JP3887833B2 - 電磁鋼板 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、変圧器や電動機の鉄芯材料として有利に適合する電磁鋼板に関する。
【0002】
【従来の技術】
変圧器や電動機の鉄芯材料には、これら機器の高効率化や小型化をはかるために、磁束密度が高くかつ鉄損の低いことが要求される。この種の鉄芯材料に供する電磁鋼板としては、上記の要求を満足する、優れた特性を有するところから、専ら珪素鋼板が用いられてきた。すなわち、合金成分としてSiを7wt%以下で含有する電磁鋼板であり、さらにAlを含有させて特性向上をはかった例も広く知られている。
【0003】
さて、電磁鋼板は大別して無方向性と方向性とがあるが、成分組成面での主要な相違点は、方向性電磁鋼板では再結晶において(110) 001 方位に近い結晶粒のみを優先的に成長させて他の方位の結晶粒の成長を抑制するために、微量のインヒビター形成成分を添加するところにある。
【0004】
ところで、Siを含有させると鉄損が低減される反面、磁束密度は低下する。そして、磁束密度が低いと励磁電流が大きくなるため、鉄芯の巻線に起因した銅損が増加することになる。そこで、この銅損の増加を回避するために、透磁率を極力高くして一定磁界での磁束密度を高める技術の開発が進められてきた。しかし、材料固有の飽和磁束密度は上昇しないから、この種の改良には限界がある。
【0005】
一方、Si以外の合金元素については、磁気特性、機械的特性とくに加工性および合金コストのいずれかの特性においてSiよりも優れる元素もあるが、総合的にはSiに勝るものが見当たらないのが現状である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、この発明は、電磁鋼板として珪素鋼を凌駕する特性、すなわち高い飽和磁束密度を有し、従来材と対比した場合に、鉄損および磁束密度のいずれか一方が同一水準にあるときに残る他方の特性を格段に向上し得ること、しかも加工性や合金コストの面でも珪素鋼板よりも優位にあることを、新たな合金組成によって達成しようとするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
ここに、「鉄と鋼」の第21年第8号の第13〜25頁には、鉄の磁気的性質に及ぼすPの影響についての報告があり、Pを1wt%以下、とりわけPを0.7 〜0.8 wt%で含有させることによって、磁気的性質が向上することが記載されている。すなわち、鉄にPを添加すると、透磁率および電気抵抗を上げるという、Siと同様の効果をもたらすことが示されている。
【0008】
しかし、このP含有鋼を電磁鋼板として供用するには、製板加工によって薄板にすることが必須であるが、発明者らの実験によれば、得られる薄板は極めて脆く、曲げによって簡単に破断するため、電磁鋼板として使用することが困難であった。また、磁気特性についても、同様の製法によって同等の厚みとした、珪素鋼板に及ばないことも確認された。
【0009】
ところが、上記実験の一環として、鋼に不可避的に混入する不純物の影響を調べるうちに、CとOとを同時にかつ十分に低減すれば、製板後に180 °曲げを行っても破断しないP含有鋼板が得られることを見出した。しかも、この手法によって脆化を抑制した、P含有鋼板の磁気特性は、珪素鋼板のそれを上回る水準にまで到ることも明らかになった。この発明は、かかる知見に基づくものである。
【0010】
すなわち、この発明は、P:0.4 wt %超 1.2 wt %以下を含有し、かつC:0.01wt%以下およびO:0.01wt%以下に抑制し、残部 Fe および不可避不純物からなり、板厚が1.0mm 以下であることを特徴とする電磁鋼板である。
【0011】
ここで、0.4 wt %超 1.2 wt %以下のPに加えて、フェライト形成元素として Si 、 Al 、 Cr 、 Sn 、 Be 、 Ti 、V、 Zn 、 Ga 、 Ge 、 As 、 Se 、 Mo 、 Sb およびWの1種または2種以上を合計で0.1 〜5.0 wt%含有することが、磁束密度および鉄損をともに向上するのに有利である。また、方向性電磁鋼板に供する場合は、インヒビター形成成分として Mn および Al の1種または2種を合計で0.005 〜0.2 wt%含有することが好ましい。
【0012】
この発明は、無方向性および方向性のいずれの電磁鋼板にも適用できる。方向性の場合には、珪素鋼板において公知の2次再結晶あるいは3次再結晶の技術を同様に生かすことができる。
【0013】
