JP4251392B2 - レーダ装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は送信信号の帯域によって制限される解像度以上の精度で観測対象の位置と観測対象の反射係数を検出する超解像処理を行うレーダ装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ポラリメトリックレーダに適用して超解像処理を行うレーダ装置に関する従来の技術としては、例えば非特許文献1がある。この発明の図1を引用して説明すると、この従来の技術の超解像処理は、複数偏波帯域拡張部108に相当する手段で行われることになる。そこでは、フーリエ変換部107により複数の偏波チャネルの受信信号が複数のスペクトル信号に変換され、複数偏波帯域拡張部108に相当する手段において、これら複数のスペクトル信号から複数偏波線形予測係数を算出する。これらの係数は、サンプル番号の増加する向きに次のサンプル値を予測する前方予測係数とサンプル番号の減少する向きに次のサンプル値を予測する後方予測係数からなる。そして、算出された前方予測係数を用いてサンプル番号の増加する向きに受信帯域の外側のスペクトルを外挿し、また、後方予測係数を用いてサンプル番号の減少する向きに受信帯域の外側のスペクトルを外挿して複数のスペクトル信号の帯域を拡張するようにしている。このことにより、複数の反射点が極めて近接して存在するような場合でも、受信信号の分解能を高めることが可能となる。
【0003】
【非特許文献1】
「ポラリメトリック線形予測帯域外挿法によるレンジ高分解能化」諏訪 啓、岩本 雅史、桐本 哲郎、電子情報通信学会2001年ソサイエティ大会予稿集B−2−5、p.178
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
従来のレーダ装置は以上のように構成されているが、推定される複数偏波線形予測モデルは、雑音等の影響により不安定系となって、外挿されるスペクトルが発散する傾向にあり、帯域拡張後のスペクトル信号を逆変換しても、しばしば結像しないという問題が発生する。また、従来のレーダ装置の方法では、線形予測モデルの次数が既知であることが必要とされるが、実際の観測において複数偏波線形予測モデルの次数が既知であることは極めてまれであるため、次数を多めに見積もる必要があった。このことが、推定される複数偏波線形予測モデルを不安定系とする一因となると共に、得られる時間領域の信号の精度を低下させる原因となるという問題があった。
【0005】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、信号の帯域によって制限された解像度以上の精度で観測対象の位置と観測対象の反射係数を検出する超解像処理の方法において、偏波の情報を用いることで、観測対象の位置と観測対象の反射係数の検出精度を向上させることができるレーダ装置を得ることを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
この発明に係るレーダ装置は、相互に偏波特性の異なる複数のアンテナを用いて複数の偏波信号を受信する受信手段と、受信された複数の偏波信号をそれぞれ変換して複数のスペクトル信号を生成する変換手段と、変換手段により生成された複数のスペクトル信号を、多変量に対応した計算式の各変量にあてはめることにより、複数のスペクトル信号に適した複数偏波線形予測モデルの次数と該次数における線形予測係数を算出する複数偏波線形予測係数推定手段と、算出された複数偏波線形予測係数を用いて生成したスペクトルを複数のスペクトル信号の各帯域の外側に外挿し、帯域が拡張された複数のスペクトル信号を生成するスペクトル外挿手段と、帯域が拡張された複数のスペクトル信号を偏波信号に逆変換する逆変換手段とを備え、変換手段から複数のスペクトル信号が入力されると、はじめに1次の複数偏波線形予測モデルと仮定して、スペクトル信号の予測値を求めるための前方予測係数K 及び後方予測係数K を数式1に基づいて算出し、且つ前記スペクトル信号の予測値と真値との差分を算出した前方予測誤差及び後方予測誤差に基づいて予測誤差の二乗平均値を算出し、続いて、該1次の複数偏波線形予測モデルで算出した前方予測係数と後方予測係数、及び予測誤差の二乗平均値に基づいて、2次,3次,・・・,L次の順に次数を増加させて各次数における前方予測係数と後方予測係数、及び予測誤差の二乗平均値を算出する前方・後方予測係数推定手段と、前方・後方予測係数推定手段が各次数において算出した予測誤差の二乗平均値の大きさを用いて、該複数のスペクトル信号に最適な次数を判定する判定手段とを有し、判定手段により最適と判定された次数における複数偏波線形予測係数を出力するものである。
