JP4247669B2 - 静電荷像現像用トナー及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、複写機、プリンター、ファックス等に好適に用いられ、更にはトナージェット方式のプリンター等にも用いられる静電荷像現像用トナーの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
トナー用のバインダー樹脂としては、種々の樹脂が使用可能であるが、低温定着性に優れ、定着後の画像が強靱であり、比較的高いガラス転移温度を有するビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を主成分として含有したポリエステル樹脂が好適に用いられている。しかしながら、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を主原料として使用する既存のポリエステル樹脂は、低温定着性と広い温度領域での耐オフセット性のバランスが不足すること、また、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を製造する際に残留する微量のビスフェノールAが、環境ホルモンとして影響することが懸念されること、更に、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物は高価であり、したがって、そのような原料を使用した樹脂を用いたトナーは高コストとなること、等が問題である。
【0003】
これを改善する目的で、脂肪族多価アルコールを主成分として用いた新規なポリエステル樹脂が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。
【0004】
一方、これまで乳化分散法や重合法等の湿式法によるトナー(以下、ケミカルトナーという)の開発が活発に行われてきた。特に、乳化分散法は、トナーの小粒径化や球形化が容易であることに加え、重合法と比較して、▲1▼バインダー樹脂の種類の選択幅が広くなり、ポリエステル樹脂やエポキシ樹脂等の縮合系樹脂が使用できる、▲2▼残留モノマーの低減が容易であり、低VOC化に有利である、▲3▼着色剤等の濃度を低濃度から高濃度まで任意に変化させることができる、などの利点を有している。さらに、湿式中で顔料等の分散を行うため分子鎖の切断がなく、樹脂本来の広い領域での耐オフセット性、低温定着性、ガラス転移温度の保持による良好な耐熱保存性、等の利点を活かすことが可能である。
【0005】
乳化分散法を用いたトナーの製造方法に関する従来の技術としては、例えば、着色剤とアニオン型自己水分散性樹脂となるポリエステル樹脂を有機溶剤中に分散させ、その後、転相乳化することによりトナー粒子を製造する方法が開示されている(例えば、特許文献4参照)。また、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物の使用量を極力抑え、多価カルボン酸と脂肪族多価アルコールを主成分として反応させたポリエステル樹脂と着色剤を有機溶剤中に分散させ、その後、転相乳化することによりトナー粒子を製造する方法が開示されている(例えば、特許文献5参照)。更に、着色剤とポリエステル樹脂を有機溶剤中に分散させ、その後、転相乳化を行い、更に合一工程を行うことにより粒度分布がシャープなトナーを高収率で製造する方法が開示されている(例えば、特許文献6参照)。
【0006】
ところで、最近においては、トナーによる印刷画像の解像性や階調性の向上等、印刷画像品質のさらなる向上が望まれている。それに伴い、ケミカルトナーの分野においては、より粒度分布のシャープなトナーを製造する方法の開発が必要となってきている。特に、シャープな粒度分布を有し、加えて、環境に対する安全性、良好な低温定着性、広い温度領域での耐オフセット性、低コスト化等の要求を満足するトナーの開発が強く望まれている。
【0007】
このような要求を満足するためのトナーとしては、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物の換わりに、脂肪族多価アルコールを原料として用いたポリエステル樹脂を使用したケミカルトナーがある。ところで、ケミカルトナーの製造においては、樹脂の組成が乳化分散の安定性に対して微妙に作用し、製品として得られるトナーの粒度分布、形状、収率等に大きく影響を及ぼす。しかしながら、前記の従来技術においては、そのようなケミカルトナーを製造する場合の乳化安定性に関する技術については、十分な検討が為されていない。したがって、シャープな粒度分布を有し、且つ、環境に対する安全性、良好な低温定着性、広い温度領域での耐オフセット性、低コスト化等を満足するケミカルトナーの製造方法については、未だ満足できるレベルの技術が見出されていない。
【0008】
【特許文献1】
特開平11−15199号公報
【特許文献2】
特開2001−60018号公報
【特許文献3】
特開2001−272817号公報
【特許文献4】
特開平8−211655号公報
【特許文献5】
特開2002−287424号公報
【特許文献6】
特開2003−122051号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、脂肪族アルコール化合物をアルコール成分として反応させたポリエステル樹脂を結着樹脂として用いるケミカルトナーの製造方法において、粒度分布がシャープなケミカルトナーを高収率で製造するための新規な製造方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、上記課題を解決し、更に、球形であり、且つ環境に対する安全性、良好な低温定着性、広い温度領域での耐オフセット性、低コスト化等を満足するケミカルトナーの製造方法を提供することにある。更に、粒度分布がシャープであり、且つ環境に対する安全性、良好な低温定着性、広い温度領域での耐オフセット性を有する低コストのケミカルトナーを提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、鋭意研究を重ねた結果、上記課題を解決する静電荷像現像用トナーの製造方法を見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は、(i)カルボキシル基を有するポリエステル樹脂を有機溶剤中に溶解あるいは分散させて樹脂溶液を製造する工程、(ii)前記樹脂溶液を塩基性化合物の存在下で水性媒体と混合させることにより、前記水性媒体中に前記樹脂溶液の微粒子が懸濁した懸濁液を製造する工程、(iii)次いで乳化剤を添加し、その後電解質を添加することにより前記微粒子の合一体を形成させる工程、(iv)前記合一体中の有機溶剤を除去する工程、(v)前記合一体を前記水性媒体から分離し、乾燥する工程を順次行う静電荷像現像用トナーの製造方法であって、前記ポリエステル樹脂として、
1)全酸成分に対して30mol%以上のイソフタル酸又はその低級アルキルエステルを含有する多塩基酸類、及び
2)脂肪族多価アルコ−ル、
を反応して得られるポリエステル樹脂を使用することを特徴とする静電荷像現像用トナーの製造方法を提供するものである。
【0011】
また、本発明は、(i)カルボキシル基を有するポリエステル樹脂を有機溶剤中に溶解あるいは分散させて樹脂溶液を製造する工程、(ii)前記樹脂溶液を塩基性化合物の存在下で水性媒体と混合させることにより、前記水性媒体中に前記樹脂溶液の微粒子が懸濁した懸濁液を製造する工程、(iii)次いで乳化剤を添加し、その後電解質を添加することにより前記微粒子の合一体を形成させる工程、(iv)前記合一体中の有機溶剤を除去する工程、(v)前記合一体を前記水性媒体から分離し、乾燥する工程を順次行うことにより製造される静電荷像現像用トナーであって、前記ポリエステル樹脂が、
1)全酸成分に対して30mol%以上のイソフタル酸又はその低級アルキルエステルを含有する多塩基酸類、及び
2)脂肪族多価アルコ−ル、
を反応して得られるポリエステル樹脂であることを特徴とする静電荷像現像用トナーを提供するものである。
【0012】
