JP6518491B2 - 軟磁性鋼板およびその製造方法、ならびに、軟磁性部材の製造方法 - Google Patents
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成分組成が、質量%で、
C:0.001〜0.02%、
Si:0〜0.05%、
Mn:0.05〜0.5%、
P:0〜0.02%、
S:0〜0.1%、
Al:0〜0.01%、
Cr:0〜0.1%、
N:0〜0.005%
であり、残部が鉄および不可避的不純物からなる軟磁性鋼板であって、
平均結晶粒径が5〜50μmであり、
さらに、当該軟磁性鋼板のKAM値Kaと、当該軟磁性鋼板を850℃で3時間焼鈍した後のKAM値Kbとの比Ka/Kbが1.2〜4.5である
ことを特徴とする、板厚0.8〜4.0mmの軟磁性鋼板である。
ここに、「KAM値」とは、「Kernel Average Misorientation値」を意味する。
前記Sの含有量が、S:0.015〜0.1質量%である、軟磁性鋼板である。
前記Sの含有量が、S:0〜0.06質量%である、軟磁性鋼板である。
さらに、Mn/S原子比が3〜20であり、
MnS析出物の平均粒径が0.05〜4μmで、かつ、
粒径0.2μm以上のMnS析出物の個数密度が0.02〜0.5個/μm2である、軟磁性鋼板である。
上記第1〜第3発明のいずれか1つの発明の成分組成を有する鋼材を熱間圧延して熱延板とする熱延工程と、
前記熱延板を圧下率R1:40%以上で冷間圧延して冷延板とする粗冷延工程と、
前記冷延板を、下記式1を満足するように、軟化焼鈍温度T1℃で軟化焼鈍時間H1秒間保持して軟化焼鈍板とする軟化焼鈍工程と、
さらに、前記軟化焼鈍板を、圧下率R2:0.5〜10%で冷間圧延する仕上げ冷延工程と、
を備えたことを特徴とする、軟磁性鋼板の製造方法である。
式1:210≦[{100−R1+0.2×(273+T1)}2+H1×exp{−10/(273+T1)}]1/2 ≦265
ただし、650℃≦T1≦780℃である。
上記第1〜第3発明いずれか1つの発明の成分組成を有する鋼材を熱間圧延して熱延板とする熱延工程と、
前記熱延板を圧下率R1:40%以上で冷間圧延して冷延板とする粗冷延工程と、
前記冷延板を、下記式1を満足するように、軟化焼鈍温度T1℃で軟化焼鈍時間H1秒間保持して軟化焼鈍板とする軟化焼鈍工程と、
前記軟化焼鈍板を、さらに、圧下率R2:0.5〜10%で冷間圧延することにより軟磁性鋼板を得る仕上げ冷延工程と、
前記軟磁性鋼板を部材形状に成形して成形部材とする成形工程と、
前記成形部材を、下記式2を満足するように、磁気焼鈍温度T2℃で磁気焼鈍時間H2秒間保持することにより軟磁性部材を得る磁気焼鈍工程と
を備えたことを特徴とする、軟磁性部材の製造方法である。
式1:210≦[{100−R1+0.2×(273+T1)}2+H1×exp{−10/(273+T1)}]1/2 ≦265
ただし、650℃≦T1≦780℃である。
式2:320≦[{100−R2+0.2×(273+T2)}2+H2×exp{−10/(273+T2)}]1/2
ただし、750℃≦T2≦900℃である。
上述したとおり、本発明に係る軟磁性鋼板は、結晶粒径とひずみ量が制御されている点に特徴を有する。
軟磁性鋼板、すなわち磁気焼鈍前の鋼板ままの平均結晶粒径は、成形性に直接影響し、細かすぎると硬さが増加して伸びが低下するため、その下限は5μm、好ましくは6μm、さらに好ましくは7μmとした。一方、上記鋼板ままの平均結晶粒径が大きすぎると、鋼板に対して曲げ加工を行った際に、肌荒れが著しく発生したり、鋼板に対して、打抜き加工を行った際にバリが発生したりするため、その上限は50μm、好ましくは45μm、さらに好ましくは40μmとした。
KAM(Kernel Average Misorientation)値は、材料は塑性変形したときの塑性ひずみ量に関係する指標である。本発明においては、当該軟磁性鋼板を850℃で3時間加熱焼鈍することによって結晶粒径をある程度以上に大きくして、かつ塑性ひずみが概ねなくなった状態におけるKAM値Kbを基準として、これに対する鋼板ままのKAM値Kaの倍率Ka/Kbを用いて、当該軟磁性鋼板のひずみ量を相対的に評価するようにした。高圧下率の冷間圧延によって塑性ひずみ量が大きくなると、KAM値が増大し、成形時における伸びが劣化するため、Ka/Kbの上限を4.5、好ましくは4.0、さらに好ましくは3.5とする。一方、塑性ひずみは後の磁気焼鈍において結晶粒を粗大化させる駆動力にもなること、すなわち、軟磁性鋼板にひずみをある程度導入することによって、良好な磁気特性を確保し、曲げ加工後の肌荒れや、打抜き加工後のバリの発生を抑制することができる。このため、軟磁性鋼板中のひずみ量を適切なレベルにしておく必要があり、Ka/Kbの下限を1.2、好ましくは1.3、さらに好ましくは1.4とする。
