JPH08134604A - 磁束密度、保磁力および耐食性に優れ且つ高電気抵抗を有する軟磁性鋼材およびその製造方法 - Google Patents

磁束密度、保磁力および耐食性に優れ且つ高電気抵抗を有する軟磁性鋼材およびその製造方法

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JPH08134604A
JPH08134604A JP6301343A JP30134394A JPH08134604A JP H08134604 A JPH08134604 A JP H08134604A JP 6301343 A JP6301343 A JP 6301343A JP 30134394 A JP30134394 A JP 30134394A JP H08134604 A JPH08134604 A JP H08134604A
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magnetic flux
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steel material
corrosion resistance
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Toshimichi Omori
俊道 大森
Moriyuki Ishiguro
守幸 石黒
Tetsuya Sanpei
哲也 三瓶
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NKK Corp
Nippon Kokan Ltd
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    • H01F1/03Magnets or magnetic bodies characterised by the magnetic materials therefor; Selection of materials for their magnetic properties of inorganic materials characterised by their coercivity
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    • H01F1/14766Fe-Si based alloys
    • H01F1/14775Fe-Si based alloys in the form of sheets
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Abstract

(57)【要約】 【構成】 実質的に、C:0.007wt.% 以下、T.N:0.01wt.%
以下、Al: 1 〜4 wt.%、Si:0〜1.5 wt.%(無添加の場合
を含む)、 Cr: 0〜5wt.% (無添加の場合を含む)残
り: Feからなり、2×(Al%+Si%) +Cr% で算出されるS
値が4.5 〜9の範囲内であり、そして、その表面に酸化
Al粒子の被覆層が形成されている、電磁アクチュエータ
ー用部材として好適な軟磁性鋼材。 【効果】 磁束密度、保磁力および耐食性に優れ且つ高
電気抵抗を有する、例えば自動車、産業機械等に使用さ
れる電磁弁などの電磁アクチュエーター用部材として好
適な軟磁性鋼材が得られる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、例えば、自動車、産
業機械等に使用される電磁弁などの電磁アクチュエータ
ーの磁気回路構成部品として好適な、磁束密度、保磁力
および耐食性3優れ且つ高電気抵抗を有する軟磁性鋼材
およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】自動車や産業機械等に使用される電磁弁