トナーは結着樹脂が構成原材料の80〜90%を占めており、したがって、結着樹脂は、環境に対する安全性、コスト、熱特性に対し大きな影響を及ぼすことは周知の通りである。さらに、前記特許文献4、特許文献5、及び特許文献6に記載されたケミカルトナーの製造方法においては、非常にシャープな粒度分布を得ることが可能である。しかしながら、本発明者らが検討したところによると、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を主成分として用いない、脂肪族アルコール化合物を主成分として用いたポリエステル樹脂を使用して、上記製造方法によりケミカルトナーを製造することを試みると、シャープな粒度分布の粒子が得られないばかりか、樹脂溶液の粘度変化が激しく、実用上安定した製造を行うことができないことが判明した。この原因を鋭意検討した結果、ポリエステル樹脂を製造する際に使用する多塩基酸化合物として、イソフタル酸又はその低級アルキルエステルを全酸成分に対して30mol%以上使用することにより前記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳しく説明する。本発明の製造方法は以下の工程からなる。
第一工程:原材料としてカルボキシル基を有するポリエステル樹脂を有機溶剤中に溶解あるいは分散させて樹脂溶液を製造する工程(i)を行い、その後、塩基性化合物の存在下で、該樹脂溶液に水性媒体を加えることにより該水性媒体中に該樹脂溶液の懸濁液(微粒子)を形成させる工程(ii)を行う。
第二工程:該水性媒体中に分散安定剤及び電解質を順次添加することで該懸濁液中の微粒子の合一体を形成させる工程(iii)を行い、その後、該合一体中の有機溶剤を除去する工程(iv)を行う。
第三工程:脱溶剤後の前記合一体を水性媒体から分離し、乾燥させ、トナーを製造する工程(V)
の上記3工程からなる。
【0014】
なお、本発明では、前記工程(ii)で生成する有機溶剤を含有する樹脂溶液の微粒子を凝集させ、一体化させることを「合一」と言い、前記工程(iii)を「合一工程」と言う。また、工程(iii)により形成される粒子を「合一体」と言う。更に、合一工程を経てトナーを製造する方法を「合一法」による製造方法と言う。
【0015】
合一法では、実質的に第一、第二工程で粒径、粒度分布が決定される。該工程を通してシャープな粒度分布を得るためには、本発明で使用するポリエステル樹脂の全酸成分中にイソフタル酸又はその低級アルキルエステルを30mol%以上含有させる必要がある。イソフタル酸又はその低級アルキルエステルの含有量が30mol%よりも少ないと、第一工程の工程(i)で得られる樹脂溶液が結晶化により粘度変化を起こすため工程(ii)で安定した懸濁液を生成できず、結果的に第2工程での粒度分布がブロードになってしまう。また、樹脂粒子の形状も、均一な合一が進行しないため、乾燥後に発生した空隙により粒子強度が低下するという問題も発生する。イソフタル酸又はその低級アルキルエステルが30mol%以上含有されると、樹脂溶液中での結晶化が抑制されるため樹脂溶液の安定性が改善され、粒度分布のシャープな粒子を得ることができる。イソフタル酸又はその低級アルキルエステルの含有量は、好ましくは30〜70mol%の範囲である。更に好ましくは30〜60mol%の範囲である。イソフタル酸又はその低級アルキルエステルの含有量が多くなるとガラス転移温度が低下する傾向のため、好ましくない。
【0016】
第一工程では、有機溶剤中にポリエステル樹脂を投入して溶解あるいは分散することにより、ポリエステル樹脂と有機溶剤を含む樹脂溶液を調整する。この場合、必要に応じて離型剤または着色剤、あるいはその他の添加物をポリエステル樹脂等と共に用いることができるが、いずれもトナー粒径以下に微分散あるいは溶解される必要がある。
【0017】
有機溶剤中にポリエステル樹脂及び必要に応じて添加する、離型剤、着色剤等の各種添加剤を溶解あるいは分散させる手段としては、以下の方法を用いることが好ましい。
【0018】
▲1▼上記のポリエステル樹脂、離型剤、着色剤等の各種添加剤を含む混合物を加圧ニーダー、加熱2本ロール、2軸押し出し混練機などを用いて、使用する樹脂の軟化点以上、且つ熱分解温度以下の温度に加熱して混練する。その後、得られた混練チップをデスパー等の攪拌機あるいはメディアを用いた分散機等により有機溶剤中に溶解、ないし分散する。
あるいは、
▲2▼ポリエステル樹脂と離型剤、着色剤等の各種添加剤を有機溶剤と混合し、これをボールミル等により湿式混練する。この場合、離型剤や着色剤等はあらかじめ別々に予備分散を行ってマスター溶液を調整した後に混合しても良い。
【0019】
上記▲2▼の、より具体的な手段としては、ボールミル、ビーズミル、サンドミル、連続式ビーズミル等のメディアを用いた混合・分散機中に、予め有機溶媒にポリエステル樹脂を溶解した樹脂溶液、及び離型剤や着色剤を加え、攪拌・分散させることによりマスター溶液とし、更に希釈用のポリエステル樹脂、追加の有機溶剤を混合することにより有機溶媒中に離型剤や着色剤等が微分散した樹脂溶液を製造する方法がある。以上のような▲2▼の製造方法によれば、ポリエステル樹脂の高分子成分(ゲル成分)が切断されないため、溶融混練により分散する▲1▼の方法よりも好ましい。
【0020】
ポリエステル樹脂を溶解あるいは分散させるための有機溶剤としては、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、石油エーテルのごとき炭化水素類;塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン、ジクロロエチレン、トリクロロエタン、トリクロロエチレン、四塩化炭素のごときハロゲン化炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンのごときケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチルのごときエステル類、などが用いられる。これらの溶剤は、2種以上を混合して用いることもできるが、溶剤回収の点から、同一種類の溶剤を単独で使用することが好ましい。また、有機溶剤は、ポリエステル樹脂を溶解あるいは分散するものであり、毒性が比較的低く、かつ後工程で脱溶剤し易い低沸点のものが好ましく、そのような溶剤としては、メチルエチルケトンが最も好ましい。
【0021】
次に、ポリエステル樹脂と有機溶剤を含む混合物を水性媒体中に乳化する。この場合、上記の方法で調整された樹脂溶液を、塩基性中和剤の存在下で水性媒体と混合して乳化する。この工程においては、塩基によりポリエステル樹脂のカルボキシル基を中和した樹脂溶液に水性媒体(水または水を主成分とする液媒体)を徐々に添加する方法が好ましい。その際には、前記混合物の有機連続相に水を徐々に添加することで、Water in Oilの不連続相が生成し、さらに水を追加して添加することで、Oil in Waterの不連続相に転相して、水性媒体中に前記混合物が粒子(液滴)として浮遊する懸濁・乳化液が形成される(以下、この方法を転相乳化という)。
【0022】
転相乳化においては、有機溶剤と添加した水の合計量に対する水の比率が30〜80質量%となるように水を添加する。より好ましくは35〜70質量%であり、特に40〜70質量%であることが好ましい。使用する水性媒体は水であることが好ましく、さらに好ましくは、脱イオン水である。
【0023】
本発明で使用するポリエステル樹脂は、カルボキシル基を有するポリエステル樹脂であり、該カルボキシル基を中和することにより自己水分散性となるポリエステル樹脂である。本発明で使用する自己水分散性のポリエステル樹脂の酸価は1〜30KOHmg/gであることが好ましく、3〜20KOHmg/gであることがより好ましい。樹脂酸価が1未満だと転相乳化がスムーズに行かず、粗大粒子が発生するため好ましくない。一方、酸価が30より高いと、各種環境下における帯電量が安定しないため好ましくない。自己水分散性を有する樹脂は、カルボキシル基が塩基性化合物により中和されることによりアニオン型となる。その結果、樹脂の親水性が増加して水性媒体中に分散安定剤や界面活性剤を使用しなくとも安定に分散することができる。また、中和用の塩基性化合物としては、特に制限はなく、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等の無機塩基や、ジエチルアミン、トリエチルアミン、イソプロピルアミン等の有機塩基が用いられる。中でも、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基が好ましい。ポリエステル樹脂を水性媒体中に分散するためには、懸濁安定剤や、界面活性剤等の分散安定剤を添加する方法があるが、懸濁安定剤や、界面活性剤を添加して乳化させる方法では高剪断力が必要となる。その結果、粗大粒子の発生、粒度分布がブロードになるため好ましくない。また、ゲル分を含有するような高粘性樹脂の場合には、更に不均一な粒度分布となり、実用上限界がある。したがって、本発明では自己水分散性の樹脂を用い、該樹脂が有するカルボキシル基を塩基性化合物により中和する。
