JP4223701B2 - 被削性と磁気特性に優れた軟磁性低炭素鋼材及びその製法、並びに該鋼材を用いた軟磁性低炭素鋼部品の製法 - Google Patents

被削性と磁気特性に優れた軟磁性低炭素鋼材及びその製法、並びに該鋼材を用いた軟磁性低炭素鋼部品の製法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車や電車、船舶用などを対象とする各種電装部品に使用されるソレノイド、リレーあるいは電磁弁等の鉄心材として有用な軟磁性低炭素鋼材とその製法、並びに該鋼材を用いた軟磁性低炭素鋼部品の製法に関し、特に、優れた冷間鍛造性と被削性および磁気特性を備えた軟磁性低炭素鋼材と、これを用いて優れた磁気特性の軟磁性低炭素鋼部品を製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
自動車などの電装部品等の磁気回路を構成する部材では、省電力化や応答性向上のため、低い外部磁界で容易に磁化し得る特性に加えて、磁気特性として保磁力の小さいことが要求される。このため、部材内部の磁束密度が外部磁界に応答し易い軟磁性材料が使用されている。
【0003】
上記特性を有する軟磁性鋼材としては、例えばC量が0.01質量%程度以下の極低炭素鋼などが使用され、この鋼片を熱間圧延した後、潤滑処理、伸線加工、冷間鍛造(冷間圧造を含む、以下同じ)、仕上げ切削および磁気焼鈍などを順次施して軟磁性鋼部品とされる。
【0004】
一方、最近における電装部品の高性能化に伴なって、軟磁性鋼部品の形状・構造はますます複雑化する傾向が見られる。しかし極低炭素鋼は、冷間圧造性に優れている反面、剪断加工やドリル切削時に生じるバリが著しく、部品形状が複雑になるとその加工が困難で生産性が著しく低下するという問題が生じてくる。
【0005】
こうした状況の下で、軟磁性鋼材の被削性改善についても幾つかの提案がなされており、純鉄系軟磁性材に対する被削性の改善法としては、例えば特開昭51−16363号公報に開示されている如く、PbやBiなどの低融点金属を適量含有させることによって、磁気特性の劣化を抑えつつ被削性を高めて工具寿命を改善する技術が開示されている。但しこの発明は、工具寿命の向上に主眼を置いたもので、切削処理時に発生するバリの低減については、必ずしも満足し得るものではない。しかも、鋼中に添加される上記被削性改善元素が磁気特性に少なからぬ悪影響を及ぼすので、磁気特性は通常JIS SUYB−2種程度が限度となっている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はこのような事情に着目されてなされたもので、その目的は、優れた冷間圧造性と被削性を付与することで、複雑形状の鋼部品であっても高歩留まりで加工することのできる軟磁性鋼材を提供すると共に、該軟磁性鋼材を用いて優れた磁気特性の軟磁性鋼部品を製造することのできる方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決することのできた本発明に係る被削性と磁気特性に優れた軟磁性低炭素鋼材とは、
C:0.05%(質量%を意味する、以下同じ)以下、
Si:0.1%以下、
Mn:0.10〜0.50%、
P:0.030%以下、
S:0.010〜0.15%、
Al:0.01%以下、
N:0.005%以下、
O:0.02%以下、
を満たし、残部が実質的にFeで且つMn/S>3.0である鋼からなり、フェライト結晶粒径が100μm以上で、該フェライト結晶粒内に、粒径0.2μm以上のMnS析出物が0.02〜0.5個/μm2存在すると共に、該MnS析出物の平均粒径が0.05〜4μmであるところに要旨が存在する。
【0008】
上記本発明においては、他の成分としてBi:0.005〜0.05%および/またはPb:0.01〜0.1%を含有する鋼を使用すれば、磁気特性を害することなく被削性を更に改善することができ、また、鋼中に他の成分としてB:0.0005〜0.005%を含有させれば、BNとしてのN固定作用によって磁気特性を一段と高めることができるので好ましい。
【0009】
