JP2004143585A - 複合磁性部材用素材、並びに該素材を用いて成る複合磁性部材、並びに該部材の製造方法、並びに該部材を用いて成るモータ - Google Patents
複合磁性部材用素材、並びに該素材を用いて成る複合磁性部材、並びに該部材の製造方法、並びに該部材を用いて成るモータ Download PDFInfo
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Abstract
【課題】単一組成で強磁性部と弱磁性部を具備する複合磁性部材用素材の内、従来部材の素材よりも低温、短時間の加熱処理により弱磁性化する複合磁性部材用素材、並びに該素材を用いて成る複合磁性部材、並びに該部材の製造方法、更には該部材を用いて成るモータを提供する。
【解決手段】単一組成で強磁性部と弱磁性部を具備する複合磁性部材の素材であって、質量%でC:0.4〜1.2%、Si:0.1〜2.5%、Ni+Mn:0.1〜6.0%、Cr:2.0〜10.0%、残部が実質的にFeの組成を有し、(フェライト+炭化物)相で成り、該炭化物の最大粒径が2.0μm以下の組織を有し、1T(テスラ)の外部磁場下での自発磁化量Jが1.5T以上である複合磁性部材用素材であり、好ましくは、Ni+Mnが2.0%以上であることを特徴とする上記の複合磁性部材用素材。
【選択図】 図1
【解決手段】単一組成で強磁性部と弱磁性部を具備する複合磁性部材の素材であって、質量%でC:0.4〜1.2%、Si:0.1〜2.5%、Ni+Mn:0.1〜6.0%、Cr:2.0〜10.0%、残部が実質的にFeの組成を有し、(フェライト+炭化物)相で成り、該炭化物の最大粒径が2.0μm以下の組織を有し、1T(テスラ)の外部磁場下での自発磁化量Jが1.5T以上である複合磁性部材用素材であり、好ましくは、Ni+Mnが2.0%以上であることを特徴とする上記の複合磁性部材用素材。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えばリラクタンモータや磁石モータの回転子に適用され得る、単一材料中に強磁性部と弱磁性部を具備する複合磁性部材の内、従来部材の素材より低温、短時間での加熱処理により弱磁性部を形成することのできる複合磁性部材用素材、並びに該素材を用いて成る複合磁性部材、並びに該部材の製造方法、並びに該部材を用いて成るモータに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、リラクタンスモータの回転子においては、強磁性体(一般には珪素鋼に代表される軟質磁性材料)の一部に非磁性部を設けて、磁束が通り難い方向を形成し、磁気抵抗効果を利用する構造が用いられている(例えば、非特許文献1参照)。
強磁性体の一部に非磁性部分を設ける方法としては、強磁性鋼鈑の一部をプレスで打ち抜き、プレスで出来た空隙を非磁性部とする手法が行われてきた。
上述の手法に対し、本発明者は単一材を使用して、この単一材に部分的な熱処理を施すことによって強磁性部と弱磁性部(あるいは非磁性部)を設けた複合磁性部材を提案している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、本発明者らは、複合磁性部材において弱磁性部を製造するための部分的な熱処理方法として、加熱体を弱磁性化したい箇所に押し当てる方式を提案している(例えば、特許文献2参照)。
このような単一材から成る複合磁性部材を利用すると、機械的強度、振動等による破損防止という点で、強磁性体の一部をプレスで打ち抜いた部品よりも優れたものとなる。また、複合磁性部材とプレス打抜き加工を併用する場合にも、プレス打抜きにより形成される空間の部分を極力減らすことができるので、優れた機械的強度を有する部品とすることができる。
【0004】
【非特許文献1】
梨木政行、佐竹明喜、川井庸市、横地孝典、大熊 繁 著:「スリット回転子を用いたフラックスバリア型リラクタンスモ−タの磁界解析と試作実験」電気学会論文誌D 116巻6号(1996年) p.694−701
【特許文献1】
特開2000−104142号公報
【特許文献2】
特開2002−8916号公報
【0005】
例えば本発明者は、特許文献1において、質量%でAlを0.1〜5.0%含有するFe−Cr−C系合金鋼から成り、粒径0.1μm以上の炭化物個数が100μm2の面積中に50個以下、かつ該炭化物個数に対する粒径1.0μm以上の炭化物個数が15%以上に調整された(フェライト+炭化物)組織で成る比最大透磁率400以上の強磁性部と、比透磁率2以下の弱磁性部で成る複合磁性部材を提案している。
併せて本発明者は、この特許文献1において、複合磁性部材の好ましい組成範囲として、質量%でC:0.30〜0.80%、Cr:12.0〜25.0%、Al:0.1〜5.0%、Ni:0.1〜4.0%、N:0.01〜0.10%、Si、Mnの1種または2種を合計で2.0%以下、残部が実質的にFeの組成で成ることを提案している。
【0006】
この特許文献1で提案した複合磁性部材は、鉄鋼材料の相変態を利用して単一材料で(フェライト+炭化物)組織主体の強磁性特性とオーステナイト組織主体の弱磁性特性を実現できるFe−Cr−C系合金に着目したものである。この提案は、Fe−Cr−C系合金における炭化物の析出状態と固溶状態での磁気特性の差を利用して、単一材料で強磁性と弱磁性という相反する磁気特性を両立させることを基本概念としている。
また、この特許文献1では、強磁性部において優れた軟磁気特性を得るためには、炭化物の個数、大きさを規定し、粗大な炭化物が数少なく析出している組織形態が良いことを提案しており、更に、この組織制御のためにAl添加が有効であることを示している。この技術は、複合磁性部材の強磁性部の軟磁気特性を組織制御によって改善した点で優れている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者が特許文献1で提案した複合磁性部材において、強磁性と弱磁性の磁気特性の両立は、組織中の炭化物の析出状態と固溶状態での磁気特性の差を利用することにより生じている。また、上述の特許文献1に記載した複合磁性部材では、好ましいCr量の範囲は12.0〜25.0%としている。
これは複合磁性部材の耐食性を確保することと、弱磁性のオーステナイト組織が強磁性のマルテンサイト組織に変態し始める温度(Ms点)、及びマルテンサイト変態が完了する温度(Mf点)を下げ、弱磁性のオーステナイト組織を安定とするために、12.0〜25.0%の高Cr組成を好ましいとしたものである。
【0008】
但し、Fe−Cr−C系合金においてCr量が高くなると、オーステナイト単相域が縮小されるとともに、炭化物が固溶する温度が上昇するので、オーステナイト単相となる温度が上昇し、ひいては弱磁性部を形成するための部分的な熱処理に必要な加熱温度が1150℃以上の高温になるという問題がある。
また、上述した様に、粗大な炭化物が析出していることは、強磁性部の軟磁気特性を改善するという点では有利であるものの、弱磁性部を形成するための部分的な熱処理の際に、炭化物が固溶し難くなり、部分加熱の際に長い保持時間が必要になるという問題がある。
【0009】
このように、弱磁性部を形成するために1150℃以上の高温で、かつ長い保持時間を必要とする部分的な加熱処理を行うと、熱応力により複合磁性部材が変形し易くなるという問題がある。この問題を解決するためには、部分的な熱処理方法の改善だけでは難しく、より低い温度、かつ短時間保持の熱処理で弱磁性化する複合磁性部材用素材を開発する必要がある。
