JP4318973B2 - 車両のアンチロックブレーキ制御方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、車輪速度センサで検出した車輪速度に基づいて車輪の加・減速度を演算し、その演算加・減速度が正から負に転換したことを以て減圧制御後の増圧制御を開始するようにして、車輪ブレーキのアンチロック制御を実行し得る車両のアンチロックブレーキ制御方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動二輪車の前輪用および後輪用車輪ブレーキのアンチロック制御を実行する際に、車輪の加・減速度の演算値が正から負に転換するのに応じて、減圧制御後の増圧制御を開始するようにした自動二輪車のアンチロックブレーキ制御方法が、たとえば特許文献1等で既に知られている。
【0003】
ところで、車輪ブレーキをアンチロック制御するにあたっては、車体安定性の向上のために低い摩擦係数の路面を考慮して、車輪ブレーキの減圧制御時の減圧量を多めに設定するのが一般的である。ところが、走行が可能ではあるけれども低摩擦係数(たとえばμ=0.4程度)の路面を走行中には過減圧状態となりがちであり、特に前輪の単独制動時には必要以上の減圧により、制動時の減速度に「抜け感」が生じ、制動フィーリングが悪化することがある。
【0004】
そこで、本出願人は、特許文献2で開示されるように、低摩擦係数の路面で単独制動を実行した状態での前輪用車輪ブレーキのアンチロック制御時に、前輪の演算加・減速度が正の設定加・減速度を超えた後に前輪の演算加・減速度の微分値が所定の設定微分値未満の範囲で前輪のスリップ率が設定スリップ率以下となったときには、前輪の演算加・減速度が正から負に転換する前であっても前輪用車輪ブレーキの液圧を増圧制御するようにして、低摩擦係数の路面で前輪用車輪ブレーキが過減圧状態となるのを防止するようにしたアンチロックブレーキ制御方法を既に提案している。
【0005】
【特許文献1】
特開平9−328065号公報
【0006】
【特許文献2】
特開2002−264788号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上記特許文献2で開示される技術では、増圧制御直前の減圧制御時におけるブレーキ液圧減圧量が少なくても減圧し過ぎと誤判断し、増圧制御を早めることで過増圧となる可能性がある。
【0008】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、車輪ブレーキのブレーキ液圧が過増圧となることを回避しつつ、減速度に「抜け感」が生じることを回避して制動フィーリングを向上させた車両のアンチロックブレーキ制御方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明は、車輪速度センサで検出した車輪速度に基づいて車輪の加・減速度を演算し、その演算加・減速度が正から負に転換したことを以て減圧制御後の増圧制御を開始するようにして、車輪ブレーキのアンチロック制御を実行し得る車両のアンチロックブレーキ制御方法において、前記車輪ブレーキのアンチロック制御時に、増圧制御直前の減圧制御時におけるブレーキ液圧減圧量が予め定められた設定減圧量以上であるという条件を満足し、しかも前記演算加・減速度が正の設定加・減速度を超えた後に前記演算加・減速度の微分値が設定微分値未満の範囲で車輪のスリップ率が設定スリップ率以下となったときには、前記演算加・減速度が正から負に転換する前であっても車輪ブレーキの液圧を増圧制御することを特徴とする。
【0010】
