以下、本発明の好ましい実施例について図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施例である車車間通信システムのシステム構成図である。本実施例の車車間通信システムは、車車間通信用ECU16(車車間通信用電子制御ユニット)を中心として構成されている。車車間通信用ECU16は、図示しないバスを介して相互接続されたCPU、ROM、及びRAM等からなるマイクロコンピュータとして構成されている。ROMには、CPUが実行する各種プログラムが格納されている。
車車間通信用ECU16には、ナビゲーション装置26が接続されている。ナビゲーション装置26は、地図データが記録されているDVD,CD−ROM等の記録媒体や、GPSアンテナを介してGPS衛星が出力するGPS信号を受信するGPS(Global Positioning System)受信機26A等を備えている。ナビゲーション装置26は、GPS信号や各種センサ(ジャイロセンサやヨーレートセンサ等)から供給された信号に基づいて、現在の車両位置及び車両方位を演算している。この演算結果を表わす電気信号は、後述する如く、ゲートウェイ装置14に入力される。
ナビゲーション装置26の地図データには、地図上の交差点や高速道路の合流点/分岐点に各々対応する各ノードの座標、信号機の設置地点の座標、ポリゴン図形の各頂点の座標及びポリゴン図形の3次元表示用の高さ、隣接するノードを接続するリンク、各リンクに対応する道路の幅員、各隣接ノード間の距離および旅行時間、各リンクに対応して記憶された国道・県道・高速道路等の道路種別等が含まれている。ナビゲーション装置26の地図データ内の情報は、後述する如く、必要に応じて車車間通信用ECU16により利用される。
車車間通信システムは、車車間通信送信機/受信機10(以下、単に「送受信機10」という)を備えている。送受信機10は、車車間通信用のアンテナ10Aを備え、無線周波数帯の電波(例えば、60GHz帯のミリ波)を送受信することにより他車との車車間通信を実現する。通信方式には、スペクトラム拡散方式が採用されてよい。尚、本明細書中の「発明の実施の形態」の欄の記載において、通信対象の車両には、特に示さない限り、複数の車両(二輪車を含む)のみならず、複数の人(例えば、歩行者)、自転車、車椅子等が含まれる。
送受信機10には、高速通信バス等の適切なバスを介して信号処理装置12が接続されている。信号処理装置12には、高速通信バス等の適切なバスを介してゲートウェイ装置14及び車車間通信用ECU16が接続されている。ゲートウェイ装置14は、信号処理装置12と車両の各種制御装置や各種情報装置等との間を相互接続している。ゲートウェイ装置14には、ナビゲーション装置26、オーディオ装置、カメラや携帯電話等を含むマルチメディア系装置20、車両の搭載された各種制御装置や各種センサ等を含む制御系装置22、及び、車両の搭載される各種電装部品24が、高速通信バス等の適切なバスを介して接続されている。従って、ゲートウェイ装置14には、図1に示すように、ナビゲーション装置26等の情報装置の各種状態を示す状態信号や画像信号、各種制御装置による制御信号、各種センサによる検出信号、各種スイッチのオン/オフ信号等々の多種多様な信号(以下、「自車情報信号」という)が入力される。
ゲートウェイ装置14に入力される自車情報信号は、信号処理装置12に送出される。信号処理装置12は、送受信する情報データを一時的に格納する送受信データバッファ12Aを備えている。信号処理装置12は、車車間通信用ECU16による制御下で、自車情報信号に含まれる各種自車情報を送受信データバッファ12Aに格納すると共に、当該各種自車情報から所定の情報のみを抽出して送信データを生成する(尚、この処理については後に詳説する)。送信データは、車車間通信用ECU16や送受信機10等に送出され、送受信機10のアンテナ10Aを介して所定の周期で送信される。尚、送受信データバッファ12Aに格納される各種自車情報は、ゲートウェイ装置14からの入力毎に更新される。
ここで、図2乃至図4を参照して、信号処理装置12が生成する送信データのデータ構造について説明する。
図2は、送信データの基本的なデータ構造を示す。図2の送信データは、車車間通信が成立・開始される前に送信されるデータ(即ち、送信先が特定されていない送信データ)であり、車車間通信を行う対象車両の特定のために(車車間通信を行う前の相互認識のために)送信されてよい。
図2に示すように、送信データのデータ構造には、ベーシック・データ部と、それにそれぞれ先行及び後続するヘッダー部及びフッター部とが含まれている。ヘッダー部には、ベーシック・データ部のデータ内容を示す情報と共に必要な各種情報(例えば、送信サイクルの変更情報)が含まれており、ベーシック・データ部の開始位置を指示する。
ベーシック・データ部には、必須情報としてIDコードが含められる。IDコードは、各車両毎に付与された固有のコードであり、例えばIPアドレスであってよい。また、人や自転車等の場合のIDコードは、当該人(自転車等に乗車している人を含む)が所持している携帯機若しくは自転車等に備え付けられる携帯機に付与された固有コードであって、受信側が識別可能な固有コードであってよい。
また、ベーシック・データ部には、好ましくは、車両の位置情報及び車種情報が含められる。車両の位置情報は、現時点の自車の位置を示す情報であり、GPS受信機26Aが受信したGPS信号を基に演算された自車の位置情報(ゲートウェイ装置14に入力される自車情報信号に含まれている)であってよい。尚、人や自転車等の場合の位置情報は、ベーシック・データ部に含まれなくてもよい。但し、人や自転車等がGPS受信機を備えている場合(例えば、当該人がGPS受信機を内蔵する携帯電話を所持している場合)には、ベーシック・データ部に位置情報を含めることは可能である。車種情報は、自車の車種を受信側が判別可能なコードであり、例えば、四輪車にはナンバープレートの車種番号であってよく、二輪車の場合には排気量別に割り当てられた特定の英数字であってよく、人や自転車等の場合にも特定の英数字であってよい。
この送信データは、一定の送信サイクルで繰り返し送信されてよく、好ましくは、GPS受信機26Aによる自車の位置情報の更新サイクル(例えば、1sec)に合わせて決定される。但し、更新サイクル間に、車速センサ、ヨーレートセンサや加速度センサ等により自車の最新位置情報を推定・更新し、再送信の繰り返しが可能な場合には、更新毎に事前送信データの再送信が実行されてよい。特に、GPS受信機26AがGPS信号を受信できない状況下(例えば、トンネル内を走行している状況下)では、自車の最新位置情報の更新及び再送信が有用となる。
上述のIDコードを含む送信データは、上述の如く、送受信機10のアンテナ10Aを介して送信され、所定の領域内に存在する車両に受信される。このとき、自車周辺の他車が本実施例の車車間通信システムを備える場合には、当該他車からの同様の送信データが自車により受信される。従って、受信側では、送信データに含まれるIDコードを確認することで、複数の車両が密集している走行環境下(例えば、交差点付近や渋滞エリア)においても、当該受信データを提供する他車を確実に特定することができる。
