JP4255256B2 - 酸化マグネシウム蒸着材の原料用酸化マグネシウム粉末 - Google Patents

酸化マグネシウム蒸着材の原料用酸化マグネシウム粉末 Download PDF

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電子ビーム蒸着法によりAC型プラズマディスプレイパネルの誘電体層の保護膜として機能する酸化マグネシウム膜を成膜する際に用いる酸化マグネシウム蒸着材の製造原料となる酸化マグネシウム粉末に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
AC型プラズマディスプレイパネル(AC型PDP)の誘電体層の表面には、一般に保護層として酸化マグネシウム膜が形成されている。この酸化マグネシウム膜の成膜には、電子ビーム蒸着法(EB法)が広く利用されている。
【0003】
電子ビーム蒸着法により酸化マグネシウム膜を成膜するための蒸着材として、従来より酸化マグネシウムの単結晶体が多用されている。また、最近では、酸化マグネシウム粉末を焼結させて得た酸化マグネシウムの多結晶焼結体ペレットの使用も検討されている。
【0004】
特開平10−291854号公報には、高純度の多結晶焼結体ペレットを蒸着材として用いることによって、電子ビーム蒸着法により、AC型プラズマディスプレイパネルの酸化マグネシウム膜を効率的に成膜できるとの記載がある。なお、この公報の実施例では、純度99.9%の酸化マグネシウム粉末を用いて純度99.9%の酸化マグネシウム焼結体ペレットが製造されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
AC型プラズマディスプレイパネルでは、誘電体層の保護膜として機能する酸化マグネシウム膜の膜厚などが不均一になると、プラズマディスプレイパネルの放電開始電圧や駆動電圧が高くなる傾向にあるため、均質性の高い酸化マグネシウム膜を成膜できる蒸着材の開発が望まれている。特に最近では、AC型プラズマディスプレイパネルの大画面化が図られており、これに伴い広い面積にわたって均質性の高い酸化マグネシウム膜を短時間で成膜できる蒸着材の開発が望まれている。
【0006】
本発明者は、種々の酸化マグネシウム粉末を用いて多結晶焼結体ペレットを製造し、その多結晶焼結体ペレット表面の状態を観察したところ、高純度かつ一次粒子がある特定の形状をもつ酸化マグネシウム粉末を用いて製造した焼結体ペレットには、表面に先端が丸味を帯びた突起が多数形成される傾向にあることを見い出した。さらに本発明者は研究を進めたところ、そのような突起が形成された多結晶焼結体ペレットを蒸着材に用いると、表面が平坦な多結晶焼結体ペレットを用いた場合と比べて、広範囲にわたって均質性の高い酸化マグネシウム膜を短時間で成膜することができることが判明した。
従って、本発明の課題は、特に大画面のAC型プラズマディスプレイパネルの誘電体層の保護膜を形成する際に有利に用いることができる酸化マグネシウム蒸着材の製造原料となる酸化マグネシウム粉末を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、純度が99.98質量%より高く、BET比表面積が5〜10m2/gの範囲にあり、一次粒子の形状が立方体であることを特徴とする電子ビーム蒸着法により酸化マグネシウム膜を成膜するための、表面に底部の平均直径が1〜20μmの範囲にあり、高さが底部の直径に対して1/5〜4/5の範囲にある、先端が丸味を帯びた突起が多数形成された多結晶焼結体ペレットからなる酸化マグネシウム蒸着材の原料用酸化マグネシウム粉末にある。
【0008】
本発明の好ましい態様は、次の通りである。
(1)純度が99.985質量%以上にある。
(2)BET比表面積が7〜9m2/gの範囲にある。
(3)気相酸化反応法により製造されたものである。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明の酸化マグネシウム粉末はまず、純度が99.98質量%より高く、好ましくは99.985質量%以上であることに特徴がある。ここで、酸化マグネシウム粉末の純度は差数法により求めた値であり、具体的には酸化マグネシウム粉末中のカルシウム、ケイ素、鉄、マンガン、亜鉛、クロム、アルミニウム、ナトリウム、カリウム、ニッケル、ホウ素、ジルコニウム、モリブテン、そしてバナジウムの含有量をそれぞれ定量し、これらの金属含有量を酸化カルシウム(CaO)、酸化ケイ素(SiO2)、酸化鉄(Fe23)、酸化マンガン(MnO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化クロム(Cr23)、酸化アルミニウム(Al23)、酸化ナトリウム(Na2O)、酸化カリウム(K2O)、酸化ニッケル(NiO)、酸化ホウ素(B23)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化モリブテン(MoO)、そして酸化バナジウム(VO)の酸化物含有量に換算して、100から差し引いた値である。
