JP2018204113A - 耐食性と磁気特性に優れた鋼材およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】C:0.001〜0.025%(質量%の意味。化学成分について以下同じ)、Si:1.0〜4.0%、Mn:0.1〜1.0%、P:0.030%以下(0%を含まない)、S:0.10%以下(0%を含まない)、Cr:4.0%以下(0%を含まない)、Al:0.010%以下(0%を含まない)、およびN:0.01%以下(0%を含まない)を満たし、残部が鉄および不可避不純物からなり、かつ鋼材表面に、Siおよび/またはCrを含みかつ非晶質層を含む、厚みが50〜500nmの酸化被膜が形成されていることを特徴とする耐食性と磁気特性に優れた鋼材。
【選択図】なし
Description
これらは、鋼材成分や鋼中の硫化物の分散状態を制御することによって、磁気特性を低下させずに強度や被削性を向上させることを主眼になされたものであり、耐食性が必要となる場合についてまで検討されたものではない。
C:0.001〜0.025%(質量%の意味。化学成分について以下同じ)、
Si:1.0〜4.0%、
Mn:0.1〜1.0%、
P:0.030%以下(0%を含まない)、
S:0.10%以下(0%を含まない)、
Cr:4.0%以下(0%を含まない)、
Al:0.010%以下(0%を含まない)、および
N:0.01%以下(0%を含まない)
を満たし、残部が鉄および不可避不純物からなり、かつ鋼材表面に、Siおよび/またはCrを含みかつ非晶質層を含む、厚みが50〜500nmの酸化被膜が形成されているところに特徴を有する。
(a)Cu:0.5%以下(0%を含まない)、および/またはNi:0.5%以下(0%を含まない)や、
(b)Pb:1.0%以下(0%を含まない)
を含んでいてもよい。
(焼鈍条件)
焼鈍雰囲気:酸素濃度が1.0体積ppm以下
焼鈍温度:800〜1200℃
焼鈍時間:1時間以上20時間以下
Cは、機械的強度を確保するのに必要な元素であり、また少量であれば電気抵抗を増加させて、渦電流による磁気特性の劣化を抑制できる。しかしCは鋼中に固溶してFe結晶格子を歪ませるため、含有量が増加すると磁気特性を著しく劣化させる。そのためC量は0.025%以下とする。好ましくは0.020%以下、より好ましくは0.015%以下、更に好ましくは0.010%以下である。尚、C量が0.001%を下回っても、磁気特性の改善効果は飽和するため、本発明ではC量の下限を0.001%とした。
Siは、鋼の溶製時に脱酸剤として作用する元素である。また本発明においてSiは、酸化被膜中に非晶質層を形成するのに有用であり、酸化被膜を強化して耐食性をより向上させる元素である。更にSiは、電気抵抗を増加させて渦電流による磁気特性の低下を抑制する効果ももたらす。これらの観点から、Si量は1.0%以上とする。好ましくは1.4%以上であり、より好ましくは1.8%以上である。しかしSiが多量に含まれると、前記非晶質層がかえって形成され難くなり優れた耐食性を確保できない。また冷間鍛造性や磁気特性も低下する。よって、Si量の上限を4.0%と定めた。Si量は、好ましくは3.6%以下、より好ましくは3.0%以下である。
Mnは、脱酸剤として有効に作用する元素である。またSと結合しMnS析出物として微細分散することでチップブレーカーとなり、被削性の向上に寄与する元素でもある。こうした作用を有効に発揮させるには、Mnを0.1%以上含有させる必要がある。Mn量は、好ましくは0.15%以上、より好ましくは0.20%以上である。しかしMn量が多過ぎると、磁気特性に有害なMnS個数の増加を招くため、1.0%を上限とする。Mn量は、好ましくは0.8%以下、より好ましくは0.70%以下、更に好ましくは0.50%以下である。
P(リン)は、鋼中で粒界偏析を起こして冷間鍛造性や磁気特性に悪影響を及ぼす有害元素である。よってP量を0.030%以下に抑える。P量は、好ましくは0.015%以下、より好ましくは0.010%以下である。
S(硫黄)は、上記の様に鋼中でMnSを形成し、切削加工時に応力が負荷されたときに応力集中箇所となって被削性を向上させる作用を有している。こうした作用を有効に発揮させるには、Sを0.003%以上含有させることが好ましい。より好ましくは0.01%以上である。しかしS量が多くなり過ぎると、磁気特性に有害なMnS個数の増加を招く。また冷間鍛造性も著しく劣化するので、S量は0.10%以下に抑える。S量は、好ましくは0.09%以下、より好ましくは0.050%以下である。