さて、P含有鋼において、CおよびOを同時にかつ十分に低減することによって、加工性および磁気特性の向上が達成されるのは、健全な製板加工が実現されるためと考えられる。すなわち、製板後の材質が脆弱であると、製板加工時に導入されるマイクロクラック等が磁気特性を劣化させ、P含有による本来の特性が阻害されるのに対して、健全な加工が実現されると、P含有による本来の特性が維持されるのである。
【0014】
従来、この点が明らかにならなかったのは、PはSiに比べると脱酸能が低いため、CおよびOをともに低い含有量で製造することが困難であったことに起因するところが大きいと考えられる。これに対して、発明者らは、高真空の高周波誘導溶解炉を用いて、Cの添加調整によって真空溶解時のCおよびOを同時に低減し、低Cかつ低OのP含有鋼を溶製し供試材を作製し、以下に示す実験を行ったのである。
【0015】
次に、この発明の基礎となった、実験結果について詳述する。この実験では、Fe−0.6 wt%PとFe−1.1 wt%Siの組成になる鋼板を比較した。両者は、合金の電気抵抗が同等になる組成である。
すなわち、高真空の高周波誘導溶解炉で溶解して得た溶鋼を鋳造し、その後熱間および冷間圧延を行い、0.35mm厚に製板した。次いで、乾水素雰囲気中で900 ℃で60min の焼鈍を施した。かくして得られた鋼板について、磁気特性として、磁束密度B50(磁界5kA/mにおける値)および鉄損W15/50 (磁束密度1.5 T、周波数50Hzにおける値) を測定した。また、脆化の度合を簡単に評価するため、鋼板をそのまま180 °に折り曲げて破損するかどうかを調べた。
【0016】
ここで、Fe−0.6 wt%P系組成の鋼板は、Fe−1.1 wt%Si組成の鋼板よりもC量およびO量の双方が低減されにくいため、Fe−4wt%Cの加炭剤を添加して、種々のC,O量の組み合わせの鋳造品を作った。なお、この実験における成分組成は、鋳造後の分析値である。
【0017】
上記の磁気特性の測定結果および曲げ加工による破損の有無について、表1に示すように、CおよびOを同時に低減することにより、脆化は抑制されかつ磁気特性が向上することがわかる。なお、この実験では焼鈍を一条件で行ったが、後述の実施例に示すように高温焼鈍を行えば、さらに鉄損を低下することができる。
【表1】
【0018】
【発明の実施の形態】
以下に、この発明の各成分組成の限定理由について説明する。まず、Pの含有量は、同様の製法による従来の珪素鋼板に比べて、磁気特性に優れ、しかも製板が可能であることを基準に、規定される。すなわち、Pの含有量が0.4 wt %以下では、従来の珪素鋼板に対して磁気特性の優位性が確保できない。一方1.2 wt%を越えると、加工性が著しく劣化し製板が困難になり、かつ磁気特性においても珪素鋼板に対する優位性がなくなる。従って、Pの含有量は0.2 〜1.2 wt%の範囲に限定する。
【0019】
CおよびOは、Pを含有する電磁鋼板の磁気特性と加工性を確保するために、同時に低減することが必須である。特に、加工性においては、双方を低減することによってPの脆化作用を抑制できる。これは、Pの脆化作用が、鉄の粒界のPそしてCおよびOの濃化により、何らかの相乗効果によって現れるためと考えられ、CおよびOを同時にかつ十分低減すれば、Pの弊害が回避できるのである。すなわち、CおよびOをともに0.01wt%以下に抑制すると、磁気特性および加工性をともに向上することができる。
【0020】
とりわけ、Pの含有量が多い場合には、それに応じてCおよびOをさらに低減することにより、加工性の問題が解消される。すなわち、CおよびOは、ともに好ましくは0.004 %以下、より好ましくは0.002 %以下に抑制する。
【0021】
また、鋼板の板厚は、鋼板の磁気特性、とくに鉄損において重要である。Pを含有する鋼板における板厚と鉄損との関係は、珪素鋼板における関係と微妙に異なるが、板厚が薄くなると低鉄損となるのは同様である。特に、従来の珪素鋼板に対する優位性を保つには、板厚を1.0mm 以下とする必要がある。なぜなら、板厚が1.0mm をこえると、P含有鋼板の場合はとくに鉄損が増加しやすい。これは、電気抵抗が比較的低いために渦電流損失の割合が多く、その結果、板厚が厚くなると鉄損が急激に増加するからである。後に示す実施例からわかるように、この限界の厚みは経験的に1.0 mmの程度である。
なお、板厚を0.01mmより薄くしても、それ以上の改善効果が得られず、加工も困難になることから、下限を0.01mmとすることが好ましい。
【0022】
