JP4243461B2 - 希土類金属の回収方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、本発明は希土類磁石や希土類系水素吸蔵合金などの希土類合金から希土類金属を回収する方法に関する。更に詳述すると、本発明は、希土類合金中に含まれる希土類金属の簡便なリサイクルに好適な希土類合金からの希土類金属回収方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
サマリウムコバルト磁石やネオジウム鉄ボロン磁石などの希土類合金を用いた希土類磁石は高性能磁石としてコンピュータ周辺機器、民生用電子機器、計測・通信機器から自動車、医療機器まで幅広く使用されている。希土類磁石の生産量は年々増加しているため、市中からスクラップとして回収された希土類合金をリサイクルする体制の早期確立が望まれている。
【0003】
希土類合金をリサイクルするためには、希土類合金から希土類金属だけを抽出する必要がある。この希土類合金から希土類金属を抽出する方法としては、希土類酸化物から希土類金属を精製する方法として知られている溶媒抽出法やイオン交換法などの適用が可能である。これらは、市中から回収した希土類合金を粉砕した後に、培焼して酸化物にしてから希土類金属の酸化物を溶媒を使って抽出したり、イオン交換膜などを使って浸出させるものである。また、別の方法として、希土類合金を粉砕した後に硫酸などの酸で溶解し、希土類金属をフッ化物や酸化物の沈殿として回収する方法も提案されている。
【0004】
上記の方法は水溶液を用いるいわゆる湿式プロセスであるが、これらの他に水溶液を用いない乾式のプロセスがある。この乾式のプロセスとしては、マグネシウムや銀などの金属を用いて希土類金属の溶融金属との選択的な反応というプロセスを経て希土類合金から希土類金属を回収する方法が最近提案されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述した溶媒抽出法やイオン交換法では、粉砕、培焼、浸出と工程数が多いと共に工程条件が複雑で、しかもコストが非常に高くなってしまうことから実用化が難しいものである。また、粉砕後の希土類合金を硫酸などの酸で溶解しフッ化物や酸化物の沈殿として回収する方法では、希土類合金のリサイクルにより大量の廃棄溶液が発生するという問題がある。
【0006】
一方、乾式のプロセスでは、実際の希土類合金、すなわち市中からスクラップとして回収された希土類合金は酸素を多量に含んでいるため、マグネシウムなどが酸化されるという理由により希土類金属の回収は実際には難しいものと予想される。
【0007】
このように、希土類合金から希土類金属を回収するためには各種の問題があるので、市中から回収した希土類合金のスクラップから希土類金属を回収することによりリサイクルする体制を確立するのは困難である。
【0008】
そこで、本発明は、簡便かつ安価であると共に廃棄溶液が少なく、尚かつ酸素を多量に含んだ希土類合金からでも希土類金属を回収可能な希土類金属の回収方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
かかる目的を達成するため、本願発明者らがネオジウム鉄ボロン磁石などの希土類合金からの希土類金属の回収方法について鋭意検討した結果、希土類合金を酸化ホウ素と共に溶解して凝固させると、希土類磁石の主成分の一つである希土類金属だけが酸化ホウ素中に溶解することを実験的に見出した。
【0010】
本発明はかかる知見に基づいてなされたものであり、請求項1記載の希土類金属の回収方法は、酸化ホウ素と希土類合金とをるつぼ中で溶解してから凝固させることにより、希土類合金と酸化ホウ素とを反応させて希土類合金中の希土類金属のみを酸化ホウ素中に抽出するようにしている。
【0011】
溶解した酸化ホウ素と希土類合金とは、希土類合金中の反応性に富む希土類金属だけが酸化ホウ素と反応して、希土類金属だけが酸化物あるいは窒化物となって酸化ホウ素中に移動し、希土類金属とその他の金属成分とを分解する。これによって、希土類合金中から希土類金属が全て回収できる。
