JP4345213B2 - 高Si含有溶鋼のAl濃度調整方法 - Google Patents

高Si含有溶鋼のAl濃度調整方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高Si含有溶鋼のAl濃度調整方法に係わり、詳しくは、方向性電磁鋼板の基になる高Si含有溶鋼を溶製するに際して、含有させるAlを狭い濃度範囲に的中させる技術である。
【0002】
【従来の技術】
変圧器や発電機の鉄心材料として使用される高Si(通常、1重量%以上)の方向性電磁鋼板は、最も重要な特性として、高磁束密度、且つ低鉄損であることを要求される。そのためには、該方向性電磁鋼板の製造時に、結晶方位をゴス方位と呼ばれる状態にする必要がある。つまり、{100}面を<001>方位に高度に集積させるのである。
【0003】
このような二次再結晶の集積を促進させるためには、一次再結晶の成長を選択的に抑制するインヒビターと呼ばれる析出分散相を、鋼中に均一且つ適正なサイズで形成させるのが一般的である。このインヒビターの一つにAlNがある。AlNを前記インヒビターとして働かせるには、溶鋼段階で鋼中のAl及びN濃度をある範囲内に調整する必要がある。その範囲をわずかでもはずれると、これらの元素は有害元素としてふるまい、前記特性が劣化することになるからである。
【0004】
現在、この高Si含有溶鋼は、転炉出鋼後の該溶鋼をRH真空脱ガス槽を用いて減圧下でAl源を投入して、Al濃度の調整を行なっている。
【0005】
例えば、特開平8−120320号公報は、「二次精錬で溶鋼へキャリア・ガスを用いたインジェクションでAlを添加するにあたり、下記式に従いAl添加量を求める」技術を提案している。
【0006】
Al投入量=(Al2−Al1−AlL1)×M/CAl
Al2=Al3−AlL2
ただし、Al1:インジェクション前実績値
Al2:インジェクション処理後ねらい値
Al3:成品中心値
AlL1:インジェクション処理中Alロス量
AlL2:インジェクション処理から連続鋳造工程でのAlロス量
M:溶鋼量
Al:合金鉄中のAl品位
しかしながら、Alは非常に酸化し易い元素であり、他の溶製条件の変化で酸化物としてスラグに容易に移行してしまい、上記技術を利用しても、溶鋼のAlを狭い濃度範囲に精度良く安定して調整することが非常に難しい状況にあった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、かかる事情に鑑み、溶鋼が高Siであっても、Al濃度を非常に狭い範囲に調整可能な高Si含有溶鋼のAl濃度調整方法を提供することを目的としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】
発明者は、上記目的を達成するため鋭意研究し、その成果を本発明に具現化した。
【0009】
すなわち、本発明は、取鍋に保持した高Si含有溶鋼を、RH真空脱ガス槽でAl源を添加して処理し、Al濃度を調整するに際して、脱ガス処理前に予め取鍋内スラグのFeO及びAl23濃度を分析し、その分析値から下記式に基づきAl源の添加歩留りを予測し、その予測した歩留りからAl源の添加量を定めると共に、該添加量のAl源を脱ガス処理で溶鋼中のSiO2の浮上を図る浮上処理期間の経過後に前記溶鋼中に添加することを特徴とする高Si含有溶鋼のAl濃度調整方法である。
Al歩留り(%)=a×((FeO)/2.1)−(Al23))+b
ここで,(FeO):取鍋内スラグのFeO濃度(質量%)
(Al23):取鍋内スラグのAl23濃度(質量%)
a,b:鋼種、設備等で決まる定数
その際、前記SiO2の浮上処理期間は、脱ガス処理開始から取鍋内の全溶鋼が脱ガス槽との間で1回環流するに要する時間の7倍以上であることが好ましい。また、前記Al源を、金属アルミニウムとするのが良い。
【0010】
