての負極活物質層で同じであってもよいし、負極活物質体層毎に異なっていてもよい。また、同一の負極活物質層内に、傾斜状態の異なる活物質体が形成されていてもよい。さらに、負極集電体の両面に負極活物質層が形成されている場合、それぞれの面の負極活物質層における活物資体の傾斜状態は同じでもよいし、異なっていてもよい。
なお、図6では積層型電池の一例を示したが、本発明のリチウム二次電池は、捲回型の極板群を有する円筒型電池や角型電池などであってもよい。図7は、本実施形態の電極を用いた円筒型電池の概略断面図である。
円筒型電池80は、円筒型の電極群84と、これを収容する電池缶88とを有する。電極群84は、帯状の正極板81と帯状の負極板82とを、それらの間に配置された幅広のセパレータ83とともに捲回することによって得られる。電極群84には、リチウムイオンを伝導する電解質(図示せず)が含浸されている。電池缶88の開口は、正極端子85を有する封口板89で塞がれている。正極板81には、アルミニウム製の正極リード81aの一方の端が接続されており、他方の端は封口板89の裏面に接続されている。封口板89の周縁には、ポリプロピレン製の絶縁パッキン86が配置されている。負極板82には、銅製の負極リード(図示せず)の一方の端が接続されており、他方の端は電池缶88に接続されている。電極群84の上下には、それぞれ上部絶縁リング(図示せず)および下部絶縁リング87が配置されている。
このように、本発明のリチウム二次電池の各構成要素は、本発明の電極を負極または正極として用いる以外は、特に限定されるものではなく、リチウムイオン電池用の材料として一般的に使用される種々のものを選択することが可能である。
以下、本発明による電極の実施例および比較例を作製し、それらの電極を用いたサンプル電池を評価する2種類の実験を行った。それぞれの実験方法および結果を、《実施例および比較例−1》および《実施例および比較例−2》として説明する。
《実施例および比較例−1》
ここでは、実施例として電極1〜電極11、比較例として電極C1を作製し、それぞれの活物質層における最小線空隙率の測定、および定電流充電による電極の変形(伸び率)の評価を行った。さらに、電極8および電極10を用いサンプル電池a、bを作製し、充放電サイクル試験を行ったので、その方法および結果を説明する。
(i)電極の作製方法
(i−1)電極1
<集電体の作製>
まず、電極1で用いた集電体の作製方法を説明する。図8(a)〜(c)は、本実施例における集電体の作製方法を説明するための断面工程図である。
図8(a)に示すように、厚さが27μmの銅箔(HCL−02Z、日立電線株式会社製)の両面に対して電解メッキ法により粗化処理を行い、1μmの粒径を有する銅粒子を形成した。これにより、表面粗さRzが1.5μmの粗化銅箔93を得た。なお、表面粗さRzは日本工業規格(JISB 0601―1994)に定められた十点平均粗さRzを指す。なお、代わりに、プリント配線基板用に市販されている粗面化銅箔を用いてもよい。
次いで、図8(b)に示すように、セラミックローラー90にレーザー彫刻を用いて複数の溝(凹部)91を形成した。複数の溝91は、セラミックローラー90の法線方向から見て菱形とした。菱形の対角線の長さを10μmおよび20μm、隣接する凹部91の短い方の対角線に沿った間隔を18μm、長い方の対角線に沿った間隔を20μmとした。また、各凹部91の深さは10μmとした。このセラミックローラー90と、これに対向するように配置された他のローラー(図示せず)との間に、銅箔93を線圧1t/cmで通過させることにより、圧延処理を行った。
このようにして、図8(c)に示すように、表面に複数の凸部92を有する集電体を得た。このとき、ローラー間を通過した銅箔93のうち、セラミックローラー90の凹部91以外の部分でプレスされた領域は、図示するように平坦化された。一方、銅箔93のうち凹部91に対応する領域は、平坦化されずに凹部91に入り込み、凸部92が形成された。凸部92の高さは、セラミックローラー90の凹部91の深さより小さく、約6μmであった。
図9は、図8(c)に示す集電体の平面図である。図示するように、集電体の凸部92の形状や配列は、セラミックローラー90に形成された凹部91に対応している。凸部92の上面は略菱形となり、その対角線の長さa、bは、それぞれ、約10μmおよび約20μmであった。また、隣接する凸部92の対角線aに沿った間隔eは18μm、対角線bに沿った間隔dは20μmであった。さらに、凸部92の合計面積A1と凹部91の合計面積A2との和に対する凸部92の合計面積A1の割合(A1/(A1+A2))を求めると、18%であった。
<活物質層の形成>