【0024】
ポリエステル樹脂のカルボキシル基を塩基で中和する方法としては、例えば、(1)カルボキシル基を有するポリエステル樹脂、有機顔料、離型剤および有機溶剤を含有する混合物を製造した後、塩基で中和する方法、あるいは(2)水性媒体中に予め塩基性中和剤を混合しておき、転相乳化する際に前記混合物に含まれるポリエステル樹脂の酸性基を中和する方法、が挙げられる。
【0025】
塩基性化合物の使用量は、ポリエステル樹脂の全カルボキシル基を中和するために必要な量の1〜3倍に相当する量である。また、1〜2倍に相当する量であることがより好ましい。このようにポリエステル樹脂のカルボキシル基を中和するために要する量よりも過剰に添加することにより、異形の粒子が生成するのを防止することができ、トナーの真球性を向上させ、また、粒度分布をシャープにすることができる。
【0026】
転相乳化においては、ホモミクサー(特殊機化工業株式会社)、あるいはスラッシャー(三井鉱山株式会社)、キャビトロン(株式会社ユーロテック)、マイクロフルイダイザー(みづほ工業株式会社)、マントン・ゴーリンホモジナイザー(ゴーリン社)、ナノマイザー(ナノマイザー株式会社)、スタテイックミキサー(ノリタケカンパニー)などの高シェア乳化分散機や連続式乳化分散機等が使用できる。
【0027】
しかしながら、上記の高シェアがかかる分散機を用いるよりも、例えば、特開平9−114135で開示されているような攪拌装置、アンカー翼、タービン翼、ファウドラー翼、フルゾーン翼、マックスブレンド翼、半月翼等を使用することが好ましい。中でも、マックスブレンド翼やフルゾーン翼のような均一混合性に優れた大型翼がさらに好ましい。水性媒体中に前記混合物の微粒子を形成させるための乳化工程(転相乳化工程)における該攪拌翼の周速は、0.2〜10m/sが好ましく、0.2〜8m/s未満の低シェアで攪拌しながら水を滴下する方法がより好ましい。特に好ましくは0.2〜6m/sである。攪拌翼の周速が10m/sよりも早いと、転相乳化時の分散径が大きくなり好ましくない。一方、周速が0.2m/sよりも遅いと、攪拌が不均一となり、転相が均一に起こらず、粗大粒子が発生する傾向となり好ましくない。また、転相乳化時の温度は、特に制限はないが、温度が高いほど粗大粒子の発生が多くなるため好ましくない。また、低温すぎるとポリエステル樹脂および有機溶剤を含む混合物の粘度が上昇し、やはり粗大粒子の発生が多くなるため好ましくない。転相乳化時の温度範囲としては10〜40℃が好ましい。さらに好ましくは15〜30℃の範囲である。
【0028】
第一工程で製造する樹脂溶液の微粒子のピーク体積粒径は、1μmを越えて5μm以下、より好ましくは1μmを越えて3μmの範囲である。1μm以下であると有機顔料や、離型剤を用いた場合、ポリエステル樹脂により十分カプセル化されないため、帯電特性、現像特性に悪影響を及ぼし好ましくない。また、粒径が大きいと、得られるトナーの粒径が限定されるため、目的とするトナーの粒径よりも小粒径にする必要があるが、5μmよりも大きいと粗大粒子が発生しやすくなるため好ましくない。また、第一工程で製造する着色樹脂溶液の微粒子の粒度分布は、10μm以上の体積粒径の比率が1%以下、より好ましくは0.5%以下であり、5μm以上の体積粒径の比率が3%以下、より好ましくは1%以下である。
【0029】
第二工程では、第一工程で得られた樹脂溶液の微粒子を合一させることにより該微粒子の合一体を生成させ、所望の粒径のトナー粒子を形成させる。
【0030】
合一法では、第一工程で得られた微粒子の分散液を水で希釈し溶剤量を調整する。その後、分散安定剤を添加し、分散安定剤の存在下に電解質の水溶液を滴下することで合一を進め、所定粒径の凝集体を得る。
【0031】
第一工程で得られた微粒子は、カルボン酸塩による電気二重層の作用により水性媒体中で安定に分散している。第二工程では、微粒子が分散している水性媒体中に電気二重層を破壊、あるいは縮小させる電解質を添加することで、粒子を不安定化させる。本発明で用いることのできる電解質としては、たとえば、塩酸、硫酸、リン酸、酢酸、シュウ酸などの酸性物質がある。また、硫酸ナトリウム、硫酸アンモニュウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、リン酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシュウム、酢酸ナトリウム等の有機、無機の水溶性の塩等も電解質として有効に用いることができる。これらの電解質は、単独でも、あるいは2種類以上の物質を混合してもよい。中でも、硫酸ナトリウムや硫酸アンモニュウムのごとき1価のカチオンの硫酸塩が均一な合一を進める上で好ましい。本発明の製造方法では、第一工程で得られた微粒子は溶剤により膨潤しており、かつ電解質の添加により粒子の電気二重層が収縮した不安定な状態となっているため、低シェアー(低剪断力)の攪拌による粒子同士の衝突でも容易に合一が進行する。
【0032】
ところで、電解質等の添加だけでは、系内の微粒子の分散安定性が不安定になっているため、合一が不均一となり、粗大粒子や凝集物が発生する。電解質や酸性物質により生成した微粒子の凝集体が、再合一を繰り返して、目的とする粒子径以上の凝集体を形成するのを防止するためには、電解質等を添加する前に、ヒドロキシアパタイト等の無機分散安定剤やイオン性、あるいはノニオン性の界面活性剤を分散安定剤として添加する必要がある。使用する分散安定剤は、後から添加する電解質の存在下においても分散安定性を保持できる特性が必要である。そのような特性を有する分散安定剤としては、たとえば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等、あるいは各種プルロニック系等のノニオン型の乳化剤、あるいはアルキル硫酸エステル塩型のアニオン性乳化剤、また、第四級アンモニウム塩型のカチオン型の分散安定剤等がある。中でも、アニオン型、ノニオン型の分散安定剤が少量の添加量であっても系の分散安定性に効果があり、好ましい。ノニオン型の界面活性剤の曇点は40℃以上であることが好ましい。以上に記載した界面活性剤は単独で用いても、2種類以上を混合して用いてもよい。本発明の製造方法では、分散安定剤(乳化剤)の存在下に電解質を添加することで、不均一な合一を防止することが可能となり、その結果、シャープな粒度分布が得られ、それに伴い、収率の向上が達成される。
【0033】
また、均一な合一を進める上では、合一時の攪拌条件が重要である。本発明で好ましく使用できる撹拌翼の種類及び撹拌条件は前記と同様である。上記の条件であれば、微粒子同士の衝突のみにより合一が進行し、合一体が再び解離・分散することはない。特に、合一法では微小粒子から優先的に合一が進行するため、超微粒子の発生が少なく、かつシャープな粒度分布となるため収率の向上が達成できる。
【0034】
合一体を製造する場合には、第一工程で転相乳化により得られた微粒子の分散液を水でさらに希釈することが好ましい。その後、分散安定剤、及び電解質を順次添加して合一を行う。あるいは、分散安定剤及び/又は電解質の水溶液を添加することで分散液中の溶剤量を調整し、所定粒径の粒子を得る手順を採ることが好ましい。電解質を添加する前の系中に含まれる溶剤量としては、15〜45質量%の範囲内であることが好ましい。また、18〜30質量%の範囲内がより好ましく、特に、20〜25質量%の範囲内が好ましい。溶剤量が15質量%よりも少ないと、合一に要する電解質量が多くなり好ましくない。また、溶剤量が45質量%よりも多いと不均一な合一による凝集物発生が多くなり、また、分散安定剤の添加量が多くなるため好ましくない。
【0035】
