JP4318245B2 - ボールペンチップ、このボールペンチップを利用したボールペン及びこのボールペンチップの製造方法 - Google Patents

ボールペンチップ、このボールペンチップを利用したボールペン及びこのボールペンチップの製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、インクの逆流を防止できるボールペンチップ、このボールペンチップを利用したボールペン及びこのボールペンチップの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、筆記具として、油性ボールペンやゲルインクボールペン等のボールペンが広く利用されている。このようなボールペンとしては、その先端側に筆記用のボールを内蔵したボールペンチップを設け、このボールペンチップの後方にインクを収納したインク収納部を設ける構造を採用したものが一般的である。
また、一般的なボールペンチップには、筆記ボールがボールペンチップから抜けないように、その先端部分を内側にすぼませたカシメ部が設けられている。このようなボールペンチップのカシメ部と筆記ボールとの間には、インクが自在に流通するように、所定の隙間が形成されている。そして、この隙間には、インクだけでなく空気も流通可能となっている。
このため、ペン先を上に向けて書くと、筆記ボールとカシメ部との間から空気が進入することがあり、空気の進入をそのまま放置すると、インクが逆流してインク収納部の後端から漏れてしまい、筆記不可能になってしまったり、漏れたインクで衣服が汚れてしまう等の不具合が発生する。
【0003】
筆記用のインクとしてゲルインクを採用したゲルインクボールペンでは、ペン先の保護用キャップの着脱等により、その後端部分に軸方向の衝撃が加わることがある。この衝撃により、ボールペンチップ内のインクが微少な逆流を起こし、書き出し時に書けなかったり、描いている描線にかすれが生じてしまう、いわゆる、衝撃カスレが発生する。
【0004】
また、一般的なボールペンでは、筆記ボールの直径が大きい程、筆記ボールとカシメ部との隙間の開口面積が大きくなるため、ペンを上に向けて筆記を行った際に、ボールペンチップの内部に空気が入りやすい。例えば、筆記ボールの直径が0.7mm以上となったボールペンでは、ペンを上に向けた筆記を行うと、ボールペンチップの内部に空気が進入して、インクが逆流する傾向が著しい。特に、ゲルインクボールペンでは、筆記ボールの直径が0.7mm以上になると、ボールペンチップの内部に空気が進入してインクが逆流しやすくなり、これにより、衝撃カスレ等の不具合の発生が顕著となる。
【0005】
このような不具合を解消するために、インクの逆流を防止する逆止弁機構を備えたボールペンが利用されている。そして、逆止弁機構としては、次のような構造のものが知られている。
すなわち、ボールペンチップと、インクを収納したインク収納管とを連結するとともに、これらの間に介装される継手を設け、この継手の内部に、球状あるいは略円柱状に形成された弁体を収納する弁体収納室を設け、この弁体収納室内に弁体を移動可能に設置した逆止弁機構が知られている(例えば、特許文献1参照)。このような逆止弁機構によれば、ボールペンを上に向けると、弁体収納室の内面に開口されたインク流通孔を弁体が閉鎖するので、インクの逆流を防止することができる。
また、ボールペンチップの後端部分に、球状に形成された弁体を収納する弁体収納室を設け、この弁体収納室内に弁体を移動可能に収納した状態で、ボールペンチップの後端開口部分をかしめて、弁体の抜け止めを行った逆止弁機構が知られている(例えば、特許文献2参照)。このような構造の逆止弁機構でも、インクの逆流を防止することができる。
【0006】
【特許文献1】
特開平10−236063号公報
【特許文献2】
実開昭57−4373号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
前述のように、ボールペンチップとインク収容管との間、あるいは、ボールペンチップの後端近傍の部分に、逆止弁機構を設けたボールペンでは、ボールペンチップを長手方向に貫通するインク通路が、先端のカシメ部と逆止機構とを連通しているので、空気がカシメ部から内部に進入すると、インク通路に溜まる空気の体積は比較的大きいものとなる。
このため、インクの逆流を防止できたとしても、一旦、空気が内部に進入して、インク通路に空気が溜まると、インクが空気溜まりを満たすまでに時間がかかり、空気の進入により筆記が不可能となってから、再度、通常の筆記が可能となるまでの復帰時間が長くなってしまうという問題がある。
【0008】
また、逆止弁機構が設けられた継手をボールペンチップとインク収容管との間に介装したボールペンでは、当該ボールペンを製造するにあたり、ボールペンチップの先端を上に向けた状態で、ボールペンチップの先端側に筆記ボールを取り付ける工程と、ボールペンチップを引っ繰り返して、ボールペンチップの後端側に逆止弁機構が設けられた継手を取り付ける工程とを別個に行う必要がある。このため、加工工程が増加するとともに複雑となるので、製造に要するコストが嵩むという問題がある。
一方、ボールペンチップの後端近傍の部分に逆止弁機構を組み込んだボールペンでは、ボールペンチップの先端側に筆記ボールを取り付ける工程と、ボールペンチップの後端側に逆止弁機構を組み付ける工程とを別個に行う必要があるので、前述の逆止弁機構となる部品を介装する構造のボールペンと同様に、加工工程が増加するとともに複雑となるので、製造コストが嵩むという問題がある。
【0009】
本出願に係る各発明は、上記した問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、上向き筆記や衝撃等により、内部に空気が入っても、衝撃カスレ等のカスレが最小限に抑えられ、且つ速やかに通常筆記に復帰可能となるうえ、製造コストが抑制されるようになるボールペンチップ、このボールペンチップを利用したボールペン及びこのボールペンチップの製造方法を提供するものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記した各目的を達成するためになされたものであり、本発明の特徴点を図面に示した発明の実施の形態を用いて、以下に説明する。
