JP2013224482A - 複合磁性材素材の製造方法及び複合磁性材の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】 単一材料中に強磁性領域と弱磁性領域を併せ持つ複合磁性材として、弱磁性領域の金属組織の安定性を維持しつつ、強磁性領域の優れた軟磁気特性を有する複合磁性材体を形成するための複合磁性材素材の製造方法及び複合磁性材の製造方法を提供する。
【解決手段】 質量%でC0.40〜0.70%、N0.01〜0.05%、Al0.3〜2.5%、Si0.5〜3.0%、Mn0を超え2.5%以下、Cr12.0〜18.0%、Ni0.5〜2.5%、且つAl+Si1.8〜3.5%、Mn+Ni2.0〜4.5%を満足し、残部はFe及び不純物からなる組成を有する熱間圧延と軟化焼鈍を施した素材に冷間圧延を行って板厚0.2〜0.8mmの冷間圧延材とした後、700℃を超え1170℃以下の温度範囲での低鉄損化熱処理で最大動作磁束密度1T、動作周波数400Hzにおける鉄損W10/400を95W/kg以下とする複合磁性材素材の製造方法。
【選択図】 図3
【解決手段】 質量%でC0.40〜0.70%、N0.01〜0.05%、Al0.3〜2.5%、Si0.5〜3.0%、Mn0を超え2.5%以下、Cr12.0〜18.0%、Ni0.5〜2.5%、且つAl+Si1.8〜3.5%、Mn+Ni2.0〜4.5%を満足し、残部はFe及び不純物からなる組成を有する熱間圧延と軟化焼鈍を施した素材に冷間圧延を行って板厚0.2〜0.8mmの冷間圧延材とした後、700℃を超え1170℃以下の温度範囲での低鉄損化熱処理で最大動作磁束密度1T、動作周波数400Hzにおける鉄損W10/400を95W/kg以下とする複合磁性材素材の製造方法。
【選択図】 図3
Description
本発明は、磁気回路を利用する工業製品に適用される、単一材料中に強磁性領域と弱磁性領域を併せ持つ複合磁性材を得るための素材の製造方法及び複合磁性材の製造方法に関するものである。
従来、磁気回路を必要とする工業製品においては、磁気回路を形成するために、強磁性体の一部に弱磁性領域を設けた構造が用いられている。このような単一材料中に強磁性領域と弱磁性領域を併せ持つ金属材料は複合磁性材と呼ばれている。複合磁性材は、例えば、強磁性のマルテンサイト組織か、或いは、フェライト組織を有する複合磁性材素材に対して、特定の領域を部分的に加熱して弱磁性のオーステナイト組織に変化させることにより得ることができる。
複合磁性材に関してはこれまでに多くの提案がなされている。その中でも、弱磁性領域が安定な複合磁性材として、例えば、本願出願人の出願に係る特開平9−157802号公報(特許文献1)には、具体的組成として、質量%にて、C:0.35〜0.75%、Cr:10.0〜14.0%、Ni:0.5〜4.0%、N:0.01〜0.05%と脱酸剤としてSi、Mn、Alの1種または2種以上を合計で2.0%以下含むマルテンサイト系ステンレス鋼でなる複合磁性材の発明が開示されている。この提案によれば、フェライトと炭化物よりなる焼鈍状態のマルテンサイト系ステンレス鋼であって、最大透磁率200以上の強磁性特性が得られるFe−Cr−C系合金にNiを適量添加することにより、マルテンサイト系ステンレス鋼の一部を加熱後冷却することにより得られる透磁率2以下の弱磁性部のオーステナイトを安定化することができる。このオーステナイトのMs点(オーステナイトがマルテンサイト化し始める温度)は−30℃以下と低いため、寒冷地で使用してもマルテンサイト化しにくい安定な弱磁性領域を実現することができる。
複合磁性材に関してはこれまでに多くの提案がなされている。その中でも、弱磁性領域が安定な複合磁性材として、例えば、本願出願人の出願に係る特開平9−157802号公報(特許文献1)には、具体的組成として、質量%にて、C:0.35〜0.75%、Cr:10.0〜14.0%、Ni:0.5〜4.0%、N:0.01〜0.05%と脱酸剤としてSi、Mn、Alの1種または2種以上を合計で2.0%以下含むマルテンサイト系ステンレス鋼でなる複合磁性材の発明が開示されている。この提案によれば、フェライトと炭化物よりなる焼鈍状態のマルテンサイト系ステンレス鋼であって、最大透磁率200以上の強磁性特性が得られるFe−Cr−C系合金にNiを適量添加することにより、マルテンサイト系ステンレス鋼の一部を加熱後冷却することにより得られる透磁率2以下の弱磁性部のオーステナイトを安定化することができる。このオーステナイトのMs点(オーステナイトがマルテンサイト化し始める温度)は−30℃以下と低いため、寒冷地で使用してもマルテンサイト化しにくい安定な弱磁性領域を実現することができる。
また、前記の特許文献1に記される複合磁性材の強磁性領域の軟磁気特性を改善することを目的とした提案として、同じく本願出願人の出願に係る特開2001−26846号公報(特許文献2)に記載された提案がある。この提案は、複合磁性材素材にSiとAlを適量添加するものである。この提案における複合磁性材の具体的な組成として、重量%でC:0.30〜0.80%、N:0.01〜0.10%、Al:0.3〜3.5%、Si:0.1〜7.0%、Mn:0.1〜2.0%、Cr:10.0〜25.0%、Ni:0.1〜4.0%、残部がFeと不可避不純物とすることが開示され、最大透磁率400以上の強磁性領域と、透磁率2以下の弱磁性領域を併せ持った複合磁性材が得られている。
特許文献1の発明に係る複合磁性材は、Si、Al、Mnを脱酸剤として添加するものであり、優れた軟磁気特性を得るには不十分であった。
また、前記の特許文献1の改良合金である特許文献2の複合磁性材は、弱磁性部を形成するオーステナイト組織は比較的安定で、強磁性部を形成するフェライト組織は優れた軟磁気特性を有するものである。しかし、磁気回路における損失を低減するために、強磁性部の軟磁気特性のより一層の改善が求められており、特に、交流磁場下における鉄損の低下が求められている。しかしながら、低鉄損化のための最適条件は検討が不十分であった。
本発明の目的は、弱磁性領域の金属組織の安定性を維持しつつ、強磁性領域においては優れた軟磁気特性、すなわち低い鉄損を有する複合磁性材体を形成するための複合磁性材素材の製造方法及び複合磁性材の製造方法を提供することである。
また、前記の特許文献1の改良合金である特許文献2の複合磁性材は、弱磁性部を形成するオーステナイト組織は比較的安定で、強磁性部を形成するフェライト組織は優れた軟磁気特性を有するものである。しかし、磁気回路における損失を低減するために、強磁性部の軟磁気特性のより一層の改善が求められており、特に、交流磁場下における鉄損の低下が求められている。しかしながら、低鉄損化のための最適条件は検討が不十分であった。
本発明の目的は、弱磁性領域の金属組織の安定性を維持しつつ、強磁性領域においては優れた軟磁気特性、すなわち低い鉄損を有する複合磁性材体を形成するための複合磁性材素材の製造方法及び複合磁性材の製造方法を提供することである。
本願発明者等は、上述の特許文献2に記された組成をベースに検討した結果、Si、Al、Mn、Cr、Ni、Nの量を冷間圧延が可能な組成範囲で適正範囲に調整し、且つ、複合磁性材素材の板厚を所定の厚さ以下とし、更に、適正な低鉄損化熱処理を行うことで、弱磁性領域の金属組織の低温環境下での安定性を維持しつつ、強磁性領域の鉄損を低減できることを見出し、本発明に到達した。
即ち本発明は、質量%でC:0.30〜0.80%、N:0.01〜0.05%、Al:0.3〜2.5%、Si:0.2〜3.0%、Mn:0を超えて2.5%以下、Cr:12.0〜20.0%、Ni:0.5〜2.5%、且つ残部はFe及び不純物からなる組成を有し、強磁性領域と弱磁性領域とを有する複合磁性材を形成するための複合磁性材素材の製造方法において、
前記の組成の範囲に加えてさらにAl+Si:1.8〜3.5%、Mn+Ni:2.0〜4.5%を満足する組成を有する鋼塊を準備する工程と、
前記鋼塊に熱間圧延と軟化焼鈍を施して冷間圧延用素材とする工程と、
前記冷間圧延用素材に冷間圧延を行って板厚が0.2〜0.8mmの冷間圧延材とする工程と、
前記冷間圧延材に700℃を超え1170℃以下の温度範囲で低鉄損化熱処理を行う工程と、
を含む複合磁性材素材の製造方法の発明である。
好ましくは、前述の熱間圧延時の加熱温度範囲が700〜1050℃である複合磁性材素材の製造方法である。
更に好ましくは、熱間圧延後の板厚が3.0mm以下である複合磁性材素材の製造方法である。
更に好ましくは、前述の低鉄損化熱処理の温度範囲が750〜1000℃である複合磁性材素材の製造方法である。
更に好ましくは、前述の低鉄損化熱処理温度から300℃までの温度範囲を600℃/h以下の冷却速度で冷却する複合磁性材素材の製造方法である。
更に好ましくは、前述の低鉄損化熱処理の雰囲気が非酸化性雰囲気である複合磁性材素材の製造方法である。
低鉄損化熱処理後の複合磁性材素材は、最大動作磁束密度1T、動作周波数400Hzにおける鉄損W10/400が95W/kg以下であることを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の複合磁性材素材の製造方法。