【数1】
Figure 0004251392
ただし、
(m)、e (m)は、それぞれL次モデルの前方予測誤差、後方予測誤差であり、
fp (m)=X (m)、e bp (m)=X (m−1)、(p=1,2,3)、(m=2,3,…,M)とする。
また、X (m)はスペクトル信号であり、上付きの*Tは行列の共役転置を表す。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の実施の一形態を説明する。
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1によるレーダ装置の構成を示すブロック図である。図において、送信機(送信手段)101が広帯域パルスとしてパルス信号を生成すると、送受切換器102が当該パルス信号を偏波切換器103に送る。偏波切換器103は、第1偏波送受信アンテナ104を駆動することにより、そのパルス信号を第1偏波送受信アンテナ104から空間に放射させる。空間に放射されたパルス信号は観測対象によって散乱される。
【0008】
偏波切換器103は、第1偏波送受信アンテナ104と第2偏波送受信アンテナ105の双方を駆動し、観測対象によって散乱された散乱波を各アンテナでそれぞれ受信すると、散乱波の各受信信号を、送受切換器102を介して受信機(受信手段)106に送る。ここで、第1偏波送受信アンテナ104と第2偏波送受信アンテナ105の偏波特性は互いに直交する関係を有する。なお、第1偏波送受信アンテナ104および第2偏波送受信アンテナ105における偏波特性が直交する組み合わせとして、例えば、垂直偏波と水平偏波の組み合わせや、右旋円偏波と左旋円偏波の組み合わせなどが考えられる。
【0009】
受信機106において、第1偏波送受信アンテナ104と第2偏波送受信アンテナ105が受信した散乱波の受信信号のそれぞれに対して、位相検波処理とA/D変換処理を実施し、それぞれの受信信号の振幅と位相を示すディジタル受信信号x(m)、x(m)を出力する。なお、x(m)は、第p偏波チャネル(p=1,2,3,4,詳細は後述する。)の受信信号のm番目(m=1,2,…,M)のサンプル値である。ここで、Mはサンプル数である。
同様に、送信機101で生成した広帯域パルスは、送受切換器102を介して偏波切換器103に送り、これを第2偏波送受信アンテナ105から観測対象に照射される。第1偏波送受信アンテナ105と第2偏波送受信アンテナ106において受信された散乱波の受信信号に対しても、受信機106で同様の処理を繰り返すことにより、受信信号x(m)、x(m)を得る。
【0010】
なお、ここで、第1偏波チャネルの受信信号は第1偏波送受信アンテナ104で送信して第1偏波送受信アンテナ104で受信した受信信号とし、第2偏波チャネルの受信信号は第1偏波送受信アンテナ104で送信して第2偏波送受信アンテナ105で受信した受信信号とし、また、第3偏波チャネルの受信信号は第2偏波送受信アンテナ105で送信して第2偏波送受信アンテナ105で受信した受信信号とし、第4偏波チャネルの受信信号は第2偏波送受信アンテナ105で送信して第1偏波送受信アンテナ104で受信した受信信号として定義する。
【0011】
