JP4568999B2 - 無方向性電磁鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電気機器の鉄心材料として用いられる無方向性電磁鋼板、中でもリラクタンスモータなどの高速で運転するモータの鉄心素材として好適な、機械的強度が高く、しかも磁束密度が高くかつ鉄損が低い、機械強度特性と磁気特性に優れた無方向性電磁鋼板およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、省エネルギー化に対する要請が強化されるに伴って、電気機器類の高効率化指向が高まってきている。電動モータの分野でも効率アップのためにモータの鉄心素材である電磁鋼板の磁気特性の改善、すなわち低鉄損化、高磁束密度化が進められてきた。
【0003】
一方、モータ自体も、従来のAC誘導モータに対し、より高効率な表面磁石型(SPM)および埋め込み磁石型(IPM)のDCブラシレスモータや磁石を使用しないリラクタンスモータといった新しい構造のモータの開発が進められ、高特性化される趨勢にある。特に、リラクタンスモータは、固定子と共に回転子にも電磁鋼板を用い、固定子との間に発生するリラクタンストルクを利用するタイプのモータで、DCブラシレスモータと比較すると効率は若干及ばないものの、高速回転時には極めて高い効率を呈し、また構造が簡単で組立も容易であることから安価でリサイクル性にも優れるなどの特徴があり、注目されている。
【0004】
これらのモータのコンパクト化、高トルク化のためには、モータの設計磁束密度を高めることが有利であるので、磁束密度が高いことも求められる。加えてリラクタンスモータの場合、磁石を使わずに電磁鋼板で構成されたロータの磁気的な突極性によって、電機子電流によりロータとステータとの間に発生するリラクタンストルクを利用するタイプのモータであるため、DCブラシレスモータと比較して大電流となり、銅損が大きくなる傾向にある。
従って、リラクタンスモータの場合、電磁鋼板素材の磁束密度が高いこと、さらに動作磁束密度までの磁化に要する励磁電流が少ないこと(励磁磁界Hが小さいこと)が、コンパクト化、高トルク化だけでなく、高効率化の面からも特に重要であると考えられる。
【0005】
さらに、最近のインバータ化の進展に伴い、トルクなどの一層の特性向上のために高速回転化や極数が増加する傾向にある。これらはいずれも、動作周波数を高める要素であるため、モータ素材である無方向性電磁鋼板に対しても、従来からの商用周波数域(50〜60Hz)での磁気特性だけではなく、 400〜数kHz といった高周波域での磁気特性を改善することが必要となってきた。
【0006】
これまで、上記したような無方向性電磁鋼板の強度、磁束密度および鉄損等の諸特性に関し、個々の特性を改善することについては、以下に述べるように種々の努力が払われてきた。
(1) 高強度化
無方向性電磁鋼板の高強度化に関しては、高合金化を主体に検討されてきた。
例えば、特開昭60−238421号公報では、Siを 3.5〜7.0 mass%(以下、単に%で示す)と高め、さらにMn:0.1 〜11.5%,Ni:0.1 〜20.0%,Co:0.5 〜20.0%,Ti:0.05〜3.0 %,W:0.05〜3.0 %,Mo:0.05〜3.0 %,Al:0.5 〜13.0%のうちから選んだ1種または2種以上を合計で 1.0〜20.0%含有した素材を提案している。
また、特開昭61−84360 号公報では、Ni:8〜20%,Mo:0.2 〜5.0 %,Al:0.1 〜2.0 %,Ti:0.1 〜1.0 %,Cr:1.0 〜10.0%と、NiとCrを多量に含有する溶鋼を急冷凝固法により製造することを提案している。
しかしながら、これらの鋼板はいずれも、合金元素を多量に含有するものであるため、飽和磁束密度の低下を招き、ひいては磁束密度の低下を余儀なくされていた。
【0007】
(2) 低鉄損化
電磁鋼板の鉄損は、履歴損と渦流損からなっている。一般に無方向性電磁鋼板は、直径が20〜200 μm 程度の結晶粒で構成されており、かかる結晶粒はさらに同一方向の磁化をもった領域(磁区)に分割されている。鋼板を磁化すると、磁化は主として磁壁(磁区間の境界)の移動で生じるが、この磁壁の移動は非可逆的なものが多いため履歴損を発生させる。また、磁壁が移動した部分は磁化が急激に変化するので渦電流が流れ、渦流損が発生する。
履歴損は、結晶粒径や磁壁移動の障害となる不純物、結晶粒界、表面状態を制御することが重要であり、介在物の低減や焼鈍温度の高温化などによって製品板の結晶粒を成長させ、磁壁の数を減らすことによって、低減が図られてきた。
しかしながら、材料の強度σと結晶粒径dとの間にはHall−Petch の式、
σ=σ0 +kd-1/2 (σ0 ,k:定数)
として知られる関係があるため、このような結晶粒を大きくする方法では、ある程度の低鉄損化は達成できるものの、一方で強度が低下するため、リラクタンスモータのように低鉄損特性と高強度特性が同時に要求される部材には適用できない。
【0008】
一方、渦流損に関しては、
We =a・f2 ・Bm2・t2 ・ρ-1・D-1
ここで f:周波数
Bm :磁束密度波高値
t:板厚
ρ:比抵抗
D:密度
