本願発明者等は、半導体装置を製造するために必要な各種のエッチング条件についてこれまで検討を行ってきた。この検討結果より、絶縁膜の選択エッチングには水(H2O)の存在が極めて重要であり、エッチング液中に含有されるH2O量が多くなると選択比が低下する傾向があることがわかった。また、非選択エッチングに関しても、同様にエッチング液中のH2O量が多すぎると、所定の非選択エッチングを行うことができない場合があり、選択エッチングの場合と同様にH2O量の調整が重要であることがわかった。
しかしながら、一般に絶縁膜のエッチング液に使用されているフッ酸やフッ化アンモニアは、市販の薬液タイプのものが用いられており、これらは濃度が最も高いものでも水分を多量に含むため、H2O含有量を低濃度に調整することは困難である。
これに対し、本願発明者等は、希釈により水分含有量を低濃度範囲で調整でき、複数のエッチング工程で共通に使用できるエッチング原液とこれを用いたエッチング方法について見出した。また、このエッチング原液と共通する組成を有し、他のエッチング工程とエッチング装置や廃液処理等を共通化できるエッチング液についても見出した。以下、本願発明の実施の形態について説明する。
(エッチング原液)
図1は、以下に説明する第1〜第3の実施の形態におけるエッチングに共通に使用されるエッチング原液の構成を示す概念図である。エッチング原液は、そのままもしくは希釈して使用する。
図1に示すように、エッチング原液の主成分は、硫酸(H2SO4)及び弗化アンモニウム塩(NH4F)であり、不可避的に含有される水分(H2O)含有量は低濃度に制限している。
このエッチング原液は、市販の硫酸液1リットルに対して、固体のフッ化アンモニウム(NH4F)を溶解させて作製する。例えば硫酸液に対し0.1〜20mol/リットル程度溶解させる。即ち、硫酸液に対し0.2wt%以上のNH4Fを添加する。固体のNH4Fは、従来広くエッチング液用に使用されているふっ化アンモニウム溶液と異なり水分をほとんど含まないため、エッチング原液に不可避的に含まれる水分含有量を大幅に低減できる。
また、使用する硫酸液も、水分(H2O)含有量ができるだけ少ないものを用いる。例えば、H2O含有量が4wt%以下のものを用いる。よって、市販の2wt%〜4wt%のH2Oを含む98wt%〜96wt%濃度の硫酸液を用いることができる。
なお、以下の第1〜第3の実施の形態で使用する最適なエッチング条件に対しては、H2SO4とH2Oの重量濃度が97:3である硫酸液を用い、この硫酸液中に固体フッ化アンモニウムを10mol当量(およそ370g)溶解させたものをエッチング原液として用いる。このエッチング原液のH2SO4とNH4FとH2Oの重量濃度比は、およそ97:20:3に相当する。
また、このエッチング原液の希釈に際しては、エッチング原液で使用する硫酸液と同じく、H2SO4とH2Oの重量濃度が97:3の比の硫酸液を添加する。
なお、図2の表は、エッチング原液および後述する各実施の形態で使用するエッチング溶液の組成及びエッチング温度条件を示したものである。
(その他のエッチング原液例)
上述するエッチング原液は、H2O含有量が4wt%以下の硫酸液にフッ化アンモニウム(NH4F)の固体材料を添加したものであるが、硫酸液に添加する薬剤はフッ化アンモニウムに限定されず、NH4F、またはHF成分を水分を伴わずに硫酸液に混合できる薬剤ならフッ化アンモニウムに代えて使用することができる。
例えばフッ化水素アンモニウム(NH4F・HF)は、フッ化アンモニウム同様、固体材料が入手できるため、固体のまま硫酸中に溶解させれば、水分含有量の少ないエッチング原液を作製できる。なお、フッ化水素アンモニウムは、フッ化アンモニウムより安価であるため、材料コストをより安くできるメリットもある。
また、硫酸に添加する材料として、HF単体ガスの使用も有効である。一般にエッチング液に使用されるフッ酸(HF)は、水溶液が利用されているが、これでは大量の水分を排除できない。しかし、図3に示すように、HF単体ガスボンベをから、バブリング法を用いて、硫酸液中に水分を伴わずHFの導入が可能である。特に、HF単体の沸点は19℃と低いので、容易にガス化させることができる。なお、HFの導入方法としては、ガスと液体を混合する装置であるエジェクターを用いてもよい。