上記方法で得られた集電体を、図3に示す真空チャンバー41の内部に配置された固定台43に設置し、純度99.7%の酸素ガスを真空チャンバー41に供給しながら、蒸着ユニット(蒸発源、坩堝、電子ビーム発生装置をユニット化したもの)を用いてケイ素を蒸発源とするEB蒸着を行った。このとき、真空チャンバー41の内部は、圧力が3.5Paの酸素雰囲気とした。また、蒸発源のケイ素を蒸発させるために、電子ビーム発生装置により発生させた電子ビームを偏向ヨークにより偏向させて蒸発源に照射させた。蒸発源には、半導体ウェハを形成する際に生じる端材(スクラップシリコン、純度:99.999%)を用いた。
蒸着にあたり、蒸着角度ωが75°となるように固定台43を傾斜させ、この状態で第1段目の蒸着工程を行い、活物質体の1段目の部分(第1部分)を形成した。第1部分の成膜速度を約8nm/sとし、酸素流量を30sccmとし、第1部分の高さを0.4μmとした。続いて、固定台43を中心軸のまわりに時計回りに回転させ、上記第1段目の蒸着工程における固定台43の傾斜方向と反対の方向に傾斜させて、蒸着角度ωを−75°とした。この状態で、酸素流量を25sccmとして蒸着を行い、第2部分を形成した(第2段目の蒸着工程)。この後、固定台43の傾斜方向を再び第1段目の蒸着工程と同じ方向に変えて、蒸着角度ωを75°、酸素流量を20sccmとして同様の蒸着を行った(第3段目の蒸着工程)。このようにして、蒸着角度ωを75°および−75°の間で交互に切り換えて、第7段目まで酸素流量、15sccm、10sccm、5sccm、1sccmと段階的に減少させて成膜した後、第8段目から第35段目までは酸素導入を行わずに蒸着を行い、高さが14μmの活物質体を形成し、活物質層(高さ:14μm)を得た。活物質層におけるケイ素量に対する酸素量のモル比xの平均値は0.4であった。
この後、固定台43から集電体を取り外し、活物質層が形成された表面と反対側の面(裏面)が上になるように、再び固定台43に設置した。集電体の裏面に対して、上記と同様の方法で35段の蒸着工程を行い、活物質層(厚さ:14μm)を形成した。このようにして、両面に活物質層が形成された電極が得られた。得られた電極を「電極1」とした。
電極1の引っ張り強度を引っ張り試験機を用いて測定すると、10.1N/mmであった。また、この測定値から、活物質層の厚さ1μmあたりの引っ張り強度を算出すると、0.72N/mmであった。
(i−2)電極2
電極1と同様の集電体を用い、蒸着角度ωを70°および−70°の間で交互に切り換える点以外は、電極1と同様の方法で活物質層を形成した。得られた電極を「電極2」とした。
(i−3)電極3
電極1と同様の集電体を用い、蒸着角度ωを60°および−60°の間で交互に切り換える点以外は、電極1と同様の方法で活物質層を形成した。得られた電極を「電極3」とした。
(i−4)電極4
電極1と同様の集電体に対して、真空中、350℃で3分間の熱処理を行い、引っ張り強度を低下させた後、電極1と同様の方法で、集電体の両面に、それぞれ、活物質層(厚さ:14μm)の形成を行った。得られた電極を「電極4」とした。電極4の引っ張り強度は8.2N/mm、活物質層の厚さ1μmあたりの引っ張り強度は0.59N/mmであった。
(i−5)電極5
蒸着角度ωを60°および−60°の間で交互に切り換える点以外は、電極4と同様の方法で集電体に対する熱処理および活物質層の形成を行った。得られた電極を「電極5」とした。
(i−6)電極6
電極1で前述した方法と同様の方法で作製した集電体に対して、真空中、400℃で3分間の熱処理を行い、引っ張り強度を低下させた後、電極1と同様の方法で活物質層の形成を行った。得られた電極を「電極6」とした。電極6の引っ張り強度は6.2N/mm、活物質層の厚さ1μmあたりの引っ張り強度は0.44N/mmであった。
(i−7)電極7
蒸着角度ωを60°および−60°の間で交互に切り換える点以外は、電極6と同様の方法で集電体に対する熱処理および活物質層の形成を行った。得られた電極を「電極7」とした。
(i−8)電極8
蒸着角度ωを65°および−65°の間で交互に切り換える点および蒸着段数を7回(n=7)とした点及び酸素導入を5sccmで一定にした以外は、電極6と同様の方法で集電体に対する熱処理および活物質層の形成を行った。活物質層におけるケイ素量に対する酸素量のモル比xは、活物質層中ほぼ一定となり、その平均値は0.4であった。ただし、集電体の表面および裏面にそれぞれ形成された活物質層の厚さが何れも電極1の活物質層の厚さと同じ(14μm)となるように、各部分の高さを2.0μmとした。得られた電極を「電極8」とした。
(i−9)電極9
蒸着角度ωを55°および−55°の間で交互に切り換える点以外は、電極1と同様の方法で活物質層の形成を行った。活物質層におけるケイ素量に対する酸素量のモル比xは、活物質層中ほぼ一定となり、その平均値は0.4であった。得られた電極を「電極9」とした。
(i−10)電極10
蒸着角度ωを55°および−55°の間で交互に切り換える点以外は、電極6と同様の方法で集電体に対する熱処理および活物質層の形成を行った。得られた電極を「電極10」とした。