また、本発明は、上述の複合磁性材素材の製造方法によって得られた複合磁性材素材に、1180〜1300℃の温度範囲で部分弱磁性化熱処理を行って、強磁性の複合磁性材素材の一部に弱磁性領域を形成する複合磁性材の製造方法である。
即ち本発明は、質量%でC:0.30〜0.80%、N:0.01〜0.05%、Al:0.3〜2.5%、Si:0.2〜3.0%、Mn:0を超えて2.5%以下、Cr:12.0〜20.0%、Ni:0.5〜2.5%、且つ残部はFe及び不純物からなる組成を有し、強磁性領域と弱磁性領域とを有する複合磁性材を形成するための複合磁性材素材の製造方法において、
前記の組成の範囲に加えてさらにAl+Si:1.8〜3.5%、Mn+Ni:2.0〜4.5%を満足する組成を有する鋼塊を準備する工程と、
前記鋼塊に熱間圧延と軟化焼鈍を施して冷間圧延用素材とする工程と、
前記冷間圧延用素材に冷間圧延を行って板厚が0.2〜0.8mmの冷間圧延材とする工程と、
前記冷間圧延材に700℃を超え1170℃以下の温度範囲で低鉄損化熱処理を行う工程と、
を含む複合磁性材素材の製造方法の発明である。
好ましくは、前述の熱間圧延時の加熱温度範囲が700〜1050℃である複合磁性材素材の製造方法である。
更に好ましくは、熱間圧延後の板厚が3.0mm以下である複合磁性材素材の製造方法である。
更に好ましくは、前述の低鉄損化熱処理の温度範囲が750〜1000℃である複合磁性材素材の製造方法である。
更に好ましくは、前述の低鉄損化熱処理温度から300℃までの温度範囲を600℃/h以下の冷却速度で冷却する複合磁性材素材の製造方法である。
更に好ましくは、前述の低鉄損化熱処理の雰囲気が非酸化性雰囲気である複合磁性材素材の製造方法である。
低鉄損化熱処理後の複合磁性材素材は、最大動作磁束密度1T、動作周波数400Hzにおける鉄損W10/400が95W/kg以下であることを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の複合磁性材素材の製造方法。
また、本発明は、上述の複合磁性材素材の製造方法によって得られた複合磁性材素材に、1180〜1300℃の温度範囲で部分弱磁性化熱処理を行って、強磁性の複合磁性材素材の一部に弱磁性領域を形成する複合磁性材の製造方法である。
本発明の複合磁性材素材の製造方法を適用すると、軟磁気特性に優れた低い鉄損の複合磁性材素材を得ることができる。更に、本発明の複合磁性材の製造方法を適用すると、強磁性領域では優れた軟磁気特性、すなわち低い鉄損が得られると共に、弱磁性領域では非磁性のオーステナイト組織を低温環境まで安定して維持する複合磁性材を得ることができる。
本発明者等の検討によれば、強磁性領域の高周波磁界における鉄損を改善するためには、特許文献2に開示された複合磁性材において積極的に添加されたSi量の増加が有効であるが、反面、Siを過剰に添加すると冷間圧延が困難となる。特に鉄損を低減させるために冷間圧延によって薄板にしようとすると、工業規模での生産が難しくなる課題があった。
そこで、工業規模での冷間圧延が可能なSi量の範囲で、低鉄損化する手法を検討した結果、冷間圧延後の低鉄損化熱処理の有効性を見出すとともに、低鉄損化熱処理の温度範囲、更には複合磁性材素材の組成と板厚の範囲を規定することにより、低鉄損化の効果が得られることを見出したものである。
以下に、本発明を詳しく説明する。なお、下記にて示す百分率で表された化学組成は、すべて質量%である。
そこで、工業規模での冷間圧延が可能なSi量の範囲で、低鉄損化する手法を検討した結果、冷間圧延後の低鉄損化熱処理の有効性を見出すとともに、低鉄損化熱処理の温度範囲、更には複合磁性材素材の組成と板厚の範囲を規定することにより、低鉄損化の効果が得られることを見出したものである。
以下に、本発明を詳しく説明する。なお、下記にて示す百分率で表された化学組成は、すべて質量%である。
C:0.30〜0.80%
Cは、オーステナイト形成元素として、弱磁性領域の形成に有効な本発明の複合磁性材素材の必須元素である。また、Cの添加は、複合磁性材としたときの強度確保にも有効である。Cが0.30%未満では、オーステナイト変態温度以上に加熱後冷却した際、安定した弱磁性のオーステナイト組織を得ることが困難である。一方、0.80%を超えると、強磁性領域の炭化物個数が多くなり過ぎて、強磁性状態での鉄損値が増大する。そのため本発明においては、Cの範囲を0.30〜0.80%に規定する。前述するCの効果をより確実に得るための好ましい下限は0.40%であり、より好ましくは0.45%である。また、Cの好ましい上限は0.70%であり、より好ましくは0.65%である。
Cは、オーステナイト形成元素として、弱磁性領域の形成に有効な本発明の複合磁性材素材の必須元素である。また、Cの添加は、複合磁性材としたときの強度確保にも有効である。Cが0.30%未満では、オーステナイト変態温度以上に加熱後冷却した際、安定した弱磁性のオーステナイト組織を得ることが困難である。一方、0.80%を超えると、強磁性領域の炭化物個数が多くなり過ぎて、強磁性状態での鉄損値が増大する。そのため本発明においては、Cの範囲を0.30〜0.80%に規定する。前述するCの効果をより確実に得るための好ましい下限は0.40%であり、より好ましくは0.45%である。また、Cの好ましい上限は0.70%であり、より好ましくは0.65%である。
N:0.01〜0.05%
Nは、オーステナイト形成元素として、弱磁性領域の形成に有効な本発明の複合磁性材素材の必須元素である。Nが0.01%未満では、安定した弱磁性領域を得ることが困難となる。一方、Nは、複合磁性材素材においてはAlと非金属介在物AlNを生成する。Nが0.05%を越えると、合金素材中のAlNの量が多くなり過ぎて冷間加工性が劣化する。そのため本発明においては、Nの範囲を0.01〜0.05%に規定する。前述するNの効果をより確実に得るための好ましい下限は0.015%であり、好ましい上限は0.045%である。
Nは、オーステナイト形成元素として、弱磁性領域の形成に有効な本発明の複合磁性材素材の必須元素である。Nが0.01%未満では、安定した弱磁性領域を得ることが困難となる。一方、Nは、複合磁性材素材においてはAlと非金属介在物AlNを生成する。Nが0.05%を越えると、合金素材中のAlNの量が多くなり過ぎて冷間加工性が劣化する。そのため本発明においては、Nの範囲を0.01〜0.05%に規定する。前述するNの効果をより確実に得るための好ましい下限は0.015%であり、好ましい上限は0.045%である。
Al:0.3〜2.5%
Alは、複合磁性材の強磁性領域において、軟磁気特性を改善し、電気抵抗を高めて高周波磁界における鉄損を改善するために添加される本発明の複合磁性材素材の必須元素である。Alが0.3%未満では、合金素材中の酸素固着効果による軟磁気特性の改善はあるものの、電気抵抗を高めて高周波磁界における鉄損の改善を成す効果が期待できない。一方、Alが2.5%を超えると、合金素材の母相が硬くなり過ぎて冷間加工性が劣化する他、溶解後の鋳造性も低下してゆく。そのため本発明においては、Alの範囲を0.3%〜2.5%に規定する。前述するAlの効果をより確実に得るための好ましい下限は0.8%であり、好ましい上限は2.2%である。
Alは、複合磁性材の強磁性領域において、軟磁気特性を改善し、電気抵抗を高めて高周波磁界における鉄損を改善するために添加される本発明の複合磁性材素材の必須元素である。Alが0.3%未満では、合金素材中の酸素固着効果による軟磁気特性の改善はあるものの、電気抵抗を高めて高周波磁界における鉄損の改善を成す効果が期待できない。一方、Alが2.5%を超えると、合金素材の母相が硬くなり過ぎて冷間加工性が劣化する他、溶解後の鋳造性も低下してゆく。そのため本発明においては、Alの範囲を0.3%〜2.5%に規定する。前述するAlの効果をより確実に得るための好ましい下限は0.8%であり、好ましい上限は2.2%である。
Si:0.2〜3.0%
Siは、複合磁性材の強磁性領域において、Alと同様に、軟磁気特性を改善するとともに、電気抵抗を高めて交流磁界における鉄損を改善するために添加される本発明の複合磁性材素材の必須元素である。Siが0.2%未満では、軟磁気特性の改善と、電気抵抗を高めて交流磁界における鉄損の改善を成す効果が小さい。一方、Siが3.0%を越えると、冷間圧延が難しくなるとともに、強磁性領域の組織となるフェライト組織が安定になり過ぎてオーステナイト単相領域が狭くなる。そのため、完全な弱磁性領域の形成を成すことが難しくなっていく。そのため本発明においては、Siの範囲を0.2〜3.0%に規定する。前述するSiの効果をより確実に得るための好ましい下限は0.5%であり、より好ましくは0.8%である。また、Siの好ましい上限は2.5%であり、より好ましくは2.2%である。
Siは、複合磁性材の強磁性領域において、Alと同様に、軟磁気特性を改善するとともに、電気抵抗を高めて交流磁界における鉄損を改善するために添加される本発明の複合磁性材素材の必須元素である。Siが0.2%未満では、軟磁気特性の改善と、電気抵抗を高めて交流磁界における鉄損の改善を成す効果が小さい。一方、Siが3.0%を越えると、冷間圧延が難しくなるとともに、強磁性領域の組織となるフェライト組織が安定になり過ぎてオーステナイト単相領域が狭くなる。そのため、完全な弱磁性領域の形成を成すことが難しくなっていく。そのため本発明においては、Siの範囲を0.2〜3.0%に規定する。前述するSiの効果をより確実に得るための好ましい下限は0.5%であり、より好ましくは0.8%である。また、Siの好ましい上限は2.5%であり、より好ましくは2.2%である。