【0012】
ここで、酸化ホウ素と希土類合金とは、るつぼの中に一緒に投入するだけでも良いし、請求項2記載の発明のように予め酸化ホウ素で希土類合金を包み込むようにしてるつぼに収めるようにしても良い。請求項2記載の発明の場合には、希土類合金とそれを包み込む酸化ホウ素の全面で反応が起こるので、反応がより完全なものとなると共に周りの酸化ホウ素に取り込まれた希土類金属の酸化物と中央に残る金属とが容易に分離できる。また、場合によっては請求項3記載の発明のように、少なくとも内壁部に酸化ホウ素を備えるるつぼを用い、るつぼの内壁の酸化ホウ素を溶解しながらるつぼの中の希土類合金を溶解させ、溶解した希土類合金と酸化ホウ素とを反応させると共に凝固させるようにしても良い。この場合には、希土類合金とるつぼとが高温で反応するという現象を積極的に利用して、るつぼの内壁面から溶け出す酸化ホウ素と希土類合金中の希土類金属のみが反応して酸化ホウ素中に取り込まれた状態で固化されることを実験的に見いだした。このため、希土類合金をるつぼ内に収めて加熱するだけの簡便な操作で希土類合金中から希土類金属を回収することができる。
【0014】
また、本願発明者らは、希土類合金としてネオジウム鉄ボロン磁石合金だけではなく、サマリウムコバルト磁石合金やランタンニッケル水素吸蔵合金など幅広い希土類合金に、上記の回収方法が適用できることを実験的に見出した。かかる知見に基づいて請求項4記載の発明は為されたものであって、請求項1から3までのいずれか記載の希土類金属の回収方法において、希土類合金は希土類金属と遷移金属の金属間化合物相を主相とする合金であるようにしている。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の構成を実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0016】
この希土類金属の回収方法は、酸化ホウ素と希土類合金とをるつぼ中で溶解してから凝固させることにより、希土類合金と酸化ホウ素とを反応させて希土類合金中の希土類金属のみを酸化ホウ素中に抽出するものである。
【0017】
ここで、回収対象とされる金属は、特に限定されるものではないが、希土類金属の他、有用金属ないし微量金属であることが好ましく、特に希土類金属であることが有用である。また、処理対象となる合金類は、希土類合金、特に希土類金属と遷移金属の金属間化合物相を主相とする合金である。具体的には、ネオジウム鉄ボロン磁石合金、サマリウムコバルト磁石合金、ランタンニッケル合金などである。
【0019】
また、代表的なガラス材料の組成を表1に示す。この表から明らかなように、酸化ホウ素はB2O3を主成分として、SiO2を含まないことが分かる。
【0020】
【表1】
【0021】
更に、希土類合金の溶解に用いられるるつぼとしては、一般には希土類合金とるつぼが高温で反応するため、カルシアなどの希土類金属と反応しないるつぼを用いるのが普通である。しかし、本発明では、溶解時に酸化ホウ素で希土類合金を包み込むようにしているので、るつぼの材質には特に限定されるものではなく、カルシアでも、石英ガラスでも実施可能である。特に、希土類合金とるつぼが高温で反応するという現象を積極的に利用することにより、希土類合金から希土類金属のみを分離できることを実験的に見出したことから、るつぼを上述の好適な成分からなる酸化ホウ素で厚肉に構成したり、あるいはライニングを施したるつぼを採用し、るつぼの内壁面を溶解して必要量の酸化ホウ素を供給するようにしても良い。
【0022】