使用する分散安定剤の量は、例えば微粒子の固形分含有量に対し、0.1〜3.0質量%の範囲内が好ましい。0.3〜2.0質量%の範囲内がより好ましく、0.3〜1.5質量%の範囲内が特に好ましい。0.1質量%よりも少ないと、目的とする粗大粒子発生に対する防止効果が得られない。一方、3.0質量%よりも多いと、電解質の量を増加しても合一が十分に進行せず、所定粒径の粒子が得られなくなり、結果として、微粒子が残存してしまい収率を低下させるため好ましくない。
【0036】
また、使用する電解質の量は、微粒子の固形分含有量に対し、0.5〜15質量%の範囲内であることが好ましい。1〜12質量%の範囲内であることがより好ましく、1〜10質量%の範囲内であることが特に好ましい。電解質の量が0.5質量%よりも少ないと、合一が十分に進行しないため好ましくない。また、電解質の量が15質量%よりも多いと、合一が不均一となり、凝集物の発生や、粗大粒子が発生し収率を低下させるため好ましくない。
【0037】
また、合一時の温度は10〜50℃の範囲内が好ましい。より好ましくは20〜40℃の範囲内であり、20〜35℃であることが特に好ましい。温度が10℃よりも低いと、合一が進行しにくくなるため好ましくない。また、温度が50℃よりも高いと、合一速度が速くなり、凝集物や、粗大粒子が発生しやすくなるため好ましくない。本発明の製造方法では、たとえば、20〜40℃といった低温の条件で、合一による合一体の生成が可能である。
【0038】
ところで、摩擦帯電性能を良好に保持するためには、着色剤等がトナー粒子表面に露出しないようにすること、すなわち着色剤等がトナー粒子に内包されたトナー構造とするのが有効である。トナーの小粒径化に伴う帯電性の悪化は、含有する着色剤やその他の添加物(通常離型剤など)の一部がトナー粒子表面に露出することも原因になっている。すなわち、着色剤等の含有率(質量%)が同じであっても、小粒径化によりトナー粒子の表面積が増大し、トナー粒子表面に露出する着色剤や離型剤等の比率が増大し、その結果トナー粒子表面の組成が大きく変化し、トナー粒子の摩擦帯電性能が大きく変わり適正な帯電性が得られにくくなる。
【0039】
本発明により製造されるトナー粒子は、着色剤や離型剤等がポリエステル樹脂に内包されていることが特徴である。トナー粒子表面に着色剤や離型剤等が露出していないことは、例えば、粒子の断面をTEM(透過型電子顕微鏡)で観察することにより容易に判定できる。より具体的には、トナー粒子を樹脂包埋してミクロトームで切断した断面を、必要ならば酸化ルテニウム等で染色し、TEMで観察すると、着色剤や離型剤等が粒子内に内包されてほぼ均一に分散していることが確認できる。
【0040】
第二工程で得られる合一体の形状は、合一の程度により不定形から球形まで変化させることができる。例えば、平均円形度で表現すれば、0.94〜0.99まで変化させることが可能である。但し、本発明は、より球形度の高いトナーを製造するための方法を提案しているものであるので、そのような特徴を発揮するためには、本発明の製造方法はより球形度の高いトナーを製造するための方法として使用することが好ましい。なお、この平均円形度は、最終的に得られたトナー粒子のSEM(走査型電子顕微鏡)写真を撮影し、それを測定し計算することなどによっても求められるが、東亜医用電子(株)製フロー式粒子像分析装置FPIP−1000を使用すると容易に得られるため、本発明ではこの装置で測定した値を平均円形度としている。
【0041】
トナー粒子の形状は、平均円形度が0.96以上であることが好ましい。より好ましくは0.97以上の略球形あるいは球形の形状とすることで粉体流動性の向上、転写効率の向上がみられ、トナーとして用いる場合には上記範囲とすることが好ましい。特に、粒径が小さくなるにつれ、球形と不定形では、粉体流動性、転写効率、トナー消費量の面での差は大きくなる。
【0042】
着色樹脂溶液の微粒子を合一させた後は、脱溶剤を行う。脱溶剤の方法は、なんら限定されるものではなく、常圧、あるいは減圧下で行う。脱溶剤を低温条件下で、速やかに行うためには減圧下で行うことが好ましい。
【0043】
第三工程では、第二工程において得られた合一体を水性媒体から分離し、乾燥する。水性媒体からの分離は、遠心分離器、あるいはフィルタープレス、ベルトフィルター等の公知慣用の手段で行うことができる。ついで粒子を乾燥させることによりトナー粒子を得ることができる。乳化剤や分散安定剤を用いて製造されたトナー粒子は、より十分に洗浄することが好ましい。
【0044】
乾燥方法としては、公知慣用の方法がいずれも採用可能であるが、例えば、トナー粒子が熱融着や凝集しない温度で、常圧下または減圧下で乾燥させる方法、凍結乾燥させる方法、などが挙げられる。また、スプレードライヤー等を用いて、水性媒体からのトナー粒子の分離と乾燥とを同時に行う方法も挙げられる。特に、トナー粒子が熱融着や凝集しない温度で加熱しながら、減圧下で、粉体を攪拌して乾燥させる方法や、加熱乾燥空気流を用いて瞬時に乾燥させるというフラッシュジェットドライヤー(セイシン企業株式会社)などを使用する方法が、効率的であり好ましい。
【0045】
本発明の製造方法で得られるトナーの粒度分布については、コールター社製マルチサイザーTAII型(アパーチャーチューブ径:100μm)による測定で、50%体積粒径/50%個数粒径が1.25以下であること好ましく、より好ましくは1.20以下である。1.25以下であると良好な画像を得られやすく好ましい。また、GSDは1.30以下が好ましく、1.25以下がより好ましい。なお、GSDは、コールター社製マルチサイザーTAII型による測定で、(16%体積粒径/84%体積粒径)の平方根により求められる値である。GSDの値が小さいほど粒度分布がシャープになり、良好な画像が得られる。
【0046】
本発明の製造方法で得られるトナーとしては、その体積平均粒径として、得られる画像品質などの点から1〜13μmの範囲にあるものが好ましく、3〜10μm程度が現行のマシンとのマッチングが得やすいことなどもあってより好ましい。カラートナーにあっては、体積平均粒径が3〜8μmとなる範囲が好適である。体積平均粒径が小さくなると解像性や階調性が向上するだけでなく、印刷画像を形成するトナー層の厚みが薄くなり、ページあたりのトナー消費量が減少するという効果も発現され好ましい。
【0047】
本発明で使用するバインダー樹脂は、ポリエステル樹脂であり、以下の原料の中から選択される化合物を反応することにより得られる。
【0048】
本発明で使用するポリエステル樹脂は、
1)全酸成分に対して30mol%以上のイソフタル酸又はその低級アルキルエステルを含有する多塩基酸類、及び
2)脂肪族多価アルコ−ル、
を反応して得られるポリエステル樹脂である。
【0049】
本発明で用いるポリエステル樹脂を製造する際に使用する酸成分としては、イソフタル酸又はその低級アルキルエステル以外に以下の多塩基酸類を使用することができる。例えば、二価の多塩基酸化合物としては、無水フタル酸、テレフタル酸、オルソフタル酸、アジピン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、コハク酸、マロン酸、グルタル酸、アゼライン酸、セバシン酸等のジカルボン酸又はその誘導体又はそのエステル化物が、また、例えば架橋樹脂を得るための架橋剤として、トリメリット酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、無水ピロメリット酸等の三官能以上の多価カルボン酸又はその誘導体又はそのエステル化物が挙げられる。
【0050】
また、本発明で用いるポリエステル樹脂を製造する際に使用するアルコール成分としては、以下の脂肪族多価アルコールが使用できる。二価の脂肪族アルコールとしては、例えば1,4−シクロヘキサンジメタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイドランダム共重合体ジオール、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイドブロック共重合体ジオール、エチレンオキサイド−テトラハイドロフラン共重合体ジオール、ポリカプロカクトンジオール等のジオールが、また、例えば架橋樹脂を得るための架橋剤として、ソルビトール、1,2,3,6−ヘキサンテトラオール、1,4−ソルビタン、ペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、グリセリン、2−メチルプロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,3,5−トリメチロールベンゼン、等の三官能以上の多価アルコールが挙げられる。