Crは、フェライト相の電気抵抗を増加させ、渦電流の減衰時定数低減に有効な元素である。またCrは、腐食反応の活性態域での電流密度を低下させる効果があり、耐食性向上に寄与する。更にCrは、酸化被膜に含まれうる元素でもあり、酸化被膜をより強固なものとして耐食性の更なる向上に寄与する。これらの効果を十分に発揮させるには、Crを0.01%以上含有させることが好ましい。より好ましくは0.05%以上である。しかしCrが多量に含まれていると、磁気特性が低下する。また、焼鈍により形成される酸化被膜中に非晶質層がかえって形成されにくくなり、酸化被膜の厚みも過剰となりやすい。更には、合金コストが上昇して安価に提供できなくなる。よってCr量の上限を4.0%と定めた。Cr量は、好ましくは3.6%以下、より好ましくは3.0%以下、更に好ましくは2.0%以下である。
Alは、脱酸剤として添加される元素であり、脱酸に伴って不純物を低減し、磁気特性を改善する効果がある。この効果を発揮させるには、Al量を0.001%以上(より好ましくは0.002%以上)とすることが好ましい。しかし、Alは固溶NをAlNとして固定し結晶粒を微細化する作用がある。よってAlが過剰に含まれると、結晶粒の微細化により結晶粒界が増加し、磁気特性の劣化を招く。従って本発明では、Al量を0.010%以下とする。より優れた磁気特性を確保するには、Al量を0.008%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.005%以下である。
N(窒素)は、上述の通り、Alと結合しAlNを形成して磁気特性を害するが、それに加えて、Alなどにより固定されなかったNは、固溶Nとして鋼中に残存し、これも磁気特性を劣化させる。よって、N量は何れにしても極力少なく抑えるべきである。本発明では、鋼材製造の実操業面を考慮すると共に、上記Nによる弊害を実質的に無視し得る程度に抑えることのできる0.01%をN量の上限値として定めた。N量は、好ましくは0.008%以下、より好ましくは0.0060%以下、更に好ましくは0.0040%以下、より更に好ましくは0.0030%以下である。
(a)下記量のCuおよび/またはNiを含有させて、耐食性をより向上させることや、(b)下記量のPbを含有させて、被削性を向上させることができる。
Cu、Niは、腐食反応の活性態域での電流密度を低下させる効果、および酸化被膜を強化する効果を発揮して、耐食性を向上させる元素である。これらの効果を発揮させるには、Cuを含有させる場合、0.01%以上(より好ましくは0.10%以上)含有させることが好ましく、またNiを含有させる場合、0.01%以上(より好ましくは0.10%以上)含有させることが好ましい。しかしこれらの元素が過剰に含まれていると、合金コストが上昇して鋼材を安価に提供できなくなる。更には、磁気モーメントの低下により磁気特性の劣化が顕著になる。よって、Cu、Niそれぞれの上限は0.5%以下とすることが好ましい。Cu、Niのより好ましい上限は、それぞれ0.35%以下、更に好ましい上限はそれぞれ0.20%以下、より更に好ましい上限はそれぞれ0.15%以下である。
Pbは、鋼中でPb粒子を形成し、切削加工時に応力が負荷されたときに応力集中箇所となって被削性を向上させる効果を有している。よって、重切削でも切削面の高い面精度を維持したり、切屑処理性を向上させる等、特に被削性が要求される用途に適する元素である。これらの効果を発揮させるには、Pb量を0.01%以上とすることが好ましく、より好ましくは0.05%以上である。ただし、Pb量が多くなり過ぎると磁気特性、冷間鍛造性が著しく劣化するので、1.0%以下に抑えることが好ましい。Pb量は、より好ましくは0.50%以下、更に好ましくは0.30%以下である。
本発明の鋼材を得るにあたり、該鋼材表面に規定の酸化被膜を形成するには、前記成分組成の鋼を用い、下記の条件で焼鈍を行えばよい。よって、前記焼鈍に供する鋼の製造方法は特に問わない。前記焼鈍に供する鋼が電装部品等の部品形状の場合、該焼鈍に供する鋼は、例えば次の様にして製造することができる。即ち、上記成分組成を満たすように通常の溶製法に従って溶製し、鋳造、熱間圧延して製造する。そして熱間圧延して得られた圧延材に対し、二次加工、部品成型を行って、前記焼鈍に供する鋼を得ることができる。
詳細には、前記熱間圧延後の圧延材に酸洗いを施し、潤滑被膜を形成してから伸線し、次いで冷間鍛造により部品成型することが挙げられる。前記部品成型は、切削加工や磨棒加工により行うこともできる。
焼鈍において、下記の温度制御に加えて焼鈍雰囲気における酸素濃度を厳しく管理することによって、非晶質層を有しかつ規定の厚さの酸化被膜を鋼材表面に形成することができる。具体的には、焼鈍雰囲気における酸素濃度を1.0体積ppm以下とする。具体的な上記焼鈍雰囲気として、例えば高純度水素、窒素などの雰囲気とすることが挙げられる。また、純度の高いArガスを用いて、上記焼鈍雰囲気を酸素濃度が1.0体積ppm以下のAr雰囲気としてもよい。上記酸素濃度は、好ましくは0.5体積ppm以下、より好ましくは0.3体積ppm以下である。尚、酸化被膜を形成する観点から、上記酸素濃度の下限値は0.1体積ppm程度となる。