本発明に係る軟磁性部材は、結晶粒径が制御されている点に特徴を有する。
上記軟磁性鋼板を成形し磁気焼鈍した後の軟磁性部材においては、結晶粒をできるだけ粗大化することによって磁気特性、特に保磁力が小さいという良好な磁気特性が得られるため、当該軟磁性部材の全域での平均結晶粒径を30μm以上、好ましくは40μm以上、さらに好ましくは50μm以上とする。
C:0.001〜0.02%
Cは、鋼中に固溶して、あるいは炭化物を形成して磁気特性を劣化させるため、極力低減させるべきであるが、C含有量が0.001%を下回っても磁気特性の向上効果は小さいため、その下限を0.001%とする。一方、C含有量が0.02%を超えると急激に磁気特性が劣化するため、その上限を0.02%、好ましくは0.015%、さらに好ましくは0.01%とする。
Siは、脱酸剤として使用されるが、伸びを低下させる作用があるため、Si含有量の上限を0.05%、好ましくは0.04%、さらに好ましくは0.03%とする。
Mnは脱酸作用を有するので、本発明においては、磁気特性とプレス成形性の両立のために、C、SおよびAlの各含有量を従来鋼に比べて低めにしている代わりに、Mnが脱酸剤としての役割を果たしており、Mn含有量を0.05%以上、好ましくは0.1%以上、さらに好ましくは0.15%以上としてその効果を発揮させる。一方、Mnを過剰に含有させると伸び、および磁気特性が低下するため、Mn含有量の上限を0.5%、好ましくは0.4%、さらに好ましくは0.3%とする。
Pは伸び、磁気特性ともに低下させるため、P含有量の上限を0.02%、好ましくは0.015%、さらに好ましくは0.01%とする。
Sは過剰に含まれると、伸び、および磁気特性を低下させるため、S含有量の上限を0.1%とし、高い磁気特性、または伸びが求められる場合においては、好ましくは0.06%、さらに好ましくは0.02%とする。
一方で、Sは適量含有させることにより、伸びや磁気特性を若干犠牲にしつつも、Mnとともに鋼中でMnSを形成し、打抜き加工時に応力が負荷されたときに応力集中箇所となって、被削性を向上し、打抜き時のバリ発生を抑制することができる。こうした効果を得るには、S含有量を0.015%以上、好ましくは0.04%以上とする。
Alは脱酸剤として作用するため、磁気特性に有害なO、すなわち酸素と結合して無害化するために有効な元素である。しかしながら、Alを過剰に含有させるとNと結合してAlNを生成し、結晶粒を微細化して伸びを低下させたり、磁気焼鈍後にも結晶粒が微細なままとなって磁気特性も劣化させるため、Al含有量の上限を0.01%、好ましくは0.007%、さらに好ましくは0.005%とする。
Crは、鋼中に硫化物などの析出物を形成すると磁気特性の劣化を招くため、極力低減すべきであり、Cr含有量を0.1%以下、好ましくは0.07%以下、さらに好ましくは0.05%以下とする。
Nは鋼中に固溶すると磁気特性を劣化させ、またその一部がAlNを形成してもやはり結晶粒が微細化することによって磁気特性が劣化するため、N含有量を0.005%以下、好ましくは0.004%以下、さらに好ましくは0.003%以下とする。
鋼中に含まれるMnとSが結合しMnS析出物として微細分散することで被削性が向上し、打抜き時のバリ発生が抑制される。こうした効果を得るため、Mn/Sの原子比で3以上を確保することが必要となる。Mn/S原子比のより好ましい範囲は5以上であり、上限は20である。
<MnS析出物の平均粒径:0.05〜4μm>
打抜き時のバリ高さを低減するためには、MnSを分散させることが有効であるが、粗大すぎると磁気特性を低下させてしまうため、上限は4μmとする。また、微細すぎるとバリ高さ低減効果が発揮されなくなるため、下限を0.05μmとする。