ここで、このようにして他車からの送信データを受信した際の、本実施例の車車間通信システム18の動作(受信側の処理)について概説する。
再度図1を参照するに、送受信機10が受信した他車からの送信データは、信号処理装置12の送受信データバッファ12Aに格納される。信号処理装置12は、後述する各種の車車間通信利用システム18や車車間通信用ECU16等からの要求に応じて、送受信データバッファ12A内の他車の送信データから必要な他車情報のみを抽出し、車車間通信用ECU16等に送出する。
車車間通信用ECU16は、他車情報に含まれる他車の位置情報の履歴に基づいて、他車の走行速度及び進行方向(走行ベクトル)を算出する。また、車車間通信用ECU16は、自車の位置情報の履歴に基づいて、自車の進行方向(走行ベクトル)を算出し、算出した他車及び自車の進行方向に基づいて、自車の進行方向に対する他車の相対的な進行方向(自車の進行方向と他車の進行方向のなす角度であり、以下「交差角」という。)を算出する。更に、車車間通信用ECU16は、算出した他車及び自車の進行方向、及び、他車及び自車の位置情報に基づいて、他車が自車に対して接近する方向に進行しているか、若しくは、離反する方向に進行しているかを判断する。このとき、例えば、各走行ベクトルが進行方向で互いに交差し、且つ、交差角が所定の角度範囲内(例えば、90度を中心とした±20度の範囲)である場合、他車が自車に対して接近する方向に進行していると判断され、一方、交差角が所定の角度範囲内(例えば、90度を中心とした±20度の範囲)であるが、各走行ベクトルが進行方向で互いに交差しない場合、他車が自車から離反する方向に進行していると判断されてよい。
更に、車車間通信用ECU16は、他車が自車に対して接近する方向に進行していると判断した場合、各走行ベクトルの交点に他車が到達するまでの時間、若しくは、各走行ベクトルの交点と他車の位置との間の距離を、算出した他車及び自車の進行方向、他車及び自車の位置情報、及び、算出した他車の走行速度に基づいて算出する。尚、複数の他車からの送信データを受信している状況下では、車車間通信用ECU16は、他車毎に上述の算出・判断を実行する。これらの車車間通信用ECU16による算出・判断結果は、上述の送信データに付加情報として付加される。
図4は、付加情報を含む送信データのデータ構造を示す。付加情報は、車車間通信を行う対象車両が特定された場合に、送信データに組み込まれる。
図3に示すように、付加情報は、上述のベーシック・データ部にエクステンション・ヘッダー部を介して後続するエクステンション・データ部に組み込まれる。エクステンション・ヘッダー部には、エクステンション・データ部のデータ内容を示す情報が含まれており、エクステンション・データ部の開始位置を指示する。
エクステンション・データ部には、付加情報及び後述する通信抑圧交差点情報と共に、当該送信データの送信先の他車のIDコードが組み込まれる。尚、送信対象の他車が複数存在する場合、付加情報等を含む送信データは、送信対象毎に作成されてよく、或いは、エクステンション・データ部に送信対象のIDコードを複数個組み込んでもよい。また、エクステンション・データ部に組み込まれる付加情報は、後に詳説するが、送信対象の他車の必要性を考慮して選別されてよい。また、エクステンション・データ部には、付加情報以外にも、送受信データバッファ12Aに更新・格納されている自車情報のうちの適切な情報が選択的に組み込まれてよい。
このように送信データに送信先の他車のIDコードを含めることにより、当該送信データを受信した各他車は、当該IDコードを参照することで、当該送信データが自己に対して送信された情報であるか否かを判断することができる。また、送信データには、後に詳説するが、送信先の他車にとって必要である付加情報のみが選択・付加され、それ以外の場合には、図2の送信データが送信されるため、受信側の処理負担を最小限にすることができる。
尚、このようにして車車間通信で得られる付加情報は、車車間通信利用システム18により利用されることになる。車車間通信利用システム18には、自車と他車との相対関係(例えば、相対方位、相対速度、相対距離)に基づいて衝突の危険性を判断して警報の出力や車両の自動制御を行う車両安全システムや、先行車に追従するように車両を制御する車両追従制御システム等が含まれる。或いは、車車間通信利用システム18は、ゲートウェイ装置14を介して、信号処理装置12から直接的に各種自車情報と共に他車情報を取得し、当該取得した情報に基づいて各種所定の制御を行ってもよい。
ところで、上述のように車車間通信により複数の車両間で交換される各種情報は、各車両において上述の車車間通信利用システム18により利用され、運転者の利便性や車両走行の安全性を高める役割を果たす。しかしながら、送信データに無作為に又は全ての自車情報を組み込んだ場合には、受信側で利用できる情報の幅が広がる一方で、必要な情報のみを抽出するための受信側の処理負担が増大するという不都合が生ずる。特に車両が密集している走行環境下においては、受信する情報量が膨大となり、必要な情報のみを抽出するための受信側の処理負担が非常に大きくなる。この結果、運転者や車車間通信利用システム18への必要な情報の提供が遅れ、運転者の利便性や車両走行の安全性を高めるという車車間通信システムの本来的な機能が低下してしまうという不都合が生じる場合がある。
また、車車間通信は、上述の如く、原理的に回折しない高周波帯域(GHz帯)の電波やレーザ光等を利用しているため、車両周辺に建築物や大型車両等の通信遮蔽物体が存在する場合、通信遮蔽物体の存在状況によっては、車車間通信システムの本来的な機能が低下してしまうという不都合が生じる場合がある。即ち、高周波帯域の電波やレーザ光は原理的に回折しないため、例えば、通信遮蔽物体に起因した見通しの悪い交差点では、本来必要な情報を交換すべき車両間(交差点で出会う可能性のある車両同士)での車車間通信が抑圧され、車車間通信システムの本来的な機能が低下してしまうという不都合が生じる。換言すると、見通しの悪い交差点のような領域では、車車間通信システムが最も機能すべきであるにも拘らず、通信遮蔽物体により必要な車車間通信が抑圧されるので、膨大な情報の中から間接的に必要な情報を抽出する必要が生じ、受信側の処理負担の観点のみならず、運転者の利便性や車両走行の安全性の観点からも不都合が生じる。
これに対して、本実施例では、以下で詳説する本発明の特徴的な構成により、通信遮蔽物体の存在に起因して必要な車車間通信が抑圧される地点(以下、「通信抑圧交差点」という)を特定することができると共に、当該通信抑圧交差点付近を走行する際の安全性を高め、且つ、受信側の処理負担を低減することができる。