本発明の目的は、単一組成で強磁性部と弱磁性部を具備する複合磁性部材用素材の内、従来部材の素材よりも低温、短時間の加熱処理により弱磁性化する複合磁性部材用素材、並びに該素材を用いて成る複合磁性部材、並びに該部材の製造方法、更には該部材を用いて成るモータを提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上述した特許文献1と同様に、炭化物の析出状態と固溶状態での磁気特性の差を利用して単一組成で強磁性と弱磁性の両方の磁気特性を得る複合磁性部材の素材において、より低温での加熱処理により弱磁性のオーステナイト組織を形成するためには、より低い加熱温度で炭化物が固溶する素材にする必要がある。
また、より短い保持時間での加熱処理により弱磁性のオーステナイト組織を形成するためには、炭化物の大きさを微細にして、短時間で炭化物が固溶する組織形態とする必要がある。ここで、Fe−Cr−C系合金においては、Cr量が低下すると、炭化物が固溶する温度が低下することから、本発明者は、従来部材の素材より低Crの組成を中心として、化学組成や熱処理条件(加熱温度、保持時間)と磁気特性、組織の関係を詳細に調査した結果、本発明に到達した。
【0011】
即ち本発明は、単一組成で強磁性部と弱磁性部を具備する複合磁性部材の素材であって、質量%でC:0.4〜1.2%、Si:0.1〜2.5%、Ni+Mn:0.1〜6.0%、Cr:2.0〜10.0%、残部が実質的にFeの組成を有し、(フェライト+炭化物)相で成り、該炭化物の最大粒径が2.0μm以下の組織を有し、1T(テスラ)の外部磁場下での自発磁化量Jが1.5T以上である複合磁性部材用素材である。
好ましくは、Ni+Mnが2.0%以上であることを特徴とする上記の複合磁性部材用素材である。
【0012】
また本発明は、質量%でC:0.4〜1.2%、Si:0.1〜2.5%、Ni+Mn:0.1〜6.0%、Cr:2.0〜10.0%、残部が実質的にFeの組成を有し、(フェライト+炭化物)相で成り、該炭化物の最大粒径が2.0μm以下の組織を有し、1T(テスラ)の外部磁場下での自発磁化量Jが1.5T以上の強磁性部と、残留オーステナイト主体の組織で成り、1Tの外部磁場下での自発磁化量Jが0.2T以下の弱磁性部を具備する複合磁性部材である。好ましくは、Ni+Mnが2.0%以上であることを特徴とする上記の複合磁性部材である。
また本発明は、上述の複合磁性部材用素材に対し、部分的に1000℃〜1150℃未満の温度範囲での加熱処理を行うことにより、1Tの外部磁場下での自発磁化量Jが1.5T以上の強磁性体中に、1Tの外部磁場下での自発磁化量Jが0.2T以下の弱磁性部を形成するの複合磁性部材の製造方法である。
また本発明は、上記の複合磁性部材を用いて成るモータである。
【0013】
【発明の実施の形態】
上述したように、本発明の重要な特徴は、単一組成で強磁性部と弱磁性部を具備する複合磁性部材の素材として、従来部材の素材より低温での加熱処理により弱磁性のオーステナイト組織を形成できる素材として、低Cr組成のFe−Cr−C系を基本組成とする合金に着目したことである。以下、本発明の規定理由を述べる。
【0014】
まず、複合磁性部材用素材の化学組成を規定した理由を述べる。
C:0.4〜1.2%
Cは、複合磁性部材用素材においては炭化物を形成する。また、弱磁性化された組織においては、上述の炭化物の固溶により、オーステナイトを形成する。即ち、Cは、弱磁性部を形成するために必要な本発明の必須元素である。但し、C量が0.4%以下の範囲では弱磁性部を形成する効果が小さく、逆に1.2%を超える範囲では、素材の加工性が悪くなるので、上述の範囲に規定した。Cのより望ましい範囲は、0.6〜0.9%である。
【0015】
Si:0.1〜2.5%
Siは脱酸元素としての作用がある元素である。但し、0.1%未満では脱酸効果が小さいので、下限を0.1%に規定した。また、SiはAlと同様に炭化物を粗大化させる効果があるので、含有量が多くなると、炭化物が大きくなり、炭化物の固溶、ひいては素材の弱磁性化に長い保持時間が必要となる。この現象は、特にSi量が2.50%を超える範囲で顕著になるので、Si量の上限は2.5%に規定した。Siのより望ましい範囲は、0.3〜2.0%である。
【0016】
Ni+Mn:0.1〜6.0%
NiやMnは、オーステナイト安定化元素として弱磁性部の形成に有効な元素である。また、本発明の複合磁性部材用素材では、Cr量の範囲を従来の素材よりも低く規定しているので、炭化物の固溶する温度を低下させることはできるものの、Ms点とMf点は上昇し、弱磁性の残留オーステナイトは不安定となる。この低Cr化による残留オーステナイトの不安定化を解決するためには、NiやMnの添加によるMs点とMf点の低下、ひいては残留オーステナイトの安定化が必要である。また、NiやMnは、炭化物の析出ノ−ズを長時間側に移動させる効果があるので、素材における炭化物の成長を遅らせ、素材の炭化物形態を微細にする効果も併せ持っている。
【0017】
本発明でNi+Mn量の範囲を0.1〜6.0%と規定した理由は、Ni+Mn量が0.1%未満の範囲では残留オ−ステナイトを安定化する効果が小さく、逆に6.0%を超える範囲では素材の硬さが上昇し加工性を劣化させるとともに、素材の自発磁化量、ひいては該素材を用いて成る複合磁性部材の強磁性部の自発磁化量を低下させるからである。なお、Ni,Mnの何れか一方の元素が無添加の場合でも、他方の元素が0.1〜6.0%の範囲であり、Ni+Mn量が上述の範囲内であれば、本発明に含まれる。
また、Ni+Mnが2.0%以上となると、残留オ−ステナイトを安定化する効果は、特に大きくなるので、Ni+Mnのより望ましい範囲は2.0%以上であり、更に望ましい範囲は2.0〜5.0%である。
【0018】
Cr:2.0〜10.0%
Crは、複合磁性部材用素材においてはCとともに炭化物を形成する。また、弱磁性化されたオーステナイト組織においては、上述の炭化物の固溶により、残留オーステナイト組織が形成される。即ち、Crは、Cと同様に、弱磁性部を形成するために必要な本発明の必須元素である。
但し、Cr量が2.0%未満の範囲ではMs点やMf点を低下させる効果が小さく、弱磁性部を形成するために必要な残留オーステナイトを得ることが難しくなるので、Cr量の下限は2.0%とした。
【0019】
逆に、Cr量が10.0%を超える範囲では、炭化物が固溶する温度が高くなり、ひいては弱磁性部を形成するための加熱温度が高くなる。また、Cr量が10.0%を超える範囲では、素材の自発磁化量が低下し、ひいては該素材を用いて成る複合磁性部材の強磁性部の自発磁化量が低下する。
以上の理由から、Cr量の上限は10.0%とした。Cr量のより望ましい範囲は、4.0〜8.0%である。
なお、本発明の複合磁性部材用素材においては、残部は実質的にFeであるが、不可避不純物としてのP、S、N、O等は当然含有される。これらの不可避不純物は、素材の磁気特性に特に影響を及ぼさない範囲として、各々0.1%以下の範囲で含有して良い。
【0020】
次に、本発明の複合磁性部材用素材の組織を規定した理由を述べる。
該素材の組織を(フェライト+炭化物)相で成ることとしたのは、本発明の素材における磁気特性(1Tの外部磁場下での自発磁化量Jが1.5T以上)を満足させるためである。また、該炭化物の大きさを最大粒径2.0μm以下であることとしたのは、炭化物を微細にすることで、弱磁性化の際の保持時間を短くするためであり、2.0μmを超える粒径の炭化物は特に固溶し難いためである。なお、この素材の組織は、該素材を複合磁性部材とした場合の強磁性部の組織に相当する。