ここで、MnS粒径とは、圧延板の圧延方向に平行で板面に垂直な断面において観察されるMnSの短径と長径の平均値を意味する。
MnS析出物を微細分散させる場合の個数密度も重要であり、0.02個/μm2未満では効果がなく、0.5個/μm2超では成形時の割れ発生が顕著になるため、その個数密度は0.02〜0.5個/μm2とする。
本発明の軟磁性鋼板の板厚は、適用する部品形状やサイズに応じて選定すればよいが、本発明の対象となる自動車、電車、船舶などの電装部品に使用されるソレノイドやリレーなどのケースやカバー、鉄心等では、磁気回路を形成するため、板厚が薄すぎると部材を通る磁束が不足して吸引力や応答性などの部品特性が低下してしまう。また部品に必要な強度が確保できなくなるため、その下限は0.8mmとする。また、厚すぎると部品サイズの小型化ニーズに対応できなくなるため、その上限は4mmとする。
上記のような軟磁性鋼板を製造するには、まず、上記成分組成を有する鋼を溶製し、造塊または連続鋳造によりスラブとしてから熱間圧延を行い、熱延材とする。この工程を熱延工程と呼ぶ。熱間圧延時の温度条件などは特に限定する必要はないが、例えば、950℃以下の圧延終了温度で、熱間圧延を行えばよい。
次いで、この熱延材を圧下率R1:40%以上で冷間圧延して冷延板とする。この工程を粗冷延工程と呼ぶ。その後、この冷延板を、式1:210≦[{100−R1+0.2×(273+T1)}2+H1×exp{−10/(273+T1)}]1/2≦265、ただし、650℃≦T1≦780℃を満足するように、軟化焼鈍温度T1℃で軟化焼鈍時間H1秒間保持して軟化焼鈍板とする。この工程を軟化焼鈍工程と呼ぶ。そして、この軟化焼鈍板を、さらに、圧下率R2:0.5〜10%で冷間圧延することも好ましい。この工程を仕上げ冷延工程と呼ぶ。これらの工程を経ることにより軟磁性鋼板を得ることができる。
粗冷延工程における圧下率R1は、その後の軟化焼鈍工程における平均結晶粒径の制御のために重要である。圧下率R1が40%未満では鋼板上がりの結晶粒径が十分に大きくなりにくく、軟化焼鈍条件との組合せで所定の結晶粒径に制御することが難しいため、圧下率R1の下限を40%、より好ましくは50%、特に好ましくは60%とする。
上記粗冷延工程における圧下率R1の調整と併せて軟化焼鈍条件が上記式1を満たすように組み合わせることによって平均結晶粒径を5〜50μmに制御できる。上記式1の中辺の値が210未満では平均結晶粒径が小さすぎ、一方265を超えると平均結晶粒径が大きくなりすぎる。
なお、上記式1は以下のようにして導出したものである。すなわち、フェライト単相温度域での焼鈍時における再結晶および粒成長挙動は、冷間圧延のひずみ量と焼鈍温度と焼鈍時間の兼ね合いで決まるという一般論がある。そこで、ひずみ量が大きいほど、また焼鈍温度が低いほど再結晶粒径が小さくなり、その後の粒成長による結晶粒径を半径で表したrは、初期粒径を半径で表したr0と、焼鈍温度Tと、焼鈍時間tとの関数として、r2−r0 2=k×tの関係式が成り立つと仮定した。ここで速度定数kはアレニウスの式である∝exp(−A/RT)に従うと仮定した。なお、Tの単位はKである。上記関係式は、たとえば、西沢泰二:「単相鋼と二相鋼における結晶粒成長」,鉄と鋼(1984)第15号,p.194−2020に詳しい。この一般論において、特別な粒成長抑制要因である析出物を極力減らした本発明の成分系の鋼板に対してはひずみの影響が通常より小さいとの仮説を当てはめ、粗冷延工程における圧下率R1と、軟化焼鈍条件であるT1およびH1との組合せを種々変更して実験を行い、プレス成形性と後の焼鈍後の磁気特性との関係を調査して回帰分析により上記式1を導出した。
また、軟化焼鈍後に圧下率R2=0.5〜10%で仕上げ冷間圧延することも好ましい。仕上げ冷間圧延をすることで、曲げ加工後の肌荒れや、打抜き加工後のバリを防止し、伸びを確保することができるとともに、成形後の磁気焼鈍の後の結晶粒成長を促進させて磁気特性の向上に寄与する。これらの効果を発揮させるためには、圧下率R2は0.5%以上とする。ただし、10%を超えると伸びが低下する。
上記のような軟磁性部材を製造するには、まず、上記推奨の製造方法で製造された上記軟磁性鋼板を部材形状に成形して成形部材とする。この工程を成形工程と呼ぶ。次いで、この成形部材を、式2:320≦[{100−R2+0.2×(273+T2)}2+H2×exp{−10/(273+T2)}]1/2(ただし、750℃≦T2≦900℃)を満足するように、磁気焼鈍温度T2℃で磁気焼鈍時間H2秒間保持することにより軟磁性部材を得ることができる。この工程を磁気焼鈍工程と呼ぶ。