などの電磁アクチュエーターは、入力電流を制御するこ
とによってその動作を制御し、目的に応じた機能を発揮
しているが、近年、周辺技術の発達に伴って、高応答性
および強力な動作性を有し、しかも、小型で且つ長寿命
などの特性を有する高性能の電磁アクチュエーターに対
する要求が高まっている。
【0003】電磁アクチュエーターの主要部である磁気
回路は、従来、軟鋼、純鉄または珪素鋼によって構成さ
れていた。しかしながら、上記要求に応えるために、磁
気回路に使用される鋼材に対しても、軟磁性、電気抵抗
性および耐食性の観点から、高性能化が求められてお
り、そのような性能を有する電磁アクチュエーター用鋼
材の研究開発が各方面で進められている。
【0004】例えば、特公昭61-9381 号公報に開示され
ているように、純鉄を基本とし、これに微量元素を添加
することによって、磁束密度(B20 値)を損なうことな
く軟磁性(保磁力、Hc)を向上させ、且つ、加工性をも
確保した軟質磁性棒鋼が提案されている。しかしなが
ら、このような軟質磁性棒鋼においては、高電気抵抗化
のための改善は一切なされていないので、これを交流ま
たはパルス励磁により作動する電磁アクチュエーターに
適用しても、十分な応答性を確保することができない。
【0005】電気抵抗、耐食性、軟磁性および加工性の
改善を目的とした電磁アクチュエーター用鋼材として、
特開平4-63249 号公報には、高Cr鋼において、Cおよび
N等を十分に低減し、そして、必要最小限の量のAlを含
有させることにより、耐食性、磁束密度および保磁力の
改善を図った鋼材(以下、先行技術1という)が開示さ
れており、また、特開平2-170948号公報には、高Cr鋼に
おいて、炭窒化物形成元素を意図的に含有させることに
より、耐食性、磁束密度および保磁力と共に加工性の改
善を図った鋼材(以下、先行技術2という)が開示され
ている。
【0006】特開平2-259047号公報には、高Cr鋼にAlを
含有させることによって、耐食性の向上および高電気抵
抗化を図った鋼材(以下、先行技術3という)が開示さ
れており、特開平2-310345号公報には、高Cr鋼にAlおよ
びSnを含有させることにより耐食性の向上および磁束密
度の改善を図った鋼材(以下、先行技術4という)が開
示されている。
【0007】特開平4-235257号公報には、高Cr鋼にMo,
Ti,Al,B 等を含有させることにより、耐食性、電気抵
抗性、軟磁性および加工性の改善を図った鋼材(以下、
先行技術5という)が開示されており、そして、特開平
2-15142 号公報には、高Cr鋼に主にAlを含有させること
により、耐食性に加えて磁気応答性の改善を図った鋼材
(以下、先行技術6という)が開示されている。
【0008】また、特公平2-38646 号公報、特開平3-15
0313号公報および特開平5-255817号公報には、高Cr鋼に
Al,Siを含有させ、更に、その圧延および熱処理条件を
限定することにより、磁気シールド材や変圧器鉄芯等へ
の適用を目的とした耐食性および軟磁性に優れた電磁薄
鋼板(以下、先行技術7という)が開示されており、そ
して、特開平4-99819 号公報には、純鉄にAlを含有させ
た軟磁性鋼材(以下、先行技術8という)が開示されて
いる。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】先行技術1において
は、その実施例から、より良好な耐食性および保磁力の
得られることがわかるが、磁束密度(B20)が14500G以下
で低く満足な特性とはいえない。先行技術2において
も、良好な磁束密度(B20)が得られてはいるが、保磁力
は0.7 Oe 以上であって良好とはいえない。
【0010】先行技術3においては、磁束密度(B25)が
14900G以下で低く、且つ、保磁力も0.7 Oe 以上であっ
て良好とはいえず、先行技術4においては、その飽和磁
束密度ですら11400G以下で低く、更に、保磁力も良好と