Mn:0を超えて2.5%以下
Mnは、オーステナイト形成元素として、弱磁性領域の形成とともに、適量な添加を行うことにより、例えば、−40℃においてもオーステナイト組織を安定化させるのに有効な本発明の複合磁性材素材の必須元素である。また、Mnは、鉄損の向上を促すのに必要不可欠なSi量の増加によるオーステナイト変態温度の高温化を抑制することが可能であり、非磁性のオーステナイト組織を得易くする効果がある。加えて、弱磁性領域の形成後に、強磁性となるマルテンサイト組織の生成温度を引き下げることが可能であり、非磁性となるオーステナイト組織をさらに安定化させる効果がある。Mnが無添加であると、オーステナイト安定化の効果が期待できない。そのため、Mnについては0%を超えて必須で添加する。一方、Mnが2.5%を超えると、強磁性領域の軟磁気特性が劣化する。そのため本発明においては、Mnの範囲を0%を超えて2.5%以下に規定する。
また、上述したMnの効果をより確実に得ることができ、且つ、複合磁性材素材を使用する環境が極低温環境の場合では、0.6%以上のMnを添加するのが好ましい。それ故、Mnの好ましい範囲は0.6〜2.5%である。
Mnは、オーステナイト形成元素として、弱磁性領域の形成とともに、適量な添加を行うことにより、例えば、−40℃においてもオーステナイト組織を安定化させるのに有効な本発明の複合磁性材素材の必須元素である。また、Mnは、鉄損の向上を促すのに必要不可欠なSi量の増加によるオーステナイト変態温度の高温化を抑制することが可能であり、非磁性のオーステナイト組織を得易くする効果がある。加えて、弱磁性領域の形成後に、強磁性となるマルテンサイト組織の生成温度を引き下げることが可能であり、非磁性となるオーステナイト組織をさらに安定化させる効果がある。Mnが無添加であると、オーステナイト安定化の効果が期待できない。そのため、Mnについては0%を超えて必須で添加する。一方、Mnが2.5%を超えると、強磁性領域の軟磁気特性が劣化する。そのため本発明においては、Mnの範囲を0%を超えて2.5%以下に規定する。
また、上述したMnの効果をより確実に得ることができ、且つ、複合磁性材素材を使用する環境が極低温環境の場合では、0.6%以上のMnを添加するのが好ましい。それ故、Mnの好ましい範囲は0.6〜2.5%である。
Cr:12.0〜20.0%
Crは、複合磁性材の母相に固溶して、複合磁性材の耐食性を改善するとともに、強磁性領域において、一部が炭化物となり、複合磁性材の機械的強度を改善するために添加される本発明の複合磁性材素材の必須元素である。Crが12.0%未満では、耐食性が損なわれるとともに、極低温環境で弱磁性領域の組織が不安定になり易くなる。一方、Crが20.0%を越えると、強磁性領域の飽和磁束密度が低下する。そのため本発明においては、Crの範囲を12.0〜20.0%に規定する。前述するCrの効果をより確実に得るための好ましい下限は13.0%であり、より好ましくは14.5%である。また、Crの好ましい上限は19.0%であり、より好ましくは18.0%である。
Crは、複合磁性材の母相に固溶して、複合磁性材の耐食性を改善するとともに、強磁性領域において、一部が炭化物となり、複合磁性材の機械的強度を改善するために添加される本発明の複合磁性材素材の必須元素である。Crが12.0%未満では、耐食性が損なわれるとともに、極低温環境で弱磁性領域の組織が不安定になり易くなる。一方、Crが20.0%を越えると、強磁性領域の飽和磁束密度が低下する。そのため本発明においては、Crの範囲を12.0〜20.0%に規定する。前述するCrの効果をより確実に得るための好ましい下限は13.0%であり、より好ましくは14.5%である。また、Crの好ましい上限は19.0%であり、より好ましくは18.0%である。
Ni:0.5〜2.5%
Niは、オーステナイト形成元素として、弱磁性領域の形成に有効な本発明の複合磁性材素材の必須元素である。Niが0.5%未満では、弱磁性化熱処理時の冷却中に、オーステナイトからマルテンサイトへの変態開始温度(Ms点)が上昇するので、安定した弱磁性領域の形成が損なわれる。一方、Niが2.5%を越えると、Ms点は低く、オーステナイト組織は安定となる一方で、強磁性状態においては、恒温変態曲線における炭化物の析出ノーズが長時間側にシフトするため、炭化物の析出と成長が遅くなり、微細な炭化物となり易い。強磁性領域の(フェライト+炭化物)組織において、微細な炭化物が数多く存在する組織では、磁壁移動の妨げとなるため、軟磁気特性が劣化するとともに、硬さも高くなるので、冷間圧延し難くなる。そのため本発明の複合磁性材素材においては、Niの範囲を0.5〜2.5%に規定する。前述するNiの効果をより確実に得るための好ましい下限は0.7%であり、好ましい上限は2.2%である。
Niは、オーステナイト形成元素として、弱磁性領域の形成に有効な本発明の複合磁性材素材の必須元素である。Niが0.5%未満では、弱磁性化熱処理時の冷却中に、オーステナイトからマルテンサイトへの変態開始温度(Ms点)が上昇するので、安定した弱磁性領域の形成が損なわれる。一方、Niが2.5%を越えると、Ms点は低く、オーステナイト組織は安定となる一方で、強磁性状態においては、恒温変態曲線における炭化物の析出ノーズが長時間側にシフトするため、炭化物の析出と成長が遅くなり、微細な炭化物となり易い。強磁性領域の(フェライト+炭化物)組織において、微細な炭化物が数多く存在する組織では、磁壁移動の妨げとなるため、軟磁気特性が劣化するとともに、硬さも高くなるので、冷間圧延し難くなる。そのため本発明の複合磁性材素材においては、Niの範囲を0.5〜2.5%に規定する。前述するNiの効果をより確実に得るための好ましい下限は0.7%であり、好ましい上限は2.2%である。
Al+Si:1.8〜3.5%
AlとSiは、複合磁性材の強磁性領域において、軟磁気特性を改善するとともに、電気抵抗を高めて高周波磁界における鉄損を改善するために積極的に添加される本発明の複合磁性材素材の必須元素である。しかし、AlとSiが、それぞれAl:0.3〜2.0%、Si:0.2〜3.0%の範囲に個別に入っていたとしても、Al+Siが1.8%未満の範囲では、電気抵抗率を高める効果が小さく、鉄損改善の効果が小さい。逆に、Al+Siが3.5%を越えると冷間圧延が難しくなり、工業規模での量産性が低下していく。また、フェライト組織が安定となり過ぎるために、弱磁性化熱処理後にオーステナイト組織を得られ難くなる。そのため本発明においては、Al+Siの複合添加量を1.8〜3.5%に規定する。前述するAl+Siの効果をより確実に得るための好ましい下限は2.5%であり、好ましい上限は3.2%である。
AlとSiは、複合磁性材の強磁性領域において、軟磁気特性を改善するとともに、電気抵抗を高めて高周波磁界における鉄損を改善するために積極的に添加される本発明の複合磁性材素材の必須元素である。しかし、AlとSiが、それぞれAl:0.3〜2.0%、Si:0.2〜3.0%の範囲に個別に入っていたとしても、Al+Siが1.8%未満の範囲では、電気抵抗率を高める効果が小さく、鉄損改善の効果が小さい。逆に、Al+Siが3.5%を越えると冷間圧延が難しくなり、工業規模での量産性が低下していく。また、フェライト組織が安定となり過ぎるために、弱磁性化熱処理後にオーステナイト組織を得られ難くなる。そのため本発明においては、Al+Siの複合添加量を1.8〜3.5%に規定する。前述するAl+Siの効果をより確実に得るための好ましい下限は2.5%であり、好ましい上限は3.2%である。
Mn+Ni:2.0〜4.5%
MnとNiは、上述したように、ともにオーステナイト形成元素として弱磁性部を得るために必要な本発明の製造方法の必須元素であるが、本発明では更にMnとNiの合計量を規定する。その理由は、MnとNiが、それぞれMn:0を超えて2.5%以下、Ni:0.5〜2.5%の範囲に個別に入っていたとしても、Mn+Niが2.0%未満では弱磁性部を得る効果が小さく、逆に、Mn+Niが4.5%を超えると、強磁性部の軟磁性劣化とともに、冷間圧延が難しくなるからである。好ましいMn+Niの下限は2.5%であり、好ましい上限は3.2%である。
MnとNiは、上述したように、ともにオーステナイト形成元素として弱磁性部を得るために必要な本発明の製造方法の必須元素であるが、本発明では更にMnとNiの合計量を規定する。その理由は、MnとNiが、それぞれMn:0を超えて2.5%以下、Ni:0.5〜2.5%の範囲に個別に入っていたとしても、Mn+Niが2.0%未満では弱磁性部を得る効果が小さく、逆に、Mn+Niが4.5%を超えると、強磁性部の軟磁性劣化とともに、冷間圧延が難しくなるからである。好ましいMn+Niの下限は2.5%であり、好ましい上限は3.2%である。
残部はFe及び不純物
残部は実質的にFeであるが、製造上不可避的に混入する不純物(例えば、P、S、O等)は少なからず含有する。不純物含有量は少ない方が好ましいが、軟磁気特性を劣化させない以下の範囲であれば差し支えない。
P≦0.05%、S≦0.05%、O≦0.05%