の関係があり、Si,Al,Mnなどの含有量を高め鋼板の比抵抗を上げることが一般に行われてきた。しかしながら、これらの元素の添加により鋼板の飽和磁束密度は低下するため、磁束密度の低下が避けられない。一方、これらの元素の含有量が低い鋼板は、比較的高い磁束密度を有するものの、鉄損特性は劣化する傾向にある。
また、高周波での鉄損に関しては、上掲式から明らかなように、周波数の増加と共に渦流損の影響が支配的となるため、Si,Al,Mnなどの含有量を高め鋼板の比抵抗を増加すると共に、板厚を薄くすることが行われてきた。
電磁鋼板の特性として、低鉄損は非常に重要な特性であるが、近年の高効率モータでは 400Hz以上の高周波鉄損特性が特に重視される傾向にある。通常の無方向性電磁鋼板の板厚は0.50mmが多いが、高効率モータ用素材としては0.35mm厚の比率が増加傾向にあり、さらに近年ではSiなどの含有量を増加し比抵抗を高めた素材をさらに0.20mmやそれ以下まで板厚を薄くして渦流損の低減を図った製品も見られる。
【0009】
(3) 高磁束密度化
鋼板の磁束密度を改善する手法としては、熱延板の結晶粒径を粗大化する方法や、特公昭57−59293 号公報に開示されているように、SbやSnといった元素を微量添加することによって、仕上げ焼鈍板の集合組織を改善する方法が知られている。また、特開平6−271996号公報には、0.03〜0.2 %のPを含有する鋼に、Sn,Sb,Cu,Niのうちから選んだ1種または2種以上を同時に少量づつ含有させ、かつ熱延板の焼鈍とその後の冷却条件、もしくは熱延仕上げ温度とその後の冷却条件を制御することによって、磁束密度が高く鉄損の低い鋼板を得る方法を提案している。
しかしながら、これらの技術を併用しても、なお、強度、鉄損および磁束密度を鼎立させるには十分ではなかった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記のような高強度化、低鉄損化(商用〜高周波域)、高磁束密度化の方策は、個々の手法としては有効なものの、互いに相反する場合も多い。例えば、強度の向上だけでなく、比抵抗を高め、しかも渦流損の低減により鉄損を改善するのに有効なSi,Al,Mnなどの合金元素の添加は、磁束密度を低下させる要因となる。また、製品板の結晶粒径を成長させることは鉄損の低減には有効ではあるが、強度の低下を招く。
一方、製品の薄物化に関しては、これまで主にSiなどの比抵抗を増加させる元素を3mass%程度含有し、渦流損の発生を抑制した高級電磁鋼板に関して、特に高周波域での鉄損を改善するために補完的に用いられてきた手法であり、Si量の低い電磁鋼板に対して適用した例は見られない。
【0011】
上述したように、これまでの技術では、特にリラクタンスモータの鉄心素材に求められるような、高磁束密度、低鉄損という優れた磁気特性と、高強度という優れた機械特性とを高い次元で兼備する、特に高磁束密度と高強度を同時に満足するような素材はこれまでのところ見出されていない。さらに、これまでの技術では、モータの高速回転化に伴う高周波鉄損の増大および励磁電流の増大に伴う銅損の増大に対する十分な対策はなされていないのが現状である。
本発明は、これらのモータ用素材用途に好適な、機械的強度が高く、かつ特に磁束密度が高い磁気特性に優れた無方向性電磁鋼板を提案するものであり、加えて、高周波域での鉄損も低く、励磁電流が小さく銅損の低減にも有用な無方向性電磁鋼板を、その有利な製造方法と共に提案することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
さて、発明者らは、無方向性電磁鋼板の磁気特性および機械強度特性に及ぼす合金元素および製造条件の影響について綿密な検討を行った結果、以下の新規知見を得た。
(1) 0.20%を超えるPの積極的な添加により、磁束密度を高めつつ鉄損を低減でき、しかも強度を大幅に高めることが可能となる。
なお、従来から、Pは、軟質鋼の硬度を上昇させ打抜性を改善する目的で添加されていたが、P含有量が増加すると、熱延コイルのリコイリング時やライン通板時に曲げ応力が発生する部位でクラックが発生し板破断などのトラブルが発生したり、冷間圧延を行うと層状割れ(通常2〜4層、激しい場合は5層以上)や激しい耳割れを引き起こす点で、鋼板製造性を著しく劣化させるため、無方向性電磁鋼板においては、P含有量は最大でも0.15〜0.20%に制限されているのが通例であった。
【0013】
そこで、発明者らは、0.20%を超えるPを含有しても何ら問題なく鋼板を製造することができる成分系および製造条件について検討した結果、
(2) Niを併せて含有させることにより、鋼板の製造性を低下してしまうPの悪影響を払拭でき、Pの添加限界を大幅に高めることができるだけでなく、Ni添加は磁束密度の向上にも寄与する、
(3) また、Si,AlおよびMnの含有量を厳密に管理すれば、上記したNiを特に添加しなくても、Pの添加限界を高めることができる
ことを見出した。
【0014】
また、発明者らは、最近開発が進行している高速度回転モータ用途に好適な無方向性電磁鋼板素材とするべく鋭意検討を行ったところ、
(4) 上記したような低Si−低Al鋼にPを添加した鋼、さらにはNiを添加した鋼を、0.35mm以下望ましくは0.30mm以下の最終板厚に圧延することによって、機械的強度が高く、かつ磁束密度が非常に高いだけでなく、高周波鉄損の低い鋼板が得られる