また本発明にかかる製法は、上記優れた磁気特性と被削性を兼ね備えた軟磁性低炭素鋼材を確実に得ることのできる製法を特定するもので、その構成は、上記化学成分を満たす鋼材を、1000〜1200℃に加熱して熱間圧延し、850℃以上の仕上げ温度で圧延を終了した後、800〜500℃の温度域を0.5℃/sec以上、10℃/sec以下の平均冷却速度で冷却するところに要旨を有している。
【0010】
そして、上記の様にして得られる軟磁性低炭素鋼材を使用し、冷間鍛造および切削により形状加工した後、850℃超、950℃以下の温度で3時間以上焼鈍すると、被削性と磁気特性に優れた軟磁性低炭素鋼部品を得ることができ、この製法も本発明の特徴の1つとなる。
【0011】
【発明の実施形態】
本発明者らは前述した様な従来技術の下で、軟磁性の低炭素鋼を対象としてその被削性と磁気特性の向上を図るべく、鋼組織や析出物の影響などを含めて様々の角度から検討を重ねてきた。その結果、鋼材のフェライト組織中にMnSが微細分散したものは、良好な磁気特性を維持したまま、被削性、特に切削加工時に生じるバリが大幅に低減されること(以下、この特性を「耐バリ性」ということがある)を見出し、上記本発明に想到した。
【0012】
軟磁性低炭素鋼材の磁気特性は、鋼材内部で磁束を固定するエネルギー量に関係しており、フェライト結晶粒の大きさや、析出物の磁気的性質と分布形態で異なってくる。通常、フェライト組織中に空孔や常磁性析出物が存在すると、鋼材を貫通する磁束が該空孔や常磁性析出物に束縛されるため、外部磁界に対する応答性、即ち磁気特性は低下してくる。
【0013】
一方、MnSの如き反磁性を示す析出物では、外部磁界と析出物内の磁気モーメントの方向が異なり、磁束が析出物を回避して材料を通り抜けるため、磁束を束縛するエネルギーは小さい。また反磁性体の磁気モーメントの大きさは、フェライト母相の磁気モーメントに比べて小さいため、鋼材全体の磁気特性を劣化させることはない。ただし、MnSが粗大化したり粒界析出を起こすと、磁束を束縛するエネルギーが増加するため磁気特性が低下する要因になる。
【0014】
本発明者らはこうした知見を含めて更に研究を重ねた結果、C量が0.05%以下である低炭素鋼では、図1,2に示す如くフェライト結晶粒径を100μm以上に粗大化させて粒界面積を低減すれば、磁気特性が大幅に高められることを突き止めた。
【0015】
また、該低炭素鋼を対象として磁気特性と被削性の両立を図るには、図3に示す如く、フェライト結晶粒内に存在する粒径(粒径とは、短径と長径の平均値を意味する。本明細書において同じ)0.2μm以上のMnSの析出個数を多くすることが有効であり、該個数が0.02個/μm2以上で、且つ該MnS析出物の平均粒径が0.05〜4μmの範囲内であるものは、本発明で意図する高レベルの磁気特性と被削性(耐バリ性)を兼ね備えたものになることを知った。尚、図3における符号○、△、×は下記表1に示す評価基準に基づく。
【0016】
尚表1中の「SUYB」とは、JIS C 2503で規定される磁気特性の標準規格であり、実用的には、電装部品などの磁気回路に適用するには「SUYB−1種」以上、単純なリレー・スイッチなどでは「SUYB−2種」相当あればよいと言われている。また、同じ部品であっても、「SUYB−2種」よりも「SUYB−1種」、「SUYB−1種」よりも「SUYB−0種」のものの方が、コンパクト化(軽量性)、応答速度、省電力化等に有効であることから、同じ用途に適用する場合でも磁気特性の一層の向上が望まれている。尚、直径が0.2μm未満の微細なMnSは、磁気特性にあまり悪影響を及ぼさないが、被削性の改善に寄与する作用も小さい。
【0017】
【表1】
Figure 0004223701
【0018】
よって本発明最大のポイントは、フェライト組織中に分散する比較的粗大なMnS析出物の個数(存在密度)とその平均粒径を制御するところに特徴を有しているが、こうした特性を確保するには、用いる低炭素鋼材の化学成分や圧延条件、焼鈍条件なども適正に制御することが望ましい。
【0019】
以下、本発明に係る化学成分組成の限定理由について述べる。
【0020】
「C:0.05%以下」