【0021】
次に、本発明の複合磁性部材用素材、及び該素材を用いて成る複合磁性部材の強磁性部の磁気特性を規定した理由を述べる。
まず、複合磁性部材の強磁性部の磁気特性を、1T(テスラ)の外部磁場下での自発磁化量Jが1.5T以上であることとしたのは、この範囲の特性が、複合磁性部材を例えばモータ回転子として使用する際、強磁性部に必要な磁気特性であるからである。複合磁性部材を用いたモータ回転子では、回転子に高い磁場が印加されるので、強磁性部の飽和磁化量は、特に重要な特性となる。1T(テスラ)の外部磁場は、強磁性部を飽和させるのに十分な大きさの磁場であり、この磁場下において1.5T以上の自発磁化量があれば、モータ回転子として使用することができる特性である。
【0022】
また、複合磁性部材用素材は、該素材を用いて成る複合磁性部材の強磁性部に相当するので、複合磁性部材の強磁性部で1T(テスラ)の外部磁場下での自発磁化量Jが1.5T以上の特性を得るためには、素材の磁気特性も同じ範囲にしておく必要がある。
以上の理由から、複合磁性部材用素材、及び該素材を用いて成る複合磁性部材の強磁性部の磁気特性を1T(テスラ)の外部磁場下での自発磁化量Jが1.5T以上であることと規定した。
【0023】
次に、複合磁性部材の弱磁性部の組織と磁気特性を規定した理由を述べる。
弱磁性部の組織を残留オーステナイト主体の組織としたのは、この組織が飽和磁化量を低下させ、弱磁性部に必要な特性を得るために必要な組織であるからである。なお、本発明における残留オーステナイト主体の組織とは、弱磁性部をX線回折により分析した際、50%以上の残留オーステナイト量が検出される組織を指す。残留オーステナイト量が、この範囲内であれば、本発明における弱磁性部の磁気特性の範囲から外れることは無い。
また、弱磁性部の磁気特性を、1T(テスラ)の外部磁場下での自発磁化量Jが0.2T以下であることとしたのは、この範囲の特性が、複合磁性部材を例えばモータ回転子として使用する際、弱磁性部に必要な磁気特性であるからである。
【0024】
モータ回転子に使用する複合磁性部材の弱磁性部の役割は、磁束遮断による磁気抵抗効果の助長であることが多く、完全な非磁性でなくても良い場合が多い。具体的には、1T(テスラ)の外部磁場下での自発磁化量Jが0.2T以下であれば、強磁性部と比較して自発磁化量は十分に低下しており、弱磁性部としての役割を果たすことができるので、弱磁性部の磁気特性をこの範囲に規定した。より望ましくは、1T(テスラ)の外部磁場下での自発磁化量Jが0.1T以下であると良い。
【0025】
次に、複合磁性部材の製造方法として、部分的に1000℃〜1150℃未満の温度範囲での加熱処理を行うこととした理由を述べる。
まず、下限温度を1000℃としたのは、本発明の複合磁性部材用素材の組織中における炭化物を固溶させ、素材を弱磁性化するために1000℃以上の加熱が必要であるからである。また、加熱温度の上限を1150℃としたのは、弱磁性化熱処理時の部材の変形を抑制するためである。
本発明者が特許文献1に開示した複合磁性部材の素材では、弱磁性化のために1150℃以上の加熱が必要であり、弱磁性化熱処理時に部材が変形する問題がある。本発明の複合磁性部材用素材では、弱磁性化に必要な熱処理温度を低下でき、更に熱処理時の保持時間を短縮できるので、部分的な弱磁性化熱処理時における部材の変形の問題を解決することができる。
また、部分加熱の方法としては、高周波加熱、レーザ加熱、誘導加熱、抵抗加熱等の公知の方法や設備を用いても良いし、また本発明者らが特許文献2に開示するように、加熱体を弱磁性化したい箇所に押し当てる方式でも良い。
【0026】
以上説明するように、本発明の複合磁性部材は、従来部材よりも低温、短時間での加熱処理により弱磁性部を形成できるという特徴があるので、例えば、モータ回転子として使用する場合でも弱磁性部を形成し易く、しかも部分的な加熱処理による部材の変形も少ないという効果がある。そのため、本発明の複合磁性部材を用いて成るモータは、回転子を積層した際の占積率を高くすることができ、高効率特性を有するモータとなる。
【0027】
【実施例】
(実施例1)
本発明では、まず複合磁性部材用素材の化学組成、組織(炭化物の最大粒径)と磁気特性が重要である。更には、該素材を熱処理した際の熱処理温度、保持時間と磁気特性、組織(残留オーステナイト量)の関係が重要である。これらの関係を調査する為に、11種類の鋼塊を真空溶解により溶製した。溶製した鋼塊の化学組成(質量%)を表1に示す。
【0028】
【表1】
【0029】
表1の各素材の化学組成について説明する。
No.1〜8の組成は、本発明の規定範囲内であり、本発明の複合磁性部材用素材である。No.1〜5は、Si,Mn,Ni等の添加量をほぼ等しくし、Cr量とC量を変動させた組成である。また、No.6は、No.3の組成のNiを無添加としてC量を高めた組成であり、No.7〜8は、No.3の組成を基本として、(Ni+Mn)量を本発明の規定範囲内で高めた組成である。
一方、No.9〜11の組成は、本発明の規定範囲外であり、本発明の比較例である。No.9ではCr量が規定範囲より低く、No.10〜11ではCr量が規定範囲より高い。No.10では、(Ni+Mn)量も本発明の規定範囲を外れている。なお、No.11の組成は、本発明者が特許文献1に開示した複合磁性部材用素材の組成に相当する。
【0030】
これらの鋼塊に対し、ソーキング処理として1170℃の加熱炉中で10h保持し、炉冷した後、1000℃に加熱して熱間鍛造を行い、厚さ20mm、幅50mmの鋼塊を得た。これらの鋼塊に対し、大気炉中で780℃に4時間保持後、20℃/hの冷却速度で600℃まで徐冷し、以後、室温まで炉冷した。
この焼鈍材より、1mm×10mm×15mmの試験片を採取してエックス線回折測定を行い、すべての素材で(フェライト+炭化物)相となっていることを確認した。相同定結果を表2に示す。また、エックス線回折測定の一例として、素材No.3のエックス線回折図形を図1に示す。
【0031】
次に、上述の試験片を樹脂に埋め込み、研磨した後、組織観察を行った。組織観察の例として、素材No.3の走査型電子顕微鏡観察組織を図2に示す。
この組織は、図1に示したX線回折図形の相に対応しており、写真中、白い斑点状に見えるのが、M7C3型炭化物である。また、比較例の素材No.11の走査型電子顕微鏡観察組織を図3に示す。素材No.11で観察される炭化物は、表1よりM23C6型炭化物である。
次に、上述の組織写真より、各素材の組織の画像解析を行い、炭化物の円相当径を測定し、各素材における炭化物の最大粒径を測定した。測定結果を表2に示す。
素材No.1〜10では、炭化物の最大粒径は2.0μm以下となっているが、素材No.11の炭化物の最大粒径は2.0μmを超えていることが分かる。
【0032】
次に、上記の素材から、磁性測定用試験片として、1mm×4mm×6mmの試験片を採取した。これらの試験片に対し、振動試料型磁束計により、1(T)の外部磁場を印加し、自発磁化量J(T)を測定した。測定結果を表2に示す。いずれの素材においても、1(T)の外部磁場下での自発磁化量Jは、1.5(T)以上の特性となっていることが分かる。
【0033】
【表2】
【0034】
(実施例2)