ことを見出した。
さらに、かような鋼板は、高磁束密度条件下で、従来の高級無方向性電磁鋼板と比較して、
(5) 励磁電流が大幅に小さくなり、また銅損の低下にも有効に寄与する
ことも併せて見出した。
【0015】
かくして、従来のように、固溶強化により強度を上昇させ得るものの飽和磁束密度を大きく低下させてしまうSiやMn,Alなどの合金を多量の添加をすることなしに、優れた磁気特性と機械強度特性を兼ね備えた無方向性電磁鋼板の開発に成功したのである。
本発明は、上記の新規知見に立脚するものである。
【0016】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.質量百分率で
C:0.010 %以下、
Siおよび/またはAl:0.03%以上、0.5 %以下、
Mn:0.5 %以下、
P:0.20%を超え、かつ次式(1), (2)を満足する範囲、
P≦0.02 Ni2+0.22Ni−0.25Si−0.45Al+0.12Mn+0.26 --- (1)
P≦0.01 Ni2−0.09Ni−0.17Si−0.17Al+0.76 --- (2)
Ni:0〜2.3 %、
S:0.015 %以下、
N:0.010 %以下
を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になることを特徴とする無方向性電磁鋼板。
なお、式(1), (2)中の元素記号は、その元素の鋼中濃度(質量百分率)を表す。
【0017】
2.上記1において、鋼板が、さらに質量百分率で
Sbおよび/またはSn:0.01〜0.40%、
を含有する組成になることを特徴とする無方向性電磁鋼板。
【0018】
3.上記1または2において、鋼板の板厚が0.35mm以下であることを特徴とする無方向性電磁鋼板。
【0019】
4.質量百分率で
C:0〜0.010 %、
Siおよび/またはAl:0.03%以上、0.5 %以下、
Mn:0.5 %以下、
P:0.20%を超え、かつ次式(1), (2)を満足する範囲、
P≦0.02 Ni2+0.22Ni−0.25Si−0.45Al+0.12Mn+0.26 --- (1)
P≦0.01 Ni2−0.09Ni−0.17Si−0.17Al+0.76 --- (2)
Ni:0〜2.3 %、
S:0.015 %以下、
N:0.010 %以下
を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる鋼スラブに対し、
熱間圧延を、加熱温度:オーステナイト単相域、コイル巻取り温度:650 ℃以下の条件で行い、
熱延板焼鈍を、Ni含有量が0〜1.0 %の場合には、900 ℃以上のフェライト単相域またはAc3点以上のオーステナイト単相域で、一方Ni含有量が 1.0%超え〜2.3 %の場合には、Ac3点以上のオーステナイト単相域で行い、
ついで1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を行ったのち、仕上げ焼鈍を施すことを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。
【0020】
5.上記4において、鋼スラブが、さらに質量百分率で
Sbおよび/またはSn:0.01〜0.40%、
を含有する組成になることを特徴とする無方向性電磁鋼板。
【0021】
6.上記4または5において、冷間圧延により、鋼板の板厚を0.35mm以下にすることを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明を具体的に説明する。
まず、本発明において、鋼材の成分組成を上記の範囲に限定した理由について説明する。
C:0〜0.010 %
Cは、時効硬化作用により、鋼板製造後時間の経過と共に磁気特性(鉄損)を劣化させる元素であり、その程度はC含有量が 0.010%を超えると著しくなるので、0.010 %以下に制限した。なお、このCは少なければ少ないほど好ましく、その含有量は0(分析限界値未満)であることが最適であるので、本発明ではC量については0の場合を含むものとする。
【0023】
Siおよび/またはAl:0.03〜0.5 %
SiおよびAlは、鋼に添加すると脱酸効果を有するので脱酸剤として単独あるいは併用して使用される。その効果は、Si, Alそれぞれ単独あるいはSiとAlの合計で0.03%以上が必要である。一方、Si, Alは比抵抗を増加させ鉄損を改善する作用もあるが、同時に磁束密度を低下させるので、その上限を合計で0.5 %に規定した。
【0024】
Mn:0.5 %以下
Mnは、MnSとしてSを固定し、FeSに起因する熱間圧延中の脆化を抑制する効果がある。しかしながら、添加量の増加に伴い、比抵抗が増加し鉄損を改善するものの磁束密度の低下を招くので、その上限を 0.5%とした。
【0025】
P:0.20%を超え、かつ次式(1), (2)を満足する範囲、
P≦0.02 Ni2+0.22Ni−0.25Si−0.45Al+0.12Mn+0.26 --- (1)
P≦0.01 Ni2−0.09Ni−0.17Si−0.17Al+0.76 --- (2)
Pは、本発明において重要な元素の一つである。