さらに、無水フッ酸液を使用することもできる。無水フッ酸液を19℃以下として液体に保ち、無水フッ酸液と硫酸液とを混合してエッチング原液を作製してもよい。このように、液体同士を混合してエッチング原液を作製する場合は、バブリングや攪拌が不要であるのでエッチング原液の作製が容易になる。なお、無水フッ酸を気化し、図3に示すバブリング方法を用いて硫酸液中に溶解させてもよい。
なお、上述のように、HF材料として水分をほとんど含まないものを使用する代わりに、硫酸液として例えば水分含有量が2wt%以下の高純度の硫酸、例えば98wt%硫酸を使用できる場合は、この溶液と市販の水分を約50%含むフッ酸溶液またはフッ化アンモニウム溶液等を混合して、エッチング原液を作製することもできる。
即ち、エッチング原液は、H2SO4とNH4F、もしくはH2SO4とHFを主成分として有し、エッチング原液中のH2Oが少なくとも5wt%以下にできればよい。
(第1の実施の形態)
第1の実施の形態では、上述するエッチング原液を用いた、絶縁膜の選択的エッチングについて説明する。
図4Aおよび図4Bは、第1の実施の形態に係るエッチングの態様を示す半導体装置の部分断面図である。例えば、図4Aに示すように、Si基板10上に熱酸化法で作製された熱酸化SiO2膜12、SiN膜14、BSG膜16が積層形成されている。このBSG膜16をハードマスク(エッチングマスク)として使用し、RIE(Reactive Ion Etching)法によりトレンチ20を形成した後、図4Bに示すように、ハードマスクとして使用された最上層のBSG膜16のみを選択的にエッチングするようなエッチング態様である。
トレンチ20の内壁には、各層が露出している。即ち、このエッチング態様において、BSG膜16は、他の露出する層であるSiN膜14、熱酸化SiO2膜12、Si基板10に対し選択的にエッチングされる必要がある。この場合特に問題となるのが、膜組成が共通する熱酸化SiO2膜12に対するBSG膜のエッチング選択性である。
図5は、硫酸液中へのNH4Fの添加量を1mol/リットルに固定し、硫酸液の含有水分量を1wt%〜8wt%に変化させたエッチング液を用いて、エッチング液中の含有水分量の変化に対するBSG膜16と熱酸化SiO2膜12それぞれのエッチング速度を示すグラフである。
同図に示すように、硫酸液中のH2O含有量を8wt%〜1wt%まで徐々に減らしていくと、BSG膜のエッチング速度はそれほど変化しないのに対し、熱酸化SiO2のエッチング速度はH2O含有量の減少に従い徐々に遅くなり、特に4wt%以下で大きくエッチング速度が低下する。即ち、エッチング液中のH2O含有量が低い程、熱酸化SiO2に対しBSG膜は高いエッチング選択性を得ることができる。より具体的には、エッチング液に用いた硫酸液中のH2O含有量が4wt%以下、好ましくは3wt%以下(図中破線左領域)であれば、熱酸化SiO2膜に対しBSG膜を高い選択比でエッチングできる。
なお、この図5に示す硫酸液中のH2O含有量が3wt%のエッチング液は、上述した図2の表に示すエッチング原液(H2SO4、H2Oの重量濃度比が97:3である硫酸液に、NH4Fを10mol/リットル溶解させたエッチング原液)をH2SO4とH2Oの重量濃度が97:3の比の硫酸液で10倍に希釈することで、容易に得ることができる。
ところで、ハードマスクとして用いられるBSG膜は、一般に膜厚が厚いので、エッチング速度が遅いとエッチングに要する時間が長くなり、プロセスの効率化の点から好ましくない。よって、ある程度高いエッチング速度が望まれる。
図6は、エッチング液中のH2SO4とH2Oの重量濃度比を98:2に固定し、エッチング液中のフッ化アンモニウム濃度(NH4F)を変化させた際のBSG膜のエッチング速度の変化を示すグラフである。同図より明らかなように、エッチング液中のNH4F濃度が高いほどBSG膜のエッチング速度は速くなる。よって、図6のグラフを参考にすると、実用上は、エッチング液中のNH4F濃度を1mol/リットル以上にする条件が望ましいといえる。例えば、このようなエッチング液は、上述した図2の表に示すエッチング原液を、H2SO4とH2Oの重量濃度が97:3の比の硫酸液で20倍以下、より好ましくは10倍以下に薄めればよい。