酸化ホウ素と希土類合金とは、るつぼの中に一緒に投入するだけでも良いし、予め酸化ホウ素で希土類合金を包み込むようにしてるつぼに収めるようにしても良い。予め酸化ホウ素で希土類合金を包み込む場合には、希土類合金とそれを包み込む酸化ホウ素の全面で反応が起こるので、反応がより完全なものとなると共に周りの酸化ホウ素に取り込まれた希土類金属の酸化物と中央に残る金属とが容易に分離できる。また、希土類合金とこれから希土類金属を回収するに十分な量の酸化ホウ素即ち溶解したときに希土類合金を包み込める程の量の酸化ホウ素を、るつぼの中に一緒に投入して加熱することによって両者を溶解させる場合には、酸化ホウ素で予め希土類合金を包み込む工程が不要となり、単に希土類合金と酸化ホウ素とをるつぼの中に一緒に投入して加熱するだけの簡単な操作で済む。また、少なくとも内壁部に酸化ホウ素を備えるるつぼを用いる場合には、るつぼの内壁の酸化ホウ素を溶解しながらるつぼの中の希土類合金を溶解させ、溶解した希土類合金と酸化ホウ素とを反応させると共に凝固させるようにしても良い。この場合には、るつぼ内に希土類合金だけを収めてから加熱するだけの簡便な操作で希土類合金中から希土類金属を回収することができる。
【0023】
上述した希土類合金と酸化ホウ素とは、るつぼ内で希土類合金の融点より僅かに高い温度例えば100℃程度高い温度で加熱されると、まず酸化ホウ素が溶解されて希土類合金を包み込み、次いでこの酸化ホウ素で包み込まれた希土類合金が溶融状態となる。溶融した酸化ホウ素と希土類合金は高温で反応して、希土類合金中の希土類金属だけが酸化物となって分解され溶融酸化ホウ素中に移動する。そこで、電気炉による加熱を停止し温度を下げていくと、希土類金属を含む酸化ホウ素と希土類金属を含まない合金とが得られる。これにより、希土類合金から希土類金属を回収することができる。実験によると、ネオジウム鉄ボロン磁石合金のように、希土類金属の含有量が多い場合には、保持温度は不要であり、溶融した酸化ホウ素と希土類合金が自然に凝固する間に反応して、希土類合金中の希土類金属だけが酸化物となって分解され溶融酸化ホウ素中に移動する。また、希土類金属の含有率が低いなどの理由により反応性が悪くなる場合には、溶解時に一定の保持温度が必要になることもある。
【0024】
これら一連の加熱処理は、酸化を促進しない雰囲気中で行うことが望まれ、アルゴンガスや窒素ガスなどの不活性ガスの雰囲気中あるいは真空雰囲気中で行うことが好ましい。しかし、酸化物の状態で酸化ホウ素中に回収されることから、通常の空気中での処理でも差し支えはない。
【0025】
また、酸化ホウ素中に酸化物の形態で回収された希土類金属は、必要に応じて還元処理されて希土類金属としてリサイクルされる。例えば、酸化ホウ素ごと再び溶解され、比重差などを利用して酸化ホウ素から分離された後、還元処理を行うことによって金属化される。
【0026】
上述した実施形態によれば、希土類合金に粉砕や培焼などの前処理を施すことなく希土類合金から希土類金属を回収することができるので、数多くの複雑な工程を必要とせず希土類金属を簡便かつ安価に回収することができる。
【0027】
また、上述した実施形態によれば、酸化ホウ素を用いているので、市中から回収した酸素を多量に含む希土類合金であっても何ら問題無くそのまま適用できる。よって、市中から回収した希土類合金のスクラップから希土類金属を回収してリサイクルする体制の実現が容易になる。
【0028】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【0029】
【実施例】
(実施例1)
図1に示すBN(窒化ボロン)るつぼ3と電気炉4を用いて、希土類合金2を酸化ホウ素1で包み込んだ状態で加熱し、酸化ホウ素1更には希土類合金2を溶融させた。ここで、希土類合金としてネオジウム鉄ボロン磁石合金を用いた。尚、ネオジウム鉄ボロン磁石合金の融点は1280℃、酸化ホウ素の融点は450℃である。
【0030】
まず、図1に示すように、BN(窒化ボロン)るつぼ3内にネオジウム鉄ボロン磁石合金2とブロック状の酸化ホウ素1とを積み上げて、ネオジウム鉄ボロン磁石合金2の周りをブロック状の酸化ホウ素1で囲繞する。その状態で、アルゴンガス雰囲気中で650℃(酸化ホウ素の融点より200℃高い温度)まで加熱して酸化ホウ素1のみを僅かに溶解した。その後、酸化ホウ素1を室温まで冷却して凝固させた。このようにして酸化ホウ素1でネオジウム鉄ボロン磁石合金を包み込んだ(所謂2重るつぼ状態とした)。尚、るつぼ3内のネオジウム鉄ボロン磁石合金2の温度は、るつぼ3の中央に装入される石英ガラスシース(鞘)5を利用して導入される温度測定器(図示省略)によって測定される。