図4は第1偏波送受信アンテナ104と第2偏波送受信アンテナ105の各時刻の動作モードについて示している。図中のインターバルは、受信信号x(m),x(m),x(m),x(m)の一組を得るのに要する処理のひとまとめである。レーダ装置が、送受アンテナの位置が等しいモノスタティック構成の場合には、x(m)とx(m)が等しいことは、文献“Radar polarimetry for geoscience applications ”(Ulaby 他著,Artech House Inc., 1990) などに示されており、周知である。そこで、以下の説明においては、受信信号x(m)は用いず、3つの偏波チャネルの受信信号x(m),x(m),x(m)のみを用いる。なお、偏波チャネルの数が3つ以外の場合についての拡張は容易である。
【0012】
フーリエ変換部107は、受信機106から3つの偏波チャネルの受信信号x(m),x(m),x(m)が入力されると、これらの受信信号x(m),x(m),x(m)を、それぞれフーリエ変換してスペクトル信号を出力する。ここでは、得られたスペクトル信号をX(m),X(m),X(m)として表す。ただし、m=1,2,…,Mとする。
【0013】
観測対象が、電波を散乱する反射点の集合体であるとみなせる場合、その観測対象からの散乱波は、観測対象上の反射点からの散乱波の重ねあわせと考えることができる。このとき、受信信号を離散フーリエ変換して得られるスペクトル信号は、周波数f(m=1,2,…,M)においてサンプリングされた離散的なスペクトル信号として、次式(1)のように表される。
【数1】
Figure 0004251392
ここで、m=1,2,…,M、Kは観測対象上に分布する反射点の個数、sp,kはk(k=1,2,…,K)番目の反射点の第p偏波チャネルにおける複素反射係数、τはk番目の反射点からの反射波の伝播遅延時間をそれぞれ表す。
【0014】
次に複数偏波帯域拡張部108における処理の方法について述べる。
まず、式(1)で表される等間隔でサンプリングされた複数偏波チャネルのスペクトル信号について、式(2)および式(3)に示すように3L個(Lは整数)のサンプルの線形結合によって隣接するサンプルの値を予測するモデルを考える。ここでは、このモデルをL次の複数偏波線形予測モデルと呼ぶものとする。なお、整数Lを該複数偏波線形予測モデルの次数と呼ぶ。特に、式(2)のように X(m−L)〜X(m−1),(q=1,2,3)の線形結合によって式(2)のように次のサンプル値X(m)を予測することを前方予測と呼び、同様に式(3)のようにX(m−L+1)〜X(m),(q=1,2,3)の線形結合によってX(m−L)を予測することを後方予測と呼ぶ。
【0015】
【数2】
Figure 0004251392
Figure 0004251392
【0016】
【数3】
Figure 0004251392
ここで、p=1,2,3、m=L+1,L+2,…,M、上付きのTは転置を表す。なお、L次モデルによって予測されるスペクトル信号X(m),X(m−L)の予測値は、一般に、それぞれX(m),X(m−L)の真値とは異なる。このときの差分は式(6)で表されるが、ここでは、それぞれL次モデルの前方予測誤差e fpと後方予測誤差e bp(p=1,2,3)と呼ぶこととする。
【0017】
【数4】
Figure 0004251392
ここで、p=1,2,3、m=L+1,L+2,…,Mとする。
【0018】
複数偏波帯域拡張部108は、フーリエ変換部107によって得られた複数のスペクトル信号X(m)が入力されると、まず、逐次型複数偏波線形予測係数推定部109において、入力された複数のスペクトル信号X(m)に適した複数偏波線形予測モデルの次数と該次数における前方予測係数と後方予測係数を算出する。ここで、逐次型複数偏波線形予測係数推定部109は、複数偏波線形予測モデルの次数を順次変化させ、各次数において、該複数のスペクトル信号に適する前方予測係数と後方予測係数と予測誤差の二乗平均値を算出し、予測誤差の二乗平均値の大きさを用いて、該複数のスペクトル信号に最適な次数を算出し、該最適と算出された次数における前方予測係数と後方予測係数を出力するように構成する。次に、複数偏波スペクトル外挿部110において、逐次型複数偏波線形予測係数推定部109において算出された線形予測係数を用いて生成したサンプルを、入力された複数のスペクトル信号X(m)の帯域の外側に外挿し、帯域が拡張された複数のスペクトル信号を生成する。
【0019】