なお、符号は、発明の実施の形態において用いた符号を示し、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0011】
(第1発明)
(特徴点)
本発明の第1発明は、次の点を特徴とする。
すなわち、本第1発明は、筆記ボール(2)と逆止ボール(7)とを備えたボールペンチップ(3)であって、前記筆記ボール(2)と前記逆止ボール(7)とは、若干の隙間をおいて近接配置されていることを特徴とする。
【0012】
(作用)
本発明によれば、筆記ボール(2)と逆止ボール(7)とが、若干の隙間をおいて近接配置されているので、筆記ボール(2)と逆止ボール(7)との間には、僅かな空間しか形成されず、空気がカシメ部(21)から内部に進入しても、内部に溜まる空気の体積は僅かなものとなる。このため、上向き筆記や衝撃等により、内部に空気が入っても、僅かな体積の空気溜まりは速やかに解消されるので、筆記が再開されるまでの復帰時間が短く、速やかに通常の筆記が行えるようになる。
【0013】
また、筆記ボール(2)及び逆止ボール(7)の両方がボールペンチップ(3)の先端側に設けられるので、当該ボールペンを製造するにあたり、逆止ボール(7)を取り付けて逆止弁機構を形成する作業と、筆記ボール(2)を取り付ける作業とを、速やかに連続する一連の作業として行え、且つ、これらの作業を行う際に、ボールペンチップ(3)を引っ繰り返す必要がない。このため、逆止弁機構を設けても、加工工程が増加せず、単純な作業工程で製造が行え、逆止弁機構を備えたボールペンの製造コストが低減されるようになる。
【0014】
(第2発明)
(特徴点)
本発明の第2発明は、前記第1発明の特徴点に加え、次の点を特徴とする。
すなわち、第2発明は、前記逆止ボール(7)が前記筆記ボール(2)よりも小径であることを特徴とする。
【0015】
(作用)
本発明によれば、ボールペンチップ(3)の先端部分に、先端側よりも後端側の直径が小さくなっているとともに、インク(4)が通るインク通路として、段付のインク誘導孔(10)を形成し、この段付のインク誘導孔(10)の中に逆止ボール(7)を入れた後、当該段付のインク誘導孔(10)の中に筆記ボール(2)を入れ、先端部分をかしめて、筆記ボール(2)の抜け止めを施すことにより、ボールペンチップ(3)の製造が行えるようになる。ここで、段付のインク誘導孔(10)の加工作業や、逆止ボール(7)及び筆記ボール(2)のボールペンチップ(3)への挿入作業に困難性が何ら生じないので、逆止弁機構を設けても、加工工程が増加せず、容易に行える作業で製造が行え、逆止弁機構を備えたボールペンの製造コストが低減されるようになる。
【0016】
(第3発明)
(特徴点)
本発明の第3発明は、上記した第1又は第2発明の特徴点に加え、次の点を特徴とする。
すなわち、第3発明は、前記逆止ボール(7)の縦ガタが、前記筆記ボール(2)の縦ガタよりも大きいことを特徴とする。
【0017】
(作用)
ボールペンチップ(3)の内部には、逆止ボール(7)に開閉される弁ポートが設けられ、逆止ボール(7)が縦ガタにより弁ポートから遠のくと、弁ポートが開放される。本発明によれば、逆止ボール(7)の縦ガタを充分大きく設定することができ、弁ポートが開放量を充分確保できるので、筆記にあたり、筆記ボールに供給されるインクの量が不足せず、インク不足によるカスレの発生が未然に防止される。一方、ボールペンチップ(3)の先端部分に設けられる筆記ボール(2)の縦ガタは、逆止ボール(7)の縦ガタよりも小さければよいので、スムースな筆記が行えるように設定でき、これにより、カスレがなくスムースな筆記が行えるようになる。
【0018】
(第4発明)
(特徴点)
本発明の第4発明は、上記した第1から第3までのいずれかの発明の特徴点に加え、次の点を特徴とする。
すなわち、第4発明は、前記逆止ボール(7)の横ガタが、前記筆記ボール(2)の横ガタよりも大きいことを特徴とする。
【0019】
(作用)
ボールペンチップ(3)の内部においては、ボールペンチップ(3)の内周面と逆止ボール(7)との間の隙間を通って、インク(4)が筆記ボール(2)に供給され、逆止ボール(7)の横ガタが充分確保されると、インク(4)が通る隙間の幅寸法も充分確保される。本発明によれば、逆止ボール(7)の横ガタを充分大きく設定することができ、インク(4)が通る隙間の幅寸法も充分確保できるので、筆記にあたり、筆記ボール(2)に供給されるインク(4)の量が不足せず、インク不足によるカスレの発生が未然に防止される。一方、ボールペンチップ(3)の先端部分に設けられる筆記ボール(2)の横ガタは、逆止ボール(7)の横ガタよりも小さければよいので、スムースな筆記が行えるように設定でき、これによっても、カスレがなくスムースな筆記が行えるようになる。
【0020】
(第5発明)
(特徴点)
本発明の第5発明は、上記した第1から第4までのいずれかの発明の特徴点に加え、次の点を特徴とする。
すなわち、本発明の第5発明は、インク(4)を前記筆記ボール(2)に誘導するためのインク誘導孔(10)と、このインク誘導孔(10)の内周面を切削することにより形成されたチャンネル(13)と、前記チャンネル(13)を切削した際に生じたチャンネルバリ(34)を削除した後の痕跡である凸部(24)及び凹部(25)とが形成され、前記凸部(24)が前記逆止ボール(7)の表面に接触することにより、前記逆止ボール(7)の表面と前記凹部(25)との間にインク溜まりとなる空間が設けられていることを特徴とする。
【0021】
(作用)
逆止ボール(7)の直径よりもインク誘導孔(10)の内径を一回り以上大きく設定し、インク誘導孔(10)の内周面と逆止ボール(7)との間の隙間を充分大きくとれば、通常筆記時においてカスレの発生を防止するのに充分な量のインク(4)を、当該隙間に溜めることができるが、これでは、逆止ボール(7)の横ガタが過度に大きくなることがある。本発明によれば、インク誘導孔(10)の内周面に、チャンネルバリ(34)を削除した後の痕跡である凸部(24)及び凹部(25)を形成し、逆止ボール(7)の表面と凹部(25)との間に空間が形成されるようにしたので、この空間に、通常筆記時においてカスレの発生を防止するのに充分な量のインクを溜めることができる。その上、凸部(24)が逆止ボール(7)の表面に接触するので、必要以上に大きな横ガタの発生を防止できる。これにより、必要な量のインク(4)を溜めることができるインク溜まりを確保できるうえ、逆止ボール(7)の横ガタ量を最適なものにすることができる。