このような制御方法によれば、車輪ブレーキのアンチロック制御を実行する際に、ブレーキ液圧が過増圧となることを回避しつつ、車輪ブレーキが過減圧状態となるのを防止し、減速度に「抜け感」が生じることを回避して制動フィーリングを向上させることができる。すなわち演算加・減速度の微分値は、演算加・減速度の変化傾向を示すものであり、走行可能ではあるが低摩擦係数の路面では、走行困難な低摩擦係数の路面を考慮した車輪ブレーキの減圧制御により、車輪速度が比較的速く回復するはずである。そこで比較的速い車輪速度の復帰を演算加・減速度が正の設定加・減速度を超えることで検出した後に、車輪速度の変化が緩やかになった状態を演算加・減速度の微分値が設定微分値未満となることで検出し、スリップ率が充分に低下するのに応じて車輪ブレーキの増圧制御を開始するようにしており、その状態は、車輪の演算加・減速度が正から負に転換する前に生じるので、車輪ブレーキを早めに増圧状態とすることができるのである。しかも車輪ブレーキを早めに増圧制御する条件として、増圧制御直前の減圧制御時におけるブレーキ液圧減圧量が設定減圧量以上であることが必要であるとしているので、ブレーキ液圧減圧量が少なくても減圧し過ぎと誤判断することがなく、増圧制御を早めることで過増圧となる可能性も排除することができる。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を、添付の図面に示した本発明の一実施例に基づいて説明する。
【0012】
図1および図2は本発明の一実施例を示すものであり、図1は自動二輪車用ブレーキ装置の液圧回路図、図2はタイミングチャートである。
【0013】
先ず図1において、スクータ型である自動二輪車には、乗員が右手で操作する右ブレーキレバー1の操作に応じて液圧を出力する第1マスタシリンダMAと、乗員が左手で操作する左ブレーキレバー2の操作に応じて液圧を出力する第2マスタシリンダMBとが搭載される。一方、自動二輪車の前輪には、一対のポッド3,4を有する前輪用車輪ブレーキBFが搭載されており、この前輪用車輪ブレーキBFには、第1マスタシリンダMAが制御弁手段6Aを介して接続されるとともに第2マスタシリンダMBが制御弁手段6B1および遅延弁5を介して接続される。また後輪に装着された後輪用車輪ブレーキBRには第2マスタシリンダMBが制御弁手段6B2を介して接続される。
【0014】
制御弁手段6Aは、前輪用車輪ブレーキBFのポッド3および第1マスタシリンダMA間に設けられる常開型電磁弁7と、該常開型電磁弁7に並列に接続されるチェック弁8と、前輪用車輪ブレーキBFのポッド3およびリザーバ10A間に設けられる常閉型電磁弁9とで構成されるものであり、第1マスタシリンダMAおよび前輪用車輪ブレーキBFのポッド3間の連通・遮断と、前輪用車輪ブレーキBFのポッド3およびリザーバ10A間の連通・遮断とを切換え可能である。
【0015】
リザーバ10Aには、該リザーバ10Aのブレーキ液を汲上げて第1マスタシリンダMA側に圧送する戻しポンプ11Aの吸入側が吸入弁12Aを介して接続されており、この戻しポンプ11Aの吐出側は、吐出弁13A、ダンパ14Aおよびオリフィス15Aを介して第1マスタシリンダMAに接続される。
【0016】
制御弁手段6B1は、上記制御弁手段6Aと同様に常開型電磁弁7、チェック弁8および常閉型電磁弁9で構成されるものであり、前輪用車輪ブレーキBFのポッド4に接続される遅延弁5および第2マスタシリンダMB間の連通・遮断と、前記遅延弁5およびリザーバ10B間の連通・遮断とを切換え可能である。
【0017】
また制御弁手段6B2は、上記制御弁手段6A,6B1と同様に常開型電磁弁7、チェック弁8および常閉型電磁弁9で構成されるものであり、後輪用車輪ブレーキBRおよび第2マスタシリンダMB間の連通・遮断と、後輪用車輪ブレーキBRおよびリザーバ10B間の連通・遮断とを切換え可能である。
【0018】
リザーバ10Bには、該リザーバ10Bのブレーキ液を汲上げて第2マスタシリンダMB側に圧送する戻しポンプ11Bの吸入側が吸入弁12Bを介して接続されており、この戻しポンプ11Bの吐出側は、吐出弁13B、ダンパ14Bおよびオリフィス15Bを介して第2マスタシリンダMBに接続される。
【0019】
前記両戻しポンプ11A,11Bには共通な単一のモータ16が連結されており、該モータ16により両戻しポンプ11A,11Bが駆動される。
【0020】