図4は、通信抑圧交差点の例として見通しの悪い交差点を示す本発明の説明図である。図4には、見通しの悪い交差点を画成する通信遮蔽物体(例えば、ビル等の建造物やトラック等)1,2,3及び4が示され、また、見通しの悪い交差点を往来する各車両A,B,C,D1,D2,D3及びD4が、必要に応じて時間の変化(t0,t1,t2、t3及びt4)と共に示されている。例えば、A(t1)は、時刻t1での車両Aの位置を示す。尚、車両A,B及びCは、走行道路Xを走行中の車両であり、車両D1,D2,D3及びD4は、走行道路Xに交差する交差道路Yを走行中の車両(以下、車両D1,D2,D3及びD4を「交差車両」という場合がある)である。また、各時刻t1,t2、t3及びt4は、t0<t1<t2<t3<t4の関係にある。
図4に示すように、車両A(t0)は、時刻t0で(図4の車両A(t0)参照)、通信遮蔽物体3,4の存在に起因して、交差車両D1,D2,D3及びD4と間での車車間通信が抑圧されている状態にある。この場合、車両A(t0)は、走行道路Xを走行中の車両B、Cとの間で車車間通信を行うことになる。即ち、車両Aは、時刻t0において、通信遮蔽物体3,4の存在に起因して、交差車両D1,D2,D3及びD4からの送信データを受信できない状態にある。尚、この車両Aに関する受信不能状態は、車両Aに後続する車両Bにおいても同様である。
一方、時刻t1になると(図4の車両A(t1)参照)、通信遮蔽物体3,4の影響がなくなり、車両Aは、交差車両D1,D2,D3及びD4から送信データを受信できる状態になる。即ち、車両Aに関して、時刻t1になると、交差車両D1,D2,D3及びD4からの送信データの受信不能状態が受信可能状態に遷移する。この受信可能状態は、車両Aが交差点を通過し(図4の車両A(t2)参照)、通信遮蔽物体1,2存在に起因して再び受信不能状態になるまで継続する。即ち、時刻t3になると(図4の車両A(t3)参照)、交差車両D1,D2,D3及びD4からの送信データの受信可能状態が受信不能状態に遷移する。
本実施例では、このように通信遮蔽物体の存在に起因して交差車両D1,D2,D3及びD4からの送信データの受信状態が変化すること(受信可能状態と受信不能状態との間の遷移)を利用して、通信抑圧交差点を検出すると共に、当該通信抑圧交差点における通信遮蔽物体の存在状況(又は、抑圧状況)を評価する。
具体的には、交差車両D1,D2,D3及びD4からの送信データの受信状態の変化は、車両Aが受信する他車からの送信データに含まれる他車情報により検出することができる。即ち、本実施例の車車間通信用ECU16は、上述の如く、他車の送信データに含まれる他車の位置情報の履歴、及び、自車の位置情報の履歴に基づいて、自車の進行方向と他車の進行方向がなす角度(交差角)を算出している。時刻t1以前(時刻t3以降も同様)には、交差車両D1,D2,D3及びD4からの送信データの受信が不能であるため、車両B及びCに関する交差角のみが算出される。従って、この交差角の算出結果には、車両B及びCが車両Aの走行道路Xを走行しているため、0度を中心としたある範囲内の角度のみが含まれる。一方、時刻t1〜t3では、車両B及びCからの送信データ以外に交差車両D1,D2,D3及びD4からの送信データが受信されるため、交差角の算出結果には、0度を中心としたある範囲内の交差角以外に、90度を中心としたある範囲内の交差角が含まれる。即ち、時刻t1において、新たなIDコード(交差車両D1,D2,D3及びD4のIDコード)が確認されると共に、交差角の算出結果に90度付近の交差角(交差車両D1,D2,D3及びD4に関する交差角)が突発的に出現する。従って、車車間通信用ECU16による交差角の算出結果を常時監視し、交差角の算出結果に90度付近の交差角が突発的に出現した時点を検出することで、交差車両D1,D2,D3及びD4との間での突発的な通信の開始、即ち通信抑圧交差点の存在の可能性を検出することができる。
この際、車車間通信用ECU16は、当該突発的な通信が開始された地点が実際に交差点付近であるか否かを判断するため、当該突発的な通信により得られた情報に基づいて交差車両D1,D2,D3及びD4の位置と自車の位置の関係を評価する。具体的には、車車間通信用ECU16は、交差車両D1,D2,D3及びD4の各位置と自車の位置とを結ぶ線分と、自車の走行ベクトルとのなす角度θ(図4参照)が、90度を中心とした所定の角度内であるか否かを判断する。角度θが90度を中心とした所定の角度内である場合には、突発的な通信が開始された地点が実際に交差点付近であり、且つ、当該交差点が通信抑圧交差点であると判断される。尚、上述の突発的な通信が開始された地点が実際に交差点付近であるか否かの判断は、上述の手法に代えて若しくはそれに加えて、ナビゲーション装置26の地図データから得られる交差点位置と自車位置との関係に基づいて実現することも可能である。
また、上述の如く該突発的な通信の開始が検出された際、車車間通信用ECU16は、当該突発的な通信により得られた情報に基づいて、交差車両D1,D2,D3及びD4の位置から自車位置までの各距離を評価してもよい。この場合、車車間通信用ECU16は、交差車両から自車位置までの距離が所定距離よりも大きい場合には、突発的な通信が通信遮蔽物体の存在でなく単に交差車両から自車位置までの距離が通信可能な距離よりも小さくなったことに起因していると判断し、当該交差点が通信抑圧交差点であるか否かの判定が不能であるとしてよい。
次に、時刻t3において、時刻t1以降確認されている前記新たなIDコード(交差車両D1,D2,D3及びD4のIDコード)が消失すると共に、交差角の算出結果に90度付近の交差角が消失する。従って、交差角の算出結果に90度付近の交差角が突発的に出現した時点(即ち、通信抑圧交差点の存在の検出時点)から、交差車両D1,D2,D3及びD4のIDコードを含む送信データの受信が不能となった時点(又は、時刻t1以降得られている90度付近の交差角が消失する時点)までの時間若しくは車両走行距離を検出することで、当該通信抑圧交差点における通信遮蔽物体の存在状況(又は、抑圧状況)を評価することができる。
具体的には、本実施例の車車間通信用ECU16は、第1に、新たなIDコードが検出されると共に、交差角の算出結果に90度付近の交差角の出現が検出された地点の通信抑圧交差点を、通過前に通信遮蔽物体(図4の通信遮蔽物体3,4参照)が存在する通信抑圧交差点であると判断する。次いで、車車間通信用ECU16は、交差車両D1,D2,D3及びD4のIDコードの受信状況の監視(若しくは、交差角の算出結果の監視)を継続し、交差車両D1,D2,D3及びD4のIDコードの消失時点t3(若しくは、交差角の算出結果から90度付近の交差角が消失する時点t3)を検出する。このとき、例えば、図4に示すように、交差点の通過後に通信遮蔽物体1,2が存在する場合、時刻t1で車両Aが受信した送信データ内に出現した交差車両D1,D2,D3及びD4のIDコードは、通信抑圧交差点の通過直後の時刻t3で車両Aが受信した送信データ内から消失するため、交差車両D1,D2,D3及びD4のIDコードの検出時間は比較的に短くなる。一方、図4の通信遮蔽物体1,2が存在しない場合、通信抑圧交差点の通過後の時刻t3以降においても、交差車両D1,D2,D3及びD4のIDコードの確認が依然として継続されるため(即ち、時刻t3以降においても、車両Aは、交差車両D1,D2,D3及びD4との間での車車間通信が可能な状態にある)、交差車両D1,D2,D3及びD4のIDコードの検出時間は比較的に長くなる。従って、本実施例の車車間通信用ECU16は、通信抑圧交差点の検出時点から交差車両D1,D2,D3及びD4のIDコードの消失時点までの時間(又は、その間の走行距離)が比較的小さい場合には、通信抑圧交差点の通過後に通信遮蔽物体(図4の通信遮蔽物体1,2参照)が存在する通信抑圧交差点であると判断し、それ以外の場合には、通信抑圧交差点の通過後に通信遮蔽物体(図4の通信遮蔽物体1,2参照)が存在しない通信抑圧交差点であると判断する。