残部は実質的にFeであるが、製造上不可避的に混入する不純物(例えば、P、S、O等)は少なからず含有する。不純物含有量は少ない方が好ましいが、軟磁気特性を劣化させない以下の範囲であれば差し支えない。
P≦0.05%、S≦0.05%、O≦0.05%
上述した組成に調整した上で、本発明の製造方法では、熱間圧延、軟化焼鈍及び冷間圧延を行って複合磁性材素材の板厚を0.2〜0.8mmとする。これは、複合磁性材素材の板厚が0.8mmを超えると交流磁界における渦電流が大きくなり、鉄損が増加して磁気回路部品として用いた際の効率が損なわれるためである。より好ましい上限は0.6mmである。一方、複合磁性材素材の厚みの下限を0.2mmとする理由は、板厚が0.2mm未満となると剛性が低くなるため、複合磁性材素材を部品形状に加工後に行う部分弱磁性化熱処理時に変形する懸念があるためである。より好ましい下限は0.3mmである。
本発明の複合磁性材素材の磁気特性は、最大動作磁束密度1T、動作周波数400Hzにおける鉄損W10/400が95W/kg以下とする。これは、前述の特性が、損失の少ない磁気回路部品の強磁性領域として好ましい特性であるからである。より好ましくは、W10/400が90W/kg以下であるとよい。
本発明の複合磁性材素材の磁気特性は、最大動作磁束密度1T、動作周波数400Hzにおける鉄損W10/400が95W/kg以下とする。これは、前述の特性が、損失の少ない磁気回路部品の強磁性領域として好ましい特性であるからである。より好ましくは、W10/400が90W/kg以下であるとよい。
本発明の複合磁性材素材の製造方法としては、上述した組成に調整したうえで、熱間圧延と、それに続く軟化焼鈍を施した冷間圧延用素材を用いて、冷間圧延により0.2〜0.8mmの板厚とする。必要に応じて、軟化焼鈍と冷間圧延を複数回、繰り返してもよい。その後、700℃を超えて1170℃以下の温度範囲で低鉄損化を目的とした熱処理(以下、低鉄損化熱処理と記す)を行う。
本発明において、上述の熱間圧延は通常の熱間圧延の条件で行って差し支えないが、熱間圧延時の加熱温度範囲を700〜1050℃とするのが好ましい。複合磁性材素材の組織は、熱間圧延時の加熱温度とともに変化する。加熱温度が低いと、炭化物は母相に溶け込まないので、比較的、粗大な炭化物が生成し、その結果、炭化物の個数は少なく、母相のフェライト相の結晶粒径が大きい組織となり、磁壁移動が容易になり、軟磁性の向上、ひいては低鉄損化に有効である。
熱間圧延時の加熱温度の下限を700℃とするのは、加熱温度が700℃未満であると低鉄損化には有効であるものの、延性が低下し、熱間圧延中の割れの懸念があるためである。より好ましい熱間圧延時の加熱温度の下限は750℃であり、更に好ましい下限は800℃である。
一方、熱間圧延時の加熱温度が高くなると、炭化物が母相に溶け込み始めるので、炭化物形態は微細となり、その結果、炭化物の個数が多く、その炭化物が母相のフェライト粒の結晶粒径を妨げるので、結晶粒の細かい組織となり、磁壁移動がし難くなり、軟磁性の劣化、ひいては鉄損を大きくする。
熱間圧延時の加熱温度の上限を1050℃とするのは、1050℃を超える範囲では炭化物の母相への溶け込みが始まるからである。より好ましい熱間圧延時の加熱温度の上限は1000℃であり、更に好ましい上限は950℃である。
本発明において、上述の熱間圧延は通常の熱間圧延の条件で行って差し支えないが、熱間圧延時の加熱温度範囲を700〜1050℃とするのが好ましい。複合磁性材素材の組織は、熱間圧延時の加熱温度とともに変化する。加熱温度が低いと、炭化物は母相に溶け込まないので、比較的、粗大な炭化物が生成し、その結果、炭化物の個数は少なく、母相のフェライト相の結晶粒径が大きい組織となり、磁壁移動が容易になり、軟磁性の向上、ひいては低鉄損化に有効である。
熱間圧延時の加熱温度の下限を700℃とするのは、加熱温度が700℃未満であると低鉄損化には有効であるものの、延性が低下し、熱間圧延中の割れの懸念があるためである。より好ましい熱間圧延時の加熱温度の下限は750℃であり、更に好ましい下限は800℃である。
一方、熱間圧延時の加熱温度が高くなると、炭化物が母相に溶け込み始めるので、炭化物形態は微細となり、その結果、炭化物の個数が多く、その炭化物が母相のフェライト粒の結晶粒径を妨げるので、結晶粒の細かい組織となり、磁壁移動がし難くなり、軟磁性の劣化、ひいては鉄損を大きくする。
熱間圧延時の加熱温度の上限を1050℃とするのは、1050℃を超える範囲では炭化物の母相への溶け込みが始まるからである。より好ましい熱間圧延時の加熱温度の上限は1000℃であり、更に好ましい上限は950℃である。
前述の熱間圧延後の板厚は3.0mm以下が好ましい。
上述したように、本発明の複合磁性材素材では、低鉄損の特性を得るために、AlとSiを積極的に添加している。しかしながら、AlとSiの量が多くなると、冷間加工時の延性が低下して冷間圧延が難しくなる。また、工業的な量産製造のためには、コイル状に巻かれた帯鋼を連続的に冷間圧延する必要があるが、そのためには、製造工程中に繰り返して行われる曲げ方向への加工に耐える必要がある。本発明者らは、曲げ加工によって破断するまでの繰り返し曲げ回数と板厚との関係を調査した。その結果、繰り返し曲げ回数を高めるためには、熱間圧延後の板厚を薄くすることが有効であることを知見した。特に、板厚が3.0mm以下とすると、繰り返し曲げ回数が増加し、冷間加工性を向上させることができる。そのため、熱間圧延後の板厚は3.0mm以下とすることが好ましい。更に好ましい熱間圧延後の板厚は、2.0mm以下である。なお、熱間圧延後の板厚の下限は、特殊な圧延機を用いてもせいぜい1.5mm程度の厚さまでしか圧延できないことから、1.5mmを下限とするのが現実的である。
上述したように、本発明の複合磁性材素材では、低鉄損の特性を得るために、AlとSiを積極的に添加している。しかしながら、AlとSiの量が多くなると、冷間加工時の延性が低下して冷間圧延が難しくなる。また、工業的な量産製造のためには、コイル状に巻かれた帯鋼を連続的に冷間圧延する必要があるが、そのためには、製造工程中に繰り返して行われる曲げ方向への加工に耐える必要がある。本発明者らは、曲げ加工によって破断するまでの繰り返し曲げ回数と板厚との関係を調査した。その結果、繰り返し曲げ回数を高めるためには、熱間圧延後の板厚を薄くすることが有効であることを知見した。特に、板厚が3.0mm以下とすると、繰り返し曲げ回数が増加し、冷間加工性を向上させることができる。そのため、熱間圧延後の板厚は3.0mm以下とすることが好ましい。更に好ましい熱間圧延後の板厚は、2.0mm以下である。なお、熱間圧延後の板厚の下限は、特殊な圧延機を用いてもせいぜい1.5mm程度の厚さまでしか圧延できないことから、1.5mmを下限とするのが現実的である。
次に、本発明では、前述の熱間圧延の後、軟化焼鈍を行って冷間圧延用素材とするに適当な、例えば300Hv以下のビッカース硬さに調整できればよい。軟化焼鈍は通常の軟化焼鈍の条件で行って差し支えない。
本発明の製造方法により得られる複合磁性材素材は、強磁性のフェライト組織に炭化物が分散した金属組織を有するが、低鉄損化熱処理温度をオーステナイトが生成しない温度範囲の高温で行う程、フェライト結晶粒と炭化物が大きくなることによって、磁壁移動が容易になり、軟磁性の向上、ひいては低鉄損化に有効である。
低鉄損化熱処理温度の下限を700℃を超える範囲とするのは、700℃以下の温度では、低鉄損化の効果が小さいためである。また、低鉄損化熱処理温度の上限を1170℃とするのは、1170℃を超える温度では、弱磁性のオーステナイトが生成して鉄損が大きくなるためである。好ましい低鉄損化熱処理の温度下限は750℃であり、好ましい上限は1000℃である。なお、低鉄損化熱処理温度の下限を750℃とすることで、更に低い鉄損を得易くなる。一方、低鉄損化熱処理温度が1000℃を超える高温になると、低鉄損化の効果は更に大きいものの、例えば、軟磁気特性が劣化するおそれがある。また、生産性を向上する目的で、板厚0.8mm以下の複合磁性材素材を複数枚、積層して低鉄損化熱処理しようとすると、複合磁性材素材同士が固着する場合がある。それ故、低鉄損を低下しつつ、生産性を向上できる好ましい低鉄損化熱処理の温度範囲を750〜1000℃とする。
本発明の製造方法により得られる複合磁性材素材は、強磁性のフェライト組織に炭化物が分散した金属組織を有するが、低鉄損化熱処理温度をオーステナイトが生成しない温度範囲の高温で行う程、フェライト結晶粒と炭化物が大きくなることによって、磁壁移動が容易になり、軟磁性の向上、ひいては低鉄損化に有効である。
低鉄損化熱処理温度の下限を700℃を超える範囲とするのは、700℃以下の温度では、低鉄損化の効果が小さいためである。また、低鉄損化熱処理温度の上限を1170℃とするのは、1170℃を超える温度では、弱磁性のオーステナイトが生成して鉄損が大きくなるためである。好ましい低鉄損化熱処理の温度下限は750℃であり、好ましい上限は1000℃である。なお、低鉄損化熱処理温度の下限を750℃とすることで、更に低い鉄損を得易くなる。一方、低鉄損化熱処理温度が1000℃を超える高温になると、低鉄損化の効果は更に大きいものの、例えば、軟磁気特性が劣化するおそれがある。また、生産性を向上する目的で、板厚0.8mm以下の複合磁性材素材を複数枚、積層して低鉄損化熱処理しようとすると、複合磁性材素材同士が固着する場合がある。それ故、低鉄損を低下しつつ、生産性を向上できる好ましい低鉄損化熱処理の温度範囲を750〜1000℃とする。