【0031】
次に、この酸化ホウ素1で包み込まれたネオジウム鉄ボロン磁石合金をアルゴンガス雰囲気中で1380℃(ネオジウム鉄ボロン磁石合金の融点より100℃高い温度)まで加熱してネオジウム鉄ボロン磁石合金と酸化ホウ素1との両方を溶解して反応させた。その後に融解物を室温まで冷却して凝固させた。そして、BNるつぼ3をダイヤモンドカッタで切断して試料を回収した。そして、溶解・凝固前後におけるネオジウム鉄ボロン磁石合金並びに酸化ホウ素の組成の変化を比較した。
【0032】
溶解凝固前後のネオジウム鉄ボロン磁石合金の組成を表2に示す。また、溶解凝固前後の酸化ホウ素1の組成を表3に示す。
【0033】
【表2】
【0034】
【表3】
【0035】
この結果から明らかなように、本実施例に用いたネオジウム鉄ボロン磁石合金は溶解前にネオジウムを25.50重量%含んでいたが、酸化ホウ素1中での溶解凝固後のネオジウム鉄ボロン磁石合金はネオジウムを0.01重量%しか含まないことが判明した。逆に溶解前の酸化ホウ素1はネオジウムを0.01重量%しか含んでいなかったが、ネオジウム鉄ボロン磁石合金と共に溶解凝固した後の酸化ホウ素1はネオジウムを25.80重量%も含むことが判明した。
【0036】
本実施例に用いたネオジウム鉄ボロン磁石合金と酸化ホウ素1中での溶解凝固後のネオジウム鉄ボロン磁石合金とのX線回折図を図2に示す。同図に示すように、酸化ホウ素1中での溶解前のネオジウム鉄ボロン磁石合金(a)には主相である強磁性相のNd2Fe14B金属間化合物の回折ピークが見られるが、酸化ホウ素1中での溶解凝固後のネオジウム鉄ボロン磁石合金(b)には強磁性相のNd2Fe14B金属間化合物の回折ピークは見られず、Fe相およびFe2B相の回折ピークのみが観察される。
【0037】
このNd2Fe14B金属間化合物のような希土類金属と遷移金属の金属間化合物は、高温では酸素や水素と希土類金属のみが反応して、その結果、金属間化合物が分解することが多い。本実施例では、酸化ホウ素1中での溶解凝固によりネオジウム鉄ボロン磁石合金のNd2Fe14B金属間化合物が高温で酸化ホウ素1と反応することにより、希土類金属のみが酸化ホウ素1中に回収され、その結果Fe相とFe2B相からなる合金が得られたものと考えられる。
【0038】
次に、酸化ホウ素1中での溶解凝固後のネオジウム鉄ボロン磁石合金の組織写真(SEM写真)およびEPMA(電子線マイクロアナライザ)により撮影したその組織写真に対応するネオジウム元素(Nd)、鉄元素(Fe)、ボロン元素(B)のX線像を図3に示す。X線像の濃淡は感度に違いがあるため異なる元素では直接比較検討できないが、一般に白く見える部分はその元素があることを、また黒く見えるところはその元素が無いことを示す。この試料のFeおよびBのX線像は白い部分が見られるが、NdのX線像は殆ど白い部分が見られない。このことからも、この試料は殆どネオジウムを含まず、大部分が鉄およびボロンよりなることが確認できた。
【0039】
以上の結果より、ネオジウム鉄ボロン磁石合金のネオジウムは酸化ホウ素1中での溶解凝固により酸化ホウ素1中に回収されたことが確認できた。
【0040】
(比較例1)
希土類合金2としてネオジウム鉄ボロン磁石合金を酸化ホウ素無しで、そのままBNるつぼ3に入れ、アルゴンガス雰囲気中で1380℃まで加熱してネオジウム鉄ボロン磁石合金を溶解した。その後室温まで冷却した。
【0041】
本実施例に用いたネオジウム鉄ボロン磁石合金と溶解凝固後のネオジウム鉄ボロン磁石合金との組成を分析した。その結果を表4に示す。
【0042】
【表4】
【0043】
同表に示すように、溶解前のネオジウム鉄ボロン磁石合金はネオジウムを25.50重量%含んでいたが、酸化ホウ素無しで溶解凝固したネオジウム鉄ボロン磁石合金は溶解前のネオジウム鉄ボロン磁石合金とほぼ同様にネオジウムを25.60重量%含むことが判明した。