【0022】
(第6発明)
(特徴点)
本発明の第6発明は、上記した第1から第5までのいずれかの発明におけるボールペンチップ(3)を備えたボールペンであって、次の点を特徴とする。
すなわち、第6発明は、ゲルインク(4)を収納しているインク収納管(5)を備えていることを特徴とする。
【0023】
(作用)
本発明によれば、内部に空気が入っても、内部に溜まる空気の体積が僅かなものとなり、僅かな体積の空気溜まりは速やかに解消されるので、筆記が再開されるまでの復帰時間が短く、速やかに通常の筆記が行えるようになる。このため、ゲルインクボールペンにおいて顕著であった衝撃カスレによる不具合は最低限に抑えられ、ゲルインクボールペンの使い勝手が向上されるようになる。
【0024】
(第7発明)
(特徴点)
第7発明は、上記した発明から発明までのいずれかの発明におけるボールペンチップ(3)を製造するにあたり、その製造に利用できる、ボールペンチップ(3)の製造方法であって、次の点を特徴とする。
すなわち、第7発明は、インク(4)を誘導するためのインク誘導孔(10)を切削する工程と、前記インク誘導孔(10)の内周面にチャンネル(13)を切削する工程と、前記チャンネル(13)を切削した際に生じたチャンネルバリ(34)を除去する工程と、前記インク誘導孔(10)の内部に、逆止ボール(7)及び筆記ボール(2)を入れる工程とを備えていることを特徴とする。
【0025】
(作用)
本発明によれば、インク誘導孔(10)の切削工程、チャンネル(13)の切削工程、チャンネルバリ(34)の除去工程、並びに、逆止ボール(7)及び筆記ボール(2)の挿入工程を順次行うことにより、製造工程において困難性が何ら生じることがなく、逆止弁機構を設けても、加工工程が複雑化せずに簡単に行え、逆止弁機構を備えたボールペンの製造が容易となり、その製造コストが低減されるようになる。
【0026】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
図1乃至図5には、本発明の第1実施形態が示されている。図1は本実施形態に係るボールペンのリフィール全体を示す斜視図、図2は前記リフィールの要部を示す拡大断面図、図3は図2のIII−III線における断面図、図4は本実施形態の通常筆記時における作用を説明するための図、図5は本実施形態の上向き筆記時における作用を説明するための図、図6乃至図14は本実施形態に係るボールペンチップの製造手順における各工程を説明するための断面図である。
【0027】
本実施形態に係るボールペンは、ゲルインクで筆記を行うためのリフィール1を有している。このリフィール1は、図1に示すように、先端に筆記ボール2が回転自在に設けられたボールペンチップ3と、ゲルインク4を内部に収納しているインク収納管5と、互いに直径の異なるボールペンチップ3及びインク収納管5を相互に連結している継手部材6とを備えたものである。なお、ボールペンは、ボールペンの使用者が把持するペン軸として、図示しない筒状のペン軸を有し、このペン軸の内部にリフィール1を収納したものである。また、インク収納管5の内部には、ゲルインク4の他に、ゲルインク4の逆流を抑制するために、ゲルインク4の後端を封鎖するフォロアー4Aが収納されている。インク収納管5及び継手部材6は、合成樹脂製のものが採用されている。
ここで、継手部材6は、ボールペンチップ3及びインク収納管5の両方と水密嵌合している。
また、フォロアー4Aは、ゲルインク4の消耗と共にゲルインク4に追随するグリース状のものである。このフォロアー4Aは、ゲルインク4と相溶性が無く、且つゲルインク4の蒸発を防止する性能を有している。そして、必要に応じてフォロアー4A内にフォロアー4Aと略同等の比重を有する、図示しない樹脂製のフォロアー棒が浸漬される。尚、フォロアー4Aは、例えば、シリコンゴム等の追従体とすることも可能である。
【0028】
ボールペンチップ3は、前述の筆記ボール2の他に、ゲルインク4が筆記ボール2側からインク収納管5側へ逆流しないようにするための逆止ボール7と、筆記ボール2及び逆止ボールを回転自在に支持するホルダー8とを備えている。このうち、筆記ボール2と逆止ボール7とは、若干の隙間をおいて近接配置されている。また、逆止ボール7は、筆記ボール2よりも若干小径となっている。ホルダー8は、リフィール1の長手方向に延びる筒状の部品である。ホルダー8には、その長手方向に延びるとともに、全体を貫通するインク誘導孔10が形成されている。そして、ホルダー8の先端部8Aは、先細りとなった円錐状に形成されている。また、ホルダー8の中間部分には、それよりも後端側が縮径された段付部8Bが形成されている。
【0029】
インク誘導孔10は、ゲルインク4を筆記ボール2に誘導するものであり、ホルダー8の後端から先端部8Aの近傍の部分まで細長く延び、先端部8Aの内部においては、内径が変化した、凹凸のある内周面を備えている。すなわち、インク誘導孔10の先端部8Aにおける部分には、図2及び図3に示すように、筆記ボール2を回転自在に収納する筆記ボール室であるボールハウス11と、逆止ボール7を収納するとともに、ボールハウス11よりも縮径された逆止ボール室12と、逆止ボール室12の内周面を凹ませた複数の溝であって、ホルダー8の中心軸に対して放射状に配列された放射状溝13と、ホルダー8の後端から先端部8Aの近傍の部分まで延びたインク誘導路14と、逆止ボール室12及びインク誘導路14の境界部分を縮径した絞り部15とが設けられている。
【0030】
ボールハウス11は、ホルダー8の先端部分に、筆記ボール2を一部露出させる開口部20を有している。開口部20の周辺に配置されたホルダー8の側壁は、筆記ボール2がボールハウス11から抜け出さないように、筆記ボール2側にかしめられているカシメ部21となっている。また、ボールハウス11には、逆止ボール室12との境界部分に沿って環状段付部22が形成されている。この環状段付部22の内側の端縁には、筆記ボール2を受ける受座部23が形成されている。なお、ボールハウス11は、筆記ボール2の縦方向及び横方向のガタツキを僅かに許容する大きさの空間となっている。
【0031】
