JP4266336B2 - 熱間鍛造性、磁気特性および被削性に優れた軟磁性鋼材と、磁気特性に優れた軟磁性鋼部品およびその製造方法 - Google Patents

熱間鍛造性、磁気特性および被削性に優れた軟磁性鋼材と、磁気特性に優れた軟磁性鋼部品およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、自動車や電車、船舶等で使用される各種電装部品を構成するソレノイド、リレーあるいは電磁弁等の鉄心材といった電装部品に有用な軟磁性鋼材と、該鋼材を用いて得られる電装部品等の軟磁性鋼部品およびその製造方法に関するものであり、詳細には、大型の複雑形状部品を製造する場合であっても熱間鍛造性(熱間鍛造時の成型性)に優れるとともに、JIS−SUYB−0種レベル以上の優れた磁気特性を確保することができ、更には被削性に優れて切削工具の長寿命化を図ることのできる純鉄系軟磁性鋼材と、これを用いて得られる上記優れた磁気特性を有する軟磁性鋼部品とその製造方法に関するものである。
尚、前記「SUYB」とは、JIS C 2503で規定される磁気特性の標準規格であり、電装部品においてはJIS−SUYB−1種程度の磁気特性が必要とされている。「SUYB−2種」よりも「SUYB−1種」、「SUYB−1種」よりも「SUYB−0種」の方が磁気特性に優れており、コンパクト化(軽量化)、応答速度の向上および省電力化に有効であることから、同じ用途に適用する部品であっても「SUYB−0種」レベルまたはそれ以上の磁気特性を有していることが望まれる。
自動車の電装部品等において磁気回路を構成する鋼部材には、省電力化や磁気応答性の向上を図るべく、磁気特性として、低い外部磁界で容易に磁化し得る特性とともに低保磁力であることが要求される。このため、鋼部材内部の磁束密度が外部磁界に応答し易い軟磁性鋼材が通常使用されている。
この様な磁気特性を有する軟磁性鋼材として、例えばC量が約0.01質量%以下の低炭素鋼などが用いられ、軟磁性鋼部品は、該鋼片に熱間圧延を施した後、潤滑処理、伸線加工を行って得た鋼線に、部品成型および磁気焼鈍等を順次施して得られるのが一般的である。
自動車分野をはじめとする様々な分野において、電磁力を利用した電装部品は、従来より油圧制御等のスイッチとして利用するのが一般的であったが、近年、省電力化や高性能化を目的に、電磁力で直接駆動させる方式が一般化されつつあり、これに伴い、電装部品の構成部材が大型且つ複雑形状となる傾向にある。この様な構成部材の製造は、熱間鍛造で成型した後、切削加工を施して製品とすることが一般的であり、使用する鋼材は、熱間鍛造性および被削性に優れていることが要求される。
特に、電装部品の上記磁気特性は、材料自体の磁気特性とともに部品寸法の僅かなばらつきの影響を受け易いため、切削加工による高精度の仕上げが不可欠となる。しかし上記低炭素鋼は延性が高すぎるため切削が困難であり、また切削工具の損傷も引き起こしやすいため、生産性を著しく低下させるといった問題がある。
本発明者らは、純鉄系軟磁性鋼材の被削性を改善させた技術として、鋼中のMnSの分布形態を適正範囲に制御することによって、被削性向上を目的に添加した元素による磁気特性の低下を最小限に抑えるとともに、切削加工時のバリ発生を抑えて生産性の向上を図った技術を既に提案している(特許文献1参照)。しかし該技術は、冷間鍛造後に切削加工することを想定しており、熱間鍛造を施して大型部品に成型する場合には、再加熱後の高温延性等を考慮に入れた改善を図る必要がある。また被削性に関しても、仕上げ切削加工時に使用する工具の長寿命化まで意図して検討したものではない。
また本発明者らは、純鉄系軟磁性材料の鍛造性を改善すべく、合金成分や圧延条件を調整して鋼中の固溶Nを固定し、動的ひずみ時効に起因する冷間鍛造時の金型寿命の低下を抑えることを既に提案している(特願2002−30080号)。しかし上記技術も冷間鍛造を想定したものであるため、熱間鍛造における再加熱後の高温延性等まで考慮するには更なる改善が必要である。また上記技術も、仕上げ切削加工時に使用する工具の長寿命化まで検討したものでない。
特開2003−55745号公報
本発明は、このような事情に着目してなされたものであり、その目的は、大型で複雑形状の軟磁性鋼部品を製造する場合でも熱間鍛造時の成型性に優れ、かつJIS−SUYB0種レベル以上の優れた磁気特性を確保できるとともに、被削性にも優れて切削工具の長寿命化を図ることのできる軟磁性鋼材と、これを用いて得られる磁気特性に優れた軟磁性鋼部品とその製造方法を提供することにある。