【0044】
以上の結果より、酸化ホウ素無しでネオジウム鉄ボロン磁石合金を溶解凝固しても、ネオジウムの含有率は殆ど変化しないことがわかった。
【0045】
(比較例2)
希土類合金2としてネオジウム鉄ボロン磁石合金を、また酸化ホウ素1に代えてパイレックスガラス(コーニング社製 商品名:パイレックス(登録商標))をそれぞれ用いた。ネオジウム鉄ボロン磁石合金の融点は1280℃、パイレックスガラスの軟化点は821℃である。さらに、表1に示すように、パイレックスガラスは13wt%のB2O3を含有しているものの、主成分としてSiO2を80.00重量%含有している。
【0046】
まず、ネオジウム鉄ボロン磁石合金とパイレックスガラスとをBNるつぼ3に入れ、アルゴンガス雰囲気中で1021℃まで加熱してパイレックスガラスのみを軟化させた。その後、パイレックスガラスを室温まで冷却して凝固させた。このようにしてパイレックスガラスでネオジウム鉄ボロン磁石合金を包み込んだ。
【0047】
次に、このパイレックスガラスで包み込まれたネオジウム鉄ボロン磁石合金をアルゴンガス雰囲気中で1380℃まで加熱してネオジウム鉄ボロン磁石合金とパイレックスガラスとの両方を溶解して反応させた。その後に融解物を室温まで冷却して凝固させた。そして、BNるつぼ3をダイヤモンドカッタで切断して試料を回収した。
【0048】
溶解凝固前後のネオジウム鉄ボロン磁石合金の組成を表5に示す。また、溶解凝固前後のパイレックスガラスの組成を表6に示す。
【0049】
【表5】
【0050】
【表6】
【0051】
溶解前のネオジウム鉄ボロン磁石合金にはネオジウムを25.50重量%含んでいたが、パイレックスガラス中での溶解凝固後でも依然としてネオジウム鉄ボロン磁石合金は溶解前とほぼ同じネオジウムを25.60重量%含むことが判明した。また、溶解前のパイレックスガラスはネオジウムを0.01重量%しか含んでいなかったが、ネオジウム鉄ボロン磁石合金と共に溶解凝固した後のパイレックスガラスもまたネオジウムを0.01重量%しか含まないことが判明した。この分析結果から、酸化ホウ素1の代わりにパイレックスガラスを使用しても、希土類合金2と殆ど反応しないため希土類金属の回収はできないことが分かった。
【0052】
図4に本実施例に用いたネオジウム鉄ボロン磁石合金とパイレックスガラス中での溶解凝固後のネオジウム鉄ボロン磁石合金とのX線回折図を示す。同図に示すように、パイレックスガラス中での溶解前のネオジウム鉄ボロン磁石合金(a)には主相である強磁性相のNd2Fe14B金属間化合物の回折ピークが見られ、またパイレックスガラス中での溶解凝固後のネオジウム鉄ボロン磁石合金にも溶解前のネオジウム鉄ボロン磁石合金と同様の回折ピークが見られる。このことより、パイレックスガラスを用いるとネオジウム鉄ボロン磁石合金のNd2Fe14B金属間化合物が高温でパイレックスガラスと殆ど反応しないことが確認できた。
【0053】
次に、パイレックスガラスを用いた溶解凝固後のネオジウム鉄ボロン磁石合金の組織写真(SEM写真)およびEPMAにより撮影したその組織写真に対応するネオジウム元素(Nd)、鉄元素(Fe)、ボロン元素(B)のX線像を図5に示す。同図に示すように、酸化ホウ素1を用いた場合(図3参照)に比べてNdのX線像とFeのX線像に白い部分が見られる。以上の結果より、SiO2を80.00重量%含有するパイレックスガラスを用いるとネオジウム鉄ボロン磁石合金のNd2Fe14B金属間化合物が高温でパイレックスガラスと殆ど反応しないことが確認できた。
【0054】
(比較例3)
希土類合金2としてネオジウム鉄ボロン磁石合金を、また酸化ホウ素1に代えてソーダライムを用いた。表1に示すように、ソーダライムガラスはSiO2を71.00重量%含有している。この結果、パイレックスガラスの場合と同様にソーダライムガラス中にネオジウムを回収できなかった。
【0057】
