JP6281261B2 - ホウ素を含む希土類元素の酸化物のホウ素含量を低減する方法 - Google Patents

ホウ素を含む希土類元素の酸化物のホウ素含量を低減する方法 Download PDF

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Description

本発明は、例えばR−Fe−B系永久磁石(Rは希土類元素)から調製された、ホウ素を含む希土類元素の酸化物のホウ素含量を低減する方法に関する。
R−Fe−B系永久磁石は、高い磁気特性を有していることから、今日様々な分野で使用されていることは周知の通りである。このような背景のもと、R−Fe−B系永久磁石の生産工場では、日々、大量の磁石が生産されているが、磁石の生産量の増大に伴い、製造工程中に加工不良物などとして排出される磁石スクラップや、切削屑や研削屑などとして排出される磁石加工屑などの量も増加している。とりわけ情報機器の軽量化や小型化によってそこで使用される磁石も小型化していることから、加工代比率が大きくなることで、製造歩留まりが年々低下する傾向にある。従って、製造工程中に排出される磁石スクラップや磁石加工屑などを廃棄せず、そこに含まれる金属元素、特に希土類元素をいかに回収して再利用するかが今後の重要な技術課題となっている。また、R−Fe−B系永久磁石を使用した電化製品などから循環資源として希土類元素をいかに回収して再利用するかについても同様である。
R−Fe−B系永久磁石から希土類元素を回収する方法については、これまでにもいくつかの方法が提案されており、例えば特許文献1では、R−Fe−B系永久磁石とガラススラグとしての酸化ホウ素をるつぼの中で溶解してから凝固させることで、磁石に含まれる希土類元素を酸化物として鉄族元素から分離して回収する方法が提案されている。特許文献1に記載の方法で回収された希土類元素の酸化物は、例えば溶融塩電解法などによって還元することで希土類金属に変換することができるため、この方法は、低コストで簡易なリサイクルシステムとしての実用化が期待できる。しかしながら、特許文献1に記載の方法で回収された希土類元素の酸化物にはホウ素が含まれている。ホウ素を含む希土類元素の酸化物をフッ素を含む溶融塩成分を用いた溶融塩電解法によって還元すると、ホウ素がフッ素と反応することで有毒なフッ化ホウ素が発生する恐れがある。従って、特許文献1に記載の方法で回収されたホウ素を含む希土類元素の酸化物をフッ素を含む溶融塩成分を用いた溶融塩電解法によって還元する場合、予めそのホウ素含量を低減しておくことが望ましい。しかしながら、ホウ素を含む希土類元素の酸化物のホウ素含量を簡便に低減する方法は未だ見出されていない。
特開2004−68082号公報
そこで本発明は、ホウ素を含む希土類元素の酸化物のホウ素含量を簡便に低減する方法を提供することを目的とする。
本発明者は上記の点に鑑みて鋭意検討を重ねた結果、ホウ素を含む希土類元素の酸化物をアルカリ金属の炭酸塩や酸化物とともに熱処理すると、ホウ素を含む希土類元素の酸化物のホウ素含量が低減することを見出した。
上記の知見に基づいてなされた本発明のホウ素を含む希土類元素の酸化物のホウ素含量を低減する方法は、請求項1記載の通り、ホウ素を含む希土類元素の酸化物をアルカリ金属の炭酸塩および/または酸化物とともに熱処理することを特徴とする。
また、請求項2記載の方法は、請求項1記載の方法において、前記熱処理前のホウ素を含む希土類元素の酸化物のホウ素含量が1.0mass%以上であることを特徴とする。
また、請求項3記載の方法は、請求項1または2記載の方法において、ホウ素を含む希土類元素の酸化物の希土類元素含量が30.0mass%以上であることを特徴とする。
また、請求項4記載の方法は、請求項1乃至3のいずれかに記載の方法において、1150℃以上で熱処理を行うことを特徴とする。