この際、車車間通信用ECU16は、交差車両との通信が途絶する直前の通信により得られた情報に基づいて、交差車両の位置から自車位置までの各距離を更に評価してもよい。この場合、車車間通信用ECU16は、交差車両から自車位置までの距離が所定距離よりも大きい場合には、通信の途絶が通信遮蔽物体の存在でなく単に交差車両から自車位置までの距離が通信可能な距離よりも大きくなったことに起因していると判断し、通信遮蔽物体の存在状況の評価が不能であるとしてよい。
尚、車車間通信用ECU16は、通信抑圧交差点通過後の通信遮蔽物体の存在状況をより正確に評価するため、ナビゲーション装置26の地図データを利用して通信抑圧交差点の正確な位置を特定すると共に、通信抑圧交差点通過後の自車(車両A)の走行速度(車輪速センサによっても検出可能)を考慮してもよい。
このようにして車両Aの車車間通信用ECU16により評価された通信抑圧交差点に関する情報(以下、「通信抑圧交差点情報」という)は、車両Aの送信データに付加情報と共に付加される。この際、送信データに付加される付加情報は、以下で詳説する如く、通信抑圧交差点における通信遮蔽物体の存在状況や、車両Aの送信データの送信先車両に応じて選別されてよい。
具体的には、図4に示すような通過前後に通信遮蔽物体があるタイプの通信抑圧交差点が検出された場合、車両Aの送信データには、対向車C1及び後続車BのIDコードが必須項目として組み込まれる共に、通信抑圧交差点情報、及び、交差車両D1,D2,D3及びD4に関する付加情報が付加される。このとき、通信抑圧交差点情報は、通過前後に通信遮蔽物体がある通信抑圧交差点タイプであることを示す情報を含み、更に、当該通信抑圧交差点の位置情報を含んでよい。また、付加情報は、上述の如く、交差車両D1,D2,D3及びD4の走行速度に関する情報、及び、交差車両D1,D2,D3及びD4の通信抑圧交差点までの距離に関する情報を含んでよい。但し、図4の交差車両D2及びD3のように、通信抑圧交差点から離反する方向に走行している離反車両に関する付加情報については、受信側の処理負担を低減すべく、車両Aの送信データに付加されない。換言すると、離反車両の走行状況に関する付加情報は、通信抑圧交差点に到来する車両にとっては重要でないため(離反車両と通信抑圧交差点で出会うことがないため)、車両Aの送信データには、通信抑圧交差点に接近する車両(交差車両D1及びD4)の走行状況に関する付加情報のみが付加される。従って、交差車両が一台しかなく、当該交差車両が離反車両である場合、車両Aの送信データには、通信抑圧交差点情報(通過前後に通信遮蔽物体がある通信抑圧交差点タイプであることを示す情報)のみが付加される。
これにより、車両Aの送信データを受信した対向車C1及び後続車Bは、それぞれの進行方向の前方に通信抑圧交差点(見通しの悪い交差点)が存在することを認識することができると共に、交差道路Y上の交差車両D1及びD4の走行状況に関する付加情報を得ることができるため、通信抑圧交差点に近接するまで交差車両D1,D2,D3及びD4との間で車車間通信が抑圧されるのにも拘らず、当該通信抑圧交差点を安全に通過することが可能となる。例えば、車両Aの送信データを受信した後続車Bは、交差車両D1及びD4の走行状況に関する付加情報や通信抑圧交差点情報に基づいて、交差車両D1及びD4が通信抑圧交差点に到達するまでの時間を算出し、当該時間と後続車B自身が通信抑圧交差点に到達するまでの時間とを比較することで、当該通信抑圧交差点での交差車両D1及びD4との衝突の危険性を、当該通信抑圧交差点を到達する前に判断することができる。
また、上述の通信抑圧交差点情報及び付加情報を含む送信データの送信は、後続車B若しくは対向車C1が通信抑圧交差点を通過した時点(又は、後続車B若しくは対向車C1による後述する引継ぎがなされた時点)、若しくは、通信抑圧交差点の通過後に所定の距離(又は、時間)走行した時点、又は、付加情報に関する交差車両が通信抑圧交差点を通過した時点で終了し、それ以後は、例えば新たな通信抑圧交差点が検出されるまで、図2に示す送信データの送信が実行される。従って、対向車C1及び後続車Bが受信する車両Aの送信データには、上述の如く必要最小限の付加情報しか含まれておらず、且つ、車両Aの送信データの送信が必要最小限の継続時間で実行されるので、受信側の処理負担が少なく、車両Aからの送信データに含まれる交差車両の走行状況に関する付加情報を迅速に且つ効果的に利用することができる。
一方、例えば、通過前にのみ通信遮蔽物体があるタイプの通信抑圧交差点が検出された場合(即ち,図4の通信遮蔽物体1,2が存在しないタイプの通信抑圧交差点が検出された場合)、車両Aの送信データには、後続車BのIDコードが必須項目として組み込まれる共に、通信抑圧交差点情報、及び、交差車両D1及びD4の走行状況に関する付加情報が付加される。このとき、通信抑圧交差点情報は、通過前にのみ通信遮蔽物体がある通信抑圧交差点タイプであることを示す情報を含み、更に、当該通信抑圧交差点の位置情報を含んでよい。ここで、車両Aの対向車C1にとっては、車両Aの通過前にのみ通信遮蔽物体が存在するタイプの通信抑圧交差点は、通過後にのみ通信遮蔽物体があるタイプの通信抑圧交差点であるため(即ち、進行方向で見通しの良い交差点であり、対向車C1と交差車両D1,D2,D3及びD4との間での車車間通信が機能していると考えられるため)、車両Aの送信データに対向車C1のIDコードが組み込まれない。
これにより、車両Aの送信データを受信した後続車Bは、上述と同様、進行方向の前方に通信抑圧交差点(見通しの悪い交差点)が存在することを認識することができると共に、交差道路Y上の交差車両D1及びD4の走行状況に関する付加情報を得ることができるため、通信抑圧交差点に近接するまで交差車両D1,D2,D3及びD4との間で車車間通信が抑圧されるのにも拘らず、当該通信抑圧交差点を安全に通過することが可能となる。