次に、本発明では、上述の素材に対して熱処理を施した際の残留オーステナイト量と自発磁化量が重要である。上述の11種類の素材より、残留オーステナイト量測定試料として1mm×10mm×15mmの試験片を採取した。また、自発磁化量測定試料として1mm×4mm×6mmの試験片を採取した。
これらの試験片に対し、Ar雰囲気炉中で850〜1150℃の範囲に各4分間、保持後、水冷し、残留オーステナイト量γR(%)と自発磁化量J(T)を測定した。測定結果を表3に示す。
【0035】
【表3】
【0036】
表3から、本発明の複合磁性部材用素材(No.1〜8)では、1000℃〜1150℃未満の温度域で熱処理を行うことにより、残留オーステナイト量γRが50%以上、自発磁化量Jが0.2(T)以下の弱磁性特性が得られることが分かる。
素材No.1〜5の結果が示すように、素材のCr量が低くなると、残留オーステナイトが残り始める温度、すなわち自発磁化量が低下し始める熱処理温度は低くなることが分かる。但し、低Cr組成(素材No.1)では、合金元素の添加量が少なく、オーステナイトへの固溶強化の効果が小さいので、残留オーステナイトのマルテンサイト変態に対する機械的抵抗力が弱まるためか、高温側で熱処理した際の残留オーステナイト量が若干少なく、本発明で弱磁性の特性として規定したJ≦0.2(T)の特性には到達するものの、望ましい弱磁性の特性としたJ≦0.1(T)までは到達しない。
【0037】
また、高Cr組成(No.5)では、炭化物の固溶温度が上昇するので、J≦0.2(T)の特性とするためには、1100℃以上の加熱が必要である。
従って、本発明のより望ましいCr量の範囲は、素材No.2〜No.4の組成(4.0%〜8.0%)に存在することが分かる。また、No.6が示す様に、Niが無添加であっても、Ni+Mn量が本発明の規定範囲内であり、かつC量を高めれば、1000℃〜1150℃未満の温度域での熱処理によりJ≦0.2(T)まで弱磁性化することが分かる。更に、No.7とNo.8が示す様に、Ni+Mn量の増加は、素材を弱磁性化させるための熱処理温度の低下に有効である。
一方、比較例の素材について説明する。Cr量が2.0%未満の素材No.9では残留オーステナイト量が少ないために、素材に弱磁性化の熱処理を施しても本発明の規定範囲(J≦0.2T)まで自発磁化量が低下しない。また、Cr量が10.0%を超える素材No.10とNo.11では、J≦0.2Tの弱磁性特性を得るために1150℃以上の熱処理が必要である。
【0038】
次に、弱磁性化のための熱処理を施した試料の組織観察を行った。
組織観察例として、本発明の素材No.3を1050℃で熱処理した際の光学顕微鏡組織を図4に示す。また比較例の素材No.11を1050℃で熱処理した際の光学顕微鏡組織を図5に、素材No.11を1150℃で熱処理した際の光学顕微鏡組織を図6に示す。
図4より、本発明の素材No.3においては、1050℃の加熱により、ほぼ炭化物が固溶し、オーステナイト組織が観察されている。一方、比較例の素材No.11においては、図5から、1050℃の加熱では炭化物は固溶しておらず、図6に示す様に、1150℃の加熱により、ようやく炭化物の固溶が顕著になり、オーステナイト組織が観察される様になることが分かる。これらの組織観察結果は、表3に示した残留オーステナイト量や自発磁化量の測定結果と整合している。
【0039】
(実施例3)
次に、本発明では炭化物の大きさと、弱磁性化に必要な加熱保持時間との関係が重要である。本発明の素材No.3を1050℃で加熱保持した際の保持時間と1(T)の外部磁場下での自発磁化量Jの関係、及び比較例の素材No.11を1150℃で加熱保持した際の保持時間と1(T)の外部磁場下での自発磁化量Jの関係を表4に示す。
【0040】
【表4】
【0041】
表4より、炭化物の最大粒径が1.12μm(2.0μm以下)の本発明の素材No.3では、1050℃で9sの加熱保持により、自発磁化量Jは0.2(T)以下の範囲まで低下している。一方、炭化物の最大粒径が3.21μmと2.0μmを超えている比較例の素材No.11では、自発磁化量Jを0.2(T)以下に低下させるために1150℃で16sの加熱保持を必要としていることが分かる。このことから、炭化物の最大粒径を本発明の規定範囲とすることで、短時間の加熱保持により、素材を弱磁性化できることが分かる。
【0042】
以上の実施例より、複合磁性部材用素材の化学組成、組織形態を本発明の範囲内に調整することにより、素材において所定の磁気特性が得られるとともに、従来の素材よりも低温の1000℃〜1150℃未満の範囲で、かつ短時間保持の熱処理により、弱磁性化できる素材となることが分かる。
従って、本発明の複合磁性部材用素材を用いて複合磁性部材を製造する際には、部分的に1000℃〜1150℃未満の範囲に加熱保持して弱磁性部を形成すれば良い。本発明の素材では、従来部材の素材よりも低温、短時間の加熱により弱磁性化させることができるので、弱磁性部を形成した際の変形の問題も解決され易い。
【0043】
(実施例4)
次に、本発明では弱磁性化のための部分的な加熱を施した際の部材の変形量が重要である。本発明の複合磁性部材用素材である素材No.3と比較例の複合磁性部材用素材である素材No.11に対し、1000℃に加熱して熱間圧延後、冷間圧延と650℃での焼鈍を繰り返し、板厚0.35mmの焼鈍材を得た。これらの焼鈍材にプレス打抜きを施して図7に示す形状のモータ回転子用部品を作製した。図中(1)はスリット部であり、図中(2)は中空部である。
この部品に対し、図中(3)に示す斜線部(8箇所)を高周波加熱処理により弱磁性化し、強磁性体(4)中に弱磁性部(3)を具備する複合磁性部材とした。なお、高周波加熱時の加熱温度は、本発明の複合磁性部材用素材No.3において約1050℃、比較例の複合磁性部材用素材No.11において約1150℃となる様に設定した。
【0044】
次に、図7の如く作製した2つの複合磁性部材の平坦度を調べるため、3次元形状測定器を用いて、それぞれの部材の反り量を測定した。本発明の複合磁性部材(素材No.3)における反り量は11μmと小さいのに対し、比較例の複合磁性部材(素材No.11)の反り量は52μmであった。
このように、本発明の複合磁性部材の変形量は小さいので、図7の様な形状の部材を積層してモータ回転子とする際、高い占積率が得られ、高効率なモータ特性が得られ易くなり、変形量も少ないため特に積層して使用するようなモータとして好適である。
【0045】
【発明の効果】
本発明によると、単一の化学組成で強磁性部と弱磁性部を有する複合磁性部材用素材において、従来部材の素材より低温、短時間の加熱保持により弱磁性化する素材を得ることができ、部分的な弱磁性化熱処理に伴う複合磁性部材の変形量を小さくすることができる。本発明は複合磁性部材を、例えばモータ回転子に適用するに当たって欠くことのできない技術となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の複合磁性部材用素材のX線回折図形である。
【図2】本発明の複合磁性部材用素材の走査型電子顕微鏡観察組織である。
【図3】比較例の複合磁性部材用素材の走査型電子顕微鏡観察組織である。
【図4】本発明の複合磁性部材用素材を1050℃で加熱保持後の光学顕微鏡観察組織である。
【図5】比較例の複合磁性部材用素材を1050℃で加熱保持後の光学顕微鏡観察組織である。
【図6】比較例の複合磁性部材用素材を1150℃で加熱保持後の光学顕微鏡観察組織である。
【図7】モータ回転子の模式図である。
【符号の説明】
