JP4250902B2 - 電動パワーステアリング装置用減速ギア - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、操舵補助出力発生用電動モータの出力をステアリングシャフトに伝達するための電動パワーステアリング装置用減速ギアに関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車に組み込まれる電動パワーステアリング装置には、電動モータに比較的高回転、低トルクのものが使用されるため、電動モータとステアリングシャフトとの間に減速機構が組み込まれている。減速機構としては、一組で大きな減速比が得られる等の理由から、図1に示されるような、電動モータ(図示せず)の回転軸に連結するウォーム12と、ウォーム12に噛み合うウォームホイール11とから構成される電動パワーステアリング装置用減速ギア20(以下、単に「減速ギア」ともいう)が使用されるのが一般的である。
【0003】
このような減速ギア20では、ウォームホイール11とウォーム12の両方を金属製にすると、ハンドル操作時に歯打ち音や振動音等の不快音が発生するという不具合を生じていた。そこで、ウォームホイール11に、金属製の芯管1の外周に、樹脂製で外周面にギア歯10を形成してなる樹脂部3を一体化させたものを使用して騒音対策を行っている。
【0004】
上記樹脂部3には、例えば特公平6−60674号公報に記載されているような、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアセタール、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等のベース樹脂に、ガラス繊維や炭素繊維等の強化材を配合した材料の他、強化材を含有しないMC(モノマーキャスト)ナイロン、ポリアミド6、ポリアミド66等の材料が提案されている。しかし、耐疲労性、寸法安定性、コスト等を考慮して、補強材を含有しないMCナイロン、ガラス繊維を含有したポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46等が現在では主流になっている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記のポリアミド系材料は、耐疲労性に優れるものの、吸水性が高く、水分を吸収してウォームホイール11のギア歯10が膨潤し、初期にウォーム12との間に存在していた隙間が無くなったり、更に膨潤するとウォーム12を圧迫する可能性もある。それによって、ギアの抵抗が重くなって、結果としてハンドルが重くなったり、また圧迫によってギア部が摩耗や損傷を起こし、装置全体として機能しなくなることも想定される。
【0006】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、ウォームホイールに求められる、特に寸法安定性に優れることで、高信頼性を備える電動パワーステアリング用減速ギアを提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的は、本発明の、操舵補助出力発生用電動モータの出力をステアリングシャフトに伝達するための電動パワーステアリング装置用減速ギアにおいて、金属製芯管の外周に、少なくとも樹脂成分がポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46から選ばれる高吸水性ポリアミド樹脂を該樹脂成分100重量%に対し60〜90重量%、ポリアミド12、ポリアミド11、ポリアミド612、ポリアミド610、芳香族ポリアミド、変性ポリアミド12から選ばれる低吸水性ポリアミド樹脂を該樹脂成分100重量%に対し10〜40重量%の比率で混合してなる相溶樹脂組成物からなり、その外周面にギア歯が形成された樹脂部を一体化してなるウォームホイールを備えることを特徴とする電動パワーステアリング装置用減速ギアにより達成される。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。
【0009】
本発明の減速ギアは、金属製の芯管の外周に、樹脂製でその外周端面にギア歯を形成した樹脂部を一体化したウォームホイールを備える。このような構成自体は、図1に示したような、芯管1と樹脂部3とを一体化した従来のウォームホイール11と同様である。また、ウォーム12には制限はなく、従来と同様に金属製とすることができる。
【0010】