本発明にかかる熱間鍛造時の成型性、磁気特性および被削性に優れた軟磁性鋼材とは、質量%で(以下同じ)、C:0.02%以下(0%を含まない)、Si:0.1%以下(0%を含まない)、Mn:0.1〜0.5%、P:0.02%以下(0%を含まない)、S:0.02超〜0.15%、Al:0.01%以下(0%を含まない)、Ti:0.01〜0.1%、N:0.005超〜0.01%、O:0.01%以下(0%を含まない)、残部鉄および不可避不純物からなり、
5<[Ti]/[N]<20
{[Ti]はTi含有量(質量%)、[N]はN含有量(質量%)を示す}
を満たし、金属組織がフェライト単相組織であり、該フェライト結晶粒内に、
平均粒径が0.5〜2μmの硫化物が1〜10個/100μm2析出し、
平均粒径が10μmを超える酸化物が200個/鋼4g以下であるところに特徴を有するものである。尚、上記平均粒径とは、短径と長径の平均値を意味する。
本発明の軟磁性鋼材は、更に他の元素として、Ca:0.002〜0.01%、Mg:0.005〜0.02%およびZr:0.03〜0.1%よりなる群から選択される1種以上を含んでいてもよい。また、被削性を高めるべくBi:0.002〜0.1%を含んでいてもよい。
本発明は、上記鋼材を用いて得られる軟磁性鋼部品も規定するものであり、質量%で(以下同じ)、C:0.02%以下(0%を含まない)、Si:0.1%以下(0%を含まない)、Mn:0.1〜0.5%、P:0.02%以下(0%を含まない)、S:0.02超〜0.15%、Al:0.01%以下(0%を含まない)、Ti:0.01〜0.1%、N:0.005超〜0.01%、O:0.01%以下(0%を含まない)、残部鉄および不可避不純物からなり、
5<[Ti]/[N]<20
{[Ti]はTi含有量(質量%)、[N]はN含有量(質量%)を示す}
を満たし、金属組織が平均結晶粒径100μm以上のフェライト単相組織であり、該フェライト結晶粒内に、平均粒径が0.5〜2μmの硫化物が1〜10個/100μm2析出し、平均粒径が10μmを超える酸化物が200個/鋼4g以下であるところに特徴を有する。
上記鋼部品は、更に他の元素として、Ca:0.002〜0.01%、Mg:0.005〜0.02%、およびZr:0.03〜0.1%よりなる群から選択される1種以上や、Bi:0.002〜0.1%を含んでいてもよい。
本発明は、上記軟磁性鋼部品の製造方法も規定するものであり、該方法は、上記軟磁性鋼材を用い、1150〜1300℃で熱間鍛造するところに特徴を有する。
本発明によれば、大型で複雑な形状の電装部品を製造する場合でも熱間鍛造性に優れ、また仕上げ切削加工で使用する工具の長寿命化を図ることができ、更には、熱間鍛造ままでJIS−SUYB0種レベル以上の磁気特性を確保することのできる軟磁性鋼材、および優れた磁気特性を有し、自動車や電車、船舶等で使用される各種電装部品を構成するソレノイド、リレーあるいは電磁弁等の鉄心材といった電装部品に有用な軟磁性鋼部品を前記鋼材を用いて効率良く得ることができる。
本発明者らは、純鉄系軟磁性鋼材の熱間鍛造性、磁気特性および被削性を同時に高めるべく、これらの特性に及ぼす金属組織や析出物の影響について様々な角度から検討を行った。その結果、後述するように成分を調整した上で、特に、
(a)所定サイズの硫化物を所定の密度で分散析出させること、および
(b)巨大な酸化物の発生を抑制すること
が有効であることを見出し、本発明を完成した。以下、上記(a)、(b)の具体的条件について詳述する。
軟磁性鋼材の磁気特性は、材料内部を移動する磁束を固定するエネルギー量に関係しており、フェライト結晶粒の大きさ、析出物の磁気的性質や分布形態の影響を受ける。特に、鋼中に析出物が多数存在する場合には、磁気焼鈍時の結晶粒成長が妨げられて結晶粒界が多くなり、これが磁壁移動の抵抗となるため、磁気特性の一つである「外部磁界に対する応答性」(磁気応答性)が低下する。また、析出物自体も磁壁を縛束するため磁気応答性を低下させる。
この様な知見から、優れた磁気特性を確保するには、析出物を極力減少させ、且つフェライト結晶粒を粗大化させるのがよいことがわかる。本発明では、鋼材の金属組織をフェライト単相組織とし、また、最終的に得られる鋼部品の該フェライトの平均結晶粒径を100μm以上とする。