逆止ボール室12は、逆止ボール7の縦方向及び横方向のガタツキを許容する大きさの空間である。逆止ボール室12における逆止ボール7の縦方向のガタツキは、ボールハウス11における筆記ボール2の縦方向のガタツキよりも大きくなっている。また、逆止ボール室12における逆止ボール7の横方向のガタツキは、ボールハウス11における筆記ボール2の横方向のガタツキよりも大きくなっている。そして、逆止ボール室12における逆止ボール7の縦方向のガタツキは、横方向のガタツキよりも大きくなっている。尚、逆止ボール7は、筆記時、筆記ボール2に接する位置まで移動する。
【0032】
放射状溝13は、インク誘導孔10の一部である逆止ボール室12の内周面を切削することにより形成されたチャンネルであり、ホルダー8の軸方向に延びるものとなっている。放射状溝13の絞り部15側の端部は、逆止ボール室12の内周面における中間部分に配置されている。放射状溝13の筆記ボール2側の端部は、ボールハウス11の内部に開口されている。
【0033】
ここで、インク誘導孔10の一部である逆止ボール室12の内周面には、放射状溝13を切削した際に生じたチャンネルバリを削除した後の痕跡である凸部24及び凹部25とが形成されている。そして、凸部24が逆止ボール7の表面に接触することにより、逆止ボール7の表面と凹部25との間にインク溜まりとなる空間が設けられている。
【0034】
絞り部15には、逆止ボール室12の内部に臨む環状段付面26を有している。この環状段付面26の内側の端縁には、逆止ボール7を受ける受座部27が形成されている。ここにおいて、逆止ボール7は、ボールペンのペン先を上に向けると、受座部27に着座し、絞り部15の開口を閉鎖するようになっている。これら逆止ボール7及び絞り部15により、逆止弁機構が形成されている。そして、この逆止弁機構により、上向き筆記時において、ボールハウス11に誘導されたゲルインク4がインク誘導路14側へ逆流することが防止されるようになっている。
【0035】
このようなボールペンチップ3において、ホルダー8の材質としては、切削でホルダー8を製造する場合、ステンレス、洋白、黄銅等の金属材料が選択でき、射出成形で製造する場合は、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂等の熱可塑性樹脂材料が採用できるが、耐久性等の観点から、ホルダー8は、金属材料を採用し、切削で製造することが好ましい。
また、筆記ボール2の直径は、0.4mm〜1.2mm、好ましくは、0.4mm〜0.7mmの範囲に設定することができる。筆記ボール2の材質としては、超硬合金及びステンレス等の金属材料、並びに、セラミック等の焼結材料が採用できる。
【0036】
逆止ボール7の直径は、筆記ボール2と同程度に設定できるが、筆記ボール2よりも若干小径に設定するのが好ましい。例えば、0.31mm〜0.5mm、好ましくは、0.31mm〜0.38mmの範囲に設定することができる。このように、逆止ボール7の直径が、0.31mm〜0.38mmの範囲に設定された場合、逆止ボール室12の内径は、0.35mm〜0.42mmの範囲に設定することができる。
また、逆止ボール7の材質としては、超硬合金及びステンレス等の金属材料、セラミック等の焼結材料、並びに、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂等の熱可塑性樹脂材料が採用できる。
【0037】
カシメ部21および筆記ボール2のクリアランスC(図2参照)は、ゲルインク4の吐出量が充分確保できるように設定される。ゲルインク4が通常のゲルインクである場合、クリアランスCは、10〜50μmの範囲に設定するのが好ましい。一方、ゲルインク4が顔料として粗大粒子を含むゲルインクである場合、クリアランスCは、50〜150μmの範囲に設定するのが好ましい。
【0038】
次に、本実施形態のボールペンチップ3の筆記動作について説明する。
ペン先が下向きとなった通常筆記時には、図4に示すように、逆止ボール室12内の逆止ボール7が筆記ボール2側へ移動し、受座部27から離れる。これにより、絞り部15が開口され、インク誘導路14まで誘導されてきたゲルインク4は、絞り部15を通り抜ける。そして、ゲルインク4は、逆止ボール室12及び逆止ボール7の隙間及び放射状溝13を順次通って、ボールハウス11内の筆記ボール2まで到達し、筆記ボール2の回転に伴って紙面Pに転写される。これにより、文字等を表す線が描かれることとなる。
【0039】
ペン先が上向きとなった上向き筆記時には、図5に示すように、逆止ボール室12内の逆止ボール7が絞り部15側へ移動し、受座部27に着座する。これにより、絞り部15が閉鎖され、ボールハウス11まで誘導されてきたゲルインク4は、絞り部15を通り抜けることができない。これにより、ペン先が上向きとなっても、ゲルインク4が逆流することがない。また、ゲルインク4の逆流が防止されることから、ボールハウス11の内部に大容積の空気が溜まることがないので、空気が進入しても、通常筆記に短時間で復帰でき、復帰時間が短くなる。
【0040】
以下に、本実施形態のボールペンチップ3の製作手順について説明する。
まず、切削加工等により、図6に示すように、棒状の母材をボールペンチップ3の外形形状に加工して、ボールペンチップ3のホルダー8となる中間加工物30を作製する。この後、ボール盤等の穿孔加工機械により、中間加工物30に、その中心軸に沿って延びるバック孔31(インク誘導路14)を形成するとともに、図7にも示すように、中間加工物30のペン先側の端面に、その中心点を案内するセンター穴32を形成する。
【0041】
次に、ボール盤等の穿孔加工機械で中間加工物30を切削して、図8に示すように、中間加工物30にボールハウス11、逆止ボール室12及び絞り部15を形成する。この際、ボールハウス11、逆止ボール室12及び絞り部15を切削する順序は、以下のa)〜d)のいずれでもよい。
a)逆止ボール室12、絞り部15、ボールハウス11の順で切削を行う。
b)逆止ボール室12、ボールハウス11、絞り部15の順で切削を行う。
c)絞り部15、逆止ボール室12、ボールハウス11の順で切削を行う。
d)ボールハウス11、逆止ボール室12、絞り部15の順で切削を行う。
【0042】