また、請求項5記載の方法は、請求項1乃至4のいずれかに記載の方法において、熱処理を炭素の存在下で行うことを特徴とする。
また、請求項6記載の方法は、請求項5記載の方法において、処理容器として炭素るつぼを用いて熱処理を行うことを特徴とする。
また、請求項7記載の方法は、請求項1乃至6のいずれかに記載の方法において、ホウ素を含む希土類元素の酸化物がR−Fe−B系永久磁石から調製されたものであることを特徴とする。
また、請求項8記載の方法は、請求項7記載の方法において、ホウ素を含む希土類元素の酸化物の鉄族元素含量が1.0mass%以下であることを特徴とする。
本発明によれば、ホウ素を含む希土類元素の酸化物のホウ素含量を乾式的に簡便に低減する方法を提供することができる。
実施例5における処理対象物に対する炭酸カリウムの添加量と熱処理物のホウ素含量の関係を示すグラフである。
本発明のホウ素を含む希土類元素の酸化物のホウ素含量を低減する方法は、ホウ素を含む希土類元素の酸化物をアルカリ金属の炭酸塩および/または酸化物とともに熱処理することを特徴とするものである。本発明の方法における処理対象物であるホウ素を含む希土類元素の酸化物を構成する希土類元素(R)は、例えばNd,Pr,Dy,Tb,Smなどから選択される1種または複数であってよい。ホウ素はどのような形態で存在していてもよく、例えばRBやRなどの希土類元素とホウ素の複合酸化物の形態で存在することができる。なお、ホウ素を含む希土類元素の酸化物は、その他の元素としてFe,Co,Niなどの鉄族元素やアルミニウムやケイ素などを含んでいてもよい。
本発明の方法における処理対象物であるホウ素を含む希土類元素の酸化物の具体例としては、特許文献1に記載の方法に従って、R−Fe−B系永久磁石とガラススラグとしての酸化ホウ素をるつぼの中で溶解してから凝固させることで鉄族元素から分離して回収されるものが挙げられる。
また、本発明の方法における処理対象物であるホウ素を含む希土類元素の酸化物は、R−Fe−B系永久磁石に対して酸化処理を行った後、処理環境を炭素の存在下に移し、1150℃以上の温度で熱処理することで鉄族元素から分離して回収されるものであってもよい。
この場合、R−Fe−B系永久磁石に対する酸化処理は、酸素含有雰囲気中で磁石を熱処理したり燃焼処理したりすることによって行うことが簡便である。磁石の大きさや形状は特段制限されるものではなく、スクラップや加工屑などであってよい。磁石に対して十分な酸化処理を行うためには、磁石を500μm以下の粒径を有する粒状ないし粉末状に粉砕することが望ましい(例えば調製の容易性に鑑みれば粒径の下限は1μmが望ましい)。しかしながら、磁石の全てをこのような粒状ないし粉末状に粉砕する必要は必ずしもなく、粒状ないし粉末状であるのは磁石の一部であってよい。酸素含有雰囲気は大気雰囲気であってよい。酸素含有雰囲気中での熱処理は、例えば350℃〜1000℃で1時間〜5時間行えばよい。酸素含有雰囲気中での燃焼処理は、例えば自然発火や人為的点火により行えばよい。処理対象物に対してこうした酸化処理を行うと、磁石に含まれる酸素モル濃度は希土類元素のモル濃度の1.5倍以上となり、希土類元素の酸化物への変換をより確実なものにすることができる。酸化処理によって磁石に含まれる酸素モル濃度は希土類元素のモル濃度の2.0倍以上になることが望ましい。また、磁石に対する酸化処理は、炭素の非存在下で行うことが望ましい。炭素の存在下で磁石に対する酸化処理を行うと、磁石に含まれる希土類元素が炭素と望まざる化学反応を起こして所望する酸化物への変換が阻害される恐れがあるからである(従ってここでは「炭素の非存在下」は磁石に含まれる希土類元素の酸化物への変換が阻害されるに足る化学反応の起因となる炭素が存在しないことを意味する)。