エッチングの温度は、エッチングする膜厚や許容されるプロセス時間に応じて10℃程度の低温で行うことも、室温で処理を行うことも200℃の高温で処理を行うことも可能である。しかし特にエッチングの面内均一性が問題になる処理において、エッチング槽内に撹拌機能を有さない場合は、例えばH2SO4の粘性が低くなる50℃以上にて処理することが好ましく、この場合、バッチ処理において、非常に高い面内均一性が得られる。
しかし、使用するエッチング装置において、十分な攪拌機能を備えたエッチング槽を用いれば10℃程度でも、十分な面内均一性を得ることができる。一方、含有するNH4Fの薬液からの飛散を考慮すると80℃以下でエッチングを行うことが望ましい。よって、余分なヒーターやファン等の動力を必要としない室温での処理が望ましい。
このようにして、温度コントロール、硫酸液中のH2O及びNH4F含有率のコントロールにより、熱酸化SiO2膜に対して非常に高い選択比をもってBSG膜をエッチングすることが可能となる。勿論、処理に用いるエッチング液は何度も繰り返し使用できる。
上述の例では、BSG膜を選択的にエッチングする例について説明したが、同じエッチング原液を用いて、水分含有量が4wt%以下の硫酸液で希釈したエッチング液を用いることにより、これ以外にハードマスクとして利用されるPSG膜、BPSG膜、減圧CVD法で作製したTEOS膜、およびCVD法で作製されたSiON膜等を熱酸化SiO2膜に対して選択的にエッチングすることもできる。また、これらのハードマスク材料は、SiN膜、Si膜または他の導電膜(メタル)等に対しても選択的にエッチングできる。さらには減圧CVD法で作製したTEOS膜をプラズマCVD法で作製したTEOS膜に対して選択的エッチングを行うこともできる。
また、Si膜やSi基板に対して、SiN膜とプラズマCVDで作製したTEOS膜とを選択的にエッチングすることもでき、選択的にエッチングする膜は一つに限らず複数の膜を他の膜に対して同時にエッチングすることも可能である。なお、基板表面にレジストが存在する場合においては、ハードマスクの選択エッチングと同時にレジストを剥離することが可能である。
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態では、上述するエッチング原液を用いた、絶縁膜の非選択性エッチングについて説明する。
図7Aおよび図7Bは、第2の実施の形態に係るエッチングの態様を示す半導体装置の部分断面図である。例えば、図7Aに示すように、Si基板10上に熱酸化法で作製された熱酸化SiO2膜12とSiN膜14とが積層形成され、各層が内壁面に露出するトレンチ20が存在するときに、図7Bに示すように、SiN膜14及び熱酸化SiO2膜12を約10nm程度エッチングして、表面の凹凸をとりよりなめらかな面に加工する工程に適用する態様である。即ち、第1の実施の形態に示すハードマスクであるBSG膜のエッチングに続く工程である。この場合は、SiN膜14及び熱酸化SiO2膜12を非選択的に、例えば熱酸化SiO2膜12のエッチング速度に対しSiN膜14のエッチング速度が1〜1.5倍程度になるようにエッチングを行う必要がある。
図8は、硫酸液中へのNH4Fの添加量を0.5mol/リットルに固定し、硫酸液の含有水分量を1wt%〜6wt%に変化させたエッチング液を用いて、エッチング液中の含有水分量の変化に対するとSiN膜14と熱酸化SiO2膜12それぞれのエッチング速度を測定したグラフである。なお、エッチング温度は100℃とした。
同図に示すように、エッチング液中のH2O濃度が高い場合は、SiN膜より熱酸化SiO2膜のエッチング速度の方が速い。しかし、H2O濃度がある程度以上低くなるとエッチング速度の逆転がおこる(図8中A点)。よって、両者のエッチング速度の交差(図中A点)近傍のエッチング条件で、エッチングを行えば、SiN膜と熱酸化SiO2膜はほぼ両者を非選択的にエッチングできる。