但し、樹脂部の樹脂成分を、ポリアミド6(PA6)、ポリアミド66(PA66)、ポリアミド46(PA46)から選ばれる高吸水性ポリアミド樹脂と、ポリアミド12(PA12)、ポリアミド11(PA11)、ポリアミド612(PA612)、ポリアミド610(PA610)、芳香族ポリアミド、変性ポリアミド12から選ばれる低吸水性ポリアミド樹脂との相溶樹脂組成物から形成する。芳香族ポリアミドとしては、例えば変性ポリアミド6T(変性PA6T)、ポリアミドMXD6(PAMXD6),ポリアミド6I6T(PA6I6T)等を挙げることができる。また、変性ポリアミド12(変性PA12)としては、例えばPA12の構造中に芳香族環や脂肪族環を導入し、非晶性にしたもの等と挙げることができる。
【0011】
上記に挙げた各ポリアミドの20℃または23℃における飽和吸水率を表1に示す、尚、20℃の吸水率と23℃の吸水率とで実質的な差は無いとみなし、この飽和吸水率が7重量%を越えるものを高吸水性ポリアミド樹脂に分類し、飽和吸水率が7重量%未満のものを低吸水性ポリアミド樹脂に分類する。
【0012】
【表1】
Figure 0004250902
【0013】
本発明では、高吸水性ポリアミド樹脂と、低吸水性ポリアミド樹脂とを混合し、高吸水性ポリアミド樹脂の利点である耐熱性や機械的強度等を維持しつつ、低吸水性ポリアミド樹脂により樹脂全体としての吸水性を下げ、ギアとしての寸法変化を抑制する。そのため、耐熱性、機械的強度、低吸水性をバランス良く満足するために、樹脂成分を100重量%としたときに高吸水性ポリアミド樹脂を60〜90重量%、低吸水性ポリアミド樹脂を10〜40重量%の比率で混合する。低吸水性ポリアミド樹脂が10重量%未満では、吸水性の低下が不十分となり寸法変化が大きくなる。また、高吸水性ポリアミド樹脂が60重量%未満になると、組み合わせる低吸水性ポリアミド樹脂によっては耐熱性や機械的強度が実用レベルに達しないおそれがある。耐熱性を重視する場合、低吸水性ポリアミド樹脂として、変性PA12、変性PA6T、PAMXD6、PA6I6Tを選択することにより、低吸水性と耐熱性とを両立することができる。中でも、変性PA12は非晶性であることから高吸水性ポリアミド樹脂との相溶性が高く、耐熱性や低吸水性に加えて、機械的強度も高まり、特に好ましい。
【0014】
上記の相溶樹脂は、樹脂単独でも一定以上の耐久性を示し、ウォームホイール11の相手材である金属製のウォーム12の摩耗に対して有利に働き、減速ギアとして十分に機能する。しかしながら、より過酷な使用条件で使用されると、ギア歯10が破損や摩耗することも想定されるため、信頼性をより高めるために、強化材を配合することが好ましい。補強材としては、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー等が好ましく、相溶樹脂との接着性を考慮してシランカプッリング剤で表面処理したものが更に好ましい。また、これらの補強材は複数種を組み合わせて使用することができる。衝撃強度を考慮すると、ガラス繊維や炭素繊維等の繊維状物を配合することが好ましく、更にウォ−ム12の損傷を考慮するとウィスカー状物を繊維状物と組み合わせて配合することが好ましい。混合使用する場合の混合比は、繊維状物及びウィスカー状物の種類により異なり、衝撃強度やウォーム12の損傷等を考慮して適宜選択される。補強材は、全体の5〜40重量%、特に10〜30重量%の割合で配合することが好ましい。補強材の配合量が5重量%未満の場合には、機械的強度の改善が少なく好ましくない。補強材の配合量が40重量%を超える場合には、ウォーム12を損傷し易くなり、ウォーム12の摩耗が促進されて減速ギアとしての耐久性が不足する可能性があり好ましくない。
【0015】
ウォームホイールを製造する方法は制限されるものではなく、例えば図2〜図5に示す工程に従うことができる。即ち、金属製の芯金1の外周面1aにクロスローレット加工を施し、溶剤で脱脂した後(図2)、この芯管1をスプルー4及びディスクゲート5を装着した金型に配置し、射出成形機により上記の相溶樹脂を充填して樹脂部3を成形する(図3)。次いで、スプルー4とディスクゲート5を切除して、芯管1の外周に樹脂部3が一体化されたウォームホイールブランク材7を得る(図4)。そして、ウォームホイールブランク材7の樹脂部3の外周面3aに、切削加工により所定形状のギア歯10を形成してウォームホイール11が得られる(図5)。
【0016】
尚、成形時及び使用時の熱による劣化を防止するために、相溶樹脂には、ヨウ化銅とヨウ化カリウムとの混合物からなる熱安定剤、あるいはアミン系酸化防止剤を単独あるいは併用して適量添加することが好ましい。これにより、熱的安定性が向上する。
【0017】
【実施例】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれにより何ら制限されるものではない。
【0018】
(実施例1〜3、比較例1〜2)
[ウォームホイール試験体の作製]