はいえない。先行技術5においても、磁束密度(B25)が
13700G以下で低く良好とはいえない。先行技術6におい
ては、その基本的構成が上記先行技術3,4,5と同じ
であるから、磁束密度の低いことが容易に推定される。
【0011】先行技術7においては、何れも、優れた軟
磁性が得られているものの、対象が板厚1mm程度以下の
薄鋼板であることから、電磁アクチュエーターの磁気回
路部品に適用する上で制約があり、更に、磁束密度およ
び電気抵抗についての定量的な記載がなく、従って、本
願発明が目的とする電磁アクチュエーターへの適用鋼材
としては不十分である。
【0012】例えば、先行技術7の特開平5-288817号の
実施例において、仮に、表中の残留磁束密度の記載が誤
りで、正しくは磁束密度(B20)を示すものであるとすれ
ば、その値は1.5T即ち1500OG程度の比較的良好な性能を
有するものが含まれることになるが、他の実施例には、
1.45T 以下の値を示すものが多く含まれ、高い磁束密度
が安定して得られるとは言えない。また、先行技術7の
特公平2-38646 号においては、磁束密度としてB50 をそ
の実施例に引用しているが、電気抵抗については、明細
書中にSiの効果として定性的に述べられているに止ま
り、明確には示されていない。
【0013】先行技術8においては、提供される鋼材の
対象とする磁界環境が、上述の電磁アクチュエーターの
動作環境とは異なる直流であり、従って、電気抵抗に関
しては開示されていない。
【0014】上記から明らかなように、先行技術1〜8
においては、何れも電磁アクチュエーターの磁気回路部
品用鋼材に求められるべき基本特性即ち優れた軟磁性と
高磁束密度および高電気抵抗が、必ずしも同時には満足
されていない。
【0015】電磁アクチュエーターへの適用を主目的に
した場合、交流またはパルス励磁の際の応答性は、磁気
回路部品の磁化の線形性の確保とその際に発生する渦電
流の抑制とによって達成される。即ち、先ず第一に線形
性を確保するための軟磁性が重要であり、そのために、
でき得る限り保磁力を低減する必要がある。更に、渦電
流の発生を抑制するために、電気抵抗を高めることが必
要である。
【0016】電磁アクチュエーターの動作力は、励磁電
流により磁化した磁気回路部品の吸引力により決定さ
れ、高い磁束密度を確保することによって、強力な動作
が得られるばかりでなく、更に、より低磁界で高い磁束
密度が得られれば、応答性の向上や小型化および省エネ
化(励磁界の低減)など電磁アクチュエーターの高性能
化につながる。
【0017】即ち、電磁アクチュエーターの磁気回路部
品用鋼材としては、40μm Ωcm以上の電気抵抗を有し、
更に、保磁力 56A/m(0.7 0e) 以下、高磁界での磁束密
度(B25) 1.5T(15000G)以上、低磁界での磁束密度(B2)
1.0T(10000G) 以上を兼ね備えていることが望ましい。
【0018】従って、この発明の目的は、上述した特性
を有する、特に磁束密度、保磁力および耐食性に優れ且
つ高電気抵抗を有する、例えば、自動車、産業機械等に
使用される電磁弁などの電磁アクチュエーターの磁気回
路構成部品として好適な軟磁性鋼材およびその製造方法
を提供することにある。
【0019】
【課題を解決するための手段】本発明者等は、上述した
観点から、磁束密度、保磁力および耐食性に優れ且つ高
電気抵抗を有する軟磁性鋼材を開発すべく、上記各特性
に影響を及ぼす種々の添加元素や不純物元素およびミク
ロ組織の影響について詳細に調査した。その結果、Fe−
Al合金、Fe−Al−Si合金、Fe−Al−Cr合金および、Fe−
Al−Si−Cr合金に関して、下記知見を得た。
【0020】(1) 鋼中にAlおよび必要に応じてSi,Crの
少なくとも1つの元素を含有させることによって、高電
気抵抗化を達成することができ、その程度は、上記元素
の含有量によって調整することができる。 (2) 鋼中にAlおよび必要に応じてSi,Crの少なくとも1
