JP3766745B2 - 磁性焼鈍後の鉄損の低い無方向性電磁鋼板 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、磁性焼鈍後の鉄損の低い無方向性電磁鋼板に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
無方向性電磁鋼板は、面内の磁気異方性が小さいという特徴を活かして、各種モータの鉄心材料として多量に使用されている。無方向性電磁鋼板は、フルプロセス材とセミプロセス材に分けられる。このうち、フルプロセス材は、鉄鋼メーカ側の仕上焼鈍により所定の磁気特性を得るものである。セミプロセス材は、需要家において打ち抜き加工後に歪取り焼鈍(Stress-Relief Annealing,略してSRA)を行うことにより、所定の磁気特性を得るものである。セミプロセス材では、SRA時に、加工歪みの除去と同時に結晶粒も成長することから、より一層の鉄損低減が可能となる。このため、SRAは「磁性焼鈍」とも呼ばれている。
【0003】
従来、この磁性焼鈍時の粒成長性を良好にするために、介在物、析出物の形態制御が行われている。
たとえば、特開昭63−195217号公報には、Si=0.1〜1.0%、sol.Al=0.001〜0.005%の鋼板において、鋼中のSiO2、MnO、Al2O3の3種の介在物の総重量に対するMnOの重量割合を15%以下とすることにより、介在物の形態を制御し、磁性焼鈍時の粒成長性を良好にする技術が開示されている。
【0004】
また、特開平8−3699号公報には、Si=1.0%以下、Al=0.2〜1.5%において、REMを2〜80ppm添加することにより、磁性焼鈍時の粒成長性を向上させる技術が開示されている。
【0005】
さらに、特開平5−234736号公報には、Si=0.1〜2.0%、Al=0.1〜1.0%、S<0.003%、Sn=0.01〜0.03%の鋼板において、鋼中のSiO2、MnO、Al2O3の3種の介在物の総重量に対するMnOの重量割合を10%以下とすることにより、介在物の形態を制御し、熱延加熱温度を900〜1100℃とし、熱延後のバッチ焼鈍を700〜900℃で実施することにより、粒成長性を良好にする技術が開示されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特開昭63−195217号公報に開示される技術においては、磁性焼鈍後の鉄損の値は、4.44〜4.75W/kgであり、満足できるものではない。
特開平8−3699号公報に開示される技術においては、REMを使用するため、コストアップが避けられないという問題点がある。
また、特開平5−234736号公報に記載される技術においては、バッチ焼鈍が必須であるため、コストアップが避けられないという問題点がある。
【0007】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、コストアップを伴うことなく生産できる、磁性焼鈍後の鉄損の低い無方向性電磁鋼板を提供することを課題とする。
【0008】
【課題を解決するための手段および作用】
本発明の骨子は、無方向性電磁鋼板において、TiとSbの複合添加により、粒成長を大幅に向上させ、それによって鉄損を低下させることである。
【0009】
前記課題を解決するための第1の手段は、重量%で、C:0.005%以下、Si:1.7%以下、Mn:0.05〜1.0%、P:0.2%以下、N:0.005%以下、Al:0.1〜1.0%、S:0.01%以下、Sb:0.001〜0.05%、Ti:0.0005〜0.01%を含有し、残部がFe及び不可避不純物であることを特徴とする磁性焼鈍後の鉄損の低い無方向性電磁鋼板(請求項1)である。
前記課題を解決するための第2の手段は、重量%で、C:0.005%以下、Si:1.7%以下、Mn:0.05〜1.0%、P:0.2%以下、N:0.005%以下(0を含む)、Al:0.1〜1.0%、S:0.01%以下(0を含む)、Sb : 0.002 〜 0.01 %、Ti:0.0005〜0.01%を含有し、残部が実質的にFeであることを特徴とする磁性焼鈍後の鉄損の低い無方向性電磁鋼板(請求項2)である。
【0010】
ここで「残部が実質的にFeである」とは、本発明の作用効果を無くさない限り、不可避不純物を始め、他の微量元素を含有するものが本発明の範囲に含まれることを意味するものである。
【0011】
(発明に至る経緯とTi、Sbの限定理由)
発明者らは、無方向性電磁鋼板の鉄損低減手法について鋭意研究を行った。
最初に、鉄損に及ぼすSbの影響を調査するため、C:0.0020%、Si:0.25%、Mn:0.50%、P:0.10%、Al:0.25%、S:0.003%、N:0.0018%とし、(1)Ti free、Sb freeとした鋼(2)Ti free、Sb:0.004%とした鋼(3)Ti:0.004%、Sb freeとした鋼(4)Ti :0.004%、Sb:0.004%とした鋼の4種類の材料を実験室にて真空溶解し、熱延後、酸洗を行った。引き続き板厚0.5mmまで冷間圧延し、25%H2−75%N2雰囲気で750℃×2min間の仕上焼鈍を行い、その後、100%N2中にて750℃×2hrの磁性焼鈍を施した。