(i−11)電極11
電極1で前述した方法と同様の方法で作製した集電体に対して、真空中、370℃で3分間の熱処理を行い、引っ張り強度を低下させた後、蒸着角度ωを55°および−55°の間で交互に切り換える点および蒸着段数を7回(n=7)とした点及び酸素導入を5sccmで一定とした以外は、電極1と同様の方法で活物質層の形成を行った。ただし、集電体の表面および裏面にそれぞれ形成された活物質層の厚さが何れも電極1と同じ(14μm)となるように、各部分の高さを2μmとした。得られた電極を「電極11」とした。電極11の引っ張り強度は7.8N/mm、活物質層の厚さ1μmあたりの引っ張り強度は0.56N/mmであった。
(i−C1)電極C1
銅箔に凹凸パターンを形成し、集電体を作製した。凹凸パターンの凸部の合計面積A1と凹部の合計面積A2との和に対する凸部の合計面積A1の割合(A1/(A1+A2))は23%であった。得られた集電体の表面に、蒸着角度ωを60°として、斜め蒸着により、厚さが20μmの活物質層を形成した。他の電極1〜11と異なり、蒸着の際に蒸着方向を切り換えなかった。このため、活物質層は、集電体表面の法線に対して一方向に傾斜した活物質体から構成されていた。このようにして「電極C1」を得た。
(ii)線空隙率の測定
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、上記実施例および比較例の電極の表面を観察し、以下の方法で最小線空隙率を測定した。
図10は電極の表面を模式的に示す図である。図10に示すように、実施例および比較例の電極では、電極の上面において、最も接近している2つの活物質体114の間の最近接距離を含む線110と、これらの活物質体114の中心を結ぶ線とが略一致するため、これらの活物質体の中心間の距離L2に対する最近接距離L1の割合を算出し、10点間の平均値をもって最小線空隙率とした。この図において、「X軸」は、集電体表面に形成された凸部の上面(菱形)における長い方の対角線と平行であり、「Y軸」は、凸部の上面における短い方の対角線と平行である。
測定結果を表1に示す。表1に示す「活物質層の厚さ」は、集電体の表面および裏面にそれぞれ形成された活物質層の平均厚さを指す。なお、上述したように、本実施例および比較例では、各電極において、表面および裏面にそれぞれ形成された活物質層の厚さは互いに等しい。
表1の結果から、実施例の電極1〜11の最小線空隙率は何れも5%より大きいことが確認できた。また、本実施例および比較例では、最小線空隙率は、蒸着段数nが同じなら蒸着角度ωが大きいほど、蒸着角度ωが同じなら蒸着段数nが多いほど増加していた。なお、例えば電極1および電極4では、蒸着段数nおよび蒸着角度ωが同じであるにもかかわらず、線空隙率が3%程度異なっているが、これは測定の誤差範囲内である。
比較例の電極C1の最小線空隙率は5%より小さく、3.2%であった。凸部領域の面積比が比較的大きい集電体を用い、一方向のみからの蒸着(蒸着段数n=1)によって活物質層を形成したため、活物質体間に十分な空隙を確保できなかったからと考えられる。
(iii)伸び率の評価
まず、上記実施例および比較例の各電極を用いて、伸び率評価用の電池サンプルを作製した。
上記実施例および比較例の各電極を電極サイズが15mm角となるように成型し、セパレータを介して、対極(金属リチウム)に対向するように配置して電極群を得た。セパレータとしては、厚さが16μmのポリエチレン製の多孔質膜(旭化成ケミカルズ株式会社製)を用いた。この電極群を、アルミニウムラミネートシートからなる外装ケースに挿入し、さらに、電解液を注入した後、Alラミネートを封口した。電解液には、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを体積比1:1で混合した溶媒に、LiPF6を1.2mol/Lの濃度で溶解した非水電解液を用いた。このようにして、伸び率評価用の電池サンプルを完成させた。
なお、これらの電池サンプルでは、実施例および比較例の各電極が正極となり、金属リチウムが負極となるが、実施例および比較例の各電極を負極とする電池サンプルを作製して定電流充電試験を行っても、以下と同様の結果が得られる。
次に、これらの電池サンプルの定電流充電を行った。定電流充電では、終止電圧を0V(対Li電位)、電流値を0.1mA/cm2とした。電池サンプルの充電容量は何れのサンプルにおいても約6mAh/cm2であった。
定電流充電を行った電池サンプルを分解し、ジメチルカーボネート(DMC)を用いて洗浄した後、乾燥させた。続いて、各電池サンプルにおける充電後(定電流充電後)のX軸およびY軸に沿った電極の長さを測定して、充電後の電極サイズを算出し、充電前の電極サイズ(15mm×15mm)に対する伸び率を求めた。なお、上記のX軸およびY軸は、図10に示すX軸およびY軸と同じである。具体的には、下記式により「伸び率」を求めた。