1.スリット部、2.中空部、3.弱磁性部、4.強磁性体
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えばリラクタンモータや磁石モータの回転子に適用され得る、単一材料中に強磁性部と弱磁性部を具備する複合磁性部材の内、従来部材の素材より低温、短時間での加熱処理により弱磁性部を形成することのできる複合磁性部材用素材、並びに該素材を用いて成る複合磁性部材、並びに該部材の製造方法、並びに該部材を用いて成るモータに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、リラクタンスモータの回転子においては、強磁性体(一般には珪素鋼に代表される軟質磁性材料)の一部に非磁性部を設けて、磁束が通り難い方向を形成し、磁気抵抗効果を利用する構造が用いられている(例えば、非特許文献1参照)。
強磁性体の一部に非磁性部分を設ける方法としては、強磁性鋼鈑の一部をプレスで打ち抜き、プレスで出来た空隙を非磁性部とする手法が行われてきた。
上述の手法に対し、本発明者は単一材を使用して、この単一材に部分的な熱処理を施すことによって強磁性部と弱磁性部(あるいは非磁性部)を設けた複合磁性部材を提案している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、本発明者らは、複合磁性部材において弱磁性部を製造するための部分的な熱処理方法として、加熱体を弱磁性化したい箇所に押し当てる方式を提案している(例えば、特許文献2参照)。
このような単一材から成る複合磁性部材を利用すると、機械的強度、振動等による破損防止という点で、強磁性体の一部をプレスで打ち抜いた部品よりも優れたものとなる。また、複合磁性部材とプレス打抜き加工を併用する場合にも、プレス打抜きにより形成される空間の部分を極力減らすことができるので、優れた機械的強度を有する部品とすることができる。
【0004】
【非特許文献1】
梨木政行、佐竹明喜、川井庸市、横地孝典、大熊 繁 著:「スリット回転子を用いたフラックスバリア型リラクタンスモ−タの磁界解析と試作実験」電気学会論文誌D 116巻6号(1996年) p.694−701
【特許文献1】
特開2000−104142号公報
【特許文献2】
特開2002−8916号公報
【0005】
例えば本発明者は、特許文献1において、質量%でAlを0.1〜5.0%含有するFe−Cr−C系合金鋼から成り、粒径0.1μm以上の炭化物個数が100μm2の面積中に50個以下、かつ該炭化物個数に対する粒径1.0μm以上の炭化物個数が15%以上に調整された(フェライト+炭化物)組織で成る比最大透磁率400以上の強磁性部と、比透磁率2以下の弱磁性部で成る複合磁性部材を提案している。
併せて本発明者は、この特許文献1において、複合磁性部材の好ましい組成範囲として、質量%でC:0.30〜0.80%、Cr:12.0〜25.0%、Al:0.1〜5.0%、Ni:0.1〜4.0%、N:0.01〜0.10%、Si、Mnの1種または2種を合計で2.0%以下、残部が実質的にFeの組成で成ることを提案している。
【0006】
この特許文献1で提案した複合磁性部材は、鉄鋼材料の相変態を利用して単一材料で(フェライト+炭化物)組織主体の強磁性特性とオーステナイト組織主体の弱磁性特性を実現できるFe−Cr−C系合金に着目したものである。この提案は、Fe−Cr−C系合金における炭化物の析出状態と固溶状態での磁気特性の差を利用して、単一材料で強磁性と弱磁性という相反する磁気特性を両立させることを基本概念としている。
また、この特許文献1では、強磁性部において優れた軟磁気特性を得るためには、炭化物の個数、大きさを規定し、粗大な炭化物が数少なく析出している組織形態が良いことを提案しており、更に、この組織制御のためにAl添加が有効であることを示している。この技術は、複合磁性部材の強磁性部の軟磁気特性を組織制御によって改善した点で優れている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者が特許文献1で提案した複合磁性部材において、強磁性と弱磁性の磁気特性の両立は、組織中の炭化物の析出状態と固溶状態での磁気特性の差を利用することにより生じている。また、上述の特許文献1に記載した複合磁性部材では、好ましいCr量の範囲は12.0〜25.0%としている。
これは複合磁性部材の耐食性を確保することと、弱磁性のオーステナイト組織が強磁性のマルテンサイト組織に変態し始める温度(Ms点)、及びマルテンサイト変態が完了する温度(Mf点)を下げ、弱磁性のオーステナイト組織を安定とするために、12.0〜25.0%の高Cr組成を好ましいとしたものである。
【0008】
但し、Fe−Cr−C系合金においてCr量が高くなると、オーステナイト単相域が縮小されるとともに、炭化物が固溶する温度が上昇するので、オーステナイト単相となる温度が上昇し、ひいては弱磁性部を形成するための部分的な熱処理に必要な加熱温度が1150℃以上の高温になるという問題がある。
また、上述した様に、粗大な炭化物が析出していることは、強磁性部の軟磁気特性を改善するという点では有利であるものの、弱磁性部を形成するための部分的な熱処理の際に、炭化物が固溶し難くなり、部分加熱の際に長い保持時間が必要になるという問題がある。
【0009】
このように、弱磁性部を形成するために1150℃以上の高温で、かつ長い保持時間を必要とする部分的な加熱処理を行うと、熱応力により複合磁性部材が変形し易くなるという問題がある。この問題を解決するためには、部分的な熱処理方法の改善だけでは難しく、より低い温度、かつ短時間保持の熱処理で弱磁性化する複合磁性部材用素材を開発する必要がある。
本発明の目的は、単一組成で強磁性部と弱磁性部を具備する複合磁性部材用素材の内、従来部材の素材よりも低温、短時間の加熱処理により弱磁性化する複合磁性部材用素材、並びに該素材を用いて成る複合磁性部材、並びに該部材の製造方法、更には該部材を用いて成るモータを提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上述した特許文献1と同様に、炭化物の析出状態と固溶状態での磁気特性の差を利用して単一組成で強磁性と弱磁性の両方の磁気特性を得る複合磁性部材の素材において、より低温での加熱処理により弱磁性のオーステナイト組織を形成するためには、より低い加熱温度で炭化物が固溶する素材にする必要がある。
また、より短い保持時間での加熱処理により弱磁性のオーステナイト組織を形成するためには、炭化物の大きさを微細にして、短時間で炭化物が固溶する組織形態とする必要がある。ここで、Fe−Cr−C系合金においては、Cr量が低下すると、炭化物が固溶する温度が低下することから、本発明者は、従来部材の素材より低Crの組成を中心として、化学組成や熱処理条件(加熱温度、保持時間)と磁気特性、組織の関係を詳細に調査した結果、本発明に到達した。
【0011】
即ち本発明は、単一組成で強磁性部と弱磁性部を具備する複合磁性部材の素材であって、質量%でC:0.4〜1.2%、Si:0.1〜2.5%、Ni+Mn:0.1〜6.0%、Cr:2.0〜10.0%、残部が実質的にFeの組成を有し、(フェライト+炭化物)相で成り、該炭化物の最大粒径が2.0μm以下の組織を有し、1T(テスラ)の外部磁場下での自発磁化量Jが1.5T以上である複合磁性部材用素材である。
好ましくは、Ni+Mnが2.0%以上であることを特徴とする上記の複合磁性部材用素材である。
【0012】