続いて、逐次型複数偏波線形予測係数推定部109と複数偏波スペクトル外挿部110の動作の詳細な説明を行う。
図2は、逐次型複数偏波線形予測係数推定部109の詳細な構成を示すブロック図である。図3はこの発明の実施の形態1に係る逐次型複数偏波線形予測係数推定部109の処理手順を示すフローチャートである。
【0020】
ここで、始めに、説明に用いる6つの行列変数、2つのベクトル変数と1つの変数についての定義を行っておく。まず、L次モデルの前方予測係数と後方予測係数を、式(7)のように3L行3列の行列形式で表現したものを、それぞれC ,C と定義する。
【数5】
Figure 0004251392
【0021】
また、L次モデルにおけるL番目の前方予測係数と後方予測係数を、式(8)のように3行3列の行列形式で表現したものを、それぞれK ,K と定義する。
【数6】
Figure 0004251392
【0022】
さらに、L次モデルの前方予測係数と後方予測係数のうち、L−1番目までの係数を集めて、式(9)のように3(L−1)行3列の行列形式で表現したものを、それぞれC f0,C b0と定義する。
【数7】
Figure 0004251392
【0023】
さらに、L次モデルの前方予測誤差e fp(m)と後方予測誤差e bp(m)(p=1,2,3)をまとめて、式(10)のように3次の縦ベクトル形式で表現したものを、それぞれe (m),e (m)と定義する。
【数8】
Figure 0004251392
ここで、m=L+1,L+2,…,Mとする。
【0024】
さらに、L次モデルの予測誤差の二乗平均値εを式(11)のように定義する。
【数9】
Figure 0004251392
【0025】
逐次型複数偏波線形予測係数推定部109は、フーリエ変換部107からスペクトル信号X(m)(p=1,2,3;m=1,2,…,M)が入力されると、まず、複数偏波線形予測モデルの次数Lを1次と仮定して(ステップST1)、前方・後方予測係数推定部109aにおいて、式(12)によって1次モデルの前方予測係数と後方予測係数を算出する(ステップST2)。
【数10】
Figure 0004251392
ただし、
fp(m)=X(m)、e b,p(m)=X(m−1)、(m=2,3,…,M)
とする。上付きの*Tは行列の共役転置を表す。
【0026】
次に、平均二乗予測誤差算出部109bは、式(6)によって1次モデルの予測誤差e fp(m)と後方予測誤差e bp(m)(p=1,2,3;m=2,3,…,M)を算出し、さらに、式(10)および式(11)によって1次モデルの予測誤差の二乗平均値εを算出する(ステップST2)。
【0027】
判定部109cは、得られた予測誤差の二乗平均値εが十分に小さいか否かを判定して、入力したスペクトル信号を表現する複数偏波線形予測モデルの次数として、L=1次が最適であるか否かを判定する(ステップST3)。例えば、予め設定した閾値として受信機雑音電力を用い、この閾値の値と比較して予測誤差の二乗平均値εが十分に小さければ、L=1次が最適なモデルであると判定する。判定部109cにおいて、予測誤差の二乗平均値εが十分に小さいと判定された場合は、逐次型複数偏波線形予測係数推定部109は前方予測係数と後方予測係数の推定値として、式(12)で得られたC ,C を出力する(ステップST4)。一方、予測誤差の二乗平均値εが予め設定した閾値と比較して大きいと判定した場合は、ステップST1に戻って次数を一つ増やし、複数偏波線形予測モデルの次数Lを2次と仮定して、前方・後方予測係数推定部109aにおいて、2次モデルの前方予測係数と後方予測係数を算出する(ステップST2)。
【0028】
前方・後方予測係数推定部109aにおいて、L>1次の場合には、まず、L−1次モデルの前方予測誤差eL−1 (m)と後方予測誤差eL−1 (m)とを用いて、L次モデルのL番目の前方予測係数K と後方予測係数K を式(13)によって算出する。
【数11】
Figure 0004251392
【0029】
次に、L次モデルの前方予測係数と後方予測係数のうち、L−1番目までの係数を式(14)によって算出する。
【数12】
Figure 0004251392
【0030】