Pは、SiやAl, Mnなど従来から無方向性電磁鋼板に一般的に添加されてきた元素と比べると鋼に対する固溶強化能が格段に高く、強度を上昇するのに有効である。また、集合組織を改善し磁束密度を上昇させる効果、さらには電気抵抗を増大して鉄損を改善する効果も有する。
【0026】
図1に、0.1%Si−0.2%Mn−0.05%Sb を基本組成とし、一部1%のNiを添加した鋼の、磁気特性に及ぼすP含有量および熱延板焼鈍の影響について調べた結果を示す。
ここで、製造条件は、スラブ加熱温度(SRT):1150℃、コイル巻取り温度(CT):520 ℃とし、図に示した条件で熱延板焼鈍を行った後、酸洗し、0.5mmまで冷延後、仕上げ温度:850 ℃で焼鈍を施した。
同図に示したとおり、Ni添加および無添加鋼とも 0.2%を超えてPを含有し、かつ1070℃で熱延板焼鈍を施したものは、熱延板焼鈍を行っていないものよりも磁束密度の向上が著しいことが分かる。
しかしながら、P含有量が増加すると同時に製造性が劣化するため、従来は最大でも0.15〜0.20%の添加に制限されていたことは前述したとおりである。
本発明においては、鋼成分の適正化と後述する製造条件の適正化により、P添加量が0.20%を超える場合であっても製造性の低下を抑制することが可能となった。従ってPは0.20%を超える範囲で含有させるものとした。
【0027】
さて、発明者らは、高P添加に伴う製造性の劣化原因について検討したところ、その主原因として、熱延工程のスラブ加熱段階でオーステナイト単相域に均一保持できない場合にPの局所偏析が著しくなり、圧延板の層状割れなど製造性を劣化させていることを突き止めた。このスラブ加熱段階での相組織は、鋼組成、加熱温度に左右される。
よって、スラブ加熱温度である1000〜1200℃付近で完全にオーステナイト単相組織とするには、Pの含有量を無方向性電磁鋼板の主要成分であるSi,Al,Mnの含有量との関係において、
P≦−0.25Si−0.45Al+0.12Mn+0.26
の範囲とする必要がある。
なお、上掲式中の元素記号は、その元素の鋼中濃度(質量百分率)を表す。
【0028】
また、本発明の別の知見は、Niを添加することにより、良好な製造性、磁気特性および機械強度特性を発揮できるPの含有量を更に拡大できるという点である。
これはNiの含有により、熱延工程のスラブ加熱時のオーステナイト単相域を拡大できるためであり、そのためにはPはNi,Si,Mn,Al量との関係で
P≦0.02 Ni2+0.22Ni−0.25Si−0.45Al+0.12Mn+0.26 --- (1)
を満足する範囲とする必要があることが判明した。
【0029】
ところで、モータコアとして使用される際、打ち抜き加工された無方向性電磁鋼板は、打ち抜き歪みを解放し鉄損を改善するため、歪み取り焼鈍処理(750 ℃で1〜2時間加熱が一般的)が施されることも多い。ここで、P含有量が高くかつNi含有量が高い場合、この歪み取り焼鈍を施すと磁気特性が劣化してしまう場合があった。この現象について詳細に検討したところ、歪み取り焼鈍中に鉄燐化物 (Fe3P) が析出することが原因であることが判明した。
そこで、750 ℃の歪み取り焼鈍処理においてもFe3Pの析出を抑制するための条件について、研究を進めたところ、PをNi,Si,Al量との関連で
P≦0.01 Ni2−0.09Ni−0.17Si−0.17Al+0.76 --- (2)
を満足する範囲とする必要があることが究明された。
従って、本発明では、P含有量につき
P>0.20%で、かつ次式(1), (2)を満足する範囲
P≦0.02 Ni2+0.22Ni−0.25Si−0.45Al+0.12Mn+0.26 --- (1)
P≦0.01 Ni2−0.09Ni−0.17Si−0.17Al+0.76 --- (2)
に規定したのである。
【0030】
Ni:0〜2.3 %
Niも、本発明において重要な元素である。
上述したとおり、Niはスラブ加熱中のオーステナイト領域を拡大し、P含有可能量を増加させる効果を有する。またNiは、鋼の集合組織を改善して、磁束密度を高めると共に、鋼の電気抵抗を増加して鉄損を低下させるだけでなく、固溶強化により鋼の強度を高める上でも有効に作用することから、本発明の目的(高強度、高磁束密度、低鉄損)に非常に有用な元素である。
しかしながら、Ni含有量が 2.3%を超えて増加すると、仕上げ焼鈍中にフェライト(α)→オーステナイト(γ)変態が生じるため磁束密度が劣化し、また粒成長性を確保することが困難となり、鉄損も劣化するようになる。従って、その上限は2.3 %とした。
なお、このNiは、上述したとおり、P含有可能量を増加させる上で有用な元素であるが、P含有可能量の増大は、後述するように、コイルの巻取り温度を低温化するなど製造条件の適正化によっても達成することができるので、製造条件を特に厳密に制御した場合には必ずしも含有させる必要はない。従って、本発明ではNiについては含有量が0(分析限界値未満)の場合も含むものとする。
【0031】
S:0.015 %以下
Sは、不可避的に混入する不純物であり、上述のようにFeSとして析出した場合には熱間脆性の原因となったり、微細に析出した場合には粒成長性を劣化させ鉄損を低下させるので、できる限り低減することが有利であるが、その一方で、打ち抜き時の剪断面形状を改善する効果も有する。S含有量が 0.015%を超えると鉄損の劣化代が著しく大きくなるので、その上限を 0.015%とした。