この後、溝切り用のブローチ33を用いて、逆止ボール室12の内周面を切削し、図9に示すように、逆止ボール室12の内周面に複数の放射状溝13を形成する。この際、ブローチ33で放射状溝13を切削すると、逆止ボール室12の内周面には、放射状溝13のインク誘導路14側の部分にチャンネルバリ34が生じる。
放射状溝13の形成を完了した後、仕上げ用のブローチ35を用いて、チャンネルバリ34を削除する。この際、チャンネルバリ34を完全に削除せず、図10に示すように、逆止ボール室12の内周面にチャンネルバリ34の痕跡が一部残るように削除を行い、削除後の痕跡である凸部24及び凹部25を形成する。
【0043】
続いて、図11に示すように、逆止ボール室12の内部に逆止ボール7を入れ、この後、図12に示すように、ボールハウス11の内部に筆記ボール2を入れ、ホルダー8の内部において、逆止ボール7と筆記ボール2とを若干の隙間をおいて近接配置する。
【0044】
次いで、開口部20の周辺に配置されたホルダー8の側壁を筆記ボール2に向かってかしめ、図13に示すように、筆記ボール2をボールハウス11から抜け出さないようにするカシメ部21を形成する。
【0045】
カシメ部21の形成の後、プレス装置等に駆動されるハンマー36により、ボールハウス11内に収納された筆記ボール2をたたく。これにより、図14に示すように、筆記ボール2とカシメ部21との間に、所定寸法のクリアランスCを形成するとともに、ボールハウス11に筆記ボール2を受ける受座部23を形成する。以上により、ボールペンチップ3の製作が完了する。
【0046】
前述のような本実施形態によれば、次のような効果が得られる。
すなわち、ホルダー8の内部に、筆記ボール2と逆止ボール7とを、若干の隙間をおいて近接配置したので、筆記ボール2と逆止ボール7との間には、僅かな空間しか形成されず、空気がカシメ部21から内部に進入しても、内部に溜まる空気の体積は僅かなものとなる。このため、上向き筆記や衝撃等により、内部に空気が入っても、僅かな体積の空気溜まりは速やかに解消されるので、筆記が再開されるまでの復帰時間を短くでき、速やかに通常の筆記を再開できる。
【0047】
また、筆記ボール2及び逆止ボール7の両方をボールペンチップ3の先端側に設け、且つ、両方ともボールハウス11側からホルダー8内に収納するようにしたので、当該ボールペンチップ3を製造するにあたり、逆止ボール7をボールペンチップ3に取り付けて逆止弁機構を形成する作業と、筆記ボール2をボールペンチップ3に取り付ける作業とを、速やかに連続する一連の作業として行え、且つ、これらの作業を行う際に、ボールペンチップ3を引っ繰り返す必要がない。このため、逆止弁機構を設けても、加工工程が増加せず、単純な作業工程で製造が行え、逆止弁機構を備えたボールペンの製造コストを低減できる。
【0048】
さらに、筆記ボール2よりも逆止ボール7を小径とし、且つ、ボールハウス11の後端側に、ボールハウス11よりも直径が小さい逆止ボール室12を設けたので、この逆止ボール室12の中に逆止ボール7を入れた後、ボールハウス11の中に筆記ボール2を入れ、先端部分をかしめて、筆記ボール2の抜け止めを施すことにより、ボールペンチップ3を容易に製造することができる。ここで、逆止ボール室12の加工作業や、逆止ボール7及び筆記ボール2のボールペンチップ3への収納作業に何ら困難性が生じないので、逆止弁機構を設けても、加工工程が増加せず、容易に行える作業で製造が行え、この点からも、逆止弁機構を備えたボールペンの製造コストを低減することができる。
【0049】
また、逆止ボール7の縦ガタを、筆記ボール2の縦ガタよりも大きくし、逆止弁機構に設けられる弁ポートである絞り部15の開放量を充分確保したので、筆記にあたり、筆記ボール2に供給されるインクの量が不足せず、インク不足によるカスレの発生を未然に防止できる。一方、ボールペンチップ3の先端部分に設けられる筆記ボール2の縦ガタは、逆止ボール7の縦ガタよりも充分小さくし、スムースな筆記が行えるように設定することができ、これにより、カスレがなくスムースな筆記を行うことができる。
【0050】
さらに、逆止ボール7の横ガタを、筆記ボール2の横ガタよりも大きくし、筆記時に逆止ボール室12の内周面と逆止ボール7との間の隙間の幅寸法を充分確保したので、筆記ボール2に供給されるインクの量が不足せず、インク不足によるカスレの発生を未然に防止できる。一方、ボールペンチップ3の先端部分に設けられる筆記ボール2の横ガタは、逆止ボール7の横ガタよりも充分小さくし、スムースな筆記が行えるように設定することができ、これによっても、カスレがなくスムースな筆記を行うことができる。
【0051】
また、逆止ボール室12の内周面に、チャンネルバリ34を削除した後の痕跡である凸部24及び凹部25を形成し、逆止ボール7の表面と凹部25との間に空間が形成されるようにしたので、この空間に、通常筆記時においてカスレの発生を防止するのに充分な量のゲルインク4を溜めることができる。その上、凸部24が逆止ボール7の表面に接触するので、必要以上に大きな横ガタの発生を防止できる。これにより、必要量のゲルインク4を溜めることができるインク溜まりを確保することができるうえ、逆止ボール7の横ガタ量を最適化することができる。
【0052】
さらに、ゲルインク4で筆記を行うゲルインクボールペンのボールペンチップ3に、逆止ボール7及び絞り部15等を含んで構成される逆止弁機構を設け、内部に空気が入っても、内部に溜まる空気の体積を僅かなものとし、空気溜まりを速やかに解消するようにしたので、筆記が再開されるまでの復帰時間が短くなり、速やかに通常の筆記を行うことができる。このため、ゲルインクボールペンにおいて顕著であった衝撃カスレによる不具合は最低限に抑えられ、ゲルインクボールペン、特に、筆記ボール2の直径が7mm以上のゲルインクボールペンの使い勝手を向上することができる。
【0053】
また、インク誘導孔10となるボールハウス11、逆止ボール室12及びインク誘導路14を切削する切削工程、放射状溝13を切削する切削工程、チャンネルバリ34を除去する除去工程、並びに、逆止ボール7及び筆記ボール2をホルダー8内に挿入する挿入工程を順次行い、製造工程において困難性が何ら生じないようにしたので、逆止弁機構を設けても、加工工程が複雑化せずに簡単に行え、逆止弁機構を備えたボールペンを容易に製造することができ、その製造コストを低減することができる。
【0054】