また、上述した低鉄損化熱処理温度から300℃までの冷却速度は600℃/h以下で行うことが好ましい。これは、冷却速度が速いと、複合磁性材素材に熱衝撃が加わることによって、複合磁性材素材に歪が発生し、鉄損と形状の両面が悪化する懸念があるからである。より好ましくは、低鉄損化熱処理温度から300℃までを300℃/h以下の冷却速度とするとよい。
また、本発明では、低鉄損化熱処理の雰囲気は、不活性のAr、N2、還元性のH2、(Ar+H2)の混合ガス、真空等の減圧雰囲気下等、非酸化性の雰囲気であれば好ましいが、この内、特に減圧下雰囲気で行うと、軟磁性すなわち鉄損に悪影響を及ぼす酸素の混入を防ぐことができるとともに、脱炭の問題もないので、本発明の低鉄損化熱処理の雰囲気として適している。
前述の低鉄損化熱処理は、冷間圧延により0.2〜0.8mmの板厚とした冷間圧延材に対し、プレス打抜き加工、レーザ切断加工、曲げ加工や旋削加工により所定の部品形状に加工した後、上記の低鉄損化熱処理を施してもよい。
また、本発明では、低鉄損化熱処理の雰囲気は、不活性のAr、N2、還元性のH2、(Ar+H2)の混合ガス、真空等の減圧雰囲気下等、非酸化性の雰囲気であれば好ましいが、この内、特に減圧下雰囲気で行うと、軟磁性すなわち鉄損に悪影響を及ぼす酸素の混入を防ぐことができるとともに、脱炭の問題もないので、本発明の低鉄損化熱処理の雰囲気として適している。
前述の低鉄損化熱処理は、冷間圧延により0.2〜0.8mmの板厚とした冷間圧延材に対し、プレス打抜き加工、レーザ切断加工、曲げ加工や旋削加工により所定の部品形状に加工した後、上記の低鉄損化熱処理を施してもよい。
上述したように、本発明の複合磁性材素材は、強磁性のフェライト組織に炭化物が分散した金属組織となる。複合磁性材素材の一部(所望の箇所)に部分弱磁性化熱処理を施すことで、その複合磁性材素材の一部の金属組織をオーステナイト組織とし、強磁性領域と弱磁性領域とを併せ持つ複合磁性材とすることができる。
前述の部分弱磁性化熱処理による弱磁性領域の形成は、複合磁性材素材の変形が少ない非溶融、すなわち、素材が溶融しない温度域内での加熱によるものが好ましく、より好ましくは1180〜1300℃の温度範囲が好ましい。これは、1180℃未満の温度では、オーステナイトへの炭化物の固溶が不十分なためにMs点が−40℃より高くなる懸念があり、一方、1300℃を超える範囲では、液相やδフェライト相が生成するからである。液相の出現により溶融すると、脱炭現象による炭素量が低下して、外部磁化800、,000A/mにおける磁化J(J値)を0.15T以下とすることができない懸念がある。また、強磁性のδフェライト相が生成しても、0.15T以下の低いJ値が得られなくなる懸念がある。それ故、弱磁性となるオーステナイト組織を得易くするためには、1180〜1300℃の温度範囲で部分弱磁性化熱処理を行うことが好ましい。
なお、部分弱磁性化熱処理による弱磁性領域の形成方法としては、例えば、モータ用途等のリング形状の場合、弱磁性化したい箇所の幅を狭くした複合磁性材素材を準備しておき、高周波コイルを用いて誘導加熱で、幅を狭くした箇所を優先的に自己発熱させる高周波加熱法、部分的に弱磁性化したい箇所に加熱した治具を直接押し付ける熱スタンプ法や、レーザで直接加熱するレーザビーム法等があるが、中でも高周波加熱法によって複合磁性材素材の一部に弱磁性領域を形成する方法が、比較的安価な設備で実現でき量産性にも優れるので、好ましい。
この弱磁性領域を形成することにより、上述した磁気特性を有する強磁性領域と、外部磁化800、000A/mにおけるJ値が0.15T以下の弱磁性領域とが形成されている複合磁性材とすることができる。
前述の部分弱磁性化熱処理による弱磁性領域の形成は、複合磁性材素材の変形が少ない非溶融、すなわち、素材が溶融しない温度域内での加熱によるものが好ましく、より好ましくは1180〜1300℃の温度範囲が好ましい。これは、1180℃未満の温度では、オーステナイトへの炭化物の固溶が不十分なためにMs点が−40℃より高くなる懸念があり、一方、1300℃を超える範囲では、液相やδフェライト相が生成するからである。液相の出現により溶融すると、脱炭現象による炭素量が低下して、外部磁化800、,000A/mにおける磁化J(J値)を0.15T以下とすることができない懸念がある。また、強磁性のδフェライト相が生成しても、0.15T以下の低いJ値が得られなくなる懸念がある。それ故、弱磁性となるオーステナイト組織を得易くするためには、1180〜1300℃の温度範囲で部分弱磁性化熱処理を行うことが好ましい。
なお、部分弱磁性化熱処理による弱磁性領域の形成方法としては、例えば、モータ用途等のリング形状の場合、弱磁性化したい箇所の幅を狭くした複合磁性材素材を準備しておき、高周波コイルを用いて誘導加熱で、幅を狭くした箇所を優先的に自己発熱させる高周波加熱法、部分的に弱磁性化したい箇所に加熱した治具を直接押し付ける熱スタンプ法や、レーザで直接加熱するレーザビーム法等があるが、中でも高周波加熱法によって複合磁性材素材の一部に弱磁性領域を形成する方法が、比較的安価な設備で実現でき量産性にも優れるので、好ましい。
この弱磁性領域を形成することにより、上述した磁気特性を有する強磁性領域と、外部磁化800、000A/mにおけるJ値が0.15T以下の弱磁性領域とが形成されている複合磁性材とすることができる。
以上、説明する本発明の製造方法により作製した複合磁性材素材を用いて、所望の形状に加工し、低鉄損化熱処理を施した後で、非溶融の部分弱磁性化熱処理により弱磁性領域を形成すると複合磁性材とすることができる。尚、部分弱磁性化熱処理を施した部分以外の部分については、部分弱磁性化熱処理を施す前の複合磁性材素材の磁気特性が、そのまま維持される。
本発明の複合磁性材は、強磁性領域では優れた軟磁気特性、すなわち低い鉄損特性を有すると共に、弱磁性領域では−40℃という極めて低温の温度であっても、弱磁性のオーステナイト組織を維持することができる。それ故、寒冷地域でも使用することのできる損失の少ない磁気回路部品として有効であり、例えば、寒冷地域における油量制御機器用の複合磁性材として用いることができる。
本発明の複合磁性材は、強磁性領域では優れた軟磁気特性、すなわち低い鉄損特性を有すると共に、弱磁性領域では−40℃という極めて低温の温度であっても、弱磁性のオーステナイト組織を維持することができる。それ故、寒冷地域でも使用することのできる損失の少ない磁気回路部品として有効であり、例えば、寒冷地域における油量制御機器用の複合磁性材として用いることができる。
(実施例1)
以下の実施例で本発明を更に詳しく説明する。
表1に示す組成になるように秤量した原料を真空溶解し、鋳型に鋳造して21種類の10kg鋼塊を作製した。表1のNo.1〜19合金は、本発明の製造方法で規定する各元素の範囲内で化学成分を変動させた鋼塊である。
なお、No.1〜12合金ではCr量を17.58〜17.83%と、ほぼ一定の量に固定して、Mn、Si、Nの量を変動させている。No.1〜6合金ではMn量を0.06〜1.16%の範囲で変動させており、No.3合金とNo.7〜11合金ではSi量を1.00〜1.94%の範囲で変動させている。また、No.3合金とNo.12合金ではN量を0.021%と0.043%に変えている。
また、No.13〜17合金では他元素をほぼ一定にしてCr量を変動させている。この内、No.13〜15合金ではNi量が1.96〜1.97%の水準とし、Cr量を16.12〜13.11%の範囲で変動させている。また、No.16合金とNo.17合金ではNi量を0.81〜0.82%に下げた水準とし、Cr量を16.06%と15.21%で変化させている。
更に、No.18合金はNo.17合金のN量を0.03%まで高めたものであり、No.19合金は、No.17合金のAl量とSi量を入れ替えたものである。
No.31合金とNo.32合金は比較例である。No.31合金はAl+Si量が本発明で規定する範囲外の鋼塊である。また、No.32合金はCr量が、本発明範囲から低く外れている。
以下の実施例で本発明を更に詳しく説明する。
表1に示す組成になるように秤量した原料を真空溶解し、鋳型に鋳造して21種類の10kg鋼塊を作製した。表1のNo.1〜19合金は、本発明の製造方法で規定する各元素の範囲内で化学成分を変動させた鋼塊である。
なお、No.1〜12合金ではCr量を17.58〜17.83%と、ほぼ一定の量に固定して、Mn、Si、Nの量を変動させている。No.1〜6合金ではMn量を0.06〜1.16%の範囲で変動させており、No.3合金とNo.7〜11合金ではSi量を1.00〜1.94%の範囲で変動させている。また、No.3合金とNo.12合金ではN量を0.021%と0.043%に変えている。
また、No.13〜17合金では他元素をほぼ一定にしてCr量を変動させている。この内、No.13〜15合金ではNi量が1.96〜1.97%の水準とし、Cr量を16.12〜13.11%の範囲で変動させている。また、No.16合金とNo.17合金ではNi量を0.81〜0.82%に下げた水準とし、Cr量を16.06%と15.21%で変化させている。