さらに、磁気特性を向上するのに、フェライト形成元素をPとともに添加することが有効である。すなわち、フェライト形成元素を添加することによって、第1に固溶によって固有抵抗を増して渦電流損失を低減すること、第2に900 ℃以上でもオーステナイト相が析出しにくくなるため、高温での結晶成長が速くなり、ひいてはヒステリシス損失が低減する。
【0023】
ここで、フェライト形成元素としては、Si, Al, CrおよびSnが有利に適合し、さらにBe, Ti, V,Zn, Ga, Ge, As, Se, Mo, SbおよびW等も利用できる。これらフェライト形成元素の添加量は、その1種または2種以上合計で0.1 wt%未満では効果が得られず、一方5.0 wt%を越えると加工性や磁気特性がかえって劣化する。従って、フェライト形成元素の合計量を、0.1 〜5.0 wt%とする。
【0024】
また、電磁鋼板に方向性を与えるには、いわゆるインヒビターを形成する成分を添加することが有効であり、具体的には、Mn,Al, SまたはSeを0.005 〜0.2 wt%の範囲で含有する。なお、上記SおよびSeは、後述する最終焼鈍において飛散するため、製品においては実質的に含有されることはない。
すなわち、Mn,Al, SまたはSeは、AlN, MnSまたはMnSeとして鋼中に微細析出してインヒビターを形成するのに必要であり、これらのうち1種または2種以上の含有が必要である。この目的のためには、0.005 wt%以上の含有が必要であるが、0.2 wt%をこえると、微細に分散析出させることが困難となってインヒビターの機能が低下するため、0.005 〜0.2 wt%の範囲で含有する。なお、2種以上を含有させる場合は、個々の成分を0.005 〜0.04wt%の範囲に制限することが好ましい。
【0025】
なお、この発明に従う電磁鋼板は、以下に示す工程に従って製造することができる。
まず、原材料としては極力純度の高いものを用いる。原料の純度が低いと鋳造時のCとOを同じに低減することが難しくなるからである。主原料の鉄におけるO量は0.01wt% 以下およびC量は0.001 wt% 以下が望ましい。Pは15〜30 %P程度のフェロりんを用いる。溶解は高真空、10-3Torr 以下、望ましくは10-5Torr 以下の減圧雰囲気で行う。溶解時に適宜Cを追加し、CとOを反応させてCOガスとして除去し、所望の低C、低Oとする。つづいて鋳造し、粗圧延したのち、1〜5mm厚まで熱間圧延する。通常の電磁鋼板と同様の工程を適用することができる。つぎに冷間圧延を行うが、その前に 900〜1200℃で焼鈍すると、冷間圧延時の圧延欠陥が出にくくなる。冷間圧延は所定の厚みまで複数回に分けて行うことができる。また、 100〜400 ℃の温間圧延を行ってもよい。
その後、無方向性の鋼板については、水素中で 800〜1300℃の焼鈍を施す。方向性の鋼板については、このあとさらに冷間圧延して1100〜1300℃で10h 以上の真空焼鈍を行う。真空度は圧力10-4Torr 以下の高真空とする。
【0026】
【実施例】
実施例1
真空中の高周波溶解によって表2および3の組成に成分調整した複数種の合金鉄鋳片を、1300℃に加熱後、熱間圧延して2.8mm 厚とし、引き続き冷間圧延によって表2および3に示す厚みとし、次いで乾水素雰囲気中で900 〜1200℃、60min の焼鈍を施した。なお、いずれの鋳片においても、Mnを0.02wt%で含有させた。また、Sの残存量は0.002 wt%程度のごく微量であった。
【0027】
かくして得られた鋼板を、エプスタイン試料に切断し、磁気特性すなわち、磁束密度B50(磁界5kA/mにおける値)および鉄損W15/50 (磁束密度1.5 T、周波数50Hzにおける値) を測定した。さらに、加工性を評価するために、同様の試料を直径2mmの丸棒を用いて曲率半径1mmまで曲げ、180 °曲げが可能であるかどうかを調べた。また、比較のために、Pを含有しない組成の鋼板を用いて、同様の調査を行った。これらの調査結果を、鋼板の焼鈍温度、組成および板厚に合わせて表2および3に示す。なお、表2および3の成分組成において、Siにおける0.02wt%以下およびPにおける0.01wt%以下の含有は、いずれも不可避混入分である。
【0028】
【表2】
【0029】
【表3】
【0030】
表2および3において、試料1は通常の電磁軟鉄板であり、試料2と3、および12(または13)と14(または26, 27) の各組は、それぞれ同程度の量のSiとPとを含有したものである。同表の結果から、Pの含有量が0.4 wt%超の場合、珪素鋼板に比べて、磁束密度が高くかつ鉄損が低くなることがわかる。ただし、試料31のように、Pが1.2 wt%をこえるとかえって特性が劣化するため、試料8の珪素鋼に対しての優位性が無くなる。