つの元素を含有させることによって、高磁界での磁束密
度が低下し、その程度は、上記元素の含有量によって調
整することができる。 (3) 鋼中のCおよびNの含有量を低減し、且つ、フェラ
イト結晶の平均粒径を100 μm 以上とすることによっ
て、保磁力および低磁界での磁束密度を目標値以上に高
めることができる。 (4) 鋼中に所定量のAlおよび必要に応じてSi,Crの少な
くとも1つの元素を含有させ、そして、CおよびNの含
有量が低減された鋼材に対し、 800℃以上の温度で熱処
理を施すことにより、簡便に優れた保磁力が付与され、
且つ、低磁界での磁束密度を目標値以上に高めることが
できる。 (5) Alを含有する鋼材に対し、一定の酸素分圧を有する
雰囲気中で熱処理を施すことにより、その表面に酸化ア
ルミニウム粒子の緻密な被覆層が形成され、これによっ
て、鋼中に高価なCrを多量に含有させることなく、耐食
性を向上させることができる。
【0021】この発明は、上記知見に基づいてなされた
ものであって、この発明の磁束密度、保磁力および耐食
性に優れ且つ高電気抵抗を有する軟磁性鋼材は、 炭素(C) : 0.007wt.% 以下、 窒素(T.N) : 0.01 wt.% 以下、 アルミニウム(Al): 1〜4wt.%、 シリコン(Si) : 0〜1.5wt.% (無添加の場合を含
む)、 クロム(Cr) : 0〜5wt.%(無添加の場合を含
む)、および、 残り : 鉄(Fe) からなっており、下記(1) 式によって算出されるS値が
4.5 から9の範囲内であり、 S=2×(Al% + Si%)+Cr% ──────(1) そして、その表面に酸化アルミニウム粒子の被覆層が形
成されていることに特徴を有するものである。なお、前
記被覆層の酸化アルミニウム粒子の密度は1012個/m2
以上であることが好ましい。
【0022】この発明の軟磁性鋼材の製造方法は、上述
した化学成分組成からなる鋼を溶製し、これを鋳造して
鋼塊となした後、前記鋼塊を熱間圧延して所定形状の鋼
材を調製し、得られた鋼材に対し、酸素分圧が10-6〜10
-2気圧の雰囲気中において、800 ℃以上の温度で熱処理
を施し、これによって、その表面に酸化アルミニウム粒
子の被覆層を形成することに特徴を有するものである。
なお、前記被覆層の酸化アルミニウム粒子の密度は1012
個/m2 以上であることが好ましい。
【0023】
【作用】この発明の特徴である、優れた保磁力および低
磁界での磁束密度は、所定量のCおよびNを含有する鋼
に1wt.%以上のAlを含有させることによって、変態温度
を上昇させまたは変態を消失させ、熱処理に際して、フ
ェライト結晶粒の成長を確保することにより得られる。
しかしながら、Alの含有量が1wt.%程度の場合は、Alの
みでは高電気抵抗化が不可能であり、本発明が目的とす
る、40μm Ωcm以上の高電気抵抗を付与するためには、
2×(Al% + Si%)+Cr% によって算出されるS値が4.
5 以上となるようにAl含有量を定め、または、Alに加え
て、Si,Crの少なくとも1つを更に含有させることが必
要である。一方、高磁界での磁束密度は、Al,Siおよび
Crの含有によって減少するため、本発明の目的を満足さ
せるためには、上記式によって算出されるS値を、9以
下に規制する必要がある。
【0024】次に、この発明の軟磁性鋼材の化学成分組
成を、上述した範囲内に限定した理由について、以下に
述べる。 (1) 炭素(C) および窒素(T.N) :CおよびNは、軟磁性
に悪影響を与える不純物元素であり、他の不純物元素に
比べてその影響が著しく、本発明の根幹に関わる。従っ
て、CおよびNの含有量を厳密に規制し、何れも、優れ
た直流磁化特性を確保する上で、コスト高にならない範
囲で可能な限り低減させることが必要である。
【0025】即ち、C含有量が 0.007wt.%を超えると、
AlまたはAlおよびSiの複合添加によるフェライト域拡大
効果が低下し、熱処理によるフェライト結晶の成長が妨