フェライト平均結晶粒径をこの様に粗大化させて粒界面積を低減させれば、保磁力を小さくかつ磁束密度を高めることができ、ソレノイド、リレーあるいは電磁弁の鉄心材といった電装部品の構成部材に好適な磁気特性を確保することができる。好ましくは前記フェライトの平均結晶粒径を200μm以上とする。尚、フェライト単相組織とするには、炭素量を極少レベルに抑えてパーライトの生成を抑制するのが有効である。
また、優れた磁気特性を確保する観点からは、上述の通り析出物量を低減させるのが好ましいが、該析出物は被削性を高めるのに有効である。そこで、これらの特性を兼備させるべく鋭意研究を行ったところ、平均粒径が0.5〜2μmの硫化物を1〜10個/100μm2の範囲内で析出させればよいことがわかった。
平均粒径が0.5〜2μmの硫化物を1個/100μm2以上析出させるのは、被削性を確保するためである。後述する図4に示す通り、良好な磁気特性を確保するには、C量を0.02%以下に抑えるのが有効である。しかしC量の異なる4鋼種を用いて切削抵抗を測定した図1から明らかな通り、C量を低減させると切削抵抗が著しく高まり、精度よく切削が行えない。また工具摩耗量が大きく、切削工具寿命が著しく低下する。
しかし、該低炭素鋼に0.5〜2μmの硫化物を1個/100μm2以上存在させると、切削抵抗が抑制されて良好な被削性を確保できることが分かった。被削性の更なる向上を図るには、0.5〜2μmの硫化物を4個/100μm2以上存在させるのが好ましい。
一方、上記硫化物を過剰に存在させると、上述の通り磁気特性が大幅に劣化して電装部品の機能が著しく低下する。また、熱間鍛造時に割れが生じ易くなり、生産性が著しく低下する原因にもなる。従って、上記硫化物は10個/100μm2以下とするのがよく、優れた磁気特性および熱間鍛造性を確保するには、8個/100μm2以下に抑えるのが好ましい。
硫化物としては、Ti、Mn、Ca、Zr等の硫化物が単独で存在するものの他、これら2元素以上を含む硫化物、更には、MgO、Al23等の酸化物を核として形成された硫化物や、窒化物との混合物として形成されたものも含まれる。
尚、上記本発明の作用効果を効率良く発揮させるには、硫化物として、(Mn,Ti)Sを析出させることが推奨される。
本発明では、平均粒径が10μm超の粗大な酸化物を200個/鋼4g以下に抑制する。図2に示すようなSi酸化物や、図3に示すようなAl酸化物の様な硬質酸化物は、切削工具の寿命を縮め、また磁気特性の著しい劣化の原因にもなるからである。好ましくは、平均粒径が10μm超の粗大な酸化物を100個/鋼4g以下、より好ましくは50個/鋼4g以下に抑える。
尚、上記酸化物とは、後述する実施例に示す通り、硝酸:250mL、硫酸:10mL、純水:550mLの混合溶液で鋼材を溶解し、その残渣をフィルタでろ過して得られるAl23、SiO2、Na23、MgO、SO3、CaO、K2O、TiO2、ZrO2、CrO、MnO、FeO等の酸化物、またはこれらの複合酸化物をいうものとする。
この様に本発明の最重要ポイントは、フェライト組織中に分散する析出物(硫化物、酸化物)の粒径および密度を適正範囲に制御するところにあるが、最終的に電装部品等として使用する場合の特性を確保するとともに、上記形態の析出物を効率良く析出させるには、下記の化学成分組成を満たす鋼材を使用することが推奨される。
C:0.02%以下(0%を含まない)
図4は、炭素量と磁束密度の関係を示したグラフであるが、この図4より、磁界の強さ:5Oeでの磁束密度が約1.5T以上と高レベルの磁気特性を確保するには、炭素量を0.02%以下、好ましくは0.01%以下に抑えるのがよいことがわかる。またCは、鋼中に固溶してひずみ時効を促進させる元素でもあるため、該作用を抑制する観点から炭素量を上記範囲内に抑えるのがよい。
尚、効率良く鋼材を製造する観点からは、C量の下限値を約0.002%とするのがよい。
Si:0.1%以下(0%を含まない)
Siは、溶製時に脱酸剤として作用し、磁気特性に有害な酸化物を除去する効果をもたらす。また、フェライトを硬化させて被削性を改善する作用も有する。これらの効果を発揮させるべく0.01%以上含有させてもよいが、多量に含有させると、生成したSi酸化物が鋼材に残留し、切削工具の寿命を著しく低下させるおそれがある。従って、Si量の上限を0.1%とした。好ましくは0.05%以下である。
Mn:0.1〜0.5%