C(炭素)は鋼材の強度と延性のバランスを支配する基本元素であり、添加量を低減するほど強度は低下し、延性は向上する。またCは、鋼中に固溶してひずみ時効効果を生じるので低Cが望ましく、磁気特性の面からも低Cが好ましい。こうしたことも考慮し、且つJIS−SUYB1種レベル以上の磁気特性を満足するためにも、C含有量は0.05%以下に抑えねばならない。より好ましいC含有量の上限は0.01%である。
【0021】
「Si:0.1%以下(0%を含まない)」
Siは鋼の溶製時に脱酸剤として作用し、また磁気特性を向上させる作用も有しているが、含有量が多過ぎると冷間鍛造性を阻害する。従って本発明では、鋼部品に成形する時の冷間鍛造性を確保することの必要上、Si含有量の上限は0.1%と定めた。より好ましい上限は0.05%である。
【0022】
「Mn:0.1〜0.5%」
Mnは脱酸剤として有効に作用すると共に、鋼中に含まれるSと結合しMnS析出物として微細分散することでチップブレーカーとなり、被削性の向上に寄与する。こうした作用を有効に発揮させるには、Mnを0.1%以上含有させなければならない。しかしMn量が多過ぎると、析出するMnSの粒径が大きくなって磁気特性を劣化させるため、0.5%を上限とする。また、鋼中に遊離状態で存在するSによる脆化を抑えて実用可能な強度特性を確保するには、Mn/S(原子比)で3.0以上を確保することが必要となる。該Mn/S原子比のより好ましい範囲は5以上、15以下である。
【0023】
「P:0.030%以下(0%を含まない)」
P(リン)は、鋼中で粒界偏析を起こして冷間鍛造性や磁気特性に悪影響を及ぼす有害元素であり、0.030%以下、より好ましくは0.010%以下に抑えねばならない。P量をこの様に制限することで、優れた冷間鍛造性や磁気特性を保証し得ることになる。
【0024】
「S:0.01〜0.15%」
S(硫黄)は、上記の様に鋼中でMnSを形成し、切削加工時に応力が負荷されたときに応力集中箇所となって被削性を向上させる作用を有しており、こうした作用を有効に発揮させるには0.01%以上含有させることが必須となる。ただし、S量が多くなり過ぎると冷間鍛造性を著しく劣化させるので、0.15%以下に抑えなければならない。Sのより好ましい含有量は、0.05%以上、0.10%以下である。
【0025】
「Al:0.01%以下」
Alは、固溶NをAlNとして固定し結晶粒を微細化する作用があり、結晶粒界の増加によって磁気特性を劣化させるので、0.01%以下に抑えねばならない。優れた磁気特性を確保する上でより好ましいAl量の上限は0.005%である。
【0026】
N:0.005%以下(0%を含まない)
上記の様にN(窒素)はAlと結合しAlNを形成して磁気特性を害するが、それに加えて、Alなどにより固定されなかったNは固溶Nとして鋼中に残存し、これも磁気特性を劣化させる。よって、何れにしてもN量は極力少なく抑えるべきであるが、鋼材製造の実操業面も考慮し、且つそれらの弊害を実質的に無視し得る程度に抑えることのできる0.005%を上限値として定めた。
【0027】
「O:0.02%以下(0%を含まない)」
O(酸素)は常温では鋼に殆ど固溶せず、AlやSiなどの元素と結合して硬質の酸化物系介在物となり、磁気特性を大幅に低下させる。ゆえにO含有量は極力低減すべきであり、少なくとも0.02%以下に抑えねばならない。O含量のより好ましい上限は0.005%、更に好ましくは0.002%以下である。
【0028】
「Bi:0.005〜0.05%および/またはPb:0.01〜0.1%」BiおよびPbは被削性の改善に有効な元素であり、これらの1種または2種を併用することで鋼材の被削性を更に高めることができる。その作用は、Biで0.005%以上、Pbで0.01%以上含有させることによって有効に発揮されるが、多過ぎると磁気特性に悪影響を及ぼすので、Biは0.05%以下、Pbは0.1%以下にそれぞれ抑えねばならない。Biのより好ましい含有量は0.01%以上、0.03%以下、Pbのより好ましい含有量は0.02%以上、0.05%以下である。
【0029】
「B:0.0005〜0.005%」