【0051】
本発明では脂肪族多価アルコールを用いることにより、ポリエステル樹脂のワックス類との相溶性が良好となり、耐オフセット性が改良される。また、ポリエステル主鎖を軟質化することにより低温での定着性が改善される。
【0052】
架橋ポリエステル樹脂を製造する際には、架橋剤として多価エポキシ化合物も使用できる。そのような化合物としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ハイドロキノンジグリシジルエーテル、N,N−ジグリシジルアニリン、グリセリントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、トリメチロールエタントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、テトラキス1,1,2,2(p−ヒドロキシフェニル)エタンテトラグリシジルエーテル、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ基を有するビニル化合物の重合体、あるいは共重合体、エポキシ化レゾルシノール−アセトン縮合物、部分エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ基を有するビニル化合物の重合体、あるいは共重合体、半乾性もしくは乾性脂肪酸エステルエポキシ化合物等が挙げられる。
【0053】
本発明で使用するポリエステル樹脂は、架橋樹脂であることが好ましく、特に架橋剤として多価エポキシ化合物を用いた架橋樹脂であることが好ましい。架橋剤として使用するエポキシ化合物としては、上記の化合物の中でも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、グリセリントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、トリメチロールエタントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテルがより好適に用いられる。
【0054】
具体的には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂の例として大日本インキ化学工業(株)製エピクロン850、エピクロン1050、エピクロン2055、エピクロン3050等が、ビスフェノールF型エポキシ樹脂の例として大日本インキ化学工業(株)製エピクロン830、エピクロン520等が、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂の例として大日本インキ化学工業(株)製エピクロンN-660,N-665,N-667,N-670,N-673,N-680,N-690,N-695等が、フェノールノボラック型エポキシ樹脂の例としては大日本インキ化学工業(株)製エピクロンN-740,N-770,N-775,N-865等が挙げられる。エポキシ基を有するビニル化合物の重合体、あるいは共重合体としてはグリシジル(メタ)アクリレートのホモポリマー、あるいはアクリル共重合体、スチレンとの共重合体が挙げられる。
【0055】
また、上記エポキシ化合物は2種以上併用して用いることもでき、さらに、樹脂の変性剤として、以下に記載するモノエポキシ化合物を併せて用いることもできる。同時に使用しうるモノエポキシ化合物としては、例えばフェニルグリシジルエーテル、アルキルフェニルグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエステル、アルキルフェノールアルキレンオキサイド付加物のグリシジルエーテル、α−オレフィンオキサイド、モノエポキシ脂肪酸アルキルエステル等が挙げられる。
【0056】
これらのモノエポキシ化合物を併用することにより定着性、高温での耐オフセット性が向上する。これらの中でも、特にアルキルグリシジルエステルがより好適に用いられる。具体的な例としてはネオデカン酸グリシジルエステル(カージュラE;シェルジャパン製が挙げられる。
【0057】
本発明で使用するポリエステル樹脂は、上記の原料成分を用いて、例えば触媒の存在下で脱水縮合反応或いはエステル交換反応を行うことにより得ることができる。この際の反応温度及び反応時間は、特に限定されるものではないが、通常150〜300℃で2〜24時間である。
【0058】
上記反応を行う際の触媒としては、例えばテトラブチルチタネート、酸化亜鉛、酸化第一錫、ジブチル錫オキサイド、ジブチル錫ジラウレート、パラトルエンスルホン酸等を適宜使用する事が出来る。
【0059】
本発明に用いられるポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)は50〜85℃のものが好ましいが、中でも、そのTgが55〜75℃のものが特に好ましい。Tgが50℃より低いと、トナーが保存、運搬、あるいはマシンの現像装置内部で高温下に晒された場合にブロッキング現象(熱凝集)を生じやすい。85℃より高いと、低温定着性が低下するため好ましくない。
【0060】
また、本発明に使用されるポリエステル樹脂の軟化点としては、90℃以上、中でも、90℃〜180℃の範囲のものが好ましい、より好ましくは、95℃〜160℃の範囲である。軟化点が90℃未満の場合は、トナーが凝集現象を生じやすく、保存時や印字の際にトラブルになりやすく、180℃を越える場合には定着性が悪くなることが多い。
【0061】
本発明で使用するポリエステル樹脂は、軟化点の異なる複数の樹脂をブレンドすることが好ましい。軟化点の異なる複数の樹脂をブレンドすることにより、単一樹脂に比べ、広い温度領域での耐オフセット性、良好な低温定着性のバランスを得ることができる。高軟化点の樹脂としては架橋樹脂が好ましく、軟化点が150〜230℃、好ましくは160〜200℃の範囲であることが好ましい。一方、低軟化点の樹脂としては直鎖樹脂が好ましく、軟化点としては80〜130℃、好ましくは90〜120℃の範囲である。高軟化点樹脂と低軟化点樹脂の使用比率(質量比率)は20/80〜70/30、好ましくは30/70〜60/40の範囲である。
【0062】
軟化点の異なる複数の樹脂をブレンドする場合、高軟化点樹脂は多価エポキシ化合物で架橋されたポリエステル樹脂を使用することが好ましい。また、ブレンドするそれぞれの樹脂は、全酸成分に対して30mol%以上のイソフタル酸又はその低級アルキルエステルを含有する多塩基酸類を用いて製造した樹脂であることが好ましい。
【0063】
本発明における樹脂の軟化点は定荷重押出し形細管式レオメータである島津製作所製フローテスタCFT−500を用いて測定されるT1/2温度で定義する。フローテスターでの測定条件は、ピストン断面積1cm2 、シリンダ圧力0.98MPa、ダイ長さ1mm、ダイ穴径1mm、測定開始温度50゜C、昇温速度6゜C/min、試料質量1.5gの条件で行った。
【0064】
本発明の製造方法では、離型剤を用いることができる。その場合に離型剤としては、ポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス、フィーシャートロプシュワックス等の炭化水素系ワックス類、合成エステルワックス類、カルナバワックス、ライスワックス等の天然エステル系ワックス類の群の中から選ばれた離型剤が用いられる。中でも、カルナバワックス、ライスワックス等の天然系エステルワックス、多価アルコールと長鎖モノカルボン酸から得られる合成エステルワックス類、フィーシャートロプシュワックス等の炭化水素系ワックス類が好適に用いられる。合成エステルワックスとしては、例えば、WEP-5(日本油脂社製)が好適に用いられる。離型剤の含有量は、1質量%未満であると離型性が不十分となりやすく、40質量%を越えるとワックスがトナー粒子表面に露出しやすくなり、帯電性や保存安定性が低下しやすくなるため、1〜40質量%の範囲内が好ましい。
【0065】