(充電後のX軸およびY軸に沿った電極の長さの積−充電前のX軸およびY軸に沿った電極の長さの積)/(充電前のX軸およびY軸に沿った電極の長さの積)
伸び率の測定結果を表1に示す。この結果から、最小線空隙率が5%未満(充放電後には6%未満)と小さく、かつ、活物質層の厚さ1μmあたりの集電体の引っ張り強度の小さい比較例の電極C1を用いた場合には、充電による伸び率が12%と高く、電極が著しく変形したことがわかった。これは、空隙率が小さいために活物質体同士の接触によって集電体にかかる応力が大きくなるにもかかわらず、集電体の強度が十分でないからと考えられる。これに対し、最小線空隙率が5%以上であり、かつ、活物質層の厚さ1μmあたりの集電体の引っ張り強度が0.3N/mm以上である実施例の電極1〜11を用いると、充電による伸び率を5%未満に抑えることができることがわかった。また、最小線空隙率が8%以上である実施例の電極1〜8を用いると、充電による伸び率を3%未満に抑えることができ、電極の変形を特に効果的に抑制できることを確認した。
さらに、最小線空隙率が非常に大きいときには(例えば18%以上)、充電しても活物質体同士が接触しにくいため、集電体の引っ張り強度にかかわらず、伸び率はゼロであったが、最小線空隙率が小さくなると(例えば10%以下)、集電体の引っ張り強度が伸び率に与える影響が大きくなった。例えば、電極3および電極8の最小線空隙率は略等しいが、引っ張り強度の大きい集電体を用いた電極3の伸び率(0.8%)は、引っ張り強度の小さい集電体を用いた電極8の最小線空隙率(2.8%)よりも低く抑えられていた。従って、電極の伸び率を確実に抑えるためには、活物質層の最小線空隙率に応じて、集電体の引っ張り強度を適正な範囲に制御することが重要であることがわかった。
(iv)定電流充放電後の線空隙率の測定
電極5、電極9および比較例の電極C1については、上記(iii)と同様の方法で電池サンプルを作製し、以下の方法で、1回の定電流充放電を行った後の線空隙率を測定した。
まず、各電池サンプルに対して、終止電圧:0V(対Li電位)、電流値:0.1mA/cm2の条件で定電流充電を行った。電池サンプルの充電容量は何れのサンプルにおいても約6mAh/cm2であった。続いて、電流値:0.1mA/cm2、終止電圧:1.5V(対Li電位)の条件で放電した。放電後、電池サンプルを分解し、上記(ii)で説明した方法と同様の方法で、各電極の定電流充放電後の最小線空隙率を測定した。
測定結果を表1に示す。この結果から、リチウムを吸蔵させる前の活物質層が十分な線空隙率を有していれば、充放電後(定電流充放電後)の線空隙率を確保でき(例えば6%以上)、電極の変形を抑制できることがわかった。なお、電極5、電極9および電極C1の充放電後の最小線空隙率は、何れも充放電前(リチウム吸蔵前)の最小線空隙率よりも大きくなった。これは、充放電の際に活物質体同士が接触し、各活物質体が圧縮されたためと考えられる。
(v)実電池(円筒型電池)における電極変形の評価
実施例の電極8および電極10と同様の方法で作製した電極をそれぞれ負極とする円筒型電池を作製し、定電流充電試験を行った。円筒型電池は次のようにして作製した。
まず、円筒型電池用正極の作製方法を説明する。正極活物質であるLiCoO2粉末を93重量部と、導電剤であるアセチレンブラックを4重量部とを混合した。得られた粉末に結着剤であるポリフッ化ビニリデン(PVDF)のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)溶液(呉羽化学工業(株)製の品番♯1320)を、PVDFの重量が3重量部となるように混合した。得られた混合物に適量のNMPを加えて、正極合剤用ペーストを調製した。得られた正極合剤用ペーストをアルミニウム(Al)箔からなる正極集電体(厚さ:15μm)の両面にドクターブレード法を用いて塗布した後、圧延して、密度が3.5g/cc、厚さが160μmの正極活物質層を形成した。これを85℃で充分に乾燥させることにより、正極シートを形成した。この正極シートを裁断して、サイズが58mm×890mmの正極を得た。正極集電体表面のうち負極活物質層と対向しない領域の一部で、正極集電体のアルミニウム箔を露出させて、露出させたアルミニウム箔にAl製の正極リードを溶接した。これにより、円筒型電池用正極が得られた。
次いで、電極8および電極10と同様の方法により、それぞれ、サイズが58.5mm×900mmの円筒型電池用負極を得た。
この後、円筒型電池用負極および正極の間に、ポリエチレン製のセパレータを介在させて捲回することにより、電極群を構成した。この電極群を電池缶に挿入し、電解液を注入した後、電池缶を封口した。このようにして、18650サイズの円筒型電池を完成させた。電極8を用いて得られた負極をとする円筒型電池を「電池a」、電極10を負極とする円筒型電池を「電池b」とした。
