JP4138222B2 - 自動二輪車における前輪ブレーキ液圧制御方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、前輪ブレーキのアンチロックブレーキ制御を、後輪ブレーキとは独立して実行し得る自動二輪車に関し、特に前輪ブレーキ液圧制御方法の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、かかる自動二輪車は、たとえば特開平9−328065号公報等で良く知られており、アンチロックブレーキ制御時には、増、減圧の周期が長くならないように増圧時間をわずかに長くして過剰増圧気味とし、車輪のスリップ率が大きくなることに基づいて減圧制御状態となり易くするのが一般的である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、摩擦係数が高い路面を走行中に、上述のような過剰増圧気味のセッティングのアンチロックブレーキ制御を前輪ブレーキ単独で実行したときには、自動二輪車の挙動変化が大きくなり、制動フィーリングの悪化を招くことがある。すなわち、図3で示すように、前輪ブレーキの液圧が適正制御圧に達しているにもかかわらず、時刻t1′,t3′で増圧状態になることで、自動二輪車の挙動がノーズダイブ方向に大きく変化し、制動フィーリングの悪化を招くことがある。また増圧によってスリップ率が大きくなることに応じて、時刻t2′,t4′では、前輪ブレーキの液圧が適正制御圧よりも低い値にまで減圧されることになり、それによりライダーにブレーキ液圧が抜けたような感覚を与えてしまうこともある。
【0004】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、前輪ブレーキ単独でのアンチロックブレーキ制御時に、自動二輪車の挙動が大きく変化することを防止するとともにブレーキ液圧の抜け感が生じることを防止して、制動フィーリングを向上した自動二輪車における前輪ブレーキ液圧制御方法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明は、ブレーキ液圧の減圧、保持および増圧を切換えるようにした前輪ブレーキのアンチロックブレーキ制御を、後輪ブレーキとは独立して実行し得る自動二輪車において、路面の摩擦係数が所定値以上の状態で前輪ブレーキだけのアンチロックブレーキ制御を実行しているときに、前輪のスリップ率が設定値未満の状態から設定値以上となるのに応じてカウンタをセットし、カウンタのセット状態で前記スリップ率が設定値以下となってからの経過時間を、前記スリップ率が設定値以上となる毎にリセットするようにして前記カウンタでカウントし、その経過時間が設定時間に達するまでは前輪ブレーキのブレーキ液圧を増圧状態とすることを禁止して保持状態とすることを特徴とする。
【0006】
このような特徴によれば、前輪ブレーキだけのアンチロックブレーキ制御中に前輪のスリップ率が設定値以上となる状態では、減圧制御状態に入り易くするために前輪ブレーキのブレーキ液圧を増圧状態としそうになるのであるが、前輪のスリップ率が設定値未満の状態から設定値以上の状態へと増大した後に設定値以下に反転してからの経過時間が設定時間に達するまでは、前輪ブレーキのブレーキ液圧を増圧状態とすることを禁止するので、前輪ブレーキのブレーキ液圧が過剰増圧となることによって自動二輪車の挙動がノーズダイブ方向に大きく変化することを防止してブレーキ液圧のコントロールを容易とすることができ、また増圧状態とすることを禁止して保持状態とするので、前輪ブレーキに対応したブレーキ操作子のストロークが必要以上に大きくなることを防止してブレーキ液圧が抜けたような感覚をライダーに与えることを防止することができ、制動フィーリングを向上することができる。また前輪のスリップ率が設定値以上の状態では、前記カウンタによるカウントを実行しないので、前輪のスリップ率が設定値以上である状態が長く持続する場合、前輪のブレーキ液圧の増圧を禁止する状態が解除されてしまうこと防止することができる。しかも前輪のスリップ率が設定値以下となる毎にリセットするので、ブレーキ液圧が適正に保持されて前輪のスリップ率が設定値近傍で細かく変動しているときには前輪のブレーキ液圧を保持したままとして、自動二輪車の挙動変化が生じることを防止することができる。さらに走行路面の摩擦係数が高い状態では、必要以上の増圧状態となることが多くなりがちであるが、上述のような制御を実行することにより、高摩擦係数の路面を走行中の制動フィーリングを向上することができる。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面に示した本発明の一実施例に基づいて説明する。
【0008】
図1および図2は本発明の一実施例を示すものであり、図1は車両用ブレーキ装置の液圧回路図、図2はタイミングチャートである。
【0009】