表2に示す如く高吸水性ポリアミド樹脂、低吸水性ポリアミド樹脂及び強化材を配合して樹脂組成物を調製した。そして、図2〜図5に従ってウォームホイール試験体を作製した。即ち、クロスローレット加工を施し、脱脂した外径45mm、幅13mmのS45C製の芯管を、スプルー及びディスクゲートを装着した金型に配置し、射出成形機を用いて樹脂組成物からなる成形材料を充填して外径60mm、幅13mmのウォームホイールブランク材とし、次いで樹脂部の外周を切削加工してギア歯を形成してウォームホイール試験体を作製した。
【0019】
【表2】
Figure 0004250902
【0020】
[寸法安定性の評価]
各試験体を、下記条件Iまたは条件IIの下に放置し、所定時間経過後にギア外径寸法の変化量を測定した。何れの条件においても、変化量が40μm以下を合格「○」、40μmを超えるものを不合格「×」として表3に示す。
・条件I:60℃、90%RH、70時間
・条件II:80℃、90%RH、300時間
【0021】
[耐久性の評価]
各試験体を実際の自動車減速ギアに組み込み、下記条件Iまたは条件IIにて操舵操作を繰り返し行った。何れの条件においても、10万回の操舵に耐えることができた減速ギアを合格「○」、10万回の操舵に耐えることができなかった減速ギアを不合格「×」として表3に示す。
・条件I:30℃、50%RH
・条件II:50℃、90%RH
【0022】
【表3】
Figure 0004250902
【0023】
表3に示すように、低吸水性ポリアミド樹脂を含まない比較例1の試験体は、、温度、湿度が過酷になると寸法安定性が悪くなり、それに伴って耐久性も低下している。また、低吸水性ポリアミド樹脂と高吸水性ポリアミド樹脂とが同量で、樹脂比率が前述した所定の比率を超えている比較例2の試験体は、吸水性には問題がなく寸法安定が良好であるのの、機械的強度が十分ではなく耐久性が不足している。これに対して本発明に従う実施例1〜3の各試験体は、過酷な条件下でも寸法安定性が高く、耐久性も優れている。
【0024】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、ウォームホイールの樹脂部を、高吸水性ポリアミド樹脂と低吸水性ポリアミド樹脂との相溶樹脂で形成したことにより、耐熱性、機械的強度及び寸法安定性に総合的に優れる電動パワーステアリング用減速ギアが得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明並びに従来の減速ギアの一例を示す斜視図である。
【図2】ウォームホイールの製造方法を説明するための図であり、芯管の断面図である。
【図3】ウォームホイールの製造方法を説明するための図であり、成形金型の断面図である。
【図4】ウォームホイールの製造方法を説明するための図であり、得られたウォームホイールブランク材の斜視図である。
【図5】ウォームホイールの製造方法を説明するための図であり、得られたウォームホイールの斜視図である。
【符号の説明】
1 芯管
3 樹脂部
4 スプルー
5 ディスクゲート
10 ギア歯
11 ウォームホイール
12 ウォーム
20 減速ギア

Claims (4)

  1. 操舵補助出力発生用電動モータの出力をステアリングシャフトに伝達するための電動パワーステアリング装置用減速ギアにおいて、金属製芯管の外周に、少なくとも樹脂成分がポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46から選ばれる高吸水性ポリアミド樹脂を該樹脂成分100重量%に対し60〜90重量%、ポリアミド12、ポリアミド11、ポリアミド612、ポリアミド610、芳香族ポリアミド、変性ポリアミド12から選ばれる低吸水性ポリアミド樹脂を該樹脂成分100重量%に対し10〜40重量%の比率で混合してなる相溶樹脂組成物からなり、その外周面にギア歯が形成された樹脂部を一体化してなるウォームホイールを備えることを特徴とする電動パワーステアリング装置用減速ギア。
  2. 低吸水性ポリアミド樹脂が変性ポリアミド12であることを特徴とする請求項1記載の電動パワーステアリング装置用減速ギア。
  3. 前記相溶樹脂組成物は更に、ヨウ化銅とヨウ化カリウムとの混合物からなる熱安定剤、アミン系酸化防止剤の少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1または2記載の電動パワーステアリング装置用減速ギア。
  4. 前記相溶樹脂組成物は更に、補強材を該相溶樹脂組成物全量の5〜40重量%含有することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の電動パワーステアリング装置用減速ギア。
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