【0032】
N:0.010 %以下
Nも、不可避混入不純物であり、AlNとして微細に析出した場合には、粒成長を阻害し鉄損を劣化させるので、0.010 %以下に規制した。
【0033】
以上、必須成分および抑制成分について説明したが、本発明では、その他にも磁気特性改善成分としてSbやSnを適宜添加することができる。
Sbおよび/またはSn:0.01〜0.40%
Sb,Snはいずれも、粒界に偏在し、鋼の再結晶に際して結晶粒界からの{111}方位の再結晶核の生成を抑制することによって、磁束密度および鉄損を改善する効果がある。この効果を得るためには、SbとSnのうちの1種または2種を少なくとも0.01%含有させることが好ましい。とはいえ、過剰に含有してもその効果は飽和するだけであり、合計量が0.40%を超えると脆化し冷間圧延の際割れを生じるようになるので、その上限は0.40%とするのが好ましい。
【0034】
また本発明では、さらに、脱酸剤として、また不純物として存在するSをMnと共に効果的に捕捉する元素として0.01%以下のCaを添加しても良い。また、歪み取り焼鈍時の酸化、窒化を緩和するために 0.005%以下のB、0.1 %以下のCrを添加しても良い。
【0035】
次に、本発明の製造条件について説明する。
上記の好適成分組成に調整した溶鋼を、転炉または電気炉などで溶製した後、連続鋳造法や造塊−分塊法によりスラブとする。
ついで、このスラブは、加熱後、熱間圧延に供されるが、この際、スラブ加熱温度をオーステナイト単相域とすることが重要である。
というのは、発明者らの研究により、スラブ加熱時にフェライト/オーステナイト共存領域となると、フェライト粒とオーステナイト粒間でPの分配が起こり、フェライト粒中で著しいPの偏析が生じ、鋼の脆化が促進されることが究明されたからである。
Pはフェライト形成元素であるため、スラブ加熱温度付近でのオーステナイト単相領域を縮小する作用を有するが、本発明の成分範囲においては、スラブ加熱温度が1000〜1200℃程度であればオーステナイト単相とすることができる。
【0036】
熱延後のコイル巻取り温度も、本発明では、高P鋼の製造性を確保する上で重要なポイントである。
コイル巻取り温度が高いと、コイル冷却中に鉄燐化物 (Fe3P) が生成し、熱延板の曲げ性、圧延性を低下させるため、巻取り温度は 650℃以下好ましくは600℃以下さらに好ましくは550 ℃以下と、できるだけ低温巻き取りとする必要がある。
また、巻取り後のコイルを水槽に浸漬あるいはコイルに放水するなどの手段により加速冷却する方法も有効である。
【0037】
ついで、熱延板焼鈍を施すが、この熱延板焼鈍は冷延前の結晶粒を成長させ、磁束密度を向上させる上で重要なプロセスである。
ここで、Ni量が0〜1.0 %と比較的少ない場合には、無方向性電磁鋼板で通常熱延板焼鈍を施す場合と同様に、900 ℃以上のフェライト単相域で焼鈍することができる。また、焼鈍温度をより高温とし、Ac3点以上のオーステナイト単相域(望ましくは1050〜1100℃程度)とすることもできる。いずれにしても、両者の中間領域である(フェライト+オーステナイト)2相共存領域での焼鈍を避けることが重要である。
一方、Ni量が 1.0%超〜2.3 %と比較的多い場合には、焼鈍中のオーステナイト生成温度が低下するため 900℃程度の焼鈍温度でも(フェライト+オーステナイト)2相域となり磁束密度が低下する。一方、900 ℃以下のフェライト単相域での焼鈍では粒成長性不足のため、十分な磁束密度が得られない。従って、この成分系での熱延板焼鈍条件は、Ac3点以上のオーステナイト単相域(望ましくは1050〜1100℃程度)に限定した。
【0038】
以降の工程は、一般的な無方向性電磁鋼板の製造工程と同様で良い。例えば、熱延板を酸洗したのち、冷間または温間で1回圧延あるいは中間焼鈍を挟む2回以上の圧延を行い、所定の板厚に仕上げる。圧延後は再結晶と結晶粒の成長のための仕上げ焼鈍、および絶縁被膜のコーティングを行う。
【0039】
なお、冷延後の板厚については、従来から、渦流損の低減のためには板厚を薄くすることが有効であることが知られていて、無方向性電磁鋼板においては、通常、板厚 0.5mm、Siなどの含有量を高めて比抵抗を高めた高級電磁鋼板については0.35mmやそれ以下(0.20mm)に圧延されている。
しかしながら、本発明のように、抵抗向上元素であるSiやAlの合計量が 0.5mass%以下であるような低比抵抗無方向性電磁鋼板については0.50mm以下のものはほとんど製品化されていなかった。
【0040】
この点、本発明により、SiやAlのような比抵抗を高めるものの磁束密度を低下させてしまう元素の添加を制限し、かつPを積極的に添加した無方向性電磁鋼板を、0.35mm以下望ましくは0.30mm以下という従来にない板厚を圧延することにより、高い磁束密度を維持しつつ、例えば2mass%以上のSiなど比抵抗成分を多量に含有する高級電磁鋼板に比べてより優れた高周波鉄損特性を有し、加えて磁化に要する電流が小さく銅損の低減に有利な鋼板が得られることが新たに明らかとなったのである。