また、上述の通信抑圧交差点情報及び付加情報を含む送信データの送信は、交差車両D1,D2,D3及びD4からの送信データが途絶えた時点、若しくは、後続車Bが通信抑圧交差点を通過した時点(又は、後続車Bによる後述する引継ぎがなされた時点)、若しくは、通信抑圧交差点の通過後に所定の距離(又は、時間)走行した時点、又は、付加情報に関する交差車両が通信抑圧交差点を通過した時点で終了し、それ以後は、例えば新たな通信抑圧交差点が検出されるまで、図2に示す送信データの送信が実行される。従って、後続車Bが受信する車両Aの送信データには、上述の如く必要最小限の付加情報しか含まれておらず、且つ、車両Aの送信データの送信が必要最小限の継続時間で実行されるので、受信時の処理負担が少なく、交差車両の走行状況に関する付加情報の利用タイミングが遅れることはない。一方、対向車C1は、車両Aからの送信データを受信しうるが、送信データに自車(対向車C1)のIDコードが組み込まれていないため、車両Aからの送信データが自車(対向車C1)にとって重要でないということを容易に判断することができる。但し、この場合、対向車C1は、車両Aから得られる交差車両D1,D2,D3及びD4の走行状況に関する付加情報を受け継ぐと共に、交差車両D1,D2,D3及びD4との直接の車車間通信により当該付加情報を更新し、車両Aの更なる後方の後続車両B2、B3等を支援してもよい。
このようにして車両Aが作成した送信データ内の通信抑圧交差点情報及び付加情報は、当該送信データを受信する車両(例えば、後続車B1)により引継ぎ・更新され、通信抑圧交差点を通過する更なる後続車両(例えば、後続車B2)へと引き継がれていく。この際、通信抑圧交差点情報についても、更新がなされてよい。これは、例えば通信遮蔽物体が駐停車中のトラック等の移動物体である場合には、当該通信遮蔽物体の移動により、通信抑圧交差点における通信遮蔽物体の存在状況(通信抑圧交差点のタイプ)が変化することがあるためである。このようにして、本実施例によれば、通信抑圧交差点の周辺では、擬似的なリアルタイムデータベースが形成され、常に最新の通信抑圧交差点情報及び交差車両の走行状況に関する付加情報を得ることが可能となる。尚、交差道路Yを基準にした場合も同様であり、交差道路Yを走行する交差車両D1,D2,D3及びD4は、常に最新の通信抑圧交差点情報、及び、走行道路Xを走行中の車両A、B、C1の走行状況に関する付加情報を得ることが可能となる。
ここで、このようにして通信抑圧交差点を通過する際に得られる通信抑圧交差点情報は、好ましくはナビゲーション装置26の地図データと関連付けて、RAM等に管理・記憶されてよい。これにより、再び当該通信抑圧交差点に近接する際、当該通信抑圧交差点を通過する前に他車から通信抑圧交差点情報を取得しなかった場合であっても、少なくとも前方に通信抑圧交差点があることを認知できるため、当該通信抑圧交差点を安全に通過することが可能となる。また、当該通信抑圧交差点を通過する前から通信抑圧交差点情報を後続車両等に提供することができるので、通信抑圧交差点の十分手前から当該通信抑圧交差点の存在を後続車両等に認知させることも可能となる。また、このとき、他車から得られた最新の通信抑圧交差点情報若しくは自ら獲得した通信抑圧交差点情報を用いて、RAM内の通信抑圧交差点情報の更新・記憶が実行されてよい。尚、通信抑圧交差点を通過する前に先行車からの送信データを受信した場合には、当該通信抑圧交差点を通過する前から交差車両の走行状況に関する付加情報の利用が可能であり、当該通信抑圧交差点を安全に通過することが可能となる。
このように、本実施例によれば、車車間通信の重点場所である見通しの悪い交差点(通信抑圧交差点)を、交差車両からの送信データの受信状況の監視結果から認知することができ、更に、当該見通しの悪い交差点の存在を示す通信抑圧交差点情報と共に、交差車両の走行状況に関する付加情報を、当該交差車両と車車間通信が行えない車両(後続車両や対向車両)に提供することで、見通しの悪い交差点を走行する際の安全を効果的に支援することができる。また、付加情報や通信抑圧交差点情報を含む送信データは、受信側にとって必要最小限のデータ量で且つ必要最小限の継続時間で送信されるので、受信側の処理負担が軽減され、車車間通信により得られた情報の迅速な利用が可能となる。
また、本実施例は、特に信号機のない見通しの悪い交差点における安全走行を支援するのに好適である。これは、特に信号機のない見通しの悪い交差点では、交差車両との出会い頭事故の可能性が高いためである。換言すると、見通しの悪い交差点であっても、信号機が存在すれば、交差車両の走行状況に関する付加情報は不要となりうる。従って、通信抑圧交差点を検出した際に、当該通信抑圧交差点に信号機が設置されているか否かを判断し、信号機が設置されている場合に限り、送信データに付加情報や通信抑圧交差点情報を付加する構成も可能である。或いは、上述の通信抑圧交差点情報に信号機の有無に関する情報を追加する構成も可能である。尚、信号機が設置されているか否かは、ナビゲーション装置26の地図データに含まれる信号機情報に基づいて判断することが可能である。
尚、本実施例では、通信抑圧交差点を検出した際の車両Aの送信データには、通信抑圧交差点から離間する離反車両の走行状況に関する付加情報が付加されず、通信抑圧交差点に接近する接近車両の走行状況に関する付加情報が付加されるものであったが、通信抑圧交差点から所定距離内に存在する接近車両に関する付加情報を車両Aの送信データに付加しない構成も可能である。これは、接近車両の通信抑圧交差点までの距離が非常に小さい場合には、対向車C1及び後続車Bが通信抑圧交差点に到達する前に、当該接近車両が通信抑圧交差点を通過している場合が想定されるからである。但し、この場合の前記所定距離は、接近車両の車両位置や走行速度、及び、対向車C1及び後続車Bの車両位置や走行速度を考慮して決定される。これにより、受信側の処理負担が一層少なくなり、車両の走行状況に関する必要な付加情報のみを迅速に且つ効果的に利用することができる。
また、本実施例では、交差車両からの送信データの受信履歴及び走行道路上の車両からの送信データの受信履歴に基づいて通信抑圧交差点の存在を検知しているが、走行道路上の車両からの送信データの受信履歴を用いない場合であっても、交差車両からの送信データの受信が開始された時点の自車位置から交差点位置までの距離を評価することで、走行道路前方の交差点が通信抑圧交差点であるか否かを判断することが可能である。この場合、交差点位置は、上述の如く、自車の走行ベクトルと交差車両の走行ベクトルとの交点として算出されてよく、若しくは、ナビゲーション装置26の地図データから得られる交差点情報に基づいて決定されてもよい。
また、ナビゲーション装置26の地図データから得られる交差点情報を単独で用いる場合であっても、通信抑圧交差点の存在を検知することが可能である。この場合、走行道路前方の交差点が通信抑圧交差点であるか否かは、地図データに含まれる当該交差点周辺のポリゴン情報(ポリゴン図形の大きさや高さ)に基づいて判断することが可能である。従って、上述と同様、通信抑圧交差点であると判断された場合(例えば、所定規模以上の施設が存在すると判断された場合)には、当該通信抑圧交差点に所定距離接近した際、送信データに付加情報及び通信抑圧交差点情報を付加することで、必要なときにだけ付加情報等を他車に提供でき、情報の信頼性を確保しつつ、受信側の処理負担を軽減することが可能である。また、この場合、ポリゴン図形の領域(所定規模以上の施設の位置)と交差車両の位置との関係により、車車間通信が抑圧される範囲が推定できるので、当該範囲内に存在する車両に対してのみ送信データを送信することも可能である。また、交差車両の位置と後続車両や対向車両の位置とを結んだ線上にポリゴン図形の領域が存在する場合にのみ、当該後続車両や対向車両に対して、当該交差車両の走行状況に関する付加情報が提供されてよい。