例えば、SiN膜のエッチング速度に対し、熱酸化SiO2膜のエッチング速度を1〜1.5倍程度にしたい場合は、上述した図2に示すエッチング原液(H2SO4、H2Oの重量濃度比が97:3である硫酸液に、NH4Fを10mol/リットル溶解させたエッチング原液)を、エッチング原液中の硫酸液と同じ組成の硫酸液で、約2倍〜50倍に希釈したエッチング液を用いればよい。
なお、エッチング原液の希釈率は、エッチング温度との関係で決められる。例えば、エッチング温度を80℃に設定する場合は、10倍程度に希釈したエッチング液を用いればよく、100℃より高温でエッチングしたい場合は、エッチング速度が増すので、更に希釈したエッチング液を用いることができる。
エッチングの温度範囲は均一性の面から考えると50℃以上、薬液の安定性の面から考えれば100℃以下が望ましいが、50℃ではエッチング速度が遅いため、80℃〜100℃程度が望ましいと考えられる。また、80℃を超えるエッチング処理を行う場合は、NH4Fの飛散が起こるので、その飛散量に応じてエッチング原液を供給することが必要になる。
(第3の実施の形態)
第3の実施の形態では、上述するエッチング原液を用いた、RIE(ReactiveIon Etching)後の反応生成残留物の除去条件について説明する。
図9Aおよび図9Bは、第3の実施の形態に係るエッチングの態様を示す半導体装置の部分断面図である。例えば、図9Aに示すように、埋め込み型の素子分離領域であるSTI(Shallow Trench Isolation)層30が形成されたSi基板10上にポリシリコン膜32とBSG膜34が積層形成されており、STI層30が底面に露出するようなトレンチ22をRIE法を用いて形成した後に、トレンチ22底部に残ったドライエッチングの反応生成残留物36を図9Bに示すように除去するために行うエッチング態様である。
トレンチ底部のコーナーに残った反応生成残留物36は、粗な堆積物であるが、特にポリシリコン膜32のRIE後に残る反応生成残留物36は、非常に粗な膜であり、薄いフッ酸水で溶解除去が可能なものである。しかし、希釈したフッ酸水で反応生成残留物36の除去を行うと、トレンチ22底面に露出しているSTI層30のSiO2膜がエッチングされてしまうため好ましくない。
よって、STI層30に対し反応生成残留物36を選択的にエッチングする条件が必要となる。
図10は、上述する図2に示すエッチング原液をH2SO4とH2Oの重量濃度比が97:3である硫酸液で希釈し、その希釈率に対するSTI層およびドライエッチングの反応生成残留物36それぞれのエッチング速度を示したグラフである。
同図から分かるように、エッチング原液を10倍〜1000倍に希釈したエッチング液を用いれば、反応生成残留物をSTI層に対し選択的にエッチングすることができる。10倍に希釈したエッチング液を用いた場合は、反応生成残留物は1分以内でエッチングされてしまう。また、100倍に希釈したエッチング液を用いた場合は、STI層に対し高い選択比で反応生成残留物を除去できる。さらにエッチング液の希釈率を1000倍まで上げると、反応生成残留物のエッチング速度も低下し、10分程度のエッチング処理が必要となる。
よって、枚葉式エッチング装置を用いた場合は、1枚のウェハ処理の時間を1分以内で行うことが望ましいため、エッチング原液を約10倍〜100倍に希釈したものをエッチング液として用いることが好ましい。一方、バッチ式エッチング装置を用いる場合には、エッチング原液を約100倍〜1000倍程度に希釈したものをエッチング液として用いることが望ましい。また、エッチング温度は、10℃〜100℃の範囲で設定可能であるが、余分なヒーターやファン等の動力を必要としない室温での処理が望ましい。
なお、ここに上げたエッチング液を用いれば、ドライエッチングされる膜の種類やエッチングガスの種類によらず、ドライエッチング後の反応生成残留物であれば、選択的なエッチングが可能である。
(第4の実施の形態)
第4の実施の形態は、SiN膜の剥離工程(エッチング工程)に関する。