なお、板厚は、薄いほど渦流損の低減に有効であるため、特に板厚の下限はもうけないが、一方で、コア積層工数が増大してコスト増となり、また積層コアのかしめが困難になるなどの弊害もあるので、一般的な生産に供する場合には0.10mm程度とするのが望ましい。
【0041】
その後、得られたコイルは、必要な幅、寸法にスリット加工されたのち、ユーザーにてモータ固定子、回転子形状に打ち抜き加工後、製品化される、さらに場合によっては打ち抜き後、歪み取り焼鈍(通常 750℃, 1〜2h程度)を施した後に製品化される。
【0042】
【実施例】
実施例1
表1に示すように、C:0.002 %、N:0.003 %、S:0.003 %程度に成分調整し、PおよびNi量を種々に変化させた鋼塊を真空中で溶製し、これらを1200℃に加熱したのち、厚さ:40mmのシートバーを作製した。それぞれの鋼組成に対して本発明の式(1) および式(2) より求められるP含有量の上限値を計算し、その結果を表1に併記する。
その後、表2に示す種々のスラブ加熱温度(SRT)で1h加熱したのち、仕上げ厚:2.3 mmまで熱間圧延し、コイル巻き取りのシミュレートとして所定温度(CT温度)で2h の保持後炉冷するCT処理を行った。
かくして得られた熱延板から圧延方向(L方向)に対し 100mmL×30mmCの曲げ試験片を採取し、JIS C 2550に準じて繰り返し曲げ試験を行った。ここで曲げ半径は15mmとし、試験温度は室温(25℃)で行い、熱延板表面に亀裂が入るまでの曲げ回数を測定した。また、かかる熱延板に、1070℃,60sの焼鈍を施したのち、酸洗し、ついで板厚:0.50mmまで冷延を行った時の冷延板割れについても調査した。
さらに、得られた熱延板を再度種々の加熱温度(SRT)で30min 保持したのち水焼入れにより加熱時の相組織を観察し、熱延加熱時における組織を同定した。
得られた結果を表2に併記する。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
表2に示したとおり、P量が従来範囲にある組成の鋼塊Aの場合(No.1〜3)、いずれのSRTでも組織はオーステナイト(γ)単相であり、十分な曲げ回数が得られている。ここで、熱延板の曲げ回数が10回以上であれば、熱延板の連続焼鈍ライン、酸洗ライン、冷延ミルなどでのリコイリングや通板作業を板破断などのトラブルなしに良好に行うことが可能であり、特に20回以上であれば何ら特別の注意をすることなく処理することができる。
一方、Pを0.23%に高めた鋼BおよびPが0.25%の鋼Fでは、SRTが高い場合(No.6, No.23)には、図2(b) にNo.6の光学顕微鏡組織を示すように(α+γ)2相となり、CT処理温度が 520℃でも熱延板の曲げ特性が著しく劣化し、冷延時に層状の割れが発生した。この点、SRTが1100〜1200℃と適正な場合には組織は図2(a) に示すようにγ単相であり、冷延時に割れの発生は見られなかった。
なお、図3には、図2(b) の組織を一部拡大して示したが、フェライト(α)相は主として旧オーステナイト粒界から生成していた。
Pをさらに0.47%まで高めた鋼Cでは、1100〜1280℃のいずれのSRTによっても熱延板曲げ性が著しく劣化し、冷延板の製造が困難であった。
これに対し、Niを適量添加した鋼D,E,Gでは、このようにP含有量が高い場合であっても優れた曲げ性、冷延性を得ることができた。
【0046】
図4は、鋼EのSRT:1200℃での熱延板について、CT温度を種々に変化させた場合の曲げ回数の変化を示したもの(No.14, 16〜20)であるが、熱延コイル巻取り温度を低下させることにより、熱延板曲げ特性は改善されることが明らかである。
【0047】
実施例2
表3,4に示すように、C:0.002 %、N:0.003 %、S:0.003 %程度に成分調整し、主にPおよびNiの添加量を種々に変化させた鋼塊を真空中で溶製し、これらを1200℃に加熱したのち、厚さ40mmのシートバーを作製した。その後、加熱温度(SRT):1150℃で1hの加熱処理を施したのち、仕上げ厚:2.3 mmまで熱間圧延し、コイル巻取りのシミュレートとして 520℃で2hの均熱後炉冷するCT処理を行った。
かくして得られた熱延板について、実施例1と同様の方法により繰り返し曲げ試験を行い、曲げ特性を評価した。ついで、熱延板に1070℃,60sの焼鈍を施し、酸洗後、板厚:0.50mmまで冷延し、割れなどの冷延欠陥の有無について評価した。その後、850 ℃,10sの仕上げ焼鈍を行った。さらに、これらの試料からエプスタイン試験片および引張試験片を切り出し、磁気特性および機械強度特性を評価した。また、ユーザーでの歪み取り焼鈍処理を想定して 750℃, 2hの熱処理を施した後の両特性についても評価した。
得られた結果を、表5,6および図5〜8に示す。
【0048】
【表3】
【0049】
【表4】
【0050】
【表5】
【0051】
【表6】
【0052】
表5,6および図5に示すように、本発明の成分範囲(式(1) )を外れるもの(No.4〜7, 12〜14, 20, 21, 27)はいずれも、熱延曲げ特性が急激に劣化しており、その後の冷延工程でいずれも層状割れが発生したため、その後の評価は実施していない。これらは工業的に安定して生産するのは困難であると考えられる。