更に、本実施例では、通信抑圧交差点情報には、通過前にのみ通信遮蔽物体があるタイプの通信抑圧交差点であるか、若しくは、通過前後に通信遮蔽物体があるタイプの通信抑圧交差点であるかの情報を含むものであった。しかしながら、通信抑圧交差点における通信遮蔽物体の存在状況をより細分化して判断し、当該判断結果を通信抑圧交差点情報に含ませることも可能である。具体的には、通信抑圧交差点における通信遮蔽物体の存在状況として、車両Aを基準とすると、(1)通過前の左側に通信遮蔽物体(通信遮蔽物体3)があり、且つ、通過後の両側に通信遮蔽物体(通信遮蔽物体1,2)があるタイプ、(2)通過前の左側に通信遮蔽物体があり、且つ、通過後の左側又は右側に通信遮蔽物体(通信遮蔽物体1又は2)があるタイプ、(3)通過前の左側に通信遮蔽物体(通信遮蔽物体3)があり、且つ、通過後の両側に通信遮蔽物体(通信遮蔽物体1,2)が存在しないタイプ、及び、(4)通過前の右側に通信遮蔽物体(通信遮蔽物体4)があり、且つ、通過後の両側に通信遮蔽物体(通信遮蔽物体1,2)があるタイプ、(5)通過前の右側に通信遮蔽物体があり、且つ、通過後の左側又は右側に通信遮蔽物体(通信遮蔽物体1又は2)があるタイプ、(6)通過前の右側に通信遮蔽物体があり、且つ、通過後の両側に通信遮蔽物体(通信遮蔽物体1,2)が存在しないタイプ、並びに、(7)通過前の両側に通信遮蔽物体があり、且つ、通過後の左側又は右側に通信遮蔽物体(通信遮蔽物体1又は2)があるタイプを含む、7つのタイプの通信抑圧交差点が、上述の2つのタイプ以外に考慮されてよい。
これらの各通信抑圧交差点タイプは、交差車両D1,D2,D3及びD4からの送信データに含まれる通信抑圧交差点情報を用いて判別することが可能である。例えば、交差車両D1及びD2から得た通信抑圧交差点情報が、通過前にのみ通信遮蔽物体1,3があるタイプの通信抑圧交差点であり、車両Aが自ら取得した通信抑圧交差点情報が、通過前にのみ通信遮蔽物体3,4があるタイプの通信抑圧交差点である場合、通信遮蔽物体1,3及び4が存在する通信抑圧交差点(車両Aを基準とした場合には、上記(7)のタイプの通信抑圧交差点)であると判断することができる。
或いは、各通信抑圧交差点タイプは、交差車両からの送信データに含まれる交差車両の位置情報に基づいて判別することが可能である。例えば、図4において、時刻t1以前には、車両Aの位置に対して左側の交差車両D1及びD2との通信が継続しており、時刻t1に、車両Aの車両位置に対して右側の交差車両D3及びD4との通信が突然に確認された場合には、上記(4)、(5)又は(6)のタイプの通信抑圧交差点であることが判断できる。次いで、時刻t1以後に得られる交差車両の位置情報を監視し、例えば時刻t3に、車両Aの車両位置に対して右側の交差車両(交差車両D3及びD4とは限らない)からの送信データが途絶えた場合には、上記(5)の通過前の右側に通信遮蔽物体4があり、通過後の右側に通信遮蔽物体2があるタイプの通信抑圧交差点であると判断することができる。かかる場合、対向車両C及び後続車両Bに対する車両Aの送信データに、細分化して判断した通信抑圧交差点タイプを示す通信抑圧交差点情報と共に、右側から(対向車両Cにとっては、左側から)通信抑圧交差点に接近する交差車両に関する付加情報のみを付加することも可能であり、これにより、受信側の処理負担を更に軽減することが可能となる。
次に、図5乃至図8を参照して、上述の実施例を実現するための処理を詳説する。図5は、上述の実施例の車車間通信システムが実行するメインルーチンの一例を示すフローチャートであり、本メインルーチンは、例えばイグニッションスイッチがオンとなった時点から開始される。尚、以下の説明において、自車とは本処理を実行している主体の車両を指す。
図5に示すルーチンが起動されると、先ずステップ100において、車車間通信の開始前の処理として、図2の送信データを定期的に送信すると共に、他車からの送信データを受信するための準備状態に移行する。ステップ100の処理は、続くステップ110で他車(複数の他車を含む)からの送信データが受信されたと判断されるまで継続する。ステップ110で他車からの送信データが受信されたと判断された場合には、ステップ120に進み、他車からの送信データからIDコードを確認し、当該他車をIDコードにより認識する。
続くステップ130では、前記ステップ120で受信した送信データに含まれるIDコードと同一のIDコードを含む次回の送信データが受信されたか否かが判断される。次回の送信データの受信が確認されない場合、ステップ100に戻る。一方、次回の送信データの受信が確認された場合、ステップ140に進む。尚、前記ステップ110で複数の他車からの送信データを受信している場合には、本ステップにおいて、少なくとも1つの同一のIDコードを含む次回の送信データが確認されればよい。
続くステップ140では、前記ステップ130で確認されたIDコード毎に交差角を算出・監視する処理が実行される。尚、交差角は、上述の如く、送信データに含まれる他車の位置情報の履歴、及び、自車の位置情報の履歴に基づいて、自車の進行方向と他車の進行方向がなす角度として算出され、少なくとも2回の送信データの受信により算出することができる。尚、本ステップ140の処理は、送信データの受信サイクル毎に実行される。
続くステップ150では、前記ステップ140で得られる交差角の算出結果が、0度付近の交差角のみにより構成されているか否かが判断される。交差角の算出結果に0度付近の交差角以外の角度の交差角(例えば、90度付近の交差角)が含まれている場合、通信抑圧交差点の判定が不能であるとして、ステップ100に戻る。一方、交差角の算出結果が0度付近の交差角のみから構成されている場合には、現在の走行位置が交差点から十分離間していると判断し、通信抑圧交差点を検出するための図6のサブルーチンに進む。尚、本ステップ150において、現在の走行位置が交差点から十分離間しているとする判断の精度を高めるため、交差角の算出結果に0度付近の交差角のみが存在する状態が所定時間(又は、所定算出回数)継続しているかを判断してもよい。
図6は、通信抑圧交差点を検出するために実行されるサブルーチンの一例を示すフローチャートである。図6に示すサブルーチンが起動されると、先ずステップ200で、新たなIDコード(複数であってよい)を含む送信データが受信されたか否かが判断される。新たなIDコードを含む送信データの受信が確認された場合、ステップ210に進み、それ以外の場合には、ステップ200に戻る。