本発明の製造方法では、帯電制御剤を用いることができる。正帯電性帯電制御剤としては、特に限定はなく、トナー用として公知慣用のニグロシン化合物、第4級アンモニウム化合物、オニウム化合物、トリフェニルメタン系化合物等が使用できる。また、アミノ基、イミノ基、N−ヘテロ環などの塩基性基含有化合物、例えば3級アミノ基含有スチレンアクリル樹脂なども正帯電性帯電制御剤としてニグロシン染料と併用できる。また、用途によっては、アゾ染料金属錯体やサリチル酸誘導体金属錯塩などの負帯電制御剤を少量併用することも可能である。負帯電性帯電制御剤としては、トリメチルエタン系染料、サリチル酸の金属錯塩、ベンジル酸の金属錯塩、銅フタロシアニン、ペリレン、キナクリドン、アゾ系顔料、金属錯塩アゾ系染料、アゾクロムコンプレックス等の重金属含有酸性染料、カッリクスアレン型のフエノール系縮合物、環状ポリサッカライド、カルボキシル基および/またはスルホニル基を含有する樹脂、等が挙げられる。
【0066】
帯電制御剤の含有量は0.01〜10質量%であることが好ましい。特に0.1〜6質量%であることが好ましい。
【0067】
本発明の製造方法に使用される着色剤については、特に制限はなく、公知慣用のものが用いられる。例えば、本発明のトナーに使用できる黒の着色剤としては製造方法により分類されるファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、ランプブラック等のカーボンブラック、或いは、C.I.Pigment Black 11等の鉄酸化物系顔料、C.I.Pigment Black 12等の鉄−チタン複合酸化物系顔料、青系の着色剤としては、フタロシアニン系のC.I.Pigment Blue 1,2,15:1,15:2,15:3,15:4,15:6,15,16,17:1,27,28,29,56,60,63等が挙げられる。青系の着色剤として、好ましくは、C.I.Pigment Blue 15:3,15,16,60が挙げられ、最も好ましくは、C.I.Pigment Blue 15:3,60が挙げられる。
【0068】
また、黄色系の着色剤としては、例えば、C.I.Pigment Yellow 1,3,4,5,6,12,13,14,15,16,17,18,24,55,65,73,74,81,83,87,93,94,95,97,98,100,101,104,108,109,110,113,116,117,120,123,128,129,133,138,139,147,151,153,154,155,156,168,169,170,171,172,173,180,185等が挙げられる。好ましくは、C.I.Pigment Yellow 17,74,93,97,110,155,および180が挙げられ、より好ましくはC.I.Pigment Yellow 74,93,97,180が挙げられ、特に、C.I.Pigment Yellow 93,97,180が好ましい。
【0069】
さらに、赤色系着色剤としては、例えば、C.I.Pigment Red 1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,12,14,15,17,18,22,23,31,37,38,41,42,48:1,48:2,48:3,48:4,49:1,49:2,50:1,52:1,52:2,53:1,54,57:1,58:4,60:1,63:1,63:2,64:1,65,66,67,68,81,83,88,90,90:1,112,114,115,122,123,133,144,146,147,149,150,151,166,168,170,171,172,174,175,176,177,178,179,185,187,188,189,190,193,194,202,208,209,214,216,220,221,224,242,243,243:1,245,246,247等が挙げられる。好ましくは、C.I.Pigment Red 48:1,48:2,48:3,48:4,53:1,57:1,122および209が挙げられ、最も好ましくはC.I.Pigment Red 57:1,122および209が挙げられる。
【0070】
これら着色剤の含有量は、トナー全体に対して、1〜20質量%であることが好ましい。中でも2〜18質量%であることが更に好ましく、2〜15質量%であることが特に好ましい。これらの着色剤は1種又は2種以上の組み合わせで使用することができる。
【0071】
乾燥させたトナー粒子は、そのままでも現像剤として使用可能であるが、トナー用外添剤として公知慣用の無機酸化物微粒子や有機ポリマー微粒子などの外添剤をトナー粒子表面に添加するのが好ましい。疎水性シリカ、酸化チタン等の無機微粒子、あるいは有機微粒子などは、トナー粒子に外添され、静電印刷法による乾式現像剤として用いる場合に、流動性や帯電性等の物理的特性を改良する効果がある。外添剤の種類は、各種シリコーンオイルで処理された疎水性シリカ等が好適に用いられる。例えば、ジメチルシリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、α―メチルスチレン変性シリコーンオイル、クロルフェニルシリコーンオイル、フッソ変性シリコーンオイル、及びオレフィン変性シリコーンオイル等で処理された疎水性シリカが挙げられる。外添方法は、公知慣用の機種を用いて処理される。
【0072】
上記のトナー粒子にキャリアを混合することによって、静電荷像現像剤とすることができる。静電荷像現像剤は、本発明の製造方法により製造されたトナーと、磁性キャリア、好ましくは表面に樹脂被覆した磁性キャリアとからなる。
【0073】
静電荷像現像剤に用いられるキャリアのコア剤(磁性キャリア)は通常の二成分現像方式に用いられる鉄粉、マグネタイト、フェライト等が使用できるが、中でも真比重が低く、高抵抗であり、環境安定性に優れ、球形にし易いため流動性が良好なフェライト、またはマグネタイトが好適に用いられる。コア剤の形状は球形、不定形等、特に差し支えなく使用できる。平均粒径は一般的には10〜200μmであるが、高解像度画像を印刷するためには30〜110μmが好ましい。
【0074】
また、これらのコア剤を被覆するコーティング樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアセテート、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリ塩化ビニル、ポリビニルカルバゾール、ポリビニルエーテルポリビニルケトン、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、スチレン/アクリル共重合体、オルガノシロキサン結合からなるストレートシリコン樹脂あるいはその変性品、フッ素樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、フェノール樹脂、アミノ樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ユリア樹脂、アミド樹脂、エポキシ樹脂等が使用できる。
【0075】
これらの中でも、特にシリコン樹脂、(メタ)アクリル樹脂が帯電安定性、被覆強度等に優れ、より好適に使用し得る。また、トナー粒子とキャリアからなる現像剤の帯電特性は、シリコン等のコート剤のコート量の調整、帯電制御剤の添加、カーボンに代表される導電物質の添加等により調整できる。つまり本発明で用いられる樹脂被覆キャリアは、コア剤としてフェライト、あるいはマグネタイトを用い、シリコン樹脂、(メタ)アクリル樹脂から選ばれる1種以上の樹脂で被覆された樹脂被覆磁性キャリアであり、場合により、コート在中に帯電制御剤、カーボン等を添加して帯電特性を調整することが好ましい。
【0076】
また、本発明の製造方法により製造されたトナーは、通常の非磁性一成分現像方式の印刷装置、あるいは二成分現像方式の印刷装置、磁性一成分現像方式の印刷装置等に使用できる。また、現像剤担持ロールと層規制部材とを有する非磁性一成分現像装置等を用いて摩擦帯電された粉体トナーを、トナー通過量等を調節する機能の電極を周囲に有するフレキシブルプリント基板上の穴を通して、背面電極上の紙に直接吹き付けて画像を形成する方式の、いわゆるトナージェット方式のプリンター等にも好適に使用できる。本発明の製造方法により製造されたトナーは、潜像保持体上に静電荷像を形成させ、得られた静電荷像を、現像剤担持体上に担持された現像剤を用いて現像し、前記荷像保持体上に形成されたトナー像を紙やフィルム等の転写材上に転写し、該転写材上のトナー像をヒートロールにより熱定着する画像形成方法により印刷を行うことができる。