本発明によれば、Alの添加歩留りを予測してその添加量を定めると共に、溶鋼中に存在するSiO2がほとんどスラグに移行してから、Al源を溶鋼に添加するようにしたので、SiO2やスラグ中のFeO及びAl23に邪魔されることなく溶鋼中へのAlが溶解するようになる。すなわち、これら成分によるAlの酸化を防止した状態で、Alの添加ができるようになる。その結果、従来に比べて、溶鋼のAl濃度が目標値から狭い範囲に歩留まるようになる。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、発明をなすに至った経緯を交え、本発明の実施の形態を説明する。
【0012】
まず、RH真空脱ガス槽を用いた従来の溶鋼中Al濃度の調整方法を説明する。
【0013】
RH真空脱ガス槽1は、図2に示すように、2本の浸漬管2を介して溶鋼3を吸い上げたり、降下させて、取鍋4内の溶鋼3を脱ガス槽1と取鍋4間で環流(循環)し、減圧した雰囲気にある溶鋼3から脱ガスする作用をする。その際、溶鋼3の脱炭も行なったり、あるいは各種成分源5を添加し、溶鋼3の成分調整も行なわれる。
【0014】
高Si溶鋼のAl濃度を調整する場合にも、従来よりこのRH真空脱ガス槽1が用いられており、転炉内及び/又は出鋼中に添加されるSi源、脱ガス処理中に添加されるAl源の順で、溶鋼3に添加されている。ところが、前記したように、高Si含有鋼の場合には、Al濃度の狭幅な(高精度な)調整を難しくするという問題が生じていた。つまり、方向性電磁鋼板用の溶鋼3とするには、目標Al濃度に対して、±10ppmの精度で調整するのが理想であるが、それが達成できていなかった。
【0015】
そこで、発明者は、その原因について鋭意研究を行ない、まず、転炉内又は出鋼中に大量に添加されたSiがSiO2として溶鋼3中に存在し、これがAlを酸化する酸素源となってAlの添加歩留りを不安定にし、Al濃度の狭幅な調整を難しくするという結論を得た。そして、Al歩留りが不安定になる原因が溶鋼3中に大量に存在する珪素介在物であるなら、この介在物を浮上させた後にAlを添加すれば、Al歩留りは安定すると考え、真空脱ガス処理中におけるSiO2浮上のための浮上処理期間経過後にAl源を添加するのが良いと考えた。また、このSiO2浮上のための浮上処理期間は、溶鋼中に懸濁しているSiO2を分析することで求められる。つまり、脱ガス処理中の溶鋼サンプリングを行なってSi濃度が一定の値に安定した時、浮上処理が完了したとみることができ、この間をSiO2浮上のための浮上処理期間とするのである。この浮上処理期間は、使用している脱ガス装置の大きさや能力別処理溶鋼量毎に予め調査しておくことでも、設定することができる。また、SiO2浮上に要する浮上処理の時間から設定することもできる。発明者らは、このSiO2浮上に要する浮上処理の時間を調査した。
【0016】
その調査は、溶鋼3の環流量Qを表わす下記(2)式を用いて、取鍋内の溶鋼3の全量が脱ガス槽との間で一回の還流をするに要する時間Hを(1)式で求め、環流回数(環流時間の何倍の時間であるか)と溶鋼中のSi濃度との関係を求めることで行なわれた。得られた結果を図3に示す。なお、図3で、[Si%]は各時間での溶鋼のSi濃度であり、[Si%]fは処理後の値である。
【0017】
H=W/Q ……(1)
Q=(11.4G1/34/3(lnP1/P21/3)……(2)
ここで、H:全溶鋼が一回の環流に要する時間(分)
Q:環流量(トン/分)
W:処理溶鋼の全量(トン)
G:環流ガス量(リットル(標準状態)/分)
D:浸漬管の内径(メートル)
1:大気圧力(Pa)
2:槽内圧力(Pa)
SiO2介在物もSiとして分析されるため、図3より、脱ガス処理の開始から溶鋼を7回還流((7×H)分後)すれば、溶鋼3中のSi濃度に変化がなくなる。このことは、、溶鋼3中のSiO2がほぼ全量浮上し、スラグ7にトラップされたことを意味している。
【0018】
従って、発明者は、溶鋼が7回環流した状態になってからAl源を溶鋼に添加すれば、溶鋼のAl濃度は目標値から大きく変動することはないと考え、この考えを本発明の1つの要件としたのである。