酸化処理を行ったR−Fe−B系永久磁石を炭素の存在下に移し、1150℃以上の温度で熱処理することで、希土類元素を酸化物として鉄族元素から分離することができる。これは、酸化処理を行った磁石を炭素の存在下に移し、酸化処理を行った磁石に対して炭素を供給しながら1150℃以上の温度で熱処理すると、酸化処理を行った磁石に含まれる希土類元素の酸化物は高温で酸化物のままで溶融するのに対し、鉄族元素は炭素を固溶して合金化して溶融し、また、鉄族元素の酸化物は炭素によって還元された後に炭素を固溶して合金化して溶融し、結果として、希土類元素の酸化物の溶融物と鉄族元素と炭素の合金の溶融物が相溶することなく互いに独立して存在するという本発明者によって見出された現象に基づくものである。酸化処理を行った磁石を炭素の存在下で熱処理する温度を1150℃以上に規定するのは、1150℃未満であると、希土類元素の酸化物も鉄族元素と炭素の合金も溶融しないからである。酸化処理を行った磁石を炭素の存在下で熱処理する温度は1300℃以上が望ましく、1350℃以上がより望ましく、1400℃以上がさらに望ましい。なお、熱処理温度の上限は例えばエネルギーコストの点に鑑みれば1700℃が望ましく、1650℃がより望ましく、1600℃がさらに望ましい。熱処理時間は例えば10分間〜3時間が適当である。酸化処理を行った磁石に対する炭素の供給源は、グラファイト(黒鉛や石墨)、木炭、コークス、石炭、ダイヤモンド、カーボンブラックなど、どのような構造や形状のものであってもよいが、炭素るつぼを用いて熱処理を行えば、炭素るつぼは処理容器としての役割とともにその表面からの炭素供給源としての役割も果たすので都合がよい(もちろん別個の炭素供給源をさらに添加することを妨げるものではない)。処理容器として炭素るつぼを用いる場合、酸化処理を行った磁石の炭素の存在下での熱処理は、アルゴンガス雰囲気などの不活性ガス雰囲気(酸素含有濃度は1ppm未満が望ましい)中や真空(1000Pa未満が望ましい)中で行うことが望ましい。大気雰囲気などの酸素含有雰囲気中で熱処理を行うと、雰囲気中の酸素が炭素るつぼの表面において炭素と反応することで二酸化炭素を生成し、炭素るつぼが炭素供給源としての役割を効率的に果さない恐れがあるからである。なお、用いることができる処理容器は、炭素るつぼに限定されるわけではなく、非炭素製の処理容器、例えばアルミナや酸化マグネシウムや酸化カルシウムなどの金属酸化物や酸化ケイ素でできたセラミックスるつぼ(単一の素材からなるものであってもよいし複数の素材からなるものであってもよい。炭化ケイ素などの炭素元素を含む素材であっても炭素供給源としての役割を果さない素材からなるものを含む)などを用いることもできる。非炭素製の処理容器を用いる場合、処理容器は炭素供給源としての役割を果さないので、処理容器に炭素供給源を添加することによって酸化処理を行った磁石を熱処理する。また、非炭素製の処理容器として製鉄のための溶鉱炉、電気炉、誘導炉などを用いるとともに、炭素供給源として木炭やコークスなどを用いれば、酸化処理を行った磁石を一度に大量に熱処理することができる。添加する炭素供給源の量は磁石に含まれる鉄族元素に対してモル比で1.5倍以上であることが望ましい。添加する炭素供給源の量をこのように調整することで、磁石に含まれる鉄族元素が酸化処理によって酸化物に変換されてもその還元を確実なものとして炭素との合金化を進行させることができる。なお、非炭素製の処理容器を用いる場合、酸化処理を行った磁石の炭素の存在下での熱処理は、アルゴンガス雰囲気などの不活性ガス雰囲気(酸素含有濃度は1ppm未満が望ましい)中や真空(1000Pa未満が望ましい)中で行ってもよいし、大気雰囲気などの酸素含有雰囲気中で行ってもよい。酸化処理を行った磁石の炭素の存在下での熱処理を酸素含有雰囲気中で行った場合、熱処理後における処理容器内の余剰の炭素供給源は雰囲気中の酸素と反応することによって二酸化炭素となって処理容器から排出される点において都合がよい。