得られた電池a、bに対して、終止電圧:4.2Vおよび電流値:50時間率で定電流充電を行った後、CT(Computed Tomography)断面観察により、これらの電池a、bの負極の変形を観察した。
図11(a)および(b)は、電池aおよび電池bの負極の断面写真である。この結果から、最小線空隙率:8.1%および満充電時の伸び率:2.8%の電極(負極)を用いた電池aでは、電極の変形が観察されなかったが、最小線空隙率:7.8%および満充電時の伸び率:4.2%の電極(負極)を用いた電池bでは、電極の挫屈が確認され、電極に変形が生じていることがわかった。なお、「電極の挫屈」とは、図11(b)に示すように、電極板が膨張応力によって折れ曲がることをいい、挫屈が生じると、電極の断面が波状になる。
よって、最小線空隙率を8%以上に制御すると、満充電時の伸び率を4%程度以下に抑制でき、充放電の繰り返しによる挫屈などの電極変形をより効果的に抑制できることがわかった。なお、図示しないが、比較例の電極C1を用いて電池を作製して同様の評価試験を行うと、電極C1には、図11(b)に示す負極(電極10)よりも大きな変形が見られた。
《実施例および比較例−2》
ここでは、実施例として電極12〜電極16、比較例として電極C2、C3を作製し、それぞれの活物質層における最小線空隙率の測定および極板強度の評価を行った。さらに、電極12〜電極16および電極C2、C3を負極とするサンプル電池をそれぞれ作製し、充放電による電極の変形の有無を調べたので、その方法および結果を説明する。
(i)電極の作製方法
(i−12)電極12
<集電体の作製>
厚さが18μmの圧延合金銅箔(HCL−305 日立電線(株)製)を80mm×15mmのサイズに裁断し、その片面に、めっき法により、図13に示すように、菱形の上面を有する複数の凸部12を形成した。具体的には、まず、上記銅箔の上にレジストフィルムを露光および現像することにより、銅箔表面のうち凸部12以外の領域(凹部)13となる領域を覆うレジストパターンを形成した。次いで、銅箔表面のうちレジストパターンで覆われていない領域上に、電解法により銅粒子を析出させた。その後、レジストを除去して、高さが5μmの四角柱状の凸部12を得た。各凸部12の上面は、対角線aが10μm、対角線bが30μmの菱形とした。また、対角線aに沿った凸部12の配列ピッチPaを28μm、対角線bに沿った凸部12の配列ピッチPbを64μmとした。さらに、図13に示す上面図において、凸部12の合計面積A1と凹部13の合計面積A2との和に占める凸部12の合計面積A1の割合(A1/(A1+A2))は23%であった。続いて、銅箔のもう一方の面にも、同様の方法で複数の凸部12を形成した。これにより、電極12の集電体が得られた。
<活物質層の形成>
上記方法で得られた集電体を、図3に示す真空チャンバー41の固定台43に設置した。固定台43は、蒸着角度ωが65°となるように(ω=65°)、水平面50に対して傾斜させた。この状態で、酸素ガスを真空チャンバー41に供給しながら、蒸発源からケイ素を蒸発させ、集電体表面の各凸部上にケイ素酸化物を形成した。蒸発源に照射する電子ビームの加速電圧を−8kVとし、エミッション(ビーム電流)を260mAに設定した。また、酸素流量は20sccm、蒸着時間は7.5分間とした。これにより、活物質体の第1部分が形成された(第1段目の蒸着工程)。
続いて、固定台43を中心軸の周りに時計回りに回転させ、上記第一段目の蒸着工程における固定台43の傾斜方向の反対の方向に傾斜させて、蒸着角度ωを−65°とし、活物質体の第2部分を形成した(第2段目の蒸着工程)。
この後、蒸着角度ωを65°および−65°の間で交互に切り替えて、活物質体の第7部分まで形成し、7層からなる柱状の活物質体を含む活物質層を得た。
次いで、固定台43から集電体を取り外し、活物質層が形成された表面と反対側の面(裏面)が上になるように、再び固定台43に設置した。集電体の裏面に対して、上記と同様の方法で蒸着工程を行い、7層からなる活物質層を形成した。このようにして、両面に活物質層が形成された電極12が得られた。
電極12の集電体の表面および裏面に形成された活物質層の厚さは、何れも、20μmであった。得られた活物質層に含まれる酸素量を燃焼法により定量した結果、活物質層におけるケイ素量に対する酸素量のモル比xの平均値は0.6であり、シリコンと酸素とを含む化合物の組成はSiO0.6であることがわかった。
さらに、電極12の引っ張り強度(極板強度)は14.0N/mmであり、この値から活物質層の厚さ1μmあたりの引っ張り強度を求めると、0.70N/mmであった。
(i−13)電極13