先ず図1において、スクータ型である自動二輪車には、乗員が右手で操作する右ブレーキレバー1の操作に応じて液圧を出力するマスタシリンダMAと、乗員が左手で操作する左ブレーキレバー2の操作に応じて液圧を出力するマスタシリンダMBとが搭載される。一方、前記自動二輪車の前輪には、一対のポッド3,4を有する前輪ブレーキBFが搭載されており、この前輪ブレーキBFには、一方のマスタシリンダMAが制御弁手段6Aを介して接続されるとともに他方のマスタシリンダMBが制御弁手段6B1および遅延弁5を介して接続される。また後輪に装着された後輪ブレーキBRには前記他方のマスタシリンダMBが制御弁手段6B2を介して接続される。
【0010】
制御弁手段6Aは、前輪ブレーキBFのポッド3およびマスタシリンダMA間に設けられる常開型電磁弁7と、該常開型電磁弁7に並列に接続されるチェック弁8と、前輪ブレーキBFのポッド3およびリザーバ10A間に設けられる常閉型電磁弁9とで構成されるものであり、マスタシリンダMAおよび前輪ブレーキBFのポッド3間の連通・遮断と、前輪ブレーキBFのポッド3およびリザーバ10A間の連通・遮断とを切換え可能である。
【0011】
リザーバ10Aには、該リザーバ10Aのブレーキ液を汲上げてマスタシリンダMA側に圧送する戻しポンプ11Aの吸入側が吸入弁12Aを介して接続されており、この戻しポンプ11Aの吐出側は、吐出弁13Aおよびオリフィス15Aを介してマスタシリンダMAに接続される。
【0012】
制御弁手段6B1は、上記制御弁手段6Aと同様に常開型電磁弁7、チェック弁8および常閉型電磁弁9で構成されるものであり、前輪ブレーキBFのポッド4に接続される遅延弁5およびマスタシリンダMB間の連通・遮断と、前記遅延弁5およびリザーバ10B間の連通・遮断とを切換え可能である。
【0013】
また制御弁手段6B2は、上記制御弁手段6A,6B1と同様に常開型電磁弁7、チェック弁8および常閉型電磁弁9で構成されるものであり、後輪ブレーキBRおよびマスタシリンダMB間の連通・遮断と、後輪ブレーキBRおよびリザーバ10B間の連通・遮断とを切換え可能である。
【0014】
リザーバ10Bには、該リザーバ10Bのブレーキ液を汲上げてマスタシリンダMB側に圧送する戻しポンプ11Bの吸入側が吸入弁12Bを介して接続されており、この戻しポンプ11Bの吐出側は、吐出弁13Bおよびオリフィス15Bを介してマスタシリンダMBに接続される。
【0015】
前記両戻しポンプ11A,11Bには共通な単一のモータ16が連結されており、該モータ16により両戻しポンプ11A,11Bが駆動される。
【0016】
このような制御弁手段6A,6B1,6B2において、右および左ブレーキレバー1,2によるブレーキ操作時に車輪がロック状態に入りそうになったときのアンチロックブレーキ制御時には、常開型電磁弁7…のうちロック状態に入りそうである車輪に対応する常開型電磁弁を通電により閉弁するととともに常閉型電磁弁9…のうち上記車輪に対応する常閉型電磁弁を通電により開弁する。そうすると、ブレーキ液圧の一部がリザーバ10Aあるいは10Bに逃がされて減圧されることになる。またブレーキ液圧を保持する際には、常開型電磁弁7…を通電により閉弁するとともに常閉型電磁弁9…を非通電により閉弁状態に保持すればよく、ブレーキ液圧を増圧する際には、常開型電磁弁7…を非通電により開弁するとともに常閉型電磁弁9…を非通電により閉弁状態に保持すればよい。
【0017】
一対の戻しポンプ11A,11Bを共通に駆動するモータ16は、上記アンチロックブレーキ制御の開始に応じて作動を開始するものであり、リザーバ10A,10Bに逃がされたブレーキ液が戻しポンプ11A,11Bからオリフィス15A,15Bを経てマスタシリンダMA,MB側に戻される。したがってリザーバ10A,10Bに逃がした分だけマスタシリンダMA,MBにおけるブレーキレバー1,2の操作量が増加することはない。
【0018】
各制御弁手段6A,6B1,6B2における常開型電磁弁7…および常閉型電磁弁9…の非通電・通電、ならびにモータ16の作動は制御ユニット18により制御されるものであり、この制御ユニット18には、車輪がロック状態に入りそうになったかどうかを判断するために前輪および後輪の車輪速度を個別に検出する車輪速度センサ19F,19Rの検出信号が入力される。
【0019】
制御ユニット18は、前記各制御弁手段6A,6B1,6B2のいずれか1つによるアンチロックブレーキ制御の開始に伴ってモータ16の作動を開始する。
【0020】
また制御ユニット18は、路面の摩擦係数が所定値以上の状態で前輪ブレーキBFのアンチロックブレーキ制御を後輪ブレーキBRとは独立して実行しているときに、前輪のスリップ率が設定値未満の状態から設定値以上となるのに応じてカウンタをセットし、カウンタのセット状態で前記スリップ率が設定値以下となってからの経過時間を、前記スリップ率が設定値以上となる毎にリセットするようにして前記カウンタでカウントし、その経過時間が設定時間βに達するまでは前輪ブレーキBFのブレーキ液圧を増圧状態とすることを禁止して保持状態とするように、制御弁手段6A,6B1の作動を制御する。
【0021】