【0077】
【実施例】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本実施例・比較例では、特に表示がない限り部は質量部、水は脱イオン水の意である。最初にトナーを調製するにあたって用いたバインダー樹脂の合成例を下記に示す。
【0078】
(樹脂合成例1)
テレフタル酸 330質量部
エピクロンN−695 7質量部
エピクロン720 10質量部
カージュラE 3質量部
ジエチレングリコール 21質量部
ネオペンチルグリコール 104質量部
エチレングリコール 50質量部
テトラブチルチタネート 2.5質量部
*エピクロンN-695(大日本インキ化学工業(株)製)
;1分子中に有するエポキシ基の数に分布があり、1分子中に有するエポキシ基の数が2個以上であり、平均が5個以上である多官能クレゾールノボラック型エポキシ樹脂
エポキシ当量220(g/eq)
エピクロン720(大日本インキ化学工業(株)製)
;ネオペンチルグリコールを基本骨格としたアルコールエーテル型のエポキシ化合物
エポキシ当量150(g/eq)
*カージュラE(シェルジャパン製アルキルグリシジルエステル)
;エポキシ当量250(g/eq)
【0079】
以上の原料をガラス製2Lの四ツ口フラスコに入れ温度計、攪拌棒及び窒素導入管を取り付け、電熱マントルヒーター中で、常圧窒素気流下にて240℃で10時間反応後、順次減圧し、10mmHgで反応を続行した。反応はASTM・E28-517に準じる軟化点により追跡し、該軟化点が163℃に達した時反応を終了した。
以下同様にして表1−1、及び表1−2の樹脂を製造した。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
表中の表示は以下の通り。
TPA:テレフタル酸
DEG:ジエチレングリコール
NPG:ネオペンチルグリコール
EG:エチレングリコール
IPA:イソフタル酸
TMP:トリメチロールプロパン
カージュラe:シェルジャパン製アルキルグリシジルエステル
(エポキシ当量:250)
エピクロンn-695:大日本インキ化学工業(株)製多官能型クレゾールノボラックエポキシ樹脂(エポキシ当量:220)
エピクロン720:大日本インキ化学工業(株)製アルコールエーテル型エポキシ樹脂(エポキシ当量150)
エピクロン830:大日本インキ化学工業(株)製ビスフェノールf型エポキシ樹脂(エポキシ当量170)
【0082】
(離型剤分散液の調製例)
カルナバワックス「カルナバワックス 1号」(加藤洋行輸入品)30部とポリエステル樹脂(表1の合成例9)70部とを加圧ニーダーで混練後、該混練物とメチルエチルケトン185部とをボールミルに仕込み、8時間攪拌した後取り出し、固形分含有量を35重量%に調整し、離型剤の微分散液W1を得た。同様に下記組成の離型剤微分散液を得た。
【0083】
【表3】
表2
【0084】
(着色剤マスター溶液の調製例)
着色顔料とポリエステル樹脂とを有機溶剤(メチルエチルケトン)中に添加し、デェスパーにてプレ分散を行った後、モーターミルM-1000(米国アイガー社製)で湿式分散を行い、各着色剤のマスター溶液を調整した。表3、4に各着色剤マスター溶液の配合、分散条件、最終的に得られたマスター溶液の固形分含有量を示した。
【0085】
【表4】
表3.着色剤マスター溶液の配合表1
(使用ポリエステル樹脂:表1の合成例9)
【0086】
【表5】
表4.着色剤マスター溶液の配合表2
(着色剤はカーボン)
表3、4に示した着色剤は以下の通りである。
カーボン:キャボット社製カーボンブラック「Elftex-8」
黒色顔料:チタン工業社製黒色顔料「ETB-100」
シアン:大日本インキ化学工業(株)社製シアン顔料「Ket-111」(Pigment Blue 15:3)
イエロー:チバスペシャリティケミカルズ社製イエロー顔料「Cromophtal Yellow 3G」(Pigment Yellow 94)
マゼンタ:大日本インキ化学工業(株)社製マゼンタ顔料「Magenta R」(Pigment Red 122)
【0087】
(帯電制御剤分散液の調製例)
正帯電制御剤であるN−04;ボントロンN−04(オリエント化学製、ニグロシン染料)とメチルエチルケトンを30/70の重量比率で配合し、モーターミルM-1000(米国アイガー社製)で分散を行い、固形分含有量を30重量%に調整し、帯電制御剤分散液E−1を得た。
【0088】
(ミルベースの調製)
上記離型剤分散液、着色剤マスターチップ、希釈樹脂(追加樹脂)、メチルエチルケトンを、固形分含有量が56%、温度条件が30〜40℃の範囲でデスパーにより3時間の間混合し、溶解・分散を行った。得られた混合物は、固形分含有量を55%に調整してミルベースとした。作製したミルベースの配合を表5、6に示す。
【0089】
【表6】
表5−1.ブレンド系のミルベース配合表
【0090】
【表7】
表5−2.ブレンド系のミルベース配合表
【0091】
【表8】
表6.単一樹脂系のミルベース配合表
【0092】
<合一法によるトナーの製造>
(実施例)
攪拌翼としてマックスブレンド翼を有する円筒型の2LセパラブルフラスコにミルベースMB5を545.5部仕込み、次いで1規定アンモニア水47.4部(カルボン酸に対する当量は1.2)を加えて、スリーワンモーターにより210rpmにて十分に攪拌した後、脱イオン水133部を加え、さらに攪拌を行い、温度を23℃に調製した。ついで、同条件下で133部の脱イオン水を滴下して転相乳化により微粒子分散体を作製した。この時の攪拌翼の周速は0.71m/sであった。次に、脱イオン水280部を加えて(1規定アンモニア水と水の総量が593部となる量の脱イオン水量)溶剤量を調整した。
【0093】
次いで、アニオン型乳化剤であるエマール0(花王社製)の2.8部を水30部に希釈して添加した。その後、温度を25℃に、また回転数を158rpmに調整し、5.2%の硫酸アンモニュウムの水溶液を粒径が5.5μmに成長するまで滴下し、その後、同条件で粒径が7μmに成長するまで攪拌を続け合一操作を終了した。この時の硫酸アンモニュウムの添加量は300部であった。また、攪拌翼の周速は0.54m/sであった。なお、いずれの実施例、比較例においても7μmのトナー母体粒子が得られるよう、適宜硫酸アンモニュウムの水溶液濃度、及び添加量を調整した。
【0094】
<ミルベース安定性の評価方法>
表5−1、表5−2、6の配合で得られた各種ミルベースの安定性は、25℃で静置した後の溶液粘度の値をB型粘度計で測定し、ミルベース作製から一日後の粘度が大幅に上昇している場合を×、一週間後の粘度が上昇している物を△、一週間後の粘度変化がほとんど見られない物を○とした。二週間後の粘度変化が見られない物を◎とした。
【0095】
<トナー性状の評価方法>
得られたスラリーは、減圧下有機溶剤を留去した後、リスラリーによる洗浄を3回行った後、凍結乾燥機を用いて乾燥を行い、トナー母粒子を得た。次に、微量の界面活性剤を含む水の中にトナー母粒子を懸濁させることにより試料を作製する。次いでコールターカウンターマルチサイザーTAIIを用いて該母粒子の粒径、粒度分布を測定した。
【0096】
平均円形度は、トナー粒子のSEM(走査型電子顕微鏡)写真を撮影し、それを測定し計算することによっても求めることができるが、本発明においては、東亜医用電子(株)製フロー式粒子像分析装置FPIP−1000により求める。フロー式粒子像分析装置FPIP−1000とは、トナー粒子等の微粒子の大きさや形状を撮像する装置であり、粒子の撮像は以下の通りに行われる。
【0097】
まず、微量の界面活性剤を含む水の中にトナー粒子を懸濁させることにより試料を作製する。次いで、この試料をフロー式粒子像分析装置FPIP−1000中に設けられた、透明且つ扁平なセル中に流下させる。このセルの片側にはパルス光を発する光源が設置されており、更に、セルを挟んで反対側にはその光源に正対するように撮像用カメラが設けられている。FPIP−1000のセル中を流下する試料中のトナー粒子は、パルス光が照射されることにより、セルを夾んで光源と正対するカメラにより静止画像として捉えられる。
【0098】