【0019】
一方、従来より、Al歩留りへ影響を及ぼす要因は、スラグの酸化度(酸素含有量の多さ)にあると考えられていた。スラグが含有するFeO量(以下、FeO濃度という)と溶鋼へのAl添加歩留りがおおよそ比例関係にあったからである。そのため、溶鋼へ添加するAl源の量は、スラグ中のFeO濃度と強い相関関係のある転炉出鋼時の溶鋼中酸素濃度を測定して、スラグ中のFeO濃度を求め、その値からAl添加歩留りを予測して定められていた。しかしながら、スラグ中のFeO濃度とAl添加歩留りとの関係は、前記したように精度が今一歩満足できるものでなく、もっと精度の良い別の指標が望まれれていた。
【0020】
そこで、発明者は、この指標を見出すため、過去の操業データを鋭意解析し、Al添加歩留りには、スラグ中のAl23濃度も影響していることを見出した。つまり、過去の操業データの解析過程で、スラグのFeO濃度及びAl23濃度を用いて、(FeO)/2.1)−(Al23)なる指標を作成し、Al歩留りとの関係を整理したところ、下記(3)式で示すように、高精度で負の相関関係が得られたのである。
Al歩留り(%)=a×((FeO)/2.1)−(Al23))+b (3)
一般に、添加したAlとスラグのFeO濃度との間には、下記反応が成立する。
【0021】
3FeO+2Al=3Fe+Al23
この反応は、FeOが3molに対してAl23が1mol生成し、質量に換算すると、FeOが216gでAl23が102gなので、反応量の質量比は、FeO/Al23=2.1:1となる。従って、この関係から、Alの上記(3)式による進み易さは、単位に質量%を用いると、(FeO)/2.1−(Al23)で表されると考えられる。なお、このAlの酸化反応は、スラグのFeO濃度が高く、Al23濃度が低い程進行し易いことを示唆している。前記した(FeO)/2.1−(Al23)なる指標は、FeOとAl23の正負符号が反対で、Alの酸化反応をまさに反映しており、妥当なものである。
【0022】
発明者は、この(3)式の関係を用いれば、従来より精度の良いAlの添加ができると考えた。しかしながら、スラグのFeO濃度は、溶鋼中酸素濃度で迅速に予測できるが、Al23濃度は転炉で使用される石灰等の副原料の種類、使用量によって変化するため、予測が難しい。そこで、スラグを実際にRH真空脱ガス槽1で処理する前に取鍋4から試料を採取し、迅速にFeO及びAl23を分析してから、前記(3)式を用いてAlの歩留りを予測することにし、このことを先の要件(SiO2の完全浮上)に加えることで本発明を完成させたのである。なお、この予測した歩留りを用いれば、以下のようにしてAlの添加量が決定でき((4)式参照)、従来より、Alの狭幅調整ができるようになる。
Al投入量(kg/t)=(Al目標(%)/Al歩留り%)×(100000/Al純度(%)) (4)
また、前記(3)式の定数であるa,bは、鋼種、設備等で変化するため、予め実験等により求めておけば良く、設備とは、使用する取鍋の大きさ、RH脱ガス槽の還流能力等をさす。
【0023】
【実施例】
方向性電磁鋼板を製造するため、C:0.03〜0.10重量%、Si:1.5〜5.0重量%、Mn:0.04〜0.15重量%を含む高Si含有溶鋼を、図2に示したRH真空脱ガス槽1で溶製した。1回の溶製で処理した溶鋼量は200トンである。
【0024】
予め転炉(図示せず)でSi濃度を調整してから出鋼した溶鋼を200トン取鍋に受鋼した。そして、スラグ3.0トンを取鍋4に装入し、該取鍋4からスラグの分析試料を採取して分析する一方で、取鍋4をRH真空脱ガス槽1にセットした。直ちに、RH真空脱ガス槽1の内部雰囲気を40torrに減圧し、環流ガス6を流して溶鋼3を脱ガス槽1に吸引し、環流を開始した。その後は、作業者がコンピュータにより前記(1)〜(2)式に基き、環流時間Hを求め、脱ガス開始からの経過時間が7Hを超えてから、純度の低い金属アルミニウムを溶鋼面上に投入した。なお、溶鋼3の目標Al濃度は、0.010〜0.030質量%の範囲で、処理毎に変更したが、Alの添加量は、前記した本発明に係る方法により決定した。図1は、当該溶鋼及び設備を使用して求めたスラグのFeO濃度及びAl23濃度と溶鋼へ添加したAlの歩留りとの関係を示したもので、前記(3)式は、下記のごとき(3)’式となった。