以上のようにして酸化処理を行ったR−Fe−B系永久磁石を炭素の存在下で熱処理することで、希土類元素の酸化物と鉄族元素と炭素の合金のいずれもが溶融すると、両者の溶融物は、相溶せず、前者の溶融物は後者の溶融物よりも比重が軽いため、後者の溶融物の表面に浮き上がった状態で存在するようになるので、両者を容易に分離することができる。また、熱処理を行った後に冷却を行うと、希土類元素の酸化物の溶融物と鉄族元素と炭素の合金の溶融物は、それぞれが塊状物を形成して処理容器に固着するので、塊状物の形態で両者を分離することもできる。また、処理容器に固着した希土類元素の酸化物の塊状物と鉄族元素と炭素の合金の塊状物を1350℃以上の温度で熱処理すると、いずれの塊状物も溶融し、後者の溶融物は処理容器の表面に拡散層を形成して展延するのに対し、前者の溶融物は後者の溶融物の表面に浮き上がった状態で存在するようになるので、前者の溶融物を後者の溶融物から容易に分離することができる。また、この現象を利用すれば、希土類元素の酸化物の塊状物と鉄族元素と炭素の合金の塊状物が固着した処理容器を、天地を逆転させた状態で例えばアルゴンガス雰囲気などの不活性ガス雰囲気(酸素含有濃度は1ppm未満が望ましい)中や真空(1000Pa未満が望ましい)中で1350℃以上の温度で熱処理することで(熱処理時間は例えば10分間〜3時間が適当である)、前者の溶融物だけを落下させて後者の溶融物と分離するといったこともできる。
本発明の方法において用いるアルカリ金属の炭酸塩や酸化物を構成するアルカリ金属の具体例としては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどが挙げられる。アルカリ金属の炭酸塩としては炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどが例示され、アルカリ金属の酸化物としては酸化リチウム、酸化ナトリウム、酸化カリウムなどが例示される。これらはいずれか1種を用いてもよいし、複数種類を混合して用いてもよいが、吸湿性が少なくて取扱いが容易であり、安価なアルカリ金属の炭酸塩を用いることが望ましい。アルカリ金属の炭酸塩や酸化物の使用量は、処理対象物であるホウ素を含む希土類元素の酸化物1重量部に対して0.05重量部〜1重量部が望ましい。アルカリ金属の炭酸塩や酸化物の使用量が少なすぎるとホウ素含量の低減効果が十分に発揮されない恐れがある一方、必要以上に多くしても効果が飽和してしまってコストアップを招くだけである。
ホウ素を含む希土類元素の酸化物とアルカリ金属の炭酸塩や酸化物の熱処理は1150℃以上で行うことが望ましく、1250℃以上で行うことがより望ましい。また、熱処理は1600℃以下で行うことが望ましく、1500℃以下で行うことがより望ましい。熱処理温度が低すぎるとホウ素含量の低減効果が十分に発揮されない恐れがある一方、高すぎると処理容器の内容物が処理容器などの腐食を引き起こすといった場合がある。熱処理はアルゴンガス雰囲気などの不活性ガス雰囲気(酸素含有濃度は1ppm未満が望ましい)中や真空(1000Pa未満が望ましい)中で行ってもよいし、大気雰囲気などの酸素含有雰囲気中で行ってもよい。熱処理を炭素の存在下で行うと、アルカリ金属の炭酸塩や酸化物は還元されて金属に変換され、熱処理をアルカリ金属の沸点以上で行うことで希土類元素の酸化物に含まれるアルカリ金属を気化させれば、希土類元素の酸化物のアルカリ金属含量を低減することができる。気化したアルカリ金属は、大気中の水分と反応させるなどして酸化物や水酸化物として回収して再利用することができる。熱処理を炭素の存在下で行う場合、炭素は、グラファイト(黒鉛や石墨)、木炭、コークス、石炭、ダイヤモンド、カーボンブラックなど、どのような構造や形状のものであってもよいが、炭素るつぼを用いて熱処理を行えば、炭素るつぼは処理容器としての役割も果たすので都合がよい(別個の炭素をさらに存在させることを妨げるものではない)。なお、処理容器は、モリブデン、チタン、ジルコニウム、ステンレス、ニッケルなどの金属製のものを用いてもよい。熱処理時間は例えば30分間〜5時間が適当である。熱処理を行う回数は1回であってもよいし、複数回であってもよい。熱処理を複数回行う場合、同じ条件での熱処理を繰り返して行ってもよいし、異なる条件での熱処理を組み合わせて行ってもよい。