上記式2の右辺の値が320未満では磁気特性が劣化する。
なお、上記式2は以下のようにして導出したものである。すなわち、成形によって各部位に付与されるひずみ量が大きく変わるなかで、ひずみ量の大小によらず、安定的に所定の磁気焼鈍後の磁気特性が得られるような、仕上げ冷延工程における圧化率R2と磁気焼鈍条件のT2およびH2との適正な組合せ条件を求めるために、本発明の対象鋼種について、R2とT2およびH2の組合せを種々変更して実験を行い、回帰分析により上記式2を導出した。
下記表1に示す成分の鋼材を熱間圧延して所定厚さの熱延板とした。この熱延板を酸洗した後、下記表2に示す条件で、粗冷延、軟化焼鈍、仕上げ冷延の順に処理を施して最終板厚1.0mmの軟磁性鋼板とした。なお、表2には、上記磁気焼鈍の条件を規定する上記式2の右辺の値を併記した。
下記表4に示す成分の鋼材を熱間圧延して所定厚さの熱延板とした。この熱延板を酸洗した後、下記表5に示す条件で、粗冷延、軟化焼鈍、仕上げ冷延の順に処理を施して最終板厚1.0mmの軟磁性鋼板とした。
Claims (5)
- 成分組成が、質量%で、
C:0.001〜0.02%、
Si:0〜0.05%、
Mn:0.05〜0.5%、
P:0〜0.02%、
S:0〜0.098%、
Al:0〜0.007%、
Cr:0〜0.1%、
N:0〜0.005%
であり、残部が鉄および不可避的不純物からなる軟磁性鋼板であって、
平均結晶粒径が5〜50μmであり、
さらに、当該軟磁性鋼板のKAM値Kaと、当該軟磁性鋼板を850℃で3時間焼鈍した後のKAM値Kbとの比Ka/Kbが1.2〜4.5である
ことを特徴とする、板厚0.8〜4.0mmの軟磁性鋼板。
ここに、「KAM値」とは、「Kernel Average Misorientation値」を意味する。 - 前記Sの含有量が、S:0.015〜0.098質量%である、
請求項1に記載の軟磁性鋼板。 - 前記Sの含有量が、S:0〜0.06質量%である、
請求項1に記載の軟磁性鋼板。 - 請求項1〜3のいずれか1項に記載の成分組成を有する鋼材を熱間圧延して熱延板とする熱延工程と、
前記熱延板を圧下率R1:40%以上で冷間圧延して冷延板とする粗冷延工程と、
前記冷延板を、下記式1を満足するように、軟化焼鈍温度T1℃で軟化焼鈍時間H1秒間保持して軟化焼鈍板とする軟化焼鈍工程と、
さらに、前記軟化焼鈍板を、圧下率R2:0.5〜10%で冷間圧延する仕上げ冷延工程と、
を備えたことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の軟磁性鋼板の製造方法。
式1:210≦[{100−R1+0.2×(273+T1)}2+H1×exp{−10/(273+T1)}]1/2≦265
ただし、650℃≦T1≦780℃である。 - 請求項1〜3のいずれか1項に記載の成分組成を有する鋼材を熱間圧延して熱延板とする熱延工程と、
前記熱延板を圧下率R1:40%以上で冷間圧延して冷延板とする粗冷延工程と、
前記冷延板を、下記式1を満足するように、軟化焼鈍温度T1℃で軟化焼鈍時間H1秒間保持して軟化焼鈍板とする軟化焼鈍工程と、
前記軟化焼鈍板を、さらに、圧下率R2:0.5〜10%で冷間圧延することにより軟磁性鋼板を得る仕上げ冷延工程と、
前記軟磁性鋼板を部材形状に成形して成形部材とする成形工程と、
前記成形部材を、下記式2を満足するように、磁気焼鈍温度T2℃で磁気焼鈍時間H2秒間保持することにより軟磁性部材を得る磁気焼鈍工程と
を備え、
前記軟磁性部材の全域での平均結晶粒径が30μm以上であることを特徴とする、軟磁性部材の製造方法。
式1:210≦[{100−R1+0.2×(273+T1)}2+H1×exp{−10/(273+T1)}]1/2≦265
ただし、650℃≦T1≦780℃である。
式2:320≦[{100−R2+0.2×(273+T2)}2+H2×exp{−10/(273+T2)}]1/2
ただし、750℃≦T2≦900℃である。
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