ステップ210では、前記ステップ200で確認された新たなIDコードを含む送信データの次回の送信データが受信されたか否かが判断される。新たなIDコードを含む送信データの次回の受信が確認された場合、ステップ220に進み、それ以外の場合には、続くステップ220での交差角の算出が不能であるため、以後何ら処理が進められることなく、図5のメインルーチンに戻る。但し、送信データに、ナビゲーション装置26が演算する車両方位が含まれている場合には、交差角を自車と他車の車両方位に基づいて算出することも可能であり、かかる場合、一回だけの送信データの受信であっても交差角の算出が可能であるため(続くステップ220での交差角の算出処理が可能であるため)、ステップ220に進んでよい。
ステップ220では、前記ステップ200で確認された新たなIDコード毎に交差角を算出し、算出結果に90度を中心とした所定角度範囲内(例えば、90度±20度の範囲)の交差角が含まれているか否かを判断する処理が実行される。算出結果に90度を中心とした所定角度範囲内の交差角が含まれていない場合、現在の走行位置が交差点から十分離間しているとして、以後何ら処理が進められることなく、図5のメインルーチンに戻る。一方、算出結果に90度を中心とした所定角度範囲内の交差角が含まれている場合(即ち、交差車両を検出した場合)、車両前方に交差点が存在すると判断して、ステップ230に進む。尚、この際、ナビゲーション装置26の地図データ若しくは前方監視カメラ(CCDカメラ)の撮像画像処理結果又はレーダー装置による磁気マーカの検出結果を利用して、交差点の検出結果の精度を高めることも可能である。
ステップ230では、所定角度範囲内の交差角が検出された時点の車両位置(即ち、交差車両が検出された時点の自車位置)から前方の交差点の位置までの距離を算出し、当該算出した距離が所定距離TH1(例えば、200m)より小さいか否かを判断する処理が実行される。前方の交差点の位置は、上述の如く、交差車両の走行ベクトルと自車の走行ベクトルの交点として算出されてよく、若しくは、ナビゲーション装置26の地図データ若しくは前方監視カメラ(CCDカメラ)の撮像画像処理結果等を利用して決定されてもよい。所定角度範囲内の交差角の検出された時点の車両位置から前方の交差点までの距離が所定距離TH1以上の場合、当該前方の交差点では車車間通信が抑圧されないと判断して、ステップ250に進み、前方の交差点が通信抑圧交差点でないことが記憶され、以後何ら処理が進められることなく、図5のメインルーチンに戻る。一方、前方の交差点までの距離が所定距離TH1より小さい場合、検出した前方の交差点が通信抑圧交差点であると判断し、図7のサブルーチンに進む。尚、上記ステップ230では、交差車両の位置から前方の交差点までの距離が所定距離内(通信可能な限界距離よりも小さい距離内)であるか否かが更に判断されてよい。
図7は、前方に通信抑圧交差点を検出した際に実行されるサブルーチンの一例を示すフローチャートである。
図7に示すサブルーチンが起動されると、先ずステップ300で、“少なくとも通過前に通信遮蔽物体が存在するタイプの通信抑圧交差点”が存在することを示す通信抑圧交差点情報を生成すると共に、交差車両からの送信データに基づいて交差車両の走行状況に関する付加情報を生成し、当該通信抑圧交差点情報及び付加情報を後続車両や対向車両に送信する処理が開始される。この場合、自車が生成する送信データには、上述の如く、通信抑圧交差点に接近する方向の交差車両の走行状況に関する付加情報のみが付加されてよく、更に、送信先車両(後続車両や対向車両)のIDコード及び通信抑圧交差点情報が組み込まれる。尚、通信抑圧交差点情報には、上述のような通信抑圧交差点のタイプに関する情報のみならず、当該通信抑圧交差点に位置情報が含まれてよい。また、現在の走行道路上に後続車両や対向車両(例えば、自車を図4の車両Aと想定した場合、走行道路X上の後続車両Bや対向車両C1)が存在しない場合には、後続車両や対向車両が出現するまで、通信抑圧交差点情報及び付加情報が含まれない送信データ(図2参照)が定期的に送信されてよい。
続くステップ310では、自車が交差車両からの送信データを受信する毎に、送信データに付加される付加情報及び通信抑圧交差点情報を更新し、当該最新の付加情報及び通信抑圧交差点情報を含む送信データを送信する処理が実行される。ここで、通信抑圧交差点情報を更新するのは、上述の如く、通信遮蔽物体が移動物体である場合には通信遮蔽物体の存在状況が動的に変化するためである。本ステップ310の処理は、少なくとも自車が通信抑圧交差点に到達する時点まで継続される。
続くステップ320では、自車が通信抑圧交差点を直進したか否かを判断する処理が実行される。尚、通信抑圧交差点を直進したか若しくは左折や右折等を行ったかの判断は、自車の走行ベクトルの変化態様、ナビゲーション装置26からの情報、舵角センサからの操舵角情報等に基づいて実現することができる。自車が通信抑圧交差点を直進しなかったと判断した場合、通信抑圧交差点通過後の通信遮蔽物体の存在状況の評価が不能であるため、続くステップ330において、通信抑圧交差点情報を通過した交差点と関連付けて記憶し(好ましくは、ナビゲーション装置26の地図データと関連付けて記憶し)、図5のメインルーチンに戻る。一方、自車が通信抑圧交差点を直進した場合には、通信抑圧交差点通過後の通信遮蔽物体の存在状況を評価するためのステップ340及びステップ350に進む。
ステップ340では、通信抑圧交差点通過後の通信遮蔽物体の存在状況を評価するため、交差車両からの送信データの受信状況を監視しつつ、上記ステップ310と同様の処理が実行される。尚、時間の経過により交差道路上に接近方向の交差車両が存在しなくなっている場合には(例えば、交差点通過による接近方向から離反方向への変化や交差道路から他の道路への交差車両の進路変更(図4の車両D3(t2)参照)等が生じた場合)、送信データへの付加情報の付加が行われないので、当該送信データを受信した他車は、交差道路に接近車両が存在しないことを認知することができる。
ステップ350では、交差車両からの送信データの受信状況が交差点通過後所定距離(又は、時間)内に変化したか否かを判断する処理が実行される。本ステップ350において、交差点通過後所定距離(例えば、200mm)内に交差車両からの送信データの受信が途絶えた場合(例えば、受信が確認されない状態が所定時間継続した場合)、ステップ360に進み、通信抑圧交差点情報を“通過前後に通信遮蔽物体が存在するタイプの通信抑圧交差点”へと更新・記憶すると共に、付加情報等を含む送信データの更新・送信処理を終了し(付加情報の更新が不能となるため)、図5のメインルーチンに戻る。但し、以後の走行中に前方から新たなIDコードを有する対向車両を確認した際、最新の通信抑圧交差点情報を含む送信データを当該対向車両に送信してもよく、かかる場合、当該対向車両は、“通過前後に通信遮蔽物体が存在するタイプの通信抑圧交差点”の存在を事前に認識することが可能となる。また、最新の通信抑圧交差点情報は、後続車両のIDコードと共に送信データに付加されることで、後続車両に対して送信されてもよい。これにより、交差点を通過しない後続車両(例えば、後続する左折車両)であっても、自ら検知できない当該交差点通過後における通信遮蔽物体の存在状況を把握・記憶することができる。