集電体の表面に活物質層を形成する前に、集電体に対して不活性雰囲気下400℃で1時間の熱処理を行って集電体の引っ張り強度を低下させた点以外は、電極12と同様の方法および条件で電極13を作製した。
電極13の引っ張り強度は10.4N/mmであった。また、この値から活物質層の厚さ1μmあたりの引っ張り強度を求めると、0.52N/mmであった。
(i−14)電極14
電極14の作製は、集電体の両面に、それぞれ、第1段目〜第5段目までの蒸着工程を行って第1〜第5部分からなる活物質体(積層数:5層)を形成した点、および、各段の蒸着時間を10.5分とした点以外は、電極13と同様の方法および条件で行った。
電極14の集電体の表面および裏面に形成された活物質層の厚さは、何れも、20μmであった。得られた活物質層に含まれる酸素量を燃焼法により定量した結果、シリコンと酸素とを含む化合物の組成はSiO0.6であった。また、電極14の引っ張り強度は、電極13と同様に10.4N/mmであり、活物質層の厚さ1μmあたりの引っ張り強度を求めると、0.52N/mmであった。
(i−15)電極15
<集電体の作製>
厚さが26μmの圧延合金銅箔(HCL−02Z、日立電線株式会社製)の両面に対して電解メッキ法により粗化処理を行い、1μmの粒径を有する銅粒子を形成した。これにより、表面粗さRzが1.5μmの粗化銅箔を得た。なお、表面粗さRzは日本工業規格(JISB 0601―1994)に定められた十点平均粗さを指す。
次いで、図14(a)および(b)に示すように、セラッミックローラー280にレーザー彫刻を用いて複数の溝(凹部)281を形成した。図14(a)は、セラミックローラー280の斜視図、図14(b)は、セラミックローラー280の表面形状を示す模式的な拡大平面図である。
複数の凹部281は、セラミックローラー280の表面の法線方向から見て菱形とした。菱形の対角線a’の長さを12μm、対角線b’の長さを23μm、隣接する凹部281の対角線a’に沿った間隔e’を18μm、対角線b’に沿った間隔d’を23μmとした。また、各凹部281の深さは10μmとした。
次いで、このセラミックローラー280と、これに対向するように配置された他のローラー(図示せず)との間に、上記の粗化処理を施した銅箔(粗化銅箔)を線圧1.2t/cmで通過させることにより、圧延処理を行った。これにより、粗化銅箔に、上述した凹部281に対応する形状を有する複数の凸部が形成され、粗化銅箔のうち凸部が形成されなかった領域は凹部となった。
上記方法で形成された各凸部の高さは6μm、各凸部の上面は、対角線aが11μm、対角線bが22μmの菱形であった。また、対角線aに沿った配列ピッチPaは30μmであり、対角線bに沿った配列ピッチPbは46μmであった。この銅箔を350℃で3分熱処理し、電極15の集電体を得た。集電体の表面の法線方向から見て、凸部の合計面積A1と凹部の合計面積A2との和に対する凸部の合計面積A1の割合(A1/(A1+A2))は19%であった。
<活物質層の形成>
上記方法で得られた集電体の両面に、それぞれ、電極12と同様の方法および条件で、複数の柱状の活物質体(積層数:7層)を含む活物質層を形成し、電極15を得た。
電極15の集電体の表面および裏面に形成された活物質層の厚さは、何れも、20μmであった。得られた活物質層に含まれる酸素量を燃焼法により定量した結果、シリコンと酸素とを含む化合物の組成はSiO0.6であった。また、電極15の引っ張り強度は8.0N/mmであり、活物質層の厚さ1μmあたりの引っ張り強度を求めると、0.40N/mmであった。
(i−16)電極16
<集電体の作製>
電極15で用いた粗化銅箔を用い、図14(a)および(b)を参照しながら前述した方法と同様の方法で圧延処理により集電体を作製した。ただし、セラミックローラー280に代わって、レーザー彫刻によって凹部281が形成された超硬ロールを用いた。各凹部281は、超硬ローラーの表面の法線方向から見て菱形とした。また、菱形の対角線a’および対角線b’の長さを12μmおよび20μm、隣接する凹部281の対角線a’に沿った間隔e‘を18μm、対角線b’に沿った間隔d’を26μmとした。また、各凹部281の深さは10μmとした。
次いで、上記超硬ローラーと、これに対向するように配置された他のローラー(図示せず)との間に、上記の粗化銅箔を線圧1.0t/cmで通過させることにより、圧延処理を行った。これにより、粗化銅箔に、上述した凹部281に対応する形状を有する複数の凸部が形成され、粗化銅箔のうち凸部が形成されなかった領域は凹部となった。このようにして、電極16の集電体を得た。
上記方法で形成された各凸部の高さは6μm、各凸部の上面は、対角線aが11μm、対角線bが19μmの菱形であった。また、対角線aに沿った配列ピッチPaは29μm、対角線bに沿った配列ピッチPbは46μmであった。さらに、集電体表面の法線方向から見て、凸部の合計面積A1と凹部の合計面積A2との和に対する凸部の合計面積A1の割合(A1/(A1+A2))は17%であった。