Al歩留り(%)=−1.0077×((FeO)/2.1)−(Al23))+62.267 (3)’
スラグ分析の結果、例えば、スラグのFeO濃度が4.56質量%、Al23濃度が2.4質量%の場合には、(3)’式から予測Al添加歩留りは62.5%となる。添加する金属アルミニウムの純度が94質量%であり、目標Al濃度を0.030質量%とすると、前記(4)式よりAlの添加量は5.1kg/tになる。
【0025】
このようにして、溶鋼の目標Al濃度を0.010〜0.030質量%の範囲で変更し、多数チャージの処理を行なった後、処理結果を、実績Al濃度と目標濃度との差の出現頻度で評価して図4に示す。なお、本発明との効果を比較するため、従来のAl添加方法(脱ガス処理開始から連続的にAl源を添加する)でも処理を行い、その結果も図4に示してあた。図4より、本発明によれば、溶鋼3中のAl濃度が目標値に対して±10ppmで調整されたことが明らかである。また、脱ガス処理後の溶鋼中のN濃度は、100ppmであり、AlNを形成するに十分な量であった。ちなみに、得られた溶鋼の組成例を表1に示しておく。
【0026】
【表1】
Figure 0004345213
【0027】
上記実施例では、溶鋼として電磁鋼板用のものを使用したが、本発明はそれに限らず、高Siであれば如何なる鋼材の溶鋼にも適用できることは言うまでもない。
【0028】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明により、高Si含有溶鋼のAl濃度が狭い範囲で調整できるようになる。その結果、高磁気密度、低鉄損特性に優れた方向性電磁鋼板が安定して製造できるようになった。
【図面の簡単な説明】
【図1】スラグのFeO濃度及びAl23濃度と溶鋼へ添加したAlの歩留りとの関係を示す図である。
【図2】RH真空脱ガス槽を示す縦断面図である。
【図3】溶鋼の脱ガス処理期間(溶鋼全量の1回還流時間の何倍であるか)と溶鋼中Si濃度との関係を示す図である。
【図4】本発明に係るAl濃度調整方法と従来方法でのAl濃度の的中精度を示す図である。
【符号の説明】
1 RH真空脱ガス槽
2 浸漬管
3 溶鋼
4 取鍋
5 各種成分源
6 環流ガス
7 スラグ

Claims (3)

  1. 取鍋に保持した高Si含有溶鋼を、RH真空脱ガス槽でAl源を添加して処理し、Al濃度を調整するに際して、
    脱ガス処理前に予め取鍋内スラグのFeO及びAl23濃度を分析し、その分析値から下記式に基づきAl源の添加歩留りを予測し、その予測した歩留りからAl源の添加量を定めると共に、該添加量のAl源を脱ガス処理で溶鋼中のSiO2の浮上を図る浮上処理期間の経過後に前記溶鋼中に添加することを特徴とする高Si含有溶鋼のAl濃度調整方法。
    Al歩留り(%)=a×((FeO)/2.1)−(Al23))+b
    ここで,(FeO):取鍋内スラグのFeO濃度(質量%)
    (Al23):取鍋内スラグのAl23濃度(質量%)
    a,b:鋼種、設備等によって決まる定数
  2. 前記SiO2の浮上処理期間は、脱ガス処理開始から取鍋内の全溶鋼が脱ガス槽との間で1回環流するに要する時間の7倍以上であることを特徴とする請求項1記載の高Si含有溶鋼のAl濃度調整方法。
  3. 前記Al源を、金属アルミニウムとすることを特徴とする請求項1又は2記載の高Si含有溶鋼のAl濃度調整方法。
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