更に、No.18合金はNo.17合金のN量を0.03%まで高めたものであり、No.19合金は、No.17合金のAl量とSi量を入れ替えたものである。
No.31合金とNo.32合金は比較例である。No.31合金はAl+Si量が本発明で規定する範囲外の鋼塊である。また、No.32合金はCr量が、本発明範囲から低く外れている。
得られた鋼塊を1000℃に加熱して鍛造した後、1000℃に加熱して熱間圧延を行い、板厚2.5mmの熱間圧延材を作製した。次いで、酸洗いと表面バフ研磨を行い、表面の酸化スケールを除去した後、不活性ガス(Ar)雰囲気下で加熱温度870℃と700℃の二段階に分けて、軟化焼鈍を行なって冷間圧延に供する冷間圧延材素材とした。
この熱間圧延と軟化焼鈍を施した冷間圧延材素材を冷間圧延し、厚さ0.6mmの冷間圧延材を得た。
前述の冷間圧延材から、外径45mm、内径33mmのJISリング試料を切り出し、750℃に保持した真空炉中(750℃に保持中の真空度は、3×10−1〜4×10−2Pa程度)で2h保持後、炉冷する低鉄損化熱処理を施して複合磁性材素材とした。なお、炉冷中の冷却速度は、低鉄損化温度である750℃から300℃までの温度範囲を198℃/h(3.3℃/min)とした。
このリング試料とした複合磁性材素材に1次巻線150回、2次巻線50回の巻線を施した後、直流印加磁場5000A/mにおける磁束密度(B5000、単位:T)及び保磁力(Hc、単位:A/m)の直流磁気特性の測定と、最大動作磁束密度を1Tとして動作周波数400Hzにおける鉄損(W10/400、単位:W/kg)を測定した。
一方、これらの複合磁性材素材を弱磁性化した際の磁気特性を調べるため、板厚0.6mm、幅1.5mm、長さ5mmの試料を切り出し、非溶融温度である1200℃に保持した不活性のAr雰囲気下で10min保持後、空冷する弱磁性化熱処理を行なった。更に、この弱磁性化熱処理後の試料を−40℃の冷媒中に浸漬した。振動型磁力計を用いて、−40℃の冷媒に浸漬する前後の外部磁界800、000A/mにおける磁化(J値、単位:T)を、振動型磁力計を用いて測定した。
表2に、測定した直流磁気特性、鉄損、低温(−40℃)浸漬前後の磁化を示す。
この熱間圧延と軟化焼鈍を施した冷間圧延材素材を冷間圧延し、厚さ0.6mmの冷間圧延材を得た。
前述の冷間圧延材から、外径45mm、内径33mmのJISリング試料を切り出し、750℃に保持した真空炉中(750℃に保持中の真空度は、3×10−1〜4×10−2Pa程度)で2h保持後、炉冷する低鉄損化熱処理を施して複合磁性材素材とした。なお、炉冷中の冷却速度は、低鉄損化温度である750℃から300℃までの温度範囲を198℃/h(3.3℃/min)とした。
このリング試料とした複合磁性材素材に1次巻線150回、2次巻線50回の巻線を施した後、直流印加磁場5000A/mにおける磁束密度(B5000、単位:T)及び保磁力(Hc、単位:A/m)の直流磁気特性の測定と、最大動作磁束密度を1Tとして動作周波数400Hzにおける鉄損(W10/400、単位:W/kg)を測定した。
一方、これらの複合磁性材素材を弱磁性化した際の磁気特性を調べるため、板厚0.6mm、幅1.5mm、長さ5mmの試料を切り出し、非溶融温度である1200℃に保持した不活性のAr雰囲気下で10min保持後、空冷する弱磁性化熱処理を行なった。更に、この弱磁性化熱処理後の試料を−40℃の冷媒中に浸漬した。振動型磁力計を用いて、−40℃の冷媒に浸漬する前後の外部磁界800、000A/mにおける磁化(J値、単位:T)を、振動型磁力計を用いて測定した。
表2に、測定した直流磁気特性、鉄損、低温(−40℃)浸漬前後の磁化を示す。
表2から、本発明のNo.1〜19合金では、強磁性状態での保磁力が307〜450A/mと軟磁気特性に優れており、鉄損特性も69〜94W/kgと、95W/kg以下の低い鉄損値が得られている。これは、Si量、Al量及びAl+Si量を適切に配合することにより、フェライト組織が安定化し、かつ電気抵抗率が高まった効果と考えられる。
また、本発明のNo.1〜19合金では、弱磁性化熱処理後(−40℃浸漬前)の磁化(J値)も0.01〜0.13Tと本発明の複合磁性材の弱磁性領域で規定する0.15T以下の低い値、すなわち優れた弱磁性が得られている。この内、No.3を弱磁性化熱処理後のJ値が0.02Tの金属組織は、図1に示す通り、弱磁性のオーステナイト単相の組織である。
また、表2から、本発明のNo.1〜19合金では、−40℃浸漬後のJ値も0.01〜0.11Tと低い値を維持している。この内、Mn+Ni量が4.01%と高いNo.13合金とNo.14合金では、弱磁性化熱処理後(−40℃浸漬前)のJ値は0.01Tと特に低い値を示している。これは、Mn+Ni量を、本発明の範囲内で増量することにより、弱磁性のオーステナイト組織が−40℃の低温環境下まで、より安定となった効果である。
また、本発明のNo.1〜19合金では、弱磁性化熱処理後(−40℃浸漬前)の磁化(J値)も0.01〜0.13Tと本発明の複合磁性材の弱磁性領域で規定する0.15T以下の低い値、すなわち優れた弱磁性が得られている。この内、No.3を弱磁性化熱処理後のJ値が0.02Tの金属組織は、図1に示す通り、弱磁性のオーステナイト単相の組織である。
また、表2から、本発明のNo.1〜19合金では、−40℃浸漬後のJ値も0.01〜0.11Tと低い値を維持している。この内、Mn+Ni量が4.01%と高いNo.13合金とNo.14合金では、弱磁性化熱処理後(−40℃浸漬前)のJ値は0.01Tと特に低い値を示している。これは、Mn+Ni量を、本発明の範囲内で増量することにより、弱磁性のオーステナイト組織が−40℃の低温環境下まで、より安定となった効果である。
一方、Al+Si量が本発明の範囲より低い比較例のNo.31合金(Al+Si:1.58%)では、強磁性状態での保磁力が566A/mと大きく、鉄損値も108W/kgと高い。これは、Al+Si量が少ないために、強磁性状態のフェライト組織を安定化する効果に乏しく、且つ電気抵抗を高める効果が小さかったためと考えられる。
また、Cr量が本発明の範囲より低い比較例のNo.32合金(Cr:11.25%)では83W/kgの低い鉄損値、及び弱磁性化後に0.03Tの低いJ値が得られているものの、弱磁性化後に−40℃に浸漬後のJ値が0.76Tと、0.15Tを超えた高い値となっている。この−40℃浸漬後のJ=0.76Tの状態の組織を図2に示すが、図1のオーステナイト単相組織とは異なり、強磁性のマルテンサイト組織が観察さている。これは、Cr量が低くなったことで、オーステナイトからマルテンサイトへの変態開始温度(Ms点)が上昇し、弱磁性のオーステナイト組織が不安定となったためである。
複合磁性材としての実用を考えると、このように弱磁性化後、−40℃の低温環境下に晒すことによって弱磁性領域のJ値が増加すると、複合磁性材が寒冷地域の油量制御機器に組み込まれた場合に、弱磁性領域の磁束密度と透磁率が高くなり、そこに磁束が漏洩することによって、油量制御機器の動作が不安定になる可能性が高まる。
以上の実施例1から、複合磁性材素材の化学組成を本発明の製造方法の範囲内とすることにより、本発明の製法で製造する複合磁性材素材の鉄損W10/400を95W/kg以下とできることが分かる。更には、本発明の製法で製造する複合磁性材素材に対し、高周波加熱等、非溶融の部分弱磁性化熱処理を施して複合磁性材とすれば、強磁性領域では鉄損W10/400が95W/kg以下の低い鉄損が得られるとともに、弱磁性領域においては部分弱磁性化熱処理後(−40℃浸漬前)、及び40℃浸漬後のJ値を0.15T以下とし、弱磁性を低温環境まで安定に維持することが可能であることが示唆される。
また、Cr量が本発明の範囲より低い比較例のNo.32合金(Cr:11.25%)では83W/kgの低い鉄損値、及び弱磁性化後に0.03Tの低いJ値が得られているものの、弱磁性化後に−40℃に浸漬後のJ値が0.76Tと、0.15Tを超えた高い値となっている。この−40℃浸漬後のJ=0.76Tの状態の組織を図2に示すが、図1のオーステナイト単相組織とは異なり、強磁性のマルテンサイト組織が観察さている。これは、Cr量が低くなったことで、オーステナイトからマルテンサイトへの変態開始温度(Ms点)が上昇し、弱磁性のオーステナイト組織が不安定となったためである。
複合磁性材としての実用を考えると、このように弱磁性化後、−40℃の低温環境下に晒すことによって弱磁性領域のJ値が増加すると、複合磁性材が寒冷地域の油量制御機器に組み込まれた場合に、弱磁性領域の磁束密度と透磁率が高くなり、そこに磁束が漏洩することによって、油量制御機器の動作が不安定になる可能性が高まる。
以上の実施例1から、複合磁性材素材の化学組成を本発明の製造方法の範囲内とすることにより、本発明の製法で製造する複合磁性材素材の鉄損W10/400を95W/kg以下とできることが分かる。更には、本発明の製法で製造する複合磁性材素材に対し、高周波加熱等、非溶融の部分弱磁性化熱処理を施して複合磁性材とすれば、強磁性領域では鉄損W10/400が95W/kg以下の低い鉄損が得られるとともに、弱磁性領域においては部分弱磁性化熱処理後(−40℃浸漬前)、及び40℃浸漬後のJ値を0.15T以下とし、弱磁性を低温環境まで安定に維持することが可能であることが示唆される。