【0010】
本発明の酸化マグネシウム粉末はまた、比表面積が5〜10m2/gの範囲、好ましくは7〜9m2/gの範囲にあることにも特徴がある。ここで、酸化マグネシウム粉末の比表面積は、BET法により測定した値である。
【0011】
本発明の酸化マグネシウム粉末はさらに、一次粒子の形状が立方体であることにも特徴がある。
【0012】
上記の純度、比表面積、及び粒子形状を満たす酸化マグネシウム粉末は、例えば、高純度の金属マグネシウム蒸気と酸素とを気相中で反応させる気相酸化反応法によって製造することができる。
【0013】
次に、本発明の酸化マグネシウム粉末を製造原料として用いる多結晶焼結体ペレットの製造方法について説明する。
多結晶焼結体ペレットは、例えば、本発明の酸化マグネシウム粉末を、バインダを含む水性分散媒体に混合分散して酸化マグネシウムスラリを調製し、次いでこの酸化マグネシウムスラリをスプレードライヤにより噴霧乾燥することにより、酸化マグネシウム粉末の造粒物を得て、得られた造粒物をペレット状に成形し、そしてペレット状成形物を焼成して、酸化マグネシウム粉末を焼結させることによって製造することができる。
【0014】
水性分散媒体には、水と水に相溶性を示す有機溶媒の混合物、もしくは水を用いることができる。特に水を用いることが好ましい。有機溶媒の例としては、エタノールなどのアルコール、アセトンなどのケトンを挙げることができる。水と有機溶媒とを混合する場合の有機溶媒の含有量は全体の50質量%未満とすることが好ましい。
【0015】
バインダには、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、及び水溶性アクリル系共重合物などの水溶性ポリマーを用いることができる。水性分散媒体のバインダ濃度は、0.1〜10質量%の範囲にあることが好ましい。また、水性分散媒体には、分散剤を添加してもよい。この分散剤には、ポリカルボン酸塩、特にポリカルボン酸のアンモニウム塩が好ましく用いることができる。水性分散媒体の分散剤濃度は、0.1〜6質量%の範囲にあることが好ましい。
【0016】
酸化マグネシウムスラリ中の酸化マグネシウム粉末の濃度は、30〜75質量%の範囲にあることが好ましい。
【0017】
酸化マグネシウムスラリを調製してからそのスラリをスプレードライヤにより噴霧乾燥するまでの間に、酸化マグネシウム粉末の表面の一部が水和して水酸化マグネシウムが生成することもある。但し、スラリから得られる造粒物の水和率(造粒物中の水酸化マグネシウム量)は50質量%以下(特に、30質量%以下、更に5質量%以下)となるようにすることが好ましい。水和率が50質量%未満の造粒物を得るには、酸化マグネシウムスラリを調製してからスプレードライヤにより噴霧乾燥するまでの時間を短くする、すなわち酸化マグネシウム粉末と水との接触時間を短くするのが簡便かつ有効な方法である。具体的には、酸化マグネシウムスラリを調製してから、2時間以内にそのスラリをスプレードライヤにより噴霧乾燥することが好ましい。また、酸化マグネシウムスラリを調製してからスプレードライヤにより噴霧乾燥するまでの間は、スラリの温度を30℃以下(特に、10〜30℃)に維持することが好ましい。
【0018】
酸化マグネシウムスラリをスプレードライヤにより噴霧乾燥する際の乾燥温度は、200〜280℃の範囲にあることが好ましい。
【0019】
造粒物を成形してペレットを製造する場合には、通常のプレス成形法を用いることができる。成形圧は、0.3〜3トン/cm2の範囲、好ましくは1〜3トン/cm2の範囲にある。
【0020】
ペレット状成形物の焼成は、1400〜1800℃の温度にて行うことが好ましい。焼成時間は、成形物のサイズ(特に、厚さ)や焼成温度などの要件により変わるので一律に定めることはできないが、一般に1〜5時間である。
【0021】
上記のようにして製造される酸化マグネシウムの多結晶焼結体ペレットは、表面に先端が丸味を帯びた突起が多数形成されている。この多結晶焼結体ペレットを用いて酸化マグネシウム膜を成膜すると、表面が平坦な多結晶焼結体ペレットを用いた場合と比べて、広範囲にわたって均質性の高い酸化マグネシウム膜を短時間で成膜することができることの理由は明らかではないが、表面に形成された突起の分だけ電子ビームの照射面積が広くなり、酸化マグネシウム蒸気の生成量が増えるためと考えられる。また、突起の先端が丸味を帯びているので、電子ビームを突起の全体に均一に照射することができる。このため、酸化マグネシウム蒸気の生成量も安定し、突起の先端が欠けにくくなる。
【0022】