前方・後方予測係数推定部109aにおいて、L次モデルの前方予測係数と後方予測係数が算出されると、平均二乗予測誤差算出部109bは、再び式(6)によってL次モデルの前方予測誤差e fp(m)と後方予測誤差e bp(m)(p=1,2,3;m=L+1,3,…,M)を算出し、さらに、式(10)および式(11)によってL次モデルの予測誤差の二乗平均値εを算出する。以下、判定部109cにおいて予測誤差の二乗平均値εが十分に小さいと判定されるまで、次数Lを1づつ増加させながらステップST1〜ST3を反復し、L次モデルの前方予測係数C と後方予測係数C を求める。
逐次型複数偏波線形予測係数推定部109は、判定部109cにおいて最適と判定された次数Lの偏波線形予測モデルの前方予測係数C と後方予測係数C を複数偏波スペクトル外挿部110へ出力する(ステップST4)。
【0031】
なお、L>1次の場合、判定部109cにおいては、式(15)のような判定式を用いて判定を行うことも可能である。すなわち、L−1次モデルの予測誤差の二乗平均値εL−1とL次モデルの予測誤差の二乗平均値εの差が、閾値以下であって、次数を増加しても予測誤差の二乗平均値の減少量が小さい場合に、Lを最適な次数のモデルと判定する方法である。ここでの閾値の値としては、例えば受信機雑音電力を用いればよい。
【数13】
Figure 0004251392
【0032】
次に複数偏波スペクトル外挿部110は、逐次型複数偏波線形予測係数推定部109によって前方予測係数c と後方予測係数c とを用いて生成された各スペクトルを、受信スペクトル信号X(m)の帯域の外側に外挿し、帯域が拡張された複数のスペクトル信号を生成する。
【0033】
この場合、前方スペクトル外挿は、まず受信スペクトル信号のサンプル値より、M+1番目のサンプルを式(16)によって外挿する。
【数14】
Figure 0004251392
ここで、p=1,2,3とする。
【0034】
次に、外挿されたX(M+1)も用いて、M+2番目のサンプルを式(17)によって外挿する。
【数15】
Figure 0004251392
ここで、p=1,2,3とする。
さらに、同様にして、M+3番目、M+4番目、…、M+M番目のサンプルをサンプル番号の増加する向きに順に外挿していく。ここで、Mは外挿するサンプルの数であり、任意の値を設定することが可能である。
【0035】
一方、後方スペクトル外挿は、同様の手順でβ番目のサンプル(β=0,−1,…,−M+1)を式(18)によってサンプル番号の減少する向きに順に外挿していく。ここで、Mは外挿するサンプルの数であり、任意の値を設定することが可能である。
【数16】
Figure 0004251392
ここで、p=1,2,3とする。
【0036】
以上に示したように、始めに複数偏波線形予測モデルの次数を1次と仮定した場合の1次モデルの前方予測係数と後方予測係数を決定し、次にこの1次モデルの係数を用いて2次モデルの係数を決定し、次に3次、4次、…、L次の順で係数を決定していき、最適と判断される次数の複数偏波線形予測モデルを用いて帯域拡張を行うようにしている。
【0037】
最後に逆フーリエ変換部111は、帯域拡張後のスペクトル信号X(m),(p=1,2,3;m=−M+1,…,M+M)をそれぞれ逆フーリエ変換されることによって、帯域拡張後の時間領域の偏波信号x(m)(p=1,2,3; m=−M+1,…,M+M)を得る。
【0038】
図5に、従来の技術で推定された前方予測係数と後方予測係数を用いて受信帯域の外側のスペクトルを外挿した場合と、この実施の形態1の逐次型複数偏波線形予測係数推定部109によって推定された前方予測係数と後方予測係数を用いて受信帯域の外側のスペクトルを外挿した場合のそれぞれの計算機シミュレーション結果を対比して示す。図において、従来の技術によって推定された前方予測係数と後方予測係数を用いた場合には、外挿されたスペクトルの振幅値が発散しているが、この実施の形態1の逐次型複数偏波線形予測係数推定部109によって推定された前方予測係数と後方予測係数を用いた場合には、発散しないことが明らかである。
【0039】