Mnは、脱酸剤として作用するとともに、鋼中のS(硫黄)をMnSとして固定することで高温脆化を抑制するのに有効な元素である。従って、0.1%以上、好ましくは0.15%以上含有させるのがよい。しかしMn含有量が増大すると、磁気特性が低下するため0.5%以下に抑える。好ましくは0.3%以下である。
P:0.02%以下(0%を含まない)
P(リン)は、粒界偏析を起こして磁気特性の低下を招く元素であるので、0.02%以下に抑えて磁気特性の改善を図るのがよい。好ましくはP含有量を0.01%以下にする。
S:0.02超〜0.15%
S(硫黄)は、MnSを形成して被削性の向上に寄与する元素である。この様な効果を発揮させるには0.02%を超えるSを含有させるのがよく、好ましくは0.03%以上である。しかしS含有量が過剰になると、硫化物が過剰に析出して磁気特性を低下させたり、鍛造割れの原因となるFeS等の硫化物が生成し易くなるので0.15%以下に抑える。好ましくは0.1%以下である。
Al:0.01%以下(0%を含まない)
Alは、固溶NをAlNの形で固定して結晶粒を微細化させる作用がある。結晶粒の微細化は、結果として磁気特性の低下を招くので、Al含有量は0.01%以下に抑えるのがよく、好ましくは0.005%以下である。
Ti:0.01〜0.1%
Tiは、S(硫黄)をTiSの形で固定して、熱間鍛造時の割れ発生の原因となるFeSの生成を抑制する。また、固溶NをTiNとして固定し、部品成形時の変形抵抗を低減する効果も有する。これらの効果を発揮させるには0.01%以上含有させるのがよく、好ましくは0.02%以上である。
一方、Tiを過剰に含有させると、変形抵抗の増大を招いて熱間鍛造時の成形性が低下する。また、粗大なTi含有析出物が析出して磁気特性が低下し易くなるので、0.1%以下に抑えるのがよく、好ましくは0.05%以下である。
N:0.005超〜0.01%
窒化物の生成に寄与しない固溶Nは、フェライト相を脆化させて被削性を向上させる効果を有する。この様な効果を有効に発揮させるには、0.005%超のNを含有させるのがよい。しかし原子半径の小さいN原子やC原子は、Fe結晶格子のすきまに侵入して格子をひずませるため、磁気特性の経時劣化を招く。また、固溶Nが過剰になると、変形抵抗の増大を招いて熱間鍛造時の成形性が低下する。更に、NはAlと結合して窒化物を形成するが、AlNは、上述の通りフェライト結晶粒を微細化して磁気特性を低下させる原因になる。従って、N量は0.01%以下に抑えるのがよく、好ましくは0.008%以下である。
5<[Ti]/[N]<20
更に本発明では、ひずみ時効硬化の原因となるNとの相対量として、Ti含有量(質量%)を[Ti]とし、N含有量(質量%)を[N]とした場合の[Ti]/[N]が、5<[Ti]/[N]<20を満たすようにする。
[Ti]/[N]が5以下の場合には変形抵抗の低減効果が小さく、またS(硫黄)を捕捉するTiが不足して、熱間鍛造性を劣化させるFeSが生成し易くなるので好ましくない。一方、[Ti]/[N]が20以上の場合には、固溶Nの低減に寄与しないTi含有析出物が必要以上に増加し、変形抵抗の増加と磁気特性の低下を招くので好ましくない。望ましくは[Ti]/[N]が7以上、15以下となるようにする。
O:0.01%以下(0%を含まない)
O(酸素)は常温では鋼に殆ど固溶せず、AlやSi等と結合して硬質酸化物を形成する。これらの酸化物は、磁気特性を低下させるとともに切削加工時の工具寿命を大幅に縮めるので、O含有量は極力低減するのがよく、0.01%以下、好ましくは0.005%以下、より好ましくは0.002%以下に抑える。
Ca:0.002〜0.01%、Mg:0.005〜0.02%、およびZr:0.03〜0.1%よりなる群から選択される1種以上
これらの元素は、球状の硫化物を形成するため、磁気特性の低下を抑制しつつ被削性を向上させるのに有効である。また、酸化物を核に生成するこれらの硫化物は、酸化物が直接工具に接触して摩耗が促進するのを防止する。この様な効果を発揮させるには、Caを0.002%以上(より好ましくは0.005%以上)、Mgを0.005%以上(より好ましくは0.008%以上)、Zrを0.03%以上(より好ましくは0.05%以上)含有させるのがよい。
しかし多過ぎると、却って被削性が低下したり、磁気特性が低下するので、それぞれCaを0.01%以下(より好ましくは0.008%以下)、Mgを0.02%以下(より好ましくは0.015%以下)、Zrを0.1%以下(より好ましくは0.08%以下)の範囲内で含有させるのがよい。