このような制御弁手段6A,6B1,6B2において、右および左ブレーキレバー1,2によるブレーキ操作時に車輪がロック状態に入りそうになったときのアンチロックブレーキ制御時には、常開型電磁弁7…のうちロック状態に入りそうである車輪に対応する常開型電磁弁を通電により閉弁するとともに常閉型電磁弁9…のうち上記車輪に対応する常閉型電磁弁を通電により開弁する。そうすると、ブレーキ液圧の一部がリザーバ10Aあるいは10Bに逃がされて減圧されることになる。またブレーキ液圧を保持する際には、常開型電磁弁7…を通電により閉弁するとともに常閉型電磁弁9…を非通電により閉弁状態に保持すればよく、ブレーキ液圧を増圧する際には、常開型電磁弁7…を非通電により開弁するとともに常閉型電磁弁9…を非通電により閉弁状態に保持すればよい。
【0021】
一対の戻しポンプ11A,11Bを共通に駆動するモータ16は、上記アンチロックブレーキ制御の開始に応じて作動を開始するものであり、リザーバ10A,10Bに逃がされたブレーキ液が戻しポンプ11A,11Bから第1および第2マスタシリンダMA,MB側に戻される。したがってリザーバ10A,10Bに逃がした分だけ第1および第2マスタシリンダMA,MBにおけるブレーキレバー1,2の操作量が増加することはない。
【0022】
各制御弁手段6A,6B1,6B2における常開型電磁弁7…および常閉型電磁弁9…の非通電・通電、ならびにモータ16の作動は、前輪および後輪の車輪速度を個別に検出する前輪用および後輪用車輪速度センサ19F,19Rの検出信号が入力される制御ユニット18により制御されるものであり、制御ユニット18は、前記車輪速度センサ19F,19Rの検出信号に基づいて車輪がロック状態に入りそうであると判断したときには、ブレーキ液圧の減・増圧サイクルを繰返すように各制御弁手段6A,6B1,6B2の作動を制御することで、前輪用および後輪用車輪ブレーキBF,BRのアンチロック制御を実行する。
【0023】
また制御ユニット18は、前記各制御弁手段6A,6B1,6B2のいずれか1つによるアンチロックブレーキ制御の開始に伴ってモータ16の作動を開始する。
【0024】
ところで、制御ユニット18は、前輪用および後輪用車輪速度センサ19F,19Rでそれぞれ検出した車輪速度に基づいて前輪および後輪の加・減速度を演算し、基本的には、前記演算加・減速度が正から負に転換したことを以て増圧制御を開始するのであるが、走行路面の摩擦係数μが0.4程度の状態すなわち自動二輪車の走行を可能とした低摩擦係数の路面で、たとえば前輪単独制動を実行した状態での前輪用車輪ブレーキBFのアンチロック制御時には、増圧制御直前の減圧制御時におけるブレーキ液圧減圧量が予め定められた設定減圧量以上であるという条件を満足し、しかも前輪の演算加・減速度ACLが正の設定加・減速度ACL0を超えた後に前輪の演算加・減速度ACLの微分値WDDが所定の設定微分値WDD0未満の範囲で前輪のスリップ率が設定スリップ率以下となったときには、前輪の演算加・減速度ACLが正から負に転換する前であっても前輪用車輪ブレーキBFの液圧を増圧制御するようにしている。
【0025】
次にこの実施例の作用について説明すると、自動二輪車の走行を可能とする程度の低摩擦係数の路面でのたとえば前輪の単独制動時に前輪がロック状態に陥ることを回避するために前輪用車輪ブレーキBFのアンチロック制御を実行する場合、前輪の車輪速度、前輪の演算加・減速度ACL、前輪の演算加・減速度ACLの微分値WDDが、図2で示すように変化するときに、基本的には、前輪の演算加・減速度ACLが正から負に転換する時刻t4で前輪用車輪ブレーキBFの増圧制御を開始するのであるが、増圧制御直前の減圧制御時におけるブレーキ液圧減圧量が設定減圧量以上である場合には、前記時刻t4前であっても、前輪の演算加・減速度ACLが時刻t1で正の設定加・減速度ACL0を超えた後に時刻t2で前輪の演算加・減速度ACLの微分値WDDが設定微分値WDD0未満となる範囲で、時刻t3で前輪のスリップ率が設定スリップ率以下となったとき、すなわち前輪の車輪速度が設定スリップ率の基準車輪速度以上となった時刻t3で、前輪用車輪ブレーキBFの増圧制御を開始する。