【0012】
表1に、このようにして得られたサンプルの磁気特性を示す。ここで、磁気測定は25cmエプスタイン法により行った。
【0013】
【表1】
【0014】
表1より、磁束密度にはSbおよびTi添加の影響は認められないことがわかる。鉄損はSb単独添加ではほとんど変化せず、Ti単独添加鋼では増加することがわかる。これに対し、Ti、Sbを複合添加した場合には大幅に低下することがわかる。
【0015】
この鉄損低下の原因を調査するため光学顕微鏡にて組織観察を行った。その結果、無添加材に比べ、Sb単独添加鋼では結晶粒径は変化せず、Ti単独添加鋼では細粒となっていた。これに対し、Ti、Sb複合添加鋼の結晶粒は無添加材に比べ粗大化していることが明らかとなった。
【0016】
このようにTi、Sbの複合添加により粒成長性が向上する理由は明確でないが、析出物形態に何らかの影響を及ぼしているものと考えられる。このような、Ti、Sbの複合添加により粒成長性が向上し、鉄損が低下することは従来知られておらず、全く新規な知見である。
【0017】
次にSbの最適添加量を調査するため、C:0.0026%、Si:0.25%、Mn:0.50%、P:0.10%、Al:0.25%、S:0.003%、N:0.0020%、Ti:0.004%とし、Sb量をtr.〜600ppmの範囲で変化させた鋼を実験室真空溶解し、熱延後、酸洗を行った。引き続き、板厚0.5mmまで冷間圧延し、25%H2−75%N2雰囲気で750℃×2min間の仕上焼鈍を行い、その後、100%N2中にて750℃×2hrの磁性焼鈍を施した。 図1に、Sb量と磁性焼鈍後の鉄損W15/50の関係を示す。図1より、Sb添加量が10ppm以上の領域で鉄損が低下することがわかる。しかし、Sbをさらに添加し、Sb>100ppmとなった場合には、鉄損は再び増大することもわかる。
【0018】
このSb>100ppmの領域での鉄損増大原因を調査するため、光学顕微鏡による組織観察を行った。その結果、平均結晶粒径が若干小さくなっていた。この原因は明確ではないが、Sbが粒界に偏析しやすい元素であるため、Sbの粒界ドラッグ効果により粒成長性が低下したものと考えられる。但し、Sbを500ppmまで添加しても鉄損はSbフリー鋼よりも低いことがわかる。
【0019】
以上のことよりSbは10ppm以上とし、コストの観点より上限を500ppmとする。また、鉄損の観点より20ppm以上100ppm以下とすることが望ましい。
【0020】
次にTiの最適添加量を調査するため、C:0.0023%、Si:0.24%、Mn:0.55%、P:0.11%、Al:0.26%、S:0.003%、N:0.0020%、Sb:0.004%とし、Ti量をtr.〜120ppmの範囲で変化させた鋼を実験室真空溶解し、熱延後、酸洗を行った。引き続き、板厚0.5mmまで冷間圧延し、25%H2−75%N2雰囲気で750℃×2min間の仕上焼鈍を行い、その後、100%N2中にて750℃×2hrの磁性焼鈍を施した。
【0021】
図2に、Ti量と鉄損W15/50の関係を示す。図2より、Ti添加量が5ppm以上の領域で鉄損が低下することがわかる。しかし、Tiをさらに添加し、Ti>100ppmとなった場合には、鉄損は再び増大することもわかる。
【0022】
このTi>100ppmの領域での鉄損増大原因を調査するため、光学顕微鏡による組織観察を行った。その結果、平均結晶粒径が若干小さくなっていた。この原因はTi量の増大にともないfree Tiのドラッグ効果が大きくなるためと考えられる。
【0023】
以上のことより、Tiは5ppm以上とし上限を100ppmとする。また、鉄損の観点より10ppm以上60ppm以下とすることが望ましい。
【0024】
(その他の成分の限定理由)
次に、その他の成分の限定理由について説明する。
C: Cは磁気時効の問題があるため0.005%以下とする。
Si: Siは鋼板の固有抵抗を上げるために有効な元素であるが、1.7%を超えると飽和磁束密度の低下に伴い磁束密度が低下するため上限を1.7%とする。
Mn: Mnは熱間圧延時の赤熱脆性を防止するために、0.05%以上必要であるが、1.0%以上になると磁束密度を低下させるので0.05〜1.0%とする。
P: Pは鋼板の打ち抜き性を改善するために必要な元素であるが、0.2%を超えて添加すると鋼板が脆化するため0.2%以下とする。
N: Nは、含有量が多い場合にはAlNの析出量が多くなり、粒成長性が低下しするため0.005%以下とする。
【0025】
Al: Alは微量に添加すると微細なAlNを生成し磁気特性を劣化させる。このため、下限を0.1%以上とし、AlNを粗大化する必要がある。一方、1.0%以上になると磁束密度を低下させるため上限は1.0%以下とする。