(実施例2)
次に、複合磁性材素材の板厚が鉄損に及ぼす影響を調べるため、表1のNo.5合金、No.8〜11合金及びNo.18合金の軟化焼鈍後の冷間圧延用素材(板厚2.5mm)を0.20〜1.0mmの範囲で種々の板厚に冷間圧延した。
冷間圧延後の冷間圧延材より外径45mm、内径33mmのJISリング試料を切り出し、真空炉中(加熱保持中の真空度は、3×10−1〜4×10−2Pa程度)で750℃または800℃で2時間保持後、炉冷する低鉄損化熱処理を施して複合磁性材素材とした。なお、炉冷中の冷却速度は、低鉄損化温度を800℃としたNo.5合金は、800℃から300℃までの温度範囲を209℃/h(3.5℃/min)とし、低鉄損化温度を750℃としたNo.8〜11合金及びNo.18合金は、750℃から300℃までの温度範囲を198℃/h(3.3℃/min)とした。リング試料とした各複合磁性材素材(強磁性状態)の各板厚での磁気特性を表3に示す。
次に、複合磁性材素材の板厚が鉄損に及ぼす影響を調べるため、表1のNo.5合金、No.8〜11合金及びNo.18合金の軟化焼鈍後の冷間圧延用素材(板厚2.5mm)を0.20〜1.0mmの範囲で種々の板厚に冷間圧延した。
冷間圧延後の冷間圧延材より外径45mm、内径33mmのJISリング試料を切り出し、真空炉中(加熱保持中の真空度は、3×10−1〜4×10−2Pa程度)で750℃または800℃で2時間保持後、炉冷する低鉄損化熱処理を施して複合磁性材素材とした。なお、炉冷中の冷却速度は、低鉄損化温度を800℃としたNo.5合金は、800℃から300℃までの温度範囲を209℃/h(3.5℃/min)とし、低鉄損化温度を750℃としたNo.8〜11合金及びNo.18合金は、750℃から300℃までの温度範囲を198℃/h(3.3℃/min)とした。リング試料とした各複合磁性材素材(強磁性状態)の各板厚での磁気特性を表3に示す。
表3のNo.5合金の鉄損W10/400から、板厚が0.6mmから薄くなるにつれ、鉄損値は小さくなっており、板厚が0.25mmの時に最小の鉄損を示している。No.8合金においても板厚を0.8mmから0.25mmに低減することによって鉄損は低下しており、更にNo.9〜11合金においても板厚を0.6mmから0.25mmに低減することにより鉄損が低下している。また、No.18合金においても、板厚を0.6mmから0.35mmに低減することにより、鉄損が低下している。これは、薄板化により渦電流損失が低減する効果であり、板厚の低減は、低鉄損化に有効であることが分かる。
一方、No.8合金において、板厚が本発明の範囲を外れた1.0mmまで厚くなると、鉄損W10/400は101W/kgと本発明の範囲を外れている。このことから、複合磁性材素材の鉄損を制御するためには、板厚の範囲を規定することも重要である。
一方、No.8合金において、板厚が本発明の範囲を外れた1.0mmまで厚くなると、鉄損W10/400は101W/kgと本発明の範囲を外れている。このことから、複合磁性材素材の鉄損を制御するためには、板厚の範囲を規定することも重要である。
(実施例3)
次に、低鉄損化熱処理の温度が複合磁性材素材の磁気特性に及ぼす影響を調べるため、本発明で規定する元素の範囲内のNo.3合金の板厚0.6mm材、No.5合金の板厚0.6mm材と板厚0.25mm材、No.8合金の板厚0.25mm材、No.11合金の板厚0.25mm材、No.18合金の板厚0.6mm材、0.45mm材、0.35mm材、及び比較例のNo.31合金の板厚0.6mm材の冷間圧延材から外径45mm、内径33mmのJISリング試料を切り出し、真空炉中(加熱保持中の真空度は、3×10−1〜4×10−2Pa程度)で710〜1175℃の温度で2時間保持後、炉冷する低鉄損化熱処理を施した。
この内、例えば、低鉄損化熱処理を750℃、800℃、850℃、900℃で行った場合、各温度から300℃までの温度範囲における冷却速度は、それぞれ198℃/h(750℃→300℃)、209℃/h(800℃→300℃)、219℃/h(850℃→300℃)、228℃/h(900℃→300℃)であった。低鉄損化熱処理後の各複合磁性材素材(強磁性状態)の磁気特性を表4及び表5に示す。また、この内、No.3合金の板厚0.6mm材、No.5合金の板厚0.6mm材と板厚0.25mm材、No.11合金の板厚0.25mm材、No.31合金の板厚0.6mm材の磁気特性の低鉄損化熱処理温度依存性を図3に示す。
次に、低鉄損化熱処理の温度が複合磁性材素材の磁気特性に及ぼす影響を調べるため、本発明で規定する元素の範囲内のNo.3合金の板厚0.6mm材、No.5合金の板厚0.6mm材と板厚0.25mm材、No.8合金の板厚0.25mm材、No.11合金の板厚0.25mm材、No.18合金の板厚0.6mm材、0.45mm材、0.35mm材、及び比較例のNo.31合金の板厚0.6mm材の冷間圧延材から外径45mm、内径33mmのJISリング試料を切り出し、真空炉中(加熱保持中の真空度は、3×10−1〜4×10−2Pa程度)で710〜1175℃の温度で2時間保持後、炉冷する低鉄損化熱処理を施した。
この内、例えば、低鉄損化熱処理を750℃、800℃、850℃、900℃で行った場合、各温度から300℃までの温度範囲における冷却速度は、それぞれ198℃/h(750℃→300℃)、209℃/h(800℃→300℃)、219℃/h(850℃→300℃)、228℃/h(900℃→300℃)であった。低鉄損化熱処理後の各複合磁性材素材(強磁性状態)の磁気特性を表4及び表5に示す。また、この内、No.3合金の板厚0.6mm材、No.5合金の板厚0.6mm材と板厚0.25mm材、No.11合金の板厚0.25mm材、No.31合金の板厚0.6mm材の磁気特性の低鉄損化熱処理温度依存性を図3に示す。
表4、表5及び図3から、本発明の化学組成の範囲で低鉄損化熱処理の温度を700℃を超えて1150℃以下とした場合、何れも鉄損W10/400が95W/kg以下の低鉄損が得られており、低鉄損化熱処理温度の高温化とともに鉄損が低下している。
一方、No.5合金の板厚0.25mm材で低鉄損化熱処理温度を1175℃とした場合には、W10/400が306W/kgと大きい。また、比較例のNo.31の板厚0.6mm材では、低鉄損熱処理の温度を変動させても、95W/kg以下の鉄損は得られていない。
また、本発明の複合磁性素材の金属組織の例として、No.5合金の板厚0.25mm厚材を750℃で低鉄損化熱処理後(W10/400=65W/kg)の金属組織を図4に、1000℃で低鉄損化熱処理後(W10/400=60W/kg)の金属組織を図5に示す。何れもフェライトの結晶組織に炭化物が分散した組織形態となっているが、これらの画像解析結果から、750℃で低鉄損化熱処理後のフェライトの平均結晶粒径は3.7μm、炭化物の平均粒径は1.1μmである。一方、1000℃で低鉄損化熱処理後のフェライトの平均結晶粒径は6.2μm、炭化物の平均粒径は1.8μmであり、ともに750℃の場合と比較して大きな値となっている。このようにフェライトの結晶粒と炭化物が大きくなると、磁壁移動が容易になるため、低鉄損化できる。
一方、No.5合金の板厚0.25mm材で低鉄損化熱処理温度を1175℃とした場合には、W10/400が306W/kgと大きい。また、比較例のNo.31の板厚0.6mm材では、低鉄損熱処理の温度を変動させても、95W/kg以下の鉄損は得られていない。
また、本発明の複合磁性素材の金属組織の例として、No.5合金の板厚0.25mm厚材を750℃で低鉄損化熱処理後(W10/400=65W/kg)の金属組織を図4に、1000℃で低鉄損化熱処理後(W10/400=60W/kg)の金属組織を図5に示す。何れもフェライトの結晶組織に炭化物が分散した組織形態となっているが、これらの画像解析結果から、750℃で低鉄損化熱処理後のフェライトの平均結晶粒径は3.7μm、炭化物の平均粒径は1.1μmである。一方、1000℃で低鉄損化熱処理後のフェライトの平均結晶粒径は6.2μm、炭化物の平均粒径は1.8μmであり、ともに750℃の場合と比較して大きな値となっている。このようにフェライトの結晶粒と炭化物が大きくなると、磁壁移動が容易になるため、低鉄損化できる。
以上の実施例3から、本発明の複合磁性材素材を0.8mm以下に冷間圧延後、本発明の温度範囲内で低鉄損化熱処理を行うことにより、95W/kg以下の低い鉄損が得られることが分かる。また、オーステナイトが生成しない範囲で低鉄損化熱処理温度を高めることにより、フェライトの結晶粒径と炭化物粒径を大きくして、低鉄損化を図れることが分かる。
(実施例4)
次に、工業的な量産製造の試作として、表6のNo.20に示す化学組成の3トンの鋼塊を真空溶解により溶製した。鋼塊表面を旋削した後、この鋼塊を1000℃に加熱して分塊圧延を行い、厚さ55mm、幅350mm程度のスラブを得た。
次に、工業的な量産製造の試作として、表6のNo.20に示す化学組成の3トンの鋼塊を真空溶解により溶製した。鋼塊表面を旋削した後、この鋼塊を1000℃に加熱して分塊圧延を行い、厚さ55mm、幅350mm程度のスラブを得た。