本発明の酸化マグネシウム蒸着材の突起の高さは、突起の底部の直径に対して1/5〜4/5の範囲にあることが好ましく、1/5〜3/5の範囲にあることがより好ましい。また、突起底部の平均直径が1〜20μmの範囲にあることが好ましく、1〜10μmの範囲にあることがより好ましい。
【0023】
突起の個数は、100μm×100μm当たり、1〜10000個の範囲にあることが好ましく、25〜1000個の範囲にあることがより好ましい。
【0024】
本発明の酸化マグネシウム蒸着材において、多結晶焼結体ペレットの結晶粒子の大きさは、1〜200μmの範囲にあることが好ましく、1〜100μmの範囲にあることがより好ましい。
【0025】
【実施例】
[実施例1]
気相酸化反応法により製造された酸化マグネシウム粉末(純度:99.985質量%、比表面積:7.5m2/g、一次粒子の形状:立方体)50質量部を、ポリエチレングリコール濃度6質量%、及びポリカルボン酸アンモニウム塩濃度1質量%の水50質量部に混合分散して、酸化マグネシウム濃度50質量%、ポリエチレングリコール濃度3質量%、及びポリカルボン酸アンモニウム塩濃度0.5質量%の酸化マグネシウムスラリ(温度:25℃)を調製した。調製後スラリ温度を25℃に維持しながら速やかに(約15分後)、この酸化マグネシウムスラリをスプレードライヤを用いて噴霧乾燥(乾燥温度:230℃)して、酸化マグネシウム粉末の造粒物を得た。得られた造粒物は、平均粒子径が50μm、水和率が約1質量%であった。この造粒物を成形圧2トン/cm2にてペレット状(直径6.0mm、高さ:2.5mm、成形体密度:2.19g/cm3)に成形した。そして最後に、ペレット状成形体を、電気炉を用いて1650℃の温度で2時間焼成して、酸化マグネシウム粉末を焼結させた。
【0026】
得られた酸化マグネシウム焼結体ペレットの純度及び相対密度を測定したところ、純度は99.981質量%、相対密度は96.1%であった。
【0027】
得られた酸化マグネシウム焼結体ペレットの表面(平坦部)を、電子顕微鏡を用いて真上から観察した。その電子顕微鏡により得られた画像を図1に示す。図1に示すように、焼結体ペレットの表面には直径が約1〜10μmの酸化マグネシウム結晶粒子が形成されていることがわかる。
【0028】
得られた酸化マグネシウム焼結体ペレットを図2に示すように、厚さ方向に切断して、焼結体ペレット1の表面2を、電子顕微鏡を用いて表面2に対して角度θ(約45度)にて傾けて切断面3側から観察した。その電子顕微鏡により得られた画像を図3に示す。図3に示すように、焼結体ペレットの表面には、先端が丸味を帯びた突起が多数形成されていることがわかる。また、電子顕微鏡の画像から10個の突起を選び、その突起底部の直径を測定したところ、その平均直径は2.0μmであった。さらに、その突起の高さを測定し、下記の式により補正したところ、補正後の突起の高さは底部の直径に対して1/5〜3/5の範囲にあった。
【0029】
【数1】
突起の高さ=電子顕微鏡画像から測定された突起の高さ×sin(90−θ)
但し、θは、電子顕微鏡画像を得たときの焼結体ペレットの傾き
【0030】
【発明の効果】
本発明の酸化マグネシウム粉末を原料として用いることによって、表面に先端が丸味を帯びた突起が多数形成されている多結晶の焼結体ペレットを製造することができる。そして、その焼結体ペレットは、AC型プラズマディスプレイパネルの酸化マグネシウム膜の成膜用の蒸着材として有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1にて製造した酸化マグネシウム焼結体ペレットの表面を、真上から観察した電子顕微鏡の画像である。
【図2】酸化マグネシウム焼結体ペレットを傾けて、その表面を観察する方法を説明するための図である。
【図3】実施例1にて製造した酸化マグネシウム焼結体ペレットを傾けて、その表面を観察した電子顕微鏡の画像である。
【符号の説明】
1 酸化マグネシウム焼結体ペレット
2 表面
3 切断面

Claims (4)

  1. 純度が99.98質量%より高く、BET比表面積が5〜10m2/gの範囲にあり、かつ一次粒子の形状が立方体であることを特徴とする電子ビーム蒸着法により酸化マグネシウム膜を成膜するための、表面に底部の平均直径が1〜20μmの範囲にあり、高さが底部の直径に対して1/5〜4/5の範囲にある、先端が丸味を帯びた突起が多数形成された多結晶焼結体ペレットからなる酸化マグネシウム蒸着材の原料用酸化マグネシウム粉末。
  2. 純度が99.985質量%以上にあることを特徴とする請求項1に記載の酸化マグネシウム粉末。
  3. BET比表面積が7〜9m2/gの範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の酸化マグネシウム粉末。
  4. 気相酸化反応法により製造されたものであることを特徴とする請求項1に記載の酸化マグネシウム粉末。
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