(実施例2)
希土類合金2としてネオジウム鉄ボロン磁石合金を用い、酸化ホウ素を用いて溶解・凝固させた。ネオジウム鉄ボロン磁石合金の融点は1280℃、酸化ホウ素の融点は450℃である。
【0058】
この実施例では、予め酸化ホウ素で希土類合金を包み込んでおいてから加熱溶解させるのではなく、ネオジウム鉄ボロン磁石合金と反応に十分な大量の酸化ホウ素1をBNるつぼ3に一緒に入れて、そのままアルゴンガス雰囲気中で1380℃まで加熱してネオジウム鉄ボロン磁石合金および酸化ホウ素1の両方を溶解して反応させた。その後にこれらの融解物を室温まで冷却し凝固させた。BNるつぼ3をダイヤモンドカッタで切断して試料を回収した。このネオジウム鉄ボロン磁石合金と酸化ホウ素1中での溶解凝固後のネオジウム鉄ボロン磁石合金との組成を表7に示す。
【0059】
【表7】
【0060】
本実施例に用いたネオジウム鉄ボロン磁石合金は溶解前にネオジウムを25.50重量%含んでいたが、酸化ホウ素1中での溶解凝固後のネオジウム鉄ボロン磁石合金はネオジウムを0.01重量%しか含まないことが判明した。このことより、実施例1のようにネオジウム鉄ボロン磁石合金を酸化ホウ素1により完全に包み込まなくても、酸化ホウ素1とネオジウム鉄ボロン磁石合金をるつぼ3に入れて溶解凝固させるだけで十分に反応して、希土類金属を酸化ホウ素中に取込み酸化ホウ素中に回収できることが判明した。
【0061】
(実施例3)
希土類合金としてサマリウムコバルト磁石合金を用い、酸化ホウ素を用いて溶解・凝固させた。サマリウムコバルト磁石合金の融点は1293℃、酸化ホウ素の融点は450℃である。
【0062】
まず、サマリウムコバルト磁石合金と酸化ホウ素とをBNるつぼに入れ、アルゴンガス雰囲気中で650℃まで加熱して酸化ホウ素のみを溶解した。その後、酸化ホウ素を室温まで冷却して凝固させた。このようにして酸化ホウ素でネオジウム鉄ボロン磁石合金を包み込んだ。
【0063】
次に、この酸化ホウ素で包み込まれたサマリウムコバルト磁石合金をアルゴンガス雰囲気中で1493℃まで加熱してサマリウムコバルト磁石合金と酸化ホウ素との両方を溶解して反応させた。その後に融解物を室温まで冷却して凝固させた。そして、BNるつぼをダイヤモンドカッタで切断して試料を回収した。
【0064】
溶解凝固前後のサマリウムコバルト磁石合金の組成を表8に示す。
【0065】
【表8】
【0066】
本実施例に用いたサマリウムコバルト磁石合金は溶解前にサマリウムを33.8重量%含んでいたが、酸化ホウ素1中での溶解凝固後のサマリウムコバルト磁石合金はサマリウムを0.03重量%しか含まないことが判明した。
【0067】
以上の結果より、サマリウムコバルト磁石合金のサマリウムも酸化ホウ素1中で溶解凝固を行うとネオジウム鉄ボロン磁石合金と同様に酸化ホウ素1中に回収できることが判明した。さらに、本実施例ではサマリウムコバルト磁石合金のサマリウムを酸化ホウ素1中に回収することにより、レアメタルで高価なコバルトを回収できるという利点もあることが分かった。
【0068】
(実施例4)
希土類合金2としてランタンニッケル水素吸蔵合金を用い、酸化ホウ素を用いた。ランタンニッケル水素吸蔵合金の融点は1325℃、酸化ホウ素の融点は450℃である。
【0069】
ランタンニッケル水素吸蔵合金と酸化ホウ素1とをBNるつぼ3に入れ、アルゴンガス雰囲気中で1425℃まで加熱してランタンニッケル水素吸蔵合金および酸化ホウ素1との両方を溶解して反応させた。その後に融解物を室温まで冷却して凝固させた。そして、BNるつぼ3をダイヤモンドカッタで切断して試料を回収した。このランタンニッケル水素吸蔵合金と酸化ホウ素1中での溶解凝固後のランタンニッケル水素吸蔵合金との組成を表9に示す。
【0070】
【表9】
【0071】
本実施例に用いたランタンニッケル水素吸蔵合金は溶解前にランタンを32.23重量%含んでいたが、酸化ホウ素1中での溶解凝固後のランタンニッケル水素吸蔵合金はランタンを0.01重量%しか含まないことが判明した。このことより、実施例1のように希土類合金2を酸化ホウ素1により完全に包み込まなくても、酸化ホウ素1とランタンニッケル水素吸蔵合金をるつぼ3に入れて溶解凝固させるだけで十分に反応して、希土類金属を回収できることが判明した。