また、Niの添加によって、良好な曲げ性を有するP含有量の上限を拡大できることが明らかである。
【0053】
表5,6および図6に示すように、P,Niの添加により仕上げ焼鈍後の鉄損および歪み取り焼鈍後の鉄損は低減する。しかしながら、Ni量が本発明範囲を超える No.33〜37は、粒成長性が不足するためP含有量が多いにも関わらず鉄損が劣化している。さらにP量が本発明の範囲(式(2) )を外れる No.31, 32, 36, 37は、特に歪み取り焼鈍後の鉄損劣化が顕著である。
【0054】
表5,6および図7に示すように、0.2 %を超えるPを含有するものは0.02〜0.11%のPを含有する従来例(No.1, 2, 8, 9)に比べ、磁束密度が格段に優れている。さらにNiの添加により磁束密度は一層向上している。
しかしながら、Ni量が本発明範囲を超える No.33〜37は、特に歪み取り焼鈍後の磁束密度が大きく低下している。さらにP量が本発明の範囲(式(2) )を外れる No.31, 32, 36, 37は、磁束密度が低下する傾向にある。
なお、図8は、本発明の適正なP量およびNi量の範囲に図示したものであるが、この範囲を満足する鋼はいずれも、従来にない高強度で、高磁束密度かつ低鉄損という優れた特性バランスを有している。
【0055】
実施例3
表7に示すような組成の鋼H,Iを、熱延後、 850℃, 900℃および1050℃で60sの熱延板焼鈍を施し、実施例2と同様の方法により0.5mm 厚の試料を作製し、各種特性に及ぼす鋼組成および熱延板焼鈍条件の影響を調査した。
得られた結果を表8に示す。
【0056】
【表7】
【0057】
【表8】
【0058】
同表に示したとおり、Ni含有量が1%以下である鋼Hでは、熱延板焼鈍温度が850 ℃と低い場合は磁束密度が低いが、焼鈍時にフェライト単相の900 ℃およびオーステナイト単相の1050℃ではいずれもほぼ同等の良好な磁束密度、鉄損、強度特性を示している。
一方、Ni量が1.41%の鋼Iでは、熱延板焼鈍温度が 900℃以下のNo.4, 5はオーステナイト単相域焼鈍である1050℃のNo.6と比較して磁束密度、鉄損の劣化が大きい。すなわち、Ni含有量が高い鋼ではAc3点以上のオーステナイト単相領域で焼鈍を行うことが、優れた磁束密度、鉄損、強度特性を得る上で必要であることが分かる。
【0059】
実施例4
表9に示す組成の鋼を実験室的に溶製し、これらを1200℃に加熱したのち、厚さ:40mmのシートバーを作製した。それぞれの鋼組成に対して本発明の式(1) および式(2) より求められるP含有量の上限値を計算し、表9に併記した。
その後、表10に示す種々の条件で、スラブ加熱、熱間圧延、所定温度×2h のコイル巻き取り相当処理(CT処理)、熱延板焼鈍、冷間圧延および仕上げ焼鈍を施して、0.50〜0.20mm厚の鋼板を作製した。
かくして得られた鋼板の冷間圧延性、機械強度特性および磁気特性(圧延方向(L方向)と圧延垂直方向(C方向)の平均値)を評価した。
得られた結果を、表11および図9〜12に示す。
【0060】
【表9】
【0061】
【表10】
【0062】
【表11】
【0063】
P含有量が本発明の条件を外れる鋼N(No.15) は、冷延中に激しい耳割れおよび層状割れが生じ、評価が行えなかった。また、鋼組成は本発明の範囲を満足するものの、コイル巻取り温度(CT)が本発明の上限より高いNo.10 (鋼M)も冷延時に耳割れが発生したので、評価を行えなかった。さらに、鋼組成のうちP含有量が本発明の範囲に満たない鋼L(No.7〜9)は、磁束密度B50(励磁磁束:5000 A/mにおける磁束密度)は高いものの、降伏強度(YP)が低かった。
Si, Alの含有量が本発明の上限を超える鋼J,K(No.1〜3, 4〜6)は、各板厚とも高周波鉄損W15/400(周波数:400 Hzにおいて磁束密度 1.5Tに励磁した場合の鉄損)が小さく、また降伏強度は高かったものの、磁束密度が低かった(図9,11)。このため、板厚を薄くして鉄損の改善を図っても、励磁磁束H15/400(周波数:400 Hzにおいて磁束密度 1.5Tに励磁するのに要する磁束)の改善は僅かであり、特にSi,Alを冷間圧延限界付近まで高め高比抵抗化を図った鋼J(No.1〜3)では、板厚の減少に伴いH15/400は逆に増大した(図10)。従って、これらの鋼板をリラクタンスモータ等設計磁束密度が高い(一般に 1.8〜2.0 T)部材に用いた場合には、電流量が増加し、それに伴い銅損が増大して、モータ効率低下の要因となる。
一方、鋼組成が本発明の範囲にある鋼M,O,P(No.11〜14, 16〜20, 21〜24)は、高磁束密度でかつ高強度という優れた特徴を有し(図11)、板厚:0.5 mmでは高周波鉄損が高く励磁磁束も大きいものの、板厚を0.35mm以下特に0.30mm以下まで減少することにより、鉄損および励磁磁束は著しく改善されている。
【0064】
図12に、鋼J,Kおよび本発明の鋼組成である鋼Oの、高周波鉄損、磁束密度および励磁磁束の関係について調べた結果を整理して示す。
本発明に従う磁束密度の高い鋼板について、その仕上げ厚を薄くすることによってのみ、励磁磁束を大幅に低減できることが明らかである。