げられ且つ炭化物の析出により、特に、保磁力および低
磁界での磁束密度が劣化する。従って、C含有量は 0.0
07wt.%以下に限定すべきである。また、N含有量が0.01
wt.%を超えると、窒化物粒子が多くなる結果、フェライ
ト結晶の成長を妨げ、同じく保磁力および低磁界での磁
束密度が劣化する。従って、N含有量は、0.01wt.%以下
に限定すべきである。CおよびNの下限値は特に限定さ
れるものではないが、製鋼技術上、実質的に0.0005wt.%
程度である。なお、本発明の応用技術として、焼鈍雰囲
気を水素等の含有により脱炭性雰囲気とした場合には、
C含有量の上限を 0.007wt.%超にすることが可能であ
る。
【0026】(2) アルミニウム(Al):Alは、本発明に
おける重要な元素である。即ち、Alは、変態温度を上昇
させてフェライト域を拡大し、熱処理によりフェライト
結晶粒を粗大化して軟磁性を向上させ、且つ、電気抵抗
を増加させると共に、鋼材の表面に酸化アルミニウム粒
子よりなる被膜を形成して、耐食性を向上させる作用を
有している。更に、Alには、固溶Nの固定効果および窒
化物粒子の凝集化効果によるフェライト結晶粒の粗大化
促進作用があり、これによって、軟磁性を向上させるこ
とができる。Al含有量が1wt.%未満では、上述した作用
に所望の効果が得られない。一方、Al含有量が4wt.%を
超えると、鋳造時の欠陥発生や圧延時の割れ発生等、そ
の製造性が劣化しやすくなり、且つ、高磁界での磁束密
度の低下を招く。従って、Al含有量は、1〜4wt.%の範
囲内に限定すべきである。なお、鋼中にSiおよびCrが含
有されておらず、Al単独の場合には、その含有量は後述
するS値との関係から2.3wt.% 以上であることが必要で
ある。
【0027】(3) シリコン(Si):Siは、Alと同様に変
態温度を上昇させ、電気抵抗を増加させる有効な元素で
ある。従って、必要に応じAlと共に含有させる。しかし
ながら、Si含有量が1.5wt.% を超えると、鋼材を脆化さ
せ、製造性および加工性を劣化させるおそれが生ずる。
従って、Si含有量は1.5wt.% 以下に限定すべきである。
なお、製造性および加工性の点から、好ましいSi含有量
は1wt.%以下である。
【0028】(4) クロム(Cr):Crは、製造性および加
工性を損なうことなく電気抵抗を増加させる有効な元素
である。従って、必要に応じAlまたはAlおよびSiと共に
含有させる。しかしながら、Cr含有量が5wt.%を超える
と、高磁界での磁束密度の低下を招くおそれが生じ且つ
コスト高になる。従って、Cr含有量は5wt.%以下に限定
すべきである。
【0029】(5) マンガン(Mn),硫黄(S), 燐(P):
Mnは、一般に知られているように、熱間脆性を防止する
ために、不純物としてのSの含有量に応じて含有させて
もよい。また、切削性を高めるために、Sと共に積極的
に含有させてもよい。しかしながら、その含有量が多す
ぎると、保磁力および磁束密度の低下を招く。従って、
Mn含有量は1wt.%以下、S含有量は0.1wt.%以下とすべ
きである。Pは、不純物として不可避的に混入する元素
であるが、その含有量が 0.1wt.%以下であれば弊害は少
なく、むしろ切削性を改善する効果がある。従って、P
の含有量は 0.1wt.%以下にすべきである。
【0030】(6) S値:下記(1) 式によって算出される
S値は、電気抵抗および高磁界での磁束密度に対する、
鋼中のAl,SiおよびCrの寄与を示すパラメータである。 S=2×(Al% + Si%)+Cr% ──────(1) 図1は、上記S値と、電気抵抗〔ρ(μΩcm)〕および
高磁界での磁束密度〔B25(T)〕との関係を示すグラフで
ある。図1から明らかなように、S値が4.5 未満では、
電気抵抗値が不足し、一方、S値が9を超えると、高磁
界での磁束密度が低下する。従って、上記(1) 式によっ
て算出されるS値は、4.5 〜9の範囲内に限定すべきで
ある。