図11Aおよび図11Bは、第4の実施の形態に係るエッチングの態様を示す半導体装置の部分断面図である。例えば、図11Aに示すように、Si基板10上に熱酸化SiO2膜12とSiN膜14が積層されており、SiN膜14を選択的にエッチングする態様である。なお、第1の実施の形態のエッチング工程の後にSiN膜14の剥離を行う場合は、Si基板10にトレンチ20が形成されており、トレンチ20内表面には、Si基板10や熱酸化SiO2膜12が露出しているため、これらの膜に対して選択的にSiN膜14をエッチングすることが求められる。
図12は、第4の実施の形態に係るSiN膜の剥離工程で使用するエッチング液の組成を示す。このエッチング液は、上述する図2の表に示したエッチング原液と共通する成分であるH2SO4 とH2Oとの混合溶液である。
SiN膜剥離工程では、SiN膜14をSiO2膜12に対して選択的にエッチングしなければならないが、エッチング液中にフッ酸やフッ化アンモニウムが含まれる場合は、SiO2膜がエッチングされてしまうため、第1〜第3の実施の形態で用いたエッチング原液やその希釈液を直接用いることはできない。
従来、SiN膜剥離は、燐酸(H3PO4)水溶液を用いて行われている。このH3PO4水溶液によるSiN膜剥離のメカニズムは、混合溶液によってもたらされたH2Oの沸点上昇に伴う高温状態のH2Oによるエッチングであると言われている。この高温状態のH2Oは、H3PO4 との混合による沸点上昇の結果得られるものである。この従来の剥離方法によれば、SiN膜を選択的に剥離することができるが、H3PO4を使用するため、専用の装置が必要であり、かつ燐(P)がクリーンルーム中に飛散し易いため、代替プロセスが望まれている。
一方、第1〜第3の実施の形態で用いたエッチング溶液と共通する溶液組成であるH2SO4の沸点は300℃以上であるが、例えばH2Oを30wt%含有する場合は、160℃以上の沸点が得られる。これらのことから、本願発明者等は、SiN膜剥離工程において、従来のH3PO4に替えてH2SO4を使用したSiN膜剥離用エッチング液の検討を行った。その結果、図12に示すような、H2Oを10wt%〜40wt%含有するH2SO4とH2Oとの混合液をSiN膜剥離用エッチング液として使用できることを見出した。
図13は、H2SO4とH2Oとの混合重量比が70wt%対30wt%である混合溶液を用いてSiN膜剥離を行ったときのエッチング温度とエッチング速度の関係を示すグラフである。同グラフに示すように、エッチング温度が120℃を超えるあたりからエッチング速度が速くなり、150℃を超え、160℃付近で沸騰状態となり、エッチング速度は急激に上昇することが確認された。即ち、H2SO4とH2Oとが70wt%対30wt%である混合溶液を用いた場合は、混合溶液温度を150℃以上とする条件でSiN膜の剥離が可能であり、より好ましくは沸点温度である160℃付近でSiN膜をより効果的に剥離できることが確認できた。
このように、H2SO4とH2Oとの混合溶液を用いてSiN膜の剥離工程を行うことができれば、この混合溶液は、第1〜第3の実施の形態において用いたエッチング液の組成と共通し、あるいはその希釈液と共通する組成を持つので、第1〜第3の実施の形態のエッチングで使用するエッチング装置とこの第4の実施の形態で使用するエッチング装置を一部共通にすることができる。また、廃液処理も共通に行うことができ、プロセスの効率化、装置コスト上のメリットも得られる。
なお、沸点では、主にH2Oが飛散し、溶液濃度が変化するので、例えば、温度をモニターしながら温度が上昇した時点で少しずつH2Oを添加することにより処理温度を維持することが望ましい。
H2SO4とH2Oとの混合比は、上述する70wt%対30wt%に限られず、例えばH2O含有量をもっと減らし、沸点温度を200℃以上にすることもできる。一方、沸点をあまり高くすると、飛散するH2SO4が増え好ましくない面がある。また沸点の上昇は、H2O含有量の低下を意味しており、SiN膜の剥離が主に高温のH2Oによるものであることを考慮すれば、H2OによるSiN膜のエッチングを抑制してしまうことにもなる。よって、H2O含有量は、10wt%〜40wt%程度が好ましく、さらに望ましくは、H2SO4とH2Oとの混合比を約70wt%対30wt%として160℃の沸点温度でSiN膜の剥離を行う。