<活物質層の形成>
上記方法で得られた集電体の表面に、図3に示す蒸着装置40を用いて活物質層を形成した。まず、集電体を真空チャンバー41の固定台43に設置した。固定台43は、蒸着角度ωが65°となるように(ω=65°)、水平面50に対して傾斜させた。この状態で、酸素ガスを真空チャンバー41に供給しながら、蒸発源からケイ素を蒸発させ、集電体表面の各凸部上にケイ素酸化物を形成した。蒸発源に照射する電子ビームの加速電圧を−8kVとし、エミッションを260mAに設定した。また、酸素流量は30sccm、蒸着時間は1分間とした。これにより、活物質体の第1部分が形成された(第1段目の蒸着工程)。
続いて、固定台43を中心軸の周りに時計回りに回転させ、上記第一段目の蒸着工程における固定台43の傾斜方向の反対の方向に傾斜させて、蒸着角ωを−65°とし、活物質体の第2部分を形成した(第2段目の蒸着工程)。
この後、蒸着角度ωを65°および−65°の間で交互に切り替えて、活物質体の第7部分まで形成した。
続いて、酸素流量を0とし、蒸着角度ωを65°および−65°の間で交互に切り替えて、活物質体の第8部分〜第35部分まで形成した。これにより、35層からなる柱状の活物質体を含む活物質層を得た。なお、第1〜第35段目の蒸着工程における蒸着時間は全て1分間とした。
次いで、固定台43から集電体を取り外し、活物質層が形成された表面と反対側の面(裏面)が上になるように、再び固定台43に設置した。集電体の裏面に対して、上記と同様の方法で蒸着工程を行い、35層からなる活物質層を形成した。このようにして、両面に活物質層が形成された電極16が得られた。
電極16の集電体の表面および裏面に形成された活物質層の厚さは、何れも、14μmであった。得られた活物質層に含まれる酸素量を燃焼法により定量した結果、シリコンと酸素とを含む化合物の組成はSiO0.3であった。また、電極16の引っ張り強度は10.1N/mmであり、活物質層の厚さ1μmあたりの引っ張り強度を求めると、0.72N/mmであった。
(i−C2)電極C2
電極C2では、集電体として、厚さが18μmの電解銅箔上に、電解めっきにより両面粗化処理を施された粗面化銅箔(厚さ:27μm Ra=1.5μm 古河サーキットフォイル)を用いた。
活物質層の形成は、図3に示す蒸着装置40を用いて行った。まず、上記集電体を固定台43に設置し、固定台43を、水平面50と0°の角度をなすように水平に固定した。従って、ケイ素原子の蒸着方向と集電体の法線方向Dとのなす角度(蒸着角度ω)は0°となった。
この状態で、酸素ガスを真空チャンバー41に供給しながら、蒸発源からケイ素を蒸発させ、集電体表面の各凸部上にケイ素酸化物からなる活物質層を形成した。蒸発源に照射する電子ビームの加速電圧を−8kVとし、エミッションを260mAに設定した。また、酸素流量は20sccmとした。
次いで、固定台43から集電体を取り外し、活物質層が形成された表面と反対側の面(裏面)が上になるように、再び固定台43に設置した。集電体の裏面に対して、上記と同様の方法で蒸着工程を行って活物質層を形成した。このようにして、両面に活物質層が形成された電極C2を得た。
電極C2の集電体の表面および裏面に形成された活物質層の厚さは、何れも、12μmであった。得られた活物質層に含まれる酸素量を燃焼法により定量した結果、シリコンと酸素とを含む化合物の組成はSiO0.6であった。また、引っ張り強度は5.4N/mmであり、活物質層の厚さ1μmあたりの引っ張り強度を求めると、0.45N/mmであった。
(i−C3)電極C3
活物質層を形成する前に、集電体を不活性雰囲気下で600℃の温度で、1時間の熱処理を行ったこと、および、蒸着角度ωを55°および−55°の間で交互に切り替えて活物質体(積層数:7)を形成したこと以外は、電極12と同様の方法および条件で電極C3を作製した。
電極C3の集電体の表面および裏面に形成された活物質層の厚さは、何れも、20μmであった。得られた活物質層に含まれる化合物の組成はSiO0.6であった。また、電極C3の引っ張り強度は5.4N/mmであり、活物質層の厚さ1μmあたりの引っ張り強度を求めると、0.27N/mmであった。
(ii)線空隙率の測定
続いて、実施例の電極12〜16および比較例の電極C2、C3の線空隙率の測定を行った。測定方法は、図10を参照しながら前述した方法と同様とした。測定結果を表2に示す。
(iii)電極C3の伸び率の測定
前述の実施例(電極1〜11)と同様の方法で、電極C3の伸び率を測定したところ、9.6%であった。電極C3の最小線空隙率は6.6%であり、例えば表1に示す電極11の最小線空隙率と同程度であるが、電極C3の伸び率は、電極11の伸び率(4.8%)の2倍である。これは、電極C3では、活物質層の厚さ1μmあたりの集電体の引っ張り強度が0.27N/mmと小さいために、活物質の膨張応力により電極の変形が生じてしまうからと考えられる。この結果から、電極の変形を抑制するためには、活物質層に十分な空隙を確保するだけでなく、活物質層の厚さ1μmあたりの集電体の引っ張り強度を制御する必要があることが確認された。