【0031】(7) フェライト結晶平均粒径:フェライト
結晶平均粒径は、0.1 mm以上であることが望ましい。即
ち、フェライト結晶の平均粒径を0.1 mm以上とすること
により、優れた保磁力および特に低磁界での磁束密度を
高めることができる。フェライト結晶平均粒径が0.1 mm
未満では、結晶粒界が磁化を妨げる結果、軟磁性が損な
われる。
【0032】(8) 酸化アルミニウム粒子被覆層:鋼材の
表面には、酸化アルミニウム粒子の緻密な被覆層が形成
されていることが必要である。このような酸化アルミニ
ウム粒子の被覆層によって、鋼中に高価なCrを多量に含
有させることなく、耐食性を向上させることができる。
上記被覆層を構成する酸化アルミニウム粒子の被覆密度
は1012個/m2 以上であることが好ましい。上記被覆密
度が1012個/m2 未満では、鋼材に所望の耐食性を付与
することが困難である。このような酸化アルミニウム粒
子の被覆密度は、主として鋼中のAl含有量によって定ま
るものであり、本願発明におけるAl含有量は、上述した
ように1〜4wt.%であるところから、酸化アルミニウム
粒子の被覆密度の上限は約1016個/m2 となり、且つ、
酸化アルミニウム粒子の粒径は、0.01〜5μm の範囲内
となる。
【0033】上記酸化アルミニウム粒子は、主として酸
化アルミニウムにより構成されている酸化物粒子であっ
て、Feをはじめ他の添加元素を含有する複合酸化物粒子
であってもよい。また、Feをはじめ他の添加元素の酸化
物粒子と混合して被膜が形成されている場合であって
も、酸化アルミニウム粒子が主体であれば、その範疇に
含まれる。このように、その表面に酸化アルミニウム粒
子の緻密な被覆層が形成されていることによって、鋼材
の外観は、いわゆる金属光沢に乏しく、被覆密度が密な
場合には、灰色または灰色がかった黒色を呈する。
【0034】次に、この発明の鋼材の製造方法について
述べる。上述した化学成分組成からなる鋼を溶製し、こ
れを鋳造して鋼塊とした後、熱間圧延を施して所定形状
の鋼材を調製する。この発明においては、上記鋼材に対
し、酸素分圧が10-6〜10-2気圧の雰囲気中において、 8
00℃以上の温度で熱処理(焼鈍)を施すことが必要であ
る。即ち、鋼材を 800℃以上の温度で熱処理(焼鈍)す
ることにより、フェライト結晶の平均粒径を、0.1 mm以
上にすることができ、これによって、上述したように、
優れた保磁力および低磁界での磁束密度を高めることが
できる。上記熱処理温度が 800℃未満では、フェライト
結晶の平均粒径を0.1 mm以上にすることが困難になる。
なお、特に良好な保磁力を必要とする場合には、900 ℃
以上の温度で熱処理をすることが好ましい。この熱処理
は、焼鈍を目的とするものであり、鋼材に対し所定の加
工処理をほぼ終了した後に施すことが望ましい。
【0035】鋼材の熱処理時において、熱処理温度が 9
00℃以上の場合には、その温度に少なくとも10分以上保
持することが必要であり、これによって、本発明の意図
する効果が得られる。熱処理温度が 800℃以上、900 ℃
未満の場合には、30分以上均熱保持することが望まし
い。なお、熱処理温度が1300℃を超えると、変形や高温
熱処理に伴うコスト高を招く。従って、熱処理温度は、
800℃以上、1300℃以下とすることが好ましい。
【0036】熱処理雰囲気の酸素分圧は、10-6〜10-2
圧の範囲内であることが必要である。酸素分圧が10-6
圧未満では、鋼中に含有されているAlを酸化させるため
の酸素量が不足し、鋼材の表面上に酸化アルミニウム粒
子を1012個/m2 以上の密度で緻密に被覆させることが
できず、良好な耐食性を得ることができない。一方、酸
素分圧が10-2気圧を超えると、酸化アルミニウム粒子と
共にFeを主体とする酸化物粒子が多量に且つ単独で生成
するようになる結果、酸化物粒子の剥離が助長され、耐
食性を確保することが困難になる。このような、熱処理
雰囲気の酸素分圧の制御は、例えば、純アルゴン等の不