Bは、磁気特性に悪影響を及ぼす前記固溶NをBNの形で固定する働きがある。しかもBのNに対する親和力はAlより大きく、結晶粒を微細化する前記A1Nの析出量を低減する作用も有しており、こうした作用は0.0005%以上含有させることによって有効に発揮される。しかし、BNが多量に存在し過ぎると磁気特性を劣化させる原因になるので、0.005%をB含量の上限とする。Bのより好ましい含有量は0.001%以上、0.003%以下である。
【0030】
本発明に係る軟磁性低炭素鋼材の製造に際しては、上記化学成分の要件を満たす鋼材を常法により溶融してから鋳造すればよいが、冷間鍛造と切削加工による部品形状への成形性に優れ、且つ磁気焼鈍後の状態でJlS−SUYB−1種レベルの磁気特性を得るには、上記化学成分を満たす鋼材を、1000〜1150℃に加熱して熱間圧延し、850℃以上の仕上げ温度で圧延を終了した後、800〜500℃の温度域を0.5℃/sec以上、10℃/sec以下の平均冷却速度で冷却することが極めて有効となる。以下、これらの条件を定めた理由を説明する。
【0031】
[加熱温度:1000〜1200℃]
合金成分を母相に完全に固溶させるため、できるだけ高温で加熱することが望ましい。反面、鋼中に存在するMnSを圧延過程で分断して微細分散させる上では、MnSの変形能が低い低温側が好ましい。また、加熱温度が低過ぎると異相が局所的に生成して圧延時に割れ起こす原因になることがあり、しかも、低温側では圧延時のロール負荷が上昇して生産性にも悪影響を及ぼす様になる。従って加熱温度は1000℃以上、より好ましくは1100℃以上に設定するのがよい。しかし、1200℃を超えて加熱温度が高くなり過ぎると、フェライト結晶粒の粗大化が顕著となって部品成型時の冷間圧造性が低下するので、1200℃程度以下に抑えるのがよい。
【0032】
[仕上げ圧延温度:850℃以上]
仕上げ温度が低過ぎると、MnSの粒径および密度にバラツキが生じ易くなる。母相への微細なMnSの均一な析出を促進するには、仕上げ温度を850℃以上、より好ましくは900℃以上にすることが望ましい。
【0033】
[熱間圧延後の冷却速度:800〜500℃の温度域を0.5℃/sec以上、
10℃/sec以下]
熱間圧延後の冷却速度が早過ぎると原子空孔が増大し、磁気焼鈍後においても満足のいく磁気特性が得られ難くなる。よって、本発明で意図するレベルの磁気特性を保障するには、800〜500℃の温度域の冷却速度を10℃/s以下に抑えるのがよい。但し、該温度域の冷却速度が遅過ぎると生産性が低下する他、MnS粒が粗大化するので、0.5℃/s以上を採用すべきである。冷却速度のより好ましい範囲は1℃/sec以上、5℃/sec以下である。なお、温度域を800〜500℃の範囲と定めたのは、800℃を超える温度域では、フェライト相への変態が進まないため金属組織への影響が殆どなく、また500℃未満の温度では、フェライト相への変態およびMnSの析出がほぼ完了するため、いずれの場合も冷却速度を定めたことの目的が有効に活かせないからである。
【0034】
かくして得られる軟磁性低炭素鋼材を用いて軟磁性低炭素鋼部品を製造するに当たっては、該鋼材を冷間鍛造し、切削加工したのち磁気焼鈍に付して磁性部品とされるが、上記軟磁性低炭素鋼材の特長を活かして優れた磁気特性の部品とするには、上記冷間鍛造と切削加工後に行なわれる磁気焼鈍を850℃超、950℃以下の温度で3時間以上行なうことが望ましい。
【0035】
ちなみに図4は、該磁気焼鈍の温度を800〜950℃の範囲で変更し、各温度で焼鈍時間を30分〜4時間の範囲で変更したとき、該温度と時間が焼鈍材中のフェライト結晶粒径に与える影響を調べた結果を示したグラフである。この図からも明らかな様に、焼鈍温度が850℃未満の低温では、実用的な処理時間で本発明で意図する最適なフェライト結晶粒が得られ難くなり、一方、950℃を超えて過度に焼鈍温度を高めると、フェライト結晶粒界近傍のMnS粒が粗大化し磁気特性の向上が阻害されるからである。磁気焼鈍のより好ましい温度は875℃以上、900℃以下である。また焼鈍時間が2時間未満では、磁気焼鈍温度を高めに設定したとしても、焼鈍時間不足でフェライト結晶粒を十分に粗大化させることができなくなるので、少なくとも2.5時間以上、より確実には3時間以上焼鈍することが望ましい。