Bi:0.002〜0.1%
Biは、被削性を高めるのに有効な元素であり、そのためには0.002%以上含有させるのがよい。より好ましくは0.01%以上である。しかし過剰に含有させると、上記FeSと同様に熱間加工時に割れが生じ易くなるので、0.1%以下に抑えるのがよく、より好ましくは0.05%以下である。
本発明で規定する元素は上記の通りであり、残部成分は実質的にFeであるが、該鋼材中に、上述したものの他、原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる不可避的不純物、更には、本発明の課題達成に悪影響を与えないAs等の許容元素が含まれる場合も、本発明の鋼材(または鋼部品)に包含される。
上記軟磁性鋼材を用いて電装部品の構成部材等の鋼部品を製造するには、常法により溶解、鋳造してから、熱間圧延を行い、その後に熱間鍛造して最後に切削加工を施せばよい。磁気特性を付与するには、切削加工後に磁気焼鈍を行うのが一般的であるが、切削加工を行った後に磁気焼鈍を行うと、熱ひずみが生じて部品の寸法精度が低下する。
そこで本発明では、上記規定の化学成分を含有する鋼材を用い、常法により溶解、鋳造および熱間圧延を行った後に、熱間鍛造を1150〜1300℃の温度範囲で行うこととした。該温度範囲で熱間鍛造を行えば、鍛造割れを生じさせることなく精度よく製品形状に成型できるとともに、熱間鍛造ままでJIS−SUYB0種レベル以上の良好な磁気特性を確保できるので、磁気焼鈍を行う必要がなく、結果として生産性を高めるとともに切削加工による部品の寸法精度を高く維持できる。
図5は、熱間鍛造温度(圧縮加工温度)と変形抵抗の関係を、鋼材Aと鋼材B(鋼材AはS(硫黄)を0.008%含み、鋼材BはSを0.033%含み、金属組織はともにフェライト単相組織である純鉄系軟磁性鋼材)を用いて調べた結果である。この図5から、変形抵抗の増大を抑えて鍛造割れを生じさせることなく成形するには、1150℃以上で行うのがよいことがわかる。
また本発明では、熱間鍛造でフェライト粒の成長を促進させることで優れた磁気特性を確保する。図6は、フェライト結晶粒度番号と保磁力の関係を示したグラフであり、図7は、熱間鍛造温度(加工温度)とフェライト結晶粒度番号の関係を示したグラフであるが、図6からも明らかな様に、保磁力を例えば約50A/m以下に抑えて磁気応答性を高めるには、フェライト結晶粒度番号で4以下に粗大化させるのがよく、そのためには、図7から1200℃以上で鍛造するのが望ましいことがわかる。
上記熱間鍛造性と磁気特性をより高めるには、熱間鍛造を1200℃以上で行うのが好ましく、より好ましくは1250℃以上である。
一方、熱間鍛造温度が高すぎると、被削性向上のために析出させた硫化物が溶融し易く、熱間鍛造時に割れが生じ易くなる。従って、熱間鍛造は1300℃以下で行うのがよい。
軟磁性鋼部品の製造におけるその他の製造条件は、特に制限されないが、上記3つの特性を確保できる軟磁性鋼材および軟磁性鋼部品を効率良く製造するには、熱間圧延を下記条件で行うことが大変有効である。
〈熱間圧延に際しての加熱:1000〜1200℃〉
合金成分を母相に完全に固溶させるべく高温で加熱することが望ましいが、温度が高すぎると、FeSが母相中に析出して熱間延性が著しく低下するため、フェライト結晶粒の粗大化が部分的に顕著となり、部品成型時の熱間鍛造性が低下する。従って1200℃以下、好ましくは1150℃以下で加熱するのがよい。一方、加熱温度が低すぎると、異なる相が局所的に生成して圧延時に割れが生じるおそれがある。また圧延時のロール負荷が上昇して、設備負担の増大や生産性の低下を招くので、1000℃以上に加熱して圧延を行うのがよい。
〈熱間圧延における仕上げ温度:850℃以上〉
微細な析出物を母相へ均一に析出させて、析出物の粒径および密度を本発明で規定する範囲内とするには、仕上げ温度を850℃以上とするのがよい。より好ましくは870℃以上である。
〈熱間圧延後の800〜500℃間の平均冷却速度:0.5〜10℃/s〉
熱間鍛造時に優れた磁気特性を確保するには、熱間圧延後の800〜500℃間の平均冷却速度を10℃/s以下(より好ましくは5℃/s以下、更に好ましくは3℃/s以下)にするのがよい。該冷却速度が速すぎると、原子空孔が増加し熱間鍛造後の磁気特性が低下するため好ましくない。一方、該温度域での冷却速度が遅すぎると、粗大な析出物が形成され易く、生産性も低下するので、0.5℃/s以上(より好ましくは1℃/s以上)とするのがよい。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