【0026】
このように自動二輪車の走行を可能とする程度の低摩擦係数の路面での前輪の単独制動時における前輪用車輪ブレーキBFのアンチロック制御時の増圧制御開始タイミングを定めることにより、前輪用車輪ブレーキBFが過減圧状態となるのを防止し、減速度に「抜け感」が生じることを回避して制動フィーリングを向上させることができる。
【0027】
すなわち前輪の演算加・減速度ACLの微分値WDDは、前輪の演算加・減速度ACLの変化傾向を示すものであり、走行可能ではあるが低摩擦係数の路面では、走行困難な低摩擦係数の路面を考慮した前輪用車輪ブレーキBFの減圧制御により、前輪の車輪速度が比較的速く回復するはずである。そこで比較的速い車輪速度の復帰を前輪の演算加・減速度ACLが正の設定加・減速度ACL0を超えることで検出した後に、車輪速度の変化が緩やかになった状態を前輪の演算加・減速度ACLの微分値WDDが設定微分値WDD0未満となることで検出し、前輪のスリップ率が充分に低下するのに応じて前輪用車輪ブレーキBFの増圧制御を開始するようにしており、その状態は、前輪の演算加・減速度ACLが正から負に転換する前に生じるので、前輪用車輪ブレーキBFを早めに増圧状態とすることができるのである。
【0028】
しかも前輪用車輪ブレーキBFを早めに増圧制御する条件として、増圧制御直前の減圧制御時におけるブレーキ液圧減圧量が設定減圧量以上であることが必要であるとしているので、ブレーキ液圧減圧量が少なくても減圧し過ぎと誤判断することがなく、増圧制御を早めることで過増圧となる可能性も排除することができる。
【0029】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行うことが可能である。
【0030】
たとえば上記実施例では、自動二輪車における前輪用車輪ブレーキBFのアンチロック制御に本発明を適用した場合について説明したが、本発明は、自動二輪車における後輪用車輪ブレーキのアンチロック制御にも適用可能であり、また四輪車両の各車輪用車輪ブレーキのアンチロック制御に適用することも可能である。
【0031】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、車輪ブレーキのブレーキ液圧が過増圧となることを回避しつつ、低摩擦係数の路面で車輪ブレーキが過減圧状態となるのを防止し、減速度に「抜け感」が生じることを回避して制動フィーリングを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 自動二輪車用ブレーキ装置の液圧回路図である。
【図2】 タイミングチャートである。
【符号の説明】
19F・・・前輪用車輪速度センサ
ACL・・・前輪の演算加・減速度
ACL0・・・正の設定加・減速度
BF・・・前輪用車輪ブレーキ
WDD・・・前輪の演算加・減速度の微分値
WDD0・・・設定微分値
Claims (1)
- 車輪速度センサ(19F)で検出した車輪速度に基づいて車輪の加・減速度を演算し、その演算加・減速度が正から負に転換したことを以て減圧制御後の増圧制御を開始するようにして、車輪ブレーキ(BF)のアンチロック制御を実行し得る車両のアンチロックブレーキ制御方法において、前記車輪ブレーキ(BF)のアンチロック制御時に、増圧制御直前の減圧制御時におけるブレーキ液圧減圧量が予め定められた設定減圧量以上であるという条件を満足し、しかも前記演算加・減速度(ACL)が正の設定加・減速度(ACL0)を超えた後に前記演算加・減速度(ACL)の微分値(WDD)が設定微分値(WDD0)未満の範囲で車輪のスリップ率が設定スリップ率以下となったときには、前記演算加・減速度(ACL)が正から負に転換する前であっても車輪ブレーキ(BF)の液圧を増圧制御することを特徴とする車両のアンチロックブレーキ制御方法。
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