一方、本願発明者等はH2SO4とH2Oとの混合液を用いたエッチングにおいて、エッチング速度が攪拌速度に依存することを見出した。即ち、エッチング液の攪拌により、エッチング液の置換効率を良くし、SiN膜のエッチング速度を促進することができる。
バッチ処理の場合は、攪拌機能或いは循環機能を有する槽を用いればよく、また枚葉処理においてはウエハの回転速度を上げることで同様な効果を得られる。
図14は、バッチ処理の場合の攪拌機能を備えたエッチング槽の構成例を示す概略図である。同図に示すように、エッチング槽50内にバブラー51を設け窒素ガス、酸素ガスまたは空気などのガスをエッチング液60中でバブリングすることでも効果的なエッチング液の攪拌による高いエッチング液置換効果を得ることができる。また、これ以外にも、エッチング液に超音波振動を与える方法でも高い攪拌効果によるエッチング速度の向上を図ることができる。なお、ガスと液体を混合する装置であるエジェクターを用いてもよい。
なお、沸騰条件では、それ自体が攪拌効果を有しているが、強制的な攪拌を加える場合は、沸騰状態でなくても、高いエッチング速度を得ることができる。
なお、CVD法で作製されたSiON膜の剥離工程も上述するSiN膜の剥離方法と同様な方法で行うことができる。
なお、CVD法で作製されたSiON膜の剥離工程も上述するSiN膜の剥離方法と同様な方法で行うことができる。
(第5の実施の形態)
第5の実施の形態は、第4の実施の形態と同様に図11Aおよび図11Bに示すSiN膜の剥離工程に関する。
図15は、第5の実施の形態に係るSiN膜の剥離工程で使用するエッチング液の組成を示す。このエッチング液は、第4の実施の形態に係るH2SO4 とH2Oとの混合溶液に微量のHFを添加した溶液であり、上述する図2に示したエッチング原液と共通する組成を持つ。このエッチング液は、市販の硫酸をH2Oで希釈し、およそ50wt%〜90wt%硫酸溶液(即ち、H2Oの含有量は10wt%〜50wt%である)を作製し、これに0.1wt%以下となるようにフッ酸を微量添加したものである。
第4の実施の形態で説明したように、本願発明者等はSiN膜の剥離工程において、従来のH3PO4を用いたエッチング液(燐酸水溶液)に替えて、H2SO4とH2Oとの混合液(硫酸水溶液)をエッチング液として使用できることを見出した。
しかしながら、図16に示すように、H2SO4 を使用したエッチング液は、従来のH3PO4を使用したエッチング液に較べエッチング速度が遅い。なお、この図のエッチング速度は、沸点温度でSiN膜のエッチングを行った場合の値である。H3PO4を使用した場合は、沸点温度(エッチング温度)の上昇とともにエッチング速度が増加するが、H2SO4 を使用した場合は、エッチング温度が140℃(H2SO4濃度:60wt%)から160℃(H2SO4濃度:70wt%)の範囲では、沸点温度の上昇と共に増加していくが、H2SO4濃度が約70wt%のときをピークとして、それ以上の温度では温度と共にエッチング速度は低下する。
このエッチング速度の低下の原因を調べるため、本願発明者等は、SiN膜を一部エッチングした後のSiN膜表面をXPSにより解析した。解析結果を図17に示す。具体的には、Si2pのスペクトル解析を行った。
H3PO4を用いたエッチング液で一部エッチングした後のSiN膜表面は、HFのみで一部エッチングした後のSiN膜表面(リファレンス)とほぼ等しい結果が得られており、殆ど酸化されていない。
一方、H2SO4を用いたエッチング液で一部エッチングした後のSiN膜表面は、エッチング温度とH2SO4濃度が高くなるにつれ、Si−O結合を示すピーク強度が増加している。この結果より、H2SO4 を用いてSiN膜を剥離する場合は、硫酸のもつ強い酸化力によりSiN膜表面にオキサイド膜が形成され、これがSiN膜のエッチングを阻害していると考えられる。
そこで、本願発明者等は、第4の実施の形態に係るエッチング溶液、即ち硫酸水溶液に、SiN膜表面に形成されるオキサイド膜を除去するためHFを加えた溶液について検討した。