また本発明は、質量%でC:0.4〜1.2%、Si:0.1〜2.5%、Ni+Mn:0.1〜6.0%、Cr:2.0〜10.0%、残部が実質的にFeの組成を有し、(フェライト+炭化物)相で成り、該炭化物の最大粒径が2.0μm以下の組織を有し、1T(テスラ)の外部磁場下での自発磁化量Jが1.5T以上の強磁性部と、残留オーステナイト主体の組織で成り、1Tの外部磁場下での自発磁化量Jが0.2T以下の弱磁性部を具備する複合磁性部材である。好ましくは、Ni+Mnが2.0%以上であることを特徴とする上記の複合磁性部材である。
また本発明は、上述の複合磁性部材用素材に対し、部分的に1000℃〜1150℃未満の温度範囲での加熱処理を行うことにより、1Tの外部磁場下での自発磁化量Jが1.5T以上の強磁性体中に、1Tの外部磁場下での自発磁化量Jが0.2T以下の弱磁性部を形成するの複合磁性部材の製造方法である。
また本発明は、上記の複合磁性部材を用いて成るモータである。
【0013】
【発明の実施の形態】
上述したように、本発明の重要な特徴は、単一組成で強磁性部と弱磁性部を具備する複合磁性部材の素材として、従来部材の素材より低温での加熱処理により弱磁性のオーステナイト組織を形成できる素材として、低Cr組成のFe−Cr−C系を基本組成とする合金に着目したことである。以下、本発明の規定理由を述べる。
【0014】
まず、複合磁性部材用素材の化学組成を規定した理由を述べる。
C:0.4〜1.2%
Cは、複合磁性部材用素材においては炭化物を形成する。また、弱磁性化された組織においては、上述の炭化物の固溶により、オーステナイトを形成する。即ち、Cは、弱磁性部を形成するために必要な本発明の必須元素である。但し、C量が0.4%以下の範囲では弱磁性部を形成する効果が小さく、逆に1.2%を超える範囲では、素材の加工性が悪くなるので、上述の範囲に規定した。Cのより望ましい範囲は、0.6〜0.9%である。
【0015】
Si:0.1〜2.5%
Siは脱酸元素としての作用がある元素である。但し、0.1%未満では脱酸効果が小さいので、下限を0.1%に規定した。また、SiはAlと同様に炭化物を粗大化させる効果があるので、含有量が多くなると、炭化物が大きくなり、炭化物の固溶、ひいては素材の弱磁性化に長い保持時間が必要となる。この現象は、特にSi量が2.50%を超える範囲で顕著になるので、Si量の上限は2.5%に規定した。Siのより望ましい範囲は、0.3〜2.0%である。
【0016】
Ni+Mn:0.1〜6.0%
NiやMnは、オーステナイト安定化元素として弱磁性部の形成に有効な元素である。また、本発明の複合磁性部材用素材では、Cr量の範囲を従来の素材よりも低く規定しているので、炭化物の固溶する温度を低下させることはできるものの、Ms点とMf点は上昇し、弱磁性の残留オーステナイトは不安定となる。この低Cr化による残留オーステナイトの不安定化を解決するためには、NiやMnの添加によるMs点とMf点の低下、ひいては残留オーステナイトの安定化が必要である。また、NiやMnは、炭化物の析出ノ−ズを長時間側に移動させる効果があるので、素材における炭化物の成長を遅らせ、素材の炭化物形態を微細にする効果も併せ持っている。
【0017】
本発明でNi+Mn量の範囲を0.1〜6.0%と規定した理由は、Ni+Mn量が0.1%未満の範囲では残留オ−ステナイトを安定化する効果が小さく、逆に6.0%を超える範囲では素材の硬さが上昇し加工性を劣化させるとともに、素材の自発磁化量、ひいては該素材を用いて成る複合磁性部材の強磁性部の自発磁化量を低下させるからである。なお、Ni,Mnの何れか一方の元素が無添加の場合でも、他方の元素が0.1〜6.0%の範囲であり、Ni+Mn量が上述の範囲内であれば、本発明に含まれる。
また、Ni+Mnが2.0%以上となると、残留オ−ステナイトを安定化する効果は、特に大きくなるので、Ni+Mnのより望ましい範囲は2.0%以上であり、更に望ましい範囲は2.0〜5.0%である。
【0018】
Cr:2.0〜10.0%
Crは、複合磁性部材用素材においてはCとともに炭化物を形成する。また、弱磁性化されたオーステナイト組織においては、上述の炭化物の固溶により、残留オーステナイト組織が形成される。即ち、Crは、Cと同様に、弱磁性部を形成するために必要な本発明の必須元素である。
但し、Cr量が2.0%未満の範囲ではMs点やMf点を低下させる効果が小さく、弱磁性部を形成するために必要な残留オーステナイトを得ることが難しくなるので、Cr量の下限は2.0%とした。
【0019】
逆に、Cr量が10.0%を超える範囲では、炭化物が固溶する温度が高くなり、ひいては弱磁性部を形成するための加熱温度が高くなる。また、Cr量が10.0%を超える範囲では、素材の自発磁化量が低下し、ひいては該素材を用いて成る複合磁性部材の強磁性部の自発磁化量が低下する。
以上の理由から、Cr量の上限は10.0%とした。Cr量のより望ましい範囲は、4.0〜8.0%である。
なお、本発明の複合磁性部材用素材においては、残部は実質的にFeであるが、不可避不純物としてのP、S、N、O等は当然含有される。これらの不可避不純物は、素材の磁気特性に特に影響を及ぼさない範囲として、各々0.1%以下の範囲で含有して良い。
【0020】
次に、本発明の複合磁性部材用素材の組織を規定した理由を述べる。
該素材の組織を(フェライト+炭化物)相で成ることとしたのは、本発明の素材における磁気特性(1Tの外部磁場下での自発磁化量Jが1.5T以上)を満足させるためである。また、該炭化物の大きさを最大粒径2.0μm以下であることとしたのは、炭化物を微細にすることで、弱磁性化の際の保持時間を短くするためであり、2.0μmを超える粒径の炭化物は特に固溶し難いためである。なお、この素材の組織は、該素材を複合磁性部材とした場合の強磁性部の組織に相当する。
【0021】
次に、本発明の複合磁性部材用素材、及び該素材を用いて成る複合磁性部材の強磁性部の磁気特性を規定した理由を述べる。
まず、複合磁性部材の強磁性部の磁気特性を、1T(テスラ)の外部磁場下での自発磁化量Jが1.5T以上であることとしたのは、この範囲の特性が、複合磁性部材を例えばモータ回転子として使用する際、強磁性部に必要な磁気特性であるからである。複合磁性部材を用いたモータ回転子では、回転子に高い磁場が印加されるので、強磁性部の飽和磁化量は、特に重要な特性となる。1T(テスラ)の外部磁場は、強磁性部を飽和させるのに十分な大きさの磁場であり、この磁場下において1.5T以上の自発磁化量があれば、モータ回転子として使用することができる特性である。
【0022】
また、複合磁性部材用素材は、該素材を用いて成る複合磁性部材の強磁性部に相当するので、複合磁性部材の強磁性部で1T(テスラ)の外部磁場下での自発磁化量Jが1.5T以上の特性を得るためには、素材の磁気特性も同じ範囲にしておく必要がある。
以上の理由から、複合磁性部材用素材、及び該素材を用いて成る複合磁性部材の強磁性部の磁気特性を1T(テスラ)の外部磁場下での自発磁化量Jが1.5T以上であることと規定した。
【0023】
次に、複合磁性部材の弱磁性部の組織と磁気特性を規定した理由を述べる。
弱磁性部の組織を残留オーステナイト主体の組織としたのは、この組織が飽和磁化量を低下させ、弱磁性部に必要な特性を得るために必要な組織であるからである。なお、本発明における残留オーステナイト主体の組織とは、弱磁性部をX線回折により分析した際、50%以上の残留オーステナイト量が検出される組織を指す。残留オーステナイト量が、この範囲内であれば、本発明における弱磁性部の磁気特性の範囲から外れることは無い。