ここで、路面の摩擦係数が所定値以上であるか否かは、車輪速度センサ19F,19Rの検出信号に基づいて得た車体減速度と設定減速度との比較により判断可能であり、また前輪のスリップ率の設定値はたとえば10%に設定され、さらに前記設定時間βはたとえば100m秒である。
【0022】
次にこの実施例の作用について、図2を参照しながら説明すると、前輪ブレーキBFのブレーキ液圧のアンチロックブレーキ制御を単独で実行しているときに、そのアンチロックブレーキ制御での減圧、保持および増圧を図2(a)で示すように変化させると、前輪速度は図2(b)で示すように変化し、さらに前輪ブレーキBFのブレーキ液圧は図2(c)で示すように変化するのであるが、本発明に従えば、前輪のスリップ率が設定値未満の状態から設定値以上となるのに応じてカウンタをセットし、カウンタのセット状態で前記スリップ率が設定値以下となってからの経過時間を、前記スリップ率が設定値以上となる毎にリセットするようにして前記カウンタでカウントし、その経過時間が設定時間βに達するまでは前輪ブレーキBFのブレーキ液圧を増圧状態とすることを禁止して保持状態とする。
【0023】
すなわち、図2(b)で示すように、前輪のスリップ率が設定値未満の状態から設定値以上となった時刻t1において、図2(d)で示すようにカウンタがセットされ、該カウンタは、時刻t3,t5で前輪スリップ率が設定値以上となる毎にリセットされるようにして、前記スリップ率が設定値以下となった時刻t2,t4,t6からの経過時間をカウントする。而して、そのカウントによる経過時間が設定時間βに達するまでは、図2(a)で示すように、前輪ブレーキBFのブレーキ液圧を増圧状態とすることを禁止して保持状態に制御するようにしている。また時刻t6から設定時間βが経過した時刻t7では、前輪ブレーキBFのブレーキ液圧を、図2(a)で示すように増圧することが許可される。
【0024】
しかも時刻t1,t2間の時間、時刻t3,t4間の時間および時刻t5,t6間の時間は、前輪スリップ率が設定値以上の状態であり、この間はカウンタによるカウントは実行されない。これにより、前輪のスリップ率が設定値以上である状態が長く持続する場合、前輪のブレーキ液圧の増圧を禁止する状態が解除されてしまうこと防止することができる。
【0025】
このような制御によって、前輪ブレーキBFのブレーキ液圧を増圧状態とすることを禁止することで、前輪ブレーキBFのブレーキ液圧が過剰増圧となることによって自動二輪車の挙動がノーズダイブ方向に大きく変化することを防止してブレーキ液圧のコントロールを容易とすることができる。
【0026】
しかも増圧状態とすることを禁止して保持状態とするので、前輪ブレーキBFに対応したブレーキレバー1,2のストロークが必要以上に大きくなることを防止してブレーキ液圧が抜けたような感覚をライダーに与えることを防止することができ、制動フィーリングを向上することができる。
【0027】
また経過時間のカウントを前輪のスリップ率が設定値以上となる毎にリセットするので、ブレーキ液圧が適正に保持されて前輪のスリップ率が設定値近傍で細かく変動しているときには前輪のブレーキ液圧を保持したままとして、自動二輪車の挙動変化が生じることを防止することができる。
【0028】
さらに走行路面の摩擦係数が高い状態では、必要以上の増圧状態となることが多くなりがちであるが、上述のような制御を実行することにより、高摩擦係数の路面を走行中の制動フィーリングを向上することができる。
【0029】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行うことが可能である。
【0030】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、前輪ブレーキ単独でのアンチロックブレーキ制御時に、自動二輪車の挙動が大きく変化することを防止するとともにブレーキ液圧の抜け感が生じることを防止して、制動フィーリングを向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】車両用ブレーキ装置の液圧回路図である。
【図2】タイミングチャートである。
【図3】従来例の図2に対応したタイミングチャートである。
【符号の説明】
BF・・・前輪ブレーキ
BR・・・後輪ブレーキ
Claims (1)
- ブレーキ液圧の減圧、保持および増圧を切換えるようにした前輪ブレーキ(BF)のアンチロックブレーキ制御を、後輪ブレーキ(BR)とは独立して実行し得る自動二輪車において、路面の摩擦係数が所定値以上の状態で前輪ブレーキ(BF)だけのアンチロックブレーキ制御を実行しているときに、前輪のスリップ率が設定値未満の状態から設定値以上となるのに応じてカウンタをセットし、カウンタのセット状態で前記スリップ率が設定値以下となってからの経過時間を、前記スリップ率が設定値以上となる毎にリセットするようにして前記カウンタでカウントし、その経過時間が設定時間に達するまでは前輪ブレーキ(BF)のブレーキ液圧を増圧状態とすることを禁止して保持状態とすることを特徴とする自動二輪車における前輪ブレーキ液圧制御方法。
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