【0072】
また、実施例3においてサマリウムコバルト磁石合金でサマリウムを酸化ホウ素1中に回収することによりレアメタルであるコバルトを回収できたように、このランタンニッケル水素吸蔵合金ではランタンを酸化ホウ素1中に回収することにより高価なニッケルも回収できるという利点もあることが分かった。
【0073】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、請求項1から3に記載の希土類金属の回収方法によれば、粉砕や培焼、抽出などといった複雑な前処理なしに、酸化ホウ素と希土類合金とを直接溶解・凝固させるだけで、希土類金属の回収ができるので、希土類金属を簡便かつ安価に回収することができる。また、溶液を必要としないので、廃液の発生を防止できる。さらに、酸化ホウ素には酸化物が含まれているので、酸素を多量に含んだ希土類合金からでも希土類金属を回収することができる。これらのことから、市中から回収した希土類合金のスクラップから希土類金属を回収してリサイクルする体制を確立できるようになる。
【0074】
更に、請求項2記載の発明によると、希土類合金とそれを包み込む酸化ホウ素の全面で反応が起こるので、反応がより完全なものとなると共に周りの酸化ホウ素に取り込まれた希土類金属の酸化物と中央に残る金属とが容易に分離できる。
【0075】
更に、請求項3記載の発明によると、希土類合金をるつぼ内に収めて加熱するだけの簡便な操作で希土類合金中から希土類金属を回収することができる。
【0076】
また、請求項4記載の希土類金属の回収方法によれば、希土類合金は希土類金属と遷移金属の金属間化合物相を主相とする合金であるようにしているので、ネオジウム鉄ボロン磁石合金、サマリウムコバルト磁石合金、ランタンニッケル水素吸蔵合金などの希土類合金から希土類金属を回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の希土類金属の回収方法により希土類合金から酸化ホウ素に希土類金属を抽出する実験装置の一例を示す縦断面図である。
【図2】 ネオジウム鉄ボロン磁石合金のX線回折図であり、(a)は溶解前、(b)は酸化ホウ素中で溶解凝固した後を示す。
【図3】 酸化ホウ素中で溶解凝固したネオジウム鉄ボロン磁石合金の組織を示すSEM写真およびNd、Fe、BのX線像写真である。
【図4】 ネオジウム鉄ボロン磁石合金のX線回折図であり、(a)は溶解前、(b)はパイレックスガラス中で溶解凝固した後を示す。
【図5】 パイレックスガラス中で溶解凝固したネオジウム鉄ボロン磁石合金の組織を示すSEM写真およびNd、Fe、BのX線像写真である。
【符号の説明】
1 酸化ホウ素
2 希土類合金
3 るつぼ
Claims (4)
- 酸化ホウ素と希土類合金とをるつぼ中で溶解してから凝固させることにより、前記希土類合金と前記酸化ホウ素とを反応させて前記希土類合金中の希土類金属のみを前記酸化ホウ素中に抽出することを特徴とする希土類金属の回収方法。
- 予め前記酸化ホウ素により前記希土類合金を包み込んだ状態で、前記希土類合金および前記酸化ホウ素を溶解してから凝固させることを特徴とする請求項1記載の希土類金属の回収方法。
- 前記るつぼとして少なくとも内壁部に酸化ホウ素を有するものを用い、前記るつぼ中で前記希土類合金を溶解すると同時に前記るつぼの酸化ホウ素から成る内壁を溶解し、溶解した前記希土類合金と前記酸化ホウ素とを反応させると共に凝固させることを特徴とする請求項1記載の希土類金属の回収方法。
- 前記希土類合金は希土類金属と遷移金属の金属間化合物相を主相とする合金であることを特徴とする請求項1から3までのいずれか記載の希土類金属の回収方法。
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