以上のように、この実施の形態1によれば、始めに複数偏波線形予測モデルの次数を1次と仮定した場合の1次モデルの前方予測係数と後方予測係数を決定し、次にこの1次モデルの係数を用いて2次モデルの係数を決定し、次に3次、4次、・・・、L次の順で係数を決定してゆき、同時に、各次数における予測誤差の二乗平均値を算出し、予測誤差の二乗平均値の値を用いて次数の適合性を判定した後、最適と判定される次数の複数偏波線形予測モデルを用いて帯域拡張を行うように構成したので、入力されたスペクトル信号に最適な次数と、該次数における前方予測係数と後方予測係数を同時に推定することができるため、複数偏波線形予測モデルの次数が既知でない場合に適用が可能となる効果を奏する。同時に、推定される複数偏波線形予測モデルが不安定系となって、外挿されるスペクトルが発散することを防ぐことができる効果を奏する。
【0040】
なお、この実施の形態1では、スペクトル信号の前方と後方に対して複数偏波線形予測モデルを推定してきたが、その片方向に対してだけ複数偏波線形予測モデルを推定するようにしてもよい。また、この実施の形態1で示したように、1次、2次、・・・、L次の順で複数偏波線形予測係数の推定を逐次的に推定する代わりに、複数種類の次数における複数偏波線形予測係数を従来の技術で推定しておき、各次数における予測誤差の二乗平均値を求めて、予測誤差の二乗平均値の最も小さくなる次数の複数偏波線形予測係数を用いてスペクトルを外挿するような構成としても良い。ただし、そのような構成とした場合、外挿されるスペクトルが発散することも考えられる。
【0041】
【発明の効果】
以上のように、この発明によれば、相互に偏波特性の異なる複数のアンテナを用いて複数の偏波信号を受信する受信手段と、受信された複数の偏波信号をそれぞれ変換して複数のスペクトル信号を生成する変換手段と、変換手段により生成された複数のスペクトル信号を、多変量に対応した計算式の各変量にあてはめることにより、複数のスペクトル信号に適した複数偏波線形予測モデルの次数と該次数における線形予測係数を算出する複数偏波線形予測係数推定手段と、算出された複数偏波線形予測係数を用いて生成したスペクトルを複数のスペクトル信号の各帯域の外側に外挿し、帯域が拡張された複数のスペクトル信号を生成するスペクトル外挿手段と、帯域が拡張された複数のスペクトル信号を偏波信号に逆変換する逆変換手段とを備え、複数偏波線形予測係数推定手段は、変換手段から複数のスペクトル信号が入力されると、はじめに1次の複数偏波線形予測モデルと仮定して、スペクトル信号の予測値を求めるための前方予測係数K 及び後方予測係数K を多変量に対応した計算式に基づいて算出し、且つ前記スペクトル信号の予測値と真値との差分を算出した前方予測誤差及び後方予測誤差に基づいて予測誤差の二乗平均値を算出し、続いて、該1次の複数偏波線形予測モデルで算出した前方予測係数と後方予測係数、及び予測誤差の二乗平均値に基づいて、2次,3次,・・・,L次の順に次数を増加させて各次数における前方予測係数と後方予測係数、及び予測誤差の二乗平均値を算出する前方・後方予測係数推定手段と、前方・後方予測係数推定手段が各次数において算出した予測誤差の二乗平均値の大きさを用いて、該複数のスペクトル信号に最適な次数を判定する判定手段とを有し、判定手段により最適と判定された次数における複数偏波線形予測係数を出力するように構成したので、複数偏波線形予測モデルの次数が既知でない場合に適用が可能となり、同時に、従来のように推定される複数偏波線形予測モデルが不安定系となって、外挿されるスペクトルが発散することを防ぐ効果がある。また、線形予測モデルの次数を予め見積もる必要がないこと、その結果、次数を多めに見積もることによって起きる偏波線形予測モデルの不安定系の問題も解消し、その分外挿したスペクトル信号の振幅の発散を防ぐ効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この発明の実施の形態1によるレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図2】 同実施の形態1に係る逐次型複数偏波線形予測係数推定部の内部構成を示すブロック図である。