表1に示す化学成分組成の供試材を溶製後、加熱温度:1100℃、仕上圧延温度:860℃、熱間圧延後の800〜500℃間の冷却速度:2℃/sの条件で熱間圧延を行って直径20mmの線材を得た。この様にして得られた鋼線材の断面組織と、析出物の平均粒径および密度を下記の要領で調べた。
即ち、線材の横断面を露出させた状態で支持基材内に埋め込み、研磨後、5%のピクリン酸アルコール液に15〜30秒間浸漬して腐食させ、その後、光学顕微鏡でD/4(Dは直径)部位の組織を100〜400倍で10視野撮影し、金属組織とそのサイズを求めた。その結果、金属組織は全ての鋼線材について、フェライト単相組織であった。尚、該フェライト組織の平均結晶粒径は、表2に示す通りである。
また、フェライト組織中の硫化物の平均粒径および密度は、走査型電子顕微鏡(SEM)により1000〜3000倍で析出物を観察し、画像解析装置によって組織の平均粒径と密度を求めた(何れも10視野の平均値)。尚、平均粒径は、各析出物の長径と短径の平均値である。
鋼中の酸化物は、鋼材試料4gを硝酸:250mL、硫酸:10mL、純水:550mLの混合溶液で溶解し、その残渣をフィルタでろ過して得られたものについて上記の通り平均粒径を調べた。これらの結果を表2に併記する。
次に、得られた鋼部品の熱間鍛造性、磁気特性および被削性を下記の様にして調べた。熱間鍛造性は、図8に示す工程に沿って上記試料を所定の温度(表2に示す熱間鍛造温度)まで加熱後、図9に示すように10mm/secの速度で圧下率:80%の圧縮を行った際の変形抵抗と割れ発生の有無で評価した。
磁気特性は、上記熱間圧縮試験後の試験片から外径18mm×内径10mmのリング状試料を作製し、これに磁界印加用コイルと磁束検出用コイルを巻線した後、自動磁化測定装置[理研電子(株)製 直流磁気測定装置(BHH−25CD)]を用いてH−B曲線を測定し、磁界の強さが2Oeまたは3Oeのときの磁束密度と保磁力を求めた。
被削性は、超鋼工具を用いて、切削速度:220m/min、送り速度:0.15mm/rev、切込み量:0.2mmの条件で湿式切削加工を5分間実施し、該工具の逃げ面磨耗量を測定して評価した。これらの結果を表2に併記する(尚、表2におけるこれらの特性の評価基準を表3に示す)。
Figure 0004266336
Figure 0004266336
Figure 0004266336
表1〜3から次のように考察することができる。尚、下記のNo.は、表2中の実験No.を示す。No.2〜3およびNo.5〜9は、本発明で規定する化学成分組成等を満たし、かつ本発明で規定する条件で製造したものであるので、いずれも熱間鍛造性および被削性に優れるとともに、表3に示すJIS−SUYB0種レベル以上の磁気特性を有していることがわかる。
これに対し、No.1,4およびNo.10〜23は、鋼材の化学成分組成が本発明の規定要件を外れるか、または本発明で規定する条件で製造を行わなかったため、変形抵抗が高すぎるなど熱間鍛造性に劣るか、切削工具の摩耗量が著しく被削性に劣るか、もしくはJIS−SUYB0種レベルの磁気特性が得られない等の不具合が生じた。
No.1,4は、本発明で規定する化学成分組成を満たしているが、製造条件が本発明の要件を外れるため、上記不具合が生じたと考えられる。即ちNo.1は、熱間鍛造温度が低すぎるため、鍛造荷重が増加するとともに鍛造後の再結晶が十分に進まず、磁気特性が低下する結果となった。またNo.4は、熱間鍛造時の温度が高すぎるため、δFe相が析出し、変形抵抗の異なる2相が存在して割れが生じた。
No.10は、[Ti]/[N]の値が低すぎる、即ち、N量に対してTi量が少ないため、FeS等の熱間延性の低い析出物を起点とした割れが認められた。
No.11は、C量が過剰であり、変形抵抗が増大して熱間鍛造性が低下するとともに、磁気特性の大幅な低下が生じた。
No.12は、Si量が過剰であり、硬質の酸化物が多く析出するため、工具摩耗量が多くなり、切削工具寿命が低下する。
No.13より、Mnを過剰に含有させても、比較的小型のMnSが析出するだけで顕著な被削性の改善効果が認められないことがわかる。また、析出したMnSが磁壁の移動を縛束するため、磁気特性の低下が認められる。