図15及び図16には、本発明の第2実施形態が示されている。図15は本第2実施形態に係るリフィールの要部を示す拡大断面図、図16は図15のXVI−XVI線における断面図である。
本第2実施形態は、前記第1実施形態における筆記ボール2よりも小径の逆止ボール7を、筆記ボール2と同じ大きさの逆止ボール7Aとしたものである。
【0055】
すなわち、本第2実施形態に係るリフィール1は、前記第1実施形態と同様に、ゲルインク4で筆記を行うためのものであり、その先端部分にボールペンチップ3Aを有している。ボールペンチップ3Aは、図15に示すように、互いに同じ寸法の直径を有する筆記ボール2及び逆止ボール7Aと、その先端部18A の内部に筆記ボール2及び逆止ボール7Aを収納しているホルダー18とを備えている。なお、図15において、筆記ボール2の直径D1と、逆止ボール7Aの直径D2とが等しいものとなっている。
【0056】
ホルダー18は、前記第1実施形態のホルダー8と同様に、その長手方向に延びて、当該ホルダー18を貫通するインク誘導孔10A を有している。このインク誘導孔10A は、ホルダー18の先端部18A の内部における部分の内径が変化した、凹凸のある内周面を備えている。具体的には、インク誘導孔10A の先端部18A における部分には、筆記ボール2を収納するボールハウス11A と、逆止ボール7を収納する逆止ボール室12A と、ホルダー18の後端から先端部18A の近傍の部分まで延びたインク誘導路14と、逆止ボール室12A 及びインク誘導路14の境界部分を縮径した絞り部15とが設けられている。
【0057】
この際、逆止ボール室12は、その内径D3が逆止ボール7の直径D2よりも一回り大きくされている。これにより、逆止ボール室12の内周面と逆止ボール7の表面との間に充分広い隙間が形成され、この隙間を通じて充分な量のゲルインク4が流通するようになっている。そして、逆止ボール室12の内周面からは、前記第1実施形態における放射状溝13が省略されている。
【0058】
また、逆止ボール室12の内径D3は、ボールハウス11A の内径D4にほぼ等しい大きさとなっている。ホルダー18の側壁のうち、逆止ボール室12とボールハウス11A との境界となる境界部分は、部分的にカシメられている。これにより、当該環状部分には、図15及び図16に示すように、ホルダー18の側壁の内周面から内側に突出するとともに先細りとなった円錐状の受部19が形成されている。受部19の先端部分には、筆記ボール2を受ける受座部19A が形成されている。
【0059】
このような本第2実施形態においても、前記第1実施形態と同様な作用、効果を奏することができる他、次のような効果を付加できる。
すなわち、筆記ボール2と同じ大きさの逆止ボール7Aを採用したので、筆記ボール2及び逆止ボール7Aを同じ部品とすることができ、部品の種類が低減され、ボールペンを大量生産する場合、製造コストを大幅に軽減することができる。
【0060】
【実施例】
次に、本発明の効果を具体的な実施例に基づいて説明する。
[実施例1]
本実施例1は、前記第1実施形態に基づいたボールペン1を用いて行う実験である。本実施例1のボールペン1は、市販のボールペン(三菱鉛筆株式会社製、型番UM−151)のボールペンチップを、図17に示すように、筆記ボール2とともに逆止ボール7を備えたボールペンチップ3に換装したものである。
このボールペン1は、以下に示す仕様を有するものである。なお、図17において、逆止ボール室12の内周面に形成されている凸部24は、図示が省略されている。
【0061】
(ボールペン1の仕様)
(a) 各部の寸法(図17参照)
ボールペンチップ3の絞り部の内径D1:0.30mm
逆止ボール7の直径D2 :0.38mm
逆止ボール室12の内径D3 :0.42mm
ボールハウス11の内径D4: :0.72mm
筆記ボール2の直径D5 :0.70mm
筆記ボール2の突出寸法P1 :0.21mm
(ボールペンチップ3先端からの突出量)
放射状溝の幅W1 :0.12mm
【0062】
(b) 各部の材質
ボールペンチップ3のホルダー8:フェライト系ステンレス鋼SUS430
筆記ボール2及び逆止ボール7 :超硬合金ボール
継手部材6 :ポリプロピレン又はポリアセタール等の合成樹脂
インク収納管5 :ポリプロピレン等の合成樹脂
【0063】
(c) ゲルインク4の組成等
粘度特性:摂氏25度、剪断速度38.4sec-1における粘度が100mPa・sec
組成 :カーボンブラック7.0重量%、スチレンアクリル酸樹脂アンモニウム基3.0重量%、エチレングリコール20.0重量%、カリセッケン(潤滑剤)0.4重量%、ナトリウムオマジン(防腐剤)0.2重量%、アミノメチルプロパノール(pH調整剤)0.3重量%、ベンゾトリアゾール(防錆剤)0.2重量%、ポリアクリル塩酸(アクリル系合成高分子)0.1重量%、イオン交換水
【0064】
[比較例1]
本比較例1は、前記実施例1のボールペン1から逆止ボール7を省略したボールペン60を用いて行う実験である。
すなわち、本比較例1のボールペン60は、図18に示すように、そのボールペンチップ61の内部から逆止ボール7が省略されている点、並びに、ボールペンチップ61のホルダー62から絞り部15及び凸部24が省略されている点以外は、前記実施例1のボールペン1と同一のものである。
【0065】
[比較例2]
本比較例2は、前記実施例1において近接配置された筆記ボール2と逆止ボール7との距離を著しく拡大したボールペン70を用いて行う実験である。
本比較例2のボールペン70は、図19に示すように、前記比較例1における継手部材6の替わりに、内周面に絞り部71が形成されるとともに、内部に逆止ボール72を収納するようにした継手部材73を設けた点以外は、前記比較例1のボールペン60と同一のものである。
更に具体的に説明すると、継手部材73が有する絞り部71は、継手部材73の長手方向における中間位置に配置されるとともに、継手部材73の内周面から内側に突出している。このような絞り部71とボールペンチップ61の端部との間に、逆止ボール72が配置されている。これにより、ボールペン70のペン先を上に向けると、逆止ボール72が絞り部71を閉鎖し、内部のゲルインク4の著しい逆流が防止されるようになっている。
【0066】
〔実験方法〕