特許文献1に記載の方法や上記の方法に従って調製された本発明の方法における処理対象物となるホウ素を含む希土類元素の酸化物のホウ素含量は例えば1.0mass%以上であるので(ホウ素含量の上限は通常15mass%である)、本発明の方法によってホウ素含量を効果的に低減することができる(1.0mass%未満まで低減することも可能である)。また、これらの方法に従って調製されたホウ素を含む希土類元素の酸化物の希土類元素含量は例えば30.0mass%以上であり、鉄族元素含量は例えば1.0mass%以下であるので、本発明の方法によってホウ素含量を低減した後は、例えば溶融塩電解法によって還元することで高純度な希土類金属を得ることができる。この際、溶融塩電解法がフッ素を含む溶融塩成分を用いたものであっても、有毒なフッ化ホウ素が発生する恐れを回避することができる。なお、上述したように、ホウ素を含む希土類元素の酸化物とアルカリ金属の炭酸塩や酸化物の熱処理を、炭素の存在下、アルカリ金属の沸点以上で行うことで、希土類元素の酸化物のアルカリ金属含量を低減することができるが、希土類元素の酸化物がアルカリ金属を含んでいても、通常、溶融塩電解法においてはアルカリ金属のハロゲン化物が融点降下剤などとして用いられるため、溶融塩電解法による還元に悪影響を及ぼすことはない。
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。
実施例1:
R−Fe−B系永久磁石10gと酸化ホウ素20gを、寸法が外径50mm×高さ30mm×肉厚5mmの窒化ホウ素るつぼに収容した後、工業用アルゴンガス雰囲気(酸素含有濃度:0.2ppm、流量:10L/分。以下同じ)中で1450℃で1時間熱処理した。その後、窒化ホウ素るつぼを室温まで炉冷したところ、窒化ホウ素るつぼ内には熱処理物として金属調の塊状物(a)と緑色のガラス状物(b)と白色のガラス状物(c)が3層に分離して固着して存在した。R−Fe−B系永久磁石のICP分析結果(使用装置:島津製作所社製のICPV−1017、以下同じ)とガス分析結果(使用装置:堀場製作所社製のEMGA−550W、以下同じ)を表1に示す。また、3種類の熱処理物のICP分析結果を表2に示す。表2から明らかなように、塊状物(a)の主成分は鉄、ガラス状物(b)の主成分は希土類元素であってホウ素を含み、ガラス状物(c)の主成分はホウ素であった。このICP分析結果と別途に行ったガス分析結果、さらにNd,B,Al,Dy,Pr11からなる五元系の標準試料を用いたX線回折分析結果から、ガラス状物(b)はホウ素を含む希土類元素の酸化物(複合酸化物)であることがわかった。
上記のホウ素を含む希土類元素の酸化物であるガラス状物(b)3.00gをメノウ乳鉢とメノウ乳棒を用いてよく粉砕した後、炭酸カリウム0.72gと混合して寸法が外径36mm×高さ10mm×肉厚5mmの炭素るつぼ(黒鉛製)に収容し、工業用アルゴンガス雰囲気中で1450℃で1時間熱処理した。熱処理前のガラス状物(b)の粉砕物とその熱処理物(塊状物)の粉砕物のそれぞれのICP分析結果を表3に示す。表3から明らかなように、熱処理前のガラス状物(b)の粉砕物のホウ素含量が12.3mass%であったのに対し、その熱処理物の粉砕物のホウ素含量は7.8mass%であり、ホウ素を含む希土類元素の酸化物を炭酸カリウムとともに熱処理することで、そのホウ素含量を低減できることがわかった(熱処理物が酸素を含むことは別途に行ったガス分析結果から確認済み)。
実施例2:
R−Fe−B系永久磁石の製造工程中に発生した約10μmの粒径を有する磁石加工屑(自然発火防止のため水中で7日間保管したもの)に対し、吸引ろ過することで脱水してから大気雰囲気中で火をつけて燃焼処理を行うことで酸化処理を行った。こうして酸化処理を行った磁石加工屑のICP分析結果とガス分析結果を表4に示す。酸化処理を行った磁石加工屑に含まれる酸素モル濃度は希土類元素のモル濃度の7.6倍であった。
次に、酸化処理を行った磁石加工屑230gを、寸法が外径110mm×高さ150mm×肉厚10mmの炭素るつぼ(黒鉛製)に収容した後、工業用アルゴンガス雰囲気中で1450℃で1時間熱処理した。その後、炭素るつぼを室温まで炉冷したところ、炭素るつぼ内には熱処理物として2種類の塊状物(塊状物(A)と塊状物(B))が2層に分離して固着して存在した。塊状物(A)と塊状物(B)のそれぞれをSEM・EDX(日立ハイテクノロジーズ社製のS800、以下同じ)を用いて分析した結果を表5に示す。表5から明らかなように、塊状物(A)の主成分は鉄である一方、塊状物(B)の主成分は希土類元素であって酸素を含むことがわかった。このSEM・EDX分析結果と別途に行ったICP分析結果、さらにNd,B,Al,Dy,Pr11からなる五元系の標準試料を用いたX線回折分析結果から、塊状物(B)はホウ素を含む希土類元素の酸化物(複合酸化物)であることがわかった。
上記のホウ素を含む希土類元素の酸化物である塊状物(B)3.00gをメノウ乳鉢とメノウ乳棒を用いてよく粉砕した後、炭酸リチウム1.50gと混合して寸法が外径36mm×高さ10mm×肉厚5mmの炭素るつぼ(黒鉛製)に収容し、工業用アルゴンガス雰囲気中で1450℃で1時間熱処理した。熱処理前の塊状物(B)の粉砕物とその熱処理物(塊状物)の粉砕物のそれぞれのICP分析結果を表6に示す。表6から明らかなように、熱処理前の塊状物(B)の粉砕物のホウ素含量が2.30mass%であったのに対し、その熱処理物の粉砕物のホウ素含量は1.99mass%であり、ホウ素を含む希土類元素の酸化物を炭酸リチウムとともに熱処理することで、そのホウ素含量を低減できることがわかった(熱処理物が酸素を含むことは別途に行ったガス分析結果から確認済み)。
実施例3:
炭酸リチウム1.50gのかわりに炭酸カリウム0.44gを用いること以外は実施例2と同様にして熱処理を行った。熱処理前の塊状物(B)の粉砕物とその熱処理物(塊状物)の粉砕物のそれぞれのICP分析結果を表7に示す。表7から明らかなように、熱処理前の塊状物(B)の粉砕物のホウ素含量が2.30mass%であったのに対し、その熱処理物の粉砕物のホウ素含量は1.69mass%であり、ホウ素を含む希土類元素の酸化物のホウ素含量を低減できた(熱処理物が酸素を含むことは別途に行ったガス分析結果から確認済み)。
実施例4:
炭酸リチウム1.50gのかわりに炭酸リチウム0.44gと炭酸ナトリウム0.33gと炭酸カリウム0.25gの混合物を用いること以外は実施例2と同様にして熱処理を行った。熱処理前の塊状物(B)の粉砕物とその熱処理物(塊状物)の粉砕物のそれぞれのICP分析結果を表8に示す。表8から明らかなように、熱処理前の塊状物(B)の粉砕物のホウ素含量が2.30mass%であったのに対し、その熱処理物の粉砕物のホウ素含量は1.84mass%であり、ホウ素を含む希土類元素の酸化物のホウ素含量を低減できた(熱処理物が酸素を含むことは別途に行ったガス分析結果から確認済み)。
実施例5:
炭酸リチウム1.50gのかわりに炭酸カリウムを種々の添加量で用いること以外は実施例2と同様にして熱処理を行った。熱処理前の塊状物(B)の粉砕物とその熱処理物(塊状物)の粉砕物のそれぞれのICP分析結果を表9に示す。また、炭酸カリウムの添加量と熱処理物のホウ素含量の関係を図1に示す。表9と図1から明らかなように、処理対象物に対する炭酸カリウムの添加量が増えるほど、ホウ素を含む希土類元素の酸化物のホウ素含量を低減できた(熱処理物が酸素を含むことは別途に行ったガス分析結果から確認済み)。また、処理対象物に対する炭酸カリウムの添加量が増えるほど、得られる熱処理物は多数の粒状物から構成される形状を呈し、力を加えることで容易に崩壊するものとなったが、これは熱処理物のホウ素含量の低下に起因するものと考えられた。