図18は、HF添加濃度とSiN膜のエッチング速度およびSiO膜に対するSiN膜のエッチング選択比の関係を示す表である。なお、ベースとなるエッチング液としては、70wt%H2SO4と30wt%H2Oの混合溶液を用いた。図18の表に示すように、HF添加濃度が0.02wt%程度と非常に低い場合は、SiN膜とSiO2膜のエッチング選択比は非常に高くなる。従来のエッチング液(硫酸水溶液)を用いた場合の、SiN膜とSiO2膜のエッチング選択比が30〜40程度なので、HF添加濃度が低濃度の場合、従来のエッチング液に較べ非常に高い選択比で、SiN膜をエッチングすることが可能である。
しかし、HF添加濃度が低濃度すぎると、HF添加効果が下がり、SiNのエッチング速度が低下する。特にHF添加濃度が0.002wt%の時はSiNのエッチング速度がおよそ3nm/minになり、通常のH3PO4の6nm/minの約半分の速度になる。従って、エッチング速度と選択比との兼ね合いから、HF添加濃度は、0.1wt%以下であることが望ましく、0.1wt%〜0.002wt%がより望ましい。
なお、HFを添加した第5の実施の形態におけるエッチング溶液を用いる場合は、エッチング温度が比較的低い140℃においても、SiN膜のエッチング速度は5nm/min以上でかつ、エッチング選択比が50以上である。よって、SiN膜厚が比較的厚い場合は140℃以上でエッチングするのが望ましいが、SiN膜の膜厚が比較的薄い場合は、100℃程度までエッチング温度を下げることができる。
エッチング温度はH2SO4の沸点である330℃まで上げることができるが、エッチング装置等のハードウエアの条件を考慮すると180℃程度が限界であると考えられる。また、エッチング温度が高温になればなるほど、エッチング溶液中の水の含有量が減ってしまい、相対的にH2SO4の酸化力が増す。従って、高すぎるエッチング温度は、エッチング速度を低下させる。よって、エッチング温度は、100℃〜180℃、より好ましくは140℃〜160℃とする。
沸点が160℃の場合、エッチング液はおよそ30wt%の水を含有でき、沸点が140℃では、エッチング液の水の含有率は、約40wt%程度となる。エッチング液中のH2SO4とH2Oとの比を常に一定に保つためには、硫酸―水混合溶液の沸点を利用し、常に温度が一定になるように水を添加すればよく、これは一般的に使われている手法を用いて実現可能である。
また、エッチング温度を160℃にする場合は、エッチング液中のHFが気相中に飛散しやすく、HF濃度は徐々に低下していく。そのため、1時間後ではその濃度は殆どゼロになってしまう。即ち、SiN膜をエッチングする場合は、エッチング開始時が一番エッチング速度が速く、徐々にエッチング速度が低下していく。従って、エッチングの後半では殆どエッチングが進まなくなることもある。この現象を利用して、エッチング膜厚を自動的にコントロールすることも可能である。例えば、エッチングしたいSiN膜の膜厚分を全部剥離できるだけのHF濃度とエッチング温度を設定すれば、ラフな時間管理でも、オーバーエッチングのないエッチングを行うことが可能である。
なお、またエッチング液中へのHF添加は、エッチング中にを複数回行うことも可能である。この場合、H2O―H2SO4―HFの三元系の濃度モニター(伝導率と音速を用いたモニター)を用いて、経過時間に関係なく、常に同じ濃度のHFと水が含有されるようにコントロールしながらエッチングを行うことも可能である。
例えば、エッチング液の上昇時に気相に飛散するHFの濃度を考慮して、予め0.1wt%以上のHFを添加しておき、最終的にエッチングの開始時に0.1wt%の濃度になるように調整してもかまわない。
また、エッチング液中のHFは、HFガスの溶解、市販のHF溶液の添加等により導入できる。また、HFの替わりに、フッ化アンモニウム(NH4F)及びフッ化水素酸アンモニウム(NH4F・HF)の結晶を溶解させた液、或いは、フッ化アンモニウム溶液、バッファードフッ酸溶液等の水溶液を添加した液を用いてもかまわない。
また、上述する第5の実施の形態に係るSiN膜剥離用エッチング液は、第1〜第3の実施の形態のエッチング工程で用いたエッチング液と共通する組成を有するので、第1〜第3の実施の形態で使用するエッチング装置と共通する装置を使用できる。また、廃液処理も共通に行うことができる。従って、薬液コストを低減できるとともに、プロセスの効率化、装置台数と装置スペースの削減を図ることができ,生産コストを大幅に低減できる。