前述のスラブより、引張試験片を切り出し、大気中において温度600〜1100℃、引張速度720mm/sの条件で引張試験を行った。各温度で引張試験時の引張強さ、伸び、絞りの値を一覧にして表7に示す。表7から、本発明の好ましい範囲とする700〜1050℃の範囲においては、45%以上の伸びと60%以上の絞りが得られており、優れた熱間加工性が得られることが分かる。
前述のスラブの残部を3分割し、その内の一つのスラブを925℃、一つのスラブを1000℃に加熱して熱間圧延を行い、ともに板厚3.3mmの熱間圧延材を得た。
次に、熱間圧延材の板厚が、繰り返して行われる曲げ方向への加工性に及ぼす影響を調べるため、前述の925℃に加熱して熱間圧延した3.3mm厚の熱間圧延材から、幅8mm、長さ80mmの短冊状試験片を切り出した。その後、短冊状試験片に平面研磨を施し、厚さの異なる短冊状試験片をそれぞれの厚さごとに2枚準備した。なお、準備した短冊状試験片の厚みは、1.5mm、2.0mm、2.5mmと平面研磨前の3.3mmである。
これらの短冊状試験片を用い、室温で繰り返し曲げ試験を行った。繰り返し曲げ試験方法の模式図を図8に示す。短冊状試験片1を固定治具2で挟み込み、短冊状試験片1を矢印で示す方向に90°曲げを行い、90°曲げの1往復を1回とし、逆方向の90°曲げ往復で2回と数えた。以降は、これを繰り返し、破断までの回数を数えた。表8は各板厚における繰り返し曲げ回数の結果を示す。
次に、熱間圧延材の板厚が、繰り返して行われる曲げ方向への加工性に及ぼす影響を調べるため、前述の925℃に加熱して熱間圧延した3.3mm厚の熱間圧延材から、幅8mm、長さ80mmの短冊状試験片を切り出した。その後、短冊状試験片に平面研磨を施し、厚さの異なる短冊状試験片をそれぞれの厚さごとに2枚準備した。なお、準備した短冊状試験片の厚みは、1.5mm、2.0mm、2.5mmと平面研磨前の3.3mmである。
これらの短冊状試験片を用い、室温で繰り返し曲げ試験を行った。繰り返し曲げ試験方法の模式図を図8に示す。短冊状試験片1を固定治具2で挟み込み、短冊状試験片1を矢印で示す方向に90°曲げを行い、90°曲げの1往復を1回とし、逆方向の90°曲げ往復で2回と数えた。以降は、これを繰り返し、破断までの回数を数えた。表8は各板厚における繰り返し曲げ回数の結果を示す。
表8に示すように、短冊状試料の板厚が、本発明で好ましい範囲とする3.0mm以下の範囲で薄くなるにしたがって、室温での繰り返し曲げ回数が増加することが分かる。このことから、熱間圧延後の板厚は、3.0mm以下が好ましいことが分かる。更に好ましい範囲とした2.0mm以下とすることにより、更なる室温での繰り返し曲げ性の向上が見られ、冷間圧延用素材の厚さは薄い方が好ましいことが分かる。
特に、量産規模となると、冷間圧延工程での割れ等の不良が生じてしまえば著しく不経済となることから、冷間圧延用素材の厚さは薄い方が好ましい。
特に、量産規模となると、冷間圧延工程での割れ等の不良が生じてしまえば著しく不経済となることから、冷間圧延用素材の厚さは薄い方が好ましい。
上記の結果を受けて、3分割したスラブの残りの一つを加熱温度925℃にて熱間圧延を行って、厚さを2mmとした。これらの熱間圧延材を真空炉中780℃で軟化焼鈍後、酸洗とバフ研磨により表面の酸化スケールを除去後、冷間圧延して板厚0.6mmの冷間圧延材とした。冷間圧延時の割れ等といった不良は生じなかった。
この冷間圧延材より、外径45mm、内径33mmのJISリング試料を切り出し、真空炉中(加熱保持中の真空度は、3×10-1〜4×10−2Pa程度)で750〜900℃の各温度で2時間保持後、炉冷する低鉄損化熱処理を施した。低鉄損化熱処理後の各複合磁性材素材(強磁性状態)の磁気特性を表9に示す。
この冷間圧延材より、外径45mm、内径33mmのJISリング試料を切り出し、真空炉中(加熱保持中の真空度は、3×10-1〜4×10−2Pa程度)で750〜900℃の各温度で2時間保持後、炉冷する低鉄損化熱処理を施した。低鉄損化熱処理後の各複合磁性材素材(強磁性状態)の磁気特性を表9に示す。
表9の複合磁性材素材は、すべて本発明の製造方法の範囲内であるが、熱間圧延温度を925℃とした場合に、特に低い鉄損が得られている。これは、加熱温度925℃で熱間圧延後の金属組織には、図6に示すように粗大な炭化物が数少なく存在しているのに対し、図7に示す加熱温度1000℃で熱間圧延後の金属組織には、細かい炭化物が数多く存在しているためであり、両者の組織形態の差に起因している。このことから、熱間圧延温度を本発明で更に好ましい範囲とした800〜950℃の範囲とすることにより、粗大な炭化物が数少なく存在する組織となり、複合磁性材素材の更なる低鉄損化が図れることが分かる。
表9の内、熱間圧延温度を925℃、低鉄損化熱処理温度を800℃とした複合磁性材素材から、外径200mm、内径150mmのリング状(径方向の幅が25mm)の複合磁性材素材を切り出し、更に弱磁性領域とする箇所の幅を6.5mmと狭く加工した複合磁性材素材を準備した。次に高周波加熱法により1230℃で45秒間保持する部分弱磁性化熱処理を行って、幅を狭くした箇所を自己発熱させ弱磁性領域を形成した。この部分弱磁性化熱処理した弱磁性領域より、小片試料を切り出し、この小片試料を―40℃の冷媒中に浸漬した。振動型磁力計を用いて、―40℃の冷媒に浸漬する前後の外部磁化800、000A/mにおける磁化(J値、単位:T)を測定した。表10に測定結果を示す。冷媒浸漬の前後で、0.12Tの低いJ値が得られている。
以上の実施例から、複合磁性材素材の製造方法を本発明の範囲内とすることにより、単一材料中に強磁性領域と弱磁性領域を併せ持つ複合磁性材素材として、弱磁性領域の金属組織の安定性を維持しつつ、強磁性領域においては優れた軟磁気特性、すなわち低い鉄損を有する複合磁性材素材及び複合磁性材を得られることが分かる。
本発明の製造方法で製造する複合磁性材素材及び複合磁性材は、工業規模での冷間圧延が可能な組成範囲であるので、量産性に優れている。また、部分弱磁性化熱処理後の弱磁性領域の−40℃における組織安定性を維持し、かつ強磁性領域の軟磁気特性及び低鉄損特性に優れているため、寒冷地域で使用される損失の少ない磁気回路部品として最も適した複合磁性材料である。
1 短冊状試験片
2 固定治具
2 固定治具
Claims (8)
- 質量%でC:0.30〜0.80%、N:0.01〜0.05%、Al:0.3〜2.5%、Si:0.2〜3.0%、Mn:0を超えて2.5%以下、Cr:12.0〜20.0%、Ni:0.5〜2.5%、且つ残部はFe及び不純物からなる組成を有し、強磁性領域と弱磁性領域とを有する複合磁性材を形成するための複合磁性材素材の製造方法において、
前記の組成の範囲に加えてさらにAl+Si:1.8〜3.5%、Mn+Ni:2.0〜4.5%を満足する組成を有する鋼塊を準備する工程と、
前記鋼塊に熱間圧延と軟化焼鈍を施して冷間圧延用素材とする工程と、
前記冷間圧延用素材に冷間圧延を行って板厚が0.2〜0.8mmの冷間圧延材とする工程と、
前記冷間圧延材に700℃を超え1170℃以下の温度範囲で低鉄損化熱処理を行う工程と、
を含むこと特徴とする複合磁性材素材の製造方法。 - 前記熱間圧延における加熱温度範囲が700〜1050℃であることを特徴とする請求項1に記載の複合磁性材素材の製造方法。
- 前記熱間圧延後の板厚が3.0mm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の複合磁性材素材の製造方法。
- 前記低鉄損化熱処理の温度範囲が750〜1000℃であることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の複合磁性材素材の製造方法。
- 前記低鉄損化熱処理の熱処理温度から300℃までの温度範囲を600℃/h以下の冷却速度で冷却することを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の複合磁性材素材の製造方法。
- 前記低鉄損化熱処理の雰囲気が非酸化性雰囲気であることを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の複合磁性材素材の製造方法。
- 最大動作磁束密度1T、動作周波数400Hzにおける鉄損W10/400が95W/kg以下であることを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の複合磁性材素材の製造方法。
- 請求項1乃至7の何れかに記載の複合磁性材素材の製造方法によって得られた複合磁性材素材に、1180〜1300℃の温度範囲で部分弱磁性化熱処理を行って、強磁性の複合磁性材素材の一部に弱磁性領域を形成することを特徴とする複合磁性材の製造方法。
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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JP2017092255A (ja) * | 2015-11-10 | 2017-05-25 | Jfeスチール株式会社 | 軟磁性粉末用の原料粉末並びに圧粉磁芯用軟磁性粉末およびその製造方法 |
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