実施例6:
炭酸リチウム1.50gのかわりに炭酸カリウム0.50gを用い、処理容器として寸法が外径36mm×高さ10mm×肉厚5mmの炭素るつぼ(黒鉛製)のかわりに寸法が縦20mm×横20mm×高さ10mmのモリブデン製の箱を用いること以外は実施例2と同様にして熱処理を行った。熱処理前の塊状物(B)の粉砕物とその熱処理物(塊状物)の粉砕物のそれぞれのICP分析結果を表10に示す。表10から明らかなように、熱処理前の塊状物(B)の粉砕物のホウ素含量が2.45mass%であったのに対し、その熱処理物の粉砕物のホウ素含量は1.10mass%であり、ホウ素を含む希土類元素の酸化物のホウ素含量を低減できた(熱処理物が酸素を含むことは別途に行ったガス分析結果から確認済み)。
実施例7:
1450℃で熱処理するかわりに1200℃で熱処理すること以外は実施例2と同様にして熱処理を行い、熱処理前の塊状物(B)の粉砕物とその熱処理物(塊状物)の粉砕物のそれぞれをICPを用いて分析したところ、程度の違いはあるが実施例2と同様にホウ素を含む希土類元素の酸化物のホウ素含量を低減できた(熱処理物が酸素を含むことは別途に行ったガス分析結果から確認済み)。
実施例8:
1450℃で熱処理するかわりに1600℃で熱処理すること以外は実施例2と同様にして熱処理を行い、熱処理前の塊状物(B)の粉砕物とその熱処理物(塊状物)の粉砕物のそれぞれをICPを用いて分析したところ、程度の違いはあるが実施例2と同様にホウ素を含む希土類元素の酸化物のホウ素含量を低減できた(熱処理物が酸素を含むことは別途に行ったガス分析結果から確認済み)。
実施例9:
炭酸リチウム1.50gのかわりに酸化ナトリウム0.44gを用いること以外は実施例2と同様にして熱処理を行い、熱処理前の塊状物(B)の粉砕物とその熱処理物(塊状物)の粉砕物のそれぞれをICPを用いて分析したところ、程度の違いはあるが実施例2と同様にホウ素を含む希土類元素の酸化物のホウ素含量を低減できた(熱処理物が酸素を含むことは別途に行ったガス分析結果から確認済み)。
本発明は、ホウ素を含む希土類元素の酸化物のホウ素含量を乾式的に簡便に低減する方法を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。

Claims (8)

  1. ホウ素を含む希土類元素の酸化物をアルカリ金属の炭酸塩および/または酸化物とともに熱処理することを特徴とするホウ素を含む希土類元素の酸化物のホウ素含量を低減する方法。
  2. 前記熱処理前のホウ素を含む希土類元素の酸化物のホウ素含量が1.0mass%以上であることを特徴とする請求項1記載の方法。
  3. ホウ素を含む希土類元素の酸化物の希土類元素含量が30.0mass%以上であることを特徴とする請求項1または2記載の方法。
  4. 1150℃以上で熱処理を行うことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の方法。
  5. 熱処理を炭素の存在下で行うことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の方法。
  6. 処理容器として炭素るつぼを用いて熱処理を行うことを特徴とする請求項5記載の方法。
  7. ホウ素を含む希土類元素の酸化物がR−Fe−B系永久磁石から調製されたものであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の方法。
  8. ホウ素を含む希土類元素の酸化物の鉄族元素含量が1.0mass%以下であることを特徴とする請求項7記載の方法。
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