また、弱磁性部の磁気特性を、1T(テスラ)の外部磁場下での自発磁化量Jが0.2T以下であることとしたのは、この範囲の特性が、複合磁性部材を例えばモータ回転子として使用する際、弱磁性部に必要な磁気特性であるからである。
【0024】
モータ回転子に使用する複合磁性部材の弱磁性部の役割は、磁束遮断による磁気抵抗効果の助長であることが多く、完全な非磁性でなくても良い場合が多い。具体的には、1T(テスラ)の外部磁場下での自発磁化量Jが0.2T以下であれば、強磁性部と比較して自発磁化量は十分に低下しており、弱磁性部としての役割を果たすことができるので、弱磁性部の磁気特性をこの範囲に規定した。より望ましくは、1T(テスラ)の外部磁場下での自発磁化量Jが0.1T以下であると良い。
【0025】
次に、複合磁性部材の製造方法として、部分的に1000℃〜1150℃未満の温度範囲での加熱処理を行うこととした理由を述べる。
まず、下限温度を1000℃としたのは、本発明の複合磁性部材用素材の組織中における炭化物を固溶させ、素材を弱磁性化するために1000℃以上の加熱が必要であるからである。また、加熱温度の上限を1150℃としたのは、弱磁性化熱処理時の部材の変形を抑制するためである。
本発明者が特許文献1に開示した複合磁性部材の素材では、弱磁性化のために1150℃以上の加熱が必要であり、弱磁性化熱処理時に部材が変形する問題がある。本発明の複合磁性部材用素材では、弱磁性化に必要な熱処理温度を低下でき、更に熱処理時の保持時間を短縮できるので、部分的な弱磁性化熱処理時における部材の変形の問題を解決することができる。
また、部分加熱の方法としては、高周波加熱、レーザ加熱、誘導加熱、抵抗加熱等の公知の方法や設備を用いても良いし、また本発明者らが特許文献2に開示するように、加熱体を弱磁性化したい箇所に押し当てる方式でも良い。
【0026】
以上説明するように、本発明の複合磁性部材は、従来部材よりも低温、短時間での加熱処理により弱磁性部を形成できるという特徴があるので、例えば、モータ回転子として使用する場合でも弱磁性部を形成し易く、しかも部分的な加熱処理による部材の変形も少ないという効果がある。そのため、本発明の複合磁性部材を用いて成るモータは、回転子を積層した際の占積率を高くすることができ、高効率特性を有するモータとなる。
【0027】
【実施例】
(実施例1)
本発明では、まず複合磁性部材用素材の化学組成、組織(炭化物の最大粒径)と磁気特性が重要である。更には、該素材を熱処理した際の熱処理温度、保持時間と磁気特性、組織(残留オーステナイト量)の関係が重要である。これらの関係を調査する為に、11種類の鋼塊を真空溶解により溶製した。溶製した鋼塊の化学組成(質量%)を表1に示す。
【0028】
【表1】
【0029】
表1の各素材の化学組成について説明する。
No.1〜8の組成は、本発明の規定範囲内であり、本発明の複合磁性部材用素材である。No.1〜5は、Si,Mn,Ni等の添加量をほぼ等しくし、Cr量とC量を変動させた組成である。また、No.6は、No.3の組成のNiを無添加としてC量を高めた組成であり、No.7〜8は、No.3の組成を基本として、(Ni+Mn)量を本発明の規定範囲内で高めた組成である。
一方、No.9〜11の組成は、本発明の規定範囲外であり、本発明の比較例である。No.9ではCr量が規定範囲より低く、No.10〜11ではCr量が規定範囲より高い。No.10では、(Ni+Mn)量も本発明の規定範囲を外れている。なお、No.11の組成は、本発明者が特許文献1に開示した複合磁性部材用素材の組成に相当する。
【0030】
これらの鋼塊に対し、ソーキング処理として1170℃の加熱炉中で10h保持し、炉冷した後、1000℃に加熱して熱間鍛造を行い、厚さ20mm、幅50mmの鋼塊を得た。これらの鋼塊に対し、大気炉中で780℃に4時間保持後、20℃/hの冷却速度で600℃まで徐冷し、以後、室温まで炉冷した。
この焼鈍材より、1mm×10mm×15mmの試験片を採取してエックス線回折測定を行い、すべての素材で(フェライト+炭化物)相となっていることを確認した。相同定結果を表2に示す。また、エックス線回折測定の一例として、素材No.3のエックス線回折図形を図1に示す。
【0031】
次に、上述の試験片を樹脂に埋め込み、研磨した後、組織観察を行った。組織観察の例として、素材No.3の走査型電子顕微鏡観察組織を図2に示す。
この組織は、図1に示したX線回折図形の相に対応しており、写真中、白い斑点状に見えるのが、M7C3型炭化物である。また、比較例の素材No.11の走査型電子顕微鏡観察組織を図3に示す。素材No.11で観察される炭化物は、表1よりM23C6型炭化物である。
次に、上述の組織写真より、各素材の組織の画像解析を行い、炭化物の円相当径を測定し、各素材における炭化物の最大粒径を測定した。測定結果を表2に示す。
素材No.1〜10では、炭化物の最大粒径は2.0μm以下となっているが、素材No.11の炭化物の最大粒径は2.0μmを超えていることが分かる。
【0032】
次に、上記の素材から、磁性測定用試験片として、1mm×4mm×6mmの試験片を採取した。これらの試験片に対し、振動試料型磁束計により、1(T)の外部磁場を印加し、自発磁化量J(T)を測定した。測定結果を表2に示す。いずれの素材においても、1(T)の外部磁場下での自発磁化量Jは、1.5(T)以上の特性となっていることが分かる。
【0033】
【表2】
【0034】
(実施例2)
次に、本発明では、上述の素材に対して熱処理を施した際の残留オーステナイト量と自発磁化量が重要である。上述の11種類の素材より、残留オーステナイト量測定試料として1mm×10mm×15mmの試験片を採取した。また、自発磁化量測定試料として1mm×4mm×6mmの試験片を採取した。
これらの試験片に対し、Ar雰囲気炉中で850〜1150℃の範囲に各4分間、保持後、水冷し、残留オーステナイト量γR(%)と自発磁化量J(T)を測定した。測定結果を表3に示す。
【0035】
【表3】
【0036】
表3から、本発明の複合磁性部材用素材(No.1〜8)では、1000℃〜1150℃未満の温度域で熱処理を行うことにより、残留オーステナイト量γRが50%以上、自発磁化量Jが0.2(T)以下の弱磁性特性が得られることが分かる。
素材No.1〜5の結果が示すように、素材のCr量が低くなると、残留オーステナイトが残り始める温度、すなわち自発磁化量が低下し始める熱処理温度は低くなることが分かる。但し、低Cr組成(素材No.1)では、合金元素の添加量が少なく、オーステナイトへの固溶強化の効果が小さいので、残留オーステナイトのマルテンサイト変態に対する機械的抵抗力が弱まるためか、高温側で熱処理した際の残留オーステナイト量が若干少なく、本発明で弱磁性の特性として規定したJ≦0.2(T)の特性には到達するものの、望ましい弱磁性の特性としたJ≦0.1(T)までは到達しない。
【0037】
また、高Cr組成(No.5)では、炭化物の固溶温度が上昇するので、J≦0.2(T)の特性とするためには、1100℃以上の加熱が必要である。
従って、本発明のより望ましいCr量の範囲は、素材No.2〜No.4の組成(4.0%〜8.0%)に存在することが分かる。また、No.6が示す様に、Niが無添加であっても、Ni+Mn量が本発明の規定範囲内であり、かつC量を高めれば、1000℃〜1150℃未満の温度域での熱処理によりJ≦0.2(T)まで弱磁性化することが分かる。更に、No.7とNo.8が示す様に、Ni+Mn量の増加は、素材を弱磁性化させるための熱処理温度の低下に有効である。