(iv)サンプル電池における電極変形の評価
実施例の電極12〜16および比較例の電極C2、C3をそれぞれ負極とするサンプル電池を作製し、定電流充放電試験を行ったので、その方法および結果を説明する。
<サンプル電池の作製>
まず、正極活物質である平均粒径10μmのコバルト酸リチウム(LiCoO2)粉末を10gと、導電剤であるアセチレンブラックを0.3gと、結着剤であるポリフッ化ビニリデン粉末を0.8gと、適量のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)とを充分に混合して、正極合剤ペーストを調製した。
次いで、得られた正極合剤ペーストを厚さが20μmのアルミニウム箔からなる正極集電体の片面に塗布した。この後、正極合剤ペーストを乾燥させ、圧延して、正極活物質層を形成した。このようにして得られた正極シートを、所定形状に切断して正極を得た。集電体の片面に担持された正極活物質層の厚さは70μmであり、そのサイズは14.5mm×14.5mmであった。集電体の正極活物質層を有さない側の面には、アルミニウムからなる正極リードを接続した。
一方、上記実施例および比較例の各電極を、電極サイズが15mm角となるように成型して電池用負極を作製した。この後、電池用負極を、セパレータを介して上記正極に対向するように配置して電極群を得た。セパレータとしては、厚さが16μmのポリエチレン製の多孔質膜(旭化成ケミカルズ株式会社製)を用いた。この電極群を、アルミニウムラミネートシートからなる外装ケースに挿入し、さらに、電解液を注入した後、Alラミネートを封口した。電解液には、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを体積比1:1で混合した溶媒に、LiPF6を1.2mol/Lの濃度で溶解した非水電解液を用いた。このようにして、電池サンプルが得られた。
<サンプル電極の定電流充放電および評価>
次に、これらの電池サンプルの定電流充電を行った。定電流充電では、終止電圧を4.2V、電流値を0.5mA/cm2とした。電池サンプルの充電容量はいずれのサンプルにおいても約6mAh/cm2であった。
定電流充放電を行った後、各電池サンプルを分解し、電池用負極を観察して、皺や変形の有無を確認した。
観察結果を、各電極の構成および線空隙率の測定結果とともに表2に示す。表2に示す「活物質層の厚さ」は、集電体の表面および裏面にそれぞれ形成された活物質層の平均厚さを指す。なお、上述したように、本実施例および比較例では、表面および裏面にそれぞれ形成された活物質層の厚さは互いに等しい。
また、サンプル電池の定電流充放電後の電極C2、電極C3および電極13の表面状態を、それぞれ、図15(a)〜(c)に示す。
図15(a)および表2からわかるように、電極C2では、活物質層の厚さ1μmあたりの集電体の引っ張り強度が十分確保できているにもかかわらず、充放電により極板が大きく変形していた。これは、電極C2の活物質層がいわゆるベタ膜であり、活物質の膨張応力を緩和するための空間を活物質層内に確保できなかったからと考えられる。
また、図15(b)および表2からわかるように、電極C3は、電極C2と略同等の引っ張り強度を有する集電体を用いているが、充放電によって電極C2ほど変形しなかった。これは、電極C3の活物質層が複数の活物質体を含んでおり、隣接する活物質間に活物質応力を緩和するための空間を有するからと考えられる。しかしながら、電極C3でも、極板表面の略全体にしわが観察された。電極C3の活物質層の線空隙率は5%以上であるが、活物質層の厚さ1μmあたりの集電体の引っ張り強度が0.3N/mm未満と小さいので、活物質体の膨張応力が集電体にかかってしわが発生したと考えられる。
これに対し、図15(c)からわかるように、電極13では、しわ等の極板変形が観察されなかった。図示しないが、電極12、14〜16でも、しわの発生が観察されなかった。これらの電極では、活物質層の線空隙率が十分に大きいので、充放電に伴う活物質の膨張応力を緩和でき、その結果、しわなどの電極の変形を抑えることができたと考えられる。また、活物質層の厚さ1μmあたりの集電体の引っ張り強度が十分に大きく、膨張応力による電極の変形をより効果的に抑制できたと考えられる。
表1および表2に示す結果から、集電体の作製方法や厚さ、活物質層の形成方法や積層数などにかかわらず、活物質層の線空隙率を制御するとともに、活物質層の厚さ1μmあたりの集電体の引っ張り強度を十分に大きくすることにより、充放電による電極の変形を抑制できることがわかった。