S: Sは含有量が多い場合にはMnSの析出量が多くなり、粒成長性が低下するため0.01%以下とする。
【0026】
(製造方法)
本発明においては、Sb、Tiをはじめ、前記各成分が所定の範囲内であれば、製造方法は通常の無方向性電磁鋼板を製造する方法でかまわない。すなわち、転炉で吹練した溶鋼を脱ガス処理し所定の成分に調整し、引き続き鋳造、熱間圧延を行う。熱間圧延時の仕上焼鈍温度、巻取り温度は特に規定する必要はなく、通常の範囲でかまわない。また、熱延後の熱延板焼鈍は行っても良いが必須ではない。次いで一回の冷間圧延、もしくは中間焼鈍をはさんだ2回以上の冷間圧延により所定の板厚とした後に、最終焼鈍を行い、さらに磁性焼鈍を行う。
【0027】
【実施例】
表2に示す鋼を用い、転炉で吹練した後に脱ガス処理を行うことにより所定の成分に調整後鋳造し、スラブを1200℃で1hr加熱した後、板厚2.0mmまで熱間圧延を行った。熱延仕上げ温度は800℃とした。巻取り温度は670℃とし、酸洗後、板厚0.5mmまで冷間圧延を行い、表2に示す仕上焼鈍条件で焼鈍を行い、その後、100%N2雰囲気にて750℃×2hrの磁性焼鈍を施した。
磁気測定は25cmエプスタイン試験片を用いて行った。各鋼板の磁気特性を表2に併せて示す。
【0028】
【表2】
【0029】
表2より、備考欄に本発明鋼と記載した、全ての成分値が本発明の範囲内である鋼板は、他の鋼板に比して、鉄損W15/50が低く、磁束密度B50が高い。
【0030】
これに対して、No.8の鋼板は、SbとTiの含有量が本発明の範囲を下回っているので、鉄損が高い。
No.9の鋼板は、Sbの含有量が本発明の範囲を下回っており、No.10の鋼板は、Sbの含有量が本発明の範囲を超えているので、共に鉄損が高い。
No.11の鋼板は、Tiの含有量が本発明の範囲を下回っており、No.12の鋼板は、Tiの含有量が本発明の範囲を超えているので、共に鉄損が高い。
【0031】
No.13の鋼板は、Cの含有量が本発明の範囲を超えているので、鉄損が高くなっているのみならず、磁気時効の問題を有している。
No.14の鋼板は、Siの含有量が本発明の範囲を超えているので、鉄損は低くなっているものの、磁束密度が低くなっている。
No.15の鋼板は、Mnの含有量が本発明の範囲を超えているので、鉄損は低いものの磁束密度が低くなっている。
【0032】
No.16の鋼板は、Alの含有量が本発明の範囲を下回っているので、鉄損が高く、かつ、磁束密度が低くなっている。逆に、No.17の鋼板は、Alの含有量が本発明の範囲を超えているので、鉄損は低いものの、磁束密度が低くなっている。
No.18の鋼板は、Nの含有量が本発明の範囲を超えているので、鉄損が高くなっている。
【0033】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明は、重量%で、C:0.005%以下、Si:1.7%以下、Mn:0.05〜1.0%、P:0.2%以下、N:0.005%以下、Al:0.1〜1.0%、S:0.01%以下、Sb:0.001〜0.05%、Ti:0.0005〜0.01%を含有し、残部がFe及び不可避不純物であることを特徴とするもの、及び、重量%で、C:0.005%以下、Si:1.7%以下、Mn:0.05〜1.0%、P:0.2%以下、N:0.005%以下(0を含む)、Al:0.1〜1.0%、S:0.01%以下(0を含む)、Sb:0.002 〜 0.01 %、Ti:0.0005〜0.01%を含有し、残部が実質的にFeであることを特徴とするものであるので、磁性焼鈍後の鉄損の低い無方向性電磁鋼板が、コストアップを伴うことなく得られる。
本発明に係る無方向性電磁鋼板は、モータやトランスの鉄心等、低い鉄損が必要とされる電気材料に広く使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 Sb量と磁性焼鈍後の鉄損との関係を示す図である。
【図2】 Ti量と磁性焼鈍後の鉄損との関係を示す図である。
Claims (2)
- 重量%で、C:0.005%以下、Si:1.7%以下、Mn:0.05〜1.0%、P:0.2%以下、N:0.005%以下(0を含む)、Al:0.1〜1.0%、S:0.01%以下(0を含む)、Sb:0.001〜0.05%、Ti:0.0005〜0.01%を含有し、残部がFe及び不可避不純物であることを特徴とする磁性焼鈍後の鉄損の低い無方向性電磁鋼板。
- 重量%で、C:0.005%以下、Si:1.7%以下、Mn:0.05〜1.0%、P:0.2%以下、N:0.005%以下(0を含む)、Al:0.1〜1.0%、S:0.01%以下(0を含む)、Sb : 0.002 〜 0.01 %、Ti:0.0005〜0.01%を含有し、残部が実質的にFeであることを特徴とする磁性焼鈍後の鉄損の低い無方向性電磁鋼板。
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