【0031】
また、試料14〜22は、それぞれ同程度のPを含有する場合のCおよびO量の影響を比較するためのものである。CおよびOは、いずれも0.01wt%以下であれば、珪素鋼板に対して特性上の優位性が確保できる。Pが0.6 wt%程度の場合には、CおよびOが0.002 wt%以下であればなお一層好ましいことがわかる。
【0032】
試料27〜30は、板厚の影響を示している。すなわち、板厚が1.0mm 以下であれば、試料2や4の珪素鋼薄鋼板よりも、むしろ低鉄損となっている。
【0033】
試料14および23〜25は、Pを含有する鋼板に対するSiの添加効果を示すものである。すなわち、Siを0.1 wt%以上添加することにより、さらに磁気特性が向上する。また、試料32と33、34と35、36と37、38と39、40と41の各組は、Pを含まずにSi, Al, Cr, Sn等を合金成分とする鋼板と、P含有鋼に、これらの成分を、その添加量を減らして添加した鋼板とを、それぞれ比較している。Si, Al, Cr, Snの合計含有量が5.0 wt%以下であれば、Pとの複合添加により、優れた磁気特性が得られている。
【0034】
実施例2
真空中の高周波溶解によって、SiおよびPは表4に示す種々の含有量に、さらにC:0.003 wt%、O:0.003 wt%、Mn:0.07wt%およびS:0.017 wt%を共通して含む成分に調整した複数種の合金鋳片を、1300℃に加熱後、熱間圧延して2.0mm 厚とし、引き続き冷間圧延によって0.20mm厚とし、次いで乾水素雰囲気中で800 ℃で60min の焼鈍を施した。さらに最終厚みまで冷間圧延し、1×10-5Torrの真空中にて、1200℃で24hの焼鈍を施した。なお、焼鈍鋼板のS量はいずれも0.002 wt%のごく微量であった。また、比較のために、Pを含有しない組成の鋼板も同様に作製した。
【0035】
かくして得られた鋼板は、単板測定法を用いて磁気特性すなわち磁束密度B8 (磁界800A/mにおける値)および鉄損W17/50 (磁束密度1.7 T、周波数50Hzにおける値) を測定した。これらの調査結果を、鋼板の焼鈍温度、組成および板厚に併せて表4に示す。
【0036】
【表4】
【0037】
表4において、試料1と2は、それぞれ同程度のSiとPを含有する場合の比較であるが、珪素鋼は3次再結晶が不完全であるために磁束密度B8 が低く、また鉄損W17/50 が高い。これに対して、P含有鋼は、3次再結晶が進行したため、極めて高いB8 と極めて低いW17/50 が得られた。これは、試料6の3wt%Si鋼よりもむしろ優れた特性である。
【0038】
試料2〜5は、同一成分組成における、板厚の影響を比較したものである。板厚が薄くなると、鉄損が低減して好ましいが、0.01mm未満になると磁束密度が低下し、鉄損もそれ以上は低くならない。
【0039】
試料7は、PとともにSiを添加した例であり、試料2のPのみの場合よりも更に低い鉄損が得られる。また、試料6の珪素鋼板にくらべ、磁束密度と鉄損の双方において優れている。
【0040】
【発明の効果】
この発明によれば、加工性の問題を回避しつつ、従来の珪素鋼板よりも優れた磁気特性の電磁鋼板を、合金コストの低減の下に安価に提供できる。
Claims (3)
- P:0.4 wt %超 1.2 wt %以下を含有し、かつC:0.01wt%以下およびO:0.01wt%以下に抑制し、残部 Fe および不可避不純物からなり、板厚が1.0mm 以下であることを特徴とする電磁鋼板。
- P:0.4 wt %超 1.2 wt %以下を含み、さらに、Si 、 Al 、 Cr 、 Sn 、 Be 、 Ti 、V、 Zn 、 Ga 、 Ge 、 As 、 Se 、 Mo 、 Sb およびWの1種または2種以上を合計で0.1 〜5.0 wt%含有し、かつC:0.01wt%以下およびO:0.01wt%以下に抑制し、残部 Fe および不可避不純物からなり、板厚が1.0mm 以下であることを特徴とする電磁鋼板。
- P:0.4 wt %超 1.2 wt %以下を含み、さらに、MnおよびAlの1種または2種を合計で 0.005 〜0.2 wt%含有し、かつC:0.01wt%以下およびO:0.01wt%以下に抑制し、残部 Fe および不可避不純物からなり、板厚が1.0mm 以下であることを特徴とする電磁鋼板。
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