No.14はPを多量に含有する例であり、粒界にPが偏析して結晶粒の成長が抑制されるとともに、粒界での磁壁ピン止め効果が増加するため、フェライト粒径100μm以上とならず、磁気特性が低下する結果となった。
No.15は、S含有量が過剰であるため、熱間鍛造性が劣化して図10に示すような鍛造割れが発生した。これは、FeS、MnSが図11(図中の黒点)に示すように多量に析出したためと考えられる。また磁気特性の低下も認められた。更にはMnSが極微細となりすぎて、被削性の十分な改善効果も得られなかった。
No.16より、Al量が過剰であると、AlNの生成により結晶粒の成長が抑制されて、磁気特性が著しく低下することがわかる。また、粗大なAl23が多量に析出して切削加工時の工具寿命が大幅に低下することがわかる。
No.17より、Tiは、FeS等の有害な硫化物の生成を抑える効果を有するが、過剰に存在させると、大型のTi含有硫化物が不均一に分散して、熱間加工時のフェライト結晶粒の成長を抑制し、磁気特性が低下することがわかる。
No.18は、Nを多量に含むものであり、熱間鍛造性と被削性の劣化は認められないが、フェライト粒径が小さいため磁気特性に劣っていることがわかる。
No.19より、酸素含有量が過剰であると、粗大な酸化物が多量に析出して切削工具の摩耗が著しいことがわかる。また磁気特性にも悪影響を及ぼすことが認められる。
No.20〜23からは、優れた被削性や磁気特性を確保するには、Ca,Mg,Zr,Biをそれぞれ好ましい範囲内で添加するのがよいことがわかる。
尚、図12は、本発明の要件を満たすS(硫黄)量が0.033%の鋼材断面の写真であるが、この写真から硫化物(黒点)が分散していることがわかる。
鋼中C量と切削抵抗の関係を示したグラフである。 (A)はSi酸化物の電子顕微鏡写真(倍率:2000倍)であり、(B)は該酸化物の日本電子製JXA−733による成分分析の結果である。 (A)はAl酸化物の電子顕微鏡写真(倍率:1500倍)であり、(B)は該酸化物の日本電子製JXA−733による成分分析の結果である。 炭素量と磁束密度の関係を示したグラフである。 熱間鍛造温度(圧縮加工温度)と変形抵抗の関係を示したグラフである。 フェライト結晶粒度番号と保磁力の関係を示したグラフである。 熱間鍛造温度(加工温度)とフェライト結晶粒度番号の関係を示したグラフである。 実施例における熱間鍛造試験の加工工程図を示す。 熱間鍛造性の評価試験方法を示す。 実施例における鍛造割れを示す写真である。 実施例における鍛造割れを示す光学顕微鏡写真(倍率:400倍)である。 本発明鋼の断面観察写真を示す写真である。

Claims (10)

  1. 質量%で(以下同じ)、
    C :0.02%以下(0%を含まない)、
    Si:0.1%以下(0%を含まない)、
    Mn:0.1〜0.5%、
    P :0.02%以下(0%を含まない)、
    S :0.02超〜0.15%、
    Al:0.01%以下(0%を含まない)、
    Ti:0.01〜0.1%、
    N :0.005超〜0.01%、
    O :0.01%以下(0%を含まない)、
    残部鉄および不可避不純物からなり、
    5<[Ti]/[N]<20
    {[Ti]はTi含有量(質量%)、[N]はN含有量(質量%)を示す}
    を満たし、金属組織がフェライト単相組織であり、該フェライト結晶粒内に、
    平均粒径が0.5〜2μmの硫化物が1〜10個/100μm2析出し、
    平均粒径が10μmを超える酸化物が200個/鋼4g以下である
    ことを特徴とする軟磁性鋼材。
  2. 質量%で(以下同じ)、
    C :0.02%以下(0%を含まない)、
    Si:0.1%以下(0%を含まない)、
    Mn:0.1〜0.5%、
    P :0.02%以下(0%を含まない)、
    S :0.02超〜0.15%、
    Al:0.01%以下(0%を含まない)、
    Ti:0.01〜0.1%、
    N :0.005超〜0.01%、
    O :0.01%以下(0%を含まない)、
    残部鉄および不可避不純物からなり、
    5<[Ti]/[N]<20
    {[Ti]はTi含有量(質量%)、[N]はN含有量(質量%)を示す}
    を満たし、金属組織がフェライト単相組織であり、該フェライト結晶粒内に、
    平均粒径が0.5〜2μmの硫化物が1〜10個/100μm 2 析出し、