【図3】 同実施の形態1に係る逐次型複数偏波線形予測係数推定部の処理手順を示すフローチャートである。
【図4】 第1偏波送受信アンテナと第2偏波送受信アンテナの各時刻の動作モードについて示す説明図である。
【図5】 受信帯域の外側のスペクトルを外挿した場合の計算機シミュレーション結果を示す説明図である。
【符号の説明】
101 送信機(送信手段)、102 送受切換器、103 偏波切換器、104 第1偏波送受信アンテナ、105 第2偏波送受信アンテナ、106 受信機(受信手段)、107 フーリエ変換部(変換手段)、108 複数偏波帯域拡張部(帯域拡張手段)、109 逐次型複数偏波線形予測係数推定部(複数線形予測係数推定手段)、109a 前方・後方予測係数推定部、109b 平均二乗予測誤差算出部(平均二乗予測誤差算出手段)、109c 判定部(判定手段)、110 複数偏波スペクトル外挿部(スペクトル外挿手段)、111 逆フーリエ変換部(逆変換手段)。

Claims (4)

  1. 相互に偏波特性の異なる複数のアンテナを用いて複数の偏波信号を受信する受信手段と、
    受信された複数の偏波信号をそれぞれ変換して複数のスペクトル信号を生成する変換手段と、
    前記変換手段により生成された複数のスペクトル信号を、多変量に対応した計算式の各変量にあてはめることにより、前記複数のスペクトル信号に適した複数偏波線形予測モデルの次数と該次数における線形予測係数を算出する複数偏波線形予測係数推定手段と、
    算出された複数偏波線形予測係数を用いて生成したスペクトルを前記複数のスペクトル信号の各帯域の外側に外挿し、帯域が拡張された複数のスペクトル信号を生成するスペクトル外挿手段と、
    帯域が拡張された複数のスペクトル信号を偏波信号に逆変換する逆変換手段とを備え、
    前記複数偏波線形予測係数推定手段は、
    上記変換手段から複数のスペクトル信号が入力されると、はじめに1次の複数偏波線形予測モデルと仮定して、スペクトル信号の予測値を求めるための前方予測係数K 及び後方予測係数K を数式1に基づいて算出し、且つ前記スペクトル信号の予測値と真値との差分を算出した前方予測誤差及び後方予測誤差に基づいて予測誤差の二乗平均値を算出し、続いて、該1次の複数偏波線形予測モデルで算出した前方予測係数と後方予測係数、及び予測誤差の二乗平均値に基づいて、2次,3次,・・・,L次の順に次数を増加させて各次数における前方予測係数と後方予測係数、及び予測誤差の二乗平均値を算出する前方・後方予測係数推定手段と、
    前記前方・後方予測係数推定手段が各次数において算出した予測誤差の二乗平均値の大きさを用いて、該複数のスペクトル信号に最適な次数を判定する判定手段とを有し、
    前記判定手段により最適と判定された次数における複数偏波線形予測係数を出力することを特徴とするレーダ装置。
    Figure 0004251392
    ただし、
    (m)、e (m)は、それぞれL次モデルの前方予測誤差、後方予測誤差であり、
    fp (m)=X (m)、e bp (m)=X (m−1)、(p=1,2,3)、(m=2,3,…,M)とする。
    また、X (m)はスペクトル信号であり、上付きの*Tは行列の共役転置を表す。
  2. 判定手段は、各次数における予測誤差の二乗平均値の大きさと、予め定めた閾値とを比較して、予測誤差の二乗平均値が予め定めた閾値よりも小さい場合の次数を最適な次数と判定することを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
  3. 判定手段は、各次数における予測誤差の二乗平均値の大きさと、該次数よりも一つ小さい次数における予測誤差の二乗平均値の大きさとの差分を算出し、この差分が予め定めた閾値よりも小さい場合の次数を最適な次数と判定することを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
  4. 閾値が受信機雑音電力であることを特徴とする請求項2または請求項3記載のレーダ装置。
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