一方、比較例の素材について説明する。Cr量が2.0%未満の素材No.9では残留オーステナイト量が少ないために、素材に弱磁性化の熱処理を施しても本発明の規定範囲(J≦0.2T)まで自発磁化量が低下しない。また、Cr量が10.0%を超える素材No.10とNo.11では、J≦0.2Tの弱磁性特性を得るために1150℃以上の熱処理が必要である。
【0038】
次に、弱磁性化のための熱処理を施した試料の組織観察を行った。
組織観察例として、本発明の素材No.3を1050℃で熱処理した際の光学顕微鏡組織を図4に示す。また比較例の素材No.11を1050℃で熱処理した際の光学顕微鏡組織を図5に、素材No.11を1150℃で熱処理した際の光学顕微鏡組織を図6に示す。
図4より、本発明の素材No.3においては、1050℃の加熱により、ほぼ炭化物が固溶し、オーステナイト組織が観察されている。一方、比較例の素材No.11においては、図5から、1050℃の加熱では炭化物は固溶しておらず、図6に示す様に、1150℃の加熱により、ようやく炭化物の固溶が顕著になり、オーステナイト組織が観察される様になることが分かる。これらの組織観察結果は、表3に示した残留オーステナイト量や自発磁化量の測定結果と整合している。
【0039】
(実施例3)
次に、本発明では炭化物の大きさと、弱磁性化に必要な加熱保持時間との関係が重要である。本発明の素材No.3を1050℃で加熱保持した際の保持時間と1(T)の外部磁場下での自発磁化量Jの関係、及び比較例の素材No.11を1150℃で加熱保持した際の保持時間と1(T)の外部磁場下での自発磁化量Jの関係を表4に示す。
【0040】
【表4】
【0041】
表4より、炭化物の最大粒径が1.12μm(2.0μm以下)の本発明の素材No.3では、1050℃で9sの加熱保持により、自発磁化量Jは0.2(T)以下の範囲まで低下している。一方、炭化物の最大粒径が3.21μmと2.0μmを超えている比較例の素材No.11では、自発磁化量Jを0.2(T)以下に低下させるために1150℃で16sの加熱保持を必要としていることが分かる。このことから、炭化物の最大粒径を本発明の規定範囲とすることで、短時間の加熱保持により、素材を弱磁性化できることが分かる。
【0042】
以上の実施例より、複合磁性部材用素材の化学組成、組織形態を本発明の範囲内に調整することにより、素材において所定の磁気特性が得られるとともに、従来の素材よりも低温の1000℃〜1150℃未満の範囲で、かつ短時間保持の熱処理により、弱磁性化できる素材となることが分かる。
従って、本発明の複合磁性部材用素材を用いて複合磁性部材を製造する際には、部分的に1000℃〜1150℃未満の範囲に加熱保持して弱磁性部を形成すれば良い。本発明の素材では、従来部材の素材よりも低温、短時間の加熱により弱磁性化させることができるので、弱磁性部を形成した際の変形の問題も解決され易い。
【0043】
(実施例4)
次に、本発明では弱磁性化のための部分的な加熱を施した際の部材の変形量が重要である。本発明の複合磁性部材用素材である素材No.3と比較例の複合磁性部材用素材である素材No.11に対し、1000℃に加熱して熱間圧延後、冷間圧延と650℃での焼鈍を繰り返し、板厚0.35mmの焼鈍材を得た。これらの焼鈍材にプレス打抜きを施して図7に示す形状のモータ回転子用部品を作製した。図中(1)はスリット部であり、図中(2)は中空部である。
この部品に対し、図中(3)に示す斜線部(8箇所)を高周波加熱処理により弱磁性化し、強磁性体(4)中に弱磁性部(3)を具備する複合磁性部材とした。なお、高周波加熱時の加熱温度は、本発明の複合磁性部材用素材No.3において約1050℃、比較例の複合磁性部材用素材No.11において約1150℃となる様に設定した。
【0044】
次に、図7の如く作製した2つの複合磁性部材の平坦度を調べるため、3次元形状測定器を用いて、それぞれの部材の反り量を測定した。本発明の複合磁性部材(素材No.3)における反り量は11μmと小さいのに対し、比較例の複合磁性部材(素材No.11)の反り量は52μmであった。
このように、本発明の複合磁性部材の変形量は小さいので、図7の様な形状の部材を積層してモータ回転子とする際、高い占積率が得られ、高効率なモータ特性が得られ易くなり、変形量も少ないため特に積層して使用するようなモータとして好適である。
【0045】
【発明の効果】
本発明によると、単一の化学組成で強磁性部と弱磁性部を有する複合磁性部材用素材において、従来部材の素材より低温、短時間の加熱保持により弱磁性化する素材を得ることができ、部分的な弱磁性化熱処理に伴う複合磁性部材の変形量を小さくすることができる。本発明は複合磁性部材を、例えばモータ回転子に適用するに当たって欠くことのできない技術となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の複合磁性部材用素材のX線回折図形である。
【図2】本発明の複合磁性部材用素材の走査型電子顕微鏡観察組織である。
【図3】比較例の複合磁性部材用素材の走査型電子顕微鏡観察組織である。
【図4】本発明の複合磁性部材用素材を1050℃で加熱保持後の光学顕微鏡観察組織である。
【図5】比較例の複合磁性部材用素材を1050℃で加熱保持後の光学顕微鏡観察組織である。
【図6】比較例の複合磁性部材用素材を1150℃で加熱保持後の光学顕微鏡観察組織である。
【図7】モータ回転子の模式図である。
【符号の説明】
1.スリット部、2.中空部、3.弱磁性部、4.強磁性体
Claims (6)
- 単一組成で強磁性部と弱磁性部を具備する複合磁性部材の素材であって、質量%でC:0.4〜1.2%、Si:0.1〜2.5%、Ni+Mn:0.1〜6.0%、Cr:2.0〜10.0%、残部が実質的にFeの組成を有し、(フェライト+炭化物)相で成り、該炭化物の最大粒径が2.0μm以下の組織を有し、1T(テスラ)の外部磁場下での自発磁化量Jが1.5T以上であることを特徴とする複合磁性部材用素材。
- Ni+Mnが2.0%以上であることを特徴とする請求項1に記載の複合磁性部材用素材。
- 質量%でC:0.4〜1.2%、Si:0.1〜2.5%、Ni+Mn:0.1〜6.0%、Cr:2.0〜10.0%、残部が実質的にFeの組成を有し、(フェライト+炭化物)相で成り、該炭化物の最大粒径が2.0μm以下の組織を有し、1T(テスラ)の外部磁場下での自発磁化量Jが1.5T以上の強磁性部と、残留オーステナイト主体の組織で成り、1Tの外部磁場下での自発磁化量Jが0.2T以下の弱磁性部を具備することを特徴とする複合磁性部材。
- Ni+Mnが2.0%以上であることを特徴とする請求項3に記載の複合磁性部材。
- 請求項1または2に記載の複合磁性部材用素材に対し、部分的に1000〜1150℃未満の温度範囲での加熱処理を行うことにより、1Tの外部磁場下での自発磁化量Jが1.5T以上の強磁性体中に、1Tの外部磁場下での自発磁化量Jが0.2T以下の弱磁性部を形成することを特徴とする複合磁性部材の製造方法。
- 請求項3または4に記載の複合磁性部材を用いて成ることを特徴とするモータ。
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-
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