    平均粒径が10μmを超える酸化物が200個/鋼4g以下である
    ことを特徴とする、
    1150〜1300℃で圧下率:80%の熱間鍛造を行う際の変形抵抗が150N/mm 2 以下でかつ加工割れ及びバーニングが発生せず、かつ
    上記熱間鍛造後における、磁界の強さ:2Oeでの磁束密度が1.1T以上、かつ磁界の強さ:3Oeでの磁束密度が1.25T以上、かつ保磁力が63.2A/m以下であり、かつ
    超鋼工具を用いて、切削速度:220m/min、送り速度:0.15mm/rev、切込み量:0.2mmの条件で湿式切削加工を5分間実施したときの工具摩耗量が40μm以下である熱間鍛造性、磁気特性および被削性に優れた軟磁性鋼材。
  3. 更に他の元素として、
    Ca:0.002〜0.01%、
    Mg:0.005〜0.02%、および
    Zr:0.03〜0.1%
    よりなる群から選択される1種以上を含む請求項1または2に記載の軟磁性鋼材。
  4. 更に他の元素として、Bi:0.002〜0.1%を含む請求項1〜3のいずれかに記載の軟磁性鋼材。
  5. 質量%で(以下同じ)、
    C :0.02%以下(0%を含まない)、
    Si:0.1%以下(0%を含まない)、
    Mn:0.1〜0.5%、
    P :0.02%以下(0%を含まない)、
    S :0.02〜0.15%、
    Al:0.01%以下(0%を含まない)、
    Ti:0.01〜0.1%、
    N :0.005〜0.01%、
    O :0.01%以下(0%を含まない)、
    残部鉄および不可避不純物からなり、
    5<[Ti]/[N]<20
    {[Ti]はTi含有量(質量%)、[N]はN含有量(質量%)を示す}
    を満たし、金属組織が平均結晶粒径100μm以上のフェライト単相組織であり、該フェライト結晶粒内に、平均粒径が0.5〜2μmの硫化物が1〜10個/100μm2析出し、平均粒径が10μmを超える酸化物が200個/鋼4g以下であることを特徴とする軟磁性鋼部品。
  6. 質量%で(以下同じ)、
    C :0.02%以下(0%を含まない)、
    Si:0.1%以下(0%を含まない)、
    Mn:0.1〜0.5%、
    P :0.02%以下(0%を含まない)、
    S :0.02〜0.15%、
    Al:0.01%以下(0%を含まない)、
    Ti:0.01〜0.1%、
    N :0.005〜0.01%、
    O :0.01%以下(0%を含まない)、
    残部鉄および不可避不純物からなり、
    5<[Ti]/[N]<20
    {[Ti]はTi含有量(質量%)、[N]はN含有量(質量%)を示す}
    を満たし、金属組織が平均結晶粒径100μm以上のフェライト単相組織であり、該フェライト結晶粒内に、平均粒径が0.5〜2μmの硫化物が1〜10個/100μm 2 析出し、平均粒径が10μmを超える酸化物が200個/鋼4g以下であることを特徴とする、
    磁界の強さ:2Oeでの磁束密度が1.1T以上、かつ磁界の強さ:3Oeでの磁束密度が1.25T以上、かつ保磁力が63.2A/m以下である磁気特性に優れた軟磁性鋼部品。
  7. 更に他の元素として、
    Ca:0.002〜0.01%、
    Mg:0.005〜0.02%、および
    Zr:0.03〜0.1%
    よりなる群から選択される1種以上を含む請求項5または6に記載の軟磁性鋼部品。
  8. 更に他の元素として、Bi:0.002〜0.1%を含む請求項5〜7のいずれかに記載の軟磁性鋼部品。
  9. 前記請求項5〜8のいずれかに記載の軟磁性鋼部品を製造する方法であって、前記請求項1〜のいずれかに記載の鋼材を用いて、1150〜1300℃で熱間鍛造することを特徴とする軟磁性鋼部品の製造方法。
  10. 前記請求項5〜8のいずれかに記載の軟磁性鋼部品を製造する方法であって、前記請求項1〜4のいずれかに記載の鋼材を用いて、1150〜1300℃で熱間鍛造することを特徴とする、
    磁界の強さ:2Oeでの磁束密度が1.1T以上、かつ磁界の強さ:3Oeでの磁束密度が1.25T以上、かつ保磁力が63.2A/m以下である磁気特性に優れた軟磁性鋼部品の製造方法。
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