前述の実施例1及び比較例1,2について、その評価を行う実験として、以下の(1) 〜(3) に記載する試験を行う。なお、実施例1及び比較例1,2の各々について、5個のサンプルを用意し、これら5個のサンプルのそれぞれに対して、以下の(1) 〜(3) の試験を行う。
(1) 逆流試験
ペン先を上に向けた状態で、直径20〜25mmの円をフリーハンドで描く逆向き描線動作を開始し、描線が途切れてから10〜15周の円を描いた後、逆向き描線動作を完了する。ここで、本逆流試験の逆向き描線動作における筆記速度は、3〜5周/秒で行う。そして、ペン先を上に向けた状態を維持したまま、ボールペンを放置し、逆向き描線動作の完了から30秒が経過するまでの間に、インク収納管5の後端からゲルインク4が漏れないか否かを目視により判定する。
【0067】
(2) 逆流復帰試験
ペン先を上に向けた状態で、直径20〜25mmの円をフリーハンドで描く逆向き描線動作を開始し、描線が途切れてから3〜5周の円を描いた後、逆向き描線動作を完了する。ここで、本逆流試験の逆向き描線動作における筆記速度は、3〜5周/秒で行う。逆向き描線動作を完了したら、直ちに、ペン先を下に向け、この状態で、直径20〜25mmの円をフリーハンドで描く順向き描線動作を開始する。ここで、本逆流復帰試験の順向き描線動作における筆記速度は、3〜5周/秒で行う。そして、ペン先を下に向けてから通常の描線が描かれるまでの間に生じたカスレ線の長さを測定する。
【0068】
(3) 衝撃カスレ試験
ペン先とは反対の端部である後端部を上にするとともに、この後端部の高さレベルがガラス板から60〜80cmとなるように、ボールペンをガラス板上方の所定位置に配置し、この所定位置から3回、ボールペンを落下させる。3回の落下の後、直ちに、ペン先を下に向け、この状態で、直径20〜25mmの円をフリーハンドで描く順向き描線動作を開始する。ここで、本衝撃カスレ試験の順向き描線動作における筆記速度は、3〜5周/秒で行う。そして、順向き描線動作を開始してから通常の描線が描かれるまでの間に生じたカスレ線の長さを測定する。
【0069】
〔実験結果〕
表1に、前述の逆流試験、逆流復帰試験及び衝撃カスレ試験の実験結果を示す。
【0070】
【表1】
Figure 0004318245
【0071】
以上のような試験結果から、本発明に基づく実施例1によれば、ゲルインク4の逆流は僅かなものとなり、インク収納管5の後端からゲルインク4の漏れを防止できることが判る。また、逆向き描線動作により描線が途切れても、順向き描線動作に移行すれば、速やかに通常の描線を開始できることが判る。さらに、衝撃を加えても、衝撃により著しいカスレの発生を抑制できることが判る。
【0072】
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲において、その変形及び改良をも含むものである。
すなわち、ボールペンとしては、ゲルインクで筆記を行うものに限らず、油性インクで筆記を行う油性ボールペン又は水性インクで筆記を行う水性ボールペンでもよい。
また、図20に示すように、油性インク4Bを内部に収納するインク収納管5Aが比較的細身となる場合、ボールペンチップ3と直接連結できるので、ボールペンチップ3との連結に、直径が著しく異なる部材同士を連結するための継手部材6が不要となり、リフィール1Aとしては、インク収納管5Aとボールペンチップ3とを直接連結したものが採用できる。同様に、ゲルインクあるいは水性インク内部に収納するインク収納管が比較的細身となる場合にも、インク収納管とボールペンチップとが直接連結できるので、リフィールとしては、インク収納管とボールペンチップとを直接連結したものが採用できる。
【0073】
【発明の効果】
本発明は、以上のように構成されているので、以下に記載されるような効果を奏する。
発明の効果)
第1発明によれば、次のような効果を奏する。
すなわち、第1発明によれば、筆記ボールと逆止ボールとを、若干の隙間をおいて近接配置したので、筆記ボールと逆止ボールとの間には、僅かな空間しか形成されず、空気がカシメ部から内部に進入しても、内部に溜まる空気の体積は僅かなものとなる。このため、上向き筆記や衝撃等により、内部に空気が入っても、僅かな体積の空気溜まりは速やかに解消されるので、筆記が再開されるまでの復帰時間が短くなり、速やかに通常の筆記に復帰できる。
【0074】
また、筆記ボール及び逆止ボールの両方をボールペンチップの先端側に設けたので、当該ボールペンを製造するにあたり、逆止ボールを取り付けて逆止弁機構を形成する作業と、筆記ボールを取り付ける作業とを、速やかに連続する一連の作業として行え、且つ、これらの作業を行う際に、ボールペンチップを引っ繰り返す必要がない。このため、逆止弁機構を設けても、加工工程が増加せず、単純な作業工程で製造が行え、逆止弁機構を備えたボールペンの製造コストを低減することができる。
【0075】
発明の効果)
第2発明によれば、上記した第1発明の効果に加え、次のような効果を奏する。
すなわち、第2発明によれば、逆止ボールとして、筆記ボールよりも小径のものを採用したので、ボールペンチップの先端部分に、先端側よりも後端側の直径が小さくなっているとともに、インクが通るインク通路として、段付のインク誘導孔を形成し、この段付のインク誘導孔の中に逆止ボールを入れた後、当該段付のインク誘導孔の中に筆記ボールを入れ、先端部分をかしめて、筆記ボールの抜け止めを施すことで、ボールペンチップを容易に製造できる。ここで、段付のインク誘導孔の加工作業や、逆止ボール及び筆記ボールのボールペンチップへの挿入作業に困難性が何ら生じないので、逆止弁機構を設けても、加工工程が増加せず、容易に行える作業で製造が行え、逆止弁機構を備えたボールペンの製造コストを低減することができる。
【0076】
発明の効果)
第3発明によれば、上記した発明又は第2発明の効果に加え、次のような効果を奏する。
すなわち、第3発明によれば、逆止ボールの縦ガタを充分大きく設定することができ、弁ポートが開放量を充分確保できるので、筆記にあたり、筆記ボールに供給されるインクの量が不足せず、インク不足によるカスレの発生が未然に防止される。一方、ボールペンチップの先端部分に設けられる筆記ボールの縦ガタは、逆止ボールの縦ガタよりも小さければよいので、スムースな筆記が行えるように設定でき、これにより、カスレがなくスムースな筆記を行うことができる。