従って、本発明により得られる鋼板を設計磁束密度が高い(一般に 1.8〜2.0T)モータ鉄心部材に用いた場合、鉄損、銅損が少なく高効率で、かつ磁束密度が高く高トルクなモータを得ることができる。
【0065】
【発明の効果】
かくして、本発明によれば、高磁束密度、低鉄損、低励磁磁束(モータとした場合、低銅損となる)かつ高速回転による遠心力に耐えられる高機械強度といった諸特性を高い次元で満足する無方向性電磁鋼板を得ることができる。
従って、本発明によれば、高磁束密度、低鉄損特性が求められる各種モータの鉄心素材して、また近年コジェネレーションシステムとして注目されているマイクロガスタービンなどの発電機用鉄心素材として好適であるのはいうまでもなく、これら磁気的な特性に加えて機械的強度が求められるリラクタンスモーター用鉄心素材としての条件をも満足する、機械的強度が高く、かつ磁束密度が高く鉄損が低い、磁気特性に優れた無方向性電磁鋼板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 P含有量が磁気特性に及ぼす影響を、Ni含有量および熱延板焼鈍をパラメータとして示した図である。
【図2】 熱延加熱時の組織を示したもので、(a) はスラブ加熱温度(SRT)が適切で好ましいγ単相が得られた場合、(b) は加熱温度が不適切で好ましくない(α+γ)2相が得られた場合を示す。
【図3】 図2(b) の一部拡大図で、フェライト(α)相が主として旧オーステナイト粒界から生成している状態を示した図である。
【図4】 CT処理温度と熱延板の曲げ回数との関係を示した図である。
【図5】 P含有量と熱延板の曲げ回数との関係を、Ni含有量をパラメータとして示した図である。
【図6】 P含有量と歪み取り焼鈍後の鉄損W15/50 との関係を、Ni含有量をパラメータとして示した図である。
【図7】 P含有量と歪み取り焼鈍後の磁束密度B50との関係を、Ni含有量をパラメータとして示した図である。
【図8】 本発明の適正なP含有量およびNi含有量の範囲を示した図である。
【図9】 実施例における各鋼種の板厚と高周波鉄損W15/400との関係を示したグラフである。
【図10】 実施例における各鋼種の板厚と励磁磁束H15/400との関係を示したグラフである。
【図11】 実施例における各鋼種の磁束密度B50と降伏強度Y.P.との関係を示したグラフである。
【図12】 鋼J,KおよびOの、高周波鉄損、磁束密度および励磁磁束の関係をまとめて示した図である。
Claims (6)
- 質量百分率で
C:0〜0.010 %、
Siおよび/またはAl:0.03%以上、0.5 %以下、
Mn:0.5 %以下、
P:0.20%を超え、かつ次式(1), (2)を満足する範囲、
P≦0.02 Ni2+0.22Ni−0.25Si−0.45Al+0.12Mn+0.26 --- (1)
P≦0.01 Ni2−0.09Ni−0.17Si−0.17Al+0.76 --- (2)
Ni:0〜2.3 %、
S:0.015 %以下、
N:0.010 %以下
を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になることを特徴とする無方向性電磁鋼板。 - 請求項1において、鋼板が、さらに質量百分率で
Sbおよび/またはSn:0.01〜0.40%、
を含有する組成になることを特徴とする無方向性電磁鋼板。 - 請求項1または2において、鋼板の板厚が0.35mm以下であることを特徴とする無方向性電磁鋼板。
- 質量百分率で
C:0〜0.010 %、
Siおよび/またはAl:0.03%以上、0.5 %以下、
Mn:0.5 %以下、
P:0.20%を超え、かつ次式(1), (2)を満足する範囲、
P≦0.02 Ni2+0.22Ni−0.25Si−0.45Al+0.12Mn+0.26 --- (1)
P≦0.01 Ni2−0.09Ni−0.17Si−0.17Al+0.76 --- (2)
Ni:0〜2.3 %、
S:0.015 %以下、
N:0.010 %以下
を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる鋼スラブに対し、
熱間圧延を、加熱温度:オーステナイト単相域、コイル巻取り温度:650 ℃以下の条件で行い、
熱延板焼鈍を、Ni含有量が0〜1.0 %の場合には、900 ℃以上のフェライト単相域またはAc3点以上のオーステナイト単相域で、一方Ni含有量が 1.0%超え〜2.3 %の場合には、Ac3点以上のオーステナイト単相域で行い、
ついで1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を行ったのち、仕上げ焼鈍を施すことを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。 - 請求項4において、鋼スラブが、さらに質量百分率で
Sbおよび/またはSn:0.01〜0.40%、
を含有する組成になることを特徴とする無方向性電磁鋼板。 - 請求項4または5において、冷間圧延により、鋼板の板厚を0.35mm以下にすることを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。
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