活性ガスに酸素を混入させること、露点が約−50℃以上
に調整された湿潤水素ガスを使用すること、または、真
空雰囲気中において、圧力を10-3〜1torrに調整するこ
と等によって、容易に行うことができる。
【0037】本発明における鋼材としては、鋼板、鋼
管、棒鋼、形鋼、線材等の各種鋼材およびそれらの加工
材等、どのような形態であってもよい。なお、上述の熱
処理に供される鋼材としては、熱間圧延材、冷間圧延材
またはこれらの加工材を含む。
【0038】
【実施例】次に、この発明を、実施例により比較例と対
比しながら説明する。表1に示す、本発明の範囲内およ
び本発明の範囲外の化学成分組成を有する鋼A〜Uを溶
製し、次いで、これを鋳造して鋼塊を調製した。
【0039】
【表1】
【0040】次いで、このようにして調製された鋼塊を
熱間圧延し、5〜20mmの板厚の熱延鋼板を調製した。得
られた熱延鋼板から試験片を採取し、その試験片に対
し、表2に示した雰囲気および温度で熱処理を施すこと
により、本発明例および比較例の供試体No.1〜24を調製
した。このようにして調製された供試体の各々に対し、
ミクロ観察によりフェライト結晶平均粒径、電気抵抗、
直流磁化特性および耐食性を測定し、その測定結果を表
2に併せて示した。
【0041】耐食性は、以下に述べる方法によって評価
した。即ち、機械加工により3つ山に仕上げた試験面を
有する供試体を調製し、この供試体に対し、表2に示し
た雰囲気および温度で熱処理を施した後、温度60℃、湿
度90% の湿潤環境下に1000時間暴露した後、試験面に発
生した錆の面積率を調べ、下記基準によって評価した。 ◎:錆の面積率が10% 未満であって耐食性が極めて良好
なもの、 ○:錆の面積率が20% 未満であって耐食性が良好なも
の、 ×:錆の面積率が20% 超であって耐食性が不良なもの。
【0042】
【表2】
【0043】表1および表2から明らかなように、供試
体No. 1〜5(鋼番A〜E)は、SiおよびCrを含有せ
ず、Alのみが単独で含有されている例である。供試体N
o.1,2は比較例であって、Alを1wt.%以上含有し、800
℃以上の温度による熱処理が施されているので、その
表面に耐食性を確保するために必要な酸化アルミニウム
粒子からなる被膜が形成され、且つ、平均粒径0.1 mm以
上のフェライト結晶が得られ、耐食性、保磁力および磁
束密度が共に良好であったが、S値が本発明の範囲を外
れて少ないために、電気抵抗が低かった。供試体No.
3,4は、本発明例であって、耐食性、保磁力、磁束密
度および電気抵抗の何れも優れており、本発明の目的を
満足していた。供試体No.5は比較例であって、Al含有量
が本発明の範囲を超えて多いために、高磁界での磁束密
度が悪かった。
【0044】供試体No. 6(鋼番F)は、Alを含有せず
Siのみが含有されている比較例であって、製造性および
加工性は良好であっても、電気抵抗が低かった。供試体
No.7(鋼番G)は、AlおよびSiが含有されていても、Al
含有量およびS値が本発明の範囲を外れて少ない比較例
であって、耐食性が劣り且つ電気抵抗が低かった。
【0045】供試体No. 8〜11(鋼番H)は、本発明範
囲内のAlおよびSiを含有している鋼について、その熱処
理温度を変化させた例である。供試体No. 8は、熱処理
温度が本発明の範囲を外れて低い比較例であって、酸化
アルミニウム粒子の分布密度が本発明の範囲を外れて低
く耐食性が劣っており、且つ、フェライト結晶の平均粒
径が小さく、従って、保磁力が低かった。供試体No. 9
〜11は本発明例であって、平均粒径0.1 mm以上のフェラ
イト結晶が得られ、耐食性、保磁力および磁束密度が共
に良好であった。
【0046】供試体No.12 〜15(鋼番I〜L)は、C,
Nの含有量を変えた例であって、供試体No.13 の比較例
においてはC量が本発明の範囲を超えて多く、供試体N
o.15の比較例においてはN量が本発明の範囲を超えて多