【0036】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明の構成および作用効果をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0037】
実施例
表2に示す化学成分の供試鋼材を溶製し、鋳造後、表3に示す条件で熱間圧延を行なって直径20mmの線材を製造した。次いで、10%の減面率で伸線加工した後(直径19mm)、得られた線材の断面組織、MnSの平均粒径と密度、および磁気焼鈍後の磁気特性を調べた。表3に各試料の組織と磁気特性を併せて示す。尚、組織の分類と粒径測定は次の方法で行った。
【0038】
即ち、線材の横断面を露出させた状態で支持基材内に埋め込み、研磨後、5%のピクリン酸アルコール溶液に15〜30秒間浸漬して腐食させた後、走査型電子顕微鏡(SEM)によってD/4(D:線材の直径)部位の組織を100〜400倍で10視野を写真撮影し、該写真により組織と粒径を確認した。またフェライト組織中に存在するMnS析出物の平均粒径および0.2μm以上のものの個数(存在密度)については、1000〜3000倍で析出物を観察し、画像解析装置によって平均粒径と個数(何れもn数10の平均値)を求めた。
【0039】
各試料の磁気特性は、上記各線材を用いて外径18mm×内径10mmのリング状試料を作製し、磁気焼鈍を行なった後、これに磁界印加用コイルと磁束検出用コイルを巻線し、自動磁化測定装置を用いてH−B曲線を測定することによって求めた。
【0040】
一方、被削性、即ち耐バリ性については、上記圧延材を用いて直径20mm×厚さ20mmの試料を作製し、直径8mmのドリル孔を送り0.2mm/revで貫通させたときに生じるバリ高さによって評価した。バリ高さの測定は、円周方向に6箇所/試料(60°刻み)で5個の試料について実施し、その平均値を求めた。
【0041】
【表2】
Figure 0004223701
【0042】
【表3】
Figure 0004223701
【0043】
表2,3より、次のように考察できる。No.1、No.3〜5およびNo.8〜13は、本発明で定める要件を満たし、且つ本発明で定める条件を採用して製造した鉄心材で、いずれもJIS−SUYB−1種以上の磁気特性を有しており、且つ優れた被削性を兼備していることが分かる。これらに対しNo.2,6,7およびNo.14〜31は、鋼材の化学成分が本発明の規定要件を外れるか、あるいは製造条件が本発明の規定要件を外れるものであり、伸線時に割れが発生し、JIS−SUYB−1種の磁気特性が得らず、あるいは切削加工におけるバリ低減効果が不十分であるなど、本発明の目的を達成できていない。
【0044】
尚No.2,6,7は、鋼材の化学成分は本発明の規定要件を満たしているが、製造条件が本発明の要件を外れていることから、上記不具合が生じたものと考えられる。即ちNo.7は、圧延時の冷却速度が早過ぎたため、粗大化したMnSと母相の原子空孔が多く存在する組織となって磁気焼鈍での再結界が十分に進まず、磁気特性を低下させているものと判断される。またNo.2とNo.6では、磁気焼鈍条件が適切でなかったことから再結晶が十分に進まず、粒界面積の多い組織となって磁気特性が低下したものと考えられる。
【0045】
No.14は鋼材中のMn/Sが3.0未満であり、Sの偏析に起因する脆化によって伸線加工時に割れが認められる。また、No.15〜19の結果からは、C量が上限値を超えると磁気特性が大幅に低下することを確認できる。
【0046】
No.20とNo.21は、いずれもMn添加量が規定要件を外れるものである。Mn添加量が0.5お%以下のものでは、微細析出したMnSにより被削性(耐バリ性)が改善されているが、0.1未満になるとバリ高さが大きくなり被削性が低下している。また、Mn量が0.50%を超えるものでは、粗大化したMnSがフェライト結晶粒の成長を抑制し、また析出したMnSが磁束を束縛するため磁気特性が低下している。
【0047】