一方、ステップ350において、交差点通過後且つ所定距離走行後においても依然として交差車両からの送信データの受信が継続する場合、当該交差点の通過後には通信遮蔽物体が存在しないと判断して、図8のサブルーチンに進む。図8は、通信抑圧交差点通過後に通信遮蔽物体が存在しない状況下で実行されるサブルーチンの一例を示すフローチャートである。
図8に示すサブルーチンが起動されると、先ずステップ400で、通信抑圧交差点情報を“通過前にのみ通信遮蔽物体が存在するタイプの通信抑圧交差点”へと更新・記憶する処理が実行される。また、本ステップ400では、対向車両への付加情報を含む送信データの送信を終了する処理が実行される。尚、対向車両のIDコードを含む送信データの送信は、当該対向車両が自車とすれ違った時点で終了してもよい(少なくとも当該時点以後においては、当該対向車両は、交差車両からの送信データの受信が可能となるため)。
続くステップ410では、対向車両への付加情報を含む送信データの更新・送信処理が依然として継続される。従って、この場合、自車が生成する送信データには、通信抑圧交差点情報と共に後続車両のIDコードが組み込まれ、通信抑圧交差点に接近する方向の交差車両の走行状況に関する最新の付加情報のみが付加される。本ステップ410の処理は、続くステップ420で付加情報を含む送信データのその他の終了条件が成立するまで実行される。この終了条件は、後続車両が通信抑圧交差点に到達した場合、若しくは、通信抑圧交差点に接近する方向の交差車両が消失した場合、又は、自車が後続車両から通信不能な距離まで離間した場合等に成立してよい。ステップ420での終了条件が成立すると、以後何ら処理が進められることなく、図5のメインルーチンに戻る。
尚、以上の図5乃至図8の処理は、自車が自ら通信抑圧交差点を検出すると共に、当該通信抑圧交差点における通信遮蔽物体の存在状況を評価する場合の処理に関するものである。一方、他車から前方の交差点に関する通信抑圧交差点情報を得た場合や、前方の交差点に関する通信抑圧交差点情報を予め記憶している場合には、ステップ240以後の処理に移行することで、交差車両からの送信データを自ら受信した際、通信抑圧交差点情報及び付加情報の更新・送信処理を引き継ぐことができる。尚、この際、交差車両からの送信データを自ら受信するまでは、他車から得た通信抑圧交差点情報及び付加情報が、後続車両等に送信するための送信データに組み込まれると共に、自車の上述の各種の車車間通信利用システム18により利用される。
以上説明したように、本実施例によれば、車車間通信の重点場所である見通しの悪い交差点(通信抑圧交差点)及び当該通信抑圧交差点における通信遮蔽物体の存在状況を、交差車両からの送信データの受信状況の変化態様から認知することができる。このため、本実施例によれば、実際に車車間通信が抑圧される通信抑圧交差点及び当該通信抑圧交差点における通信遮蔽物体の存在状況を検出することができるため、必要最小限の情報量及び必要最小限の提供頻度で通信抑圧交差点における安全走行を効果的に支援することができる。この結果、本実施例によれば、受信側の処理負担が軽減されると共に、車車間通信の有用性が向上する。また、通信抑圧交差点に関する各種情報は車両間で引継ぎ・更新されていくので、信頼性の高い最新情報を利用することが可能となる。
次に、本発明の代替実施例について説明する。本代替実施例の車車間通信用ECU16は、交差車両の送信データに含まれる交差車両の位置情報の履歴、及び、自車の位置情報の履歴に基づいて、交差車両と自車との衝突の可能性を評価し、当該衝突の可能性に応じた車車間通信の緊急度レベルを決定する。この緊急度レベルは、交差車両の交差点に到達するまでの推定時間と、自車の交差点に到達するまでの推定時間との差異が所定の範囲内にある場合にその値が決定され、当該推定時間が少ないほど高く設定される。従って、自車の交差点に到達するまでの推定時間が非常に短い(即ち、交差点の直前)場合には、緊急度レベルは最も高い値に設定される。尚、この場合、交差点の位置としては、交差車両及び自車の各走行ベクトルの交点の位置であってよく、若しくは、ナビゲーション装置26の地図データから得られる交差点位置であってもよい。
本代替実施例の車車間通信用ECU16は、上述の実施例と同様の手法により交差車両との間での突発的な通信の開始を検出した際、当該突発的な通信から得られる情報に基づいて緊急度レベルを決定し、当該緊急度レベルが所定の閾値よりも大きいか否かを判断する。ところで、自車の交差点に到達するまでの推定時間と交差車両の交差点に到達するまでの推定時間の差異が所定の範囲内に保たれる場合には、交差点に近接する従って緊急度レベルは増加していく。このため、通信抑圧交差点でない交差点を通過する際には、交差点の十分手前から緊急度レベルが決定されるので、初回に決定される緊急度レベルは比較的小さい値となる。一方、通信抑圧交差点を通過する際には、当該通信抑圧交差点の直前で緊急度レベルが決定されるので、初回に決定される緊急度レベルは大きな値となる。したがって、本代替実施例によれば、交差車両との突発的な通信から得られる情報に基づいて決定された緊急度レベルを評価することで、通信抑圧交差点の存在を検出することが可能となる。尚、本代替実施例は、上述の実施例と組み合わせて実現することも可能である。
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
例えば、上述した実施例において、信号処理装置20や送受信データバッファ12Aの機能は、ゲートウェイ装置14、車車間通信用ECU16又は送受信機10に組み込まれてよい。また、車車間通信用ECU16の機能についても、他のECUによって実現されてよい。
また、上述した実施例において、図4に示す交差点は、2本の道路が交差する交差点(十字路の交差点)であったが、本発明は、特にこれに限定されることはなく、3本以上の道路が交わる交差点(例えば、T字路の交差点)であれば、如何なる交差点に関しても適用可能である。
また、上述した実施例において、通信抑圧交差点が比較的に短い区間で連続して存在する場合には、通信抑圧交差点毎に通信抑圧交差点情報及び付加情報が生成・管理されてよい。尚、この場合、各々の通信抑圧交差点に対する上述の処理フロー(図5乃至図8参照)が同時進行することになる。
また、上述の処理フローを実行中に、路車間システム区間(インフラ通信装置設置区間)に侵入した際は、交差点に設置された道路観測装置から情報が得られるので、当該情報を利用してもよい。また、路車間システム区間から逸脱した場合であっても、路車間システム区間で得た情報を対向車に送信することも可能である。
また、上述した実施例において、交差車両が歩行者や自転車等の場合であっても、当該歩行者や自転車等が有する送信機能のみの通信端末が稼動中であれば、同様に、送信データにかかる交差道路上の歩行者や自転車等の移動状況に関する情報を付加することも可能である。かかる場合、歩行者や自転車等が車両に比して容易に飛び出しや方向転換することを考慮して、歩行者や自転車等が停止している場合や離反方向に移動している場合であっても、常に歩行者や自転車等の移動状況に関する情報を付加することが望ましい。