焼鈍温度が低すぎると、鋼材表面に非晶質層を含む酸化被膜を形成することができない。また鍛造や切削で生じた歪を除去することもできない。よって、本発明では焼鈍温度を800℃以上とする。好ましくは850℃以上である。一方、焼鈍温度が高すぎると、酸化被膜の厚みが過剰となり、また非晶質層が形成されにくく、耐食性が低下するため望ましくない。さらに電力コスト、炉壁耐久性など量産性の低下も招く。よって焼鈍温度は1200℃以下とする。好ましくは1100℃以下であり、より好ましくは1000℃以下である。
焼鈍時間が短すぎると、焼鈍温度を高めに設定したとしても焼鈍不足となり酸化被膜が均一に形成されない。よって焼鈍時間は1時間以上とする。好ましくは2時間以上である。しかし焼鈍時間が長すぎても、酸化被膜の厚みが増加し過ぎる他、生産性が悪くなるため、焼鈍時間は20時間以下とする。好ましくは10時間以下である。
焼鈍後の酸化被膜の分析は、TEM−FIB観察によって行った。TEM観察用試料は次の様にして作製した。即ち、前記焼鈍後の切削試験片を用い、FIB加工は、日立製作所製の集束イオンビーム加工観察装置FB2000Aにて、イオン源としてGaを用い実施した。試料最表面保護のため、高真空蒸着装置とFIB装置を用いてカーボン膜をコーティングした後、FIBマイクロサンプリング法にて試料小片を摘出した。試料の摘出は、旋盤の切削加工等により生じた凹凸の凸部から行った。その後、摘出した小片をW(CO)6ガス中でFIB加工し、堆積するWによってMoメッシュに貼り付け、TEM観察可能な厚さまで薄片化を行った。
耐食性は次の様にして評価した。即ち、1%H2SO4水溶液を用いたビーカーテストにて、水溶液を撹拌しながら室温で24〜36時間(Hr)浸漬した。そして試験後の外観観察と腐食減量測定を行った。試験後の外観観察は、目視で錆の発生有無を確認・測定し、100×(錆面積)/(試験片の表面積)で求められる値を「錆面積率」とし、この錆面積率が0%の場合を「○」、0%超10%未満の場合を「△」、10%以上の場合を「×」と判定した。また腐食減量の測定は、浸漬前後の試験片の質量変化量を試験片の初期表面積および浸漬時間で割った値を「腐食減量」として求めた。そして、上記錆面積率の判定が○であると共に、腐食減量が1.0g/(m2・Hr)以下の場合を、耐食性に優れる(電磁ステンレス鋼を超える高い耐食性を示す)と評価し(表2の耐食性の評価が「○」)、これらのいずれかを満たさない場合を、耐食性に劣ると評価した(表2の耐食性の評価が「×」)。尚、磨棒切断品と切削試験片との間で、耐食性の評価結果に大きな差異はみられなかった。
磁気特性の評価は、上記の直径20mmの圧延材から、外径18mm、内径10mm、厚み3mmのリング試験片を作製し、表2の条件で焼鈍を行った後、JIS法(JIS C2504)に基づいて行った。測定は、励磁側コイルを150ターン、検出側コイルを25ターン巻き、室温で自動磁化測定装置(理研電子社製:BHS−40)を用いて磁化曲線を描き、印加磁界400A/mでの保磁力と磁束密度を求めた。そして保磁力が80A/m以下でかつ磁束密度が1.20T以上のものを磁気特性に優れると評価し(表2の磁気特性の評価が「○」)、これらのいずれかを満たさない場合を磁気特性に劣ると評価した(表2の磁気特性の評価が「×」)。
Claims (4)
- C:0.001〜0.025%(質量%の意味。化学成分について以下同じ)、
Si:1.0〜4.0%、
Mn:0.1〜1.0%、
P:0.030%以下(0%を含まない)、
S:0.10%以下(0%を含まない)、
Cr:4.0%以下(0%を含まない)、
Al:0.010%以下(0%を含まない)、および
N:0.01%以下(0%を含まない)
を満たし、残部が鉄および不可避不純物からなり、かつ
鋼材表面に、Siおよび/またはCrを含みかつ非晶質層を含む、厚みが50〜500nmの酸化被膜が形成されていることを特徴とする耐食性と磁気特性に優れた鋼材。 - 更に他の元素として、
Cu:0.5%以下(0%を含まない)、および/または
Ni:0.5%以下(0%を含まない)
を含有する請求項1に記載の鋼材。 - 更に他の元素として、
Pb:1.0%以下(0%を含まない)を含有する請求項1または2に記載の鋼材。 - 請求項1〜3のいずれかに記載の鋼材の製造方法であって、
請求項1〜3のいずれかに記載の成分組成の鋼を用い、下記の条件で焼鈍を行うことを特徴とする耐食性と磁気特性に優れた鋼材の製造方法。
(焼鈍条件)
焼鈍雰囲気:酸素濃度が1.0体積ppm以下
焼鈍温度:800〜1200℃
焼鈍時間:1時間以上20時間以下
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