いために、何れも保磁力が低かった。供試体No.12,14の
比較例においては保磁力は良好であったが、酸化アルミ
ニウム粒子の分布密度が低いために、耐食性が劣ってい
た。
【0047】供試体No.16 〜19(鋼番M〜P)は、Alお
よびSiが共に含有されている例であって、何れも耐食性
は良好であった。供試体No.18 は、S値が本発明の範囲
内であるがSi含有量が本発明の範囲を超えて多い比較例
であり、加工性が劣っていた。また、供試体No.19 は、
S値およびSi含有量が何れも本発明の範囲を超えて多い
比較例であり、高磁界での磁束密度が低かった。供試体
No.16,17は本発明例であって、耐食性、保磁力、磁束密
度および電気抵抗の何れも優れていた。
【0048】供試体No.20,21(鋼番Q,R)は、Mn,S
およびPが積極的に含有されている本発明例であって、
これらの元素が含有されていることにより、本発明の目
的を損なうことなく、切削性が向上した。
【0049】供試体No.22 〜24(鋼番S〜U)は、Al,
SiおよびCrが共に含有されている例であって、供試体N
o.24 は、Cr量が本発明の範囲を超えて多い比較例であ
り、高磁界での磁束密度が低かった。供試体No.22,23は
本発明例であって、電気抵抗が一段と増加した。
【0050】
【発明の効果】以上述べたように、この発明によれば、
40μm Ωcm以上の電気抵抗を有し、更に、保磁力 56A/m
(0.7 0e) 以下、高磁界での磁束密度(B25) 1.5T(15000
G)以上、低磁界での磁束密度(B2) 1.0T(10000G) 以上を
兼ね備える、磁束密度、保磁力および耐食性に優れ且つ
高電気抵抗を有する、電磁アクチュエーターの磁気回路
構成部品として好適な軟磁性鋼材を得ることができる、
工業上優れた効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【図1】2×(Al% + Si%)+Cr% によって算出される
S値と、電気抵抗および高磁界での磁束密度との関係を
示すグラフである。

Claims (4)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】実質的に、 炭素(C) : 0.007wt.% 以下、 窒素(T.N) : 0.01 wt.% 以下、 アルミニウム(Al): 1〜4wt.%、 シリコン(Si) : 0〜1.5wt.% (無添加の場合を含
    む)、 クロム(Cr) : 0〜5wt.%(無添加の場合を含
    む)、および、 残り : 鉄(Fe) からなっており、 下記(1) 式によって算出されるS値が4.5 から9の範囲
    内であり、 S=2×(Al% + Si%)+Cr% ──────(1) そして、その表面に酸化アルミニウム粒子の被覆層が形
    成されていることを特徴とする、磁束密度、保磁力およ
    び耐食性に優れ且つ高電気抵抗を有する軟磁性鋼材。
  2. 【請求項2】 前記被覆層の酸化アルミニウム粒子の密
    度が1012個/m2 以上である、請求項1記載の軟磁性鋼
    材。
  3. 【請求項3】 請求項1に示した化学成分組成からなる
    鋼を溶製し、これをして鋼塊となした後、前記鋼塊を熱
    間圧延して所定形状の鋼材を調製し、得られた鋼材に対
    し、酸素分圧が10-6〜10-2気圧の雰囲気中において、 8
    00℃以上の温度で熱処理を施すことによって、その表面
    に酸化アルミニウム粒子の被覆層を形成することを特徴
    とする、磁束密度、保磁力および耐食性に優れ且つ高電
    気抵抗を有する軟磁性鋼材の製造方法。
  4. 【請求項4】 前記被覆層の酸化アルミニウム粒子の密
    度が1012個/m2 以上である、請求項3記載の軟磁性鋼
    材の製造方法。
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