このようにして撮像されたトナー粒子の像を基にして、画像解析装置により各トナー粒子の輪郭が抽出され、トナー粒子像の投影面積や周囲長(トナー粒子投影像の周長)が算出される。更に、算出されたトナー粒子像の投影面積から、それと同等の面積を有する円の円周の長さ(トナー粒子投影面積と同じ面積の円の周長)が算出される。上記の平均円形度は、このように算出されたトナー粒子投影面積と同じ面積の円の周長をトナー粒子投影像の周長で除したものである。
【0099】
上記装置で測定する際の条件は以下の通り。
(1)トナー粒子の懸濁液の作製
水20gに対し界面活性剤(エルクリヤー(中外写真薬品(株)製))0.1gを添加し、更に試料であるトナー0.04gを添加し、超音波分散機でトナー粒子を水中に懸濁させる。
(2)測定条件
測定温度;25℃
測定湿度;60%
測定トナー粒子数;5000±2000個
【0100】
<トナー転写効率の評価方法>
実施例、比較例で得られた各母トナーに対し、疎水性シリカを、母トナー100質量部に対し、1質量部をヘンシェルミキサーで外添した後、シリコン樹脂被覆フェライトキャリア97部に対し、該トナー3部からなる現像剤を調整後、転写効率を比較した。転写効率は、市販の複写機を用いて、ベタ画像を現像し、感光体上のベタ画像が転写部を50%通過したところで複写機を停止させる。その後、感光体上の未転写画像・転写後の画像をそれぞれテープにて完全に剥離し、未転写画像のトナー量と転写後のトナー量を測定し、下記式より転写効率を算出する。
転写効率(%)=100―転写後のトナー量/未転写画像のトナー量×100
その結果、95%以上の転写効率を○、90%以上95%未満の転写効率を△、90%未満の転写効率を×とした。
【0101】
<トナー熱特性の評価方法>
表9における、トナー溶融粘度「T1/2温度」は、前述したように島津製作所製フローテスタ(CFT−500)を用いて、ノズル径1.0mmΦ×1.0mm、単位面積(cm2 )当たりの荷重0.98MPa、毎分6℃の昇温速度で測定した値である。また、ガラス転移温度である「Tg」(℃)は 、島津製作所製示差走査熱量計(DSC−50)を用い、セカンドラン法により毎分10℃の昇温速度で測定した値である。また、耐熱保存性は、トナー母粒子10質量部を100ccの硝子製容器に入れ、密閉した後、50℃の環境下に12時間静置した後、取り出して凝集性の有無を判断した。堅い凝集体のある物を×、指でほぐれる程度の凝集体がある物を△、凝集体のない物を○とした。
【0102】
オフセット幅、及び定着開始温度については、予め、実施例および比較例のトナー母粒子に対し疎水性シリカを外添し、ついでシリコン樹脂被覆フェライトキャリアとを混合することで現像剤を調整した。ついで市販複写機改造機にてA−4紙サイズの未定着画像サンプルを作製し、印刷紙を90mm/秒のスピードで、リコーイマジオDA−250のヒートロールに通して定着を行った。オフセット幅については、オフセットを発生しない上限値と下限値との温度範囲によって示した。また、定着開始温度は、定着後の画像に粘着テープを貼り、剥離後のID(画像濃度)が元のIDの90%以上であって、かつオフセットの発生が見られないときのヒートロールの表面温度で示した。
【0103】
【表9】
表7−1.造粒条件
【0104】
【表10】
表7−2.造粒条件
ミルベースの安定性は、樹脂の全酸成分中のイソフタル酸含有量と相関があり、30mol%よりも少ないと容易に粘度変化を生じ、実用上粒子を安定して製造することができないことがわかる。
【0105】
【表11】
表8−1.トナーの性状
【0106】
【表12】
表8−2.トナーの性状
【0107】
実施例8については、転相乳化後微粒子を作製した後に、通常の条件よりも薄い濃度の電解質を滴下し、粒径が5μmとなるまで合一を進めた。その後、濃度を上げた電解質を滴下することで合一を更に進めることで、平均円形度の低い、略球形の粒子を得た。
平均円形度の高い粒子はいずれも転写効率、粉体流動性が良好である。平均円形度の低い粉砕法トナーは、いずれも転写効率、粉体流動性とも明らかに劣る。粒子形状をある一定値以上保持することは、上記結果から現像特性に有利であることがわかる。
【0108】
【表13】
表9−1.熱特性評価結果
【0109】
【表14】
表9−2.熱特性評価結果
【0110】
ポリエステル樹脂の全酸成分中のイソフタル酸含有量が30mol%未満である比較例1、2、3、4、5は、表7のミルベース安定性の不安定化のみならず、表8で示したように微粒子及び粗大粒子が多量に発生し、粒度分布がブロードになる。また、同時に凝集物の発生が見られ、その結果、表9で示す熱特性、特にオフセット幅、定着開始温度も実施例のサンプルに比べ、低下することから、実用上安定して使用できないレベルにある。これに対し、実施例の各サンプルは、粒度分布、形状とも良好なレベルにある。実施例の各サンプルは、各熱特性のバランスが達成されており、特に定着開始温度は良好であることがわかる。さらに、溶融粘度の異なる架橋樹脂と直鎖状樹脂をブレンドすることにより、オフセット幅、定着開始温度が更に改善されることがわかる。
【0111】
【発明の効果】
以上説明したように本発明の製造方法によれば、ミルベースの安定性に優れ、粒度分布がシャープなケミカルトナーを製造することができる。また、本製造方法で得られた静電荷像現像用トナーは、球形で、かつシャープな粒度分布を有し、幅広い温度領域での耐オフセット性、及び低温定着性を達成することができる。
Claims (4)
- (i)カルボキシル基を有するポリエステル樹脂を有機溶剤中に溶解あるいは分散させて樹脂溶液を製造する工程、(ii)前記樹脂溶液を塩基性化合物の存在下で水性媒体と混合させることにより、前記水性媒体中に前記樹脂溶液の微粒子が懸濁した懸濁液を製造する工程、(iii)次いで乳化剤を添加し、その後電解質を添加することにより前記微粒子の合一体を形成させる工程、(iv)前記合一体中の有機溶剤を除去する工程、(v)前記合一体を前記水性媒体から分離し、乾燥する工程を順次行う静電荷像現像用トナーの製造方法であって、前記ポリエステル樹脂は、全酸成分中にイソフタル酸又はその低級アルキルエステルを30mol%以上含有し、かつアルコール成分を脂肪族多価アルコールとすることを特徴とする静電荷像現像用トナーの製造方法。
- 前記ポリエステル樹脂が、
1)全酸成分に対して30〜60mol%のイソフタル酸又はその低級アルキルエステルを含有する請求項1に記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。 - (i)カルボキシル基を有するポリエステル樹脂を有機溶剤中に溶解あるいは分散させて樹脂溶液を製造する工程、(ii)前記樹脂溶液を塩基性化合物の存在下で水性媒体と混合させることにより、前記水性媒体中に前記樹脂溶液の微粒子が懸濁した懸濁液を製造する工程、(iii)次いで乳化剤を添加し、その後電解質を添加することにより前記微粒子の合一体を形成させる工程、(iv)前記合一体中の有機溶剤を除去する工程、(v)前記合一体を前記水性媒体から分離し、乾燥する工程を順次行う静電荷像現像用トナーの製造方法であって、前記ポリエステル樹脂として、
1)全酸成分に対して30mol%以上のイソフタル酸又はその低級アルキルエステルを含有する多塩基酸類、及び
2)脂肪族多価アルコ−ル、を反応して得られるポリエステル樹脂と、
さらに、架橋剤として多価エポキシ化合物を使用した架橋樹脂とをブレンドして使用する静電荷像現像用トナーの製造方法。 - (i)カルボキシル基を有するポリエステル樹脂を有機溶剤中に溶解あるいは分散させて樹脂溶液を製造する工程、(ii)前記樹脂溶液を塩基性化合物の存在下で水性媒体と混合させることにより、前記水性媒体中に前記樹脂溶液の微粒子が懸濁した懸濁液を製造する工程、(iii)次いで乳化剤を添加し、その後電解質を添加することにより前記微粒子の合一体を形成させる工程、(iv)前記合一体中の有機溶剤を除去する工程、(v)前記合一体を前記水性媒体から分離し、乾燥する工程を順次行うことにより製造される静電荷像現像用トナーであって、前記ポリエステル樹脂は、全酸成分中にイソフタル酸又はその低級アルキルエステルを30mol%以上含有し、かつアルコール成分を脂肪族多価アルコールとすることを特徴とする静電荷増現像用トナー。
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