なお、CVD法で作製されたSiON膜の剥離工程も上述するSiN膜の剥離方法と同様な方法で行うことができる。
(エッチング装置)
図19は、上述した第1〜第5の実施の形態のエッチング工程で共通に使用できるエッチング装置の構成例を示す図である。
エッチング装置100には3本もしくは4本の溶液供給ラインが準備されており、第1のラインは、本実施の形態に係るエッチング原液、第2のラインは、硫酸液(H2O含有量が4wt%以下)、第3のラインは純水(H2O)、第4のラインはフッ酸(HF)溶液の供給ラインである。
エッチング装置100内には少なくとも1つ以上の処理槽110、112とプレリンス槽120とリンス槽122とが備えられる。例えば、図19に示すように、プレリンス槽120を挟んで両サイドにエッチング槽である処理槽110、112が配置され、プレリンス槽120の手前にリンス槽122、その手前に乾燥機130が配置され、乾燥機の左右に基板搬入室(IN)140と基板搬出室(OUT)150が配置される。なお、処理槽110、112にはヒータを設けエッチング液温の調整ができるようにしておくことが好ましい。
エッチング原液の供給ラインは、エッチング槽である処理槽112と処理槽110に接続され、硫酸液供給ラインは、各処理槽110、112とプレリンス槽120に接続され、純水供給ラインは各処理槽110、112、プレリンス槽120およびリンス槽122に接続されており、フッ酸供給ラインは、各処理槽110、112に接続され、各接続には開閉バルブが設けられ、各槽への導入量を調整できるようになっている。
このような配管構成により、各実施の形態で使用したエッチング液を各処理槽に導入できる。なお、処理槽の数は必要に応じ増やすこともできる。
例えばバッチ処理の場合、耐エッチング性を有する所定の基板カセットに複数の基板が収納された状態で、搬入室であるIN140から、カセットごと第1処理槽112に搬送され、槽内のエッチング液に浸せきされる。所定時間後、エッチング液からカセットごと引き上げられ、プレリンス槽120に搬送され、ここで硫酸液に浸せきされ、予備洗浄が行われる。さらに純水が入れられたリンス槽122で流水洗浄が行われ、十分な洗浄の後、乾燥機130に移され、乾燥される。乾燥後、基板搬出室OUT150に移され、一連のエッチング処理が終了する。
H2O含有量がエッチング速度の重要な因子となる第1の実施の形態や第2の実施の形態に示した絶縁膜の選択エッチングや非選択エッチングの場合は、エッチング液から引き上げた基板を直接、リンス槽122中の純水に浸せきすると、急激なH2O濃度上昇によりエッチングがエンハンスされてしまうことがある。よって、エッチング後、まずプレリンス槽120に移し、ここで水分含有量の少ない硫酸液中で予備洗浄を行い、HFやNH4F成分を除去し、エッチングを終了させ、その後にリンス槽122で純水洗浄を行い、H2Oによる過剰なエッチングを防止することが望ましい。
なお、この場合のプレリンス液は硫酸液に限定されるものではなく、コリン等のアルカリ溶液を供給すれば更に効果的にエッチングを停止できる。またアルカリによりパーティクル除去を同時に行うことも可能である。
このように、本実施の形態で用いるエッチング液は、複数のエッチング工程で同じエッチング原液、もしくは共通組成の液を使用することができるので、エッチング装置を共有化できる。よって、エッチング装置コストを削減するとともに、限られたスペースであるクリーンルーム内でのエッチング装置の占有面積も大幅に削減できる。
なお、上述するエッチング装置は、エッチング原液が硫酸液にフッ化水素アンモニウム(NH4F・HF)やHF(フッ化水素)単体ガスを溶解したものである場合にも同様に使用することができる。
以上、本発明のエッチング液およびエッチング方法等について、実施の形態に沿って説明してきたが、本発明は、これらの実施の形態の記載に限定されるものではない。エッチング温度条件や、被エッチング材料である絶縁膜種等の変更が可能なことは、当業者には明らかである。また、選択エッチングや非選択エッチングを行う際の基板上の膜構成は、実施の形態に示した例に限られない。