No.22はP量が多過ぎる例であり、粒界にPが偏析して結晶粒の成長を抑制するため、磁気特性が低下している。No.23〜25は、いずれもS添加量が規定要件を外れるもので、S量が0.01%未満では被削性不足となり、一方S量が0.15%を超えると、MnSの粗大化によって磁気特性が低下している。
【0048】
No.26では、Al量の影響をみることができ、0.01%を超えると、A1Nの生成により結晶粒成長が抑制されるため、磁気特性が著しく低下している。
【0049】
No.27,28によれば、それぞれNとOの影響をみることができ、被削性への影響は少ないが、好適添加量を超えると磁気特性に悪影響を及ぼすことが分かる。
【0050】
No.29,30は、それぞれBi添加量とPb添加量の影響を示しており、これら元素の含有量が多過ぎると、磁気特性が低下することを確認できる。
【0051】
No.31ではB添加量による影響を確認することができ、本発明で定める添加量以下ではその悪影響は認められないが、上限を超えると、BN析出量の増大によって磁気特性が明かに低下している。
【0052】
【発明の効果】
本発明は以上の様に構成されており、冷間鍛造と切削加工による部品成形性に優れると共に、磁気焼鈍後においては、JIS−SUYB−1種に定める要件を満たす優れた磁気特性を備えた軟磁性部品を提供すると共に、その様な部品の製造に好適な素材と製法を提供し得ることになった。
【図面の簡単な説明】
【図1】低炭素鋼材のフェライト結晶粒径と保磁力の関係を示すグラフである。
【図2】低炭素鋼材のフェライト結晶粒径と磁束密度の関係を示すグラフである。
【図3】フェライト結晶粒内に存在するMnSの平均粒径と個数(密度)が、当該鋼材の磁気特性と被削性(耐バリ性)に与える影響を整理して示したグラフである。
【図4】磁気焼鈍温度を800〜950℃の範囲で変更したときの、焼鈍時間と焼鈍材中のフェライト結晶粒径の関係を示したグラフである。

Claims (5)

  1. 質量%で、
    C :0.05%以下(0%を含まない)
    Si:0.1%以下(0%を含まない)
    Mn:0.10〜0.50%、
    P :0.030%以下(0%を含まない)
    S :0.010〜0.15%、
    Al:0.002%以上0.01%以下、
    N :0.005%以下(0%を含まない)
    O :0.02%以下(0%を含まない)、を満たし、残部がF及び不可避不純物で且つMn/S(質量比)が3.0以上である鋼からなり、フェライト結晶粒径(粒径とは短径と長径の平均値の意味)が100μm以上で、該フェライト結晶粒内に、粒径(粒径とは短径と長径の平均値の意味。以下、同じ)0.2μm以上のMnS析出物が0.02〜0.5個/μm2存在すると共に、該MnS析出物の平均粒径が0.05〜4μmであることを特徴とし、
    バリ高さが0.95mm以下、かつ保磁力が82A/m以下、かつ2Oeにおける磁束密度0.76T以上、かつ3Oeにおける磁束密度0.98T以上、かつ5Oeにおける磁束密度1.20T以上、かつ25Oeにおける磁束密度1.59T以上である被削性と磁気特性に優れた軟磁性低炭素鋼材。
  2. 鋼が、更に他の成分として、Bi:0.005〜0.05%および/またはPb:0.01〜0.1%を含有する請求項1に記載の軟磁性低炭素鋼材。
  3. 鋼が、更に他の成分としてB:0.0005〜0.005%を含有する請求項1または2に記載の軟磁性低炭素鋼材。
  4. 前記請求項1〜3のいずれかに記載の化学成分を満たす鋼材を、1000〜1200℃に加熱して熱間圧延し、850℃以上の仕上げ温度で圧延を終了した後、800〜500℃の温度域を0.5℃/sec以上、10℃/sec以下の平均冷却速度で冷却することを特徴とする被削性と磁気特性に優れた軟磁性低炭素鋼材の製法。
  5. 前記請求項4に記載の軟磁性低炭素鋼材を使用し、冷間鍛造および切削により形状加工した後、850℃超、950℃以下の温度で3時間以上焼鈍することを特徴とする被削性と磁気特性に優れた軟磁性低炭素鋼部品の製法。
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