【0077】
発明の効果)
第4発明によれば、上記した発明から発明までのいずれかの効果に加え、次のような効果を奏する。
すなわち、第4発明によれば、逆止ボールの横ガタを充分大きく設定することができ、インクが通る隙間の幅寸法も充分確保できるので、筆記にあたり、筆記ボールに供給されるインクの量が不足せず、インク不足によるカスレの発生が未然に防止される。一方、ボールペンチップの先端部分に設けられる筆記ボールの横ガタは、逆止ボールの横ガタよりも小さければよいので、スムースな筆記が行えるように設定でき、これによっても、カスレがなくスムースな筆記を行うことができる。
【0078】
発明の効果)
第5発明によれば、上記した発明から発明までのいずれかの発明の効果に加え、次のような効果を奏する。
すなわち、第5発明によれば、インク誘導孔の内周面に、チャンネルバリを削除した後の痕跡である凸部及び凹部を形成し、逆止ボールの表面と凹部との間に空間が形成されるようにしたので、この空間に、通常筆記時においてカスレの発生を防止するのに充分な量のインクを溜めることができる。その上、凸部が逆止ボールの表面に接触するので、必要以上に大きな横ガタの発生を防止できる。これにより、必要な量のインクを溜めることができるインク溜まりを確保できるうえ、逆止ボールの横ガタ量を最適なものにすることができる。
【0079】
発明の効果)
第6発明によれば、次のような効果を奏する。
すなわち、第6発明によれば、内部に空気が入っても、内部に溜まる空気の体積が僅かなものとなり、僅かな体積の空気溜まりは速やかに解消されるので、筆記が再開されるまでの復帰時間が短く、速やかに通常の筆記が行えるようになる。このため、ゲルインクボールペンにおいて顕著であった衝撃カスレによる不具合は最低限に抑えられ、ゲルインクボールペンの使い勝手を向上することができる。
【0080】
発明の効果)
第7発明によれば、次のような効果を奏する。
すなわち、第7発明によれば、インク誘導孔の切削工程、チャンネルの切削工程、チャンネルバリの除去工程、並びに、逆止ボール及び筆記ボールの挿入工程を順次行うことにより、製造工程において困難性が何ら生じることがなく、逆止弁機構を設けても、加工工程が複雑化せずに簡単に行え、逆止弁機構を備えたボールペンの製造が容易となり、その製造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施形態に係るボールペンのリフィールを示す断面図である。
【図2】前記実施形態の要部を示す拡大断面図である。
【図3】図2のIII−III線における断面図である。
【図4】前記実施形態の通常筆記時における作用を説明するための図である。
【図5】前記実施形態の上向き筆記時における作用を説明するための図である。
【図6】前記実施形態に係るボールペンチップの製造の工程を説明するための断面図である。
【図7】図6の工程の後に行われる工程を説明するための断面図である。
【図8】図7の工程の後に行われる工程を説明するための断面図である。
【図9】図8の工程の後に行われる工程を説明するための断面図である。
【図10】図9の工程の後に行われる工程を説明するための断面図である。
【図11】図10の工程の後に行われる工程を説明するための断面図である。
【図12】図11の工程の後に行われる工程を説明するための断面図である。
【図13】図12の工程の後に行われる工程を説明するための断面図である。
【図14】図13の工程の後に行われる工程を説明するための断面図である。
【図15】本発明の第2実施形態に係るボールペンチップを示す断面図である。
【図16】図15のXVI−XVI線における断面図である。
【図17】本発明に基づく実施例1を示す平断面図及び縦断面図である。
【図18】比較例1を示す平断面図及び縦断面図である。
【図19】比較例2を示す縦断面図である。
【図20】本発明の変形例に係るリフィールを示す断面図である。
【符号の説明】
1 リフィール 1A リフィール
2 筆記ボール 3 ボールペンチップ
3A ボールペンチップ 4 ゲルインク
4A フォロアー 4B 油性インク
5 インク収納管 5A インク収納管
6 継手部材 7 逆止ボール
7A 逆止ボール 8 ホルダー
8A 先端部 8B 段付部
10 インク誘導孔 10A インク誘導孔
11 ボールハウス 11A ボールハウス
12 逆止ボール室 12A 逆止ボール室
13 放射状溝 14 インク誘導路
15 絞り部 18 ホルダー
18A 先端部 19 受部
19A 受座部 20 開口部
21 カシメ部 22 環状段付部
23 受座部 24 凸部
25 凹部 26 環状段付面
27 受座部 30 中間加工物
31 バック孔 32 センター穴
33 ブローチ 34 チャンネルバリ
35 ブローチ 36 ハンマー

Claims (2)

  1. 筆記ボールと、前記筆記ボールよりも小径である逆止ボールとを備え、インクを前記筆記ボールに誘導するためのインク誘導孔と、このインク誘導孔の内周面を切削することにより形成されたチャンネルと、前記チャンネルを切削した際に生じたチャンネルバリを削除した後の痕跡である凸部及び凹部とが形成され、前記凸部が前記逆止ボールの表面に接触することにより、前記逆止ボールの表面と前記凹部との間にインク溜まりとなる空間が設けられているボールペンチップであって、
    前記筆記ボールと前記逆止ボールとは、ペン先が上向きとなった上向き筆記時において互いの間に隙間を有する状態で近接配置されており、かつ、前記逆止ボールの縦ガタ及び横ガタは、前記筆記ボールの縦ガタ及び横ガタよりもそれぞれ大きいことを特徴とするボールペンチップ。
  2. 筆記ボールと、前記筆記ボールへインクを誘導するためのインク誘導孔をペン先が上向きとなった上向き筆記時において閉鎖する逆止ボールとを備えたボールペンチップの製造方法であって、
    前記インク誘導孔を切削する工程と、
    前記インク誘導孔の内周面にチャンネルを切削する工程と、
    前記チャンネルを切削した際に生じたチャンネルバリを除去する工程と、
    前記インク誘導孔の内部に前記逆止ボール及び前記筆記ボールを入れる工程とを備えていることを特徴とするボールペンチップの製造方法。
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